(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】トラップイオン型量子コンピュータのための同時もつれゲート
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20230803BHJP
【FI】
G06N10/40
(21)【出願番号】P 2021568968
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 US2020015235
(87)【国際公開番号】W WO2020236231
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-01-13
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(72)【発明者】
【氏名】ブルメル レインホールド
(72)【発明者】
【氏名】グルチェシャク ニコデム
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-508382(JP,A)
【文献】特表2021-527253(JP,A)
【文献】CHOI, T. ほか,Optimal quantum control of multi-mode couplings between trapped ion qubits for scalable entanglement,arXiv[online],2014年01月08日,pp.1-4,[retrieved on 2023.01.30], Retrieved from the Internet: <URL: https://arxiv.org/pdf/1401.1575.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラップイオン型量子コンピュータ内で、同時もつれ操作を実行する方法であって、
第一の条件に基づいて、複数のパルスのそれぞれの振幅のセットを
古典的コンピュータによって計算して、
トラップイオン型量子コンピュータにおいてトラップイオンの鎖内の複数の関与イオンの間でイオンの複数ペアを同時にもつれさせるステップであって、
前記鎖内の前記トラップイオンは、それぞれキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有し、
前記トラップイオンの前記鎖の運動モードは、それぞれ異なる周波数を有する、ステップと、
第二の条件に基づいて、前記複数のパルスのそれぞれの計算された振幅のセットから振幅を
前記古典的コンピュータによって選択するステップと、
それぞれが選択された前記振幅を有する前記複数のパルスを、選択されたゲート持続時間値の間、前記複数の関与イオンに
システムコントローラによって適用することによって、イオンの前記複数ペアに対して同時もつれゲート動作を実行するステップと、
を含む、方法であって、
前記複数の関与イオンのそれぞれは、前記複数のパルスのうちの少なくとも1つを受け取り、
前記第一の条件は、トラップイオンの前記鎖の前記運動モードに関連し、
前記第二の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアの各ペアの間と、もつれることのないイオンの各ペアの間とのもつれ相互作用に関連する、方法。
【請求項2】
前記第一の条件は、トラップイオンの前記鎖内の前記トラップイオンがそれらの元の位置及び運動量値に実質的に戻ることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアのそれぞれの間に、ゼロ以外のもつれ相互作用が存在し、もつれることのないイオンのペアのそれぞれは分離されることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゼロ以外のもつれ相互作用が、ゼロとπ/2との間の値を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記振幅を選択するステップは、選択された前記ゲート持続時間値の間に前記複数の関与イオンに供給される出力が最小であるという条件に、さらに基づく、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第二の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアのそれぞれの間に、ゼロ以外のもつれ相互作用が存在し、もつれることのないイオンのペアのそれぞれは分離されることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ゼロ以外のもつれ相互作用が、ゼロとπ/2との間の値を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記振幅を選択するステップは、選択された前記ゲート持続時間値の間に前記複数の関与イオンに供給される出力が最小であるという条件に、さらに基づく、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記振幅のセットを計算するステップは、選択された前記ゲート持続時間値を複数の時間セグメントに分割することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記古典的コンピュータのプロセッサによって、前記
古典的コンピュータの不揮発性メモリに記憶されているソフトウェアプログラムを実行するステップであって、実行された前記ソフトウェアプログラムは、少なくとも1つの計算を実行する必要があり、前記少なくとも1つの計算を実行することは、
前記
古典的コンピュータの前記プロセッサによって、トラップイオンの前記鎖に実装される量子アルゴリズムを選択するステップと、
選択した前記量子アルゴリズムを一連のユニバーサル論理ゲートにコンパイルするステップと、
前記一連のユニバーサル論理ゲートをパルスに変換して、トラップイオンの前記鎖内の複数の関与イオンに適用するステップと、
トラップイオンの前記鎖内の前記トラップイオンのキュービット状態の集団を測定するステップと、
前記キュービット状態の測定された前記集団に基づいて、前記
古典的コンピュータの前記プロセッサによって、トラップイオンの前記鎖内のイオンの前記キュービット状態に対応する量子情報を処理するステップと、
を含む、ステップと、
少なくとも一つの計算の処理結果に基づいて、選択した前記量子アルゴリズムの解を生成するステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
トラップイオンの鎖であって、前記トラップイオンのそれぞれがキュービット状態と励起状態を定義する2つの超微細状態を有する、トラップイオンの鎖と、
前記トラップイオンのそれぞれに提供される2つ以上の非共伝搬レーザビームに分割されるレーザビームを放出するように構成された1つ以上のレーザであって、前記2つ以上の非共伝搬レーザビームは、前記励起状態を介して2つの超微細状態の間の前記トラップイオンのそれぞれのラビフロップを引き起こすように構成される、1つ以上のレーザと、
内部に記憶されたいくつかの命令を有する不揮発性メモリを備えるコントローラと、
を備える、量子コンピューティングシステムであって、
前記命令は、プロセッサによって実行されると、前記量子コンピューティングシステムに、
第一の条件に基づいて、複数のパルスのそれぞれの振幅のセットを計算して、トラップイオンの鎖内の複数の関与イオンの間でイオンの複数ペアを同時にもつれさせるステップであって、
前記鎖内の前記トラップイオンは、それぞれキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有し、
前記トラップイオンの前記鎖の運動モードは、それぞれ異なる周波数を有する、ステップと、
第二の条件に基づいて、前記複数のパルスのそれぞれの計算された振幅のセットから振幅を選択するステップと、
それぞれが選択された前記振幅を有する前記複数のパルスを、選択されたゲート持続時間値の間、前記複数の関与イオンに適用することによって、イオンの前記複数ペアに対して同時もつれゲート動作を実行するステップと、
を含む操作を実行させ、
前記複数の関与イオンのそれぞれは、前記複数のパルスのうちの少なくとも1つを受け取り、
