(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】洗濯機
(51)【国際特許分類】
D06F 33/47 20200101AFI20230804BHJP
D06F 37/42 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
D06F33/47
D06F37/42 A
(21)【出願番号】P 2019138760
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】孫 昊
(72)【発明者】
【氏名】中尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】亀田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】王 冉
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
【審査官】大内 康裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-217643(JP,A)
【文献】特開2008-264375(JP,A)
【文献】特開2014-087511(JP,A)
【文献】特開平11-239688(JP,A)
【文献】米国特許第6442979(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06F 33/30
D06F 33/40
D06F 37/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転槽と、
前記回転槽を回転駆動させるモータと、
直流電流を交流電流に変換し、前記モータを駆動するインバータ回路と、
前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部により検出された電流をローパスフィルタ処理し、ローパスフィルタ処理された値を処理後の電流値として出力するローパスフィルタ部と、
前記モータの過負荷状態を検知する過負荷検知部と、
前記インバータ回路にモータ駆動指令を送信し、前インバータ回路を通じて前記モータを制御する制御部と、
を備え、
前記過負荷検知部は、前記ローパスフィルタ部により出力された前記処理後の電流値
が第1の値以上である状態において所定時間が経過した場合に、前記モータが過負荷状態であると判定し、
前記処理後の電流値が前記第1の値よりも小さい第2の値である場合に、前記過負荷状態を解除し、
前記制御部は、前記過負荷検知部の判定結果に基づいて、前記モータの回転駆動を制御する、
洗濯機。
【請求項2】
前記回転槽を左右反転させて攪拌動作を行う洗濯時において、
前記制御部は、ON時間及びOFF時間を1サイクルとしてサイクルごとに左右反転させるように前記モータを制御し、
前記ローパスフィルタの時定数は、前記モータのON時間と略同等の時間に設定されている、
請求項1に記載の洗濯機。
【請求項3】
前記制御部は、脱水動作において過負荷状態である場合、前記モータの回転数を低下させる、
請求項1又は2に記載の洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、サーミスタによりステータの巻線の温度を検知する洗濯機を開示する。
【0003】
特許文献1における洗濯機は、水槽と、水槽の内部に回転自在に配設されたドラムと、ドラムを回転駆動させるモータと、モータ等を制御する制御回路と、を備える。モータは、リング状の永久磁石を有するロータと、3相巻線を有するステータと、により構成されており、ステータの巻線の近傍には、温度検知手段であるサーミスタが配設されている。制御回路は、サーミスタの電圧により、ステータの巻線の温度を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、サーミスタ等の部品は高価であり、製造原価が高くなるという課題があった。
【0006】
