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特許7324769腫瘍細胞中のRAD51 fociの検出に基づく方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】腫瘍細胞中のRAD51 fociの検出に基づく方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230803BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 31/551 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230803BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230803BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61K31/502
A61K31/4184
A61K31/5025
A61K31/55
A61K31/454
A61K31/407
A61K31/551
A61P43/00 121
C12Q1/04
C07K16/18
【請求項の数】 54
(21)【出願番号】P 2020554936
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2018086759
(87)【国際公開番号】W WO2019122411
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】17382884.9
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515308936
【氏名又は名称】フンダシオ プリバダ インスティトゥト ディンベスティガシオ オンコロジカ デ バル エブロン
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO PRIVADA INSTITUT D’INVESTIGACIO ONCOLOGICA DE VALL HEBRON
【住所又は居所原語表記】Calle Natzaret 115,E-08035 Barcelona Spain
(73)【特許権者】
【識別番号】300022113
【氏名又は名称】アストラゼネカ・ユーケイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AstraZeneca UK Limited
【住所又は居所原語表記】1 Francis Crick Avenue, Cambridge Biomedical Campus, Cambridge CB2 0AA, United Kingdom
(73)【特許権者】
【識別番号】520223170
【氏名又は名称】ゼンテク エスアーエス
【氏名又は名称原語表記】XENTECH SAS
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】セルラ エリサルデ、ビオレタ
(72)【発明者】
【氏名】バルマーニャ ヘルピ、フディス
(72)【発明者】
【氏名】クルス ザムブラノ、クリスティナ
(72)【発明者】
【氏名】リョプ ゲバラ、アルバ
(72)【発明者】
【氏名】カストロビエホ ベルメホ、マルタ
(72)【発明者】
【氏名】オコナー、マーク ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ、ジェマ ニコル
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0210779(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0357659(US,A1)
【文献】MUKHOPADHYAY, A. et al.,Development of a Functional Assay for Homologous recombination Status in Primary Cultures of Epithelial Ovarian Tumor and Correlation with Sensitivity to Poly(ADP-Ribose) Polymerase Inhibitors,Clinical Cancer Research,2010年04月15日,Vol.16, No.8,pp.2344-2351
【文献】AIHilli, M. M. et al.,In vivo anti-tumor activity of the PARP inhibitor niraparib in homologous recombination deficient and proficient ovarian carcinoma,Gynecologic Oncology,2016年,Vol.143,pp.379-388
【文献】SHAH, M. M. et al.,An ex vivo assay of XRT-induced Rad51 foci formation predicts response to PARP-inhibitation in ovarian cancer,Gynecologic Oncology,2014年,Vol.134,pp.331-337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する方法であって、
前記抗癌治療が、DNA損傷を誘発する少なくとも1つの方法および/または前記癌の細胞の前記DNA損傷への応答(以下、「DNA損傷応答」という)を標的とする薬剤または薬剤の組み合わせ物の使用を含み、
前記予測する方法が、
i)前記被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、前記サンプルの前記単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を前記被験体が受けておらず、前記サンプルが、RAD51 foci含有細胞の前記レベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていないものである工程と、
ii)工程i)で得られた前記レベルと基準値とを比較する工程と
を含み、
-前記基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルが、前記被験体が、前記抗癌治療に応答すると予測されることを示し、または
-前記基準値と等しいか、または前記基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルが、前記被験体が、前記抗癌治療に応答しないと予測されることを示すものとすることを特徴とする、方法。
【請求項2】
癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法であって、
i)前記被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、前記サンプルの前記単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を前記被験体が受けておらず、前記サンプルが、RAD51 foci含有細胞の前記レベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていないものである工程と、
ii)工程i)で得られた前記レベルと基準値とを比較する工程と
を含み、
-前記基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルが、DNA損傷への応答(以下、「DNA損傷応答」という)が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤に基づく治療が選択されることを示すものとすることを特徴とする、方法。
【請求項3】
癌と診断された被験体を患者コホートに分類する方法であって、
i)前記被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、前記サンプルの前記単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を前記被験体が受けておらず、前記サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていないものである工程と、
ii)工程i)で得られた前記レベルと基準値とを比較する工程と
を含み、
-前記RAD51 foci含有細胞の前記レベルが前記基準値より低い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答することを特徴とするコホートに分類され、または
-前記RAD51 foci含有細胞の前記レベルが前記基準値より高い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答しないことを特徴とするコホートに分類され
前記ある抗癌治療が、DNA損傷を誘発する少なくとも1つの方法および/または前記癌の細胞の前記DNA損傷への応答(以下、「DNA損傷応答」という)を標的とする薬剤または薬剤の組み合わせ物の使用を含むことを特徴とする、方法。
【請求項4】
癌と診断された被験体由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能か否かを予測する方法であって、
i)腫瘍サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、腫瘍単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けていない前記被験体から前記腫瘍が単離されており、前記サンプルが、RAD51 foci含有細胞の前記レベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていないものである工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と
を含み、
-前記基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルが、前記腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能であることの指標であり、または
-前記基準値と等しいか、または前記基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルが、前記腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能ではないことの指標であるとすることを特徴とする、方法。
【請求項5】
前記サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルが、
-前記サンプル中の腫瘍細胞数、
-前記サンプル中の増殖細胞数、
-前記サンプル中のDNA損傷を示す細胞数、および
-前記サンプル中のDNA損傷を示す増殖細胞数
に対する相対的なRAD51 foci含有細胞のレベルとして決定される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記DNA損傷が、二重鎖DNA切断である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
増殖細胞のマーカーの決定および/または二重鎖DNA切断を示す細胞のマーカーの決定が、免疫蛍光染色または免疫組織染色によって決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプル中の前記増殖細胞数が、ジェミニン、KI-67、増殖細胞核抗原、サイクリンA2からなるリストから選択されるタンパク質の発現を決定することによって決定される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記選択されたタンパク質がジェミニンである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記サンプル中の二重鎖DNA切断を示す前記細胞数が、γH2AX、複製タンパク質A(pRPA)、p53結合タンパク質1(53BP1)、二重鎖切断修復タンパク質(MRE11)からなるリストから選択されるタンパク質の核内発現によって決定される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記選択されたタンパク質がγH2AXである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルが、血液、唾液、脳脊髄液、尿、糞便、骨髄、乳頭吸引液、または固形腫瘍バイオプシーから単離される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記サンプルが、固定された組織、パラフィン包埋された組織、組織学的スライド、細胞懸濁物、細胞ペレット、細胞スライドおよび/または凍結された固形腫瘍バイオプシーとして提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記RAD51 fociの前記決定が、免疫蛍光染色によって、または免疫組織染色によって決定される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗癌治療が、外科手術の使用を含む、請求項1、および5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記DNA損傷応答を標的とする前記薬剤が、PARPインヒビターである、請求項1、2、5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記DNA損傷応答を標的とする前記薬剤が、化学療法および放射線療法からなる群から選択される、請求項1、2、5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗癌治療が免疫療法を含む、請求項1、および5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記腫瘍細胞が、前記細胞の前記DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質の機能の消失を特徴とする、請求項1、2、3、513のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質が、BRCA1、BRCA2および/またはPALB2からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記被験体において診断される前記癌が、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、胃癌(stomach/gastric cancer)、子宮内膜/子宮/子宮頸癌、膀胱癌、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、膠芽腫、白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫からなるリストから選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記サンプルが単離された前記被験体が、前記サンプルが単離される前に、何ら抗癌治療を受けていない、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記サンプルが単離された前記被験体が、前記サンプルの前記単離前に抗癌治療を受けており、前記患者が前記サンプルの前記単離の24時間前に前記抗癌治療を受けている場合には、前記抗癌治療は、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法とは異なる、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記抗癌治療が、その応答が請求項1、5~21のいずれか一項に記載の方法で決定される抗癌治療である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
験体における癌の治療における使用のための、DNA損傷を直接的に誘発する薬剤または前記DNA損傷への応答(以下、「DNA損傷応答」という)に関与するタンパク質を標的とする薬剤を含む医薬であって、前記治療が、前記被験体を、請求項1、5~24のいずれか一項に記載の方法によって、前記治療前に、前記医薬に対するレスポンダーであると同定することをさらに含む、医薬
【請求項26】
前記医薬が、PARP阻害剤を含むものである、請求項25に記載の医薬。
【請求項27】
前記PARP阻害剤が、オラパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290からなるリストから選択される、請求項26に記載の医薬。
【請求項28】
前記治療が免疫療法から構成される、請求項25に記載の医薬。
【請求項29】
前記治療が外科治療から構成される、請求項25に記載の医薬。
【請求項30】
前記治療が、前記医薬の前記投与に加え、外科手術、免疫療法、化学療法、放射線療法またはこれらの組み合わせを含み、前記被験体は、請求項1および5~21のいずれか一項に記載の方法によって前記医薬に対するレスポンダーであると同定されている、請求項2529のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項31】
験体における癌の治療における使用のための医薬であって、前記治療が請求項2に記載の方法によって選択されたものである、医薬
【請求項32】
前記サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルが、
-前記サンプル中の腫瘍細胞数、
-前記サンプル中の増殖細胞数、
-前記サンプル中のDNA損傷を示す細胞数、および
-前記サンプル中のDNA損傷を示す増殖細胞数
に対する相対的なRAD51 foci含有細胞のレベルとして決定される、請求項31に記載の医薬。
【請求項33】
前記DNA損傷が、二重鎖DNA切断である、請求項32に記載の医薬。
【請求項34】
増殖細胞のマーカーの決定および/または二重鎖DNA切断を示す細胞のマーカーの決定が、免疫蛍光染色または免疫組織染色によって決定される、請求項33に記載の医薬。
【請求項35】
前記サンプル中の前記増殖細胞数が、ジェミニン、KI-67、増殖細胞核抗原、サイクリンA2からなるリストから選択されるタンパク質の発現を決定することによって決定される、請求項32に記載の医薬。
【請求項36】
前記選択されたタンパク質がジェミニンである、請求項35に記載の医薬。
【請求項37】
前記サンプル中の二重鎖DNA切断を示す前記細胞数が、γH2AX、複製タンパク質A(pRPA)、p53結合タンパク質1(53BP1)、二重鎖切断修復タンパク質(MRE11)からなるリストから選択されるタンパク質の核内発現によって決定される、請求項33に記載の医薬。
【請求項38】
前記選択されたタンパク質がγH2AXである、請求項37に記載の医薬。
【請求項39】
前記サンプルが、血液、唾液、脳脊髄液、尿、糞便、骨髄、乳頭吸引液、または固形腫瘍バイオプシーから単離される、請求項31~38のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項40】
前記サンプルが、固定された組織、パラフィン包埋された組織、組織学的スライド、細胞懸濁物、細胞ペレット、細胞スライドおよび/または凍結された固形腫瘍バイオプシーとして提供される、請求項31~38のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項41】
前記RAD51 fociの前記決定が、免疫蛍光染色によって、または免疫組織染色によって決定される、請求項31~40のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項42】
前記カスタマイズ治療が免疫療法を含む、請求項31~40のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項43】
前記腫瘍細胞が、前記細胞の前記DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質の機能の消失を特徴とする、請求項31~42のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項44】
前記DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質が、BRCA1、BRCA2および/またはPALB2からなる群から選択される、請求項43に記載の医薬。
【請求項45】
