(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】有機EL素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 71/50 20230101AFI20230803BHJP
H10K 50/84 20230101ALI20230803BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H10K71/50
H10K50/84
H05B33/04
(21)【出願番号】P 2019179500
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 和也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英治
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/012659(WO,A1)
【文献】特開2005-265866(JP,A)
【文献】特開平11-317288(JP,A)
【文献】特開2000-068050(JP,A)
【文献】特開2012-054248(JP,A)
【文献】特開2004-111175(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0167010(US,A1)
【文献】特開2019-139884(JP,A)
【文献】特開2007-234332(JP,A)
【文献】特開2018-147883(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103594488(CN,A)
【文献】特開2005-332615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0194579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/04
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層が形成された基板と、開口部を有しながら前記発光層を取り囲むシール部材と、前記シール部材を介して前記基板に貼り合わされた
透光性の保護基板と、前記発光層を被覆する
光硬化性の保護樹脂と、を有する有機EL素子の製造方法であって、
前記シール部材を介して前記基板に前記保護基板を貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記貼り合わせ工程よりも後に、前記開口部を介して前記シール部材の内側に未硬化状態の前記保護樹脂を注入することにより、前記発光層を未硬化状態の前記保護樹脂で被覆する被覆工程と、
前記被覆工程よりも後に、
開口を有する枠状の遮光マスクを前記保護基板の上に配置し、前記遮光マスクの前記開口を介して前記保護基板に向かって光を照射することにより、前記シール部材の内側に注入されている未硬化状態の前記保護樹脂のみを選択的に硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程よりも後に、前記シール部材の外側に付着している未硬化状態の前記保護樹脂を洗浄により除去する洗浄工程と、
を有
し、
前記硬化工程において、前記遮光マスクの前記開口の外縁のうち一部は、前記光の照射方向から見た平面視で、前記シール部材の前記開口部と重なり、且つ、前記遮光マスクの前記開口の外縁のうちその他の部分は、前記光の照射方向から見た平面視で、前記シール部材と重なる、
ことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や情報機器に使用される中小型表示装置の分野において、小型化、軽量化が進み、従来型の液晶表示素子と比較して、薄型で軽量、バックライト光源が不要、高精細、低消費電力といった特徴を有する有機EL素子(ディスプレイ)への需要が高まっている。それに伴い、有機EL素子の品質向上、長寿寿命化が課題となっている。
【0003】
有機EL素子の内部には、有機材料からなる発光層が積層されており、この発光層は、大気中の水分吸湿や、酸素との反応による劣化が生じ易く、品質低下の原因となっている。そのような発光層への水分や酸素の侵入を防ぎ、信頼性向上及び長寿命化を図るため、発光層を保護する目的として、発光層表面を硬化性の保護樹脂で被覆する技術が知られている。(例えば、特許文献1~3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-162270
