(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】有機導電体用の添加剤およびその製造方法、有機導電体、ならびに電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
C08K 5/42 20060101AFI20230804BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20230804BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20230804BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20230804BHJP
C07C 309/57 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
C08K5/42
C08L101/12
C08L65/00
H01G9/028 G
C07C309/57
(21)【出願番号】P 2022521789
(86)(22)【出願日】2021-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2021015917
(87)【国際公開番号】W WO2021230013
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020084774
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】松澤 伸行
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 宏行
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-090324(JP,A)
【文献】特開平11-072969(JP,A)
【文献】特開2004-161994(JP,A)
【文献】国際公開第2014/087617(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131476(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
H01G 9/028
C07C 309/57
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレン環と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも1つのカルボキシ基と、を含み、
前記スルホン酸基の個数が2である場合、各スルホン酸基を第1スルホン酸基および第2スルホン酸基とし、前記第1スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子および前記第2スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子をそれぞれ第1炭素原子および第2炭素原子とするとき、前記第1炭素原子と前記第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数nは3以下であ
り、
下記式(1):
【化1】
(式中、R
1
~R
8
のそれぞれは、水素原子、スルホン酸基、カルボキシ基または第1置換基であり、R
1
~R
8
の少なくとも2つはスルホン酸基であり、R
1
~R
8
の少なくとも1つはカルボキシ基であり、R
1
~R
8
から選択される2つは、互いに連結してナフタレン環に縮合する非芳香族性の環Zを形成してもよい。環Zは、第2置換基を有していてもよい。R
1
~R
8
のうち2つがスルホン酸基であるとき、R
2
およびR
6
の双方がスルホン酸基である場合およびR
3
およびR
7
がスルホン酸基である場合は除外される。)
で表され、
前記第1置換基は、電子供与性基、スルホン酸基およびカルボキシ基以外の電子求引性基、または炭化水素基であり、
前記第2置換基は、電子供与性基、電子求引性基、または炭化水素基である、有機導電体用の添加剤。
【請求項2】
前記炭素原子の個数nが2または1である、請求項1に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項3】
前記スルホン酸基の個数は2である、請求項1または2に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項4】
前記カルボキシ基の個数は1であり、
前記第1スルホン酸基、前記第2スルホン酸基、および前記カルボキシ基からなる群より選択される2つの基が、前記ナフタレン環を構成する一方のベンゼン環に結合し、残る1つの基が他方のベンゼン環に結合している、請求項3に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項5】
前記一方のベンゼン環に結合した前記2つの基が、m-位の位置関係である、請求項4に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項6】
前記一方のベンゼン環に結合した前記2つの基のそれぞれが前記第1スルホン酸基および前記第2スルホン酸基である、請求項4または5に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項7】
ナフタレン環と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも1つのカルボキシ基と、を含み、
前記スルホン酸基の個数が2である場合、各スルホン酸基を第1スルホン酸基および第2スルホン酸基とし、前記第1スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子および前記第2スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子をそれぞれ第1炭素原子および第2炭素原子とするとき、前記第1炭素原子と前記第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数nは3以下であり、
6,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、5,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、3,6-ジスルホ-1-ナフトエ酸化合物、4,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、有機導電体用の添加剤。
【請求項8】
6,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、および5,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項9】
有機導電体に含まれる共役系高分子に対する相互作用エネルギーが、-14kcal/mol以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の有機導電体用の添加剤。
【請求項10】
共役系高分子と、請求項1~
9のいずれか1項に記載の添加剤と、を含む、有機導電体。
【請求項11】
前記共役系高分子は、ピロール化合物に対応するモノマー単位を含む、請求項
10に記載の有機導電体。
【請求項12】