前記被験体において診断される前記癌が、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、胃癌(stomach/gastric cancer)、子宮内膜/子宮/子宮頸癌、膀胱癌、頭頸部癌、肉腫、胆管癌、膠芽腫、白血病、多発性骨髄腫、リンパ腫からなるリストから選択される、請求項31~44のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項46】
前記サンプルが単離された前記被験体が、前記サンプルが単離される前に、何ら抗癌治療を受けていない、請求項31~45のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項47】
前記サンプルが単離された前記被験体が、前記サンプルの前記単離前に抗癌治療を受けており、前記患者が前記サンプルの前記単離の24時間前に前記抗癌治療を受けている場合には、前記抗癌治療は、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法とは異なる、請求項31~45のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項48】
前記医薬がPARP阻害剤を含むものである、請求項31~41のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項49】
前記PARP阻害剤が、オラパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290からなるリストから選択される、請求項48に記載の医薬。
【請求項50】
前記治療が免疫療法から構成される、請求項31~49のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項51】
前記治療が外科手術から構成される、請求項31~49のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項52】
前記治療が、前記医薬の前記投与に加え、外科手術、免疫療法、化学療法、放射線療法またはこれらの組み合わせを含み、前記治療は、請求項2に定義した方法によって設計された、請求項3151のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項53】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法におけるキットの使用であって、前記キットが前記RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む、使用。
【請求項54】
前記キットが、さらに、請求項8または9に定義されるジェミニンタンパク質を特異的に認識可能な抗体、および請求項10または11に定義されるγH2AXタンパク質を特異的に認識可能な抗体、またはこれらの組み合わせ物からなる群から選択される抗体を含む、請求項53に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測し、モニタリングする方法、その被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法、その被験体を患者コホートに分類する方法、およびその被験体の腫瘍が、相同組換え修復(HRR)経路によるDNA修復が可能であるか否かを予測する方法に関する。上述の方法は、サンプルを、サンプル分析前にDNA損傷を誘発する何らかの方法にさらす必要なく、上述の被験体由来の腫瘍細胞を含むサンプル中のRAD51 fociの存在に基づく。さらに、上述の方法におけるキットの使用、上述の方法で言及される治療に使用される医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、常に、細胞代謝および環境からの遺伝毒性ストレスを含む、DNA損傷を誘発する種々の条件にさらされる。DNA一本鎖切断(SSB)および二重鎖切断(DSB)など、修復されなければ毒性および突然誘発を付与する多数のDNA損傷が形成され得る。ゲノムの完全性を維持するために、DNAは、さまざまなDNA修復経路を用いて修復される。簡潔に言うと、これらの経路は、SSBを修復するために破壊されたDNA末端を合わせてライゲーションすることから構成されるか、またはDSBを修復するために相同DNA鎖からのテンプレート化した組換えをそれぞれ用いることから構成される。さらに、DNA損傷応答(DDR)のネットワークは、DNA修復の代替的な機構手段またはバックアップ機構手段も与え、遺伝的な欠損のみから修復能を予測することを困難にしている。
【0003】
DNA修復遺伝子における欠損は、癌に対する高い感受性と関連付けられてきた。十分に研究されている症例は、BRCAタンパク質の活性における欠損である。BRCA1およびBRCA2(BRCA1/2)タンパク質は、HRR経路によるDNA DSBの修復において、重要な役割を有する。BRCA1-PALB2-BRCA2タンパク質複合体は、DNA DSBへのRAD51の局在化を促進し、核内RAD51凝集物(すなわち、 foci)を形成し、ストランド侵入および相同修復を媒介する。したがって、腫瘍細胞におけるBRCA1およびBRCA2の機能の欠損は、RAD51によって媒介されるDNA DSBの修復を不完全なものとし、このことは、遺伝性乳癌と関連付けられてきた。
【0004】
抗癌療法は、例えば、PARPインヒビター(PARPi)に基づくものなど、DDRにおいてこのような欠損がある腫瘍細胞を特異的に標的とするように設計されてきた。PARPタンパク質は、SSBを検出し、SSBに結合してDNA修復を開始させることによって、DNA SSBに応答して活性化される。次いで、活性化されたPARPは、他のDNA修復タンパク質を動員し、DNA修復を促進する。PARPの阻害によって、DNA中のDSBに変換される持続性SSBが増加する。BRCA1/2を欠く細胞などのHRR欠損細胞は、PARPの阻害によって起こる蓄積したDSBを修復することができず、剥離した複製フォーク、染色体の不安定化および細胞死を引き起こす。それ故に、BRCA1/2変異細胞は、PARPインヒビターに特に感受性であると同定された。しかし、BRCA1/2変異を特徴とする癌を有する全ての患者がPARPi治療に応答するわけではなく、したがって、PARPi耐性であるとみなされる。上述の患者の治療を改善し、治療の実施前に腫瘍応答を予測するために、この耐性の根底にある機構が研究されてきた。
【0005】
例えば、BRCA1/2復帰変異(すなわち、いわゆる二次変異)は、HRR機能の回復と、PARP阻害に対する耐性を引き起こすことが示されている。同様に、53BP1の消失は、BRCA1欠損腫瘍においてPARPiに対する耐性をもたらす。HRR欠損腫瘍を同定するために、ある方法が提案されてきた。この方法は、化学療法後の腫瘍バイオプシーまたはex vivo照射した腫瘍サンプルにおけるRAD51核内 fociの形成を分析することから構成される。
【0006】
しかし、PARPiに基づく治療などの抗癌療法に耐性がある患者と耐性がない患者を分類するために、HRRが欠損していない腫瘍とHRR欠損腫瘍との識別を可能にする代替的でより簡単な方法が当該技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様において、本発明は、癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、被験体が、抗癌治療に応答すると予測されることを示し、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、被験体が、抗癌治療に応答しないと予測されることを示す、方法に関する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、選択される治療が、DNA損傷応答が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤を含むことを示し、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、選択される治療が、DNA損傷応答が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤を含まないことを示す、方法に関する。
【0009】
第3の態様において、本発明は、癌と診断された被験体を患者コホートに分類する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、上述のサンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-RAD51 foci含有細胞のレベルが上述の基準値より低い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答することを特徴とするコホートに分類され、または
-RAD51 foci含有細胞のレベルが上述の基準値より高い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答しないことを特徴とするコホートに分類される、方法に関する。
【0010】
第4の態様において、本発明は、癌と診断された被験体由来の腫瘍が、相同組換え修復によるDNA修復が可能か否かを予測する方法であって、
i)腫瘍サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、腫瘍単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けていない被験体から腫瘍が単離されており、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能であることの指標であり、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、腫瘍が、介在する相同組換えによるDNA修復が可能ではないことの指標である、方法に関する。
【0011】
第5の態様において、本発明は、被験体が、本発明の第1の態様に定義した方法によって、上述の医薬に対するレスポンダーであると同定されている、被験体における癌の治療における使用のための医薬に関する。
【0012】
第6の態様において、本発明は、治療が、本発明の第2の態様に定義した方法によって設計された、被験体における癌の治療における使用のための医薬に関する。
【0013】
第7の態様において、本発明は、本発明の第1、第2、第3または第4の態様のいずれかに言及される方法におけるキットの使用であって、キットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む、使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、患者由来の腫瘍異種移植片(PDX)におけるPARPインヒビター(PARPi)オラパリブの抗腫瘍活性を示す。特に、6種類のPDXは完全奏功(CR)を示し、2種類のPDXは部分奏功(PR)を示し、2種類のPDXは安定(SD)を示し、34種類は進行(PD)を示す。このパネルには、乳癌(BrC)の39種類のPDXモデル、高悪性度卵巣癌(HGSOCまたはOvC)の3種類のPDXモデル、膵臓癌(PaC)由来の2種類のPDXといった表題が付けられている。ウォーターフォールプロットは、治療開始時の腫瘍体積と比較した腫瘍体積の変化の割合を表す。下の表は、生殖細胞系列BRCA1/2変異(gBRCA)の有無、相同組換え修復(HRR)による(遺伝的由来または後天的由来の)変化の有無および癌の種類/サブタイプを含む、各PDXモデルの特徴をまとめたものである。黒く塗られた四角は、その特質について当てはまることを示す。注目すべきことに、gBRCA1/2変異もHRR変化も、PARPiオラパリブに対する応答を予測するものではなかった。ベースラインからの20%、-30%および-95%の変化率は、点線によって示されており、それぞれPD、SD、PRおよびCRの範囲を示す。エラーバーは、独立した腫瘍からのSEMを示す。gBRCA,生殖細胞系列BRCA1/2遺伝子変異したもの;HRR変化,BRCA1/2以外のHRR関連遺伝子中に変化を有する腫瘍、およびBRCA1プロモーターが過剰メチル化した腫瘍;TNBC,トリプルネガティブ乳癌;ER+BrC,エストロゲン受容体陽性乳癌;HGSOCまたはOvC,高悪性度卵巣癌;PaC,膵臓癌;長期間にわたる治療時にオラパリブ耐性になるPDXモデルは、ORの添え字を付けて示されている。
図2図2は、未治療の腫瘍が、検出可能なレベルの細胞増殖、DNA損傷およびRAD51 foci形成を有することを示す。(A)図1に示される未治療(ビヒクル)PDX腫瘍および治療(オラパリブ)したPDX腫瘍に由来する、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された(FFPE)サンプルのごく一部において、免疫蛍光染色によって検出されたγH2AXおよびRAD51核内 fociを含有する腫瘍細胞の割合。本願発明者らは、DSBによるDNA損傷のマーカーとしてγH2AX fociを定量し、機能的HRRのマーカーとしてRAD51 fociを定量した。腫瘍は、そのオラパリブ応答にしたがって、臨床で使用されるクリニカルベネフィット率に対する同様のエンドポイントとして分類され、すなわち、耐性(PD)腫瘍と感受性(CR/PR/SD)腫瘍に分類される。予想されるとおり、オラパリブは、両群において、γH2AX foci形成を誘発する。RAD51 foci形成は、オラパリブ耐性PDXモデルにおいてのみ、有意に誘発される。重要なことに、γH2AXおよびRAD51 fociのベースラインレベルは、ビヒクル治療した腫瘍において検出され、機能的HRRタンパク質が未治療サンプルにおいて評価可能であるという考えを裏付けている。(B)オラパリブ応答にしたがって分類される、S/G2-細胞周期のマーカーとしてのジェミニン陽性細胞(腫瘍細胞が、DNA合成の細胞周期中であることを示す)の定量および腫瘍中のジェミニン陽性細胞中のγH2AX陽性細胞の定量。両群において、全細胞の20%~70%の範囲である、同等のレベルのジェミニン陽性細胞が観察される。オラパリブ治療は、感受性腫瘍および耐性腫瘍の両方において、γH2AX foci形成を有意に増加させる。ジェミニンレベルも、γH2AX fociも、PARPi感受性腫瘍をPARPi耐性腫瘍から識別するものではない。パネルAと同様に、未治療腫瘍は、顕著なレベルの内因性DNA損傷(γH2AX foci)を示す。(C)RAD51核内 foci含有ジェミニン陽性細胞の定量(以下、RAD51スコアとも呼ばれる)は、細胞周期のS/G2期における機能性HRRを有する細胞の割合の概算値を与える。RAD51 foci/ジェミニン陽性細胞の割合は、耐性PDXモデル由来のオラパリブ治療したサンプルにおいて、有意に増加している。意外なことに、耐性腫瘍のRAD51 foci/ジェミニン陽性細胞のベースラインレベルは、感受性腫瘍のベースラインより十分に高い。したがって、その後の分析は、未治療腫瘍で行われる。(D)定量逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)によって測定された、未治療PARPi耐性PDX腫瘍サンプルおよび感受性PDX腫瘍サンプルにおけるRAD51 mRNA発現のレベル。図2Aおよび図2Cに示されるPARPi感受性腫瘍におけるRAD51 foci形成の欠損は、RAD51発現がないことに起因するものではない。対応のあるt検定:**,<0.01;***,<0.001;****,<0.0001。
図3図3は、71種類のPDXモデルの多施設パネルにおいて、低いRAD51 foci形成がPARPi感受性と関連付けられることを示す。(A)ジェミニン陽性細胞中のγH2AX foci陽性細胞の割合は、PARPi応答とは独立して、全ての腫瘍においてDNA損傷が存在することを示す。γH2AX fociの定量は、HRR欠損ではなくDNA損傷が無いことに起因して低RAD51腫瘍に間違って分類されることを防ぐために必要である。(B)RAD51 foci陽性/γH2AX foci陽性細胞の割合は、感受性腫瘍の方が低いレベルを示す。(C)RAD51 foci/ジェミニン陽性細胞の定量(RAD51スコア)は、全てのPARPi感受性腫瘍が低いRAD51スコアを示すことを示している。(D)PARPi治療および用量(オラパリブ100mg/kgの場合は1、オラパリブ50mg/kgの場合は2、ニラパリブ75mg/kgの場合は3、ニラパリブ50mg/kgの場合は4、ベリパリブ100mg/kgの場合は5)、PARPi応答(黒色,CR/PR;灰色,SD;および白色,PD)、腫瘍の由来、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子における変異の存在、BRCA1のN末端(N-ter)またはC末端(C-ter)領域に対する、抗BRCA1抗体を用いて検出されたBRCA1 fociの存在、およびPALB2における変異の存在を含む、各PDXモデルのさまざまな特徴をまとめた表。黒く塗られた四角は、その特質について当てはまることを示す。NA,データが入手可能ではない;TNBC,トリプルネガティブ乳癌;ER+BrC,エストロゲン受容体陽性乳癌;HGSOCまたはOvC,高悪性度卵巣癌;gBRCA,生殖細胞系列BRCA1/2変異したもの。
図4図4は、RAD51スコアが、PARPインヒビターに耐性である腫瘍と感受性である腫瘍を正確に識別することを示す。(A)図3Cに示されるスコアを表すドットプロット。PARPi耐性腫瘍は、PARPi感受性腫瘍よりも有意に高いレベルのRAD51 foci/ジェミニン陽性細胞を示す。点線は、受信者動作特性(ROC)曲線において感受性と特異度を最大化する尤度比に基づき、PARPiに耐性である腫瘍またはPARPiに感受性である腫瘍を識別するカットオフ(13%)を表す。注目すべきことに、感受性群において高いRAD51 fociレベルを有する2種類のPDXモデル(すなわち、PDX124およびPDX384)は、PARPiに対するSDを示した。**** p<0.0001、t検定。(B)独立したPDX由来の腫瘍値に基づき、PARPi応答を予測するためのRAD51スコアの感受性対特異度を示すROC曲線、および性能測定値(挿入図)。PPV,陽性予測値;NPV,陰性予測値。
図5図5は、乳癌患者コホートにおけるRAD51アッセイの臨床評価を示す。(A)ジェミニン陽性細胞中のRAD51 foci形成のレベルは、腫瘍がオラパリブ感受性であった患者を、耐性であった患者から識別する。データは、一次PARPi耐性を有する2人の患者(Pt)由来のサンプル(gBRCA1 BrC患者の皮膚転移由来の1つのサンプルと、gBRCA2 BrC患者のリンパ節転移由来の別のサンプル)、4人のPARPi感受性患者由来のサンプル(gBRCA2 BrCを有するPt310preの肝転移由来の1つのサンプルと、gBRCA1 BrCを有するPt124preの乳房切除由来の1つのサンプルと、gBRCA1 BrC患者のリンパ節転移由来の1つのサンプルと、gBRCA1 HGSOC患者の腹膜移植由来の別のサンプル)を含む。獲得耐性について、データは、PARPi進行状態の3人の患者から得られたサンプル(gBRCA2 BrCを有するPt310postの肝転移由来のサンプルと、gBRCA1 BrC患者の皮膚転移由来の別のサンプルと、gBRCA2 BrC患者の皮膚転移由来の最後のサンプル)を含む。対応のないt検定:***,<0.001。(B)遺伝性乳癌または卵巣癌を有する患者由来のFFPE腫瘍サンプルにおけるRAD51 foci/ジェミニン陽性。下にあるボックスは、各患者のさまざまな特徴と、分析した腫瘍におけるBRCA1核内 fociの有無をまとめている。注目すべきことに、PALB2変異した患者由来の腫瘍およびBRCA1 fociが無い腫瘍は、低いRAD51スコアを示し、このことは、臨床サンプルにおいて機能性HRR変化を同定する際のRAD51の予測値を裏付けている。FH,家族歴;*,PALB2遺伝子中に病因性変異を有する腫瘍。(C)および(D)「治療を受けていない」患者腫瘍サンプル(すなわち、抗癌治療を受けたことがない患者)および「前治療を受けた」腫瘍サンプルにおけるRAD51およびγH2AX foci形成の定量。gBRCA1/2患者由来の、診断バイオプシー(n=6)または外科手術腫瘍(n=4)のいずれかからの10人の「治療を受けていない」原発性乳房腫瘍を、RAD51およびγH2AX fociについて点数を付けた。gBRCA1/2患者由来の、DNA損傷薬剤を含むネオアジュバント療法を受けた後の外科手術標本(n=3)または転移した状態(n=7)のいずれかからの10人の「前治療を受けた」原発性または転移性の乳房腫瘍を、RAD51およびγH2AX fociについて点数を付けた。合計で、本願発明者らは、10人のBRCA1変異した腫瘍と10人のBRCA2変異した腫瘍を分析した。このデータは、化学療法を受けた患者由来のサンプルだけではなく、治療を受けていない腫瘍サンプルにおいてRAD51が評価可能であることを確認する。
