(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】浚渫用グラブバケット
(51)【国際特許分類】
E02F 3/47 20060101AFI20230804BHJP
B66C 3/02 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
E02F3/47 E
B66C3/02 A
(21)【出願番号】P 2021080022
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】510303464
【氏名又は名称】株式会社若港
(73)【特許権者】
【識別番号】390031484
【氏名又は名称】株式会社光栄鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100085648
【氏名又は名称】田中 幹人
(72)【発明者】
【氏名】六田 啓二
(72)【発明者】
【氏名】大森 貴禎
(72)【発明者】
【氏名】大島 律
(72)【発明者】
【氏名】清水 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 真志
(72)【発明者】
【氏名】吉原 到
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 優磨
(72)【発明者】
【氏名】光内 強伸
(72)【発明者】
【氏名】濱田 巧
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一平
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】実公昭40-000302(JP,Y1)
【文献】特表2018-529869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 3/47
B66C 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のシェルを開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケットにおいて、
シェルの刃先をツース無しとするとともに、
刃先の口幅方向の外面に亘って、
矩形状の基板と、基板に一定間隔で固定した複数のツースと、刃先に固定するための固定板を備えたツースカートリッジをシェル毎に着脱可能に固定することによって、
ツース無し又はツース有りの状態を選択して浚渫可能としたことを特徴とする浚渫用グラブバケット。
【請求項2】
刃先の口幅方向の外面に亘ってボルト孔を形成することなく、ツースカートリッジを着脱可能とした請求項1記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項3】
ツースカートリッジは、
所定位置に複数の挿通孔を穿設した矩形状の基板と、
貫通孔を有するアダプタにポイントを固定したツースと、
アダプタに固定したリブと、
リブに固定するとともにアダプタの貫通孔を通過して基板の挿通孔から基端部を突出させた固定板とからなる請求項1又は
2記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項4】
基板の所定位置に窓部を開口し、窓部に圧接体を遊嵌するとともに、窓部を横架するウェッジ支持環を基板に架設し、ツースカートリッジの固定時において、ウェッジ支持環にウェッジを打入して圧接体を刃先に圧接することにより、ツースカートリッジを刃先に固定する請求項
1,2又は
3記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項5】
ウェッジを打入する側の圧接体の表面をウェッジ受けとして形成した請求項
4記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項6】
窓部をツースの間に開口した請求項
4又は
5記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項7】
固定板は、矩形状の本体部の基端部の上下両面に、本体部より鉛直方向に突出した突出片を突設してなる請求項
1,2,3,4,5又は
6記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項8】
刃先の口幅方向の外面に、所定間隔でツースの数に応じた有底凹部を形成し、
有底凹部に固定板を係合する請求項
1,2,3,4,5,6又は
7記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項9】
有底凹部は、固定板の突出片が侵入可能な長尺領域と、前記突出片が侵入不可能、かつ、本体部が侵入可能な短尺領域とからなる請求項
8記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項10】
固定板を有底凹部の長尺領域に挿入した後、基板を有底凹部の口幅方向に押圧して移動させることにより、固定板の突出片を長尺領域で支持するとともに、本体部を短尺領域で支持することによって固定板を有底凹部に係合する請求項
9記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項11】
刃先の長手方向の両端に位置する有底凹部の口幅方向の外方に反力板を突設し、反力板と基板の間に介在させたジャッキによって基板を押圧する請求項
10記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項12】
有底凹部の上方における刃先の外面に、基板の上端部を規制する上部規制板を口幅方向に突設するとともに、
有底凹部の下方における刃先の外面に、基板の下端部を規制する下部規制板を口幅方向に突設した請求項
8,9,10又は
11記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項13】
上部規制板の上方における刃先の外面に、ツースカートリッジの固定時にリブに密接して支持するリブ支持板を突設した請求項
