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特許7325052膜電極接合体及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】膜電極接合体及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0276 20160101AFI20230804BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 8/0282 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230804BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01M8/0276
H01M8/0273
H01M8/0282
H01M8/1213
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/12 102A
H01M8/12 101
H01M4/90 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021515828
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006735
(87)【国際公開番号】W WO2020217673
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019084628
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 智也
(72)【発明者】
【氏名】嘉久和 孝
(72)【発明者】
【氏名】喜多 洋三
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-322451(JP,A)
【文献】特開2015-052139(JP,A)
【文献】特開2019-185883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
H01M 4/86
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
前記電極に接合され、プロトン伝導性を有する電解質を含む電解質層と、
金属枠体と、
前記電解質層の周縁部と前記金属枠体との間に配置され、前記電解質層及び前記金属枠体のそれぞれに接している接合層と、
を備え、
前記接合層の厚さは、0.50mm以上である、
膜電極接合体。
【請求項2】
前記接合層は、ガラスを含む、
請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記電極は、水素の酸化反応を活性化するための金属を含む、
請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記金属は、Ni、Pt、Pd及びIrからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記電解質は、BaaZr1-xx3、BaaCe1-xx3、及びBaaZr1-x-yCexy3からなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
前記Mは、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、In及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含み、
0<x<1、0<y<1、及び0.95≦a≦1.05を満たす、
請求項1から4のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記Mは、Sc、Lu、Yb、Tm及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項5に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記電極の厚さは、前記電解質層の厚さよりも大きい、
請求項1から6のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記接合層の厚さは、2.0mm以下である、
請求項1から7のいずれか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
前記ガラスは、ホウケイ酸系のガラスである、
請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項10】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記燃料極及び前記電解質層が請求項1から9のいずれか1項に記載の膜電極接合体によって構成されている、
