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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】容量素子、及び容量素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/822 20060101AFI20230804BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20230804BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20230804BHJP
   H01L 27/06 20060101ALI20230804BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20230804BHJP
   H10B 12/00 20230101ALI20230804BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01L27/04 C
H01L27/06 102A
H01L21/316 X
H10B12/00 621C
H01L27/146 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019017901
(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公開番号】P2019145790
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018025144
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小柳 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】留河 優子
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】川島 良男
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-161934(JP,A)
【文献】特開平10-341010(JP,A)
【文献】特開2007-081265(JP,A)
【文献】特開2012-009823(JP,A)
【文献】特開平07-094678(JP,A)
【文献】特開2016-197617(JP,A)
【文献】特開平09-092798(JP,A)
【文献】特開平02-148760(JP,A)
【文献】特開平04-328862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/04
H01L 21/822
H01L 21/8234
H01L 27/06
H01L 21/316
H10B 12/00
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極に対向する第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、かつ前記第1電極に接する誘電体層と、を備え、
前記第1電極のうち、前記第1電極と前記誘電体層との界面と接する第1部分、及び前記誘電体層のうち、前記界面と接する第2部分に珪素が含有され、
前記第1部分及び前記第2部分の厚み方向に沿った、前記珪素の濃度分布は、前記界面を横切る凸部を含み、
前記第1電極は、チタン、アルミニウム、金、プラチナ、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ハフニウム、酸化インジウムスズ、及び酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つにより構成される、
容量素子。
【請求項2】
前記誘電体層は、ハフニウムの酸化物及びジルコニウムの酸化物からなる群から選択される少なくとも1つにより構成される、
請求項1に記載の容量素子。
【請求項3】
前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置は、前記第1部分内に位置する、
請求項1または2に記載の容量素子。
【請求項4】
前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置における前記珪素の含有率は、1at%以上25at%以下である、
請求項1から3のいずれかに記載の容量素子。
【請求項5】
前記第1電極は、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ハフニウム、酸化インジウムスズ、及び酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つにより構成される、
請求項1から4のいずれかに記載の容量素子。
【請求項6】
前記第1電極は、窒化チタン及び窒化タンタルからなる群から選択される少なくとも1つにより構成される、
請求項1からのいずれかに記載の容量素子。
【請求項7】
前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置は、前記厚み方向において前記界面から±10nmの範囲内に位置する、
請求項1からのいずれかに記載の容量素子。
【請求項8】
第1電極を形成する工程と、
前記第1電極を、シリコン化合物を含むガスに暴露することで、前記第1電極に珪素を含有させる工程と、
前記第1電極上に誘電体層を形成する工程と、を含み、
前記珪素を含有させる工程は、前記誘電体層を形成する工程の前に行われる、
容量素子の製造方法。
【請求項9】
前記シリコン化合物は、シラン、ジシラン、ジクロロシラン、三塩化シラン、四塩化珪素、及び四フッ化珪素のいずれかである、
請求項に記載の容量素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容量素子、及び容量素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体集積回路の集積度を向上させるため、半導体集積回路が備える容量素子の単位面積あたりの容量密度を高める検討がなされている。容量密度を高める方策の1つとして、誘電率の高い材料を用いて容量素子の絶縁膜を形成することが検討されている。例えば、非特許文献1及び2などには、従来よく用いられていた酸化シリコン(SiO)よりも誘電率の高い酸化ハフニウム(HfO)を用いて形成された絶縁膜を備える容量素子が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Soon-Wook Kim, “Effects of electrical stress on the leakagecurrent characteristics of multilayer capacitor structures”, Appl. Phys. Lett.96, 262904, 2010