図6図6は、gBRCA変異した乳癌患者のレトロスペクティブコホート(n=19)において、RAD51スコアが、再発していない患者よりも疾患が再発した患者の方が高いことを示す。全ての患者は、ネオアジュバント(NeoAdj)またはアジュバント(Adj)設定のいずれかで、原発腫瘍の根治手術と標準的な化学療法(CTx)を受けた。RAD51アッセイは、治療を受けていない腫瘍由来の診断バイオプシーまたは手術標本において行われた。再発群および未再発群は、伝統的な予後因子について偏りがなかった。(A)疾患再発の発生または未発生によって階層化された患者におけるRAD51スコアを示すドットプロット。良好な治療転帰(すなわち、フォローアップの5年以上後に再発なし)を有する患者由来の腫瘍は、低いRAD51 fociレベルを有しており、すなわち、RAD51スコアが3.7%(点線)未満であった。疾患転帰が不良な患者(すなわち、再発した)は、さまざまなレベルを示しており、最も早い時期に再発した患者(診断から11ヶ月後)は、最大のRAD51スコアを示している(RAD51 foci/ジェミニン陽性細胞の53%)。点線は、受信者動作特性(ROC)曲線において感受性と特異度を最大化する尤度比に基づき、再発した患者由来の腫瘍または再発しなかった患者由来の腫瘍を識別するカットオフ(13%)を表す。*,p=0.026、t検定。(B)疾患転帰を予測するためのRAD51スコアの感受性対特異度を示すROC曲線、および性能測定値(挿入図)。PPV,陽性予測値;NPV,陰性予測値。
図7図7は、前立腺癌患者由来のサンプル(n=8)におけるRAD51スコアを示す。RAD51アッセイは、原発性前立腺摘除(n=3)、および肝臓、骨髄およびリンパ節転移性バイオプシーを含む転移性組織(n=5)において首尾良く行われた。3種類のサンプル(PrC-003、PrC-004およびPrC-017)は、BRCA2のゲノム変化(2種類の生殖細胞系列BRCA2変異した腫瘍-gBRCA2-および1つの体細胞BRCA2が消失した-sBRCA2-)と関連して、低いレベルのRAD51 fociを示した。注目すべきことに、gBRCA2変異した患者由来のサンプルPrC-021(*)は、カルボプラチンに対する耐性が発生した後(治療の7ヶ月後)に得られた。このサンプルにおける高いRAD51 fociレベルは、このDNA損傷薬剤に長期間さらされることから生じると思われるHRR欠損の復帰を示唆している。したがって、RAD51スコアは、臨床において、HRRが欠損していない(n=5)および欠損している(n=3)に基づき、前立腺腫瘍を階層化する。
図8図8は、ジェミニン陽性細胞中の核内 fociの数に基づき、本願発明者らがRAD51陽性についての最適なカットオフをどのようにして確立したかを示す。6種類のPARPi耐性(PDX098、PDX060、PDX094、PDX044、PDX102およびPDX270)および3種類のPARPi感受性(PDX197、STG201およびPDX302)といった9種類の代表的なPDXモデル由来の(A)ビヒクル治療したサンプルまたは(B)オラパリブ治療したサンプルにおいて、個々のジェミニン陽性細胞(各モデルについて100個の細胞が定量された)中のRAD51 fociの数を示す散布図。点線は、核あたり5個のRAD51 fociのカットオフを示す。(C)PARPi感受性腫瘍において、ジェミニン陽性細胞の96~100%が、RAD51 fociゼロを示すことを明らかにするヒストグラム。これとは異なり、PARPi耐性腫瘍細胞は、ジェミニン陽性細胞あたりのRAD51 fociの頻度の二峰性分布を示し、ジェミニン陽性細胞の35~75%が、RAD51 fociゼロを示し、2番目に大きな頻度のピークが、ジェミニン陽性細胞あたり5個のRAD51 fociで見られた。この意味で、未治療サンプル中のジェミニン陽性細胞あたりのRAD51 fociの数を増やしつつ、正確さと特異度の分析をすると、細胞あたり5個の fociのカットオフが、最大に正確かつ特異的な予測を与えるジェミニン陽性細胞あたり最も高いRAD51 fociの閾値であることを示す。(D)フォレストプロットおよびオッズ比分析、および(E)核あたり1~10個の fociのさまざまなカットオフを用いたRAD51スコアの正確さおよび特異度。このデータは、いくつかのカットオフが正確な結果を与え、核あたり5個の foci(ここに提示する全てのデータを作成するために使用されるカットオフ)を選択することが、最も高く(すなわち、最もストリンジェントであり)、依然として高い正確さであることを示す。
図9図9は、2種類のさらなる市販の抗RAD51抗体の検証と、免疫蛍光染色によるRAD51アッセイの開発を示す。(A)ビヒクル治療したPDXおよびオラパリブ治療したPDXの両方における、RAD51に対する2種類の異なる市販の抗体(Santa Cruz Biotechnology 8349およびAbcam 133534)を用いたRAD51スコア定量。この2種類の異なる抗体を用いたRAD51 foci定量のスピアマン相関分析は、RAD51アッセイの再現性を示す。(B-C)免疫蛍光染色アッセイ(上の画像)および免疫組織染色アッセイ(下の画像)の両方による、第3の抗RAD51抗体(Cell Signalling Technology、CST 8875)の検証を示す代表的な写真。本願発明者らは、(B)HeLa細胞株(siRNAコントロールにさらされたもの-左-またはその発現をノックダウンするためのsiRNA RAD51-右-)および(C)高い、中程度(mod)および低いRAD51 foci形成を有する未治療PDXからの画像を示す。これらの結果は、IFアッセイおよびIHCアッセイの両方を用いた、同等の結果を示す。
図10図10は、腫瘍型を超えたRAD51アッセイの実現可能性を示す。(A)乳癌、卵巣癌および脳転移、および(B)前立腺癌、膵臓癌、小児神経芽腫および肝転移に由来する染色されたヒトサンプルの代表的な画像を示す。腫瘍サンプルは、(A)Cell Signalling Technology製の抗RAD51抗体(CST 8875、緑色)およびジェミニン(赤色)、または(B)Abcam製の抗RAD51抗体(ab-133534、赤色)およびジェミニン(緑色)のいずれかで染色された。これに加え、DAPI(青色)を核の対比染色として使用した。これらの写真は、RAD51アッセイが、さまざまな腫瘍型において行うことが可能であり、種々の組織におけるRAD51 fociの有無を同定することができることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の著者らは、癌と診断された被験体から単離された腫瘍細胞を含むサンプル中のRAD51核内 foci含有細胞のレベルの決定が、そのサンプルの細胞がRAD51核内 foci含有細胞のレベルの分析前にDNA損傷を誘発する方法にさらされていない、その被験体の抗癌治療に対する応答に関係があることを発見した。上述の方法は、ex vivoであってもよく、すなわち、被験体から腫瘍細胞を単離した後であってもよく、細胞サンプルの電離放射線への曝露から構成される。さらに、本願発明者らは、この方法が、抗癌療法で治療されていない患者由来のサンプルまたは治療された患者由来のサンプルにも有効であることを発見した。化学療法の実施によって、DNA損傷を誘発する化学療法の化合物に対し、被験体由来の腫瘍細胞がさらされ、その後、DNA損傷修復に関与するタンパク質の迅速な(数分以内の)動員が行われる。
【0016】
1.本発明の方法
A.癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する方法
第1の態様において、本発明は、癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、被験体が、上述の抗癌治療に応答すると予測されることを示し、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、被験体が、上述の抗癌治療に応答しないと予測されることを示す、方法に関する。
【0017】
「応答を予測する」または「応答すると予測する」との用語は、本明細書で使用される場合、ある患者が、ある治療に応答し得る確率を指す。当該技術分野の専門家は理解するだろうが、これが好ましいというわけではないが、診断または評価され得る被験体の100%について、予測が正しい必要はない。しかし、この表現は、患者の統計学的に有意な部分について、この予測が正しい結果を与えることを必要とする。本発明の予測が統計学的に有意な結果を与えるか否かの決定は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York 1983に記載される、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーの検定などの標準的な統計技術を用いることによって行われてもよい。適切な信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。P値は、好ましくは、0.05、0.001、0.0005であるか、またはもっと少ない。
【0018】
「被験体」または「患者」との用語は、本明細書で使用される場合、哺乳動物に分類される全ての動物を指し、これらに限定されないが、家畜動物および農場動物、霊長類およびヒトが挙げられ、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコまたはげっ歯類が挙げられる。好ましくは、被験体は、任意の年齢または民族の男性または女性のヒトである。
【0019】
「診断される」との用語は、本明細書で使用される場合、被験体における疾患の決定および/または同定、すなわち、被験体の疾患状態について達した意見、すなわち、診断意見を指す。そのように、個体をその疾患状態に基づいて分類するための試みとみなされることもある。当業者は理解するだろうが、癌の診断は、これが好ましいというわけではないが、診断または評価される被験体の100%について正しい必要はない。しかし、この用語は、被験体の統計学的に有意な部分が、正確な意味で癌を患っていると同定されたことを必要とする。ある被験体が統計学的に有意であるか否かは、種々のよく知られた統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーの検定などを用い、当業者によるさらなる面倒なく、決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York 1983中に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。P値は、好ましくは、0.05、0.001、0.0005であるか、またはもっと少ない。
【0020】
「癌」との用語は、癌を患う被験体において1つ以上の悪性腫瘍を形成し、他の組織、臓器または、一般的に、その生物の離れた部分へ浸潤するか、または広がる(転移する)可能性を有する、細胞の異常で制御不可能な成長および増殖(新生物)に関与する疾患群を指し、転移は、癌および癌性腫瘍の悪性度の特質の1つである。「癌」との用語としては、限定されないが、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、胃癌(stomach/gastric cancer)、子宮内膜/子宮/子宮頸癌、膀胱癌、頭頸部癌、白血病、心臓の癌、小腸、脾臓、腎臓、脳、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、肝胆道系および肝臓の癌、肉腫、胆管癌、膠芽腫、多発性骨髄腫、リンパ腫、腺腫、管肉腫、星状細胞腫、上皮癌腫、胚細胞腫、神経膠腫、血管内皮種、血管肉腫、血腫、肝芽腫、髄芽腫、黒色腫、神経芽腫、肝胆道癌、骨肉腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫、肉腫および奇形腫が挙げられる。さらに、この用語は、末端黒子型黒色腫、光線角化症腺癌、腺様嚢胞癌、腺腫、腺肉腫、腺扁平上皮癌、星細胞系腫瘍、大前庭腺癌腫、基底細胞癌腫、気管支腺癌腫、毛管カルチノイド、癌腫、癌肉腫、嚢胞腺腫、卵黄嚢腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜間質性肉腫、類子宮内膜腺癌、上衣肉腫、ユーイング肉腫、限局性結節性過形成、胚細胞腫瘍、グルカゴノーマ、血管芽腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝細胞癌腫、肝胆道癌、インスリノーマ、上皮内新生物、扁平細胞上皮内新生物、浸潤性扁平細胞癌腫、大細胞癌腫、平滑筋肉腫、黒色腫、悪性黒色腫、悪性中皮腫瘍、髄芽腫、髄上皮腫、粘表皮癌、神経芽腫、神経上皮腺癌、結節型悪性黒色腫、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、下垂体腫瘍、形質細胞腫、偽肉腫、肺芽腫、腎細胞癌腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫、漿液性癌腫、微小のう胞性癌腫、軟組織癌腫、ソマトスタチン分泌腫瘍、扁平癌腫、扁平細胞癌腫、未分化癌腫、ブドウ膜黒色腫、疣贅性癌腫、ビポーマ、ウイルムス腫瘍、脳内癌、直腸癌、星状細胞腫、微小のう胞性癌および非微小のう胞性癌、転移性黒色腫、アンドロゲン非依存性転移性前立腺癌、アンドロゲン依存性転移性前立腺癌を含む。癌との用語は、原発腫瘍と転移性腫瘍の両方を含む。
【0021】
「抗癌治療」との用語は、本明細書で使用される場合、癌細胞の死を誘発するために使用される任意の方法を用いて治療される被験体の曝露を含む任意の治療を指す。上述の方法は、化学薬剤の投与に限定されず、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、免疫療法を含む標的療法、またはこれらの組み合わせから構成されていてもよい。
【0022】
「外科手術」との用語は、癌について言及される場合、原発腫瘍の少なくとも一部および/または少なくとも1つの転移の少なくとも一部が除去される大きな外科手術を指す。
【0023】
「放射線療法(radiation therapy)」、「放射線療法(radiotherapy)」または「電離放射線」との用語は、本明細書で使用される場合、一般的に、腫瘍細胞を制御するか、または死滅させるための癌治療の一部として、通常は線形加速器によって運ばれる電離放射線を用いる治療を指す。ガンマ線、X線および電磁スペクトルのより高エネルギーである紫外線部分は、電離放射線であり、一方、このスペクトルのUVより低エネルギーである部分は、可視光(レーザ光のほぼ全ての種類を含む)、赤外線、マイクロ波およびラジオ波を含み、全て非電離放射線とされる。放射線療法は、身体の1つの領域に局在化させる場合、多種類の癌において治療に効くものであってもよい。放射線療法は、細胞成長を制御する能力のため、一般に、癌性腫瘍に適用される。電離放射線は、癌性組織のDNAを損傷させて細胞死を引き起こすことによって機能する。
【0024】
「標的療法」との用語は、本明細書で使用される場合、全ての迅速に分裂する細胞と単純に干渉するのではなく、発癌および腫瘍成長に必要な特定の標的分子と干渉することによって、癌細胞の成長を遮断する治療を指す。標的療法のための大部分の薬剤は生物製剤であるため、生物療法との用語は、癌治療の観点で用いられる場合、時には標的療法と同義である(したがって、細胞毒性療法である化学療法とは区別される)。しかし、モダリティが組み合わされてもよい。別の形態の標的療法は、体内の正常な細胞変性プロセスが細胞を消化し、身体から効果的に除去できるように腫瘍細胞に結合するためにナノ操作された酵素の使用を伴う。多くの標的療法は、免疫療法の例である。
【0025】
「免疫療法」との用語は、本明細書で使用される場合、宿主免疫系を改変するための手法および/または癌治療としての免疫系の構成要素の利用から構成される癌免疫療法を指す。免疫療法の非限定的な例としては、非特異的免疫刺激剤BCGおよびレバミゾール;サイトカインインターフェロン-αおよびインターロイキン-2;モノクローナル抗体である抗PD1、抗PDL1、抗CTLA-4、リツキシマブ、オファツムマブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブおよびパニツムマブ;放射性標識された抗体Y-90イブリツモマブチウキセタンおよびI-131トシツモマブ;免疫毒素デニロイキンディフティトックスおよび抗体ゲムツズマブオゾガマイシン;ドナーリンパ球注入を伴う骨髄非破壊的な同種異系移植物;および抗前立腺癌細胞療法シプリューセル-Tが挙げられる。免疫療法の他の例、例えば、DCワクチン、CART-t細胞またはNK療法。いくつかの免疫療法は、血液または腫瘍からの免疫細胞の除去を伴い、腫瘍に特異的な免疫細胞を培養し、患者に戻し、患者の中で免疫細胞が腫瘍を攻撃する。または、免疫細胞は、腫瘍特異的な受容体を発現するように遺伝子操作され、培養され、患者に戻されてもよい。この様式で使用可能な細胞型は、ナチュラルキラー細胞、リンホカイン活性化キラー細胞、細胞毒性T細胞および樹状細胞である。
【0026】
「化学療法」との用語は、本明細書で使用される場合、単独で、または他の化合物と組み合わせて、化学構造の制限なく、癌の療法および/または治療に適した1種類または数種類の抗癌剤の投与から構成される任意の治療に対して記載される。
【0027】
「AC」との表現は、本明細書で使用される場合、アドリアマイシン/ドキソルビシンおよびシクロホスファミドといった2種類の化学療法薬の組み合わせから構成される化学療法を指す。
【0028】
「FEC」との表現は、本明細書で使用される場合、5フルオロウラシル(5FUとしても知られる)、エピルビシンおよびシクロホスファミドといった3種類の化学療法薬の組み合わせから構成される化学療法を指す。
【0029】
「ECF」との表現は、本明細書で使用される場合、エピルビシン、シスプラチンおよびフルオロウラシルといった3種類の化学療法薬の組み合わせから構成される化学療法を指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「抗癌剤」は、ほんの短期間であっても、全体的または部分的に癌と関連する症状を抑制することを含め、癌の発生または進行を少なくとも部分的に抑制する薬剤である。抗癌剤としては、化合物の投与を含む上述の治療のいずれか、すなわち、ホルモン療法、標的療法、免疫療法、化学療法で使用される抗癌剤が挙げられる。
【0031】
抗癌剤のいくつかの例としては、限定されないが、アシビシン;アクラルビシン;塩酸アコダゾール;アクロニン;アドゼレシン;アルデスロイキン;アルトレタミン;アルボマイシン;酢酸アメタントロン;アミノグルテチミド;アムサクリン;アナストロゾール;アントラマイシン;アスパラギナーゼ;アスペルリン;アザシチジン;アゼテパ;アゾトマイシン;バチマスタット;ベンゾデパ;ビカルタミド;塩酸ビサントレン;メシル酸ビスナフィド;ビゼレシン;硫酸ブレオマイシン;ボルテゾミブ(VELCADE);ブレキナールナトリウム;ブロピリミン;ブスルファン;カクチノマイシン;カルステロン;カラセミド;カルベチマー;カルボプラチン(白金含有レジメン);カルムスチン;塩酸カルビシン;カルゼルシン;セデフィンゴール;クロラムブシル;シロールマイシン(Cirolemycin);シスプラチン(白金含有レジメン);クラドリビン;メシル酸クリスナトール;シクロホスファミド;シタラビン;ダカルバジン;ダクチノマイシン;ダウノルビシン;デシタビン;デキソルマプラチン;デザグアニン;ジアジコン;ドセタキセル(TAXOTERE);ドキソルビシン;ペグ化リポソームドキソルビシン;ドロロキシフェン;ドロモスタノロン;ズアゾマイシン;エダトレキサート;エフロルニチン;エルサミトルシン;エンロプラチン;エンプロマート;エピプロピジン;エピルビシン;エルブロゾール;エルロチニブ(TARCEVA)、エソルビシン;エストラムスチン;エタニダゾール;エトポシド;エトプリン;ファドロゾール;ファザラビン;フェンレチニド;フロクスウリジン;フルダラビン;5-フルオロウラシル;フルロシタビン;ホスキドン;フォストリエシン;ゲフィチニブ(IRESSA)、ゲムシタビン;ヒドロキシウレア;イダルビシン;イホスファミド;イルモホシン;メシル酸イマチニブ(GLEEVEC);インターフェロンアルファ-2a;インターフェロンアルファ-2b;インターフェロンアルファ-nl;インターフェロンアルファ-n3;インターフェロンベータ-Ia;インターフェロンガンマ-Ib;イプロプラチン;イリノテカン;ランレオチド;レナリドミド(REVLLMlD、REVIMID);レトロゾール;リュープロレリン;リアロゾール;ロメトレキソール;ロムスチン;ロソキサントロン;マソプロコール;マイタンシン;メクロレタミン;メゲストロール;メレンゲストロール;メルファラン;メノガリル;メルカプトプリン;メトトレキサート;メトプリン;メツレデパ;ミチンドミド;ミトカルシン(Mitocarcin);ミトクロミン;ミトギリン;マイトマルシン(Mitomalcin);マイトマイシン;ミトスペル(Mitosper);ミトタン;ミトキサントロン;ミコフェノール酸;ノコダゾール;ノガラマイシン;オルマプラチン;オキシスラン;パクリタキセル;ペメトレキセド(ALIMTA)、ペグアスパラガーゼ;ペリオマイシン(Peliomycin);ペンタムスチン(Pentamustine);ペントモン;ペプロマイシン;ペルホスファミド;ピポブロマン;ピポスルファン;ピリトレキシムイセチオナート;ピロキサントロン;プリカマイシン;プロメスタン;ポルフィマー;ポルフィロマイシン;プレドニマスチン;プロカルバジン;ピューロマイシン;ピラゾフリン;リボプリン;ログレチミド;サフィンゴール;セムスチン;シムトラゼン;シトグルシド;スパルホサート;スパルソマイシン;スピロゲルマニウム;スピロムスチン;スピロプラチン;ストレプトニグリン;ストレプトゾトシン;スロフェヌル;タリソマイシン;タムスロシン;タキソール;タキソテレ;テコガラン;テガフール;テロキサントロン;テモポルフィン;テモゾロミド(TEMODAR);テニポシド;テロキシロン;テストラクトン;サリドマイド(THALOMID)およびその誘導体;チアミプリン;チオグアニン;チオテパ;チアゾフリン;チラパザミン;トポテカン;トレミフェン;トレストロン;トリシリビン;トリメトレキサート;リプトレリン;ツブロゾール;ウラシル;マスタード;ウレデパ;バプレオチド;ベルテポルフィン;ビンブラスチン;ビンクリスチン;ビンデシン;ビネピジン;ビングリシナート;ビンロイロシン;ビノレルビン;ビンロシジン;ビンゾリジン;ボロゾール;ゼニプラチン;ジノスタチン;ゾルビシンが挙げられる。