前記第一の条件は、トラップイオンの前記鎖の前記運動モードに関連し、
前記第二の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアの各ペアの間と、もつれることのないイオンの各ペアの間とのもつれ相互作用に関連する、量子コンピューティングシステム。
【請求項12】
前記トラップイオンのそれぞれは、
2S
1/2の超微細状態を有する
171Yb
+であり、前記レーザは、355nmのモードロックレーザである、
請求項11に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項13】
前記第一の条件は、トラップイオンの前記鎖内の前記トラップイオンがそれらの元の位置及び運動量値に実質的に戻ることを含む、請求項11に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項14】
前記第二の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアのそれぞれの間に、ゼロ以外のもつれ相互作用が存在し、もつれることのないイオンのペアのそれぞれは分離されることを含む、請求項13に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項15】
前記ゼロ以外のもつれ相互作用が、ゼロとπ/2との間の値を有する、請求項14に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記振幅を選択するステップは、選択された前記ゲート持続時間値の間に前記複数の関与イオンに供給される出力が最小であるという条件に、さらに基づく、請求項15に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項17】
前記第一の条件は、もつれるイオンの前記複数ペアのそれぞれの間に、ゼロ以外のもつれ相互作用が存在し、もつれることのないイオンのペアのそれぞれは分離されるという条件に基づいて選択される、請求項11に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記ゼロ以外のもつれ相互作用が、ゼロとπ/2との間の値を有する、請求項17に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記振幅を選択するステップは、選択された前記ゲート持続時間値の間に前記複数の関与イオンに供給される出力が最小であるという条件に、さらに基づく、請求項18に記載の量子コンピューティングシステム。
【請求項20】
複数のパルスのそれぞれの前記振幅のセットを計算するステップは、選択された前記ゲート持続時間値を複数の時間セグメントに分割することを含む、請求項11に記載の量子コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、イオントラップ型量子コンピュータにおいて、もつれゲート操作を実行する方法に関し、より具体的には複数のもつれゲート操作を同時に実行するパルスを構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピューティングでは、古典的デジタルコンピュータにおける「0」と「1」を表すビットに類似した量子ビット又はキュービットの状態をほぼ完全な精度で決定するために、量子ビット又はキュービットを計算プロセス中に準備し、操作し、測定(読み出し)する必要がある。キュービットの制御が不完全であると、計算プロセスにおいて誤差が蓄積することがあり、信頼性の高い計算を実行できる量子コンピュータのサイズが制限される。
【0003】
大規模な量子コンピュータを構築するために提案されている物理システムの中に、電磁界によってトラップされて真空中に浮遊するイオンの鎖(例えば、電荷を帯びた原子)がある。イオンは、数GHz範囲内の周波数によって分離され、キュービットの計算状態(「キュービット状態」と呼ばれる)として使用することができる内部超微細状態を有する。これらの超微細状態は、レーザから提供される放射線を使用して(場合によっては本明細書ではレーザビームとの相互作用と呼ばれることもある)制御し読み取ることができる。イオンは、また、このようなレーザ相互作用を使用して、運動基底状態の近くまで冷却することができる。個々のキュービットは、2つの超微細状態のいずれかに高精度で光学的に励起し(キュービットの準備)、レーザビームにより2つの超微細状態間で操作することができ(単一キュービットのゲート操作)、共鳴レーザビームの適用時に蛍光によってそれらの内部超微細状態が検出される。1ペアのイオンは、イオン間のクーロン力の相互作用により発生する、トラップイオンの鎖の集合運動モードにイオンを結合するレーザパルスを使用して、キュービット状態に依存する力によって制御可能にもつれることができる(2キュービットのゲート操作)。一般に、もつれは、イオン(又は粒子)のペア又はグループが生成、相互作用、又は空間的近接性を共有するときに発生する。そのため、イオンが大きな距離で隔てられていても、各イオンの量子状態を他のイオンの量子状態とは独立して記述できない。量子コンピュータのサイズが大きくなると、1ペアのイオン間の2キュービットゲート演算の実装が複雑になるため、実装に伴う誤差や、レーザ出力などの実装に必要なリソースが増加する。
【0004】
古典的コンピュータでは難解な問題を解決するアルゴリズムを実装できる可能性のある量子コンピュータのサイズを大きくするためには、キュービットを正確に制御して、最小限のリソースで所望の計算プロセスを実行するための手順が必要である。
【発明の概要】
【0005】
トラップイオン型量子コンピュータ内で、同時もつれ操作を実行する方法は、トラップイオンの鎖内の複数の関与イオンに個別に適用されるゲート持続時間値及びパルスの離調周波数を選択して、複数の関与イオン間のイオンの複数ペアを、1つ以上の所定のもつれ相互作用値によって同時にもつれさせるステップと、選択されたゲート持続時間値と、選択された離調周波数と、トラップイオンの鎖の運動モードの周波数に基づいて、パルスの振幅を決定するステップと、決定された振幅を有するパルスを生成するステップと、生成されたパルスを、選択されたゲート持続時間値の複数の関与イオンに適用するステップと、を含む。鎖内のトラップイオンは、それぞれキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有し、トラップイオンの鎖の運動モードはそれぞれ異なる周波数を有する。
【0006】
量子コンピュータを使用して計算を実行する方法は、デジタルコンピュータのプロセッサによって、デジタルコンピュータの不揮発性メモリに記憶されているソフトウェアプログラムを実行するステップと、量子計算の処理結果に基づいて、選択した量子アルゴリズムの解を生成するステップと、を含む。実行されたソフトウェアプログラムは、少なくとも1つの計算を実行する必要があり、少なくとも1つの計算を実行することは、デジタルコンピュータのプロセッサによって、量子コンピュータに実装される量子アルゴリズムを選択するステップであって、量子コンピュータは量子コンピュータの量子レジスタ内に配置されたトラップイオンの鎖を備え、鎖内のトラップイオンはそれぞれキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有し、トラップイオンの鎖の運動モードはそれぞれ異なる周波数を有する、ステップと、選択した量子アルゴリズムを一連のユニバーサル論理ゲートにコンパイルするステップと、一連のユニバーサル論理ゲートをパルスに変換して、量子コンピュータ内の複数の関与イオンに適用するステップと、デジタルコンピュータのプロセッサによって、少なくとも1つの計算を実行するプロセス中に量子レジスタ内の複数の関与イオンに適用されるレーザパルスのパラメータを計算するステップと、それぞれが決定された振幅を有するレーザパルスを生成するステップと、生成されたレーザパルスを、ゲート持続時間値に等しい時間の長さにわたって複数の関与イオンに適用することによって量子計算を実行するステップと、鎖内のトラップイオンのキュービット状態の集団を測定することによって、量子計算の結果を決定するステップと、キュービット状態の測定された集団に基づいて、デジタルコンピュータのプロセッサによって、量子計算の決定された結果を処理するステップと、を含む。パラメータを計算するステップは、デジタルコンピュータのプロセッサによって、ゲート持続時間値とトラップされたイオンの鎖の運動モードの周波数に関するデジタルコンピュータに記憶された情報に基づいてレーザパルスの振幅を決定することを含む。
