(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】気化性防錆剤の製造方法および気化性防錆剤
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20230804BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230804BHJP
C23F 11/02 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C23F11/00 G
B32B27/18 E
C23F11/02
(21)【出願番号】P 2019137056
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】濱口 寿光
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-210340(JP,A)
【文献】特開昭51-039784(JP,A)
【文献】特開昭56-027346(JP,A)
【文献】特開平03-087252(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079458(WO,A1)
【文献】特開平10-158645(JP,A)
【文献】特開平10-237444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00-11/18
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化性防錆剤を製造するための方法であって、
亜硝酸金属塩および樹脂を含む組成物を成形して成形体を作製する工程、
アミン/アンモニウム系防錆剤、
アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンから選択される樹脂
、並びに水を含む塗工液を上記成形体の少なくとも一部に塗工する工程、および、
上記塗工液を乾燥し、上記成形体の表面の少なくとも一部にアミン/アンモニウム系防錆剤を含む防錆皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記塗工液を50℃以下で乾燥する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
亜硝酸金属塩が、亜硝酸のアルカリ金属塩および/または第2族金属塩である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アミン/アンモニウム系防錆剤が、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、および/または、有機アミンである請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
上記組成物および/または防錆皮膜に更に有機系防錆剤が含まれる請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
上記成形体がフィルム状である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
成形体と防錆皮膜を有し、
上記防錆皮膜が上記成形体の少なくとも一部を被覆しており、
上記成形体が亜硝酸金属塩および樹脂を含み、且つ、
上記防錆皮膜がアミン/アンモニウム系防錆剤
、並びに、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロースおよびポリビニルピロリドンから選択される樹脂を含むことを特徴とする気化性防錆剤。
【請求項8】
亜硝酸金属塩が、亜硝酸のアルカリ金属塩および/または第2族金属塩である請求項7に記載の気化性防錆剤。
【請求項9】
アミン/アンモニウム系防錆剤が、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、および/または、有機アミンである請求項7または8に記載の気化性防錆剤。
【請求項10】
上記
成形体および/または防錆皮膜に更に有機系防錆剤が含まれる請求項7~9のいずれかに記載の気化性防錆剤。
【請求項11】
上記成形体がフィルム状である請求項7~10のいずれかに記載の気化性防錆剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造中における構成成分の揮発を抑制しつつ、所望の組成の気化性防錆剤を安全かつ良好に製造できる方法と、当該方法により製造される気化性防錆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼材や、鉄鋼材製の各種機械部品や自動車部品のように酸化を受け易い金属からなる機具や部品などを保管、搬送や輸送する際に、その表面が酸化を受けて発錆するのを防止する必要がある。
