(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】変速操作装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/32 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
F16H63/32
(21)【出願番号】P 2021521723
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021697
(87)【国際公開番号】W WO2020240814
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000154347
【氏名又は名称】株式会社ユニバンス
(73)【特許権者】
【識別番号】597021598
【氏名又は名称】株式会社イケヤフォ-ミュラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】山内 義弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】池谷 信二
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 正夫
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-2031(JP,U)
【文献】実開昭64-10822(JP,U)
【文献】特開2014-5908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブと、前記スリーブを軸方向へ移動するシフトフォークと、を備える変速操作装置であって、
前記スリーブは、円環状のスリーブ本体と、
前記スリーブ本体の外周面から径方向の外側へ向かって突出する円環状の第1凸部と、を備え、
前記シフトフォークは、前記スリーブ本体の径方向の外側に配置される円環状のフォーク本体と、
前記フォーク本体の内周面から径方向の内側へ向かって突出し、前記第1凸部と軸方向に並んで配置される円環状の第2凸部と、
前記第2凸部との間で前記第1凸部を軸方向に挟む円環状のリングと、
前記リングと前記フォーク本体とを結合する結合部材と、を備え、
前記リングは、周方向に延びる第1溝が外周面に形成され、
前記フォーク本体は、軸方向の端面に連絡する円筒状の面であって前記フォーク本体の前記内周面の直径よりも直径が大きい第1面と、
前記フォーク本体の前記内周面と前記第1面とを連絡する第2面と、を備え、
前記第1面に周方向に延びる第2溝が形成され、前記第2溝につながる開口が形成され、
前記第1面に前記リングの前記外周面を接触させ、前記第2面に前記リングの軸方向の端面を接触させた状態で、前記第1溝と前記第2溝とが作る空間に前記結合部材が配置される変速操作装置。
【請求項2】
前記フォーク本体の前記開口は、前記フォーク本体の外周面および前記端面に連絡しつつ互いに周方向に対向する第3面および第4面を備え、
前記第3面および前記第4面は、前記第1面および前記第2溝に連絡する請求項1記載の変速操作装置。
【請求項3】
スリーブと、前記スリーブを軸方向へ移動する円環状のシフトフォークと、を備える変速操作装置であって、
前記スリーブは、前記シフトフォークの径方向の内側に配置される円環状のスリーブ本体と、
前記スリーブ本体の外周面から径方向の外側へ向かって突出する円環状の凸部と、
前記凸部との間で前記シフトフォークを軸方向に挟む円環状のリングと、
前記リングと前記スリーブ本体とを結合する結合部材と、を備え、
前記リングは、周方向に延びる第1溝が内周面に形成され、
前記スリーブ本体は、軸方向の端面に連絡する円筒状の面であって前記スリーブ本体の前記外周面の直径よりも直径が小さい第1面と、
前記スリーブ本体の前記外周面と前記第1面とを連絡する第2面と、を備え、
前記第1面に周方向に延びる第2溝が形成され、前記第2溝につながる開口が形成され、
前記第1面に前記リングの前記内周面を接触させ、前記第2面に前記リングの軸方向の端面を接触させた状態で、前記第1溝と前記第2溝とが作る空間に前記結合部材が配置される変速操作装置。
【請求項4】
前記シフトフォークと前記スリーブとの間であって前記シフトフォークと前記スリーブとが軸方向に重なる部位に配置された円環状の摺動部材を備える請求項1から3のいずれかに記載の変速操作装置。
【請求項5】
前記第1溝および前記第2溝に前記結合部材が配置された状態で、前記第1溝または前記第2溝に空洞が形成される請求項1から4のいずれかに記載の変速操作装置。
【請求項6】