【0007】
量子コンピューティングシステムは、トラップイオンの鎖であって、トラップイオンのそれぞれがキュービット状態と励起状態を定義する2つの超微細状態を有する、トラップイオンの鎖と、トラップイオンのそれぞれに提供される2つ以上の非共伝搬レーザビームに分割されるレーザビームを放出するように構成された1つ以上のレーザと、コントローラと、を含み、コントローラは、トラップイオンの鎖内の複数の関与イオンに個別に適用されるゲート持続時間値およびパルスの離調周波数を選択して、複数の関与イオン間の複数のペアイオンを、1つ以上の所定のもつれ相互作用値によって、同時にもつれさせるステップと、選択されたゲート持続時間値と、選択された離調周波数と、トラップイオンの鎖の運動モードの周波数に基づいて、パルスの振幅を決定するステップであって、振幅は、もつれるイオンの複数ペアのそれぞれの間のもつれ相互作用がゼロ以外であるという条件、もつれることのないイオンの各ペアの間で分離するという条件、及び選択されたゲート持続時間値の間に複数の関与イオンに提供される出力を最小化するという条件に基づいて導き出される、ステップと、決定された振幅及び離調周波数を備えるパルスを生成するステップと、生成されたパルスをゲート持続時間値の第一のイオンと第二のイオンに適用するステップと、を含む操作を実行させる。トラップイオンは、それぞれキュービットを定義する2つの周波数分離状態を有し、トラップイオンの鎖の運動モードは、それぞれ異なる周波数を有し、イオンの複数ペアの1つは、第一のイオン及び第二のイオンを備える。2つ以上の非共伝搬レーザビームは、励起状態を介して2つの超微細状態の間のトラップイオンのそれぞれのラビフロップを引き起こすように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しており、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【
図1】一実施形態に従うイオントラップ型量子コンピュータの部分図である。
【
図2】一実施形態に従って、イオンを鎖に閉じ込めるためのイオントラップの概略図を示す。
【
図3】
図3A、
図3B、及び
図3Cは、5つのトラップイオンの鎖のいくつかの概略的な集合横運動モード構造を示す。
【
図4】一実施形態に従って、トラップイオンの鎖内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
【
図5】ブロッホ球の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を示す。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、一実施形態に従って、各イオンの運動側波帯スペクトル及び運動モードの概略図を示す。
【
図7】一実施形態に従って、制御パラメータのセット(EASEプロトコル)を決定するための方法を示すフローチャートを示す。
【0009】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸、及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記なく、他の実装で有益に利用されてよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載の実施形態は、一般に、量子計算中にイオンの複数ペアに対してもつれ操作を同時に実行するためのパルスを設計、最適化、及び送達する方法及びシステムに関し、より具体的には、効率的な方法で構築でき、さらに、もつれゲート操作を実行するのに必要なレーザ出力を減らすことのできるパルスに関する。
【0011】
トラップイオンを使用して量子コンピューティングを実行できるシステム全体には、古典的コンピュータ、システムコントローラ、及び量子レジスタが含まれる。古典的コンピュータは、グラフィックス処理ユニット(GPU)などのユーザインターフェイスを使用して実行する量子アルゴリズムの選択、選択した量子アルゴリズムの一連のユニバーサル論理ゲートへのコンパイル、一連のユニバーサル論理ゲートを量子レジスタに印加するためのレーザパルスへの変換、中央処理ユニット(CPU)を使用してレーザパルスを最適化するパラメータの事前の計算などのサポート及びシステム制御タスクを実行する。量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するためのソフトウェアプログラムは、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに記憶されている。量子レジスタには、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンが含まれ、これらのハードウェアには、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するレーザや、トラップイオンの内部超微細状態(キュービット状態)を読み取る音響光学変調器が含まれる。システムコントローラは、古典的コンピュータから、量子レジスタで選択されたアルゴリズムの実行の開始時に出力最適パルスの事前計算されたパラメータを受け取り、量子レジスタで選択されたアルゴリズムを実行するために使用されるすべての側面の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み取り値を返し、こうして、アルゴリズムの実行の最後に、量子コンピューティングの結果を古典的コンピュータに出力する。
【0012】
本明細書に記載の方法及びシステムは、論理ゲートを量子レジスタに適用されるレーザパルスに変換するためのプロセスと、量子レジスタに適用され、量子コンピュータの性能を向上させるために使用されるレーザパルスを最適化するパラメータを事前計算するためのプロセスを含む。
【0013】
任意の量子アルゴリズムを分解することができるユニバーサル論理ゲートのいくつかの既知のセットのうち、一般的に{R,XX}と表記されるユニバーサル論理ゲートのセットは、本明細書に記載されているトラップイオンの量子コンピューティングシステムに固有のものである。ここで、Rゲートは、トラップイオンの個々の量子状態の操作に対応し、XXゲート(「もつれゲート」とも呼ぶ)は、2つのトラップイオンのもつれ操作に対応する。当業者にとって明らかであるように、Rゲートは、ほぼ完全な忠実度で実装できるが、XXゲートの形成は、複雑なので、XXゲートの忠実度を向上させ、量子コンピュータ内の計算の誤差を回避又は削減するためには、いくつかの要因を挙げれば、トラップイオンの所定のタイプと、トラップイオンの鎖内のイオンの数と、トラップイオンがトラップされるハードウェア及び環境との最適化が必要である。以下では、向上した忠実度を有するXXゲートの形成に基づいて計算を実行するために使用されるパルスを生成し,最適化する方法を説明する。
【0014】
量子コンピュータのサイズが大きくなるにつれて、量子計算を実行するために使用されるもつれゲート操作がますます複雑さになり、これらのもつれゲート操作を実行するために使用されるパルスもますます複雑になる。そのような複雑なパルスを実装するために必要なレーザ出力は、その後増加し、したがって、利用可能なレーザ出力は、実装できる量子コンピュータのサイズを制限する可能性がある。本開示で説明される方法及びシステムは、パルスの構築を単純化し、パルスを実装するのに必要なレーザ出力をさらに低減して、量子コンピュータをより大きなサイズにスケールアップして、より複雑な計算操作を実行できるようにする。これは、所与の出力バジェットに対して、もつれゲートの実行が高速であることを意味する。提供されるレーザ出力に比例する誤差は、必要なレーザ出力が小さいほど減少する。
【0015】
(一般的なハードウェア構成)
