(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】生物膜の形成を低減するための生体高分子の使用
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20230803BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20230803BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230803BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20230803BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230803BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230803BHJP
A01N 63/50 20200101ALI20230803BHJP
A01N 63/16 20200101ALI20230803BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/10
A61L27/22
A61L27/34
A01P1/00
A01P3/00
A01N63/50
A01N63/16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021043468
(22)【出願日】2021-03-17
(62)【分割の表示】P 2018518723の分割
【原出願日】2016-10-11
【審査請求日】2021-04-15
(32)【優先日】2015-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511092996
【氏名又は名称】アムシルク・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】クライン、イェンス
(72)【発明者】
【氏名】レマー、リン
(72)【発明者】
【氏名】シャイベル、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】スロッタ、ウーテ
【審査官】淺野 美奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-546812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0162439(US,A1)
【文献】特表2014-514917(JP,A)
【文献】特開2015-057402(JP,A)
【文献】ROSS P CARLSON,ANTI-BIOFILM PROPERTIES OF CHITOSAN-COATED SURFACES,JOURNAL OF BIOMATERIALS SCIENCE. POLYMER EDITION,NL,2008年,VOL:19, NR:8,PAGE(S):1035 - 1046,http://dx.doi.org/10.1163/156856208784909372
【文献】WILLCOX M D P,A NOVEL CATIONIC-PEPTIDE COATING FOR THE PREVENTION OF MICROBIAL COLONIZATION ON CONTACT LENSES,JOURNAL OF APPLIED MICROBIOLOGY,2008年12月,VOL:105, NR:6,PAGE(S):1817 - 1825,http://dx.doi.org/10.1111/j.1365-2672.2008.03942.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/04
A61L 31/10
A61L 27/22
A61L 27/34
A01P 1/00
A01P 3/00
A01N 63/50
A01N 63/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面で生物膜の形成を低減するためのシルクポリペプチドの使用であって、
前記基材を、前記シルクポリペプチド
からなるコーティングを
含むものとするか、又は前記基材を前記シルクポリペプチドからなるものとすることによる、使用。
【請求項2】
前記生物膜が微生物の凝集体であって、前記微生物の凝集体において、細胞が互いに及び/又は前記基材の表面に付着している、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記微生物が、細菌、真菌、藻類、及び原生動物、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記シルクポリペプチドが、組換えシルクポリペプチドである、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物膜の形成を低減するための生体高分子の使用に関する。更に、本発明は、基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が低減されるように生産するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物膜は、微生物により堆積される。生物膜では、微生物細胞が、互いに及び/又は表面に付着している。こうした細胞は、一般的に、細胞外高分子物質(EPS)の自己産生マトリックス内に包埋されていることが多い付着細胞と類似している。細胞外高分子物質の自己産生マトリックスは、微生物スライムと呼ばれる場合もある。微生物スライムは、一般的に、細胞外DNA、タンパク質、及び/又はポリサッカライドで構成されるポリマー性塊状集積物である。微生物は、多数の要因に応答して生物膜を形成する。この多数の要因としては、表面にある特異的又は非特異的付着部位の細胞認識、栄養的な合図、又は特定の分子及び/若しくは刺激への曝露を挙げることができる。細胞は、生物膜成長モードに切り替わると、挙動が表現型シフトを起こし、幾つかの遺伝子の制御が変化する。
【0003】
生物膜は、日用品及び生活用品並びに医療デバイスの不活性表面を含む不活性表面でよく発生する。生物膜は、中でも、ポリマー性材料、金属、ガラス、及びセラミックスに形成される場合がある。このような微生物への、例えば皮膚表面接触による曝露は、健康を害する恐れのある感染症をもたらす場合がある。生物膜は、衛生用製品、医療デバイス、家庭用電化製品、及び蛇口用品等の、人が接触する任意の数の物品に形成される場合がある。生物膜の形成を制御することができれば、個体の感染は少なくなるであろう。
【0004】
生物膜形成には、公衆衛生にとって更に重要な意味合いがある。飲料水系及び廃水系は、こうした環境が消毒剤を含んでいることが多いにも関わらず、生物膜を内包することが知られている。表面と流体または気体との界面を提供する系には全て、生物膜発生の可能性がある。換気系並びに空調装置の水冷塔等の空調系は、レジオネラにより引き起こされる感染症の突発的な大流行により証明されているように、生物膜形成に由来する公衆衛生リスクをもたらすことが周知である。表面に乱流が流れていても、保護は提供されない。生物膜は、流動特徴を変更し、プランクトン生物を下流へと通過させる効果を有する流水又は他の流体が通過する導管で形成される場合がある。工業的流体処理作業では、機械的閉塞が発生し、熱伝達プロセスが妨げられ、流体に基づく工業製品が生物劣化を起こす。これらは全て生物膜に起因する。生物膜は、血液透析チューブ等の流動導管および給水導管で発生することが特定されている。また、生物膜は、一部の自治体貯水タンク、私有の井戸、及びドリップ潅漑系に生物汚損を引き起こすことが特定されている。
【0005】
微生物感染及びその後の生物膜形成は、幾つかの分野、特に、医療デバイス、薬物、ヘルスケア及び衛生用品、飲料水系、浄水系、病院及び歯科の手術設備、布地、食品包装及び食品保管装置において、依然として最も深刻な問題の1つである。生物膜系感染の除去には困難が伴うため、表面又は流体浴表面を処理して生物膜形成を防止又は軽減するための幾つかの作用剤が試験されている。
【0006】
望ましくない微生物による生物膜形成の防止又は軽減には、伝統的に、分散剤、界面活性剤、酵素、抗菌剤、殺生物剤、特定の金属、及び/又は化学薬品の使用が必要とされている。しかしながら、市販されている、生物膜形成を防止又は軽減するための作用剤、例えば、抗菌剤、銀等の金属は、高価であり、非恒久的であり、健康に有害であり、環境に有害であり、それらの製造及び使用は労力を要するプロセスであることが報告されている。加えて、この状況で使用される多く作用剤は、滅菌することができない。例えば、抗生物質は、滅菌処理を経た後では、もはや活性でないことが多い。更に、生物膜形成を防止又は軽減するための多く作用剤、例えば、化学添加物は、副作用の観点から医学的応用には好適ではない。加えて、個体と接触することになる生物膜形成を防止又は軽減するために使用されるあらゆる作用剤は、ユーザにとって安全でなければならない。また、ある殺生剤は、生物膜を妨害するのに十分な量では、宿主組織を損傷する場合がある。したがって、殺生物剤としては機能しないが、表面を微生物の付着及びコロニー化に不適な状態にする耐生物膜化合物が有利である。そのような化合物は、生物膜を防止するために、「死滅機序」に依存するのではなく、生物膜形成に寄与しない環境を構築することに依存する。
【0007】
上記の状況に基づき、生物膜形成を防止又は軽減するために使用することができる新しい作用剤/基材、例えば、対費用効果の高く、安定しており、滅菌可能であり、安全で、副作用のない作用剤/基材が求められている。この目的のためには、通常、ヒト及び動物での耐容性が良好であるため、天然物質又は天然物と同一の物質が非常に望ましいであろう。しかしながら、そのような天然物質は、通常、微生物に最適な繁殖温床と類似しており、所望の効果とは反対の効果をもたらす。
【0008】
本発明者らは、驚くべきことに、上述の特性を有し、したがって生物膜形成の回避又は低減に非常に好適な生体高分子を見出した。本発明者らは、驚くべきことに、生体高分子で基材の表面をコーティングすることにより、又は生体高分子を全体的に基材内に組み込むことにより、生物膜形成を回避又は低減することができることを見出した。本発明が生物膜の形成及び成長を延期/妨害する機序は、生体高分子で表面を生成すると、生物膜に関連する微生物が容易に付着又はコロニー化しないことに基づく。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様では、本発明は、生物膜の形成を回避又は低減するための生体高分子の使用に関する。
第2の態様では、本発明は、基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物を上記基材の表面にコーティングするステップを含む方法に関する。
【0010】
