(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】真空圧密浚渫工法と気密載荷函体及び真空圧密浚渫船
(51)【国際特許分類】
B63B 35/00 20200101AFI20230804BHJP
E02F 3/88 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
B63B35/00 D
E02F3/88 D
E02F3/88 E
(21)【出願番号】P 2021551169
(86)(22)【出願日】2020-09-16
(86)【国際出願番号】 JP2020036152
(87)【国際公開番号】W WO2021065690
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019192294
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】506101805
【氏名又は名称】近藤 正佳
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正佳
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159692(WO,A1)
【文献】特開昭55-013326(JP,A)
【文献】特開昭57-118989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/00
E02F 3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空圧密浚渫船において、船体の浮体となる台船の船央に気密載荷函体の昇降空間を確保し、船首,船尾には甲板を設け、甲板の一方は作業台車の停留スペースとし、昇降空間を囲んでは前記気密載荷函体の昇降装置を装着する昇降用櫓を設け、昇降空間を挟んでは船の全長方向に作業台車の船上軌道を設けると共に、気密載荷函体を昇降用櫓の最高位置まで引き上げたときには前記作業台車の作業空間が確保され、且つ、作業台車は船上軌道を自在に走行する構造形式を特徴とする真空圧密浚渫船。
【請求項3】
請求項1の延伸軌道装置を装備した真空圧密浚渫船の浚渫土の積み下ろしにおいて、当該真空圧密浚渫船は作業台車に浚渫土バケットを搭載し、前記船上軌道を船外に伸ばして延伸軌道とし、この延伸軌道の支点は専用土運船に取り付けた高さ調整機能のある延伸軌道の受け台とし、この受け台は専用土運船の船腹の浮体中心線上にあり、浚渫土の積み下ろし時には真空圧密浚渫船と専用土運船を一時的に一体化して専用土運船を真空圧密浚渫船のアウトリガーとすることで浚渫土の積み下ろしを安定で且つ迅速にできることを特徴とする真空圧密浚渫船。
【請求項4】
請求項1の延伸軌道装置を装備した真空圧密浚渫船において、作業台車の停留甲板の船上軌道を中空箱型断面軌道とし、対となる2本の箱型断面軌道にはそれぞれ伸縮箱桁を挿入し、さらに対となる伸縮箱桁の先端部は横桁で固定して延伸軌道を構成することで、延伸軌道は常時には船上軌道に収納し、浚渫土の積み下ろし時には船外の延伸軌道となる機能を特徴とする延伸軌道装置を装備した真空圧密浚渫船。
【請求項5】
請求項3の延伸軌道装置を装備した真空圧密浚渫船の浚渫土の積み下ろし時の真空圧密浚渫工法において、延伸軌道の支点となる受け台の高さ調整は浚渫土バケットを搭載した作業台車の延伸軌道上の移動による受け台の増加荷重に合わせて、受け台の高さが変わらないように調整することで、専用土運船の喫水を大きくして浮力の増加を図り、さらには浚渫土の一定量を連続的に投下することで専用土運船の載荷重の変動は小さなものとすることで浚渫土の積み下ろしを安定で且つ迅速にできることを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【請求項6】
