(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】トラップ型イオン量子コンピュータのもつれゲートの安定化
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20230803BHJP
【FI】
G06N10/40
(21)【出願番号】P 2021568305
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2020034008
(87)【国際公開番号】W WO2020237054
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-28
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】ブルメル レインホールド
(72)【発明者】
【氏名】グルチェシャク ニコデム
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-508382(JP,A)
【文献】特表2021-527253(JP,A)
【文献】CHOI, T. ほか,Optimal quantum control of multi-mode couplings between trapped ion qubits for scalable entanglement,arXiv[online],2014年01月08日,pp.1-4,[retrieved on 2023.01.30], Retrieved from the Internet: <URL: https://arxiv.org/pdf/1401.1575.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子コンピュータを使用して計算を実行する方法であって、
第一のレーザパルスの第一のパルス関数の第一のフーリエ係数及び第二のレーザパルスの第二のパルス関数の第二のフーリエ係数を
古典的コンピュータによって計算して、
量子コンピュータにおいて第一の方向に整列された複数のトラップイオンの第一のトラップイオンと第二のトラップイオンとの間にもつれ相互作用を引き起こすステップであって、
前記複数のトラップイオンのそれぞれは、前記第一の方向に垂直である第二の方向に複数のトラップイオンの集合運動モードの周波数の変動に関する前記第一及び第二のトラップイオン間の前記もつれ相互作用の変化がゼロであるという条件に基づいて、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、
計算された前記第一のフーリエ係数を有する前記第一のパルス関数を復調し、第一の振幅及び第一の離調周波数値を計算し、計算された前記第二のフーリエ係数を有する第二のパルス関数を
前記古典的コンピュータによって復調し、第二の振幅及び第二の離調周波数値を計算するステップと、
計算された前記第一の振幅及び計算された前記第一の離調周波数値を有する前記第一のレーザパルスを前記第一のトラップイオンに
システムコントローラによって適用し、計算された前記第二の振幅及び計算された前記第二の離調周波数値を有する前記第二のレーザパルスを前記第二のトラップイオンに適用するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第二の方向の前記複数のトラップイオンの前記集合運動モードの前記周波数の変動に対する前記第一及び第二のトラップイオンの位相空間軌道の変動がゼロであるという条件に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数を
前記古典的コンピュータによって選択するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅に等しく、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と等しい、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅と異なり、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と異なる、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第一及び第二のレーザパルスによって前記第一及び第二のトラップイオンに提供される出力に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数rを
前記古典的コンピュータによって選択するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一及び第二のレーザパルスの強度が変動すると決定されたとき、前記第一のレーザパルスの前記第一の振幅及び前記第二のレーザパルスの前記第二の振幅を修正して、前記第一と第二のトラップイオンとの間のもつれ相互作用を
前記古典的コンピュータによって較正するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第一及び第二のトラップイオンの結合強度が集合運動モードで変動すると決定されたとき、前記第一及び第二のトラップイオン間のもつれ相互作用を安定化するために広帯域レーザパルスシーケンスを
前記システムコントローラによって適用するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータプログラム命令を含むコンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータプログラム命令がプロセッサによって実行されると、前記プロセッサに、
第一のレーザパルスの第一のパルス関数の第一のフーリエ係数及び第二のレーザパルスの第二のパルス関数の第二のフーリエ係数を計算して、第一の方向に整列された複数のトラップイオンの第一のトラップイオンと第二のトラップイオンとの間にもつれ相互作用を引き起こすステップであって、
前記複数のトラップイオンのそれぞれは、前記第一の方向に垂直である第二の方向に前記複数のトラップイオンの集合運動モードの周波数の変動に関する前記第一及び第二のトラップイオン間の前記もつれ相互作用の変化がゼロであるという条件に基づいて、キュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、
計算された前記第一のフーリエ係数を有する前記第一のパルス関数を復調し、第一の振幅及び第一の離調周波数値を計算し、計算された前記第二のフーリエ係数を有する第二のパルス関数を復調し、第二の振幅及び第二の離調周波数値を計算するステップと、
計算された前記第一の振幅及び計算された前記第一の離調周波数値を有する前記第一のレーザパルスを前記第一のトラップイオンに適用し、計算された前記第二の振幅及び計算された前記第二の離調周波数値を有する前記第二のレーザパルスを前記第二のトラップイオンに適用するステップと、
をさせる、コンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記コンピュータプログラム命令が実行されると、前記プロセッサに、
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第二の方向の前記複数のトラップイオンの前記集合運動モードの前記周波数の変動に対する前記第一及び第二のトラップイオンの位相空間軌道の変動がゼロであるという条件に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数を選択するステップ
をさらにさせる、請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項10】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅に等しく、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と等しい、
請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項11】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅と異なり、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と異なる、