12記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項14】
リブに位置決めピンを突設し、ツースカートリッジの固定時にリブ支持板に穿設した位置決め孔に挿通することにより、ツースカートリッジの固定時における位置を決定する請求項
13記載の浚渫用グラブバケット。
【請求項15】
ツース無し状態において、有底凹部に覆蓋を係合させて被覆する請求項
8,9,10,11,12,13又は
14記載の浚渫用グラブバケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツース無しの刃先を有する左右一対のシェルを開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケットにおいて、浚渫用グラブバケットそのものやシェル自体を交換することなく、或いはツース一本毎の着脱操作を必要とすることなく、シェルの刃先を一括してツース有りに変更可能とすることによって、シェルのツース無し又はツース有りの刃先を自在に選択して浚渫可能とした浚渫用グラブバケットに関する。
【背景技術】
【0002】
浚渫用グラブバケットは、港湾,河川,湖沼等の水底において、比重,硬さ,粘度,含水率等が様々に異なる土質の土砂やヘドロ等の掴み物を、浚渫目的に応じて掘削して掴み取る必要がある。そのため、土質に適応した掘削能力を有する浚渫用グラブバケットを選択することが肝要となる。一般的な浚渫用グラブバケットを、その用途の観点から大別すると、ヘドロ等の含水率が大きく柔らかな土質の掴み物を所定の切り取り深さで薄く広範囲に掴み取るための薄層ヘドロ用バケット,柔らかな土質の大容量の掴み物を掴み取るための軟土盤用バケット,硬い土質の掴み物を掴み取るための硬土盤用バケットに分けられる。
【0003】
また、掘削力の大小の観点からは、大きな掘削力を得るために、シェルの刃先に複数のツース(爪)を装備したツース有りのバケットと、掘削のためにツースを必要としないツース無しのバケットに分けることができる。掴み物がヘドロであり、あまり掘削力を必要としない薄層ヘドロ用バケットは、一般にツースを装備しておらず、硬い地盤を掘削するための大きな掘削力を必要とする硬土盤用バケットはツースを装備している。
【0004】
軟らかな地盤を掘削する軟土盤用バケットには、その掘削目的に応じて、ツース有りとツース無しの双方のバケットが使用されている。具体的には、大容量の掴み物を掴み取ったり、軟土盤とはいえ硬めの土質であったり、掘削地盤に硬質地盤が混在するような場合にはツース有りのバケットを使用し、一方、大きな掘削力を必要としない軟質地盤の掘削や、水底にツース跡を残さないことが要求される仕上げ用浚渫では平底のツース無しのバケットが使用されている。
【0005】
浚渫は、作業船のクレーンから吊支した浚渫用グラブバケットの「(空中での浚渫箇所への)旋回」→「(水底への)巻下」→「(水底での)掴み」→「(水底からの)巻上」→「(空中での土運船への)旋回」→「(土運船への)掴み降ろし」→「(土運船での)開口」→「(土運船からの)巻上」の各動作を1サイクルとして行う。近時の浚渫においては、前記したサイクルタイムを短縮して作業効率を向上させるとともに、浚渫目的を達成するために、所定の仕様に従って精度高く浚渫することが強く求められている。中でも、薄層ヘドロ浚渫や、仕上げ用浚渫では浚渫後の水底にツース跡を残さないことが求められており、浚渫後に超音波によって水底の状況を確認している。
【0006】
そのため、薄層ヘドロ用バケットはもとより、軟土盤用バケットにおいても、ツース無しのバケットを選択することが多いが、土質によってはツース無しバケットでは掘削が困難となったり、所定の容量を掴むことができなかったり、場合によっては破損することさえあり、ツース有りバケットが必要となることがある。その逆に掘削力を高めるためにツース有りバケットを選択した場合に、土質によってはツースを必要としなかったり、仕上げ用浚渫のためにツースの存在が障害となってツース無しバケットを必要とする場合もある。
【0007】
その場合には、浚渫用グラブバケットそのものをツース無しバケットからツース有りバケットに交換したり、その逆にツース有りバケットからツース無しバケットに交換して浚渫する必要がある。また、浚渫用グラブバケットそのものを交換するのではなく、ツースの要否に応じて、その都度シェルの刃先にツースを1本ずつ溶接,溶断することや、ボルトとナットでツースをシェルの刃先に固着し、或いは固着したツースのボルトとナットを取り外すことによって、それぞれツース有りバケットやツース無しバケットとすることも行われている。
【0008】
更に、ツースに特化したものではないが、切り取り深さに適した浚渫用グラブバケットを選択可能とするため、シェルを吊支するためのA型フレームを共用化し、それ以外のシェルやシーブボックス等の部材をユニット化して複数装備し、浚渫船上で交換する手段も提供されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ツースの要否に応じて、浚渫船のクレーンに吊支した浚渫用グラブバケットそのものを交換するには、クレーンから支持ワイヤ及び開閉ワイヤを取り外し、新たに交換する浚渫用グラブバケットに支持ワイヤを取り付け、開閉ワイヤをシーブブロックに仕込み直す必要がある。これらの交換作業は煩雑であるとともに浚渫船上では困難であるため、浚渫海域から一度港に帰港して作業する必要があり、浚渫海域と港との往復が必要となる。また、浚渫船に交換用の浚渫用グラブバケットを常時装備しておくこともスペース上の制限や機材の効率的な使用の観点から困難である。
【0011】
ツースの要否に応じて、ツースを1本ずつシェルの刃先に溶接,溶断する手段は、ツースの確実な固定ができ、強度も維持することができるが、ツースの着脱の都度必要となるツースの溶接,溶断には多くの時間と労力を必要とする。同様に、ボルトとナットによってシェルの刃先にツースを着脱する手段は、前記したツースの溶接,溶断手段に比較して、その作業は簡便化されるものの、1本のツースに対して複数本のボルトとナットを必要とし、使用後の浚渫用グラブバケットからボルトを取り外す際には、ボルトやナットの錆による固着,ネジ山の破損等が避けられず、ボルトやナットの回動が困難となるため、結局、溶断する必要が生じることが多い。そのため、ボルトとナットが消耗品となってしまい、ツースの着脱の度にボルトとナットを新調する必要が生じる。