【0003】
上記の様な金属部材の防錆対策として従来から汎用されているのは、防錆対象となる金属部材の表面に防錆油を塗布して油膜を形成し、発錆原因となる酸素や水分を遮断する方法である。ところが防錆油を使用する方法では、使用後における油膜の除去が煩雑であることから、最近では少量で優れた防錆効果を発揮し、しかも使用後には簡単に除去することのできる気化性固形防錆剤が実用化されている。
【0004】
この種の気化性固形防錆剤は、一般にVCI(Volatile Corrosion Inhibitor)と呼ばれており、代表的なものとしては、昇華性のシクロヘキシルアミンの炭酸塩(CHC)[(C6H11NH3)CO2(C6H11NH)]やジイソプロピルアミン亜硝酸塩(DIPAN)[(iPro)2NH・HNO2]、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩(DICHAN)[(C6H11)2NH・HNO2]等が知られている。
【0005】
ところがCHCは、優れた初期防錆能は発揮するものの臭気が強く、またその蒸気圧は4×10-1mmHg(25℃)と高いため、長期防錆を発揮させるには包装形態を厳重に行なわねばならない。一方DICHANは、長期防錆能には優れているものの、蒸気圧が1×10-4mmHg(25℃)と低く、防錆効果を発揮するのに20時間以上を要するため初期防錆能に欠ける。また、防錆対象物品からの距離が20~30cm以上離れると十分な防錆効果が発揮されない。また、DIPANの蒸気圧は5×10-3mmHg(25℃)でCHCとDICHANの中間であり、優れた初期防錆能と長期防錆能を兼ね備えているが、これを大気中に放置すると、その一部が変質してジイソプロピル-N-ニトロソアミンを生成することが知られており、該ジイソプロピル-N-ニトロソアミンは、発癌性を有することが指摘されるに及び、健康面からその使用は忌避される傾向にある。
【0006】
そこで本出願人は、初期防錆能、長期防錆能および長距離有効到達性能に優れた気化性防錆剤として、亜硝酸塩、アンモニウム塩、炭酸水素金属塩、および助剤を含む気化性防錆剤を開発した(特許文献1)。特に亜硝酸の金属塩と有機酸アンモニウム塩を含む気化性防錆剤は、常温において蒸気圧が高く且つ防錆効果に優れた亜硝酸アンモニウムを生成する。
【0007】
特許文献2にも、水溶性樹脂および亜硝酸塩を含む混合物〔A〕と、熱可塑性樹脂および安息香酸アンモニウム等を含む混合物〔B〕を共存させる2成分系防錆剤が開示されており、混合物〔B〕の表層を混合物〔A〕の水溶液で分散被覆することも記載されている。
【0008】
特許文献3には、非水溶性熱可塑性樹脂、水溶性熱可塑性樹脂および潮解性塩を含む吸湿性樹脂を成形したシート状包装資材が開示されており、その一面側に非水溶性熱可塑性樹脂のみ又は非水溶性熱可塑性樹脂と水溶性熱可塑性樹脂からなる保護樹脂層を形成することや、保護樹脂層が安息香酸アンモニウム等の防錆剤を含むことも記載されている。
【0009】
特許文献4には、水溶性樹脂のみからなるポリマーと、安息香酸アンモニウム等の気化性化合物、緩衝性化合物、潮解性化合物などを含む防錆組成物が記載されている。
【0010】
しかし、例えば亜硝酸塩とアンモニウム化合物とを樹脂中で溶融混練すると、高温により激しく反応してガスを発生し、成形体が発泡状態となる場合がある。そこで特許文献5に記載の防錆性多層フィルムは、亜硝酸塩を含むポリオレフィン樹脂層と、アンモニウム化合物などを含むポリオレフィン樹脂層から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-31966号公報
【文献】特開平10-158645号公報
【文献】特開2015-123378号公報
【文献】特開2016-89208号公報
【文献】特開平1-210340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した通り、種々の気化性防錆剤が開発されており、互いに反応し易い防錆成分を層ごとに分けた防錆性多層フィルムも開発されている。
しかし本発明者らは、たとえ防錆フィルムを多層で構成しても、樹脂を溶融して成形する際に防錆成分の中には揮発してしまうものもあり、製造時の安全性に問題があることに加えて、所望の組成の気化性防錆剤が得られず、その結果、十分な防錆性能が得られない場合があることを見出した。
