(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】正極材料、その調製方法およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20230803BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230803BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230803BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230803BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/58
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022521737
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 CN2020135523
(87)【国際公開番号】W WO2021258662
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】202010592536.2
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522139349
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】喬 斉斉
(72)【発明者】
【氏名】江 衛軍
(72)【発明者】
【氏名】孫 明珠
(72)【発明者】
【氏名】許 ▲金▼培
(72)【発明者】
【氏名】施 澤濤
(72)【発明者】
【氏名】馬 加力
(72)【発明者】
【氏名】王 鵬飛
(72)【発明者】
【氏名】陳 思賢
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-129471(JP,A)
【文献】特表2011-519142(JP,A)
【文献】特開2008-210701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/58
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造の正極材料であって、
コア層には、コバルトフリー単結晶正極活性物質が含まれ、シェル層には、LiAlO
2およびLiFePO
4が含まれ
、
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質がLiNi
x
Mn
y
O
2
であり、ただし、0.45≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55である、正極材料。
【請求項2】
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が、98.5~99.9wt%である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記LiAlO
2の含有量が0.05~0.5wt%であ
る、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記LiFePO
4
の含有量が、0.05~1wt%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の正極材料の調製方法であって、
コバルトフリー単結晶正極活性物質、リチウム塩、アルミニウム含有材料およびFePO
4を混合し、焼成して、正極材料を得るステップが含まれる、調製方法。
【請求項6】
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の調製方法には、リチウム塩とコバルトフリー正極活性物質前駆体とを混合し、焼結して、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得ることが含まれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記コバルトフリー正極活性物質前駆体の化学式がNi
xMn
y(OH)
2であり、ただし、0.45≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リチウム塩が、LiOHおよび/またはLi
2CO
3を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記焼結の温度が800~1000℃であり、前記焼結の時間が10~20hであり、前記焼結の雰囲気が、空気雰囲気またはO
2雰囲気であり、
前記焼結の後に、得た生成物を破砕させることが含まれ、
破砕された材料を300~400メッシュの篩にかける、請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の残留アルカリ含有量≦0.5wt%であり、
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質のpH値≦12であり、
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の比表面積≦2m
2/gである、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルミニウム含有材料がAl
2O
3および/またはAl(OH)
