(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-02
(45)【発行日】2023-08-10
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20230803BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20230803BHJP
【FI】
E02F9/22 R
F02D29/04 H
(21)【出願番号】P 2023508624
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046812
(87)【国際公開番号】W WO2022201676
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2021053087
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】土方 聖二
(72)【発明者】
【氏名】釣賀 靖貴
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 遼
(72)【発明者】
【氏名】古川 翔
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-196673(JP,A)
【文献】特開2020-076221(JP,A)
【文献】特開2007-120426(JP,A)
【文献】特開平04-027784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
F02D 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの駆動力によって作動油を吐出する容量可変型の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプの吐出容量を変化させるレギュレータと、
前記油圧ポンプから吐出された作動油によって動作する油圧アクチュエータと、
前記エンジンの回転数を検知する回転数センサと、
前記エンジンの回転数及び前記油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備える作業機械において、
前記コントローラは、
前記回転数センサで検知された回転数が第1回転数にあって、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が上昇閾値まで増大した状態において、
前記エンジンの回転数を前記第1回転数から前記第1回転数より高い第2回転数に上昇させると共に、
前記エンジンの回転数を前記第2回転数に上昇させる過程において、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が一定になるように、前記油圧ポンプの吐出容量の減少を指示する信号を前記レギュレータに出力し、
前記回転数センサで検知された回転数が前記第2回転数に達すると、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が要求負荷に対応する値になるように、前記油圧ポンプの吐出容量の増大を指示する信号を前記レギュレータに出力することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記エンジンの回転数を前記第2回転数に上昇させる過程において、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が前記上昇閾値に一致するように、前記油圧ポンプの吐出容量の減少を指示する信号を前記レギュレータに出力することを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記コントローラは、前記回転数センサで検知された回転数が前記第2回転数にあって、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が下降閾値まで低下した状態において、
前記エンジンの回転数を前記第2回転数から前記第1回転数に下降させると共に、
前記エンジンの回転数を前記第1回転数に下降させる過程で、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が要求負荷に対応する値になるように、前記油圧ポンプの吐出容量の調整を指示する信号を前記レギュレータに出力することを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容量可変型の油圧ポンプを備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンと、エンジンの駆動力によって作動油を吐出する容量可変型の油圧ポンプと、油圧ポンプの吐出容量を変化させるレギュレータと、油圧ポンプから吐出された作動油によって動作する油圧アクチュエータとを備える作業機械が知られている。
【0003】