本開示は、安価な構成によりモータの安全性を向上させる洗濯機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における洗濯機は、回転槽と、前記回転槽を回転駆動させるモータと、直流電流を交流電流に変換し、前記モータを駆動するインバータ回路と、前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部により検出された電流をローパスフィルタ処理し、ローパスフィルタ処理された値を処理後の電流値として出力するローパスフィルタ部と、前記モータの過負荷状態を検知する過負荷検知部と、前記インバータ回路にモータ駆動指令を送信し、前インバータ回路を通じて前記モータを制御する制御部と、を備える。前記過負荷検知部は、前記ローパスフィルタ部により出力された前記処理後の電流値が第1の値以上である状態において所定時間が経過した場合に、前記モータが過負荷状態であると判定し、前記処理後の電流値が前記第1の値よりも小さい第2の値である場合に、前記過負荷状態を解除し、前記制御部は、前記過負荷検知部の判定結果に基づいて、前記モータの回転駆動を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示における洗濯機は、安価な構成によりモータの安全性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1における洗濯機の概略構成を示す縦断面図
【
図3】同洗濯機のモータの各電流値におけるモータ巻線温度の特性図
【
図4】同洗濯機のモータの過負荷状態検知処理のフローチャート
【
図5】同洗濯機のモータのインバータ制御処理のフローチャート
【
図6】同洗濯機のモータ電流(ローパスフィルタ処理後)とモータ駆動指令の関係図
【
図7】実施の形態2における洗濯機のモータのインバータ制御処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。なお、添付図面及び以下の説明によって本発明が限定されるものではない。
【0011】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図6を用いて、実施の形態1を説明する。
【0012】
(洗濯機の基本構成)
図1は、実施の形態1における洗濯機の概略構成を示す縦断面図である。
【0013】
図1に示すように、洗濯機本体1の内部には、有底円筒形に形成された水槽2がサスペンション構造(図示せず)により弾性支持されている。水槽2は、その軸心方向を正面側から背面側に向けて下向きに傾斜させて支持されている。水槽2の内部には、有底円筒形に形成されたドラム3が回転自在に配設されている。ドラム3の内壁面には、洗濯水をドラム3の内外に通過させる通水孔6と、衣類撹拌用の攪拌突起(図示せず)と、が複数形成されている。
【0014】
ドラム3の正面側には、ドーナツ状の流体バランサ15が配設されている。流体バランサ15は、周方向に複数設けられた仕切り板により複数の貯留室(図示せず)に区切られており、それぞれの仕切り板には連通孔が形成されている。流体バランサ15の内部には、例えば塩化カルシウム等の、比重の大きな液体が貯留されている。液体は、連通孔を通じて、ある貯留室から隣の貯留室へと移動できる。洗濯運転時においてドラム3の内部の洗濯物に偏りが生じると、ドラム3に偏心荷重が生じる。液体は、偏心荷重の反対側に移動することで重心の偏りを補正し、ドラム3の振動騒音を低減させる。
【0015】
洗濯機本体1の正面側には、ドラム3の開口端に通じる衣類出入口4が形成されており、衣類出入口4は、扉5により開閉自在に覆われている。使用者は、扉5を開けた状態で、衣類出入口4を通じてドラム3内に洗濯物を出し入れできる。洗濯機本体1の前面上部には、衣類出入口4の上方に入力設定部25(
図2参照)である操作表示パネル10が設けられている。使用者は、操作表示パネル10を操作することにより、所望の運転コースを設定できる。
【0016】
モータ7は、水槽2の下部に配設されている。モータ7は、プーリ14及びベルト16を介して、ドラム3の下底部に設けられた回転中心軸17と連結されている。モータ7の回転駆動力は、プーリ14及びベルト16を介してドラム3に伝達され、ドラム3を正転又は逆転方向に回転させる。
【0017】
注水管路8は、水槽2の上部に配管接続され、排水管路9は、水槽2の下部に配管接続されている。注水管路8及び排水管路9には、給水弁27及び排水弁28が開閉可能に設けられている。給水弁27及び排水弁28をそれぞれ開放することで、水槽2内への注水及び排水が実行される。