請求項1の気密載荷函体において、当該気密載荷函体は函体蓋と函体筒とを脱着構造とし、函体筒の内部にはドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成するが、分割割合は海底土等の浚渫土の種類別に定めたもので、当該気密載荷函体は、浚渫土の種類別に対応したドレーン機能のある函体筒を真空圧密浚渫船の船上で容易に取替えることを特徴とする気密載荷函体。
【請求項7】
請求項1の気密載荷函体において、当該気密載荷函体は外部函体と内部函体の二重函体構造で、外部函体は真空圧密浚渫船の気密載荷函体の前記昇降装置と連結しているが気密性のない構造で、内部函体は気密性が有り、その函体高は外部函体に対して一定に低く、函体長は一方向のみが一定に短く、且つ、内部函体の上面は外部函体の天井面の直下で、内部函体の底面位置は外部函体内部の中段に有り、内部函体は鉛直方向の移動が不可で、一つの水平方向のみが一定長の移動を可とする構造で、当該函体の内部函体の底面の位置を海底土等の表面に合わせると、外部函体の壁高が高い分で海底土等を拘束し、且つ内部函体はセンチメートル単位で正確に移動する機能を有することを特徴とする気密載荷函体。
【請求項8】
請求項7の気密載荷函体を使用する真空圧密浚渫工法の圧密工程において、前記気密載荷函体を海底等の所定の位置に据え付けて真空圧密を進め、所定の圧密時間が経過したならば圧密を中断して、気密載荷函体の内部函体の底面が海底土等の表面になるまで吊り上げ、外部函体で海底土等を拘束した状態で内部函体を水平移動し、分割圧密の位置に合わせて気密載荷函体を据え直して真空圧密を繰り返す分割圧密システムによって、圧密排水距離を計画的に短縮して圧密時間を大幅に縮小することを特徴とする真空圧密浚渫工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船舶の航路・泊地の増深・水深維持における海底,河底,湖底地盤の真空圧密,浚渫そして圧密した浚渫土を埋立,海底盛土等の材料に再使用に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな河川の河口の水域に堆積する土砂は、含水比が大きい軟弱土であることが多い。特に背後に大都市を持つ港湾の水域の堆積土は,生活廃水や工業排水の流入で有機物を多く含んで堆積して超軟弱土となる。軟弱土の特徴は含水比が非常に大きいことであるが、有機物が含むとその含水比は200%と非常に大きくなり、表層の表面部は400%にも及ぶ。表層は浮泥と呼ばれ、密度が極めて小さい流体状の粘性土である。液性限界を超える含水比の軟弱土は形を作らず流体状の粘性土である。
船舶の航行の可否は水深で決まる。そこを航行する最大の船舶の喫水の水深を常に維持しなければならない。このため、恒常的な維持浚渫が必要となる。浚渫した土砂は他の場所へ移動させて埋立などに利用する。海洋,港湾の土木分野では、浚渫工事と埋立などの工事 は一連の工事とすることが多い。浚渫の目的はさまざまである。新規に航路や泊地をつくるための浚渫もあれば、既存の航路の拡幅や増深のための浚渫、水深維持のための浚渫がある。さらには埋立のための土砂の採取、環境対策のための水底汚泥の除去の浚渫などである。
日本において、真空圧密工法は、従来、陸上の地盤改良工法として多く利用されてきたが、海底地盤等にも利用が進められている。海底地盤の真空圧密工法の特徴は何らかの方法で載荷地盤面の気密を保持して、載荷重には大気圧及び水圧を利用する。この工法を環境面から見た特徴は、原位置で水質汚濁を発生させることなく、圧密沈下により海底土の強度増加と減容化が図れることにある。もしも、圧密沈下だけで航路等の水深が確保されたならば浚渫土を一切発生させない水深維持工法となる。
海底地盤の真空圧を活用した工法として真空圧密浚渫工法がある。これは真空圧密と浚渫を一連とした工法である。この工法は気密載荷函体と称する鋼製箱型で地盤の圧密載荷及び浚渫のバケットの役割をする装置が使用される。気密載荷函体の構造は底面開口の箱型構造で、函体の外部上面の中央部分には気水分離気密タンクと函体タワーが取付けられている。また、内部天井面には前記気水分離気密タンクと連通する薄型の真空タンクを設け、これの直下にドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成し、隔室上面には透水性蓋を設けられている。(例えば、特許文献1参照)