【0032】
抗癌剤はまた、限定されないが、チロシンキナーゼインヒビター、CDKインヒビター、MAPキナーゼインヒビター、またはEGFRインヒビターを含む酵素インヒビターであってもよい。チロシンキナーゼインヒビターは、限定されないが、ゲニステイン(4’、5、7-トリヒドロキシイソフラボン)、チルホスチン25(3,4,5-トリヒドロキシフェニル)、メチレン]-プロパンジニトリル、ハービマイシンA、ダイゼイン(4’,7-ジヒドロキシイソフラボン)、AG-126、trans-1-(3’-カルボキシ-4’-ヒドロキシフェニル)-2-(2”,5”-ジヒドロキシ-フェニル)エタン、またはHDBA(2-ヒドロキシ5-(2,5-ジヒドロキシベンジルアミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸であってもよい。CDKインヒビターは、限定されないが、p21、p27、p57、pl5、pl6、pl8またはpl9であってもよい。MAPキナーゼインヒビターは、限定されないが、KY12420(C23H24O8)、CNI-1493、PD98059、または4-(4-フルオロフェニル)-2-(4-メチルスルフィニルフェニル)-5-(4-ピリジル)1H-イミダゾールであってもよい。EGFRインヒビターは、限定されないが、エルロチニブ(TARCEVA)、ゲフィチニブ(IRESSA)、WHI-P97(キナゾリン誘導体)、LFM-A12(レフルノミド代謝物類似体)、ABX-EGF、ラパチニブ、カネルチニブ、ZD-6474(ZACTIMA)、AEE788およびAG1458であってもよい。
【0033】
さらに、いくつかの抗癌剤は、DNA損傷薬剤に分類されてもよく、DNA損傷薬剤としては、DNA損傷を直接的に誘発する薬剤および細胞中のDNA損傷量を増加させる細胞のDNA損傷応答に関与するタンパク質を標的とすることによってDNA損傷を間接的に誘発する薬剤が挙げられる。DNA損傷を直接的に誘発する薬剤は、DNAアルキル化薬剤(例えば、シクロホスファミド、ダカルバジン、プロカルバジン、カルムスチン、ロムスチン、イホスファミド、メルファラン、ブスルファン、チオテパ)、DNAアルキル化様薬剤(例えば、カルボプラチン、シスプラチン)、DNA鎖切断誘発薬剤(例えば、ブレオマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、イダルビシン、マイトマイシンC)、代謝拮抗薬剤(例えば、シタラビン、メトトレキサート、ヒドロキシウレア、5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、フルダラビン、クロロデオキシアデノシン)、トポイソメラーゼインヒビター(例えば、エトポシド、ラムプトテシン(ramptothecin)、トポテカン、テニポシド、ミトキサントロン)またはエピポドフィロトキシンであってもよい。
【0034】
細胞のDNA損傷応答に関与するタンパク質を標的とする薬剤は、PARPインヒビター(PARPi;例えば、オラパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、ベリパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290)、微小管阻害薬剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン)およびアントラサイクリンであってもよい。
【0035】
「サンプル」または「生体サンプル」との用語は、本明細書で使用される場合、被験体から単離される生体材料を指す。生体サンプルは、所望なタンパク質マーカーを検出するのに適した任意の生体材料を含む。生体サンプルは、被験体の細胞および/または非細胞材料を含んでいてもよい。サンプルは、任意の適切な組織または生体液、例えば、血液、唾液、脳脊髄液、尿、糞便、骨髄、乳頭吸引液、固形腫瘍バイオプシー、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)、排泄物、口腔または口腔咽頭用綿棒、手術標本、バイオプシーから得られた標本およびパラフィンに包埋された組織サンプルなどから単離されてもよい。サンプルを単離する方法は、当業者によく知られている。特定の実施形態において、上述のサンプルは、癌細胞、好ましくは、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、胃癌、膵臓癌、肺癌、大腸癌、胃癌(stomach/gastric cancer)、子宮内膜/子宮/子宮頸癌、膀胱癌、頭頸部癌、白血病、肉腫、胆管癌、膠芽腫、多発性骨髄腫、リンパ腫細胞を含む。より好ましくは、サンプルは、乳癌細胞、卵巣癌細胞、前立腺癌細胞、胃癌細胞または膵臓癌細胞、さらにより好ましくは、乳癌細胞、卵巣癌細胞または前立腺癌細胞、なおさらに好ましくは、乳癌細胞を含む。好ましい実施形態において、サンプルは、腫瘍組織サンプルまたはその一部である。好ましくは、上述の腫瘍組織サンプルは、乳房腫瘍、卵巣腫瘍、前立腺腫瘍、胃腫瘍、膵臓腫瘍、肺腫瘍、大腸腫瘍、胃腫瘍(stomach/gastric tumor)、子宮内膜/子宮/子宮頸部腫瘍、膀胱腫瘍、頭頸部腫瘍、肉腫腫瘍、胆管癌腫瘍、膠芽腫腫瘍、多発性骨髄腫腫瘍、リンパ腫腫瘍組織、またはその一部のサンプルである。より好ましくは、サンプルは、乳房腫瘍、卵巣腫瘍、前立腺腫瘍、胃腫瘍および膵臓腫瘍組織、またはその一部のサンプルである。さらにより好ましくは、上述のサンプルは、乳房腫瘍、卵巣腫瘍または前立腺腫瘍、またはこれらの一部の組織サンプルである。なおさらに好ましくは、上述の腫瘍組織サンプルは、乳房腫瘍組織、またはその一部のサンプルである。
【0036】
上述のサンプルは、関連する医学分野の当業者によく知られている方法を用い、従来の方法、例えば、バイオプシーによって得ることができる。バイオプシーからサンプルを得る方法としては、塊を大きく配分する、または顕微解剖または他の当該技術分野で既知の細胞分離方法が挙げられる。腫瘍細胞は、さらに、穿刺吸引細胞診から得られてもよい。サンプルの保存および取り扱いを単純化するために、サンプルは、固定された組織、パラフィン包埋された組織、組織学的スライド、細胞懸濁物、細胞ペレット、細胞スライド、凍結された固形腫瘍バイオプシーであってもよく、および/または最初に凍結させ、次いで、迅速に凍結させる非常に低温の媒体への浸漬によって、低温固化媒体(例えば、OCT-化合物)に包埋されてもよい。
【0037】
「DNA損傷」との表現は、本明細書で使用される場合、当業者によってよく知られている。DNA損傷は、DNAの化学構造中の変化、例えば、DNAの片方または両方の鎖の中の切断、DNAの骨格からの塩基欠失、または化学的に変更された塩基を指す。DNAの1本の鎖中の切断は、一本鎖切断(SSB)として知られており、DNAの両方の鎖中の切断は、二重鎖切断(DSB)として知られている。DNA損傷はまた、停止した複製フォークから構成されていてもよい。細胞のDNA損傷応答機構によって修復されない場合、DNA損傷によって、DNA損傷の蓄積および機能的なゲノム変化(すなわち、ゲノム不安定性)が引き起こされる。DNA中の上述の変化は、例えば、罹患した細胞に対して選択的な利点を与えてもよく、その結果、連続的に増殖し、生存することによって、腫瘍細胞が形成し得る。
【0038】
「DNA損傷応答」との表現は、本明細書で使用される場合、細胞のゲノム完全性を維持するためにDNA損傷をモニタリングし、修復する細胞経路を指す。DNA損傷応答の種類は、DNA損傷の種類に依存する。一般論として、DNA損傷応答の種類は、DNA損傷がSSBから構成されるか否か、またはDSBにおいて構成されるか否かに依存する。
【0039】
「DNA損傷を誘発する方法」との表現は、本明細書で使用される場合、サンプルにおいてDNA損傷を誘発するために使用可能な実質的な任意の従来な方法を指す。実質的な任意の従来な方法は、DNA損傷を誘発するための本発明の枠内で使用されてもよい。例えば、よく知られているDNA損傷を誘発する方法は、電離放射線であり、共有結合を破壊し得るイオンを生成する原子および分子から電子を放出することが可能な高エネルギー放射線の一種である。電離放射線は、DNA切断、特にDSBを誘発することによってDNA構造に直接的に影響を与える。方法の他の例は、主にDSBを誘発する酸化ストレス、DNA損傷を誘発し、その後、SSBおよびDSBを誘発することが可能なアルキル化薬剤であるメチルメタンスルホネート、またはSSBまたはDSBを誘発し得るUV光に細胞をさらすことから構成される。
【0040】
「RAD51」との用語は、本明細書で使用される場合、DSB修復中に、DNAの相同組換えにおいて主要な役割を有する酵素を指す。タンパク質の配列は、UniProt(2017年11月22日)に寄託番号Q06609で提出されている。
【0041】
本明細書で使用される「foci」との用語は、細胞のある部位における特定のタンパク質の局所的な蓄積を指す。「核内 foci」と呼ばれる場合、上述のfociは、細胞の核内に局在化する。例えば、DNA損傷修復中、DNA修復fociは、DNA二重鎖切断の部位で形成するDNA損傷応答タンパク質の局所的な蓄積または改変によって作られる。fociは、免疫染色または蛍光タンパク質タグ化の後の顕微鏡イメージングを用いて視覚化されてもよい。
【0042】
「基準値」との表現は、患者から得られるサンプルを用いて得られる値/データについての基準として使用される実験値を指す。基準値または基準レベルは、絶対値、相対的な値、上限および/または下限を有する値、一連の値、平均値(average value)、メジアン、平均値(mean value)、またはコントロールまたは基準値を参照することによって表される値であってもよい。基準値は、代表であると考えられる患者群から得られる値、例えば、試験の患者目的の集合と一致するか、または分析されるサンプルの一連の含有サンプルまたは除外サンプルに基づき、暦年齢群からの被験体の集合において得られる値に基づいていてもよい。または、基準値は、個々のサンプル、例えば、試験の患者目的由来のサンプルから得られる値に基づいていてもよいが、以前の時間点で得られてもよい。
【0043】
本発明の基準値は、分析されるサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルについての基準である。「細胞のレベル」との表現は、本明細書で使用される場合、細胞量を決定するために使用される絶対値または相対的な値を指す。好ましい実施形態において、サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルは、
-上述のサンプル中の腫瘍細胞数、
-上述のサンプル中の増殖細胞数、
-上述のサンプル中のDNA損傷、好ましくは、二重鎖DNA切断を示す細胞数、および
-上述のサンプル中のDNA損傷、好ましくは、二重鎖DNA切断を示す増殖細胞数
に対する相対的なRAD51 foci含有細胞のレベルとして決定される。
【0044】
上述の相対的なレベルは、比率または百分率として計算することができる。
【0045】
RAD51 foci含有細胞のレベルが、サンプル中の腫瘍細胞数に関して計算される場合、百分率として表される基準値は、少なくとも0.1%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%であり、100は、サンプル中の合計細胞数を表す。好ましい実施形態において、基準値は、少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%であり、なおさらに好ましくは少なくとも2%、さらにより好ましくは少なくとも5%である。
【0046】
RAD51 foci含有細胞のレベルが、サンプル中の増殖細胞数に関して計算される場合、百分率として表される基準値は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%であり、100は、サンプル中の合計増殖細胞数を表す。好ましい実施形態において、基準値は、少なくとも1%、より好ましくは少なくとも5%、なおさらに好ましくは少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも11%、さらになおさらに好ましくは少なくとも20%である。
【0047】
「(・・・の)増殖細胞」との表現は、本明細書で使用される場合、サンプル中の細胞数の増加を生じる、サンプル中の分裂細胞を指す。増殖細胞は、細胞の分裂に関与するタンパク質の発現の決定によって同定される。このようなタンパク質の非限定的な例は、ジェミニン、Ki-67、増殖細胞核抗原、サイクリンA2である。
【0048】
「ジェミニン」との用語は、本明細書で使用される場合、細胞周期のG1期中に存在せず、S、G2期およびM期に蓄積する核タンパク質である。ジェミニンレベルは、後期促進複合体(APC/C)によって分解する場合、有糸分裂の中期/後期の遷移で低下する。
【0049】
「Ki-67」、「MKI67」または「抗原KI-67」との用語は、本明細書で使用される場合、細胞周期の全ての活動期(G1、S、G2および有糸分裂)中に存在するが、休止(静止)細胞(G0)中に存在しないKi-67核タンパク質を指す。Ki-67タンパク質の細胞内容物は、細胞周期のS期中の細胞進行中に顕著に増加する。
【0050】
「増殖細胞核抗原」または「PCNA」との用語は、本明細書で使用される場合、真核細胞中のDNAポリメラーゼδのプロセシビティー因子として作用するDNAクランプであり、複製に必須である、上述の名前を有するタンパク質を指す。PCNAは、ホモトリマーであり、DNAを取り囲むことによってそのプロセシビティーを達成し、DNA複製、DNA修復、クロマチンリモデリングおよびエピジェネティックスに関与するタンパク質を動員するための足場として作用する。PCNAは、元来、細胞周期のDNA合成期中の細胞核中で発現する抗原として同定された。
【0051】
「サイクリンA2」との用語は、本明細書で使用される場合、分裂体細胞中で発現するタンパク質サイクリンA2を指す。サイクリンA2のレベルは、細胞周期の進行と密に同期する。転写は、後期G1に開始し、中期Sでピークを迎え、頭打ちになり、G2で低下する。
【0052】
RAD51 foci含有細胞のレベルが、サンプル中のDNA損傷、好ましくは、二重鎖DNA切断を示す細胞数に関して計算される場合、百分率として表される基準値は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%であり、100は、サンプル中のDNA損傷、好ましくは、DSBを示す合計細胞数を表す。好ましい実施形態において、基準値は、少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも16%、なおさらに好ましくは少なくとも17%、さらにより好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、さらになおさらに好ましくは少なくとも50%である。
【0053】
「(・・・の)DNA損傷を示す細胞」との表現は、本明細書で使用される場合、上に定義したDNA損傷を被った、好ましくはDSBから構成される細胞を指す。これらは、発現の決定によってサンプル中で、好ましくは、DNA損傷の修復、好ましくは、DSBの修復に関与するタンパク質の核内 fociとして同定される。このようなタンパク質の非限定的な例は、γH2AX、複製タンパク質A(pRPA)、p53結合タンパク質1(53BP1)、二重鎖切断修復タンパク質(MRE11)である。
【0054】
「γH2AX」との用語は、本明細書で使用される場合、リン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)を指す。γH2AXは、DSBに対する細胞応答のバイオマーカーとして使用される。DSB形成後の初期段階で、多数のγH2AX分子は、切断部位周囲のクロマチン中で形成し、タンパク質がDNA修復およびクロマチンリモデリング蓄積に関与する fociを作成する。この増幅は、γH2AXに対する抗体を用いて個々のDSBを検出することを可能にする。
【0055】
「複製タンパク質A」、「pRPA」または「RPA」との用語は、真核細胞中の一本鎖DNA(ssDNA)に結合する主要なタンパク質である、上述の名前を有するタンパク質を指す。DNA複製中、RPAは、一本鎖DNA(ssDNA)が自身で再び巻かれるのを防ぐか、または二次構造を形成するのを防ぐ。これにより、ポリメラーゼがそれを複製するためにDNAが巻かれていない状態を維持する。RPAは、相同組換えの初期段階中にDSBを修復するためにssDNAにも結合する。DNA複製におけるその役割と同様に、RPAの結合は、得られるヌクレオタンパク質フィラメントが、その後RAD51およびその補因子によって結合し得るように、ssDNAが自身に結合する(自己相補体化)のを防ぐ。RPAは、ヌクレオチド除去修復プロセス中にDNAにも結合する。この結合は、修復プロセス中、修復複合体を安定化する。細菌ホモログは、一本鎖結合タンパク質(SSB)と呼ばれる。
【0056】
「p53結合タンパク質1」または「53BP1」との用語は、本明細書で使用される場合、DNA二重鎖切断修復経路の選択中に機能し、非相同性末端接続(NHEJ)経路を促進し、相同組換えを制限するタンパク質を指す。このタンパク質は、DNA損傷後のチェックポイントシグナル伝達を促進すること、損傷したクロマチンへのDNA損傷応答タンパク質の動員のための足場として作用すること、二重鎖切断後の末端切除を制限することによってNHEJ経路を促進することを含め、DNA損傷応答において複数の役割を果たす。これらの役割は、V(D)J組換え中、クラススイッチ組換え中および保護されていないテロメアでも重要である。代替的なスプライシングによって、異なるアイソフォームをコードする複数の転写改変体が生じる。
【0057】
「二重鎖切断修復タンパク質」または「MRE11」との用語は、本明細書で使用される場合、二重鎖切断(DSB)修復、DNA組換え、テロメア完全性の維持および減数分裂において中心的な役割を果たす、MRN複合体のタンパク質部分を指す。この複合体は、一本鎖エンドヌクレアーゼ活性および二本鎖に特異的な3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を有し、これらはMRE11によって与えられる。RAD50は、DNA末端に結合し、ごく接近した位置にこれらを保持するために必要な場合がある。これにより、組換えDNAテンプレートにおける配列ホモロジーの短い領域または長い領域のための研究を促進することができ、また、DNAリガーゼの活性を刺激し、および/または所与の点を過ぎて核酸分解を防止するためにMRE11のヌクレアーゼ活性を制限してもよい。この複合体は、ATMキナーゼの活性化によるDNA損傷シグナル伝達にも必要な場合がある。
【0058】
RAD51 foci含有細胞のレベルが、サンプル中のDNA損傷、好ましくは、二重鎖DNA切断を示す増殖細胞数に関して計算される場合、百分率として表される基準値は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%であり、100は、DNA損傷、好ましくはDSBも示す合計増殖細胞数を表す。好ましい実施形態において、基準値は、少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、さらにより好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、なおさらにより好ましくは少なくとも50%である。
【0059】