前記空洞は、前記結合部材に対して前記フォーク本体または前記スリーブ本体の軸方向の中心側に形成される請求項5記載の変速操作装置。
【請求項7】
前記第2溝に配置された前記結合部材の第1端部および第2端部は、前記第2溝の両端から突出し、前記第1溝および前記第2溝が延びる方向と異なる方向に屈曲している請求項1から6のいずれかに記載の変速操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリーブを軸方向に移動するシフトフォークを備える変速操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速操作装置において、コントロールロッドから力を受けたシフトフォークは、スリーブを軸方向へ移動してギヤを選択する。スリーブは、選択されたギヤとクラッチハブとを連結し、ギヤのトルクを出力軸へ伝達する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしこの種の変速操作装置は、ギヤを選択するときに、回転しているスリーブの全周の一部にシフトフォークが押し付けられるので、シフトフォークが摩耗し易いという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、シフトフォークの摩耗を抑制できる変速操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の変速操作装置は、スリーブと、スリーブを軸方向へ移動するシフトフォークと、を備えるものであって、スリーブは、円環状のスリーブ本体と、スリーブ本体の外周面から径方向の外側へ向かって突出する円環状の第1凸部と、を備え、シフトフォークは、スリーブ本体の径方向の外側に配置される円環状のフォーク本体と、フォーク本体の内周面から径方向の内側へ向かって突出し、第1凸部と軸方向に並んで配置される円環状の第2凸部と、第2凸部との間で第1凸部を軸方向に挟む円環状のリングと、リングとフォーク本体とを結合する結合部材と、を備え、リングは、周方向に延びる第1溝が外周面に形成され、フォーク本体は、軸方向の端面に連絡する円筒状の面であってフォーク本体の内周面の直径よりも直径が大きい第1面と、フォーク本体の内周面と第1面とを連絡する第2面と、を備え、第1面に周方向に延びる第2溝が形成され、第2溝につながる開口が形成され、第1面にリングの外周面を接触させ、第2面にリングの軸方向の端面を接触させた状態で、第1溝と第2溝とが作る空間に結合部材が配置される。
【0007】
また、本発明の変速操作装置は、スリーブと、スリーブを軸方向へ移動する円環状のシフトフォークと、を備えるものであって、スリーブは、シフトフォークの径方向の内側に配置される円環状のスリーブ本体と、スリーブ本体の外周面から径方向の外側へ向かって突出する円環状の凸部と、凸部との間でシフトフォークを軸方向に挟む円環状のリングと、リングとスリーブ本体とを結合する結合部材と、を備え、リングは、周方向に延びる第1溝が内周面に形成され、スリーブ本体は、軸方向の端面に連絡する円筒状の面であってスリーブ本体の外周面の直径よりも直径が大きい第1面と、スリーブ本体の外周面と第1面とを連絡する第2面と、を備え、第1面に周方向に延びる第2溝が形成され、第2溝につながる開口が形成され、第1面にリングの内周面を接触させ、第2面にリングの軸方向の端面を接触させた状態で、第1溝と第2溝とが作る空間に結合部材が配置される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の変速操作装置によれば、結合部材によってフォーク本体にリングが固定される。シフトフォークの円環状の第2凸部およびリングが、スリーブの円環状の第1凸部の軸方向の両側に配置される。シフトフォークの第2凸部およびリングにスリーブの第1凸部が押し付けられるので、スリーブの全周の一部にシフトフォークが押し付けられる場合に比べ、受圧面積を大きくできる。シフトフォークの第2凸部およびリングに加わる面圧を小さくできるので、シフトフォークの摩耗を抑制できる。
【0009】
請求項2記載の変速操作装置によれば、フォーク本体の開口は、フォーク本体の外周面および軸方向の端面に連絡しつつ互いに周方向に対向する第3面および第4面を備えている。第3面および第4面は、第1面および第2溝に連絡するので、請求項1の効果に加え、第1溝と第2溝とが作る空間に結合部材を配置し易くできる。
【0010】
請求項3記載の変速操作装置によれば、結合部材によってスリーブ本体にリングが固定される。スリーブの円環状の凸部およびリングが、円環状のシフトフォークの軸方向の両側に配置される。スリーブの凸部およびリングにシフトフォークが押し付けられるので、スリーブの全周の一部にシフトフォークが押し付けられる場合に比べ、受圧面積を大きくできる。シフトフォークに加わる面圧を小さくできるので、シフトフォークの摩耗を抑制できる。