第3の態様では、本発明は、基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物から上記基材を形成するステップを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】生体高分子を有するコーティングによる生物膜形成の低減を示す図である。特に、水性シルク溶液、シルクヒドロゲル、又はギ酸シルク溶液でコーティングした様々な基材(ポリスチレン、きめの粗いシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びステンレス/クロム鋼)での生物膜形成の低減が示されている。75%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたポリスチレン)、35%(シルクヒドロゲルでコーティングしたポリスチレン)、41%(水性シルク溶液でコーティングしたきめの粗いシリコーン)、13%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン(PTFE))、40%(水性シルク溶液でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン(PTFE))、及び66%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたステンレス鋼)の生物膜形成の低減が達成された。生物膜形成の低減を確認するため、各実験の16個の試料(C
16タンパク質水溶液、C
16タンパク質ギ酸溶液、及びC
16タンパク質ヒドロゲルでコーティングしたポリスチレン基材、きめの粗いシリコーン基材、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基材、及びステンレス鋼基材)の平均値細胞数を、非コーティング基材の平均値細胞数に対して決定及び算出した。非コーティング基材は、通常の生物膜形成(0%値)に対応する。例えば、75%の生物膜形成の低減は、-75%という値として示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下記で本発明を詳細に記載する前に、本発明は、本明細書に記載されている特定の方法、プロトコール、及び試薬に限定されず、それらは様々であってもよいことが理解されるべきである。また、本明細書で使用されている用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることになる。別様に定義されていない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は全て、当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。
【0013】
好ましくは、本明細書で使用されている用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」、Leuenberger,H.G.W、Nagel,B.、およびKoelbl,H.編(1995)、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 バーゼル、スイス)に記載されている通りに定義される。
【0014】
本明細書及び以下の特許請求の範囲の全体にわたって、状況が別様に要求しない限り、単語「含む」及びその変化形は、示されている整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を排除しないことを意味することが理解されるであろう。
【0015】
本明細書の文書全体にわたって幾つかの文献が引用されている。本明細書で引用されている文献(特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書、GenBank受入番号配列登録等を全て含む)は各々、本明細書のどこで引用されているかに関わりなく、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書の記載は、本発明が、先行発明による開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0016】
本発明の要素を以下に記載するものとする。こうした要素は、特定の実施形態と共に列挙されているが、任意の様式及び任意の数で組み合わせて、更なる実施形態を生成することができることが理解されるべきである。種々に記載されている例及び好ましい実施形態は、明示的に記載されている実施形態のみに本発明を限定しているとは解釈されるべきでない。本記載は、明示的に記載されている実施形態を、任意の数の開示されている及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態を支援及び包含すると理解されるべきである。更に、本出願に記載されている全ての要素のあらゆる順列及び組合せは、状況が別様に指示しない限り、本出願の記載により開示されているとみなされるべきである。
【0017】
本発明による用語「含む」及びその変化形は、示されている整数又は整数の群を含むが、任意の他の整数又は整数の群を排除しないことを意味する。本発明による用語「~から本質的になる」は、示されている整数又は整数の群を含むが、示されている整数に実質的に影響を及ぼすか又は変更することになる改変又は他の整数は排除されることを意味する。本発明による用語「からなる」又は「からなる」の変化形は、示されている整数又は整数の群を含み、任意の他の整数又は整数の群は排除されることを意味する。
【0018】
上述のように、生物膜形成を防止又は軽減するために使用することができる新しい作用剤/基材、例えば、対費用効果が高く、安定しており、滅菌可能であり、安全で、非毒性であり、副作用のない作用剤/基材が求められている。この目的のためには、通常、ヒト及び動物での耐容性が良好であるため、天然物質又は天然物と同一の物質が非常に望ましいであろう。
【0019】
本発明者らは、驚くべきことに、上述の特性を有し、したがって生物膜形成の回避又は低減に非常に好適な生体高分子を見出した。本発明者らは、驚くべきことに、生体高分子で基材の表面をコーティングすることにより、又は生体高分子を全体的に基材内に組み込むことにより、生物膜形成を回避又は低減することができることを見出した。これは、生体高分子それ自体が、一般的に、生物膜形成微生物の温床としての役割を果たす成分(例えば、アミノ酸)を含むため、驚くべきものであった。本発明が生物膜の形成及び成長を延期/妨害する機序は、生体高分子で表面を生成すると、生物膜に関連する微生物が容易に付着又はコロニー化しないことに基づく。言い換えれば、生体高分子は、通常は生物膜を形成し易い基材の表面を、微生物による付着及びコロニー化に不適な状態にする。生体高分子は、生物膜の回避又は低減するために、「死滅機序」に依存しない。むしろ、生体高分子は、表面に付着する微生物の能力を妨害することにより、生物膜形成を回避又は低減する。
【0020】
したがって、第1の態様では、本発明は、生物膜の形成を回避又は低減するための生体高分子の使用に関する。上記使用は、in vitroでの使用であってもよく、又はin vivoでの使用であってもよい。
【0021】
用語「生体高分子」は、本発明の状況で使用される場合、生物膜の形成を回避又は低減するあらゆる生体高分子を包含する。上述したように、生体高分子は、生物膜を回避又は低減するために、「死滅機序」に依存するのではなく、生物膜形成に寄与しない環境を構築することに依存する。更に、用語「生体高分子」は、本明細書で使用される場合、好ましくは、天然物に類似した繰り返し構造単位で形成される分子を指す。生体高分子は、ポリペプチド、例えば、組換えポリペプチドであってもよい。上記ポリペプチドは、アミノ酸で作られている繰り返し構造単位を含む。
【0022】
別様の指定がない限り、用語「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では同義的に使用され、長さ又は翻訳後修飾に関わらず、任意のペプチド連結アミノ酸鎖を意味する。加えて、用語「繰り返し構造単位」、「繰り返し単位」、「反復単位」、又は「リピート単位」は、本発明の状況で使用される場合、同義的である。
【0023】
用語「生物膜の形成を回避すること」は、本明細書で使用される場合、生体高分子が存在しない同様の状況と比較して、生物膜が形成されないことを意味する。用語「生物膜の形成を低減すること」は、本明細書で使用される場合、生体高分子が存在しない同様の状況と比較して、生物膜の形成が少ないことを意味する。生物膜の形成は、生体高分子が存在しない同様の状況と比較して、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%低減され得る。好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも10%低減される。より好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも20%低減される。更により好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも30%低減される。最も好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも90%、例えば100%低減される。当業者であれば、生物膜の形成が回避又は低減されるか否かは、例えば、細胞数測定、光学濃度(OD)測定、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の他の方法により実験的に容易に決定することができる。好ましくは、細胞数測定が使用される。この点については、実験セクションを参照されたい。
【0024】
1つの好ましい実施形態では、基材の(少なくとも1つの)表面での生物膜の形成が、回避又は低減される。用語「基材の表面での生物膜の形成が回避される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、生物膜が形成されないことを意味する。用語「基材の表面での生物膜の形成が低減される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、生物膜の形成が少ないことを意味する。基材の表面での生物膜の形成は、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%低減され得る。好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも10%低減される。より好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも20%低減される。更により好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも30%低減される。最も好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも90%、例えば100%低減される。しかしながら、基材は、本発明の生体高分子、つまり生物膜の形成を回避又は低減する生体高分子を含まない場合、この効果を示さない別の生体高分子を含む場合がある。
【0025】