そこで本発明は、製造中における構成成分の揮発を抑制しつつ、所望の組成の気化性防錆剤を安全かつ良好に製造できる方法と、当該方法で製造される気化性防錆剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、揮発し易いアミン/アンモニウム系防錆剤と水溶性樹脂を含む水溶液を使えば、アミン/アンモニウム系防錆剤の揮発を抑制しつつ防錆皮膜を安全かつ良好に形成できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0014】
[1] 気化性防錆剤を製造するための方法であって、
亜硝酸金属塩および樹脂を含む組成物を成形して成形体を作製する工程、
アミン/アンモニウム系防錆剤、水溶性樹脂および水を含む塗工液を上記成形体の少なくとも一部に塗工する工程、および、
上記塗工液を乾燥し、上記成形体の表面の少なくとも一部にアミン/アンモニウム系防錆剤を含む防錆皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 上記塗工液を50℃以下で乾燥する上記[1]に記載の方法。
[3] 亜硝酸金属塩が、亜硝酸のアルカリ金属塩および/または第2族金属塩である上記[1]または[2]に記載の方法。
[4] アミン/アンモニウム系防錆剤が、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、および/または、有機アミンである上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 上記組成物および/または防錆皮膜に更に有機系防錆剤が含まれる上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 上記成形体がフィルム状である上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 成形体と防錆皮膜を有し、
上記防錆皮膜が上記成形体の少なくとも一部を被覆しており、
上記成形体が亜硝酸金属塩および樹脂を含み、且つ、
上記防錆皮膜がアミン/アンモニウム系防錆剤および水溶性樹脂を含むことを特徴とする気化性防錆剤。
[8] 亜硝酸金属塩が、亜硝酸のアルカリ金属塩および/または第2族金属塩である上記[7]に記載の気化性防錆剤。
[9] アミン/アンモニウム系防錆剤が、有機酸アンモニウム塩、有機酸アミン塩、無機酸アンモニウム塩、無機酸アミン塩、および/または、有機アミンである上記[7]または[8]に記載の気化性防錆剤。
[10] 上記組成物および/または防錆皮膜に更に有機系防錆剤が含まれる上記[7]~[9]のいずれかに記載の気化性防錆剤。
[11] 上記成形体がフィルム状である上記[7]~[10]のいずれかに記載の気化性防錆剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によれば、揮発し易いアミン/アンモニウム系防錆剤の揮発を抑制しつつ防錆皮膜を安全に形成することができ、所望の組成の気化性防錆剤を製造することができる。また、必ずしも明らかではないが、本発明方法で製造された気化性防錆剤では、水溶性樹脂のため防錆皮膜に含まれる水分により、おそらくは成形体と防錆皮膜との界面で亜硝酸金属塩とアミン/アンモニウム系防錆剤が反応して気化性の亜硝酸アミン/アンモニウム塩が生成し、防錆性能が効果的に発揮されると考えられる。実際、後記の実施例の通り、本発明方法で製造された気化性防錆剤の防錆性能は極めて優れている。
よって本発明は、金属製品の発錆を有効に抑制できる気化性防錆剤を安全に製造できる技術として、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明に係る二層防錆フィルムの防錆性能試験に付した金属試験片の写真である。
【
図2】
図2は、防錆剤を使わずに防錆性能試験に付した金属試験片の写真である。
【
図3】
図3は、防錆剤を含む単層防錆ポリエチレンフィルムの防錆性能試験に付した金属試験片の写真である。
【
図4】
図4は、防錆皮膜を有するポリエチレンフィルムの防錆性能試験に付した金属試験片の写真である。
【
図5】
図5は、二層防錆ポリエチレンフィルムの防錆性能試験に付した金属試験片の真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る気化性防錆剤の製造方法を工程毎に説明するが、本発明は以下の具体例などに限定されるものではない。
【0018】
成形体の作製工程
本工程では、亜硝酸金属塩および樹脂を含む組成物を成形して成形体を作製する。
【0019】
亜硝酸金属塩は、それ自体が防錆作用を示すのみならず、本発明においてはアミン/アンモニウム系防錆剤と反応して気化性の亜硝酸アミン/アンモニウム塩を形成し、更なる防錆効果を発揮する。
【0020】
