(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】JWA遺伝子活性化およびHER2分解に基づく抗腫瘍化合物、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07D 277/82 20060101AFI20230803BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230803BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20230803BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
C07D277/82 CSP
A61P35/00
A61K31/428
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2022508459
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 CN2019110428
(87)【国際公開番号】W WO2021027045
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】201910739357.4
(32)【優先日】2019-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522052107
【氏名又は名称】先声▲薬▼▲業▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SIMCERE PHARMACEUTICAL CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】周建▲偉▼
(72)【発明者】
【氏名】任彦霖
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼冬寅
(72)【発明者】
【氏名】黄叶▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】李▲愛▼萍
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107828(JP,A)
【文献】REGISTRY(STN)[online],検索日2023年3月8日:2009.07.31 RN:1170955-20-0, 2005.09.13 RN:862974-32-1, 2005.09.13 RN:862974-31-0, 2019.06.10 RN:2327864-42-4, 2009.07.29 RN:1170178-38-7, 2005.09.13 RN:862974-41-2
【文献】Adv. Synth. Catal.,2013年,355,3263-3272
【文献】Bioorg. Med. Chem. Lett.,2012年,22,453-455
【文献】Der Pharma Chemica,2010年,2(5),281-293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 277/82
A61P 35/00
A61K 31/428
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式I:
【化1】
(式中、R
1は、OH、CH
3、CH
2CH
3、OCH
3、およびOCH
2CH
3からなる群から選ばれ、
R
2は、H、OH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、OCH
3、およびOCH
2CH
2CH
3からなる群から選ばれ、
R
3は、F、Cl、Br、I、およびCF
3からなる群から選ばれ、
R
4は、H、F、Cl、Br、I、およびCF
3からなる群から選ばれ、
R
5は、H、CH
3、およびCH
2CH
3からなる群から選ばれる。)で表される
化合物である、JWA遺伝子活性化およびHER2分解に基づく抗腫瘍化合物
(ただし以下の化合物を除く:
【化2】
【請求項2】
R
1はOCH
3であり、R
2はHまたはOCH
3であり、R
3はFまたはCF
3であり、R
4はHまたはFであり、R
5はHであることを特徴とする、請求項1に記載の抗腫瘍化合物。
【請求項3】
前記式Iの化合物
は、
4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン
、
4-メトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,7-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン
、
4,7-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、および
4,6-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンからなる群から選ばれる1つの化合物であり、
それぞれの構造式は
、
【化3】
であることを特徴とする、
請求項1に記載の抗腫瘍化合物。
【請求項4】
次のステップを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗腫瘍化合物の製造方法。
【化4】
(式中、Xは、Cl、Br、およびIからなる群から選ばれる1つであり、前記銅塩は、酸化第二銅、酸化第一銅、塩化第二銅、塩化第一銅、臭化第二銅、臭化第一銅、またはヨウ化第一銅であり、前記アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、カリウムtert-ブトキシド、または水素化ナトリウムであり、前記溶媒は、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、またはN,N-ジメチルホルムアミドであり、前記加熱の温度は80~120℃である。)
【請求項5】
前記XはClであり、前記銅塩はヨウ化第一銅であり、前記アルカリは炭酸カリウムであり、前記溶媒はジメチルスルホキシドであり、前記加熱の温度は100℃であることを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗腫瘍化合物の薬用塩。
【請求項7】
前記薬用塩は、式Iの化合物と、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、フマル酸またはリンゴ酸との塩であることを特徴とする、請求項6に記載の薬用塩。
【請求項8】
次の式I:
【化5】
(式中、R
1
は、OH、CH
3
、CH
2
CH
3
、OCH
3
、およびOCH
2
CH
3
からなる群から選ばれ、
R
2
は、H、OH、CH
3
、CH
2
CH
3
、CH
2
CH
2
CH
3
、OCH
3
、およびOCH
2
CH
2