請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
前記コンピュータプログラム命令が実行されると、前記プロセッサに、
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第一及び第二のレーザパルスによって前記第一及び第二のトラップイオンに提供される出力に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数を選択するステップ
をさらにさせる、請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記コンピュータプログラム命令は、前記プロセッサに、
前記第一及び第二のレーザパルスの強度が変動すると決定されたとき、前記第一のレーザパルスの前記第一の振幅及び前記第二のレーザパルスの前記第二の振幅を修正して、前記第一と第二のトラップイオンとの間のもつれ相互作用を較正するステップ
をさらにさせる、請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記コンピュータプログラム命令は、前記プロセッサに、
前記第一及び第二のトラップイオンの結合強度が前記集合運動モードで変動すると決定されたとき、前記第一及び第二のトラップイオン間のもつれ相互作用を安定化するために広帯域レーザパルスシーケンスをさらに適用するステップ
をさらにさせる、請求項
8に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
第一の方向に整列された複数のトラップイオンであって、前記トラップイオンのそれぞれは、キュービットを定義する2つの超微細状態を有する、複数のトラップイオンと、
内部に記憶されたいくつかの命令を有するメモリを含むコントローラと、
を含む、量子コンピューティングシステムであって、
前記命令は、プロセッサによって実行されると、前記量子コンピューティングシステムに、
第一のレーザパルスの第一のパルス関数の第一のフーリエ係数及び第二のレーザパルスの第二のパルス関数の第二のフーリエ係数を計算して、前記複数のトラップイオンの第一のトラップイオンと第二のトラップイオンとの間にもつれ相互作用を引き起こすステップであって、前記第一の方向に垂直である第二の方向に前記複数のトラップイオンの集合運動モードの周波数の変動に関する前記第一及び第二のトラップイオン間の前記もつれ相互作用の変化がゼロであるという条件に基づいて、ステップと、
計算された前記第一のフーリエ係数を有する前記第一のパルス関数を復調し、第一の振幅及び第一の離調周波数値を計算し、計算された前記第二のフーリエ係数を有する第二のパルス関数を復調し、第二の振幅及び第二の離調周波数値を計算するステップと、
計算された前記第一の振幅及び計算された前記第一の離調周波数値を有する前記第一のレーザパルスを前記第一のトラップイオンに適用し、計算された前記第二の振幅及び計算された前記第二の離調周波数値を有する前記第二のレーザパルスを前記第二のトラップイオンに適用するステップと、
を含む操作を実行させる、量子コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記トラップイオンのそれぞれは、
2S
1/2の超微細状態を有する
171Yb
+である、
請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項17】
前記操作は、
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第二の方向の前記複数のトラップイオンの前記集合運動モードの前記周波数の変動に対する前記第一及び第二のトラップイオンの位相空間軌道の変動がゼロであるという条件に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数を選択すること
をさらに含む、請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅に等しく、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と等しい、請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記第一の振幅は、前記第二の振幅と異なり、
前記第一の離調周波数値は、前記第二の離調周波数値と異なる、
請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項20】
前記操作は、
前記第一及び第二のパルス関数を復調する前に、前記第一及び第二のレーザパルスによって前記第一及び第二のトラップイオンに提供される出力に基づいて、計算された前記第一のフーリエ係数及び計算された前記第二のフーリエ係数を選択すること
をさらに含む、請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項21】
前記操作は、
前記第一及び第二のレーザパルスの強度が変動すると決定されたとき、前記第一のレーザパルスの前記第一の振幅及び前記第二のレーザパルスの前記第二の振幅を修正して、前記第一と第二のトラップイオンとの間のもつれ相互作用を較正すること
をさらに含む、請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項22】
前記操作は、
前記第一及び第二のトラップイオンの結合強度が前記集合運動モードで変動すると決定されたとき、前記第一及び第二のトラップイオン間のもつれ相互作用を安定化するために広帯域レーザパルスシーケンスを適用すること
をさらに含む、請求項
15に記載の量子コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、イオントラップ型量子コンピュータにおいて、もつれゲートを生成する方法に関し、より具体的には、トラップイオンの集合運動モードの周波数の変動に対するもつれゲートを安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングでは、古典的デジタルコンピュータにおける「0」と「1」を表すビットに類似した量子ビット又はキュービットの状態をほぼ完全な精度で決定するために、量子ビット又はキュービットを計算プロセス中に準備し、操作し、測定(読み出し)する必要がある。キュービットの制御が不完全であると、計算プロセスにおいて誤差が蓄積することがあり、信頼性の高い計算を実行できる量子コンピュータのサイズが制限される。
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築するために提案されている物理システムの中に、電磁界によってトラップされて真空中に浮遊するイオンの鎖(例えば、電荷を帯びた原子)がある。イオンは、数GHz範囲内の周波数によって分離され、キュービットの計算状態(「キュービット状態」と呼ばれる)として使用することができる内部超微細状態を有する。これらの超微細状態は、レーザから提供される放射線を使用して(場合によっては本明細書ではレーザビームとの相互作用と呼ばれることもある)制御し読み取ることができる。イオンは、また、このようなレーザ相互作用を使用して、運動基底状態の近くまで冷却することができる。個々のキュービットは、2つの超微細状態のいずれかに高精度で光学的に励起し(キュービットの準備)、レーザビームにより2つの超微細状態間で操作することができ(単一キュービットのゲート操作)、共鳴レーザビームの適用時に蛍光によってそれらの内部超微細状態が検出される。1ペアのイオンは、イオン間のクーロン力の相互作用により発生する、トラップイオンの鎖の集合運動モードにイオンを結合するレーザパルスを使用して、キュービット状態に依存する力によって制御可能にもつれることができる(2キュービットのゲート操作)。量子コンピュータのサイズが大きくなると、1ペアのイオン間の2キュービットゲート演算の実装が複雑になるため、実装に伴う誤差や、集合運動モードの周波数やレーザ出力などの実装に必要なリソースが増加する。
【0004】
