(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】無機繊維、無機繊維製品、無機繊維製品の製造方法、無機繊維製造用組成物及び無機繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20230803BHJP
C03C 13/06 20060101ALI20230803BHJP
C03C 13/02 20060101ALI20230803BHJP
D01F 9/08 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C13/06
C03C13/02
D01F9/08 A
(21)【出願番号】P 2021567425
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2020047597
(87)【国際公開番号】W WO2021132120
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2019238724
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】北原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】持田 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】森迫 詩陽
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-113646(JP,A)
【文献】米国特許第05523264(US,A)
【文献】特開2019-119615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03B 37/00
D01F 9/08
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、
酸化物換算した場合に、Na
2O、K
2O、Li
2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満た
し、
以下の組成を有することを特徴とする無機繊維。
SiO
2
:25質量%~45質量%
Al
2
O
3
:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3
:0.5質量%~5質量%
Na
2
O+K
2
O+Li
2
O:1質量%~13質量%
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【請求項2】
遷移金属化合物を0.1~5質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の無機繊維。
【請求項3】
前記遷移金属化合物は、Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yを含む群から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の無機繊維。
【請求項4】
ロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の無機繊維。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の無機繊維を含むことを特徴とする無機繊維製品。
【請求項6】
断熱材又は耐火材であることを特徴とする請求項
5に記載の無機繊維製品。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の無機繊維を成形することを特徴とする無機繊維製品の製造方法。
【請求項8】
Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、
酸化物換算した場合に、Na
2O、K
2O、Li
2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満た
し、
以下の組成を有することを特徴とする無機繊維製造用組成物。
SiO
2
:25質量%~45質量%
Al
2
O
3
:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3
:0.5質量%~5質量%
Na
2
O+K
2
O+Li
2
O:1質量%~13質量%
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【請求項9】
請求項
8に記載の無機繊維製造用組成物を熔解し、次いで、繊維化することにより、無機繊維を得る無機繊維の製造方法。
【請求項10】
Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、
SiO
2
とAl
2
O
3
の合計に対するCaOとMgOの合計のモル比(mol%(CaO+MgO)/mol%(SiO
2
+Al
2
O
3
))で表されるモル塩基度Pが0.5~1.7であり、
酸化物換算した場合に、Na
2O、K
2O、Li
2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たすことを特徴とする無機繊維。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【請求項11】
遷移金属化合物を0.1~5質量%含むことを特徴とする請求項
10に記載の無機繊維。
【請求項12】
前記遷移金属化合物は、Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yを含む群から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項
11に記載の無機繊維。
【請求項13】
以下の組成を有する請求項
10乃至
12のいずれか一項に記載の無機繊維。
SiO
2:25質量%~45質量%
Al
2O
3:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3:0.5質量%~5質量%