表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層の一部を覆う固体電解質と、を含み、
前記固体電解質は、請求項
10または
11に記載の有機導電体を含む、電解コンデンサ。
【請求項13】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の有機導電体用の添加剤を製造する方法であって、
ナフタレン環と、前記ナフタレン環に結合した前記少なくとも2つのスルホン酸基と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも1つのアミノ基とを有するナフタレン化合物を準備する工程と、
前記アミノ基をシアノ基に変換する工程と、
前記シアノ基を加水分解して前記カルボキシ基に変換し、前記添加剤を生成させる工程と、を備える、有機導電体用の添加剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機導電体用の添加剤およびその製造方法、有機導電体、ならびに電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリチオフェンまたはポリピロールなどの共役系高分子は、ドーパントの添加により導電性を示す。ドーパントが添加された共役系高分子は導電性高分子または有機導電体などと呼ばれている。また、近年では、自己ドープ型の有機導電体も開発されている。有機導電体は、共役系高分子の種類または添加剤(ドーパントなど)の種類などを選択することにより、性能をある程度制御することができるとともに、安価で軽量であることから様々な電子部品に用いられている。添加剤のドーパントとしては、プロトン付加型の化合物および電子酸化型の化合物などが用いられている。
【0003】
例えば、固体電解コンデンサの固体電解質層に、有機スルホン酸を添加することが提案されている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-108650号公報
【文献】国際公開第2019/131476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機導電体を用いた電子デバイスにおいて、高湿度環境下で動作をさせると、容量劣化および抵抗値上昇が引き起こされることがある。これは、高湿度環境下では、有機導電体中に水分子が吸着され、添加剤分子が共役系高分子から引き剥がされてしまうことによると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1側面は、ナフタレン環と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも1つのカルボキシ基と、を含み、
前記スルホン酸基の個数が2である場合、各スルホン酸基を第1スルホン酸基および第2スルホン酸基とし、前記第1スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子および前記第2スルホン酸基が結合する前記ナフタレン環の炭素原子をそれぞれ第1炭素原子および第2炭素原子とするとき、前記第1炭素原子と前記第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数nは3以下である、有機導電体用の添加剤に関する。
【0007】
本開示の第2側面は、共役系高分子と、上記の添加剤と、を含む、有機導電体に関する。
【0008】
本開示の第3側面は、表面に誘電体層を備える陽極体と、前記誘電体層の一部を覆う固体電解質と、を含み、
前記固体電解質は、上記の有機導電体を含む、電解コンデンサに関する。
【0009】
本開示の第4側面は、上記の有機導電体用の添加剤を製造する方法であって、
ナフタレン環と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、前記ナフタレン環に結合した少なくとも1つのアミノ基とを有するナフタレン化合物を準備する工程と、
前記アミノ基をシアノ基に変換する工程と、
前記シアノ基を加水分解して前記カルボキシ基に変換し、前記添加剤を生成させる工程と、を備える、有機導電体用の添加剤の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
有機導電体の耐湿性を顕著に高めることができる添加剤、優れた耐湿性を有する有機導電体およびそれを用いた電解コンデンサを提供できる。
【0011】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の有機導電体用の添加剤は、ナフタレン環と、ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、ナフタレン環に結合した少なくとも1つのカルボキシ基と、を含む。スルホン酸基の個数が2である場合、各スルホン酸基を第1スルホン酸基および第2スルホン酸基とし、第1スルホン酸基が結合するナフタレン環の炭素原子および第2スルホン酸基が結合するナフタレン環の炭素原子をそれぞれ第1炭素原子および第2炭素原子とする。このとき、第1炭素原子と第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数nは3以下である。
【0014】
このような添加剤は、共役系高分子の電子を引き抜いて、絶縁体または半導体から良導体に変換する作用を有する。そのため、このような作用を有する添加剤は、一般に、ドーパントと呼ばれている。上記の添加剤と共役系高分子とを含む有機導電体を、電解コンデンサの固体電解質層に用いると、電解コンデンサを高湿度環境下で動作させたときの等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance:ESR)の変化率を顕著に低減できることが明らかとなった。高湿度環境下で電解コンデンサを動作させたときのESRの変化率を、以下、単にΔESRと称することがある。ΔESRは、高温(例えば、80℃以上)において特に大きくなる傾向がある。そのため、比較的低温(例えば、60℃以下)ではΔESRの増加がそれほど問題にならない場合でも、高温ではΔESRの増加が顕著になることがある。
【0015】
上記の添加剤は、ナフタレン環において比較的近い位置に少なくとも2つのスルホン酸基を有する。そのため、少なくとも2つのスルホン酸基が共役系高分子に近づき易くなる。また、ナフタレン環にカルボキシ基が結合していることで、カルボキシ基よりもスルホン酸基が優先して共役系高分子に近接し易くなるとともに、カルボキシ基の電子求引性により添加剤の電子アクセプター性能を全体として高めることができる。よって、添加剤と共役系高分子との結合力が大きくなると考えられる。そのため、高湿度環境下で有機導電体が水分子を吸着しても、添加剤分子が共役系高分子から引き剥がされることが大幅に抑制され、有機導電体の抵抗の増加が抑制され、高い導電性が維持されると考えられる。これにより、ΔESRが顕著に低減されると考えられる。上記の添加剤を用いることによるこのような効果は、高温(例えば、80℃以上)かつ高湿度環境下でも確保することができる。なお、1つのスルホン酸基と2つ以上のカルボキシ基とを有するナフタレン化合物では、カルボキシ基で共役系高分子に配位することがある。この場合、添加剤の電子アクセプター性能が低くなり、添加剤と共役系高分子との結合力が全体として低下し易くなり、有機導電体の抵抗の増加を抑制する効果が低くなると考えられる。このように、上記の添加剤は、高湿度環境下における有機導電体の抵抗の増加を抑制でき、有機導電体の耐湿性を顕著に高めることができる。添加剤を含む有機導電体を電解コンデンサの固体電解質に用いた場合には、高湿度環境下でのΔESRの増加を抑制できる。なお、ドーパントである添加剤分子が共役系高分子から引き剥がされることを、脱ドープと称することがある。