古典的コンピュータでは難解な問題を解決するアルゴリズムを実装できる可能性のある量子コンピュータのサイズを大きくするためには、実装やリソースに関連する誤差がある場合でも、キュービットを正確に制御して実行するための手順が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、量子コンピュータを使用して計算を実行する方法に関し、この方法は、第一のレーザパルス及び第二のレーザパルスを生成して、第一の方向に整列された複数のトラップイオンの第一のトラップイオンと第二のトラップイオンとの間にもつれ相互作用を引き起こすステップであって、複数のトラップイオンのそれぞれがキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有する、ステップと、生成された第一のレーザパルスを第一のトラップイオンに適用し、生成された第二のレーザパルスを第二のトラップイオンに適用するステップと、を含む。第一のレーザパルス及び第二のレーザパルスを生成することは、第一の方向に垂直な第二の方向における複数のトラップイオンの集合運動モードの周波数の変動に対して、第一及び第二のトラップイオン間のもつれ相互作用を安定化することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0007】
【
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの部分図である。
【
図2】一実施形態に従って、イオンを鎖に閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
【
図3】
図3A、
図3B、及び
図3Cは、5つのトラップイオンの鎖のいくつかの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図4】一実施形態に従って、トラップイオンの鎖内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
【
図5】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトル及び運動モードの概略図を示す。
【
図7A】一実施形態に従って、5つのトラップイオンの鎖に対してXXゲート操作を実行する段階的パルスセグメントの不忠実度を示す。
【
図7B】XXゲート操作の
図7Aにおける不忠実度の幅を示す。
【
図7C】一実施形態に従う安定化パルスの出力要件を示す。
【0008】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸、及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
トラップイオンを使用して量子コンピューティングを実行できるシステム全体には、古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子レジスタが含まれる。古典的コンピュータは、グラフィックス処理ユニット(GPU)などのユーザインターフェイスを使用して実行する量子アルゴリズムの選択、選択した量子アルゴリズムの一連のユニバーサル論理ゲートへのコンパイル、一連のユニバーサル論理ゲートを量子レジスタに印加するためのレーザパルスへの変換、中央処理ユニット(CPU)を使用してレーザパルスを最適化するパラメータの事前の計算などのサポート及びシステム制御タスクを実行する。量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに記憶されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザや、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み取る音響光学変調器が含まれる。システムコントローラは、古典的コンピュータから、量子レジスタで選択されたアルゴリズムの実行の開始時に出力最適パルスの事前計算されたパラメータを受け取り、量子レジスタで選択されたアルゴリズムを実行するために使用されるすべての側面の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み取り値を返し、こうして、アルゴリズムの実行の最後に、量子コンピューティングの結果を古典的コンピュータに出力する。
【0010】
任意の量子アルゴリズムを分解することができるユニバーサル論理ゲートのいくつかの既知のセットのうち、一般的に{R,XX}と表記されるユニバーサル論理ゲートのセットは、本明細書に記載されているトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有のものである。ここで、Rゲートは、トラップイオンの個々の量子状態の操作に対応し、XXゲート(もつれゲートとも呼ぶ)は、2つのトラップイオンのもつれ操作に対応する。当業者にとって明らかであるように、Rゲートは、ほぼ完全な忠実度で実装できるが、XXゲートの形成は、複雑なので、XXゲートの忠実度を向上させ、量子コンピュータ内の計算の誤差を回避又は削減するためには、いくつかの要因を挙げれば、トラップイオンの所定のタイプと、トラップイオンの鎖内のイオンの数と、トラップイオンがトラップされるハードウェア及び環境との最適化が必要である。
【0011】
以下では、実装に関連する誤差と実装に必要なリソースが存在する場合に、向上した忠実度を有するXXゲートの形成に基づいて計算を実行するために使用されるパルスを生成し,最適化する方法を説明する。
【0012】
(一般的なハードウェア構成)
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピュータ又はシステム100の部分図である。システム100は、古典的コンピュータ101と、システムコントローラ118と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(例えば、5つを示す)の鎖102である量子レジスタとを含む。古典的コンピュータ101は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、及びサポート回路(又はI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、又はその他の形式のデジタルストレージなどで、ローカル又はリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ又は複数であり得る。ソフトウェア命令、アルゴリズム、及びデータは、CPUに命令するためにコード化され、メモリ内に記憶される。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含み得る。
【0013】
例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ104は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)106にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ108からの非共伝搬ラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ110は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)114を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム116は、すべてのイオンを一度に照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)118は、AOM114を制御する。システムコントローラ118は、中央処理ユニット(CPU)120、読み取り専用メモリ(ROM)122、ランダムアクセスメモリ(RAM)124、記憶ユニット126などを含む。CPU120は、RFコントローラ118のプロセッサである。ROM122は、様々なプログラムを記憶し、RAM124は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。記憶ユニット126は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU120、ROM122、RAM124、及び記憶ユニット126は、バス128を介して相互接続されている。RFコントローラ118は、ROM122又は記憶ユニット126に記憶され、RAM124を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、データの受信、分析、及び本明細書で説明されたイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法及びハードウェアの全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためにプロセッサによって実行することができるプログラムコード(例えば、命令)を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションを含む。