【文献】特開2018-205344
【文献】特開2019-139884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保護樹脂は、有機EL素子の少なくとも発光層を覆っていれば十分であるが、発光層を保護樹脂で被覆する際には、発光層以外の領域にも保護樹脂が付着することがある。発光層以外の領域に付着した保護樹脂は、必要に応じて除去されなければならないが、保護樹脂は、製造プロセスの終盤においては既に硬化されているため、溶剤への浸漬によるウェット洗浄やプラズマ等によるドライ洗浄を実施しても、除去することは非常に困難である。また、削り取るように外部から圧力を加えて保護樹脂を除去すると、有機EL素子を破損させる恐れがある。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みたものであり、発光層以外の領域に付着した不要な保護樹脂を容易に除去することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発光層が形成された基板と、前記発光層を被覆する硬化性の保護樹脂とを有する有機EL素子の製造方法であって、前記発光層を未硬化状態の前記保護樹脂で被覆する被覆工程と、前記被覆工程よりも後に、前記発光層が形成された領域よりも外側の領域に付着している未硬化状態の前記保護樹脂を洗浄により除去する洗浄工程と、を有する、有機EL素子の製造方法とする。
【0008】
前記被覆工程よりも後であって前記洗浄工程よりも前に、前記発光層を被覆している未硬化状態の前記保護樹脂を硬化させる硬化工程を有する、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【0009】
前記洗浄工程よりも後に、前記発光層を被覆している未硬化状態の前記保護樹脂を硬化させる硬化工程を有する、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【0010】
前記硬化工程において、前記発光層よりも外側の領域を遮蔽すると共に前記発光層を遮蔽しない遮光マスクを配置し、前記遮光マスクを介して光を照射することにより、前記発光層を被覆している未硬化状態の前記保護樹脂を硬化させる、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【0011】
前記洗浄工程において、前記基板の全体を溶剤に浸漬させることにより、前記発光層が形成された領域よりも外側の領域に付着している未硬化状態の前記保護樹脂を除去する、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【0012】
前記被覆工程よりも前に、開口部を有しながら前記発光層を取り囲むシール部材を介して前記基板に保護基板を貼り合わせ、前記被覆工程において、前記開口部を介して前記シール部材の内側に未硬化状態の前記保護樹脂を注入することにより、前記発光層を未硬化状態の前記保護樹脂で被覆し、前記洗浄工程において、前記シール部材の外側に付着している未硬化状態の前記保護樹脂を洗浄により除去する、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【0013】
前記被覆工程よりも前に、複数の前記発光層が形成されているウエハー状のマザー基板を前記基板として用意し、前記被覆工程において、前記マザー基板に形成されている複数の前記発光層を未硬化状態の前記保護樹脂で被覆し、前記被覆工程よりも後であって前記洗浄工程よりも前に、未硬化状態の前記保護樹脂を介して前記マザー基板にウエハー状のマザー保護基板を貼り合わせると共に、続いて、複数の前記発光層を被覆している未硬化状態の前記保護樹脂を硬化させ、前記洗浄工程において、複数の前記発光層よりも外側の領域に付着している未硬化状態の前記保護樹脂を洗浄により除去する、有機EL素子の製造方法であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発光層以外の領域に付着した不要な保護樹脂を容易に除去することが可能な有機EL素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】有機EL素子の保護樹脂注入前の上面図(実施例1)
【
図2】有機EL素子の保護樹脂注入前のA-A’断面図(実施例1)
【
図3】有機EL素子の保護樹脂注入時の上面図(実施例1)
【
図4】有機EL素子の保護樹脂注入後の上面図(実施例1)
【
図5】有機EL素子の保護樹脂注入後のA-A’断面図(実施例1)
【
図6】有機EL素子の保護樹脂硬化時の上面図(実施例1)