【0018】
(モータ駆動装置の構成)
図2は、実施の形態1における洗濯機の回路構成を示すブロック図である。
【0019】
図2に示すように、モータ7を駆動する回路には、整流器21と、チョークコイル22と、平滑コンデンサ23と、が設けられている。商用電源20の交流電圧は、整流器21より整流される。整流された交流電力は、チョークコイル22及び平滑コンデンサ23からなる平滑回路により直流電圧に変換される。従って、インバータ回路24には、変換さ
れた直流電圧が加えられる。
【0020】
インバータ回路24は、6個のパワースイッチング半導体と逆並列ダイオードよりなる3相フルブリッジインバータ回路により構成されている。本実施の形態においては、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)と逆並列ダイオード及びその駆動回路と保護回路を内蔵したインテリジェントパワーモジュール(以下、IPMという)で構成している。インバータ回路24の出力端子には、モータ7が接続されている。また、インバータ回路24は、運転指示や監視情報に基づいて、負荷駆動部26により給水弁27、排水弁28、送風ファン12、ヒートポンプ29の動作を制御する。
【0021】
モータ7は、ブラシレスモータである。モータ7は、回転子を構成する永久磁石と、固定子と、ロータ位置検出部30と、を備えている。ロータ位置検出部30は、3つのホールIC、ホールIC30a、ホールIC30b、及びホールIC30cにより構成されている。ホールIC30a、ホールIC30b、及びホールIC30cは、永久磁石と固定子との相対位置(回転子位置)から、電気角60度ごとの位置出力基準信号を検出する。
【0022】
本実施の形態における電流検出手段は、シャント抵抗(図示せず)により構成されており、インバータ回路24に設けられている。電流検出手段は、モータ7のモータ電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0023】
制御部31は、マイクロコンピュータと、マイクロコンピュータに内蔵したインバータ制御タイマー(PWMタイマー)、高速A/D変換回路、メモリ回路(ROM、RAM)等より構成されている。制御部31は、ロータ位置検出部30の出力信号より電気角を検知し、磁束に対応した電流成分Idとトルクに対応した電流成分Iqに分解する3相/2相dq変換、磁束に対応した電圧成分Vdとトルクに対応した電圧成分Vqを3相モータ駆動制御電圧Vu、Vv、Vwに変換する2相/3相dq逆変換を行い、3相モータ駆動制御電圧Vu、Vv、Vwに応じて駆動回路32のIGBTのスイッチングをPWM制御する。これにより、制御部31は、ステータの3相巻線である巻線7a、巻線7b、巻線7cに対する通電を制御し、モータ7を所要回転数で回転させる。
【0024】
本実施の形態では、制御部31のマイクロコンピュータが、ローパスフィルタ処理部33、及び過負荷検知部34の役割を果たしている。ローパスフィルタ処理部33、及び過負荷検知部34の詳細な動作については、後述する。
【0025】
(洗濯運転の基本動作)
使用者は、扉5を開いてドラム3内に洗濯物及び洗剤を投入し、入力設定部25である操作表示パネル10を操作して運転を開始させる。運転が開始すると、制御部31は、給水弁27を開いて水槽2内に注水する。所定水位に達すると、制御部31は、給水弁27を閉じて洗い動作を開始する。
【0026】
洗い動作において、制御部31は、モータ7を回転駆動させることによりドラム3を回転させる。ドラム3内に収容された洗濯物は、ドラム3の回転に伴い、攪拌突起により回転方向に持ち上げられ、適当な高さ位置から落下して攪拌される。このように、洗い動作においては、洗濯物を持ち上げて落下させる叩き洗いにより汚れが取り除かれる。
【0027】
洗い動作において所定の時間が経過すると、制御部31は、排水弁28を開いて排水管路9から汚れた洗濯液を排出する。続いて、制御部31は、ドラム3を高速回転させる脱水動作により洗濯物に含まれた洗濯液を脱水する。
【0028】
(モータ電流値とモータ巻線温度の関係)
