(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】化学分析法の試料調製用透析セル
(51)【国際特許分類】
G01N 1/34 20060101AFI20230803BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G01N1/34
G01N1/10 B
(21)【出願番号】P 2020507674
(86)(22)【出願日】2018-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2018071821
(87)【国際公開番号】W WO2019030404
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-06-03
(32)【優先日】2017-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515090684
【氏名又は名称】メトローム・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】METROHM AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロイブリ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】フレンツェル,ボルフガング
(72)【発明者】
【氏名】マルケビシューテ,インガ
(72)【発明者】
【氏名】アブデルハルデン,ダニエル
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04491011(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0056030(US,A1)
【文献】特開2002-126074(JP,A)
【文献】米国特許第04311789(US,A)
【文献】米国特許第05861097(US,A)
【文献】国際公開第2012/073566(WO,A1)
【文献】特開2006-061870(JP,A)
【文献】De Borba, Brian M.,On-line dialysis as a sample preparation technique for ion chromatography,Journal of Chromatography A,2001年,volume 919,p.59-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 - 1/44
B01J 20/281- 20/292
G01N 30/00 - 30/96
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学分析法、特にイオンクロマトグラフィ、のための試料調製用透析セル(1)であって、ドナーチャネル(2)と、並行して延びるアクセプタチャネル(3)とを備え、前記ドナーチャネル(2)および前記アクセプタチャネル(3)は、意図された通りに使用される場合の選択的透過性の透析膜(4)によって互いから分離され、かつ具体的には、前記ドナーチャネル(2)内のドナー溶液に溶解した被検質(5)は、前記透析膜(4)を介して、前記アクセプタチャネル(3)内のアクセプタ溶液へ入り込むことができ、前記アクセプタチャネル(3)は、断面平面の領域において、前記アクセプタチャネル(3)と並行して延びる前記ドナーチャネル(2)の対応する単位長さ当たりの容積V
D/Lより小さい単位長さ当たりの容積V
A/Lを、少なくとも部分的に有し、
前記透析セルは、2つのハーフセル(6、7)を備え、これらの間に前記透析膜(4)が配置されることを特徴とし、前記ドナーチャネル(2)および前記アクセプタチャネル(3)は、いずれの場合も、前記ハーフセル(6、7)の一方と前記透析膜(4)との接触面(8、8’)における陥凹部として形成さ
れ、
前記アクセプタチャネル(3)の断面は、少なくとも部分的に、前記透析膜(4)とは反対側に面する側面(m)に丸められた角(29’、29’’)を有する長方形である、透析セル(1)。
【請求項2】
前記アクセプタチャネル(3)は、その長さの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%で、並行して延びる前記ドナーチャネル(2)の容積V
Dより小さい容積V
Aを有する、請求項1に記載の透析セル(1)。
【請求項3】
前記アクセプタチャネル(3)は、その長さ全体で、並行して延びる前記ドナーチャネル(2)の容積V
Dより小さい容積V
Aを有する、請求項2に記載の透析セル(1)。
【請求項4】
前記アクセプタチャネルは、少なくとも部分的に、0.005mm
3/mm~2.0mm
3/mm、好ましくは0.020mm
3/mm~1.5mm
3/mm、より好ましくは0.10mm
3/mm~1.0mm
3/mmの単位長さ当たりの容積V
A/Lを有する、請求項1から3のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項5】
前記ドナーチャネル(2)は、少なくとも部分的に、0.25mm
3/mm~3.5mm
3/mm、好ましくは0.30mm
3/mm~3.0mm
3/mm、より好ましくは0.35mm
3/mm~2.0mm
3/mmの単位長さ当たりの容積V
D/Lを有する、請求項1から4のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項6】
前記透析膜(4)は、0.01μm~1.0μm、好ましくは0.02μm~0.5μm、より好ましくは0.05μm~0.2μmの孔径を有する、請求項1から5のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項7】
前記透析膜(4)は、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、混合セルロースエステル、水和セルロースおよび再生セルロースよりなるリストから選択される材料、好ましくは、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネートおよび混合セルロースエステルまたはポリアミドよりなるリストから選択される材料からなる、請求項1から6のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項8】
前記ドナーチャネル(2)および前記アクセプタチャネル(3)は、直線状、螺旋状または蛇行状である、請求項1から7のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項9】