【0012】
また、前記した溶接,溶断作業やボルトとナットの着脱作業を浚渫作業員が行ったり、浚渫船上で行うことは煩雑であるとともに、専門的知識や技能を必要とし、浚渫用グラブバケットそのものの交換と同様に、浚渫海域から一度港に帰港して作業することもあり、その場合には浚渫海域と港との往復が必要となる。さらに、これらの手段は、シェルの刃先へのツースの着脱作業をツース毎に行う必要があるため、その作業には多くの時間と労力や専門的な技能を必要とする。
【0013】
更に、ボルトとナットを使用して着脱する場合は、ボルトがシェルの刃先を貫通するため、ボルトを取り除いたときに、シェルの刃先に貫通孔が残存する。そのため、ツース無しバケットとして使用する場合はボルトの貫通孔から掴み物が流出しないように、ツースを装着しない場合においてもボルトとナットで貫通孔を目隠しをする作業が必要となり、又ツース有りバケットとして使用する場合には、ツースを装着するために、その都度ボルトとナットを溶断等によって取り除いて貫通孔を露出させる作業が必要となる。
【0014】
これらの従来の手段は、いずれも作業に多くの時間と労力や専門知識と技能を必要とするため、作業効率や経済効率上著しく実効性に欠けている。そのため、従来、所定の仕様を満足するように精度高く、かつ、効率よく浚渫するために、土質や浚渫目的に応じて1台の浚渫用グラブバケットをツース無しとツース有りとして使い分けることは困難であり、そのような浚渫用グラブバケットは提供されていない。
【0015】
そこで、本発明は土質や浚渫目的に応じた浚渫を、精度高く、かつ、作業効率よく行うために、1台の浚渫用グラブバケットをツース無しとツース有りに容易に使い分けることが可能であるとともに、その作業を港に帰港することなく浚渫船上で容易に行うことが可能な汎用性の高い浚渫用グラブバケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の課題を解決するために、請求項1により、左右一対のシェルを開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケットにおいて、シェルの刃先をツース無しとするとともに、刃先の口幅方向の外面に亘って、矩形状の基板と、基板に一定間隔で固定した複数のツースと、刃先に固定するための固定板を備えたツースカートリッジをシェル毎に着脱可能に固定することによって、ツース無し又はツース有りの状態を選択して浚渫可能とした浚渫用グラブバケットを基本として提供する。
【0017】
そして、請求項2により、刃先の口幅方向の外面に亘ってボルト孔を形成することなく、ツースカートリッジを着脱可能とした構成を提供する。
【0018】
また、請求項3により、ツースカートリッジは、所定位置に複数の挿通孔を穿設した矩形状の基板と、貫通孔を有するアダプタにポイントを固定したツースと、アダプタに固定したリブと、リブに固定するとともにアダプタの貫通孔を通過して基板の挿通孔から基端部を突出させた固定板とからなる構成を提供し、請求項4により、基板の所定位置に窓部を開口し、窓部に圧接体を遊嵌するとともに、窓部を横架するウェッジ支持環を基板に架設し、ツースカートリッジの固定時において、ウェッジ支持環にウェッジを打入して圧接体を刃先に圧接することにより、ツースカートリッジを刃先に固定する構成を、請求項5により、ウェッジを打入する側の圧接体の表面をウェッジ受けとして形成した構成を、請求項6により、窓部をツースの間に開口した構成を提供する。
【0019】
そして、請求項7により、固定板は、矩形状の本体部の基端部の上下両面に、本体部より鉛直方向に突出した突出片を突設してなる構成を、請求項8により、刃先の口幅方向の外面に、所定間隔でツースの数に応じた有底凹部を形成し、有底凹部に固定板を係合する構成を、請求項9により、有底凹部は、固定板の突出片が侵入可能な長尺領域と、前記突出片が侵入不可能、かつ、本体部が侵入可能な短尺領域とからなる構成を提供する。
【0020】
また、請求項10により、固定板を有底凹部の長尺領域に挿入した後、基板を有底凹部の口幅方向に押圧して移動させることにより、固定板の突出片を長尺領域で支持するとともに、本体部を短尺領域で支持することによって固定板を有底凹部に係合する構成を、請求項11により、刃先の長手方向の両端に位置する有底凹部の口幅方向の外方に反力板を突設し、反力板と基板の間に介在させたジャッキによって基板を押圧する構成を提供する。
【0021】
更に、請求項12により、有底凹部の上方における刃先の外面に、基板の上端部を規制する上部規制板を口幅方向に突設するとともに、有底凹部の下方における刃先の外面に、基板の下端部を規制する下部規制板を口幅方向に突設した構成を、請求項13により、上部規制板の上方における刃先の外面に、ツースカートリッジの固定時にリブに密接して支持するリブ支持板を突設した構成を、請求項14により、リブに位置決めピンを突設し、ツースカートリッジの固定時にリブ支持板に穿設した位置決め孔に挿通することにより、ツースカートリッジの固定時における位置を決定する構成を、請求項15により、ツース無し状態において、有底凹部に覆蓋を係合させて被覆する構成を提供する。
【発明の効果】
【0022】
以上記載した本発明によれば、左右一対のシェルを開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケットにおいて、ツース無しの刃先を有するシェルを基本として、シェルの刃先をシェル毎にツース有りに変更することができる。そのため、浚渫用グラブバケットそのものやシェル自体を交換することなく、又ツース一本毎の着脱操作を必要とすることなく、ツース無し又はツース有りのシェルを自在に選択して浚渫することが可能となる。即ち、1台の浚渫用グラブバケットを、薄層ヘドロ浚渫や、大きな掘削力を必要としない軟土盤の浚渫、更には仕上げ用浚渫等のツースを必要としないか、ツースの存在が障害となるような浚渫に適したツース無しバケットと、大容量の掴み物を掴み取ったり、掘削地盤に硬質地盤が混在するような場合等のツースを必要とする浚渫を行うためのツース有りバケットの双方に使用することが可能となる。