CH
3
からなる群から選ばれ、
R
3
は、F、Cl、Br、I、およびCF
3
からなる群から選ばれ、
R
4
は、H、F、Cl、Br、I、およびCF
3
からなる群から選ばれ、
R
5
は、H、CH
3
、およびCH
2
CH
3
からなる群から選ばれる。)で表される化合物又は式Iで表される化合物の薬用塩
を含有する、医薬組成物。
【請求項9】
R
1
はOCH
3
であり、R
2
はHまたはOCH
3
であり、R
3
はFまたはCF
3
であり、R
4
はHまたはFであり、R
5
はHである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記化合物は、
4-フルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,6-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4-メトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,7-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,6-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,7-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン及び
4,6-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン
(それぞれの構造式は、
【化6】
である)
並びに
それらの薬用塩
から選ばれる1つの化合物であることを特徴とする、
請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
次の式I:
【化7】
(式中、R
1
は、OH、CH
3
、CH
2
CH
3
、OCH
3
、およびOCH
2
CH
3
からなる群から選ばれ、
R
2
は、H、OH、CH
3
、CH
2
CH
3
、CH
2
CH
2
CH
3
、OCH
3
、およびOCH
2
CH
2
CH
3
からなる群から選ばれ、
R
3
は、F、Cl、Br、I、およびCF
3
からなる群から選ばれ、
R
4
は、H、F、Cl、Br、I、およびCF
3
からなる群から選ばれ、
R
5
は、H、CH
3
、およびCH
2
CH
3
からなる群から選ばれる。)で表される化合物又は式Iで表される化合物の薬用塩
を含有する、腫瘍を治療するための医薬組成物。
【請求項12】
R
1
はOCH
3
であり、R
2
はHまたはOCH
3
であり、R
3
はFまたはCF
3
であり、R
4
はHまたはFであり、R
5
はHである、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記化合物は、
4-フルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,6-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4-メトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,7-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,6-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、
4,7-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン及び
4,6-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン
(それぞれの構造式は、
【化8】
である)
並びに
それらの薬用塩
から選ばれる1つの化合物であることを特徴とする、
請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記腫瘍は、JWA遺伝子の低発現と、HER2の過剰発現とに関連する腫瘍であり、前記腫瘍は乳癌、胃癌、肺癌、グリオーマを含み、前記
医薬組成物は、JWAタンパク質の発現を活性化させた後、HER2タンパク質を分解することにより
前記腫瘍を阻害する、請求項11~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍薬の分野に属し、JWA遺伝子活性化およびHER2分解に基づいて抗腫瘍作用を発揮する抗腫瘍化合物に関すると共に、該抗腫瘍化合物の製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍(癌)は中国人の健康を深刻に脅かす重大な公衆衛生上の問題である。中国国家癌センターが2019年に発表した統計データによると、悪性腫瘍による死亡は住民の全死因の23.91%を占め、かつここ十数年の悪性腫瘍の発病・死亡はいずれも持続的な上昇傾向を示しており、悪性腫瘍による医療費は毎年2200億元(RMB)を超え、予防・制御の情勢は厳しい。過去のデータと比べると、癌による負担は持続的な上昇傾向にある。最近10数年来、悪性腫瘍の発病率は毎年約3.9%の増加率を維持し、死亡率は毎年2.5%の増加率を維持している。肺癌、肝臓癌、上消化器系腫瘍および結腸直腸癌、女性乳癌などは中国の主要な悪性腫瘍である。男性では肺癌が第1位、女性では乳癌が第1位である。年齢分布から見ると、悪性腫瘍の発病は年齢の増加に従って上昇し、40歳以下の青年群の中で悪性腫瘍の発病率は低いレベルにあり、40歳以降から急速に上昇し始め、発病人数分布は主に60歳以上に集中し、80歳の年齢群にピークに達し、異なる悪性腫瘍の年齢分布には差異がある。過去10数年の間に、悪性腫瘍の生存率は徐々に上昇する傾向を示し、現在中国では悪性腫瘍の5年の相対生存率は約40.5%であり、10年前と比べて約10%上昇したが、先進国とはまだ大きな差がある。悪性腫瘍の発病には性差が存在し、男性で発病する第1位のものは肺癌で、毎年の新発病例は約52.0万であり、その他の高発病の悪性腫瘍は順に胃癌、肝臓癌、結腸直腸癌や食道癌などであり、上位10位の悪性腫瘍の発病は、男性全ての悪性腫瘍の発病の約82.20%を占めている。女性で発病する第1位のものは乳癌で、毎年発病は約30.4万であり、その他の主な高発病の悪性腫瘍は順に肺癌、結腸直腸癌、甲状腺癌や胃癌などであり、女性では最初の10位の悪性腫瘍の発病は女性のすべての悪性腫瘍の発病の約79.10%を占めている。
【0003】
