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特許7324837車両用バッテリを冷却するための熱交換器
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  • 特許-車両用バッテリを冷却するための熱交換器 図1
  • 特許-車両用バッテリを冷却するための熱交換器 図2
  • 特許-車両用バッテリを冷却するための熱交換器 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】車両用バッテリを冷却するための熱交換器
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/653 20140101AFI20230803BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230803BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230803BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20230803BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20230803BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20230803BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20230803BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/651
H01M10/6554
H01M10/6556
H01M10/6568
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021514210
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016688
(87)【国際公開番号】W WO2020213673
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019079212
(32)【優先日】2019-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500309126
【氏名又は名称】株式会社ヴァレオジャパン
(72)【発明者】
【氏名】カスナヴ クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ビュッソン フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】高野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】リー クン
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-152767(JP,A)
【文献】特開2005-024235(JP,A)
【文献】特開2007-127306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のバッテリ(5)と熱的に接触して前記バッテリを冷却するためのアルミニウム合金製の熱交換器(1)であって、前記熱交換器の内部に冷却媒体流路(30)が形成されているものにおいて、
前記冷却媒体流路(30)を形成する前記熱交換器の構成材(10,20)の少なくとも一部(20)が、アルミニウム合金製の芯材(21)と、前記芯材の前記冷却媒体流路側の表面に設けられたアルミニウム合金製の犠牲腐食層(22)とを有し
前記熱交換器は、前記構成材として、互いにろう付けされた第1金属板(10)および第2金属板(20)を備え、前記第1金属板および前記第2金属板の間に前記冷却媒体流路(30)となる空洞が形成されており、前記第1金属板(10)は、アルミニウム合金製の芯材(11)と、当該芯材の前記第2金属板と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製のろう材層(12)と、を有し、前記第2金属板(20)は、アルミニウム合金製の芯材(21)と、当該芯材の前記第1金属板と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製の犠牲腐食層(22)と、を有していることを特徴とする、熱交換器。
【請求項2】
前記第1金属板(10)上に前記バッテリ(5)が設置されている、請求項記載の熱交換器。
【請求項3】
前記第2金属板(20)の前記芯材(21)は第1腐食電位を有し、前記第2金属板(20)の前記犠牲腐食層(22)は第2腐食電位を有し、前記第2腐食電位は-850mVよりも高く、前記第2腐食電位は前記第1腐食電位よりも50~150mV低い、請求項または請求項に記載の熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリを冷却するための熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車は、充放電可能なバッテリに蓄積された電力により走行する。バッテリ充電時の発熱によるバッテリの劣化を抑制するため、バッテリの冷却が行われる。特許文献1には、内部の流路を流れる冷却媒体との熱交換によってバッテリを冷却する熱交換器が開示されている。
【0003】