【0011】
請求項4記載の変速操作装置によれば、シフトフォークとスリーブとの間であってシフトフォークとスリーブとが軸方向に重なる部位に円環状の摺動部材が配置される。摺動部材を介してスリーブにシフトフォークが押し付けられるので、請求項1から3のいずれかの効果に加え、シフトフォークやスリーブの摩耗をさらに抑制できる。
【0012】
請求項5記載の変速操作装置によれば、第1溝および第2溝に結合部材が配置された状態で、第1溝または第2溝に空洞が形成されるので、請求項1から4のいずれかの効果に加え、第1溝と第2溝とが作る空間に結合部材を配置する作業を容易にできる。
【0013】
請求項6記載の変速操作装置によれば、空洞は、結合部材に対してフォーク本体またはスリーブ本体の軸方向の中心側に形成されるので、請求項5の効果に加え、軸方向の外側にリングが倒れないようにすることができる。
【0014】
請求項7記載の変速操作装置によれば、第2溝に配置された結合部材の第1端部および第2端部は、第2溝の両端から突出し、第1溝および第2溝が延びる方向と異なる方向に屈曲している。よって、請求項1から6のいずれかの効果に加え、結合部材を溝から抜け難くできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施の形態における変速操作装置の分解立体図である。
【
図4】第2実施の形態における変速操作装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1から
図3を参照して第1実施の形態における変速操作装置10を説明する。
図1は変速操作装置10の分解立体図であり、
図2は変速操作装置10の断面図である。
図1及び
図2では、スリーブ11が配置される軸の図示、スリーブ11のうちクラッチハブやギヤにかみ合う部位(例えばスプライン)の図示が省略されている(
図4においても同じ)。
【0017】
図1及び
図2に示すように変速操作装置10は、スリーブ11と、軸線Oに沿ってスリーブ11を移動させるシフトフォーク20と、を備えている。スリーブ11は鋼製であり、スリーブ本体12と、スリーブ本体12の外周面13から径方向の外側へ向かって突出する円環状の第1凸部14と、を備えている。第1凸部14は、スリーブ本体12の外周面13の全周に亘って設けられている。
【0018】
シフトフォーク20は、ボス22が一体に成形された円環状の鋼製のフォーク本体21と、円環状の鋼製のリング40と、リング40とフォーク本体21とを結合するワイヤ50と、を備えている。ボス22には、軸線Oと平行に配置されたコントロールロッド(図示せず)が取り付けられる。フォーク本体21は、スリーブ本体12の径方向の外側に配置される。フォーク本体21は、フォーク本体21の内周面23から径方向の内側へ向かって突出する円環状の第2凸部24を備えている。
【0019】
第2凸部24は、フォーク本体21の内周面23の全周に亘って設けられている。リング40は第2凸部24と軸方向に離隔している。スリーブ11の第1凸部14の軸方向の両側に、第2凸部24及びリング40が位置する。
【0020】
フォーク本体21には、軸方向の第1端面25aに連絡する第1面26が形成されている。第1面26は、フォーク本体21の内周面23の直径よりも直径が大きい円筒状の面である。第1面26には、周方向に延びる第2溝27が形成されている。フォーク本体21には、第1面26と第2溝27とを連絡する第2面28が形成されている。第2面28は軸線Oに垂直な面である。本実施形態では、第2溝27は第2面28につながっている。第1面26及び第2面28にリング40が配置される。
【0021】
フォーク本体21には、第2溝27につながる開口29(
図1参照)が、軸線Oを挟んでボス22の反対側に形成されている。開口29は、フォーク本体21の第1端面25a、第1面26、第2溝27及び外周面30の全周の一部に形成されている。開口29は、フォーク本体21の第1端面25a及び外周面30に連絡する第3面31及び第4面32を備えている。フォーク本体21の第3面31及び第4面32は互いに周方向に対向する。第3面31及び第4面32は、第1面26及び第2溝27に連絡している。
【0022】
リング40の外周面41には、周方向に延びる第1溝42(
図2参照)が形成されている。本実施形態では第1溝42は半円状のU溝である。第1溝42は、外周面41の全周に亘って連続している。リング40の外周面41の直径は、フォーク本体21の第1面26の直径よりも僅かに小さい。リング40の軸方向の厚さは、第1面26の軸方向の長さとほぼ等しい。リング40の軸方向の第2端面43bから第1端面43a側の第1溝42の端までの距離は、フォーク本体21の第2面28から第1端面25a側の第2溝27の端までの距離と等しい。第1溝42の深さと第2溝27の深さとの合計は、ワイヤ50の直径にほぼ等しい。