1985年にヒト上皮成長因子受容体2(ERBB2またはHER2)を同定して以来、ヒトERBB2(HER2)癌遺伝子の腫瘍学、特に乳癌(BC)における相関性はずっと注目されてきた。この遺伝子は185-kD膜貫通型ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)をコードし、HER1(またはEGFR)、HER3やHER4などの受容体ファミリーに属する。これらのチロシンキナーゼドメインの活性化は、通常、特定のリガンドによって誘導されるホモ二量体およびヘテロ二量体によって達成される。いったん活性化すると、ファミリー受容体を介した細胞シグナル伝達が細胞の増殖と生存につながる。HER2の活性化機序は他の分子と異なり、特定の成長因子リガンドを欠いており、リガンド活性化の条件と同様に、固定化されたコンフォメーションによって活性化される。この特性により、HER2はこのファミリーの他のレセプターの第一選択ヘテロ二量体シャペロン分子となる。
【0004】
HER2陽性乳癌(HER2+BC)は全BCsの15~20%を占める。過去20年間に、HER2に対するモノクローナル抗体(MoAbs)、チロシンキナーゼ阻害剤(TKIs)、および抗体-薬物結合体(adc)の発明および使用は、患者の予後を著しく改善した。しかしながら、標的治療に反応したのは、HER2陽性の患者の約50%に過ぎず、HER2+転移性BC(mBC)に対したのはほとんど無効である。大部分の治療失敗の原因は、抗HER2治療の原発性または獲得性薬剤耐性である。近年、HER2と結合する薬物の損傷、HER2と平行あるいは下流のシグナル経路の構成的活性化、代謝リプログラミングや免疫系活性の低下など、様々な薬物耐性機序が発見されている。そのため、HER2陽性の患者にとって、HER2過剰発現タンパク質を分解する治療方法を探すことは現在の急務となっている。
【0005】
本特許出願の発明者となる周建偉氏は、研究チームを率いて過去20年以上にわたり、彼自身が発見し命名したJWA(別名ARL6IP5)遺伝子の構造と機能、特にこの遺伝子と人類の重大な疾患との関係を重点として模索しており、一連の研究成果を遂げている。JWA遺伝子は細胞分化の調節に参与する重要な分子であること(Chinese Sci Bull, 2001; Chinese Sci Bull, 2002; Biochem Biophys Res Commu, 2006)、JWAタンパク質は細胞骨格結合タンパク質であり、細胞骨格の組み立てと細胞遊走を調節する機能があること(Chinese Sci Bull, 2003; Chinese Sci Bull. 2004; Cell Signal. 2007)、JWAは生体組織の正常な細胞の活発な環境応答遺伝子とDNA修復タンパク質であること(J Biomed Sci, 2005; Free Radic Biol Med, 2007; Nucleic Acids Res, 2009)、JWA遺伝子の発現レベルは胃癌、黒色腫、食道癌、肝臓癌などの多くの癌組織において発現レベルがその癌周辺の正常組織より明らかに低いこと、癌組織でのJWA発現レベルと患者の生存期間は正の相関があること(Oncogene, 2010; Clin Cancer Res, 2012; J Gastroenterol, 2013; Carcinogenesis, 2013; Carcinogenesis, 2014)、シスプラチン耐性に対する研究において、シスプラチン耐性胃癌細胞のJWA発現レベルを高めることは、CK2活性を阻害することによってDNA修復タンパク質XRCC1のリン酸化レベルと胃癌細胞のシスプラチンに対する耐性を阻害することができ、このような癌細胞のシスプラチンに対する感受性を回復させることができること(Cell Death Dis, 2014)を相次いで発見した。近年、胃癌細胞においてJWAは転写と翻訳後のユビキチン化修飾機序を通じてHER2の発現レベルを阻害できることが発見され、この機序はJWAが胃癌細胞の悪性表現型を阻害することと関係がある(Oncotarget, 2016a, 2016b)。以上のように、JWA遺伝子は多種の異なる分子機序を介してマルチターゲットに作用して癌阻害遺伝子の作用を発揮することができる。
【0006】
また、この一連の研究成果に基づいて、本出願の発明者は、特許出願番号CN98111422.9、授権公告番号CN1065876C、発明名称『細胞骨格様遺伝子のコードタンパク質特異性抗体』である発明、特許出願番号CN201310178099.X、授権公告番号CN103239710B、発明名称が『抗腫瘍活性を有するポリペプチドおよびその使用』である発明、特許出願番号CN201610164491.2、授権公告番号CN105820230B、発明名称が『抗腫瘍活性ポリペプチドおよびその使用』である発明、特許出願番号CN201610857409.4、授権公告番号CN106632299B、発明名称が『抗腫瘍化合物、その製造方法およびその使用』である発明を含む複数発明の特許を出願して授権された。
【発明の概要】
【0007】
本発明の主な目的は、従来技術に基づいて、発明者の最新の研究成果に従って、JWA遺伝子の発現を活性化させた後にE3ユビキチン化酵素をカスケード活性化するなどの機序によりHER2を特異的に分解することで、HER2過剰発現悪性腫瘍の阻害または治療作用を実現することができる、JWA遺伝子活性化およびHER2分解に基づく抗腫瘍化合物を提供することである。また、本発明は、該化合物の製造方法および使用を提供する。
【0008】
本発明の主な技術的思想は以下の通りである。発明者は、これまでの一連の研究成果によれば、JWAが顕著な癌阻害遺伝子の生物学的機能を有することを示し、また多くのヒト悪性腫瘍の発生及び発展の実験的関与モデルにおいて検証した。多数の悪性腫瘍組織細胞中のJWAタンパク質の発現レベルは癌周辺の正常組織より有意に低く、JWAタンパク質はまたHER2の過剰発現を阻害する作用がある。このため、本発明者は、JWA遺伝子のプロモーター調節領域を含むレポーター遺伝子細胞モデルを設計、構築し、ハイスループットスクリーニングにより、JWA遺伝子の発現を活性化される小分子化合物を見出し、仮に所望な小分子化合物が得られた場合、HER2高発現の癌細胞においてその潜在的な抗腫瘍生物学効果が検証される。
【0009】
発明者の課題研究グループは、これを主な技術的思想とし、中国国家化合物ライブラリー等の機関と協力してハイスループットスクリーニングを実施し、いくつかのスクリーニングされたリード化合物を基礎とし、目標とする化合物分子構造の修飾をさらに行い、一連のジベンゾチアゾールアミン類化合物を合成し、さらに多種の細胞モデルと動物モデルを用いて研究・検証したところ、このシリーズの化合物が細胞とマウスの体内組織器官のJWA遺伝子発現を効果的に活性化できることを見出した。
【0010】
本発明に係る抗腫瘍化合物は、以下の通りである。
次の式I:
【化1】
(式中、R
1は、OH、CH
3、CH
2CH
3、OCH
3、およびOCH
2CH
3からなる群から選ばれ、
R
2は、H、OH、CH
3、CH
2CH
3、CH
2CH
2CH
3、OCH
3、およびOCH
2CH
2CH
3からなる群から選ばれ、
R
3は、F、Cl、Br、I、およびCF
3からなる群から選ばれ、
R
4は、H、F、Cl、Br、I、およびCF
3からなる群から選ばれ、
R
5は、H、CH
3、およびCH
2CH
3からなる群から選ばれる。)で表される式Iの化合物である、JWA遺伝子活性化およびHER2分解に基づく抗腫瘍化合物。