【0023】
シェルの刃先の交換は、刃先の口幅方向の外面に亘って、複数のツースを備えたツースカートリッジをシェル毎に着脱可能に固定する構成であるため、ツース1本毎の作業が不要となり、しかも浚渫船上で作業可能であるため、交換作業のために港に帰港する必要もなくなり、効率的に交換作業を行うことができる。よって、土質の変化や浚渫目的に対応したシェルの刃先の交換を時宜に適って行うことができる。
【0024】
ツースカートリッジをシェルの刃先に装備する場合は、ボルトや溶接を必要とせず、シェルの刃先に形成した有底凹部にツースカートリッジの固定板を挿入して係合するとともに、圧接体をウェッジを使用して刃先に圧接して、ツースカートリッジを刃先に固定することにより、シェルの刃先を一括してツース有りに変更することができ、ツース無しバケットからツース有りバケットに変更して使用することが可能となる。
【0025】
また、ツースカートリッジをシェルの刃先から取り外す場合は、ボルトを使用していないため、シェルの刃先に貫通したボルト孔が存在しておらず、又溶接もしていないため溶断も不要であり、ツース有りバケットから圧接体を刃先に圧接しているウェッジを取り除くとともに、複数のツースを装備したツースカートリッジを有底凹部から取り外すことによって、シェルの刃先を一括してツース無しに変更することができ、ツース無しバケットとして使用することが可能となる。また、有底凹部には覆蓋を係合させるだけでワンタッチで被覆することが可能であり、従来のようにボルト孔をボルトとナットを使用して閉塞する煩雑な作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】浚渫用グラブバケットの全閉時の全体斜視図。
【
図2】浚渫用グラブバケットのツース無しの状態の全開時の全体斜視図。
【
図3】浚渫用グラブバケットのツース有りの状態の全開時の全体斜視図。
【
図4】左右一対のシェル毎のツースカートリッジの全体斜視図。
【
図5】一方のシェルのツースカートリッジの正面図。
【
図6】他方のシェルのツースカートリッジの正面図。
【
図14】上台座及び下台座を固定した開口領域の表面方向からの要部斜視図。
【
図15】上台座及び下台座を固定した開口領域の背面方向からの要部斜視図。
【
図16】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図17】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図18】ツースカートリッジのシェル刃先への装着状態を示す要部断面図。
【
図19】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図20】ツースカートリッジのシェル刃先への装着状態を示す要部斜視図。
【
図21】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図22】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図23】ツースカートリッジのシェル刃先への装着説明図。
【
図26】基板のシェル刃先への圧接状態を示す要部断面図。
【
図27】基板のシェル刃先への圧接状態を示す要部断面図。
【
図28】基板のシェル刃先への圧接状態を示す要部横断面図。
【
図31】圧接体の基板への遊嵌状態を示す要部斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明にかかる浚渫用グラブバケット100の全閉時の全体斜視図、
図2はそのツース無し状態の全開時の全体斜視図、
図3はそのツース有り状態の全開時の全体斜視図である。
【0028】
5は左右対称構成にかかる左右一対のシェル、101は下部フレーム、102は上部フレーム、103は左右一対のタイロッドである。シェル5は両側2ケ所で下部フレーム101に軸109を介し回動自在に軸支され、タイロッド103は、その下端部が軸111によってシェル5に、上端部が軸113によって上部フレーム102に回動自在に軸支されている。下部フレーム101と上部フレーム102の内部には、それぞれ所定数のシーブ(図示略)が回転自在に軸支されており、作業船のクレーンから吊支した2本の開閉ロープ(図示略)を上部フレーム102の上面に配置されたガイドローラ105を介して、下部フレーム101のシーブから上部フレーム102のシーブへと順番に所定回数を掛け回し、先端を所定の位置に固定している。また、上部フレーム102の上面には浚渫用グラブバケット100全体を浚渫船に装備したクレーンから昇降自在に吊支するための2本の支持ロープ(図示略)を吊環104を介して連結している。よって、浚渫用グラブバケット100は、開閉ロープの巻取,繰出動作によって、下部フレーム101が上下動するとともに、軸109を中心としてシェル5を開閉操作することができる。
【0029】
シェル5の全閉時における開放上端部には、所定容量を有する立体的形状のシェルカバー106をシェル5と一体となるように強固に固定して密接配置している。そのため、シェル5の全閉時において、掴み物はシェル5とシェルカバー106によって形成される空間に抱持されて巻上られる。実施形態に示す浚渫用グラブバケット100では、シェル5の口幅方向の両端をタイロッド103を超えて延長するとともに、シェル5の両端部がタイロッド103及び下部フレーム101並びに下部フレーム101とシェル5を軸支する軸109の外方に張り出すことにより口幅寸法115を、シェル5の全閉時の開幅寸法117(軸111間の寸法)よりも広くしたいわゆる幅広平底の構成としている。また、シェルの上部開口部をシェルカバー106で被覆した構造を採用しており、薄層ヘドロ浚渫に適している。この浚渫用グラブバケット100を使用することにより、土厚が一定に制限される薄層浚渫でもヘドロ等の掴み対象物の1回当たりの掴み量を多くすることができる。
【0030】
