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特許7324777腫瘍抗原に対するL2A5抗体またはその機能的断片
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】腫瘍抗原に対するL2A5抗体またはその機能的断片
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20230803BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230803BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230803BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20230803BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230803BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230803BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230803BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230803BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12Q1/04
A61K39/395 T
A61P35/00
G01N33/53 S
G01N33/574 D
C12N15/13
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020560859
(86)(22)【出願日】2019-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 PT2019000001
(87)【国際公開番号】W WO2019147152
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】110526
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】520271403
【氏名又は名称】ウニベルシダーデ ノバ デ リジュボア
(73)【特許権者】
【識別番号】520271414
【氏名又は名称】インスティトゥート ポルトゥゲス デ オンコロジア ド ポルト エーフィジェ、エペエ
(73)【特許権者】
【識別番号】520271425
【氏名又は名称】ヘルムホルツ - ツェン - トゥルム ドレスデン - ロッセンドルフ - インスティトゥーテ オブ ラディオファーマシューティカル キャンサー リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビデイラ、ポーラ アレクサンドラ キンテラ
(72)【発明者】
【氏名】ノボ、カルロス マヌエル メンデス
(72)【発明者】
【氏名】ローレイロ、リリアナ ラケル ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】カラスカル、ミレーネ アデレイデ ド ロザリオ
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ、ホセ アレクサンドル リベイロ デ カストロ
(72)【発明者】
【氏名】パルマ、マリア アンジェリーナ デ サ
(72)【発明者】
【氏名】サントス、ルシオ ララ
(72)【発明者】
【氏名】リマ、ルイス カルロス オリベイラ
(72)【発明者】
【氏名】チャイ、ウェンガン
(72)【発明者】
【氏名】バックマン、マイケル
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-195666(JP,A)
【文献】国際公開第2016/057916(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/040529(WO,A1)
【文献】Loureiro, L. R. et al.,Challenges in Antibody Development against Tn and Sialyl-Tn Antigens,Biomolecules,5(3),2015年08月11日,p.1783-1809
【文献】Tanaka, N et al.,Binding characteristics of an anti-Siaalpha2-6GalNAcalpha-Ser/Thr (sialyl Tn) monoclonal antibody (MLS132),Eur J Biochem,263(1),1999年07月,p.27-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/30
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/63
C12P 21/08
C12Q 1/04
A61K 39/395
A61P 35/00
G01N 33/53
G01N 33/574
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)の組合せを含む抗体であって、
前記VLが、配列番号6、8および10にそれぞれ記載される、相補性決定領域(CDRs)L-CDR1、L-CDR2およびL-CDR3を含み、かつ
前記VHが、配列番号12、14および16にそれぞれ記載される、相補性決定領域(CDRs)H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3を含前記抗体がシアリルTn(STn)とα2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに結合する、
上記抗体。
【請求項2】
前記VLが配列番号5、7および9を含み、かつ前記VHが配列番号11、13および15を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記VLが配列番号4を含み、かつ前記VHが配列番号3を含む、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンが、STn、2,6-シアリルT、ジ-シアリルTまたは2,6-シアロラクトサミンを含む、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体が、グリコシル化部位でグリカン変化に供される、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体である、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体が、その機能的抗体断片またはそのプローブであり、STnとα2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに結合する、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の抗体を使用して、対象の腫瘍を検出する方法であって、前記方法は、前記抗体の特異的結合に適した条件下において対象から得られた生物学的試料を請求項1からのいずれか一項に記載の体で染色する工程を含み、前記抗体の結合の存在または非存在が、細胞表面STn、2,6-シアリルT、ジ-シアリルTまたは2,6-シアロラクトサミンを発現する腫瘍細胞の存在または非存在を示す、上記方法。
【請求項10】
前記生物学的試料が、単離された細胞、または組織、または腫瘍由来タンパク質を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
医薬における使用のための、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項12】
がんの治療における使用のための、請求項1からのいずれか一項に記載の抗体を含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1からのいずれか一項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項14】
前記ポリヌクレオチドが配列番号1および/または配列番号2を含み、配列番号1がH-CDR1の核酸配列GGCTACTCCATCACCAGTGGTTATTAC(配列番号12のアミノ酸配列をコードする核酸配列)、H-CDR2の核酸配列ATAAACTACGACGGTAGCAAT(配列番号14のアミノ酸配列をコードする核酸配列)およびH-CDR3の核酸配列GCAAGAGGGGGGGACTAC(配列番号16のアミノ酸配列をコードする核酸配列)を含み、かつ配列番号2がL-CDR1の核酸配列TCAAGTGTAAGTTAC(配列番号6のアミノ酸配列をコードする核酸配列)、L-CDR2の核酸配列GACACATCC(配列番号8のアミノ酸配列をコードする核酸配列)およびL-CDR3の核酸配列CAGCAGTGGAGTAGTGACCCACCCATGCTCACG(配列番号10のアミノ酸配列をコードする核酸配列)を含む、請求項13に記載の発現ベクター。