当業者であれば、基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるか否かは、例えば、細胞数測定、光学濃度(OD)測定、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の他の方法により、実験的に容易に決定することができる。この点については、実験セクションを参照されたい。好ましくは、細胞数測定が使用される。
【0026】
例えば、基材の表面を生体高分子でコーティングする。その後、上記基材の表面を微生物溶液と接触させる。コーティングしていない基材を、対照として使用する。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)を、微生物溶液と共に、通常は生物膜の形成を可能にする同一条件下で、例えば、5~36時間及び/又は20℃(室温)~35℃でインキュベートする。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)から微生物溶液を除去した後、コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)の表面で増殖した微生物の数を決定し、互いに比較する。別の手法では、生体高分子を含む基材を生産する。その後、生体高分子を含む基材の表面を、微生物溶液と接触させる。生体高分子を含まない基材を対照として使用する。生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)を、微生物溶液と共に、通常は生物膜の形成を可能にする同一条件下で、例えば、5~36時間及び/又は20℃(室温)~35℃でインキュベートする。生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)から微生物溶液を除去した後、生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)の表面で増殖した微生物の数を決定し、互いに比較する。
【0027】
用語「生物膜」は、本明細書で使用される場合、細胞が互いに及び/又は表面に付着した微生物の凝集体を意味する。上記細胞は、細胞外高分子物質(EPC)の自己産生マトリックス内に包埋されていることが多い。細胞外高分子物質の自己産生マトリックスは、スライムと呼ばれる場合もある。或いは、「生物膜」は、液相と基材との界面又は気相と基材との界面で(主に)形成される微生物の集塊物と定義することができる。微生物の集塊物は、好ましくは、液相と基材との界面相又は気相と基材との界面の水性環境又は湿潤環境で形成される。したがって、生物膜は、通常は、基材の表面に形成される。用語「水性環境」は、本明細書で使用される場合、水を含む液相を指す。用語「湿潤環境」は、本明細書で使用される場合、水蒸気を含む気相を指す。
【0028】
1つの実施形態では、生物膜を構成する微生物は、細菌、真菌、藻類、及び原生動物、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される。主に細菌からなる組合せが好ましい。好ましくは、生物膜を構成する細菌は、エシェリヒア属(Escherichia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、及び/又はスタフィロコッカス属(Staphylococcus)に由来する。細菌は、グラム陽性種(例えば、バチルス属又はスタフィロコッカス属)及び/又はグラム陰性種(例えば、エシェリヒア属又はシュードモナス属)であってもよい。
【0029】
用語「表面」は、本明細書で使用される場合、微生物が生物膜形成及び/又は付着し易い任意の表面を指す。更に、用語「表面」は、本明細書で使用される場合、生物膜が形成され得る任意の表面を指す。表面は、固体表面であってもよい。固体表面は、例えば、バスルームに見出されるもの、例えば、付属設備、洗面台、浴槽、便器、及び洗浄水貯蔵タンク、冷却塔に見出されるもの、水処理プラントに見出されるもの、水タンクに見出されるもの、乳製品食品処理プラントに見出されるもの、化学薬品若しくは医薬品製造プラントに見出されるもの、病院施設に見出されるもの、医師の手術施設に見出されるもの、診療所に見出されるもの、手術室に見出されるもの、又は医療デバイス(例えば、カテーテル、整形外科デバイス、又はインプラント)に見出されるものである。生物膜を形成し易い表面は、滑らかであってもよく、凹凸があってもよく、又は不規則であってもよい。また、生物膜を形成し易い表面は、多孔性であってもよい。多孔性表面は、例えば、フィルター、例えば膜フィルター、又は布地に存在していてもよい。また、用語「表面」は、本明細書で使用される場合、液相と基材との界面相を提供するか、又は気相と基材との界面相を提供する任意の表面(家庭の設定、工業的設定、または医学的設定に関わらない)を指す。表面は、少なくとも、基材と流体又は気体との断続的な接触を可能にする。表面と接触する流体又は気体は滞留してもよく又は流動していてもよく、断続的に又は連続的に流動していてもよく、層流であってもよく、又は乱流であってもよく、又は混合レオロジーであってもよい。生物膜が形成される表面は、時として乾燥しており、散発的に流体と接触してもよく、又は流体接触が、完全浸漬を含む任意の度合いであってもよい。表面との流体接触は、エアゾールにより、又は流体を空中送達するための他の手段により生じてもよい。
【0030】
用語「基材」は、本明細書で使用される場合、微生物が生物膜形成及び/又は付着し易い表面を有する任意の基材を指す。更に、用語「基材」は、本明細書で使用される場合、生物膜が形成され得る表面を有する任意の基材を指す。基材は、固体基材であってもよい。
【0031】
1つの実施形態では、基材は、デバイスである。デバイスは、医療デバイス、飲料水デバイス、排水処理デバイス、加熱デバイス、換気デバイス、及び空調デバイスからなる群から選択してもよい。用語「医療デバイス」は、本明細書で使用される場合、対象を検査及び/又は治療するために使用されるか、対象に挿入又は移植されるか、又は対象の表面に貼付される非天然の物体を指す。移植可能なデバイスは、体外にいかなる構造物も残さずに、体内に完全に埋め込むことが意図されているもの(例えば、心臓弁)である。挿入可能なデバイスは、体内に部分的に埋め込まれているが、外部にあることが意図されている部分を有するもの(例えば、カテーテル又はドレイン)である。医療デバイスは、設置した場所に短期的又は長期的に留置することが意図されていてもよい。例えば、ヒップインプラントは、数年間の使用が意図されている。対照的に、組織拡張器は、数か月間しか必要とされない場合があり、その後は除去される。挿入可能なデバイスは、部分的には、そこにコロニーを形成することができる微生物との接触が多いため、移植可能なデバイスよりも、留置され続ける期間がより短い傾向がある。対象は、ヒトであってもよく、又は動物であってもよい。
【0032】
1つの好ましい実施形態では、医療デバイスは、体外医療デバイス、インプラント、及びカテーテルからなる群から選択される。用語「インプラント」は、本明細書で使用される場合、ヒト又は動物の体内に設置することが意図されている、生体組織ではない任意の物体を指す。インプラントには、生体組織が失活するように処理されている天然由来の物体が挙げられる。一例として、移植骨片は、生体細胞が除去されるが、形状が、宿主由来の骨の内方向成長用のテンプレートとしての機能を保持するように処理されていてもよい。別の例として、天然珊瑚を加工して、ある整形外科治療及び歯科治療のために身体に適用することができるヒドロキシアパタイト調製物を産出するように処理してもよい。また、インプラントは、人工的な部品を含む物品であってもよい。用語「インプラント」は、ヒト又は動物の体内に配置することが意図されている広範な医療デバイスに適用することができる。インプラントは、好ましくは、ステント、蝸牛インプラント、マイクロチップインプラント、歯科インプラント、及び軟組織インプラント、好ましくはシリコーンインプラント、より好ましくは乳房インプラントからなる群から選択される。加えて、体外医療デバイスは、好ましくは、生命維持装置、人工心肺、及び透析デバイスからなる群から選択される。1つの実施形態では、基材は、合成不活性基材、無機不活性基材、及び天然基材からなる群から選択される。用語「合成不活性基材」は、本発明の状況で使用される場合、自然界に生じるものではなく、人間により製造又はそうでなければ生成された基材を指す。単語「合成」は、本発明の状況では、人為的に組み立てることも意味する。用語「無機不活性基材」は、本発明の状況で使用される場合、主要な要素として炭化水素(カルボネート、シアニド、およびシアネートを除く)を含有していない、植物又は動物以外の物質である、つまり生物由来ではない基材を指す。用語「天然基材」は、本発明の状況で使用される場合、自然界に存在するが、修飾が基材のポリマー骨格を著しく変更しない限り、例えば、脱色、洗浄、伸張、紡糸等により修飾又は更に処理されていてもよい物質を指す。
【0033】
1つの好ましい実施形態では、(i)合成不活性基材は、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド(PA)、ポリアラミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(PU)、シリコーン、ポリウレタンおよびポリエチレングリコールの混合物(エラステイン)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、および高機能ポリエチレン(HPPE)からなる群から選択され、(ii)無機不活性基材は、ガラス、炭素、セラミック、金属、サファイア、ダイヤモンド、及び半導体からなる群から選択され、または(iii)天然基材は、ケラチン、コラーゲン、セルロース、綿、歯、骨、皮膚、毛、爪、シルク、及び組織からなる群から選択される。より好ましい実施形態では、天然物質は、シルク、例えば、スパイダーシルクである。また、天然基材は、移植片であってもよい。移植片は、心臓移植片、腎移植片、及び肝移植片からなる群から選択してもよい。合成不活性基材、無機不活性基材、又は天然基材は、ホイルの形態を有していてもよく、又は繊維、繊維を含む糸、繊維を含む撚糸、又は繊維を含む織物/布地の形態を有していてもよい。例えば、合成不活性基材は、シリコーンホイル又はポリエステル織物/布地であってもよい。天然基材は、綿の織物/布地であってもよい。
【0034】