真空圧密浚渫工法の作業工程は、気密載荷函体を海底等にセットする据付け工程、次に圧密工程,浚渫工程,浚渫土の運搬工程に分けられる。浚渫工程は当該函体が抱え込んだ中詰土を海底等から吊り上げ,そして函体から押出す工程である。この吊り上げを浚渫土の積み込み、中詰土の押し出しを浚渫土の積み下ろしに相当する。
当該函体は海底にセットされると気密性が確保される。そして、海底土は気密載荷函体の中詰状態となる。圧密工程では海底土を底面開口の当該函体で浚渫可能な強度以上、すなわち、浚渫対象となる海底粘性土の含水比が液性限界以下になるように圧密の進行を図り、浚渫工程では中詰土の上下面の真空圧力差(真空吸引)を利用する。これにより底面開口の気密載荷函体によって圧密と浚渫を一連の工程とする工法を実現している。当該工法は航路の維持浚渫にも利用される。従って、圧密時間のさらなる短縮が課題となっている。
特許文献1の特徴である底面開口の気密載荷函体で浚渫する。これは真空圧密浚渫工法の根幹を成すものなので改めて説明を加える。底面開口の気密載荷函体で中詰土が落下せずに保持できる条件は、中詰土の含水比を液性限界以下まで圧密して函体の中詰土を吊り上げたりする浚渫可能な強度以上とする。当該函体の中詰土の落下力は自重である。これに対する落下防止力は、中詰土の上面の真空吸引力と隔室の壁面付着力である。ここで、中詰土の落下力と落下防止力のつり合いを検討する。当該函体の高さは最大でも2m、十分に圧密の進んだ中詰土の湿潤単位体積重量は16kN/m3程度、真空ポンプによる単位面積当たりの真空吸引力を80kN/m2とすると、32kN/m2<80kN/m2となり、落下防止力は真空吸引力だけで十分である。しかし、真空吸引力は中詰土の上面に作用する吸引力である。従ってこのつり合いは中詰土が一体のものという一体条件が付く。つまり、底面開口の気密載荷函体による中詰土の吊り上げは、中詰土の上面を真空吸引する。このとき中詰土は上面だけが吊り上げられて残り全部が落下しては意味がない。従って、中詰土は自重で分離して落下しない強度が必要となる。この中詰土の一体条件は模型実験で検証した結果、中詰土の含水比を液性限界以下まで圧密することで得られる強度である。
通常、ヘドロのような超軟弱土の圧密進行の特徴は、数秒~十数秒で即時沈下的に数ミリメートルの圧密が進行したら、その後の圧密沈下は極端に鈍化する。このヘドロの特徴を利用した特殊な急速圧密を圧密工程に組み込んだ真空圧密浚渫工法がある。気密載荷函体の中詰土(ヘドロ)の圧密において、ドレーンの排水面に接触している圧密進行中の中詰土の圧密速度が鈍化したら、排水面に付着している既圧密の中詰土を剥ぎ取り、未圧密の中詰土と入れ替えて圧密を繰返し継続する。中詰土の入れ換え方法は、中詰土の循環システムと中詰土の押し下げシステムの二通りがある。この中詰土を入れ替えて圧密を繰返し継続するシステムはここでは繰返し圧密システムと呼ぶ。このシステムは圧密排水距離を極限まで縮小したものである。ただし、圧密の進行は一次圧密の途上で終了していない。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】PCT/JP2017/010246
【文献】PCT/JP2018/019707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧密は通常の方法では長い時間を必要とする。高含水比の軟弱土は特に顕著である。真空圧密浚渫工法による浚渫の対象土は多種多様である。これに対して、従来の気密載荷函体のドレーンは同一構造である。これでは効率的な真空圧密浚渫工法とはならない。課題1は多種多様な浚渫土に対応できる気密載荷函体である。