【0016】
ナフタレン環を構成する炭素の位置番号は、下記式(I)の通りである。
【0017】
【0018】
本明細書中、個数nは、ナフタレン環において、第1炭素原子と第2炭素原子とを連結する炭素鎖のうち、最も短い炭素鎖に着目したときに、第1炭素原子と第2炭素原子との間に位置する炭素原子の個数である。このように、個数nは、第1炭素原子と第2炭素原子との間に位置する炭素原子の個数nが最も少なくなるように決定される。個数nには、第1炭素原子および第2炭素原子の数は含まれない。なお、炭素鎖は、ナフタレン環を構成する炭素鎖であり、ナフタレン環が有する置換基は含まない。例えば、下記式(ia)で表される4,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸の場合、4位の第1炭素原子と8位の第2炭素原子とを連結する炭素鎖のうち、最も短い炭素鎖は、4位、4a位、8a位および8位の炭素原子をこの順に連結する炭素鎖である。4位の第1炭素原子と8位の第2炭素原子との間には、8a位および4a位の2つの炭素原子が介在するため、個数nは2である。下記式(ib)で表される4,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸の場合、4位の第1炭素原子と7位の第2炭素原子とを連結する炭素鎖のうち、最も短い炭素鎖は、4位、4a位、8a位、8位、および7位の炭素原子をこの順に連結する炭素鎖(または4位、4a位、5位、6位および7位の炭素原子をこの順に連結する炭素鎖)である。4位の第1炭素原子と7位の第2炭素原子との間には、4a位、8a位、および8位(または4a位、5位および6位)の3つの炭素原子が介在するため、個数nは3である。
【0019】
【0020】
本開示の添加剤は、スルホン酸基の個数が2である場合には、nは3以下であるため、ナフタレン環の2位および6位の双方にスルホン酸基が結合した化合物、および3位および7位の双方にスルホン酸基が結合した化合物を包含しない。これらの化合物においては、nは4になるためである。
【0021】
スルホン酸基の個数が3以上である場合には、最も近い位置に位置する2つのスルホン酸基が結合する2つの炭素原子に着目して、この2つの炭素原子間に介在する炭素原子の個数を、上記のスルホン酸基の個数が2である上記の場合に準じて求めると、3以下になる。
【0022】
なお、添加剤および有機導電体において、スルホン酸基は、遊離(-SO3H)またはアニオン(-SO3
-)の形態で含まれていてもよく、塩の形態で含まれていてもよい。有機導電体においては、スルホン酸基は、共役系高分子に結合または相互作用した形態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態のスルホン酸基を含めて単に「スルホン酸基」と称することがある。同様に、添加剤および有機導電体において、カルボキシ基は、遊離(-COOH)またはアニオン(-COO-)の形態で含まれていてもよく、塩の形態で含まれていてもよい。有機導電体においては、カルボキシ基は、共役系高分子に結合または相互作用した形態で含まれていてもよい。本明細書中、これらの全ての形態のカルボキシ基を含めて単に「カルボキシ基」と称することがある。なお、塩は、スルホン酸アニオンまたはカルボン酸アニオンと、有機塩基(有機アミン、有機アンモニウムなど)および無機塩基(金属水酸化物、アンモニアなど)のいずれの塩基との塩であってもよい。
【0023】
以下に、本開示の有機導電体用の添加剤およびその製造方法、有機導電体、ならびに電解コンデンサについて、より具体的に説明する。
【0024】
[有機導電体用の添加剤]
添加剤は、ナフタレン環に結合した3つ以上のスルホン酸基を有する。あるいは、添加剤が、2つのスルホン酸基を有する場合には、この2つのスルホン酸基のそれぞれが結合する第1炭素原子および第2炭素原子の間に介在する炭素原子の個数nは、3以下である。このように本開示の添加剤では、少なくとも2つのスルホン酸基が、ナフタレン環において比較的近くに位置する。これにより、上述のように、共役系高分子に対する高い結合力が得られ、高湿度環境下でも有機導電体の抵抗の増加を抑制できると考えられる。高湿度環境下における有機導電体の抵抗の増加をさらに抑制する観点からは、個数nは、2または1であることが好ましい。
【0025】
スルホン酸基の個数は、少なくとも2であり、2~5であってもよく、2または3であってもよい。カルボキシ基の電子求引性が発揮されやすい観点からは、スルホン酸基の個数は、2が好ましい。
【0026】
カルボキシ基の個数は、少なくとも1であり、1~6または1~4であってもよく、1または2であってもよい。共役系高分子にスルホン酸基が優先的に配位し易い観点から、ナフタレン環におけるカルボキシ基の個数は、2以下が好ましく、1がより好ましい。
【0027】
添加剤は、ナフタレン環に、スルホン酸基およびカルボキシ基以外の第1置換基を有していてもよい。第1置換基を有する化合物も、本開示の添加剤に包含される。第1置換基としては、電子供与性基、スルホン酸基およびカルボキシ基以外の電子求引性基などであってもよいが、スルホン酸基およびカルボキシ基のバランスにより、より高い電子アクセプター機能が発揮されやすい観点から、炭化水素基が好ましい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。共役系高分子に配位し易い観点からは、炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~10であり、1~6または1~4であってもよい。脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ジエニル基などが挙げられる。これらのうち、アルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられる。添加剤は、1つの第1置換基を有していてもよく、2つ以上の第1置換基を有していてもよい。添加剤が2つ以上の第1置換基を有する場合、少なくとも2つの第1置換基は同じであってもよく、全ての第1置換基が異なっていてもよい。
【0028】
スルホン酸基およびカルボキシ基のバランスにより、より高い電子アクセプター機能が発揮されやすい観点からは、添加剤が第1置換基を有さない場合も好ましい。
【0029】
添加剤のナフタレン環には、非芳香族性の環Zが縮合していてもよい。このような構造を有する添加剤では、例えば、ナフタレン環の1位~8位の炭素原子のうち、複数(例えば、2つ)の炭素原子が脂肪族鎖で連結されている。脂肪族鎖は、飽和または不飽和であってもよい。このような構造としては、例えば、アセナフテン環が挙げられる。添加剤は、脂肪族鎖に1つまたは2つ以上の第2置換基を有していてもよい。第2置換基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、および第1置換基について記載した基などが挙げられる。添加剤が2つ以上の第2置換基を有する場合、少なくとも2つの第2置換基は同じであってもよく、全ての第2置換基が異なっていてもよい。
【0030】
共役系高分子に接近させ易い観点からは、添加剤のナフタレン環は、上記のような非芳香族性の環Zが縮合していないことが好ましい。
【0031】