また、口幅寸法115の拡大によるシェル5のねじれや刃先の変形等については、下部フレーム101とともに、シェル5の開放上端部に密接配置したシェルカバー106によって、シェル5に必要な強度を付与している。即ち、シェルカバー106は、開幅寸法117に対して口幅寸法115を長くしたシェル5の強度を維持するための強度部材としても機能する。上記した浚渫用グラブバケット100の基本構造は従来より公知であり、又本発明は、左右一対のシェル5を開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケット100であれば、シェルの口幅寸法115の大小や、シェルカバー106の有無等の構成に限定はなく、適用することが可能である。
【0031】
本発明の特徴は、
図2に示すツース無しのシェル5の浚渫用グラブバケット100を基本として、そのシェル5の刃先40に、複数のツース20を備えたツースカートリッジ10をシェル5毎に着脱可能に固定することによって、
図3に示すツース有りの浚渫用グラブバケット100としても使用可能としたこと、即ち、1台の浚渫用グラブバケット100を、ツース無し(
図2参照)又はツース有り(
図3参照)の状態を選択して浚渫可能としたことにある。そこで、先ずツースカートリッジ10の構成について、
図4~
図8に基づいて説明する。
【0032】
図4は左右一対のシェル5毎のツースカートリッジ10の全体斜視図であり、ツース20を4本装備したツースカートリッジ10の表面側と、ツース20を5本装備したツースカートリッジ10の背面側を示しており、
図5は4本のツース20を、
図6は5本のツース20を装備したツースカートリッジ10の正面図であり、
図7はツース20の組付図である。ツースカートリッジ10は、シェル5の口幅寸法115内の長手寸法Dを有し、ツース20を組み付ける所定位置に、ツース20の本数分の複数の挿通孔16を穿設した矩形状の基板15と、基板15に一定間隔で固定した複数(図示例では4本と5本)のツース20と、ツース20に固定したリブ35と、ツース20を基板15に固定するとともに、ツースカートリッジ10をシェル5の刃先40に固定するための固定板30を装備している。ツースカートリッジ10は全体として掘削力に耐え得る所定の強度を有している。なお、リブ35の側面には所定の位置に位置決めピン36が突設されている。この位置決めピン36の機能については後述する。
【0033】
ツース20は、
図7(A)に示す貫通孔21cを有するアダプタ21の下面に垂下させた突出部21aに、
図7(C)に示す所定形状のポイント22(爪)を嵌合し、ポイント22に穿設した連結孔22bと突出部21aに穿設した連結孔21bに、
図7(D)に示すウェッジ受け25とウェッジ26を挿通して一体として固定する。よって、ツース20は、アダプタ21,ポイント22,ウェッジ受け25及びウェッジ26とから構成されており、このツース20を基板15に固定する。
【0034】
図7(A)に示すように、ツース20のアダプタ21の貫通孔21cの表面側に対面して所定の鍔状のリブ35を固定し、
図7(B)に示すように、アダプタ21の背面を基板15の挿通孔16(
図4参照)に当接させた状態で、基板15の挿通孔16及びアダプタ21の貫通孔21cに、基板15の側から左右一対の所定の舌状の固定板30を挿通して、リブ35の両面を挟持して固定する。固定板30は、
図8の平面図に示すように、矩形状の本体部30aの基端部の上下両面に、本体部30aより鉛直方向に突出した突出片30bを突設してある。31は左右一対の固定板30の間に介挿するスペーサであり、リブ35と略同一の厚さを有しており、固定板30とリブ35を強固に固定する補強材として作用する。
【0035】
同様の構成で、基板15に所定数のツース20を固定することによって、
図4~
図7に示すツースカートリッジ10を構成する。ツースカートリッジ10は、
図4に示すように、基板15の表面側にリブ35を固定したツース20のアダプタ21が固定され、アダプタ21からポイント22が垂下している。一方、基板15の背面側には、基板15の挿通孔16及びアダプタ21の貫通孔21cに挿通されてリブ35を左右から挟持して固定している固定板30の突出片30b側が所定長さだけ突出している。17はツースカートリッジ10を吊支するための吊環である。なお、
図4~
図7において、65は圧接機構であり、シェル5の刃先40に挿入したツースカートリッジ10を、刃先40と一体として強固に固定する。その構成,作用は後述する。
【0036】
上記構成の4本又は5本のツース20を装備したツースカートリッジ10を、左右一対のシェル5の刃先40にそれぞれ着脱自在に一体として固定する。
図9はシェル5の刃先40の要部斜視図、
図10はその要部正面図、
図11は
図10のA-A断面図である。これらの図に示すように、シェル5の刃先40の口幅方向の外面に所定間隔でツース20の数に応じた断面カギ状の有底凹部50を形成し、この有底凹部50に固定板30を挿入して係合する。
【0037】
図7,
図8に示すように、固定板30は、矩形状の本体部30aと、本体部30aの基端部の上下両面に、本体部30aより鉛直方向に突出した突出片30bからなる。一方、有底凹部50は、
図9~
図11に示すように、固定板30の突出片30bが侵入可能な鉛直方向の寸法H1を有する長尺領域55と、突出片30bが侵入不可能、かつ、本体部30aが侵入可能な鉛直方向の寸法H2を有する短尺領域60とからなり、全体として断面カギ状である。なお、断面カギ状とは、
図11に示すように、短尺領域60と長尺領域55の鉛直方向における連接部の縦断面形状がカギ状であること(連接部の縦断面形状の角度が略90度であること)を意味している。
【0038】
有底凹部50の構造は次の通りである。先ず、ツースカートリッジ10を固定する刃先40の所定箇所に、
図12に示すにように、刃先40を貫通するとともに鉛直方向の寸法が二段階に異なる開口領域52を穿設する。この開口領域52は、仮設長孔領域52aと仮設短孔領域52bが連接した構成を有している。この開口領域52の鉛直方向の寸法が大きい仮設長孔領域52aの上面に断面カギ状の上台座53を固定するとともに、その下面にも断面カギ状の下台座54を固定する。なお、仮設長孔領域52a及び仮設短孔領域52bとしたのは、仮設長孔領域52aに上台座53及び下台座54を固定することによって、仮設長孔領域52aから後述の長尺領域55と短尺領域60を形成するため、その結果、仮設短孔領域52bが長尺領域55の一部を占めることとなるためである。