超軟弱土のヘドロ,浮泥の圧密は極めて長い時間を必要とする。そこで特許文献2では繰返し圧密システムが開発された。しかし、繰返し圧密システムでは中詰土の一次圧密が終了には至らず、平均含水比を液性限界付近まで下げるのがやっとである。このシステムで特に問題なのは、模型実験の結果、中詰土の圧密による密度増加にばらつきが生じたことである。この原因は、中詰土の含水比が液性限界に近づくと密度もそれなりに高くなり、中詰土の圧密した部分と未圧密の中詰土との入れ換え(循環)は、目論見どおりとはならなかった。課題2は繰返し圧密システムに代わる極小排水距離とした確実な圧密システムの確立である。
気密載荷函体の函体隔壁は、鉛直ドレーンとして機能し、圧密排水距離は函体隔壁間隔の1/2である。圧密時間を短縮するには、函体隔壁の間隔を狭くする方法がある。しかし、闇雲に間隔を狭くすれば良いというものでもない。例えば、低塑性粘土の場合は、浚渫工程の中詰土を気密載荷函体から押し出す段階で、中詰土の単位当たりの函体隔壁の周面摩擦力が大きくなり過ぎて中詰土を押し出すことが極めて困難になる。そうであるならば課題1の多種多様な浚渫土に対応できる気密載荷函体の解決手段は、粘土の種類別に当該函体の函体隔壁の間隔を変えれば良いという考えに至る。しかし、従来の真空圧密浚渫船の気密載荷函体の取替えは、当該浚渫船の気密載荷函体の櫓である立体骨組みの解体及び組み立ての必要がある。これは当該浚渫船を艤装岸壁に横付けして行う大規模作業となる。課題3は気密載荷函体の取替えが容易にできる仕組みである。課題1と3は対となる課題である。
真空圧密浚渫船から土運船への浚渫土の積み替えにおいて、特許文献2の真空圧密浚渫船は、これを双胴型の作業船とし、双胴に挟まれた空間は気密載荷函体の設置空間とすると共に土運船を引き入れて浚渫土の積み替えの作業空間としている。この方式は既存の土運船は使えないだけでなく、気密載荷函体の大きさで函体の設置空間の大きさも決まるので、函体の大きさごとの専用土運船を必要とする短所がある。また、浚渫土を直接に陸上げすることができない。課題4は浚渫土の積み下ろしが特定の土運船に限定せず、陸揚げも可能な真空圧密浚渫船である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題1は浚渫土の土質が多種多様なのに対して、従来の気密載荷函体のドレーンは同一構造である。これの解決手段として気密載荷函体を土質の種類別対応とすると、真空圧密浚渫船に装備されている気密載荷函体の取替え作業が頻繁に必要となり、課題3の大規模作業が頻繁に起こる問題が生じる。これら課題1及び3の解決手段の概略は、気密載荷函体を土質の種類別対応とし、気密載荷函体の主要部は分離,脱着構造とする。そして、気密載荷函体の取替えは真空圧密浚渫船の船上で容易にできる仕組みとする。
本発明の海底土等の真空圧密浚渫工法に使用する底面開口の気密載荷函体において、当該気密載荷函体は函体蓋と函体筒とに分離してこれらを脱着構造とする。函体蓋はその内面には透水性板で全面に薄い内部気密タンクを形成し、函体蓋の外面にはこれと一体構造となる気水分離気密タンクを設ける。一方、函体筒の内部にはドレーン機能のある函体隔壁で分割して複数の隔室を形成するが、分割割合は浚渫土の種類別に定めたものとする。当該気密載荷函体は、浚渫土の種類別に対応したドレーン機能のある函体筒を容易に取替え可能なことを特徴とする。ここで、ドレーン機能のある函体隔壁の一例として、函体隔壁の表面に高撥水の濾過材で被覆したものが好適である。
ヘドロ,浮泥の圧密時間は極めて長い。課題2は繰返し圧密システムに代わる極小排水距離とした確実な圧密システムの確立である。これの解決手段の圧密システムは、圧密排水距離を短縮する分割圧密システムである。分割圧密システムは排水距離をセンチメートル単位で短縮させる。ここで、気密載荷函体の函体隔壁の間隔を両面排水の20cmとする。函体隔壁は両面排水であるから排水距離は10cmである。今、真空圧密試験結果では、排水距離H=1cmのヘドロ試料の一次圧密時間が10分であったとすると、排水距離H=10cmの真空沸騰圧密のヘドロの一次圧密時間10分にH2則を適用すると1000分,16.7時間である。今、両面排水20cm幅のヘドロを両面排水2cm刻みで10回の分割圧密をすると、一次圧密の累積時間は100分,1.67時間である。海底で気密載荷函体を据付けて、真空圧密を10分間実施する。そして、気密載荷函体を2cm刻みに据付け直して圧密を10回繰り返す。そうすると、課題2は如何にして気密載荷函体を迅速に且つ正確に2cm刻みで据付け直すことができるかが課題となる。