1つの実施形態では、生体高分子は、コーティングの形態である。1つの好ましい実施形態では、生体高分子は、基材の(少なくとも1つの)表面にコーティングされる。特に、生体高分子は、基材の(少なくとも1つの)表面にコーティングされ、それにより、その上での生物膜形成が回避又は低減される。用語「コーティング」は、本明細書で使用される場合、表面を覆う任意の層を指す。コーティングしようとする生体高分子は、エーロゾル、液体、ペースト、半固体、又は固体の形態であってもよい。加えて、コーティングは、ヒドロゲル、エーロゾル、又は液体として施すことができ、固体コーティングへと固化する。コーティングは、基材の(少なくとも1つの)表面を完全に覆うことが好ましい。コーティングは、好ましくは、1nm~1000μm、好ましくは40nm~50μm、より好ましくは0.1μm~10μm、及び最も好ましくは0.5μm~5μmの厚さを有する。コーティングは、浸漬コーティング及び/又は噴霧コーティングにより達成することができる。コーティングは、好ましくは被膜である。1つの実施形態では、コーティングは、生体高分子及び溶媒を含む組成物から形成される。組成物は、溶液、懸濁液、及び/又はエマルジョンであってもよい。また、組成物は、ヒドロゲルであってもよい。溶液は、水溶液、緩衝水溶液、又は有機溶液であってもよい。溶媒は、水(H2O)、水性緩衝液、又は有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、ギ酸およびヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)からなる群から選択してもよい。組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.1%(w/v)~30%(w/v)の範囲であってもよい。好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~20%(w/v)の範囲である。より好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~10%(w/v)の範囲である。最も好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.8%(w/v)~5%(w/v)の範囲である。
【0035】
上述のように、1つの実施形態では、生体高分子は、コーティングの形態である。特に、生体高分子は、基材の(少なくとも1)表面にコーティングされ、それにより、その上での生物膜形成が回避又は低減される。1つの別の実施形態では、基材は、生体高分子を含む。特に、生体高分子は、基材に含まれており、それにより、その上での生物膜形成が回避又は低減される。基材は、少なくとも0.1%(w/v)、1%(w/v)、10%(w/v)、20%(w/v)、30%(w/v)、40%(w/v)、50%(w/v)、60%(w/v)、70%(w/v)、80%(w/v)、90%(w/v)、95%(w/v)、98%(w/v)、99%(w/v)、又は100%(w/v)の生体高分子を含んでいてもよい。好ましくは、基材は、少なくとも1%(w/v)の生体高分子を含む。より好ましくは、基材は、少なくとも2%(w/v)の生体高分子を含む。更により好ましくは、基材は、少なくとも10%(w/v)の生体高分子を含む。最も好ましくは、基材は、少なくとも90%(w/v)、例えば100%(W/V)の生体高分子を含む。後者の場合、基材は、生体高分子からなる。生体高分子を含む基材は、繊維、繊維を含む糸、繊維を含む撚糸、繊維を含む布地/布地からなる群から選択してもよい。別の実施形態では、基材は、生体高分子を含まない。しかしながら、基材は、本発明の生体高分子、つまり生物膜の形成を回避又は低減する生体高分子を含まない場合、この効果を示さない別の生体高分子を含んでいてもよい。
【0036】
1つの実施形態では、生体高分子は、ポリペプチド、好ましくは組換えポリペプチドである。ポリペプチドは、6~3000個のアミノ酸、より好ましくは30~1500個のアミノ酸、更により好ましくは250~1200個のアミノ酸、及び最も好ましくは500~1000個のアミノ酸からなっていてもよい。好ましくは、ポリペプチドは、少なくとも2つの同一反復ユニットを含む。より好ましくは、ポリペプチドは、2~100個の反復単位、つまり少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100個の反復単位を含む。ポリペプチド中の反復単位は、同じ(同一)であってもよく、異なっていてもよい。同じ(同一)反復単位は、ポリペプチド中で少なくとも2回使用されることが好ましい。ポリペプチドは、少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、好ましくは少なくとも95%、及びより好ましくは100%の反復単位を含むか又はそれからなることが更に好ましい。
【0037】
1つの好ましい実施形態では、生体高分子は、シルクポリペプチド、好ましくは組換えシルクポリペプチドである。シルクポリペプチドは、スパイダーシルクポリペプチド、例えば、円網性クモ(orb-web spider)(例えば、コガネグモ科(Araneidae)又はアラネオイド(Araneoid))の、牽引糸シルクポリペプチド等の大瓶状腺(major ampullate)シルクペプチド、小瓶状腺(minor ampullate)シルクポリペプチド、若しくは鞭毛状シルクペプチド;昆虫シルクポリペプチド;ムール貝足糸シルクポリペプチド;又はそれらの混合物であってもよい。円網性クモは、ニワオニグモ(Araneus diadematus)、アメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)、及びツヤクロゴケグモ(Latrodectus hesperus)からなる群から選択してもよい。昆虫シルクポリペプチドは、鱗翅類(Lepidoptera)、特にカイコガ(Bombyx mori)等のカイコガ科(Bombycidae)のものであってもよい。また、昆虫シルクポリペプチドは、膜翅目(Hymenoptera)、特にハナバチ(Anthophila)等のミツバチ上科(Apoidea))のものであってもよい。
【0038】
好ましくは、生体高分子は、少なくとも2つの同一反復単位を含む(組換え)シルクポリペプチドである。反復単位は、モジュールA(配列番号1)又はその変異体、モジュールC(配列番号2)又はその変異体、モジュールCCys(配列番号3)、及びモジュールQ(配列番号4)又はその変異体からなる群から独立して選択されることが好ましい。モジュールCCys(配列番号3)は、モジュールC(配列番号2)の変異体である。このモジュールでは、25位のアミノ酸S(Ser)が、アミノ酸C(Cys)に置換されている。
【0039】
AモジュールA、C、又はQ変異体は、アミノ酸配列の最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個のアミノ酸変化(つまり、置換、付加、挿入、欠失、N末端基短縮、及び/又はC末端短縮)が、それが由来する基準モジュールA、C、又はQと異なる。そのようなモジュール変異体は、その代わりに又はそれに加えて、それが由来する基準モジュールに対する配列同一性の程度により特徴付けられてもよい。したがって、モジュールA、C、又はQ変異体は、それぞれの基準モジュールA、C、又はQに対して、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は更に99.9%の配列同一性を有する。好ましくは、配列同一性は、それぞれの基準モジュールA、C、又はQの少なくとも5、10、15、18、20、24、27、28、30、34、35個、又はそれよりも多くのアミノ酸の連続伸長に対してであり、好ましくそれぞれの基準モジュールA、C、又はQの全長に対してである。
【0040】
配列同一性は、それぞれの基準モジュールA、C、又はQの全長に対して少なくとも80%であり、全長に対して少なくとも85%であり、全長に対して少なくとも90%であり、全長に対して少なくとも95%であり、全長に対して少なくとも98%であり、又は全長に対して少なくとも99%であることが特に好ましい。配列同一性は、それぞれの基準モジュールA、C、又はQの少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも80%であり、少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも85%であり、少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも90%であり、少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも95%であり、少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも98%であり、少なくとも5、10、15、18、20、24、28、又は30個のアミノ酸の連続伸長に対して少なくとも99%であることが更に特に好ましい。
【0041】
モジュールA、C、又はQの断片(又は欠失変異体)は、好ましくは、そのN末端及び/又はそのC末端に、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個のアミノ酸の欠失を有する。また、欠失は内部にあってもよい。
【0042】
加えて、モジュールA、C、又はQ変異体又は断片は、変異体又は断片が基づくアミノ酸配列に関しての修飾が、生物膜の形成を回避又は低減するシルクポリペプチドの能力に対して負の効果を及ぼさない場合のみ、本発明の状況内のモジュールA、C、又はQ変異体又は断片とみなされる。当業者であれば、モジュールA、C、又はQ変異体又は断片を含むシルクポリペプチドが、生物膜の形成を回避又は低減することが依然として可能であるか否かは、例えば、モジュールA、C、又はQ変異体又は断片を含むシルクポリペプチド及び溶媒を含む組成物で基材をコーティングし、コーティングした基材を微生物溶液と共にインキュベートし、細胞数測定又は光学濃度(OD)測定を行うことにより容易に評価することができる(上述の例及び実験セクションを参照)。
【0043】
好ましくは、生体高分子は、少なくとも1つの非反復(NR)単位を含む(組換え)ポリペプチドである。生体高分子は、少なくとも1つの非反復(NR)単位を含む(組換え)シルクポリペプチドであってもよい。NR単位は、NR3(配列番号5)又はその変異体、NR4(配列番号6)又はその変異体、NR5(配列番号7)又はその変異体、及びNR6(配列番号8)又はその変異体からなる群から選択されることが好ましい。NR3(配列番号5)単位は、クモであるニワオニグモのADF-3のアミノ酸配列に基づき、NR4(配列番号6)単位は、クモであるニワオニグモのADF-4のアミノ酸配列に基づく(国際公開第2006/008163号)。加えて、NR5(配列番号7)単位及びNR6(配列番号8)単位は、ツヤクロゴケグモに由来する。
【0044】
NR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体は、アミノ酸配列の最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16,17、18、19、20、25、又は30個のアミノ酸変化(つまり、交換、挿入、欠失、N末端短縮、及び/又はC末端短縮)が、それが由来するNR3、NR4、NR5、又はNR6単位と異なる。そのようなNR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体は、その代わりに又はそれに加えて、それが由来する基準NR3、NR4、NR5、又はNR6単位に対する配列同一性の程度により特徴付けられてもよい。したがって、NR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体は、それぞれの基準NR3、NR4、NR5、又はNR6単位に対して、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は更に99.9%の配列同一性を有する。好ましくは、配列同一性は、少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、90、又はそれよりも多くのアミノ酸の連続伸長に対してであり、好ましくは、それぞれの基準NR3、NR4、NR5、又はNR6単位の全長に対してである。
