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特許7325004食品加工用光触媒、食品加工装置、食品加工方法、及び食品加工用光触媒を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】食品加工用光触媒、食品加工装置、食品加工方法、及び食品加工用光触媒を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20230804BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20230804BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/02 301Z
B01J37/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022560798
(86)(22)【出願日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2021040500
(87)【国際公開番号】W WO2022097661
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020184170
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】猪野 大輔
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-290028(JP,A)
【文献】特開2000-239047(JP,A)
【文献】特開平10-231146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に形成され、金属酸化物を含む触媒膜と、を備え、
前記支持体における300nmから600nmの波長の光の透過率は、80%以上であり、
前記金属酸化物は、Timnの組成を有し、
前記組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たし、
前記触媒膜は、第一層と、前記第一層によって前記支持体から隔てられた第二層とを有し、
前記第一層における400nmから600nmの波長の光の透過率は、前記第二層における400nmから600nmの波長の光の透過率よりも高く、
前記第二層は、25nmから90nmの動径波長を有する表面凹凸をなしている、
食品加工用光触媒。
【請求項2】
前記第一層における400nmから600nmの波長の光の透過率は、80%以上である、請求項1に記載の食品加工用光触媒。
【請求項3】
前記触媒膜における300nmから365nmの波長の光の平均透過率は、30%以下である、請求項1又は2に記載の食品加工用光触媒。
【請求項4】
前記第一層は、前記第二層の厚さより大きい厚さを有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の食品加工用光触媒。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の食品加工用光触媒と、
光源と、を備え、
前記光源から出射された光は、前記支持体を通過した後に前記触媒膜に入射する、
食品加工装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の食品加工用光触媒の前記第二層に食品を接触させた状態で、光源から出射された光を、前記支持体を通過させた後に前記触媒膜に入射させることを含む、食品加工方法。
【請求項7】
食品加工用光触媒を製造する方法であって、
金属酸化物の前駆体を含む第一液を支持体上に塗布して第一塗膜を形成することと、
前記第一塗膜に対し乾燥及び焼成を行って第一層を形成することと、
金属酸化物の前駆体を含む第二液を前記第一層の上に塗布して第二塗膜を形成することと、
前記第二塗膜に対し乾燥及び焼成を行って第二層を形成することと、を含み、
前記支持体における300nmから600nmの波長の光の透過率は、80%以上であり、
前記金属酸化物は、Timnの組成を有し、
前記組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たし、
前記第一層における400nmから600nmの波長の光の透過率は、前記第二層における400nmから600nmの波長の光の透過率よりも高く、
前記第二層は、25nmから90nmの動径波長を有する表面凹凸をなしている、
方法。
【請求項8】
前記第一塗膜の前記焼成の温度は、400℃から700℃である、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第二塗膜の前記焼成の温度は、450℃から750℃である、
請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第一液は、有機ポリマーを含有しており、
前記第二液は、有機ポリマーを含有していない、