【文献】T. S. Boscke, “Ferroelectricity in Hafnium Oxide: CMOS compatible Ferroelectric Field Effect Transistors” IEEE, IEDM, 11, 547-550, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の容量素子では、耐圧が不十分であるという問題がある。
【0005】
そこで、本開示は、耐圧特性に優れた容量素子及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の限定的ではない例示的な一態様に係る容量素子は、第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、かつ前記第1電極に接する誘電体層と、を備える。前記第1電極のうち、前記第1電極と前記誘電体層との界面と接する第1部分、及び前記誘電体層のうち、前記界面と接する第2部分に珪素が含有される。前記第1部分及び前記第2部分の厚み方向に沿った、前記珪素の濃度分布は、前記界面を横切る凸部を含む。
【0007】
また、本開示の限定的でない例示的な一態様に係る容量素子の製造方法は、第1電極を形成する工程と、前記第1電極を、シリコン化合物を含むガスに暴露することで、前記第1電極に珪素を含有させる工程と、前記第1電極上に誘電体層を形成する工程と、を含む。前記珪素を含有させる工程は、前記誘電体層を形成する工程の前に行われる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、耐圧特性に優れた容量素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る容量素子の断面構造の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態に係る容量素子の断面構造の別の一例を示す断面図である。
図3A図3Aは、実施の形態に係る容量素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
図3B図3Bは、実施の形態に係る容量素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
図3C図3Cは、実施の形態に係る容量素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
図3D図3Dは、実施の形態に係る容量素子の製造方法の一工程を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態に係る容量素子のTiNに対するSIMS分析結果を示す図である。
図5図5は、実施の形態に係る容量素子のHfOに対するSIMS分析結果を示す図である。
図6図6は、実施の形態に係る容量素子の深さ方向における珪素(Si)の濃度分布を示す図である。
図7図7は、実施の形態に係る容量素子の深さ方向における炭素(C)の濃度分布を示す図である。
図8図8は、実施の形態に係る容量素子の電圧-電流特性の一例を示す図である。
図9図9は、実施の形態に係る容量素子を備えるイメージセンサの断面構造を示す断面図である。
図10図10は、実施の形態に係る容量素子を備えるメモリデバイスの断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見)
容量素子の静電容量Cは、電極間に挟まれた誘電体層の誘電率をε、真空の誘電率をε、誘電体層の膜厚をt、電極の面積をSとした場合、C=ε×ε×S/tで表される。このため、容量密度を高める方策には、誘電体層の誘電率εを高めることだけでなく、誘電体層の膜厚tを薄くすることなどがある。
【0011】
また、通常、容量素子の耐圧を高めるためには、誘電体層の膜厚を厚くすること、又は、バンドギャップが広い低誘電率の材料を用いることが行われる。なお、耐圧とは、電極間に流れるリーク電流が著しく増大する電圧である。
【0012】
しかしながら、非特許文献1に示されているように、酸化ハフニウム(HfO)は、膜厚が増加するのに伴って、耐電界強度が低下する。なお、耐電界強度とは、リーク電流が著しく増大する電界強度であり、耐圧と同様の意義で用いられる。このため、酸化ハフニウムを用いて誘電体層を形成した場合、誘電体層の膜厚を増やしたとしても耐圧が低下するという問題がある。
【0013】
本開示の一態様の概要は、以下の通りである。
【0014】
本開示の一態様に係る容量素子は、第1電極と、前記第1電極に対向する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に位置し、かつ前記第1電極に接する誘電体層と、を備える。前記第1電極のうち、前記第1電極と前記誘電体層との界面と接する第1部分、及び前記誘電体層のうち、前記界面と接する第2部分に珪素が含有される。前記第1部分及び前記第2部分の厚み方向に沿った、前記珪素の濃度分布は、前記界面を横切る凸部を含む。
【0015】
これにより、誘電体層に含まれる珪素が誘電体層内の欠陥を補間するので、電流パスが形成されるのを抑制することができる。したがって、容量素子の耐圧を高めることができる。このように、本態様によれば、耐圧特性に優れた容量素子を実現することができる。
【0016】
また、本開示の一態様に係る容量素子において、例えば、前記誘電体層は、ハフニウムの酸化物及びジルコニウムの酸化物からなる群から選択される少なくとも1つにより構成されていてもよい。
【0017】
これにより、ハフニウムの酸化物及びジルコニウムの酸化物は、誘電率が高い材料であるので、容量素子の高容量化を実現することができる。したがって、本態様によれば、容量素子の高容量化と高耐圧化とを両立させることができる。
【0018】
また、本開示の一態様に係る容量素子において、例えば、前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置は、前記第1部分内に位置してもよい。
【0019】