高湿度環境下における有機導電体の抵抗の増加を抑制する効果が高まる観点からは、第1スルホン酸基および第2スルホン酸基の2つのスルホン酸基と、1つのカルボキシ基とを有する場合が好ましい。中でも、これらの3つの基から選択される2つの基が、ナフタレン環を構成する一方のベンゼン環に結合し、残る1つの基が他方のベンゼン環に結合していることが好ましい。また、一方のベンゼン環に結合する2つの基は、o-位またはp-位の位置関係であってもよいが、m-位の位置関係であることが好ましい。m-位の位置関係の場合、化合物のより高い安定性を確保し易いことに加え、合成も容易である。
【0032】
高湿度環境下における有機導電体の抵抗の増加をさらに抑制する観点からは、一方のベンゼン環に結合する2つの基が第1スルホン酸基および第2スルホン酸基であることが好ましい。第1スルホン酸基および第2スルホン酸基の双方が一方のベンゼン環に結合することで、第1スルホン酸基および第2スルホン酸基の双方が、共役系高分子に近づき易くなり、有機導電体の導電性を高め易くなると考えられる。また、一方のベンゼン環が共役系高分子に近づく(つまり、ナフタレン環が長手方向(ベンゼン環が2つ並ぶ方向)に共役系高分子に近づく)ことで、ナフタレン環が短手方向に共役系高分子に近づく場合に比べて、多くの添加剤分子が共役系高分子に近づき易くなる。これによっても、有機導電体の導電性を高めることができると考えられる。また、カルボキシ基が他方のベンゼン環に結合していることで、化合物の安定性がさらに高まることに加え、スルホン酸基が優先的に共役系高分子に配位し易くなり、カルボキシ基の電子求引性により添加剤自体の電子アクセプター機能を高めることができると考えられる。その結果、有機導電体の抵抗を抑制する効果がさらに高まると考えられる。
【0033】
高湿度環境下における有機導電体の抵抗の増加をさらに抑制する観点からは、添加剤は、ナフタレン環を構成する一方のベンゼン環に、m-位の位置関係で第1スルホン酸基および第2スルホン酸基を有することが好ましい。
【0034】
また、第1スルホン酸基および第2スルホン酸基が共役系高分子に優先的に配位され易くなる観点から、カルボキシ基の位置は、スルホン酸基から遠い方が好ましい。ナフタレン環において、カルボキシ基が結合する炭素原子を第3炭素原子とするとき、第3炭素原子と第1炭素原子との間に介在する炭素原子の個数は、2以上が好ましい。同様に、第3炭素原子と第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数は、2以上が好ましい。なお、第3炭素原子と第1炭素原子または第2炭素原子との間に介在する炭素原子の個数は、上述の個数nの場合に準じて求められる。
【0035】
第1炭素原子と第2炭素原子とを連結する炭素鎖のうち、最も短い炭素鎖には、カルボキシ基を有さないことが好ましい。この場合、カルボキシ基の立体的な反発で、第1スルホン酸基および第2スルホン酸基による配位が阻害されることが抑制される。よって、第1スルホン酸基および第2スルホン酸基により、共役系高分子に、添加剤をより強固に配位させ易くなる。そのため、高湿度環境下での有機導電体の抵抗の増加を抑制する効果をさらに高めることができる。また、第1置換基による立体障害を抑制する観点から、第1炭素原子と第2炭素原子とを連結する炭素鎖のうち、最も短い炭素鎖には、第1置換基を有さないことが好ましい。
【0036】
添加剤は、上記のような構造を有することで、共役系高分子に対して高い結合力を確保することができる。添加剤の共役系高分子に対する相互作用エネルギーは、-14kcal/mol以下が好ましく、-15kcal/mol以下がより好ましく、-17kcal/mol以下または-19kcal/mol以下の低い値を得ることもできる。なお、ナフタレンスルホン酸とポリピロールとの相互作用エネルギーは、約-10kcal/molである。
【0037】
添加剤の共役系高分子に対する相互作用エネルギーは、添加剤と共役系高分子との複合体のポテンシャルエネルギーから、添加剤および共役系高分子がそれぞれ単独で存在するときのそれぞれのポテンシャルエネルギーを減じることにより求められる。各ポテンシャルエネルギーは、量子化学計算ソフトウェア(Gaussian社、Gaussian09)を用いて、シュレディンガー方程式から求められる。
【0038】
添加剤は、下記式(1)で表すこともできる。
【0039】
【0040】
(式中、R1~R8のそれぞれは、水素原子、スルホン酸基、カルボキシ基または第1置換基であり、R1~R8の少なくとも2つはスルホン酸基であり、R1~R8の少なくとも1つはカルボキシ基であり、R1~R8から選択される2つは、互いに連結してナフタレン環に縮合する非芳香族性の環Zを形成してもよい。環Zは、第2置換基を有していてもよい。R1~R8のうち2つがスルホン酸基であるとき、R2およびR6の双方がスルホン酸基である場合およびR3およびR7がスルホン酸基である場合は除外される。)
【0041】
式(1)において、スルホン酸基およびカルボキシ基、これらの個数、ならびにこれらの位置については、上記の説明を参照できる。第1置換基、環Z、および第2置換基についても、上記の説明を参照できる。
【0042】
添加剤のうち、6,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、5,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、3,6-ジスルホ-1-ナフトエ酸化合物、4,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物が好ましい。各化合物には、それぞれのジスルホナフトエ酸の他、第1置換基を有するジスルホナフトエ酸などが含まれる。中でも、6,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物、5,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸化合物が好ましい。
【0043】
添加剤は、一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
[添加剤の製造方法]
上記の添加剤は、公知の方法またはその変法により製造することができる。例えば、カルボキシ基を有するナフタレン化合物に、発煙硫酸またはクロロ硫酸などを用いて親電子置換反応によりスルホン酸基を導入することができる。カルボキシ基は、必要に応じて保護基で保護してもよい。
【0045】
本開示には、スルホン酸基と、アミノ基とを有するナフタレン化合物のアミノ基を、カルボキシ基に変換することにより上記の添加剤を製造する方法も包含される。アミノ基からカルボキシ基への変換は高い効率で行うことができるため、このような製造方法を利用することで添加剤を高収率で得ることができる。この製造方法について、以下により具体的に説明する。
【0046】
添加剤の製造方法は、ナフタレン環と、ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、ナフタレン環に結合した少なくとも1つのアミノ基とを有するナフタレン化合物を準備する工程と、アミノ基をシアノ基に変換する工程と、シアノ基を加水分解してカルボキシ基に変換し、添加剤を生成させる工程と、を備える。
【0047】
(ナフタレン化合物の準備工程)
