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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】保線作業装置
(51)【国際特許分類】
   E01B 29/04 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
E01B29/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019168396
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046680
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】500539561
【氏名又は名称】株式会社テムザック
(73)【特許権者】
【識別番号】591075641
【氏名又は名称】東鉄工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【氏名又は名称】来田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】馬場 勝之
(72)【発明者】
【氏名】久米 康歳
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 英一
(72)【発明者】
【氏名】高木 亮太
(72)【発明者】
【氏名】木村 宣幸
(72)【発明者】
【氏名】麻生 秀樹
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-306133(JP,A)
【文献】特開平09-025604(JP,A)
【文献】特開2005-307557(JP,A)
【文献】特開2002-254379(JP,A)
【文献】特開2017-036620(JP,A)
【文献】特開平09-151408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0312412(US,A1)
【文献】米国特許第05651317(US,A)
【文献】特開平02-256526(JP,A)
【文献】特開平10-016730(JP,A)
【文献】実公平07-002737(JP,Y2)
【文献】特開2000-247225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00-37/00
E01B 1/00-26/00
B61D 15/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の軌陸車の荷台に搭載された状態で一般道路又は高速道路を走行して作業現場に移動し、前記軌陸車に搭載されたままで軌道上を移動しながら、保線作業を行う保線作業装置であって、
前記荷台に固定されるベースフレームと、該ベースフレーム上に取付けられた軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットとを有し、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットが前記ベースフレームを介して一体化されており、
前記軌框扛上ユニットは、(a)レールを把持する把持手段と、先側に該把持手段が取付けられ、基側が前記ベースフレームに保持されて前記把持手段を前後及び上下に移動させるジャッキアームとをそれぞれ有する左右一対の扛上手段と、(b)前記ベースフレームに取付けられ、前記各ジャッキアームの基側を前記軌陸車の幅方向にスライド可能に保持するスライド機構とを備え、
前記道床搗き固めユニットは、道床の搗き固めを行う搗き固め手段と、先側に該搗き固め手段が取付けられ、基側が前記ベースフレームに保持されて前記搗き固め手段を上下、前後及び左右に移動させる搗き固めアームとを備え
軌框扛上作業では、前記スライド機構によって左右の前記ジャッキアームの位置を左右の前記レールの間隔に合わせて調整し、左右の前記ジャッキアームを伸縮させて左右の前記把持手段を前後及び上下に移動させ、前記荷台より後方位置で左右の前記把持手段によって前記各レールを把持して持ち上げ、道床搗き固め作業では、前記搗き固めアームによって前記搗き固め手段を上下、前後及び左右に移動させ、左右の前記把持手段で持ち上げられた前記各レールの周囲の道床の搗き固めを行い、作業終了後は、前記軌陸車に搭載されたまま前記軌道上を移動すること及び前記一般道路又は前記高速道路を走行することができるように、前記スライド機構によって左右の前記ジャッキアームの間隔を狭め、左右の前記ジャッキアーム及び前記搗き固めアームを折り畳むことにより、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットが所定の寸法内に収められることを特徴とする保線作業装置。