【0023】
フォーク本体21の第1面26にリング40の外周面41を接触させ、フォーク本体21の第2面28にリング40の第2端面43bを接触させた状態で、第1溝42と第2溝27とが作る空間にワイヤ50が配置される。ワイヤ50の機械的強度(せん断強度や圧縮強度)によりフォーク本体21にリング40が固定される。
【0024】
ワイヤ50(結合部材)は、せん断強度が高い硬鋼線などの金属材料によりコイル状に形成されている。ワイヤ50は、フォーク本体21の第3面31又は第4面32から、第1溝42と第2溝27とが作る空間に端から挿入される。第3面31及び第4面32は、フォーク本体21の第1端面25a、外周面30、第1面26及び第2溝27に連絡しつつ互いに周方向に対向するので、第1溝42と第2溝27とが作る空間に第3面31や第4面32からワイヤ50を挿入し易くできる。
【0025】
本実施形態ではワイヤ50の断面は円形であり、全体が略円形のコイル状に作られている。ワイヤ50の長さは第2溝27の長さよりも長い。ワイヤ50は第2溝27の全長に亘って配置されるが、第1溝42のうち第3面31と第4面32との間にはワイヤ50は配置されない。ワイヤ50の断面は円形なので、第1溝42と第2溝27とが作る空間にワイヤ50を挿入し易くできる。ワイヤ50がコイル状なので、溝にワイヤ50を挿入するときの抵抗を抑制することができ、挿入後はワイヤ50を抜け難くすることができる。フォーク本体21の第2溝27の全長に亘ってワイヤ50が配置されるので、ワイヤ50によってフォーク本体21に固定されたリング40の抜け荷重を大きくできる。
【0026】
第2溝27の幅はワイヤ50の直径よりも広いので、第1溝42及び第2溝27にワイヤ50が配置された状態で、第2溝27には、フォーク本体21の軸方向の中心側(第2端面25b側)に空洞55が形成される。空洞55が存在することにより、溝にワイヤ50を挿入するときの抵抗をさらに抑制することができる。また、幅の広い第2溝27によって第1溝42の製造誤差を吸収できる。従って、溝の中にワイヤ50を配置する作業を容易にできる。
【0027】
空洞55は、ワイヤ50に対してフォーク本体21の軸方向の片側に設けられており、ワイヤ50は第2溝27の溝底に接しているので、空洞55内をワイヤ50が径方向の外側に広がるのを防ぎ、第1溝42からワイヤ50が外れないようにできる。これによりワイヤ50を介してリング40をシフトフォーク20に確実に固定できる。
【0028】
空洞55はフォーク本体21の軸方向の中心側に形成されており、フォーク本体21の第1面26にリング40の外周面41が接触しているので、空洞55を設けることによって軸方向の外側にリング40が倒れるのを防止できる。リング40の第2端面43bの隣にスリーブ11の第1凸部14及び摺動部材53(後述する)が設けられているので、空洞55を設けることによって軸方向の内側にリング40が倒れないようにできる。
【0029】
図3は変速操作装置10の斜視図である。
図3では変速操作装置10の一部が図示されている。ワイヤ50の長さは第2溝27の長さよりも長いので、第2溝27に挿入されたワイヤ50の第1端部51及び第2端部52は、第2溝27の両端から突出する。第1端部51及び第2端部52は、第1溝42及び第2溝27が延びる方向と異なる方向にそれぞれ曲げられる。第1端部51及び第2端部52を屈曲させることにより、第1端部51や第2端部52が第3面31や第4面32を超え難くなるので、ワイヤ50をさらに抜け難くすることができる。
【0030】
図2に戻って説明する。スリーブ11の第1凸部14とリング40の第2端面43bとの間に摺動部材53が配置される。スリーブ11の第1凸部14とシフトフォーク20の第2凸部24との間に摺動部材54が配置される。摺動部材53,54は、耐摩耗性を向上させると共に摩擦係数を低減させる円環状の部材である。本実施形態では、摺動部材53,54はダイヤモンドライクカーボンを主体とする表面層(図示せず)が、鋼などの金属製の母材の上に形成されている。なお、表面層の材質はこれに限られるものではない。例えば、AlN等の他の材質を表面層に用いることは当然可能である。
【0031】
フォーク本体21に形成された第2面28が、リング40の軸方向の位置を決定し、第2凸部24とリング40との間の距離が決まる。これにより第1凸部14の両側に摺動部材53,54を配置するスペースを確保できる。さらに、第2面28によってリング40の軸方向の位置が決まると、ワイヤ50が配置される第1溝42及び第2溝27の位置が決まる。第1溝42と第2溝27とが作る空間の断面の軸方向の外側の形状を、ワイヤ50の断面の形状に一致させることができるので、ワイヤ50の挿入作業性を確保できる。