超軟弱土の真空圧密浚渫工法に使用するセンチメートル単位で据付け直せる気密載荷函体は、底面開口の二重函体構造である。外部函体は真空圧密浚渫船の気密載荷函体の昇降装置と連結しているが上面に開口部が有り気密性のない構造である。この外部函体の開口部は内部函体の上面に突出している気水分離タンクのためにある。内部函体は気密性が有り、外部函体に対してその函体高は一定に低く、函体長は一方向のみが一定に短く、且つ、内部函体の上面は外部函体の天井面の直下で、内部函体の底面位置は外部函体内部の中段とし、内部函体は鉛直方向の移動が不可で、一水平方向のみが一定長の移動を可とする構造である。これにより、当該函体の内部函体の底面の位置を海底土等の表面に合わせると、外部函体の壁高が高い分で海底土等を拘束し、且つ内部函体の移動がセンチメートル単位で正確にできることを特徴とする気密載荷函体である。ここで、内部函体の高さは外部函体の高さの2/3~1/2程度が適当である。また、函体長は函体隔壁の1間隔分だけ短い。なお、内部函体の移動の駆動力は複動式油圧シリンダーが好適である。
本発明の真空圧密浚渫工法の圧密工程における分割圧密は、二重函体構造の機密載荷函体が使われている。本発明の分割圧密は、当該気密載荷函体を海底等の所定の位置に据え付けて真空圧密を進め、所定の圧時間が経過したならば圧密を中断して、気密載荷函体の内部函体の底面が海底土等の表面になるまで吊り上げる。次に外部函体で海底土等を拘束した状態で内部函体を水平移動し、分割圧密の位置に合わせて内部函体を据え直して真空圧密を再開する。これを繰り返す分割圧密システムによって、圧密排水距離を計画的に数センチメートルまで短縮して圧密時間を大幅に短縮することを特徴とする真空圧密浚渫工法である。ここで、所定の圧密時間とは一次圧密時間を指す。分割圧密の一次圧密時間は、分割された厚さの粘土試料による圧密試験から推定する。
課題1と対となる課題3の解決手段は、気密載荷函体の取替えは真空圧密浚渫船の船上で容易にできる仕組みとする。当該真空圧密浚渫船は浮体となる4隻の台船を気密載荷函体の昇降空間を確保して船首,船尾,右舷,左舷に配置して一体化する。昇降空間には気密載荷函体の昇降装置を装着する立体骨組みの櫓を設け、船首,船尾には甲板を設ける。その甲板の一方は作業台車の停留スペースとする。作業台車は浚渫土の積み下ろしの作業時には浚渫土バケットが搭載される。また、作業台車は気密載荷函体の函体筒の取替え時にも使用される。そして、気密載荷函体を最高位置まで引き上げたときには前記作業台車の 作業空間が確保され、且つ、作業台車が船の全長方向に設けた船上軌道及び延伸起動装置による船外の延伸軌道を自在に走行する構造形式を特徴とする真空圧密浚渫船である。気密載荷函体を装備した真空圧密浚渫船における立体骨組の櫓において、前記櫓の鉛直材を気密載荷函体の昇降装置の多段式伸縮柱を収納する外管とし、複数の外管に同時稼動する下向きの多段式伸縮柱を挿入して取付ける。これらの多段式伸縮柱の先端部に気密載荷函体の連結部材を固定する。連結部材の一例として、複数の多段式伸縮柱の先端部を複数の桁で剛結して固定桁組を形成し、この固定桁組は気密載荷函体を取り付けるものである。本発明の真空圧密浚渫船は立体骨組の昇降用櫓に立体多段式伸縮柱及びこれと一体の連結部材を組み込んだことを特徴とする。多段式伸縮柱の駆動力は1本の油圧シリンダーで複数段の伸縮柱を順次送り出す伸縮方式が好適である。