【請求項2】
請求項記載の保線作業装置において、前記スライド機構は、前記軌陸車の幅方向に沿って設けられた固定横架部と、該固定横架部の長手方向の両端部で該固定横架部の長手方向に摺動可能に保持され、前記各ジャッキアームの基側と連結された摺動部とを備えていることを特徴とする保線作業装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の保線作業装置において、前記道床搗き固めユニットは、前記搗き固めアームの基側に設けられ、前記搗き固めアームを水平面内で旋回させる旋回機構を備えていることを特徴とする保線作業装置。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1記載の保線作業装置において、前記把持手段は、前記道床上に接地されるガイドフレームと、該ガイドフレームに取付けられてレールを把持する開閉式のクランプ部と、該クランプ部を開閉させる開閉手段と、前記ガイドフレームに対して前記クランプ部を昇降させる昇降手段とを備えていることを特徴とする保線作業装置。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1記載の保線作業装置において、前記ベースフレームには、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットに電力及び油圧を供給する電源油圧ユニットと、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットを操作する作業者が着席する操作席とが設置されていることを特徴とする保線作業装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌陸車に搭載されて軌道上を移動しながら、保線作業を行う保線作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道では、レール(軌条)が枕木で支えられ、その下の道床にはバラストが敷き詰められている。このバラストはクッションの役目を果たしているが、使用に伴ってレールの落ち込み(レベルの低下)が発生するので、レールを正規の高さに整正するための保線作業が必要となる。保線作業では、左右2本のレールと複数の枕木が締結された梯子状の軌框を持ち上げる扛上作業と、バラストの搗き固め(突き固め)を行う搗き固め作業が行われる。従来の扛上作業では、道床(バラスト)とレールとの間に、手動のレールジャッキを差込んで軌框を持ち上げ、その後、タイタンパー等を用いて搗き固め作業を行っており、人力に頼る作業が多く、作業者の負担が大きかった。特に夏場の炎天下での作業は過酷であり、作業者の体力の消耗が激しく、負担が増大し、作業の能率も低下するという問題があった。
そこで、作業者の負担を軽減し、作業能率の改善を図るものとして、例えば、特許文献1には、台車によって軌道上を走行する第1機体に、駆動機構によって高さ方向位置を調節可能にした道床突固め機構と、道床突固め機構より前方に配置された軌道引上げ位置合せ機構とが装備された保線作業車両が開示されている。また、特許文献2には、道路用走行輪と軌道用走行輪とを備えた車体に、軌道整備用機器類が搭載配置された軌道作業用車両が開示されている。さらに、特許文献3には、四頭タイタンパーからの操作でシリンダーを下降させて軌道を持ち上げることができる油圧式軌道持上げ機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-216804号公報
【文献】特開2006-306133号公報
【文献】特開2011-21421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の保線作業車両は、道床突固め機構及び軌道引上げ位置合せ機構が装備されており、人力に頼ることなく作業を行うことができ、作業者の負担を軽減することができる。しかし、この保線作業車両は、軌道上を走行する専用車両であり、一般道路上を走行することができないため、軌道上を走行して移動できる範囲内でしか作業を行うことができず、機動性が低く、作業範囲が限定され、広い範囲で効率的に保線作業を行うには、多くの保線作業車両が必要となり、設備導入及び維持管理にも時間と手間がかかるという課題があった。