【0045】
NR3、NR4、NR5、又はNR6単位の断片(又は欠失変異体)は、好ましくは、そのN末端及び/又はそのC末端に、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45、50、55、又は60個のアミノ酸の欠失を有する。また、欠失は内部にあってもよい。
【0046】
加えて、NR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体又は断片は、変異体又は断片が基づくアミノ酸配列に関しての修飾が、生物膜の形成を回避又は低減するシルクポリペプチドの能力に対して負の効果を及ぼさない場合のみ、本発明の状況内のNR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体又は断片とみなされる。当業者であれば、NR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体又は断片を含むシルクポリペプチドが、生物膜の形成を回避又は低減することが依然として可能であるか否かは、例えば、NR3、NR4、NR5、又はNR6単位変異体又は断片を含むシルクポリペプチド及び溶媒を含む組成物で基材をコーティングし、コーティングされた基材を微生物溶液と共にインキュベートし、細胞数測定又は光学濃度(OD)測定を行うことにより容易に評価することができる(上述の例及び実験セクションを参照)。
【0047】
より好ましくは、生体高分子は、(組換え)シルクポリペプチドであり、シルクポリペプチドは、(C)m、(CCys)m、(C)mCCys、(C)mNRZ、NRZ(C)m、NRZ(C)mNRZ、(AQ)m、及び(AQ)mNRZからなる群から選択され、式中、mは、8~96の整数、つまり8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、又は96であり、zは、1~3の整数、つまり1、2、又は3であり、NRは、非反復単位を表す。
【0048】
最も好ましくは、生体高分子は、(組換え)シルクポリペプチドであり、シルクポリペプチドは、C16NR4、C32NR4、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、(AQ)12、(AQ)24、C16、C32、C48、C16CCys、C32CCys、及びC48CCysからなる群から選択される。
【0049】
上述のような本発明の第1の態様は、以下のように別様に表現することができる:第1の態様では、本発明は、基材、特に基材表面に生物膜忌避性を付与するための生体高分子の使用に関する。
【0050】
第2の態様では、本発明は、基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物を上記基材の表面にコーティングするステップを含む方法に関する。
【0051】
1つの実施形態では、上記方法は、
(iii)組成物でコーティングされた基材の表面を乾燥させるステップを更に含む。
当業者であれば、上記方法を実施することにより、特にステップ(ii)又はステップ(ii)及びステップ(iii)において、生体高分子でコーティングされた基材が生産されることを理解するであろう。
【0052】
用語「上記基材の表面での生物膜の形成が回避される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子でコーティングされていない基材の表面と比較して、生物膜が形成されないことを意味する。用語「上記基材の表面での生物膜の形成が低減される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子でコーティングされていない基材の表面と比較して、生物膜の形成が少ないことを意味する。上記基材の表面での生物膜の形成は、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%低減されてもよい。好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも10%低減される。より好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも20%低減される。更により好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも30%低減される。最も好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも90%、例えば100%低減される。しかしながら、基材は、本発明の生体高分子、つまり生物膜の形成を回避又は低減する生体高分子でコーティングされていない場合、この効果を示さない別の生体高分子でコーティングされていてもよい。
【0053】
当業者であれば、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるか否かは、例えば、細胞数測定又は光学濃度(OD)測定により、実験的に容易に決定することができる。この点については、実験セクションを参照されたい。好ましくは、細胞数測定が使用される。
【0054】
例えば、上記基材の表面を生体高分子でコーティングする。その後、上記基材の表面を、微生物溶液と接触させる。コーティングしていない基材を、対照として使用する。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)を、微生物溶液と共に、生物膜の形成を可能にする同一条件下で、例えば、5~36時間及び20℃(室温)~35℃でインキュベートする。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)から微生物溶液を除去した後、コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)の表面で増殖した微生物の数を決定し、互いに比較する。
【0055】
コーティングは、被膜であってもよい。コーティングしようとする生体高分子は、エーロゾル、液体、ペースト、半固体、又は固体の形態であってもよい。コーティングは、好ましくは、浸漬コーティング及び/又は噴霧コーティングにより達成される。例えば、「浸漬コーティング」は、以下のように生じてもよい:(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を含有する容器内に基材を浸漬し、(ii)基材を、生体高分子及び溶媒を含む組成物と共にタンク内で、例えば0.1秒~10分の期間にわたってインキュベートし、(iii)生体高分子でその表面がコーティングされた基材を組成物から取り出す。その表面が生体高分子でコーティングされた基材は、例えば、加熱チャンバ、放射、又はファン(室温又は高温度の)を使用した強制乾燥、加熱乾燥により、更に乾燥させてもよい。また、その表面が生体高分子でコーティングされた基材は、室温又は高温で乾燥させてもよい。例えば、「噴霧コーティング」は以下のように行われてもよい:(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を、噴霧缶、噴霧デバイス、又はネブライザー内に移し、(ii)生体高分子及び溶媒を含む組成物を基材に分配する。その表面が生体高分子でコーティングされた基材は、例えば、加熱チャンバ、放射、又はファン(室温又は高温度の)を使用した強制乾燥、加熱乾燥により、更に乾燥させてもよい。また、その表面が生体高分子でコーティングされた基材は、室温又は高温で乾燥させてもよい。加えて、コーティングは、ヒドロゲル、エーロゾル、又は液体として施すことができ、固体コーティングへと固化する。
【0056】
上述のように、コーティングは、生体高分子及び溶媒を含む組成物から形成される。組成物は、溶液、懸濁液、又はエマルジョンであってもよい。また、組成物は、ヒドロゲルであってもよい。溶液は、水溶液又は緩衝水溶液であってもよい。溶媒は、水(H2O)、水性緩衝液、又は有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、ギ酸およびヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)からなる群から選択してもよい。組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.1%(w/v)~30%(w/v)の範囲であってもよい。好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~20%(w/v)の範囲である。より好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~10%(w/v)の範囲である。最も好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.8%(w/v)~5%(w/v)の範囲である。
【0057】
用語「生物膜」の定義、用語「生体高分子」、「生体高分子」の好ましい実施形態、用語「表面」の定義、用語「基材」の定義、「基材」の好ましい実施形態、及び用語「コーティング」の定義に関しては、本発明の第1の態様を参照されたい。
【0058】
上述のような本発明の第2の態様は、以下のように別様に表現することができる:第2の態様では、本発明は、生物膜忌避性の基材を生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物を上記基材の表面にコーティングするステップを含む方法に関する。
【0059】
1つの実施形態では、上記方法は、
(iii)組成物でコーティングされた基材の表面を乾燥させるステップを更に含む。
生物膜忌避性が付与されるのは、特に、基材表面である。
【0060】
第3の態様では、本発明は、基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物から上記基材を形成するステップを含む方法に関する。
【0061】
1つの実施形態では、上記方法は、
(iii)組成物から形成された基材を乾燥させるステップを更に含む。
当業者であれば、上記方法を実施することにより、特にステップ(ii)又はステップ(ii)及びステップ(iii)において、生体高分子を含む基材が生産されることを理解するであろう。
【0062】