【請求項15】
請求項13または14記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項15記載の宿主細胞を使用することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の抗体を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌において同定された一群の抗原に対する抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブを提供する。
【背景技術】
【0002】
シアリルTn(STn)は、GalNAc残基を介してα構成でポリペプチド鎖のセリン残基またはスレオニン残基にO結合したN‐アセチルガラクトサミンに結合したシアル酸、すなわち、Neu5Acα-2,6GalNAcからなる二糖である短いO‐グリカン抗原である。その意義は、正常な健康な組織には存在しないが、ほとんどすべての種類の癌腫に様々な頻度で検出されるという事実に関係している(Julien,Videira,&Delannoy,2012)。さらに、STnは、転移性、薬剤耐性および高悪性度の癌細胞の標的である。それらの興味を起こさせる特徴は以下の通りである。
1)STn発現と、ヒト癌細胞の発癌および転移能力ならびに癌開始細胞との関連(Okasaki et al.,2012)。
2)STnと、患者の予後不良、総生存率の低下および化学療法に対する応答の欠如との相関(Choi et al.,2000)、ならびに3)免疫防御からの回避(Carrascal et al.,2014)。
【0003】
α-2,6シアル酸は、典型的には癌バイオマーカーを終結させる。いくつかのタイプの癌では、短いα2,6シアリル化O‐グリカンが過剰発現している。それらは一般に、癌の進行および転移に関与している。さらに、それらは、シアル酸結合タンパク質(Siglecs)などの多くの免疫受容体による認識を通じて免疫回避に寄与する可能性がある(Crocker,Paulson,&Varki,2007;Nicoll et al.,2003)。
【0004】
したがって、本発明は、癌バイオマーカーに特異的に結合する抗体、機能的抗体断片またはプローブを提供する。これらの抗体は、腫瘍細胞の特異的同定に加えて、免疫寛容を含め、腫瘍進行の根底にある機構に関与する、宿主細胞受容体によるそのようなリガンドの認識を遮断する可能性を有する。
【0005】
癌患者の治療に承認されている抗体は相当数ある(https://www.cancer.org/)。それらは以下を含む。
【0006】
1.癌特異的(関連)抗原を標的とするモノクローナル抗体(mAb)。組換えヒト化mAb抗HER2トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))は、様々な科学刊行物、例えば、Cancer Res.,1998,58:2825-2831に記載されている。抗HER2トラスツズマブは、乳癌患者のほぼ30%に発現しているHER2受容体を標的とする。特許国際公開第0105425号パンフレットは、抗HER2トラスツズマブ抗体に結合されたアルキル化アントラサイクリンを含む抗腫瘍組成物を記載している。ただし、これらの治療は限られた数の患者(乳癌患者の30%)にしか利用できない。また、トラスツズマブ抗体が標的とするHER2タンパク質は、心臓細胞などの関連する正常細胞にも発現し、これは、関連する心毒性の主な原因となる。本発明は、STn、またはα-2,6シアル酸により末端化されたグリカンの群により修飾された、様々なタイプの癌によって発現される、HER2を超えるさらに広範囲の多数の受容体を標的とする組換え抗体の開発を可能にする。これにより、さらに広範囲の癌患者群に対する治療法の開発が可能になる可能性がある。STn、およびα-2,6シアル酸により末端化されたグリカンの両方は、癌細胞によって高度に過剰発現されるため、特異性が高くなり、毒性が低下する可能性もある。
【0007】
2.免疫系の働きを停止させる分子を遮断するMAb。それらは免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれ、CTLA-4、PD-1およびPD-L1を遮断する薬物を含む。PD-1阻害剤の例は、皮膚の黒色腫、非小細胞肺癌、腎癌、膀胱癌、頭頸部癌およびホジキンリンパ腫の治療に承認されているペンブロリズマブ(キイトルーダ)およびニボルマブ(オプジーボ)である。ただし、免疫チェックポイントは即時の抗腫瘍応答をもたらさず、典型的にはアジュバント療法として使用される。また、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫系が体内のいくつかの正常な臓器を攻撃することを可能にし得、これにより、一部の人々に深刻な副作用を引き起こす可能性がある。
【0008】
3.癌細胞が分裂するために必要な細胞シグナル伝達を遮断するMAb。これらには、血管成長に影響を与えるVEGFを標的とするベバシズマブ(アバスチン(登録商標))と、細胞増殖に重要なEGFRと呼ばれる細胞タンパク質を標的とする抗体であるセツキシマブ(アービタックス(登録商標))とが含まれる。ただし、これらの抗体は細胞のシグナル伝達を遮断し、生理学的機構にも影響を及ぼし、高血圧、出血、血栓および腎障害などの毒性と関連している。
【0009】
腫瘍関連炭水化物抗原に対するヒト抗体をコードする核酸をクレームするいくつかの特許文献(欧州特許第2014302 A1号明細書、国際公開第2015053871 A4号パンフレット、米国特許第7423126 B2号明細書、欧州特許第2993184 A1号明細書)がある。ただし、上記特許文献中のいずれの抗体も、本発明の抗体の標的であるSTn抗原を認識しない。
【0010】
特許出願欧州特許第2680004(A2)号明細書は、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)またはN-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を含有するSTn抗原を含むシアリル化グリカンに対する抗体をクレームしているが、本発明は、NeuAcを主に有するSTn抗原と、α-2,6シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的な抗体に関する。
【0011】
特許出願国際公開第1998046246 A1号パンフレットおよび国際公開第1995029927 A3号パンフレットは、2,6シアリルT抗原を含む腫瘍関連炭水化物抗原のα-O結合型複合糖質またはグリコシドを製造する方法をクレームする。癌を治療するための抗体を開発するために使用される可能性に言及しながら、これらの特許出願のいずれも、2,6‐シアリルT抗原を検出するための抗体配列を提供せず、本特許の主題である関連する2,6シアル酸含有抗原群も提供しない。
【0012】
NeuGcを含むシアル酸残基を認識するIgM抗体を特徴付けるカナダ特許第2743032 A1号明細書、または脱N-アセチル化シアル酸に特異的に結合する抗体をクレームする米国特許第20160184450 A1号明細書および米国特許第8148335 B2号明細書、またはNeuGc構造を認識する抗体を含む欧州特許第2302390 A1号明細書および米国特許第20120142903 A1号明細書特許出願などのいくつかの特許出願は、シアル酸残基に結合する抗体をクレームしている。一方、本発明は、GalNAc(STn抗原)に結合したNeuAcだけでなく、α-2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群内のNeuAcの構造も認識する抗体をクレームする。
【0013】
欧州特許第2261255 A1号明細書特許出願は、単糖NeuAcを認識する、ニワトリにおける抗体の産生を記載し、米国特許第20110034676 A1号明細書特許出願は、Neu5Ac構造およびNeu5Gc構造の両方に対するポリクローナル抗体の産生および精製をクレームする。さらに、本発明は、オリゴ糖STn抗原と、α-2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とを標的とする、マウスにおいて産生されるmAbをコードする核酸をクレームする。本発明は、正常細胞にも発現する単糖NeuAcだけでなく、腫瘍関連グリカンを区別することを可能にするため、これは利点である。
【0014】
さらに、米国特許第2010/0034825 A1号明細書特許出願は、長いTn-またはSTn-MUC1タンデムリピート糖ペプチドによる免疫化を使用する、MUC1糖タンパク質に対する抗体の産生をクレームする。この研究は、標的構造が異なる、すなわち、MUC1糖タンパク質を標的とし、グリカン構造を標的とせず、STnもα-2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンも標的としないため、本発明とは異なる。