前記透析膜(4)により境界をつけられる前記側面の幅(w)の、前記アクセプタチャネル(3)の断面の深さ(d
A)に対する割合は、80:1~10:1、好ましくは40:1~15:1、特に好ましくは25:1~20:1であり、かつ/または、前記丸められた角(29’、29’’)は、0.05~1mm、好ましくは0.1~0.8mm、特に好ましくは0.2~0.4mmの曲率半径を有する、請求項1から8のいずれかに記載の透析セル(1)。
【請求項10】
前記アクセプタチャネル(3)内には、少なくとも1つ、好ましくは複数の支持エレメント(30’、30’’)が形成され、前記支持エレメントは、前記透析膜(4)を前記透析膜とは反対側に面する前記アクセプタチャネル(3)の前記側面(m)から離間させる、請求項9に記載の透析セル(1)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の透析セルを備える、透析プロセスにおける化学分析法、特にクロマトグラフィ、のための試料調製用デバイスであって、ドナー回路は、ドナー液を前記透析セル(1)に運ぶ第1のポンプデバイス(16)を有し、かつ前記ドナー液を前記透析セル(1)から離して運ぶ第2のポンプデバイス(16’’)を有し、かつ/または、アクセプタ回路は、アクセプタ液を前記透析セル(1)に運ぶ第1のポンプデバイス(16’)を有し、かつ前記アクセプタ液を前記透析セルから離して運ぶ第2のポンプデバイス(16’’’)を有することを特徴とする、デバイス。
【請求項12】
前記ドナー回路の前記第1のポンプデバイス(16)および前記第2のポンプデバイス(16’’)は、第1の2チャネルポンプに、好ましくは第1の蠕動式2チャネルポンプに組み合わされ、かつ/または、前記アクセプタ回路の前記第1のポンプデバイス(16’)および前記第2のポンプデバイス(16’’’)は、第2の2チャネルポンプに、好ましくは第2の蠕動式2チャネルポンプに組み合わされる、請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記第1および第2の2チャネルポンプは、これらが互いに独立して作動され得るように制御可能である、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
アクセプタ溶液の容器(18)をアクセプタチャネル(3)へ連接する第1の細管(31)、および/または前記アクセプタチャネル(3)を分析デバイス、特にクロマトグラフィデバイスの注入器(19)、へ連接する第2の細管(31’)は、最大0.5mm、好ましくは最大0.25mmの直径を有する、請求項11から13のいずれかに記載のデバイス。
【請求項15】
特にイオンクロマトグラフィ(IC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キャピラリ電気泳動(CE)および質量分析(MS)よりなるリストから選択される、化学分析法における試料調製用の、請求項1から10のいずれかに記載の透析セル(1)の使用および/または請求項11から14のいずれかに記載のデバイスの使用。
【請求項16】
特にイオンクロマトグラフィ(IC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キャピラリ電気泳動(CE)および質量分析(MS)よりなるリストから選択される、化学分析法のための試料調製用の、請求項1から9のいずれかに記載の透析セル(1)における、透析膜(4)としての膜の使用。
【請求項17】
-アクセプタ溶液を提供するステップと、
-ある一定量の前記アクセプタ溶液を、前記アクセプタチャネル(3)へ、または前記アクセプタチャネル(3)を含むアクセプタ回路へ導入するステップと、
-前記ある一定量の前記アクセプタ溶液を、前記アクセプタチャネル(3)内に、または前記アクセプタチャネル(3)を含む前記アクセプタ回路内に保持するステップと、
-少なくとも1つの被検質(5)を含むドナー溶液を提供するステップと、
-前記ドナー溶液を前記ドナーチャネル(2)に通すステップであって、その結果、前記ドナー溶液内に存在する前記少なくとも1つの被検質(5)は、前記透析膜(4)を介して前記アクセプタ溶液に入るステップと、
を含み、
少なくとも、前記アクセプタ溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度が、前記ドナー溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%になるまで、前記ドナーチャネル(2)を介して新しいドナー溶液が導かれる、請求項15および16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
前記アクセプタ溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度が、前記ドナー溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%になる時点で、次のステップ、すなわち、
-前記ドナー溶液を前記ドナーチャネル(2)内に、または前記ドナーチャネルを含むドナー回路内に保持するステップと、
-前記アクセプタ溶液を前記アクセプタチャネル(3)から吐出し、かつ前記アクセプタ溶液を、特にイオンクロマトグラフィデバイス(IC)、高速液体クロマトグラフィ用デバイス(HPLC)、キャピラリ電気泳動デバイス(CE)および質量分析デバイス(MS)よりなるリストから選択される、分析デバイスの分析法へ供給するステップと
が実行されることを特徴とする、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記アクセプタ溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度が、前記ドナー溶液中の前記少なくとも1つの被検質(5)の濃度の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%になる時点まで、前記ドナーチャネル(2)を介して前記新しいドナー溶液が連続的に導かれる、請求項17および18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
