(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/46 20060101AFI20230803BHJP
【FI】
B60R22/46 142
(21)【出願番号】P 2019147031
(22)【出願日】2019-08-09
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 清史
(72)【発明者】
【氏名】浅子 忠之
(72)【発明者】
【氏名】田中 康二
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154525(JP,A)
【文献】特開2019-127261(JP,A)
【文献】特表2016-523198(JP,A)
【文献】特開2005-306111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、
前記動力伝達装置は、前記リングギアに動力を伝達する樹脂製のロッド形状の動力伝達部材と、該動力伝達部材を前記リングギアに案内する筒形状の案内部材と、該案内部材の内部に作動ガスを供給するガス発生器と、該ガス発生器と前記動力伝達部材との間に配置されたストッパーと、前記案内部材に形成され前記ストッパーを拘束する拘束部と、を含み、
前記ストッパーは、前記案内部材の軸心方向に長い形状を備え、
前記拘束部は、前記ストッパーの軸心を前記案内部材の軸心に対して傾斜させた状態で拘束するように構成されて
おり、
前記拘束部は、前記案内部材の内側に突出した突起部と、該突起部に前記ストッパーが衝突したときに生じる姿勢の変化を許容可能な空間を形成する開口部と、を備え、前記ストッパーは、前記動力伝達部材の径方向幅よりも大きい横幅を備えている、
ことを特徴とするプリテンショナ。
【請求項2】
前記開口部は、前記突起部の対面に形成されている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項3】
前記突起部は、前記動力伝達部材を前記案内部材の軸心方向に通過可能に構成されている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項4】
前記開口部の上端又は下端と前記突起部の頂点との距離は、前記ストッパーの横幅よりも大きく形成されている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項5】
前記拘束部は、前記開口部を塞ぐように配置された封止部材を含む、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項6】
前記ストッパーは、前記突起部又は前記開口部の縁部に衝突した際に塑性変形可能に構成されている、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項7】
前記動力伝達装置は、前記ストッパーと前記ガス発生器との間に配置されたピストンを含む、請求項1に記載のプリテンショナ。
【請求項8】
請求項1~
請求項7の何れか一項に記載されたプリテンショナを備える、ことを特徴とするリトラクタ。
【請求項9】
請求項1~
請求項7の何れか一項に記載されたプリテンショナを備えたリトラクタを有する、ことを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関し、特に、樹脂製の動力伝達部材を含む構成に適した、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、一般に、乗員が着座する腰掛部と乗員の背面に位置する背もたれ部とを備えたシートに乗員を拘束するシートベルト装置が設けられている。かかるシートベルト装置は、乗員を拘束するウェビングと、ウェビングの巻き取りを行うリトラクタと、シートの側面に配置されたバックルと、ウェビングに配置されたトングとを含み、トングをバックルに嵌着させることによってウェビングにより乗員をシートに拘束している。また、リトラクタは、車両衝突時等の緊急時にウェビングの弛みを除去するプリテンショナを有していることが一般的になってきている。
【0003】
かかるプリテンショナは、ウェビングの巻き取りを行うスプールを回転させる動力伝達部材と、該動力伝達部材を案内する細長い筒形状のパイプ(案内部材)と、該パイプ内に作動ガスを供給することによって動力伝達部材に推進力を付与するガス発生器と、を含む動力伝達装置を備えていることが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載されたように、プリテンショナの作動時に動力伝達部材が全てパイプから排出された場合には、作動ガスが外部に放出され、騒音や硝煙が発生する可能性がある。そこで、特許文献1には、作動ガスがパイプの外部に放出されないように、動力伝達部材(質量体又は駆動シリンダ)でパイプの最終セクションを閉鎖する手段が種々提案されている。
【0005】