【0015】
国際公開第2016057916A1号パンフレットの特許の抗体は、STn抗原を認識し、α-2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンを認識しない。
【0016】
上記によれば、腫瘍抗原は、正常細胞に同時に発現するため、腫瘍特異的でないことが多い。したがって、標的療法は、典型的には、オフターゲット効果のために関連する毒性を示す。腫瘍抗原は汎腫瘍抗原ではなく、特定のタイプまたはグレードの癌に限定される。したがって、標的療法は、典型的には、癌の特定のサブセットに限定される。
【0017】
その結果、癌細胞においてのみ同定された独特の抗原群に対する抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブを開発する必要がある。
【0018】
異なるタイプおよびサブタイプの癌細胞に過剰発現するSTn、2,6‐シアリルT、ジシアリルTおよび2,6-シアロ-N-アセチルラクトサミンなどのシアリル化グリカンを標的とする抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブを産生することを可能にする独自の核酸配列は非常に重要である。
【0019】
本発明は、STnと、α-2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに対するmAbをコードするヌクレオチド配列に関する。これらの抗原は、癌では過剰発現されるが正常細胞では発現されない短鎖グリカンである。これらの抗原は免疫受容体のリガンドでもあり、腫瘍細胞に対する免疫系の活性を弱めるため、免疫チェックポイントのリガンドとも考えられ得る。
【0020】
説明
モノクローナル抗体(mAb)とは、単一のB細胞クローンによって産生される抗体を指す。MAbは、B細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドであるハイブリドーマ、または免疫グロブリン重鎖および軽鎖をコードする組換えDNAを発現し、したがって単一の特異的抗体を産生する細胞株によっても産生され得る。
【0021】
この抗体は細胞外環境に発現し、そこから精製される。
【0022】
抗体の特異性とは、1つの抗原、または特定のエピトープを共有する一群の抗原と反応するその能力である。抗原決定基としても知られているエピトープは、抗体によって認識される抗原の一部である。
【0023】
抗体はタンパク質の免疫グロブリンクラスに属し、2つの同一の重鎖(約50~70kDa)と2つの同一の軽鎖(約25kDa)との集合体である。各重鎖または軽鎖のアミノ末端には、可変領域をコードする、100~130個のアミノ酸の配列がある。各重鎖または軽鎖のカルボキシル末端には、定常領域をコードする配列がある。
各抗体は同じ抗原に2回結合する。すなわち、2価である。
【0024】
抗原結合断片(Fab)とは、抗原に結合する抗体断片である。各Fabは、抗体の各重鎖および軽鎖からの1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインから構成されている。断片結晶化可能(Fc)領域は、2つの重鎖のカルボキシ末端の2つまたは3つのドメインから構成されている。Fabが抗原への結合を確実にするのに対して、Fc領域は各抗体がエフェクター免疫応答を引き起こすことを確実にする。Fc領域は、Fc受容体などの様々な細胞受容体、および補体タンパク質などの他の分子に結合し、食細胞による食作用を促進するオプソニン化、ナチュラルキラー細胞による細胞溶解、ならびに肥満細胞、好塩基球および好酸球の脱顆粒を含む様々な生理学的作用を媒介する。
【0025】
用語「可変ドメイン」または「可変領域」は、抗原と相互作用する、抗体の軽鎖または重鎖のアミノ末端部分である。それは、重鎖では約120~約130アミノ酸、軽鎖では約100~約110アミノ酸の長さを有する。各可変領域の配列は、特に、特異的な抗原との相互作用に関与する相補性決定領域(CDR)では実質的に変化する。CDRは、変化の少ないフレームワーク領域(FR)に隣接している。軽鎖および重鎖のそれぞれのCDRは3つである。CDR L1、L2およびL3は軽鎖内にある。CDR H1、H2およびH3は重鎖内にある。
【0026】
「機能的抗体断片またはプローブ」という表現は、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含むか、抗体の重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のいずれかを含む、抗体の一部である。機能的抗体断片またはプローブは、断片またはプローブが由来する最初の抗体の結合活性のほとんどまたは全部を保持する。そのような機能的抗体断片またはプローブは、一本鎖Fv(scFv)、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびミニボディを含み得る。
【0027】
用語「ヌクレオチド配列」は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらの類似体のいずれかである任意の長さのヌクレオチドの配列を指す。
【0028】
ヌクレオチド配列は転写されてmRNAを生成することができ、mRNAは次いでポリペプチドおよび/またはその断片に翻訳される。
【0029】
本発明に由来する潜在的な治療とは、STnの発現またはα-2,6シアリル化グリカンの群の発現に関連する疾患の治療、管理または改善に対する使用を指す。本実施形態では、可能な治療とは、その天然または改変された形態にある、本発明に由来する抗体、機能的抗体断片またはプローブを指す。
【0030】
また、疾患の治療、管理または改善のために有用であることがよく知られているか、そのために使用されてきたか、現在使用されている薬剤と組み合わせて、可能な治療を本発明に含めることができる。
【0031】
診断剤としての潜在的な使用とは、対象に投与した際に疾患の診断に役立つ物質を指す。そのような物質は、疾患の進行に由来するプロセスの疾患の局在を検出および/または定義するために使用することができる。また、特定の治療に対する応答または疾患の予後を予測するのに役立ち得る物質も含まれる。特定の実施形態では、診断剤の使用とは、本発明の抗体または機能的抗体断片またはプローブと、蛍光、酵素または二次抗体などのレポーター分子とのコンジュゲーションを意味する。
【0032】
シアリルTn、別名、STn、シアロシルTn、シアリル化Tn、Neu5Ac-α2,6GalNAcα-O-Ser/Thr、または「表面抗原分類」命名法によりCD175sとも呼ばれるものは、最も単純なシアリル化ムチン型O-グリカンである。STnは、セリン/スレオニン(Ser/Thr)にO結合したN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)αに(炭素6を介して)結合したシアル酸(Neu5Ac)α-2,6[Neu5Ac-α2,6GalNAcα-O-Ser/Thr]を含む切断されたO-グリカンである。シアリル化は、ムチン型O-グリカンに通常見られる様々なコア構造の形成を防ぐ。
【0033】
STnは、癌患者の有害転帰および予後不良に関連している。STn抗原の生合成は、シアリルトランスフェラーゼST6GalNAc1の発現、およびCOSMC遺伝子のヘテロ接合性の変異または消失に関連している。
【0034】
STnはヒトの癌腫の80%超に発現しており、癌患者の予後不良に関連している。
【0035】
本発明は、抗体重鎖もしくは抗体軽鎖またはその機能的抗体断片もしくはプローブをコードするヌクレオチド配列を提供し、本発明のヌクレオチド配列によってコードされる抗体重鎖もしくは抗体軽鎖またはその機能的抗体断片もしくはプローブは、表1および表2に列挙されるCDRのうちの1つ以上を有する。CDRのうちの1つ以上を含む抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブは、STnに、またはα-2,6シアリル化グリカンの群に特異的に結合することができる。具体的には、結合には、例Iで提供されるような特異性、親和性および/または結合活性が含まれる。
【0036】
別の態様では、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる抗体またはその機能的断片は、補体依存性細胞傷害活性および/または抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)活性を含み得る。
【0037】
本発明の抗体の産生方法は、2つの細胞を融合してハイブリドーマを産生すること、宿主細胞に本発明のヌクレオチド配列を導入すること、本発明の抗体のコードされた重鎖および/または軽鎖または機能的断片を産生するための条件下で、かつそのために十分な時間にわたり宿主細胞を培養すること、および抗体または機能的断片の重鎖および/または軽鎖を精製することを含むことができる。
【0038】