請求項1から10のいずれかに記載の透析セル(1)を備える分析システム、特に、イオンクロマトグラフィシステム(IC)、高速液体クロマトグラフィ用システム(HPLC)、キャピラリ電気泳動システム(CE)および質量分析システム(MS)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載の化学分析法の試料調製用透析セル、請求項11の前提部分に記載の試料調製用デバイス、請求項15に記載の透析セルの使用、および請求項16に記載の、このような透析セルにおける膜の透析膜としての使用に関する。本発明は、さらに、請求項1の前提部分に記載の透析セルを備える分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの化学分析法では、実際の分析の実行を可能にするために、事前に試料を調製手順にかける必要がある。例えば、イオンクロマトグラフィによる分析のための試料には、分析対象のイオン、すなわち被検質、に加えて、腐食性である、または沈殿物となり得るマトリックス構成物が含まれることが多い。このマトリックス構成物は、分析を困難にする、または不可能にさえすることがある。さらに、ひどく汚染された試料は、分離カラムを損傷したり、その耐用年数を著しく短縮することになる可能性がある。したがって、多くの分析アプリケーションにとって、適切な試料調製手順は、絶対条件である。試料調製ステップは、伝統的に全て手作業で行われてきたが、最近は、所謂インライン試料調製技術が受け入れられるようになってきている。こうした技術は、調製方法の完全自動化を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、欧州特許出願公開第0820804A1号明細書は、特にイオンクロマトグラフィに使用されるインライン透析について記述している。この透析方法は、ドナーチャネルと、並行して延びるアクセプタチャネルとを備える透析セルによって実行される。これらの2チャネル間に、選択的透過性の透析膜が配置される。透析は、所謂ストップトフロー透析として実行される。これには、ドナー溶液とも称される液体試料が、ドナーチャネルを通じて継続的に導かれることが含まれる。これと同時に、アクセプタチャネルを通るアクセプタ溶液の流体フローは、ある一定期間に渡って停止される。ドナー溶液とアクセプタ溶液との間の濃度勾配は、ドナー溶液からアクセプタ溶液への被検質の拡散をもたらす。アクセプタ溶液は、濃度平衡が略達成された後に、イオンクロマトグラフィ分離手順へ供給される。
【0004】
アクセプタフローの停止から、典型的にはアクセプタ溶液が透析セルより送られる時点で発生する透析終了までのタイムスパンを、透析時間tDと称する。
【0005】
回収率Rは、透析時間tD終了時点における、アクセプタチャネル内の被検質濃度の、ドナーチャネル内の被検質濃度に対する割合として定義される。回収率Rは、典型的には、透析時間tDの増加に伴って完全に単調増加する。
【0006】
平衡時間tAは、アクセプタチャネル内の被検質濃度がドナーチャネル内の被検質濃度に略到達していった時間を指す。この文脈では、平衡時間tAは、透析期間に一致し、この後、アクセプタチャネル内の被検質濃度の相対的変化が初めて2%/分未満となる。
【0007】
上述の技術は、被検質からの粒子だけでなく、コロイド、油成分および大分子も分離する。これにより、具体的にはタンパク質含有試料は、イオンクロマトグラフィによって直に処理されることが可能である。これにより、例えばカレッツ試薬によるタンパク質の析出などの手作業による時間のかかるステップが省かれる。試料が粒子で汚染されていて、フィルタの目詰まりにより濾過手順を適用できない場合でも、インライン透析は、実用的な試料調製手順である。
【0008】
この試料調製技術には、多くの利点があるものの、概して、透析は、分析プロセスの律速段階であるという問題がある。これは、特に、多くの試料を連続して処理するような場合、この方法が試料調製の結果として時間のかかる、かつ費用集約的なものとなるという理由で不利である。さらに、試料がひどく汚染されている場合には、透析膜を介してマトリックス不純物の部分的な破過が発生し得るという問題もある。さらに不利な点は、ストップトフロー透析における試料消費量が比較的多いことにある。
【0009】
米国特許第4,311,789号明細書および米国特許第4,491,011号明細書は、上流の透析ユニットへ連接される分析器を開示している。どちらの場合も、透析セルは、複合的な流体培地、具体的には血液がチャネルを通って誘導されるように設計され、このチャネルは、さらに、全体または一部が選択的透過性の膜から形成される流体ガイド、例えば選択透過膜で構成されるファイバまたは細管を含む。アクセプタ溶液は、このさらなる流体ガイドに提供される。アクセプタチャネルの容積が、並行して延びるドナーチャネルの容積VDより小さい容積VAを、少なくとも部分的に有する場合、これは、平衡時間に有利な影響を及ぼすことができる。しかしながら、既知の透析セルは、ドナーチャネルとアクセプタチャネルとの間の圧力差を適切に制御することなく作動する。ドナーチャネルおよび/またはアクセプタチャネルにおける圧力勾配は、望ましくない濾過を引き起こす。特に粒子充填マトリックスにおける濾滓の増加は、透析膜の透過性を変える。透過性の変化は、個々の被検質事例でも異なり得る。その結果、平衡時間tAは、予測不可能に影響を受け、よって制御が困難である。
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来技術における上述の欠点を克服することにある。より具体的には、本発明の目的は、平衡時間tAを短縮し、而して全体としてより高い試料スループットを達成することにある。さらに、本発明が対処する課題は、試料がひどく汚染されている場合のマトリックスからの被検質除去の向上を達成することにある。さらに、本発明の目的は、制御可能な平衡時間tA内で信頼性の高い正確な平衡を可能にする、透析による試料調製用のデバイスおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、請求項1に記載の特徴を有する、化学分析法、特にイオンクロマトグラフィ、のための試料調製用透析セルによって達成される。透析セルは、ドナーチャネルと、並行して延びるアクセプタチャネルとを備える。ドナーチャネルおよびアクセプタチャネルは、意図された通りに使用される場合の選択的透過性の透析膜によって互いから分離される。これは、具体的には、ドナーチャネル内のドナー溶液に溶解した被検質が、透析膜を介して、アクセプタチャネル内のアクセプタ溶液へ入り込めることを意味する。アクセプタチャネルは、並行して延びるドナーチャネルの容積VDより小さい容積VAを、少なくとも部分的に有する。
【0012】
透析セルのこのような非対称構造は、平衡時間tAを著しく短縮できることが分かっている。これにより、透析時間tDが短くなり、よって、試料スループットが全体的に高くなり、かつこれに付随して、時間およびコストがめざましく節約される。さらに、より短い透析時間tDは、透析膜が試料マトリックスと接触する時間期間を短縮する。その結果、マトリックス不純物の破過を大幅に減らすことができる。さらに、透析は、明らかに少ない量の試料で実行することが可能である。
【0013】