ところで、近年、プリテンショナの動力伝達部材として、樹脂製の細長いロッド形状の部品を用いることが研究・開発されている。例えば、特許文献2には、減速要素及び密封要素を備えたピストンが、パイプの内側に形成されたストッパーに接触し、減速要素によってストッパーを塑性変形させることによってピストンをパイプ内で停止させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4654204号公報
【文献】特表2016-523198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された閉鎖手段は、動力伝達部材が金属製の球体形状の複数の質量体である場合を前提としている。特許文献1に記載された質量体は、金属製であるため変形し難い素材であるのに対して、特許文献2に記載された動力伝達部材は、樹脂製であるため変形しやすいという特性を備えている。したがって、樹脂製の動力伝達部材を備えたプリテンショナにおいて、特許文献1に記載された閉鎖手段は必ずしも好適なものではない。
【0008】
また、動力伝達部材の案内部材であるパイプは、動力伝達部材を円滑に押し出しつつ作動ガスを封入する圧力容器であることから、その内径について高い製作精度が求められる。しかるに、特許文献2に記載された発明では、ストッパーがパイプ(案内部材)の入口及び出口から離れた内部に形成されていることから、内径の精度管理が難しいという問題がある。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、作動ガスの外部放出を抑制することができ、案内部材の内径の精度管理を容易に行うことができる、プリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプールに接続されたリングギアと、緊急時に前記リングギアに動力を伝達する動力伝達装置と、を含むプリテンショナにおいて、前記動力伝達装置は、前記リングギアに動力を伝達する樹脂製のロッド形状の動力伝達部材と、該動力伝達部材を前記リングギアに案内する筒形状の案内部材と、該案内部材の内部に作動ガスを供給するガス発生器と、該ガス発生器と前記動力伝達部材との間に配置されたストッパーと、前記案内部材に形成され前記ストッパーを拘束する拘束部と、を含み、前記ストッパーは、前記案内部材の軸心方向に長い形状を備え、前記拘束部は、前記ストッパーの軸心を前記案内部材の軸心に対して傾斜させた状態で拘束するように構成されており、前記拘束部は、前記案内部材の内側に突出した突起部と、該突起部に前記ストッパーが衝突したときに生じる姿勢の変化を許容可能な空間を形成する開口部と、を備え、前記ストッパーは、前記動力伝達部材の径方向幅よりも大きい横幅を備えている、ことを特徴とするプリテンショナが提供される。
【0012】
前記開口部は、前記突起部の対面に形成されていてもよい。
【0013】
前記突起部は、前記動力伝達部材を前記案内部材の軸心方向に通過可能に構成されていてもよい。
【0014】
前記開口部の上端又は下端と前記突起部の頂点との距離は、前記ストッパーの横幅よりも大きく形成されていてもよい。
【0015】
前記拘束部は、前記開口部を塞ぐように配置された封止部材を含んでいてもよい。
【0016】
前記ストッパーは、前記突起部又は前記開口部の縁部に衝突した際に塑性変形可能に構成されていてもよい。
【0017】
前記動力伝達装置は、前記ストッパーと前記ガス発生器との間に配置されたピストンを含んでいてもよい。
【0018】
また、本発明によれば、上述した構成のプリテンショナを備えることを特徴とするリトラクタが提供される。
【0019】
また、本発明によれば、上述した構成のプリテンショナを備えたリトラクタを有する、ことを特徴とするシートベルト装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明に係るプリテンショナ、リトラクタ及びシートベルト装置によれば、案内部材内でストッパーの軸心を傾斜させることによって拘束するようにしたことから、案内部材からストッパーが放出されることがなく、作動ガスの外部放出を抑制することができる。
【0021】
また、案内部材の内径の精度管理は、動力伝達部材の径と同じ大きさの径を有する球体を案内部材の入口から出口まで通過させることによって行うことができることから、案内部材の内径の精度管理を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
【
図2】
図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は作動前の状態、(B)はストッパーが突起部に衝突した状態、(C)はストッパーが拘束された状態、を示している。
【
図3】ストッパーの拘束方法を示す説明図であり、(A)はストッパーの断面図、(B)は拘束部の拡大断面図、(C)はストッパーが拘束部に拘束された状態の拡大断面図、である。
【