上記構成の作業機械において、油圧アクチュエータを低負荷で動作させる場合は回転数を低くして高トルクでエンジンを駆動し、油圧アクチュエータを高負荷で動作させる際にエンジンの回転数を上昇させることによって、燃費の改善と高出力とを両立する技術がある(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、高負荷に対応するためにエンジンの回転数を上昇させるには、増加した負荷に対応するトルクに加えて、回転体(エンジン及び油圧ポンプ)の慣性力に対応する過渡的なトルクが必要になる。そのため、特許文献1の技術では、エンジンの回転数を上昇させるのに時間がかかって、作業性が低下するという課題がある。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、油圧アクチュエータの負荷に応じてエンジンの回転数を切り替える作業機械において、低燃費と作業性の確保とを両立する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、エンジンと、前記エンジンの駆動力によって作動油を吐出する容量可変型の油圧ポンプと、前記油圧ポンプの吐出容量を変化させるレギュレータと、前記油圧ポンプから吐出された作動油によって動作する油圧アクチュエータと、前記エンジンの回転数を検知する回転数センサと、前記エンジンの回転数及び前記油圧ポンプの吐出容量を制御するコントローラとを備える作業機械において、前記コントローラは、前記回転数センサで検知された回転数が第1回転数にあって、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が上昇閾値まで増大した状態において、前記エンジンの回転数を前記第1回転数から前記第1回転数より高い第2回転数に上昇させると共に、前記エンジンの回転数を前記第2回転数に上昇させる過程において、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が一定になるように、前記油圧ポンプの吐出容量の減少を指示する信号を前記レギュレータに出力し、前記回転数センサで検知された回転数が前記第2回転数に達すると、前記エンジンまたは前記油圧ポンプの出力が要求負荷に対応する値になるように、前記油圧ポンプの吐出容量の増大を指示する信号を前記レギュレータに出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油圧アクチュエータの負荷に応じてエンジンの回転数を切り替える作業機械において、低燃費と作業性の確保とを両立することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】エンジンの回転数及びトルクの関係を示す図である。
【
図6A】燃料噴射量とエンジントルクとの関係を示す図である。
【
図6B】ブーム操作レバーの操作量とポンプ流量との関係を示す図である。
【
図6C】ポンプ出力とエンジントルクとの関係を示す図である。
【
図7A】回転数制御処理におけるエンジン回転数の時間変化を示す図である。
【
図7B】回転数制御処理におけるエンジントルクの時間変化を示す図である。
【
図7C】回転数制御処理におけるエンジン出力の時間変化を示す図である。
【
図8】油圧ショベルの複数の動作モードそれぞれに対応する曲線W1、W2の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る油圧ショベル1(作業機械)の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、作業機械の具体例は油圧ショベル1に限定されず、ホイールローダ、クレーン、ダンプトラック等でもよい。また、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、油圧ショベル1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。
【0011】
図1は、油圧ショベル1の側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル1は、下部走行体2と、下部走行体2により支持された上部旋回体3とを備える。下部走行体2及び上部旋回体3は、車体の一例である。
【0012】
下部走行体2は、無限軌道帯である左右一対のクローラ8を備える。そして、走行モータ(図示省略)の駆動により、左右一対のクローラ8が独立して回転する。その結果、油圧ショベル1が走行する。但し、下部走行体2は、クローラ8に代えて、装輪式であってもよい。
【0013】
上部旋回体3は、旋回モータ(図示省略)によって旋回可能に下部走行体2に支持されている。上部旋回体3は、ベースとなる旋回フレーム5と、旋回フレーム5の前方中央に上下方向に回動可能に取り付けられたフロント作業機4(作業装置)と、旋回フレーム5の前方左側に配置されたキャブ(運転席)7と、旋回フレーム5の後部に配置されたカウンタウェイト6とを主に備える。
【0014】
フロント作業機4は、上部旋回体3に起伏可能に支持されたブーム4aと、ブーム4aの先端に回動可能に支持されたアーム4bと、アーム4bの先端に回動可能に支持されたバケット4cと、ブーム4aを駆動させるブームシリンダ4dと、アーム4bを駆動させるアームシリンダ4eと、バケット4cを駆動させるバケットシリンダ4fとを含む。カウンタウェイト6は、フロント作業機4との重量バランスを取るためのもので、上面視円弧形状を成す重量物である。
