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特許7325047導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法
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  • 特許-導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法 図1
  • 特許-導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 3/14 20060101AFI20230804BHJP
   H01P 11/00 20060101ALI20230804BHJP
   H01P 3/12 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
H01P3/14
H01P11/00 101
H01P3/12 200
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020005964
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021114679
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】末定 新治
(72)【発明者】
【氏名】村上 哲彦
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185858(JP,A)
【文献】特開2015-187319(JP,A)
【文献】特開2018-191137(JP,A)
【文献】特開2012-115678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 3/14
H01P 11/00
H01P 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔と樹脂フィルムとから成る複合フィルムを一定の裁断幅でスリットして成る平箔糸を組紐状に製紐することで可撓性導波管の外導体を形成するための丸組紐の製紐機であって、
前記平箔糸が反転の無いように巻かれた複数の円筒状のボビンと、
前記ボビンが回転可能に取り付けられ、前記ボビンから前記平箔糸を繰り出す複数のキャリアと、
前記外導体の内部に芯材を供給する芯材供給機構と、
前記外導体の形成後の導波管を取り出す導波管取出し機構と、
前記平箔糸が組紐状を成す前の拡大部において個々の平箔糸が別の平箔糸との間で為すクロスポイントが常時3点以上となるように前記キャリアの動作を決定するキャリア動作決定機構と、
を有する導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項2】
複数の前記クロスポイントの中で、製紐動作においてクロスする2本の平箔糸が連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを少なくとも2点有し、前記連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントのうち最も外側に位置するクロスポイントからみて次に外側に位置するクロスポイントにおいて、クロスする2本の平箔糸が接するかその間隔が前記平箔糸の幅の概ね半分よりも小さい距離に位置するように、前記キャリア動作決定機構の動作を決定する、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項3】
前記平箔糸が巻かれた前記ボビンと、前記キャリアとを8個以上、
前記平箔糸を8本以上有し、
複数の前記クロスポイントの中で、製紐動作においてクロスする2本の平箔糸が連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを基準点とした前記キャリアの動作に起因する平箔糸の鉛直面内における角度変化が、概ね10度以内にある、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項4】
前記一定の裁断幅でスリットして成る平箔糸が、複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により製造されたものである、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項5】
前記複数のキャリアが、前記平箔糸を前記ボビンから繰り出す場合、前記ボビンがその回転軸を中心に回転しつつ前記ボビンの横側から前記平箔糸を取得可能とするように構成される、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項6】
前記平箔糸を、切断前の複合フィルムにおける同一面が、導波管外導体の外側または内側となるように表裏を合わせるように構成した、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項7】
前記複数のキャリアが、前記平箔糸が有する張力を一定化する機構を有する、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項8】
前記複数のキャリアが、前記平箔糸が有する張力を調整する機構を有する、
請求項1に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機。
【請求項9】
可撓性の誘電体ロッドとその外周に平箔糸を組紐状に組んで成る外導体を有する可撓性導波管の製造方法であって、
請求項6に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機を用いて外導体の形成を行う工程と、
前記外導体の形成を行う工程の前に、前記平箔糸の表裏を合わせる工程と、
を含む、
可撓性導波管の製造方法。
【請求項10】
前記平箔糸の表裏を合わせる工程は、
試験的な製紐により反転している平箔糸を見分ける工程と、
平箔糸の表裏を修正する工程と、
を含む、
請求項9に記載の可撓性導波管の製造方法。
【請求項11】
可撓性の誘電体ロッドと、該誘電体ロッドの外周に外導体と、を有する可撓性導波管の製造方法であって、
請求項8に記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機を用いて外導体の形成を行う工程と、