これにより、凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置の両側に広がるように珪素が分布しているので、頂点が第1電極内に位置していることで、誘電体層内の第1電極との界面近傍には多くの珪素が含有されている。このため、誘電体層内の界面近傍における欠陥が効果的に補間されるので、容量素子の耐圧を高めることができる。
【0020】
また、本開示の一態様に係る容量素子において、例えば、前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置における前記珪素の含有率は、1at%以上25at%以下であってもよい。
【0021】
これにより、前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置における前記珪素の含有率が1at%以上であることで、誘電体層内にも欠陥が十分に補間できるだけの十分な量の珪素が含有される。したがって、誘電体層内の欠陥が補間されるので、容量素子の耐圧を高めることができる。また、前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置における前記珪素の含有率が25at%以下であることで、ハフニウムの酸化物又はジルコニウムの酸化物は高い誘電率を有する。したがって、容量素子の容量を高めることができる。このように、本態様によれば、容量素子の高容量化と高耐圧化とを両立させることができる。
【0022】
また、本開示の一態様に係る容量素子において、例えば、前記第1電極は、窒化チタン及び窒化タンタルからなる群から選択される少なくとも1つにより構成されていてもよい。
【0023】
これにより、窒化チタン又は窒化タンタルなどの窒化金属膜は、誘電体層を用いた半導体プロセスとの親和性が高いので、耐圧特性に優れた容量素子を容易に実現することができる。
【0024】
また、本開示の一態様に係る容量素子において、例えば、前記凸部において前記珪素の濃度が最大となる位置は、前記厚み方向において前記界面から±10nmの範囲内に位置してもよい。
【0025】
これにより、界面を基準に少なくとも±10nmの範囲には多くの珪素が分布しているので、誘電体層内にも欠陥が補間できるだけの充分な量の珪素が含有される。したがって、誘電体層内の欠陥が補間されるので、容量素子の耐圧を高めることができる。
【0026】
また、例えば、本開示の一態様に係るイメージセンサは、上記容量素子を備える。
【0027】
これにより、イメージセンサは、耐圧特性に優れた容量素子を備えるので、イメージセンサの耐圧特性も高めることができる。
【0028】
また、例えば、本開示の一態様に係るメモリデバイスは、上記容量素子を備える。
【0029】
これにより、メモリデバイスは、耐圧特性に優れた容量素子を備えるので、メモリデバイスの耐圧特性も高めることができる。
【0030】
また、例えば、本開示の一態様に係る容量素子の製造方法は、第1電極を形成する工程と、前記第1電極を、シリコン化合物を含むガスに暴露することで、前記第1電極に珪素を含有させる工程と、前記第1電極上に誘電体層を形成する工程と、を含む。前記珪素を含有させる工程は、前記誘電体層を形成する工程の前に行われる。
【0031】
これにより、第1電極に珪素が含有されるので、第1電極上に誘電体層を積層することで、積層された誘電体層内に珪素を効率良く含有させることができる。したがって、誘電体層内の欠陥が珪素によって補間されるので、電流パスが形成されるのを抑制することができる。
【0032】
また、第1電極をシリコン化合物に暴露させることで、第1電極に珪素を添加するので、第1電極に添加される珪素の量を面内で均一にすることができる。特に、トレンチ構造を有する容量素子などの平行平板型ではない容量素子のように、第1電極が立体的な構造を有する場合であっても、シリコン化合物に暴露した表面から均一に珪素を添加することができる。したがって、珪素の偏りを低減し、誘電体層内の欠陥を面内で均一に補間することができ、電流パスが形成されるのを抑制することができる。
【0033】
このように、本態様によれば、耐圧特性に優れた容量素子を製造することができる。
【0034】
また、例えば、前記シリコン化合物は、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、ジクロロシラン(SiHCl)、三塩化シラン(SiHCl)、四塩化珪素(SiCl)、及び四フッ化珪素(SiF)のいずれかである。
【0035】
これにより、シリコン化合物に含まれる珪素を均一に第1電極内に添加することができる。
【0036】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、製造工程、製造工程の順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。本明細書において説明される種々の態様は、矛盾が生じない限り互いに組み合わせることが可能である。また、以下の実施形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0037】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同じ機能を有する構成要素は共通の参照符号で示し、説明を省略又は簡略化することがある。
【0038】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0039】
(実施の形態)
[構成]
図1は、実施の形態に係る容量素子10の断面構造の一例を示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、容量素子10は、下部電極11と、誘電体層12と、上部電極13とを有する。容量素子10は、基板(図示せず)の上方に、下部電極11、誘電体層12及び上部電極13をこの順で積層することで形成される。
【0041】
下部電極11及び上部電極13は、互いに対向して配置された第1電極及び第2電極の一例である。誘電体層12は、下部電極11と上部電極13との間に位置し、下部電極11及び上部電極13の各々に接している。
【0042】
図1に示すように、容量素子10は、平行平板型の容量素子である。具体的には、下部電極11、誘電体層12及び上部電極13はそれぞれ、略均一な膜厚を有する平板状に構成されている。下部電極11と上部電極13とは、誘電体層12を挟んで互いに平行に配置されている。下部電極11の上面は、誘電体層12の下面と接触している。上部電極13の下面は、誘電体層12の上面に接触している。