このような化合物は、ジベンゾチアゾールアミン類化合物である。
好ましくは、R
1はOCH
3であり、R
2はHまたはOCH
3であり、R
3はFまたはCF
3であり、R
4はHまたはFであり、R
5はHである。
【0011】
好ましくは、前記式Iの化合物は、
4-フルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、4,6-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、4-メトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,7-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,6-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、4,7-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミン、および4,6-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンからなる群から選ばれる1つの化合物であり、
【0012】
【0013】
実験により、上記抗腫瘍化合物は細胞とマウス体内の組織器官のJWA遺伝子の発現を効果的に活性化できることが検証された。特に、発明者の研究グループは、上記抗腫瘍化合物がE3ユビキチン化酵素等をカスケード活性化するなどの機序により腫瘍細胞において過剰発現したHER2タンパク質を特異的に分解し、腫瘍細胞の増殖、成長等を阻害する機能を有することを明らかにした。また、HER2を過剰発現したヒト乳癌細胞皮下担癌ヌードマウスモデルにおいて、上記抗腫瘍化合物の代表的な化合物の顕著な腫瘍阻害効果を検証し、特に、この代表的な化合物は、顕著な腫瘍阻害効果を発揮しながら、マウスの心臓、肝臓、腎臓などの主要臓器の機能に対する一定の保護作用を示す(詳細は以下の具体的な実施例を参照)。
【0014】
また、本発明は以下のステップを含むことを特徴とする本発明の抗腫瘍化合物の製造方法を提供する。
【化3】
[式中、Xは、Cl、Br、およびIからなる群から選ばれる1つであり、前記銅塩は、酸化第二銅、酸化第一銅、塩化第二銅、塩化第一銅、臭化第二銅、臭化第一銅、またはヨウ化第一銅であり、前記アルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、カリウムtert-ブトキシド、または水素化ナトリウムであり、前記溶媒は、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、またはN,N-ジメチルホルムアミドであり、前記加熱の温度は80~120℃である。(注:R
1、R
2、R
3、R
4、およびR
5の限定は前記の通りであり、ここでは詳しく説明しない。)]
好ましくは、XはClであり、前記銅塩はヨウ化第一銅であり、前記アルカリは炭酸カリウムであり、前記溶媒はジメチルスルホキシドであり、前記加熱の温度は100℃である。
【0015】
また、本発明は、前記抗腫瘍化合物の薬用塩を提供する。
好ましくは、前記薬用塩は、式Iの化合物と、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、フマル酸またはリンゴ酸との塩である。
【0016】
また、本発明は、前記抗腫瘍化合物または前記薬用塩を含有する医薬組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記抗腫瘍化合物、または前記薬用塩、または前記記医薬組成物の、JWA遺伝子活性化剤または抗腫瘍薬の製造における使用を提供する。
【0018】
好ましくは、前記腫瘍は、JWA遺伝子の低発現およびHER2の過剰発現に関連する腫瘍であり、乳癌、胃癌、肺癌、グリオーマなどを含み、前記抗腫瘍薬は、JWAタンパク質の発現を活性化させた後、HER2タンパク質を分解することにより抗腫瘍作用を発揮する医薬品である。
【0019】
さらに、上記の抗腫瘍化合物、薬用塩、医薬組成物の具体的な剤形については、従来技術に基づいて実際の必要に応じて選択することができ、例えば、錠剤、散剤、丸剤、カプセル剤、坐剤、顆粒剤、懸濁剤、内服液、注射剤等の薬学的剤形があり、そのうち、経口錠剤およびカプセルは、充填剤、潤滑剤、分散剤、希釈剤や接着剤などの従来の賦形剤を含有している。
【0020】
本発明の抗腫瘍化合物およびその薬用塩は、従来技術と比較して、JWAタンパク質の発現を効果的に活性化することができ、さらに、E3ユビキチン化酵素をカスケード活性化するなどにより過剰発現したHER2タンパク質を特異的に分解することにより、腫瘍細胞の増殖およびインビボ成長を阻害することができる。
【0021】
本発明の抗腫瘍化合物およびその薬用塩の優れた利点は、癌細胞において過剰発現しているHER2タンパク質を分解することであり、これまで国際的に汎用されてきた種々の抗HER2抗体やHER2タンパク質キナーゼ活性を阻害する阻害剤とは全く異なっている。分子細胞生物学の理論から、本発明の抗腫瘍化合物およびその薬用塩はHER2過剰発現癌に対する現在の抗癌治療手段よりも著しく優れており、その原因としては、本発明の抗腫瘍化合物の作用が最終的にHER2タンパク質を分解することであり、これにより、抗HER2抗体または阻害剤を使用する場合、HERタンパク質の適応的アロステリックに起因する現在の薬物耐性現象の物質的基礎を根本的に排除することができる。本発明の抗腫瘍化合物およびその薬用塩は、低い用量で同様に顕著な腫瘍治療活性を有し、かつ正常組織細胞に対して毒性がないだけでなく、心臓、肝臓、腎臓などの重要な臓器に対して一定の保護作用があり、応用の将来性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例11における、JWA遺伝子のcDNAと、タンパク質をコードするアミノ酸と、レポーター遺伝子を構築するためのプロモーターの配列図である。
【
図2】本発明の実施例11におけるJWA遺伝子プロモーターを含むレポーター遺伝子の構造図である。
【
図3】本発明の実施例12における、2種類のヒト乳癌細胞のクローン形成に対するJAC1の影響の結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施例13における、2種類のヒト乳癌細胞のHER2発現および細胞局在に対するJAC1の影響の結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例14における、JAC1が2種類のヒト乳癌細胞のJWA発現を活性化しながら、HER2の発現を阻害した結果を示す図である。
【
図6】本発明の実施例15における、JAC1がBT474およびSKBR3の2種類のヒト乳癌細胞の遊走を阻害した結果を示す図である。
【
図7】本発明の実施例16における、JAC1処理ヒト乳癌BT474細胞皮下担癌マウスの体重増加の曲線図である。
