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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】カッタビットおよびトンネル掘削機
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/087 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
E21D9/087 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117203
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004456
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 泰司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】緒方 勤
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-078986(JP,A)
【文献】特開2017-166216(JP,A)
【文献】特開平03-005073(JP,A)
【文献】特開2014-141846(JP,A)
【文献】特開2006-346739(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109356601(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0248550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と前記母材にろう付けされた刃材とを備えるカッタビットであって、
前記刃材は、二つのチップと、前記チップ同士の間に配設された緩衝材と、がろう付けされてなり、
前記緩衝材は、ろう材よりも融点が高く、かつ、前記チップよりも硬度が小さい材料からなり、
前記母材には、その先端側に開口する凹部が形成されていて、
前記凹部の底部には、三つの底面を有する階段状の段差が形成されており、前記三つの底面を、前記母材の前面側から上段の底面、中段の底面、下段の底面としたとき、
二つの前記チップのうちの前記母材の前面側に配設されたチップは、前記凹部の三つの底面のうちの上段の底面と中段の底面にろう付けされていて、
緩衝材は、前記凹部の三つの底面のうちの中段の底面にろう付けされており、
二つの前記チップのうちの前記母材の後面側に配設されたチップは、前記凹部の底面のうちの下段の底面にろう付けされていることを特徴とする、カッタビット。
【請求項2】
前記ろう材は、銀ろうであり、
前記緩衝材は、銅板であることを特徴とする、請求項1に記載のカッタビット。
【請求項3】
前記緩衝材の厚さが0.5~2.0mmの範囲内であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のカッタビット。
【請求項4】
二つの前記チップのうちの前記母材の前面側に配設されたチップは、前記母材の先端部において前面および背面が露出している上段刃部と、前記凹部に埋め込まれた下段刃部とを有し、
前記上段刃部は、前面側の露出面が背面側の露出面よりも大きく、
前記下段刃部は、前記凹部内において前面、後面および底面が固定されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のカッタビット。
【請求項5】
地山の切削を行うカッタヘッドと、
前記カッタヘッドの後方に配設された本体部と、を備えるトンネル掘削機であって、
前記カッタヘッドには、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の複数のカッタビットが固定されていることを特徴とする、トンネル掘削機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山の切削を行うカッタビットおよびこのカッタビットが設けられたトンネル掘削機に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法、推進工法、TBM等によるトンネル工事は、カッタビットが設置されたトンネル掘削機により行う。カッタビットは、地山の切削に伴い磨耗する。磨耗したカッタビットは、掘削作業を中断して交換する必要があるが、掘削作業を中断すると、工期短縮化の妨げになるとともに、工事費削減の妨げになる。カッタビット全体を強度の高い材料で構成すれば、カッタビットの交換頻度を低減させることが可能であるものの、カッタビットのコストが高くなるとともに、トンネル掘削機への取り付け方法も制限されてしまう。そのため、長距離掘削に耐え得る機能を有しており、交換作業を省略あるいは交換作業の回数を低減させることを可能としたカッタビットが開発されている。