3である、請求項5~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記混合が撹拌混合であり、撹拌速度が900~1000rpmであり、前記混合の時間が5~20minである、請求項5~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記焼成の温度が400~700℃であり、
前記焼成の時間が5~8hであり、
前記焼成の後に、生成物を300~400メッシュの篩にかける過程がさらに含まれる、請求項5~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法には、
(1)リチウム塩とコバルトフリー正極活性物質前駆体を5~15min撹拌し混合し、撹拌の回転速度が800~900rpmであるステップと、
(2)空気またはO
2雰囲気下で、ステップ(1)で得た生成物を800~1000℃で10~20h焼結し、焼結した生成物をロール破砕および気流粉砕し、粉砕された材料を300~400メッシュの篩にかけて、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得るステップと、
(3)前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、リチウム塩、アルミニウム含有材料およびFePO
4を5~20min撹拌し混合し、撹拌速度が900~1000rpmであり、そして400~700℃で5~8h焼成し、300~400メッシュの篩にかけて、正極材料を得るステップと、が含まれ、
前記正極材料において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が98.5~99.9wt%、前記LiAlO
2の含有量が0.05~0.5wt%、前記LiFePO
4の含有量が0.05~1wt%である、請求項5~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の正極材料を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池の技術分野に関し、たとえば正極材料、その調製方法およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新エネルギー自動車の分野では、リチウムイオン動力電池に対するニーズがより厳しく、たとえば安全性能、サイクル性能、コストなどである。正極材料のコストが動力電池の合計コストの30~40%を占めており、動力電池のコストを低下しようとすれば、正極材料のコストを低下する必要がある。
【0003】
ニッケルコバルトマンガン(NCM)においては、コバルト元素の価格の変動が電池のコストに対する制御を制約するとともに、コバルト金属の価格が高く、環境を汚染しやすいため、三元正極材料のコバルト含有量を低下させるか、または材料にコバルトを含めさせないことで、製造コストを低下させることができる。
【0004】
しかしながら、単純なコバルトフリー単結晶材料のリチウムイオン導電性が悪く、イオン導電性が電池の充放電過程におけるリチウムイオンの挿入脱離速度を制約し、材料容量の発揮に有利ではなく、材料の倍率性能に影響を及ぼしている。サイクルの進行に伴い、電池の内部抵抗が増加し、電池が発熱しやすく、使用安全上の潜在的なリスクがある。
【0005】
CN109686970Aでは、コバルトフリーリチウムリッチ三元正極材料NMAおよびその調製方法が開示されている。前記コバルトフリーリチウムリッチ三元正極材料NMAの化学式がLi1+PNi1-x-y-zMnxAlyMzO2であり、その前駆体の化学式がNi1-x-y-zMnxAlyMz(OH)2であり、ただし、0.03<P<0.3、0.1<X<0.6、0.01<Y<0.1、0.01<Z<0.3となり、MがCe3+、Ti4+、Zr4+、Mg2+のうちの1種または2種以上であり、前記前駆体がナノシート状凝集粒子であり、前記ナノシート状の前駆体の厚さが30~50nmである。しかし、前記方法により得られた正極材料は、電気化学的性能が悪い。
【0006】
CN103943844Bでは、コバルトフリーリチウムリッチマンガン基正極材料、その調製方法および使用が開示されている。前記正極材料の化学式がLi1+xNiyMn0.8-yO2(0<x<1/3、0<y<0.8)である。正極材料の調製過程は、ゾルーゲル法で、エタノールまたは脱イオン水溶剤において前駆体を調製し、低温仮焼およびボールミルを行った後、高温固相焼結によって、調製する正極材料を得るものである。しかし、前記方法により得られた正極材料は、電気化学的性能が悪い。
【0007】
したがって、当該分野では、優れた電気化学的性能を有し、コストが低く、調製方法が簡素的であり、産業化製造可能である新規なコバルトフリー材料を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、正極材料、その調製方法およびリチウムイオン電池を提供する。
【0009】
本開示一実施例において、コアシェル構造の正極材量であって、コア層には、コバルトフリー単結晶正極活性物質が含まれ、シェル層には、LiAlO2およびLiFePO4が含まれ、
前記コバルトフリー単結晶正極活性物質がLiNi
x
Mn
y
O
2
であり、ただし、0.45≦x≦0.95、0.05≦y≦0.55である正極材料が提供される。
【0010】
