(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ガイド装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/34 20060101AFI20230804BHJP
A61M 5/42 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61B17/34
A61M5/42 520
(21)【出願番号】P 2022539627
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028462
(87)【国際公開番号】W WO2022025284
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2020129188
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕治
(72)【発明者】
【氏名】三森 彩音
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】萬代 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 雅一
【審査官】槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0183523(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0022308(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101926679(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/34
A61M 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の腰部の第1の点Bの近傍に設けられた穿刺点Aから、前記腰部の前記第1の点Bとは異なる第2の点Cに対応する生体内の目標点Dに穿刺針を穿刺するためのガイド装置であって、
前記穿刺針の穿刺をガイドするガイド部と、
前記ガイド部を支持し、前記腰部に当接するための支持部と、を有し、
前記支持部の一部は、前記穿刺点Aと前記第2の点Cとを結ぶ直線に対して第1の角度を形成するように構成され、
前記ガイド部は、前記支持部の垂線に対して、第2の角度で設けられる
ことを特徴とするガイド装置。
【請求項2】
前記第1の角度は、前記穿刺点Aと、前記第2の点Cと、前記第1の点Bとで形成され、
前記第2の角度は、前記穿刺点Aと、前記目標点Dと、前記第2の点Cとで形成される請求項1に記載のガイド装置。
【請求項3】
前記第1の角度は、20~40°である請求項1または2に記載のガイド装置。
【請求項4】
前記第2の角度は、10~50°である請求項1ないし3のいずれかに記載のガイド装置。
【請求項5】
前記第1の角度および前記第2の角度は、少なくとも、前記穿刺点Aを含む前記患者のCT画像と、前記目標点Dを含む前記患者のCT画像と、前記穿刺点Aを含む前記患者の前記CT画像と前記目標点Dを含む前記患者の前記CT画像との間に含まれる前記患者のCT画像と、を取得することによって決定される請求項1ないし4のいずれかに記載のガイド装置。
【請求項6】
前記支持部は、前記腰部の正中線に沿って配置され、所定の長さを有する基準部を有する請求項1ないし5のいずれかに記載のガイド装置。
【請求項7】
前記支持部は、
前記穿刺針が通る切り欠きと、
前記基準部と前記切り欠きとの間に設けられ、前記穿刺針を前記生体に穿刺する前記穿刺点Aを案内する穿刺案内部と、を有する請求項6に記載のガイド装置。
【請求項8】
前記穿刺案内部は、前記基準部と直交し、所定の長さを有するように構成されている請求項7に記載のガイド装置。
【請求項9】
前記第1の角度を変更するための第1の角度変更装置および/または前記第2の角度を変更するための第2の角度変更装置をさらに有する請求項1ないし8のいずれかに記載のガイド装置。
【請求項10】
前記ガイド部は、複数のガイド部を有し、
前記複数のガイド部は、それぞれ異なる前記第2の角度で、前記支持部に支持されて設けられている請求項1ないし9のいずれかに記載のガイド装置。
【請求項11】
患者の腰部に穿刺針を穿刺するためのガイド装置の製造方法であって、
前記腰部のX線CT画像を得るために、前記腰部にX線を照射する工程と、
前記患者の正中線上の第1の点Bと、当該第1の点Bの近傍に位置する穿刺点Aと、前記正中線上の前記第1の点Bとは異なる第2の点Cと、前記第2の点Cに対応する前記腰部の目標点Dとを前記X線CT画像に設定する工程と、
