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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】磁気光学材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/09 20060101AFI20230803BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20230803BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20230803BHJP
   H01F 10/14 20060101ALI20230803BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
G02F1/09 501
H01F1/00 163
H01F1/20 ZNM
H01F10/14
H01F10/16
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021134657
(22)【出願日】2021-08-20
(65)【公開番号】P2023028766
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-11-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業、チーム型研究(CREST)、「新規磁性コンポジット材料およびプロセス技術 の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098423(JP,A)
【文献】特開2001-273622(JP,A)
【文献】特開2003-099920(JP,A)
【文献】特開2018-206978(JP,A)
【文献】特開2017-041599(JP,A)
【文献】特開2020-031084(JP,A)
【文献】特開2020-088078(JP,A)
【文献】特開2014-175617(JP,A)
【文献】特開2005-194591(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016891(WO,A2)
【文献】小林 伸聖、 池田 賢司、 荒井 賢一,FeCo-BaFおよびFeCo-SiN系ナノグラニュラー膜の 巨大ファラデー効果,電気学会論文誌A(基礎・材料・共通部門誌),日本,一般社団法人 電気学会,2021年02月01日,第141巻,第2号,p.123-127,https://doi.org/10.1541/ieejfms.141.123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H01F 1/00 - 1/44
H01F 10/00 - 10/32
H01F 41/14 - 41/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子がマトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有し、
前記マトリックスが、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Biおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含むフッ化物マトリックスであり、
前記ナノ粒子が、Fe-Pt合金、Co-Pt合金、Fe-Co―Ni―Al合金、CoフェライトおよびBaフェライトからなる群から選択される少なくとも1種の磁化を有し、Fe-Pt規則相、Co3-Pt規則相またはスピネル相からなる磁性ナノ粒子であり、
400nm~2000nmの波長帯の入射光に対して光透過率が[1%/μm]以上であり、
磁界が印加されていない状態において、600nm~1600nmの波長帯のうち少なくとも一部の波長帯の光に対して残留磁化に伴うファラデー回転角の絶対値が0.[deg./μm]以上である
磁気光学材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気光学材料において、
ナノグラニュラー構造中に含まれる全部の磁性ナノ粒子のマトリックスに対する体積比率が10%以上50%以下である
磁気光学材料。
【請求項3】
請求項1~2のうちいずれか1項に記載の磁気光学材料の製造方法であって、
前記磁性ナノ粒子が前記フッ化物マトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有するナノグラニュラー材料を作製する工程と、