【0039】
上台座53及び下台座54は、同一の形状であり、
図13の全体斜視図に示すとおり、立方体状の基礎台座53a,54aの一面の略半分の領域から突出台座53b,54bを突出させた縦断面L字状の形態である。なお、基礎台座53a,54aと突出台座53b,54bの連接部はアール形状として、掘削時における剪断力に対抗するようにしている。そして、基礎台座53a,54aの幅寸法W及び奥行寸法Lは、それぞれ仮設長孔領域52aの幅寸法及び奥行寸法と同一であり、突出台座53b,54bの幅寸法Wは仮設長孔領域52aの幅寸法と同一であるとともに、奥行寸法L2は仮設長孔領域52aの奥行寸法の略半分である。そのため、基礎台座53aを上面として上台座53を、開口領域52の仮設長孔領域52aの上部に密接して嵌合するとともに、基礎台座54aを下面として下台座54を、開口領域52の仮設長孔領域52aの下部に密接して嵌合させ、それぞれ溶接等によって強固に固定する。
【0040】
上台座53及び下台座54を固定した開口領域52の表面方向からの要部斜視図である
図14、及びその背面方向からの要部斜視図である
図15に示すように、仮設長孔領域52aは、上台座53及び下台座54を固定することによって、刃先40の表面方向の領域が基礎台座53a,54aに加えて突出台座53b,54bが存在するため、鉛直方向の寸法が両台座分だけ短縮されて短尺領域60として形成される。一方、刃先40の背面方向の領域には基礎台座53a,54aが存在するのみであるため、その分だけ鉛直方向の寸法が短縮され、仮設短孔領域52bと略同じ鉛直方向の寸法を有することとなり、両者が一体となって長尺領域55として形成される。
【0041】
前記したとおり、上台座53及び下台座54を固定した仮設長孔領域52aは、刃先40の表面40a側の鉛直方向の寸法より、背面40b側の鉛直方向の寸法が大きなカギ状となっており、表面40a側の領域が短尺領域60となり、背面40b側の領域が上台座53及び下台座54を固定しない仮設短孔領域52bと合わせて長尺領域55となる。よって、短尺領域60は断面矩形状の直方体の空間であり、長尺領域55は全体として断面カギ状(断面L型)の空間を形成している。
【0042】
そして、開口領域52の背面側の開口面を底板51で被覆することにより有底とする(
図11,
図18等参照)。この底板51によって、長尺領域55及び短尺領域60は、刃先40の表面方向において開口しているとともに、背面方向において閉塞されることとなり、有底凹部50が形成される。
【0043】
次に、上記した構成の長尺領域55及び短尺領域60からなる断面カギ状の有底凹部50に、吊環17を介して吊り上げたツースカートリッジ10の固定板30を挿入して係合することにより、ツースカートリッジ10をシェル5の刃先40に係脱自在に係合する。その工程を
図16~
図23に基づいて説明する。
【0044】
有底凹部50の上方における刃先40の外面には、
図9,
図16等に示すようにツースカートリッジ10の基板15の上端部を規制する所定厚さの上部規制板41を口幅方向に突設するとともに、有底凹部50の下方における刃先40の外面には、ツースカートリッジ10の基板15の下端部を規制する所定厚さの下部規制板42を口幅方向に突設する。上部規制板41及び下部規制板42の長手方向の寸法は、基板15の長手方向の寸法と略同じであり、又両者の鉛直方向の間隔は、基板15の短手方向の寸法と略同じであり、上部規制板41と下部規制板42の間に基板15を挟持することが可能な構成である。
【0045】
また、シェル5の刃先40の長手方向の両端に位置する有底凹部50のシェル5の口幅方向の外方には、それぞれ所定厚さを有するとともに、上部規制板41および下部規制板42の鉛直方向の間隔と略同様の長い方向の寸法を有する反力板43を突設している。
【0046】
シェル5の刃先40に穿設したそれぞれの有底凹部50の長尺領域55に、ツースカートリッジ10の基板15の背面から突出した固定板30の突出片30b及び本体部30aをそれぞれ挿入する(
図16参照)。それぞれの長尺領域55の鉛直方向の寸法は突出片30bの高さ方向の寸法より大きいため突出片30b及び本体部30aがそれぞれ侵入可能である。これにより、突出片30b及び本体部30aはともに長尺領域55に位置し、基板15は刃先40に密接している。
【0047】
次に、この状態で、
図17に示すように、相互に対面している反力板43の側面と基板15の側面の間にジャッキ57を介在させ、このジャッキ57で基板15の側面を押圧する。この押圧動作によって、
図22に示すように、固定板30の本体部30aを短尺領域60に挿入することにより、ツースカートリッジ10はシェル5の刃先40に係合する。なお、短尺領域60の背面方向には長尺領域55が存在するため、本体部30aの押圧動作に連動して、固定板30の突出片30bは長尺領域55を移動することとなる。
【0048】
上記した有底凹部50へ固定板30を挿入して係合する動作を、1枚の固定板30を使用して
図21~
図23に基づいて敷衍して説明する。なお、
図21~
図23では固定板30の動作を判りやすくするため、ツースカートリッジ10から1枚の固定板30のみを取り出すとともに、開口領域52の背面側の開口面を被覆する底板51を取り除いて図示している。
【0049】
図21に示すように、固定板30の突出片30bを長尺領域55の奥までに挿入し、
図21~
図23では図示を省略している底板51に当接させる。この状態で、固定板30の側面をジャッキ57で押圧すると、
図22に示すように本体部30aが短尺領域60に挿入されるとともに、突出片30bは長尺領域55内を移動する。これにより、
図23に示すように、突出片30bを長尺領域55で支持するとともに、本体部30aを短尺領域60で支持することとなり、突出片30bは上台座53及び下台座54の突出台座53b,54bによって刃先40の表面40a方向への移動が制限される。その結果、固定板30は有底凹部50に係合し、抜落不能となる。この状態において、開口領域52の背面側は底板51によって、被覆されるとともに、表面側は基板15が密接した状態となる。