【0043】
なお、容量素子10の電極面積は、上部電極13と下部電極11とが平面視において重なる面積に相当する。平面視とは、容量素子10を積層方向から見ることである。積層方向は、図1に示す深さ方向の反対、すなわち、下から上へ向かう方向である。
【0044】
下部電極11は、容量素子10が備える第1電極の一例である。下部電極11は、導電性の材料を用いて形成されている。導電性の材料としては、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、金(Au)又はプラチナ(Pt)などの金属単体が用いられる。あるいは、導電性の材料としては、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)又は窒化ハフニウム(HfN)などの導電性の窒化金属膜が用いられてもよい。また、導電性の材料としては、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)又は酸化亜鉛(ZnO)などの導電性の酸化物が用いられてもよい。
【0045】
下部電極11は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)又はスパッタリング法などを用いて形成される。下部電極11は、例えば基板の上方に、導電性の材料を薄膜状に成膜することで形成される。下部電極11の膜厚は、例えば15nmであるが、これに限らない。
【0046】
上部電極13は、容量素子10が備える第2電極の一例である。上部電極13は、下部電極11と同じ材料を用いて形成されてもよく、異なる材料を用いて形成されてもよい。上部電極13は、下部電極11と同様に、MOCVD法、ALD法又はスパッタリング法などを用いて形成される。上部電極13は、例えば誘電体層12上の領域であって、下部電極11と平面視において重複する領域に、導電性の材料を薄膜状に成膜することで形成される。上部電極13の膜厚は、例えば200nmであるが、これに限らない。
【0047】
誘電体層12は、酸化シリコン(SiO)よりも誘電率が高いhigh-k材料を用いて形成されている。具体的には、誘電体層12は、ハフニウム(Hf)又はジルコニウム(Zr)の酸化物を主成分として含有している。誘電体層12は、ハフニウム又はジルコニウムの酸化物を50モル%以上含有している。誘電体層12は、ALD法、MOCVD法又はEB(Electron Beam)蒸着法などを用いて形成される。誘電体層12は、例えば下部電極11上に、ハフニウム又はジルコニウムの酸化物により構成される誘電体膜を薄膜状に成膜することで形成される。
【0048】
誘電体層12は、単斜晶(Monoclinic)系の結晶構造を有する。誘電体層12は、常誘電体である。
【0049】
誘電体層12の膜厚は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて撮影された写真から物理膜厚を測定することが可能である。あるいは、容量素子10の面積(S)と、誘電体層12の誘電率(ε)とが既知である場合、容量素子10の容量値(C)から、式:t=ε×S/Cに基づいて平均膜厚(t)を算出することも可能である。
【0050】
誘電体層12の結晶構造は、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)法を用いた分析を行うことで知ることが可能である。また、結晶構造は、断面TEM(Transmission Electron Microscope)で知ることも可能である。
【0051】
下部電極11及び誘電体層12の各々には、珪素(Si)が含有されている。下部電極11及び誘電体層12の厚み方向に沿った、珪素の濃度分布は、下部電極11と誘電体層12との界面を横切る凸部を含む。詳細については、実施例を挙げて後で説明する。
【0052】
下部電極11及び誘電体層12に含まれる珪素の濃度は、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)を用いて測定することが可能である。なお、各層の膜厚、結晶構造、及び、珪素の濃度の測定方法は、これらに限らない。
【0053】
なお、容量素子10の断面構造は、図1に示した例に限らない。つまり、容量素子10は、平行平板型の容量素子でなくてもよい。
【0054】
図2は、本実施の形態の別の一例に係る容量素子20の断面構造を示す断面図である。図2に示される容量素子20は、平行平板型の容量素子ではなく、三次元構造型の容量素子である。具体的には、容量素子20は、下部電極21と、誘電体層22と、上部電極23とを備える。なお、容量素子20は、図1に示される容量素子10と比較して、その断面構造が相違する点を除いて、各層を構成する材料及び製造方法などは、容量素子10と同様である。
【0055】
図2に示されるように、下部電極21と誘電体層22との界面は、上部電極23から下部電極21に向かう方向、すなわち、深さ方向に凹んだトレンチ形状を有する。誘電体層22は、トレンチ形状に沿って略均一な膜厚で設けられている。図2に示される例では、下部電極21も、トレンチ形状に沿って略均一な膜厚で設けられている。上部電極23は、上面が略平坦で、かつ、下面がトレンチ形状に沿って設けられている。
【0056】
これにより、トレンチ形状における溝の側面部において、上部電極23と下部電極21とが互いに対向する領域が増える。このため、平面視において、図1に示す容量素子10と同じ大きさであっても、容量素子20の表面積が大きくなり、容量が大きくなる。
【0057】
なお、図2では、2つの溝を有するトレンチ形状を一例に示したが、溝の個数は1つでもよく、3つ以上でもよい。また、溝の個数を多くする、又は、溝を深くすることで、容量素子20の容量を大きくすることができる。
【0058】
[容量素子の製造方法]
続いて、本実施の形態に係る容量素子10の製造方法について、図3Aから図3Dを用いて説明する。図3Aから図3Dは、本実施の形態に係る容量素子10の製造方法の各工程を示す断面図である。
【0059】
容量素子10の製造方法は、下部電極11を形成する工程と、下部電極11に珪素を含有させる工程と、下部電極11上に誘電体層12を積層する工程とを含んでいる。下部電極11に珪素を含有させる工程は、誘電体層12を積層する工程の前に行われる。
【0060】
具体的には、まず、図3Aに示されるように、基板(図示せず)の上方に、下部電極11を形成する。例えば、MOCVD法を用いてTiN膜を成膜することで、下部電極11を形成する。TiN膜の膜厚は、例えば15nmであるが、これに限らない。MOCVD法に使用した原料は、例えば、TDMAT(Ti[N(CH、テトラキス(ジメチルアミド)チタニウム)などである。