第1の角度∠BCA(θ1)と、第2の角度∠CDA(θ2)とを算出する工程と、
前記第1の角度を形成するように設計された支持部と、前記第2の角度を形成するように設計されたガイド部を用意する工程と、
前記支持部の垂線に対する角度を前記第2の角度に合せるように、前記ガイド部を前記支持部に接続する工程と、を含むことを特徴とする患者の腰部に穿刺針を穿刺するためのガイド装置の製造方法。
【請求項12】
前記患者の前記第2の角度に合せて、前記支持部に接続された前記ガイド部の前記角度を変更する工程をさらに含む請求項11に記載のガイド装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイド装置およびその製造方法に関し、特に、腰部くも膜下腔への穿刺針のガイド装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特発性正常圧水頭症(iNPH)は、歩行障害、認知症、尿失禁を主症状(三徴候)とする、高齢者特有の疾病である。iNPHに罹患すると、歩行が困難になる、物忘れがひどくなる、トイレが上手くいかないなど、生活の質(QOL:クォリティー・オブ・ライフ)が損なわれる。そのため、これらの症状に悩む患者に適切なiNPHの診断と治療を行うことは、患者および家族等介護者がより良い生活を得るために大変重要である。
【0003】
iNPHの治療には、髄液の流れを良くする「脳脊髄液シャント術」と呼ばれる手術が行われている。この手術は、流れの悪くなった髄液通路にカテーテル(管)を埋め込み、そこから脳脊髄腔内で過剰となった脳脊髄液を持続的に排除することにより行われる。これにより、脳脊髄液による脳への圧迫を解放し、脳脊髄液循環や脳機能の改善を図ることができる。
【0004】
現在日本では、頭蓋骨に小さな穴をあけ、脳室から腹腔までカテーテルを挿入する「脳室-腹腔シャント術」と、腰部くも膜下腔から腹腔までカテーテルを挿入する「腰部くも膜下腔-腹腔シャント術」が多く行われている。特に、高齢者には、患者への負担が少ないという観点から、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術が多く行われている。この手術法でのカテーテルの挿入は、生体の正中線上から直角に穿刺針を穿刺する方法(正中法)で行われる。
【0005】
しかしながら、この正中法では、骨の構造の影響により、穿刺針が目標点に到達し難い。そのため、穿刺針を介したカテーテルの挿入も困難である。また、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術における腰部くも膜下腔へのカテーテル挿入は、術者の技術に依存するところが大きい。特に高齢者では、加齢に伴う脊柱管構造の変形により、カテーテルの挿入経路である棘突起間のスペースが狭小化していることが多い。また、棘突起間スペースを開大させる体位を患者が取り難い。そのため、穿刺針が目標点に入りにくく、穿刺針を介したカテーテルの挿入もしにくいことから、高齢者への腰部くも膜下腔-腹腔シャント術は、難易度が高いという問題がある。
【0006】
また、正中法とは別の方法として、正中線から偏移させた所定の皮膚点から穿刺針を穿刺する方法(傍正中法)がある。この傍正中法は、棘突起の影響を受けることなく、目標点に穿刺針を穿刺することができる方法である。しかしながら、傍正中法を使用しても穿刺針を目標点に正確に穿刺することは容易ではない。
【0007】
したがって、患者・術者を問わず簡単かつ正確に腰部くも膜下腔へカテーテルを挿入できる技術が求められている。特に、高齢化が急速に進み、iNPH診療の先進国である日本においては、このような技術が注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-250902号公報
【文献】特開2019-213662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術による腰部くも膜下腔へのカテーテルの挿入において、傍正中法を用いる際に、棘突起の影響を受けることなく、目標点に穿刺針を確実に穿刺することができるガイド装置を開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の目的は、患者・術者を問わず簡単かつ正確に穿刺針を目標点に穿刺することができるガイド装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、そのガイド装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、下記(1)~(12)の本発明により達成されることができる。
【0012】