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピュータ又はシステム100の部分図である。システム100は、古典的コンピュータ101と、システムコントローラ118と、Z軸に沿って延びる、トラップイオン(例えば、5つを示す)の鎖102である量子レジスタとを含む。古典的コンピュータ101は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ、及びサポート回路(及びI/O)を含む。メモリは、CPUに接続されており、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク、及びその他の形式のデジタルストレージなどで、ローカル及びリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ及び複数であり得る。ソフトウェア命令、アルゴリズム、及びデータは、CPUに命令するために符号化され、メモリ内に記憶される。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続されている。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含み得る。
【0016】
例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ104は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)106にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ108からの非共伝搬ラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ110は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)114を使用して個別に切り替えられる静的ラマンビーム112のアレイを作成し、かつ個々のイオンに選択的に作用するように構成される。グローバルラマンレーザビーム116は、すべてのイオンを一度に照射する。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)118は、AOM114を制御する。システムコントローラ118は、中央処理ユニット(CPU)120、読み取り専用メモリ(ROM)122、ランダムアクセスメモリ(RAM)124、記憶ユニット126などを含む。CPU120は、RFコントローラ118のプロセッサである。ROM122は、様々なプログラムを記憶し、RAM124は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。記憶ユニット126は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU120、ROM122、RAM124、及び記憶ユニット126は、バス128を介して相互接続されている。RFコントローラ118は、ROM122又は記憶ユニット126に記憶され、RAM124を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、データの受信、分析、及び本明細書で説明されたイオントラップ型量子コンピュータシステム100を作成するために使用される方法及びハードウェアの全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためにプロセッサによって実行することができるプログラムコード(例えば、命令)を含む1つ以上のソフトウェアアプリケーションを含む。
【0017】
図2は、一実施形態に係る、鎖102内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧V
Sがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」又は「長手方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖102内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のために、軸方向にほぼ均等に分布している。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206、及び208を含む。
【0018】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧V1は、対向する一対の電極202、204に印加され、正弦波電圧V1から180°の位相シフト(及び振幅VRF/2を有する正弦波電圧V2は、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する一対の電極202、204のみに印加され、対向する他対の206、208は、接地される。四重極電位は、トラップされた各イオンに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」又は「横方向」とも呼ばれる)に有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(すなわち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(すなわち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞれ以下でより詳細に説明されるようなばね定数kxとkyによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、これら及び他の外部の歪みの原因により、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0019】
(トラップイオン構成及びキュービット情報)
図3A、
図3B、及び
図3Cは、例えば、5つのトラップイオンの鎖102のいくつかの概略的な集合横運動モード構造(単に「運動モード構造」とも呼ばれる)を示す。本明細書では、エンドキャップ電極210及び212に印加された静的電圧V
Sによる閉じ込め電位は、半径方向の閉じ込め電位と比較して弱い。トラップイオンの鎖102の横方向の集合運動モードは、イオントラップ200によって生成された閉じ込め電位とトラップイオン間のクーロン相互作用との組み合わせによって決定される。トラップイオンは、集合横方向運動(「集合横運動モード」、「集合運動モード」、又は単に「運動モード」と呼ばれる)を起こし、各モードには、それに関連する異なるエネルギー(及び同等に、周波数)がある。以下では、エネルギーがp番目に低い運動モードを│n
ph>
pと呼び、ここで、n
phは、運動モードの運動量子の数(エネルギー励起の単位で、フォノンと呼ばれる)を表し、所定の横方向の運動モードの数Pは、鎖102内のトラップイオンの数Nに等しい。
図3A~
図3Cは、鎖102内に配置された5つのトラップイオンによって経験され得る異なるタイプの集合横運動モードの例を概略的に説明する。
図3Aは、最も高いエネルギーを有する一般的な運動モード│n
ph>
Pの概略図であり、ここで、Pは、運動モードの数である。一般的な運動モード│n>
pでは、すべてのイオンは、横方向に同位相で振動する。
図3Bは、2番目に高いエネルギーを有する傾斜運動モード│n
ph>
P-1の概略図である。傾斜運動モードでは、両端のイオンは、横方向に位相がずれて(すなわち、反対方向に)移動する。
図3Cは、傾斜運動モード│n
ph>
P-1よりもエネルギーが低く、イオンがより複雑なモードパターンで移動する高次運動モード│n
ph>
P-3の概略図である。
【0020】
なお、上記特定の構成は、本開示のイオンを閉じ込めるトラップのいくつかの可能な例のうちの1つに過ぎず、本開示によるトラップの可能な構成、仕様などを限定するものではない。例えば、電極の形状は、上記双曲線電極に限定されない。他の例では、調和振動として半径方向にイオンの運動を引き起こす実効電界を生成するトラップは、複数の電極層が積層され、対角線上にある2つの電極にRF電圧が印加される多層トラップでも、あるいは全ての電極がチップ上の単一平面に配置されている表面トラップであってよい。さらに、トラップは、複数のセグメントに分割することができ、その隣接するペアが1つ以上のイオンを往復させてリンクすることも、あるいは光子相互接続によって結合することもできる。トラップは、また、微細加工されたイオントラップチップ上に互いに近接して配置された個々のトラップ領域のアレイであってよい。いくつかの実施形態では、四重極電位は、上記RF成分に加えて、空間的に変化するDC成分を有する。