用語「上記基材の表面での生物膜の形成が回避される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、生物膜が形成されないことを意味する。用語「上記基材の表面での生物膜の形成が低減される」は、本明細書で使用される場合、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、生物膜の形成が少ないことを意味する。基材の表面での生物膜の形成は、生体高分子を含まない基材の表面と比較して、少なくとも1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、若しくは99%、又は100%低減され得る。好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも10%低減される。より好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも20%低減される。更により好ましくは、生物膜の形成は、少なくとも30%低減される。最も好ましくは、基材の表面での生物膜の形成は、少なくとも90%、例えば100%低減される。しかしながら、基材は、本発明の生体高分子、つまり生物膜の形成を回避又は低減する生体高分子を含まない場合、この効果を示さない別の生体高分子を含んでいてもよい。
【0063】
当業者であれば、上記基材の表面での生物膜の形成が回避又は低減されるか否かは、例えば、細胞数測定、光学濃度(OD)測定、又はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の他の方法により実験的に容易に決定することができる。この点については、実験セクションを参照されたい。好ましくは、細胞数測定が使用される。例えば、生体高分子を含む基材を生産する。その後、生体高分子を含む基材の表面を、微生物溶液と接触させる。生体高分子を含まない基材を対照として使用する。生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)を、微生物溶液と共に、生物膜の形成を可能にする同一条件下で、例えば、5~36時間及び/又は20℃(室温)~35℃でインキュベートする。生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)から微生物溶液を除去した後、生体高分子を含む基材及び生体高分子を含まない基材(対照)の表面で増殖した微生物の数を決定し、互いに比較する。
【0064】
1つの実施形態では、基材は、押出加工、プレス加工、及び/又は鋳込により形成される。形成される基材は、繊維、繊維を含む糸、繊維を含む撚糸、繊維を含む織物からなる群から選択してもよい。
【0065】
上述のように、基材は、生体高分子及び溶媒を含む組成物から形成される。組成物は、溶液、懸濁液、又はエマルジョンであってもよい。また、組成物は、ヒドロゲルであってもよい。溶液は、水溶液、緩衝水溶液、又は有機溶液であってもよい。溶媒は、水(H2O)、水性緩衝液、又は有機溶媒であってもよい。有機溶媒は、ギ酸及びヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)からなる群から選択してもよい。組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.1%(w/v)~30%(w/v)の範囲であってもよい。好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~20%(w/v)の範囲である。より好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.5%(w/v)~10%(w/v)の範囲である。最も好ましくは、組成物、例えば溶液中の生体高分子の濃度は、0.8%(w/v)~5%(w/v)の範囲である。
【0066】
上述のように、基材は、生体高分子及び溶媒を含む組成物から形成される。形成される基材は、少なくとも0.1%(w/v)、1%(w/v)、10%(w/v)、20%(w/v)、30%(w/v)、40%(w/v)、50%(w/v)、60%(w/v)、70%(w/v)、80%(w/v)、90%(w/v)、95%(w/v)、98%(w/v)、99%(w/v)、又は100%(w/v)の生体高分子を含んでいてもよい。好ましくは、基材は、少なくとも1%(w/v)の生体高分子を含む。より好ましくは、基材は、少なくとも2%(w/v)の生体高分子を含む。更により好ましくは、基材は、少なくとも10%(w/v)の生体高分子を含む。最も好ましくは、基材は、少なくとも90%(w/v)、例えば100%(W/V)の生体高分子を含む。後者の場合、基材は、生体高分子からなる。
【0067】
用語「生物膜」の定義、用語「生体高分子」、「生体高分子」の好ましい実施形態、用語「表面」の定義、用語「基材」の定義、及び「基材」の好ましい実施形態に関しては、本発明の第1の態様を参照されたい。
【0068】
上述のような本発明の第3の態様は、以下のように別様に表現することができる:第3の態様では、本発明は、生物膜忌避性の基材を生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物から上記基材を形成するステップを含む方法に関する。
【0069】
1つの実施形態では、上記方法は、
(iii)組成物から形成された基材を乾燥させるステップを更に含む。
生物膜忌避性が付与されるのは、特に、基材表面である。
【0070】
本発明は、以下の様に更に要約される。
1.生物膜の形成を低減するための生体高分子の使用。
2.生物膜の形成が、基材の表面で低減される、第1項に記載の使用。
【0071】
3.生物膜が、細胞が互いに及び/又は基材の表面に付着している微生物の凝集体である、第1項又は第2項に記載の使用。
4.微生物が、細菌、真菌、藻類、及び原生動物、又はそれらの任意の組合せからなる群から選択される、第3項に記載の使用。
【0072】
5.細菌が、エシェリヒア属、シュードモナス属、バチルス属、及び/又はスタフィロコッカス属に由来する、第4項に記載の使用。
6.生体高分子が、コーティングの形態である、第1項~第5項のいずれか一項に記載の使用。
【0073】
7.コーティングが被膜である、第6項に記載の使用。
8.コーティングが、生体高分子及び溶媒を含む組成物から、好ましくは溶液から、又はヒドロゲルから形成される、第6項又は第7項に記載の使用。
【0074】
9.溶媒が、水、水性緩衝液、及び有機溶媒からなる群から選択される、第8項に記載の使用。
10.有機溶媒が、ギ酸およびヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)からなる群から選択される、第9項に記載の使用。
【0075】
11.組成物中の、好ましくは溶液中の、又はヒドロゲル中の生体高分子の濃度が、0.1%(w/v)~30%(w/v)の範囲、好ましくは0.5%(w/v)~20%(w/v)の範囲である、第8項~第10項のいずれか一項に記載の使用。
【0076】
12.基材がデバイスである、第2項~第11項のいずれか一項に記載の使用。
13.デバイスが、医療デバイス、排水処理デバイス、加熱デバイス、換気デバイス、及び空調デバイスからなる群から選択される、第12項に記載の使用。
【0077】
14.医療デバイスが、体外医療デバイス、インプラント、及びカテーテルからなる群から選択される、第13項に記載の使用。
15.(i)体外医療デバイスが、生命維持装置、人工心肺、及び透析デバイスからなる群から選択されるか、または
(ii)インプラントが、ステント、蝸牛インプラント、マイクロチップインプラント、歯科インプラント、及び軟組織インプラント、好ましくは、シリコーンインプラント、より好ましくは、乳房インプラントからなる群から選択される、第14項に記載の使用。
【0078】
16.基材が、合成不活性基材、無機不活性基材、及び天然基材からなる群から選択される、第2項~第15項のいずれか一項に記載の使用。
17.(i)合成不活性基材が、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド(PA)、ポリアラミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリウレタン(PU)、シリコーン、ポリウレタンおよびポリエチレングリコールの混合物(エラステイン)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、及び高機能ポリエチレン(HPPE)からなる群から選択されるか、
(ii)無機不活性基材が、ガラス、炭素、セラミック、金属、サファイア、ダイヤモンド、及び半導体からなる群から選択されるか、又は、
(iii)天然基材が、ケラチン、コラーゲン、セルロース、歯、骨、皮膚、及び組織からなる群から選択される、第16項に記載の使用。
【0079】
18.基材が、生体高分子を含む、第2項~第17項のいずれか一項に記載の使用。
19.生体高分子を含む基材が、繊維、繊維を含む糸、繊維を含む撚糸、繊維を含む織物/布地からなる群から選択される、第18項に記載の使用。
【0080】
20.生体高分子が、ポリペプチド、好ましくは組換えポリペプチドである、第1項~第19項のいずれか一項に記載の使用。
21.ポリペプチドが、シルクポリペプチドである、第20項に記載の使用。
【0081】
22.シルクポリペプチドが、少なくとも2つの同一反復単位を含む、第21項に記載の使用。
23.反復単位が、モジュールA(配列番号1)又はその変異体、モジュールC(配列番号2)又はその変異体、モジュールCCys(配列番号3)、及びモジュールQ(配列番号4)又はその変異体からなる群から独立して選択される、第22項に記載の使用。
【0082】
24.シルクポリペプチドが、少なくとも1つの非反復(NR)単位を含む、第21項~第23項のいずれか一項に記載の使用。
25.NR単位が、NR3(配列番号5)又はその変異体、NR4(配列番号6)又はその変異体、NR5(配列番号7)又はその変異体、及びNR6(配列番号8)又はその変異体からなる群から選択される、第24項に記載の使用。
【0083】
26.シルクポリペプチドが、(C)m、(CCys)m、(C)mCCys、(C)mNRZ、NRZ(C)m、NRZ(C)mNRZ、(AQ)m、及び(AQ)mNRZからなる群から選択され、式中、mは、8~96の整数であり、zは、1~3の整数であり、NRは、非反復単位を表す、第21項~第25項のいずれか一項に記載の使用。
【0084】
27.シルクポリペプチドが、C16NR4、C32NR4、(AQ)12NR3、(AQ)24NR3、(AQ)12、(AQ)24、C16、C32、C48、C16CCys、C32CCys、及びC48CCysからなる群から選択される、第26項に記載の使用。
【0085】
28.基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物を上記基材の表面にコーティングするステップを含む方法。
【0086】
29.(iii)組成物でコーティングされた基材の表面を乾燥させるステップを更に含む、第28項に記載の方法。
30.コーティングが、浸漬コーティング及び/又は噴霧コーティングにより達成される、第28項又は第29項に記載の方法。
【0087】
31.基材を、上記基材の表面での生物膜の形成が低減されるように生産するための方法であって、
(i)生体高分子及び溶媒を含む組成物を準備するステップ、及び
(ii)組成物から上記基材を形成するステップを含む方法。
【0088】
32.(iii)組成物から形成された基材を乾燥させるステップを更に含む、第31項に記載の方法。