ドラム3に衣類を過剰に収容した場合、ドラム3の回転動作中において衣類がねじれ又はかみこみを起こし、モータ7に過剰な負荷がかかるという課題があった。モータ7に過剰な負荷がかかった状態、即ちモータ過負荷状態においては、モータ7に流れる電流値、即ちモータ電流値が、通常の洗濯運転時におけるモータ電流値よりも高くなる。
【0029】
図3は、実施の形態1における洗濯機のモータの各電流値におけるモータ巻線温度の特性図である。
【0030】
モータ巻線温度とは、3相巻線である巻線7a、巻線7b、巻線7cの温度である。
図3において、横軸は運転時間、縦軸はモータ巻線温度を示しており、各電流値におけるモータ巻線温度の変化を示している。各電流値は、モータ電流A、モータ電流B、モータ電流C、モータ電流Dの順に小さくなるように所定の値に設定されている。
【0031】
一般的に、モータ巻線温度は、モータ電流値の2乗に比例して上昇し、一定時間が経過すると、モータ巻線温度は飽和する。この飽和温度がモータ巻線の耐熱温度を超えている場合、モータ巻線は焼損する虞がある。従って、モータ巻線温度が耐熱温度を超えないようにモータ電流値を制御する必要がある。
【0032】
本実施の形態では、巻線飽和温度がモータ巻線の耐熱温度を超える可能性がある電流値を予め実験的に計測し、当該電流値に基づいて所定の閾値を設定している。モータ電流値が所定の閾値を上回った状態で所定時間が経過した場合、モータ過負荷状態であると定義する。
【0033】
(過負荷状態検知処理及びインバータ制御処理)
図4は、実施の形態1における洗濯機のモータの過負荷状態検知処理のフローチャート、
図5は、同洗濯機のモータのインバータ制御処理のフローチャートである。
【0034】
洗濯運転において、制御部31は、過負荷状態検知処理を開始するとともに(S101)、
図5に示すインバータ制御処理を開始する。なお、二つの処理は平行して独立に行われており、それぞれの時間間隔で繰り返し実行される。
【0035】
初めに、過負荷状態検知処理について説明する。
【0036】
図4に示すように、過負荷検知部34は、過負荷状態検知処理を開始すると(S101)、モータ電流値のローパスフィルタ処理を行う(S102)。
【0037】
本実施の形態におけるローパスフィルタ処理は、前回のモータ電流値と今回のモータ電流値との変化分を算出し、変化分を一定比率で低減して前回検出した電流に足し合わせている。これらの処理は、マイクロコンピュータであるローパスフィルタ処理部33で演算処理されている。一般に、モータ起動時に流れる電流値は、瞬間的に大きな電流値となり、徐々に一定値に収束していくことが知られている。ローパスフィルタ処理を行うことで、モータ電流値の計測値から入力電流による成分を取り除き、瞬間的に大きな電流が流れることによる過負荷状態の誤検知を抑制できる。なお、ローパスフィルタの時定数は、モータ駆動のON時間と略同等の時間(例えば、10秒)に設定している。
【0038】
次に、過負荷検知部34は、ローパスフィルタ処理後のモータ電流値と閾値αとを比較して、モータ過負荷状態であるか判定する(S103)。S103において、モータ電流値がαを下回った場合(S103,No)、又はモータ電流値がα以上の状態で所定時間t1が経過していない場合、過負荷状態検知処理を終了する(S107)。これにより、モータ電流値が瞬間的にα以上の値となった場合にモータ過負荷状態と誤検知することを
抑止する。
【0039】
S103において、モータ電流値がα以上の状態で所定時間t1が経過した場合、(S103,Yes)、過負荷検知部34は、モータ過負荷状態セットを行う、即ち、モータは過負荷状態であると設定する(S104)。
【0040】
前述の通り、モータ過負荷状態においては、モータ巻線温度が耐熱温度を超える虞がある。従って、ローパスフィルタ処理後のモータ電流値が所定値以下になるまで、モータ巻線を放冷しなければならない。本実施の形態では、閾値αの三分の一の値である閾値βが設けられており、モータ電流値が閾値β以下となればモータ過負荷状態ではないと判定される。
【0041】
過負荷検知部34は、ローパスフィルタ処理後のモータ電流値と閾値βとを比較する(S103)。S105において、モータ電流値が閾値βを上回れば(S105,No)、過負荷状態検知処理を終了する(S107)。