【0021】
図4は、一実施形態に係る、トラップイオンの鎖102内の各イオンの概略エネルギー
図400を示す。一例では、各イオンは、ω
01/2π=12.642821GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する
2S
1/2超微細状態(すなわち、2つの電子状態)を有する正のイッテルビウムイオン
171Yb
+であってよい。キュービットは、│0>と│1>で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(すなわち、
2S
1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が│0>を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「キュービット」という用語は、│0>と│1>を表すために交換可能に使用されることがある。各イオンは、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却方法で、フォノン励起なし(すなわち、n
ph=0)で任意の運動モードpの運動基底状態│0>
pの近くまで冷却し(すなわち、イオンの運動エネルギーが低下することができる)、次にキュービット状態が光ポンピングによって超微細基底状態│0>で準備することができる。ここで、│0>は、トラップイオンの個々のキュービット状態を表し、下付き文字pが付いた│0>
pは、トラップイオンの鎖102の運動モードpの運動基底状態を表す。
【0022】
各トラップイオンの個々のキュービット状態は、例えば、励起された
2P
1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザ(mode-locked laser)によって操作することができる。
図4に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で一対の非共伝搬レーザビーム(周波数ω
1を有する第一のレーザビームと周波数ω
2を有する第二のレーザビーム)に分割され、
図4で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω
0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω
1-ω
0eによって離調されてよい。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>との間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω
1-ω
2-ω
01(以下、±μで表され、μは正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、状態|1>と|e>の間でラビフロップが発生する単一光子ラビ周波数Ω
0e(t)とΩ
1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態│0>と│1>の間のラビフロップ(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω
0eΩ
1e/2Δに比例する強度(すなわち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω
0eとΩ
1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、キュービットの内部超微細状態(キュービット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」又は単に「パルス」と呼ばれてよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」又は単に「パルス」と呼ばれてよく、それらは、以下で図示され、さらに説明される。離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれてよい。第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれてよい。
【0023】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示のイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be+、Ca+、Sr+、Mg+、及びBa+)又は遷移金属イオン(Zn+、Hg+、Cd+)を含む。
【0024】
図5は、方位角φ及び極性角θを有するブロッホ球500の表面上の点として表されるイオンのキュービット状態を視覚化するのを助けるために提供される。上記のように、複合パルスを適用すると、キュービット状態│0>(ブロッホ球の北極として表される)と│1>(ブロッホ球の南極として表される)との間でラビフロップが発生する。複合パルスの持続時間と振幅を調整すると、キュービット状態を│0>から│1>に(すなわち、ブロッホ球の北極から南極へ)反転させるか、あるいはキュービット状態│1>から│0>に(すなわち、ブロッホ球の南極から北極に)反転させる。複合パルスのこの適用は、「πパルス」と呼ばれる。さらに、複合パルスの持続時間と振幅を調整することにより、キュービット状態│0>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、同位相で均等に重み付けされた重ね合わせ状態│0>+│1>(重ね合わせ状態の正規化係数は、一般性を失うことなく、以下省略される)に変換することができ、そして、キュービット状態│1>を、2つのキュービット状態│0>と│1>が加算され、均等に重み付けされているが、位相がずれる重ね合わせ状態│0>-│1>に変換することができる。複合パルスのこの適用は、「π/2パルス」と呼ばれる。より一般的には、加算されて均等に重み付けされた2つのキュービット状態│0>と│1>の重ね合わせは、ブロッホ球の赤道上にある点によって表される。例えば、重ね合わせ状態│0>±│1>は、方位角φがそれぞれゼロとπである赤道上の点に対応する。方位角φの赤道上の点に対応する重ね合わせ状態は、│0>+e
iφ│1>(例えば、φ=±π/2の場合は│0>±i│1>である)として表される。赤道上の2点間の変換(すなわち、ブロッホ球のZ軸の周りの回転)は、複合パルスの位相をシフトすることで実装できる。
【0025】
イオントラップ型量子コンピュータでは、運動モードは、2つのキュービット間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、XXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのキュービットのそれぞれが運動モードともつれて、そして、以下に説明するように、もつれは、運動側波帯励起を使用することによって、2つのキュービット間のもつれに転送される。
図6A及び
図6Bは、一実施形態に係る、周波数ω
pを有する運動モード│n
ph>
pでの鎖102内のイオンの運動側波帯スペクトルの図を概略的に示す。
図6Bに示すように、複合パルスの離調周波数がゼロの場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差がキャリア周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=0に調整される場合)、キュービット状態│0>と│1>の間で単純なラビフロップ(キャリア遷移)が発生する。複合パルスの離調周波数が正の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、キャリア周波数よりも高く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=μ>0、青側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pと│1>│n
ph+1>
pの間でラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>が│1>に反転する場合、│n