33.基材が、押出加工、プレス加工、及び/又は鋳込により形成される、第31項又は第32項に記載の方法。
【0089】
34.溶媒が、水、水性緩衝液、及び有機溶媒からなる群から選択される、第28項~第33項のいずれか一項に記載の方法。
35.有機溶媒が、ギ酸およびHFIPからなる群から選択される、第34項に記載の方法。
【0090】
36.組成物中の、好ましくは溶液中の、又はヒドロゲル中の生体高分子の濃度が、0.1%(w/v)~30%(w/v)の範囲、好ましくは0.5%(w/v)~20%(w/v)の範囲である、第28項~第35項のいずれか一項に記載の方法。
【0091】
実施例
基材の表面での生物膜の形成を確認するため、細胞数測定を適用した。様々な基板(ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、及びステンレス鋼)の表面を、シルク生体高分子でコーティングした。その後、上記基材の表面を、微生物溶液と接触させた。コーティングしていない基材を、対照として使用した。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照又はブランク)を、微生物溶液と共に、5~10時間、30℃でインキュベートして、生物膜の形成を可能にした。コーティングした基材及びコーティングしていない基材(対照)から微生物溶液を除去した後、コーティングした基材の表面で増殖した微生物の数を決定し、コーティングしていない基材(対照又はブランク)の表面で増殖した微生物の数と比較した。
【0092】
実施例1:コーティング溶液/ヒドロゲルの調製
C16タンパク質を、国際公開第2006/008163号に記載のように調製した。
a)C16タンパク質水溶液の調製:
C16タンパク質を、6M GdmSCNに溶解し、5mM Tris/HCl pH8.5で、0.6M GdmSCNに希釈した。この溶液を、4M尿素に対してクロスろ過し(10~15×)、その後、尿素が検出不能になるまで、5mM Tris/HCl pH8.5に対してクロスろ過した(Crossflow;Vivaflow 10~20×)。
【0093】
別法として、C16タンパク質を、6M GdmSCNに溶解し、5mM Tris/HCl pH8.5で、0.6M GdmSCNまで希釈した。タンパク質溶液を、GdmSCNが検出不能になるまで、5mM Tris/HCl pH8.5に対してクロスろ過した(Crossflow Vivaflow 10~20×)。
【0094】
14mlのC16タンパク質水溶液(5mM Tris、pH8.5中のC16タンパク質溶液;タンパク濃度12.5g/l)に、脱イオン水を加えて最終容積を17mlにして、最終タンパク濃度を10g/lにした。
【0095】
b)C16タンパク質ヒドロゲルの調製:
30mlのC16タンパク質水溶液(5mM Tris、pH8.5中のC16タンパク質溶液;タンパク濃度12.5g/l)に、7.5mlの5mM Trisを加えて、最終タンパク濃度を10g/lにした。その後、C16タンパク質溶液を、250mlのSchottフラスコでオートクレーブして(オートクレーブSystec VX-100)、ヒドロゲルを形成した。
【0096】
c)C16タンパク質ギ酸溶液の調製:
212.9mgのC16タンパク質(γ滅菌済)を、21.2mlのギ酸98%(Carl-Roth社、#4742.2、ロット42422005)と、30分間にわたって室温で回転させることにより混合して、最終タンパク濃度を10g/lにした。
【0097】
別法として、100mgのC16タンパク質を、10mlのギ酸98%(Carl-Roth社、#4742.2、ロット42422005)に、30分間にわたって室温で回転させることにより溶解して、最終タンパク濃度を10g/lにした。
【0098】
実施例2:基材の調製
様々な基材を以下の様に調製した。
a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基材の調製:市販の穿孔器を使用して、直径が5mmのPTFEパッチを型抜きし、Sylgard(登録商標)184シリコーン(Swiss-composite社)を使用して、96ウェルプレートの底部に接着した。
【0099】
b)ステンレス鋼基材の調製:市販の穿孔器を使用して、直径がおよそ5mmのステンレス鋼パッチ(製品番号FK110250/1、300649549、GoodFellow社)を型抜きし、ハンマーで平らにし、Sylgard(登録商標)184シリコーン(Swiss-composite社)を使用して、96ウェルプレートの底部に接着した。
【0100】
c)ポリスチレン基材の調製:ポリスチレン96ウェルプレートの未処理ウェルを基材として使用した。
ポリテトラフルオロエチレン基材、ステンレス鋼基材、及びポリスチレン基材をC16タンパク質ヒドロゲルでコーティングする場合、75μlの1%C16タンパク質ヒドロゲルを、96ウェルプレートのウェル内にピペットで滴下し、一晩乾燥させた。翌日、50μlのメタノールを各ウェルにピペットで滴下し、60℃のオーブンで乾燥させた。得られたウェルは、薄い被膜で均一にコーティングされていた。未処理ウェルを対照として使用した。
【0101】
ポリテトラフルオロエチレン基材、ステンレス鋼基材、及びポリスチレン基材をC16タンパク質水溶液でコーティングする場合、120μlの1%C16タンパク質水溶液を、プレートのウェル内にピペットで滴下し、一晩乾燥させた。翌日、50μlのメタノールを各ウェルにピペットで滴下し、60℃のオーブンで乾燥させた。得られたウェルは、透明な薄い被膜で均一にコーティングされていた。未処理ウェルを対照として使用した。
【0102】
ポリテトラフルオロエチレン基材、ステンレス鋼基材、及びポリスチレン基材をC16タンパク質ギ酸溶液でコーティングする場合、70μlの1%C16タンパク質ギ酸溶液を、プレートのウェル内にピペットで滴下し、一晩乾燥させた。得られたウェルは、透明な薄い被膜で均一にコーティングされていた。未処理ウェルを対照として使用した。
【0103】
d)シリコーン基材(きめの粗い)の調製:
ざらつきのあるシリコーンパッチをC16タンパク質水溶液でコーティングする場合、ざらつきのあるシリコーンホイルから、シリコーンパッチを、ウェルの直径に適合するように切り出し、その後エタノールで洗浄した。シリコーンパッチを、スライドガラスに付着させ、C16タンパク質水溶液内で浸漬コーティングした。このように、シリコーンパッチが付着されているスライドガラスを、1%C16タンパク質水溶液内に2分間にわたって浸漬し、その後5分間にわたって乾燥させた。この浸漬及び乾燥のステップを、3回繰り返した。シリコーンパッチが付着されているスライドガラスを、60℃で5分間にわたって乾燥させた。その後、シリコーンパッチが付着されているスライドガラスを、リン酸緩衝液(0.5MのNa2HPO4/NaH2PO4内に30秒間にわたって浸漬し、30秒間にわたって乾燥させた。脱イオンH2Oでの洗浄ステップ(10秒)及び乾燥ステップ(30秒)の後、シリコーン基材をスライドガラスから取り外し、Sylgard(登録商標)184シリコーン(Swiss-composite社)を使用して、ポリスチレン96ウェルプレートのウェル底部に接着した。未処理シリコーンパッチは、対照としての役割を果たした。
【0104】
ざらつきのあるシリコーンパッチをC16タンパク質ギ酸溶液でコーティングする場合、シリコーンパッチをスライドガラスに付着させ、C16タンパク質ギ酸溶液内で浸漬コーティングした。このように、シリコーンパッチが付着されているスライドガラスを、1%C16タンパク質ギ酸溶液内に2分間にわたって浸漬し、その後5分間にわたって乾燥させた。この浸漬及び乾燥のステップを、3回繰り返した。シリコーンパッチが付着されているスライドガラスを、60℃で5分間にわたって乾燥させた。その後、シリコーン基材をスライドガラスから取り外し、Sylgard(登録商標)184シリコーン(Swiss-composite社)を使用して、ポリスチレン96ウェルプレートのウェル底部に接着した。未処理シリコーンパッチは、対照としての役割を果たした。
【0105】
ざらつきのあるシリコーンパッチをC16タンパク質ヒドロゲルでコーティングする場合、ざらつきのあるシリコーンホイルから、シリコーンパッチを、ウェルの直径に適合するように切り出し、その後エタノールで洗浄した。シリコーンパッチを、Sylgard(登録商標)184シリコーン(Swiss-composite社)を使用して、ポリスチレン96ウェルプレートのウェル底部に接着した。シリコーンパッチ上に75μlの1%C16タンパク質ヒドロゲルをピペットで滴下することによりシリコーンパッチをコーティングし、一晩乾燥させた。翌日、50μlのメタノールを各パッチにピペットで滴下し、60℃のオーブンで乾燥させた。得られたウェルは、薄い被膜で均一にコーティングされていた。96ウェルプレートの底部に接着した未処理シリコーンパッチは、対照としての役割を果たした。
【0106】
実施例3:様々なコーティング基材上での生物膜形成の決定
生物膜形成を試験するため、様々な基材(ポリスチレン、きめの粗いシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びステンレス鋼)と組み合わせたポリスチレン96ウェルプレート(Greiner bio-one社、PS、平底)を、実施例2によるシルク生体高分子でコーティングした。コーティングしていない基材を対照として使用した。96ウェルプレートを、生物膜形成細菌(スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))の付着性細菌培養物と共にインキュベートした。インキュベーション後、96ウェルプレート上で増殖した細菌細胞の数を決定し、シルク生体高分子コーティングを有していないそれぞれの基材上で増殖した細菌細胞の数と比較した。
【0107】
具体的には、培養培地(酵母ペプトンデキストロースを有する0.5%TSB(トリプシン大豆ブロス))中のスタフィロコッカス・アウレウスの200μlの接種材料を、96ウェルプレートに添加した。スタフィロコッカス・アウレウスを含まない培養培地(酵母ペプトンデキストロースを有する0.5%TSB(トリプシン大豆ブロス)を対照として使用した。マイクロタイタープレート振とう機でインキュベーションした後(100rpm、6時間)、上清を除去し、生理学的NaCl溶液でウェルを注意深く3回洗浄した。上清を除去した後、150μlのNaCl溶液を各ウェルに添加し、プレートをよく混合して(10分間、ボルテックス)、付着性細菌細胞を取り除いた。系列希釈した後、細胞を、トリプシン大豆寒天プレートに点接種し、33℃で16~24時間にわたって増殖させた。細胞数の決定は、双眼顕微鏡の助けを借りてコロニーを計数することにより行った。
【0108】
生物膜形成の低減を確認するため、各実験の16個の試料(C
16タンパク質水溶液、C
16タンパク質ギ酸溶液、及びC
16タンパク質ヒドロゲルでコーティングしたポリスチレン基材、きめの粗いシリコーン基材、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)基材、及びステンレス鋼基材)の平均値細胞数を、非コーティング基材の平均値細胞数に対して決定及び算出した。