例えば、本出願人は、特許文献1に示すように、複数のチップが積層された状態で刃先部に埋め込まれたカッタビットを開示している。積層されたチップ同士は、ろう付けされている。このカッタビットによれば、表面側のチップおよび母材(シャンク)が磨耗すると、新たなチップが露出するため、長期間にわたって切削能力が維持される。
礫層等を掘進する際にカッタビットに礫が衝突すると、衝撃によりチップに亀裂が生じる場合がある。このとき、チップ同士がろう材により固定されていると、チップ同士が一体化されるために亀裂が層間にまたがって進行する場合(積層された複数のチップが礫の衝突や圧壊時の圧力により同時に破損すること)があった。複数のチップにまたがって亀裂が生じていると、表面側のチップが脱落してしても、新たなチップが亀裂を有しているために所望の切削能力が確保できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-166216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、積層された複数のチップが積層されたカッタビットについて、礫の衝突等により複数のチップに対して同時に亀裂が生じることを防止し、カッタビットによる地山の切削能力の長寿命化を図ることを可能としたカッタビットと、このカッタビットを使用したトンネル掘削機を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために、本発明のカッタビットは、母材と前記母材にろう付けされた刃材とを備えるものである。前記刃材は、二つのチップと、前記チップ同士の間に配設された緩衝材とがろう付けされてなり、前記緩衝材は、ろう材よりも融点が高く、かつ、前記チップよりも硬度が小さい材料からなる。前記母材には、その先端側に開口する凹部が形成されている。前記凹部の底部には、三つの底面を有する階段状の段差が形成されており、前記三つの底面を、前記母材の前面側から上段の底面、中段の底面、下段の底面としたとき、二つの前記チップのうちの前記母材の前面側に配設されたチップは、前記凹部の三つの底面のうちの上段の底面と中段の底面にろう付けされていて、緩衝材は、前記凹部の三つの底面のうちの中段の底面にろう付けされており、二つの前記チップのうちの前記母材の後面側に配設されたチップは、前記凹部の底面のうちの下段の底面にろう付けされている。チップ同士をろう付けするろう材として銀ろうを使用する場合には、緩衝材を構成する材料としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、黄銅、丹銅またはこれらの内の少なくとも1つを含む銅板を使用すればよい。さらに、緩衝材の厚さは、0.5~2.0mmの範囲内、より望ましくは0.8~1.5mmの範囲内とすればよい。また、本発明のトンネル掘削機は、カッタヘッドに前記カッタビットが固定されたものである。
かかるカッタビットによれば、チップ同士の間に緩衝材が介設されているため、表層側のチップに礫等が接触した際の衝撃を緩衝材が吸収することで、裏層側のチップに作用する衝撃が低減される。その結果、層間にまたがって亀裂が生じることを抑制できる。そのため、カッタビットによる切削能力の長寿命化を図ることができる。
二つの前記チップのうちの前記母材の前面側に配設されたチップは、前記母材の先端部において前面および背面が露出している上段刃部と、前記凹部に埋め込まれた下段刃部とを有したものにすることができる。このとき、前記上段刃部は、前面側の露出面が背面側の露出面よりも大きくするとよく、前記下段刃部は、前記凹部内において前面、後面および底面を固定するとよい。
かかるカッタビットによれば、刃材が母材に埋め込まれているため、固定面(ろう付け面)が多くなり、刃材が脱落し難くなる。そのため、カッタビットの長寿命化を図ることができる。また、上段刃部の前面側の露出面が大きいため、母材の摩耗を最小限に抑えることができ、ひいては、早期に刃材が脱落することを防止できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のカッタビットおよびトンネル掘削機によれば、カッタビットに作用する衝撃等(例えば、礫の衝突による衝撃や圧壊時の圧力等)を緩衝材により吸収することで、積層された複数のチップにまたがって亀裂が生じることを抑制し、ひいては、カッタビットの長寿命化を図り、かつ、切削能力の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るカッタビットを示す側面図である。