前記外導体の形成を行う工程の前に、前記平箔糸の張力を合わせる工程と、
を含む、
可撓性導波管の製造方法。
【請求項12】
前記平箔糸の張力を合わせる工程は、
試験的な製紐により張力差の生じているキャリアを判定する工程と、
前記キャリアが有する平箔糸の張力を調整する機構を用いて平箔糸の張力を調整する工程と、
を含む、
請求項11に記載の可撓性導波管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放送分野を皮切りに4K/8K画像に代表される映像の高精細化に向けた取り組みが広く進んでいる。4K/8K画像に代表される高精細な映像では、画素数の増加に起因して映像情報の容量が大きくなっているため、数十Gbps以上の通信速度が求められている。
【0003】
しかし、近距離の情報伝送において従来多く用いられてきた金属線による伝送方式では、数十Gbps以上の通信速度への対応が困難であった。具体的には、同軸線路、ツイストペア線路およびツイナックス線路等を用いた伝送方式では、数十Gbps以上の通信速度への対応が困難であった。
【0004】
高精細な映像等の大容量情報の伝送には、従来から長距離伝送あるいはデータセンタでの高速通信において利用される光通信技術を利用することも考えられる。しかし、光通信技術に用いられる送受信ユニットは、非常に高価である。このため、近距離の情報通信における通信手段として、特に普及価格帯の製品では、採用が難しいといった経済性の問題がある。
【0005】
さらに、光通信の送受信ユニットは、線路の接続に数μm程度の高い精度での接続技術が必要であり、かつ、接続面に微細な塵、埃が付着するだけで通信が断絶することがある。このため、光通信の送受信ユニットは、特に繰り返しの接続が行われる製品において、信頼性を確保しにくいといった問題がある。即ち、光通信技術は、従来の近距離通信で用いられてきた金属線による伝送方式の代替として広く利用することが出来ず、高速通信に対して高いニーズがあるにも関わらず広範な普及が進まずにいた。
【0006】
このような状況から、数十Gbps以上の高速通信、廉価性、および、接続の信頼性を高いレベルで実現することができる有線通信手段として、可撓性導波管を用いてミリ波による高速通信を行う通信方式の開発が進められている。
【0007】
例えば、特許文献1では、中空の第1の筒状誘電体と、第1の筒状誘電体の外周に配置される筒状導電体と、この筒状導電体の外周に配置される第2の筒状誘電体と、を有する可撓性導波管が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、中空の筒状誘電体を配置するとともに、電界が交差する2面を覆う金属メッキ層と、この金属メッキ層で覆われた2面を含む誘電体の周りを覆う保護層と、を有する可撓性導波管が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献3では、中心に棒状の誘電体を配置するとともに、誘電体の外側表面に平箔糸を組紐状に組んだ外導体を有する可撓性導波管が提案されている。
【0010】
本発明者は、上述した可撓性導波管の中で特に特許文献3に開示されている可撓性導波管に着目し、特に実用性が高いとして鋭意研究を進めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-147548号公報
【文献】国際公開2014/162833号
【文献】特許第6343827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載されている可撓性導波管は、外導体が組紐状の構造を有していることに起因し、この組紐構造を成すための製造上の困難さを有する。より詳しくいえば、上述した外導体を構成する平箔糸が表裏反転することなく組紐構造を成さないと、可撓性導波管の特性が著しく劣化してしまい、事実上利用できないことが判っている。この「平箔糸が表裏反転することなく組紐構造を成す」ように外導体を形成することは、著しく困難であり、これを成すための要件が明確でないという問題があった。
【0013】
また、仮に表裏反転を抑えることができても、可撓性導波管の特性が実用上十分に安定することが出来ないという問題があった。即ち、可撓性導波管の特性を安定するための要件が明確でないという問題があった。
【0014】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、可撓性導波管を実用に供するために必要な、平箔糸を表裏反転することなく組紐構造を成すための要件を明確にするとともに、この製造を可能とする導波管外導体用の丸組紐製紐機および可撓性導波管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、金属箔と樹脂フィルムとから成る複合フィルムを一定の裁断幅でスリットして成る平箔糸を組紐状に製紐することで可撓性導波管の外導体を形成するための丸組紐の製紐機であって、前記平箔糸が反転の無いように巻かれた複数の円筒状のボビンと、前記ボビンが回転可能に取り付けられ、前記ボビンから前記平箔糸を繰り出す複数のキャリアと、前記外導体の内部に芯材を供給する芯材供給機構と、前記外導体の形成後の導波管を取り出す導波管取出し機構と、前記平箔糸が組紐状を成す前の拡大部において個々の平箔糸が別の平箔糸との間で為すクロスポイントが常時3点以上となるように前記キャリアの動作を決定するキャリア動作決定機構と、を有する。
【0016】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、複数の前記クロスポイントの中で、製紐動作においてクロスする2本の平箔糸が連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを少なくとも2点有し、前記連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントのうち最も外側に位置するクロスポイントからみて次に外側に位置するクロスポイントにおいて、クロスする2本の平箔糸が接するかその間隔が前記平箔糸の幅の概ね半分よりも小さい距離に位置するように、前記キャリア動作決定機構の動作を決定する。