Na
2O+K
2O+Li
2O:1質量%~13質量%
【請求項14】
ロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項
10乃至
13のいずれか一項に記載の無機繊維。
【請求項15】
請求項
10乃至
14のいずれか一項に記載の無機繊維を含むことを特徴とする無機繊維製品。
【請求項16】
断熱材又は耐火材であることを特徴とする請求項
15に記載の無機繊維製品。
【請求項17】
請求項
10乃至
14のいずれか一項に記載の無機繊維を成形することを特徴とする無機繊維製品の製造方法。
【請求項18】
Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、
SiO
2
とAl
2
O
3
の合計に対するCaOとMgOの合計のモル比(mol%(CaO+MgO)/mol%(SiO
2
+Al
2
O
3
))で表されるモル塩基度Pが0.5~1.7であり、
酸化物換算した場合に、Na
2O、K
2O、Li
2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たすことを特徴とする無機繊維製造用組成物。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【請求項19】
請求項
18に記載の無機繊維製造用組成物を熔解し、次いで、繊維化することにより、無機繊維を得る無機繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維、無機繊維製品、無機繊維製品の製造方法、無機繊維製造用組成物及び無機繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロックウールやグラスウールなどに代表される無機繊維は鉄鋼、石油、化学、電気、自動車、建材、航空宇宙など各産業界において耐火材、断熱材、シール材など、様々な用途で使用されており、必要不可欠な素材である。
【0003】
従来、鉄鋼スラグを配合したスラグ系ロックウールは、鉄鋼スラグに成分調整剤として珪石、珪砂、玄武岩等の天然石を加え、キューポラあるいは電気炉で熔融させ、熔融物を炉下部より流し出し、高速回転体に当てて繊維化するスピニング法や、圧縮空気により繊維化するブローイング法により繊維化され、製造されている。
【0004】
従来のロックウールは、加熱収縮率で示される耐熱性は、一般的なグラスウールより高いものの、800℃程度で熔融してしまっていた。そのため、従来のロックウールでは、酸化鉄を含む玄武岩や転炉スラグ等の配合割合を増やし、繊維中の酸化鉄の割合を増やす事で、耐熱性を高めていた(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
しかし、ロックウール原料中の酸化鉄は、熔解時に一部が還元されてしまうため、熔解炉の底に金属鉄が堆積する。そのため、ロックウール原料中に鉄分が多いと、定期的に金属鉄を抜き取る作業の頻度が高くなってしまう。この事はロックウールの時間生産性を低める事になるため、生産面では、ロックウール原料中の酸化鉄の配合割合を極力低くする必要があった。
【0006】
そのような観点から、特許文献3には、35~45質量%のSiO2と、10~15質量%のAl2O3と、20~35質量%のCaOと、10~25質量%のMgOと、合計で2~10質量%のFeO及びFe2O3とを含有し、2価のFe原子及び3価のFe原子の合計に対する2価のFe原子のモル比を0.8以上とすることで、酸化鉄の含有量が少なくても、耐熱性が高いロックウールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平6-45472号公報
【文献】特公平6-65617号公報
【文献】国際公開第2012/176799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載のロックウールは、2価のFeと3価のFeのモル比を所定の範囲内に調整する必要があり、選択可能な原料が制限されていた。したがって、ロックウールなどの無機繊維において、酸化鉄の含有量が少なくても、耐熱性が高く、原料の選択肢を広げつつ、より一層生産性を高めることが望まれていた。
【0009】
また、ロックウールなどの無機繊維の耐熱性を向上させる観点からFe以外の遷移金属の化合物を添加する場合においても、同様に生産性の低下や選択可能な原料が制限されるという新規な課題があることを発明者らは見出した。そこで、遷移金属の化合物を用いるのとは異なるアプローチで無機繊維の耐熱性を向上させる手法を探索した。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、耐熱性が高く、原料の選択肢も広く、生産性が高い無機繊維、無機繊維製品、無機繊維製品の製造方法、無機繊維製造用組成物及び無機繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)とを所定の範囲内とすることで耐熱性が高い無機繊維が得られることを新たに見出し、本発明をするに至った。
【0012】
したがって、前記課題は、本発明に係る無機繊維によれば、Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、酸化物換算した場合に、Na2O、K2O、Li2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たし、以下の組成を有することにより解決される。
SiO
2
:25質量%~45質量%
Al
2
O
3
:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3
:0.5質量%~5質量%
Na
2
O+K
2
O+Li
2
O:1質量%~13質量%
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【0013】
このとき、遷移金属化合物を0.1~5質量%含むとよい。
このとき、前記遷移金属化合物は、Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yを含む群から選択される少なくとも1種の化合物であるとよい。