本開示に係る一実施例において、正極材料は、コバルトフリー単結晶正極活性物質の表面にLiAlO2およびLiFePO4が被覆されることにより、コバルトフリー単結晶層状正極材料の導電性を向上することで、材料の容量、倍率およびサイクル性能を向上させることができる。シェル層にはLiAlO2およびLiFePO4が同時に含まれてこそ、優れた電気化学的性能を達成することができる。シェル層にはLiAlO2のみが含まれる場合、材料の安定性を顕著に向上することができず、シェル層にはLiFePO4のみが含まれる場合、材料のサイクル性能を顕著に向上することができない。
【0011】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が98.5~99.9wt%、たとえば98.6wt%、98.8wt%、99.0wt%、99.2wt%、99.4wt%、99.5wt%または99.8wt%などである。
【0012】
一実施例において、前記LiAlO2の含有量が0.05~0.5wt%、たとえば0.1wt%、0.15wt%、0.2wt%、0.25wt%、0.3wt%、0.35wt%、0.4wt%、0.45wt%または0.48wt%などである。
【0013】
本開示に係る一実施例において、正極材料において、LiAlO2の含有量が0.05~0.5wt%であるLiAlO2の含有量が多すぎると、得た正極材料の容量が低く、LiAlO2の含有量が少なすぎると、シェル層の被覆が均一ではない。
【0014】
一実施例において、前記LiFePO4の含有量が0.05~1wt%、たとえば0.08wt%、0.1wt%、0.15wt%、0.2wt%、0.25wt%、0.3wt%、0.35wt%、0.4wt%、0.45wt%、0.5wt%、0.55wt%、0.6wt%、0.65wt%、0.7wt%、0.75wt%、0.8wt%、0.85wt%、0.9wt%または0.95wt%などである。
【0015】
本開示に係る一実施例において、正極材料において、LiFePO4の含有量が0.05~1wt%である。LiFePO4の含有量が多すぎると、正極材料の容量が低下し、LiFePO4の含有量が少なすぎると、均一に被覆することができない。正極材料は、依然として一部が電解液に直接接触することで、電気化学的性能に影響を与える。
【0016】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質がLiNixMnyO2であり、0.45≦x≦0.95、たとえば0.5、0.55、0.6、0.65、0.68、0.7、0.75、0.8、0.85、0.88または0.9などであり、0.05≦y≦0.55、たとえば0.1、0.12、0.15、0.18、0.2、0.25、0.3、0.35、0.38、0.4、0.45、0.48または0.5などである。
【0017】
本開示一実施例において、コバルトフリー単結晶正極活性物質、リチウム塩、アルミニウム含有材料およびFePO4を混合し、焼成して、正極材料を得るステップを含む正極材料の調製方法が提供される。
【0018】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の調製方法には、リチウム塩とコバルトフリー正極活性物質前駆体とを混合し、焼結して、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得ることが含まれる。
【0019】
一実施例において、前記コバルトフリー正極活性物質前駆体の化学式がNixMny(OH)2であり、0.45≦x≦0.95、たとえば0.5、0.55、0.6、0.65、0.68、0.7、0.75、0.8、0.85、0.88または0.9であり、0.05≦y≦0.55、たとえば0.1、0.12、0.15、0.18、0.2、0.25、0.3、0.35、0.38、0.4、0.45、0.48または0.5などである。
【0020】
一実施例において、前記リチウム塩がLiOHおよび/またはLi2CO3を含む。
【0021】
一実施例において、前記焼結温度が800~1000℃、たとえば820℃、850℃、880℃、900℃、920℃、950℃または980℃などである。
【0022】
本開示に係る一実施例において、焼結温度が800~1000℃である。焼結温度が低すぎると、材料の結晶体構造が完全ではなく、焼結温度が高すぎると、材料の粒径が大き過ぎ、容量が低下する。
【0023】
一実施例において、前記焼結時間が10~20h、たとえば11h、12h、13h、14h、15h、16h、17h、18hまたは19hなどである。
【0024】
一実施例において、前記焼結の雰囲気が空気雰囲気またはO2雰囲気である。
【0025】
一実施例において、前記焼結後に、得た生成物を破砕させることがさらに含まれる。
【0026】
一実施例において、破砕された材料を300~400メッシュ、たとえば300メッシュ、310メッシュ、320メッシュ、330メッシュ、340メッシュ、350メッシュ、360メッシュ、370メッシュ、380メッシュ、390メッシュまたは400メッシュなどの篩にかける。
【0027】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の残留アルカリ含有量≦0.5wt%となり、たとえば0.05wt%、0.08wt%、0.1wt%、0.12wt%、0.15wt%、0.18wt%、0.2wt%、0.22wt%、0.25wt%、0.28wt%、0.3wt%、0.35wt%、0.4wt%または0.45wt%などである。
【0028】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質のpH値≦12となり、たとえば7、8、9、10、11または12などである。
【0029】