ここで、冷却媒体には、凍結を防止するための融点降下剤が混入されたクーラントが使用される場合がある。このようなクーラントは電気伝導性を有する。このため、熱交換器が金属により構成される場合、当該熱交換器の内部で局部的に電池反応が発生して腐食が進行し、冷却媒体流路の水密性の確保が困難になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-203535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、車両用バッテリを冷却するための熱交換器において、冷却媒体流路の水密性を長期間にわたり確保することができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、車両用のバッテリと熱的に接触してバッテリを冷却するためのアルミニウム合金製の熱交換器であって、熱交換器の内部に冷却媒体流路が形成されているものにおいて、冷却媒体流路を形成する熱交換器の構成材の少なくとも一部が、アルミニウム合金製の芯材と、芯材の冷却媒体流路側の表面に設けられたアルミニウム合金製の犠牲腐食層とを有し、熱交換器は、構成材として、互いにろう付けされた第1金属板および第2金属板を備え、第1金属板および第2金属板の間に冷却媒体流路となる空洞が形成されており、第1金属板は、アルミニウム合金製の芯材と、当該芯材の第2金属板と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製のろう材層と、を有し、第2金属板は、アルミニウム合金製の芯材と、当該芯材の第1金属板と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製の犠牲腐食層と、を有していることを特徴とする、熱交換器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記実施形態によれば、犠牲腐食層が優先的にイオン化するため、アルミニウム合金の芯材の腐食の進行を長時間防止することができ、冷却媒体流路の水密性を長期間にわたり確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る熱交換器の概略斜視図である。
図2図2は、図1に示した熱交換器の、II-II線に沿った概略断面図である。
図3図3は、図2の領域IIIを拡大して示す概略拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、車両用バッテリを冷却するための熱交換器の実施形態について説明する。
【0010】
図1に示すように、熱交換器1は、冷却媒体の流入口2および流出口3を有している。
【0011】
図2に示すように、熱交換器1は、互いに対面するとともに互いにろう付けされた第1金属板10および第2金属板20を有する。第1金属板10および第2金属板20には、それぞれ適当な凹凸が形成されている。凹凸が組み合わせられることにより、第1金属板10と第2金属板20との間に複数の空洞30が形成される。空洞30は、冷却媒体流路(以下「冷却媒体流路30」と呼ぶ)となる。図2において、第1金属板10および第2金属板20との接触面同士は後述するろう材を介して結合されている。
【0012】
第1金属板10が上向きに、第2金属板20が下向きとなるように熱交換器1が設置されることが一般的である(但しこの向きには限定されない)。図1および図2に示すように、第1金属板10の外面には、比較的大面積の平坦面4が形成されている。図2に示すように、平坦面4上にバッテリ5が載置される。バッテリ5は、第1金属板10の平坦面4と熱的に結合される。図1では、2つある平坦面4(バッテリ5が載置される面)の一方にハッチングが付けられている。
【0013】
詳細は図示しないが、冷却媒体流路30は、熱交換器1の内部を例えば蛇行して延びている。流入口2を介して熱交換器1に流入した冷却媒体は、冷却媒体流路30を通って流れ、流出口3を介して熱交換器1から流出する。この過程で、冷却媒体は第1金属板10を介してバッテリ5から熱を奪い、バッテリ5を冷却する。これにより充電時に発熱するバッテリ5の過熱を防止することができる。
【0014】
なお、熱交換器1は、図示しない冷却用熱交換器およびポンプが設けられた図示しない循環経路に設けられている。熱交換器1は、流入口2および流出口3を介して循環経路に接続されている。流出口3を介して熱交換器1から循環経路に流出した冷却媒体は、冷却用熱交換器に流入してそこで冷却された後に循環経路に流出し、流入口2を介して熱交換器1に流入する。ポンプはこのような冷却媒体の循環流れを形成する。
【0015】
図3に示すように、第1金属板10は、アルミニウム合金製の芯材11と、この芯材11の第2金属板20と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製のろう材層(皮材)12と、を有している。芯材11とろう材層12とはクラッド(圧延接合)により接合される。
【0016】
第2金属板20は、アルミニウム合金製の芯材21と、当該芯材の第1金属板と対面する表面に設けられたアルミニウム合金製の犠牲腐食層22と、を有している。芯材21と犠牲腐食層22とはクラッド(圧延接合)により接合される。
【0017】
なお、図3はろう付け直前の状態を概略的に示すものであり、ろう付け後には隣接する層間で拡散が生じている。
【0018】
芯材(心材)11,21、ろう材層12を構成するろう材(皮材)、および犠牲腐食層22を構成する犠牲陽極材は、例えば、日本工業規格JIS3263:2002「アルミニウム合金ろうおよびブレージングシート」で定める材料を適宜選択して用いることができる。犠牲陽極材はZn添加により腐食電位が低くなっている。
【0019】