【0042】
S105において、モータ電流値が閾値β以下であれば(S105,Yes)、モータ過負荷状態クリア、即ち、モータ過負荷状態であるとの判定を解除する(S106)。その後、過負荷状態検知処理を終了する(S107)。
【0043】
次に、インバータ制御処理について説明する。
【0044】
図5に示すように、制御部31は、インバータ制御処理を開始する(S201)。制御部31は、モータ駆動指令を出すことにより、駆動回路32にIGBTのスイッチングをPWM制御させる。(S202)。これにより、モータ7は、モータ駆動指令に基づいてドラム3を回転駆動させる。
【0045】
S203において、モータ過負荷状態がセットされている場合(S203,Yes)、制御部31は、駆動回路32にPWMの出力を停止させる(S204)。その後、インバータ制御処理を終了する(S205)。モータ過負荷状態がセットされていない場合(S203,No)、インバータ制御処理を終了する(S205)。
【0046】
続いて、本実施例におけるモータ電流値(ローパスフィルタ処理後)とモータ駆動指令の特性について説明する。
【0047】
図6は、実施の形態1における洗濯機のモータ電流(ローパスフィルタ処理後)とモータ駆動指令の関係図である。横軸は運転時間、左縦軸はローパスフィルタ処理後のモータ電流値、右縦軸はモータ駆動指令である。
【0048】
洗濯時の攪拌時限は、ON状態で10秒間、及びOFF状態で1秒間、を1サイクルとし、サイクル毎に左右反転しながら攪拌動作を行う。このとき、ローパスフィルタ処理後のモータ電流値は、攪拌ON時には上下に振動しながら上昇し、攪拌OFF時には徐々に低下する。
図4に示す過負荷状態検知処理においてモータ過負荷状態がセットされると、
図5に示すインバータ制御処理においてPWM出力が停止される。PWM出力が停止されている期間においては、モータ電流が流れないため、ローパスフィルタ処理後のモータ電流値は徐々に低下する。
【0049】
ローパスフィルタ処理後のモータ電流値は、モータ電流値が大きくなるに従って、電流値の低下にかかる時間が長くなることが知られている。従って、モータ電流値が大きい場合には、モータ電流値が閾値β以下となるまでの時間が長くなり、結果としてモータ駆動
が停止されている期間が長くなる。これにより、モータ電流値が閾値α以上の状態において所定時間t1が経過するまでにモータ電流値が急上昇した場合であっても、モータ電流値に応じて放冷時間が長くなるため、モータ巻線温度をより確実に低下させることができる。
【0050】
ローパスフィルタ処理後のモータ電流値が閾値βを下回ると、
図4に示す過負荷状態検知処理においてモータ過負荷状態がクリアされる。すると、
図5に示すインバータ制御処理においてPMW出力が再開される。
【0051】
以上の通り、ローパスフィルタ処理後のモータ電流に基づいてモータ過負荷状態を検知し、モータ巻線温度を耐熱温度以内に抑制することで、従来よりも安価にモータの安全機能を実現できる。
【0052】
(作用等)
本実施の形態におけるドラム式洗濯機は、ドラム3と、ドラム3を回転駆動させるモータ7と、直流電流を交流電流に変換し、モータ7を駆動するインバータ回路24と、モータ7に流れる電流を検出する電流検出部と、電流検出部により検出された電流をローパスフィルタ処理し、ローパスフィルタ処理された値を処理後の電流値として出力するローパスフィルタ処理部33と、モータ7の過負荷状態を検知する過負荷検知部34と、インバータ回路24にモータ駆動指令を送信し、インバータ回路24を通じてモータ7を制御する制御部31と、を備える。
【0053】
過負荷検知部34は、ローパスフィルタ処理部33により出力された処理後の電流値に基づいて、モータ7が過負荷状態であると判定し、制御部31は、過負荷検知部34の判定結果に基づいて、モータ7の回転駆動を制御する。
【0054】
これにより、温度ヒューズやサーミスタ等の別部品を設けることなく、モータ電流値の変化からモータ巻線温度の上昇を検知できる。従って、モータ巻線温度が過剰に上昇することを抑制し、安価にモータの安全性を実現できる。
【0055】
また、本実施の形態のように、過負荷検知部34は、処理後の電流値が第1の値であるα以上である状態において所定時間が経過した場合に、モータ7が過負荷状態であると判定し、処理後の電流値が第1の値であるαよりも小さい第2の値であるβである場合に、モータ過負荷状態を解除してもよい。