「抗癌治療に応答する」との表現は、本明細書で使用される場合、抗癌治療に対する望ましい応答を指し、1種類または複数種類の腫瘍の大きさの安定化または減少/および/または患者における腫瘍数の安定化または減少および/または転移プロセスの抑制として当業者に理解される。この場合に、当業者はまた、その患者を「その抗癌治療に感受性」であると呼ぶだろう。対照的に、応答が示されている通りに望ましくない場合、当業者はまた、その患者を「その抗癌治療に対して耐性」であると呼ぶだろう。上述の応答は、クリニカルベネフィット率、全生存期間、無憎悪生存期間、無病生存期間、病理学的完全奏功、臨床完全寛解、臨床部分寛解、臨床安定、再発、無転移生存率、循環腫瘍細胞の減少、循環マーカーの応答および腫瘍応答評価のためのRECIST基準からなる群から選択される少なくとも1つの基準によって決定することができる。治療の開始後に応答が評価される時期は、特に制限されない。したがって、治療に対する応答は、1回目の治療の開始から少なくとも1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後、5ヶ月後、6ヶ月後、7ヶ月後、8ヶ月後、9ヶ月後、10ヶ月後または11ヶ月後に決定されてもよく、または1回目の治療の開始から少なくとも1年後、2年後、3年後、4年後、5年後、6年後、7年後、8年後、9年後、10年後またはもっと長い年数経過後に決定されてもよい。
【0060】
それに加え、応答の決定前に患者に適用される治療ラインの種類および数も、特に限定されない。したがって、応答は、外科手術療法、化学療法、またはアジュバントまたはネオアジュバント化学療法または任意の種類の治療と組み合わせた外科手術を含む第1ラインの治療を用いて患者が治療された後に、または2つ以上の連続的または同時に行われる治療ラインを用いて治療された後に、患者において決定されてもよい。
【0061】
「クリニカルベネフィット率」との表現は、本明細書で使用される場合、患者の生活の質の任意の他の要素をなんら減少させることなく、治療から直接的に生じる少なくとも1つの重要な症状または生活の品質の要素の向上を示した癌患者の割合を指す。上述の向上は、疾患の完全寛解、部分寛解または安定化として理解される。
【0062】
「全生存期間」との表現は、本明細書で使用される場合、ある疾患(例えば、癌)について、その疾患であると診断された患者がまだ生存している、診断日または治療開始からの時間の長さを指す。
【0063】
「無憎悪生存期間」との表現は、本明細書で使用される場合、患者が疾患と共に生存するが、悪化していない、ある疾患(例えば、癌)の治療中および治療後の時間の長さを指す。
【0064】
「無病生存期間」との表現は、本明細書で使用される場合、ある癌についての一次治療が終了した後、その癌の徴候または症状がなんら無い状態で患者が生存する時間の長さを指す。
【0065】
「病理学的完全奏功」との表現は、本明細書で使用される場合、抗癌治療を実施した後に残留する浸潤性腫瘍細胞が存在しないことを指す。
【0066】
「臨床完全寛解」との表現は、本明細書で使用される場合、治療に応答した、癌の全ての徴候の消失を指す。
【0067】
「臨床部分寛解」との表現は、本明細書で使用される場合、治療に応答した、腫瘍の大きさまたは体内の癌の程度の減少を指す。
【0068】
「臨床安定」との表現は、本明細書で使用される場合、程度または重篤度が低下せず、増加もしない癌を指す。
【0069】
「再発」との用語は、本明細書で使用される場合、治療後および癌が検出されない期間の後に癌が現れることを指す。
【0070】
「無転移生存率」との表現は、本明細書で使用される場合、ある癌についての治療が終了した後に、癌転移の何らかの徴候または症状がない状態で患者が生存する時間の長さを指す。
【0071】
「循環腫瘍細胞の減少」との表現は、本明細書で使用される場合、転移性癌患者の血液中またはリンパ中の循環腫瘍細胞の濃度の減少を指す。循環腫瘍細胞の減少は、転移性癌に対する治療の効能と関連付けられている。
【0072】
「循環マーカーの応答」との表現は、本明細書で使用される場合、上述の特定の癌に対する治療後に、その特定の癌に関係するタンパク質または核酸の血中またはリンパ中の濃度についての変動を指す。
【0073】
「RECIST」との用語は、本明細書で使用される場合、「固形腫瘍における応答評価基準」を指す。治療に対して癌患者がどのように十分に応答するかを測定する標準的な様式である。これは、腫瘍が退縮するか、同じままか、または大きくなるかに基づく。RECISTを使用するために、X線、コンピューター断層撮影(CT)スキャンまたは磁気共鳴イメージング(MRI)スキャンで測定可能な少なくとも1つの腫瘍が存在しなければならない。患者が有し得る応答の種類は、完全奏功(CR)、部分奏功(PR)、進行(PD)および安定(SD)である。マウス異種移植片モデルを用いた前臨床試験において、本願発明者らは、カリパスを用いて測定された腫瘍について、RECIST基準を適用する。
【0074】
B.癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法
第2の態様において、本発明は、癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、上述のサンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、選択される治療が、DNA損傷応答が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤を含むことを示し、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、選択される治療が、DNA損傷応答が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤を含まないことを示す、方法に関する。
【0075】
「カスタマイズ治療を選択する」または「個別化治療を選択する」との用語は、本明細書で使用される場合、個人的な遺伝的背景から得られる患者の特定の医学的特徴に基づき、適切で最適な治療を選択することを指す。本発明の観点で、上述の特徴は、患者の腫瘍細胞に特有であり、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、上述のサンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない上述の患者から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルから構成される。上述のRAD51 foci含有細胞のレベルおよび基準値は、1-A章に示される通り決定される。
【0076】
本発明の観点で、選択される治療または選択されない治療は、DNA損傷応答が欠損している腫瘍を治療するのに特異的な薬剤を含む治療である。
【0077】
「DNA損傷応答が欠損している腫瘍」または「DNA損傷応答が欠損している腫瘍細胞」または「細胞のDNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質の機能の消失を特徴とする腫瘍細胞」との表現は、本明細書で使用される場合、DNA損傷応答が変化した腫瘍細胞によって形成される悪性腫瘍を指す。上述の変化は、増加したDNA損傷の存在(腫瘍細胞と同じ臓器組織および被験体から得られる非腫瘍細胞と比較して)、腫瘍に特有のDNA修復欠損、損傷したDNAが娘細胞へと進む前に細胞周期を止めるか、または失速させるための欠陥、またはその組み合わせから構成されてもよい。これらいずれかの変化は、DNA損傷応答に関与するタンパク質の異常な発現から得られてもよい。上述のタンパク質の非限定的な例は、ATM、ATR、BRCA1、BRCA2、BP53、P53、CDC25、CHK1、CHK2、NBS、MRE1J、RAD51、PALB2、PARP、またはこれらの組み合わせ物である。上述の変化によって、癌細胞または悪性腫瘍細胞のゲノム不安定性の特徴が生じる。
【0078】
「ATR」との用語は、本明細書で使用される場合、血管拡張性失調症およびRad3関連タンパク質(ATR)またはFRAP関連タンパク質1(FRP1)としても知られるセリン/トレオニンタンパク質キナーゼATRを指す。ATRは、DNA損傷を検知し、DNA損傷チェックポイントを活性化することによって細胞周期を止めることに関与するセリン/トレオニン特異的なタンパク質キナーゼである。ATRは、DNA損傷検出および修復の間に作られる一般的な中間体である持続性の一本鎖DNAに応答して活性化される。一本鎖DNAは、失速した複製フォークで、ヌクレオチド除去修復および相同組換え修復などのDNA修復経路における中間体として発生する。ATRは、RPAで被覆された一本鎖DNAを認識するためのATRIPと呼ばれるパートナータンパク質と共に機能する。ATRが活性化されると、ATRはChk1をリン酸化し、細胞周期抑止で終了するシグナル変換カスケードを開始する。DNA損傷チェックポイントを活性化する際のその役割に加え、ATRは、安定化されたDNA複製において機能すると考えられる。ATRは、第2のチェックポイント活性化キナーゼATMに関連する。
【0079】
「ATM」との用語は、本明細書で使用される場合、ATMセリン/トレオニンキナーゼを指す。ATM遺伝子は、3056個のアミノ酸から構成される350kDaのタンパク質をコードする。ATMは、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ関連キナーゼ(PIKK)のスーパーファミリーに属する。このタンパク質ATMは、DNA二重鎖切断によって動員され、活性化されるセリン/トレオニンタンパク質キナーゼである。このタンパク質ATMは、DNA損傷チェックポイントの活性化を開始させるいくつかの鍵となるタンパク質をリン酸化し、細胞周期を抑止し、DNA修復またはアポトーシスを引き起こす。3種類のタンパク質MRE11、RAD50およびNBS1(酵母ではXRS2)の複合体は、ヒトにおいてMRN複合体と呼ばれ、ATMを二重鎖切断(DSB)に動員し、2つの末端を一緒に保持する。ATMは、NBS1サブユニットと直接的に相互作用し、Ser139上のヒストンバリアントH2AXをリン酸化する。このリン酸化は、BRCTドメインとのアダプタータンパク質の結合部位を作成する。次いで、これらのアダプタータンパク質は、エフェクタータンパク質キナーゼCHK2および腫瘍抑制因子p53を含む異なる因子を動員する。エフェクターキナーゼCHK2は、リン酸化され、それによって、ATMによって活性化される。活性化されたCHK2は、ホスファターゼCDC25Aをリン酸化し、その後すぐに分解され、もはやCDK2-サイクリンを脱リン酸化することができず、細胞周期を抑制する。DSBが、この迅速な応答中に修復されることが不可能な場合、ATMは、さらに、Ser15でMDM2およびp53をリン酸化する。p53も、エフェクターキナーゼCHK2によってリン酸化される。これらのリン酸化事象によって、p53の安定化および活性化が起こり、その後、長期間にわたる細胞周期の抑止、またはアポトーシスさえも引き起こす、CDKインヒビターp21を含む多くのp53標的遺伝子の転写が起こる。
【0080】
「BRCA1」および「BRCA2」との用語は、本明細書で使用される場合、それぞれ「乳癌1」および「乳癌2」と呼ばれるタンパク質を指す。これらのタンパク質は、「乳癌感受性タンパク質」とも呼ばれる。これらのタンパク質は、DNA二重鎖切断のエラーのない修復において重要な役割を有しつつ、染色体損傷の修復に関与する。BRCA1またはBRCA2自体が、乳房由来の細胞中のBRCA変異によって損傷を受けている場合、損傷を受けたDNAは、適切に修復されず、これにより乳癌のリスクが高まる。BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の構造は非常に異なっているが、少なくともいくつかの機能は相互に関連付けられている。
【0081】
BRCA2は、二重鎖切断修復および/または相同組換えに関与する。BRCA2は、相同組換え中に鎖への侵入を刺激する二本鎖DNAの上のssDNAにRAD51を標的化することによって作用する。DNA二重鎖切断に対するRAD51の局在化は、BRCA1-PALB2-BRCA2複合体の形成を必要とする。
【0082】
BRCA1は、二重鎖切断修復、非相同性末端接続および相同組換え修復のための2つの別個の経路において、ある役割を果たすようである。したがって、BRCA1は、非相同性末端接合経路(Mre11、Rad50、Nbs1複合体を含む)および相同修復(特に、RAD51およびBRCA2)の両方に関与するタンパク質と相互作用する。
【0083】
「Cdc25」との用語は、本明細書で使用される場合、Cdc25ホスファターゼ(Cdc25A、BおよびC)を指し、これらは、サイクリン依存性キナーゼにおいてThr-14およびTyr-15から阻害性ホスフェートを除去することを担っており、サイクリン依存性キナーゼを活性化し、細胞周期による進行を進める。DNA修復が進行中である間、有糸分裂は阻止されるべきであり、そのため、DNA損傷応答は、有糸分裂を防ぐために細胞周期チェックポイントを活性化する。2種類のタンパク質キナーゼChk1およびCds1は、有糸分裂誘発因子Cdc25をリン酸化することによって有糸分裂の開始を抑えることによって、このチェックポイントを強化することができる。
【0084】
「Chk1」との用語は、本明細書で使用される場合、「チェックポイントキナーゼ1」を指し、セリン/トレオニン特異的なタンパク質キナーゼである。Chk1の活性化によって、細胞周期チェックポイントが開始され、細胞周期が抑止され、DNA修復および細胞死が抑止され、損傷した細胞が、細胞周期中に進行するのを防ぐ。Chk1は、リン酸化によって、ATRによって制御され、ATR-Chk1経路を形成する。この経路は、一本鎖DNA(ssDNA)を認識する。多くは、ssDNAは、複製酵素ヘリカーゼおよびDNAポリメラーゼの脱共役によるS期中の異常な複製の結果である場合がある。これらのssDNA構造は、ATRに引き寄せられ、最終的に、チェックポイント経路を活性化する。
【0085】
しかし、Chk1の活性化は、単にATRに依存するのではなく、DNA複製に関与する中間体タンパク質が多くは必要である。制御タンパク質、例えば、複製タンパク質A、Claspin、Tim/Tipin、Rad 17、TopBP1は、Chk1活性化を促進するために含まれる場合がある。さらなるタンパク質相互作用は、Chk1の最大リン酸化を誘発するために含まれる。Chk1活性化はまた、PKB/AKT、MAPKAPKおよびp90/RSKなどの他のタンパク質キナーゼとの相互作用によってATR非依存性であってもよい。
【0086】
「Chk2」との用語は、本明細書で使用される場合、「チェックポイントキナーゼ2」を指す。Chk2は、細胞分裂を制御する。DNAが二重鎖切断を受けると、Chk2タンパク質が活性化される。より具体的には、ATMは、部位Thr68をリン酸化し、Chk2を活性化する。活性化されたChk2がリン酸化すると、CDC25ホスファターゼを含む下流の標的は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の脱リン酸化および活性化を担う。したがって、CDC25ホスファターゼのChk2阻害は、Chk1と同様に、細胞の有糸分裂開始を防ぐ。さらに、Chk2タンパク質は、p53(p53)を含むいくつかの他のタンパク質と相互作用する。Chk2によるp53の安定化によって、G1期において細胞周期が抑止される。さらに、Chk2は、アポトーシス(プログラムされた細胞死)に関与する細胞周期転写因子E2F1および前骨髄球性白血病タンパク質(PML)をリン酸化することが知られている。
【0087】
「NBS1」との用語は、本明細書で使用される場合、「ナイミーヘン不安定症候群」を引き起こす遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。NBS1は、典型的には、hMRE11/hRAD50ヌクレアーゼと複合体を形成し、DNA二重鎖切断(DSB)のための相同組換え修復において機能する。NBS1とATM、MDC1、γH2AXおよびTopBP1との相互作用は、DNA損傷後のDSB部位でのfoci形成およびATM/ATR依存性細胞周期チェックポイントの活性化にとって重要である。
【0088】
「PALB2」との用語は、本明細書で使用される場合、「BRCA2のパートナーおよびローカライザー」を指す。このタンパク質は、核内 fociにおいてBRCA2に結合し、BRCA2と共に局在化し、おそらくBRCA2の安定な核内局在化および蓄積を可能にする。PALB2は、一本鎖DNAに結合し、レコンビナーゼRAD51と直接的に相互作用し、相同組換えの必須工程である鎖への侵入を刺激する。
【0089】
「PARP」との用語は、本明細書で使用される場合、「ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ」を指す。PARPファミリーは、17個のメンバーを含み、これらは全て、細胞内において非常に異なる構造および機能を有する。PARPの主な役割は、主にBER経路において、SSB修復に関与する酵素機構にシグナル伝達することによって、SSBを検出し、SSB修復を回復することである。PARPがSSBを検出したら、PARPはDNAに結合し、構造変化を受け、他のDNA修復酵素のためのシグナルとして作用するポリマーアデノシンジホスフェートリボース(ポリ(ADP-リボース)またはPAR)鎖の合成が開始する。標的酵素としては、DNAリガーゼIII(LigIII)、DNAポリメラーゼベータ(polβ)および足場タンパク質、例えば、X線修復交差補完遺伝子1(XRCC1)が挙げられる。修復した後、PAR鎖は、ポリ(ADP-リボース)グリコヒドロラーゼ(PARG)によって分解される。
【0090】
本発明の方法の観点における用語の残りも、前述の方法について定義した意味を有する。
【0091】
C.癌を有する被験体を患者コホートに分類する方法
第3の態様において、本発明は、癌を有する被験体を患者コホートに分類する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、方法と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-RAD51 foci含有細胞のレベルが上述の基準値より低い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答することを特徴とするコホートに分類され、または
-RAD51 foci含有細胞のレベルが上述の基準値より高い場合には、患者は、ある抗癌治療に応答しないことを特徴とするコホートに分類される、方法に関する。
【0092】
「コホート」または「患者コホート」との用語は、本明細書で使用される場合、共通の疾患、環境または一時的な影響、治療、またはその進行が研究または臨床試験において評価される他の特質によって影響を受ける被験体群を指す。本発明において、全てのコホートの被験体は、癌と診断されており、あるコホート内の全ての被験体について共通の特質は、抗癌治療に対する陽性または陰性の応答(コホートに依存する)である。各被験体の上述の応答は、上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプルにおいて、RAD51 foci含有細胞のレベルを基準値と比較することによって決定されるが、ここで、被験体は、サンプル単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けておらず、上述のサンプルは、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない。上述のRAD51 foci含有細胞のレベルおよび基準値は、1-A章に示されるとおりに決定される。
【0093】
本発明の方法の観点における用語の残りも、前述の方法について定義した意味を有する。
【0094】
D.被験体由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能か否かを予測する方法
第4の態様において、本発明は、被験体由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能か否かを予測する方法であって、
i)腫瘍単離の24時間前にAC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けておらず、上述のサンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない上述の被験体から腫瘍が単離された腫瘍サンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程とを含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、上述の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能であることの指標であり、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、上述の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能ではないことの指標である、方法に関する。