【
図8】本発明の実施例16における、JAC1処理ヒト乳癌BT474細胞皮下担癌マウスの体積の曲線図である。
【
図9】本発明の実施例16における、JAC1処理ヒト乳癌BT474細胞マウスの皮下担癌の重量の結果を示す図である。
【
図10】本発明の実施例16における、JAC1処理ヒト乳癌細胞マウスの皮下担癌の腫瘤重量/体重比の結果を示す図である。
【
図11】本発明の実施例16における、処理群ごとに分離したヒト乳癌BT474皮下担癌瘤組織の結果を示す図である。
【
図12】本発明の実施例16における、ヒト乳癌BT474細胞マウスの皮下担癌に対する各群の腫瘍阻害率の結果を示す図である。
【
図13】本発明の実施例16における、ヒト乳癌BT474細胞マウスの皮下担癌組織の各群における関連分子の発現図である。
【
図14】本発明の実施例17における、JAC1処理ヒト乳癌細胞皮下担癌マウスの主要臓器のHE染色写真である。
【
図15】本発明の実施例18における、JAC1処理ヒト乳癌細胞皮下担癌マウスの血液生化学結果を示す図である。
【
図16】本発明の実施例19における、JAC1がJWAの発現を活性化しながら、HER2の発現を阻害するオフターゲット効果の検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、実施例と組み合わせて本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
4-フルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
球形還流冷却管、磁性体(撹拌子)を備えた50mL乾燥ナス形フラスコに、2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール(1g、5.3mmol)、4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン(0.96g、5.3mmol)、ヨウ化第一銅(0.31g、0.3mmol)、炭酸カリウム(1.47g、10.6mmol)、ジメチルスルホキシド(20mL)を加え、100℃に加熱し、6時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、水(60mL)、酢酸エチル(30mL)を加え、3回抽出し、水洗して飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過して溶媒を減圧蒸発し、黒色固体を得て、粗生成物をシリカゲル粉末で砂状物に作製し、シリカゲルカラムにより精製し[溶離剤:VPE:VEA=5:1]、得られた黒色固形物を酢酸エチルまたはメタノールで数回スラリー化し、白色固形物(0.7g、収率:39%)を得た。
【0025】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.75(d,J=5.8Hz,1H),7.49(d,J=7.9Hz,1H),7.28-7.17(m,3H),7.00(d,J=8.0Hz,1H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:332.1{[M+H]+}。
【実施例2】
【0026】
4,7-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
【0027】
実施例1に示す方法を参照し、「2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール」の代わりに「2-クロロ-4,7-ジフルオロベンゾ[d]チアゾール」を用いて灰白色の固体(1.1g、収率57%)を得た。
【0028】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.73(d,J=5.4Hz,1H),7.28-7.17(m,3H),7.02(d,J=8.0Hz,1H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:350.1{[M+H]+}。
【実施例3】
【0029】
4,6-ジフルオロ-N-(4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール」の代わりに「2-クロロ-4,6-ジフルオロベンゾ[d]チアゾール」を用いて灰白色の固形物(0.8g、収率:45%)を得た。
【0030】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.65(d,J=5.8Hz,1H),7.35(d,J=7.9Hz,1H),7.28-7.17(m,2H),7.03(d,J=8.0Hz,1H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:350.1{[M+H]+}。
【実施例4】
【0031】
4-メトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール」の代わりに「2-クロロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール」を用いて白色固形物(1.1g、収率:67%)を得た。
【0032】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.55(d,J=5.8Hz,1H),7.39(d,J=7.9Hz,1H),7.15-7.07(m,3H),7.00(d,J=8.0Hz,1H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:382.1{[M+H]+}。
【実施例5】
【0033】
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,7-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」の代わりに「4,7-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」を用いて白色固形物(1.4g、収率:73%)を得た。
【0034】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.74(d,J=5.8Hz,1H),7.36(d,J=7.9Hz,1H),7.27-7.15(m,1H),7.00(d,J=8.0Hz,2H),3.82(s,3H),3.76(s,3H)。
ESI-MS m/z:362.1{[M+H]+}。
【実施例6】
【0035】
N-(4-フルオロベンゾ[d]チアゾール-2-イル)-4,6-ジメトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」の代わりに「4,6-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」を用いて白色固形物(1.2g、収率:64%)を得た。