請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、食品加工用触媒、食品加工装置、食品加工方法、及び食品加工用触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品には様々な処理がなされている。このような処理として、例えば、発酵、腐敗、及び酸化酵素による酵素反応を利用する処理が知られている。加えて、膨張、膨化、ラジカルが関与するアミノカルボニル反応、変性、脱水及び縮合、分解、並びに蒸留等の非酵素的反応を利用する処理も知られている。一方、光触媒を用いて食品を処理することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、光触媒を用いた醸造物の製造方法が記載されている。この製造方法において、醸造物の中の微生物を殺菌する際に、槽に入れた醸造物を常温下で撹拌部材によって撹拌しながら撹拌部材等の所定の部材の表面に担持された光触媒に励起光が照射される。図15に示す通り、特許文献1には、この醸造物の製造方法の一例である日本酒の製造に用いられる微生物殺菌装置300が記載されている。図15によれば、微生物殺菌装置300において、励起光の光源310は、槽301の外部に配置されている。加えて、撹拌羽根309の表面にアナターゼ型の酸化チタンの皮膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-250514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、食品の処理において化学反応の活性を高める観点から有利な食品加工用触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の食品加工用触媒は、
支持体と、
前記支持体上に形成され、金属酸化物を含む触媒膜と、を備え、
前記触媒膜は、第一層と、前記第一層によって前記支持体から隔てられた第二層とを有し、
前記第一層における400nmから600nmの波長の光の透過率は、前記第二層における400nmから600nmの波長の光の透過率よりも高く、
前記第二層は、25nmから90nmの動径波長を有する表面凹凸をなしている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の食品加工用触媒は、食品の処理において化学反応の活性を高める観点から有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態1の触媒を模式的に示す断面図である。
図2A図2Aは、所定の算術平均粗さRaを有する表面凹凸を模式的に示す断面図である。
図2B図2Bは、図2Aに示す表面凹凸と同一の算術平均粗さRaの値を有する別の表面凹凸を模式的に示す断面図である。
図3A図3Aは、図2Aに示す表面凹凸を波で近似した結果を示す断面図である。
図3B図3Bは、図2Bに示す表面凹凸の波で近似した結果を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態2の装置を模式的に示す断面図である。
図5図5は、実施例1に係るサンプルA-1の透過スペクトルを示すグラフである。
図6図6は、実施例1に係るサンプルA-1を示す写真である。
図7図7は、実施例1に係るサンプルB-1の透過スペクトルを示すグラフである。
図8図8は、実施例1に係るサンプルB-1の触媒活性を示すグラフである。
図9図9は、各実施例及び比較例1に係るサンプルの触媒膜の表面凹凸の動径波長と、表面凹凸をなす層を形成するための焼成温度との関係を示すグラフである。
図10図10は、比較例2に係るサンプルの透過スペクトルを示すグラフである。
図11図11は、比較例2に係るサンプルを示す写真である。
図12図12は、比較例2に係るサンプルの触媒活性を示すグラフである。
図13図13は、比較例3に係るサンプルの透過スペクトルを示すグラフである。
図14図14は、比較例3に係るサンプルの触媒活性を示すグラフである。
図15図15は、従来技術に係る微生物殺菌装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
光触媒は、光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーの光が照射されることにより、触媒作用を示す。光触媒を用いた装置において、多くの場合、光触媒の活性を高めるために光源と光触媒との間に固体を存在させずに光源の光を光触媒に照射することが望ましいと考えられる。このため、例えば、支持体上に光触媒が形成された構造において、通常、光触媒側から光が照射される。例えば、特許文献1に記載の微生物殺菌装置300において、撹拌羽根309の表面に形成されたアナターゼ型の酸化チタンの皮膜に、槽301の外部の光源310からの光が照射されている。
【0010】
一方、本発明者らの検討によれば、支持体上に光触媒が形成された構造において光触媒側から光が照射されても、食品における光の透過率が低い場合には光触媒の活性を高めにくい。加えて、このような構造によれば、光源の光が光触媒に入射する前に光触媒に接した食品を通過するので、食品が光の通過に伴う発熱及び化学反応により変質することも想定される。