図4】ストッパーの変形例を示す断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
【
図5】拘束部の変形例を示す断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、(D)第四変形例、(E)第五変形例、を示している。
【
図6】本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図6を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の一実施形態に係るリトラクタを示す部品展開図である。
図2は、
図1に示したプリテンショナの作動を示す断面図であり、(A)は作動前の状態、(B)はストッパーが突起部に衝突した状態、(C)はストッパーが拘束された状態、を示している。
図3は、ストッパーの拘束方法を示す説明図であり、(A)はストッパーの断面図、(B)は拘束部の拡大断面図、(C)はストッパーが拘束部に拘束された状態の拡大断面図、である。
【0024】
本発明の第一実施形態に係るリトラクタ1は、
図1に示したように、乗員を拘束するウェビングの巻き取りを行うスプール2と、緊急時にウェビングを巻き取って弛みを除去するプリテンショナ3と、を含み、プリテンショナ3は、スプール2に接続されたリングギア31と、緊急時にリングギア31に動力を伝達する動力伝達装置32と、を含んでいる。なお、
図1において、ウェビングの図は省略してある。
【0025】
動力伝達装置32は、例えば、リングギア31に動力を伝達する樹脂製のロッド形状の動力伝達部材32aと、動力伝達部材32aをリングギア31に案内する筒形状の案内部材32bと、案内部材32bの内部に作動ガスを供給するガス発生器32cと、ガス発生器32cと動力伝達部材32aとの間に配置されたストッパー32dと、ストッパー32dとガス発生器32cとの間に配置されたピストン32eと、動力伝達部材32aとリングギア31との噛合開始時に動力伝達部材32aを支持するガイド部材32fと、案内部材32bに形成されストッパー32dを拘束する拘束部32gと、を備えている。
【0026】
スプール2は、ウェビングを巻き取る巻胴であり、リトラクタ1の骨格を形成するベースフレーム11内に回転可能に収容されている。ベースフレーム11は、例えば、対峙する第一端面111及び第二端面112と、これらの端面を連結する側面113と、を有している。ベースフレーム11は、側面113と対峙し第一端面111及び第二端面112に接続されるタイプレート114を備えていてもよい。
【0027】
また、例えば、第一端面111側にスプリングユニット4が配置され、第二端面112側にプリテンショナ3及びロック機構5が配置される。なお、スプリングユニット4、プリテンショナ3、ロック機構5等の配置は、図示した構成に限定されるものではない。
【0028】
また、ベースフレーム11の第一端面111には、スプール2の軸部を挿通する開口部111aが形成されており、ベースフレーム11の第二端面112には、ロック機構5のパウル(図示せず)と係合可能な内歯を有する開口部112aが形成されている。また、ベースフレーム11の第二端面112の内側には、プリテンショナ3の一部(例えば、リングギア31)が配置される。また、ベースフレーム11の第二端面112の外側にはロック機構5が配置され、ロック機構5はリテーナカバー51内に収容される。
【0029】
リテーナカバー51には、車体の急減速や傾きを検出するビークルセンサ6が配置されていてもよい。ビークルセンサ6は、例えば、球形の質量体(図示せず)と、質量体の移動によって揺動されるセンサレバー(図示せず)と、を有している。ビークルセンサ6は、ベースフレーム11の第二端面112に形成した開口部112bに嵌め込まれて固定される。
【0030】
スプール2は、中心部に空洞を有し、軸心を形成するトーションバー21が挿通されていてもよい。トーションバー21は、第一端部がスプール2の端部に接続されたロック機構5のロッキングベース52に接続されており、第二端部がスプール2に固定されるとともにスプリングユニット4のスプリングコアに接続されている。したがって、スプール2は、ロッキングベース52及びトーションバー21を介して、スプリングユニット4に接続されており、スプリングユニット4に格納されたゼンマイバネによりウェビングを巻き取る方向に付勢されている。
【0031】
なお、スプール2に巻き取り力を付与する手段は、スプリングユニット4に限定されるものではなく、電動モータ等を用いた他の手段であってもよい。
【0032】
ロッキングベース52は、その側面部から出没可能に配置されたパウル(図示せず)を備えている。ロック機構5の作動時には、パウルをロッキングベース52の側面部から突出させることにより、ベースフレーム11の開口部112aに形成された内歯に係合させ、ロッキングベース52のウェビング引き出し方向の回転を拘束する。
【0033】