【0017】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記平箔糸が巻かれた前記ボビンと、前記キャリアとを8個以上、前記平箔糸を8本以上有し、複数の前記クロスポイントの中で、製紐動作においてクロスする2本の平箔糸が連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを基準点とした前記キャリアの動作に起因する平箔糸の鉛直面内における角度変化が、概ね10度以内にある。
【0018】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記一定の裁断幅でスリットして成る平箔糸が、複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により製造されたものである。
【0019】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記複数のキャリアが、前記平箔糸を前記ボビンから繰り出す場合、前記平箔糸が前記ボビンの横側から前記平箔糸を取得可能するように構成される。
【0020】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記平箔糸を、切断前の複合フィルムにおける同一面が、導波管外導体の外側または内側となるように表裏を合わせるように構成した。
【0021】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記複数のキャリアが、前記平箔糸が有する張力を一定化する機構を有する。
【0022】
また、本開示に係る導波管外導体用の丸組紐製紐機は、上記開示において、前記複数のキャリアが、前記平箔糸が有する張力を調整する機構を有する。
【0023】
また、本開示に係る可撓性導波管の製造方法は、可撓性の誘電体ロッドとその外周に平箔糸を組紐状に組んで成る外導体を有する可撓性導波管の製造方法であって、上記記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機を用いて外導体の形成を行う工程と、前記外導体の形成を行う工程の前に、前記平箔糸の表裏を合わせる工程と、を含む。
【0024】
また、本開示に係る可撓性導波管の製造方法は、上記開示において、前記平箔糸の表裏を合わせる工程は、試験的な製紐により反転している平箔糸を見分ける工程と、平箔糸の表裏を修正する工程と、を含む。
【0025】
また、本開示に係る可撓性導波管の製造方法は、上記開示において、可撓性の誘電体ロッドと、該誘電体ロッドの外周に外導体と、を有する可撓性導波管の製造方法であって、上記記載の導波管外導体用の丸組紐製紐機を用いて外導体の形成を行う工程と、前記外導体の形成を行う工程の前に、前記平箔糸の張力を合わせる工程と、を含む。
【0026】
また、本開示に係る可撓性導波管の製造方法は、上記開示において、前記平箔糸の張力を合わせる工程は、試験的な製紐により張力差の生じているキャリアを判定する工程と、前記キャリアが有する平箔糸の張力を調整する機構を用いて平箔糸の張力を調整する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、特許第6343827号公報に開示されている可撓性導波管を実用に供するために必要な、平箔糸を表裏反転しない導波管外導体用の丸組紐の製造装置を得ることが出来るという効果を奏する。
【0028】
また、本開示によれば、導波管外導体用の丸組紐の製造装置を用いた製造方法により、特性の安定した可撓性導波管を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、丸組紐製紐機の概略構成図である。
図2図2は、丸組紐製紐機にボビンがセットされたキャリアを拡大した拡大図である。
図3図3は、図1にある丸組紐製紐機を上方から見たときの概念図であって、丸組紐製紐機が有するレールと、その上をキャリアが移動する経路を示す概念図である。
図4A図4Aは、製紐位置を拡大した時の模式図であって、図3にある位置にキャリアがあるときの姿を示す模式図である。
図4B図4Bは、製紐位置を拡大した時の模式図であって、図3にある位置にキャリアがあるときの直後の姿を示す模式図である。
図5図5は、平箔糸の距離が平箔糸の幅の半分より小さければ反転を抑制できる概要を模式的に示す図である。
図6図6は、キャリアが図3にある「直後位置」にある時の配置を示す図である。
図7図7は、最も条件の悪い配置近似計算を行った際の幾何学的配置を示す図である。
図8図8は、本実施例の製紐機を上方から見たときの概念図であり、本実施例の丸組紐の製紐機が有するレールと、その上をキャリアが移動する経路を示す図である。
図9A図9Aは、製紐位置を上方から見たときの概念図である。
図9B図9Bは、製紐位置を上方から見たときの概念図である。
図9C図9Cは、製紐位置を上方から見たときの概念図である。
図10図10は、製紐位置の概念図である。
図11図11は、可撓性導波管の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図12図12は、本実施例の製造方法により得られた可撓性導波管1.2mの伝送特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定した結果を示す図である。
図13図13は、本実施例5に係る可撓性導波管の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図14図14は、本実施例5の製造方法により得られた可撓性導波管0.5mの伝送特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定した結果を示す図である。
【0030】
以下、本開示を実施するための形態を図面とともに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本開示が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本開示の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本開示は、各図で例示された形状、大きさおよび位置関係のみに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
〔丸組紐製紐機の構成〕
まず、丸組紐製紐機の構成について説明する。図1は、丸組紐製紐機の概略構成図である。図2は、丸組紐製紐機にボビンがセットされたキャリアを拡大した拡大図である。
【0032】