燃料電池。
【請求項11】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記燃料極及び前記電解質層が請求項1から9のいずれか1項に記載の膜電極接合体によって構成されている、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体及びそれを用いた固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物からなる電解質材料を用いた電気化学デバイスの一つとして、例えば固体酸化物形燃料電池が知られている。特許文献1には、平板型セルと保持薄板枠とをガラス、又はろう材を用いて接合させた固体電解質燃料電池が記載されている。特許文献1に記載された燃料電池には、イットリアなどをドープしたジルコニア焼結体(YSZ)からなる平板型固体電解質層が使用されている。
【0003】
しかし、電解質層と保持薄板枠とを接合させ、焼成した場合、保持薄板枠のしわ、保持薄板枠のうねり、及び電解質層の凹凸によって、電解質層と保持薄板枠との間に隙間が生じ、ガス漏れが生じる。
【0004】
特許文献2には、固体電解質形燃料電池に使用されるセラミック接合体であって、セラミックス基板及び金属枠板の接合部における接合層の厚さが5μmから200μmであるセラミックス接合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3466960号明細書
【文献】特許第4995411号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の固体酸化物形燃料電池においては、酸化物イオン伝導体であるイットリア安定化ジルコニアを用いた電解質と、金属枠体との接合しか検討されていない。そのため、イットリア安定化ジルコニアよりも金属との熱膨張率の差が大きいプロトン伝導体を用いた電解質と、金属枠体との接合性に関しては十分な検討がなされていなかった。
【0007】
本開示は、イットリア安定化ジルコニアよりも金属との熱膨張率の差が大きいプロトン伝導体が電解質として使用され、電解質と金属枠体との間の接合力が高い膜電極接合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
電極と、
前記電極に接合され、プロトン伝導性を有する電解質を含む電解質層と、
金属枠体と、
前記電解質層の周縁部と前記金属枠体との間に配置され、前記電解質層及び前記金属枠体のそれぞれに接している接合層と、
を備え、
前記接合層の厚さは0.50mm以上である、
膜電極接合体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、プロトン伝導体が電解質として使用され、電解質と金属枠体との間の接合力が高い膜電極接合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る膜電極接合体の斜視図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る膜電極接合体の構成を模式的に示す断面図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る膜電極接合体の別の構成を模式的に示す断面図である。
図4図4は、固体酸化物形燃料電池セルの構成を模式的に示す断面図である。
図5図5は、電解質層の内部に発生する熱応力について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の一形態を得るに至った経緯)
本発明者らは、特許文献2に開示された膜電極接合体に関して鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0012】
イットリア安定化ジルコニアよりも金属との熱膨張率の差が大きいプロトン伝導性を有する電解質を含む電解質層を準備した。特許文献2に開示された条件で、電解質層と金属枠体とを接合させた。本発明者らは、接合のために熱処理した場合、又は接合のための熱処理後に燃料極の金属酸化物を600℃から800℃程度の高温で還元処理した場合、電解質層又は接合層が割れ、ガスシール性を確保することが困難であるという現象を見出した。具体的には、接合層の厚さを5μmから200μmとし、ガラスからなる接合材料を用いて電解質層と金属枠体とを接合させた。その後、電解質層及び金属枠体を熱処理した場合、又は還元処理した場合に、電解質層及び接合層が割れた。この理由としては、金属枠体に含まれた金属の熱膨張率と電解質層に含まれた電解質の熱膨張率との差が大きく、熱処理した場合及び還元処理した場合に電解質層の内部に熱応力が発生したためであると考えられる。なお、従来、接合層の厚さは、産業上の観点から、50μm~200μm程度である。