【0095】
「癌と診断された被験体由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能であるか否かを予測する」との表現は、本明細書で使用される場合、被験体患者由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能であり得る確率を指す。当該技術分野の専門家は理解するだろうが、これが好ましいというわけではないが、分析される被験体由来の腫瘍の100%について、予測が正しい必要はない。しかし、この表現は、患者の統計学的に有意な部分について、この予測が正しい結果を与えることを必要とする。本発明の予測が統計学的に有意な結果を与えるか否かの決定は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York 1983に記載される、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーの検定などの標準的な統計技術を用いることによって行われてもよい。適切な信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。P値は、好ましくは、0.05、0.001、0.0005である。
【0096】
「確率」との用語は、本明細書で使用される場合、1-A章に示される通りに理解される。
【0097】
「相同組換え修復」または「HRR」との用語は、本明細書で使用される場合、主にDSBを修復するために細胞中のDDRとして起こる相同組換え工程を指す。一般論として、HRRは、切断の修復のためのテンプレートとして使用されるのと同一またはほぼ同一の配列の存在を必要とする。この修復工程を担う酵素機構は、減数分裂中の染色体交差を担う機構とほぼ同一である。この経路は、姉妹染色分体(DNA複製後のG2で利用可能)または相同染色体をテンプレートとして用い、損傷した染色体を修復することが可能である。
【0098】
したがって、このD章で開示される方法は、HRRが欠損していない/機能性である癌を有する患者または欠損している/機能性ではない癌を有する患者を識別することが可能である。
【0099】
本発明の方法の定義で使用される用語の残りは、本方法の前述の方法に関して説明されており、本方法に等しく適用可能である。
【0100】
E.本発明の方法の好ましい実施形態
好ましい実施形態において、本発明の前述のいずれかの態様に定義した方法において、ある細胞が、核内に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個のRAD51 fociを含む場合、細胞は、RAD51 fociを有すると定義される。より好ましい実施形態において、上述の細胞は、核内に少なくとも1個のRAD51 fociを含有すべきである。なおさらに好ましい実施形態において、上述の細胞は、核内に少なくとも5個のRAD51 fociを含有すべきである。
【0101】
別の好ましい実施形態において、RAD51 fociは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を用い、イムノアッセイを用いて同定される。「イムノアッセイ」との用語は、本明細書で使用される場合、抗体またはその抗原結合フラグメントの使用により、溶液中の分子の存在または濃度を測定する生化学試験を指す。イムノアッセイによって検出される分子は、多くは「検体」と呼ばれ、多くの場合にはタンパク質であるが、このアッセイにとって十分な特性を有する適切な抗体が開発される限り、異なる大きさおよび型を有する他の種類の分子であってもよい。イムノアッセイは、抗体またはその抗原結合フラグメントを検出可能な種々の異なる標識を使用する。標識は、典型的には、所望な抗体またはその抗原結合フラグメントに化学的に結合しているか、または接合している。
【0102】
イムノアッセイにおいて使用するための一般的な標識は、酵素である。酵素を使用する一般的なイムノアッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)であり、または時には酵素イムノアッセイ(EIA)である。
【0103】
標識としてイムノアッセイに使用される酵素としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)またはグルコースオキシダーゼが挙げられる。多くは特定の試薬存在下でこれらの酵素が観察可能な色変化を生じるため、これらの酵素によって検出が可能である。ある場合に、これらの酵素は、試薬にさらされ、これらが光または化学発光を生成する。
【0104】
ラジオイムノアッセイ(RIA)を製造するために、放射性同位体がイムノアッセイ試薬に組み込まれてもよい。結合した抗体-抗原複合体によって発せられる放射線は、従来の方法によって容易に検出することができる。
【0105】
フィコエリトリンなどの蛍光レポーターは、多くの現代のイムノアッセイで使用される。タンパク質マイクロアレイは、蛍光レポーターを使用することが多いイムノアッセイの一種である。
【0106】
標識は、一般的にイムノアッセイで使用されるが、標識に依存しないが、その代わりにアッセイの構成要素の改変または標識を必要としない検出方法を使用する特定の種類のアッセイが存在する。表面プラズモン共鳴は、標識されていない抗体と抗原との間の結合を検出することができる技術の一例である。表面プラズモン共鳴は、入射光によって刺激される陰性誘電率の材料と陽性誘電率の材料との間の界面での伝導電子の共鳴振動から構成される。別の示される標識を使わないイムノアッセイは、抗原が電極に結合したときの電極上の抵抗の変化を測定することを含む。
【0107】
上述のイムノアッセイ技術の原理は、単一の細胞レベルで目的のタンパク質のfociの発現および/または形成を決定するために、当業者によって使用される。上述の決定を可能にする方法は、当業者によって知られている。このような方法の非限定的な例は、免疫組織染色、免疫蛍光染色、免疫電子顕微鏡またはフローサイトメトリーである。
【0108】
「免疫組織染色」との用語は、本明細書で使用される場合、上述のイムノアッセイの原理を活用することによって、組織切片の細胞または細胞サンプルの細胞における抗原(例えば、タンパク質)を選択的に画像化する工程を含む技術を指す。分析される細胞に結合した抗体の視覚化は、電子顕微鏡(EM)などの顕微鏡の使用を伴う。免疫組織染色は、組織切片、培養された細胞株、または個々の細胞で使用されてもよく、これを使用し、細胞内、またはより一般的には細胞サンプル内のタンパク質、グリカン、および小さな生体分子および非生体分子の分布を分析してもよい。
【0109】
サンプルの調製は、細胞の形態、組織アーキテクチャおよび標的エピトープの抗原性を維持するために重要である。サンプルの調製は、適切な組織の収集、固定および切片化を必要とする。パラホルムアルデヒドの溶液が、組織を固定するために使用されることが多いが、他の方法を使用してもよい。次いで、実験の目的または組織自体に依存して、組織をスライスしてもよく、または全体的に使用してもよい。切片化する前に、組織サンプルは、パラフィルムワックスまたは凍結媒体などの媒体に埋め込まれてもよい。切片は、種々の装置で、最も一般的には、ミクロトーム、低温保持装置またはコンプレストーム組織スライサーでスライスされてもよい。標本は、典型的には、3μm~50μmの範囲でスライスされる。次いで、このスライスしたものをスライドに取り付け、濃度を徐々に上げたアルコール洗液(例えば、50%、75%、90%、95%、100%)を用いて脱水し、顕微鏡下で画像化する前に、キシレンなどの洗剤を用いて洗浄する。固定および組織準備の方法に依存して、サンプルは、エピトープを抗体結合に利用可能にするために、脱パラフィン化および抗原賦活化など、さらなる工程を必要とする場合がある。ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織について、抗原賦活化が必要な場合が多く、熱またはプロテアーゼで切片を前処理することを伴う。これらの工程は、染色する標的抗原と染色しない標的抗原との違いを作る場合がある。
【0110】
「免疫蛍光染色」との用語は、本明細書で使用される場合、分析される細胞上の抗体の位置を視覚化するために主にフルオロフォアを利用する免疫組織染色の具体例を指す。
【0111】
「フローサイトメトリー」との用語は、本明細書で使用される場合、流体の流れに細胞を懸濁させ、これを電子検出装置に流すことによる、バイオマーカー検出、細胞計数、細胞選別およびタンパク質操作に使用されるレーザまたはインピーダンスに基づく生物物理学的技術を指す。フローサイトメーターは、1秒あたり数千までの粒子の物理的特徴および化学的特徴の同時複数パラメータ分析を可能にする。細胞は、溶液中で免疫染色され、次いで、フローサイトメトリーによって分析される。
【0112】
「抗体」との用語は、本明細書で使用される場合、全抗体および任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)、またはこれらの一本鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続した少なくとも2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合部分を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)と、重鎖定常領域とから構成される。重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2およびCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)と、軽鎖定常領域とから構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLから構成される。VH領域およびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域を用いて散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性領域に分けることができる。各VHおよび各VLは、3つのCDRと4つのFRから構成され、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序でアミノ末端からカルボキシ末端まで並んでいる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)および従来の補体系の第1成分(C1q)を含め、宿主組織または因子に対する免疫グロブリンの結合に介在していてもよい。
【0113】
抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよい。モノクローナル抗体は、一価のアフィニティを有しており、モノクローナル抗体は、抗原の同じエピトープに結合し、エピトープは、抗体によって認識される抗原の一部である。モノクローナル抗体は、全て固有の親細胞のクローンである同一の免疫細胞に由来する。これとは対照的に、ポリクローナル抗体は、同じ抗原の複数のエピトープに結合し、通常は、異なるB細胞系統によって作られる。
【0114】
ある抗体の「抗原結合部分」(または単純に「抗体部分」)との用語は、本明細書で使用される場合、抗原(例えば、TNFα、IL-12)に特異的に結合する能力を保持した抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能が、全長抗体のフラグメントによって発揮可能であることが分かっている。ある抗体の「抗原結合部分」との用語に包含される結合フラグメントの例としては、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域にあるジスルフィド架橋によって連結した2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の1つのアームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)dAbフラグメント(Wardら、(1989)Nature 341:544-546)、VHまたはVLドメインからなる;および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは、別個の遺伝子によってコードされているが、これらは、組換え方法を用い、VLおよびVH領域の対が一価分子を形成する1つのタンパク質鎖として製造することが可能な合成リンカーによって接続していてもよい(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Birdら(1988)Science 242:423-426;およびHustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照)。このような一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」との用語に包含されることも意図している。これらの抗体フラグメントは、当業者に知られている従来の技術を用いて得られ、このフラグメントは、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。本発明の一実施形態において、抗体フラグメントは、Fab、Fd、Fd’、一本鎖Fv(scFv)、scFvaおよびドメイン抗体(dAb)からなる群から選択される。
【0115】
「細胞のレベル」および「基準値」との用語は、1-A章で定義した。「RAD51 foci含有細胞のレベル」を決定するためのさまざまな方法も、1A章で決定した。
【0116】
サンプル中の増殖細胞数に関するRAD51 foci含有細胞のレベルの決定に関し、好ましい実施形態において、サンプル中の増殖細胞数は、ジェミニン、KI-67、増殖細胞核抗原、サイクリンA2からなるリストから選択されるタンパク質の発現を決定することによって決定される。別の好ましい実施形態において、選択されるタンパク質の発現の決定は、選択されるタンパク質に特異的な抗体を用いたイムノアッセイによって行われる。好ましくは、増殖するとされる細胞は、選択されるタンパク質の核内発現を示し、ここで、「核内発現」は、細胞の核内に局在化したタンパク質の発現を指す。好ましい実施形態において、核内のタンパク質の発現が、細胞質内よりも高い場合、細胞は、タンパク質の核内発現を有すると定義される。より好ましい実施形態において、選択されるタンパク質は、ジェミニンである。
【0117】
サンプル中のDNA損傷、好ましくは二重鎖切断を示す細胞数に関するRAD51 foci含有細胞のレベルの決定に関し、好ましい実施形態において、サンプル中の二重鎖切断を示す細胞数は、γH2AX、複製タンパク質A(pRPA)、p53結合タンパク質1(53BP1)、二重鎖切断修復タンパク質(MRE11)からなるリストから選択されるタンパク質の核内発現、好ましくは核内 fociの存在を決定することによって決定される。別の好ましい実施形態において、核内のタンパク質の発現が、細胞質内よりも高い場合、細胞は、タンパク質の核内発現を有すると定義される。別の好ましい実施形態において、細胞が、核内に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個の上述のタンパク質のfociを含む場合、細胞は、選択されるタンパク質の核内 fociを有すると定義される。より好ましい実施形態において、細胞が、少なくとも1個の上述のタンパク質のfociを核内に含む場合、細胞は、選択されるタンパク質の核内 fociを有すると定義される。選択されるタンパク質の核内発現または核内 fociの存在の決定は、選択されるタンパク質(好ましくはγH2AXである)に特異的な抗体を用いたイムノアッセイによって行われる。好ましい実施形態において、サンプル中のDNA損傷、好ましくは二重鎖切断を示す細胞数の決定は、γH2AX核内 foci含有細胞数を決定することによって決定され、ここで、細胞が、核内に少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個のγH2AXのfociを含む場合、細胞は、γH2AXの核内 fociを有すると定義される。
【0118】
「イムノアッセイ」との用語および単一レベルでのタンパク質を検出する方法は、本明細書で使用される「抗体」との用語に加え、既に上に定義した。
【0119】
好ましい実施形態において、今までに記載したいずれかの方法のサンプルは、血液、唾液、脳脊髄液、尿、糞便、骨髄、乳頭吸引液または固形腫瘍バイオプシーから単離された。さらにより好ましい実施形態において、今までに記載した方法のサンプルは、固形腫瘍バイオプシーから単離された。
【0120】
別の特定の実施形態において、今までに記載したいずれかの方法のサンプルは、固定された組織、パラフィン包埋された組織、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織(FFPE)、組織学的スライド、細胞懸濁物、細胞ペレット、細胞スライドおよび/または凍結された固形腫瘍バイオプシーとして与えられた。好ましい実施形態において、サンプルは、固定された組織であり、固定は、ホルマリン、アルデヒド、アルコール、酸化薬剤、水銀系、ピクリン酸塩を用いるか、またはHEPES-Glutamic Acid Buffer Mediated Organic Solvent Protection Effect(HOPE(登録商標))を用いて行われた。
【0121】
別の実施形態において、「癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する」方法において言及される被験体の応答は、クリニカルベネフィット率、全生存期間、無憎悪生存期間、無病生存期間、病理学的完全奏功、臨床完全寛解、臨床部分寛解、臨床安定、再発、無転移生存率、循環腫瘍細胞の減少、循環マーカーの応答および腫瘍応答評価のためのRECIST基準からなる群から選択される少なくとも1つの基準によって決定することができる。これらのさまざまな基準は、1-A章で定義した。
【0122】
「癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する」方法および/または「癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する」方法において言及される抗癌治療は、好ましくは、外科手術の使用を含む。別の実施形態において、本発明の上述のいずれかの方法において言及される抗癌治療は、DNA損傷を誘発する少なくとも1つの方法および/または癌細胞のDNA損傷応答を標的とする薬剤または薬剤の組み合わせ物を含む。「DNA損傷を誘発する方法」との表現は、1A章で定義した。DNA損傷を誘発する方法の非限定的な例は、電離放射線、UV光、または1A章に「DNA損傷を直接的に誘発する薬剤」として列挙されるものなど、DNA損傷を直接的に誘発する薬剤を用いた化学療法である。「DNA損傷応答を標的とする薬剤」との表現は、本明細書で使用される場合、細胞における上述の工程に関与する少なくとも1つのタンパク質を標的とする薬剤を指す。上述のタンパク質の非限定的な例は、ATM/ATR、BRCA1/2、BP53、P53、CDC25、CHK1/2、NBS、MRE1J、RAD51、PALB2、PARP、またはこれらの組み合わせ物である。DNA損傷応答を標的とする薬剤の非限定的な例は、1-A章で上に「細胞のDNA損傷応答に関与するタンパク質を標的とする薬剤」として列挙している。好ましくは、抗癌治療を標的とする薬剤は、PARPインヒビター(限定されないが、オラパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290を含む)群から選択される。「PARPi」または「PARPインヒビター」との用語は、本明細書で使用される場合、酵素ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)の薬理学的インヒビター群を指す。これらは、複数の適応症のために開発され、特に、癌の治療のために開発されている。PARP1は、DNA中の一本鎖切断を修復するために重要なタンパク質である。このようなSSBが、DNAが複製される(細胞分裂に先行しなければならない)まで、修復されないまま持続する場合、複製自体が、DSBが生成する原因となる場合がある。したがって、一般論として、PARP1を阻害する薬物の作用機序が、複数のDSB形成の原因となり、その結果、DSB修復に関与するタンパク質(例えば、BRCA1、BRCA2またはPALB2)の変異を有する腫瘍において、これらの二重鎖切断を効率的に修復することができず、細胞死を引き起こす。PARPiの非限定的な例は、1A章に示されるとおり、オラパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290である。
【0123】