本発明による透析セルは、2つのハーフセルを備え、これらの間に選択的透過性の透析膜が配置される。ドナーチャネルおよびアクセプタチャネルは、いずれの場合も、ハーフセルの一方と透析膜との接触面における陥凹部として形成される。透析セルのこの構造は、製造面で特にロバストで費用効果が高く、かつ操作および保全の面でユーザフレンドリであることが分かっている。
【0014】
さらに、このような構造の場合、双方のハーフセルの容積は、既知でありかつ一定である。ドナー液またはアクセプタ液を供給しかつ除去する量/流量を適切に選択すれば、ハーフセルの一方における正圧または負圧を回避することが可能である。このような正圧または負圧によって生じる濾過は、拡散の結果として到達されるドナー溶液およびアクセプタ溶液内の被検質の濃度平衡に干渉効果を及ぼし得る。例えば、ドナーチャネル内が正圧であれば、濾過液は、アクセプタチャネルへと通り過ぎる可能性がある。
【0015】
無加圧透析、すなわち透析セル内に圧力勾配のない透析は、変化する培地またはマトリックスに基づくドナー液が透析を受ける場合に特に有利であることが分かる。例えば医療用途での血清の透析および/または分析において存在するような不変のマトリックスの場合、流量、延ては圧力を、相応の努力を伴う経験値に基づいて、結果的に分析値の精度を過度に低下させることなく、適切に調整することができる。これに対して、イオン分析においてよく発生する可変マトリックスの場合、圧力差により、透析時間または平衡時間が制御不能および予測不能となる。
【0016】
圧力の制御は、透析がストップトフロー法で実行される場合にさらに支援される。
本発明の好ましい一実施形態において、アクセプタチャネルは、その長さの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%で、並行して延びるドナーチャネルの容積VDより小さい容積VAを有する。本発明のさらに好ましい一実施形態において、アクセプタチャネルは、その長さ全体で、並行して延びるドナーチャネルの容積VDより小さい容積VAを有する。
【0017】
アクセプタチャネルは、少なくとも部分的に、0.005mm3/mm~2.0mm3/mm、好ましくは0.020mm3/mm~1.5mm3/mm、より好ましくは0.10mm3/mm~1.0mm3/mmの単位長さ当たりの容積VA/Lを有することが可能である。ドナーチャネルは、少なくとも部分的に、0.25mm3/mm~3.5mm3/mm、好ましくは0.30mm3/mm~3.0mm3/mm、より好ましくは0.35mm3/mm~2.0mm3/mmの単位長さ当たりの容積VD/Lを有することが可能である。同時に、ドナーチャネルおよびアクセプタチャネルは、通常、各々が10mm~1000mm、好ましくは20mm~500mm、より好ましくは100mm~300mmの長さを有する。
【0018】
ドナーチャネルおよび/またはアクセプタチャネルのこうした寸法は、特にイオンクロマトグラフィ用途において効果的であることが分かっている。第1に、その結果、明らかに短い平衡時間tAを達成することができる。第2に、これらの寸法は、分離カラムへ供給される被検質の物質量が、通常のイオンクロマトグラフィシステムの検出限界内であることを保証する。ドナーチャネルに関して言えば、これらの寸法は、試料が特に粒子でひどく汚染されている場合でも、ドナーチャネルが詰まらないことをさらに保証する。
【0019】
選択的透過性の透析膜は、0.01μm~1.0μm、好ましくは0.02μm~0.5μm、より好ましくは0.05μm~0.2μmの孔径を有することが可能である。必要とされる回収率Rは、同じ透析膜を有する透析セルの本発明による非対称構造の結果としてより迅速に到達されることから、所与の分析用途用のより微細な孔径の透析膜を、より長い平衡時間tAを受容する必要なく使用することも可能である。その結果、特に試料がひどく汚染されている場合に、被検質からのマトリックスのより良い分離を達成することができる。
【0020】
選択的透過性の透析膜は、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、混合セルロースエステル、水和セルロースおよび再生セルロースよりなるリストから選択される材料でなることが可能である。好ましくは、材料は、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネートおよび混合セルロースエステルまたはポリアミドよりなるリストから選択される。これらの膜材料は、具体的には金属カチオンおよび無機アニオンの分離に特に有利であることが分かっている。
【0021】
ドナーチャネルおよびアクセプタチャネルは、直線状、螺旋状または蛇行状であってもよい。これにより、チャネルの長さに対して透析セルの特にコンパクトな設計が可能となる。
【0022】
ドナーチャネルおよび/またはアクセプタチャネルの断面は、円セグメントの形状であってもよく、特に、半円形、半楕円形、正方形または長方形であってもよい。これらのチャネル形状は、ハーフセルの製造およびその性能特性の双方に関して特に有利であることが分かっている。
【0023】
しかしながら、ドナーチャネルの断面が半円形であれば、特に好ましい。半円形の設計は、高分子量の成分、例えば脂肪またはタンパク質が妨げなしに流れることができ、一方で、ドナー溶液が透析膜へと曝露される面積が最大となることを意味する。
【0024】
さらに、アクセプタチャネルの断面は、少なくとも部分的に、透析膜とは反対側に面する側面に丸められた角を有する長方形であれば、特に好ましい。ここで、丸められた角は、透析膜とは反対側のアクセプタチャネルの部分を、透析膜へ付着されるアクセプタチャネルの側面境界へ連接する部分を意味するものと理解される。この部分は、断面が弧状であって、0.05~1mm、好ましくは0.1~0.8mm、特に好ましくは0.2~0.4mmの曲率半径rを有する。あるいは、または追加的に、透析膜により境界をつけられる側面の、長方形の深さに対する割合は、好ましくは80:1~10:1、特に好ましくは40:1~15:1、特に好ましくは25:1~20:1である。
【0025】
上述の寸法を選択することにより、アクセプタ液と透析膜との間に大きい接触面があるにも関わらず、ドナー液は、セルの断面当たりで可能な限り最小の容積のアクセプタ液に直面する。言い替えれば、アクセプタチャネルは、並行して延びるドナーチャネルの容積部分VDと比較して最小化される容積VAを有し、これにより、平衡時間tAが短縮される。
【0026】
丸くない角と比較すると、丸められた角は、アクセプタ液の蓄積に起因するセルの汚染を防止する。このような汚染は、典型的には、丸くない角において際立つと思われる、チャネル壁付近で流速が遅くなる結果として生じる。ゆっくり流れるアクセプタ液が蓄積する問題は、選択される曲率半径が小さすぎても発生する。対照的に、選択される曲率半径が大きすぎれば、水溶液内で厚さ0.15mmまで膨れ上がる可能性もある透析膜がハーフセルの壁および/または陥凹部の底に接触し、よってハーフセルを介する流れを塞ぐ、という危険性がある。したがって、曲率半径は、0.05~1mm、好ましくは0.1~0.8mm、特に好ましくは0.2~0.4mmであることが好適である。