【0015】
キャブ7には、油圧ショベル1を操作するオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。そして、キャブ7の内部空間には、オペレータが着席するシートと、シートに着席したオペレータにより操作される操作装置が配置されている。
【0016】
操作装置は、油圧ショベル1を動作させるためのオペレータの操作を受け付ける。オペレータによって操作装置が操作されることによって、下部走行体2が走行し、上部旋回体3が旋回し、フロント作業機4が動作する。なお、操作装置の具体例としては、レバー、ステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダル、スイッチ等が挙げられる。操作装置は、例えば、ブームシリンダ4dを操作するブーム操作レバー7a(
図2参照)と、油圧ショベル1の動作モードを切り替えるモード選択スイッチ7b(
図3参照)とを含む。
【0017】
ブーム操作レバー7aは、オペレータによって操作(倒伏)されることによって、ブームシリンダ4dを伸縮させる。より詳細には、ブーム操作レバー7aの操作量が多いほど、ブームシリンダ4dの伸縮量が多くなる。なお、図示は省略するが、操作装置は、走行モータ、旋回モータ、アームシリンダ4e、及びバケットシリンダそれぞれを操作する操作部(ペダル、レバー)をさらに含む。
【0018】
モード選択スイッチ7bは、油圧ショベル1の動作モードとして、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードを、オペレータに選択させる。そして、モード選択スイッチ7bは、オペレータによって選択された動作モードを示すモード信号を、車体コントローラ21(
図3参照)に出力する。
【0019】
エコモードは、3つの動作モードの中で最も低燃費を重視した動作モードである。ハイパワーモードは、3つの動作モードの中で最も高出力を重視した動作モードである。パワーモードは、エコモード及びパワーモードの中間の動作モードである。すなわち、エコモード、パワーモード、ハイパワーモードの順に燃費が高く、ハイパワーモード、パワーモード、エコモードの順に出力が高い。そして、ハイパワーモードを第1モードとすると、パワーモード及びエコモードが第2モードとなる。また、パワーモードを第1モードとすると、エコモードが第2モードとなる。
【0020】
図2は、油圧ショベル1の駆動回路を示す図である。
図2に示すように、油圧ショベル1は、エンジン10と、作動油タンク11と、油圧ポンプ12と、パイロットポンプ13と、方向制御弁14とを主に備える。
【0021】
エンジン10は、油圧ショベル1を駆動するための駆動力を発生させる。より詳細には、エンジン10は、油圧ショベル1の外部から取り込んだ空気と、インジェクタ15から噴射された燃料とを混合して燃焼させることによって、出力軸16を回転させる。また、エンジン10の回転数(rpm)は、回転数センサ17によって検知される。回転数センサ17は、検知した回転数を示す回転数信号を、エンジンコントローラ22(
図3参照)に出力する。
【0022】
作動油タンク11は、作動油を貯留する。油圧ポンプ12及びパイロットポンプ13は、エンジン10の出力軸16に接続されている。そして、油圧ポンプ12及びパイロットポンプ13は、エンジン10の駆動力によって、作動油タンク11に貯留された作動油を吐出する。
【0023】
図2には、簡易的に油圧アクチュエータのうちブームシリンダ4dのみを図示している。油圧ポンプ12とブームシリンダ4dとの間には方向制御弁14が設けられている。油圧ポンプ12とブームシリンダ4d及び方向制御弁14は配管を介してそれぞれ接続されている。ブーム操作レバー7aが中立状態にある時には油圧ポンプ12は方向制御弁14を介し配管を通じて作動油タンク11と接続されている。油圧ポンプ12は、作動油タンク11に貯留された作動油を、方向制御弁14を通じて油圧アクチュエータ(走行モータ、旋回モータ、ブームシリンダ4d、アームシリンダ4e、バケットシリンダ4f)に供給する。油圧ポンプ12は、吐出容量を変更可能な容量可変型(斜板式、斜軸式)である。油圧ポンプ12の吐出容量は、車体コントローラ21から出力される信号に従って動作するレギュレータ18によって調整される。また、油圧ポンプ12の吐出圧は、吐出圧センサ19によって検知される。吐出圧センサ19は、検知した吐出圧を示す吐出圧信号を、車体コントローラ21に出力する。
【0024】
パイロットポンプ13と方向制御弁14との間にはブーム操作レバー7aが設けられている。パイロットポンプ13と方向制御弁14及びブーム操作レバー7aは、それぞれパイロット配管を介してそれぞれ接続されている。ブーム操作レバー7aが中立状態にある時にはパイロットポンプ13はブーム操作レバー7aを介してパイロット配管を通じて作動油タンク11と接続されている。パイロットポンプ13は、作動油タンク11に貯留された作動油を、ブーム操作レバー7aを通じて方向制御弁14の一対のパイロットポートに供給する。オペレータによってブーム操作レバー7aが一方側に操作(倒伏)されると、一対のパイロットポートの一方にパイロット圧が負荷される。オペレータによってブーム操作レバー7aが他方側に操作(倒伏)されると、一対のパイロットポートの他方にパイロット圧が負荷される。