【0056】
これにより、モータ7が過負荷状態であると判定されて駆動停止した時から、モータ電流値がβを下回るまでの時間は、モータ電流値が大きくなるに従って長くなる。そのため、巻線温度が高くなる可能性が高い場合には、放熱時間を長く取ることができるので、安価にモータの安全性を実現できる。
【0057】
(実施の形態2)
実施の形態2にかかる洗濯機は、脱水動作時のインバータ制御処理において、実施の形態1にかかる洗濯機100と異なる。以下、実施の形態1と同様の構成については同様の符号を用いて、実施の形態2を説明する。
【0058】
図7は、実施の形態2における洗濯機のモータのインバータ制御処理のフローチャートである。
【0059】
制御部31は、インバータ制御処理を開始する(S301)。制御部31は、PWM出力停止履歴がセットされているか否か、即ち、前回のインバータ制御処理においてモータ
過負荷状態に起因して停止したという履歴が設定されているか否か判定する(S302)。PWM出力停止履歴がセットされている場合(S302、Yes)、モータ7の回転数が下がるようにモータ駆動指令を送信する(S303)。例えば、脱水回転数が1400rpmである場合に過負荷状態を検知したときは、次回のインバータ制御処理において脱水回転数を1300rpmに下げる。
【0060】
S304において、制御部31は、PWM出力停止履歴をクリアする、即ち、前回のインバータ制御処理においてモータ過負荷状態に起因して停止したという履歴を解除する(S304)。
【0061】
S305において、駆動回路32は、制御部31から受信したモータ駆動指令に従ってPWM出力を行う(S305)。
【0062】
ステップ306において、制御部31はモータ過負荷状態を参照する(S306)。モータ過負荷状態がセットされている場合(S306,Yes)には、駆動回路32にPWM出力を停止させ(307)、PWM出力停止履歴をセットする(S308)。その後、インバータ制御処理を終了する(309)。所定時間が経過すると、次回のインバータ制御処理が開始される(S301)。
【0063】
以上のインバータ制御処理(S301~S309)の繰り返しにより、モータ電流値が過負荷電流値以下となるように、モータ7の回転数を調整する。
【0064】
特に、脱水動作においては、モータ誘起電圧の上昇に合わせて弱め磁束制御を行っているため、回転数が上昇するにつれてモータ電流が増加する。従って、モータ7の回転数を調整することにより、モータ巻線温度が過剰に上昇することを効果的に抑制できる。
【0065】
(作用等)
本実施の形態におけるドラム式洗濯機は、ドラム3と、ドラム3を回転駆動させるモータ7と、直流電流を交流電流に変換し、モータ7を駆動するインバータ回路24と、モータ7に流れる電流を検出する電流検出部と、電流検出部により検出された電流をローパスフィルタ処理し、ローパスフィルタ処理された値を処理後の電流値として出力するローパスフィルタ処理部33と、モータ7の過負荷状態を検知する過負荷検知部34と、インバータ回路24にモータ駆動指令を送信し、インバータ回路24を通じてモータ7を制御する制御部31と、を備える。過負荷検知部34は、ローパスフィルタ処理部33により出力された処理後の電流値に基づいて、モータ7が過負荷状態であると判定し、制御部31は、脱水動作において過負荷状態である場合、モータ7の回転数を低下させる。
【0066】
これにより、回転数が上昇するにつれてモータ電流が増加する脱水動作において、モータ7の回転数を調整することにより、モータ巻線温度が過剰に上昇することを効果的に抑制できる。
【0067】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1及び2を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されない。
【0068】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0069】