【0027】
さらに、透析セルは、アクセプタチャネル内に少なくとも1つ、好ましくは複数の支持エレメントが形成されるように構成されることが好ましく、これらの支持エレメントは、透析膜を透析膜とは反対側に面するアクセプタチャネルの側面から離間させる。好ましくは、支持エレメントは、アクセプタチャネルの深さに一致する高さを有する。好ましくは、支持エレメントは、円筒対称性であって、支持体上縁の直径は、5~500μm、好ましくは10~200μm、特に好ましくは30~60μmである。しかしながら、支持体の断面形状は、円筒対称性から外れることもある。好ましくは、支持体の面積、すなわち断面積は、膜側の上縁から減少する。好ましくは、支持エレメントは、アクセプタチャネルの幅に渡って規則的なパターンで配分され、特に好ましくは、アクセプタチャネルの真ん中に支持エレメントの列が配置される。好ましくは、全ての隣接する2つの支持体間の距離、および/または支持体と、直に隣接するチャネル上縁との距離は、常に同じである。
【0028】
少なくとも1つの支持エレメントの機能は、アクセプタ側チャネルの容積が一定に保たれ、よって、例えば透析膜が重力下または圧力下で垂れ下がる結果として、減少されないことにある。原則として、支持エレメントは、例えば透析膜が重力下または圧力下でドナーチャネルの方向へ垂れ下がる結果としてのドナー側の容積減少を防止するために、ドナー側へも取り付けられてもよい。しかしながら、アクセプタチャネルは、本発明によれば、並行して延びるドナーチャネルの容積VDより小さい容積VAを有することから、アクセプタチャネルにおける垂れ下がり作用の相対的効果は、ドナー側より大きく、かつ結果として生じる潜在的な流れの障害がドナー側より激烈である。
【0029】
支持エレメントの形状および数は、第1に、デバイスの安定性が保証されるように、第2に、チャネルを介する流体の流れにおける障害が可能な限り少ないように、さらに、覆われる膜面積が可能な限り小さくなるように選択される。この目的に適するものは、具体的には、円錐台形状、または表面側で凹状に湾曲する支持エレメントである。
【0030】
好ましくは、支持エレメントは、ハーフセルと一体成形される。好ましくは、支持エレメントは、フライス加工、射出成形、ホットスタンピングまたは3D印刷によって生産される。
【0031】
本発明は、さらに、先に述べたような透析セルを備える、透析プロセスにおける化学分析法、特にクロマトグラフィ、のための試料調製用デバイスを提供し、本デバイスは、ドナー回路が、ドナー液を透析セルに運ぶ第1のポンプデバイスを有し、かつドナー液を透析セルから離して運ぶ第2のポンプデバイスを有することを特徴とする。あるいは、または追加的に、アクセプタ回路は、アクセプタ液を透析セルに運ぶ第1のポンプデバイスを有し、かつアクセプタ液を透析セルから離して運ぶ第2のポンプデバイスを有する。
【0032】
流体回路当たり2つのポンプは、単位時間当たり同量が運搬されるように一度に調整されてもよく、よって、特定のハーフセル、アクセプタハーフセルまたはドナーハーフセルにおける不変圧力を保証することができる。
【0033】
ドナー回路およびアクセプタ回路において、いずれの場合もポンプが1つしか使用されない場合、液体の流入を停止する遮断エレメント、例えばバルブ、が必要とされる。これにより、透析のストップトフロー状態を実現することができる。
【0034】
ドナー回路の第1のポンプデバイスおよび第2のポンプデバイスは、好ましくは2チャネルポンプに、好ましくは蠕動式2チャネルポンプに組み合わされる。あるいは、または追加的に、アクセプタ回路の第1のポンプデバイスおよび第2のポンプデバイスは、好ましくは2チャネルポンプに、好ましくは蠕動式2チャネルポンプに組み合わされる。
【0035】
2チャネルポンプの使用には、ドナー液またはアクセプタ液が同じストローク動作によって運ばれることから、透析セルに供給されるドナー液またはアクセプタ液の量と、透析セルから除去されるドナー液またはアクセプタ液の量とが常に同じであるという利点がある。特定のハーフセルへの液体供給と、特定のハーフセルからの液体除去は、自動的に同期される。
【0036】
第1および第2の蠕動式2チャネルポンプは、これらが互いに独立して作動されるように制御可能であることが特に好ましい。典型的には、透析時間tDの間、第1の蠕動ポンプのみが作動され、その結果、ドナー液体が連続的に流れるのに対し、アクセプタ液は、アクセプタチャネル内に保持される。好ましくは、平衡時間tAの経過後、第1の蠕動ポンプが停止されて第2の蠕動ポンプのみが作動され、その結果、アクセプタ液が流れるのに対し、ドナー液体は、ドナーチャネル内に保持される。
【0037】
こうした制御可能性には、望ましくない濾過をもたらす可能性もある負圧または正圧を、ハーフセルのいずれかにおいて防止できるという利点がある。
【0038】
好ましくは、アクセプタ溶液の容器を好ましくは第2のポンプデバイスを介してアクセプタチャネルへ連接する第1の細管、および/またはアクセプタチャネルを好ましくは第1のポンプデバイスを介して、特にクロマトグラフィカラム上へ注入するための、注入デバイスへ連接する第2の細管は、細管の直径が最大0.5mm、好ましくは最大0.25mmであるように設計される。
【0039】
選択される直径は、移送操作中の被検質の拡散を制限するために、小さいものであるべきである。細管に沿った拡散の進行が速すぎれば、達成可能な最大限の回収率Rが下がるが、こうした効果は、小径を有する細管の使用により抑制されるべきである。同じ理由で、移送速度も、好ましくは最小化され、延ては、これが小さい細管直径によって促進される。
【0040】
本発明は、特にイオンクロマトグラフィ(IC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キャピラリ電気泳動(CE)および質量分析(MS)よりなるリストから選択される、化学分析法における試料調製用の先に述べたような透析セルの使用をさらに提供する。
【0041】
本発明は、さらなる態様において、特にイオンクロマトグラフィ(IC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、キャピラリ電気泳動(CE)および質量分析(MS)よりなるリストから選択される、化学分析法のための試料調製用の先に述べたような透析セルにおける、透析膜としての膜の使用を規定する。
【0042】
しかしながら、本発明の文脈においては、IC-MS、HPLC-MSまたはCE-MSなどのカップリング技術も使用可能であることは、自明である。
【0043】