【0015】
このとき、ロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
【0016】
前記課題は、本発明に係る無機繊維製品によれば、上記の無機繊維を含むことにより解決される。
このとき、無機繊維製品が断熱材又は耐火材であるとよい。
【0017】
前記課題は、本発明に係る無機繊維製品の製造方法によれば、上記の無機繊維を成形することにより解決される。
【0018】
前記課題は、本発明に係る無機繊維製造用組成物によれば、Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、酸化物換算した場合に、Na2O、K2O、Li2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たし、以下の組成を有することにより解決される。
SiO
2
:25質量%~45質量%
Al
2
O
3
:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3
:0.5質量%~5質量%
Na
2
O+K
2
O+Li
2
O:1質量%~13質量%
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【0019】
前記課題は、本発明に係る無機繊維の製造方法によれば、上記の無機繊維製造用組成物を熔解し、次いで、繊維化することにより、無機繊維を得ることにより解決される。
また、前記課題は、本発明に係る無機繊維によれば、Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、SiO
2
とAl
2
O
3
の合計に対するCaOとMgOの合計のモル比(mol%(CaO+MgO)/mol%(SiO
2
+Al
2
O
3
))で表されるモル塩基度Pが0.5~1.7であり、酸化物換算した場合に、Na
2
O、K
2
O、Li
2
Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3
で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たすことにより解決される。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
このとき、遷移金属化合物を0.1~5質量%含むとよい。
このとき、前記遷移金属化合物は、Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yを含む群から選択される少なくとも1種の化合物であるとよい。
このとき、無機繊維が以下の組成を有するとよい。
SiO
2
:25質量%~45質量%
Al
2
O
3
:5質量%~25質量%
CaO:15質量%~50質量%
MgO:3質量%~20質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%
SO
3
:0.5質量%~5質量%
Na
2
O+K
2
O+Li
2
O:1質量%~13質量%
このとき、ロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上であるとよい。
また、前記課題は、本発明に係る無機繊維製品によれば、上記の無機繊維を含むことにより解決される。
このとき、無機繊維製品が断熱材又は耐火材であるとよい。
また、前記課題は、本発明に係る無機繊維製品の製造方法によれば、上記の無機繊維を成形することにより解決される。
また、前記課題は、本発明に係る無機繊維製造用組成物によれば、Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、SiO
2
とAl
2
O
3
の合計に対するCaOとMgOの合計のモル比(mol%(CaO+MgO)/mol%(SiO
2
+Al
2
O
3
))で表されるモル塩基度Pが0.5~1.7であり、酸化物換算した場合に、Na
2
O、K
2
O、Li
2
Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO
3
で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)又は(2)を満たすことにより解決される。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
また、前記課題は、本発明に係る無機繊維の製造方法によれば、上記の無機繊維製造用組成物を熔解し、次いで、繊維化することにより、無機繊維を得ることにより解決される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐熱性が高く、原料の選択肢も広く、生産性が高い無機繊維、無機繊維製品、無機繊維製品の製造方法、無機繊維製造用組成物及び無機繊維の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】試験1の各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が14%以下のもの(上図)、1110℃において熔融したもの(下図)を抽出して、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図2】試験1の各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が12%以下のもの(上図)、収縮率が12%超14%以下のもの(下図)を抽出して、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図3】試験1の各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が10%以下のもの(上図)、収縮率が10%超12%以下のもの(下図)を抽出して、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図4】試験2の各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が14%以下のも