亜硝酸金属塩としては、特に制限されないが、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩やマグネシウム塩などの第2族金属塩が挙げられる。亜硝酸金属塩は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
亜硝酸金属塩の使用量は適宜調整すればよいが、例えば、成形体において防錆成分が亜硝酸金属塩のみである場合には、成形体全体に対する亜硝酸塩の割合を0.5質量%以上、5質量%以下、成形体において亜硝酸金属塩以外に防錆成分を配合する場合には、成形体全体に対する亜硝酸塩の割合を0.05質量%以上、2質量%以下にすることができる。
【0022】
上記組成物および成形体における必須の亜硝酸金属塩は耐熱性に優れることから、上記組成物および成形体を構成する樹脂は特に制限されない。例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系樹脂などの水溶性樹脂;エチレン-酢酸ビニル、エチレン-プロピレン、エチレン-ブテン、エチレン-アクリル酸エステル等の共重合樹脂が挙げられる。樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
樹脂の使用量は、成形体を適切に作製できる範囲で適宜調整すればよい。例えば、成形体全体に対する樹脂の割合を80質量%以上、99.95質量%以下とすることができる。
【0024】
上記成形体には、亜硝酸金属塩以外の防錆成分を配合してもよい。かかる防錆成分としては、有機系防錆剤が挙げられる。ここでの有機系防錆剤は、耐熱性に比較的優れる防錆成分であり、後述するアミン/アンモニウム系防錆成分とは異なるものをいう。即ち、有機系防錆剤は、アンモニウムカチオンおよびアミノ基を有さず、耐熱性に比較的優れる防錆成分である。かかる有機系防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ジメチルベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系防錆剤;3-メチル-5-ピラゾロン、1,3-ジメチル-5-ピラゾロン、1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン等のピラゾロン系防錆剤;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ホルミルイミダゾール、4-ホルミルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、2-メルカプトベンゾイミダゾール等のイミダゾール系防錆剤;セバシン酸、ドデカン二酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、およびその塩などのポリカルボン酸系防錆剤が挙げられる。ポリカルボン酸系防錆剤のカウンターカチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、およびカルシウムイオン、マグネシウムイオン等の第2族金属イオンが挙げられる。
【0025】
有機系防錆剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。有機系防錆剤の使用量は、その防錆効果が適切に発揮される範囲で適宜調整すればよい。例えば、成形体全体に対する有機系防錆剤の割合を0.05質量%以上、2質量%以下とすることができる。
【0026】
上記成形体には、上記の防錆剤と樹脂に加えて、その他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、充填剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、防黴剤が挙げられる。
【0027】
滑剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク等が挙げられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、カーボンブラック等の無機充填材などが挙げられる。可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル、芳香族2塩基酸エステル類、プロセスオイル、脂肪酸油、芳香族系エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、スルホンアミド等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン酸系酸化防止剤などが挙げられる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられる。光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系光安定剤、ニッケル系光安定剤などが挙げられる。帯電防止剤としては、例えば、脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコールエステル等が挙げられる。難燃剤としては、リン酸エステル等が挙げられる。着色剤としては、例えば、有機顔料、有機染料、無機顔料、無機染料などが挙げられる。防黴剤としては、例えば、有機硫黄系防黴剤、有機窒素硫黄系防黴剤、有機ハロゲン系防黴剤などが挙げられる。