【0014】
図2は、一実施形態に係る、鎖102内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧VSがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」、「長手方向」又は「第一の方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖102内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、及び208を含む。
【0015】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧V1は、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧V1から180°の位相シフト(及び振幅VRF/2を有する正弦波電圧V2は、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極202、204のみに印加され、対向する他対の206、208は、接地される。四重極電位は、トラップされた各イオンに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」,「横方向」又は「第二の方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kxとkyによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これら及び他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0016】
(トラップイオン構成とキュービット情報)
図3A、
図3B、及び
図3Cは、例えば、5つのトラップイオンの鎖102のいくつかの概略的な集合横運動モード構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。本明細書では、エンドキャップ電極210及び212に印加された静的電圧Vsによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンの鎖102の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位とトラップイオン間のクーロン相互作用との組み合わせによって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、又は単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードには、それに関連する異なるエネルギー(又は同等に、周波数)がある。以下では、エネルギーがp番目に低い運動モードを│n
ph>
pと呼び、ここで、n
phは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所定の横方向の運動モードの数Pは、鎖102内のトラップイオンの数Nに等しい。
図3A~
図3Cは、鎖102内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの集合横運動モードの例を概略的に説明する。
図3Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│n
ph>
Pの概略図であり、ここで、Pは、運動モードの数である。一般的な運動モード│n>
pでは、すべてのイオンは、横方向に同位相で振動する。
図3Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│n
ph>
P-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。
図3Cは、傾斜運動モード│n
ph>
P-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│n
ph>
P-3の概略図である。
【0017】
なお、上記特定の構成は、本開示のイオンを閉じ込めるトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示によるトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではない。例えば、電極の形状は、上記双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップでも、あるいは全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割することができ、その隣接するペアが1つ以上のイオンを往復させてリンクすることも、あるいは光子相互接続によって結合することもできる。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0018】
図4は、一実施形態に係る、トラップイオンの鎖102内の各イオンの概略エネルギー
図400を示す。一例では、各イオンは、ω
01/2π=12.642821GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する
2S
1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する正のイッテルビウムイオン
171Yb
+であってよい。キュービットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(すなわち、
2S
1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が│0>を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「キュービット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用されることがある。各イオンは、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、n
ph=0)で任意の運動モードpの運動基底状態│0>pの近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下することができる)、次にキュービット状態が光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字pが付いた│0>
pは、トラップイオンの鎖102の運動モードpの運動基底状態を表す。
【0019】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された
2P
1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。
図4に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ω
1を有する第一のレーザビームと周波数ω
2を有する第二のレーザビーム)に分割され、
図4で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω
0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω
1-ω
0eによって離調されてよい。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω
1-ω
2-ω
01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω
0e(t)とΩ
1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω
0eΩ
1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω
0eとΩ
1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」又は単に「パルス」と呼ばれてよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」又は単に「パルス」と呼ばれてよく、それらは、以下で図示され、さらに説明される。離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれてよい。第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれてよい。
【0020】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示のイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be+、Ca+、Sr+、Mg+、及びBa+)又は遷移金属イオン(Zn+、Hg+、Cd+)を含む。
【0021】
図5は、方位角φ及び極性角θを有するブロッホ球500の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上記のように、複合パルスを適用すると、キュービット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態を│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極へ)反転させるか、あるいはキュービット状態│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極に)反転させる。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、一般性を失うことなく、以下省略される)に変換することができ、そして、キュービット状態│1>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされているが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換することができる。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+e
iφ│1>(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>φである)として表される。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0022】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、XXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、そして、以下に説明するように、もつれは、運動側波帯励起を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。
図6A及び
図6Bは、一実施形態に係る、周波数ω
pを有する運動モード│n
ph>
pでの鎖102内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。
図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=0に調整される場合)、キュービット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pと│1>│n
ph+1>
pとの間でラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>が│1>に反転する場合、│n
ph>
pで表されるn
ph-フォノン励起を伴うp番目の運動モードから│n
ph+1>
pで表されるn
ph+1-フォノン励起を伴うp番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│n
ph>
pの周波数ω
pによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>pと│1>│n
ph-1>
pの間のラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│n
ph>
pから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│n
ph-1>
pへの遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pを、│0>│n
ph>pと│1>│n
ph+1>pの重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n>mを、│0>│n
ph>pと│1>│n
ph-1>
pの重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移又は赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、2つのキュービット間のもつれをもたらす。イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するには、キュービット間のもつれが必要である。
【0023】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御及び/又は指示することにより、2つのキュービット(i番目及びj番目のキュービット)に対してXXゲート操作を実行することができる。一般に、(最大もつれを有する)XXゲート操作は、2キュービット状態|0>
i|0>
j、|0>
i|1>
j、|1>
i|0>
j及び|1>
i|1>
jをそれぞれ次のように変換する。
【数1】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>
i|0>
jで表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0>i|nph>pの組み合わせ状態は、|0>
i|n
ph>
pと|1>
i|n
ph+1>
pの重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>
i|0>
j|n
ph>
pと|1>
i|0>
j|n
ph+1>
pの重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0>
j|n
ph>
pの組み合わせ状態は、|0>
j|n
ph>
pと|1>
j|n
ph-1>
pの重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>
j|n+1>pは、|0>
j|n
ph+1>
pと|1>
j|n
ph>
pの重ね合わせに変換される。
【0024】
したがって、i番目のキュービットにπ/2青側波帯のパルスを適用し、j番目のキュービットにπ/2赤側波帯のパルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0>i|0>j|nph>pの組み合わせ状態を|0>i|0>j|nph>pと|1>i|1>j|nph>pの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nとは異なる数(すなわち、|1>i|0>j|nph+1>pと|0>i|1>j|nph-1>p)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2キュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、p番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、XXゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0025】
より一般的には、側波帯のパルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、それぞれ振幅Ω
(i)(t)と離調周波数μ