【0061】
次に、図3Bに示されるように、下部電極11を、シリコン化合物を含むガスに暴露することで、下部電極11に珪素を含有させる。具体的には、下部電極11が配置されたチャンバー内にシリコン化合物を含むガスを供給することで、下部電極11の表面をシリコン化合物に暴露する。シリコン化合物を含むガスは、例えばシラン(SiH)ガスであるが、これに限らない。例えば、シリコン化合物は、ジシラン(Si)、ジクロロシラン(SiHCl)、三塩化シラン(SiHCl)、四塩化珪素(SiCl)、四フッ化珪素(SiF)などであってもよい。
【0062】
次に、図3Cに示されるように、シリコン化合物に暴露した後の下部電極11上に、ALD法を用いて、誘電体層12を形成する。このときの基板温度は、例えば250℃以上300℃以下である。例えば、ハフニウムの酸化物(HfO)を下部電極11上に成膜することで、誘電体層12を形成する。
【0063】
ALD法に使用した原料は、TEMAH(Hf[NCH、テトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム)である。原料ガスとOガスとを交互にチャンバー内へ導入することにより、シラン暴露後の下部電極11上にHfO膜を成長させる。なお、原料は、TDMAH(Hf[N(CH、テトラキス(ジメチルアミノ)ハフニウム)であってもよい。
【0064】
なお、ハフニウムの酸化物の代わりに、ジルコニウムの酸化物(ZrO)を成膜してもよい。HfOの膜厚は、例えば21nmであるが、これに限らない。なお、HfO及びZrOの添字xは、正の値である。例えばx=2であるが、これに限らない。
【0065】
次に、図3Dに示すように、誘電体層12上に上部電極13を形成する。例えば、MOCVD法を用いて、TiN膜を誘電体層12上に成膜することで、上部電極13を形成する。TiN膜の膜厚は、例えば70nmであるが、これに限らない。
【0066】
最後に、上部電極13を形成した後、窒素(N)雰囲気下の熱処理を行う。窒素雰囲気下の熱処理は、窒素アニールともいう。窒素アニールは、例えば400℃で30分行われる。
【0067】
本実施の形態では、容量素子10に対して、高温での熱処理を行わない。ここで、高温とは、誘電体層12が常誘電性を維持できない範囲の温度であり、例えば1000℃以上の温度である。仮に1000℃の熱処理を行った場合、誘電体層12の結晶状態は単斜晶(Monoclinic)から斜方晶(Orthorhombic)に変化する。結晶状態の変化により、誘電体層12は強誘電体になる。強誘電体となった誘電体層12は、ヒステリシス特性を有する。このため、容量素子10に対して、窒素アニールなどの熱処理を行う場合、当該熱処理の温度は、例えば、400℃以下の温度である。
【0068】
なお、トレンチ構造を有する容量素子20の製造方法は、図3Aから図3Dに示す容量素子10の製造方法と同様である。例えば、下部電極21を形成する前に、基板の上方に絶縁膜を形成し、当該絶縁膜の一部を除去することで、凹部を形成する。当該凹部に沿って下部電極21を形成することで、トレンチ構造を有する下部電極21を形成する。下部電極21の形成後は、図3Bから図3Dに示される製造方法と同様に、シリコン化合物への暴露、誘電体層22の形成、上部電極23の形成、窒素アニールをこの順で行う。これにより、トレンチ構造の容量素子20が製造される。
【0069】
以下、本開示の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本開示を説明するための例示であり、本開示を限定するものではない。
【0070】
本発明者らは、以下に示す実施例に係る容量素子10のサンプルと、比較例に係る容量素子のサンプルとを作製し、作製した各サンプルの特性を評価した。まず、各サンプルの具体的な製造条件について説明する。
【0071】
[実施例]
まず、Siウエハからなる基板上に、下部電極11としてTiN膜を膜厚15nmで成膜した。次に、350℃、90Torrの高温減圧雰囲気にした炉内で、SiHガスに180secの暴露処理を行った。次に、誘電体層12として、HfOを膜厚21nmで成膜した。次に、上部電極13としてTiN膜を膜厚70nmで成膜した。その後、窒素雰囲気で400℃、30minの熱処理を行った。これにより、実施例に係る容量素子10を作製した。
【0072】
なお、誘電体層を構成するHfOは、ALD法で成膜した。ALD法に使用した原料は、TEMAH(Hf[NCH、テトラキス(エチルメチルアミノ)ハフニウム)である。原料ガスとOガスとを交互にチャンバー内へ導入することにより、下部電極11上にHfO膜を成長させた。
【0073】
また、下部電極11及び上部電極13の各々を構成するTiN膜は、MOCVD法で成膜した。MOCVD法に使用した原料は、例えば、TDMAT(Ti[N(CH、テトラキス(ジメチルアミド)チタニウム)などである。
【0074】
また、上部電極13を形成しない点以外は、実施例に係る容量素子10と同様の製造条件に従って、膜分析用のサンプルを作製した。
【0075】
[比較例]
本発明者らは、比較例として、シリコン化合物に下部電極11を暴露させていない容量素子も作製した。比較例に係る容量素子は、下部電極11をSiHに暴露させない点を除いて、実施例と同様の条件に従って作製した。
【0076】
また、上部電極を形成しない点以外は、比較例に係る容量素子と同様の製造条件に従って、膜分析用サンプルを作製した。
【0077】
[特性の比較]
以下では、作製した実施例及び比較例に係る容量素子及び膜分析用サンプルの特性を分析した結果について説明する。
【0078】
まず、図4及び図5を用いて、下部電極11と誘電体層12との界面の位置について説明する。
【0079】
図4は、本実施の形態に係る容量素子のTiNに対するSIMS分析結果を示す図である。図5は、実施の形態に係る容量素子のHfOに対するSIMS分析結果を示す図である。
【0080】
図4及び図5はそれぞれ、実施例及び比較例で作製した膜分析用サンプルを二次イオン質量分析(SIMS)法で評価した結果を示している。図4及び図5において、横軸は、誘電体層12の上面からの深さを示している。図4の縦軸は、Tiイオンの強度を示しており、図5の縦軸は、Hfイオンの強度を示している。なお、イオンの強度は、対応する深さにおける分析対象の膜に含まれる原子の量(具体的には、濃度)に相当する。
【0081】