STnに、またはα-2,6シアリル化抗原の群に結合する、本発明の抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブの組換え発現には、本発明の抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブの重鎖および/または軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターの構築が含まれ得る。
【0039】
ベクターは、組換えDNA技術によって作製することができる。このようなベクターはまた、キメラ配列を起源とする他のコードヌクレオチド配列を含み得る。例えば、ベクターは、本発明の抗体、その機能的抗体断片またはプローブのアミノ酸配列に続いて、重鎖全体もしくは軽鎖全体、または重鎖全体および軽鎖全体の両方を含むキメラタンパク質の発現を可能にする、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列(国際公開第86/05807号パンフレットおよび国際公開第89/01036号パンフレット)を含み得る。
【0040】
発現ベクターは、トランスフェクション/形質導入技術によって宿主細胞に移入することができ、得られた細胞は、本発明の抗体またはその機能的断片を産生する。したがって、本発明は、本発明の抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブをコードするヌクレオチド配列を含む宿主細胞を含む。
【0041】
宿主細胞は、挿入されたヌクレオチド配列に由来する産物の特徴を改変するように選択することができる。
【0042】
一実施形態では、これらの宿主細胞は、コードされたタンパク質に、グリコシル化部位もしくはリン酸化部位または他の改変を加えることができる。別の実施形態では、宿主細胞は、タンパク質の正しいプロセシングおよび細胞移動/分泌を提供することができる。
【0043】
一本鎖断片可変抗体(scFv)とは、リンカーを介して結合され、一価の抗原結合部位を形成するVL領域およびVH領域のみを含む機能的抗体断片を指す。ダイアボディ、トリボディおよびテトラボディは、scFvの二量体、三量体または四量体を含む抗体であり、すなわち、それぞれ2つ、3つおよび4つのポリペプチド鎖を含み、同じであっても異なっていてもよい2つ、3つおよび4つの抗原結合部位をそれぞれ形成する。
【0044】
本発明の得られる抗体、その機能的抗体断片またはプローブは、1つ以上の結合部位を有し得る。複数の結合部位を含む場合、これらの部位は互いに同一であっても、異なっていてもよい。2つの異なる結合部位の場合、抗体、機能的抗体断片またはプローブは「二重特異性」抗体と呼ばれる。
【0045】
本発明の抗体の特異性を保持しながら、親和性を改善するCDR領域に変異を導入するために、アミノ酸置換をもたらす部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発を使用することができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体、機能的抗体断片またはプローブは、1つ以上の診断剤または治療剤もしくは任意の他の所望の分子にコンジュゲートまたは融合される。得られたコンジュゲートされた抗体、機能的抗体断片またはプローブは、STnまたはα-2,6シアリル化グリカンの発現に関連する疾患の発症、発現、進行および/または重症度のモニタリングまたは診断に有用であり得る。
【0047】
例として、限定するものではないが、細胞殺傷または他の効果を誘導するために、抗体が治療剤にコンジュゲートされ得る。治療剤は、化学療法薬;タキサン;代謝拮抗薬、アルキル化剤、抗生物質、抗有糸分裂剤、ホルモン、ヌクレオシド類似体、キナーゼ阻害剤、放射性金属イオン、毒素、サイトカインまたは抗血管新生剤であり得る。
【0048】
本発明の抗体または機能的断片はまた、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリーならびにイムノブロッティングなどの従来の免疫組織学的方法またはイムノアッセイを使用して、任意の生物学的試料中のSTnまたはα-2,6シアリル化グリカンの発現を検出するために使用され得る。
【0049】
有効濃度で提供される医薬組成物に、本発明の抗体、その機能的抗体断片またはプローブを単独で含めるか、コンジュゲートするか、組み合わせて、最小限の副作用で治療的に有用な効果をもたらすことができる。
【発明の概要】
【0050】
本発明は、シアリルTn(STn)と、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを提供する。
【0051】
抗体、その機能的抗体断片またはプローブは、抗原結合部位に結合する。可変重鎖および可変軽鎖をコードするヌクレオチド配列の例は、それぞれ配列番号1および2である。
【0052】
抗体は、シアリルTn(STn)を含むムチンによりマウスを免疫化した後に得られた。ヌクレオチド配列は、L2A5モノクローナル抗体に由来した。1つのヌクレオチド配列は、可変重(VH)鎖(配列番号1)を提供し、H-CDR1(GGCTACTCCATCACCAGTGGTTATTAC、アミノ酸配列番号12)、H-CDR2(ATAAACTACGACGGTAGCAAT、アミノ酸配列番号14)およびH-CDR3(GCAAGAGGGGGGGACTAC、アミノ酸配列番号16)を含む。1つのヌクレオチド配列は、相補性決定領域(CDR):L-CDR1(TCAAGTGTAAGTTAC、アミノ酸配列番号6)、L-CDR2(GACACATCC、アミノ酸配列番号8)およびL-CDR3(CAGCAGTGGAGTAGTGACCCACCCATGCTCACG、アミノ酸配列番号10)を含む可変軽(VL)鎖(配列番号2)を提供する。
【0053】
軽鎖のL‐CDR1、L‐CDR2およびL‐CDR3と重鎖のH‐CDR1、H‐CDR2およびH‐CDR3との組合せは、二糖STn抗原を認識するだけでなく、意外にも、癌にも過剰発現される、α‐2,6シアル酸により末端化されたグリカンの群も認識するペプチド配列をコードする独自の配列を生成する。これらのペプチド配列は、追加の抗体、機能的抗体断片またはプローブを生成するために使用される。抗体、機能的抗体断片またはプローブによって認識されるグリカンのこの全体的な群は、
シアリルTn:
NeuAcα-6GalNAcα/β1-
2,6-シアリルT:
Galβ1-3GalNAcα1-

NeuAcα2-6
ジシアリルT:
NeuAcα2-3Galβ1-3GalNAcα1-

NeuAcα2-6
2,6-シアロ-N-アセチルラクトサミン:
NeuAcα2-6Galβ1-4Glcβ1-を含む。
【0054】
そのような特異性を有する抗体は、現在の抗体および抗体ベースの抗癌療法とは対照的に、腫瘍特異性が高く、正常細胞に対する反応性が低いか存在しないため、特に興味深い。
【0055】
本発明の単離されたポリヌクレオチドはまた、本明細書に提供される核酸配列を含むことができ、核酸配列は、抗体、機能的抗体断片またはプローブの可変重鎖ドメインおよび可変軽鎖ドメインをコードする。核酸配列の例は、それぞれ、配列番号1および2である。
【0056】
別の態様では、本発明は、対象の腫瘍を検出する方法に使用するための、STnと、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを提供する。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の抗体、機能的抗体断片またはプローブおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0058】
別の実施形態では、本発明は、細胞間相互作用または受容体-リガンド相互作用を遮断する抗体、機能的抗体断片またはプローブを含む医薬組成物を提供する。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の医薬組成物の治療有効量を投与することにより、必要とする対象の疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0060】
本開示は、本明細書の開示を限定することを意図せずに、理解を容易にするために、例示された実施形態の添付の図面を提示する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】間接ELISAを使用したL2A5抗体の力価と動物ムチンへの結合とを示す。シアリダーゼを用いて前処理したか前処理していないウシ顎下ムチン(BSM)の様々な被覆濃度を使用して、抗体滴定を行った。陰性対照としてリン酸緩衝液を使用し、陽性対照としてBSMへの抗STn抗体B72.3の結合を使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgGを用いて、L2A5 mAbの結合を検出した。