【0028】
添加剤の使用量は、その効果が適切に発揮される範囲で適宜調整すればよい。例えば、成形体全体に対する添加剤の割合を0.05質量%以上、2.5質量%以下とすることができる。
【0029】
上記成形体における必須の防錆成分である亜硝酸金属塩は耐熱性に優れているため、上記成形体は通常の溶融成形により所望の形状に成形すればよい。例えば、樹脂以外の固体成分を混合し、例えば100μm以下に微細に粉砕する。次いで、樹脂の一部と溶融混合し、マスターバッチを作製する。次にマスターバッチと樹脂とを溶融混合しつつ、所望の形状に成形すればよい。
【0030】
成形体の形状は特に制限されない。例えば、鉄鋼材や、鉄鋼部品、鉄鋼製品を包装するためのフィルム状や、包装内に鉄鋼材などと共に梱包される防錆フィルムとすることができる。これらフィルムの厚さは適宜調整すればよいが、例えば20μm以上、2mm以下とすることができる。
【0031】
また、比較的厚いシートとし、鉄鋼部品などを収納する容器としてもよい。フィルムとシートは特に明確に区別されないが、シートの厚さとしては、例えば、1mm以上、5mm以下とすることができる。その他、成形体を発泡剤と共に成形し、包装内に鉄鋼材などと共に梱包される緩衝材としてもよい。
【0032】
塗工液の塗布工程
本工程では、上記成形体の少なくとも一部の表面に、アミン/アンモニウム系防錆剤、水溶性樹脂および水を含む塗工液を塗工する。
【0033】
アミン/アンモニウム系防錆剤は、有機酸および無機酸のアンモニウム塩およびアミン塩や、アミノ基を有する有機化合物であって、防錆作用を示すものをいう。かかるアミン/アンモニウム系防錆剤としては、例えば、安息香酸アンモニウム、フタル酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、パルミチン酸アンモニウム、オレイン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の有機酸アンモニウム塩;リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の無機酸アンモニウム塩;ジシクロヘキシルアミン安息香酸塩、シクロヘキシルアミン安息香酸塩、ジシクロヘキシルアミンカプリン酸塩、シクロヘキシルアミンラウリン酸塩などの有機酸のアミン塩;ジシクロヘキシルアミンリン酸塩などの無機酸のアミン塩;ヘキサメチレンテトラミン、尿素、チオ尿素、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノエタノール、2-メチルアミノエタノール、1-アミノ-2-プロパノール、3-メトキシプロピルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、ジイソプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N-エチルモルホリン、N-メチルモルホリン等の有機アミンが挙げられる。なお、尿素とチオ尿素は一般的には有機アミンとはいえないが、本開示においては便宜上有機アミンに含めるものとする。
【0034】
アミン/アンモニウム系防錆剤としては、塗工液が良好に調製されるよう、水溶性または親水性のものが好ましい。アミン/アンモニウム系防錆剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
アミン/アンモニウム系防錆剤の使用量は、防錆効果が有効に発揮される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、成形体上に形成される防錆皮膜に対して0.5質量%以上、5質量%以下とすることができる。
【0036】
水溶性樹脂は、防錆皮膜のマトリックスを形成するものであり、また、水溶性であることから水に溶解または分散して塗工液とすることができる。更に、水溶性樹脂の作用により防錆皮膜中には当初から水分子が存在するか、或いは大気中の水分が防錆皮膜に吸着または吸収される可能性もあり得る。この防錆皮膜中の水分子が、亜硝酸金属塩とアミン/アンモニウム系防錆剤との反応による気化性防錆剤、即ち亜硝酸のアミン塩またはアンモニウム塩の生成に寄与すると考えられる。