【0013】
本発明者らは、プロトン伝導性を有する電解質を用いた膜電極接合体に関して、電解質層の内部に発生する熱応力を緩和できる構成について検討した。その結果、本開示の膜電極接合体を想到するに至った。
【0014】
つまり、本発明者らは、電解質層と金属枠体との間に配置した接合層を厚くして膜電極接合体を作製した場合に、プロトン伝導性を有する電解質層の内部に発生する熱応力を緩和できるという知見を得た。
【0015】
上記した本発明者らの知見は、これまでは明らかにされておらず、新規な技術的特徴を有する。
【0016】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本開示の実施形態に係る膜電極接合体10の斜視図である。図1に示すように、膜電極接合体10は、電解質層11、電極12、金属枠体13、及び接合層14を備えている。電解質層11は、電解質材料を含む。電極12は、水素含有ガスに接触する。金属枠体13は、水素含有ガスと空気とを分離する。接合層14は、金属枠体13と電解質層11とを接合する。電解質層11は電極12に接合されている。接合層14は、枠状の形状であり、電解質層11の周縁部に配置されている。接合層14は、電解質層11と金属枠体13との間に配置されている。金属枠体13は枠状の形状である。接合層14は、電解質層11及び金属枠体13のそれぞれに接している。図1に示すように、膜電極接合体10を構成する部材の形状が四角形である。すなわち、電解質層11、電極12、金属枠体13、及び接合層14のそれぞれの形状が四角形である。ただし、膜電極接合体10を構成する部材の形状は特に限定されない。膜電極接合体10を構成する部材の形状は、例えば、円形であってもよい。
【0018】
図2は、本開示の実施形態に係る膜電極接合体10の構成を示す断面図である。図2に示すように、膜電極接合体10は、電解質層11、電極12、金属枠体13、及び接合層14を備えている。膜電極接合体10は、例えば、電気化学デバイスを構成するために用いられる。図2に示すように、膜電極接合体10は、電解質層11、電極12、金属枠体13、及び接合層14によって構成されている。具体的には、電極12、電解質層11、接合層14及び金属枠体13が、この順番で積層されている。
【0019】
図3は、本開示の実施形態に係る膜電極接合体10Aの構成を示す断面図である。図3に示すように、膜電極接合体10Aにおいて、電極12の厚さは、電解質層11の厚さより大きくてもよい。電解質層11の厚さを減らすと、電解質層11のイオン伝導の抵抗が減少する。ただし、電解質層11の厚さを減らすと、電解質層11の強度が低下する。そのため、電解質層11に積層された電極12の厚さを増加させることによって、電解質層11の強度を確保する。電極12の厚さが電解質層11の厚さよりも大きい構造をアノードサポート構造という。膜電極接合体10は、アノードサポート構造により、電解質層11の強度を維持しつつ、イオン伝導の抵抗を低減できる。
【0020】
電解質層11を構成する電解質材料としては、プロトン伝導性を有する電解質が挙げられる。プロトン伝導性を有する電解質としては、BaaZr1-xx3、BaaCe1-xx3、及びBaaZr1-x-yCexy3からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。ここで、Mは、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、Mn、Fe、Co、Ni、Al、Ga、In及びLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。xは、0<x<1を満たす。yは、0<y<1を満たす。aは、0.95≦a≦1.05を満たす。このようなプロトン伝導体は、例えば、600℃程度の低温でプロトンを伝導できる。そのため、プロトン伝導性を有する電解質を電解質層11に使用すれば、従来のイットリア安定化ジルコニアを電解質に使用した燃料電池よりも作動温度を下げることができる。本明細書では、「プロトン伝導性を有する電解質」を「プロトン伝導体」と呼ぶことがある。
【0021】
電極12は、水素の酸化反応を活性化でき、かつ電気伝導性を有する材料を含んでいてもよい。水素の酸化反応を活性化でき、かつ電気伝導性を有する材料として、金属が挙げられる。金属は、Ni、Pt、Pd及びIrからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。金属は、Niを含む化合物であってもよい。Niは、水素の酸化反応をより十分に活性化でき、かつ優れた電気伝導性を有する。そのため、Niは、固体酸化物形燃料電池などの電気化学デバイスの燃料極に使用されうる。電極12は、サーメットで構成されていてもよい。サーメットとは、金属とセラミックス材料との混合物である。サーメットに使用される金属として、Niが挙げられる。サーメットに使用されるセラミックス材料として、プロトン伝導体及び酸化物イオン伝導体が挙げられる。プロトン伝導体の例として、バリウムジルコニウム酸化物及びバリウムセリウム酸化物が挙げられる。酸化物イオン伝導体として、安定化ジルコニア、ランタンガレート系酸化物、及びセリア系酸化物が挙げられる。サーメットは、Niと電解質材料との混合物であってもよい。Niと電解質材料との混合物を使用することによって、水素の酸化反応の反応場がより増加する。そのため水素の酸化反応をより十分に活性化できる。