したがって、ロック機構5が作動した状態で、ウェビング引き出し方向に荷重が負荷された場合であっても、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じるまでは、スプール2を非回転状態に保持することができる。そして、トーションバー21に閾値以上の荷重が生じた場合には、トーションバー21が捻れることによって、スプール2が相対的に回転運動を生じ、ウェビングが引き出される。
【0034】
また、ロック機構5は、ロッキングベース52に隣接するように配置されたロックギア53を備えている。ロックギア53は、揺動可能に配置されたフライホイール(図示せず)を備えており、ウェビングが通常の引き出し速度よりも早い場合には、フライホイールが揺動してリテーナカバー51に形成された内歯に係合する。また、ビークルセンサ6が作動した場合には、センサレバーがロックギア53の側面に形成された外歯に係合する。
【0035】
このように、ロックギア53は、フライホイール又はビークルセンサ6の作動により回転が規制される。そして、ロックギア53の回転が規制されると、ロッキングベース52とロックギア53との間に相対回転が生じ、この相対回転に伴ってパウルがロッキングベース52の側面部から突出される。
【0036】
なお、ロック機構5は、図示した構成に限定されるものではなく、従来から存在している種々の構成のものを任意に選択して使用することができる。また、スプール2は、トーションバー21の代わりに、シャフトとワイヤ状又はプレート状の塑性変形部材との組み合わせによって構成される衝撃吸収機構を備えていてもよい。
【0037】
プリテンショナ3は、例えば、外周に係合歯を備えたリングギア31と、動力伝達装置32と、リングギア31を格納するプリテンショナカバー33と、動力伝達部材32aの移動空間を形成するガイドスペーサ34と、を備えている。
【0038】
リングギア31は、ガイドスペーサ34によって確保されたプリテンショナカバー33とベースフレーム11(第二端面112)との間の空間に位置するように配置される。なお、リングギア31は駆動輪や回転部材と称することもある。
【0039】
プリテンショナカバー33及びガイドスペーサ34は、ベースフレーム11の第二端面112の内側に配置され、ガイドスペーサ34はプリテンショナカバー33内に収容される。また、プリテンショナカバー33は、例えば、固定ピン33a,33b,33cにより、案内部材32b及びガイドスペーサ34とともに又は直にベースフレーム11(第二端面112)に固定される。
【0040】
動力伝達装置32は、例えば、筒形状のパイプによって構成される案内部材32bの後端から先端に向かって、ガス発生器32c、ピストン32e、ストッパー32d、動力伝達部材32aの順に配置されている。動力伝達部材32a、ストッパー32d及びピストン32eは、案内部材32b内に収容されており、案内部材32bの後端に配置されたガス発生器32cから発生した作動ガスによって案内部材32b内を移動する。
【0041】
動力伝達部材32aは、案内部材32bに挿入する前の状態では、直線形状を有する棒状に形成されており、案内部材32bの後端側から案内部材32b内に圧入され、
図1に示したように、案内部材32bの形状に沿った状態で内部に収容される。
【0042】
案内部材32bは、例えば、
図1に示したように、第一端面111の上部、タイプレート114の上部、第二端面112の上部を通り、第二端面112及び側面113によって形成される角隅部内側の上部から下方に向かって延設するように湾曲した形状を有している。
【0043】
案内部材32bの先端部には、ガイド部材32fが配置される。また、案内部材32bの先端部には、ガイド部材32fに案内された動力伝達部材32aを案内部材32bからプリテンショナカバー33及びガイドスペーサ34により形成された空間に放出する第一開口部32hが形成されている。また、案内部材32bは、案内部材32bの先端部から第一開口部32hまで連通する第一切欠部32iと、第一開口部32hの下方に形成された固定ピン33aを挿通する第一挿通孔32jと、を備えている。
【0044】
第一開口部32hは、案内部材32bのガイド部材32fと隣接する位置に形成されており、動力伝達部材32aの出口部を構成している。また、第一切欠部32iは、ガイド部材32fの周方向の位置決めをする機能を有し、第一切欠部32iにはガイド部材32fの突起部が挿入される。
【0045】
ガイド部材32fは、例えば、
図1及び
図2(A)に示したように、案内部材32bの先端部に挿入可能な略円柱形状を有し、その挿入側の端部に動力伝達部材32aを第一開口部32hに案内する摺動面32kが斜めに形成されている。摺動面32kは、動力伝達部材32aの外形に沿って湾曲した溝形状を有していてもよい。
【0046】
また、摺動面32kの下部には、固定ピン33aを挿通する切欠部32mが形成されている。また、摺動面32kの背面側には、ガイド部材32f及び案内部材32bをベースフレーム11(側面113)に固定するボルト32nを螺合させるボルト穴32oが形成されている。なお、