図2】腫瘍細胞の細胞表面へのL2A5の結合を示す。フローサイトメトリーによって、およびST6GalNAc1遺伝子を形質導入され、ひいてはSTn抗原を過剰発現する癌細胞株またはST6GalNAc1遺伝子を形質導入していない癌細胞株(野生型)を使用して、L2A5抗体の結合を評価した。図は、STn陽性およびWT乳癌細胞株MDA-MB-231における相対細胞数L2A5抗体の代表的なヒストグラムを示す。3F1抗体(抗STn抗体)を使用したか、二次抗マウスIg-FITC抗体(灰色のプロファイル)を使用した。シアリル化抗原への結合特異性を評価するために、シアリダーゼ処理によってSTn発現細胞株を脱シアリル化した。実線および破線は、それぞれシアリダーゼ未処理細胞およびシアリダーゼ処理済み細胞のヒストグラムを表す。X軸は、STn発現に関連する蛍光を表す。
図3】膜結合タンパク質および組換えヒトムチン1(MUC1)に対するL2A5抗体の反応性を示す。STnを発現するMDA-MB-231細胞株の膜抽出物に対する、およびSTn+ヒトIg Fc領域によって強く修飾されたMUC1のキメラタンパク質に対する抗STn抗体3F1およびL2A5の結合のウエスタンブロット分析。MDA-MB-231 STn膜抽出物(A)およびキメラタンパク質MUC1 STn-IgG(B)を3F1抗体およびL2A5抗体により染色した。未処理の膜抽出物およびキメラタンパク質(NT)のブロッティングに加えて、膜抽出物試料はシアリダーゼを使用した脱シアリル化であるか(T)、非グリコシル化MUC1 STn-IgGタンパク質を使用した(Ung)。
図4】パラフィン包埋膀胱癌における免疫組織化学によって測定されたL2A5抗体の反応性を示しており、a)L2A5(左)染色は高い伸展および強い強度を示しているのに対して、STnにのみ結合するB72.3(中央)mAbおよびTKH2(右)mAbは、低い感度、弱い強度での形質導入、および特異的染色の伸展の低下を示している。b)利用可能な抗体と比較したL2A5の感度。L2A5(左)は、同じ領域で異なる反応性を示すB72.3(中央)およびTKH2(右)とは異なり、減少した量の抗原(矢印)を認識する。C)抗体反応性における癌組織のシアリダーゼ処理の効果。シアリダーゼによる処理およびL2A5とのインキュベーションの後、L2A5によって付与された染色は完全に消失する。左:シアリダーゼを使用せず、右:シアリダーゼを使用。
図5】パラフィン包埋結腸直腸癌における免疫組織化学によって測定されたL2A5抗体の反応性を示す。図は、STn抗原に対する抗体と比較したL2A5の反応性を示している。L2A5(左)は、B72.3(中央)およびTKH2(右)の反応性と比較すると、伸展および強度の点で反応性の増加を示している。
図6】パラフィン包埋膀胱癌における免疫組織化学によるL2A5抗体の反応性を示す。図は、B72.3およびTKH2抗STn抗体と比較した場合のL2A5抗体の高い特異性の免疫組織化学的証拠を示している。a)-転移性膀胱癌試料におけるL2A5の腫瘍特異性。L2A5は腫瘍細胞(矢印)に主に存在し、リンパ球集団、血管および結合組織には存在しない。b)-正常な結腸直腸組織におけるL2A5(左)抗体およびB72.3(右)抗体の反応性。L2A5は腸細胞(矢印、左)とのかすかな反応性を示し、B72.3は杯細胞(右)と反応する。
図7】L2A5抗体が結合するグリカン抗原配列を示す。グリカンマイクロアレイ分析によってグリカン特異性を決定した。
図8】本発明の目的である、L2A5の核酸によってコードされるアミノ酸を含む部分から構成される標的モジュール(TM)のインビボ抗腫瘍能力を示す。L2A5由来TMは抗体断片であり、L2A5と同じ反応性、すなわち抗STn TMを有する。UniCAR T細胞を介したSTn陽性細胞の殺傷は、標的特異的であり、TMの存在に厳密に依存していた。
図9】本発明の目的である、L2A5の核酸によってコードされるアミノ酸を含む部分から構成される標的モジュール(TM)のインビボ抗腫瘍能力を示す。L2A5由来TMは抗体断片であり、L2A5と同じ反応性、すなわち抗STn TMを有する。STn+腫瘍を発現する動物モデルへの抗STn TMおよびUniCAR T細胞(Koristka et al 2014)の養子移入は、STn陽性腫瘍の効果的かつTM依存的な根絶を示す。図8は、STn抗原に特異的なTMを備えたUniCAR T細胞を使用すると、腫瘍細胞が死滅することを示す。Bonferroni多重比較検定とともに一元配置分散分析を使用して、統計分析を行った(**p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明は、STnと、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを提供する。
【0063】
抗体、その機能的抗体断片またはプローブは、抗原結合部位に結合する。可変重鎖および可変軽鎖をコードするヌクレオチド配列の例は、それぞれ配列番号1および2である。
【0064】
本発明の単離されたポリヌクレオチドはまた、本明細書に提供される核酸配列を含むことができ、核酸配列は、抗体、機能的抗体断片またはプローブの可変重鎖ドメインおよび可変軽鎖ドメインをコードする。
【0065】
本発明はさらに、STnと、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを産生するための組成物を提供する。
【0066】
組成物は、抗体、機能的抗体断片またはプローブの抗原結合部位をコードするヌクレオチド配列を含む。組成物は、可変重鎖および可変軽鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0067】
本発明の単離されたポリヌクレオチドはまた、本明細書に提供される核酸配列を含むことができ、核酸配列は、抗体、機能的抗体断片またはプローブの可変重鎖ドメインおよび可変軽鎖ドメインをコードする。
【0068】
別の態様では、本発明は、対象の腫瘍を検出する方法に使用するための、STnと、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを提供する。
【0069】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の抗体、機能的抗体断片またはプローブをコードするヌクレオチド配列および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0070】
別の実施形態では、本発明は、細胞間相互作用または受容体-リガンド相互作用を遮断する抗体、機能的抗体断片またはプローブをコードするヌクレオチド配列を含む医薬組成物を提供する。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の医薬組成物の治療有効量を投与することにより、必要とする対象の疾患を治療または予防する方法を提供する。
【0072】
該方法は、
a)STnと、α2,6-結合シアル酸により末端化されたグリカンの群とに特異的に結合する抗体を用いて、腫瘍を有する可能性のある対象から得られた生物学的試料を染色する工程を含み、前述の染色は、STn、2,6-シアリルT、ジシアリルTまたは2,6-シアロラクトサミン(sialolactosamine)に対する抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブの特異的結合に適した条件下で行われ、
b)抗体の結合の存在または非存在は、細胞表面STn、2,6-シアリルT、ジシアリルTまたは2,6-シアロラクトサミンを発現する腫瘍細胞の存在または非存在を示す。
【0073】
本明細書で使用される生物学的試料は、単離された細胞、または組織、または腫瘍由来タンパク質を含む。
【0074】
シアリル化グリカンは、その発現が無視できる程度であった対応する健常細胞と比較して、いくつかのタイプの癌細胞に過剰発現している。最も高いSTn頻度は、膵癌、結腸直腸癌および卵巣癌に見出され、そこでは癌細胞のほぼ100%がSTnを発現する(Julien et al 2012)。膀胱癌での頻度は75%である(Ferreira et al 205)。肺腺癌は80%近くを発現し、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、結腸癌および乳癌は50~70%の頻度を有する。さらに、STn過剰発現は発癌の早期に生じ、高い組織学的グレード分類に関与することが多い細胞分化の消失が、STn発現を正に調節する(Julien et al)。
【0075】
シアリル化グリカンは、高い親和性および特異性を有する抗体、機能的抗体断片またはプローブによって標的化することができる。本発明はさらに、STnと、α-2,6シアル酸により末端化されたグリカンの群とに結合する抗体、機能的抗体断片またはプローブを産生するための組成物を提供する。
【0076】
例Iに記載されているような方法を使用して、ヒツジ血清ムチンによる6週齢の雌Balb/cマウスの免疫化によって、これらの組成物を得た。
【0077】
例IIまたはIIIまたはVIに記載されているような方法によって、STn陽性細胞株、STn陽性ムチンまたは細胞溶解物に対して反応性を示すマウス血清を選択した。STnに対する反応性を有する血清を示すそれらの免疫化マウスから脾細胞を採取し、骨髄腫細胞(Sp2/0)と融合させて、抗体を発現する不死化ハイブリドーマ細胞を得た。