【0036】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.75(d,J=5.8Hz,1H),7.28-7.17(m,2H),7.21(s,1H), 6.79(s,1H),3.88(s,3H),3.83(s,3H)。
ESI-MS m/z:332.1{[M+H]+}。
【実施例7】
【0037】
4,7-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール」の代わりに「2-クロロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール」を用い、「4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」の代わりに「4,7-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」を用いて白色固形物(0.9g、収率:53%)を得た。
【0038】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.75(d,J=5.8Hz,1H),7.49(d,J=7.9Hz,1H),7.28-7.17(m,1H),7.00(d,J=8.0Hz,2H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:412.1{[M+H]+}。
【実施例8】
【0039】
4,6-ジメトキシ-N-(4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール-2-イル)ベンゾ[d]チアゾール-2-アミンの製造
実施例1に示す方法を参照し、「2-クロロ-4-フルオロベンゾ[d]チアゾール」の代わりに「2-クロロ-4-(トリフルオロメチル)ベンゾ[d]チアゾール」を用い、「4-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」の代わりに「4,6-メトキシベンゾ[d]チアゾール-2-アミン」を用いて白色固体(0.8g、収率:47%)を得た。
【0040】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ7.75(d,J=5.8Hz,1H),7.49(d,J=7.9Hz,1H),7.28-7.17(m,1H),7.21(s,1H),7.69(s,1H),3.92(s,3H)。
ESI-MS m/z:412.1{[M+H]+}。
【0041】
なお、実施例1~8は、本発明でハイスループットスクリーニングされた化合物の一部のみを示しており、本発明の全ての化合物を示しているわけではない。
【実施例9】
【0042】
医薬組成物の製造:錠剤
式Iの化合物またはその薬用塩(1g)と乳糖(23g)および微結晶セルロース(5.7g)とをミキサーで混合した。得られた混合物をローラープレス機でプレス成形することにより、シート状プレス材を得た。このシート状プレス材をハンマー粉砕機で粉砕して粉状物に製作し、得られた粉状物材料を20メッシュの篩にかけた。篩にかけた材料に、軽質シリカ(0.3g)とステアリン酸マグネシウム(0.3g)を加えて混合した。得られた混合物を製錠機で打錠して錠剤を製造した。
【0043】
一例として、式Iの化合物としては、実施例1~8の化合物を用いることができる。
一例として、薬用塩の酸根(酸基)部分としては、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸などを用いることができる。
【実施例10】
【0044】
医薬組成物の製造:ゼラチンカプセル
式Iの化合物またはその薬用塩(1g)と、微結晶セルロース(0.35g)および乳糖(0.15g)とを水で造粒した後、この顆粒を架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(0.04g)およびステアリン酸マグネシウム(0.01g)とを混合した。得られた混合物をゼラチンカプセルに充填してゼラチンカプセルを製造した。(本実施例のゼラチンカプセルは、中国蘇州カプセル有限公司が製造したものであり、該ゼラチンカプセルは薬用規格に適合している。)
【0045】
一例として、式Iの化合物としては、実施例1~実施例8の化合物を用いることができる。
一例として、薬用塩の酸根部分としては、塩酸、硫酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸などを用いることができる。
【実施例11】
【0046】
ジベンゾチアゾールアミン類化合物の生物学的活性の比較
実施例1~8で合成された化合物をJAC1、JAC1011、JAC1012、JAC1013、JAC1014、JAC1015、JAC1016、JAC1017の順に命名した。
【0047】
JWA遺伝子2000bpプロモーター配列とルシフェラーゼ指示機能を含むレポーター遺伝子を安定的にトランスフェクションしたヒト気管支上皮HBE細胞を用いてハイスループットスクリーニングを行い、2回のハイスループットスクリーニングを経て、化合物の濃度範囲は0.00~3.30μg/mLであり、化合物による細胞処理時間は48時間であり、以上の8つの代表的な化合物のレポーター遺伝子蛍光値を測定し表1に示し、8つの代表的な化合物の日本語と英語の対照関係を表2に示す。
【0048】
表1の結果から、これらの8つの化合物はすべて細胞のJWA遺伝子の発現を活性化することができ、かつ良好な用量-効果関係が示され、そのうち、JAC1はJWA遺伝子に対する活性化作用が特に顕著であることがわかった。
【0049】
JWA遺伝子全長cDNA配列、タンパク質をコードするアミノ酸配列、およびルシフェラーゼレポーター遺伝子を構築するためのJWA遺伝子2000bpプロモーターDNA配列を
図1に示す。JWA遺伝子のプロモーター配列を含むルシフェラーゼレポーター遺伝子の分子構造を
図2に示す。
【0050】
【0051】
【実施例12】
【0052】
HER2陽性乳癌細胞のクローン形成能(悪性増殖能)に対するJAC1の影響
本実施例は、HER2を過剰発現したヒト乳癌細胞BT474およびSKBR3のクローン形成能(悪性増殖能)に対する小分子化合物JAC1処理の影響を検出することを目的とする。
【0053】
2種類のヒト乳癌細胞株BT474およびSKBR3を、それぞれ20%および10%のウシ胎児血清、通常の二重抗体を含むDMEM培地に、37℃、5%のCO2で培養した。対数成長期のBT474およびSKBR3細胞を採取し、それぞれ800個/ウェルの密度で6ウェルプレートに均一に接種し、細胞が壁に接着した後、異なる濃度(0、1、10μM)のJAC1含有培地に交換し、それぞれ細胞を処理した。細胞クローン塊の成長状況により、10~15日培養後に細胞培養を中止し、シャーレを除去し、メタノールで固定した後、クリスタルバイオレットで成長した細胞クローン塊を染色し、写真撮影後、ImageJソフトでクローン塊(50個以上の細胞を含む)の数を計数し、統計ソフトSPSSで計数結果を分析した。