図2図1のカッタビットの分解斜視図である。
図3】(a)~(c)は刃材の形状を決定する方法の手順を示す側面図である。
図4】ろう付けせん断試験に使用した試験体を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図5】ろう付けせん断試験における試験機への試験体の設置状況を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図6】カッタビットによる地盤の切削状況を示す模式図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図7】ろう付けせん断試験による荷重と変位の関係を示すグラフである。
図8】三点曲げ試験における試験状況を示す模式図である。
図9】三点曲げ試験の試験体を示す図であって、(a)は超硬材単体からなる試験体の側面図、(b)は(a)の正面図、(b)は2枚の超硬材をろう付けしてなる試験体の側面図、(d)は(c)の正面図である。
図10】ビット載荷試験における試験状況を示す模式図である。
図11】ビット載荷試験に使用したカッタビットを示す図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。
図12】ビット載荷試験による荷重と変位との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、シールド掘削機のカッタヘッドに固定されて地山の切削を行うカッタビット1について説明する。カッタビット1は、図1に示すように、母材2と母材2にろう付けされた刃材3とを備えている。ろう付けに使用するろう材4には、銀ろうを使用する。
刃材3は、一次チップ5および二次チップ6と、一次チップ5と二次チップ6との間に配設された緩衝材7とがろう付けされてなる。すなわち、刃材3は、カッタビット1の前面側から順に一次チップ5、ろう材4の層、緩衝材7、ろう材4の層および二次チップ6を積層して形成したものである。
【0009】
母材2は、いわゆるシャンク材である。本実施形態の母材2は、刃材3を構成する一次チップ5および二次チップ6よりも膨張係数が大きく、かつ、構造部材として十分な剛性、強度を有する材料により構成されている。本実施形態では、母材2を構成する材料として、SS材やS45C材等を使用するが、母材2を構成する材料は限定されるものではない。
母材2には、図2に示すように、その先端側に開口する凹部21が形成されている。本明細書において、母材2の先端とは、母材2の前面22と背面23との角部をいう。凹部21は、母材2の先端に形成された欠損部分である。本実施形態の凹部21の底部には、階段状の段差が形成されている。刃材3(一次チップ5および二次チップ6)は、母材2に直接固定(ろう付け)される。
【0010】
母材2の前面22は、カッタビット1の進行方向前側の面であり、図1に示すように、先端部(一次チップ5)側に向うに従って後面24から離れるように傾斜している。母材2の背面23は、地山(切削面)に対向する面であり、先端部(一次チップ5)側に向うに従って底面25から離れるように傾斜している。背面23の延長面と前面22の延長面とが交わる角部は鋭角となる。本実施形態では、背面23に折れ点が形成されているが、背面23は平面(折れ点のない平坦な面)であってもよい。
母材2の後面24は、カッタビット1の進行方向後側の面であり、底面25は、図示せぬカッタヘッドに当接する面である。本実施形態の母材2の後面24と底面25は、直角に交わっている。なお、後面24および底面25の必ずしも直角である必要はない。
底面25には、段差が形成されていて、カッタヘッドに係止可能である。なお、底面25の段差は必要に応じて形成すればよい。また、母材2の形状は限定されない。
【0011】
母材2の後部(凹部21の底部よりも後面24側)には、図2に示すように、カッタヘッドに固定する際に使用するボルト孔26,26が形成されている。ボルト孔26は、母材2の背面23から底面25を貫通している。図1に示すように、ボルト孔26の内部にはボルトの頭部を係止するための段差が形成されている。本実施形態では、前後に並設された二つのボルト孔26,26が形成されている。なお、ボルト孔26の配置や数は限定されるものではない。また、ボルト孔26は、必要に応じて形成すればよく、母材2のカッタヘッドへの固定方法によっては省略してもよい。
【0012】
一次チップ5は、超硬チップからなり、図1に示すように、刃材3を構成する複数(本実施形態では二枚)のチップの内、最も母材2の前面22側に配設されている。本実施形態の一次チップ5は、母材2の先端部において前面51aおよび背面51bが露出している上段刃部51と、凹部21に埋め込まれた下段刃部52とを有している。なお、図1中の一点鎖線は、上段刃部51と下段刃部52との境界を示す仮想線である。