【0050】
上部規制板41の上方における刃先40の外面には、所定の位置に位置決め孔46を穿設したリブ支持板45を突設してあり、このリブ支持板45は、ツースカートリッジ10に装備したリブ35と密接可能な形状を有している。そこで、ジャッキ57によって基板15を押圧すると、基板15は上部規制板41と下部規制板42の間に挟持されて摺動し、リブ35がリブ支持板45に接近して所定の位置で密接するとともに、
図19に示すようにリブ35に突設した位置決めピン36がリブ支持板45の位置決め孔46に侵入して所定の位置にツースカートリッジ10を固定する。
【0051】
このとき
図19(A)に示すように、位置決めピン36の先端部には縮径方向にテーパ面36aが形成されており、リブ支持板45とリブ35の中心が僅かにズレgが生じていたとしても、即ち、ツースカートリッジ10の刃先40への固定位置にズレgが生じたとしても、
図19(B)に示すように、テーパ面36aによってズレgを吸収して修正をして、
図19(C)に示すように位置決めピン36が位置決め孔46に精確に挿入することができ、ツースカートリッジ10を刃先40の所定の位置に精確に固定することができる。位置決め孔46に挿通した位置決めピン36には、
図20に示すように割ピン47を挿通して抜け止めを施す。これにより、浚渫中であってもリブ支持板45とリブ35は係合状態を保持する。
【0052】
上記したように、有底凹部50の短尺領域60に固定板30の本体部30aを挿入することにより、刃先40にツースカートリッジ10を抜落不能に係合することができるが、更にツースカートリッジ10と刃先40との一体性を高めて強固に固定するために、ツースカートリッジ10を圧接機構65を用いて刃先40に圧接して固定する。その構成を
図24~
図32に基づいて説明する。基板15の所定位置、例えばツース20の間に貫通した矩形状の窓部48(
図25~
図28参照)を開口する。窓部48の左右方向の両端の中間部には、水平方向に貫通したウェッジ支持環固定孔48aを開口している。窓部48内に圧接体66を遊嵌するとともに、基板15の表面側のウェッジ支持環固定孔48aに窓部48を横架するウェッジ支持環68を架設してある。
【0053】
圧接体66は、
図30に示すように中空直方体状であり、その表面にはウェッジ67と噛合するように立体的に形成されたウェッジ受け66aを装備している。ウェッジ支持環68は
図29に示すように、圧接体66及びウェッジ受け66aを跨座するアーチ状の部材であり、両端部をウェッジ支持環固定孔48aに挿通して固定する(
図4,
図28参照)。そのため、
図31に示すように、圧接体66は基板15の背面方向への移動は規制されていないが、正面方向への移動はウェッジ支持環68によって規制されている。
【0054】
そして、窓部48内に圧接体66を遊嵌させた状態で、ツースカートリッジ10を刃先40に固定した後に、
図24、
図32に示すように、ウェッジ支持環68と圧接体66との間に、上方又は下方からウェッジ67を打入し、圧接体66の表面に形成したウェッジ受け66aに抜落不能に噛合する(
図25,
図26参照)。この打入されたウェッジ67によって、圧接体66が刃先40方向に押圧されて刃先40に圧接されると同時に、ウェッジ67が打入されたウェッジ支持環68を介して、ツースカートリッジ10は刃先40から離反する方向に押圧されることとなる。その結果、固定板30の突出片30bが上台座53及び下台座54の突出台座53b,54bに上下均等に圧接されることとなり(
図23参照)、ツースカートリッジ10全体が刃先40と一体不可分に強固に固定される。
【0055】
この作業により、
図2に示すツース無しの刃先40のシェル5を有する浚渫用グラブバケット100を、
図3に示すツース有りの刃先40のシェル5を有する浚渫用グラブバケット100に変更して使用することができる。
【0056】
ツースカートリッジ10の基板15はシェル5の刃先40に、複数の固定板30で固定されるとともに、複数の圧接体66によって圧接されているため、浚渫時にツースカートリッジ10自体が刃先40から脱落することはない。また、個々のツース20も固定板30の本体部30aを有底凹部50の短尺領域60に圧入することによって、刃先40に固定されているものの、浚渫は目視できない水底での作業であり、浚渫土砂中に何が埋設されているかも不明である。
図33の矢印7に示す水底120を掘削する浚渫時の掴み動作時において、最も負荷が掛かるのはツース20であり、その負荷は矢印9に示すようにツース20を開く方向に生じる(
図34参照)。そのため、ツース20に想定外の過度の負荷が掛かると、場合によっては
図35に示すようにツース20の固定板30が破断することも考えられる。そのような場合でも、フェールセーフの観点からツース20に固定したリブ35が位置決めピン36によって刃先40に固定したリブ支持板45の位置決め孔46に係合しているため、この位置決めピン36によってリブ支持板45に吊支されるため、ツース20を失うことがない。
【0057】
図3に示すツース有りの刃先40のシェル5を有する浚渫用グラブバケット100から、ツースカートリッジ10を取り外して、
図2に示すツース無しの刃先40のシェル5を有する浚渫用グラブバケット100に変更するには、前記したツースカートリッジ10を固定する工程を逆に行う。即ち、ウェッジ67を打ち外した後、ツースカートリッジ10の圧入時に使用した反力板43とは異なる側の反力板にジャッキ57を取り付け、固定板30の本体部30aを短尺領域60から離脱する方向に基板15の側面を押圧して、固定板30を長尺領域55に押し出して、有底凹部50から解放して取り外せばよい。
【0058】
シェル5の刃先40から、ツースカートリッジ10を取り外した状態では、刃先40の有底凹部50の開口領域52が剥き出しの状態である。有底凹部50の底部は底板51で被覆しているため、開口領域52が剥き出しの状態でもシェル5としての機能に影響はなく、そのままの状態でツース無しの浚渫用グラブバケット100として使用可能ではある。しかしながら、浚渫中に剥き出しのままの有底凹部50に浚渫土砂が入り込むため、ツースカートリッジ10の装着時に有底凹部50の洗浄が必要となる。そのため、ツースカートリッジ10を取り外して、ツース無しとして使用する場合は、有底凹部50に覆蓋70を係合させて、被覆しておくことが好ましい。