図4に示されるように、深さが約17nmを超えると、Tiイオンの強度が大きくなり始め、深さが約26nm近傍で強度が飽和している。深さが約32nmを超えると、Tiイオンの強度が減少を始め、約58nm近傍でTiイオンがほとんど検知されなくなっている。
【0082】
一方で、図5に示されるように、深さ方向に見ると、Hfイオンの強度は略一定の状態を保ちながら、深さが約20nmでわずかに上昇している。Hfイオンの強度は、深さが約22nmで最大に達した後、約30nm近傍にかけて減少している。
【0083】
本実施の形態では、下部電極11と誘電体層12との界面の位置は、Hfイオンの強度の最大値、すなわち、Hfイオンの強度が減少を始めるときの深さの位置であるとみなす。具体的には、図5に示されるように、界面の位置は、深さが約22nmの位置になる。実施例及び比較例では、成膜条件として21nmの厚さとなるようにHfO膜を成膜しているので、成膜条件に略合致した位置に界面が存在していることが分かる。
【0084】
また、本実施の形態では、界面を含む所定の領域(以下では、界面領域と記載)の上端の位置は、Tiイオンの強度が大きくなり始める位置であるとみなす。具体的には、界面領域の上端の位置は、図4に示されるように、深さが約17nmの位置になる。
【0085】
また、界面領域の下端の位置は、Hfイオンの強度が下げ止まる位置であるとみなす。具体的には、界面領域の下端の位置は、図5に示されるように、深さが約31nmの位置になる。
【0086】
なお、図4及び図5では、実施例及び比較例のグラフを区別して図示していないが、略同じグラフとなった。すなわち、シリコン化合物による暴露処理の有無によっては、HfO及びTiNの結晶構造にほとんど影響を与えていない。このため、シリコン化合物による暴露処理を行ったとしても、誘電体層12の高誘電性、及び、下部電極11の導電性などは、シリコン化合物による暴露処理を行わない場合と同等である。
【0087】
次に、図6を用いて、深さ方向における珪素(Si)の濃度分布について説明する。
【0088】
図6は、本実施の形態に係る容量素子の深さ方向における珪素(Si)の濃度分布を示す図である。図6において、横軸は、誘電体層12の上面からの深さを示しており、縦軸は、珪素の濃度を示している。
【0089】
図6に示されるように、実施例と比較例とでは、特に界面領域における珪素の濃度が異なっている。具体的には、実施例に係るサンプルにおける珪素の濃度は、界面領域において、比較例に係るサンプルにおける珪素の濃度より高い。
【0090】
実施例に係るサンプルにおける、珪素の濃度分布は、下部電極11と誘電体層12との界面の両側に亘る凸部90を有している。凸部90は、上端92から頂点91を通って下端93に至る滑らかな山型の部分である。なお、凸部90は、上端92から下端93までの間に複数の極大値を有する場合もある。
【0091】
凸部90の頂点91は、界面近傍で珪素の濃度が最も高くなる部分である。すなわち、頂点91は、凸部90における珪素の濃度の最大値である。図6に示されるように、凸部90の頂点91は、下部電極11内に位置している。つまり、凸部90の頂点91は、界面より下部電極11側に位置している。頂点91は、深さが約25nmの位置である。
【0092】
頂点91における珪素の含有率は、例えば1at%以上25at%以下である。頂点91における含有率は、頂点91の深さにおける全元素に対する珪素が占める割合に相当する。図6に示されるように、頂点91における濃度は約2×1021atoms/cmであり、含有率に換算すると4at%となる。珪素の濃度は、深さ方向において、頂点91を基準に両側に徐々に減少している。例えば、深さの浅い方向、すなわち、HfO側に5nm離れた位置では、頂点91の濃度の半分以下になっている。
【0093】
凸部90の上端92は、頂点91から深さの浅い方向に見た場合に、珪素の濃度の減少の程度が緩やかになる部分である。例えば、深さの浅い方向に対して、頂点91から1nm刻みに珪素の濃度の減少の傾きを算出した場合、減少の傾きが半分以下になる位置が上端92である。
【0094】
図6に示されるように、凸部90の上端92は、誘電体層12内に位置している。具体的には、上端92は、界面領域外の誘電体層12内に位置している。なお、上端92は、界面領域内に位置していてもよい。上端92は、深さが約15nmの位置である。図6に示されるように、上端92における珪素の濃度は、約3×1019atoms/cmである。
【0095】
凸部90の下端93は、頂点91から深さ方向に見た場合に、珪素の濃度の減少の程度が緩やかになる部分である。例えば、深さ方向に対して、頂点91から1nm刻みに珪素の濃度の減少の傾きを算出した場合、減少の傾きが半分以下になる位置が下端93である。図6に示されるように、凸部90の下端93は、下部電極11内に位置している。具体的には、下端93は、界面領域の下端に略一致する位置に位置している。なお、下端93は、界面領域内に位置していてもよく、界面領域外の下部電極11内に位置していてもよい。下端93は、深さが約31nmの位置である。図6に示されるように、下端93における珪素の濃度は、約7×1019atoms/cmである。
【0096】
なお、凸部90の上端92及び下端93はそれぞれ、上述した例に限らない。例えば、上端92及び下端93はそれぞれ、減少の傾きが0になる位置であってもよい。あるいは、上端92及び下端93は、珪素の濃度が頂点91の濃度に比べて一桁小さくなる位置であってもよい。
【0097】
本実施の形態では、凸部90の頂点91は、深さ方向において界面を基準に±10nmの範囲内に位置している。なお、「-(マイナス)」は深さが浅いことを意味し、「+(プラス)」は深さが深いことを意味している。つまり、頂点91は、界面より10nm浅い位置から、界面より10nm深い位置までの範囲内に位置している。
【0098】
図6に示されるように、頂点91は、深さ方向において界面を基準に+10nmの範囲内に位置している。頂点91は、界面を基準に-10nmの範囲内に位置していてもよい。また、上端92及び下端93も、界面から±10nmの範囲内に位置している。
【0099】
以上のように、シリコン化合物に下部電極11を暴露させた後に誘電体層12を形成することで、珪素は、界面を基準に下部電極11側だけでなく、誘電体層12側にも拡散していることが分かる。珪素は、誘電体層12中の酸素欠損を補間するだけでなく、下部電極11及び誘電体層12中に含まれていた炭素に置き換わったものと推定される。なお、炭素は、下部電極11及び誘電体層12の成膜に用いる原料に含まれていた成分である。
【0100】