【0025】
また、パイロットポートに負荷されるパイロット圧は、ブーム操作レバー7aの操作量が多いほど高くなる。そして、パイロットポートに負荷されるパイロット圧は、パイロット圧センサ7cによって検知される。パイロット圧センサ7cは、検知したパイロット圧を示すパイロット圧信号を、車体コントローラ21に出力する。
【0026】
方向制御弁14は、油圧ポンプ12から吐出された作動油を、ブームシリンダ4dのボトム室またはロッド室に供給する。また、方向制御弁14は、パイロットポートに負荷されるパイロット圧に応じて、ブームシリンダ4dへの作動油の供給方向及び供給量を制御する。
【0027】
より詳細には、方向制御弁14は、一方のパイロットポートにパイロット圧が負荷されることによって、ブームシリンダ4dのボトム室に作動油を供給し、ロッド室の作動油を作動油タンク11に還流させる。これにより、ブームシリンダ4dが伸長する。一方、方向制御弁14は、他方のパイロットポートにパイロット圧が負荷されることによって、ブームシリンダ4dのロッド室に作動油を供給し、ボトム室の作動油を作動油タンク11に還流させる。これにより、ブームシリンダ4dが縮小する。また、方向制御弁14は、パイロットポートに負荷されるパイロット圧が高いほど、ブームシリンダ4dへの作動油の供給量を増加させる。
【0028】
図3は、油圧ショベル1のハードウェア構成図である。
図3に示すように、油圧ショベル1は、油圧ショベル1全体を制御する車体コントローラ21と、エンジン10の動作を制御するエンジンコントローラ22とを備える。なお、以下に説明する車体コントローラ21及びエンジンコントローラ22の役割分担は一例なので、本明細書ではこれらを総称して、「コントローラ20」と表記することがある。
【0029】
車体コントローラ21は、モード選択スイッチ7bから出力されるモード信号、パイロット圧センサ7cから出力されるパイロット圧信号、吐出圧センサ19から出力される吐出圧信号、及びエンジンコントローラ22から出力される回転数信号を取得する。そして、車体コントローラ21は、油圧ポンプ12の吐出容量の調整(増大または減少)を指示する信号をレギュレータ18に出力し、エンジン10の目標回転数をエンジンコントローラ22に通知する。
【0030】
エンジンコントローラ22は、回転数センサ17から出力される回転数信号を取得し、車体コントローラ21からエンジン10の目標回転数を取得する。そして、エンジンコントローラ22は、回転数センサ17から取得した回転数信号を車体コントローラ21に出力し、車体コントローラ21から取得した目標回転数に基づいてインジェクタ15の燃料の噴射を制御する。
【0031】
コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)を備える。コントローラ20は、ROMに格納されたプログラムコードをCPUが読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。RAMは、CPUがプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。ROM及びRAMは、メモリの一例である。
【0032】
但し、コントローラ20の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0033】
図4は、エンジン10の回転数及びトルクの関係を示す図である。まず、
図4に実線で示すエンジン10の最大トルクTmaxは、回転数によって変動する。より詳細には、回転数が低い領域では、回転数が上昇するのに伴って最大トルクTmaxも徐々に増大する。一方、最大トルクTmaxが最高点に達した後は、回転数が上昇するのに伴って最大トルクTmaxが徐々に減少する。
【0034】
また、
図4の点線は、エンジン10の燃費率が等しい点を結んだ等燃費線である。燃費率とは、エンジン10の単位出力当たりの時間燃費を表す指標(g/kWh)である。すなわち、燃費率の値が小さいほど、燃費が良いことになる。本実施形態に係るエンジン10は、各回転数において、トルクが大きいほど燃費が高くなる傾向がある。
【0035】
そこで、本実施形態のコントローラ20は、第1回転数N1及び第2回転数N2のいずれかでエンジン10を駆動する。第1回転数N1は、第2回転数N2より低燃費で動作可能な回転数である。第1回転数N1は、例えば、最大トルクTmaxの最高点に対応する回転数より高い値に設定される。一方、第2回転数N2は、第1回転数N1より高い出力Wを発生させることが可能な回転数である。また、第2回転数N2は、第1回転数N1より高い値である。第2回転数N2は、例えば、エンジン10の定格回転数に設定される。
【0036】
すなわち、コントローラ20は、油圧アクチュエータが低負荷で動作している間はエンジン10の目標回転数を第1回転数N1にして、低燃費で油圧ショベル1を動作させればよい。一方、コントローラ20は、油圧アクチュエータの負荷が増大した場合に、エンジン10の目標回転数を第1回転数N1から第2回転数N2に上昇させて、高い出力を発生させればよい。
【0037】
また、