使用する材料の組み合わせとして、芯材11,21の材料として上記JIS規格の合金番号3003のアルミニウム合金、ろう材層12の材料として上記JIS規格の合金番号4343または4045のアルミニウム合金、そして、犠牲腐食層22の材料として上記JIS規格の合金番号7072のアルミニウム合金が、例示される。他の材料組み合わせも可能である。
【0020】
例示された合金の化学成分について以下に記載する。化学成分を示す数値は全てwt%である。
【0021】
3003合金の化学成分は、Si≦0.6;Fe≦0.7;0.05≦Cu≦0.20;1.0≦Mn≦1.5;Zn≦0.10;その他の元素は各々0.05以下;その他の元素は合計で0.15以下;残部Alである。
【0022】
4343合金の化学成分は、6.8≦Si≦8.2;Fe≦0.8;Cu≦0.25;Mn≦0.10;Zn≦0.20;その他の元素は各々0.05以下;その他の元素は合計で0.15以下;残部Alである。 4045合金の化学成分は、9.0≦Si≦11.0;Fe≦0.8;Cu≦0.30;Mn≦0.05;Mg≦0.05;Zn≦0.10;Ti≦0.20;その他の元素は各々0.50以下;その他の元素は合計で0.05以下;残部Alである。
【0023】
7072合金の化学成分は、Si+Fe≦0.7;Cu≦0.10;Mn≦0.10;Mg≦0.10;0.8≦Zn≦1.3;その他の元素は各々0.05以下;その他の元素は合計で0.15以下;残部Alである。
【0024】
クーラントは、例えば水、グリコール(例えばエチレングリコール)および融点降下剤を含む。クーラントは導電性を有する。このようなクーラントが冷却媒体として用いられる場合、冷却媒体と冷却媒体流路30に面する金属との間で電池反応が生じ、金属に腐食が生じることがある。しかしながら、上記実施形態では、第2金属板20の冷却媒体流路30に面する表面には犠牲腐食層22が設けられているため、電池反応による腐食は犠牲腐食層22で優先的に生じる。このため、第2金属板20の芯材21の腐食および第1金属板10の腐食を長期にわたって防止することができる。
【0025】
第2金属板20の犠牲腐食層22の腐食電位V22(第2腐食電位とも呼ぶ)は-850mVよりも高いことが好ましい。また、腐食電位V22は、第2金属板20の芯材21の腐食電位V21(第1腐食電位とも呼ぶ)よりも50~150mV低いことが好ましい(つまり「V21-V22」が+50~+150mVの範囲内であることが好ましい)。上述した材料組み合わせの例は、この条件を満足している。
【0026】
本明細書でいう腐食電位とは、ASTM G69-12(Standard Test Method for Measurement of Corrosion Potentials of Aluminum Alloys)に規定される方法により測定したものを意味する。ASTM G69-12には、電位の測定に用いる電解液の成分として一種類のみが規定されているため、これを用いる。また、電位の測定に用いる電極として複数種が知られているが、ここではASTM G69-12で規定されている飽和カロメル電極を選択して用いる。
【0027】
「V21-V22」が+50mVより小さいと十分な腐食防止効果を得ることが難しくなる。一方、「V21-V22」が+150mVより大きいと犠牲腐食層22の腐食速度が大きくなりすぎ、上記の腐食防止効果を長期にわたって維持することが難しくなる。なお、腐食電位V22が-850mVよりも低い場合も、同様に、犠牲腐食層22の腐食速度が大きくなりすぎ、上記の腐食防止効果を長期にわたって維持することが難しくなる。
【0028】
また、第1金属板10の芯材11を構成する合金番号3003のアルミニウム合金はAl-Mn系の合金である(この点は他の3000系アルミニウム合金においても同じである)。第1金属板10のろう材層12を構成する合金番号4343または4045はAl-Si系の合金である(この点は他の4000系アルミニウム合金においても同じである)。ろう付け工程の過程で、ろう材層12が溶融し、ろう材層12中のSiは、芯材11内に拡散する。
【0029】
この拡散したSiは芯材11に含まれるAlおよびMnと結合し、ブラウンバンド(brown-band)と呼ばれる層を芯材11内に形成する。ブラウンバンドは、BDP(band of dense precipitation)とも呼ばれ、そこには、微細なα-Al(Fe,Mn)Si粒子が析出している。この析出物の生成に伴い、ブラウンバンド内のマトリックス中におけるMnが枯渇し、腐食電位が元の合金(芯材11の材料)より低くなっている。従って、ブラウンバンドは犠牲腐食層として作用し、第1金属板10の芯材11の腐食の進行を防止する。
【0030】
なお、第1金属板10のブラウンバンドの犠牲陽極効果は第2金属板20の犠牲腐食層22の犠牲陽極効果よりは低いため、腐食による第2金属板20の板厚減少速度は第1金属板10の板厚減少速度よりも大きい。このため、腐食による穴あきが生じるとしたならば、穴あきは第2金属板20で生じる。上記実施形態では、第1金属板10にバッテリ5を接続し、第2金属板20をバッテリ5から遠ざけているため、腐食による穴あきにより冷却媒体の漏洩が発生したとしても、バッテリ5の電気的な短絡等のトラブルの発生の確率を低下させることができる。
【0031】
以上述べたように、上記実施形態によれば、冷却媒体流路6の水密性を長い年月確保することのできる、高い耐食性を備えた冷却用熱交換器を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1 熱交換器 5 バッテリ 10 第1金属板 11 芯材 12 ろう材層 20 第2金属板 21 芯材 22 犠牲腐食層 30 冷却媒体流路
図1
図2
図3