図1には、水性シルク溶液(水溶液)、シルクヒドロゲル(ヒドロゲル)、及びギ酸シルク溶液(ギ酸)でコーティングした様々な基材(ポリスチレン、きめの粗いシリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びステンレス鋼)での生物膜形成の低減が示されている。75%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたポリスチレン;1列目)、35%(シルクヒドロゲルでコーティングしたポリスチレン;2列目)、41%(水性シルク溶液でコーティングしたきめの粗いシリコーン;3列目)、13%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン(PTFE);4列目)、40%(水性シルク溶液でコーティングしたポリテトラフルオロエチレン(PTFE);5列目)、及び66%(ギ酸シルク溶液でコーティングしたステンレス鋼;6列目)の生物膜形成の低減が達成された。
【0109】
実施例4:ポリエステル布地基材と比較した生体高分子布地基材での生物膜形成及び非コーティングシリコーンホイルと比較したシルクコーティングシリコーンホイルでの生物膜形成の決定
この例では、ポリエステル布地基材と比較した、生体高分子布地基材での生物膜形成を決定した。生体高分子布地基材は、シルク生体高分子布地基材であった。シルク生体高分子は、100%C32NR4シルクタンパク質で構成されていた。このシルクタンパク質は、国際公開第2006/008163号に記載のように調製した。その後、このタンパク質を、国際公開第2014/037453号に記載のように加工して繊維にした。リング撚糸機を使用して、3本のマルチフィラメントを撚糸して糸にした。この糸を、キッティング(kitting)プロセスに供した。この糸材料で2Dパターンを編み込んだ。得られたシルク生体高分子布地を、3つの5cm×5cm試料に切断し、オートクレーブで滅菌した。
【0110】
加えて、非コーティングシリコーンホイルと比較した、シルクコーティングシリコーンホイルでの生物膜形成を決定した。シリコーンホイル(5cm×5cm)の3つの試料を、1%C16シルクヒドロゲルでコーティングした。つまり、オートクレーブで滅菌した試料を、20mlの1%C16シルクヒドロゲル中で5分間インキュベートした。シルクヒドロゲルは、実施例2に記載のように調製した。インキュベーションした後、試料を無菌条件下で一晩RTにて乾燥させた。コーティングしていないシリコーンホイルの3つの試料(5cm×5cm、オートクレーブで滅菌)を、対照として使用した。
【0111】
コーティングしていないポリエステルの3つの試料を、PES試験布地として使用した。つまり、3つのポリエステルマルチフィラメント(TWD Fibres GmbH社、デッゲンドルフ)を、ニット織物に加工した。得られたポリエステル布地を、3つの5cm×5cm試料に切断した。
【0112】
生物膜形成の低減を確認するため、細菌スタフィロコッカス・エピデルミデス(Staphylococcus epidermidis)DSM18857(ライプニッツ研究所DSMZ-ドイツ微生物及び細胞培養コレクション(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures))(1.25×104細胞/cm2)を含有する薄い液体被膜(400μl)を、4つの異なる試料(5cm×5cm、三重重複):コーティングしていないポリエステル(PES試験布地)、シルク生体高分子布地、コーティングしていないざらつきのあるシリコーンホイル、シルク生体高分子でコーティングしたざらつきのあるシリコーンホイルに塗布した。その後、細菌を含有する液体被膜でコーティングした基材試料をホイル(Stomacher-Bag)で覆って、乾燥を防止した。細菌を含有する液体被膜を塗布した直後、PBS中でボルテックス又は超音波処理することにより、基材の表面及びカバーホイルからゼロ試料を収集して、細菌数(CFU)(t0値)を決定した。ゼロ試料及び基材試料(コーティングしていないポリエステル、生体高分子布地、コーティングしていないざらつきのあるシリコーンホイル、シルク生体高分子でコーティングしたざらつきのあるシリコーンホイル)を、37℃の高湿条件下にて、細菌を含有する液体被膜中で更にインキュベートした。24時間後、PBS中でボルテックス又は超音波処理するにより、基材試料の表面及びカバーホイルから細菌を収集した。細菌細胞をプレーティングして、細菌数(CFU)(t24値)を決定した。結果は、表1に示されている。
【0113】
【0114】
表1には、生体高分子布地が、コーティングしていないポリエステルと比較して、99.99%を超える生物膜形成の低減をもたらすことが示されている。言いかえれば、生体高分子布地での生物膜の形成は、ほとんど完全に回避された。シルクコーティングしたシリコーンホイルでは、コーティングしていないシリコーンホイルと比較して、93.16%の生物膜形成の低減を確認することができた。
【0115】
実施例5:シルク生体高分子織物と比較した、綿織物及びポリエステル織物での生物膜形成の決定(in vitro及びin vivo)。
この実施例では、シルク生体高分子織物と比較した、綿織物及びポリエステル織物での生物膜形成(in vitro及びin vivo)を決定した。シルク生体高分子織物試料は、100%C32NR4シルクタンパク質で構成されていた。このシルクタンパク質は、国際公開第2006/008163号に記載のように調製した。その後、このタンパク質を、国際公開第2014/037453号に記載のように加工して、繊維にした。リング撚糸機を使用して、3本のマルチフィラメントを撚糸して糸にした。この糸を、織りプロセスに供した。A4サイズの織物を織っている間、糸を縦糸及び横糸の方向に使用した。織物を、1.5cm×1.5cm試料に切断した。
【0116】
生体高分子織物と比較した、綿織物及びポリエステル織物での生物膜形成の低減をin vitroで決定するため、各織物(1.5cm×1.5cm、オートクレーブで滅菌)の2つの試料を、10ml(スタフィロコッカス・アルレッタ(Staphylococcus arlettae)DSM30634(ライプニッツ研究所DSMZ-ドイツ微生物及び細胞培養コレクション)を含有するCASOブロス細菌溶液中4.3×104細胞/ml)中で、撹拌しながら室温(RT)にて5~6時間インキュベートした。インキュベーションした後、織物試料を、PBSで2回洗浄した(第1の洗浄ステップ:10mlのPBS、60rpmで撹拌しながら5分間、第2の洗浄ステップ:10mlのPBS、撹拌しながら1分間)。第1及び第2の洗浄ステップ後、織物試料を滅菌ティッシュペーパー上で軽く叩くことにより、試料からPBSを除去した。織物試料を、CASO寒天プレートに貼付した。プレートを37℃で48時間及びRT(室温)で36時間インキュベーションした後、細菌コロニーの数を、光学的検査により決定した。最も高い細菌増殖を示した試料を、100%とした。最も低い細菌増殖を示した/細菌増殖を示さなかった試料を、0%とした。オートクレーブで滅菌した織物試料を、陰性対照として使用した。結果は、表2に示されている。
【0117】
【0118】
表2には、シルク織物では生物膜形成を検出することはできなかったが、綿織物及びポリエステル織物は、強い生物膜形成を示すことが示されている。以下の記号は生物膜形成を表す:4:100%、3:75%、2:50%、1:25%、0:0%(生物膜形成がない)。
【0119】
シルク生体高分子織物と比較した、綿織物及びポリエステル織物での生物膜形成の低減をin vivoで決定するため、各織物(1.5cm×1.5cm、オートクレーブで滅菌)の5つの試料を、ヒト皮膚に貼付した。つまり、織物試料を、5人の異なる被験者のヒト皮膚にプラスターを用いて8時間にわたって固定した。織物試料を有するプラスターを被験者の皮膚から取り除いた後、織物試料を、PBSで2回洗浄した(第1の洗浄ステップ:10mlのPBS、60rpmで撹拌しながら5分間、第2の洗浄ステップ:10mlのPBS、撹拌しながら1分間)。第1及び第2の洗浄ステップ後、織物試料を滅菌ティッシュペーパー上で軽く叩くことにより、試料からPBSを除去した。皮膚に面していた側の織物試料を、CASO寒天プレート上に配置した。RTで36時間インキュベーションした後、細菌コロニーの数を、光学的検査により決定した。最も高い細菌増殖を示した試料を、100%とした。最も低い細菌増殖を示した/細菌増殖を示さなかった試料を、0%とした。オートクレーブで滅菌した織物試料を、陰性対照として使用した。結果は、表3に示されている。
【0120】
【0121】
表3には、ヒト皮膚に貼付した後のシルク生体高分子織物では、生物膜形成を検出することはできなかったが、綿織物及びポリエステル織物は、弱い~強い生物膜形成を示すことが示されている。以下の記号は生物膜形成を表す:4:100%、3:75%、2:50%、1:25%、0:0%(生物膜形成がない)。
【0122】
実施例6:シルク生体高分子でコーティングしたポリエステル織物と比較した、非コーティングポリエステル織物での生物膜形成の決定
この実施例では、非コーティングポリエステル織物での生物膜形成を、シルク生体高分子でコーティングしたポリエステル織物と比較した。比較試験に使用するポリエステル織物試料を、1%C16シルクヒドロゲルでコーティングした。つまり、オートクレーブで滅菌した試料を、20mlの1%C16シルクヒドロゲル中で5分間インキュベートした。このシルクヒドロゲルは、実施例2に記載のように調製した。浸漬した後、試料を無菌条件下で一晩RTにて乾燥させた。
【0123】
生体高分子織物でコーティングしたポリエステル織物と比較した、非コーティングポリエステル織物での生物膜形成の低減をin vivoで決定するため、非コーティングポリエステル織物(1.5cm×1.5cm、オートクレーブで滅菌)の2つの試料及びシルクコーティング織物の2つの試料を、ヒト皮膚に貼付した。つまり、織物試料を、4人の異なる被験者のヒト皮膚にプラスターを用いて8時間にわたって固定した。織物試料を有するプラスターを被験者の皮膚から取り除いた後、織物試料を、PBSで2回洗浄した(第1の洗浄ステップ:10mlのPBS、60rpmで撹拌しながら5分間、第2の洗浄ステップ:10mlのPBS、撹拌しながら1分間)。第1及び第2の洗浄ステップ後、試料を滅菌ティッシュペーパー上で軽く叩くことにより、織物試料からPBSを除去した。皮膚に面していた側の織物試料を、CASO寒天プレート上に配置した。37℃で48時間及びRTで36時間インキュベーションした後、細菌コロニーの数を、光学的検査により決定した。最も高い細菌増殖を示した試料を、100%とした。最も低い細菌増殖を示した/細菌増殖を示さなかった試料を、0%とした。オートクレーブで滅菌した織物試料を、陰性対照として使用した。結果は、表4に示されている。
【0124】
【0125】
表4には、ヒト皮膚に貼付した後のシルクでコーティングしたポリエステル織物では、生物膜形成を検出することはできなかったが、コーティングしていないポリエステル織物は、弱い~強い生物膜形成を示すことが示されている。以下の記号は生物膜形成を表す:4:100%、3:75%、2:50%、1:25%、0:0%(生物膜形成がない)。
【配列表】