特許文献2の軌道作業用車両は、道路用走行輪と軌道用走行輪を備えているので、一般道路を走行して移動することができ、機動性に優れる。しかし、軌道整備用機器類に加え、道路用走行輪と軌道用走行輪を切り替えるための昇降装置等も搭載する必要があり、構造が複雑な特殊車両となるため、量産性に欠け、普及し難いという課題があった。また、一般道路や高速道路を走行可能とするために、車体の幅や長さにも制約を受け、設計自在性にも欠けるという課題があった。特許文献3の油圧式軌道持上げ機は、軌道を持ち上げる機能のみを有するものであり、自走機能を備えていないので、作業時には、クレーンを使ってレール上に載線し、同じくレール上に載線された四頭タイタンパーと連結して牽引することにより、レール上を移動しながら、扛上作業と搗き固め作業を行わなければならず、施工性、機動性に欠けるという課題があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、移動手段を備えることなく、既存の軌陸車を有効利用して保線作業及び移動を効率的に行うことができ、構造を簡素化して量産性を向上させ、設備導入を促進することができる省力性及び汎用性に優れた保線作業装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係る保線作業装置は、既存の軌陸車の荷台に搭載された状態で一般道路又は高速道路を走行して作業現場に移動し、前記軌陸車に搭載されたままで軌道上を移動しながら、保線作業を行う保線作業装置であって、
前記荷台に固定されるベースフレームと、該ベースフレーム上に取付けられた軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットとを有し、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットが前記ベースフレームを介して一体化されており、
前記軌框扛上ユニットは、(a)レールを把持する把持手段と、先側に該把持手段が取付けられ、基側が前記ベースフレームに保持されて前記把持手段を前後及び上下に移動させるジャッキアームとをそれぞれ有する左右一対の扛上手段と、(b)前記ベースフレームに取付けられ、前記各ジャッキアームの基側を前記軌陸車の幅方向にスライド可能に保持するスライド機構とを備え、
前記道床搗き固めユニットは、道床の搗き固めを行う搗き固め手段と、先側に該搗き固め手段が取付けられ、基側が前記ベースフレームに保持されて前記搗き固め手段を上下、前後及び左右に移動させる搗き固めアームとを備え
軌框扛上作業では、前記スライド機構によって左右の前記ジャッキアームの位置を左右の前記レールの間隔に合わせて調整し、左右の前記ジャッキアームを伸縮させて左右の前記把持手段を前後及び上下に移動させ、前記荷台より後方位置で左右の前記把持手段によって前記各レールを把持して持ち上げ、道床搗き固め作業では、前記搗き固めアームによって前記搗き固め手段を上下、前後及び左右に移動させ、左右の前記把持手段で持ち上げられた前記各レールの周囲の道床の搗き固めを行い、作業終了後は、前記軌陸車に搭載されたまま前記軌道上を移動すること及び前記一般道路又は前記高速道路を走行することができるように、前記スライド機構によって左右の前記ジャッキアームの間隔を狭め、左右の前記ジャッキアーム及び前記搗き固めアームを折り畳むことにより、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットが所定の寸法内に収められる。
【0006】
【0007】
本発明に係る保線作業装置において、前記スライド機構は、前記軌陸車の幅方向に沿って設けられた固定横架部と、該固定横架部の長手方向の両端部で該固定横架部の長手方向に摺動可能に保持され、前記各ジャッキアームの基側と連結された摺動部とを備えることができる。
【0008】
本発明に係る保線作業装置において、前記道床搗き固めユニットは、前記搗き固めアームの基側に設けられ、前記搗き固めアームを水平面内で旋回させる旋回機構を備えていることが好ましい。
【0009】