前記磁性ナノ粒子が規則化する温度範囲において、前記ナノグラニュラー材料を熱処理する工程と、を含んでいる
磁気光学材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノグラニュラー構造を有する磁気光学材料に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者により、フッ化物マトリックスにナノメーターサイズの磁性金属グラニュールが分散しているナノグラニュラー構造を有する、磁気光学材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気光学材料は、高いファラデー回転角および良好な透光性を有しており、かつ、近赤外波長域で優れた磁気光学特性を示しているので、種々の光通信デバイスに適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6619216号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本金属学会報「まてりあ」Vol.37(1998)、No.9、p.745-748、グラニュラー系のトンネル型巨大磁気抵抗-高次のスピン依存トンネル効果-
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、磁気光学材料にファラデー効果または磁気旋光効果を発現させるためには、当該磁気光学材料に磁場が印加されている必要がある。このため、その分だけ磁気光学材料の光通信デバイスへの適用範囲が制限されることになる。
【0006】
そこで、本発明は、磁場が印加されていない状態でもファラデー効果を発現しうる磁気光学材料およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気光学材料は、
ナノ粒子がマトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有し、
前記マトリックスが、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Biおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上の元素を含むフッ化物マトリックスであり、
前記ナノ粒子が、Fe-Pt合金、Co-Pt合金、Fe-Co―Ni―Al合金、CoフェライトおよびBaフェライトからなる群から選択される少なくとも1種の残留磁化を有し、Fe-Pt規則相、Co3-Pt規則相またはスピネル相からなる磁性ナノ粒子である。
また、400nm~2000nmの波長帯の入射光に対して光透過率が[1%/μm]以上であり、磁界が印加されていない状態において、磁化に伴うファラデー回転角の絶対値が0.[deg./μm]以上である。
【0008】
本発明の磁気光学材料の製造方法は、
前記磁性ナノ粒子が前記フッ化物マトリックスに分散しているナノグラニュラー構造を有するナノグラニュラー材料を作製する工程と、
前記磁性ナノ粒子がFe-Pt規則相、Co-Pt規則相またはスピネル相を形成する温度範囲において、前記ナノグラニュラー材料を熱処理する工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁気光学材料によれば、磁性ナノ粒子の残留磁化により、磁場が印加されていない状態でもファラデー効果を発現しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】試料1のファラデーループを示す図。
図2】試料1の光の波長と零磁界におけるファラデー回転角の絶対値の関係を示す図。
図3】試料1のXRDパターンを示す図。
図4】試料2のファラデーループを示す図。
図5】試料2の光の波長と零磁界におけるファラデー回転角の絶対値の関係を示す図。
図6】試料2のXRDパターンを示す図。
図7】試料3のファラデーループを示す図。
図8】試料3の光の波長と零磁界におけるファラデー回転角の絶対値の関係を示す図。
図9】試料3のXRDパターンを示す図。
図10】試料4のファラデーループを示す図。
図11】試料4の光の波長と零磁界におけるファラデー回転角の絶対値の関係を示す図。
図12】試料4のXRDパターンを示す図。
図13】試料5のファラデーループを示す図。
図14】試料5の光の波長と零磁界におけるファラデー回転角の絶対値の関係を示す図。