【0032】
変速操作装置10によれば、ワイヤ50によってフォーク本体21とリング40とが結合され、円環状の第2凸部24及びリング40が、スリーブ11の円環状の第1凸部14の軸方向の両側に配置される。スリーブ11の第1凸部14の全周に、シフトフォーク20の第2凸部24及びリング40の全周が押し付けられるので、スリーブの全周の一部にシフトフォークが押し付けられる場合に比べ、受圧面積を大きくできる。シフトフォーク20の第2凸部24及びリング40に加わる面圧を小さくできるので、シフトフォーク20の摩耗を抑制できる。
【0033】
円環状の摺動部材53,54が、シフトフォーク20とスリーブ11との間であってシフトフォーク20とスリーブ11とが軸方向に重なる部位に配置されるので、摺動部材53,54を介してスリーブ11にシフトフォーク20が押し付けられる。摺動部材53,54により耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0034】
シフトフォーク20のフォーク本体21にリング40が取り付けられ、フォーク本体21とリング40の溝がワイヤ50で固定されるので、変速操作装置10の軸方向の長さを短くできる。
【0035】
図4を参照して第2実施の形成について説明する。第1実施形態では、シフトフォーク20にリング40が配置される場合について説明した。これに対し第2実施形態では、スリーブ61にリング80が配置される変速操作装置60について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図4は第2実施の形態における変速操作装置60の断面図である。
【0036】
図4に示すように変速操作装置60は、スリーブ61と、スリーブ61を移動させるシフトフォーク70と、を備えている。スリーブ61は、鋼製のスリーブ本体62と、スリーブ本体62の外周面63から径方向の外側へ向かって突出する円環状の鋼製の凸部64と、円環状の鋼製のリング80と、リング80とスリーブ本体62とを結合するワイヤ50と、を備える。
【0037】
スリーブ本体62は、円環状のシフトフォーク70の径方向の内側に配置される。凸部64は、スリーブ本体62の外周面63の全周に亘って設けられている。リング80は凸部64と軸方向に離隔している。シフトフォーク70の軸方向の両側に、凸部64及びリング80が位置する。
【0038】
スリーブ本体62には、軸方向の第1端面65aに連絡する第1面66が形成されている。第1面66は、スリーブ本体62の外周面63の直径よりも直径が小さい円筒状の面である。第1面66には、周方向に延びる第2溝67が形成されている。本実施形態では第2溝67は半円状のU溝である。スリーブ本体62には、第1面66と外周面63とを段差状に連絡する第2面68が形成されている。第1面66及び第2面68はリング80が配置される面である。
【0039】
スリーブ本体62には、ワイヤ50を挿入するために、スリーブ本体62の軸方向の第1端面65a及び内周面69から第1面66及び第2溝67につながる開口(図示せず)が形成されている。スリーブ本体62の開口(図示せず)は、第1端面65a、第1面66及び第2溝67の全周の一部に形成されている。
【0040】
リング80の内周面81には、周方向に延びる第1溝82が形成されている。本実施形態では第1溝82は、リング80の軸方向の第2端面83bに連絡している。第1溝82は、内周面81の全周に亘って連続している。リング80の内周面81の直径は、スリーブ本体62の第1面66の直径よりも僅かに大きい。リング80の軸方向の厚さは、第1面66の軸方向の長さとほぼ等しい。リング80の軸方向の第2端面83bから第1端面83a側の第1溝82の端までの距離は、スリーブ本体62の第2面68から第1端面65a側の第2溝67の端までの距離と等しい。第1溝82の深さと第2溝67の深さとの合計は、ワイヤ50の直径にほぼ等しい。
【0041】
スリーブ本体62の第1面66にリング80の内周面81を接触させ、スリーブ本体62の第2面68にリング80の第2端面83bを接触させた状態で、第1溝82と第2溝67とが作る空間に開口(図示せず)からワイヤ50が挿入される。ワイヤ50は、スリーブ本体62に形成された第2溝67の全長に亘って配置される。これによりスリーブ本体62にリング80が固定される。
【0042】