【0037】
水溶性樹脂には、水に完全に溶解するもののみならず、親水性であることにより水中に良好に分散可能であるものも含まれる。水溶性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、シリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0038】
水溶性樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。水溶性樹脂の使用量は、防錆皮膜が良好に形成される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、成形体上に形成される防錆皮膜に対して80質量%以上、95質量%以下とすることができる。
【0039】
塗工液には、アミン/アンモニウム系防錆剤と水溶性樹脂の他、一般的な塗工液に配合される添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、粘性改良剤が挙げられる。
【0040】
粘性改良剤としては、水溶性のものであり、塗工液の粘度を適度に調整できるものであれば特に制限されないが、例えば、キサンタンガム、プルラン、ゼラチン、寒天、ローカストビーンガム、ペクチン、タマリンドガム、グアーガム、変性ポリアクリル酸ナトリウム、ウレタン変性ポリエーテル等が挙げられる。
【0041】
粘性改良剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。粘性改良剤の使用量は、防錆皮膜の所望の膜厚にもよるが、例えば、成形体上に形成される防錆皮膜に対して0.1質量%以上、10質量%以下とすることができる。また、塗工液の粘度としては、例えば、防錆皮膜の所望の厚さが比較的薄い場合には100mPa・s以上、2,000mPa・s以下、防錆皮膜の所望の厚さが比較的厚い場合には2,000mPa・s超、10,000mPa・s以下とすることができる。
【0042】
塗工液には界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤により塗工液のレベリング性が向上する。また、例えば上記成形体が多孔質なものである場合には、細孔内に塗工液を十分に充填させることが可能になる。更に界面活性剤は、溶媒に対する構成成分の溶解性や分散性を改善する作用も有する。
【0043】
界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤を特に制限なく用いることができるが、非イオン界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性剤は特に制限されないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、シリコーン系界面活性剤などが挙げられる。
【0044】
また、塗工液には、成形体への配合成分として例示した有機系防錆剤やその他の添加剤を配合してもよい。有機系防錆剤や添加剤の具体例や配合量は、上記記載に準じるものとする。
【0045】
塗工液の溶媒としては、水を用いる。但し、アミン/アンモニウム系防錆剤と水溶性樹脂の溶解や分散のために、水混和性有機溶媒を併用してもよい。水混和性有機溶媒は、水と無制限に混和可能な有機溶媒をいい、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール;エチレングリコールやプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。溶媒として水と水混和性有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、混合溶媒全体における水混和性有機溶媒の割合は0.5質量%以上、20質量%以下とすることができ、10質量%以下または5質量%以下が好ましく、2質量%以下または1質量%以下がより好ましい。
【0046】
溶媒は、防錆皮膜成分を十分に溶解または分散できる程度用いる。例えば、塗工液全体に対する溶媒の割合を35質量%以上、65質量%以下程度とすることができる。
【0047】
塗工液は、溶媒にアミン/アンモニウム系防錆剤、水溶性樹脂、およびその他の添加剤を添加して十分に混合することにより調製すればよい。各成分が十分に溶解または分散しない場合には、40℃以上、80℃以下程度に加熱したり、超音波を照射してもよい。なお、この段階では塗工液には十分量の溶媒が含まれているため、温度を比較的高くしてもアミン/アンモニウム系防錆剤の揮発は抑制されている。