図15】試料5のXRDパターンを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、高い磁化特性および良好な透光性を有し、かつ近赤外領域で優れた磁気光学特性を示し、種々の光通信デバイスに適用可能な磁気光学材料を得るために研究を重ねた。その結果、本発明者の一部を含む研究者により巨大磁気抵抗(GMR)材料として提案されたナノグラニュラー磁性材料(非特許文献1参照)のうち、フッ化物マトリックスとnmサイズの金属グラニュールからなるものが、透光性マトリックス中に微細な磁性金属グラニュールが分散して存在する効果により高い磁化特性および良好な透光性を有し、近赤外領域で優れた磁気光学特性を示すことを見出した。
【0012】
以下、本発明に係る磁気光学材料の「組成および構造」、「特性」および「製造方法」に関して説明する。
【0013】
(組成および構造)
本発明の磁気光学材料は、磁性ナノ粒子(ナノグラニュール)がフッ化物マトリックスに分散したナノグラニュラー構造を有し、磁性ナノ粒子が、Fe-Pt合金、Co-Pt合金、Fe-Co―Ni―Al合金、Coフェライト、Baフェライトのいずれかの残留磁化を有する磁石材料で構成され、マトリックスがLi、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Bi、希土類元素から選択される少なくとも1種以上の元素を含むフッ化物である。
【0014】
本発明の磁気光学材料は、磁性ナノ粒子の平均粒径が50nm以下の磁性グラニュールが、フッ化物からなるマトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造をとる。このように優れた光透過性を有するフッ化物中に微細な磁性グラニュールが分散して存在する効果により、優れた特性を有する磁気光学材料となる。すなわち、フッ化物中に平均粒径が50nm以下の磁性ナノ粒子が分散することにより、磁性グラニュールに起因する磁性とマトリックスに起因する光透過性を同時に発揮することができる。このようなナノグラニュラー構造は、スパッタリングのような薄膜作製技術により上記組成の薄膜を形成することにより得ることができる。
【0015】
ナノグラニュラー構造中に含まれる全部の磁性ナノ粒子のマトリックスに対する体積比率が10%以上50%以下であることが好ましい。磁性ナノ粒子の体積比率が10%未満では、含まれる磁性成分が少ないため磁性が失われ磁性体として機能しなくなり、その一方で50%を超えると、含まれる磁性成分が多くなり磁性ナノ粒子の粒径が50nmを超えて、隣り合う磁性ナノ粒子が接触・結合し、マトリックスのフッ化物を透過する入射光が磁性ナノ粒子に遮られ光透過性が失われる。
【0016】
磁性ナノ粒子は、保磁力と残留磁化とを有するFe-Pt合金、Co-Pt合金、Fe-Ni-Al合金、Coフェライト、Baフェライト磁石からなり、なるべく大きな残留磁化を有することが望ましい。磁石材料を用いることによって、磁場を印可しない状態でも磁化を有し、残留磁化に伴うファラデー効果を発揮することができる。磁性ナノ粒子が残留磁化を持つ磁石特性を発揮するためには、それぞれに最適な熱処理を実施した規則相またはスピネル相を伴う結晶である必要がある。磁気異方性を付与するための、磁場中熱処理(磁場中冷却)も有効である。
【0017】
本発明に係る磁気光学材料は、上記組成であれば薄膜でもバルクでもよいが、光通信デバイスの小型化に対応するには薄膜が適している。
【0018】
(特性)
次に、本発明に係る磁気光学材料の特性について説明する。
【0019】
(1.光透過性)
本発明に係る磁気光学材料は、波長が400nmから2000nmまでの可視光領域を含む紫外から近赤外領域での任意の波長の入射光に対して、厚さ1μmに対して1%以上の光透過率を有する。好ましくは、磁性体厚さ1μmに対して10%以上である。このように広い範囲で良好な光透過性を有するため、種々の光通信デバイスに適したものとなる。
【0020】
(2.磁気特性)
本発明に係る磁気光学材料は、残留磁化を伴う強磁性を示す。残留磁化を有する磁石材料からなる磁性ナノ粒子の存在により、磁場を印可せずとも自発磁化に伴うファラデー効果を示す。本発明に係る磁気光学材料を用いることによって、ファラデー効果を発現させるための磁場印可機構が必要なくなり、デバイス構造の簡素化、微細化が可能となり、デバイスの製作工程も単純化することができる。これによりデバイスの低コスト化も可能となる。
【0021】
(3.磁気光学特性(ファラデー回転角))