(1) 患者の腰部の第1の点Bの近傍に設けられた穿刺点Aから、前記腰部の前記第1の点Bとは異なる第2の点Cに対応する生体内の目標点Dに穿刺針を穿刺するためのガイド装置であって、
前記穿刺針の穿刺をガイドするガイド部と、
前記ガイド部を支持し、前記腰部に当接するための支持部と、を有し、
前記支持部の一部は、前記穿刺点Aと前記第2の点Cとを結ぶ直線に対して第1の角度を形成するように構成され、
前記ガイド部は、前記支持部の垂線に対して、第2の角度で設けられる
ことを特徴とするガイド装置。
【0013】
(2) 前記第1の角度は、前記穿刺点Aと、前記第2の点Cと、前記第1の点Bとで形成され、
前記第2の角度は、前記穿刺点Aと、前記目標点Dと、前記第2の点Cとで形成される上記(1)に記載のガイド装置。
【0014】
(3) 前記第1の角度は、20~40°である上記(1)または(2)に記載のガイド装置。
【0015】
(4) 前記第2の角度は、10~50°である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のガイド装置。
【0016】
(5) 前記第1の角度および前記第2の角度は、少なくとも、前記穿刺点Aを含む前記患者のCT画像と、前記目標点Dを含む前記患者のCT画像と、前記穿刺点Aを含む前記患者の前記CT画像と前記目標点Dを含む前記患者の前記CT画像との間に含まれる前記患者のCT画像と、を取得することによって決定される上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のガイド装置。
【0017】
(6)前記支持部は、前記腰部の正中線に沿って配置され、所定の長さを有する基準部を有する上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のガイド装置。
【0018】
(7)前記支持部は、
前記穿刺針が通る切り欠きと、
前記基準部と前記切り欠きとの間に設けられ、前記穿刺針を前記生体に穿刺する前記穿刺点Aを案内する穿刺案内部と、を有する上記(6)に記載のガイド装置。
【0019】
(8) 前記穿刺案内部は、前記基準部と直交し、所定の長さを有するように構成されている上記(7)に記載のガイド装置。
【0020】
(9) 前記第1の角度を変更するための第1の角度変更装置および/または前記第2の角度を変更するための第2の角度変更装置をさらに有する上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のガイド装置。
【0021】
(10) 前記ガイド部は、複数のガイド部を有し、
前記複数のガイド部は、それぞれ異なる前記第2の角度で、前記支持部に支持されて設けられている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のガイド装置。
【0022】
(11) 患者の腰部に穿刺針を穿刺するためのガイド装置の製造方法であって、
前記腰部のX線CT画像を得るために、前記腰部にX線を照射する工程と、
前記患者の正中線上の第1の点Bと、当該第1の点Bの近傍に位置する穿刺点Aと、前記正中線上の前記第1の点Bとは異なる第2の点Cと、前記第2の点Cに対応する前記腰部の目標点Dとを前記X線CT画像に設定する工程と、
第1の角度∠BCA(θ1)と、第2の角度∠CDA(θ2)とを算出する工程と、
前記第1の角度を形成するように設計された支持部と、前記第2の角度を形成するように設計されたガイド部を用意する工程と、
前記支持部の垂線に対する角度を前記第2の角度に合せるように、前記ガイド部を前記支持部に接続する工程と、を含むことを特徴とする患者の腰部に穿刺針を穿刺するためのガイド装置の製造方法。
【0023】
(12) 前記患者の前記第2の角度に合せて、前記支持部に接続された前記ガイド部の前記角度を変更する工程をさらに含む上記(11)に記載のガイド装置の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、穿刺針と生体内の空間的な相互位置関係を定める2つの角度を設定することにより、骨構造の干渉を受けることなく、目標点に穿刺針を簡単に穿刺することができる。これにより、カテーテルの挿入も容易になる。さらに、穿刺角度が緩やかになるため、カテーテルを生体内に緩やかに挿入することができ、カテーテルの損傷リスクを抑えることができる。このように、本発明は、患者・術者を問わず簡単かつ正確に穿刺針を目標点に穿刺することができるガイド装置を提供することができる。また、本発明によれば、そのガイド装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、腰部くも膜下腔への穿刺を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、腰部のX線CT画像を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、腰部くも膜下腔への穿刺の角度(θ1、θ2)を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の各種角度を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置を用いた穿刺針の穿刺方法のフローチャートである。