【0011】
そこで、本発明者らは、食品における光の透過率が低い場合でも触媒の活性を高めるための技術を開発すべく鋭意検討を重ねた。光触媒によって化学反応の活性を高めるためには、触媒において光の吸収率を高めることと、反応する触媒の表面積が大きいことが有利である。例えば、支持体の上にスパッタリングで形成された触媒膜は、緻密であるので光の吸収率が高い。しかし、そのような触媒膜の表面粗さは非常に小さいので、触媒の表面積が小さくなる。このため、光触媒の活性を高めにくい。一方、例えば、光触媒の微粒子を含む液の塗膜を乾燥させて形成した触媒膜の表面積は大きくなりやすい。しかし、触媒膜の密度を大きくしにくく、触媒において光の吸収率を高めにくい。このため、十分な電子-正孔対が発生しにくく、光触媒の活性が高まりにくい。本発明者らは、支持体上に触媒膜が形成された構造において触媒膜が所定の特徴を有していると、支持体側から光源の光を照射して食品の処理における化学反応の活性が高まることを新たに見出した。この新たな知見に基づき、本発明者らは、本開示の食品加工用触媒を完成させた。
【0012】
(本開示の実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施形態は、いずれも包括的、又は具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、及び接続形態、プロセス条件、ステップ、ステップの順序等は一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の触媒1を模式的に示す断面図である。触媒1は、食品の処理に用いられる。食品は、食品原料であってもよい。触媒1は、支持体10と、触媒膜20とを備えている。触媒膜20は、支持体10上に形成されている。加えて、触媒膜20は、金属酸化物を含んでいる。触媒膜20は、第一層21と、第二層22とを備えている。第二層22は、第一層21によって支持体10から隔てられている。換言すると、第二層22の厚さ方向において、第一層21は、支持体10と、第二層22との間に配置されている。第一層21における400nmから600nmの波長の光の透過率T21は、第二層22における400nmから600nmの波長の光の透過率T22よりも高い。400nmから600nmの波長の光は可視光域に含まれるので、例えば、透過率T21が透過率T22よりも高いことは触媒1の断面を目視することによって確認できる。第二層22は、25nmから90nmの動径波長Srwを有する表面凹凸22aをなしている。
【0014】
図1に示す通り、触媒1に対し、支持体10側から光Lが照射される。このため、支持体10を透過した光Lが第一層21に入射する。透過率T21は透過率T22よりも高いので、第一層21は、光学的欠陥が比較的少ない層であると理解される。このため、第一層21における光Lの吸収率は高くなりやすく、第一層21において多くの電子-正孔対が発生しうる。加えて、第二層22の表面凹凸22aは、25nmから90nmの動径波長Srwを有し、所望の表面積を有する。これにより、第一層21における光吸収により発生した多くの電子-正孔対が第二層22に向かって拡散し、所望の表面積を有する表面凹凸22aにおける化学反応の活性が高くなりやすい。このため、触媒1によれば、食品の処理において化学反応の活性が高くなりやすい。加えて、食品を透過させて光を触媒に照射させなくてもよいので、食品における光の透過率が低くても食品の処理において化学反応の活性が高くなりやすい。また、食品における光の透過により食品の変質を防止しやすい。
【0015】
表面凹凸の動径波長Srwは、表面凹凸を波動で近似して決定される。図2A及び図2Bは、それぞれ、同一の値の算術平均粗さRaを有する表面凹凸P1及び表面凹凸P2の断面を示す。算術平均粗さRaは、例えば、日本産業規格(JIS)B 0601-2001において定義されている。図3A及び図3Bは、それぞれ、表面凹凸P1及び表面凹凸P2を波で近似した結果を示す。図3A及び図3Bに示す通り、表面凹凸P1は波長λ1を有する波W1によって近似され、表面凹凸P2は、波長λ2を有する波W2によって近似される。表面凹凸P1の動径波長Srwは、波W1の波長に対応しており、表面凹凸P2の動径波長Srwは、波W2の波長に対応している。波W2の波長は、波W1の波長よりも短い。表面凹凸P1及び表面凹凸P2は、同一の値の算術平均粗さRaを有するものの、表面凹凸P2の動径波長は表面凹凸P1の動径波長よりも小さくなる。
【0016】
例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面凹凸22aの断面高さプロファイルを取得する。その断面高さプロファイルをImage Metrology社の解析ソフトScanning ProbeImage Processor(SPIP)を用いて解析することによって、表面凹凸22aの動径波長Srwを決定できる。例えば、AFMとして、大気圧環境、真空環境、及び溶液中等の様々な環境で動作するものを使用できる。
【0017】