本発明の気密載荷函体は函体蓋と函体筒とに分離してこれらが脱着構造となっている。気密載荷函体の函体蓋は昇降装置の連結部材に連結される。函体筒の取替えは、函体蓋から函体筒を取り外し、作業台車で運搬し、浚渫土の種類別に対応した函体筒と入れ換え、これを函体蓋に取り付けるという船上で行う簡単な作業である。
課題4は浚渫土の積み下ろしが特定の土運船に限定せず、陸揚げも可能な真空圧密浚渫船である。これの解決手段は通常の土運船に特殊装置(延伸軌道の受け台)を取り付けた専用土運船を真空圧密浚渫船のアウトリガーとする方法である。気密載荷函体を装備した真空圧密浚渫船の浚渫土を積み下ろす位置は作業台車の停留側とし、作業台車は底開き構造の浚渫土バケットを搭載する。また、当該真空圧密浚渫船は作業台車の軌道を船外に伸ばす延伸軌道装置を装備する。延伸軌道の船外の支点は高さ調整機能のある受け台を専用土運船に取り付ける。これの取り付け位置は専用土運船の船腹の浮体中心線上とする。当該真空圧密浚渫船は浚渫土の積み下ろし時には専用土運船と一時的に一体化して専用土運船を真空圧密浚渫船のアウトリガーとする機能を備えることで浚渫土の積み下ろしを安定且つ迅速にできる。また、浚渫土の陸揚げも直接容易に行うことができる。
軌道を船外に伸ばす延伸軌道装置は、作業台車停留の甲板の軌道を中空箱型断面軌道とし、2本の箱型断面軌道にはそれぞれ伸縮箱桁を挿入する。伸縮箱桁は対となる先端部を横桁で固定して複合伸縮桁を構成する。船外の軌道の支点の受け台は専用土運船の船腹方向に軌道間隔で横桁を取り付け、この横桁に専用土運船の浮体中心線上に中空柱を固定して高さ調整の伸縮柱を挿入し、伸縮柱の先端に受け台を固定する。浚渫土の積み下ろし時には真空圧密浚渫船と専用土運船を一時的に一体化する。浚渫土の積み下ろしは安定且つ迅速に行うために、船外の支点となる受け台の高さ調整が行われる。高さ調整は浚渫土バケットを搭載した作業台車が、船外の延伸軌道上を移動すると受け台の荷重が増加する。これに合わせて伸縮柱を伸ばして受け台の高さが変わらないように調整をする。つまり、専用土運船の喫水を大きくして浮力と増加荷重のバランスを図る。浚渫土の投下は一定量を連続的に行えば専用土運船の載荷重の変動は小さなものとなる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の真空圧密浚渫工法は、これに使用する気密載荷函体を函体蓋と浚渫土の種類別対応した函体筒とを脱着構造とし、函体筒のみを真空圧密浚渫船の船上で取替えることで浚渫土の種類別の対応を容易で且つ迅速に実施するという効果をもたらした。
また、本発明の分割圧密システムは、二重函体構造の気密載荷函体により、外部函体が浚渫土を拘束しながら、内部函体が水平方向にセンチメートル単位で移動して圧密を繰り返すことで超急速圧密を実施するという効果をもたらした。
また、本発明の真空圧密浚渫船による浚渫土の積み下ろしは、通常の土運船に延伸軌道の受け台を取り付けた専用土運船と一時的に一体化してこれをアウトリガーとする機能を備えることで、浚渫土の積み下ろしは安定で、且つ迅速に行うことができるという効果をもたらした。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1は本発明の真空圧密浚渫船の側面図である。
図2は同真空圧密浚渫船の平面図(A-A線断面図)である。
図3は本発明の函体蓋と函体筒が脱着構造の気密載荷函体の鉛直断面図である。
図4は同気密載荷函体の函体蓋上面の平面図である。
図5は本発明の二重函体構造の気密載荷函体の鉛直断面図である。
図6は同気密載荷函体の外部函体上面の平面図である。
図7は本発明の真空圧密浚渫船の真空圧密工程時の側面図である。
図8は本発明の真空圧密浚渫船の浚渫土の積み下ろし時の側面図である。
図9は同真空圧密浚渫船の平面図(B-B線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を
図1~
図9に基づいて説明する。
図1は本発明の真空圧密浚渫船の側面図で、気密載荷函体を2連装備した例である。