ここで、図7を用いて、深さ方向における炭素(C)の濃度分布について説明する。
【0101】
図7は、本実施の形態に係る容量素子の深さ方向における炭素(C)の濃度分布を示す図である。図7において、横軸は、誘電体層12の上面からの深さを示しており、縦軸は、炭素の濃度を示している。
【0102】
図7に示されるように、実施例と比較例とでは、特に界面領域における炭素の濃度が異なっている。具体的には、実施例に係るサンプルにおける炭素の濃度は、界面領域において、比較例に係るサンプルにおける炭素の濃度より低い。より具体的には、界面より誘電体層12側において、実施例に係るサンプルにおける炭素の濃度は、比較例に係るサンプルにおける炭素の濃度より低い。
【0103】
このように、シリコン化合物に下部電極11を暴露させた後、誘電体層12を積層することで、誘電体層12内で不純物として含有される炭素の量が減少する。したがって、キャリアトラップとなりうる炭素の量が減少するので、電流パスの発生を抑制することができる。これにより、容量素子10の耐圧が向上する。
【0104】
なお、図4から図7はいずれも、上部電極13を備えない膜分析用のサンプルの分析結果を示しているが、上部電極13を備える容量素子10についても同様である。
【0105】
[電圧-電流特性]
ここで、実施例及び比較例に係る容量素子の電圧-電流特性について、図8を用いて説明する。
【0106】
図8は、本実施の形態に係る容量素子の電圧-電流特性の一例を示す図である。具体的には、図8は、上述した実施例及び比較例の電圧-電流特性を示している。電流値の測定はKeysight社製の半導体パラメータアナライザ4156Cを用いた。具体的には、下部電極11に0Vを印加し、上部電極13に印加する電圧を0Vから7Vの範囲でスイープさせながら、下部電極11と上部電極13との間に流れるリーク電流の電流値を測定した。電流値が1×10A/cmを超えたときに、容量素子10が破壊したとみなし、そのときの電圧を絶縁破壊電圧とした。
【0107】
比較例に係る容量素子では、絶縁破壊電圧が4.18Vであった。これに対して、実施例に係る容量素子10では、絶縁破壊電圧は4.80Vであった。
【0108】
以上の結果から、TiNなどからなる下部電極11に対してSiHなどのシリコン化合物を暴露した後、HfOなどの誘電体層12を積層することで、容量素子10の耐圧が向上することが確認された。
【0109】
なお、HfOの破壊モデルとして、パーコレーションモデル(Percolation model)が提唱されている。パーコレーションモデルは、長時間のストレスにより発生した欠陥が電流パスを形成することで絶縁破壊を起こすというモデルである。本実施の形態に係る容量素子においても、パーコレーションモデルが適用できる。
【0110】
したがって、珪素の誘電体層12への添加による耐圧の向上効果は、誘電体層12中に添加されたイオンが欠陥を補い、電流パスの形成を抑制したこと、及び、誘電体層12中に含有する不純物である炭素の量を低減し、電流パスの形成を抑制したことによると考えられる。
【0111】
なお、ここでは、下部電極11としてTiN膜を利用したが、TaN膜、HfN膜などの他の窒化金属膜でも同様の結果が得られる。また、下部電極11として、ITOなどの導電性酸化物、又は、金属膜などを利用した場合でも同様の結果が得られる。誘電体層12としても、HfO膜の代わりに、ZrO膜などの他のhigh-k材料を用いた場合でも同様の結果が得られる。また、シリコン化合物として、シラン以外のシリコンを含む材料を用いた場合も同様の結果が得られる。
【0112】
[イメージセンサ]
続いて、本実施の形態に係る容量素子10を備えるイメージセンサ100について、図9を用いて説明する。図9は、本実施の形態に係るイメージセンサ100の断面構造を示す断面図である。
【0113】
イメージセンサ100は、行列状に配列された複数の画素を備える。複数の画素の各々は、受光した光を光電変換することで電気信号を生成する光電変換素子と、当該光電変換素子によって生成された電気信号を処理する画素回路とを備える。図9は、イメージセンサ100の1つの画素の断面構成を示している。
【0114】
図9に示されるように、本実施の形態に係るイメージセンサ100は、光電変換膜132を画素回路の上方に積層させた積層構造を有するイメージセンサである。具体的には、イメージセンサ100は、基板110と、多層配線構造120と、光電変換素子130とを備える。
【0115】
基板110は、半導体基板であり、例えばSi基板である。
【0116】
多層配線構造120は、光電変換素子130によって生成された電気信号を処理する画素回路を含んでいる。具体的には、図9に示されるように、多層配線構造120には、複数のトランジスタTr1、Tr2及びTr3と、複数の容量素子Cs及びCcと、複数の配線とが含まれる。
【0117】
複数のトランジスタTr1、Tr2及びTr3はそれぞれ、リセットトランジスタ、及び、電荷の読み出し用のトランジスタなどである。トランジスタTr1、Tr2及びTr3は、例えばMOSFETである。各トランジスタのソース領域及びドレイン領域などは、基板110の表面領域に形成されている。
【0118】
容量素子Ccは、光電変換素子130から取り出される信号電荷を蓄積する容量素子である。容量素子Csは、kTCノイズを除去するための容量素子である。各トランジスタ、各容量素子及び各配線は、シリコン酸化膜などの絶縁性材料から形成される層間絶縁膜などによって分離されている。
【0119】
光電変換素子130は、画素電極131と、光電変換膜132と、透明電極133とを備える。画素電極131と透明電極133とは、光電変換膜132を間に挟んで、互いに対向して配置されている。光電変換膜132は、画素電極131と透明電極133との各々に面で接触している。
【0120】
画素電極131は、画素毎に互いに分離して設けられている。画素電極131は、例えば、アルミニウム又は銅などの金属などの導電性材料を用いて形成されている。
【0121】
光電変換膜132は、有機材料又はアモルファスシリコンなどの無機材料を用いて形成されている。光電変換膜132は、透明電極133を介して光が入射した場合に、入射した光の量に応じた信号電荷を生成する。信号電荷は、画素電極131を介して取り出され、容量素子Ccに蓄積される。
【0122】
透明電極133は、ITOなどの透明導電性材料を用いて形成されている。透明電極133及び光電変換膜132は、例えば、各画素に共通して設けられている。
【0123】