例えば、CIRP Annals, (仏), 1995, Vol. 44, issue 1, p. 517-522において動径波長Srwが定義されている。この文献によれば、まず、走査型プローブ顕微鏡(SPM)イメージのフーリエ変換後に、M×Mのfrequency squareの中心にDC成分を移動させ(0,0)が定められている。(0,0)に対して、(M/2)-1個の半円を定める。これらの半円の半径rは、r=1、2、…、(M/2)-1である。半径rの半円に従った振幅値の合計B(r)は、下記式(1)で表される。
【0018】
【数1】
【0019】
非整数値p=rcos(iπ/M)及びq=rsin(iπ/M)についてのフーリエ変換の値F(u(p)、v(q))は、隣接する2×2のピクセルにおけるF(u(p)、v(q))の値の間の線形補完によって算出される。半径rmaxの半円は、最大の振幅値合計Bmaxを有する半径rの半円である。この半円は、下記の式(2)で示される、SPMイメージにおける動径波長Srwに対応する。式(2)において、Δxは、SPMイメージをスキャンするときのステップの長さである。
【0020】
【数2】
【0021】
第二層22の表面凹凸22aの動径波長Srwが25nmから90nmの範囲であることにより、表面凹凸22aにおいて光学的欠陥が多くなり、第二層22の表面における活性を高めることができる。このため、触媒1を用いた食品の処理において化学反応の活性が高くなりやすい。
【0022】
第一層21における400nmから600nmの波長の光の透過率は、例えば、80%以上である。換言すると、波長400nmから600nmの範囲における第一層21の分光透過率の最小値は、80%以上である。この場合、第一層21において、光学的欠陥がより確実に少ないと理解される。この場合、第一層21は、緻密な無孔の層でありうる。また、第一層21は、微細な空孔を有しつつ、400nmから600nmの波長の光の進行を妨げにくい層であってもよい。
【0023】
触媒膜20における300nmから365nmの波長の光の平均透過率は、例えば30%以下である。これにより、高いエネルギーの光によって、表面凹凸22a付近における化学反応の反応基質が反応して変質することを防止できる。
【0024】
触媒膜20における300nmから365nmの波長の光の平均透過率は、例えば0%以上であり、2%以上であってもよく、5%以上であってもよい。
【0025】
触媒膜20における金属酸化物は、光Lの照射により食品の処理における化学反応を促すことができる限り、特定の金属酸化物に限定されない。金属酸化物は、例えば、Timnの組成を有し、この組成は、1≦m≦2及び2≦n≦3の条件を満たす。これにより、触媒1によれば、食品の処理において化学反応の活性が高くなりやすい。金属酸化物は、二酸化チタンであってもよい。二酸化チタンは、例えば、アナターゼ型の二酸化チタンである。金属酸化物は、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、又は酸化鉄であってもよい。
【0026】
支持体10の材料は、触媒膜20を支持できる限り、特定の材料に限定されない。支持体10の材料は、例えばガラス及び樹脂である。支持体10は、望ましくは、光Lの透過率が高い材料である。支持体10は、例えば、波長300nmから600nmにおいて80%以上の透過率を有する。
【0027】
第一層21の厚さ及び第二層22の厚さは、特定の値に限定されない。第一層21は、例えば、第二層22の厚さより大きい厚さを有する。これにより、第一層21において、光Lの吸収率がより確実に高くなりやすく、第一層21において多くの電子-正孔対が発生しやすい。第一層21の厚さは、例えば、1μmから3μmである。第一層21の厚さは、例えば、無作為に選んだ10箇所以上における厚さの算術平均値として決定できる。
【0028】
第二層22の厚さは、例えば、30nmから200nmである。第二層22の厚さは、例えば、無作為に選んだ10箇所以上における厚さの算術平均値として決定できる。
【0029】
触媒膜20を形成する方法は、特定の方法に限定されない。触媒膜20は、例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、及びゾルゲル法等の方法によって形成できる。
【0030】
第一層21は、例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、蒸着、及びゾルゲル法等の方法によって形成できる。第一層21は、望ましくは、ゾルゲル法によって形成される。この場合、スパッタリング等の真空が必要な方法に比べて容易に第一層21を形成できる。
【0031】
第二層22は、例えば、ゾルゲル法によって形成される。この場合、スパッタリング等の真空が必要な方法に比べて容易に第二層22を形成できる。
【0032】
触媒1の製造方法の一例を説明する。触媒1は、例えば、下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)を含む方法によって製造されてもよい。下記(I)、(II)、(III)、及び(IV)の条件は、透過率T21が透過率T22よりも高く、かつ、表面凹凸22aが25nmから90nmの動径波長Srwを有するように調整される。