図2は同浚渫船7の平面図(A―A線断面図)である。図において、1は真空圧密浚渫船,1aは台船,1bは気密載荷函体の昇降用櫓,1b1は櫓支柱,1b2は伸縮柱収納外管,1b3は櫓梁,1dは作業台車の船上軌道である。2または3は気密載荷函体、4は作業台車、5は作業操作棟、8は海面、9は海底地盤(海底土)である。当該浚渫船1は台船1a,気密載荷函体の装備用の昇降用櫓1b,作業台車4が走行する船上軌道1d,作業操作棟5から成る。作業台車4はフレーム構造に走行車輪が固定されたものである。なお、気密載荷函体2または3は通常の浚渫土用函体と超軟弱な浚渫土用函体の2タイプに分かれる。
図3は本発明の気密載荷函体2において、函体蓋と函体筒が脱着構造になっている気密載荷函体2の概略鉛直断面図、図の(a)は函体蓋と函体筒が結合状態、図の(b)は分離状態である。
図4は同気密載荷函体2の函体蓋上面の平面図である。図において、2aは気密載荷函体2の函体蓋,2bは函体筒である。1c1は多段式伸縮柱,1c2は気密載荷函体2の連結部材,及び伸縮柱収納外管1b2で気密載荷函体の昇降装置1cを構成する。
図5は本発明の気密載荷函体において、二重函体構造になっている気密載荷函体3の概略鉛直断面図、
図6は同気密載荷函体3の外部函体上面の平面図である。図において、3aは外部函体、3bは内部函体である。本発明の真空圧密浚渫工法の圧密工程の分割圧密は、当該気密載荷函体3を海底の所定の位置に据え付けて真空圧密を進め、所定の圧時間、例えば、一次圧密時間が経過したならば圧密を中断して、内部函体3bの底面が海底土の表面になるまで吊り上げ、外部函体3aで海底土を拘束した状態で内部函体3bを水平移動し、分割圧密の位置に合わせて内部函体3bを据え直して真空圧密を再開する。分割圧密システムはこれを繰り返す。
図7は本発明の真空圧密浚渫船1に装備された気密載荷函体2または3を海底に据えつけた状態の側面図である。図において気密載荷函体2または3は連結部材1c2に連結され、多段式伸縮柱1c1を伸ばして海底に据え付けられる。
図8は本発明の真空圧密浚渫船1から専用土運船に浚渫土の積み下ろし時の側面図、
図9は同平面図(B―B線断面図)である。図において、4は作業台車,6は浚渫土バケット,7は専用土運船である。1e1は延伸軌道,1e2は延伸軌道の受け台で、延伸軌道装置1eを構成する。ここで、本発明の真空圧密浚渫船1は気密載荷函体2または3を最高位置まで引き上げたときには作業台車4の作業空間が確保され、且つ、作業台車4が船の全長方向に設けた船上軌道1dを自在に走行する。
浚渫土の積み下ろしの作業時には浚渫土バケット6が作業台車4に搭載される。図の浚渫土バケット6は底開き構造で、これの長さは気密載荷函体2または3の半分のものである。気密載荷函体から浚渫土バケット6へ浚渫土の半分の積み下ろす方法は、気密載荷函体の真空圧密システムを分割して独立させることで対処する。
浚渫土の積み下ろす方法は、延伸軌道装置1eで延伸軌道1e1を船上軌道1dの延長線上の船外に延伸させ、専用土運船7に取り付けた伸縮軌道の受け台1e2に連結させて真空圧密浚渫船1と専用土運船7を一時的に一体化して専用土運船7を真空圧密浚渫船1のアウトリガーとする。伸縮軌道の受け台1e2は真空圧密浚渫船1の船外の支点となるもので、専用土運船7の船腹の浮体中心線上にあって高さ調整機能を有する。通常の土運船に伸縮軌道の受け台1e2を取り付けて専用土運船7とする。
【符号の説明】
【0009】
1 真空圧密浚渫船
1a 台船
1b 昇降用櫓
1b1 櫓支柱
1b2 伸縮柱収納外管
1b3 櫓梁
1c 気密載荷函体の昇降装置
1c1 多段式伸縮柱
1c2 気密載荷函体の連結部材
1d 船上軌道
1e 延伸軌道装置
1e1 延伸軌道
1e2 延伸軌道の受け台
2 気密載荷函体
2a 同函体蓋
2b 同函体筒
2c 気水分離気密タンク
3 二重函体構造の気密載荷函体
3a 同外部函体
3b 同内部函体
4 作業台車
5 作業操作棟
6 浚渫土バケット
7 専用土運船
8 海面
9 海底地盤(海底土)