図2(A)~
図2(C)では、説明の便宜上、ボルト32nの図を省略してある。
【0047】
拘束部32gは、動力伝達部材32aを通過させ、ストッパー32dを案内部材32b内で停止させる部分である。拘束部32gは、例えば、
図3(B)に示したように、案内部材32bの内側に突出した突起部32pと、突起部32pにストッパー32dが衝突したときに生じる姿勢の変化を許容可能な空間を形成する開口部32qと、を備えている。
【0048】
突起部32pは、例えば、案内部材32bの外周の一部をプレスすることによって形成される。開口部32qは、例えば、案内部材32bの外周の一部を切り取ることによって形成される。なお、突起部32p及び開口部32qの形状は図示した形状に限定されるものではない。
【0049】
ストッパー32dは、例えば、
図3(A)に示したように、略円柱形状の金属製の部品である。なお、ストッパー32dの先端部及び後端部には窪みが形成されていてもよいし、中間部の外周に環状の凹部が形成されていてもよい。
【0050】
また、ストッパー32dは、案内部材32b内に挿入可能な横幅(すなわち、直径)φと、案内部材32bの軸心方向の軸方向長さHと、を備えている。ストッパー32dは、案内部材32bの軸心方向に長い形状を備えており、軸方向長さH>横幅φの関係を有している。また、横幅φは、突起部32pに衝突しやすくさせるために、動力伝達部材32aの径方向幅よりも大きく形成されている。
【0051】
図3(B)に示したように、開口部32qの上端内側の角部をPとし、開口部32qの下端内側の角部をQとすれば、PQを結ぶ線分と突起部32pの頂点との距離Dは、動力伝達部材32aの径よりも大きく形成されている。すなわち、突起部32pは、動力伝達部材32aを案内部材32bの軸心方向に通過可能に構成されている。かかる構成により、突起部32pが動力伝達部材32aの移動を妨げることなく、動力伝達部材32aを案内部材32bに沿って移動させることができる。
【0052】
また、開口部32qの上端又は下端と突起部32pの頂点との距離は、ストッパー32dの横幅φよりも大きく形成されている。具体的には、角部P,Qを中心として半径φの円弧を描いた場合に、突起部32pはこれらの円弧と交差しないように形成されている。
【0053】
案内部材32bの軸心Lp方向に沿って移動してきたストッパー32dは、突起部32pに衝突し、開口部32qの方向に移動方向が変更される。その後、ストッパー32dの先端部は開口部32qの角部Qに衝突し、ストッパー32dの中間部が突起部32pに接触し(その接点をT1とする)、ストッパー32dの後端部が案内部材32bの内面に接触することとなる(その接点をT2とする)。
【0054】
したがって、ストッパー32dは、
図3(C)に示したように、軸心Lsが案内部材32bの軸心Lpに対して傾斜した状態で接点Q,T1,T2により三点支持される。すなわち、拘束部32gは、ストッパー32dの軸心Lsを案内部材32bの軸心Lpに対して傾斜させた状態で拘束するように構成されている。
【0055】
ところで、案内部材32bの中間部にストッパー32dを係止させる凸部のみを形成した場合には、動力伝達部材32aを通過させつつ凸部にストッパー32dを確実に係止させるために、凸部と案内部材32bの内面との隙間を高精度に管理する必要がある。それに対して、本実施形態では、上述したように、突起部32pはストッパー32dの移動方向を変更することができ、軸心Lsを傾斜させることができればよい。
【0056】
したがって、突起部32pと案内部材32bの内面との隙間は、動力伝達部材32aを通過させることができればよいことから、例えば、動力伝達部材32aの径と同じ大きさの径を有する球体を案内部材32bの入口から出口まで通過させるだけで内径の精度管理を容易に行うことができる。
【0057】
ここで、プリテンショナ3の作動について、
図2(A)~
図2(C)を参照しつつ説明する。
図2(A)に示したように、プリテンショナ3の作動前の状態において、動力伝達部材32aは案内部材32b内に収容されている。このとき、動力伝達部材32aの先端部は、ガイド部材32fに臨む位置まで挿入されている。
【0058】
車両衝突時等の緊急時にはプリテンショナ3が作動し、ガス発生器32cから案内部材32b内に作動ガスが供給され、ピストン32e及びストッパー32dを介して動力伝達部材32aが押し出され、案内部材32bに沿って移動する。このとき、動力伝達部材32aの先端部は、ガイド部材32fの摺動面32kに衝突し、第一開口部32hに向かって偏向され、摺動面32kに沿って移動し、リングギア31の外周に形成された係合歯に向かって放出される。
【0059】
樹脂製のロッド(動力伝達部材32a)を使用したプリテンショナ3では、動力伝達部材32aに負荷される圧力は、一般に、リングギア31との噛合開始時に最も高くなる傾向にある。したがって、この部分に強度の高い部品であるガイド部材32fを配置することによって、噛合開始時に生じる負荷を効果的に受け止めることができる。