(I)金属酸化物の前駆体を含む第一液L1を支持体10上に塗布して第一塗膜C1を形成する。
(II)第一塗膜C1に対し乾燥及び焼成を行って第一層21を形成する。
(III)金属酸化物の前駆体を含む第二液L2を第一層21の上に塗布して第二塗膜C2を形成する。
(IV)第二塗膜C2に対し乾燥及び焼成を行って第二層22を形成する。
【0033】
(II)において、第一塗膜C1の焼成の温度は、例えば、400℃から700℃である。この場合、第一層21における400nmから600nmの波長の光の透過率が高くなりやすい。
【0034】
(IV)において、第二塗膜C2の焼成の温度は、例えば、450℃から750℃である。この場合、表面凹凸22aの動径波長Srwを25nmから90nmの範囲に調整しやすい。第二塗膜C2の焼成の温度は、望ましくは500℃から750℃であり、より望ましくは500℃から700℃である。
【0035】
例えば、(I)における第一液L1は、有機ポリマーを含有している。一方、(II)における第二液L2は、有機ポリマーを含有していない。この場合、(II)において、ゲルの収縮が抑制され、亀裂及び凹凸等の欠陥が生じにくい。これにより、第一層21において光学的欠陥が少なく、透過率T21が高くなりやすい。一方、(IV)において、ゲルの収縮が起こりやすく、亀裂及び凹凸等の欠陥が生じやすい。その結果、第二層22の表面凹凸22aが所望の動径波長Srwを有しやすい。
【0036】
第一液L1に含まれる有機ポリマーは、透過率T21が透過率T22よりも高く、かつ、表面凹凸22aが25nmから90nmの動径波長Srwを有するように触媒膜20を形成できる限り、特定の有機ポリマーに限定されない。有機ポリマーは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。有機ポリマーは、例えば、ポロキサマー等のポリオキシプロピレン鎖及びポリオキシエチレン鎖を有するコポリマーである。有機ポリマーは、下記のポリマーであってもよい。
ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(プロピレングリコール)-block-ポリ(エチレングリコール)
ポリ(プロピレングリコール)-block-ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(プロピレングリコール)
ポリエチレングリコール
ポリ(エチレンオキシド)
4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル-ポリエチレングリコール,
t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール
【0037】
第二層22の表面凹凸22aは、エッチング等の所定の粗面化処理によって形成されてもよい。
【0038】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る装置100を示す断面図である。装置100は、触媒1と、光源50とを備えている。装置100において、光源50から出射された光Lは、支持体10を通過した後に触媒膜20に入射される。換言すると、光Lは、触媒1の支持体10側に照射される。このとき、処理対象の食品は、触媒膜20の第二層22に接触している。
【0039】
装置100は、例えば、食品を収容するための空間60を有する。空間60は、第二層22に接している。空間60に食品が存在する状態で光源50が光Lを出射すると、触媒膜20の働きにより、高い活性で食品の処理のための化学反応を促すことができる。
【0040】
光源50から出射される光Lの波長は、特定の波長に限定されない。光Lは、典型的には、触媒膜20をなす材料のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する。光Lの波長は、例えば50nmから400nmである。
【0041】
装置100を用いてなされる食品の処理は、特定の処理に限定されない。この処理は、殺菌処理であってもよいし、食品に含まれる成分を別の成分に変化させる処理であってもよい。この処理は、醸造に用いられてもよく、醸造以外の食品製造及び食品加工に用いられてもよい。
【実施例
【0042】
実施例により本開示の食品加工用触媒をより詳細に説明する。なお、本開示の食品加工用触媒は、以下の実施例に限定されない。
【0043】
<実施例1>
0.092mol(21g)のチタニウムエトキシドを撹拌しながら、20質量%の濃度の塩酸14.6cm3をチタニウムエトキシドに徐々に加え、混合液を得た。この混合液に6gのポロキサマー系界面活性剤と、74cm3の1ブタノールとを加えて得られた液を3時間撹拌して、ゾルAを得た。ポロキサマー系界面活性剤は、ポリオキシプロピレン鎖(POP)と、POPを挟む2個のポリオキシエチレン鎖(POE)からなる、ブロック共重合体を含んでいた。
【0044】