光アイソレーターや光サーキュレーターなどの光通信素子には、磁場に平行な直線偏光を透過させたときに偏光面が回転する磁気光学効果(ファラデー効果)を示す磁性体が用いられるが、このような磁性体として従来用いられていたイットリウムガーネットやビスマス置換ガーネットを用いると、光通信に用いられる近赤外波長域(1550nm)ではファラデー回転角が非常に小さくなる。これに対し、本発明の磁気光学材料では、波長域によらず、ファラデー回転角が絶対値で0.1[deg./μm]以上、さらには0.3[deg./μm]以上となり、光通信に用いられる近赤外波長域(1550nm)において、従来のイットリウムガーネットやビスマス置換ガーネットを用いた場合に比べて大きなファラデー回転角が得られる。このように大きなファラデー回転角が得られるのは、微細な磁性グラニュールに光が透過もしくは反射することによる、強磁性金属の磁気光学効果、またマトリックスと磁性グラニュールの界面における電磁効果や量子効果による作用が考えられる。
【0022】
(製造方法)
本発明の磁気光学材料は、コンベンショナルなスパッタ装置、RFスパッタ装置で薄膜として成膜することができる。スパッタ法またはRFスパッタ成膜装置を用い、純Fe、純Co、純NiあるいはFe、Co、Ni、Pt、Al、Baのいずれかを含む合金円板ターゲット、さらにはこれらの金属円板ターゲット上にPt、Al、Baチップを均等に配置した複合ターゲットとフッ化物ターゲットを同時にスパッタして行うと、nmサイズ(50nm以下)の磁性ナノ粒子がフッ化物からなるマトリックス中に分散したナノグラニュラー構造膜が得られる。このとき、薄膜形成のための基体としては、半導体基板および/または絶縁体基板などの各種基板のほか、これら表面に半導体および/または絶縁体の層が形成された当該基板が用いられてもよい。
【0023】
具体例としては、コンベンショナルタイプのRFスパッタ装置、RFマグネトロンスパッタ装置あるいはDC対向ターゲットスパッタ装置を用い、直径70~100mmの純Fe、純Co、純NiあるいはFe、Co、Ni、Pt、AlおよびBaのうちいずれか2種以上を含む合金円板ターゲット、さらにそれにLi、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Biおよび希土類元素からなる群から選択される1種以上の元素を含む合金ターゲットと、Li、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba、Biおよび希土類元素からなる群から選択される1種以上の元素のフッ化物のターゲットを同時にスパッタリングすることによりナノグラニュラー構造を有するナノグラニュラー薄膜が作製される。スパッタ成膜に際しては、ArガスまたはArおよびO2(0.1~10%)の混合ガスが用いられる。膜厚のコントロールは成膜時間を加減することによって行い、約0.3~5[μm]に成膜する。なお、基体(基板)は間接水冷され、あるいは、100~800[℃]の温度範囲の任意の温度に制御され、成膜時のスパッタ圧力は1~60m[Torr]に制御され、スパッタ電力は50~350[W]の範囲で調節される。
【0024】
(熱処理)
磁性ナノ粒子が残留磁化を伴う磁石特性を発揮するためには、規則相あるいはスピネル相を有することが必要である。規則相、スピネル相を得るためには、成膜後に所定の熱処理といった加熱工程が必要となる。これに必要な温度は500℃以上であり、真空中、あるいは酸素雰囲気中において500℃~800℃の温度範囲に含まれている所定の温度での熱処理を行う。
【0025】
以上の方法で薄膜として得られた本発明の磁気光学材料は、フッ化物マトリックスとnmサイズの磁性金属ナノ粒子からなるナノグラニュラー構造であり、透光性マトリックス中に微細な残留磁化を持つ磁性ナノ粒子が分散して存在する効果により、高い磁化特性および良好な透光性を有し、磁界を印可しない状態で600~1600nmの波長帯の全部または一部において残留磁化に伴う大きな(例えば0.08deg./μm以上の)ファラデー回転角を有するので、種々の光通信デバイスの簡素化、小型化が可能となる。
【0026】
スパッタ法での作製は、膜厚が10μm以下程度の薄膜材料の作製に向いているが、10μmを超える厚膜の作製には、合成する元素を含む水溶液を用いた電気化学反応成膜法が適している。さらにバルクの作製には、合成する元素を含む粉末原料を粉砕混合して焼成する方法がある。
【実施例
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0028】
(1.予備実験)
基板として、約0.5mm厚のコーニング社製#7059、#2000、#XG(コーニング社の商品名)ガラス、0.5mm厚で表面を熱酸化したSiウエハ、および0.5mm厚の石英ガラスが用いられた。
【0029】
(2.薄膜の作製と評価)
薄膜試料の作製条件の一例が表1にまとめて示されている。
【0030】
【表1】