【0013】
上段刃部51は、断面視四角形状を呈しており、上段刃部51の先端(前面51aと背面51bとの交差部)は鋭角となっている。一方、上段刃部51の後端(底面51cと後面51dとの交差部)は直角になっている。さらに、前面51a下側の端部(前面51aと底面51cとの交差部)は鋭角、後面51d上側の端部(背面51bと後面51dとの交差部)は鈍角になっている。また、上段刃部51は、前面51aの露出面が背面51bの露出面よりも大きい。
上段刃部51の前面51aは、母材2の前面22と面一になるように形成されている。すなわち、上段刃部51の前面51aは、母材2の前面22の欠損部分に配置されている。上段刃部51の背面51bは、母材2の背面23と面一になるように形成されている。すなわち、上段刃部51の背面51bは、母材2の背面23の欠損部分の一部に配置されている。上段刃部51の底面51cの一部は、母材2にろう付けされていて、当該底面51cの他の部分には下段刃部52が一体に形成されている。
【0014】
下段刃部52は、断面視矩形状を呈していて、上段刃部51の底面51cの後側部分に突設されている。下段刃部52の後面52dは、上段刃部51の後面51dの延長線上にある。また、下段刃部52の前面52aは、後面52dと平行であり、下段刃部52の底面52cは上段刃部51の底面51cと平行である。さらに、下段刃部52の底面52cは、上段刃部51の底面51cよりも小さい幅を有している。すなわち、一次チップ5は、先端が鋭角で、かつ、上段刃部51が下段刃部52よりも前側に突出した鏃状を呈している。
下段刃部52の前面52a、後面52dおよび底面52cは、凹部21内において母材2または二次チップ6にろう付け固定されている。下段刃部52の前面52aおよび底面52cは、凹部21の内面に直接固定されていて、下段刃部52の後面52dは二次チップ6に固定されている。
【0015】
一次チップ5の形状の設定方法は限定されるものではないが、本実施形態では以下の手順により行う。
まず、図3(a)に示す一般的な貼り付けタイプのカッタビット10に対して、図3(b)に示すように、刃材50の背面後端(点A)を中心として、刃材50を回転させる。このときの回転角度θは、例えば、カッタビット1の先端の角度θの1/2とする。なお、回転角度θの大きさは限定されるものではない。
次に、図3(c)に示すように、回転させた刃材50の前面と底面との角(点B)からカッタビット1の底面と平行な線(水平線)を延ばし前面との交点(点C)を設定する。点Cを上段刃部51の前面の端点とし、点Cから刃材50の前面に垂線をおろし、この垂線を上段刃部51の底面とすることで、一次チップ5の形状を決定する。
【0016】
二次チップ6は、超硬チップからなり、図1に示すように、緩衝材7を介して一次チップ5の後面に積層されている。二次チップ6は、断面視四角形状の板状チップであり、前面6aと背面6bの角は鋭角、前面6aと底面6cの角および底面6cと後面6dの角は直角、後面6dと背面6bの角は鈍角である。二次チップ6の背面6bは、母材2の背面23と面一になるように形成されていて、母材2の先端部において露出している。
二次チップ6の底面6cおよび後面6dは、母材2の凹部21の内面に直接固定されている。また、二次チップ6の前面6aは、一次チップ5の後面51d、52dに緩衝材7を介して固定されているとともに、母材2の凹部21の内面に固定されている。
【0017】
緩衝材7は、一次チップ5と二次チップ6との間に、ろう材4を介して介設されている。緩衝材7は、ろう材4よりも融点が高く、一次チップ5および二次チップ6よりも硬度が小さく、かつ、変形しやすく(例えばヤング率が200GPa以下)、なおかつ、ろう材4によるろう付けが可能な材料である材料からなる。このような材料としては、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅、黄銅、丹銅またはこれらの内の少なくとも1つを含む銅板がある。緩衝材7として、ろう材よりも融点が高い材料を使用することで、ろう付け時に銅板が変形することがないようにする。また、緩衝材7として一次チップ5および二次チップ6よりも硬度が小さい材料を使用することで、一次チップ5から伝達された衝撃等の応力を吸収し、二次チップ6への伝達を抑制することができる。緩衝材7の厚さは、1mmとする。なお、緩衝材7の厚さは限定されるものではないが、衝撃等の吸収性を確保する観点から、0.5~2.0mmの範囲内とするのが望ましく、0.8~1.5mmの範囲内とするのがより望ましい。
【0018】