【0078】
例IVに記載されているものなどのハイブリドーマ技術の方法は、当技術分野で十分に記載されている。
【0079】
例IIまたはIIIまたはVIに記載されているような方法により、STnに対する抗体の存在についてハイブリドーマ上清をスクリーニングした。抗体の産生および特性評価のために、選択したハイブリドーマを増殖させた。得られたいくつかの抗STn mAbから、リード候補としてmAb L2A5を選択し、その後の分析に使用した。例IIに記載され、図1に示されている方法を使用して、STnの含有量が高いムチンタンパク質に対する反応性と、L2A5 mAbの抗体価とを決定した。さらに、シアリダーゼ処理による脱シアリル化を行って、L2A5抗体によるシアリル化構造の認識を評価した。図1に示すように、L2A5 mAbの反応性は、mAb濃度とともに対数的に増大する。BSMに対する高い免疫反応性が観察され、6000のエンドポイント力価に達した。さらに、シアリダーゼによる処理は、BSMに対するこの抗体の反応性の低下を明確に示し、シアリル化構造に対する特異的かつ依存的な結合を示した。例IIに記載されているものと同様の方法であるが、STnを有するムチンタンパク質を脱シアリル化(アシアロ)ムチンによって置換した方法では、L2A5抗体が反応性を示さなかったことは注目に値する。
【0080】
シアリル化グリカンは癌細胞に過剰発現し、高い親和性および特異性を有する抗体、機能的抗体断片またはプローブによって標的化することができる。
【0081】
本発明は、STnと、α-2,6シアル酸により末端化されたグリカンの群とに結合する抗体、その機能的抗体断片またはプローブを産生するための組成物を提供する。
【0082】
グリコシル化は、治療用mAbの品質および開発にとって重要である。グリコシル化パターンは、選択された発現系または培養条件によって変化し、これにより、その薬物動態および薬物動力に大きな影響を与える。したがって、分子の安全性および有効性を確保するには、グリコシル化の制御が不可欠である。治療的癌細胞標的化では、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性食作用(ADCP)および直接細胞アポトーシスが効果にとって重要である。
【0083】
マウス骨髄腫細胞株SP2/0で産生されたMAbは、正常なヒトIgGでは天然に見出されない糖を付加することができ、これにより、免疫原性の点で影響を与える。
【0084】
本発明の実施形態では、IgG分子のグリカン組成の変化は、治療用抗体の効果を高めるために、マンノース残基、シアル酸残基、フコース残基およびガラクトース残基の操作を通じてグリコシル化部位Asn88およびAsn297で行われる(Liming Liu 2015における概説)。
【0085】
一実施形態では、非ヒト抗体をヒト化することができ、これは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)に含まれる元の非ヒト抗体(例えば、マウス抗体)に由来する目的のアミノ酸配列を含むキメラ免疫グロブリンの構築を指す。ヒト化抗体では、ヒト抗体のCDRアミノ酸残基は、所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト種(例えば、マウス抗体)のCDR由来の残基によって置換される。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを含み、CDR領域の全部またはほぼ全部は非ヒト抗体のCDR領域に対応し、FR領域の全部または一部はヒト免疫グロブリンのFR領域である。
【0086】
一実施形態では、T細胞などの免疫細胞が、抗体(全部または一部)または抗体に結合する受容体、すなわちキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように改変される。CARとは、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体特異性とT細胞受容体活性化細胞内ドメインとを組み合わせて、特異的な抗腫瘍細胞免疫活性を示すキメラ受容体を生成する分子である。一実施形態では、これらの改変T細胞の抗原認識ドメインは、腫瘍関連抗原に結合する。一実施形態では、それは、CARを発現するように改変されたT細胞の養子細胞移入に関する。
【0087】
限定するものではないが、RNA誘導エンドヌクレアーゼ、特にCas9/CRISPR系を使用してCARを発現するようにT細胞を特異的に操作することを含め、当技術分野で公知の様々な技術を使用して、CARを産生することができる(国際公開第2014191128 A1号パンフレット)。別の実施形態では、特定のヒト細胞表面タンパク質およびタグに特異的な結合部分から構成される標的モジュールが使用され、タグは、任意のヒト核タンパク質、好ましくはヒト核Laタンパク質に由来する(国際公開第2016030414 A1号パンフレット)。
【0088】
また、本発明の抗体または機能的断片をナノ粒子に結合し、リポソーム膜に挿入して、高体温療法に有用なアポトーシスおよび金属イオンを誘導するインサイチュ毒性化合物を送達するための特異的なベクターとして使用することができる。
【0089】
例Iに記載されているような方法を使用して、ヒツジ血清ムチンによる6週齢の雌Balb/cマウスの免疫化によって、本発明の抗体、その機能的抗体断片またはプローブを産生するための組成物を得た。例IIまたはIIIまたはVIに記載されているような方法によって、STn陽性細胞株、STn陽性ムチンまたは細胞溶解物に対して反応性を示すマウス血清を選択した。STnに対する反応性を有する血清を示すそれらの免疫化マウスから脾細胞を採取し、骨髄腫細胞と融合させて、抗STn抗体を発現する不死化ハイブリドーマ細胞を得た。例IVに記載されているものなどのハイブリドーマ技術の方法は、当技術分野で十分に記載されている。例IIまたはIIIまたはVIに記載されているような方法により、STnに対する抗体の存在についてハイブリドーマ上清をスクリーニングした。抗体の産生および特性評価のために、選択したハイブリドーマを増殖させた。得られたいくつかの抗STn mAbから、リード候補としてmAb L2A5を選択し、その後の分析に使用した。例IIに記載され、図1に示されている方法を使用して、STnの含有量が高いムチンタンパク質に対する反応性と、L2A5 mAbの抗体価とを決定した。さらに、シアリダーゼ処理による脱シアリル化を行って、L2A5抗体によるシアリル化構造の認識を評価した。図1に示すように、L2A5 mAbの反応性は、mAb濃度とともに対数的に増大する。
【0090】
BSMに対する高い免疫反応性が観察され、6000のエンドポイント力価に達した。さらに、シアリダーゼによる処理は、BSMに対するこの抗体の反応性の低下を明確に示し、シアリル化構造に対する特異的かつ依存的な結合を示した。例IIに記載されているものと同様の方法であるが、STnを有するムチンタンパク質を脱シアリル化(アシアロ)ムチンによって置換した方法では、L2A5抗体が反応性を示さなかったことは注目に値する。
【0091】
例IIIに記載されている方法を使用することによって、生存可能なMDA-MB-231癌細胞に対するL2A5 mAbの結合を確認した。モデルとして、遺伝子ST6GalNAc1の過剰発現に起因してSTn抗原を発現するMDA-MB-231癌細胞を使用した。図2に示すように、L2A5 mAbは80~88%のSTn細胞に対して高い反応性を示す。シアリダーゼによる癌細胞株の処理後、反応性は相当低下した。また、図2に示すように、L2A5は、STn抗原を発現しない野生型MDA-MB-231癌細胞に対する結合を示さなかった。まとめると、これらの結果から、癌細胞表面に提示されたSTn抗原に対するL2A5 mAbの特異性および選択性が確認された。また、図2に示すように、STnとも反応する他の抗STn抗体は、癌細胞株MDA-MB-231と比較して、わずかに異なる結合プロファイルを示す。
【0092】
STn担持膜タンパク質に対するL2A5 mAbの結合特異性を確認するために、例VIに記載されているアッセイを行った。図3に示すように、L2A5 mAbは、ST6GalNAc1、したがってSTnを過剰発現するMDA-MB-231細胞株に由来するタンパク質と反応した。プロファイルは、245kDa超ならびに約160kDa、約85kDa、約50kDaおよび約40kDaの分子量を有するタンパク質に対して反応性を示した。膜タンパク質の脱シアリル化後、反応性の低下または消失が観察され、シアリル化タンパク質に対するL2A5 mAbの結合が確認されている。STn抗原を発現しない野生型癌細胞由来の膜タンパク質は、L2A5 mAbと陽性の反応性を示さなかった。また、図3に示すように、L2A5はMUC1 STn-IgG(約180kDa)に対して強固な結合を示したが、非グリコシル化MUC1 STn-IgGに対する結合は示さなかった。まとめると、これらの結果は、L2A5 mAbが、STnを発現する癌細胞の膜抽出物中のSTn抗原、およびMUC1などのSTnキャリアタンパク質上のSTn抗原を認識することを示している。