以上の条件で上述のようにして作製された磁気光学材料(磁気光学薄膜)の試料について、エネルギー分散型分光分析法(EDS)、あるいは波長分散型分光分析法(WDS)によって膜組成が分析された。
【0031】
各試料について、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)によって光透過率が計測された。また、405~1550[nm]の波長範囲における光に対して最大磁界800[kA/m]までの任意の磁界において各試料のファラデー効果(ファラデー回転角)が測定された。さらに、試料振動型磁化測定装置(VSM)によって各試料の磁化が測定された。また、各試料の構造がX線回折法(XRD)によって解析された。
【0032】
表2には、各試料についての熱処理条件と波長1550[nm]における零磁界でのファラデー回転角の測定結果が示されている。
【0033】
【表2】
図1には、試料1の波長600、800、1310および1550nmの入射光に対するファラデーループが示されている。ファラデーループは磁化曲線に対応しており、残留磁化および保磁力を伴うヒステリシスを有してる。図1からわかるように、ファラデー回転角は磁界(H)が0であっても、それぞれ600nmで絶対値0.57[deg./μm]、800nmで絶対値0.59[deg./μm]、1310nmで絶対値0.33[deg./μm]および1550nmで絶対値0.26を有する。
【0034】
図2には、試料1の磁界が印加されていない状態(H=0)におけるファラデー回転角の絶対値と入射光の波長との関係を示した。図2から分かるように試料1は。波長500nm以上の範囲において、0.2[deg./μm]以上の値を有している。
【0035】
図3には、試料1のXRD回折パターンが示されている。成膜後に真空中で600℃の熱処理が施されることによって、Co-Pt合金の規則化が促進され、2θ=43、50[deg.]、73[deg.]および88[deg.]のそれぞれの付近にCo3Ptの規則相の存在を示すピークが確認できる。また、2θ=27[deg.]および57[deg.]のそれぞれの付近にMgF2相の存在を示すピークが確認できる。当該確認結果から、試料1が、Mgフッ化物からなるマトリックスにCo3Pt規則相のCo-Pt合金からなる磁石粒子が分散したナノグラニュラー構造を有することがわかる。試料1においてCo-Pt磁石粒子の存在によって残留磁化が生じ、H=0であっても試料1の磁気光学材料がファラデー効果を発現する。
【0036】
図4には、試料2の波長800、1310および1550[nm]の入射光に対するファラデーループが示されている。図4からわかるように、ファラデー回転角はH=0であっても、それぞれ800nmで絶対値0.08[deg./μm]、1310nmで絶対値0.21[deg./μm]および1550nmで絶対値0.21[deg./μm]を有する。
【0037】
図5には、試料2のH=0の状態におけるファラデー回転角の絶対値と入射光の波長との関係を示した。図5から分かるように試料2は、波長800nm以上の範囲において、0.08[deg./μm]以上の値を有している。
【0038】
図6は試料2のXRD回折パターンである。成膜後に真空中で600℃の熱処理を行うことによって、Co-Pt合金の規則化が促進し、2θ=43[deg.]、50[deg.]、73[deg.]および88[deg.]のそれぞれの付近にCo3Ptの規則相の存在を示すピークが確認できる。また、2θ=28[deg.]、47[deg.]および76[deg.]のそれぞれの付近にCaF2相の存在を示すピークが確認できる。当該確認結果から、試料2が、Caフッ化物からなるマトリックスにCo3Pt規則相のCo-Pt合金からなる磁石粒子が分散したナノグラニュラー構造を有することがわかる。試料2においてCo-Pt磁石粒子の存在によって残留磁化が生じ、H=0であっても試料2の磁気光学材料がファラデー効果を発現する。
【0039】
図7には、試料3の波長波長800、1310および1550[nm]の入射光に対するファラデーループが示されている。図7からわかるように、ファラデー回転角はH=0であっても、それぞれ800nmで絶対値0.19[deg./μm]、1310nmで絶対値0.23[deg./μm]および1550nmで絶対値0.17[deg./μm]を有する。
【0040】
図8には、試料3のH=0におけるファラデー回転角の絶対値と入射光の波長との関係を示した。図8から分かるように試料3は。波長500~600nmおよび720nm以上の範囲において、0.08[deg./μm]以上の値を有している。
【0041】