図1に示す丸組紐製紐機は、キャリアを64個まで使用できる丸組紐製紐機である。この丸組紐製紐機は、平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンをそれぞれ回転可能にセットしたキャリアを、8個セットするとともに、導波管の内部に配置される芯材を供給するための芯材供給機構と、外導体形成後の導波管を一定の速度で巻き取るための導波管取出し機構と、を設置し、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。
【0033】
キャリアの動作は、丸組紐製紐機が有するレールと、駆動モーターと、レールの下に配置された駆動機構と、によって決定される。これらは、複合してキャリア動作を決定し、キャリア動作決定機構として機能する。
【0034】
キャリアは、図2にあるように、平箔糸を円筒状のボビンから繰り出す際、平箔糸が円筒状のボビン横側から平箔糸を取得するように構成される。また。平箔糸は、厚さ25μmのポリイミドフィルムと、厚さ9μmの銅箔と、を張り合わせた複合フィルムを、複数の回転刃物を有するスリッターによって1.2mm幅に連続的に切断されることで製造されたものであり、滑らかな切断面を有する。即ち、本実施例における平箔糸は、滑らかなフィルム表面と、この滑らかな切断面と、を反映して滑らかな表面を有する。
【0035】
芯材供給機構は、レールの下側にある芯材送り出し機構と、芯材の送り出し位置を決める送りパイプと、から成る。導波管の内部に配置される芯材は、芯材送り出し機構が有する円筒状のドラムに巻かれ、ここから送りパイプを通じて製紐が為される位置近くに供給される。
【0036】
導波管取出し機構は、外導体の形成が終わった導波管を上方に引き上げ、いくつかのプーリを介して、完成品として取り出される。ここで、完成品は、プーリを介して箱の中に落とし込み、回収可能としているが、円筒状のドラムに巻き込む等の回収機構など利用してもよい。導波管取出し機構は、キャリア動作決定機構と連動し、製紐動作と併せて外導体の形成が終わった導波管を上方に引き上げる動作を行う。
【0037】
図3は、図1にある丸組紐製紐機を上方から見たときの概念図であって、丸組紐製紐機が有するレールと、その上をキャリアが移動する経路を示す概念図である。
【0038】
レールは、時計回り用のレールと、反時計回り用のレールと、があり、これらは交差しながら製紐位置の周りを1回転する軌道を持つ。キャリア8個には、反時計回りに回転するキャリア4個(キャリアA)と、時計回りに回転するキャリア4個(キャリアB)と、があり、それぞれから製紐位置に向けて平箔糸が張られ、レールの上を移動する。これらのキャリアは、図3にあるように配置され、キャリアAとキャリアBとは、レールの交差した軌道によって蛇行しながらレール上を移動する。
【0039】
レール上に配置された各キャリアからは、平箔糸が引き出され、製紐位置に平箔糸を供給する。各キャリアは、平箔糸の張力を一定化する機構を有し、これによりすべての平箔糸の張力を一定にする。平箔糸の張力は、キャリアが有する張力を一定化する機構が平箔糸を引く力と、キャリアの動作により製紐位置から平箔糸が引かれる力と、のバランスで決定される。しかし、本実施例に用いるキャリアは、上下可能なプーリ機構と、プーリを支えるスプリングと、を有し、この上下可能なプーリ機構の重さとスプリングのばね定数を一定とすることで、張力の一定化を実現している。この張力を一定化する機構には、本実施例で用いた機構に限らず、他の機構を利用することが可能である。
【0040】
〔丸組紐製紐機の作用〕
次に、図3図4A図4Bおよび図5を用いて、丸組紐製紐機による可撓性導波管の外導体形成について説明する。ここで、この丸組紐製紐機によれば平箔糸を表裏反転することなく、組紐構造を有する可撓性導波管の外導体を形成できることを説明するとともに、可撓性導波管の特性を十分に安定できることを説明する。図4Aは、製紐位置を拡大した時の模式図であって、図3にある位置にキャリアがあるときの姿を示す。図4Bは、同じく製紐位置を拡大した時の模式図であって、図3の直後位置(図4Aの直後)の姿を示す模式図である。図5は、平箔糸の距離が平箔糸の幅の半分より小さければ反転を抑制できる概要を模式的に示す図である。
【0041】
〔製紐動作〕
はじめに、図3および図4Aおよび図4Bを用いて外導体を形成する際の動作を説明する。
【0042】
図3にある平箔糸A、平箔糸BのクロスポイントをクロスポイントA-Bとしたとき、このクロスポイントA-Bは、図3右側にあるキャリアAおよびBが直前位置にあるときから図の位置に移動する途中に、キャリアAから張られた平箔糸AがキャリアBから張られた平箔糸Bの上に被さる形で発生する。
【0043】
キャリアAおよびキャリアBが図の位置にあるとき、キャリアAは、キャリアBよりも内側(製紐位置の近く)にあるため、平箔糸Aと平箔糸BとがクロスポイントA-Bにおいて、図4Aにあるように接した状態となる。この状態から、キャリアAおよびキャリアBがそれぞれ移動し、図3にある直後位置に来た場合、先ほどと異なりキャリアAは、キャリアBよりも外側(製紐位置から離れた位置)にあるため、図4BにあるようにクロスポイントA-Bにおいて、平箔糸Aと平箔糸Bとの間には隙間が生じ得る。
【0044】
さらに、キャリアが進むと、キャリアAとキャリアBとの交差が再度発生し、今度はキャリアBから張られた平箔糸がキャリアAから張られた平箔糸の上に被さる形で新しいクロスポイントが生じる。導波管外導体の形成は、この動作が繰り返されることで行われる。導波管外導体は、これを構成する平箔糸同士が接する面を表裏変えながら組まれていく。
【0045】
この動作の中で平箔糸に反転が生じる理由は、最初に平箔糸がクロスしてから接する時か、平箔糸と平箔糸との間に隙間が生じる時である。即ち、これら平箔糸に反転が生じ得るときにおいて、反転を抑制する力が十分に発揮されないか、平箔糸の反転に繋がる要因が強まるとかがあると、平箔糸の表裏反転が生じてしまう。
【0046】
〔平箔糸同士の干渉による反転抑制力の発生〕
図4Aの上側には、平箔糸が組紐状を成した部分、即ち、外導体の形成が終わった部分があり、導波管取出し機構にて上方向に引っ張られている。また、製紐位置の下側には、芯材送り出し機構から供給された導波管の芯材と、キャリアから供給された平箔糸と、が配置される。ここで、導波管の芯材は、製紐位置から自重によって真下に伸びる。平箔糸は、キャリアが有する張力を一定化する機構により、一定の張力で製紐位置から芯材に対して概ね45°の角度をもって斜めに引かれている。
【0047】