【
図7】
図7は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の使用状態を模式的に示す斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の使用状態を模式的に示す斜視図である。
【
図9】
図9は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置を製造する方法を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、(a)目標スライス画像と、(b)目標スライス画像上の脊柱管内のくも膜下腔と脊髄との間の境界線を示す断面図である。
【
図11】
図11は、複数のスライス画像において、穿刺針が穿刺点と目標点の間を通過する穿刺状態を模式的に示す斜視図である。
【
図13】
図13は、(a)目標スライス画像と、(b)目標スライス画像における脊柱管内のくも膜下腔と脊髄との間の境界線を模式的に示す断面図(aの部分拡大図)である。
【
図14】
図14は、穿刺針の先端の到達可能範囲を模式的に示す斜視図である。
【
図15】
図15は、第1の角度および第2の角度を算出する方法を説明するための模式図である。
【
図16】
図16は、第1の角度および第2の角度を算出する方法を説明するための模式図である。
【
図17】
図17は、穿刺点Aおよび目標点Dを自動で決定する方法を示すフローチャートである。
【
図18】
図18は、第1の角度および第2の角度を算出する方法を説明するための他の構成例を示す模式図である。
【
図19】
図19は、本発明の第2実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【
図20】
図20は、本発明の第3実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【
図21】
図21は、本発明の第5実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【
図22】
図22は、本発明の第5実施形態に係るガイド装置の変形例を模式的に示す側面図である。
【
図23】
図23は、本発明の第6実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【
図24】
図24は、本発明の第6実施形態に係るガイド装置の変形例を模式的に示す上面図である。
【
図25】
図25は、本発明の第7実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【
図26】
図26は、本発明の第8実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のガイド装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。説明の都合上、図中の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」、紙面手前側を「前」、紙面奥側を「後」として説明する。
【0027】
1.腰部くも膜下腔-腹腔シャント術
まず、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術を説明する。
図1は、腰部くも膜下腔への穿刺を模式的に示す側面図、
図2は、腰部のX線CT画像を模式的に示す断面図、
図3は、腰部くも膜下腔への穿刺の角度を説明するための模式図である。
【0028】
腰部くも膜下腔-腹腔シャント術は、腰部くも膜下腔から脳脊髄液を腹腔に持続的に流す治療法である。具体的に、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術は、腰部くも膜下腔と腹腔とをシリコン製の管(カテーテル)でつなぐ。その管は、皮膚の下を通って、腰部くも膜下腔から腹腔に延びている。そして、腰部くも膜下腔の脳脊髄液を腹腔に誘導し、脳脊髄液を腹腔内で吸収させる。この手術法は、
図1に示すように、第4腰椎(L4)の棘突起と、第5腰椎(L5)の棘突起との間の位置付近に相当する皮膚から穿刺針を穿刺し、腰椎くも膜下腔に穿刺針を到達させる。この状態で、穿刺針の内筒を抜去し、脳脊髄液除去用の管を穿刺針外筒から挿入する。その後、外科的手術により、その管を腹腔に通す。