30mm平方の正方形状及び1mmの厚さを有する合成石英ガラス製の板を支持体として準備した。この支持体の上に、500回転毎分(rpm)及び180秒間のスピンコーティングによりゾルAを塗布して塗膜を形成し、500℃の電気炉中で2時間塗膜を焼成した。ゾルAの塗布及び塗膜の焼成を3回繰り返し、1.2μmの厚さの酸化チタン含有層を有する、実施例1に係るサンプルA-1を得た。酸化チタン含有層の厚さは、マイクロメータを用いて測定し、無作為に選んだ10箇所以上における厚さの算術平均値として決定した。
【0045】
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いてサンプルA-1の透過率スペクトルを得た。結果を図5に示す。図5に示す通り、サンプルA-1の、波長400nmから600nmの範囲における透過率は概ね90%以上であった。このため、サンプルA-1の酸化チタン含有層の波長400nmから600nmの光の透過率は80%以上であり、酸化チタン含有層において光学的欠陥が少ないと理解される。ゾルAは、有機ポリマーを含有しているので、酸化チタン含有層の形成においてゲルの収縮が抑制され亀裂や凹凸が生じにくかったと考えられる。サンプルA-1の酸化チタン含有層において光学的欠陥が少なくなったと考えられる。図6は、サンプルA-1の外観を示す写真である。
【0046】
次に、0.025mol(2.52g)のアセチルアセトン及び0.05mol(17.50g)のチタニウムブトキシドをこの順で32cm3の1-ブタノールに混和させ、得られた混合物を室温で1時間撹拌し、混合液を得た。この混合液に、0.15mol(9.05g)のイソプロパノールと3.64cm3の水とを混合した水溶液を混和させ、得られた混合物をさらに1時間撹拌し、混合液を得た。得られた混合液に、0.04mol(1.66g)のアセトニトリルを加えて1時間撹拌し、ゾルBを得た。ゾルBを6000rpm及び20秒間のスピンコーティングによってサンプルA-1の酸化チタン含有層の上に塗布して塗膜を形成し、この塗膜を600℃の電気炉中で2時間焼成して100nmの厚さの触媒表面層を形成した。このようにして、実施例1に係るサンプルB-1を得た。サンプルB-1における触媒表面層の厚さはVeeco社製の段差計Dektak3を用いて測定し、無作為に選んだ10箇所以上における厚さの算術平均値として決定した。サンプルB-1において、酸化チタン含有層及び触媒表面層によって触媒膜が構成されていた。
【0047】
セイコーインスツル社製の原子間力顕微鏡SPA300を用いて、サンプルB-1の触媒表面層の断面高さプロファイルを取得した。プローブの走査方向における断面高さプロファイルの長さは3μmであった。得られた断面高さプロファイルをImage Metrology社の解析ソフトScanning Probe Image Processor(SPIP)を用いて解析して、触媒表面層の表面凹凸の動径波長を決定した。サンプルB-1の触媒表面層の表面凹凸の動径波長は、36nmであった。
【0048】
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いてサンプルB-1の透過率スペクトルを得た。結果を図7に示す。図7に示す通り、サンプルB-1の触媒膜における300nmから365nmの波長の光の平均透過率は、30%以下であった。
【0049】
サンプルB-1の触媒表面層は白濁していた。ゾルBは、有機ポリマーを含有していないので、ゾルBの塗膜の焼成においてゲルの収縮が起こり、触媒表面層において亀裂又は凹凸が生じたと考えられる。
【0050】
(触媒活性の評価)
質量基準で10parts per million(ppm)のギ酸水溶液をサンプルB-1の触媒表面層に接触させた状態で、支持体側から350nmの波長の単色光を照射し、ギ酸の分解反応を生じさせた。反応時間は、0分間から48分間に設定した。この反応において、単色光を照射する面積は3.14cm2であり、ギ酸水溶液の量は5cm3であった。反応後の溶液中のギ酸濃度を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定した。結果の一例を図8に示す。図8に示すグラフから得られたギ酸の分解反応の反応速度定数は5.56h-1であった。本明細書で「h」は「時間」を意味する。
【0051】
(触媒からのチタンの遊離しにくさの評価)
サンプルB-1の触媒表面層に5cm3の純水を接触させた状態で、支持体側から350nmの波長の単色光を7日間照射した。純水の容器にはフッ素樹脂製の容器を用いた。その後、容器の中の液を採取してサンプル液を得た。アジレント社製の誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)7700xを用いて、サンプル液中のTi原子の濃度を測定した。このICP-MSにおける測定限界の下限は、100parts per trillion(ppt)である。この測定によれば、サンプル液中にTi原子は検出されなかった。このため、サンプルB-1の触媒膜からチタンが遊離しにくく、食品へのチタンの混入を防止できることが示唆された。
【0052】
<実施例2及び3>