ph>
pで表されるn
ph-フォノン励起を伴うp番目の運動モードから│n
ph+1>
pで表されるn
ph+1-フォノン励起を伴うp番目の運動モードへの遷移が発生する)。複合パルスの離調周波数が負の場合(すなわち、第一と第二のレーザビーム間の周波数差が、運動モード│n
ph>
pの周波数ω
pによってキャリア周波数よりも低く調整されている場合、δ=ω
1-ω
2-ω
01=-μ<0、赤側波帯と呼ばれる)、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pと│1>│n
ph-1>
pの間のラビフロップが発生する(すなわち、キュービット状態│0>から│1>に反転する場合、運動モード│n
ph>
pから、フォノン励起が1つ少ない運動モード│n
ph-1>
pへの遷移が発生する)。キュービットに適用された青側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pを、│0>│n
ph>
pと│1>│n
ph+1>
pの重ね合わせに変換する。キュービットに適用された赤側波帯のπ/2パルスは、組み合わされたキュービット運動状態│0>│n
ph>
pを、│0>│n
ph>
pと│1>│n
ph-1>
pの重ね合わせに変換する。二光子ラビ周波数Ω(t)が離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01=±μと比較して小さい場合、青側波帯遷移又は赤側波帯遷移を選択的に駆動することができる。したがって、キュービットは、π/2パルスなどの適切なタイプのパルスを適用することにより、所望の運動モードでもつれることができ、その後、別のキュービットともつれることができ、2つのキュービット間のもつれをもたらす。イオントラップ型量子コンピュータでXXゲート操作を実行するには、キュービット間のもつれが必要である。
【0026】
上記のように、組み合わされたキュービット運動状態の変換を制御及び/又は指示することにより、2つのキュービット(i番目及びj番目のキュービット)に対してXXゲート操作を実行することができる。一般に、(最大もつれを有する)XXゲート操作は、2キュービット状態|0>
i|0>
j、|0>
i|1>
j、|1>
i|0>
j及び|1>
i|1>
jをそれぞれ次のように変換する。
【数1】
例えば、2つのキュービット(i番目とj番目のキュービット)が両方とも最初に超微細基底状態|0>(|0>
i|0>
jで表される)にあり、その後、青側波帯のπ/2パルスがi番目のキュービットに適用される場合、i番目のキュービットと運動モード|0>
i|n
ph>
pの組み合わせ状態は、|0>
i|n
ph>
pと|1>i|n
ph+1>
pの重ね合わせに変換されるため、2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、|0>
i|0>
j|n
ph>
pと|1>
i|0>
j|n
ph+1>
pの重ね合わせに変換される。赤側波帯のπ/2パルスがj番目のキュービットに適用される場合、j番目のキュービットと運動モード|0>
j|n
ph>
pの組み合わせ状態は、|0>
j|n
ph>
pと|1>
j|n
ph-1>
pの重ね合わせに変換されるため、組み合わせ状態|0>
j|n+1>
pは、|0>
j|n
ph+1>
pと|1>
j|n
ph>
pの重ね合わせに変換される。
【0027】
したがって、i番目のキュービットにπ/2青側波帯のパルスを適用し、j番目のキュービットにπ/2赤側波帯のパルスを適用すると、2つのキュービットと運動モード|0>i|0>j|nph>pの組み合わせ状態を|0>i|0>j|nph>pと|1>i|1>j|nph>pの重ね合わせに変換することができ、2つのキュービットは、今やもつれ状態にある。当業者にとって明らかであるように、フォノン励起の初期数nとは異なる数(すなわち、|1>i|0>j|nph+1>pと|0>i|1>j|nph-1>p)のフォノン励起を有する運動モードともつれる2キュービット状態は、十分に複雑なパルスシーケンスによって除去できるため、XXゲート操作後の2つのキュービットと運動モードの組み合わせ状態は、p番目の運動モードでのフォノン励起の初期数nphがXXゲート操作の終了時に変化しないので、もつれが解消された(disentangled)と考えてもよい。したがって、XXゲート操作の前後のキュービット状態は、一般に、運動モードを含まずに、以下で説明する。
【0028】
より一般的には、側波帯のパルスを持続時間τ(「ゲート持続時間」と呼ばれる)にわたって適用することによって変換され、振幅Ω
(m)及びΩ
(n)と離調周波数μとを有するm番目とn番目のキュービットの組み合わせ状態は、もつれ相互作用χ
(m,n)(τ)の観点から次のように記述することができる。
【数2】
ここで、
【数3】
であり、
【数4】
は、m番目のイオンと周波数ω
pを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータであり、Pは運動モードの数(鎖102内のイオンの数Nに等しい)である。
【0029】
(同時ゲートもつれ操作のためのパルスの構築)
上記の2つのキュービット間のもつれ相互作用を使用して、XXゲート操作を実行できる。XXゲート操作(XXゲート)は、単一キュービット操作(Rゲート)とともに、所望の計算プロセスを実行するように構成された量子コンピュータを構築するために使用できるユニバーサルゲート{R、XX}のセットを形成する。m番目とn番目のキュービット間でXXゲート操作を実行するには、条件χ(m,n)(τ)=θ(m,n)(0<θ(m,n)≦π/2)を満たすパルス(すなわち、もつれ相互作用χ(m,n)(τ)が所望の値θ(m,n)を有することで、もつれ相互作用がゼロ以外である条件と呼ばれる)が構築され、m番目とn番目のキュービットに適用される。上記のm番目とn番目のキュービットの結合状態の変換は、θ(m,n)=π/2のときに最大のもつれを伴うXXゲート操作に対応する。m番目とn番目のキュービットに適用されるパルスの振幅Ω(m)(t)と離調周波数μ(n)(t)とは、m番目とn番目のキュービットのゼロ以外の調整可能なもつれを保証して、m番目とn番目のキュービットで所望のXXゲート操作を実行するように調整できる制御パラメータである。
【0030】
たとえば、m番目とn番目のイオンのペア(単に(m,n)と呼ばれる)と,m’番目とn’番目のイオンのペア(単に(m’,n’)と呼ばれる)など、イオンの2ペアに対して同時にもつれゲート操作を実行するには、振幅Ω(m)(t)、Ω(n)(t)、Ω(m’)(t)、及びΩ(n’)(t)を有するパルスは、それぞれm番目、n番目、m’番目、及びn’番目のイオンに個別に適用される。パルスの振幅Ω(m)(t)、Ω(n)(t)、Ω(m’)(t)、及びΩ(n’)(t)が決定され、その結果、振幅Ω(m)(t)、Ω(n)(t)、Ω(m’)(t)、及びΩ(n’)(t)を有するパルスの適用の終了時に、もつれるイオンのペア(すなわち、(m,n)、(m’,n’))が互いに結合され、もつれることのないイオンのペア(すなわち、(m,m’)、(m,n’)、(n,m’)、(n,n’))は、互いに分離される。すなわち、もつれるペアの場合、もつれ相互作用がゼロ以外である条件χ(l,l’)(τ)=θ(l,l’)((l,l’)=(m,n)、(m’,n’))が満たされている必要があり、もつれることのないイオンのペアの場合、条件χ(l,l’)(τ)=0((l,l’)≠(m,n)、(m’,n’))(つまり、分離された各ペア間の全体的なもつれ相互作用がゼロ)が満たされる必要がある(分離の条件と呼ばれる)。
【0031】
同時もつれゲート操作は、イオンのペアの数がより多くても実行できる。これらのペアのすべてのイオン(つまり、それぞれが別のイオンともつれるイオン)は、同時もつれゲート操作では「関与イオン」又は「関与キュービット」と呼ばれる。同時もつれゲート操作における関与イオンの数は、以下で、NEASEとして記述する。NEASE個の関与イオンに対して同時もつれゲート操作を実行するために、それぞれ振幅Ω(m)(t)(m=1,2,…,NEASE)を有するパルスがm番目のイオンに個別に適用される。パルスの振幅Ω(m)(t)(m=1,2,…,NEASE)は、もつれるイオンのペア(l,l’)については、もつれ相互作用がゼロ以外であるという条件χ(l,l’)(τ)=θ(l,l’)(0<θ(l,l’)≦π/2)を満たすように、もつれることのないイオンのペア(l,l’)については、分離する条件χ(l,l’)(τ)=0を満たすように決定される。