【0022】
電極12にNiを使用した場合、電解質層11を構成する電解質材料としては、例えば、BaaZr1-xx3、BaaCe1-xx3、及びBaaZr1-x-yCexy3からなる群より選ばれる少なくとも1つのプロトン伝導体が挙げられる。ここで、Mは、Sc、Lu、Yb、Tm及びInからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む。xは、0<x<1を満たす。yは、0<y<1を満たす。aは、0.95≦a≦1.05を満たす。これらのプロトン伝導体は、電極に含まれているNiとの反応を抑制できる。その結果、これらのプロトン伝導体は、CO2と反応して分解されるBaNiM25相を形成しにくい。そのため、これらのプロトン伝導体は、CO2に対して安定である。これらのプロトン伝導体を使用した電解質層は、天然ガスを燃料とする燃料電池に応用でき、さらに燃料電池の耐久性に寄与できる。
【0023】
水素含有ガスと空気とを分離するための金属枠体13としては、膜電極接合体の用途に合わせて任意の金属材料を選択できる。例えば、金属枠体13を固体酸化物形燃料電池のセパレータとして使用する場合は、使用時の温度である500℃から800℃程度で劣化することなく、水素含有ガスと空気とを分離できる金属を選択できる。金属枠体13に使用される金属として、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金、及びクロム基合金が挙げられる。
【0024】
接合層14は、金属枠体13と電解質層11とを接合する。接合層14には、例えば、気密性を保ち、かつ容易に接合できるガラスシールが用いられる。ガラスシールに用いられるガラス材料は特に限定されず、ホウケイ酸系ガラスが挙げられる。接合層14には、ガラスシール以外の材料としてろう材を用いることができる。ろう材を用いた場合、金属枠体13と電解質層11とを強固に接合できる。
【0025】
接合層14に使用されるガラス材料の熱膨張率は特に限定されない。ガラス材料の熱膨張率は、電解質層11に含まれている電解質の熱膨張率より大きく、かつ金属枠体13に含まれている金属の熱膨張率より小さくてもよい。
【0026】
接合層14の厚さは、0.50mm以上である。接合層14の厚さの上限は特に限定されず、5.0mm以下であってもよく、2.0mm以下であってもよい。接合層14の厚さを適切に設定することによって、均一な厚さを有する接合層14が得られる。その結果、膜電極接合体10のガスシール性が確保される。また、接合層14の厚さを適切に設定することによって、熱処理した場合、及び還元処理した場合、電解質層の内部に発生する熱応力を緩和できるため、膜電極接合体10が割れにくい。その結果、電解質層11と金属枠体13との間の接合力が高い膜電極接合体10を作製できる。
【0027】
(実施形態2)
図4は、本開示の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池セル19の構成を模式的に示す断面図である。図4に示すように、固体酸化物形燃料電池セル19は、電解質層11、金属枠体13、結合層14、及び燃料極15を備えている。燃料極15は、水素含有ガスと接触する。電解質層11、金属枠体13、結合層14、及び燃料極15は、例えば、膜電極接合体10又は10Aによって構成されていてもよい。固体酸化物形燃料電池セル19は、空気極16、燃料ガス経路17及び空気極ガス経路18をさらに備えている。空気極16は、空気と接触する。燃料極ガス経路17には、燃料極15に供給されるべき水素含有ガスが流れる。空気極ガス経路18は、空気極16に酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスは、典型的には、空気である。電解質層11は、燃料極15と空気極16との間に配置されている。電解質層11は、燃料極15及び空気極16のそれぞれに直接接している。
【0028】
燃料極15は、上記電極12と同様の構成を有する。空気極16は、酸素の還元反応を活性化でき、かつ電気伝導性を有する材料を含む。酸素の還元反応を活性化でき、かつ電気伝導性を有する材料として、ランタンストロンチウムコバルト複合酸化物、ランタンストロンチウムコバルト鉄複合酸化物、ランタンストロンチウム鉄複合酸化物、及びランタンニッケル鉄複合酸化物が挙げられる。
【0029】