(i)(t)、及び振幅Ω
(j)(t)と離調周波数μ
(j)(t)を有するi番目とj番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χ
ij(τ)の観点から次のように記述することができる。
【数2】
ここで、
【数3】
である。
【数4】
は、i番目のイオンと周波数ω
pを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、
ψ
(l)(t)はパルスの累積位相
【数5】
であり、
【数6】
は、一般性を失うことなく、簡単にするために以下ゼロ(0)と見なすことができる初期位相であり、Pは運動モードの数(鎖102内のイオンの数Nに等しい)である。
【0026】
(ゲートもつれ操作のためのパルスの構築)
上記の2つのキュービット間のもつれ相互作用を使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一キュービット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように構成された量子コンピュータを構築するために使用できるユニバーサルゲート{R,XX}のセットを形成する。m番目とn番目のキュービット間でXXゲート操作を実行するには、条件χ
ij(τ)=θ
ij(0<θ
ij≦π/2)を満たすパルス(すなわち、もつれ相互作用χ
ij(τ)が所望の値θ
ijを有することで、もつれ相互作用がゼロでない条件と呼ばれる)が構築され、i番目とj番目のキュービットに適用される。上記のi番目とj番目のキュービットの結合状態の変換は、θ
ij=π/2のときに最大のもつれを伴うXXゲート操作に対応する。i番目とj番目のキュービットに適用されるパルスの振幅と離調周波数(Ω
(i)(t),μ
(i)(t))及び(Ω
(j)(t),μ
(j)(t))は、i番目とj番目のキュービットのゼロ以外の調整可能なもつれを保証するように調整でき、i番目とj番目のキュービットで所望のXXゲート操作を実行する制御パラメータである。パルスの制御パラメータ、振幅及び離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))(l=i,j)も、また、パルスの照射によって運動モードが励起され、初期位置から変位する鎖102内のN個のトラップイオンがすべて初期位置に戻るという条件も満たす必要がある。重ね合わせ状態のl番目のキュービット│0>±│1>は、ゲート持続時間τの間のp番目の運動モードの励起により変位し、p番目の運動モードの位相空間(位置と運動量)内の軌道
【数7】
に従う。位相空間の軌道
【数8】
は、パルスの振幅Ω
(l)(t)と累積位相
【数9】
によって決定される。ここで、g
(l)(t)は、g
(l)(t)=Ω
(l)(t)sin(ψ
(l)(t))として定義されるパルス関数である。したがって、N個のトラップイオンの鎖102に対して、条件
【数10】
(すなわち、l番目のキュービットの位相空間軌道
【数11】
を閉鎖する必要があることで、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件とも呼ばれる)(又は位相空間軌道の閉鎖)は、もつれ相互作用がゼロでないという条件χ
ij(τ)=θ
ij(0<θ
ij≦π/2)に加えて、P個(p=1,2,…,P)の全ての運動モードに対して課されなければならない。
【0027】
パルスの制御パラメータ、振幅及び離調周波数(Ω(l)(t),μ(l)(t))(l=i,j)も、結果として生じるパルスが出力最適であるように調整され、必要なレーザ出力が最小化される(出力最小化の条件と呼ばれる)。必要なレーザ出力はゲート持続時間τに反比例するため、出力最適パルスは、ゲート持続時間τが固定されている場合は最小出力要件で、又はレーザ出力バジェットが固定されている場合は最短ゲート持続時間で、XXゲート操作を実装する。
【0028】
いくつかの実施形態では、振幅及び離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))(l=i,j)は、ゲート持続時間の中間点、t=τ/2に対して時間的に対称又は反対称になるように選択され、すなわち、
【数12】
となる。以下に説明する例では、振幅と離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))は、簡単にするために、対称になるように選択されており(Ω
(l)(+)(t)とμ
(l)(+)(t))、上付き文字(+)なしでΩ
(l)(t)及びμ
(l)(t)と呼ぶこともできる。対称離調周波数μ
(l)(t)の場合、累積位相ψ
(l)(t)は反対称、すなわち、
【数13】
となる。トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件は、パルス関数g
(l)(t)の反対称成分g
(l)(-)(t)(単に「パルス関数」と呼び、以下では上付き文字(-)なしで、g
(l)(t)と記す)で、
【数14】
として書き直すことができる。
【0029】
パルス(l=i,j)の振幅と離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))で決まるパルス関数g
(l)(t)は,これらの条件を満たすように,ゲート持続時間を等間隔のN
A個のセグメント(n=1,2,…,N
A)に分割し,パルスの振幅と離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))を変化させることで、パルス関数g
(l)(t)をセグメントごとに変化させることで,導出される。ここで、例えば、パルス関数g
(l)(t)は、基底関数
【数15】
とパルス関数係数
【数16】
を使用して、ゲート持続時間τにわたってフーリエ正弦基底
【数17】
で展開される。トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件は、
【数18】
として書き直すことができ、ここで、M
pnは、
【数19】
として定義される。同様に、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件(例えば、位相空間軌道の閉鎖)は、行列形式で
【数20】
として記述できる。ここで、MはM
pnのP×N
A係数行列であり、
【数21】
は
【数22】
のN
Aパルス関数係数ベクトルである。セグメントの数N
Aは、運動モードの数Pよりも大きくなるように選択される。したがって、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件を満たし、自明でない(すなわち、パルス関数係数
【数23】
の少なくとも1つはゼロではない)パルス関数ベクトル
【数24】
がN
0(=N
A-P)個存在する。自明でないパルス関数ベクトル
【数25】
は、行列Mのヌル空間ベクトル(すなわち、
【数26】
)である。
【0030】
もつれ相互作用がゼロでないという条件とデカップリングの条件は
【数27】
に書き直すことができる。ここで、
【数28】
は、
【数29】
又は同等に、行列形式で
【数30】
と定義される。ここで、D
(i,j)は
【数31】
のN
A×N
A係数行列であり、
【数32】
は
【数33】
の転置ベクトルである。
【数34】
はスカラーであるため、もつれ相互作用がゼロでないという条件は、対称行列
【数35】
の観点から、
【数36】
としてさらに書き直すことができる。
【0031】
出力最小化の条件は、出力関数
【数37】
を最小化することに対応する。これは、ゲート持続時間τにわたって平均化されたパルス関数g
(l)(t)の絶対二乗値である。したがって、出力最適パルスは、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件を満たす、自明でないパルス関数ベクトル
【数38】
(行列Mのヌル空間ベクトル)の線形結合
【数39】
を計算することによって構築できる。係数
【数40】
は、出力数P(t)が最小化されるように決定され、もつれ相互作用がゼロでないという条件も満たされる。もつれ相互作用がゼロでないという条件があるので、係数
【数41】
に、
【数42】
のような制約が追加される。ここで、
【数43】
は
【数44】
のN
0係数ベクトルであり、
R
(i,j)は行列要素
【数45】