【0032】
制御パラメータであるパルスの振幅Ω
(m)(t)は、パルスの照射によって運動モードが励起されたときに、それらの初期位置から変位している鎖102内のN個のトラップイオンのすべてが、初期位置に戻るという条件を満たさなければならない。重ね合わせ状態│0>±│1>のm番目のキュービットは、ゲート持続時間τの間にp番目の運動モードの励起により変位し、p番目の運動モードの位相空間(位置と運動量)の軌道
【数5】
に従う。軌道
【数6】
は、振幅Ω
(m)(t)とパルスの離調周波数μによって決定される。したがって、N個のトラップイオンの鎖102の場合、条件
【数7】
(つまり、軌道
【数8】
を閉じる必要がある)は、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件(又は位相空間軌道の閉鎖)とも呼ばれ、もつれ相互作用がゼロ以外であるという条件χ
(m,n)(τ)=θ
(m,n)(0<θ
(m,n)≦π/2)に加えて、P個(p=1,2,…,P)のすべての運動モードに対して課されなければならない。
【0033】
制御パラメータとしてのパルスΩ
(m)(t)(m=1,2,…,N
EASE)の振幅は、ゲート持続時間をN
seg個の等間隔のセグメント(k)に分割し(k=1,2,…,N
seg)、パルスΩ
(m)(t)の振幅を1つのセグメントから別のセグメントに変化させることによって、これらの条件が満たされるように決定される。セグメントkの間のパルスΩ
(m)(t)の振幅を
【数9】
とすると、トラップイオンをその元の位置と運動量値に戻すための条件は、以下:
【数10】
のように書き直すことができる。ここで、M
pkは、
【数11】
のように定義される。同様に、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件(たとえば、位相空間軌道の閉鎖)は、行列形式で
【数12】
と書くことができる。ここで、MはM
pkの2P×N
seg係数行列であり、
【数13】
は
【数14】
のN
seg振幅ベクトルである。セグメントの数N
segは、運動モードの数の2倍2Pより大きくなるように選択される。したがって、トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件を満たし、自明ではない(すなわち、振幅
【数15】
の少なくとも1つがゼロでない)振幅ベクトル
【数16】
は、N
0(=N
seg-2P)個ある。
【0034】
もつれ相互作用がゼロ以外であるという条件と、分離する条件は、以下:
【数17】
のように書き直すことができる。ここで、
【数18】
は、
【数19】
のように定義されるか、又は同等に、行列形式で、
【数20】
(mとnとがもつれる場合)、又は0(それ以外の場合)である。ここで、D
(m,n)は
【数21】
のN
seg×N
seg係数行列であり、
【数22】
は
【数23】
の転置ベクトルである。トラップされたイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件、及びもつれ相互作用が座炉以外であり、分離するという条件は、原則として、制御パラメータ
【数24】
に関して、二次制約付き二次計画法(QCQP)として知られる形式で記述できることに留意すべきである。一般に、QCQPは、非決定論的で困難な多項式時間(NP)問題であることが知られている(すなわち、少なくともNP問題と同じくらい困難である)。しかしながら、ここで説明する実施形態では、これらの条件はQCQPの特殊なケースを形成するため、困難なNP問題ではない形式に変換でき、その結果、N
EASE×N
seg個の制御パラメータのセット
【数25】
は、関与イオンの数N
EASEに関して多項式的に増加するオーバーヘッドで決定される。
N
EASE×N
seg個の制御パラメータのセット
【数26】
を決定するこの方法は、効率的な任意同時もつれ(EASE)プロトコルと呼ばれ、決定された振幅を有する振幅を有する振幅
【数27】
を有するパルスによって実行されるゲート操作は、以下でEASEゲートと呼ばれる。
【0035】
(EASEプロトコル及びEASEゲート)
図7は、一実施形態による、制御パラメータ
【数28】
のセット(EASEプロトコル)を決定するための方法700を示すフローチャートを示す。この例では、N個のトラップイオンの鎖102は量子レジスタであり、その中に、N個のトラップイオンのそれぞれの2つの超微細状態がキュービットを形成する。
【0036】
本明細書で説明する例では、所望の量子アルゴリズムは、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)(図示せず)などのユーザインターフェイスを使用することによって古典的コンピュータ(図示せず)によって選択され、古典的コンピュータ内のソフトウェアプログラムによる複数のキュービットのペアに対して、Rゲート操作(単一キュービット操作)と、XXゲート操作(もつれゲート操作又は2キュービット操作とも呼ばれる)とに分解される。すべてのもつれゲート操作の中で、選択されたキュービットのペア(合計でNEASE個の関与キュービット)に対するもつれゲート操作が同時に実行されるように決定され(EASEゲート)、選択されたキュービットのペア間でもつれを発生させ、EASEゲート操作を実行するために、NEASE個の関与キュービットに適用されるパルスシーケンスは、古典的コンピュータ内のソフトウェアプログラムによってさらに以下に説明されるように、方法700(EASEプロトコル)を使用して決定される。ソフトウェアプログラムによって決定されたパルスは、量子レジスタ内のNEASE個の関与キュービット(N個のトラップイオンの鎖)に適用され、システムコントローラによって制御される選択されたキュービットのペアに対してEASEゲート操作を実行する。
【0037】
EASEプロトコルの開始時に、NEASE個の関与キュービットのそれぞれは、最初に番号n(n=1,2,…,NEASE)でラベル付けされ、例えば、NEASE個の関与キュービットがN個のトラップイオンの鎖102内で整列される順序でラベル付けされる。NEASE個の関与キュービットは、最初に、任意の他の順序でラベル付けされてもよい。番号nでラベル付けされたキュービットは、以下ではn番目のキュービットと呼ばれることもある。
【0038】
ブロック702(前処理)では、NEASE個の関与キュービットは、互いに素なキュービットのセットにグループ化される。NEASE個の関与キュービットは再びラベル付けされ、その結果、各互いに素なセット内のキュービットが連続番号でラベル付けされ、各互いに素なセット内で一番目と二番目に小さい番号でラベル付けされたキュービット(互いに素なセットの第一と第二のキュービットと呼ばれる)は、もつれゲート操作が実行される選択されたペアの1つに対応するようになる。例えば、鎖102は、11個のトラップイオン(すなわち、最初に番号1~11でラベル付けされたキュービット)を有し得、もつれゲートは、キュービット(1,2)、(1,4)、(1,5)、(3,6)、及び(3,8)のペアに対して同時に実行され得る。次に、関与キュービットは、1~6及び8でラベル付けされたキュービットである。第一の互いに素なセットには、キュービット1、2、4、及び5が含まれ、第二の互いに素なセットには、キュービット3、6、及び8が含まれることがある。第一の互いに素なセットのキュービットは1~4で再びラベル付けされ、第二の互い素なセットのキュービットは5~7で再びラベル付けされる。
【0039】
n番目のキュービット(n=1,2,…,NEASE)に個別に適用される振幅Ω(n)(t)を有するパルスを構築するために、最初に、第一のキュービット(1とラベル付け)に適用される第一のパルスの振幅Ω(1)(t)と、第二のキュービット(2とラベル付け)に適用される第二のパルスの振幅Ω(2)(t)を決定する。決定した第一のパルスの振幅Ω(1)(t)と第二のパルスの振幅Ω(2)(t)に基づいて、第三のキュービット(3とラベル付け)に適用される第三のパルスの振幅Ω(3)(t)を決定する。次に、このプロセスは、NEASE番目のキュービット(NEASEとラベル付け)に適用されるNEASE番目のパルスの振幅Ω(NEASE)(t)を決定するまで続け、こうして、すべてのNEASE個の関与キュービットに適用されるパルスの振幅を決定する。