【0048】
得られた塗工液は、上記成形体の表面の少なくとも一部に塗工する。例えば、鉄鋼部品などを包装するフィルムや収納する容器の場合、防錆すべき鉄鋼部品などを収納する内面に塗工することが好ましい。塗工量は、形成されるべき防錆皮膜の所望の厚さに応じて調整すればよい。
【0049】
乾燥工程
本工程では、上記成形体の表面の少なくとも一部に塗工した塗工液を乾燥し、上記成形体の表面の少なくとも一部にアミン/アンモニウム系防錆剤を含む防錆皮膜を形成する。通常、熱可塑性樹脂の溶融成形は百数十度の温度下で行われるため、揮発性の防錆剤成分が揮発してしまうおそれがあるが、本発明では上記塗工液を乾燥し、水などの溶媒を留去するのみでよいため、過剰な高温は必要無い。
【0050】
乾燥のための温度は、特にアミン/アンモニウム系防錆剤の揮発を抑制しつつ溶媒を留去できれば特に制限されないが、例えば、20℃以上、50℃以下とすることができる。上記塗工液に含まれる主な溶媒は水であるため、20℃以上であれば乾燥可能である。また、乾燥温度が50℃以下であれば、防錆剤成分の揮発を十分に抑制することができる。当該温度としては、40℃以下がより好ましく、30℃以下がより更に好ましい。本工程は、主に乾燥温度を低く維持するために減圧下で実施してもよいが、生産性のため常圧で実施してもよい。また、乾燥は常温で行ってもよい。乾燥時間は特に制限されず、塗工液が十分に乾燥されて防錆皮膜が形成されるまで乾燥すればよいが、例えば、1時間以上、50時間以下とすることができる。
【0051】
本発明に係る気化性防錆剤は、成形体と防錆皮膜を有し、上記防錆皮膜が上記成形体の少なくとも一部を被覆しており、上記成形体が亜硝酸金属塩および樹脂を含み、且つ、上記防錆皮膜がアミン/アンモニウム系防錆剤および水溶性樹脂を含む。上述した通り、本発明の気化性防錆剤は、揮発性の防錆成分の揮発が抑制されつつ安全かつ良好に製造することができる。また、防錆皮膜を構成する水溶性樹脂により、防錆皮膜には水分が当初から存在するか、または大気中の水分を吸着もしくは吸収することができる。かかる水分により、おそらくは成形体と防錆皮膜との界面で亜硝酸金属塩とアミン/アンモニウム系防錆剤が徐々に反応して気化性の亜硝酸アミン/アンモニウム塩が生成し、長期間にわたり防錆性能が効果的に発揮されると考えられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
実施例1: 二層防錆フィルム
(1)単層防錆フィルムの作製
亜硝酸ナトリウム30質量%、セバシン酸二ナトリウム15質量%、ベンゾトリアゾール15質量%、タルク40質量%を混合し、得られた混合物を粉砕機で100μm以下に粉砕し、防錆剤粉末を得た。この防錆剤粉末30質量部と低密度ポリエチレン(「ペトロセン(R)249」東ソー社製,密度:0.916kg/m3,MFR:70g/10min)70質量部とを均一に混合し、120℃にて押出成形機で成形したストランドをペレタイザーでカッティングし、防錆剤マスターバッチを作製した。
前記防錆剤マスターバッチ5質量部と低密度ポリエチレン(「ペトロセン(R)180」東ソー社製,密度:0.922kg/m3,MFR:2.0g/10min)95質量部とを均一に混合し、140℃にてインフレーション成形機で膜厚100μmの単層防錆フィルムAを作製した。
【0054】
(2)防錆塗工液の作製
安息香酸アンモニウム1質量%、アクリル共重合エマルション(「バンスターX1658B」中部サイデン社製,不揮発分:46.0質量%,Tg:7℃,MFT:12℃)96質量%、および水系用粘性改良剤(「SNシックナーA-818」サンノプコ社製)3質量部を均一に混合溶解し、防錆塗工液Bを得た。
【0055】
(3)二層防錆フィルムの作製
前記(1)で得た単層防錆フィルムAを250mm×400mmの大きさに切断し、前記(2)で得た防錆塗工液Bを2~6gを電子天秤にて秤取り、防錆フィルム上に、直径5mm×長さ500mmのSUS製パイプを用いて均一に塗工し、常温にて一晩乾燥させた。得られた二層防錆フィルムにおいて、防錆塗工液Bの乾燥皮膜量は約30g/m2であった。
【0056】
比較例1: ポリエチレンフィルム
低密度ポリエチレン(「ペトロセン(R)249」東ソー社製)から、実施例1(1)と同様にして、防錆剤を含まない厚さ100μmのポリエチレンフィルムを作製した。
【0057】
比較例2: 単層防錆フィルム
実施例1(1)で作製した単層防錆フィルムをそのまま用いた。
【0058】
比較例3: 防錆皮膜を有するポリエチレンフィルム
比較例1のポリエチレンフィルム上に、実施例1(3)と同様にして、30g/m2の防錆塗工液Bの乾燥皮膜を形成した。
【0059】