を有する実対称行列である。したがって、パルス(l=i,j)の振幅と離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))は、もつれ相互作用がゼロでないという条件と出力最小化の条件とを満たすパルス関数係数
【数46】
又は同等のパルス関数係数ベクトル
【数47】
を有するパルス関数g
(l)(t)に基づいて計算できる。トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件と、ゼロでないもつれ相互作用の条件は、パルス関数係数ベクトル
【数48】
に関して線形代数の形式であることに留意されたい。したがって、これらの条件を、出力最小化の条件とともに満たすパルス関数係数
【数49】
は、近似又は反復なしで既知の線形代数計算方法によって計算できる。
【0032】
パルス関数係数
【数50】
に関するパルス関数g
(l)(t)の展開は、周波数領域(周波数2πn/τ)でのパルスの構築に対応し、したがって、パルス関数g
(l)(t)によって構築されるパルスは、マルチトーンレーザ(すなわち、複数のトーンを有し、各トーンが別個の振幅及び対応する周波数を有するレーザビーム)によって直接実装され得る。すなわち、周波数が2πn/τで振幅が
【数51】
のN
Aトーンレーザビームは、レーザビームの位相が固定されており、XXゲート操作を直接実装できる。パルス関数は、ゲート持続時間にわたって完全なセット又は不完全なセットを形成する任意の関数を使用して展開できる。しかしながら、パルス関数が不完全なセットで展開された場合、上記の方法で計算されたパルス関数g
(l)(t)が出力最適であるという保証はない。
【0033】
上記の特定の例示的な実施形態は、本開示によるパルス関数の構築方法の単なるいくつかの可能な例であり、パルス関数の構築方法の可能な構成、仕様などを制限するものではないことに留意されたい。例えば、振幅及び離調周波数(Ω(l)(t),μ(l)(t))(l=i,j)の対称性は、システム100の構成、仕様等に関連する利便性に基づいて、反対称である(負のパリティを有する)ように、あるいは混合対称を有する(混合パリティを有する)ように選択することができる。しかしながら、振幅及び離調周波数(Ω(l)(t),μ(l)(t))に対称性を課すことは、特定の対称性を有する誤差を排除することにつながる可能性がある。
【0034】
(モード周波数変動に対する安定化とXXゲートの較正)
出力最適パルスの構築において、係数ベクトル
【数52】
に課せられる条件の線形代数形式のために、フーリエ係数ベクトル
【数53】
を計算する際の複雑さを実質的に増加させることなく、追加の条件を追加することができる。例えば、すべての条件の線形代数形式を維持しながら、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pやレーザビームの強度などの外部エラーに対してパルスを安定化させるための条件を追加で課すことができる。イオントラップ型量子コンピュータ又はシステム100では、漂遊電場、光イオン化又は温度変動によって引き起こされるイオントラップ200内の蓄積電荷のために、運動モードの周波数ω
pに変動Δω
pがあり得る。通常、数分の時間にわたって、運動モードの周波数ω
pは、(Δω
p)/(2π)≒1kHzの偏位(excursion)でドリフトする。ゼロでないもつれ相互作用、トラップイオンの元の位置と運動量値への復帰、及び運動モードの周波数ω
pに基づく最小化された出力の条件は、運動モードの周波数ω
pがω
p+Δω
pにドリフトしたときに、もはや満たされなくなる。結果として、XXゲート操作の忠実度が低下する。運動モードフォノンのゼロ温度でのi番目とj番目のキュービット間のXXゲート操作の不忠実度1-Fは、
【数54】
によって与えられることが知られている。これは、ω
pの変動Δω
pに関するl番目のキュービット(l=i,j)の位相空間軌道α
l,pのk次変動
【数55】
がゼロであること(k次安定化と呼ばれる)を要求することによって、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pに対してXXゲート操作を安定化できることを示唆している。ここで、K
αはαの望ましい最大安定化度である。安定化のためにこの条件を要求することによって計算されたパルスは、ノイズ(すなわち、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
p)に対して回復力のあるXXゲート操作を実行できる。
【0035】
もつれ相互作用χ
ij(τ)は運動モードの周波数ω
pに関連しているため、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pも、もつれ相互作用χ
ij(τ)の値に影響を与えることがある。すなわち、結果として生じるもつれ相互作用χ
ij(τ)は、前述のように、もつれ相互作用がゼロでないという条件で設定された所望の値θ
ijとは異なる値を有し得る。したがって、いくつかの実施形態では、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pに対してもつれ相互作用を安定化するための条件は、また、運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pに関してもつれ相互作用χ
ij(τ)のk次変動
【数56】
がゼロであること(k次安定化と呼ばれる)を必要とし得る。ここで、K
χは所望の最大安定化度である。
【0036】
上述のように、出力最適パルスのもつれ相互作用がゼロでないという条件は、
【数57】
として記述される。係数
【数58】
(係数ベクトル
【数59】
の要素)は、出力最適パルス(l=i,j)のパルス関数
【数60】
のヌル空間展開
【数61】
におけるものである。したがって、ω
pの変動Δω
pに関してk次までの運動モードの周波数ω
pの変動に対するもつれ相互作用の安定化(k次安定化)の条件は、行列形式
【数62】
で記述される。ここで、行列
【数63】
は要素
【数64】
を有し、行列
【数65】
は
【数66】
として定義される。
【0037】
(単一パルス安定化)
いくつかの実施形態では、同一のパルスがi番目のキュービットとj番目のキュービットの両方に適用され(すなわち、係数ベクトル
【数67】
が同じ)、i番目のキュービットとj番目のキュービットとの間でXXゲート操作を実行する。次いで、行列
【数68】
と係数ベクトル
【数69】
は、
【数70】
のυ番目の固有値
【数71】
と対応する固有ベクトル
【数72】
をそれぞれ
【数73】
と
【数74】
として使用して、スペクトル分解することができる。このスペクトル分解では、出力最適パルスの安定化の条件を
【数75】
と書くことができる。したがって、固有値
【数76】
が大きい出力最適パルスのヌル空間展開
【数77】
における成分は、運動モードの周波数ω
pの変動に対して不安定になる。
【0038】
運動モードの周波数ω
pの変動Δω
pに対するもつれ相互作用を一次で、ある程度安定させるために、大きな固有値
【数78】
を有する出力最適パルス
【数79】
の成分が除去され、結果として生じるパルスは、もつれ条件χ
ij=π/2を得るために再び正規化される。
【0039】
(2パルス安定化)
いくつかの実施形態では、i番目のイオンに適用されるパルスは、j番目のイオンに適用されるパルスとは異なり、係数ベクトル
【数80】
とが直交するように選択される。具体的には、実行するi番目のキュービットに適用される係数ベクトル
【数81】
を有するパルスが選択される。選択された係数ベクトル
【数82】
を使用して、j番目のキュービットに適用されるパルスの係数ベクトル
【数83】
は、係数ベクトル
【数84】
が上記のもつれ相互作用の安定化の条件
【数85】
を満たし、パルスが出力最適となるように決定される。いくつかの実施形態では、係数ベクトル
【数86】
は、係数ベクトル
【数87】
のそれぞれが、上述の単一パルス安定化におけるもつれ相互作用の安定化のための条件を満たすように選択される。
【0040】