以上、本実施形態のカッタビット1によれば、チップ同士の間(一次チップ5と二次チップ6の間)に緩衝材7が介設されているため、一次チップ5に礫等が接触した際の衝撃を緩衝材7が吸収することで、二次チップ6に作用する衝撃が低減される。その結果、層間にまたがって亀裂が生じること(積層された複数のチップが礫の衝突や圧壊時の圧力により同時に破損すること)を抑制できる。そのため、カッタビット1による切削能力の長寿命化を図ることができる。
また、刃材3が母材2に埋め込まれているため、固定面(ろう付け面)が多く、刃材3が脱落し難い。一次チップ5を凹部21に根入れすることで、従来の貼り付けタイプのカッタビット(図3(a)参照)に比べて、ろう付け面積を大きくできる。そのため、カッタビット1の長寿命化を図ることができる。また、上段刃部51の前面側の露出面が大きいため、母材2の摩耗を最小限に抑えることができ、ひいては、早期に刃材3が脱落することを防止することができる。また、一次チップ5は、凹部21内において、三面でろう付けされているため、抜け出し難い。そのため、一次チップ5が衝撃などにより脱落することが防止され、カッタビット1の限界摩耗量が伸び、ひいては、カッタビット1の長寿命化が可能となる。
一次チップ5の背面には、二次チップ6が積層されているため、一次チップ5が摩耗等によって脱落しても、二次チップ6が現れる。したがって、カッタビット1を交換せずとも連続して切削することができる。
凹部21には、段差が形成されているため、二次チップ6についても凹部21内において三面でろう付けすることができる。そのため、二次チップ6が早期に脱落(抜け出す)することが防止されている。
【0019】
次に、本実施形態のカッタビットについて実施した、ろう付けせん断試験、三点曲げ試験、ビット載荷試験の実験結果について説明する。まず、試験で使用した材料について説明する。
各実験において使用する超硬チップには、シールドマシン用ビットの超硬チップとして、耐摩耗性・耐衝撃性に優れた、WC粒度が粗粒のものを使用するものとし、JIS規格における使用分類E3およびE5のものを採用した。本実験では、E3およびE5に相当する超硬チップとして、サンアロイ工業株式会社製のRV46およびRV56を使用した。表1に超硬チップの仕様を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
また、超硬チップ間に介設する緩衝材には、表2に示すように無酸素銅(C1020)からなる銅板を使用した。
また、母材に使用する一般構造用圧延鋼材として、表2に示すように、SS400を使用した。
【0022】
【表2】
【0023】
(1)ろう付けせん断試験
ろう付けせん断試験は、1000kN万能試験機を使用して、図4および図5に示すように、板状の母材102の表面に超硬チップ103をろう付けした試験体101を試験機(治具100)に固定して、変位-荷重関係、最大荷重および最終破壊状態の確認を行った。母材102は、高さ100mm、幅50mm、厚さ20mmで、超硬チップ103は、高さ30mm、幅50mm、厚さ15mmのものを使用した。超硬チップ103は、母材102の上端から10mmの位置にろう付けした。ろう付けに使用するろう材104は銀ろうとした。また、試験体101には、表3に示すように、超硬チップ103と母材102との間に、緩衝材を有していないもの(ケース1)と、厚さ0.1mm、0.3mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm緩衝材を介設するもの(ケース2~6)とを使用した。試験では、図5(a)および(b)に示すように、超硬チップ103を試験機の治具105の上端に載置させた状態で、母材102のみを治具105により挟み、母材102の上端から荷重を作用させて、最大荷重を測定した。各ケースに対して5回試験を行い、超硬チップ103を直接母材102にろう付けしたケース1と、超硬チップ103と母材102との間に緩衝材を介設したケース2~6とを対比した。
【0024】
【表3】
【0025】
(a)最大せん断強度
試験結果を表4に示す。
表4に示すように、平均値で比較すると、ケース2~6は、緩衝材を介設することで、ケース1の最大荷重257.8kNに比べて最大荷重が低下する結果となった。一方、ケース1では、最小値166.4kN、最大値336.3kNと標準偏差にバラつきがあった。これに対し、ケース4では、平均値が186.9kNとなり、ケース1の72%程度であったものの標準偏差は6.1で、バラつきが少なかった。なお、ケース2~6における最小値は、ケース3の145.9kN、最大値はケース2の273,9kNであった。
【0026】
【表4】
【0027】