燃料極ガス経路17の形状及び空気極ガス経路18の形状は特に限定されず、できるだけ均一に膜電極接合体の面内に水素含有ガス及び空気を供給できる形状が選択されうる。
【実施例
【0030】
以下、本開示の実施形態の実施例に係る膜電極接合体について説明する。以下の実施例は本開示の実施形態に係る膜電極接合体の一例であり、本開示に係る膜電極接合体は以下の実施例に係る膜電極接合体に限定されない。
【0031】
(ガラスシールを用いた金属枠体と電解質層との接合方法)
まず、実施形態に係る金属枠体と電解質層との接合方法について以下に説明する。
【0032】
電極、電解質層、ガラスシール材料のシート、及び金属枠体をこの順番に積層し膜電極接合体を作製した。膜電極接合体のそれぞれの材料の位置がずれないように、膜電極接合体の上に重りを載せて荷重を加えた。その後、マッフル炉で熱処理することによって、電解質層と金属枠体とを接合させた。
【0033】
接合時の熱処理は、ガラスシール材料メーカー(Schott AG社)の推奨条件である700℃で30分間保持する条件で行った。
【0034】
(膜電極接合体において高温で電極を還元処理する方法)
次に、実施形態に係る膜電極接合体において、高温で電極を還元処理する方法について以下に説明する。
【0035】
膜電極接合体を電極側のみに水素ガスが流通できるようなジグに取り付け、電極側に窒素ガスを流通したまま600℃まで5時間で昇温した。その後、電極側に流通するガスを水素と窒素との混合ガスに切り替えて約12時間保持した。混合ガスにおける水素と窒素との体積比率は、3:97であった。その後、水素濃度を約1時間おきに10%、20%、50%、100%と増やしていき、100%水素ガスを約5時間流通させ、膜電極接合体の電極を完全に還元させた。還元後、窒素ガスに切り替え、室温まで15時間かけて降温させた。
【0036】
(接合層の厚さの評価)
次に、実施形態に係る接合層の厚さの評価方法について以下に説明する。
【0037】
上記の方法で作製した膜電極接合体の3次元形状を3D形状測定装置(キーエンス社製、VR-3200)によって測定し、接合層の厚さを算出した。具体的には、まず、電極及び電解質層を積層させ、積層体を作製した。接合前の金属枠体の厚さ、及び積層体の厚さを測定した。測定は、3D形状測定装置を用いて行った。次に、上記の方法で作製した膜電極接合体の厚さを測定した。測定は、3D形状測定装置を用いて行った。接合層の厚さは、膜電極接合体の厚さの測定値から、金属枠体の厚さの測定値、及び積層体の厚さの測定値を差し引いて得られた値である。膜電極接合体の任意の複数点において3D形状測定装置による測定を実施し、複数の測定結果を用いて算出された平均値を接合層の厚さとした。
【0038】
(ガスシール性の評価)
次に、実施形態に係る膜電極接合体のガスシール性の評価について以下に説明する。以下、ガスシール性の評価を、「水素ガスリーク試験」と記載することがある。
【0039】
上記の方法で作製した膜電極接合体を、電極側のみに水素ガスが流通できるようなジグに取り付け、熱処理後の膜電極接合体、及び還元処理後の膜電極接合体に、室温で電極側のみに水素ガスを流通させた。ジグ入口側の水素ガス流量及びジグ出口側の水素ガス流量を測定した。測定は、高精度精密膜流量計(堀場エステック社製、SF-1U)を用いて行った。ジグ入口側の水素ガス流量とジグ出口側の水素ガス流量との差分が1%以内であれば、ガスシール性が確保できていると判断した。
【0040】
(サンプルの調製)
実施例に係る膜電極接合体には、電解質として、組成式がBa0.97Zr0.8Yb0.23-δで表されるプロトン伝導性を有する電解質を用いた。電極として酸化ニッケル(住友金属鉱山社製)及び上記プロトン伝導性を有する電解質のサーメットを用いた。サーメットの重量比率は、NiO:Ba0.97Zr0.8Yb0.23-δ=80:20であった。電極の厚さは、約500μmであった。電解質層には、一辺が50mmの正方形の形状を有する電解質シートを使用した。電解質シートの厚さは約15μmであった。金属枠体には、一辺が100mmの正方形の形状をした金属シート(日立金属社製、ZMG232、金属の厚さ0.20mm)を使用した。金属シートの中央部に一辺が42mmの正方形の開口部を形成した。ガラスシール材には、一辺が50mmの正方形の形状を有するガラスシート(ショット社製、GM31107、厚さ500μm)を使用した。ガラスシートの中央部に一辺が42mmの正方形の開口部を形成した。膜電極接合体の作製において、ガラスシートの積層枚数を異ならせることによって、接合層の厚さが異なる膜電極接合体を作製した。
【0041】