本発明に係る保線作業装置において、前記把持手段は、前記道床上に接地されるガイドフレームと、該ガイドフレームに取付けられてレールを把持する開閉式のクランプ部と、該クランプ部を開閉させる開閉手段と、前記ガイドフレームに対して前記クランプ部を昇降させる昇降手段とを備えていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る保線作業装置において、前記ベースフレームには、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットに電力及び油圧を供給する電源油圧ユニットと、前記軌框扛上ユニット及び前記道床搗き固めユニットを操作する作業者が着席する操作席とが設置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る保線作業装置は、軌陸車の荷台に搭載されることにより、軌陸車で軌道上を移動しながら保線作業を行えるだけでなく、一般道路上を軌陸車で走行して作業現場に移動することもできるので、別途、移動手段を備える必要がなく、構造を簡素化して量産性を向上させ、設備導入の促進を図ることができる。軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットがベースフレームを介して一体化されることにより、取り扱い性が向上する。把持手段及び搗き固め手段をジャッキアーム及び搗き固めアームで所望の位置に移動させて軌框扛上作業及び道床搗き固め作業を行うことができ、省力性及び作業効率性に優れる。
【0012】
軌框扛上ユニットが、左右一対の扛上手段と、ベースフレームに取付けられ、各ジャッキアームの基側を軌陸車の幅方向にスライド可能に保持するスライド機構とを備えているので、軌框扛上作業時には、左右のレールの間隔に合わせて左右のジャッキアーム(扛上手段)の位置を調整して、左右の把持手段で各レールを確実に把持して効率的に作業を行うことができ、作業終了後は、左右のジャッキアーム(扛上手段)の間隔を狭めてコンパクト化を図り、車幅の制限を受けることなく、一般道路や高速道路等を走行することができ、機動性に優れる。
【0013】
スライド機構が、軌陸車の幅方向に沿って設けられた固定横架部と、固定横架部の長手方向の両端部で固定横架部の長手方向に摺動可能に保持され、各ジャッキアームの基側と連結された摺動部とを備える場合、各摺動部を摺動させるだけで左右のジャッキアーム(扛上手段)を所望の位置に移動させることができ、動作の安定性に優れる。
【0014】
道床搗き固めユニットが、搗き固めアームの基側に設けられ、搗き固めアームを水平面内で旋回させる旋回機構を備えている場合、搗き固め手段を軌道の幅方向の所望の位置に移動させて効率的に道床搗き固め作業を行うことができる。
【0015】
把持手段が、道床上に接地されるガイドフレームと、ガイドフレームに取付けられてレールを把持する開閉式のクランプ部と、クランプ部を開閉させる開閉手段と、ガイドフレームに対してクランプ部を昇降させる昇降手段とを備えている場合、ガイドフレームを道床上に接地(固定)した状態で、レールを把持したクランプ部を簡単かつ確実に昇降させることができ、施工性に優れる。
【0016】
ベースフレームに、軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットに電力及び油圧を供給する電源油圧ユニットと、軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットを操作する作業者が着席する操作席が設置されている場合、別途、電源及び油圧装置を用意する必要がなく、作業者が操作席から軌框扛上ユニット及び道床搗き固めユニットを簡単に操作することができ、省力性及び施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施の形態に係る保線作業装置の使用状態を示す側面図である。
図2】同保線作業装置の使用状態を示す平面図である。
図3】同保線作業装置の把持手段を示す要部拡大背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の一実施の形態に係る保線作業装置10は、図1及び図2に示すように、例えば8tの軌陸車11の荷台12に搭載されて軌道13上を移動しながら、保線作業を行うものである。ここで、軌道13は、左右2本のレール14a、14bと複数の枕木15が締結された梯子状の軌框16を有し、軌框16の下の道床17には小石や砂利等のバラストが敷き詰められている。保線作業では、レール14a、14bを把持して軌框16を持ち上げる軌框扛上作業と、道床17(バラスト)を搗き固める道床搗き固め作業を行う。なお、軌陸車11は、レール14a、14b上を移動(走行)するための車輪19aと、道路上を走行するためのタイヤ19bを備えており、図示しない昇降手段で車輪19aを昇降させることができる。図1では、車輪19aを降下させてタイヤ19bを浮かせ、レール14a、14b上を移動可能な状態となっている。なお、軌陸車11の幅方向を左右方向とし、図1は左側面を表すものとする。
【0019】