図9には、試料3のXRD回折パターンが示されている。成膜後に真空中で650℃の熱処理が施されることによって、Fe-Pt合金の規則化が促進し、2θ=24[deg.]、33[deg.]、42[deg.]、47[deg.]、49[deg.]、68[deg.]および71[deg.]のそれぞれの付近にFePtの規則相の存在を示すピークが確認できる。また、2θ=28[deg.]および57[deg.]のそれぞれの付近にMgF2相の存在を示すピークが確認できる。当該確認結果から、試料3が、Mgフッ化物からなるマトリックスにFePt規則相のFe-Co-Pt合金からなる磁石粒子が分散したナノグラニュラー構造を有することがわかる。試料3においてFe-Co-Pt磁石粒子の存在によって残留磁化が生じ、H=0であっても試料3の磁気光学材料がファラデー効果を発現する。
【0042】
図10には、試料4の波長600、800、1310および1550[nm]の入射光に対するファラデーループが示されている。図10からわかるように、ファラデー回転角はH=0であっても、それぞれ600nmで絶対値0.09[deg./μm]、800nmで絶対値0.24[deg./μm]、1310nmで絶対値0.14[deg./μm]および1550nmで絶対値0.11[deg./μm]を有する。
【0043】
図11には、試料4のH=0におけるファラデー回転角の絶対値と入射光の波長との関係を示した。図11から分かるように試料4は。波長500~600nmおよび720nm以上の範囲において、0.08[deg./μm]以上の値を有している。
【0044】
図12には、試料4のXRD回折パターンが示されている。成膜後に真空中で600℃の熱処理が施されることによって、Fe-Pt合金の規則化が促進され、2θ=24[deg.]、33[deg.]、42[deg.]、47[deg.]、58[deg.]および84[deg.]のそれぞれの付近にFePtの規則相の存在を示すピークが確認できる。また、2θ=25[deg.]、42[deg.]、48[deg.]、67[deg.]、75[deg.]および81[deg.]のそれぞれの付近にBaF2相の存在を示すピークが確認できる。当該確認結果から、試料4が、Baフッ化物からなるマトリックスにFePt規則相のFe-Co―Pt合金からなる磁石粒子が分散したナノグラニュラー構造を有することがわかる。試料4においてFe-Co-Pt磁石粒子の存在によって残留磁化が生じ、H=0であっても試料4の磁気光学材料がファラデー効果を発現する。
【0045】
図13には、試料5の波長550、760および1550[nm]のそれぞれの入射光に対するファラデーループが示されている。図13からわかるように、ファラデー回転はH=0であっても、それぞれ550nmで絶対値1.2[deg./μm]、760nmで絶対値0.5[deg./μm]および1550nmで絶対値0.3[deg./μm]を有する。
【0046】
図14には、試料5のH=0おけるファラデー回転角の絶対値と入射光の波長との関係を示した。図14から分かるように試料5は。波長410~690nm、波長710~1180nmおよび1330nm以上の範囲において、0.08[deg./μm]以上の値を有している。
【0047】
図15には、試料5のXRD回折パターンが示されている。酸素雰囲気中での熱処理によってスピネル構造のCoフェライト磁石からなるナノグラニュールが合成され、2θ=31[deg.]、35[deg.]、37[deg.]、43[deg.]、53[deg.]および63[deg.]のそれぞれの付近にCoFeのスピネル相の存在を示すピークが確認できる。また、2θ=25[deg.]および29[deg.]の付近にBaF相の存在を示すピークが確認できる。当該確認結果から、試料5が、Baフッ化物からなるマトリックスにCoFeスピネルフェライトからなる磁石粒子が分散したナノグラニュラー構造を有することがわかる。試料5においてCoFe磁石粒子の存在によって残留磁化が生じ、H=0であっても試料5の磁気光学材料がファラデー効果を発現する。図15に見る様に、酸素雰囲気中での熱処理によってスピネル構造のCoフェライト磁石からなるナノグラニュールが合成される。図15からわかるように、ファラデーループは磁化曲線に対応し、残留磁化と保磁力を伴うヒステリシスを有し、ファラデー回転角はH=0であっても、各波長に対してそれぞれ絶対値1.2[deg./μm](550[nm])、0.5[deg./μm](760[nm])および0.3[deg./μm](1550[nm])を有する。磁界が印可されていない状態でもファラデー効果が発現することから、デバイス設計において磁界印加機構が不要となり、デバイスの簡略化および/または小型化が可能となる。
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図15