少なくとも2つのスルホン酸基と、少なくとも1つのアミノ基(-NH2)とを有するナフタレン化合物が準備される。このようなナフタレン化合物としては市販品を用いてもよく、公知の製法およびその変法を用いて製造した化合物を用いてもよい。このようなナフタレン化合物は、例えば、ナフタレン環に結合した少なくとも2つのスルホン酸基と、ナフタレン環に結合した少なくとも1つのヒドロキシ基とを有するナフタレン化合物におけるヒドロキシ基を、Bucherer反応によりアミノ基に変換することにより製造できる。Bucherer反応の条件については公知の条件が利用できる。準備工程においてスルホン酸基は、塩を形成していてもよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0048】
(アミノ基をシアノ基に変換する工程)
本工程では、まず、上記で準備されたナフタレン化合物に、亜硝酸化合物を作用させることにより、アミノ基をジアゾニオ基に変換する(サブステップ1)。サブステップ1で得られるジアゾニウム化合物にCuCNを作用させることで、シアノ基を有するナフタレン化合物が得られる(サブステップ2)。
【0049】
(サブステップ1)
サブステップ1において、亜硝酸化合物としては、亜硝酸、亜硝酸エステル、亜硝酸塩などが挙げられる。亜硝酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。亜硝酸化合物は、ナフタレン化合物のアミノ基1当量に対して、亜硝酸化合物を構成する亜硝酸イオンが1当量またはそれより過剰になるような量で用いられる。
【0050】
サブステップ1は、酸の存在下で行うことが好ましい。酸としては、硫酸などの無機酸を用いることが好ましい。酸は、一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
酸の量は、例えば、亜硝酸イオン(アニオン)1当量に対して、酸を構成するアニオンが約0.5当量(例えば、0.4当量以上0.6当量以下)となるように調節される。
【0052】
サブステップ1は、例えば、-10℃以上+10℃以下の温度、好ましくは-5℃以上+5℃以下の温度で行われる。サブステップ1は、空気中で行ってもよいが、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス)の雰囲気下で行うことが好ましい。サブステップ1は、加圧下または減圧下で行ってもよいが、大気圧下で行うことができる。サブステップ1の時間は、例えば、1時間以上8時間以下であり、1時間以上6時間以下または3時間以上8時間以下であってもよい。
【0053】
サブステップ1において、少なくとも一部のスルホン酸基は、塩を形成していてもよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0054】
なお、サブステップ1において、酸で処理した後に、必要に応じて、塩基による処理を行ってもよい。塩基は、混合物のpHが9~12になるまで添加される。塩基としては、無機塩基が挙げられる。無機塩基としては、金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩が挙げられる。塩基は、一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。ジアゾニウム化合物を効率よく生成させる観点からは、アルカリ金属炭酸塩などの弱塩基による処理を行った後に、金属水酸化物などの強塩基による処理を行うことが好ましい。
【0055】
塩基は、例えば、水溶液の形態で用いられる。塩基またはその水溶液の使用量は、例えば混合物のpHが9~12の範囲になるように調節される。
【0056】
(サブステップ2)
サブステップ2では、サブステップ1で得られたジアゾニウム化合物にCuCNを作用させることで、ジアゾニオ基をシアノ基に変換する。この反応は、ザンドマイヤー反応と呼ばれる。
【0057】
CuCNは、例えば、ジアゾニオ基1当量に対して、シアノ基が1.0当量以上1.3当量以下となるような量で用いられる。
【0058】
サブステップ2は、例えば、0℃以上50℃以下の温度、好ましくは0℃以上40℃以下の温度で行われる。サブステップ2は、空気中で行ってもよいが、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス)の雰囲気下で行うことが好ましい。サブステップ2は、加圧下または減圧下で行ってもよいが、大気圧下で行うことができる。サブステップ2の時間は、例えば、2時間以上24時間以下である。
【0059】
サブステップ2は、アルカリ金属シアン化物の存在下で行ってもよい。アルカリ金属シアン化物としては、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属シアン化物は、例えば、ジアゾニウム化合物が有するスルホン酸基1当量当たり、1.0当量以上3.0当量以下となるような量で用いられる。
【0060】
(シアノ基をカルボキシ基に変換する工程)
上記の工程で得られたシアノ基を有するナフタレン化合物において、シアノ基を加水分解することによりカルボキシ基に変換する。このようにして、上記の添加剤を生成させることができる。
【0061】
加水分解は、例えば、塩基の存在下で行うことができる。塩基としては、例えば、金属水酸化物などの無機塩基が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0062】
塩基の量は、ナフタレン化合物100質量部に対して、400質量部以上2000質量部以下であってもよい。
【0063】
加水分解は、例えば、100℃以上150℃以下の温度、好ましくは100℃以上140℃以下の温度で行われる。加水分解は、空気中で行ってもよく、不活性ガス(例えば、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガス)の雰囲気下で行ってもよい。加水分解は、加圧下または減圧下で行ってもよいが、大気圧下で行うことができる。加水分解の時間は、例えば、1時間以上24時間以下である。
【0064】
加水分解の後、必要に応じて、酸処理を行ってもよい。酸処理を行うことで、カルボキシ基およびスルホン酸基を遊離またはアニオンの形態に変換することができる。用いる酸としては、硫酸などの無機酸が好ましい。酸の量は、カルボキシ基およびスルホン酸基の合計数に応じて決定される。
【0065】
各工程における生成物は、そのまま次工程に供してもよく、必要に応じて、公知の分離方法、精製方法、またはその組み合わせを利用して、分離または精製した後に、次工程に供してもよい。
【0066】
添加剤は、最終的に得られる添加剤を含む反応混合物から、例えば、公知の分離方法、精製方法、またはその組み合わせを利用することにより、分離または精製される。
【0067】
各工程における生成物および添加剤の分離または精製に利用される分離方法および精製方法としては、例えば、濾過、洗浄、抽出、蒸留、晶析、再結晶、およびクロマトグラフィーからなる群より選択される少なくとも1つが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
[有機導電体]
有機導電体は、上記の添加剤と、共役系高分子とを含む。添加剤は、優れた電子アクセプター性能を有しており、共役系高分子のドーパントとして機能させることができる。添加剤を用いることで、共役系高分子との高い結合力が得られるため、高湿度環境下において、有機導電体が水分子を吸着しても、脱ドープが抑制され、ΔESRの増加を抑制できる。よって、高湿度環境下で用いても、電解コンデンサの高い信頼性を確保することができる。
【0069】