上述の2つの使用は、
-アクセプタ溶液を提供するステップと、
-ある一定量のアクセプタ溶液を、アクセプタチャネルへ、またはアクセプタチャネルを含むアクセプタ回路へ導入するステップと、
-ある一定量のアクセプタ溶液を、アクセプタチャネル内に、またはアクセプタチャネルを含むアクセプタ回路内に保持するステップと、
-少なくとも1つの被検質を含むドナー溶液を提供するステップと、
-ドナー溶液をドナーチャネルに通すステップであって、その結果、ドナー溶液内に存在する少なくとも1つの被検質は、透析膜を介してアクセプタ溶液に入るステップと、
を含む。
【0044】
このプロセスでは、少なくともアクセプタ溶液中の少なくとも1つの被検質の濃度が、ドナー溶液中の少なくとも1つの被検質の濃度の少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%になるまで、ドナーチャネルを介して新しいドナー溶液が導かれる。
【0045】
アクセプタ溶液中の被検質の濃度が既定の閾値に達すると、この時点で、次のステップ、すなわち、
-ドナー溶液をドナーチャネル(2)内に、またはドナーチャネルを含むドナー回路内に保持するステップと、
-アクセプタ溶液を吐出し、かつアクセプタ溶液を、特にイオンクロマトグラフィデバイス(IC)、高速液体クロマトグラフィ用デバイス(HPLC)、キャピラリ電気泳動デバイス(CE)および質量分析デバイス(MS)よりなるリストから選択される、分析デバイスへ供給するステップと
が実行される。
【0046】
アクセプタ溶液を吐出しながら、ドナー溶液をドナーチャネル(2)内またはドナーチャネルを含むドナー回路内に保持することには、アクセプタ溶液を分析デバイスへ移送する間でさえ、例えば、ドナー回路およびアクセプタ回路に各々位置づけられるポンプの非同期スイッチングの帰結としての、ドナーチャネルとアクセプタチャネルとの間の圧力差がない、という利点がある。これにより、達成される平衡を歪める可能性もある望ましくない濾過の不在が保証される。
【0047】
このプロセスでは、ドナーチャネルを介して新しいドナー溶液を連続的に導くことができる。ドナーチャネルを介するドナー溶液の流量は、0.01ml/分~10.0ml/分、好ましくは0.05ml/分~5.0ml/分、好ましくは0.10ml/分~1.0ml/分の範囲内であってもよい。これらの流量は、こうした透析において習慣的に観察される質量移動の速度に対して効果的であることが分かっている。
【0048】
本発明は、先に述べたような透析セルを備える分析システム、特に、イオンクロマトグラフィシステム(IC)、高速液体クロマトグラフィ用システム(HPLC)、キャピラリ電気泳動システム(CE)および質量分析システム(MS)またはこのようなシステムの組合せよりなるリストから選択されるシステム、をさらに提供する。
【0049】
本発明のさらなる利点および個々の特徴は、例示的な実施形態に関する以下の説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図4】本発明による透析セルを備えるイオンクロマトグラフィシステム(IC)を示す図である。
【
図5】アクセプタチャネルの容積V
Aが回収率Rに与える影響を示す図である。
【
図6】リグニンの破過に関する、本発明による透析セルと従来技術によるこうした透析セルとの比較を示す図である。
【
図7】リグニンの破過に関する、本発明による透析セルと従来技術によるこうした透析セルとの比較を示す図である。
【
図8】本発明による透析セルを用いる試料処理の例を示す図である。
【
図9】本発明による透析セルを用いる試料処理の例を示す図である。
【
図10】本発明による透析セルの、支持エレメントのないアクセプタチャネルの断面図である。
【
図11】本発明による透析セルの、支持エレメントを有するアクセプタチャネルの断面図である。
【
図12】本発明による透析セルのアクセプタチャネルの斜視図である。
【
図13】本発明による、支持エレメントを有する透析セルの2つのハーフセルの代替配置の断面図である。
【
図14】本発明による、支持エレメントを有する透析セルの2つのハーフセルの代替配置の断面図である。
【
図15】透析プロセスにおける、化学分析法の試料調製用デバイスの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1から明らかであるように、本発明による透析セル1の一実施形態は、2つのハーフセル6および7からなり、これらの間に、選択的透過性の透析膜4が配置される。ハーフセル6および7は各々、その透析膜4との接触面8、8’上に、各々ドナーチャネル2およびアクセプタチャネル3を形成する螺旋状の陥凹部を有する。ドナーチャネル2は、供給ライン9へ連接され、試料は、供給ライン9を介して供給されることが可能である。さらに、ドナーチャネル2は、吐出ライン10へ連接され、これによって試料は、透析セル1を通過した後に吐き出されることが可能であり、かつ通常は、廃棄ポイント17へ供給されることが可能である。アクセプタチャネル3も同じく、供給ライン11および吐出ライン12へ連接される。アクセプタチャネル3の供給ライン11および吐出ライン12は、一体化されてアクセプタ回路を形成してもよい。ドナーチャネル2を介して導かれる試料溶液は、本明細書では象徴的に金属イオン5として描いている少なくとも1つの被検質を含み、かつ本明細書では象徴的にタンパク質13として描いているマトリックス分子も含む。金属イオン5は、選択的透過性の透析膜4を通り越すことができる(矢印参照)のに対して、タンパク質13は、くい止められる。その結果、例えばイオンクロマトグラフィで、金属イオン5を含有する試料の処理が可能である。
【0052】
図2は、従来技術による同種の透析セルの断面を示す。ドナーチャネル2およびアクセプタチャネル3は、同じ幅wを有することが分かる。さらに、ドナーチャネルの深さd
Dも、アクセプタチャネルの深さd
Aと同じである。対照的に、
図3は、本発明による透析セルの断面を示し、この断面は
図2に対応する。ドナーチャネル2およびアクセプタチャネル
3は、共に、なおも幅wを有する。また、ドナーチャネルの深さd
Dも、
図2の例と同じである。しかしながら、アクセプタチャネルは、低減された深さd
Aを有する。したがって、アクセプタチャネル3が、断面平面の領域において、ドナーチャネル2の対応する単位長さ当たりの容積V
D/Lより小さい単位長さ当たりの容積V
A/Lを有することは、自明である。
【0053】