ここで、図6(a)および(b)に示すように、幅50mmのカッタビット201によって地盤Gを切削する際の切込み深さを10mmと仮定すると、地盤G切削時の超硬チップの受圧面積Aは、式1に示すように、500mmとなる。このとき、せん断試験結果の最小値Pminである145kNの荷重をろう付け部(ろう層)に作用させる際の地盤Gの一軸圧縮強度は、式2に示すように、290N/mmとなる。一方、カッタビットの設計思想では、ビット幅1cmにつき1t(約10kN)の耐力を有するという考えから、幅50mmのせん断試験体100は50kNの耐力を有していればよい。緩衝材を有するろう付け部のせん断耐力の最小値(290kN)は、設計思想に基づくせん断耐力(50kN)よりも大きいため、緩衝材を介設した状態で超硬チップをろう付けすることに問題ないといえる。
受圧面積A=50mm×10mm=500mm ・・・式1
地盤の一軸圧縮強度σ=145×10/500=290N/mm ・・・式2
【0028】
(b)荷重-変位関係
次に、各ケースの荷重と変位の関係について検証を行った。図7に、ケース毎の荷重と変位の関係を示す。図7に示すように、ケース1~3では、荷重の最大値に差はあるものの、変位量-荷重の関係(勾配)は200kN/1mm程度であった。一方、ケース4~6における変位量-荷重の関係は、175kN/1mm程度であった。この結果から、緩衝材の厚みが増すと、変形しやすい傾向であることが分かった。
また、ケース4,5,6では、塑性域の始まりがそれぞれ175、122、96kN付近であった。一方、ケース1~3では、勾配が同等で、塑性変形域はほとんど生じていない結果となった。また、ケース2(緩衝材厚0.1mm)の破壊形態はケース1(緩衝材なし)と同等であった。
ケース4,5(緩衝材厚0.5mm、1.0mm)は、他のケースよりも勾配が緩やかになっている。ケース4,5は、変形しやすい傾向であり、塑性変形域も顕著にあらわれていることが確認できた。この結果から、緩衝材の板厚が増すと、塑性変形を始める荷重が低下し、緩衝材の塑性変形後、終局荷重に至ると考えられる。また、試験後の破壊状況を確認すると、脆性的な破壊にはならず、ろう層部の一部が破壊した結果となっているため、緩衝材を含むろう層部の特性が表れていると考えられる。したがって、緩衝材として0.5mm以上のものを使用するのが望ましいことが確認できた。
【0029】
(2)三点曲げ試験
三点曲げ試験では、オートグラフを使用して、図8に示すように、支間距離60mmで下側から支持された試験体300の中央に上から荷重を加えた場合の最大荷重および最終破壊状況の確認を行った。試験体300には、図9(a)および(b)に示すように、長さ80mm、高さ6mm、幅8mmの超硬材を使用した場合と、図9(c)および(d)に示すように、2枚の長さ80mm、高さ3mm、幅8mmの超硬材301をろう付けしたものを使用した。このとき、超硬材301として、E3を使用した場合、E5を使用した場合、E3とE5を組み合わせて使用した場合とについて、それぞれ試験を行った。また、2枚の超硬材301をろう付けしたケースでは、緩衝材がないものと、緩衝材を介設したものについてもそれぞれ実験を行った。ろう付けのろう材302には、銀ろうを使用した。表5に試験体の構成(緩衝材の有無、緩衝材厚さ等)を示す。試験は、各ケースに対して5回ずつ行った。
【0030】
【表5】
【0031】
超硬材E3を使用したケース1-1~1-6の最大荷重を表6に示す。表6に示すように、緩衝材なしのケース1-2と厚さ1mmの緩衝材を介設したケース1-5は、最大荷重の平均値がそれぞれ8414Nと8449Nとなり、超硬材単体からなるケース1-1の強度(8494N)と同等になる結果となった。一方、緩衝材の厚さが0.1mmのケース1-3と緩衝材の厚さが0.5mmのケース1-4では、それぞれ8117Nと7922Nとなり、ケース1-1の強度(8494N)よりも若干低下したが、大きな影響はないものと推測される。さらに、緩衝材の厚さが2.0mmのケース1-6の最大荷重の平均値は、9273Nとなり、ケース1-1に比べて強度が向上する結果となった。したがって、超硬材E3を使用した場合には、緩衝材を介設することにより、三点曲げ試験における最大荷重に大きな影響が生じないことが確認できた。
また、ケース1-1~1-4では、最終破壊状態が二分割に折損したのに対し、ケース1-5および1-6では、下側の超硬材に発生したクラックが緩衝材を貫通することがなく、二分割されることはなかった。これにより、引張側の超硬材に発生したクラックを緩衝材により止めるという観点から、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設するのが望ましい。
【0032】
【表6】
【0033】