別の好ましい実施形態において、上述のいずれかの方法において言及されるサンプルは、DNA損傷応答が欠損している細胞のDNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質の機能の消失を特徴とする腫瘍細胞を含む。「細胞のDNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質の機能の消失を特徴とする腫瘍細胞」との表現は、1-A章で定義した。好ましくは、DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質は、BRCA1、BRCA2および/またはPALB2からなる群から選択される。さらにより好ましくは、上述の少なくとも1つのタンパク質は、BRCA1および/またはBRCA2である。
【0124】
特定の実施形態において、被験体に対して診断される癌は、乳癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、胃癌(stomach/gastric cancer)、子宮内膜/子宮/子宮頸癌、膀胱癌、頭頸部癌、白血病、肉腫、胆管癌、膠芽腫、多発性骨髄腫、リンパ腫からなるリストから選択される。より好ましくは、患者に対して診断される癌は、乳癌、卵巣癌および前立腺癌からなるリストから選択され、なお好ましくは、乳癌または卵巣癌であり、なおさらに好ましくは、乳癌である。
【0125】
本発明のいずれかの態様においてサンプル単離前に被験体が受ける治療に関し、好ましくは、被験体は、任意の時間に、好ましくはサンプル単離前の最後の168時間以内、好ましくは最後の72時間以内、より好ましくは最後の48時間以内、さらにより好ましくは最後の36時間以内、なおさらに好ましくは最後の24時間以内、さらになおさらに好ましくはサンプル単離の24時間前に、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けていない。別の好ましい実施形態において、被験体は、サンプル単離の24時間前ではあるが、サンプル単離前の最後の23時間以内に、好ましくは最後の22時間以内に、より好ましくは最後の21時間以内に、なおさらに好ましくは最後の20時間以内に、さらにより好ましくは最後の15時間以内に、さらになおさらに好ましくは最後の10時間以内に、さらにより好ましくは最後の5時間以内に、さらになおさらに好ましくは最後の2時間以内に、なおさらにより好ましくは最後の1時間以内に、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を受けていない。
【0126】
好ましい実施形態において、サンプルが単離された被験体は、任意の時間に、好ましくはサンプル単離前の最後の168時間以内、好ましくは最後の72時間以内、より好ましくは最後の48時間以内、さらにより好ましくは最後の36時間以内、なおさらに好ましくは24時間以内、さらになおさらに好ましくはサンプル単離の24時間前に、何ら化学療法を受けていない。別の好ましい実施形態において、被験体は、サンプル単離の24時間前ではあるが、サンプル単離前の最後の23時間以内に、好ましくは最後の22時間以内に、より好ましくは最後の21時間以内に、なおさらに好ましくは最後の20時間以内に、さらにより好ましくは最後の15時間以内に、さらになおさらに好ましくは最後の10時間以内に、さらにより好ましくは最後の5時間以内に、さらになおさらに好ましくは最後の2時間以内に、なおさらにより好ましくは最後の1時間以内に、何ら化学療法を受けていない。
【0127】
より好ましい実施形態において、被験体は、任意の時間に、好ましくはサンプル単離前の最後の168時間以内、より好ましくは最後の72時間以内、さらにより好ましくは最後の48時間以内、さらにより好ましくは最後の36時間以内、なおさらに好ましくは24時間以内、さらになおさらに好ましくはサンプル単離の24時間前に、何ら抗癌治療を受けていない。さらにより好ましい実施形態において、被験体は、サンプル単離前の任意の時間に、何ら抗癌治療を受けていない。
【0128】
別の特定の実施形態において、サンプルが単離される被験体は、サンプル単離前の期間の任意の時期に、好ましくはサンプル単離前の最後の168時間以内、より好ましくは最後の72時間以内、さらにより好ましくは最後の48時間以内、さらにより好ましくは最後の36時間以内、なおさらに好ましくは最後の24時間以内に、抗癌治療を受けている。サンプル単離の24時間前に、好ましくは、サンプル単離前の最後の24時間以内に実施される場合、上述の抗癌治療は、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法とは異なる。別の実施形態において、最後の36時間以内、より好ましくは最後の48時間以内、さらにより好ましくは最後の72時間以内、なおさらに好ましくは最後の168時間以内、さらにより好ましくはサンプル単離前の任意の時間に実施される場合、上述の抗癌治療は、AC、FEC、ECFおよびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法とは異なる。好ましくは、この段落で記載される任意の状況の治療は、その応答が「癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する」方法で決定される抗癌治療である。
【0129】
特定の実施形態において、本発明は、抗癌治療で治療される癌と診断された被験体において、抗癌治療の維持または中止を決定する方法であって、
i)上述の被験体から単離された腫瘍細胞を含有するサンプル中のRAD51 foci含有細胞のレベルを決定する工程であって、サンプル単離の24時間前にAC化学療法、FEC化学療法、ECF化学療法およびナベルビン/エピルビシンからなる群から選択される化学療法を被験体が受けておらず、サンプルが、RAD51 foci含有細胞のレベルを決定する前に、DNA損傷を誘発する方法で治療されていない、工程と、
ii)工程i)で得られたレベルと基準値とを比較する工程と、を含み、
-上述の基準値より低いRAD51 foci含有細胞のレベルは、抗癌治療を維持すべきであり、または
-上述の基準値と等しいか、または上述の基準値より高いRAD51 foci含有細胞のレベルは、上述の抗癌治療を中止すべきであることを示す、方法に関する。
本発明のこの方法で使用される用語は、本方法の前述の方法に関して説明されており、本方法に等しく適用可能である。
【0130】
2.本発明の治療への使用
第5の態様において、本発明は、被験体における癌の治療に使用するための医薬であって、上述の被験体が、本発明の癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する方法によって医薬に対するレスポンダーであると同定されている、医薬に関する。
【0131】
第6の態様において、本発明は、被験体における癌の治療に使用するための医薬であって、上述の治療が、本発明の癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する方法によって設計されている、医薬に関する。
【0132】
「医薬」との用語は、本明細書で使用される場合、治療に有効な量の薬剤、好ましくは抗癌剤、より好ましくはDNA損傷薬剤を含む組成物を指す。医薬は、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤または担体も含む。
【0133】
好ましい実施形態において、医薬は、1種類より多い薬剤を含み、各薬剤は、その対応する治療に有効な量で、好ましくは、これらの薬剤のうち少なくとも1種類が抗癌剤であり、より好ましくは、これらの薬剤のうち少なくとも1種類がDNA損傷薬剤である。別の好ましい実施形態において、医薬は、その対応する治療に有効な量での薬剤、好ましくは、その対応する治療に有効な量での抗癌剤、より好ましくは、その対応する治療に有効な量でのDNA損傷薬剤から構成される。この場合に、薬剤は、既に、少なくとも1つの医薬的に許容される賦形剤または担体を含む。
【0134】
「治療に有効な量」との用語は、本明細書で使用される場合、所望な効果を与える薬剤の十分な量を指し、一般的に、原因の中でも特に、化合物自体の特徴および達成される治療効果によって決定される。治療に有効な量は、治療される被験体、上述の被験体が患う癌疾患の重篤度、選択される投薬形態、投与経路などにも依存するだろう。
【0135】
個々の需要はさまざまであるとしても、本発明の使用のための化合物の治療に有効な量の最適範囲の決定は、当該技術分野の専門家の一般的な経験に属する。一般的に、有効な治療を与えるのに必要な投薬量は、当該技術分野の専門家が調整することができるが、システム薬物送達を使用する場合、また、薬物の組み合わせ物の一部として薬物が投与される場合、年齢、健康状態、運動、性別、食事、体重、標的とされる分子経路の変化度、治療の頻度、癌疾患の性質および状態、癌の性質および程度、被験体の医学的状態、投与経路、薬理学的考慮事項、例えば、使用される特定の薬剤の活性、効能、薬物動態プロフィールおよび毒性プロフィールに依存して変わるだろう。
【0136】
「医薬的に許容される賦形剤」または「医薬的に許容される担体」との表現は、本明細書で使用される場合、使用される投薬量および濃度で被験体に本質的に非毒性であり、医薬の他の構成成分と適合性である、任意の化合物または化合物の組み合わせ物を指す。したがって、賦形剤は、医薬の活性成分を含有する組成物を増量する目的のために、医薬の活性成分(すなわち、薬剤、好ましくは抗癌剤、さらにより好ましくは、PARPiなどのDNA損傷薬剤)と共に配合される不活性物質である。増量によって、投薬形態を製造するときに、活性成分の簡便かつ正確な分配が可能になる。賦形剤は、活性成分の吸収または溶解を容易にするなどの種々の治療を向上させる目的、または他の薬物動態的考慮事項にも役立つだろう。賦形剤は、予想される貯蔵寿命を超えた変成を防ぐなどのin vitro安定性を補助することに加え、例えば、粉末の流動性または非粘着特性を促進することによって、関連する活性物質の取り扱いを補助するために、製造工程にも有用な場合がある。適切な賦形剤の選択は、活性成分および他の因子だけではなく、投与経路および投薬形態にも依存する。賦形剤は、任意の従来からある種類の非毒性の固体、半固体または液体のフィラー、希釈剤、カプセル化材料または製剤助剤であってもよい。賦形剤または担体の実例となる非限定的な例としては、水、塩(生理食塩水)溶液、アルコール、デキストロース、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、脂肪酸エステル、ペトロエトラール、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0137】
本発明の治療への使用の好ましい実施形態
好ましい実施形態において、医薬は、抗癌剤、より好ましくは、DNA損傷薬剤を含む。より好ましい実施形態において、医薬は、PARP阻害剤を含み、好ましくは、オラパリブ、ベリパリブ、タラゾパリブ、ルカパリブ、ニラパリブ、CEP-8983、E7016およびBGB-290からなるリストから選択される。さらにより好ましい実施形態において、PARPiは、オラパリブ、ベリパリブまたはニラパリブであり、好ましくは、オラパリブである。
【0138】
別の特定の実施形態において、医薬は、免疫療法から構成される治療における使用のためのものである。
【0139】
特定の実施形態において、医薬は、ある治療における使用のためのものであり、この治療は、医薬の投与に加え、免疫療法、化学療法、放射線療法またはこれらの組み合わせを含み、上述の被験体は、「癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する」方法によって、上述の医薬に対するレスポンダーであると同定されている。
【0140】
別の特定の実施形態において、医薬は、ある治療における使用のためのものであり、この治療は、医薬の投与に加え、免疫療法、化学療法、放射線療法またはこれらの組み合わせを含み、上述の治療は、「癌と診断された被験体のためのカスタマイズ治療を選択する」方法によって設計されている。
【0141】
本発明の医薬の観点で使用される用語は、本発明の方法について定義されたのと同じ意味を有する。
【0142】
3.キットの使用
第7の態様において、本発明は、「癌と診断された被験体の抗癌治療に対する応答を予測する」方法におけるキットの使用に関し、ここで、このキットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。
【0143】
第8の態様において、本発明は、「癌と診断された被験体のための治療を選択する」方法におけるキットの使用に関し、ここで、このキットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。
【0144】
第9の態様において、本発明は、「癌を有する被験体を患者コホートに分類する」方法におけるキットの使用に関し、ここで、このキットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。
【0145】
第10の態様において、本発明は、「ある被験体由来の腫瘍が、相同組換えによるDNA修復が可能か否かを予測する」方法におけるキットの使用に関し、ここで、このキットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。
【0146】
第11の態様において、本発明は、本発明の方法のいずれかにおけるキットの使用に関し、ここで、このキットは、RAD51タンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。
【0147】
本発明の観点において、「キット」は、輸送および保存が可能であるように包装された本発明のさまざまな使用を行うのに必要なさまざまな試薬を含有する製品であると理解される。さらに、本発明で使用されるキットは、キット中のさまざまな構成成分の同時、逐次または別個の使用のための指示を含んでいてもよい。上述の指示は、印刷された資料の形態であってもよく、または読み取りやすいか、または理解されやすい指令を保存することが可能な電子的な支援の形態、例えば、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ)、または光学媒体(例えば、CD-ROM、DVD)、または録音資料であってもよい。これに加え、またはこれに代えて、媒体は、上述の指示を与えるインターネットアドレスを含んでいてもよい。
【0148】
好ましい実施形態において、上述のいずれかの使用において言及されるキットは、さらに、その発現がサンプル中のある細胞が増殖しているか否かを決定するタンパク質を特異的に認識可能な抗体を含む。好ましくは、上述の抗体は、ジェミニン、KI-67、増殖細胞核抗原、サイクリンA2からなるリストから選択されるタンパク質を特異的に認識可能である。より好ましくは、上述のタンパク質は、ジェミニンである。
【0149】
別の好ましい実施形態において、上述のいずれかの使用において言及されるキットは、さらに、核内の特定のタンパク質の存在、好ましくは、上述のタンパク質の核内fociの存在を特異的に認識可能な抗体を含み、ここで、ある細胞中の上述の存在は、その細胞が、DNA損傷、好ましくは、二重鎖DNA切断を含むことを示す。好ましくは、上述の抗体は、γH2AX、複製タンパク質A(pRPA)、p53結合タンパク質1(53BP1)、二重鎖切断修復タンパク質(MRE11)からなるリストから選択されるタンパク質を特異的に認識可能である。より好ましくは、上述の抗体は、γH2AXタンパク質を特異的に認識可能である。
【0150】
好ましい実施形態において、この3章の第1、第2、第3および第4段落に示されるいずれかの使用において言及されるキットは、さらに、ジェミニンタンパク質を特異的に認識可能な抗体、およびγH2AXタンパク質を特異的に認識可能な抗体、またはこれらの組み合わせ物からなる群から選択される抗体を含む。
【0151】
別の好ましい実施形態において、この3章において言及されるいずれかの抗体は、それぞれ1つが、本発明で使用されるキットを形成する試薬の合計量の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%を含む。
【0152】
本発明の使用という観点で使用される用語は、本発明の方法および医薬について定義したのと同じ意味を有する。
【0153】
以下の実施例および図面は、実例として与えられており、本発明を限定することを意図したものではない。
【実施例
【0154】
材料および方法
試験デザイン
PARPi効能のある新規バイオマーカーを同定するために、本願発明者らは、乳房癌腫(BC)または高悪性度卵巣癌(HGSOC)と診断された患者由来の腫瘍サンプルを前もって集め、PDXモデルの集合を作成した。PARPiに対するこれらの感受性を評価し、応答と相関関係のある機能試験を見出すために、HRR経路の機能性を分析し、PARPi感受性PDXサンプルとPARPi耐性サンプルとを比較した。この機能試験は、独立したPDX集合でも探求された。この機能試験の潜在的な臨床的関心を探求するために、BRCA1、BRCA2またはPALB2に生殖細胞系列変異を有する患者を含めた臨床サンプルにおける試験的分析を使用した。
【0155】
患者由来の異種移植片(PDX)モデル
乳癌または高悪性度卵巣癌を有する患者由来の新鮮な腫瘍サンプルを、Vall Hebronの治験審査委員会(IRB)、Institut CurieまたはInstitut Paoli-Calmettesによって承認されたプロトコルの下でヌードマウスに移植するために前もって集めた。実験は、欧州連合のanimal care directive(2010/63/EU)に従って行われ、Ethical Committee of Animal Experimentation of the Vall d’Hebron Research Institute(バルセロナ、スペイン)によって、またはEthical Committee of Animal Experimentation CEEA-51(エヴリー、フランス)によって承認された。新鮮な原発性または転移性のヒト腫瘍を、外科手術またはバイオプシーの時に患者から得て、6週齢の雌無胸腺HsdCpb:NMRI-Foxn1nuマウス(Harlan Laboratories)の乳房の脂肪体(外科手術サンプル)または下部脇腹(転移性サンプル)にすぐに移植した。動物には、飲料水に1μMの17b-エストラジオール(Sigma-Aldrich)を加えて連続的に供給した。移植した腫瘍が成長したら、下側脇腹への連続的な移植によって、このモデルを持続させた。各継代において、遺伝子型決定および組織学的研究のために、急速冷凍され、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された(FFPE)サンプルを採取した。
【0156】
BRCA1/2およびPALB2遺伝子の分析
DNAをPDX腫瘍サンプルまたは患者の末梢血液から抽出し、BRCA1、BRCA2およびPALB2遺伝子の次世代シーケンシングを行った。
【0157】
PARPiに対するPDX感受性のin vivo実験
PARP阻害に対する感受性を評価するために、腫瘍を有するマウスを、70~300mmの腫瘍を有する5~10匹のマウス治療群に均等に分けた。オラパリブ50mg/kgまたは100mg/kg、ニラパリブ75mg/kgまたは50mg/kg、またはベリパリブ100mg/kgを強制経口(p.o.)で毎日投与した(10%v/vのDMSO/10%w/vのKleptose[HP-β-CD]中)。腫瘍成長をカリパスで治療1日目から21日目までは2週間に1回、獲得耐性設定においては7~10日ごとに測定した。PARPiに対する獲得耐性を有するPDXモデルを作成するために、オラパリブ治療は、オラパリブ感受性腫瘍において、個々の腫瘍が再び成長するまで、150日まで継続した。全ての実験において、マウスの体重を週に2回記録した。腫瘍体積は、V=4π/3/Lxl2として計算され、「L」は、最大直径であり、「l」は、最小直径であった。腫瘍が1500mmに達したとき、または重大な体重減少の場合には、機関のガイドラインに従ってマウスを安楽死させた。抗腫瘍活性は、21日目の腫瘍体積をそのベースラインと比較することによって決定した。腫瘍体積変化率%=(V21日目-V初期)/V初期×100。オラパリブ感受性PDXの場合、その最良応答は、腫瘍体積変化率%の最小値が少なくとも10日間維持されることであると定義した。抗腫瘍応答を分類するために、腫瘍体積変化率%に対する固形腫瘍における応答評価基準(RECIST)の基準は、以下の通りであった。CR(完全奏功)、最良応答<-95%;PR(部分応答)、-95<最良応答<-30%;SD(安定)、-30%<最良応答<+20%、PD(進行)、最良応答>+20%。
【0158】
免疫蛍光染色