【0029】
腰部くも膜下腔-腹腔シャント術は、一般に、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間の位置に相当する正中線上の皮膚点(第1の点)Bから、正中線と直交する方向に所定の距離(例えば、15mm)離れた皮膚点(穿刺点)Aで針を穿刺することで行われる。すなわち、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間で、正中線から離れた皮膚点Aで針を穿刺する。穿刺された針は、腰椎の第3腰椎と第4腰椎との間の位置に相当する腰部くも膜下腔(脊柱管内)に到達する。この穿刺針を介して、脳脊髄液の採取や管の挿入が行われる。
【0030】
本発明者らは、この腰部くも膜下腔-腹腔シャント術を鋭意研究した結果、患者・術者を問わず簡単に針を目標点に穿刺することができる装置の開発を目指し、本発明を完成するに至った。具体的に、腰部くも膜下腔-腹腔シャント術においては、穿刺針の穿刺前に、
図1や
図2に示すような腰部脊柱管のX線CT画像図を取得することが行われる。そして、穿刺点Aと、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間の位置に相当する正中線上の皮膚点Bと、第3腰椎の棘突起と第4腰椎の棘突起との間の位置に相当する正中線上の皮膚点(第2の点)Cと、目標点Dとの位置関係が重要であると考えた。
【0031】
図3は、これらの点および穿刺角度を模式的に表している。線BCは生体の正中線を意味する。穿刺点Aは、線BCに直交する線上で、皮膚点Bから15mm離間した点である。多くの患者の腰部脊柱管のX線CT画像を取得し、これらの点をX線CT画像上に設定した。その結果、∠ACB(第1の角度θ1)および∠CDA(第2の角度θ2)は、概ね30°である事実が確認された。そこで、本発明者らは、この事実を利用して、患者・術者を問わず簡単に針を目標点に穿刺することができる装置を開発するに至った。
【0032】
さらに、本発明者らは、正中線から所定の距離離間した穿刺点A、目標点D、第1の角度θ1および第2の角度θ2を予め設定することなく、患者毎に自動で設定することができる方法を開発するに至った。
【0033】
<<第1実施形態>>
2.ガイド装置
次に、本発明のガイド装置を詳細に説明する。
図4は、発明の第1実施形態に係るガイド装置を示す斜視図、
図5は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の各種角度を示す斜視図である。
【0034】
図4に示すように、本発明のガイド装置1は、腰部くも膜下腔への穿刺をガイドする装置である。このガイド装置1は、ガイド部2と、支持部3とを有する。以下、ガイド装置1の各部の構成を説明する。
【0035】
<ガイド部>
ガイド部2は、穿刺針の穿刺をガイドする機能を有する。ガイド部2の形状は、特に限定されず、台形状、直方体状、三角柱状、楕円柱状、円柱状などが挙げられる。ガイド部2は、本体21と、ガイドレール22と、把持部23とで構成されている。
【0036】
(本体)
本体21は、ガイドレール22と、把持部23とを後述する支持部3に支持する機能を有する。本体21は、略L字状の支柱で形成されているが、これに限定されない。例えば、本体21は、円錐台や2面が台形の立体であってもよい。また、本体21は、透明部材で構成されているが、これに限定されない。本実施形態では、本体21は、補強部211と、第1の支柱212と、第1の支柱212よりも小さい第2の支柱213とを有する。補強部211は、ガイド部2と支持部3との接続を補強する。補強部211は、長尺状に形成されているが、特に限定されない。
【0037】
第1の支柱212は、補強部211の基端から立設している。第2の支柱213は、補強部211の先端から立設している。第1支柱212の高さと、第2の支柱213の高さとは、異なっていればよい。ガイドレール22を支持部3に対して角度付けするため、第2の支柱213は、第1の支柱212の1/2~1/4の長さであることが好ましい。なお、本体21は、第2の支柱213を有していなくてもよい。この場合、ガイドレール22は、支持部3と直接接続される。
【0038】
(ガイドレール)
ガイドレール22は、穿刺針を支持部3に対して所定の角度で進行させる機能を有する。ガイドレール22は、本体21の第2の支柱213と、把持部23とを連結するように設けられる。ガイドレール22は、