比較例4: 二層防錆フィルム
安息香酸アンモニウム50質量%とタルク50質量%を混合し、得られた混合物を粉砕機で100μm以下に粉砕し、防錆剤粉末を得た。この防錆剤粉末20質量部と低密度ポリエチレン(「ペトロセン(R)249」東ソー社製,密度:0.916kg/m3,MFR:70g/10min)80質量部とを均一に混合し、105℃にて押出成形機で成形したストランドをペレタイザーでカッティングし、防錆剤マスターバッチを作製した。
前記防錆剤マスターバッチ5質量部および実施例1(1)で得た防錆剤マスターバッチ5質量部を各々低密度ポリエチレン(「ペトロセン(R)180」東ソー社製,密度:0.922kg/m3,MFR:2.0g/10min)95質量部とを均一に混合し、これらが別々の層となるように二層インフレーション成形機で、140℃にて各層の膜厚50μmとなるような膜厚100μmの二層防錆フィルムを作製した。
【0060】
試験例1: 防錆試験
JIS Z1542 6.3「気化性防せい性試験方法」に準じて、実施例1および比較例1~4の各フィルムの防錆性能を試験した。以下、試験条件の概略を記載する。1000mLの広口共栓瓶を2-プロパノールで洗浄した。広口共栓瓶の口を栓することができるシリコーンゴム製ゴム栓の中央部に直径16mmの孔をあけ、JIS H4080に規定される外径16mm、肉厚1.6mm、長さ114mmのアルミニウム管を、両端が同じ長さだけ出るようにゴム栓の孔に通し、底側に断熱のためゴム管を装着し、更に中央部に直径13mmの孔をあけたゴム栓を、さかさまに、上底側9.5mmを残して装着した。JIS G3108 SGD3の直径16mm×長さ13mmの炭素鋼試験片の一端に直径9.5mm×深さ9.5mmの穴をあけた。前記ゴム栓の上底側から、穴をあけた方がアルミニウム管に接するまで炭素鋼試験片を挿入した。広口共栓瓶内の相対湿度を90~95%に調整するために、30質量%グリセリン水溶液(10mL)を入れ、各フィルムを25mm×150mmの短冊状に裁断し、1瓶につき6枚ずつ前記ゴム栓の側面に粘着テープで互いに重ならないように貼り付け、広口共栓瓶に蓋をした。
広口共栓瓶を24℃±2℃に保った恒温槽内に入れ、20時間後に恒温槽から取り出し、試験片面に結露が生じるよう氷が十分にある氷水の冷水をアルミニウム管に満たし、再び恒温槽内に入れた。3時間後、水を除去した。以上の操作は、フィルム毎3例ずつ行った。試験片面に発生した錆を肉眼と拡大鏡で計数し、また、試験片面を写真撮影し、評価面が直径160mmの円となるよう写真を拡大して、防せい率を求めた。なお、JIS Z1542においては、肉眼観察で錆の数が1以上である場合には拡大鏡観察は要求されず、また、錆の計数段階で等級3以上である場合には、防せい率の算出は要求されない。JIS Z1542に示されている評価基準を表1に、評価結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
また、試験直後の試験片の写真を
図1~5に示す。
図3,5中、丸(〇)は肉眼で認められた錆の位置を示す。
表2および
図1,3に示される結果の通り、JIS Z1542の気化強化形のための試験条件では、防錆剤を使用しない比較例1のみならず、ポリエチレンフィルム上に防錆皮膜を形成した比較例3でも明確な錆が発生した。
単層防錆フィルムである比較例2では、抑制はされているものの錆が発生した。
亜硝酸ナトリウムを含むポリエチレンフィルムと安息香酸アンモニウムを含むポリエチレンフィルムからなる二層構造を有する比較例4のフィルムを用いた場合、錆はかなり抑制されているが、肉眼でも錆は認められた。
それに対して本発明の二層防錆フィルムを用いた実施例1では、肉眼では錆の発生は認められず、拡大観察で1例に1つの錆が確認されたのみであった。
同じ防錆剤構成の二層構造を有する比較例4で僅かではあるが錆の発生が認められたのは、各層のマトリックス樹脂がポリエチレンであり、140℃でフィルム成形されたため、成形時に揮発性の安息香酸アンモニウムの一部が揮発してしまったか、また、疎水性のポリエチレンフィルム中には水分が存在しないか或いは水分量が極めて低く、試験中にフィルムが吸湿することもないため、亜硝酸ナトリウムと安息香酸アンモニウムとの反応が進行しなかったことが考えられる。
一方、実施例1の二層防錆フィルムでは、安息香酸アンモニウムを含む層が水溶性樹脂であるアクリル樹脂で構成されており、その乾燥は常温で行われたことから安息香酸アンモニウムは揮発されておらず、また当該層には水分が含まれており、更に試験中に吸湿することから、亜硝酸ナトリウムと安息香酸アンモニウムとの反応が進行したと考えられる。
よって、実施例1と比較例4の二層防錆フィルムの防錆性能の差は、試験時間が長くなるほど更に拡大することが予想される。