ゾルBの塗膜を焼成する温度を500℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、触媒膜を備えた実施例2に係るサンプルB-2を得た。ゾルBの塗膜を焼成する温度を700℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、触媒膜を備えた実施例3に係るサンプルB-2を得た。サンプルB-2及びサンプルB-3の触媒表面層の表面凹凸の動径波長を実施例1と同様にして測定した。結果を図9に示す。サンプルB-2及びサンプルB-3の触媒活性を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0053】
<比較例1>
ゾルBの塗膜を焼成する温度を800℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、触媒膜を備えた比較例1に係るサンプルβ-1を得た。サンプルβ-1の触媒表面層の表面凹凸の動径波長を実施例1と同様にして測定した。結果を図9に示す。サンプルβ-1の触媒活性を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0054】
<比較例2>
ゾルBと同様にしてゾルDを調製した。30mm平方の正方形状及び1mmの厚さを有する合成石英ガラス製の板である支持体の上に、500rpm及び180秒間のスピンコーティングによりゾルDを塗布して塗膜を形成し、600℃の電気炉中で2時間塗膜を焼成した。ゾルDの塗布及び塗膜の焼成を7回繰り返し、1.2μmの厚さを有する触媒膜を有する、比較例2に係るサンプルβ-2を得た。サンプルβ-2における触媒膜は白濁していた。ゾルDは、有機ポリマーを含有していないので、ゾルDの塗膜の焼成においてゲルの収縮が起こり、触媒膜に亀裂又は凹凸が生じたと考えられる。
【0055】
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いてサンプルβ-2の透過率スペクトルを得た。結果を図10に示す。図10に示す通り、サンプルβ-2は、波長400nmから600nmの範囲における透過率は60%程度であった。図11は、サンプルβ-2の外観を示す写真である。
【0056】
サンプルβ-2の触媒活性を実施例1と同様にして評価した。結果を図12に示す。図12に示すグラフから得られたギ酸の分解反応の反応速度定数は1.73h-1であった。
【0057】
<比較例3>
ゾルAと同様にしてゾルEを調製した。ゾルEを用いてゾルゲル法により、1.2μmの厚さの酸化チタン含有層を単層の触媒膜として有する、比較例3に係るサンプルβ-3を作成した。ゾルゲル法の条件は、実施例1に係るサンプルA-1の酸化チタン含有層の形成における条件と同一であった。
【0058】
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いてサンプルβ-3の透過率スペクトルを得た。結果を図13に示す。図13に示す通り、波長400nmから600nmの範囲におけるサンプルβ-3の透過率は概ね98%以上であった。ゾルEは、有機ポリマーを含有しているので、触媒膜の形成においてゲルの収縮が抑制され亀裂及び凹凸が生じにくかったと考えられる。このため、サンプルβ-3の触媒膜において光学的欠陥が少なくなったと考えられる。サンプルβ-3の触媒膜の表面凹凸の動径波長を、実施例1と同様にして求めたところ、1000nmであった。
【0059】
サンプルβ-3の触媒活性を実施例1と同様にして評価した。結果を図14に示す。図14に示すグラフから得られたギ酸の分解反応の反応速度定数は3.68h-1であった。
【0060】
表1に示す通り、各実施例に係るサンプルを用いたギ酸の分解反応の反応速度定数は、各比較例に係るサンプルを用いたギ酸の分解反応の反応速度定数よりも高く、各実施例に係るサンプルが高い触媒活性を示すことが示唆された。図9に示す通り、ゾルBの塗膜の焼成温度を調整することによって触媒表面層の表面凹凸の動径波長を調節できることが理解される。触媒表面層の表面凹凸の動径波長を25nmから90nmの範囲に調整するためには、焼成温度を450℃から750℃の範囲に調整することが有利であると理解される。
【0061】
比較例2に係るサンプルβ-2では、触媒膜において光学的欠陥が多く、触媒膜の光の透過性が低く、電子及び正孔の拡散長さが短かったと考えられる。このため、サンプルβ-2において、ギ酸の分解反応の反応効率は低かったと考えられる。
【0062】
比較例3に係るサンプルβ-3では、触媒膜において光学的欠陥は少ないので、光の利用効率が高く、電子及び正孔の拡散長さは長かったと考えられる。一方、サンプルβ-3では、触媒膜の反応有効面積が小さいので、ギ酸の分解反応の反応効率は低かったと考えられる。
【0063】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本開示の食品加工用触媒は、高い反応性を有し、食品加工及び水質改質等の分野で有用である。触媒の担持体側から励起光が照射できるので、光透過率が低い溶液の化学反応処理に対して有用である。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15