共役系高分子とは、添加剤の作用により良導体となる高分子であればよく、π共役系高分子およびσ共役系高分子などが挙げられる。有機導電体は、上記の添加剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。有機導電体は、共役系高分子を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0070】
共役系高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、またはポリチオフェンビニレンなどを基本骨格とする高分子が挙げられる。これらの高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が含まれる。
【0071】
共役系高分子のうち、ピロール化合物に対応するモノマー単位を含む共役系高分子が好ましい。このような共役系高分子と上記の添加剤と組み合わせると、より高い結合力が得られ易い。ピロール化合物としては、ピロール、脂肪族環または複素環がピロールに縮合した化合物、またはこれらの置換体(置換基を有する化合物など)などが挙げられる。置換基としては、アルキル基(アミノアルキル基、ヒドロキシアルキル基も含む)、アミノ基、置換アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子などが挙げられる。ピロールまたは縮合化合物は、これらの置換基を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。共役系高分子は、好ましくは、ピロール化合物に対応するモノマー単位の繰り返し構造を有する。
【0072】
共役系高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば1,000以上1,000,000以下である。
【0073】
なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の値である。なお、GPCは、通常は、ポリスチレンゲルカラムと、移動相としての水/メタノール(体積比8/2)とを用いて測定される。
【0074】
添加剤の量は、共役系高分子100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上400質量部以下であり、1質量部以上350質量部以下であってもよく、10質量部以上300質量部以下であってもよい。
【0075】
このような有機導電体は、高湿度環境下でも抵抗の増加が抑制されるため、信頼性に優れており、様々な電子デバイスに用いることができる。特に、電解コンデンサの固体電解質に用いるのに適している。
【0076】
[電解コンデンサ]
電解コンデンサは、表面に誘電体層を備える陽極体と、誘電体層の一部を覆う固体電解質と、を含む。固体電解質は、上記の有機導電体を含む。固体電解質は、電解コンデンサの陰極部を構成している。
【0077】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含むことができる。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。表面が多孔質である陽極体は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。なお、焼結体は、多孔質構造を有する。
【0078】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は、例えば、陽極体の少なくとも一部を覆うように形成されている。誘電体層は、通常、陽極体の表面に形成される。誘電体層は、多孔質の陽極体の表面に形成されるため、陽極体の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面(孔の内壁面も含む)に沿って形成される。
【0079】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能する層であってもよい。
【0080】
(陰極部)
陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質を少なくとも備えている。陰極部は、通常、固体電解質と、固体電解質の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを備える。
【0081】
(固体電解質)
固体電解質は、上記の有機導電体を含んでおり、誘電体層を覆うように形成される。固体電解質は、必ずしも誘電体層の全体(表面全体)を覆う必要はない。固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されていてもよい。電解コンデンサにおいて、固体電解質は、固体電解質層を形成していてもよい。
【0082】
固体電解質は、上記の添加剤を含むが、必要に応じて、他のドーパントを含んでいてもよい。他のドーパントとしては、アニオンおよびポリアニオンからなる群より選択される少なくとも一種が使用される。アニオンとしては、例えば、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオンが挙げられる。ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などが挙げられる。ポリアニオンには、ポリエステルスルホン酸、およびフェノールスルホン酸ノボラック樹脂なども含まれる。
【0083】
上記の添加剤の効果をより効果的に発揮する観点から、ドーパント全体に占める上記の添加剤の比率は、例えば、90質量%以上が好ましく、95質量%以上であってもよい。上記の添加剤の比率は、100質量%以下である。上記の添加剤のみをドーパントとして使用してもよい。
【0084】
固体電解質は、他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、ドーパント以外の公知の添加剤、有機導電体以外の公知の導電性材料(例えば、二酸化マンガンなどの導電性無機材料)などが挙げられる。
【0085】
固体電解質は、例えば、共役系高分子の構成モノマーを上記の添加剤の存在下、誘電体層上で化学重合および電解重合の少なくとも一方を行うことにより、形成することができる。あるいは、共役系高分子および上記の添加剤が溶解した溶液、または、共役系高分子および上記の添加剤が分散した分散液を、誘電体層に接触させることにより、誘電体層を覆う固体電解質を形成することができる。溶液または分散液を誘電体層に接触させた後、必要に応じて、乾燥または加熱処理を行ってもよい。
【0086】
固体電解質層は、単層であってもよく、複数の層で構成してもよい。固体電解質層が複数層で構成される場合、各層の組成(例えば、共役系高分子の種類、ドーパントまたは添加剤の種類、各成分の比率)は同じであってもよく、異なっていてもよい。
必要に応じて、誘電体層と固体電解質との間には、密着性を高める層などを介在させてもよい。
【0087】
(陰極引出層)
陰極引出層は、例えば、固体電解質の表面に形成されたカーボン層とカーボン層の表面に形成された金属ペースト層とを備える。カーボン層および金属ペースト層を順次積層することにより陰極引出層が形成される。
【0088】
カーボン層は、導電性カーボンを含む分散液中に固体電解質で少なくとも一部が覆われた誘電体層を有する陽極体を浸漬したり、または導電性カーボンを含むペーストを固体電解質の表面に塗布したりすることにより形成することができる。導電性カーボンとしては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛などの黒鉛類が使用される。分散液およびペーストとしては、例えば、導電性カーボンを水系の液体媒体に分散させた混合物が用いられる。