図5に示すように、支持部3に対して、所定の角度で設けられる。この所定の角度は、40~80°が好ましく、45~70°がより好ましく、60°が最も好ましい。換言すると、ガイドレール22は、支持部3の垂線に対して、第2の角度で設けられる。この第2の角度は、後述するように、10~50°が好ましく、20~45°がより好ましく、30°が最も好ましい。このような角度により、穿刺針を確実に目標点Dに到達させることができる。
【0039】
また、穿刺針を腰部くも膜下腔に所定の角度で穿刺できるので、その後のカテーテル挿入が容易になる。特に、加齢による脊柱管構造の変形が生じた高齢者であっても、穿刺針を腰部くも膜下腔に正確かつ確実に穿刺することができ、その後のカテーテル挿入を容易にすることができる。
【0040】
ガイドレール22の形状は、特に限定されず、平面状、半円筒状、円筒状等であってもよい。本実施形態では、ガイドレール22は、溝を有するように形成されている。この場合、ガイドレール22の上側は開放しているので、穿刺針がガイドレール22を通って生体内に穿刺された状態で、ガイド装置1を患部から容易に除去することができる。ガイドレール22は、穿刺針を固定するための固定部材9(
図19)を溝に有していてもよい。この固定部材9は、ガイドレール22に沿って移動可能に構成されている。そのため、穿刺針を固定部材9に固定すれば、正確かつ確実に穿刺針を穿刺点Aに到達させることができる。
【0041】
ガイドレール22の長さは、穿刺針を案内できれば、特に限定されない。しかし、ガイドレール22は、2~10cm程度の長さを有することが好ましく、3~6cm程度の長さを有することが好ましい。これにより、穿刺針を確実に穿刺点Aに案内することができる。また、前述したような固定部材9を取り付けたとしても、穿刺針を確実に生体内に案内することができる。
【0042】
ガイドレール22の先端は、第2の支柱213と連結している。そのため、ガイドレール22の先端は、支持部3よりも鉛直上方に所定の距離離間している。これにより、穿刺針でガイドレール22が傷つけられ、ガイドレール22を構成する材料が生体内に誤って入ることを防止することができる。この所定の距離は、第2の支柱213の長さに相当し、0.5~2cm程度であることが好ましい。
【0043】
また、ガイドレール22の先端は、補強部211の長手方向に沿って、第1の支柱212の方向に所定の距離離間している。これにより、ガイドレール22に穿刺針を固定する部材を取り付けたとしても、穿刺針を切り欠き312(穿刺点A)に確実に通すことができる。この所定の距離は、切り欠き312から0.1~2cm程度であることが好ましい。
【0044】
(把持部)
把持部23は、術者にガイド装置1を把持させる機能を有する。把持部23は、ガイドレール22の基端と、第1の支柱212の上端とを連結するように構成されている。そして、把持部23は、補強部211に平行して設けられ、第1の支柱212に直交して設けられる。これにより、本体21は、全体的に台形状に形成される。また、把持部23の太さ、長さは、術者が把持できるかぎり、特に限定されない。術者が確実に把持できるように、把持部23は、術者の指に沿って形成された凹部を有していてもよい。
【0045】
また、把持部23は、術者の把持力を吸収する緩衝部を有していてもよい。この緩衝部は、把持部23下部で、把持部23の先端と基端とを結ぶように、弓状に形成される。そのため術者が把持部23を把持したとき、緩衝部により、術者は、心地よい把持感覚を得ることができる。また、緩衝部は、術者が確実に把持できるように、術者の指に沿って形成された凹部を有していてもよい。
【0046】
<支持部>
支持部3は、ガイド部2を支持する機能を有する。支持部3は、6角形の板状に形成されているが、これに限定されない。例えば、支持部3は、円形の板状や三角形の板状、直方体状であってもよい。支持部3は、ガイド部2の下側に設けられている。このような構成により、術者はガイド部2の把持部23を把持し、支持部3を生体に確実に当接することができる。支持部3は、第1のブレード31と、第2のブレード32とで構成されている。
【0047】
(第1のブレード)
第1のブレード31は、ガイド部2の補強部211の長手方向に直交する一方の方向に、ガイド部2から突出するように設けられている。第1のブレード31は、四角形の板状に形成されている。これにより、生体上に確実に配置することができる。このような第1のブレード31は、基準部311と、切り欠き312と、穿刺案内部313とを有する。
【0048】
基準部311は、生体の正中線に沿ってガイド装置1を配置する機能を有する。基準部311は、長尺状に形成されており、第1のブレード31の長辺を構成する。基準部311は、正中線に沿って配置できる限り、その長さは特に限定されない。例えば、基準部311の長さは、1~20cmであることが好ましく、3~15cmであることがより好ましく、5~15cmであることがさらに好ましい。このような長さにより、正中線に沿って、基準部311を確実に配置することができる。