電極、電解質層、ガラスシート、及び金属枠体をこの順番に積層し膜電極接合体を作製した。膜電極接合体のそれぞれの材料の位置がずれないように、膜電極接合体の上に約1000gfの重りを載せて荷重を加えた。その後、マッフル炉で熱処理することによって、電解質層と金属枠体とを接合させた。接合時の熱処理は、ガラスシール材料メーカー(Schott AG社)の推奨条件である700℃で30分間保持する条件で行った。その後、接合のために熱処理した膜電極接合体に対して、高温での電極の還元処理を上記の方法で実施し、還元処理後の膜電極接合体を作製した。熱処理後の膜電極接合体、及び、還元処理後の膜電極接合体に関して、それぞれの膜電極接合体の水素ガスリーク試験を室温で実施した。結果を表1に示す。
【0042】
表1において、熱処理後の膜電極接合体、又は還元処理後の膜電極接合体の水素ガスリーク試験の結果、ジグ入口側の水素ガス流量とジグ出口側の水素ガス流量との差分が1%以内であれば「○」と判断した。熱処理後に膜電極接合体が割れた場合は「×」と判断した。なお、「×」と判断したときは、還元処理後の膜電極接合体において水素ガスリーク試験を実施していないため、還元処理後の評価結果は「-」と記載した。なお、膜電極接合体の割れについては、目視により判断した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1は、本開示の実施形態の実施例に係る熱処理後の膜電極接合体、及び還元処理後の膜電極接合体の水素ガスリーク試験の結果を示す。接合層の厚さは上記の評価手法で測定し、水素ガスリーク試験は上記のガスシール性の評価手法で実施した。
【0045】
表1に示すように、接合層の厚さが0.50mm以上の場合、熱処理後の膜電極接合体、及び還元処理後の膜電極接合体において、ガスシールされていることがわかった。
【0046】
これは、金属との熱膨張率の差が大きいプロトン伝導性を有する電解質を用いた膜電極接合体の作製において、電解質層の内部に発生する熱応力は、接合層の厚さを増やすことによって緩和されたためであると考えられる。
【0047】
図5は、熱処理した場合、及び還元処理した場合、電解質層の内部に発生する熱応力について説明する図である。
【0048】
本実施形態では、金属枠体の熱膨張率は、プロトン伝導性を有する電解質よりも大きい。そのため、図5に記載されたように、熱処理した場合、及び還元処理した場合、金属枠体の膨張により、接合層及び電解質層は半径方向外側に引っ張られ、電解質層の内部に熱応力が発生する。
【0049】
電解質層の内部に発生する熱応力は、次のように算出される。
【0050】
まず、接合層のせん断ひずみ(γ)は、下記式(1)で表される。
【0051】
γ=d÷h・・・(1)
【0052】
式(1)において、dは金属枠体の変位量を表し、hは接合層の高さを表す。
【0053】
接合層のせん応力(τ)は、下記式(2)で表される。
【0054】
τ=G×γ・・・(2)
【0055】
式(2)において、Gは横弾性係数を表す。
【0056】
また、電解質層と接合層との接合面におけるせん断力(S)は、下記式(3)で表される。
【0057】
S=τ×w=(G×γ)×w・・・(3)
【0058】
式(3)において、wは接合層の幅を表す。
【0059】
一方、電解質層の内部に発生する熱応力(σ)は、下記式(4)で表される。
【0060】
σ=S÷A・・・(4)
【0061】
式(4)において、Aはせん断力を受ける面積を表す。ここで、せん断力を受ける面積(A)は、電解質層と接合層との接合面の面積のことを示す。本開示において、せん断力を受ける面積(A)は、接合層の幅(w)とみなすことができる。そのため、電解質層の内部に発生する熱応力(σ)は、下記式(5)で表される。
【0062】
σ=S÷w・・・(5)
【0063】
よって、電解質層の内部に発生する熱応力(σ)は、式(1)、式(3)及び式(5)より、下記式(6)で表される。
【0064】
σ=(G×γ×w)÷w=G×γ=G×d÷h・・・(6)
【0065】
ここで、金属枠体の変位量(d)は電解質の熱膨張率と金属枠体の熱膨張率とによって決定される定数である。そのため、式(6)によれば、電解質層の内部に発生する熱応力(σ)を減少させるためには、接合層の厚さ(h)を増やす必要がある。そのため、電解質層の内部に発生する熱応力は、接合層の厚さを増加させることによって緩和されうる。
【0066】
一方、電解質層の内部に発生する熱応力は、接合層の幅、膜電極接合体の形状、電解質層の厚さ、電極の厚さ、及び金属枠体の厚さに依存せず、本開示の効果はこれらのパラメータに対して不変である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示に係る固体酸化物形燃料電池の膜電極接合体は、燃料電池、ガスセンサ、水素ポンプ、又は水電解装置などの電気化学デバイスの用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 膜電極接合体
11 電解質層
12 電極
13 金属枠体
14 接合層
15 燃料極
16 空気極
17 燃料極ガス経路
18 空気極ガス経路
19 固体酸化物形燃料電池セル
図1
図2
図3
図4
図5