の、1110℃において熔融したも
のを抽出して、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図5】既存の無機繊維について、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図6】試験1の各サンプルのうち、SO
3で表される硫黄酸化物の重量Sが2.3~2.6質量%のものを抽出して、アルカリ金属酸化物の合計量Aを横軸に、結晶化ピーク温度を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図7】試験4の各サンプルの結晶化ピーク温度を横軸に、1110℃における加熱収縮率を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図8】試験6の各無機繊維サンプルについて、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
【
図9】無機繊維用組成物についての実施例のグラフに、無機繊維についての実施例をプロットしたグラフである。
【
図10】ほぼ同等の組成を有する無機繊維用組成物と無機繊維の実施例について、収縮率を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態)について、
図1乃至
図10を参照しながら説明する。本実施形態は、無機繊維、無機繊維製品、無機繊維製品の製造方法、無機繊維製造用組成物及び無機繊維の製造方法の発明に関するものである。
【0023】
<定義>
本願明細書において、○質量%~△質量%は、○質量%以上△質量%以下を意味する。
本願明細書において、各成分の含有量は、酸化物換算で表記され、蛍光X線分析(XRF)によって測定することが可能である。ここで、各成分の含有量が酸化物換算で表記されるとしても、必ずしも各成分が酸化物として含有されている必要はない。例えば、各成分(S、FeやNa)が酸化物(SO3、Fe2O3やNa2O)として含まれるのではなく、各成分同士が硫化物(FeS、Na2S)、若しくは、硫酸塩(FeSO4、Na2SO4)のように化合物の形態で含まれていてもよい。
【0024】
<無機繊維及び無機繊維製造用組成物>
本実施形態の無機繊維(鉱物繊維)は、主に珪石、安山岩等の各種天然鉱物、クレー、スラグ及びガラスなどの原料若しくは、これらを砕いたものから製造される繊維状物質である。無機繊維としては、ロックウール、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール、及びミネラルグラスウールからなる群より選択される少なくとも1種以上が例示される。本実施形態の無機繊維は、耐熱性の観点からロックウール又はスラグウールであると好適である。
【0025】
ここで、無機繊維製造用組成物とは、無機繊維を製造する際の原料となる組成物であり、その状態は、特に限定されず、各成分が混合した固化物として存在しているである状態、各成分が熔融した状態、各成分が粉末として存在している状態などが例示される。
【0026】
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、Na、K、Liを含む群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属化合物と、硫黄化合物とを含み、酸化物換算した場合に、Na2O、K2O、Li2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、以下の式(1)若しくは(1’)又は(2)若しくは(2’)を満たす。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
S>-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1’)
S>0.5 (A≧5質量%)(2’)
【0027】
また、無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、以下の式(3)若しくは(3’)又は(4)若しくは(4’)を満たすと好適である。
S≧-0.33A+2.8 (A<7質量%)(3)
S≧0.5 (A≧7質量%)(4)
S>-0.33A+2.8 (A<7質量%)(3’)
S>0.5 (A≧7質量%)(4’)
【0028】
さらに、無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、以下の式(5)若しくは(5’)又は(6)若しくは(6’)を満たすとより好適である。
S≧-0.36A+3.4 (A<8質量%)(5)
S≧0.5 (A≧8質量%)(6)
S>-0.36A+3.4 (A<8質量%)(5’)
S>0.5 (A≧8質量%)(6’)
【0029】
酸化物換算した場合に、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)の下限値は0.5質量%、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%であり、上限値は5質量%であるとよい。硫黄酸化物の重量S(質量%)が0.5質量%未満では耐熱性向上効果が発現しない。また、硫黄酸化物の重量S(質量%)が5質量%を超えると結晶化が起こりやすく脆化する可能性がある。
【0030】
酸化物換算した場合に、Na2O、K2O、Li2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)の下限値は1質量%、好ましくは2質量%、より好ましくは3質量%であり、上限値は13質量%であるとよい。アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)が2質量%未満では耐熱性向上効果がやや劣るものとなり、1質量%未満では耐熱性向上効果が発現しない。アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)が13質量%を超えると結晶化が起こりやすく、脆化する可能性がある。
【0031】
(遷移金属化合物の含有量(T))