一実施例において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の比表面積≦2m2/gとなり、たとえば0.5m2/g、0.6m2/g、0.8m2/g、1m2/g、1.2m2/g、1.4m2/g、1.5m2/g、1.6m2/g、1.7m2/gまたは1.8m2/gなどである。
【0030】
一実施例において、前記アルミニウム含有材料がAl2O3および/またはAl(OH)3である。
【0031】
一実施例において、前記混合が撹拌混合である。
【0032】
一実施例において、撹拌速度が900~1000rpm、たとえば910rpm、920rpm、930rpm、940rpm、950rpm、960rpm、970rpm、980rpmまたは990rpmなどである。
【0033】
一実施例において、前記混合時間が5~20min、たとえば6min、7min、8min、9min、10min、11min、12min、13min、14min、15min、16min、17min、18min、19minまたは20minなどである。
【0034】
一実施例において、前記焼成温度が400~700℃、たとえば450℃、500℃、550℃、600℃または650℃などである。
【0035】
在本開示に係る一実施例において、焼成温度が400~700℃である。焼成温度が低すぎると、本体材料と被覆材料との間の結合力が弱く、被覆材料が脱落しやすく、焼成温度が高すぎると、被覆材料が本体材料(コバルトフリー単結晶正極活性物質)に進入しやすく、被覆の作用を果たすことができない。
【0036】
一実施例において、前記焼成時間が5~8h、たとえば5.2h、5.5h、5.8h、6h、6.2h、6.5h、6.8h、7h、7.2h、7.5hまたは7.8hなどである。
【0037】
一実施例において、前記焼成後に、生成物を300~400メッシュ、たとえば300メッシュ、310メッシュ、320メッシュ、330メッシュ、340メッシュ、350メッシュ、360メッシュ、370メッシュ、380メッシュ、390メッシュまたは400メッシュなどの篩にかける過程がさらに含まれる。
【0038】
一実施例において、前記方法には、
(1)リチウム塩とコバルトフリー正極活性物質前駆体を5~15min撹拌し混合し、撹拌の回転速度が800~900rpmであるステップと、
(2)空気またはO2雰囲気下で、ステップ(1)で得た生成物を800~1000℃で10~20h焼結し、焼結した生成物をロール破砕および気流粉砕し、粉砕された材料を300~400メッシュの篩にかけて、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得るステップと、
(3)前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、リチウム塩、アルミニウム含有材料およびFePO4を5~20min撹拌し混合し、撹拌速度が900~1000rpmであり、そして400~700℃で5~8h焼成し、300~400メッシュの篩にかけて、正極材料を得るステップと、が含まれ、
前記正極材料において、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が98.5~99.9wt%、前記LiAlO2の含有量が0.05~0.5wt%、前記LiFePO4の含有量が0.05~1wt%である。
【0039】
本開示一実施例において、一実施例に記載される正極材料を含むリチウムイオン電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図面は、本開示の技術案のさらなる理解を提供するために使用され、且つ明細書の一部を構成し、本願の実施例とともに、本開示の技術案を説明するために使用され、本開示の技術案に対する限定を構成するものではない。
【0041】
図1~
図2は、本開示の一実施例で調製された正極材料のSEM図である。
図3~
図4は、本開示の一比較例で調製された正極材料のSEM図である。
図5は、本開示の一実施例および比較例で調製された正極材料の最初の充放電曲線の比較図である。
図6は、本開示の一実施例および比較例で調製された正極材料のサイクル性能の比較図である。
図7は、本開示の一実施例および比較例で調製された正極材料の倍率性能の比較図である比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照しながら、具体的実施形態によって本開示の技術案をさらに説明する。
【0043】
実施例1
【0044】
正極材料の調製方法には、
(1)LiOHおよびコバルトフリー正極活性物質前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)2を10min撹拌し混合し、撹拌の回転速度が900rpmであり、前記LiOHにおけるLi元素のモル量と与コバルトフリー正極活性物質前駆体における金属元素の合計モル量との比が1.05であるステップと、
(2)空気雰囲気で、ステップ(1)で得た生成物を900℃で15h焼結し、焼結した生成物をロール破砕および気流粉砕し、粉砕された材料を400メッシュの篩にかけて、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得るステップと、
(3)前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4を10min撹拌し混合し、撹拌速度が1000rpmであり、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4の質量比が99.2:0.18:0.23:0.48であり、そして600℃で6h焼成し、400メッシュの篩にかけて、正極材料を得るステップと、が含まれ、