【0054】
実験の結果、
図3に示すように、対照群と比べ、各用量の小分子化合物JAC1でBT474およびSKBR3を処理すると、細胞クローン形成能が有意に阻害され、かつ用量-効果の関係が示された。
【0055】
なお、実施例1~8の残りの各化合物について、本実施例の方法で検出した結果、JAC1とほぼ一致し、いずれもBT474およびSKBR3の細胞クローン形成能が有意に阻害され、かつ用量-効果の関係が示された。
【実施例13】
【0056】
HER2陽性乳癌細胞HER2分子の細胞内局在化に対するJAC1の影響
本実施例は、小分子化合物JAC1による処理が、HER2の細胞内局在化に影響を与えるか否かを観察することを目的とする。
【0057】
35mmのレーザー共焦点専用皿に細胞を接種し、異なる濃度(0、1、10μM)のJAC1で細胞を24時間処理した後、メタノールで15分間固定し、PBSTで3回洗浄し、正常な羊血で1時間ブロックし、その後一次抗体を加えて4℃で一晩インキュベートし、翌日PBSTで3回洗浄した後、蛍光二次抗体およびDAPIを加え、レーザー共焦点下で撮影した。
【0058】
実験の結果、
図4に示すように、JAC1濃度の上昇に伴い、JWA含有量が上昇し、HER2発現レベルが低下したが、弱まったHER2は依然として細胞膜に局在化しており、すなわちJAC1処理はHER2の細胞膜局在特性に影響を与えなかった。
【0059】
なお、実施例1~8の残りの各化合物について、本実施例の方法で検出した結果、JAC1とほぼ一致し、すなわち、化合物濃度の上昇に伴い、JWA含有量が上昇し、HER2の発現レベルが低下したが、弱まったHER2は依然として細胞膜に局在化しており、すなわち、その処理はHER2の細胞膜局在特性に影響を与えなかった。
【実施例14】
【0060】
HER2陽性乳癌細胞JWAおよびHER2タンパク質の発現レベルに対するJAC1の影響
本実施例は、細胞モデルを用いて、JAC1処理がJWAの上昇およびHER2タンパク質の発現レベルの低下に与える効果を検証することを目的とする。
【0061】
対数成長期の細胞を一般的に消化し、細胞密度40%~50%で6ウェルプレートに接種し、各用量のJAC1で細胞を24時間処理した後、RIPA(0.5%PMSFを含む)細胞溶解液0.1mLを加えてタンパク質を採取し、12000×gで15分間遠心分離後に上清を取り、タンパク質濃度を測定し、タンパク質を煮た。濃度10%のポリアクリルアミドゲルを用いてタンパク質電気泳動を行い、1ウェル当たり40μgのタンパク質を添加し、60Vで30分間、90Vで1.5~2時間の条件で電気泳動を行った。電気泳動終了後、湿式トランスファー(湿式転膜)を行い、ゲル内からPVDF膜にタンパク質を転移させた。トランスファー後、5%脱脂乳を用いて常温で1~2時間ブロックし、TBST(0.1%Tween 20を含む)で膜を5分間ずつ3回洗浄し、4℃で対応の一次抗体を一晩インキュベートした。翌日、TBST(0.1%Tween20を含む)で膜を5分間ずつ3回洗浄し、室温で二次抗体を1~2時間インキュベートし、TBST(0.1%Tween20を含む)で膜を5分ずつ8回洗浄した。膜上にECL発光液を滴下して露光した。
【0062】
実験の結果、
図5に示すように、JAC1濃度の増加に伴い、JWAタンパク質レベルが上昇し、HER2タンパク質レベルが低下した。
【0063】
なお、実施例1~8の残りの各化合物について、本実施例の方法で検出した結果、JAC1とほぼ一致し、化合物の濃度の上昇に伴い、JWAタンパク質のレベルが上昇し、HER2タンパク質のレベルが低下した。
【実施例15】
【0064】
HER2陽性乳癌細胞の遊走能に対するJAC1の影響
本実施例は、Transwell遊走実験により、乳癌細胞BT474およびSKBR3細胞の遊走能に対するJAC1の影響を検出することを目的とする。
【0065】
対数成長期のBT474およびSKBR3細胞を採取し、細胞密度40%~50%で6ウェルプレートに接種し、細胞が壁に粘着した後に医薬品を投与し、JAC1濃度をそれぞれ0、1、10μMとした。Transwellチャンバーへのマトリゲル塗布:実験前日、24ウェルプレート、いくつかのTranswellチャンバーを用意した。母液1mg/mL、最終濃度100μg/mLとなるようにFNを10倍希釈した。各チャンバーの底部にFN 50μLを塗布し、クリーンベンチに2時間放置して風乾させ、細胞培養器にて一晩放置した。
【0066】
実験当日、0.25%の膵酵素で細胞を消化し、無血清培地に懸濁させて細胞数を計数し、細胞密度を3×105個/mLに調整し、100μLをTranswellチャンバーの上層に植えた。チャンバーの下室(下部コンパートメント)に10%FBSおよび100ng/mLのEGFを含有する培地600μLを添加した。インキュベーターで12時間培養した後、Transwellチャンバーを取り出し、95%メタノールで20分間固定した。PBSで3回洗浄し、クリスタルバイオレットで30分間染色した。さらにPBSで3回洗浄し、上室(上部コンパートメント)の細胞を綿棒で軽く拭き取った。最後にウェルをスライドガラスの上に置き、倒立顕微鏡下で観察して撮影し、各チャンバーの上、下、左、右、中にそれぞれ1つの視野を撮影し、チャンバーを通過する上層の細胞の数を計数して、統計的に分析した。
【0067】
実験の結果、
図6に示すように、JAC1は乳癌細胞のBT474およびSKBR3の遊走能が有意に阻害でき、かつ用量-効果の関係が示された。
【0068】
なお、実施例1~8の残りの各化合物について、本実施例の方法で検出した結果、JAC1とほぼ一致し、乳癌細胞のBT474およびSKBR3の遊走能が有意に阻害され、かつ用量-効果の関係が示された。
【実施例16】
【0069】
HER2陽性乳癌細胞皮下担癌ヌードマウスの腫瘍成長に対するJAC1の影響
本実施例は、ヒト乳癌細胞免疫不全マウスの皮下腫瘍モデルを作成し、JAC1で関与した後、乳癌細胞の皮下成長に及ぼす影響を観察することを目的とする。
【0070】
対数成長期のヒト由来乳癌細胞BT474細胞を採取し、無菌条件下で5×106/100μL細胞懸濁液を製造し、BALB/cヌードマウスに皮下担癌を行い、腫瘍体積の大きさが75~125mm3になると、マウスを無作為に群分けし、空白対照群(Mock)、溶媒対照群(vehicle)、50mg/kgのJAC1処理群、100mg/kgのJAC1処理群、および陽性対照ハーセプチン・パクリタキセル(TH)処理群に分けた。そのうち、JAC1は毎日投与、腹腔注射とし、ハーセプチンは10mg/kg、週2回投与、腹腔注射とし、パクリタキセルは20mg/kg、週1回投与、腹腔内投与とする。投与日から2日おきにマウスの体重を量り、マウスの腫瘍径を観察・測定し、腫瘍体積を算出した。動物倫理学の要求により、このモデルマウスでは担癌腫瘍の体積が2500~3000mm3になると、モデルを終了し、麻酔後に実験動物を安楽死し、相応の検査・分析を行った。