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、遷移金属化合物を含有していてもよい。遷移金属化合物は、Na等のアルカリ金属化合物と同様に、硫黄化合物と結び付いて結晶核を生成するため、無機繊維の耐熱性を向上させる成分として機能し得る。
【0032】
したがって、遷移金属化合物の含有量T(質量%)も、アルカリ金属化合物と同様に無機繊維の耐熱性に重要な役割を果たす。実際に、
図1に示すアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と硫黄酸化物の重量S(質量%)の関係図の横軸を、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)にしても、
図4に示すように同様の挙動が得られることを本発明者は見出した。
【0033】
つまり、上記の式(1)~(6)において、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)に置き換えてもよいことが分かった。
【0034】
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物では、遷移金属化合物の含有量T(質量%)の下限値は、無機繊維に含まれる成分の合計を100質量%としたときに、耐熱性の観点から0.1質量%以上、好ましくは、1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。
【0035】
ここで、原料中の遷移金属化合物は、熔解時に一部が還元されて熔解炉の底に金属として堆積してしまうため、遷移金属化合物の量を低く抑えることが好ましい。具体的には、遷移金属化合物の含有量T(質量%)の上限値は、生産性の観点から、5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更により好ましくは2質量%以下である。
【0036】
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物において、遷移金属化合物は、Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yを含む群から選択される少なくとも1種の化合物である。Fe、Mn、Cu、Ni、Co、Zr、V、Nb、Mo、W、Yの化合物は、無機繊維の製造工程や製造後の加熱などの使用において、硫黄と反応して硫化物(FeS、MnS、CuS、NiS、CoSなど)、若しくは硫酸塩(FeSO4、MnSO4、CuSO4、NiSO4、CoSO4など)を形成する。
【0037】
(モル塩基度(P))
モル塩基度Pは、SiO2とAl2O3の合計に対するCaOとMgOの合計のモル比(mol%(CaO+MgO)/mol%(SiO2+Al2O3))で表される。具体的には、モル塩基度Pは、ロックウールに含まれる成分のモル比の合計を100mol%としたときに、CaOとMgOの合計(mol%)を、SiO2とAl2O3の合計(mol%)で除して得られる。
【0038】
モル塩基度Pは、無機繊維のガラス骨格を形成するSiO2とAl2O3と、無機繊維の骨格を分断するCaOとMgOの割合であり、無機繊維の骨格の安定性の指標である。本実施形態のロックウールでは、モル塩基度Pが0.4~2.0、好ましくは、0.5~1.7、より好ましくは1.0~1.4又は1.0~1.5である。
【0039】
モル塩基度Pが低いと、無機繊維製造用組成物の粘性が高くなりすぎ、適切に熔解しなくなり、生産性が低下してしまう可能性がある。なお、モル塩基度Pが高いと結晶化が起こりやすく脆化してしまう可能性があるため、上記の数値範囲内とすることが好ましい。
【0040】
無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、例えば、以下の組成を有するが、この組成に限定されるものではない。
SiO2:25質量%~45質量%、好ましくは25質量%~40質量%
Al2O3:5質量%~25質量%、好ましくは10質量%~20質量%
CaO:15質量%~50質量%、好ましくは30質量%~45質量%
MgO:3質量%~20質量%、好ましくは5質量%~10質量%
遷移金属化合物:0.1質量%~5質量%、好ましくは1質量%~3質量%
SO3:0.5質量%~5質量%、好ましくは1質量%~3質量%、より好ましくは2質量%~3質量%
Na2O+K2O+Li2O:1質量%~13質量%、好ましくは2質量%~13質量%、より好ましくは3質量%~13質量%
【0041】
(結晶化ピーク温度)
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物においては、後述する実施例で示されるように、アルカリ金属の含有量が多くなると結晶化ピーク温度が下がり、結晶化ピーク温度が下がると耐熱性が向上しており、本発明の技術思想を支持する結果が得られている。ここで、結晶化ピーク温度とは、無機繊維を構成する成分が結晶化する際の温度であり、例えば、示差熱分析装置(DTA)や示差走査熱量測定(DSC)によって、昇温時の発熱ピークの値から求めることができる。本実施形態において、結晶化ピーク温度は、例えば、DTA(示差熱分析装置)を用い、昇温速度20℃/分で1000℃まで加熱した際の発熱ピーク温度として定義することができる。
【0042】
本実施形態の無機繊維及び無機繊維製造用組成物は、軟化変形する温度(軟化点)が結晶化ピーク温度よりも高くなっている。つまり、無機繊維が加熱によって軟化変形するよりも前に、微結晶が存在することになるため、軟化が進行せず、高温にさらされても繊維の湾曲・融着が生じない。
【0043】
ここで、軟化点とは、無機繊維及び無機繊維製造用組成物が顕著に軟化変形し始める温度であり、例えば、JIS R 3103-1:2001に規定される方法により測定して求めることが可能である。
【0044】
(加熱収縮率)
本実施形態の無機繊維製造用組成物の加熱収縮率は、実施例記載の方法で測定したとき、1110℃の加熱後において、14%以下、好ましくは12%以下、より好ましくは11%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0045】