図4は、本発明による透析セル1を備えるクロマトグラフィシステム14を示す。このシステム14において、本明細書ではドナー溶液とも称する試料溶液が、試料容器15に提供される。ドナー溶液は、ポンプ16により、透析セル1の第1のハーフセル6を介して圧送され、次いで、廃棄目的で収集容器17内に収集される。アクセプタ溶液は、アクセプタ容器18に提供され、さらなるポンプ16’により、透析セル1の第2のハーフセル7を介して圧送される。過剰なアクセプタ溶液も同様に、廃棄目的で収集容器17’内に収集される。既に先で解明したように、所謂ストップトフロー透析は、ハーフセル6を介する、本明細書においてドナーフローとも称するドナー溶液の流れを継続しながら、ハーフセル7を介する、本明細書においてアクセプタフローとも称するアクセプタ溶液の流れを停止することによって実行される。これは、ハーフセル7内のアクセプタ溶液が、ハーフセル6内のドナー溶液中の被検質の所望される最小の濃度比率を有するまで保持される。このような最小比率は、例えば、90%、95%または99%であってもよい。
【0054】
透析が実行された後は、注入バルブ19を切り替えることができ、その結果、被検質がクロマトグラフィカラム20へ供給される。被検質がクロマトグラフィカラム20へ供給される間、ドナーフローは、停止される。クロマトグラフィシステム14の実際のクロマトグラフィ部は、ここではかなり単純化して描かれている。溶離液は、溶離液容器21内に提供され、ポンプ16’’’’、特に高圧ポンプ、により、注入バルブ19から分離カラム20を介して圧送される。検出器22による検出が実行された後、イオンクロマトグラフィにより分離された試料は、同様に、廃棄目的で収集容器17’’に収集される。しかしながら、本発明の文脈においては、所謂タンデム技術、例えば電気伝導度検出器と質量分析計(MS)とのカップリング、も実現可能であることは、自明である。
【0055】
図5は、回収率Rに対するアクセプタチャネルの容積V
Aの影響を示す。棒線23、23’、23’’、23’’’は各々、塩化物の観測値を表すのに対して、棒線24、24’、24’’、24’’’は、硫酸塩のデータを表す。描かれている値は各々、2分間の透析時間t
D後の回収率Rを示す。全ての測定に、深さ515μmおよび容積V
D240μlのドナーチャネルを用いた。試験したのは、容積V
Aが240μl、135μl、93μlおよび61μlのアクセプタチャネルである。透析時間t
Dが同じままで、回収率Rは、アクセプタチャネルの容積V
Aの減少とともに高くなることが分かる。
【0056】
図6および
図7は、マトリックス分子の破過に関する、本発明による透析セルと従来技術によるこうした透析セルとの比較を示す。これに関して、25mg/lのリグニン濃度を有する試料を調製した。リグニン濃度は、UV検出器を用いて、274nmの波長で決定した。グラフ27は、515μmのドナーチャネル深さおよびアクセプタチャネル深さ、240μlのドナーチャネル容積V
Dおよびアクセプタチャネル容積V
Aおよび孔径0.2μmの酢酸セルロース膜を有する対称透析セルの場合の、リグニンの破過率Bを透析時間t
Dの関数として示している。4分の透析時間t
Dを過ぎると、破過率Bが70%を超えることは、明らかである。これに対して、グラフ28が示すように、515μmのドナーチャネル深さ、240μlのドナーチャネル容積V
D、515μmのアクセプタチャネル深さ、90μlのアクセプタチャネル容積V
Aおよび孔径0.1μmのポリカーボネート膜を有する非対称透析セルの場合の破過率Bは、透析期間を通じて増加速度がかなり遅く、10分の透析時間t
Dを以てしても正確に10%の値にしか到達しない。
【0057】
図7は、
図6に示す透析構成の場合の、硝酸塩の回収率Rを透析時間t
Dの関数として示している。グラフ29および30は、各々
図6のグラフ27および28に対応する硝酸塩の回収率Rを示している。
図7からは、
図6に示すような、微細孔の膜を用いる非対称透析の場合の低減されたマトリックス破過は、平衡時間t
Aが粗い孔の膜を用いる対称透析の場合より微細孔膜を用いる非対称透析の場合で短い場合であっても存在することが明らかである。
【0058】
図6および
図7は、対称透析セルではなく非対称透析セルを用いれば、適切な膜を選択することにより、被検質の平衡時間t
Aの短縮および同時にマトリックスの破過の低減が可能であることを示している。
【0059】
以下、
図8および
図9により、本発明による透析セル1のアプリケーション例について述べる。具体的にはBritzer Kirchteich社(ドイツ、ベルリン所在)製の水試料の硝酸塩および硫酸塩含有量について解明した。この場合の懸念は、富栄養化の兆候を示しかつ腐植含有量の高い表面水である。合計5つの水試料を採集し、イオンクロマトグラフィによって前述のアニオンの濃度を測定した。試料調製を、ストップトフロー透析によって実行した。
【0060】
利用したのは、共に
図1に示す構造に対応する構造を有する2つの異なる透析セルである。第1の透析セルは、従来技術から知られる透析セルであって、ドナーチャネルおよびアクセプタチャネルが共に深さ515μm、および各々容積V
AおよびV
D240μlであった。第2の透析セルは、本発明による透析セルであって、ドナーチャネルは、同様に深さ515μmおよび容積V
D240μlであった。アクセプタチャネルは、深さが僅か210μm、容積V
A90μlであった。
【0061】
いずれの場合も、混合セルロースエステルで構成されかつ0.05μmの孔径を有する膜(Merck Millipore社製)を用いた。小さい孔径に起因して、この膜は、潜在的な干渉物質、特に例えばフミンまたはリグニンなどの高分子物質、に対する高レベルの保留性を特徴とする。
【0062】
図8および
図9に示すように、硝酸塩および硫酸塩の双方に必要な透析時間t
Dを予備実験として決定した。この目的に沿って、濃度5mg/lの標準溶液を調製し、各イオンについて透析した。
図8は、アニオン性硝酸塩に関する結果を示す。グラフ25は、240μlの容積V
Aを有するアクセプタチャネルの回収率Rを表す。グラフ26は、90μlの容積V
Aを有するアクセプタチャネルの対応する回収率Rを表す。非対称透析セルの場合、硝酸塩に関しては、透析時間t
Dが2分であっても90%を超える回収率Rが存在することが分かる。これに対して、対称透析セルの場合、この値は、6分を超える透析時間t
Dでようやく達成可能である。
図9は、アニオン性硫酸塩に関する同様の図を示す。本図では、非対称透析セルを用いれば、90%の回収率Rが約5分の透析時間t
Dで達成されるのに対して、対称セル構造の場合には、15分を超える透析時間t
Dでようやく対応する値を達成できることが分かる。次表は、硝酸塩および硫酸塩、および他のアニオンに関するこれらの予備実験の結果をまとめたものである。
【0063】
【0064】
上の表から分かるように、非対称透析セル1では、試験した全てのアニオンについて、より短い透析時間tDを達成することが可能であった。達成された回収率Rについては、対称透析セルと同じ範囲にあり、またはこれを上回ることが多かった。さらに、基本的には、透析セルの非対称構造で、試料消費量を削減することが可能であった。