【0060】
案内部材32bから放出された動力伝達部材32aは、リングギア31の係合歯に衝突し、リングギア31を回転させる。その後、動力伝達部材32aは、リングギア31の係合歯によって塑性変形しながらプリテンショナカバー33及びガイドスペーサ34によって形成された通路に沿って移動する。
【0061】
図2(B)に示したように、ストッパー32dが突起部32pに到達すると、ストッパー32dは、上述したように、突起部32pに衝突して移動方向が変更される。移動方向が変更されたストッパー32dは、開口部32qの下端角部に衝突し、
図2(C)に示したように、傾斜した状態で拘束部32gに拘束されて停止する。
【0062】
ストッパー32dの後方には樹脂製のピストン32eが配置されていることから、停止したストッパー32dの後方側にピストン32eが作動ガスによって押し付けられ、ストッパー32dと案内部材32bとの隙間が封止される。
【0063】
なお、図示しないが、動力伝達部材32aは、ウェビングの弛みを巻き取り終えることによって停止することから、ウェビングの弛み量が少ない場合には、ストッパー32dが拘束部32gに到達する前に動力伝達部材32aの移動が停止する場合もある。
【0064】
上述した本実施形態に係るリトラクタ1によれば、案内部材32b内でストッパー32dの軸心Lsを傾斜させることによって拘束するようにしたことから、案内部材32bからストッパー32dが放出されることがなく、ガス発生器32cの作動ガスの外部放出を抑制することができる。また、上述したように、案内部材32bの内径の精度管理を容易に行うことができる。
【0065】
次に、ストッパー32dの変形例について、
図4(A)~
図4(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図4は、ストッパーの変形例を示す断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、を示している。
【0066】
図4(A)~
図4(C)に示した変形例は、ストッパー32dを突起部32p又は開口部32qの縁部(下端角部)に衝突した際に塑性変形可能に構成したものである。ストッパー32dを塑性変形可能に構成することにより、拘束部32gでストッパー32dを塑性変形させて拘束させやすくすることができる。
【0067】
図4(A)に示したストッパー32dは、軸心方向に貫通孔32rを形成したものである。貫通孔32rに代えて、軸心方向の先端部もしくは後端部又は先端部及び後端部に貫通しない穴を形成するようにしてもよい。
【0068】
図4(B)に示したストッパー32dは、径方向に貫通孔32sを形成したものである。貫通孔32sに代えて、径方向に貫通しない穴を複数形成するようにしてもよい。
【0069】
図4(C)に示したストッパー32dは、中間部の外周に環状の凹部32tを形成したものである。環状の32tに代えて、外周に複数の窪みを形成するようにしてもよい。
【0070】
次に、拘束部32gの変形例について、
図5(A)~
図5(E)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、拘束部の変形例を示す断面図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、(C)は第三変形例、(D)第四変形例、(E)第五変形例、を示している。
【0071】
図5(A)に示した拘束部32gは、突起部32pをリベットによって構成したものである。このように、突起部32pは、案内部材32bの一部によって形成されるものに限定されず、リベットやピン等の他の部品によって構成するようにしてもよい。
【0072】
図5(B)に示した拘束部32gは、開口部32qの下端部32uを案内部材32bではなく別の部品によって構成したものである。例えば、下端部32uは、ベースフレーム11の一部を変形させて形成することができるし、ベースフレーム11に固定したピン等によっても形成することができる。かかる構成により、下端部32uの強度を向上させたり、開口部32qの大きさを調整しやすくしたりすることができる。
【0073】
図5(C)に示した拘束部32gは、開口部32qを塞ぐように案内部材32bの外側に封止部材32vを配置したものである。封止部材32vは、案内部材32bの外側に固定された別部品の板材であってもよいし、ベースフレーム11の一部を変形させて形成したものであってもよい。かかる構成により、ストッパー32dが開口部32qに衝突した際に生じる衝撃を緩和することができる。なお、封止部材32vは、案内部材32bの一部を変形させて形成するようにしてもよい。
【0074】
図5(D)に示した拘束部32gは、開口部32qがベースフレーム11の第二端面112に対峙するように、突起部32p及び開口部32qの位置をずらしたものである。かかる構成により、ベースフレーム11の第二端面112を封止部材32vとして利用することができる。
【0075】