【0089】
金属ペースト層は、例えば、金属粒子を含む組成物をカーボン層の表面に積層することにより形成できる。金属ペースト層としては、例えば、銀粒子と樹脂(バインダ樹脂)とを含む組成物を用いて形成される銀ペースト層などが利用できる。樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることもできるが、イミド系樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0090】
なお、陰極引出層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であってもよい。
【0091】
(その他)
例えば、陽極体と、陰極部とを備えるコンデンサ素子が、容器に収容され、または外装体などで封止されることで、電解コンデンサが得られる。電解コンデンサは、チップ型または積層型のいずれであってもよく、巻回型であってもよい。電解コンデンサは、コンデンサ素子を少なくとも1つ含んでいればよく、2つ以上含んでいてもよい。コンデンサ素子の構成は、電解コンデンサのタイプに応じて、選択してもよい。例えば、電解コンデンサは、2つ以上のコンデンサ素子の積層体を含んでもよく、2つ以上の巻回型のコンデンサ素子を含んでもよい。コンデンサ素子は、必要に応じて、陽極体と同様に金属箔を用いた陰極体を備えていてもよい。金属箔を陰極体に用いる場合、金属箔と陽極体との間にはセパレータを配置してもよい。
【0092】
本明細書中に記載の全ての構成は、任意に組み合わせることができる。
【0093】
図1は、本開示の一実施形態に係る電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂封止材3と、樹脂封止材3の外部にそれぞれ少なくともその一部が露出する陽極端子4および陰極端子5と、を備えている。陽極端子4および陰極端子5は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。樹脂封止材3は、ほぼ直方体の外形を有しており、電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。樹脂封止材3の素材としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0094】
コンデンサ素子2は、陽極体6と、陽極体6を覆う誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極部8とを備える。陰極部8は、誘電体層7を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備える。陰極引出層10は、カーボン層11および金属ペースト層12を有する。
【0095】
陽極体6は、陰極部8と対向する領域と、対向しない領域とを含む。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、陰極部8に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離層13が形成され、陰極部8と陽極体6との接触が規制されている。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、他の一部は、陽極端子4と、溶接により電気的に接続されている。陰極端子5は、導電性接着剤により形成される接着層14を介して、陰極部8と電気的に接続している。
【0096】
陽極端子4および陰極端子5の主面4Sおよび5Sは、樹脂封止材3の同じ面から露出している。この露出面は、電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
【0097】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0098】
《実施例1~4(添加剤の合成)》
下記のナフタレン化合物(a1)~(a4)のそれぞれを原料として用いて、第1スルホン酸基、第2スルホン酸基、およびカルボキシ基を有するナフタレン化合物(A1)~(A4)を合成した。ナフタレン化合物(A1)は、6,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸であり、ナフタレン化合物(A2)は、5,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸である。ナフタレン化合物(A3)は、3,6-ジスルホ-1-ナフトエ酸であり、ナフタレン化合物(A4)は、4,8-ジスルホ-2-ナフトエ酸である。
【0099】
【0100】
(式中、X1およびX2はそれぞれ独立して、水素原子、NaまたはKである。)
(1)アミノ基をシアノ基に変換する工程
ナフタレン化合物(a1)~(a4)のそれぞれの所定量を水に溶解させて水溶液を調製した。得られた水溶液に硫酸を添加して混合し、さらに亜硝酸ナトリウム水溶液を添加し、得られる混合物を-5℃~+5℃で1~6時間攪拌した。このようにして、アミノ基をジアゾニオ基に変換することにより、各ナフタレン化合物に対応するジアゾニウム化合物を合成した。亜硝酸ナトリウムは、アミノ基1当量に対して亜硝酸イオンが1当量またはそれより少過剰となるような量で用いた。硫酸は、亜硝酸イオン1モルに対して1モルになるような量で用いた。
【0101】
得られた反応混合物に、pHが9~12になるまで、アルカリ水溶液を添加した。アルカリ水溶液としては、まず、炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0102】
得られた混合物に、CuCNおよびKCNの水溶液を添加し、0℃~40℃で8時間攪拌することにより反応を行った。このようにして、ジアゾニオ基をシアノ基に変換することにより(a1)~(a4)のそれぞれにおいて、アミノ基がシアノ基に変換されたナフタレン化合物を得た。得られたナフタレン化合物は、再結晶等を利用して精製した。
【0103】
(2)シアノ基をカルボキシ基に変換する工程
上記(1)で得られたナフタレン化合物を、水(溶媒)に溶解させ、塩基(水酸化ナトリウム)をナフタレン化合物100質量部に対して3000質量部の割合で添加した。混合物を、140℃で8時間攪拌することにより反応を進行させた。得られた反応混合物に、硫酸を混合物のpHが1になるまで添加することにより酸処理を行った。得られた混合物を、再結晶等を利用して精製することにより、(A1)~(A4)の各ナフタレン化合物を分離した。このようにして添加剤を合成した。
【0104】
《実施例5~8(電解コンデンサの作製)》
下記の要領で、
図1に示す電解コンデンサ1を作製し、その特性を評価した。
(1)陽極体6を準備する工程
基材としてのアルミニウム箔(厚み:100μm)の表面をエッチングにより粗面化することで、陽極体6を作製した。
【0105】
(2)誘電体層7を形成する工程
陽極体6を、温度70℃の0.3質量%濃度のリン酸溶液に浸漬し、70Vの直流電圧を、20分間印加することにより、酸化アルミニウムを含む誘電体層7を形成した。
【0106】
(3)固体電解質層9を形成する工程
以下の手順で、電解重合により、誘電体層7上にポリピロールおよびドーパントとしての(A1)~(A4)の各添加剤を含む固体電解質層9を形成した。
【0107】
まず、ピロールモノマーと添加剤(A1)~(A4)のそれぞれとを含む水溶液を調製した。この水溶液中のピロールモノマー濃度は、0.5mol/Lであり、添加剤濃度は0.3mol/Lとした。水溶液に硫酸を添加して、pHを3.0に調整した。