(耐熱性発現のメカニズム)
無機繊維の繊維表面には、表面をできるだけ小さくしようとする表面張力が働いている。繊維が軟化して変形可能な状態になると、表面張力の影響で繊維が太くなったり、変形したりする。さらに繊維の軟化が進行すると繊維交点が融着して、最終的には熔融する。無機繊維及び無機繊維断熱材の耐熱性は、繊維形態が変化せずに繊維間に空隙を持つ断熱材としての形状を維持可能な温度が高い程、優れたものとなる。
【0046】
無機繊維は、未加熱の状態は非晶質である。ここで、非晶質とは、結晶のように原子が規則的な配列を持たない状態であり、結晶質とは、物質を構成する原子が空間的に規則性を持ち、隣りあう原子と3次元で周期的に配列しており、安定な構造である。
【0047】
非晶質のガラスは、室温から加熱すると軟化変形するが、結晶化ガラスと呼ばれる特殊な組成のガラスは、軟化変形する温度に到達する前に、状態が非晶質から結晶質に変化し始めるため、軟化変形することなく、微結晶の凝集体に変化する。
【0048】
したがって、無機繊維の湾曲・融着は、軟化変形する前に結晶質状態が存在するか否かが重要であることに、本発明者らは着目した。具体的には、本実施形態の無機繊維では、Na2O、K2O、Li2Oで表されるアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)及びSO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、上記の所定範囲内にあることで、加熱によって軟化変形する前に微結晶が存在することで軟化が進行せず、1100℃以上の高温にさらされても繊維の湾曲・融着が起きないことを本発明者らは見出した。
【0049】
その関係式は、上記の式(1)若しくは(1’)又は(2)若しくは(2’)で示される。式(1)は、硫黄とアルカリ金属酸化物が一定量以上存在すれば耐熱性を発現することを示しており、硫黄とアルカリ金属が結合してできる物質が結晶核として作用し結晶化がするためと推定される。式(2)は一定量以上のアルカリ金属酸化物が存在すれば、硫黄の量が低位でも耐熱性が発現することを示している。
【0050】
また、硫黄の量とアルカリ金属の量の合計量が高まると、両者の接触確率が増すことで結晶核生成量が多くなり、結果として耐熱性が高まることは容易に想定されることであり、鋭意検討の結果、好ましい範囲及び、より好ましい範囲を見出すことができた。
【0051】
即ち、好ましい範囲として、上記の式(3)若しくは(3’)又は(4)若しくは(4’)で示される範囲を見出した。更に、より好ましい範囲として、上記の式(5)若しくは(5’)又は(6)若しくは(6’)で示される範囲を見出した。
【0052】
<無機繊維の製造方法>
本実施形態に係る無機繊維の製造方法は、上述の無機繊維の組成と同様の組成の無機繊維製造用組成物(無機繊維原料)を用いる以外は、従来、無機繊維の製造に用いられている公知の方法を利用することができる。
【0053】
本実施形態に係る無機繊維の製造方法は、無機繊維製造用組成物を熔解し(熔解工程)、次いで、繊維化する(繊維化工程)ことにより、無機繊維を得ることを特徴とする。より詳細には、本発明の無機繊維の製造方法は、無機繊維製造用組成物を、キューポラ、電気炉等で熔解し、次いで、スピニング、ブローイング等により繊維化して、無機繊維を得る。
【0054】
無機繊維の製造を電気炉を用いて行う場合、塊状の原料を入れる必要があるキューポラよりも、原料選択の幅が広がるため、好適である。電気炉を用いる場合には、送風を行わないため、無機繊維中に硫黄成分が含まれやすくなる。また、キューポラは、熱源及び還元剤としてコークスを用いて、原料に送風する。環境保護の観点から、キューポラには、脱硫装置が備え付けられている。本実施形態の無機繊維の製造方法では、無機繊維中に遷移金属化合物が硫黄と共存するため、環境中に硫黄成分が放出されることが抑制される。
【0055】
<無機繊維製品の製造方法>
本実施形態の無機繊維は、集綿室で集綿され、用途に応じて解繊・粒状化して粒状綿にしたり、バインダーを添加して硬化炉で固め、所定の密度・厚さに調整して、ボード状、マット状、フェルト状、ブランケット状、帯状、筒状などの無機繊維製品(成形品、二次製品)に加工される。
【0056】
<無機繊維製品>
本実施形態の無機繊維から、様々な無機繊維製品(二次製品)を得ることができる。例えば、バルク、ブランケット、ブロック、ロープ、ヤーン、紡織品、界面活性剤を塗布した無機繊維、ショット(未繊維化物)を低減または取り除いたショットレスバルクや、水等の溶媒を使用し製造するボード、モールド、ペーパー、フェルト、コロイダルシリカを含浸したウェットフェルト等の定形品が得られる。また、それら定形品をコロイド等で処理した定形品が得られる。また、水等の溶媒を使用し製造する不定形材料(マスチック、キャスター、コーティング材等)も得られる。また、これら定形品、不定形品と各種発熱体を組み合わせた構造体も得られる。
【0057】
本実施形態の無機繊維の具体的な用途として、鉄骨等を保護する耐火被覆材、各種建造物の断熱材、各種配管等のカバー材、熱処理装置、工業窯炉や焼却炉等の炉における目地材、耐火タイル、断熱レンガ、鉄皮、モルタル耐火物等の隙間を埋める目地材、シール材、パッキング材、クッション材、断熱材、耐火材、防火材、保温材、保護材、被覆材、ろ過材、フィルター材、絶縁材、充填材、補修材、耐熱材、不燃材、防音材、吸音材、摩擦材(例えばブレーキパット用添加材)、ガラス板・鋼板搬送用ロール、自動車触媒担体保持材、各種繊維強化複合材料(例えば繊維強化セメント、繊維強化プラスチック等の補強用繊維、耐熱材、耐火材の補強繊維、接着剤、コート材等の補強繊維)等が例示される。
【実施例】
【0058】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<サンプルの作製>
以下の表1及び表2に示す組成で、試薬類を混合した(合計60~65g)。このとき、黒鉛(2~3g)を添加した。混合した試薬類をるつぼに入れ、電気炉で1500℃に加熱をして、熔融させた。1500℃まで昇温させ15~30分保持した後、熔融物を水に投入することで急冷、ガラス化させた。急冷して得られたガラスを乳鉢及びボールミルで粉砕し、3~4kNの荷重を掛けて一軸プレス成型することでペレット、すなわち無機繊維製造用組成物(サイズφ7mm×17mm)を作製した。