【0065】
次表は、上述の表面水分析の硝酸塩および硫酸塩の含有量をまとめたものである。
【0066】
【0067】
個別試料の濃度値の他に、濃度の相対標準偏差(RSD)が追加して報告されている。
要約すると、非対称構造を有する本発明による透析セル1を使用すれば、明らかに短縮された透析時間tD、延てはより高い試料スループットを達成可能であると述べることができる。さらに、このような透析セル1を用いれば、必要な試料の量を少なくとも2分の1に減らせることが確定された。さらに、マトリックスが透析膜4と接触している時間が短いことにより、マトリックス構成物の望ましくない破過、およびこれに付随するイオンクロマトグラフィシステムへの悪影響が減少する。
【0068】
図10は、アクセプタチャネル3を含む、本発明によるアクセプタハーフセル7の断面を示す。アクセプタチャネル7を介する断面は、膜とは反対側に面する側面m上に丸められた角29’、29’’を有する長方形として形成される。図示されている、膜4により境界をつけられる側面の幅wの、断面で示される長方形の深さd
Aに対する割合は、縮尺通りではない。これは、曲率半径rについても同じである。本発明によれば、膜により境界をつけられる側面の幅wの、断面で示される長方形の深さd
Aに対する割合は、80:1~10:1、特に好ましくは40:1~15:1、極めて好ましくは25:1~20:1である。透析膜に対向するアクセプタチャネル3の部分mを、透析膜に付着されるアクセプタチャネル3の側面境界へ連接する弧状部分の曲率半径は、0.05~1mmであり、好ましくは0.1~0.8mm、特に好ましくは0.2~0.4mmである。図示されているチャネル構成は、部分当たりの流体容積の、同じ部分における膜4との接触面に対する割合を最小限に抑える。さらに、流体の流れの間に防止されるものは、膜4とは反対向きの断面の角29’、29’’におけるアクセプタ溶液の堆積である。
【0069】
図11は、内部に複数の支持エレメント30’、30’’が取り付けられたアクセプタチャネル3を含む、本発明によるアクセプタハーフセル7の断面を示し、これらの支持エレメントは、膜4を膜とは反対側に面するアクセプタチャネル3の側面mから離間させる。支持エレメント30’、30’’の高さd
Aは、アクセプタチャネル3の深さに対応する。この場合の支持エレメントは、流体の流れを可能な限り妨害せず、同時に、膜4へ可能な限り堅固な支持を提供するように、胴部がくびれた円筒として設計される。膜に向かってサイズが広がることで、円錐状に先細る円筒端または円錐設計の支持エレメント30’、30’’によって膜4が穿孔される危険性が減る。
【0070】
図12は、アクセプタチャネル3を含む、本発明によるアクセプタハーフセル7の斜視図を示す。この場合、支持エレメントは、凹状に湾曲した円錐形状である。支持エレメント30’、30’’は、アクセプタチャネル3と一体成形されている。支持エレメント30’、30’’は、アクセプタチャネル3の幅
wの中央に配列される。各々隣接する2つの支持エレメント間の距離は、チャネルの長さに渡って一定である。アクセプタ溶液の供給ライン11も、図示されている。支持エレメント30’は、膜4(不図示)がアクセプタチャネル3の壁および/または基部に、またさらに具体的には供給ライン11の開口にもたれることを防止するために、供給ライン11の近くに存在する。
【0071】
図13および
図14は各々、いずれの場合も支持エレメント30’、30’’を伴って組み立てられた状態における、いずれの場合も本発明による透析セルの2つのハーフセル配置の断面を示す。
図13において、ドナーチャネル2を備えるドナーハーフセル6は、断面が半円を示すように設計されている。アクセプタチャネル3を備えるアクセプタセル7は、
図10~
図12に関して既に述べたように設計される。
図14において、支持エレメント30’、30’’は、ドナーチャネル2およびアクセプタチャネル3の双方に形成されている。好ましくはないものの、これも本発明の一部である。
【0072】
図15は、透析プロセスにおける、化学分析法の試料調製用デバイスを示す略図である。
図4と同様に、本システムは、本発明による透析セル1を含む。試料容器15内のドナー溶液は、ポンプ16により、透析セル1の第1のハーフセルを介して圧送され、次いで、ポンプ16’’を介して収集容器17へ導かれる。アクセプタ容器18内のアクセプタ溶液は、さらなるポンプ16’により、透析セル1の第2のハーフセルを介して圧送される。過剰なアクセプタ溶液も同様に、廃棄目的で収集容器17’内に収集される。アクセプタ溶液の収集容器17’への送りは、ポンプ16’’’によってさらに駆動される。
【0073】
ストップトフロー法は、
図4に関連して説明した方式に対応する。さらに、本システムは、過剰なアクセプタ溶液が収集容器17’へ供給される間、または既定の被検質濃度を含むアクセプタ溶液が分析法に供給される間のいずれかで、ドナー回路内の流れが停止されるように構成される。
【0074】
これにより、透析セル1の2つのハーフセルのうちで、常に最大1つは流れを呈することが保証される。言い替えれば、一方のポンプ16、16’’、他方のポンプ16’および16’’’が交互に作動される。透析時間tDの間は、ドナー回路のポンプのみが動作され、透析時間tDが経過すると、アクセプタ回路のポンプのみが作動される。
【0075】
注入バルブ19の切り替えにより、アクセプタ液が収集容器17’へ供給されるか、クロマトグラフィカラム20へ供給されるかが決定される。クロマトグラフィシステムの実際のクロマトグラフィ部は、溶離液容器21および高圧ポンプ16’’’’に加えて、溶離液脱気装置33を含んでもよい。検出器22における検出の前に、クロマトグラフィで分離された試料は、少なくとも1つのサプレッサモジュール32を通過してもよい。
【0076】
図示していないが、ポンプ16およびポンプ16’’が2チャネルポンプ、好ましくは蠕動式2チャネルポンプに組み合わされることも、本発明の一部である。これにより、ドナーハーフセルへの/からのドナー液の流入および流出が、同じストローク動作によって決定され、かつ結果として同期されることが保証される。あるいは、または追加的に、アクセプタ回路のポンプ16’および16’’’は、2チャネルポンプとして、特に蠕動式2チャネルポンプとして設計されることが可能であり、その結果、アクセプタハーフセルへの/からのアクセプタ液の流入および流出は、同じストローク動作によって決定され、かつ結果として同期される。このような実施形態により、個々のハーフセル内の圧力変動が防止される。
【0077】
さらに、アクセプタ溶液容器18をポンプ16’を介してアクセプタハーフセルへ連接する細管31、およびアクセプタハーフセルを注入バルブ19へ連接する第2の細管31’が、細管の直径が最大0.5mmであるように設計されることも、本発明の一部である。