製紐位置においては、上方向に引っ張られる力と、芯材の自重と、平箔糸の張力と、が拮抗(バランス)し、この拮抗(バランス)によって製紐位置が定位置に保たれる。また製紐位置においては、平箔糸が組紐状を成した部分から滑らかに平箔糸が広がる形状をもち、平箔糸が組紐状を成す前の拡大部を形成する。平箔糸が組紐状を成す前の拡大部には、後に組紐状を成すクロスポイントが複数存在する。図4Aおよび図4Bにあるように、これら拡大部にあるクロスポイントはすべての平箔糸において複数存在する。
【0048】
図4Aにおける平箔糸についてみると、それぞれ他の平箔糸と接する面を順に変えたクロスポイントが4点存在する。平箔糸Aを例にみると、平箔糸Aが他の平箔糸と接する面は、もっとも内側(芯材側)に位置するクロスポイントでは製紐後に外側となる面が他の平箔糸と接する。次に、外側のクロスポイントでは、製紐後に内側となる面が他の平箔糸と接する。さらに、外側のクロスポイントでは、また逆側(製紐後に外側となる面)が他の平箔糸と接し、最外周のクロスポイントとなるクロスポイント(クロスポイントA-B)では逆側(製紐後に内側となる面)が平箔糸を接している。
【0049】
ここに示すように一本の平箔糸が他の平箔糸との間で順に挟まれる形をとることが、製紐の際に平箔糸の反転を抑制する力となる。即ち、この反転を抑制する力を強めることで平箔糸の表裏反転を抑えることができる。なお、本開示におけるクロスポイントとは、平箔糸同士が接するか十分に近接した位置にあることで、互いに干渉して平箔糸の反転を抑制する力を得られる相対位置にあることを言う。
【0050】
また、平箔糸Aにおけるクロスポイントを図4Bでみると、図4Aにあったもっとも内側(芯材側)のクロスポイントは、ほぼ芯材に倣う状態となっており、拡大部にあるとは言い難い。
【0051】
このように拡大部にあるクロスポイントは、製紐のタイミングでその数を変える。また、この事例にある図4Aにあったもっとも内側のクロスポイントは、図4Bのタイミングでは、芯材に倣う方向にあって平箔糸に捩る力を与え、平箔糸同士が面で重なることによる反転を抑制するためには寧ろマイナスとなる力(反転を促す力)さえ生じる。即ち、反転を抑制するのは拡大部にあるクロスポイントのみである。
【0052】
上記の通り図4Bにおける平箔糸Aのクロスポイントは3点に減少しているが、本実形態によれば、反転の抑制が可能である。本発明者は、この事例を含めて様々な実施形態について鋭意検討した結果、これら拡大部にあるクロスポイントは、少なくとも3点あれば反転を抑制する力を発揮し、反転を抑制できることを見出した。
【0053】
本発明者は、更に検討を進めた結果、反転を抑制する力を発揮するための要件をより詳細に突き止めた。即ち、反転を抑制する力を得るには、上述した要件(拡大部においてクロスポイントが少なくとも3点あること)を前提として、複数のクロスポイントが、更に以下3点の要件を満たすことが必要であることを見出した。
反転抑制要件1
製紐動作においてクロスする2本の平箔糸が連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを少なくとも2点有すること。
反転抑制要件2
前記連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントのうち最も外側に位置するクロスポイントから、次に外側に位置するクロスポイントにおいて、クロスする2本の平箔糸が接するかその間隔が前記平箔糸の幅(=前記複合フィルムの裁断幅)の概ね半分よりも小さい距離に位置すること。
反転抑制要件3
全ての平箔糸の張力が一定以上あること。
【0054】
上記反転抑制要件1は、反転を抑制する力として基本となるものである。ここで、クロスする2本の平箔糸が逆側から挟むことで、反転を抑制する基本的な力を発揮する。ここでの接触は、出来る限り面で連続的に接触することが望ましいが、これに近い形として一つのクロスポイントにおいて少なくとも連続的に2点で接触していれば反転を抑制する力を発揮することができる。
【0055】
上記反転抑制要件2は、要件1にあるクロスポイントの更に外側に位置するクロスポイントが満たすべき要件である。このクロスポイントは、図4Aおよび図4BにおけるクロスポイントA-Bに相当するが、キャリアの蛇行によって製紐の間に平箔糸が付いたり離れたりしてしまう。本発明者は、平箔糸の反転はこの平箔糸が離れた状態から接触に転じる時に発生しやすいことを見出し、このクロスポイントでの平箔糸の反転を抑えることが平箔糸に反転の無い導波管外導体を得るために重要であることを見出した。さらに、このクロスポイントで平箔糸が離れた際に反転を抑えるには、このクロスポイントで平箔糸がその幅の半分よりも近接すれば良いことを見出した。この理屈は、図5にあるような比較的簡単な幾何学的考察から理解できる。なお、実際のクロスポイントは、平箔糸同士が直角に交わる訳ではないためにより反転しにくい状態にあり、平箔糸幅の半分よりも近接していれば反転を抑制することができる。
【0056】
上記反転抑制要件3は、付随的な要件だが、極めて重要である。上記要件1および上記要件2によって反転を抑制するためには、上記要件3にある「一定以上の張力」が必要不可欠な為である。
【0057】
〔反転要因とその抑制〕
既に記したように、これら平箔糸に反転が生じるのは、反転を抑制する力が発揮されない、若しくは平箔糸の反転に繋がる要因が強まるときである。即ち、反転を抑制する力を超えて反転を促す力が強まると、平箔糸の表裏反転が生じてしまう。以下、平箔糸の反転に繋がる要因と、その抑制方法について説明する。
【0058】
本発明者は、平箔糸の反転に繋がる要因が以下3点に集約されることを、鋭意研究の結果見出した。即ち、平箔糸が交互に接することによる反転を抑制する力を超えない程度に、これら3要因の発生を抑えることで、平箔糸の反転を抑えることができる。
【0059】
反転要因1
キャリアと製紐位置との間の平箔糸の捻じれ。
反転要因2
レール軌道に沿ったキャリアの蛇行により発生する平箔糸の振動や捻じれ。
反転要因3
平箔糸同士の擦れによる振動や跳ね上がり、捻じれ。
【0060】
反転要因1は、平箔糸をはじめにセットする際に「平箔糸の捻じれ」を小さくしたうえでセットすることに加えて、本実施形態のように平箔糸を円筒状のボビンから繰り出す際、円筒状のボビンを回転させつつ、その横側から平箔糸を取得するように構成することで、最初にセットした際から平箔糸の捻じれを増やすことなく、製紐動作を進めることができる。即ち、多くの製紐機で用いられるような、円筒状のボビンの上側から糸を取得する形態では、製紐動作の中で糸の捻じれが増してしまう。