実施の形態1及び2では、洗濯機の一例としてドラム式洗濯機を説明した。洗濯機は、回転槽をモータにより回転駆動させるものであればよい。従って、洗濯機は、ドラム式洗濯機に限定されず、縦型洗濯機又は二槽式洗濯機であってもよい。
【0070】
実施の形態1及び2では、パワースイッチング半導体の一例として、IGBTを説明した。パワースイッチング半導体は、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)などで構成してもよい。
【0071】
実施の形態1及び2では、電流検出部の一例として、シャント抵抗を説明した。電流検出部は、直流電流を含む低周波数から直流電流トランス又は交流電流トランスを測定する手法を用いても良い。また、3相モータの場合、2相の電流を求め、キルヒホッフの法則(Iu+Iv+Iw=0)より残りの1相を求める方法を用いても良い。
【0072】
実施の形態1及び2では、ロータ位置検出部の一例として、ホールICによる出力基準信号H1~H3に基づいてロータの位置を検出するロータ位置検出部30を説明した。ロータ位置検出部は、ホールICを用いるものに限定されない。ロータ位置検出部は、モータの相電流と3相モータ駆動制御電圧からロータ位置を演算により検出してもよい。
【0073】
実施の形態1及び2では、ローパスフィルタ部の一例として、マイクロコンピュータ内の演算処理を説明したが、これに限定されるものではない。ローパスフィルタ部として、抵抗及びコンデンサを用いて、回路上でローパスフィルタ構成を実現してもよい。また、実施の形態1及び2では、ローパスフィルタ処理の一例として、前回のモータ電流値と今回のモータ電流値との変化分を算出し、変化分を一定比率で低減して前回検出した電流に足し合わせた構成を説明した。ローパスフィルタ処理は、この方式に限定されるものではない。例えば、単純な移動平均値を用いてもよい。
【0074】
実施の形態1及び2では、ローパスフィルタ処理の一例として、過負荷状態検知処理の一環として実施されるローパスフィルタ処理(S102)を説明した。ローパスフィルタ処理の実施のタイミングは、ステップ102に限定されず、過負荷状態検知処理と独立して実施されてもよい。
【0075】
実施の形態1及び2では、モータ過負荷状態ではないと判定する基準値として、閾値αの三分の一の値である閾値βを説明した。基準値は、モータ過負荷状態ではないと判定できればよいので、閾値αの三分の一に限定されない。
【0076】
実施の形態1では、モータ過負荷状態におけるモータの回転駆動の制御の一例として、モータ過負荷状態においてモータ7の駆動を停止する例を説明した。モータ過負荷状態におけるモータの回転駆動の制御は、駆動の停止に限定されない。例えば、洗濯時の攪拌時限を変更し、ON状態の時間を短くし、OFF状態の時間を長くしてもよい。
【0077】
実施の形態1では、過負荷検知部の判定結果に基づいて、モータの回転駆動を制御する方法として、モータ過負荷状態においてモータ7の駆動を停止する例を説明した。モータの回転駆動を制御する方法は、モータ過負荷状態におけるモータ7の駆動停止に限定されず、洗濯運転の停止であってもよい。例えば、所定回数以上、モータ過負荷状態であると判定された場合、モータ7に異常があると判定してもよい。モータ7に異常があると判定された場合、洗濯運転を停止して異常報知してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示は、回転槽をモータにより回転駆動させる装置に適用可能である。具体的には、縦型洗濯機、ドラム式洗濯機、二槽式洗濯機などに、本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 洗濯機本体
2 水槽
3 ドラム
4 衣類出入口
5 扉
6 通水孔
7 モータ
7a、7b、7c 巻線
8 注水管路
9 排水管路
10 操作表示パネル
12 送風ファン
14 プーリ
15 流体バランサ
16 ベルト
17 回転中心軸
20 商用電源
21 整流器
22 チョークコイル
23 平滑コンデンサ
24 インバータ回路
24a~24f スイッチング素子
25 入力設定部
26 負荷駆動部
27 給水弁
28 排水弁
29 ヒートポンプ
30 ロータ位置検出部
30a、30b、30c ホールIC
31 制御部
32 駆動回路
33 ローパスフィルタ処理部
34 過負荷検知部