第1溝82の幅はワイヤ50の直径よりも広いので、第1溝82及び第2溝67にワイヤ50が配置された状態で、第1溝82には、スリーブ本体62の軸方向の中心側(第2端面65b側)に空洞55が形成される。空洞55が存在することにより、溝にワイヤ50を挿入するときの抵抗をさらに抑制することができる。また、幅の広い第1溝82によって第2溝67の製造誤差を吸収できる。従って、溝の中にワイヤ50を配置する作業を容易にできる。
【0043】
空洞55は、ワイヤ50に対してスリーブ本体62の軸方向の片側に設けられており、ワイヤ50は第1溝82の溝底に接しているので、空洞55内をワイヤ50が径方向の外側に広がるのを防ぎ、第2溝67からワイヤ50が外れないようにできる。これによりワイヤ50を介してリング80をスリーブ61に確実に固定できる。
【0044】
空洞55はスリーブ本体62の軸方向の中心側に形成されており、スリーブ本体62の第1面66にリング80の内周面81が接触しているので、空洞55を設けることによって軸方向の外側にリング80が倒れるのを防止できる。リング80の第2端面83bの隣にシフトフォーク70及び摺動部材53が設けられているので、空洞55を設けることによって軸方向の内側にリング80が倒れないようにできる。
【0045】
変速操作装置60によれば、ワイヤ50によってスリーブ本体62とリング80とが結合され、円環状の凸部64及びリング80が、円環状のシフトフォーク70の軸方向の両側に配置される。スリーブ61の凸部64及びリング80の全周にシフトフォーク70の全周が押し付けられるので、スリーブの全周の一部にシフトフォークが押し付けられる場合に比べ、受圧面積を大きくできる。凸部64及びリング80が、シフトフォーク70に加わる面圧を小さくできるので、シフトフォーク70の摩耗を抑制できる。
【0046】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば第1溝42,82及び第2溝27,67の形状やワイヤ50の断面形状は適宜設定できる。
【0047】
実施形態では、ワイヤ50を例示して結合部材を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。他の結合部材を採用することは当然可能である。他の結合部材としては、例えば円弧状に形成された金属製や合成樹脂製の部材が挙げられる。結合部材の断面形状は円形に限られるものではなく、適宜設定できる。
【0048】
第1実施形態ではフォーク本体21に形成された第2溝27の全長に亘ってワイヤ50が配置され、第2実施形態ではスリーブ本体62に形成された第2溝67の全長に亘ってワイヤ50が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ワイヤ50の長さは、ワイヤ50によって固定されるリング40,80の抜け荷重およびワイヤ50の挿入作業性を考慮して適宜設定される。従って、ワイヤ50の長さを第2溝27,67の長さよりも短くすることは当然可能である。
【0049】
第1実施形態では、第2溝27の端から突出したワイヤ50の第1端部51及び第2端部52を屈曲して、ワイヤ50を抜け難くする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。ワイヤ50の端部を屈曲しなくても良い。また、ワイヤ50の端部を加締めたり、ワイヤの端部の片方を溝よりも大きくしておいたりすることは当然可能である。ワイヤ50の端部の片方を屈曲しても良い。ワイヤ50の第1端部51及び第2端部52を両方とも屈曲しなくても、ワイヤ50の摩擦によってワイヤ50を抜け難くできるからである。
【0050】
第1実施形態ではフォーク本体21に円筒状の第1面26が形成され、第2実施形態ではスリーブ本体62に円筒状の第1面66が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1実施形態において第1面26を第2面28から第1端面25aに向かうにつれて拡径させたり、第2実施形態において第1面66を第2面68から第1端面65aに向かうにつれて縮径させたりすることは当然可能である。この場合、リング40の外周面41やリング80の内周面81は、第1面26,66の形状に対応した円錐状の面に形成される。この場合も、第1実施形態や第2実施形態で得られる作用効果を実現できる。
【0051】
第1実施形態では、第2溝27の幅を第1溝42の幅よりも広くする(空洞55をシフトフォーク20側に設ける)場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1実施形態において、第1溝42の幅を第2溝27の幅よりも広くする(空洞55をリング40側に設ける)ことは当然可能である。同様に第2実施形態では、第1溝82の幅を第2溝67の幅よりも広くする(空洞55をリング80側に設ける)場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2実施形態において、第2溝67の幅を第1溝82の幅よりも広くする(空洞55をスリーブ61側に設ける)ことは当然可能である。なお、第1溝と第2溝とが作る空間をワイヤ50とほぼ同じ大きさ及び形にして、空洞55ができないようにすることは当然可能である。