【0061】
また、キャリアと製紐位置との間の平箔糸の捻じれは、平箔糸そのものが応力を持つような場合には、どうしても抑えることができない。この自然発生的な平箔糸の捻じれは、平箔糸が有する内部応力を抑えることで抑制できる。しかしながら、そのためには、本実施例で用いた平箔糸の様に、金属箔と樹脂フィルムとから成る複合フィルムを複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により一定の裁断幅でスリットすることで製造した平箔糸であれば良い。即ち、この形で製造された平箔糸を用いれば、平箔糸そのものが有する内部応力を十分に抑制し、平箔糸の反転要因を強めることが無い。
【0062】
なお、本開示においては、複合フィルムを複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により一定の裁断幅でスリットする形態が最も本発明の導波管外導体用の丸組紐の製紐機に適するとしたが、利用する平箔糸により滑らかな表面や切断面が得られる構成や切断方法があれば、これを利用しても良い。
【0063】
反転要因2は、反転抑制要因2の説明で記したキャリアの蛇行による平箔糸の振動や捻じれに起因し、ある意味で避けることが出来ないものである。キャリアの蛇行により平箔糸がパタパタと振動し、これが強まると平箔糸が反転してしまう。しかしながら、本発明者は、これに加えて反転抑制要因2の説明で記した反転抑制の要件と、上記の反転発生のタイミング(平箔糸が離れた状態から接触に転じる時に発生しやすいこと)を考え併せて、反転の原因となる要素についてさらに検討を行った。
【0064】
ここでは、反転抑制要因2の説明で記した連続的に2点以上で互いに接するクロスポイントを基準点としたキャリア動作に起因する平箔糸の鉛直面内における角度変化の大きさについて考察し、これがどの程度の範囲に収まれば良いかを反転抑制と関連付けて算出することに成功した。
【0065】
図6は、キャリアが図3にある「直後位置」にある時の配置図を示す。この時の製紐位置を拡大したのが図4Bにあたり、この時が平箔糸Aと平箔糸Bとが角度的に最も離れた位置をとり、反転抑制には最も条件の悪い配置となる。
【0066】
図7は、最も条件の悪い配置近似計算を行った際の幾何学的配置を示す図である。ここでは、平箔糸Aと平箔糸Bとが為すクロスポイントA-Bを含めたクロスポイント3点に対して2等辺の三角柱を仮定し、直上から見たとき(図6を参照)の平箔糸Aと平箔糸Bの交差角が45°~50°、平箔糸が鉛直方向に対して為す角を45°として、さらに、芯材の径に対して8本の平箔糸で導波管外導体を組んだときに丁度隙間なく外導体を形成できる平箔糸を用いたとして、その平箔糸の幅の半分とクロスポイントA-Bにおける平箔糸A・平箔糸Bの距離が等しくなる角度を計算した。結果、直上からみたときの交差角が45°とした時には、キャリア動作に起因する平箔糸の角度差8.4°、50°とした時には9.2°と見積もられる。
【0067】
即ち、本発明者は、これら考察を基に、本実施形態の導波管外導体用の丸組紐製紐機においては、平箔糸として多少幅の小さいものを使う場合も考慮して、概ね10°前後の角度差以下であれば、反転を抑制する力を発揮し、同時に反転要因である振動や捻じれを抑制することができることを見出した。
【0068】
本実施例に用いた丸組紐製紐機においては、実際に上記条件を満たし、実測でキャリア動作に起因する平箔糸の角度差は9°~10°程度(計算上は9.3°強程度)であった。
【0069】
反転要因3にある平箔糸同士の擦れは、これも製紐動作の中で避けえないものだが、これによる振動や跳ね上がり、捻じれは、平箔糸の表面や切断面を滑らかにすることで多くを避けることができる。本実施例においては、前述の通り金属箔と樹脂フィルムとから成る複合フィルムを複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により一定の裁断幅でスリットすることで製造しており、この方法で得た平箔糸であればその表面や切断面が十分に滑らかであり、反転を抑えることができる。
【0070】
〔効果〕
本実施の形態にあるに導波管外導体用の丸組紐製紐機よれば、8本の平箔糸によって平箔糸の反転の無い外導体を有する可撓性導波管を得ることができた。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同じ丸組紐製紐機に、幅2.4mmの平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンをそれぞれセットしたキャリアを4個セットして、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。ここで、芯材供給機構、導波管取出し機構等などその他の構成は、実施例1と同一であり、違いは、平箔芯の幅とキャリアの数のみである。
【0072】
上記構成で製紐動作を行ったところ、平箔糸には反転が生じてしまい、反転の無い外導体を有する導波管を得ることが出来なかった。これは本比較例1にある構成の4本の平箔糸による外導体形成では、実施例1で示したような平箔糸が組紐状を成す前の拡大部において個々の平箔糸が別の平箔糸との間で為すクロスポイントが1点か、多くとも2点しか得ることが出来なかったためである。
【0073】
即ち、本比較例1にある4本の平箔糸による丸組紐の製紐機では、クロスポイントによる反転抑制の効果を得ることが出来ず、反転の無い導波管外導体を得ることができない。
【0074】
[比較例2]
内部に銅配線を有するFPCを幅1.2mmでレーザーを用いてカットした極細FPCを、円筒状のボビンに反転の無いように巻いたうえで、実施例1と同様のキャリア8個にセットするとともに、キャリアを実施例1の導波管外導体用の丸組紐製紐機に設置して、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。ここで、実施例1との違いは、実施例1では金属箔と樹脂フィルムとから成る複合フィルムを複数の回転刃物を有するスリッターを用いた連続切断により一定の裁断幅でスリットすることで製造した平箔糸を用いた。これに対して、本比較例2では、レーザーを用いてカットした極細FPCを用いたことのみである。
【0075】