保線作業装置10は、荷台12に固定されるベースフレーム20と、ベースフレーム20上に取付けられた軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22とを有している。
そして、軌框扛上ユニット21は、レール14a、14bをそれぞれ把持する把持手段23a、23bと、先側に把持手段23a、23bがそれぞれ取付けられ、基側がベースフレーム20に保持されて把持手段23a、23bをそれぞれ移動させる多関節のジャッキアーム24a、24bとを有する左右一対の扛上手段25a、25bを備えている。
ここで、ジャッキアーム24a、24bは、それぞれ各関節部27a~27cで回動可能に連結された第1~第3のアーム部28a~28cと、各関節部27a~27cを中心に第1~第3のアーム部28a~28cを回動させる第1~第3の油圧シリンダー29a~29cを有している。よって、第1~第3の油圧シリンダー29a~29cを伸縮させて第1~第3のアーム部27a~27cを回動させることにより、把持手段23a、23bを前後及び上下に移動させることができる。
【0020】
また、軌框扛上ユニット21は、ベースフレーム20に取付けられ、各ジャッキアーム24a、24bの基側を軌陸車11の幅方向にスライド可能に保持するスライド機構30を備えている。このスライド機構30は、軌陸車11の幅方向に沿って設けられた固定横架部31と、固定横架部31の長手方向の両端部で固定横架部31の長手方向にスライド可能に保持され、各ジャッキアーム24a、24bの基側と連結された摺動部32a、32bとを備えている。ここで、摺動部32a、32bの基側は、中空の固定横架部31に内挿されており、固定横架部31と摺動部32a、32bは同軸上に配置されている。そして、固定横架部31に内蔵された左右の摺動用油圧シリンダー(図示せず)の先側がそれぞれ摺動部32a、32bの基側に連結されており、各摺動用油圧シリンダーを伸縮させることにより、摺動部32a、32bをそれぞれ固定横架部31の長手方向にスライドさせることができる。これにより、ジャッキアーム24a、24b全体をそれぞれ軌陸車11の幅方向に移動させることができ、レール14a、14bの位置に合わせて把持手段23a、23bを左右に移動させることができる。また、作業終了後に、摺動部32a、32bを近付け、左右のジャッキアーム24a、24b(扛上手段25a、25b)の間隔を狭めることにより、軌陸車11に保線作業装置10を搭載したままで、周囲の障害物との干渉(衝突)を防止しながら軌道13上を移動することや、車幅の制限を受けることなく、一般道路や高速道路等を走行することが可能となる。
【0021】
次に、把持手段23a、23bは、軌框扛上作業時に、各レール14a、14bを跨ぐように道床17上に接地されるガイドフレーム34と、平面視してガイドフレーム34のそれぞれの中央部に取付けられて各レール14a、14bを把持する開閉式のクランプ部35を有している(図3参照)。ここで、各ガイドフレーム34は、軌陸車11の幅方向に沿って設けられた(レール14a、14bの長手方向と直交する)水平軸支部36を介して、ジャッキアーム24a、24bのそれぞれの第3のアーム部28cの先側に回動可能に保持されている。そして、ジャッキアーム24a、24bのそれぞれの第3のアーム部28cに、各水平軸支部36を中心にガイドフレーム34を回動させる回動用油圧シリンダー37が取付けられている。よって、把持手段23a、23bの前後方向位置に応じてジャッキアーム24a、24bの伸縮状態(第1~第3のアーム部28a~28cの回動状態)が変化しても、第3のアーム部28cに対してガイドフレーム34を所望の角度で回動させて4本の脚部38を確実に道床17上に接地させることができる。なお、脚部の数は適宜、選択することができ、例えば1本又は2本でもよく、レールを避けて(レールの側方で)道床上に接地できればよい。
【0022】
また、把持手段23a、23bは、それぞれのクランプ部35を開閉させる開閉用油圧シリンダー(開閉手段の一例)40(図1参照)と、それぞれのガイドフレーム34に対してクランプ部35をそれぞれ昇降させる昇降用油圧シリンダー(昇降手段の一例)41を備えている。従って、先に説明した各ジャッキアーム24a、24bとスライド機構30で、把持手段23a、23bを所定の位置に移動させた後、各クランプ部35でレール14a、14bの上部を把持して上昇させることにより、軌框16を持ち上げることができる。
図1図2では、扛上手段25aが使用状態で、扛上手段25bが待機状態(折り畳み状態)となっているが、実際の軌框扛上作業では、左右の扛上手段25a、25bを用いて、各クランプ部35でレール14a、14bを把持し、軌框16全体を持ち上げることが好ましい。但し、必要に応じて、扛上手段25a、25bのいずれか一方のみを用いて、レール14a又はレール14bを持ち上げることもできる。