【0052】
実施形態では空洞55が、ワイヤ50に対して、シフトフォーク20やスリーブ61の軸方向の中心側に設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ワイヤ50に対して、シフトフォーク20やスリーブ61の軸方向の外側に空洞55を設けたり、軸方向の内側および外側の両方に空洞55を設けたりすることは当然可能である。この場合も空洞55によってワイヤ50を溝に挿入するときの抵抗を抑制できる。
【0053】
実施形態ではワイヤ50に対して、シフトフォーク20やスリーブ61の軸方向の片側に空洞55が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1溝42,82や第2溝27,67の溝底を深くし、その溝底の幅をワイヤ50の直径より狭くすることにより、ワイヤ50に対して、シフトフォーク20、スリーブ61及びリング40,80のいずれか1種以上の径方向の内側や外側に空洞55を形成することは当然可能である。溝底の幅がワイヤ50の直径より狭いので、ワイヤ50が溝から外れないようにできる。この場合も空洞55によってワイヤ50を溝に挿入するときの抵抗を抑制できる。
【0054】
ワイヤ50に対して、シフトフォーク20、スリーブ61及びリング40,80のいずれか1種以上の径方向の内側や外側に空洞55を形成する場合に、空間にワイヤ50が配置された状態で、ワイヤ50の弾性力によって径方向の外側に拡径したり径方向の内側に縮径したりする力をワイヤ50に加えることができるならば、空洞55を設けるために第1溝42,82や第2溝27,67を深くした溝底の幅をワイヤ50の直径より狭くしなくても良い。弾性力によってワイヤ50が溝から外れないようにできるからである。
【0055】
実施形態では、第1溝42,82や第2溝27,67の全周に亘って空洞55が形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1溝42,82や第2溝27,67の全周の一部に空洞55を設けることは当然可能である。空洞55が存在する部位では、ワイヤ50を挿入するときの抵抗を抑制できるからである。
【0056】
第1実施形態では、第2溝27が第2面28に連絡する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第2溝27の幅をもう少し狭くして、第2溝27と第2面28との間に第1面26を設けることは当然可能である。同様に第2実施形態では、第1溝82が第2端面83bに連絡する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1溝82の幅をもう少し狭くして、第1溝82と第2端面83bとの間に内周面81を設けることは当然可能である。
【0057】
実施形態では、シフトフォーク20,70とスリーブ11,61との間に摺動部材53,54が配置される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。摺動部材53,54を省略することは当然可能である。例えば、シフトフォーク20,70やスリーブ11,61の摺動面となる部位に、高周波焼入れ処理や軟窒化処理等の熱処理、硬質クロムめっき等のめっき処理、ポリアミド樹脂やフッ素樹脂等によるコーティングや含浸などを施すことは当然可能である。また、シフトフォーク20,70やスリーブ11,61の摺動面となる部位を、炭素繊維などの無機繊維と合金との複合材などで形成することは当然可能である。
【符号の説明】
【0058】
10,60 変速操作装置
11,61 スリーブ
12,62 スリーブ本体
13,63 スリーブ本体の外周面
14 第1凸部
20,70 シフトフォーク
21 フォーク本体
23 フォーク本体の内周面
24 第2凸部
25a 第1端面(フォーク本体の端面)
26,66 第1面
27,67 第2溝
28,68 第2面
29 開口
30 フォーク本体の外周面
31 第3面
32 第4面
40,80 リング
41 リングの外周面
42,82 第1溝
43b,83b 第2端面(リングの端面)
50 ワイヤ(結合部材)
51 第1端部
52 第2端部
53,54 摺動部材
55 空洞
64 凸部
65a 第1端面(スリーブ本体の端面)
81 リングの内周面