超硬材E5を使用したケース2-1~2-6の最大荷重を表7に示す。表7に示すように、厚さ1mmの緩衝材を介設したケース2-5は、最大荷重の平均値が8195Nとなり、超硬材単体からなるケース2-1の強度(8067N)と同等になる結果となった。一方、緩衝材の厚さが0.1mmのケース2-3と緩衝材の厚さが0.5mmのケース2-4では、それぞれ7934Nと7757Nとなり、ケース2-1の強度(8067N)よりも若干低下したが、大きな影響はないものと推測される。さらに、緩衝材がないケース2-2と厚さ2mmの緩衝材を介設したケース2-6では、最大荷重の平均値がそれぞれ8631Nと9520Nとなり、ケース2-1の強度(8067N)に比べて強度が向上する結果となった。したがって、超硬材E5を使用した場合には、緩衝材を介設することにより、三点曲げ試験における最大荷重に大きな影響が生じないことが確認できた。
また、ケース2-1~2-4では、最終破壊状態が二分割に折損したのに対し、ケース2-5および2-6では、下側の超硬材に発生したクラックが緩衝材を貫通することがなく、二分割されることはなかった。これにより、引張側の超硬材に発生したクラックを緩衝材により止めるという観点から、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設するのが望ましい。
【0034】
【表7】
【0035】
表8に、E3同士の複合材料であるケース1-2,1-4,1-5と、引張側(下段)がE3,圧縮側(上段)がE5であるケース3-2,3-4,3-5の最大荷重を示す。E3同士の複合材料であるケース1-2,1-4,1-5と、E3とE5との複合体であるケース3-2,3-4,3-5とを比較すると、両者に大差がない結果となった。
なお、緩衝材なしのケース3-2では、最終破壊状態が二分割に折損し、緩衝材の板厚が0.5mmのケース3-4でもほとんどの試験体の最終破壊状態が二分割に折損した。一方、緩衝材の板厚が1.0mmのケース3-5では、試験体が二分割されることを防止できた。これにより、引張側の超硬材に発生したクラックを緩衝材により止めるという観点から、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設するのが望ましい。
【0036】
【表8】
【0037】
表9に、E5同士の複合材料であるケース2-2,2-4,2-5と、引張側(下段)がE5,圧縮側(上段)がE3であるケース4-2,4-4,4-5の最大荷重を示す。E5同士の複合材料であるケース2-2,2-4,2-5と、E5とE3との複合体であるケース4-2,4-4,4-5とを比較すると、ケース4-2,4-4,4-5の最大荷重の平均値がそれぞれ8498N、7598N、8152Nとなり、ケース2-2,2-4,2-5の8631N,7757N,8195Nに比べて若干大きくなるものの、両者に大差はなかった。そのため、引張側(下段側)の超硬材の種類によって最大荷重に差が生じるものの、圧縮側の超硬材の種類の違いには大きな差がないことがわかる。
緩衝材なしのケース4-2および緩衝材の板厚が0.5mmの4-4では、最終破壊状態が二分割に折損した。一方、緩衝材の板厚が1.0mmのケース4-5では、ほとんどの試験体が二分割されることを防止できた。これにより、引張側の超硬材に発生したクラックを緩衝材により止めるという観点から、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設するのが望ましい。
【0038】
【表9】
【0039】
(3)ビット載荷試験
載荷試験は、1000kN万能試験機を使用した。載荷方法は、図10に示すように、半径50mmの載荷治具400をカッタビット401(一次チップ411)の中心に終局状態まで載荷することにより行った(図10参照)。
載荷試験に使用したカッタビット401の形状を図11(a)および(b)に示す。カッタビット401は、一次チップ411と二次チップ412が積層された状態で、母材420にろう付けされている。また、一次チップ411と二次チップ412は、ろう付けされている。本実験は、表10に示すように、一次チップ411と二次チップ412との間に緩衝材を介設しないケース1~4と、緩衝材を介設したケース5~8について実施した。ケース1では、一次チップ411としてE5,二次チップ412としてE3を使用し、ケース2では一次チップ411と二次チップ412の両方にE5を使用した。また、ケース3は、一次チップ411と二次チップ412の両方にE3を使用し、ケース4では一次チップ411としてE3,二次チップ412としてE5を使用した。ケース5は、E3からなる一次チップ411と二次チップ412との間に厚さ0.5mmの緩衝材を介設した。ケース6では、E3からなる一次チップ411と二次チップ412との間に厚さ1.0mmの緩衝材を介設した。ケース7は、一次チップ411をE3,二次チップ412をE5とし、緩衝材の厚さを1.0mmとした。さらに、ケース8では、E3からなる一次チップ411と二次チップ412との間に厚さ2.0mmの緩衝材を介設した。
【0040】
【表10】
【0041】