【0023】
次に、道床搗き固めユニット22は、先側に道床17の搗き固めを行う搗き固め手段42が取付けられ、基側がベースフレーム20に保持されて搗き固め手段42を移動させる搗き固めアーム43を備えている。この搗き固めアーム43は、ベースフレーム20に鉛直に取付けられたポスト44と、基側がポスト44の先側(上端側)に回動可能に連結されたブーム45と、基側がブーム45の先側に回動可能に連結されたアーム46を有している。ポスト44とブーム45の間、及びブーム45とアーム46の間には、それぞれ図示しない油圧シリンダーが取付けられており、各油圧シリンダーを伸縮させてブーム45及びアーム46を回動させることにより、搗き固め手段42を前後及び上下に移動させることができる。また、道床搗き固めユニット22は、搗き固めアーム43の基側(ポスト44の下端部)に設けられ、搗き固めアーム43を水平面内で旋回させる旋回機構47を備えている。これにより、搗き固めアーム43全体を水平面内で旋回させて、搗き固め手段42を左右(軌陸車11の幅方向)に移動させることができる。旋回機構47は油圧モーターにより駆動されるものが好適に用いられるが、電気モーターにより駆動されるものを用いることもできる。搗き固め手段42は油圧式の振動発生手段(図示せず)を備えており、四隅のタンピングツール(平ヅメ)48を振動させて道床17(バラスト)を搗き固めることができる。なお、搗き固め手段42としては、例えば4頭タイタンパーアタッチメントが好適に用いられるが、振動によって道床17(バラスト)を搗き固めることができればよく、8頭のタイタンパーアタッチメント等を用いてもよい。
【0024】
軌陸車11には、軌陸車11に電力及び油圧を供給するための軌陸車用電源油圧ユニット50が搭載されているが、これとは別に、ベースフレーム20には、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22に電力及び油圧を供給するための専用の電源油圧ユニット51が設置されている。この電源油圧ユニット51は、発電機及び油圧ポンプ等を備えている。また、軌陸車11の運転席52とは別に、ベースフレーム20には、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22を操作する作業者が着席する操作席53が設置されている。そして、操作席53の近傍(ここでは前方)には、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22を操作するための操作部54が取付けられている。これにより、操作席53に着席した作業者は、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22の各部の動作を目視で確認しながら操作を行うことができる。具体的には、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22で用いられる各油圧シリンダー、油圧式の振動発生手段及び油圧モーター等の油圧機器の油圧制御を行うための切替弁を操作(選択的に開閉)することにより、各部に所定の動作を行わせる。なお、図1図3では電気配線及び油圧配管は省略した。
【0025】
以下、保線作業装置10の使用方法について説明する。
保線作業装置10は、軌陸車11に搭載された状態で一般道路、高速道路及び軌道13上を移動する。このとき、先に説明したように、摺動部32a、32bを近付け、ジャッキアーム24a、24b及び搗き固めアーム43を折り畳むことにより、軌框扛上ユニット21及び道床搗き固めユニット22が所定の寸法内に収まるようにすることができる。
そして、目的地(保線対象位置)まで移動したら、レール14a、14bの間隔に合わせて摺動部32a、32bをスライドさせ、扛上手段25a、25bの左右方向の位置決めを行う。その後、ジャッキアーム24a、24bで把持手段23a、23bを前後及び上下に移動させ、各ガイドフレーム34の4本の脚部38を道床17に接地させる。次に、各クランプ部35を開きながら(若しくは開いた状態で)所定の高さまで下降させてから閉じることにより、レール14a、14bの上部を把持する(図3参照)。そして、ジャッキアーム24a、24bで各ガイドフレーム34を道床17に押し付けた状態で把持手段23a、23bの各昇降用油圧シリンダー41を駆動して各クランプ部35を上昇させることにより、軌框16を部分的に持ち上げることができる(以上、軌框扛上作業)。