上記構成で製紐動作を行ったところ、極細FPCには反転が生じてしまい、反転の無い外導体を有する導波管を得ることが出来なかった。これは、使用した極細FPCはレーザーを用いてカットしたために、滑らかな切断面を得ることができておらず、製紐動作において糸同士が擦れた際に不要な跳ね上がりや捻じれを生じたためである。
【0076】
即ち、本比較例2にあるレーザーカットにより製造された平箔糸を用いた丸組紐の製紐機では、反転要因となる不要な跳ね上がりを抑えることが出来ず、反転の無い導波管外導体を得ることができない。
【0077】
[比較例3]
キャリアを16個まで使用できる丸組紐製紐機に、平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンをそれぞれセットしたキャリアを、8個セットするとともに、導波管の内部に配置される芯材を供給するための芯材供給機構と、外導体形成後の導波管を一定の速度で巻き取るための導波管取出し機構とを設置し、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。ここで、キャリアおよび平箔糸は、実施例1で用いたのと同じものであり、芯材供給機構と導波管取出し機構も実施例1に準じたものを設置した。
【0078】
図8は、本実施例の製紐機を上方から見たときの概念図であり、本実施例の丸組紐の製紐機が有するレールと、その上をキャリアが移動する経路を示す図である。実施例1と同じく、レールは、時計回り用のレールと反時計回り用のレールとを有し、これらは交差しながら製紐位置の周りを1回転する軌道を持つ。キャリア8個には、反時計回りに回転するキャリア4個(キャリアA)と、時計回りに回転するキャリア4個(キャリアB)とがあり、それぞれから製紐位置に向けて平箔糸が張られ、前記レールの上を動く。これらのキャリアは、図8にあるように等間隔に配置され、キャリアAとキャリアBとは、前記レールの交差した軌道によって蛇行しながらレール上を動く。
【0079】
上記構成で製紐動作を行ったところ、平箔糸には反転が生じてしまい、反転の無い外導体を有する導波管を得ることが出来なかった。これは、図3図8との比較からも明らかなように本比較例3におけるキャリアの蛇行は、実施例1よりも大きく、キャリアの蛇行により発生する平箔糸の振動や捻じれが反転を抑制する力を超えたためである。
【0080】
なお、本比較例3に用いた丸組紐製紐機におけるキャリア動作に起因する平箔糸の角度差は25°程度であり、実施例1で反転を抑制できる角度として示した10°以内の基準を大きく上回っている。
【0081】
即ち、本比較例3にある丸組紐製紐機では、キャリアの蛇行による平箔糸の振動や捻じれが大きく、反転の無い導波管外導体を得ることができない。
【0082】
[実施例2]
(構成および作用)
実施例1と同じ丸組紐製紐機に、幅0.6mmの平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンをそれぞれセットしたキャリアを16個セットして、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。ここで、芯材供給機構、導波管取出し機構等その他の構成は、実施例1と同一であり、違いは、平箔芯の幅とキャリアの数のみである。
【0083】
上記構成で製紐動作を行ったところ、平箔糸に反転の無い外導体を有する導波管を得ることが出来た。これは本実施例2にある構成の16本の平箔糸による外導体形成において、実施例1で示した平箔糸が組紐状を成す前の拡大部におけるクロスポイントを、実施例1よりも多く、安定して得ることができたためである。このことは図9A図9Cの製紐位置を上方から見たときの概念図において、図9Bの本実施例2の場合と図9Aに示す実施例1の場合との比較から明らかである。
【0084】
即ち、本実施例2の16本の平箔糸による丸組紐の製紐機では、クロスポイントによる反転抑制の効果を十分に得ることで、反転の無い導波管外導体を得ることができる。
【0085】
[実施例3]
(構成および作用)
実施例1と同じ丸組紐の製紐機に、幅0.3mmの平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンをそれぞれセットしたキャリアを32個セットして、導波管外導体用の丸組紐製紐機とした。ここで、芯材供給機構、導波管取出し機構等その他の構成は、実施例1と同一であり、違いは、平箔芯の幅とキャリアの数のみである。
【0086】
上記構成で製紐動作を行ったところ、平箔糸に反転の無い外導体を有する導波管を得ることが出来た。これは、本実施例3にある構成の32本の平箔糸による外導体形成において、実施例1で示した平箔糸が組紐状を成す前の拡大部におけるクロスポイントを、実施例1よりも多く、安定して得ることができたためである。このことは、図10の製紐位置を側面から見たときの概念図において、図9Cの本実施例3の場合と図9Aに示す実施例1の場合との比較から明らかである。
【0087】
即ち、本実施例3の32本の平箔糸による丸組紐の製紐機では、クロスポイントによる反転抑制の効果を十分に得ることで、反転の無い導波管外導体を得ることができる。
【0088】
[実施例4]
第4実施例として、本開示の可撓性導波管の製造方法について説明する。図11は、可撓性導波管の製造方法の工程を示すフローチャートである。
(構成)
本実施例4の可撓性導波管の製造方法は、可撓性の誘電体ロッドと、その外周に平箔糸を組紐状に組んで成る外導体を有する可撓性導波管の製造方法であって、実施例3にある導波管外導体用の丸組紐の製紐機を用いて外導体の形成を行う工程(図11のステップS10)と、この外導体の形成を行う工程の前に前記平箔糸の表裏を確認して合わせる工程(図11のステップ7)を有する。
【0089】
ここでいう平箔糸は、厚さ25μmのポリイミドフィルムと、厚さ9μmの銅箔とを張り合わせた複合フィルムを、複数の回転刃物を有するスリッターによって0.3mm幅に連続的に切断されることで製造されたものである。また、ここでの平箔糸の表裏は、切断前の複合フィルムにおける同一面の片側を表、もう片側を裏とするものである。ここでの表裏は、便宜上のものでしかないが、本実施例4においては、ポリイミドフィルム面を表面、銅箔面を裏面として表記する。
【0090】
本実施例で製造する可撓性導波管は、平箔糸の裏面(銅箔面)が内側となるように外導体の形成を行う。これを実現するため、平箔糸の表裏を確認して合わせる工程(図11のステップS7)は、試験的な製紐により反転している平箔糸の有無を確認する工程(図11のステップS71およびステップS72)と、平箔糸の表裏を修正する工程(図11のステップS73)と、を有する。