一次チップ411および二次チップ412にE3を使用した場合(ケース3,5,6,8)の初期破損荷重Wminと最大荷重Wmaxを表11に示す。初期破損荷重Wminは、緩衝材なしのケース3が41.0kNであるのに対し、緩衝材を使用したケース5,6,8では、120~150%程度荷重が増加した。また、最大荷重Wmaxについても、緩衝材なしのケース3が150kNであるのに対し、緩衝材の板厚が0.5mmケース5と1.0mmのケース6は152.3kNと144.6kNと同程度であった。一方、緩衝材の板厚が2.0mmのケース8では、最大荷重Wmaxが133.23kNとなり、ケース3の90%程度の荷重となった。これらの結果から、初期破損荷重Wmin及び最大荷重Wmaxについては、緩衝材の板厚が0.5mmと1.0mmであれば、緩衝材なしと差がないと考えられる。ここで、「初期破損荷重」とは、図12に示すように、カッタビットに最初の亀裂(破損)が生じることで、荷重が一時的に低下する直前の荷重である。
【0042】
【表11】
【0043】
一次チップ411および二次チップ412にE3を使用したケース6と、一次チップ411にE3,二次チップ412にE5を使用したケース7の初期破損荷重と最大荷重を表12に示す。両ケースにおける緩衝材の板厚は1.0mmである。
表12に示すように、初期破損荷重は、いずれも50kN程度であり、最大荷重はいずれも145kN程度であった。したがって、二次チップ412の材種の違いによる影響はほとんど現れなかった。
【0044】
【表12】
【0045】
各実験ケースのチップの破損状況は、緩衝材のないケース3では一次チップ411と二次チップ412が一体となって破損が生じた。一方、緩衝材の板厚が1.0mmのケース6,7と緩衝材の板厚が2.0mmのケース8では、二次チップ412が一次チップ411と一体に破損することはなかった。また、緩衝材の板厚が0.5mmのケース5では、一次チップ411の破損とともに、二次チップ412に縦クラックが生じる場合があった。したがって、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設することで、二次チップへのクラックの進展を防ぐ効果が得られることが確認できた。
【0046】
以上、ろう付けせん断試験では、超硬チップ同士の間に介設する緩衝材として、0.5mm以上の厚さのものを使用するのが望ましいことが確認できた。また、三点曲げ試験では、超硬チップ同士の間に緩衝材を介設した場合であっても、緩衝材の厚さにかかわらず緩衝材を介設しない場合は超硬ビット単体と比較して、最大荷重に大きな影響が生じないことが確認できた。また、三点曲げ試験において引張側の超硬材に発生したクラックを緩衝材により止めるという観点からは、緩衝材を0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さにするのが望ましい結果となった。さらに、ビット載荷試験では、初期破損荷重および最大荷重について検討すると、超硬チップ同士の間に厚さ0.5mm~1.0mmの緩衝材を介設するのが望ましい結果となった。一方、ビット載荷試験における超硬チップの破損状況を確認すると、0.5mmを超える厚さ、好ましくは1.0mm程度以上の厚さの緩衝材を介設するのが望ましい結果となった。
上記の結果を踏まえ、超硬チップ同士の間に介設する緩衝材の厚さは、0.5mm~2.0mmの範囲内が望ましいが、0.8mm~1.5mmの範囲内がより望ましく、さらに1.0mm程度にするのがより望ましい。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
刃材3を構成するチップ(一次チップ5および二次チップ6)の積層数は限定されるものではなく、地山状況や掘削延長等に応じて増加させてもよい。刃材3を構成するチップの積層数が3層以上である場合でも、チップ同士は、緩衝材7を介してろう付けする。
一次チップ5および二次チップ6を構成する材料は、限定されるものではなく、予想される地質等に応じて適宜決定すればよい。また、一次チップ5および二次チップ6には、異なる材質のカッタチップを使用してもよいし、同じ材質のカッタチップを使用してもよい。
また、一次チップ5の形状は段差を有した形状(上段刃部51および下段刃部52を有するもの)に限定されるものではなく、例えば、板状であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 カッタビット
2 母材
21 凹部
22 前面
23 背面
24 後面
25 底面
3 刃材
4 ろう材
5 一次チップ(チップ)
51 上段刃部
62 下段刃部
6 二次チップ(チップ)
7 緩衝材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12