【
図7】有機EL素子の保護樹脂硬化時のA-A’断面図(実施例1)
【
図10】有機EL素子の洗浄後のA-A’断面図(実施例1)
【
図11】(a)マザー基板の貼り合わせ工程を示す概念図、(b)保護樹脂の硬化工程を示す概念図、(c)マザー基板の洗浄工程を示す概念図、(d)洗浄後のマザー基板を示す概念図(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例について図を用いて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、有機EL素子の保護樹脂注入前の上面図、
図2は、有機EL素子の保護樹脂注入前のA-A’断面図である。
図1および
図2に示す有機EL素子1は、有機材料からなる発光層2が形成された第一基板5(例えば、シリコン基板)と、発光層2を外部から保護するための第二基板6(例えば、ガラス基板)とを、樹脂接着剤からなる枠状の周辺シール3を介して主面を互いに対向させて貼り合わせた後、周辺シール3を硬化させた状態のものである。この状態の有機EL素子1において、周辺シール3の一辺には、後述の保護樹脂11を注入するための注入口4が設けられ、第一基板5と第二基板6との間には、後述の保護樹脂11が注入される隙間7が形成されている。また、第一基板5の一端部(第二基板6に対するオフセット部)には、有機EL素子1を駆動するための電圧が印加される複数の電極パッド10が形成されている。
【0018】
図3は、有機EL素子の保護樹脂注入時の上面図である。まず、
図3に示すように、
図1に示した状態の有機EL素子1の内部にディップ式の真空注入法を用いて未硬化状態の保護樹脂11を注入する。この方法では、真空状態とした容器内で、受け皿8に保持されている未硬化状態の保護樹脂11に有機EL素子1の注入口4を浸漬して接触させ、その状態で容器内を大気圧に戻すことで、毛細管現象と、有機EL素子1の内外の圧力差とによって保護樹脂11を隙間7に注入する。なお、保護樹脂11は、エポキシ系樹脂やアクリレート系樹脂、からなる熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂であり、この実施例では、紫外線硬化性樹脂である。
【0019】
図4は、有機EL素子の保護樹脂注入後の上面図、
図5は、有機EL素子の保護樹脂注入後のA-A’断面図である。
図3に示したようにディップ式の注入法を用いて保護樹脂11を注入すると、
図4および
図5に示すように、未硬化状態の保護樹脂11が受け皿8から周辺シール3の外側の隙間9(
図3参照)にも濡れ広がる。周辺シール3の外側の隙間9に濡れ広がった保護樹脂11は、第一基板5のオフセット部にまで濡れ広がり、オフセット部に形成されている電極パッド10に付着することがある。電極パッド10に保護樹脂11が付着すると、外部との電気的接続が妨げられるため、特に問題となる。
【0020】
図6は、有機EL素子の保護樹脂硬化時の上面図、
図7は、有機EL素子の保護樹脂硬化時のA-A’断面図である。次に、
図3に続く工程として、
図6および
図7に示すように、周辺シール3の内側に注入されている保護樹脂11のみを選択的に硬化させる。具体的には、周辺シール3の外側の領域のみを覆うように第二基板6の上面に枠状の遮光マスク13を配置し、遮光マスク13の上方から紫外線を照射することで、周辺シール3の内側の領域に注入されている保護樹脂11のみに紫外線が照射され、その領域の保護樹脂11のみが選択的に硬化される。この時、周辺シール3の外側や電極パッド10に付着している不要な保護樹脂11には紫外線が照射されないため、それらの領域の保護樹脂11は、未硬化状態のままとなる。なお、保護樹脂11が熱硬化性樹脂である場合には、例えば、熱線(光)やヒーターヘッドを局所的に当てることで保護樹脂11を部分的に硬化させれば良い。
【0021】
図8は、有機EL素子の洗浄時の断面図、
図9は、有機EL素子の洗浄後の上面図、
図10は、有機EL素子の洗浄後のA-A’断面図である。次に、
図6および
図7に続く工程として、
図8に示すように、洗浄槽内に溜められた溶剤12の中に有機EL素子1の全体を浸漬させ、周辺シール3の外側や電極パッド10に付着している未硬化状態の保護樹脂11を溶解洗浄により除去する。この時、未硬化状態の保護樹脂11は、硬化された保護樹脂11に比べて簡単に除去される。溶剤12としては、例えば、アクリレート系樹脂の洗浄においては、酢酸エチルや酢酸ブチル等が使用される。この工程では、有機EL素子1を溶剤12に浸漬させながら揺動洗浄、超音波洗浄、加温洗浄等を行っても良い。また、有機EL素子1の全体を溶剤12に浸漬させるのではなく、不要な保護樹脂11が付着した部分のみを溶剤12に浸漬させても良い。但し、有機EL素子1の全体を溶剤12に浸漬させた方が、不要な保護樹脂11を確実に除去することができる。