図4の曲線W1、W2は、エンジン10の出力が等しい点を結んだ等出力線である。なお、第2出力値W2は、第1出力値W1より高く設定されている。このように、エンジン10の出力を一定に保つためには、エンジン10の回転数を上昇させるのに伴って、エンジン10のトルクを減少させる必要がある。一方、曲線W1’は、回転数の増加に伴ってエンジン10の出力が徐々に上昇する出力線である。そして、曲線W1、W1’、W2は、回転数及びトルクの関数としてメモリに記憶されている。
【0038】
エンジン10のトルクは、例えば、油圧ポンプ12の吐出容量によって制御することができる。より詳細には、油圧ポンプ12の吐出容量を増大させると、エンジン10のトルクも増大する。一方、油圧ポンプ12の吐出容量を減少させると、エンジン10のトルクも減少する。すなわち、コントローラ20は、エンジン10の回転数を上昇させるのに伴って、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力することによって、エンジン10の出力を一定に保ったまま回転数を切り替えることができる。
【0039】
次に、
図5~
図7Cを参照して、エンジン10の回転数及び油圧ポンプ12の吐出容量を制御する処理を説明する。
図5は、回転数制御処理のフローチャートである。
図6A~
図6Cは、エンジン10の出力Wを算出する方法を説明するための図である。
図7A~
図7Cは、回転数制御処理におけるエンジン10の回転数(A)、トルク(B)、及び出力(C)の時間変化を示す図である。
【0040】
まず、コントローラ20は、回転数センサ17で検知されたエンジン10の回転数を判定する(S11)。そして、コントローラ20は、エンジン10の回転数が第1回転数N1だと判定した場合に(S11:Yes)、ステップS12~S16の処理を実行する。ここでは、油圧アクチュエータの負荷の増大に伴って、エンジン10の出力を
図3の点a0から点cまで増大させる処理を説明する。なお、エンジン10の出力Wを算出する方法は、例えば、以下の3つの方法が考えられる。
【0041】
一例として、エンジン10の出力Wは、エンジン10の回転数とトルクとの積で表される。また、
図6Aに示すように、エンジン10のトルクは、インジェクタ15の燃料噴射量と正の相関関係(より詳細には、比例関係)がある。そして、
図6Aの関係は、予めメモリに記憶されている。コントローラ20は、回転数センサ17で検知されたエンジン10の回転数と、エンジンコントローラ22によって制御されているインジェクタ15の燃料噴射量に対応するトルクとを乗じることによって、エンジン10の出力Wを算出することができる。
【0042】
他の例として、エンジン10の出力Wは、油圧ポンプ12の出力と、油圧ポンプ12のポンプ効率との積で表される。また、油圧ポンプ12の出力は、油圧ポンプ12の吐出圧と、油圧ポンプ12から吐出される作動油の流量との積で表される。さらに、
図6Bに示すように、油圧ポンプ12から吐出される作動油の流量は、ブーム操作レバー7aの操作量(換言すれば、パイロット圧センサ7cで検知されるパイロット圧)と正の相関関係(より詳細には、比例関係)がある。そして、
図6Bの関係は、予めメモリに記憶されている。コントローラ20は、吐出圧センサ19で検知された吐出圧と、パイロット圧センサ7cで検知されたパイロット圧に対応する流量と、予め設定されたポンプ効率とを乗じることによって、エンジン10の出力Wを算出することができる。
【0043】
さらに他の例として、
図6Cに示すように、エンジン10のトルクは、油圧ポンプ12の出力と正の相関関係(より詳細には、比例関係)がある。そして、
図6Bの関係は、予めメモリに記憶されている。コントローラ20は、吐出圧センサ19で検知された吐出圧とパイロット圧センサ7cで検知されたパイロット圧に対応する流量とを乗じることによって、油圧ポンプ12の出力を算出する。そして、コントローラ20は、回転数センサ17で検知されたエンジン10の回転数と、油圧ポンプ12の出力に対応するエンジン10のトルクとを乗じることによって、エンジン10の出力Wを算出することができる。
【0044】
コントローラ20は、エンジン10の出力Wと予め定められた上昇閾値W
th1とを比較する(S12)。また、コントローラ20は、エンジン10の出力Wが上昇閾値W
th1に達するまでは(S12:No)、エンジン10の回転数を第1回転数N1に維持したまま、油圧ポンプ12の吐出容量の増大を指示する信号をレギュレータ18に出力する。これにより、
図7A~
図7Cに示す時刻t0~t1のように、エンジン10の回転数が第1回転数に維持されたまま、エンジン10のトルク及び出力が増大する。
【0045】
上昇閾値Wth1は、エンジン10の回転数を第1回転数N1から第2回転数N2に上昇させる際のエンジン10の出力を示す。上昇閾値Wth1は、第1回転数N1における最大出力より低く設定される。すなわち、コントローラ20は、エンジン10が第1回転数N1で回転している間、エンジン10の出力の上限値を上昇閾値Wth1に制限する。
【0046】
次に、コントローラ20は、
図7Cの時刻t1において、エンジン10の出力Wが上昇閾値W
th1まで増大した場合に(S12:Yes)、エンジン10の回転数を上昇させると共に(S13)、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力する(S14)。そして、コントローラ20は、回転数センサ17で検知される回転数が第2回転数N2に達するまで(S15:No)、ステップS13~S14の処理を繰り返す。