【0071】
その結果、実験中、各群のマウスの体重はすべて緩やかな上昇傾向を示した(
図7)。
【0072】
対照群と比べ、50mg/kgのJAC1処理群、100mg/kgのJAC1群およびハーセプチン・パクリタキセル(TH)処理群の腫瘍体積の増加速度は明らかに低下し(
図8)、腫瘍重量は減少し(P<0.05)、各群の平均腫瘍重量の大きさは順にTH群<100mg/kgのJAC1群<50mg/kgのJAC1群であった(
図9)。腫瘍重量と体重との比は減少し(P<0.05)、かつTH群の腫瘍重量と体重との比は最も低かった(
図10)。
図11は各群のマウスから分離した腫瘍の組織図である。
【0073】
腫瘍阻害率:50mg/kgのJAC1処理群は31.22%、100mg/kgのJAC1処理群は46.21%、ハーセプチン・パクリタキセル(TH)処理群は52.36%であった。50mg/kgのJAC1、100mg/kgのJAC1、ハーセプチン・パクリタキセルはすべて有効であり、各処理群の腫瘍阻害率は、順にTH>100mg/kgのJAC1>50mg/kgのJAC1であった(
図12)。
【0074】
さらに、各処理群の乳腺癌皮下担癌の腫瘍組織関連分子の発現レベルに対してウェスタンブロット検出を行い、結果を
図13に示し、JAC1処理群では、HER2の発現は明らかに低下し、JWAの発現レベルは明らかに増加し、ハーセプチンがヒト化抗-HER2抗体であり、この抗体が使用後に細胞HER2タンパク質エピトープと結合しているため、ウェスタンブロット実験において一次抗体がHER2と結合することができないため、本実験条件下ではTH群はHER2の発現を検出することができなかった。
【実施例17】
【0075】
担癌マウスの主要臓器構造に対するJAC1処理の影響
実施例16によってJAC1がヒト乳癌細胞皮下担癌の成長を阻害するヌードマウスモデルが確立された。モデル完了時、各処理条件下でマウスの主要臓器に損傷があるか否かを観察するため、マウスを麻酔して安楽死し、マウスの主要臓器組織として心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、脳をホルマリン溶液で固定し、パラフィンで包埋した後、通常切片し、HE染色を行い、まずマウスの主要臓器の形態構造が正常か否かを検査し、測定した。結果により、この実験条件下で、各処理群のマウスの主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺臓、腎臓、脳)は光学鏡下で明らかな異常が見られなかった(
図14)。
【実施例18】
【0076】
担癌マウスの血液生化学指標に対するJAC1処理の影響
実施例16によってJAC1がヒト乳癌細胞皮下担癌の成長を阻害するヌードマウスモデルが確立された。モデル完了時、各処理条件下で実験マウスの主要臓器に損傷があるか否かを観察するために、マウスを麻酔した後、全血を採血して血清を分離し、全自動生化学分析装置で血清生化学指標の変化を検出した。
図15に示すように、結果から明らかなように、各処理群のマウスの主要臓器に形態構造上明らかな病変が見られなかったが、対照群と比べて、JAC1処理、特に100mg/kgのJAC1処理群のマウス血清中の肝機能ALTとAST、トリグリセリドTG、心筋キナーゼCKおよびそのアイソザイムCKMBはすべて明らかに低下し、抗酸化作用のスーパーオキシドディスムターゼSODのレベルは明らかに増加した。これらの指標はパクリタキセル+ハーセプチン処理群でも対照群より改善したが、有意差はなかった。
【0077】
これらの結果により、JAC1はヒト乳癌BT474細胞マウス皮下担癌の成長を効果的に阻害できるだけでなく、腫瘍の成長による体内の生化学的機能障害に対しても比較的に良い関与作用があることが示唆され、陽性対照薬処理群では腫瘍阻害率はJAC1処理群よりやや高かったが、腫瘍による生体内生化学的機能障害に対する改善作用は顕著ではなかった。
【実施例19】
【0078】
JAC1がJWA発現を活性化すると同時にHER2発現を阻害することによるオフターゲット効果の検証
HER2過発現癌細胞に特異的に作用するJAC1の小分子以上のこのような生物学的機能を観察した後、JAC1の腫瘍阻害作用のオフターゲット効果を実験により検証した。まず、Crisp/cas9技術を用いてHER2陽性のJWA遺伝子を取り除いたヒトBGC823胃癌細胞を構築し、それぞれJWA(JWA WT)含有とJWA(JWA KO)遺伝子欠損のヒト胃癌細胞BGC823株(以前にHER2発現陽性であることを証明した)を用いて、10μMのJAC1で細胞を48時間処理した後にタンパク質を採取し、ウェスタンブロット法でJWA野生と欠損性BGC823細胞のJWAとHER2発現レベルを検出した。
【0079】
図16に示すように、結果から明らかなように、JWA野生型(JWA WT)胃癌細胞において、JAC1処理はJWAの発現を顕著に活性化すると同時にHER2の発現レベルを阻害することができ、一方、JWA欠損(JWA KO)の胃癌細胞では、JAC1処理後にJWAとHER2の発現に顕著な影響が見られなかった。
これらの結果では、JAC1のHER2阻害作用はJWAの活性化によって達成され、JAC1には明らかなオフターゲット効果がないことが示されている。
【実施例20】
【0080】
本発明では、実施例11の方法でハイスループットスクリーニングを行ったところ、細胞のJWA遺伝子の発現を活性化し得る化合物が多数得られたが、実施例1~8の化合物を除く残りの化合物は、以下の通りであり、
R1=OH、R2=HまたはOH、R3=FまたはCl、R4=HまたはF、R5=HまたはCH3またはCH2CH3、
R1=CH3、R2=CH3またはCH2CH3、R3=IまたはCF3、R4=BrまたはCF3、R5=HまたはCH3またはCH2CH3、
R1=CH2CH3、R2=CH2CH2CH3またはOCH3、R3=BrまたはCl、R4=ClまたはI、R5=HまたはCH3またはCH2CH3、
R1=OCH3、R2=OCH2CH2CH3またはOH、R3=FまたはCF3、R4=HまたはCF3、R5=HまたはCH3またはCH2CH3、
R1=OCH2CH3、R2=CH3またはOCH3、R3=ClまたはI、R4=BrまたはI、R5=HまたはCH3またはCH2CH3。
注:上記化合物の置換基が複数の置換位置に存在し得る場合、または化合物に複数の異性体が存在する場合は、すべての可能な化合物を含むことを意味する。
上記化合物はいずれも細胞のJWA遺伝子の発現を活性化することができるので、JWA遺伝子活性化剤または抗腫瘍薬となる見込みもあり、このため、これらの化合物は全て本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0081】
さらに、本発明の化合物は、悪性腫瘍の治療効果を高めるために、他の医薬品および他の治療手段と組み合わせて使用することもできる。
上記の実施例に加えて、本発明はさらに他の実施形態を有してもよい。均等置換または均等変換を用いて形成された技術的解決手段は、すべて本発明の保護範囲に該当する。