【0022】
このように有機EL素子1を洗浄することで、
図9および
図10に示す有機EL素子1が得られる。この有機EL素子1では、周辺シール3の外側や電極パッド10に保護樹脂11が付着しておらず、周辺シール3の内側のみに保護樹脂11が残存している。なお、注入口4の内側に注入されていた未硬化状態の保護樹脂11も洗浄により除去されているが、注入口4と発光層2との間には硬化された保護樹脂11が介在しているため、発光層2が溶剤12により汚染されたり外部へ露出したりすることはない。
【0023】
この実施例においては、例えば、以下のような変形が可能である。この変形例は、
図3に示した保護樹脂11の注入工程を行った後に、
図6および
図7に示した保護樹脂11の硬化工程を行わずに、
図8に示した有機EL素子1の洗浄工程を行い、最後に、
図6および
図7に示した保護樹脂11の硬化工程を行うというものである。この変形例によっても、有機EL素子1に付着している不要な保護樹脂11を容易に除去することができる。なお、この変形例では、
図8に示した有機EL素子1の洗浄工程を行った際に、周辺シール3の内側に注入されている未硬化状態の保護樹脂11が過度に除去されて発光層2が露出する恐れがあるが、洗浄時間や溶剤12の種類を適宜選択することで、対処することが可能である。また、この変形例では、
図6および
図7に示した保護樹脂11の硬化工程(遮光マスク13を用いた硬化工程)を、遮光マスク13を省略して有機EL素子1の上面全体に紫外線を照射する工程に置き換えても良い。この場合には、周辺シール3の外側や電極パッド10にも紫外線が照射されるが、この時点では、それらの領域に付着していた不要な保護樹脂11が先の洗浄工程によって既に除去されているため、問題とはならない。このように硬化工程を置き換えると、遮光マスク13を用いて保護樹脂11を部分的に硬化させる必要が無くなるため、その分だけ工数の削減等に繋がる。
【実施例2】
【0024】
図11は、(a)マザー基板の貼り合わせ工程を示す概念図、(b)保護樹脂の硬化工程を示す概念図、(c)マザー基板の洗浄工程を示す概念図、(d)洗浄後のマザー基板を示す概念図である。本発明の他の実施形態における有機EL素子の製造方法として、
図11に示す製造方法が例示される。具体的には、以下の通りである。
【0025】
まず、
図11(a)に示すように、複数の発光層2が形成されたウエハー状のマザー基板からなる第一基板5の主面全体に未硬化状態の紫外線硬化性樹脂からなる保護樹脂11を滴下して均一に塗布し、続いて、保護樹脂11が均一に塗布された第一基板5の主面に、ウエハー状のマザー基板からなる第二基板6の主面を貼り合わせることで、積層マザー基板14(
図11(b)参照)を作成する。
【0026】
次に、
図11(b)に示すように、積層マザー基板14の片側主面に遮光マスク13を配置し、遮光マスク13を介して保護樹脂11に紫外線を照射することで、発光層2を覆っている保護樹脂11のみを選択的に硬化させる。この時に使用する遮光マスク13の形状は、例えば、発光層2を覆う領域のみが開口され、それ以外の領域が遮蔽された形状である。
【0027】
次に、
図11(c)に示すように、積層マザー基板14の全体を溶剤12に浸漬させて洗浄することで、未硬化状態の保護樹脂11のみを除去する。この時、溶剤12は、積層マザー基板14の外周部から第一基板5と第二基板6との間に徐々に浸入し、複数の発光層2の間に介在している未硬化状態の保護樹脂11を溶解させる。
【0028】
次に、
図11(d)のように、積層マザー基板14を個片に切り分けることで、複数の有機EL素子1を作成する。
【0029】
この実施例によれば、外周部に不要な保護樹脂11が付着していない有機EL素子1を効率良く大量に作成することができる。
【0030】
以上の実施例1、2において、第二基板6は、必須ではなく、省略されても良い。また、有機EL素子1は、ディスプレイとして用いられるものに限らず、その他の用途に用いられるものであっても良い。
【0031】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、その他種々の実施形態を取り得る。
【符号の説明】
【0032】
1 有機EL素子
2 発光層
3 周辺シール
4 注入口
5 第一基板
6 第二基板
7 隙間
8 受け皿
9 隙間
10 電極パッド
11 保護樹脂
12 溶剤
13 遮光マスク
14 積層マザー基板