本実施例で調製された正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.2wt%、LiAlO2の含有量が0.3wt%、LiFePO4の含有量が0.5wt%である。
【0045】
図1および
図2は、本実施例で調製された正極材料のSEM図である。
図1および
図2から分かるように、本実施例で調製された正極材料の粒度均一性が高い。
【0046】
実施例2
【0047】
正極材料の調製方法には、
(1)LiOHおよびコバルトフリー正極活性物質前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)2を15min撹拌し混合し、撹拌の回転速度が800rpmであり、前記LiOHにおけるLi元素のモル量と与コバルトフリー正極活性物質前駆体における金属元素の合計モル量との比が1.05であるステップと、
(2)空気雰囲気で、ステップ(1)で得た生成物を1000℃で10h焼結し、焼結した生成物をロール破砕および気流粉砕し、粉砕された材料を300メッシュの篩にかけて、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得るステップと、
(3)前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4を5min撹拌し混合し、撹拌速度が1000rpmであり、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4の質量比が98.8:0.27:0.38:0.58であり、そして700℃で5h焼成し、300メッシュの篩にかけて、正極材料を得るステップと、が含まれ、
本実施例で調製された正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が98.8wt%、LiAlO2の含有量が0.5wt%、LiFePO4の含有量が0.7wt%である。
【0048】
実施例3
【0049】
正極材料の調製方法には、
(1)LiOHおよびコバルトフリー正極活性物質前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)2を5min撹拌し混合し、撹拌の回転速度が900rpmであり、前記LiOHにおけるLi元素のモル量と与コバルトフリー正極活性物質前駆体における金属元素の合計モル量との比が1.05である、ステップと、
(2)O2雰囲気で、ステップ(1)で得た生成物を800℃で20h焼結し、焼結した生成物をロール破砕および気流粉砕し、粉砕された材料を300メッシュの篩にかけて、コバルトフリー単結晶正極活性物質を得るステップと、
(3)前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4を20min撹拌し混合し、撹拌速度が900rpmであり、前記コバルトフリー単結晶正極活性物質、LiOH、Al2O3およびFePO4の質量比が99.6:0.09:0.12:0.24であり、そして400℃で8h焼成し、300メッシュの篩にかけて、正極材料を得るステップと、が含まれ、
本実施例で調製された正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.6wt%、LiAlO2の含有量が0.15wt%、LiFePO4の含有量が0.25wt%である。
【0050】
実施例4
【0051】
実施例1との相違点は、ステップ(3)におけるAl2O3およびFePO4の添加量を変更することにより、得た正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.2wt%、LiAlO2の含有量が0.05wt%、LiFePO4の含有量が0.75wt%となることにある。
【0052】
実施例5
【0053】
実施例1との相違点は、ステップ(3)におけるAl2O3およびFePO4の添加量を変更することにより、得た正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.2wt%、LiAlO2の含有量が0.5wt%、LiFePO4の含有量が0.3wt%となることにある。
【0054】
実施例6
【0055】
実施例1との相違点は、ステップ(3)におけるAl2O3およびFePO4の添加量を変更することにより、得た正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.2wt%、LiAlO2の含有量が0.02wt%、LiFePO4の含有量が0.78wt%となることにある。
【0056】
実施例7
【0057】
実施例1との相違点は、ステップ(3)におけるAl2O3およびFePO4の添加量を変更することにより、得た正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が99.2wt%、LiAlO2の含有量が0.78wt%、LiFePO4の含有量が0.02wt%となることにある。
【0058】
実施例8
【0059】
実施例1との相違点は、ステップ(3)におけるAl2O3およびFePO4の添加量を変更することにより、得た正極材料において、コバルトフリー単結晶正極活性物質の含有量が98.5wt%、LiAlO2の含有量が0.2wt%、LiFePO4の含有量が1.3wt%となることにある。
【0060】
実施例9
【0061】
実施例1との相違点は、ステップ(3)で前記焼成温度が300℃であることにある。