【0093】
L2A5および2つの抗STn mAbを用いて、15例の膀胱腫瘍(8例の膀胱切除術および7例の転移)および15例の結腸直腸腫瘍(腺癌および腺腫)を含む一連の30例を染色した。図4に示すように、転移例に関して、膀胱腫瘍はいずれも、分析された全mAbに対して陽性であった。L2A5、B72.3およびTKH2 mAbについて、それらのうち3例は陽性であり、3例は陰性であった。1例は、他のmAbではなく、L2A5による染色の減少を示す。L2A5では抗原検出の感度がわずかに高いことに留意されたい。図4に示すように、膀胱癌例では、TKH2およびB72.3は同様の反応性を示すが、L2A5は比較的高い反応性を示す。この特異性および感度は、シアリダーゼによる癌組織の酵素処理後に消失した。
【0094】
図5に示すように、結腸直腸癌の全例は、抗STn mAbおよびL2A5に対して陽性であったが、伸展および強度の点で異なるパターンを示した。L2A5(左)の結合は、B72.3(中央)またはTKH2(右)の染色パターンと比較して、ほとんどの病理組織(約70%)で同様の強度および伸展を示している。
【0095】
図6a)に示すように、転移性膀胱癌試料では、L2A5は腫瘍細胞と主に反応し、リンパ球集団、血管または結合組織とは反応しない。図6b)(正常な結腸直腸癌組織)では、L2A5(左)が腸細胞に非特異的な染色を示すのに対して、B72.3(右)は杯細胞と反応する。
【0096】
膀胱腫瘍モデルでは、L2A5染色は唯一の腫瘍性である。L2A5は、低密度のSTnを伴う浸潤部位および転移部位での付加的なスポットを含め、尿路上皮腫瘍細胞に特異的な染色を示す。
結腸直腸試料では、L2A5は癌組織と反応するが、非病理組織とも反応する。染色は基本的に腸細胞に局在するが、B72.3またはTKH2により得られた非特異的染色は杯細胞に存在する。結腸直腸試料では、L2A5を用いて、L2A5による異形成組織の弱い染色の存在を検出することができたが、染色の特異的な局在はなかった。
【0097】
さらに詳細に炭水化物結合特異性を調べるために、好適な固体表面に印刷された構造的に多様なグリカンプローブから構成されたグリカンマイクロアレイを使用して抗体を分析した。結果から、STnの選択的認識による特異性が確認されたが、以下に対する結合も観察され、
シアリルTn:
NeuAcα-6GalNAcα1/β1
2,6-シアリルT:
Galβ1-3GalNAcα1-

NeuAcα2-6
ジシアリルT:
NeuAcα2-3Galβ1-3GalNAcα1-AO

NeuAcα2-6
2,6-シアロラクトサミン:
NeuAcα2-6Galβ1-4Glcβ1
また、マイクロアレイに存在した他の抗原配列に対する結合は実質的に存在しない。結合された配列を図7に要約する。
【0098】
L2A5 mAb軽鎖および重鎖のCDR(配列番号6、8、10、12、14、16)可変領域およびFR(配列番号5、7、9、11、13、15)可変領域のアミノ酸配列を決定するために、例IXに記載されている方法を使用した。
【0099】

以下の例は、本開示の様々な態様の単なる例示として提供されており、決して本開示を限定するものと解釈されるべきではない。それらは、抗体の特性評価、選択および産生に関する。
【0100】
例I
抗体産生-免疫化
抗体を産生する例示的な方法が提供されるが、他の任意の標準的な方法を使用することができる。
モノクローナル抗体(mAb)の産生は、ハイブリドーマ技術に従って行った。完全Freundアジュバント(Sigma-Aldrich)により1:1(V/V)で乳化したヒツジ顎下ムチン(OSM)10μgを用いて、6週齢の雌Balb/cマウス(Harlan,UK)を腹腔内免疫し、続いて不完全Freundアジュバント(Sigma Aldrich)により乳化したOSMを21日間間隔で2回追加注射した。マウスの頬から血液試料を採取し、ELISAによって、STn結合特異性について、採取した血清をスクリーニングした。血清が所望かつ特異的な免疫応答を示した場合、殺処分し脾臓を採取する3日前に、対応するマウスに対して最後のブースト注射を行う。
【0101】
例II
ELISA
STn発現タンパク質であるウシ顎下ムチン(BSM)に対するELISAにより、マウス血清滴定と、ハイブリドーマ上清のスクリーニングとを決定した。リン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解した50μlのBSM(3μg/ml)により96ウェルプレートのウェルをコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。シアリル化構造に対するスクリーニングしたハイブリドーマ上清の特異的結合を評価するために、シアリダーゼ緩衝液(10mM NaHPO、pH=6.0)で希釈した25mU/mlのクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)(Roche)から得られた50μlのシアリダーゼをウェルのサブセットに加え、37℃で90分間インキュベートした。シアリダーゼ処理後、0.05%Tween 20(PBS-T)を含むPBSでプレートを3回洗浄した後、5%脱脂粉乳を用いて60分間ブロッキングした。PBS-Tで洗浄した後、希釈したマウス血清またはハイブリドーマ上清をウェルに加え、90分間インキュベートした。PBS-Tでプレートを4回洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗マウスIg(1:1000)(BD Pharmingen)と60分間インキュベートした。追加の3回の洗浄工程の後、50μlのテトラメチルベンジジン(Thermofisher Scientific)基質を各ウェルに加え、プレートを暗所でインキュベートし、50μlの1M HClを加えて反応を停止させた。マイクロプレートリーダー上で450nmで光学密度を測定した。目的の抗体の最も高い力価を生じるマウスを融合のために選択した。ハイブリドーマ細胞の抗体産生をスクリーニングするために、同じ手順を行った。
【0102】
例III
フローサイトメトリーの調製および分析
STnおよび非STn発現親細胞を安定に発現するヒト膀胱細胞株およびヒト乳房細胞株を使用したフローサイトメトリーによって、抗体またはハイブリドーマ上清の結合を決定した。条件ごとに約3×10個の細胞を回収し、PBS緩衝液に再懸濁した。シアリル化構造に対するスクリーニングされたハイブリドーマ上清および抗体の特異的結合を評価するために、100mU/mlのシアリダーゼを用いて、37℃で90分間試料を処理した。シアリダーゼ処理後、細胞を洗浄し、抗STn mAb B72.3、3F1、TKH2、およびハイブリドーマ上清と4℃で30分間インキュベートした。続く洗浄工程を行い、暗所で15分間かけて、FITCコンジュゲート抗マウスIg(Dako;希釈1:10)を用いて一次抗体を検出した。洗浄後、各試料に対してフローサイトメーターを使用して、各試料からデータを取得した。
【0103】
例IV
抗体産生-ハイブリドーマ技術
免疫したマウスから得られた脾細胞とSp2/0骨髄腫(ATCC,USA)細胞とを3:1の比で混合し、標準的なプロトコルを使用して、ポリエチレングリコール/ジメチルスルホキシドの存在下で融合させた。次いで、96ウェル平底マイクロプレート(Orange Scientific)に細胞を播種し、HAT(1×10-4Mヒポキサンチン、4×10-7Mアミノプテリン、1.6×10-5Mチミジン、Sigma-Aldrich)、10% FBS、2mM L-グルタミン、0.2mg/mlゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)、1%(v/v)MEM非必須アミノ酸(Gibco)を補充したRPMI培地中で維持し、37℃で7~12日間インキュベートした。BSMに反応する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を増殖させ、間接ELISAによりスクリーニングし、少なくとも3回の限界希釈法によりクローニングして、安定な単一クローン細胞株を得た。HATを補充していない選択培地中で、選択したハイブリドーマを37℃で培養した。シアリル化構造、特にSTnに特異的な1つのハイブリドーマL2A5を選択し、4回の限界希釈によりクローニングした。
【0104】
例V
STn発現の免疫組織化学分析