図5(E)に示した拘束部32gは、開口部32qをキャップ状の封止部材32vで塞ぐようにしたものである。封止部材32vの内面は、案内部材32bの内面の延長線上にあってもよいが、案内部材32bの内面より内側に突出しないように構成される。封止部材32vは、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
【0076】
第五変形例に係る封止部材32vは、左図に示したように、通常時及びプリテンショナ3の作動後にストッパー32dが衝突するまでは開口部32qを封止している。そして、ストッパー32dの姿勢が変化して封止部材32vに衝突すると、右図に示したように、封止部材32vは開口部32qから脱落するように構成されている。かかる構成により、封止部材32vの内面で動力伝達部材32aの移動を案内しつつ、ストッパー32dが開口部32qに衝突した際に生じる衝撃を緩和することができる。
【0077】
次に、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置について、
図6を参照しつつ説明する。ここで、
図6は、本発明の一実施形態に係るシートベルト装置を示す全体構成図である。なお、
図6において、説明の便宜上、シートベルト装置以外の構成部品については、一点鎖線で図示している。
【0078】
図6に示した本実施形態に係るシートベルト装置100は、乗員を拘束するウェビングWと、ウェビングWの巻き取りを行うリトラクタ1と、車体側に設けられウェビングWを案内するガイドアンカー101と、ウェビングWを車体側に固定するベルトアンカー102と、シートSの側面に配置されたバックル103と、ウェビングWに配置されたトング104と、を備え、リトラクタ1は、例えば、
図1に示した構成を有している。
【0079】
以下、リトラクタ1以外の構成部品について、簡単に説明する。シートSは、例えば、乗員が着座する腰掛部S1と、乗員の背面に位置する背もたれ部S2と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト部S3とを備えている。リトラクタ1は、例えば、車体のBピラーRに内蔵される。また、一般に、バックル103は腰掛部S1の側面に配置されることが多く、ベルトアンカー102は腰掛部S1の下面に配置されることが多い。また、ガイドアンカー101は、BピラーRに配置されることが多い。そして、ウェビングWは、一端がベルトアンカー102に接続され、他端がガイドアンカー101を介してリトラクタ1に接続されている。
【0080】
したがって、トング104をバックル103に嵌着させる場合、ウェビングWはガイドアンカー101の挿通孔を摺動しながらリトラクタ1から引き出されることとなる。また、乗員がシートベルトを装着した場合や降車時にシートベルトを解除した場合には、リトラクタ1のスプリングユニット4の作用により、ウェビングWは一定の負荷がかかるまで巻き取られる。
【0081】
上述したシートベルト装置100は、前部座席における通常のシートベルト装置に、上述した実施形態に係るリトラクタ1を適用したものである。したがって、本実施形態に係るシートベルト装置100によれば、案内部材32b内でストッパー32dの軸心Lsを傾斜させることによって拘束するようにしたことから、案内部材32bからストッパー32dが放出されることがなく、ガス発生器32cの作動ガスの外部放出を抑制することができる。また、案内部材32bの内径の精度管理を容易に行うことができる。
【0082】
なお、本実施形態に係るシートベルト装置100は、前部座席への適用に限定されるものではなく、例えば、ガイドアンカー101を省略して後部座席にも容易に適用することができる。また、本実施形態に係るシートベルト装置100は、車両以外の乗物にも使用することができる。
【0083】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
1 リトラクタ
2 スプール
3 プリテンショナ
4 スプリングユニット
5 ロック機構
6 ビークルセンサ
11 ベースフレーム
21 トーションバー
31 リングギア
32 動力伝達装置
32a 動力伝達部材
32b 案内部材
32c ガス発生器
32d ストッパー
32e ピストン
32f ガイド部材
32g 拘束部
32h 第一開口部
32i 第一切欠部
32j 第一挿通孔
32k 摺動面
32m 切欠部
32n ボルト
32o ボルト穴
32p 突起部
32q 開口部
32r,32s 貫通孔
32t 凹部
32u 下端部
32v 封止部材
33 プリテンショナカバー
33a,33b,33c 固定ピン
34 ガイドスペーサ
51 リテーナカバー
52 ロッキングベース
53 ロックギア
100 シートベルト装置
101 ガイドアンカー
102 ベルトアンカー
103 バックル
104 トング
111 第一端面
111a 開口部
112 第二端面
112a,112b 開口部
113 側面
114 タイプレート