本実施の形態に係る容量素子10は、例えば、容量素子Csとして利用される。具体的には、図9に示されるように、イメージセンサ100は、kTCノイズの除去用の容量素子Csとして、容量素子10を備える。基板110の上方で、かつ、多層配線構造120の内部に、下部電極11、誘電体層12及び上部電極13がこの順に積層されることで、容量素子10が設けられている。
【0124】
なお、容量素子10は、信号電荷を蓄積するための容量素子Ccとして利用されてもよい。これにより、高照度の入射光に対しても白飛びせずに露光できるようになり、飽和電子数の多い画素を実現することができる。
【0125】
本実施の形態に係るイメージセンサ100は、耐圧が高い容量素子10を備えるので、信頼性を高めることができる。なお、イメージセンサ100は、容量素子10の代わりに、容量素子20を備えてもよい。
【0126】
[メモリデバイス]
次に、本実施の形態に係る容量素子20を備えるメモリデバイス200について、図10を用いて説明する。図10は、本実施の形態に係るメモリデバイス200の断面構造を示す断面図である。
【0127】
メモリデバイス200は、例えば、eDRAM(embedded Dynamic Random Access Memory)などの記憶装置である。なお、メモリデバイス200は、キャパシタベースの記憶装置であれば、eDRAMに限定されない。
【0128】
図10に示されるように、本実施の形態に係るメモリデバイス200は、基板210上に、DRAM形成領域201と、ロジック回路形成領域202とを備える。DRAM形成領域201には、メモリセル220と、トランジスタTrと、配線層230とが設けられている。
【0129】
メモリデバイス200では、例えば、DRAM形成領域201とロジック回路形成領域202とが行列状に複数配列されている。DRAM形成領域201に含まれるメモリセル220に電荷を書き込むことで、値を保持させることができる。図10は、メモリデバイス200の1つの単位領域の断面構成を示している。
【0130】
基板210は、半導体基板であり、例えばSi基板である。基板210上には、複数の絶縁膜240、241及び242が順に積層されている。
【0131】
メモリセル220は、例えば、図2に示される容量素子20である。メモリセル220は、基板210上に形成された絶縁膜241上に設けられている。具体的には、絶縁膜241には、絶縁膜240の上面を露出させる貫通孔が設けられており、メモリセル220は、当該貫通孔を利用したトレンチ構造を有する。
【0132】
メモリセル220の下部電極21は、絶縁膜240を貫通するコンタクトプラグ231を介してトランジスタTrのソース及びドレインの一方に接続されている。メモリセル220は、トランジスタTrを介して供給された電荷を蓄積する。
【0133】
トランジスタTrは、メモリセル220に対する電荷の書き込み又は読み出しを行う。トラジスタTrは、例えばMOSFETである。トランジスタTrのソース及びドレインなどは、基板210の表面領域に形成されている。トランジスタTrのソース及びドレインの他方は、絶縁膜240を貫通するコンタクトプラグ231、並びに、絶縁膜241及び242を貫通するコンタクトプラグ232を介して配線層230に接続されている。
【0134】
配線層230は、メモリセル220に対して書き込む電荷を供給するため、かつ、メモリセル220に蓄積された電荷を読み出すための配線である。
【0135】
ロジック回路形成領域202には、メモリセル220は設けられていない。ロジック回路形成領域202には、図示しないトランジスタなどが設けられており、ロジック回路が形成されている。ロジック回路は、例えば、DRAM形成領域201のトランジスタTrの制御などを行う。
【0136】
以上のように、本実施の形態に係るメモリデバイス200は、耐圧が高い容量素子20を備えるので、信頼性を高めることができる。なお、メモリデバイス200は、容量素子20の代わりに、容量素子10を備えてもよい。
【0137】
(他の実施の形態)
以上、1つ又は複数の態様に係る容量素子及びその製造方法、並びに、イメージセンサ及びメモリデバイスについて、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したもの、及び、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の範囲内に含まれる。
【0138】
例えば、凸部90の頂点91における珪素の含有率は、1at%より小さくてもよく、25at%より大きくてもよい。また、頂点91は、珪素の濃度分布において、深さ方向における一点でなくてもよく、深さ方向において幅を有してもよい。
【0139】
また、例えば、凸部90の頂点91は、誘電体層12内に位置していてもよい。
【0140】
また、例えば、珪素の濃度分布には、上部電極13と誘電体層12との界面の両側に亘る凸部が含まれてもよい。つまり、上部電極13が第1電極の一例であり、下部電極11が第2電極の一例であってもよい。
【0141】
また、上記の各実施の形態は、特許請求の範囲又はその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本開示は、耐圧特性に優れた容量素子、及び、当該容量素子を備えるCMOSイメージセンサなどの撮像素子、又は、DRAMなどのメモリ素子などに適用可能である。本開示に係る容量素子は、特に、高感度の撮影、又は、HDR(High Dynamic Range)の撮影が求められる場合において有用である。光検出装置又はイメージセンサは、例えば、デジタルカメラ、車両搭載用カメラなどに適用される。デジタルカメラは、例えば、人、動植物、風景、建造物などを被写体とし、日中の屋外での撮影、又は、照明の少ない屋外若しくは夜間での撮影に利用され得る。また、車両搭載用カメラは、例えば、車両が安全に走行するための、制御装置に対する入力装置として利用され得る。あるいは、車両が安全に走行するための、オペレータの支援に利用され得る。
【符号の説明】
【0143】
10、20 容量素子
11、21 下部電極
12、22 誘電体層
13、23 上部電極
90 凸部
91 頂点
92 上端
93 下端
100 イメージセンサ
110、210 基板
120 多層配線構造
130 光電変換素子
131 画素電極
132 光電変換膜
133 透明電極
200 メモリデバイス
201 DRAM形成領域
202 ロジック回路形成領域
220 メモリセル
230 配線層
231、232 コンタクトプラグ
240、241、242 絶縁膜
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10