地方倫理委員会に従って、15例の結腸直腸腫瘍(腺癌および腺腫)および15例の膀胱腫瘍(8例の膀胱切除術および7例の転移)を含む一連の30例を得た。さらに、腫瘍に隣接する正常な結腸直腸組織の5例を含めた。ビオチン/ストレプトアビジン系を使用して、免疫組織化学(IHC)によって、STnについてホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織をスクリーニングした。要約すると、キシレンを用いてFFPE組織切片を脱パラフィンし、段階的な一連のアルコール洗浄により再水和し、最大出力定格で5分間溶液を予熱した後、マイクロ波内で15分間クエン酸緩衝液pH6.0(Vector,Burlingame,USA)を使用して熱誘導抗原回収に供した。切片を0.3%過酸化水素(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)と25分間インキュベートし、UV Block(登録商標)(Thermo Scientific,Fremont,USA)を用いてブロックし、抗STn mAb B72.3、TKH2(Kjeldsen et al.,1988)およびL2A5を入れた湿式チャンバー内で4℃で一晩インキュベートした。PBS-Tweenで洗浄した後、組織切片に二次抗体を加えてからストレプトアビジンとインキュベートした。3,3’-ジアミノベンジジン(ImmPACT(商標)DAB)(Vector,Burlingame,USA)と4分間インキュベートすることによりSTnを視覚化した。最後に、ヘマトキシリンを用いて核を1分間対比染色した。PBS中の5%BSAで1:5、1:5および1:3にそれぞれ希釈した抗STn mAb B72.3、TKH2およびL2A5ハイブリドーマ培養上清を使用して、STn発現を評価した。陽性対照切片および陰性対照切片を並行して試験した。一次抗体の非存在下で陰性対照切片を行った。陽性対照としてSTn腫瘍組織を使用した。腫瘍細胞内の褐色発色産物の顕微鏡的存在によって抗STn TKH2抗体の免疫反応性が観察された場合、腫瘍を陽性として分類した。STn発現およびL2A5染色は、2名の独立した観察者が二重盲検下で評価し、経験豊富な病理学者が検証した。意見の相違があった場合は常にスライドを再検討し、合意に達した。抗体特異性を評価するために、過酸化水素とのインキュベーション後にシアリダーゼ処理を行い、STn抗原からシアル酸を除去することにより、抗体による認識を阻害した。したがって、この酵素処理後の陽性染色(37℃で4時間、0.2U/mL)は非特異的であると考えられた。
【0105】
例VI
ウエスタンブロット(WB)
製造業者の指示に従って、膜タンパク質抽出キットを使用して細胞株から膜タンパク質を単離した。製造業者の推奨に従って、タンパク質アッセイキットを使用して、得られたタンパク質の量を推定した。膜タンパク質抽出物(50μg)、またはSTn(1μg)(BSMおよびMUC1 STn-IgG)を含有する精製タンパク質を変性させ、8%勾配アクリルアミドゲル上にロードし、還元条件下でSDS-PAGE電気泳動に供し、標準手順に従ってフッ化ポリビニリデン(PVDF)メンブレン(Amersham Hybond P 0.2μm PVDF、GE Healthcare Life Sciences)に電気泳動的に転写した。TBS Tween 0.1%(TBS-T)中の10%脱脂粉乳を用いてメンブレンを1時間ブロックした後、TBS-Tで希釈した一次抗体抗STn B72.3、3F1またはL2A5上清と4℃で一晩インキュベートした。TBS-Tで洗浄した後、TBS-Tで1:2500に希釈したHRPコンジュゲートヤギ抗マウスIgを1時間使用して、標識タンパク質を明らかにした。洗浄後、Lumi-Lightウエスタンブロット基質(Roche)によって標識タンパク質を明らかにし、次いでX線フィルムに露光した。
【0106】
例VII
mRNA単離およびcDNA合成
RNA単離に1×10個~5×10個のハイブリドーマ細胞を使用した。細胞を300xgで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。細胞ペレットをPBSで洗浄し、製造業者の指示に従って、GenElute(商標)Mammalian Total RNA Miniprepキット(Sigma-Aldrich)を使用して全RNAを単離した。Nanodropを使用して、抽出された全RNAを定量し、High-Capacity cDNA転写キット(Applied Biosystems)に記載されているように、最大2μgを逆転写に使用した。25℃で10分間、その後37℃で120分間および85℃で5秒間の熱サイクル条件を使用して、cDNA合成を行った。反応を最後に保持し、4℃に冷却した。
【0107】
例VIII
抗体配列決定-scFv断片
プライマー対V Forward(TTTTTGGATCCSARGTNMAGCTGSAGSAGTCWGG)/V Reverse(ATTGGGACTAGTTTCTGCGACAGCTGGATT)およびV Forward(TTTTTGAATTCTGAYATTGTGMTSACMCARWCTMCA)/V Reverse(TTTTTGGGCCCGGATACAGTTGGTGCAGCATC)を使用して、cDNAからL2A5 MAbの可変重鎖(V)ドメインおよび可変軽鎖(V)ドメインを増幅した。PCRはいずれも、Advantage HF 2 PCRキット(Clontech)を使用して行った。94℃で3分間の初期溶融、続いて95℃で45秒、70℃で1分間および68℃で2分間の熱サイクル条件を使用した。次いで、反応を68℃で5分間保持し、4℃に冷却した。製造業者のプロトコルに従って、精製したPCR産物をさらにpGEM-Teasy(Promega)クローニングベクターにクローニングした。製造業者のプロトコルに従って、QIAGEN plasmid plus midi キット(QIAGEN)を使用してプラスミドを単離した。pGEM-Teasyベクター用のT7プロモータープライマーを使用して、Seqlab(Gottingen,Germany)が配列決定を行った。
これらの組成物は、臨床用途および診断用途のために一貫した品質で製造することができる。
【0108】
例IX
抗体ドメイン
配列分析ツールIgBLASTを使用してIMGT Vドメイン描写システム(international ImMunoGeneTics database;http://imgt.cines.fr)を検索して、L2A5 mAbのFRドメインおよびCDRドメインのアミノ酸配列をコードする可変重鎖(VH)ヌクレオチド配列および可変軽鎖(VL)ヌクレオチド配列を決定した。
【0109】
例X
標的モジュールへの核酸のクローニング
記載されている通り(Cartellieri et al 2016)であるが、CDR領域をLA25核酸配列に置き換えて、抗STn標的モジュール(TM)を行った。標準的なクロム放出アッセイを使用して、T細胞媒介腫瘍殺傷を測定した。ベクター対照(EGFPマーカータンパク質のみをコードするベクター骨格)、UniCAR Stop構築物(細胞内シグナル伝達ドメインを欠く)またはα-E5B9シグナル伝達構築物(UniCAR 28/ζ)(Mitwasi 2017)のいずれかを移植したT細胞と、MDA-MB-231細胞株およびMCR STn+細胞株をインキュベートした。80nMの抗STn TM(a-STn TM)の存在下または非存在下で、5:1のエフェクター対標的(E:T)の比で、それぞれ遺伝子操作されたT細胞とともに両細胞株を24時間培養した。
【0110】
例XI
インビボ抗腫瘍活性
MDA-MB-231 STn細胞を形質導入してホタルルシフェラーゼ(Luc)を発現させ、MDA-MB-231 STn-Luc細胞を得た。記載されている通り(Cartellieri et al 2016)であるが、CDR領域をLA25核酸配列に置き換えて、抗STn標的モジュール(TM)を行った。マウス1匹当たり、1.5×106個の腫瘍細胞と、1×106個のUniCAR 28/ζ T細胞および10μgの抗STn TMとを混合した。MDA-MB-231 STn-Luc細胞(1.5×106)を単独で、またはTMを含まない1×106個のUniCAR 28/ζ T細胞と混合して、未処理対照として使用した。それぞれの混合物を雌NMRI-Foxn1nu/Foxn1nuマウスに皮下注射し、それぞれ5匹のマウスからなる3群の動物を得た。200μLのD-ルシフェリンカリウム塩(15mg/mL)の腹腔内注射を0日目に開始し、続いて1日目、3日目、6日目および8日目に行った後に、麻酔したマウスの発光イメージングを10分間行った。
【0111】
本発明は、抗体市場および癌研究/開発分野の両方に新製品を提供する。
【0112】
本発明は、癌において同定された一群の抗原に対する抗体またはその機能的抗体断片もしくはプローブを産生するための組成物を提供する。
【0113】
表1は、それぞれ配列番号1および2として同定された、クローンL2A5の可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖のヌクレオチド配列、ならびにそれぞれ配列番号3および4として同定された、可変重(VH)鎖および可変軽(VL)鎖のコードされたアミノ酸配列の例を示す。
【表1】
【0114】
表2は、クローンL2A5の6つのフレームワーク領域(FR)および6つの相補性決定領域(CDR)(H-CDR1、H-CDR2およびH-CDR3、L-CDR1、L-CDR2、LCDR3)のコードされたアミノ酸配列を示し、配列番号5~16のヌクレオチド配列として同定される。
【表2】
図1
図2
図3
図4a)】
図4b)】
図4c)】
図5
図6a)】
図6b)】
図7
図8
図9
【配列表】
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