【0059】
有底凹部50に覆蓋70を装着する構成を
図36~
図41に基づいて説明する。
図36は覆蓋70の表面側からと背面側からの全体斜視図である。71は蓋板であって、有底凹部50の開口領域52を被覆する所定の面積を有する矩形状の板材である。蓋板71の背面の中央から偏心させた位置に、蓋板71に直交するように縦控板72を立設している。そして、縦控板72の上下両端には上下一対のカギ状(L字状)の横控板73a,73bを固定している。縦控板72の先端部72aは蓋板71から僅かに突出するとともに、上端部72bは、上方に配置した横控板73aの上面から突出している。同様に、縦控板72の下端部(図示略)は、下方に配置した横控板73bの下面から突出している。また、縦控板72を偏心させた方向の蓋板71の一端部には表面側に突出した段差部74を形成するとともに、蓋板71の背面には段差部74の近傍に係合板75を貼設している。
【0060】
上記した構成の覆蓋70を刃先40の有底凹部50に係合させることにより、ツース無し状態における刃先40の有底凹部50を被覆する。覆蓋70を有底凹部50に係合させるには、
図37,
図38に示すように、有底凹部50に蓋板71を対面させ、
図39に示すように有底凹部50の長尺領域55に挿入する。そして、蓋板71から突出した縦控板72の先端部72aを利用して、
図40に示すように覆蓋70を短尺領域60側にスライドさせると、
図41に示すように横控板73a,73bが短尺領域60に隣接した長尺領域55に侵入して有底凹部50の断面カギ状の上下一対の上台座53及び下台座54に係合する。同時に蓋板71の背面に貼設した係合板75が有底凹部50の長尺領域55の壁面と係合する。これにより、覆蓋70は有底凹部50に固定される。
【0061】
ツース有りに変更するために、
図41に示す状態から覆蓋70を取り外すには、段差部74にマイナスドライバー等の適宜のジグを挿入して持ち上げれば、係合板75が有底凹部50の壁面から外れるため、蓋板71を長尺領域55にスライドさせることにより、覆蓋70を有底凹部50から取り外すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上記載した本発明によれば、左右一対のシェルを開閉可能に軸支してなる浚渫用グラブバケットにおいて、ツース無しの刃先を有するシェルを基本として、シェルの刃先をシェル毎にツース有りに変更することができる。そのため、浚渫用グラブバケットそのものやシェル自体を交換することなく、又ツース一本毎の着脱操作を必要とすることなく、ツース無し又はツース有りのシェルを自在に選択して浚渫することが可能となる。即ち、1台の浚渫用グラブバケットを、薄層ヘドロ浚渫や、大きな掘削力を必要としない軟土盤の浚渫、更には仕上げ用浚渫等のツースを必要としないか、ツースの存在が障害となるような浚渫に適したツース無しバケットと、大容量の掴み物を掴み取ったり、掘削地盤に硬質地盤が混在するような場合等のツースを必要とする浚渫を行うためのツース有りバケットの双方に使用することが可能となる。
【0063】
シェルの刃先の交換は、刃先の口幅方向の外面に亘って、複数のツースを備えたツースカートリッジをシェル毎に着脱可能に固定する構成であるため、ツース1本毎の作業が不要となり、しかも浚渫船上で作業可能であるため、交換作業のために港に帰港する必要もなくなり、効率的に交換作業を行うことができる。よって、土質の変化や浚渫目的に対応したシェルの刃先の交換を時宜に適って行うことができる。
【0064】
ツースカートリッジをシェルの刃先に装備する場合は、ボルトや溶接を必要とせず、シェルの刃先に形成した有底凹部にツースカートリッジの固定板を挿入して係合するとともに、圧接体をウェッジを使用して刃先に圧接して、ツースカートリッジを刃先に固定することにより、シェルの刃先を一括してツース有りに変更することができ、ツース無しバケットからツース有りバケットに変更して使用することが可能となる。
【0065】
また、ツースカートリッジをシェルの刃先から取り外す場合は、ボルトを使用していないため、シェルの刃先に貫通したボルト孔が存在しておらず、又溶接もしていないため溶断も不要であり、ツース有りバケットから圧接体を刃先に圧接しているウェッジを取り除くとともに、複数のツースを装備したツースカートリッジを取り外すことによって、シェルの刃先を一括してツース無しに変更することができ、ツース無しバケットとして使用することが可能となる。また、有底凹部には覆蓋を係合させるだけでワンタッチで被覆することが可能であり、従来のようにボルト孔をボルトとナットを使用して閉塞する煩雑な作業が不要となる。
【符号の説明】
【0066】
5…シェル
10…ツースカートリッジ
15…基板
16…挿通孔
17…吊環
20…ツース
21…アダプタ
21a…突出部
21b…連結孔
21c…貫通孔
22…ポイント
22b…連結孔
25…ウェッジ受け
26,67…ウェッジ
30…固定板
30a…本体部
30b…突出片
31…スペーサ
35…リブ
36…位置決めピン
36a…テーパ面
40…刃先
40a…表面
40b…背面
41…上部規制板
42…下部規制板
43…反力板
45…リブ支持板
46…位置決め孔
47…割ピン
48…窓部
48a…ウェッジ支持環固定孔
50…有底凹部
51…底板
52…開口領域
52a…仮設長孔領域
52b…仮設短孔領域
53…上台座
53a,54a…基礎台座
53b,54b…突出台座
54…下台座
55…長尺領域
57…ジャッキ
60…短尺領域
65…圧接機構
66…圧接体
66a…ウェッジ受け
68…ウェッジ支持環
70…覆蓋
71…蓋板
72…縦控板
72a…先端部
72b…上端部
73a,73b…横控板
74…段差部
75…係合板
100…浚渫用グラブバケット
101…下部フレーム
102…上部フレーム
103…タイロッド
104…吊環
105…ガイドローラ
106…シェルカバー
109,111,113…軸
115…口幅寸法
117…開幅寸法
120…水底
D…長手寸法
W…幅寸法
H1,H2…鉛直方向の寸法
L,L2…奥行寸法
g…ズレ