【0026】
次に、搗き固めアーム43を伸縮させて搗き固め手段42の前後方向位置及び上下方向位置を調整すると共に、旋回機構47で搗き固めアーム43を旋回させて搗き固め手段42の左右方向位置を調整し、搗き固め手段42を把持手段23aの後方位置(図1の実線参照)で道床17に接地させる。そして、搗き固め手段42に取付けられた振動発生手段でタンピングツール(平ヅメ)48を振動させることにより、把持手段23aで持ち上げられたレール14aの周囲(主に把持手段23aの後方側)の道床17(バラスト)の搗き固めを行う。その後は同様にして、搗き固め手段42を把持手段23aの前方位置(図1の二点鎖線参照)、把持手段23bの後方位置、把持手段23bの前方位置に順次、移動させ、それぞれの位置で道床17(バラスト)の搗き固めを行う。なお、把持手段23a、23bのそれぞれの前方位置及び後方位置で搗き固めを行う順番は、適宜、選択することができる。また、必ずしも上記の4箇所で1回ずつ搗き固めを行う必要はなく、ある位置での搗き固めの結果、搗き固めが不要と判断された位置では搗き固めを行わなくてもよいし、一度、搗き固めを行った位置で、さらに搗き固めが必要と判断された時には、再度(繰返し)、搗き固めを行ってもよい(以上、道床搗き固め作業)。
一連の作業が完了したら、次の目的地(保線対象位置)まで移動し、同様の作業を行う。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、ジャッキアーム及び搗き固めアームの関節の数及び駆動手段(油圧シリンダー)の数と配置は、適宜、選択することができる。また、ジャッキアーム及び搗き固めアームは、それぞれ把持手段及び搗き固め手段を上下、前後及び左右方向に移動させることができればよく、その構造は、多関節構造のみに限定されず、適宜、選択することができる。例えば、関節を曲げる構造に代えて若しくは加えて、アームの一部を伸縮させる構造とすることもできる
さらに、把持手段のクランプ部の形状、開閉手段及び昇降手段の機構等は、適宜、選択することができ、開閉式のクランプ部に電磁力等で補助的にレールを吸着する補助吸着手段を備えてもよい。また、把持手段は、レールを把持して持ち上げることができるその他の構造を用いてもよい。なお、上記実施の形態では、平面視してガイドフレームの中央部にクランプ部を取付けたが、脚部の数、把持手段の構造或いは開閉手段及び昇降手段の機構等に応じて、ガイドフレームに対するクランプ部の取付け位置は、適宜、選択することができる。
上記実施の形態では、軌框扛上ユニットが左右一対の扛上手段を有するものについて説明したが、1つの扛上手段のみを有する構造とすることもできる。また、保線作業の対象とする左右のレールの間隔を限定し、左右の扛上手段(ジャッキアーム)の間隔を固定したまま作業可能な場合は、スライド機構を省略できる。さらに、スライド機構を用いて扛上手段全体(ジャッキアーム及び把持手段)を左右方向に移動させる代りに、旋回機構を用いてジャッキアームを旋回させることにより、把持手段を左右方向に移動させてもよい。
操作席及び操作部の位置は特に限定されるものではなく、適宜、選択することができる。また、リモコンにより、作業者が地上から保線作業装置を操作する構成とすることもでき、その場合、ベースフレーム上の操作席及び操作部は省略してもよい。
上記実施の形態では、保線作業装置に専用の電源油圧ユニットを搭載したが、軌陸車用電源油圧ユニットを共用できる場合は、専用の電源油圧ユニットは不要である。
【符号の説明】
【0028】
10:保線作業装置、11:軌陸車、12:荷台、13:軌道、14a、14b:レール、15:枕木、16:軌框、17:道床、19a:車輪、19b:タイヤ、20:ベースフレーム、21:軌框扛上ユニット、22:道床搗き固めユニット、23a、23b:把持手段、24a、24b:ジャッキアーム、25a、25b:扛上手段、27a~27c:関節部、28a:第1のアーム部、28b:第2のアーム部、28c:第3のアーム部、29a:第1の油圧シリンダー、29b:第2の油圧シリンダー、29c:第3の油圧シリンダー、30:スライド機構、31:固定横架部、32a、32b:摺動部、34:ガイドフレーム、35:クランプ部、36:水平軸支部、37:回動用油圧シリンダー、38:脚部、40:開閉用油圧シリンダー、41:昇降用油圧シリンダー、42:搗き固め手段、43:搗き固めアーム、44:ポスト、45:ブーム、46:アーム、47:旋回機構、48:タンピングツール(平ヅメ)、50:軌陸車用電源油圧ユニット、51:電源油圧ユニット、52:運転席、53:操作席、54:操作部
図1
図2
図3