【0047】
ここで、コントローラ20は、エンジン10の回転数を第1回転数N1から第2回転数N2に上昇させる間、エンジン10の出力の下限値を第1出力値W1に設定する。第1出力値W1は、上昇閾値Wth1と同一値である。すなわち、コントローラ20は、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程で、エンジン10の出力が一定になるように、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力する。
【0048】
コントローラ20は、例えば、繰り返し実行するステップS13~S14において、曲線W1に沿って回転数を上昇させ且つ吐出容量を減少させる。換言すれば、コントローラ20は、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程において、エンジン10の出力が第1出力値W1に一致するように、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力する。これにより、
図7Cの実線の時刻t1~t2の間のように、第1出力値W1に維持されるように、回転数の上昇に伴ってトルクが徐々に減少する。
【0049】
次に、コントローラ20は、回転数センサ17で検知される回転数が第2回転数N2に達した場合に(S15:Yes)、エンジン10の回転数を第2回転数N2に維持したまま、油圧ポンプ12の吐出容量の増大を指示する信号をレギュレータ18に出力する(S16)。これにより、
図7Cの実線の時刻t2以降のように、回転数が第2回転数N2に維持された状態で、エンジン10の出力が第2出力値W2になるようにトルクが増大する。
【0050】
なお、ステップS16の目標出力は、エンジン10の要求負荷に応じて変動するものであって、第2出力値W2以下の任意の値に設定される。要求負荷とは、ブーム操作レバー7aを通じてオペレータが要求する目標値(すなわち、ブーム操作レバー7aの操作量に対応する負荷)である。すなわち、コントローラ20は、ステップS16において、第2出力値W2を上限として、エンジン10の出力Wが要求負荷に対応する値になるように、油圧ポンプ12の吐出容量の調整を指示する信号をレギュレータ18に出力する。
【0051】
一方、コントローラ20は、エンジン10の回転数が第2回転数N2だと判定した場合に(S11:No)、ステップS17~S20の処理を実行する。ここでは、油圧アクチュエータの負荷の減少に伴って、エンジン10の出力を
図3の点cから点a0まで減少させる処理を説明する。
【0052】
コントローラ20は、エンジン10の出力Wと予め定められた下降閾値Wth2とを比較する(S17)。また、コントローラ20は、エンジン10の出力Wが下降閾値Wth2に達するまでは(S17:No)、エンジン10の回転数を第2回転数N2に維持したまま、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力する。
【0053】
次に、コントローラ20は、エンジン10の出力Wが下降閾値W
th2まで減少した場合に(S17:Yes)、エンジン10の回転数を下降させると共に(S18)、油圧ポンプ12の吐出容量の調整を指示する信号をレギュレータ18に出力する(S19)。そして、コントローラ20は、回転数センサ17で検知される回転数が第1回転数N1に達するまで(S20:No)、ステップS18~S19の処理を繰り返す。より詳細には、コントローラ20は、繰り返し実行するステップS18~S19において、エンジン10の回転数を第1回転数N1に下降させる過程で、エンジン10の出力Wが要求負荷に対応する値になるように、油圧ポンプ12の吐出容量の調整を指示する信号をレギュレータ18に出力する。なお、エンジン10の回転数が下降する過程におけるエンジン10の出力Wの変化は、エンジン10の回転数が上昇する過程におけるエンジン10の出力Wの変化(すなわち、
図4の曲線W1)と異なる。
【0054】
下降閾値Wth2は、エンジン10の回転数を第2回転数N2から第1回転数N1に下降させる際のエンジン10の出力を示す。下降閾値Wth2は、第1出力値W1より低く設定される。すなわち、コントローラ20は、エンジン10が第2回転数N2で回転している間、エンジン10の出力を第2出力値W2(上限値)から下降閾値Wth2(下限値)に制限する。
【0055】
なお、前述した回転数制御処理は、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードに共通して適用される。すなわち、前述の説明は、油圧ショベル1の動作モードが固定された状態での処理である。一方、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードでは、第1出力値W1及び第2出力値W2が異なる。
図8は、油圧ショベル1の複数の動作モードそれぞれに対応する曲線W1、W2の関係を示す図である。
【0056】
図8に示すように、第1出力値W1は、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードの順に高い値に設定される(W1
E>W1