【0062】
実施例10
【0063】
実施例1との相違点は、ステップ(3)で前記焼成温度が800℃であることにある。
【0064】
比較例1
【0065】
実施例1におけるステップ(2)で得たコバルトフリー単結晶正極活性物質が正極材料として用いられ、すなわち、LiAlO2およびLiFePO4の被覆層がない。
【0066】
図3および
図4は、本比較例で調製された正極材料のSEM図である。
図1および
図2を結び付けて分かるように、被覆前後の模様および一次粒子の粒径がほぼ変化しない。異なる点についは、被覆される前の材料(本比較例)の表面が平滑であり、被覆された後のサンプル(実施例1)の表面に明らかな被覆材がある。
【0067】
図5は、本開示の実施例1および本比較例で調製された正極材料の最初の充放電曲線比較図である。
図5から分かるように、被覆されていない正極材料(本比較例)の0.1Cでの1週目の充放電比容量がそれぞれ219.2mAh/gおよび189.2mAh/gであり、最初の効率が86.3%であり、被覆された材料(実施例1)の0.1Cでの1週目の充放電比容量がそれぞれ224.3mAh/gおよび197.7mAh/gであり、最初の効率が88.1%である。そのため、被覆により、コバルトフリー単結晶層状正極材料の容量および最初の効率の改善に寄与する。
【0068】
図6は、本開示の実施例1および本比較例で調製された正極材料のサイクル性能の比較図である。
図6から分かるように、被覆されていない材料(本比較例)の1Cでの50週サイクル後の容量保持率が94.0%であり、被覆された材料(実施例1)の1Cでの50週サイクル後の容量保持率が99.1%であり、サイクル性能が5.1%向上した。
【0069】
図7は、本開示の実施例1および本比較例で調製された正極材料の倍率性能の比較図(図中、横座標が放電倍率である)である。テスト結果から分かるように、LiAlO
2およびLiFePO
4が被覆された後、材料の倍率性能が向上した。たとえば、2C倍率下で、被覆されていない材料(本比較例)の放電比容量が154.9mAh/gだけであり、被覆された材料(実施例1)の放電比容量が160.7mAh/gに達し、4C倍率下で、被覆されていない材料(本比較例)の放電比容量が140.6mAh/gだけであり、被覆された材料(実施例1)の放電比容量が147.6mAh/gに達した。実施例1において倍率性能が向上する理由は、LiAlO
2およびLiFePO
4のイオン導電率が良く、被覆された後、コバルトフリー単結晶層状正極材料の電気化学的活性を向上させることで、材料の倍率性能を向上させることができる。
【0070】
比較例2
【0071】
実施例1との相違点は、ステップ(3)で、等量のFePO4で前記Al2O3を置換し、すなわち、製品にLiAlO2がないことにある。
【0072】
比較例3
【0073】
実施例1との相違点は、ステップ(3)で、等量のAl2O3で前記FePO4を置換し、すなわち、製品にLiFePO4がないことにある。
【0074】
性能テスト:
【0075】
本開示に係る実施例および比較例で調製された正極材料を電池として組み立てる。
【0076】
正極材料:導電性カーボンブラック:接着剤PVDF(ポリフッ化ビニリデン)=90:5:5の質量比で混合し、脱NMP(N-メチルピロリドン)を溶剤として混合した後、アルミニウム箔に塗布し、90℃で真空乾燥させて正極シートを得た。そして、前記負極シート(リチウムシート)、正極シート、電解液(1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6、エチレンカーボネートEC:エチルメチルカーボネートEMC=1:1)およびセパレータを電池として組み立てた。
【0077】
(1)1週目の充電比容量および1週目の効率のテスト:得た電池に対して、25±2℃の環境下で、充放電テストを行った。充放電電圧が3.0~4.4V、電流密度が0.1C/0.1C(0.1C充電、0.1C放電)である。テスト結果を表1に示す。
【0078】
(2)50週サイクル性能テスト:得た電池に対して、25±2℃の環境下で充放電テストを行った。充放電電圧が3.0~4.4V、電流密度が0.5C/1C(0.5C充電、1C放電)である。テスト結果を表1に示す。
【0079】
(3)倍率性能テスト:実施例1および比較例1で得た電池に対して、25±2℃の環境下で充放電テストを行い、充放電電圧が3.0~4.4Vであり、それぞれ0.3C、0.5C、1C、2C、3Cおよび4Cで放電比容量テストを行った。テスト結果を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0080】
実施例1と実施例6~8との比較から分かるように、実施例6~7では、LiAlO2またはLiFePO4の被覆量が少なすぎると、被覆層を本体材料(コバルトフリー単結晶正極活性物質)の表面に均一に被覆することができず、サイクル性能が悪い。実施例8では、LiFePO4の被覆量が多すぎると、被覆層が厚すぎ、材料の容量が低く、サイクル性能が悪い。
【0081】
実施例1と実施例9~10との比較から分かるように、焼成温度が低すぎると、被覆層と本体材料との結合力が悪く、サイクル性能が悪く、焼成温度が高すぎると、被覆層が本体材料に進入しやすく、容量が低い。
【0082】
実施例1と比較例1との比較から分かるように、LiAlO2およびLiFePO4が被覆された材料の容量、最初の効果およびサイクル性能がいずれも向上した。実施例1と比較例2~3との比較から分かるように、LiAlO2またはLiFePO4のみ被覆された材料のサイクル性能は、いずれも、それらが同時に被覆されたものに及ばなかった。