【0060】
<試験1:耐熱性の評価>
(耐熱性)
耐熱性の評価としてサンプルの加熱収縮率を測定した。具体的には、サンプルを電気炉内に設置し、ISO834の加熱曲線を模擬した昇温速度に沿って1110℃まで加熱した。各サンプルの径を加熱前後で測定し、その寸法変化により収縮率を測定した。具体的には、加熱収縮率(%)=(加熱前のサンプル径-加熱後のサンプル径)/加熱前のサンプル径×100で算出した。
【0061】
以下の議論では、前記の加熱条件で加熱した場合に、サンプルのペレットが熔融せずに適正に収縮率が測定できるものを耐熱性があると判断することにした。
【0062】
(試験1の結果)
試験1の結果を表1及び表2、
図1~
図3に示す。なお、実施例のサンプルのモル塩基度Pは、1.0~1.5であった。なお、表1にはLi
2Oの結果が含まれている。Liは蛍光X線では測定できない元素であるため、以下の手法によりLi量を測定した。硫酸とフッ酸を5:2で混合して加温した混酸中にサンプルを溶解させた後、ホウ酸溶液によりマスキング処理を施した。その溶液を適当な割合で希釈した後に、ICP(誘導結合プラズマ)分析に供してLi量を定量した。
【0063】
【0064】
【0065】
図1は、各サンプルのアルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフである。
図1の上図は、各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が14%以下のものを抽出したグラフである。また、
図1の下図は、1110℃において熔融したものを抽出したグラフである。
【0066】
図1に破線で示すように、耐熱性が優れたサンプル(1110℃における収縮率が14%以下)は、A及びSが、以下の式(1)又は(2)を満たすことが示された。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%)(1)
S≧0.5 (A≧5質量%)(2)
【0067】
比較例(熔融又は結晶化)のプロットを考慮すると、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)は下限が1.0質量%、上限が13質量%であり、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)は下限が0.5質量%、上限が5質量%であることがわかった。
【0068】
図2の上図は、各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が12%以下のものを抽出したグラフである。また、
図2の下図は、1110℃における加熱収縮率が12%超14%以下のものを抽出したグラフである。
【0069】
図2に破線で示すように、耐熱性がより優れたサンプル(1110℃における加熱収縮率が12%以下)は、A及びSが、以下の式(3)又は(4)を満たすことが示された。
S≧-0.33A+2.8 (A<7質量%)(3)
S≧0.5 (A≧7質量%)(4)
【0070】
図3の上図は、各サンプルのうち、1110℃における加熱収縮率が10%以下のものを抽出したグラフである。また、
図3の下図は、1110℃における加熱収縮率が10%超12%以下のものを抽出したグラフである。
【0071】
図3に破線で示すように、耐熱性が更に優れたサンプル(1110℃における加熱収縮率が10%以下)は、A及びSが、以下の式(5)又は(6)を満たすことが示された。
S≧-0.36A+3.4 (A<8質量%)(5)
S≧0.5 (A≧8質量%)(6)
【0072】
<試験2:遷移金属化合物の効果の検討>
表3及び表4に示す組成で試薬類を混合した以外は、上記の手順と同様にサンプルを作製し、同様の方法で耐熱性の評価を行った。結果を表3、表4及び
図4に示す。なお、実施例のサンプルのモル塩基度Pは、1.0~1.4であった。
【0073】
【0074】
【0075】
図4に示されるように、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)を横軸にプロット場合にも、
図1の結果と同様の挙動が得られることが示された。つまり、上記の式(1)~(6)において、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)に置き換えてもよいことが分かった。
【0076】
<試験3:既存の繊維の測定>
既存の無機繊維について、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)を横軸に、SO
3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)を縦軸にプロットしたグラフを、
図5に示す。既存の無機繊維は、いずれも、上記の式(1)及び(2)で規定される範囲に属していないことが示された。
【0077】
一般的な既存の無機繊維(例えば、ロックウール
、ストーンウール、スラグウール、ミネラルウール、グラスウール、ミネラルグラスウールなど)の組成は、
図5に示すようにアルカリ金属量が多いと硫黄が少なく、硫黄が多い場合はアルカリ金属量が少ない。これは、原料組成に起因することである。アルカリ金属量が多いのは天然鉱物を多く用いる場合であり、天然鉱物は一般的に硫黄が少ない。また、硫黄が多いのはスラグを多く用いる場合であり、スラグ中にはアルカリ金属量は少ない。即ち、アルカリ金属や硫黄は、ロックウール製造の場合は不純物扱いであり、両者を同時に高める技術的思想はこれまで存在しなかった。本発明者らは、アルカリ金属と硫黄の両者を同時に高くすることで、耐熱性発現のメカニズムとして上述した事由により、耐熱性が有意に向上することを新たに見出した。この耐熱性発現のメカニズムは、従来の技術的思想から容易に想到できたものではない。
【0078】
<試験4:結晶化ピーク温度の評価>
試験1のサンプルのうち、実施例12、実施例18、実施例36を対象として測定を行った。
サンプルの結晶化ピーク温度は、DTA(示差熱分析装置)を用い、昇温速度20℃/分で1000℃まで加熱した際の発熱ピーク温度により求めた。