【0040】
ブロック704では、n番目のキュービット(n=1,2,…,NEASE)に適用されるn番目のパルスの振幅Ω(n)(t)を決定するための最初のステップとして、m(m=1,2,…,n-1)でラベル付けされたキュービットの中でn番目のキュービットと、もつれることのないキュービットは、(「もつれを解消されたキュービット」と呼ばれ、sでラベル付けされる)。つまり、n番目のキュービットとs番目のキュービット(s≦n-1)とは、もつれゲート操作が実行される選択されたペアのいずれにも対応していない。もつれを解消されたキュービットの数は、以下、Nsとして示す。
【0041】
ブロック706では、トラップイオンを元の位置と運動量値(
【数29】
)に戻すための条件を満たすN
0個の自明でない振幅のセット
【数30】
の中で、n番目のキュービットとs番目のもつれを解消されたキュービットの間で分離するための条件(
【数31】
)を満たす1つ以上の振幅
【数32】
のセットは、キュービットに適用されるs番目のパルスの振幅
【数33】
に基づいて、決定される。振幅
【数34】
は、以前の反復で定義又は決定される。トラップイオンを元の位置と運動量値に戻すための条件を満たす振幅のセット
【数35】
は、(N
0-(n-1))個あり、これらの振幅のセットを線形結合して、
【数36】
にすることができる。
【0042】
ブロック704及び706のn番目のキュービット(n=1,2,…,NEASE)に適用されるn番目のパルスの振幅Ω(n)(t)を決定するための最初のステップに続いて、すべてのm番目のキュービット(m=1,2,…,n-1)がn番目のキュービットから分離されている場合、プロセスはブロック708に進む。m番目のキュービットの一部(m=1,2,…,n-1)((n-1)番目のキュービットを含む)がn番目のキュービットに結合されており、m番目のキュービットの1つ(たとえば、(n-1)番目のキュービット)に適用されるパルスがまだ決定されていない場合、プロセスはブロック710に進む。この場合は、すべてのばらばらのセットの第二のキュービットに対して発生する。m番目のキュービット(m=1,2,…,n-1)の一部がn番目のキュービットに結合され、m番目のキュービットの全部に適用されるパルスが決定された場合、プロセスはブロック712に進む。
【0043】
ブロック708では、n番目のキュービットの振幅のセット
【数37】
を保存する。この場合、すべてのm番目のキュービット(m=1,2,…,n-1)がn番目のキュービットから分離される。プロセスは、ブロック704に戻り、(n+1)番目のキュービットに適用される(n+1)番目のパルスの振幅Ω
(n+1)を決定する。
【0044】
ブロック710では、(n-1)番目のキュービットに適用される(n-1)番目のパルスの振幅Ω
(n-1)(t)は決定されていない。したがって、n番目の反復のブロック706で決定された振幅
【数38】
のセットの線形結合
【数39】
と、同様に、(n-1)番目のキュービットの前の反復のブロック706で決定された振幅
【数40】
のセットの線形結合
【数41】
とを計算し(すなわち、係数
【数42】
及び
【数43】
を決定する)、その結果、n番目と(n-1)番目のキュービット間のもつれ相互作用がゼロ以外であるという条件(
【数44】
)が満たされ、結果として生じるn番目と(n-1)番目のパルスの強度は、ゲート持続時間τにわたって平均化され、
【数45】
及び
【数46】
は最小化される。上述のn番目と(n-1)番目のパルスは、出力が最適になるように構成される(すなわち、必要なレーザ出力が最小化される)。プロセスは、ブロック704に戻り、(n+1)番目のキュービットに適用される(n+1)番目のパルスの振幅Ω
(n+1)を決定する。
【0045】
ブロック712では、ブロック706で決定された振幅
【数46】
のセットの線形結合
【数47】
を計算して(すなわち、係数
【数48】
を決定する)、その結果、n番目とm番目(m=1,2,….n-1)のキュービット間のもつれ相互作用がゼロ以外であるという条件(n番目とm番目のキュービットがもつれている場合、
【数49】
、その他の場合、0)が満たされ、結果として生じる、ゲート持続時間τにわたって平均化されたn番目のパルスの強度
【数50】
は最小化される。上述の(n-1)番目のパルスは、出力が最適になるように構成される(すなわち、必要なレーザ出力が最小化される)。プロセスは、ブロック704に戻り、(n+1)番目のキュービットに適用される(n+1)番目のパルスの振幅Ω
(n+1)を決定する。
【0046】
すべてのNEASE個の関与キュービットのパルスが構築されると、プロセスは終了する。
【0047】
上記のように構築されたパルスを関与キュービットに適用することは、選択された量子アルゴリズムが分解される一連のユニバーサルゲート{R、XX}操作の中で、関与キュービットのペアに、もつれゲート操作(XXゲート操作)を実装する。一連のユニバーサルゲート{R、XX}操作のすべてのXXゲート操作(XXゲート)は、選択された量子アルゴリズムを実行するために、単一キュービット操作(Rゲート)とともに上記の方法700によって実装され、これは、古典的コンピュータによって定義され、実装される。選択された量子アルゴリズムの実行の最後に、量子レジスタ(トラップイオンの鎖102)内のキュービット状態(トラップイオン)の集団が、イメージング対物レンズ104で得られた測定によって決定(読み出し)され、PMT106にマッピングされる。こうして、選択された量子アルゴリズム内の量子コンピューティングの結果を決定し、古典的コンピュータ(例えば、デジタルコンピュータ)への入力として提供できるようにする。次に、量子コンピューティングの結果を古典的コンピュータで処理することで、所望のアクティビティを実行したり、古典的コンピュータだけでは通常は解明できず、妥当な時間内に解明できない問題の解決策を取得したりすることができる。今日の従来のコンピュータ(すなわち、古典的コンピュータ)によって手に負えない、及び解明できないことが知られているが、実行された量子コンピューティングから得られた結果を使用することによって解決できる問題には、複雑な分子及び材料の内部化学構造のシミュレーションと、大きな整数の因数分解とが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
EASEゲートを実装するための上記の詳細な方法は完全に線形であるため、EASEプロトコルは、XXゲートを実装するパルスを解決する任意の線形アプローチに使用できる。たとえば、(「トラップイオン型量子コンピュータ用の振幅、周波数、及び位相変調もつれゲート」と題する)米国暫定出願第62/851,280号に記載されている線形の出力最適パルス構築方法は、参照により本明細書に組み込まれるが、この方法は、EASEプロトコルに従って使用すると、複数のXXゲートを同時に実装する振幅変調パルスと周波数変調パルスを同時に生成でき、これは、上記で使用及び説明した振幅変調方法と比較することができる。
【0049】
本明細書に記載のEASEプロトコルは、効率的な方法で、エラー又は近似なしに、キュービットの複数ペアに対して、同時もつれゲート操作を実行するためのパルスを決定することができる。すなわち、時間セグメントの数など、パルスを決定するためのオーバーヘッドは、関与キュービットの数に対して直線的に増加するだけである。これは、関与キュービットの数が増えるにつれて指数関数的に増加するオーバーヘッドを必要とする、以前に提案された非線形で近似的な方法とは対照的である。さらに、EASEプロトコルによって構築されたパルスは、単一のXXゲート操作に使用する場合に最適であり、振幅変調を使用して所望のもつれを実現する場合に、ゲート操作を実行するために必要なレーザ出力が最小になる。したがって、量子コンピュータは、パルスを実装するためのレーザ出力やパルスを決定するための計算リソースなどの利用可能なリソースを使用して、より高速な実行速度で、より大きなサイズにスケールアップできる。
【0050】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。