【0108】
得られた水溶液に、上記(2)で誘電体層7が形成された陽極体6と、対電極とを浸漬し、25℃で、重合電圧3Vで電解重合を行うことにより、固体電解質層9を形成した。
【0109】
(4)陰極引出層10の形成工程
上記(3)で得られた固体電解質層9の表面に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布し、大気中で乾燥することにより、カーボン層11を形成した。次いで、カーボン層11の表面に、銀粒子とエポキシ樹脂とを含む銀ペーストを塗布し、加熱することにより、金属ペースト層12を形成した。こうして、カーボン層11と金属ペースト層12とで構成される陰極引出層10を形成した。
このようにして、コンデンサ素子2を作製した。
【0110】
(5)電解コンデンサの組み立て
上記(4)で得られたコンデンサ素子2の陰極引出層10と、陰極端子5の一端部とを導電性接着剤で接合した。コンデンサ素子2から突出した陽極体6の一端部と、陽極端子4の一端部とをレーザ溶接により接合した。
次いで、コンデンサ素子2の周囲に、絶縁性樹脂で形成された樹脂封止材3を形成した。このとき、陽極端子4の他端部と、陰極端子5の他端部とは、樹脂封止材3から引き出した状態とした。
このようにして、定格電圧2Vおよび静電容量30μFの電解コンデンサ1を完成させた。
【0111】
(6)評価
電解コンデンサまたは添加剤について、下記の評価を行った。
(a)ΔESR
20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、各電解コンデンサの周波100kHzにおける初期のESR(=Z0)(mΩ)を測定した。
85℃および85%RHの環境下で、電解コンデンサに定格電圧を125時間印加した後、初期のESRの場合と同様の手順で、20℃環境下でESR(=Z)(mΩ)を測定した。ΔESR=(Z-Z0)/Z0により、高湿度環境下での変化率であるΔESRを求めた。
【0112】
(b)相互作用エネルギー
既述の手順で、添加剤とポリピロールとの相互作用エネルギーを算出した。
【0113】
《比較例1》
ナフタレン化合物(A1)に代えて、ナフタレンスルホン酸(B1)を用いたこと以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0114】
《比較例2》
ナフタレン化合物(A1)に代えて、下記式(B2)で表される3,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸を用いたこと以外は、実施例1と同様に電解コンデンサを作製し、評価を行った。
【0115】
【0116】
3,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸(B2)は、以下の手順で合成した。
まず、Bucherer反応を利用して、3,7-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸から3,7-ジアミノ-2-ナフトエ酸を生成させた。より具体的には、所定量の3,7-ジヒドロキシ-2-ナフトエ酸を、亜硫酸ナトリウムを所定濃度で含むアンモニア水溶液に添加し、100℃で8時間撹拌することにより、3,7-ジアミノ-2-ナフトエ酸を生成させた。反応混合物から、再結晶等を利用して3,7-ジアミノ-2-ナフトエ酸を精製した。
【0117】
得られた3,7-ジアミノ-2-ナフトエ酸の所定量を水に溶解させて水溶液を調製した。水溶液に硫酸を添加して混合し、さらに亜硝酸ナトリウム水溶液を添加し、得られる混合物を、0℃で約2時間攪拌した。このようにして、アミノ基をジアゾニオ基に変換することにより、ジアゾニウム化合物を合成した。亜硝酸ナトリウムは、アミノ基1当量に対して亜硝酸イオンが1当量またはそれより少過剰となるような量で用いた。硫酸は、亜硝酸イオン1モルに対して1モルになるような量で用いた。
【0118】
得られた反応混合物に、pHが9~12になるまで、アルカリ水溶液を添加した。アルカリ水溶液としては、まず、炭酸水素ナトリウム水溶液を用い、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0119】
得られた混合物に、CuClの水溶液を添加し、室温(20~35℃)で8時間攪拌することにより反応を行った。このようにして、ジアゾニオ基をクロロに変換することにより、3,7-ジクロロ-2-ナフトエ酸ナトリウムを得た。得られた3,7-ジクロロ-2-ナフトエ酸ナトリウムは、再結晶等を利用して精製した。
【0120】
得られた3,7-ジクロロ-2-ナフトエ酸ナトリウムを、ジメチルアセトアミドに溶解させて溶液を調製した。この溶液に、ナトリウムイソプロポキシドを添加し、混合物を100℃で18時間撹拌した。得られる反応混合物に、金属ナトリウムを添加し、100℃で32時間撹拌することにより反応を進行させ、3,7-ジ(ナトリウムチオ)-2-ナフトエ酸ナトリウムを生成させた。反応混合物から、再結晶等を利用して3,7-ジ(ナトリウムチオ)-2-ナフトエ酸ナトリウムを精製した。なお、ナトリウムイソプロポキシドは、3,7-ジクロロ-2-ナフトエ酸のクロロ1当量当たり2.5当量となるように添加した。金属ナトリウムは、クロロ1当量当たり7当量となるように添加した。
【0121】
3,7-ジ(ナトリウムチオ)-2-ナフトエ酸ナトリウムを、クロロホルムおよびメタノールの混合溶媒に溶解させた。得られる溶液に、過酸化水素水を添加し、混合することにより、-SNa基を、-SO3Na基に変換した。次いで、反応混合物に硫酸を添加することにより、-SO3Na基をスルホン酸基に変換するとともに、-COONa基をカルボキシ基に変換した。このようにして、3,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸(B2)を得た。反応混合物から、再結晶等を利用して、3,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸(B2)を精製した。
【0122】
実施例および比較例の評価結果を表1に示す。表1中、E1~E4は、実施例1~4であり、C1およびC2は、比較例1および2である。
【0123】
【0124】
表1に示されるように、添加剤A1~A4を用いたE1~E4では、ナフタレンスルホン酸を用いたC1および3,7-ジスルホ-2-ナフトエ酸を用いたC2に比べて格段に高湿度環境下でのESR変化率の増加が低減されている。ΔESRは、添加剤と共役系高分子との相互作用エネルギーが小さいほど小さくなっている。このことから、E1~E4では、添加剤と共役系高分子との間の高い結合力が得られ、これにより、高湿度環境下でも、固体電解質層の抵抗の増加が抑制され、ESRの増加が抑制されたと考えられる。
【0125】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本開示によれば、有機導電体の耐湿性を顕著に高めることができる添加剤を提供できる。このような添加剤は、有機導電体に用いて、電解コンデンサなどの様々な電子デバイスに利用することで、高湿度環境下でも、製品の品質を安定化できる。
【符号の説明】
【0127】
1:電解コンデンサ、2:コンデンサ素子、3:樹脂封止材、4:陽極端子、4S:陽極端子の主面、5:陰極端子、5S:陰極端子の主面、6:陽極体、7:誘電体層、8:陰極部、9:固体電解質層、10:陰極引出層、11:カーボン層、12:金属ペースト層、13:分離層、14:接着層