【0091】
(作用)
以下、図11にある製造方法を工程ごと説明する。
【0092】
本実施例にある導波管外導体用の丸組紐製紐機を用いた可撓性導波管の製造方法では、平箔糸が反転の無いように巻かれた円筒状のボビンを必要数用意する必要がある。そこで本実施例で用いるキャリアにセット可能な円筒状のボビンに、図示しない専用の糸巻設備を用いて、0.3mm幅の平箔糸を反転の無いように巻き込む作業(図11のステップS1)を行う。結果、平箔糸が反転の無いように巻かれた32本のボビンを得た。
【0093】
次に、利用するキャリアが有する張力を一定化する機構の調整を行い利用するキャリア32台の条件を揃え(図11のステップS2)、更に製紐機のキャリア速度などキャリア駆動機構の条件や、導波管取出し機構が完成した導波管を上方に引き上げる速度条件を、それぞれ関連付けながら決定し設定する(図11のステップS3)。なお、ここまでで設定した条件は、試験製紐の結果を見ながら調整し、後から変更することもできる。
【0094】
ここまでで前提条件が揃ったため、本実施例の丸組紐の製紐機にキャリアをセット(図11のステップS4)し、またそのキャリアにボビンをセット(図11のステップS5)する。セットした各ボビンから、平箔糸を取出し、キャリアが有するプーリやガイドなどに順に通して製紐位置まで導き、組紐形状を成すように糸を組む(図11のステップS6)。
【0095】
全ての糸が組み終わったら、試験製紐(図11のステップS71)を行い、銅箔面(裏面)が外側(表側)に出ていた場合には、その修正のためにその糸を一旦切断し、表裏を修正したうえで組みなおす。この平箔糸の表裏を確認して表裏を合わせる工程を繰り返すことで、導波管外導体を構成する全ての平箔糸を表裏が合致した状態とすることができる。
【0096】
全ての平箔糸の表裏が合致し、製紐が安定した後、導波管の内部に配置する芯材(可撓性の誘電体ロッド)を、本実施例で用いる導波管外導体用の丸組紐の製紐機が有する芯材供給機構から製紐位置に引き出し、導波管の内部に挿入する(図11のステップS9)。
【0097】
ここまでで可撓性導波管の製造準備が整ったため、予め設定した製造条件での導波管外導体の形成を行う(図11のステップS10)。
【0098】
外導体の形成が完了した可撓性導波管は、本実施例で用いる導波管外導体用の丸組紐の製紐機が有する導波管取出し機構により製紐位置から引き出され、完成品として取り出される(図11のステップS11)。
【0099】
(効果)
本実施例の製造方法により得られた可撓性導波管1.2mの伝送特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定した結果(接続のロスを含む)を図12に示す。図12に示すように、本実施例の製造方法によれば、十分にロスが小さく、安定した特性を有する導波管を得ることができる。
【0100】
[実施例5]
(構成および作用)
図13は、本実施例5に係る可撓性導波管の製造方法の工程を示すフローチャートである。本実施例5の可撓性導波管の製造方法は、可撓性の誘電体ロッドとその外周に平箔糸を組紐状に組んで成る外導体を有する可撓性導波管の製造方法であって、実施例4にある製造方法が有する工程に加えて、前記平箔糸の張力を合わせる工程(図13のステップS8)を有する。また、本実施例5で用いる導波管外導体用の丸組紐製紐機は、平箔糸が有する張力を調整する機構を有するキャリアを用いる。このキャリアは、キャリア条件設定(図13のステップS2)において平箔糸の張力が一定化できるように十分に調整しておく。
【0101】
本実施例5の製造方法は、組紐状の外導体を構成する平箔糸の張力が一定となるように外導体の形成を行う。これを実現するため、平箔糸の張力を合わせる工程(図13のステップS8)は、試験的な製紐により張力差の生じているキャリアを判定する工程(図13のステップS81およびステップS82)と、キャリアが有する平箔糸の張力を調整する機構を用いて平箔糸の張力を調整する工程(図13のステップS83)とを有する。
【0102】
平箔糸の張力を合わせる工程(図13のステップS8)は、平箔糸の表裏を確認して合わせる工程(図13のステップS7)により導波管外導体を構成する全ての平箔糸を表裏が合致した状態となった後に実施する。まず、試験製紐(図13のステップS81)を行い、ここで形成された組紐状の導波管の出来栄えから張力に差のある平箔糸を判定し、キャリアが有する平箔糸の張力を調整する機構を用いて修正する。この平箔糸の張力を調整する工程を繰り返すことで、導波管外導体を構成する全ての平箔糸の張力が合致した状態とすることができる。
【0103】
ここでは、張力に差の生じているキャリアおよび平箔糸の判定に導波管の出来栄えを用いたが、張力を測定する機構を有するキャリアを用いて、この測定値をもとに張力の調整を行うことも可能であり、この方法はこれに限らない。
【0104】
なお、本実施例5でキャリア条件設定工程(図13のステップS2)において平箔糸の張力が一定化できるように十分に調整したにも関わらず、平箔糸の張力を合わせる工程(図13のステップS8)が必要となるのは、各キャリア上でのボビンの回転摩擦や、各キャリアが有するプーリやガイドの摩擦、スプリングのばね定数を完全に一致させることが難しいことに起因して、事前の調整のみでは実際の製紐動作での張力を十分に一致させることが難しいためである。
【0105】
(効果)
本実施例5の製造方法により得られた可撓性導波管0.5mの伝送特性を、ベクトルネットワークアナライザを用いて測定した結果(接続のロスを含む)を図14に示す。ここでは実施例4の結果(図12)にあった伝送特性の乱れが減少しており、より望ましい特性を有する導波管が得られていることが判る。
【0106】
即ち、本実施例5の製造方法によれば、より安定した特性を有する導波管を得ることができる。
【0107】
なお、本明細書におけるフローチャートの説明では、「まず」、「その後」、「続いて」等の表現を用いてステップ間の処理の前後関係を明示していたが、本発明を実施するために必要な処理の順序は、それらの表現によって一意的に定められるわけではない。即ち、本明細書で記載したフローチャートにおける処理の順序は、矛盾のない範囲で変更することができる。
【0108】
以上、本願の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、本開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14