P>W1
HP)。これに伴って、上昇閾値W
th1もエコモード、パワーモード、及びハイパワーモードの順に高い値に設定される。一方、第2出力値W2は、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードの順に低いに設定される(W2
E<W2
P<W2
HP)。但し、第2出力値W2は、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードで同一の値に設定されてもよい。
【0057】
上記の実施形態によれば、油圧アクチュエータの負荷が小さい間はエンジン10を第1回転数N1に維持することによって、低燃費で油圧ショベル1を動作させることができる。また、油圧アクチュエータの負荷が大きくなると、エンジン10の回転数を第1回転数N1から第2回転数N2に上昇させることによって、油圧アクチュエータの負荷に対応してエンジン10の出力を増大させることができる。
【0058】
ここで、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程において、油圧ポンプ12の吐出容量(換言すれば、エンジン10のトルク)を減少させることによって、エンジン10の回転数を第2回転数N2に素早く到達させることができる。これにより、ブームシリンダ4dの伸縮速度がブーム操作レバー7aの操作量に追従しない時間を短くできる。さらに、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程において、エンジン10の出力を第1出力値W1以上にすることによって、作業性が著しく低下するのを防止できる。その結果、低燃費と作業性の確保とを両立することができる。
【0059】
なお、ステップS11で上昇閾値W
th1と比較するのは、エンジン10の出力に限定されず、油圧ポンプ12の出力でもよい。ステップS17で下降閾値W
th2と比較する対象も同様である。さらに、コントローラ20は、ステップS14において、油圧ポンプ12の出力が第1出力値に一致するように、油圧ポンプ12の吐出容量を減少させてもよい。油圧ポンプ12の出力は、
図6Bを用いて説明した方法で算出できる。
【0060】
また、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程において、エンジン10の出力は第1出力値W1に一致していなくてもよい。他の例として、コントローラ20は、繰り返し実行するステップS13~S14において、
図3に示す曲線W1’に沿って回転数を上昇させ且つ吐出容量を減少させてもよい。換言すれば、コントローラ20は、エンジン10の回転数を第2回転数N2に上昇させる過程において、エンジン10の回転数が高いほどエンジン10の出力が高くなるように、油圧ポンプ12の吐出容量の減少を指示する信号をレギュレータ18に出力する。
【0061】
これにより、
図7Cの破線の時刻t1~t3の間のように、エンジン10の出力が徐々に増大するように、回転数の上昇に伴ってトルクが徐々に減少する。そのため、
図7Bに破線で示すトルクは、実線で示すトルクより緩やかに減少する。一方、
図7Aにおいて、第1回転数N1から第2回転数N2に達するまでの時間は、破線(t1~t3)の方が、実線(t1~t2)より長くなる。
【0062】
すなわち、
図7A~
図7Cの破線に従った制御によれば、
図7A~
図7Cの実線に従った制御と比較して、ブームシリンダ4dの伸縮速度がブーム操作レバー7aの操作量に追従しない時間が長くなる一方で、エンジン10の回転数が第2回転数N2に達するまでの作業性の低下を抑制することができる。
【0063】
また、上記の実施形態によれば、上昇閾値Wth1を第1出力値W1と同一値とし、下降閾値Wth2を第1出力値W1より小さな値とした。これにより、回転数センサ17で検知されたエンジン10の回転数の揺らぎによって、エンジン10の回転数の切り替えが繰り返し行われること(所謂、ハンチング)を防止できる。
【0064】
さらに、上記の実施形態によれば、エコモード、パワーモード、及びハイパワーモードにおける第1出力値W1、第2出力値W2、及び上昇閾値W
th1を、
図8を用いて説明した大小関係とした。これにより、エコモードではエンジン10の回転数が第1回転数N1に維持されやすいので、油圧ショベル1を低燃費で動作することができる。一方、ハイパワーモードではエンジン10の回転数が第2回転数N2に切り替えられやすいので、油圧アクチュエータの高い負荷に対応することができる。
【0065】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 油圧ショベル
2 下部走行体
3 上部旋回体
4 フロント作業機
4a ブーム
4b アーム
4c バケット
4d ブームシリンダ
4e アームシリンダ
4f バケットシリンダ
5 旋回フレーム
6 カウンタウェイト
7 キャブ
7a ブーム操作レバー
7b モード選択スイッチ
7c パイロット圧センサ
8 クローラ
10 エンジン
11 作動油タンク
12 油圧ポンプ
13 パイロットポンプ
14 方向制御弁
15 インジェクタ
16 出力軸
17 回転数センサ
18 レギュレータ
19 吐出圧センサ
20 コントローラ
21 車体コントローラ
22 エンジンコントローラ