もつれ相互作用χij(τ)は各トーンの振幅An(n=1,2,…,NA)に関連しているために、レーザビームの強度とラムディッケパラメータηi,pの変動も、もつれ相互作用χij(τ)の値に影響を与えることがある。すなわち、結果として生じるもつれ相互作用χij(τ)は、もつれ相互作用がゼロでないという条件で設定された所望の値θijとは異なる値を有することもある。したがって、いくつかの実施形態では、Solovay-Kitaev(SK)シーケンス及びSuzuki-Trotterシーケンスなどの単一キュービットゲート操作に通常適用可能な既知の広帯域レーザパルスシーケンスを使用して、例えば、ラムディッケパラメータηi,pのオフセットに関して、もつれ相互作用χij(τ)の誤差を軽減することができる。同じ手法を使用して、もつれ相互作用χij(τ)値を乱す誤差のソースに対して、もつれ相互作用χij(τ)を安定させることができる。
【0041】
もつれ相互作用χij(τ)の安定化の代替又は追加として、結果として生じるもつれ相互作用χij(τ)は、パルスの振幅Ω(t)を変更することによって所望の値θijに較正することができる。
【0042】
(パルスの復調)
出力最適で誤差に強いパルスを第一のキュービット(l=i、j)に適用するために、出力最適パルスの振幅及び離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))を決定されたパルス関数g
(l)(t)=Ω
(l)(t)sin(ψ
(l)(t))(l=i,j)から復調する必要がある(すなわち、振幅と離調周波数(Ω
(l)(t),μ
(l)(t))が抽出され、パルス関数g
(l)(t)は、単一のレーザビームの一連の時間依存パルスセグメントを有するパルスに変換される)。ここで、
【数88】
は、離調周波数μ
(l)(t)による累積位相である。この復調プロセスが固定離調周波数で実行される場合、すなわち、μ
(l)(t)=μ
0の場合、結果として生じるパルスは振幅変調(AM)パルスであり、振幅Ω
(l)(t)は変調される。復調プロセスが固定振幅で、すなわち、Ω
(l)(t)=Ω
0で実行される場合、結果として生じるパルスは位相変調(PM)パルスであり、位相ψ
(l)(t)は変調される。位相ψ
(l)(t)が離調周波数μ
(l)(t)を変調することによって実装される場合、結果として生じるパルスは周波数変調(FM)パルスになる。復調プロセスは、振幅Ω
(l)(t)、位相ψ
(l)(t)(これにより、離調周波数μ
(l)(t))、信号処理の分野で知られている従来の復調方法によって出力最適パルスを構築するための周波数の任意の組み合わせ変調で実行できる。
【0043】
例示的な復調プロセスの最初のステップは、t=ζj(j=0,1,…,Nz-1)でパルス関数g(t)=Ω(l)(t)sin(ψ(l)(t))の零点を見つけることである(すなわち、g(ζj)=0)。ここで、Nzはパルス関数g(l)(t)の零点の総数である。振幅Ω(l)(t)は、振幅Ω(l)(t)がゼロにならないように選択できる。したがって、sin(ψ(l)(t))がゼロの場合(つまり、sin(ψ(l)(ζj))=0)、パルス関数g(l)(t)はゼロになる。正弦関数の性質により、ψ(l)(ζj)=jπ(j=0,1,…,Nz-1)の場合、パルスのゲート持続時間τの開始時と終了時の零点(すなわち、t=ζ0=0及びt=ζNz-1=τ)も含め、sin(ψ(l)(ζj))=0となる。
【0044】
復調プロセスの第二のステップは、パルス関数g
(l)(t)の零点に基づいて離調周波数μ
(l)(t)を計算することである。いくつかの実施形態では、離調周波数μ
(l)(t)は、パルス関数g
(l)(t)の隣接する零点間の定数値として近似される(すなわち、ζ
j-1<t<ζ
jに対してμ
(l)(t)≒μ
jで,j=1,2,…,N
z-1)。
【数89】
のように離調周波数μ
(l)(t)により位相ψ
(l)(t)が蓄積されるため、t=ζ
jとt=ζ
j-1の位相差は、
【数90】
となる。したがって、t=ζ
j-1とt=ζ
jの間の離調周波数μ
jは、μ
j=π/(ζ
j-ζ
j-1)して決定される。復調プロセスの第三のステップは、振幅Ω
(l)(t)を計算することである。t=ζ
jでのパルス関数g
(l)(t)=Ω
(l)(t)sin(ψ
(l)(t))の時間微分は、
【数91】
であり、ここで、ψ
(l)(ζ
j)=jπ及び
【数92】
を使用する。したがって、t=ζ
jでの振幅Ω
(l)(t)は、計算されたパルス関数
【数93】
の時間微分を使用して
【数94】
として計算される(すなわち、
【数95】
)。
【0045】
いくつかの実施形態では、計算された離調周波数μj(j=1,2,…,Nz-1)のセットがスプライン(例えば、1つ以上の多項式又は他の代数式によって区分的に定義された関数)で補間され、離調周波数μ(l)(t)の補間された値は、振幅Ω(l)(ζj)を計算するためのμ(l)(ζj)に使用される。いくつかの実施形態では、μ(l)(ζj)は、(i)μj、(ii)μj+1、又は(iii)(μj+μj+1)/2であり、振幅Ω(l)(ζj)を計算するためのμ(l)(ζj)として使用される。
【0046】
いくつかの実施形態では、計算された振幅Ω(l)(ζj)のセットも、またスプラインで補間して、時間依存振幅Ω(l)(t)を計算する。
【0047】
位相変調(PM)パルスの復調プロセスの場合、計算された位相ψ(l)(ζj)のセットをスプラインで補間して、時間依存位相ψ(l)(t)を計算することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、上記の実施形態による運動モードの周波数ωpにおける変動Δωに対する安定化の例を示す。
【0049】
図7Aでは、k次安定化(k=0,1,…,8)を伴うXXゲートの不忠実度1-Fが、運動モードの周波数ω
pにおける変動Δωの関数として示されている。ここで、p番目の運動モード(p=1,2,…,5)の周波数ω
pは、ω
p+Δωに等しくシフトされる。この例では、ゲート持続時間τは、5つのトラップイオンの鎖102上で300μsとして選択されている。
【0050】
安定化を伴わないXXゲート操作702の不忠実度1-Fは、位相空間軌道
【数96】
がp番目の運動モードの周波数ω
pに関連しているので、運動モードの周波数ω
pの変動Δωが増加するにつれて実質的に増加する。したがって、周波数ω
pの変動Δωに敏感である。こうして、不正確な周波数ω
p(すなわち、実際の周波数とは異なる周波数)を使用してパルスを決定すると、XXゲート操作が不正確になる(すなわち、所望のXXゲート操作とは異なる)。一次安定化が適用されるXXゲート操作704の不忠実度1-Fは、周波数ω
pの小さな変動Δωに対して低いまま(最大で約0.5kHz)である。すなわち、XXゲート操作は、一次安定化により、運動モードの周波数の変動に対してロバストになる。0.001の不忠実度で抽出された
図7Aの不忠実度曲線の幅(すなわち、不忠実度1-Fを0.001より小さくすることができる変動Δωの範囲)は、安定化の次数kが
図7Bに示すように、0から8に増加するにつれて、約0.1kHzから約13kHzに増加する。
【0051】
しかしながら、安定化に伴って、必要なレーザ出力は、例えば、本明細書に記載の例では最大40%増加する。したがって、安定化の程度と必要なレーザ出力の最適化の間にはトレードオフがある。安定化kの各次数に対する安定化パルスの出力要件は、
図7Cに示されるように、安定化の各次数kで線形にスケーリングする。安定化の効果は、
図7Dに示すように、ゲート持続時間τに反比例して増加する。
【0052】
上記のように、2つのキュービット間でゲートもつれ操作を実行するための出力最適レーザパルスを生成する方法によって、ゲートもつれ操作が外部エラーに対して安定化され、ゲートもつれ操作の忠実度が向上するようになる。
【0053】
さらに、ゲートもつれ操作を実行するための出力最適でエラー耐性のあるレーザパルスを生成する際の制御パラメータを決定することは、一組の線形方程式を解くことを含む。したがって、制御パラメータを決定し、続いて出力最適でエラー耐性のあるレーザパルスを構築することを効率的な方法で実行することができる。所望の量子アルゴリズムの実行の最後に、量子レジスタ内のキュービット状態(トラップイオン)の集団が測定(読み出し)されるため、所望の量子アルゴリズムを使用した量子コンピューティングの結果を決定し、古典的コンピュータに提供し、古典的コンピュータでは手に負えないこともある問題の解決策を得るために使用することができる。
【0054】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。