以下の一次抗体を免疫蛍光染色に使用した。ウサギ抗RAD51(Santa Cruz Biotechnology H-92、希釈率1:250)、Cell Signalling Technologies製のウサギ抗RAD51Ab(CST番号8875、83μg/mlストックから希釈率1:25)、Abcam製のウサギ抗RAD51 Ab(ab-133534、希釈率1:1000)、マウス抗ジェミニン(NovoCastra NCL-L、PDXサンプルにおいて1:100、患者サンプルにおいて1:60)、ウサギ抗ジェミニン(ProteinTech 10802-1-AP、1:400)、マウス抗BRCA1(Santa Cruz Biotechnology D-9、C-termについて1:50;またはAbcam MS110、N-termについて1:200)、およびマウス抗γH2AX(Millipore JBW301、1:200)。使用した二次抗体は、以下であった。ヤギ抗ウサギAlexa fluor 568(Invitrogen;1:500)、ヤギ抗マウスAlexa fluor 488(Invitrogen;1:500)、ヤギ抗マウスAlexa fluor 568(Invitrogen;1:500)およびヤギ抗ウサギAlexa fluor 488(Invitrogen;1:500)。
【0159】
薄い組織切片を、キシレンを用いて脱パラフィン化し、エタノールの濃度を下げつつ水和させた。標的抗原の検索のために、切片をpH9.0のDAKO Antigen Retrieval Buffer中、110℃で4分間マイクロ波処理した。切片を蒸留水中で5分間冷却し、次いで、DAKO Wash Buffer(Tween 20を含有する)を用い、5分間浸透させ、その後、ブロッキングバッファー(1%ウシ血清アルブミンを含むDAKO Wash Buffer)中、5分間インキュベートした。一次抗体をDAKO Antibody Diluentで希釈し、室温で1時間インキュベートした。切片をDAKO Wash Buffer中で5分間洗浄した後、ブロッキングバッファー中で5分間洗浄した。二次抗体をブロッキングバッファーで希釈し、室温で30分間インキュベートした。この2工程の洗浄を繰り返した後、蒸留水中、5分間インキュベートした。エタノールの濃度を上げつつ、脱水を行った。切片をDAPI ProLong Gold凍結防止試薬に取り付け、-20℃で保存した。免疫蛍光染色画像を、Olympus DP72顕微鏡を用いて解像度600倍で得て、Cellens Entryソフトウェアを用いて作成した。
【0160】
図に示されるとおり、(a)RAD51核内foci含有腫瘍細胞の割合、(b)γH2AX foci陽性RAD51 foci含有細胞の割合、または(c)ジェミニン陽性RAD51 foci含有細胞の割合を点数付けすることによって、RAD51を定量した。点数付けは、ライフイメージについて盲検法により行われた。最適には、各サンプルの少なくとも3箇所の異なる代表的な領域からの100個のジェミニンまたはγH2AX foci陽性細胞を分析した。利用可能な場合、各PDXモデルの3種類の生物学的複製物(ビヒクル処理されたものとオラパリブ処理されたものの両方)を調べた。
【0161】
免疫組織染色
患者由来の腫瘍異種移植片(PDX)組織に対するRAD51およびジェミニンのIHC染色も、Ventana Ultra Discoveryプラットフォームで開発された。薄いFFPE組織切片を、EZ Prep(Ventana)を用いて脱パラフィン化し、次いで、Cell Conditioning 1(CC1)溶液(Ventana)を用い、98℃で32分間かけて抗原を賦活化した。SignalStain Antigen Diluent(Cell Signaling Technology)で希釈したMouse on Mouse(M.O.M)Blocking Reagent(Vector Laboratories)のブロッキング試薬を用い、スライドを36℃で32分間かけてブロックし、次いで、Discoveryインヒビター(Roche)を用いて4分間ブロックした。Ventana Antigen Diluent with Caesin(Roche)中の抗RAD51(CST番号8875を6.6μg/mlで)および抗ジェミニン(Leica Geminin-NCL-L、希釈率1:10)抗体のカクテルを用い、スライドを36℃で32分間インキュベートした。UltraMap 抗Rb HRPを用いて16分間(Roche)、UltraMap 抗Ms AP(Roche)を用いて12分間かけて検出を行い、次いで、Purple and Yellowキット(Roche)を用い、それぞれについて32分間検出した。核は、ヘマトキシリンを用いて4分間かけて対比染色させた。次いで、スライドを石鹸水で洗浄し、すすぎ、60℃で30分間乾燥させた後、キシレンに浸し、カバースリップを載せた。洗浄工程は自動化され、1x Reaction Buffer(Roche)を用いて行われた。全てのスライドは、Zeiss Axio Z1スキャナを用い、対物レンズ40倍、最小の4 Z-スタックを用いてスキャンされた。
【0162】
RAD51 mRNA発現の分析
PerfectPure RNA Tissueキット(5Prime)を用いることによって、PDXサンプル(15~30mg)からRNAを抽出した。Agilent 2100 Bioanalyzerシステムによって純度および完全性を評価し、PrimeScript RT Reagentキット(Takara)を用いてcDNAを得た。
【0163】
定量RT-PCRを7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)で、TaqMan Universal Master Mix II(Applied Biosystems)を用い、前もって設計したヒト特異的プライマーおよびTaqManプローブ(GUSBについてはHs99999908_m1、ACTBについてはHs99999903_m1、RAD51についてはHs00153418_m1)を用いて行った。比較CT方法をデータ分析のために使用し、ここで、geNormアルゴリズムを適用し、最も安定に発現するハウスキーピング遺伝子(GUSBおよびACTB)を選択し、幾何平均を計算して正規化されたCT値を得た。
【0164】
患者コホート
このコホートは、Vall d’Hebron University Hospitalからの乳癌患者および卵巣癌患者から構成されており、これらの患者は、その疾患の代表的なFFPE材料を含み、IRBが承認したインフォームドコンセントフォームにサインしていた。免疫蛍光染色分析およびRAD51 foci定量は、FFPE PDX腫瘍サンプルについて記載したとおりに行われた。
【0165】
統計分析
全ての統計試験を、GraphPad Prismバージョン7.0を用いて行い、Paired検定または対応のないt検定(two-tail)を計算し、p値を得た。エラーバーは、特に言及されない限り、少なくとも3種類の生物学的複製物のSEMを表す。
【0166】
実施例1:PDXにおけるオラパリブの抗腫瘍活性は、HRRに関連する変化が存在するPARPi感受性腫瘍のサブセットを同定する。
PARPiオラパリブの抗腫瘍活性は、乳癌(BrC)の39種類のPDXモデル、卵巣癌(HGSOC/OvC)の3種類のPDXモデル、膵臓癌(PaC)の2種類のPDX(図1)で評価された。この目的のために、新鮮な腫瘍サンプルをBrC患者、HGSOC患者またはPaC患者から集め、ヌードマウスに移植し、実験用PDXモデルを作成した。オラパリブを用いた治療は、RECISTによって評価されるとおり、10種類のPDXモデルにおいて、完全奏功(CR、n=6)、部分奏功(PR、n=2)および安定(SD、n=2)の抗腫瘍活性を示した。これらのPARPi感受性PDXは全て、PALB2中の変異またはBRCA1プロモーターの過剰メチル化を含め、gBRCA1/2遺伝子変異または相同組換え修復(HRR)経路における機能的変化を有していた。残りの34種類のPDXモデルは、BRCA変異した患者およびBRCA野生型患者に由来するものであり、オラパリブ耐性であった(PD、進行)。PARPi感受性および獲得耐性の臨床的に関連する機構をin vivoで調べるために、このPDXコホートを使用した。
【0167】
実施例2:未治療の腫瘍は、検出可能なレベルの細胞増殖、DNA損傷およびRAD51 foci形成を有する。
上述のPDXコホート由来のホルマリン固定し、パラフィン包埋された(FFPE)腫瘍において、HRRの機能的状態をさらに観察した。腫瘍を、臨床で使用したクリニカルベネフィット率(Clinical Benefit Rate)と同様のエンドポイントとして、これらのオラパリブ応答に従って分類した(すなわち、耐性(PD)対感受性(CR/PR/SD))。具体的には、未治療(ビヒクル)PDX腫瘍および治療(オラパリブ)したPDX腫瘍のFFPEサンプルのサブセットにおいて、免疫蛍光染色によって検出されたγH2AXまたはRAD51核内 fociを含有する腫瘍細胞の割合を点数付けした(図2A)。γH2AX fociは、二本鎖DNA損傷のマーカーとして使用され、RAD51 fociは、HRRのマーカーとして使用された。予想されるとおり、オラパリブ治療は、全ての腫瘍において、γH2AX foci形成を増加させた。未治療サンプルは、既に、検出可能なベースラインDNA損傷レベルを有していた。RAD51 fociは、明らかに耐性モデルにおいて検出され、オラパリブ治療を用いて増加した。オラパリブ感受性腫瘍において、RAD51 fociは、γH2AX foci形成にもかかわらず、非常に低いか、または検出不可能であった。
【0168】
次いで、ジェミニンおよびγH2AX foci陽性細胞の割合を評価した(図2B)。ジェミニンは、細胞周期のS/G2期のマーカーとして使用され、したがって、細胞増殖のマーカーとして使用された。全ての群において、同等のレベルの細胞増殖が観察された。オラパリブ治療は、感受性腫瘍および耐性腫瘍の両方においてγH2AX foci形成を増加させた。
【0169】
次いで、ジェミニン陽性細胞におけるRAD51陽性細胞の割合(以下RAD51スコアとも呼ばれる)が、未治療(ビヒクル)PDXサンプルおよび治療(オラパリブ)したPDXサンプルの両方の細胞において決定された(図2C)。未治療サンプルと治療サンプルとの間の傾向は、同等であり、従って、その後の試験および分析は、前者の群(すなわち、未治療個体由来のサンプル)で行われた。
【0170】
感受性腫瘍におけるRAD51 foci形成の減少は、RAD51発現の減少の結果ではなかった(図2D)が、RAD51タンパク質の局在化の減少(すなわち、修復するためのDNA上へのRAD51ローディング)が示唆され、そのため、HRR経路の機能不全が示唆された。
【0171】
つまり、これらのデータは、RAD51アッセイによって同定されるRAD51核内foci含有腫瘍細胞の割合が低いことは、PARPi感受性と関連付けられること、RAD51核内foci含有腫瘍細胞の割合が高いことは、PDXコホートにおけるPARPi耐性と関連付けられることを示す。
【0172】
実施例3:低いRAD51核内foci形成は、71種類のPDXモデルの多施設パネルにおいてPARPi感受性PDX腫瘍を同定する。
RAD51アッセイを開発し、RAD51アッセイを前臨床的に検証するために、VHIO由来のPDX(n=44、図1)およびXenTech由来のPDX(n=27)を用いた多施設パネルを使用した。ジェミニン陽性細胞中のγH2AX foci陽性細胞の割合を評価した(図3A)。結果は、全ての腫瘍内で起こるDNA損傷がPARPi応答と独立していることを示していた。しかし、γH2AX foci陽性細胞またはジェミニン陽性細胞中のRAD51 foci陽性細胞の割合は、PARPi応答と相関があった(図3B~D)。実際に、PARPi感受性PDX由来の全ての腫瘍は、PARPi耐性PDXと比較して、ジェミニン陽性細胞内のRAD51 foci陽性細胞の割合が低いことを示していた。PARPi感受性を示す大部分のサンプルは、BRCA1/2またはPALB2遺伝子に変異を有しており(17種類の感受性モデルのうち、n=12が変異したもの)、7種類は、BRCA1 foci形成を示さなかった(図3D)。これらの結果は、特に、他を排除するものではないが、DNA損傷応答に関与する少なくとも1つのタンパク質において、何種類かが欠損している腫瘍において、機能的なHRRおよびPARPi応答の予測バイオマーカーとしてのRAD51アッセイの可能性を裏付けるものである。
【0173】
実施例4:RAD51 foci形成の評価は、PARPi応答と正確に関連付けられる。
RAD51スコアがPARPi応答と関連付けられることをさらに確認するために、図3Cからの結果を、Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて分析した(図4AおよびB)。このPDXコホートにおいて、結果は、RAD51スコアが、PARPi治療に対して感受性である感受性100%と特異度100%の腫瘍を識別することを示している。
【0174】
実施例5:RAD51スコアは、未治療の臨床サンプルにおいてPARPi応答を予測する。
さらに、PARPi感受性腫瘍を有する患者を、耐性腫瘍を有する患者に対して識別するためのRAD51スコアの正確さの臨床的検証を行った。gBRCA1 BrC患者またはgBRCA2 BrC患者またはHGSOC患者に由来する皮膚、肝臓、腹膜およびリンパ節の転移を含むサンプルからのデータを得る。一次PARPi耐性を有する2人の患者、4人のPARPi感受性患者と3人のPARPi進行状態の患者からのデータを示す(図5A)。これらの結果は、RAD51核内 foci含有細胞の割合の決定が、PARPi応答と正確に関連付けられることを示し、臨床におけるその潜在的な使用を裏付けている。
【0175】
次に、本願発明者らは、gBRCA変異がない合計21人の患者由来の24種類のサンプルにおける臨床的検証に拡張した(図5B)。PALB2がHRRにとって必須であることはよく知られているため、本願発明者らは、PALB2中に生殖細胞系列変異(gPALB2)を有する患者由来の12種類の腫瘍を含む患者コホートを追加した。24種類の腫瘍サンプルのうち15種類は、低いRAD51陽性を示し(6%以下)、12種類のgPALB2腫瘍サンプルを全て含んでいた。興味深いことに、gPALB2変異がなく、低いRAD51を有する3種類の腫瘍は、免疫蛍光染色によってBRCA1核内fociが無いことを示しており、このことは、BRCA1プロモーター過剰メチル化がHRR機能不全の原因であり得ることを示唆している。したがって、これらの結果は、RAD51アッセイが、BRCAに関連する癌よりもPARPi療法から利益を受け得るHRR欠損腫瘍を同定することを確証している。
【0176】
最後に、本願発明者らは、10種類の治療を受けていない原発性乳癌腫瘍(すなわち、抗癌治療を受けたことがない患者由来)と、初期/転移性設定において前治療を受けた患者由来の10種類の腫瘍を含む、20種類のgBRCA腫瘍サンプル(n=10がBRCA1変異しており、n=10がBRCA2変異している)においてRAD51 foci(図5C)形成およびγH2AX foci(図5D)形成を測定した。注目すべきことに、治療を受けていない原発性乳癌を含め、全ての腫瘍において内因性DNA損傷が検出された。さらに、RAD51/ジェミニン陽性は、治療を受けていないサンプルでは0~58%の範囲であり、これは化学療法を受けた患者由来の腫瘍と同様の範囲である。したがって、この試験は、非常に感受性であり、治療を受けていないサンプルにおいてRAD51 fociを検出する実現可能性を確認するものであり、HRR回復が、診断時に存在し得ることを示唆している。
【0177】
実施例6:RAD51スコアは、再発していないgBRCA変異した乳癌患者よりも、再発した疾患の方が高い。
本願発明者らは、長期間の疾患転帰を予想するためにRAD51スコアの潜在的な予測値を調べた。この目的のために、RAD51アッセイは、19種類のgBRCA変異したBrC患者のレトロスペクティブコホートからの未治療原発腫瘍において行われた。患者の臨床的な情報を表1に示す。
【表1】
表1:このコホートの患者について、BRCAの状態、腫瘍サブタイプ、TNMステージ、疾患再発および抗癌療法をまとめた、本実施例で分析された患者の臨床的な情報。腫瘍サブタイプ:lumA,ルミナルA;lumB,ルミナルB;lum,ルミナル(特定されず)。治療の種類:PTX,パクリタキセル;CP,シクロホスファミド;AC,ドキソルビシン+CP;L-DOX,リポソームドキソルビシン;CB,カルボプラチン;DTX,ドセタキセル;ERI,エリブリン;ET,エピルビシン+DTX;CPC,カペシタビン;TC,DTX+CP;TAC,DTX+ドキソルビシン+CP;unk,臨床記録で情報が入手不可能なため、未知の標準的な化学療法。
【0178】
全ての患者は、ネオアジュバント設定またはアジュバント設定のいずれかで、乳房腫瘍の根治手術と標準的な化学療法を受けた。再発しなかった全ての患者(フォローアップの5年以上後)は、低いRAD51スコアを示した。対照的に、RAD51 foci形成のレベルは、悪い疾患転帰(すなわち再発)を示す患者由来の腫瘍の方が高い(図6A)。再発群および未再発群は、伝統的な予後因子について偏りがなく、感受性100%および特異性80%を有するRAD51スコアによって識別された(図6B)。したがって、RAD51アッセイは、標準的な抗癌療法の後の臨床応答を予測する。
【0179】
実施例7:RAD51スコアは、HRR変化を有する前立腺癌のサブセットを同定する。
RAD51アッセイは、前立腺癌(Pr)および誘導された転移において、首尾良く行われた(図7)。BRCA2にゲノム変化または体細胞変化を有する3種類のサンプルにおいて、低レベルのRAD51 fociが検出された。注目すべきことに、gBRCA2変異した患者に由来するサンプルPrC-021は、標準的な化学療法カルボプラチンに対する耐性が発生した後に得られた。このサンプルにおける高いRAD51 fociレベルは、このDNA損傷薬物に対する長い曝露(特に数ヶ月間))からおそらく得られるHRR欠損の復帰を示唆している。4種類の他のBRCA野生型サンプルは、高いRAD51スコアを示した。したがって、RAD51スコアは、HRR能力および欠損に基づく前立腺腫瘍を階層化する。このデータは、低いRAD51スコアを有する前立腺癌を有する患者におけるPARPiの使用を裏付けている。
【0180】
実施例8:RAD51陽性についての最適なカットオフは、ジェミニン陽性細胞中の核内fociの数に基づく。
上の結果は全て、ジェミニン陽性細胞あたり少なくとも5個のRAD51 fociのRAD51陽性についてのカットオフを考慮して得られた。このパラメータは、図8A~Bに示されるとおり、9種類の代表的なPDX(6種類がPARPi耐性モデルであり、3種類がPARPi感受性モデル)における絶対的なRAD51 foci定量の徹底的な解析から得られた。定量分析は、HRR欠損腫瘍において、ジェミニン陽性細胞の大部分が0個のRAD51 fociを有しており、一方、HRRが欠損していない細胞は、細胞あたり5個のfociで最も高いピークを有するRAD51 foci数の二峰性分布を示す(図8C)。PARPi応答の予測に関し、本願発明者らは、未治療サンプルにおいて異なる閾値を用いる影響を分析し、細胞あたり1~5個のfociのカットオフが、もっと正確で特異的な予測を与えることを示した(図8D~E)。概して、本願発明者らは、分析したサンプルについて最大であり(すなわち、最もストリンジェント)、依然として非常に正確な閾値であるために、5foci/細胞のカットオフを使用することを決定した。
【0181】
実施例9:RAD51アッセイは、他の市販の抗RAD51抗体および他の免疫系アッセイを用いて再現可能である。
本願発明者らは、ビヒクル治療した腫瘍PDXおよびPARPi治療した腫瘍PDXの両方においてRAD51スコアを、RAD51に対する別の市販の抗体を用いて定量することによって、前述の知見を検証した(図9A)。同様の結果が、RAD51が欠損していない細胞株/欠損している細胞株(図9B)および代表的なPDX(図9C)において試験された第3の抗RAD51抗体を用いても観察された。さらに、本願発明者らは、RAD51スコアを定量するために免疫組織染色アッセイを開発し、以前使用した免疫蛍光染色アッセイと比較して、同等の結果が得られた(図9B~C)。
【0182】
実施例10:RAD51アッセイは、複数の腫瘍型で実行可能である。
これまでに、本願発明者らは、RAD51アッセイが、種々の乳癌サブタイプ、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、および皮膚、リンパ節および骨髄を含む転移性部位で働くという証拠を示した(図1~7)。最後に、本願発明者らは、小児神経芽腫、脳および肝転移を含む他の腫瘍型におけるRAD51アッセイの性能も試験した。実際に、本願発明者らは、種々の腫瘍型由来のRAD51 foci陽性サンプルおよびRAD51 foci陰性サンプルを発見し、このことは、あらゆる腫瘍に対するRAD51アッセイの使用拡大の可能性を示唆している。
【0183】
まとめると、これらの結果は、RAD51スコアが、HRR機能性および個々の腫瘍型における抗癌療法に対する応答の安定した高度に正確なバイオマーカーであることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5AB
図5CD
図6
図7
図8AB
図8CDE
図9AB
図9C
図10A
図10B