【0079】
(試験4の結果)
各サンプルの結晶化ピーク温度は、810℃(実施例12)、847℃(実施例18)、902℃(実施例36)であった。試験4の結果を
図6及び
図7に示す。
【0080】
図6は、試験1の各サンプル(SO
3で表される硫黄酸化物の重量Sが2.3~2.6質量%)のアルカリ金属酸化物の合計量Aを横軸に、結晶化ピーク温度を縦軸にプロットしたグラフである。
図6に示されるように、アルカリ金属酸化物の合計量Aが高い程、結晶化ピーク温度が低下し、結晶化が促進されることわかった。
【0081】
図7は、試験4の各サンプルの結晶化ピーク温度を横軸に、1110℃における加熱収縮率を縦軸にプロットしたグラフである。
図7に示されるように、結晶化ピーク温度が低い程、加熱収縮率が低く、耐熱性が向上することがわかった。
【0082】
<試験5:熔融粘度の測定>
アルカリ金属酸化物の合計量Aが3.6、4.2、5.2、8.2、10.7のサンプル(それぞれ、実施例82、実施例18、実施例23、実施例21、実施例74)について、熔融粘度を測定した。測定は一般的な球引上げ式粘度計を用いて行い、一定温度の熔融物の中に白金線に繋がった白金球を沈め、所定の速度で引き上げた際の荷重より粘度を求めた。
【0083】
(試験5の結果)
試験5の結果を以下の表5に示す。いずれのサンプルでも、粘度が測定できなくなるまで150~200℃程度の温度幅があった。また、アルカリ金属酸化物の合計量Aが高くなるほど、粘度が測定できなくなるまでの温度幅が広くなる傾向であった。
【0084】
【0085】
原料が熔融したときの粘性は、無機繊維の製造性に大きく影響する指標である。無機繊維の製造は、原料をキューポラや電気炉で熔融させた後、約1500℃の熔融物を炉下部より流し出し、スピニング法やブローイング法により繊維化する。繊維化の過程で熔融物は引き延ばされるが、その過程において熔融物は冷却される。つまり、良好に繊維化するためには熔融物の温度低下に伴う粘性増加が緩やかな方が好ましい。したがって、試験5の結果から、アルカリ金属酸化物の合計量Aが少なくとも3.6~10.7の範囲(3.6≦A≦10.7)にあるときに、無機繊維を良好に繊維化することができることが示された。これは、アルカリ金属酸化物の合計量が3.6である実施例82と10.7である実施例74が、実際に繊維を製造して繊維化が良好であることを確認できていることからも裏付けられるものである。
【0086】
<試験1~5のまとめ>
以上の結果から、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)や、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)がそれぞれ、ロックウールの耐熱性に影響を与えることが新たに見出された。具体的には、ロックウール及びロックウール製造用組成物において、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)と、SO3で表される硫黄酸化物の重量S(質量%)が、上記の所定範囲内にあることで、加熱によって軟化変形する前に微結晶が存在することになり、軟化が進行せず、1100℃以上の高温にさらされても繊維の湾曲・融着が起きないことが示された。
【0087】
<試験6:無機繊維の作製>
以下、具体的実施例に基づいて、これまでに記した無機繊維用組成物に関して実際に無機繊維を製造して耐熱性を測定し、
図1乃至
図3に示した関係を実繊維にて検証した。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
<繊維の作製>
表6に示す組成で、玄武岩等の天然石、スラグ、珪砂、ソーダ灰等の各種原料を電気炉またはキューポラに装入し、通常の繊維を製造する方法と同様の方法で原料を熔解した.その後、熔解した原料を炉下部より流出させ、スピニング法により繊維化した。繊維にはバインダーが付着しており、硬化炉を通すことで無機繊維成形体(嵩密度:0.08~0.12g/cm3)を得た。
【0089】
<耐熱性の評価>
耐熱性の評価として繊維成形体の加熱収縮率を測定した。具体的には、50mm×50mmで裁断した成形体サンプルを電気炉内に設置し、ISO834の加熱曲線を模擬した昇温速度に沿って1110℃まで加熱した。サンプルの縦方向と横方向の長さを加熱前後で測定し、その寸法変化により収縮率を測定した。具体的には、加熱収縮率(%)=(加熱前のサンプル長さ-加熱後のサンプル長さ)/加熱前のサンプル長さ×100で算出した.なお、表6に示す収縮率は縦方向の収縮率と横方向の収縮率の平均値である。
【0090】
上記試験の結果を表6及び
図8に示す。なお、実施例のモル塩基度Pは、1.2~1.4であった。
【0091】
【0092】
図8に示されるように、アルカリ金属酸化物の合計量A(質量%)+遷移金属化合物の含有量T(質量%)を横軸にプロットした場合、これまでに述べた無機繊維用組成物の
図4の結果と同様の挙動が得られることが示された。
【0093】
なお、図中に示す破線は、先に記した(1)、(2)式のAの部分をA+Tとしたものである。
S≧-0.38A+2.4 (A<5質量%) (1)
S≧0.5 (A≧5質量%) (2)
【0094】
図8に示されるように、繊維成形体で評価した結果は、これまでに述べた無機繊維製造用組成物の結果と傾向が一致することが確認できた。即ち、上述した耐熱性と組成との関係が、無機繊維用組成物だけではなく、無機繊維においても成立することが確認できたことにより、蓋然性は極めて高いと思料されるものである。
【0095】
無機繊維用組成物(ペレット)と無機繊維の収縮率に相関があるかを確認するために、ほぼ同等の組成を有する実施例同士で比較した。
図9は、無機繊維用組成物についての実施例のグラフに、無機繊維についての実施例をプロットしたものである。
【0096】
図9中において、点線で囲った各実施例の間で、ほぼ同じ組成を有するものと判断でき、以下の表7に組成、収縮率を記載した。これらの収縮率の関係を示したのが
図10であり、無機繊維用組成物と、無機繊維の相関が高いことが確認できた。よって、無機繊維用組成物の耐熱性は、無機繊維の耐熱性を表す指標となることが示された。