【0049】
基準部311は、先端と、基端とを有する。先端は、ガイド装置1の全体において、ガイド部2よりも前方(切り欠き312)の方向に突出するように、第1のブレード31に設けられている。先端は、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間の位置に相当する正中線上の皮膚点B上に配置される。そのため、基準部311の先端は、皮膚点Bを明確に示すように、特殊な形状(例えば、星形、円形、矢印形)に形成されていてもよい。
【0050】
基準部311の後端は、ガイド装置1の全体において、ガイド部2に直交する方向に突出するように、第1のブレード31に設けられている。基準部311の後端は、正中線上に配置される。基準部311の後端の形状や構成は、特に限定されず、どのような形状や構成であってもよい。
【0051】
切り欠き312は、穿刺針を通過させる機能を有する。切り欠き312は、ガイドレール22の直下で、ガイドレール22の延長線上に設けられている。これにより、ガイドレール22を進行してきた穿刺針が確実に切り欠き312を通ることができる。切り欠き312は、第1のブレード31の平面視で、略1/4円状に形成されている。換言すると、切り欠き312は、凹状に形成されている。そのため、穿刺針が切り欠き312を通って生体に穿刺された後、ガイド装置1を簡単に取り外すことができる。なお、切り欠き312は、第1のブレード31に形成された貫通孔であってもよいまた、切り欠き312の大きさは、穿刺針が通過できる限り、特に限定されない。
【0052】
穿刺案内部313は、実際の穿刺点Aの場所を指示する機能を有する。穿刺案内部313は、基準部311と、切り欠き312との間に設けられている。そして、穿刺案内部313は、基準部311と直交し、切り欠き312と連結するように長尺状に設けられている。そのため、穿刺案内部313の一端は、基準部311の先端とともに、第1のブレード31の頂点(先端)を構成する。また、穿刺案内部313の他端は、切り欠き312とともに、第1のブレード31の頂点を構成する。
【0053】
基準部311の先端を皮膚点Bにあわせ、基準部311を正中線に合せるようにガイド装置1を生体に配置する。そうすることで、穿刺案内部313は、正中線から所定の距離離間した穿刺点Aを指示することができる。そのため、穿刺案内部313の一端と他端とが前述したように構成されていれば、一端と他端との間の部分は、どのように構成されていてもよい。例えば、当該部分は、湾曲していても、突出していてもよい。穿刺案内部313の長さは、3~20mm程度が好ましく、5~18mm程度がより好ましく、15mmが最も好ましい。これにより、穿刺に適した穿刺点Aを確実に指示することができる。
【0054】
図5に示すように、基準部321は、基準部321の延長線L1が、切り欠き322を通る仮想線L2と交差する(基準部311の延長線も同様)ように構成されている。すなわち、
図5に示すように、基準部321は、線BCが、線ACと所定の角度(第1の角度∠BCA)θ1で交わるように構成されている。基準部321のこの所定の角度θ1は、20~40°が好ましく、30°がより好ましい。これにより、穿刺針を確実に目標点Dに到達させることができる。なお、この仮想線L2は、ガイド部2の長手方向または支持部3の面方向に沿って形成されている。
【0055】
また、長尺状に形成されたガイドレール22の延長線は、支持部3の垂線と交差する。すなわち、
図5に示すように、その延長線は、線CDと所定の角度(第2の角度∠CDA)θ2で交わるように構成されている。この所定の角度θ2は、10~50°が好ましく、20~45°がより好ましく、30°が最も好ましい。これにより、穿刺針を確実に目標点Dに到達させることができる。なお、線CDは、線ACと直交している。
【0056】
(第2のブレード)
第2のブレード32は、ガイド部2の長手方向に直交する方向で、第1のブレード31とは反対の方向に、ガイド部2から突出するように設けられている。第2のブレード32の構成は、第1のブレード31の構成と同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0057】
第2のブレード32は、ガイド部2の補強部211を中心軸に、第1のブレード31と対称的に設けられている。すなわち、支持部3は、ガイド部2を中心軸に線対称に形成されている。これにより、ガイド装置1は、第1のブレード31の基準部311と、第2のブレード32の基準部321との2つの基準部を有するため、正中線に対して背中の左側から穿刺する場合と、正中線に対して背中の右側から穿刺する場合とに対応することができる。そのため、どのようなタイプの患者にも本ガイド装置1を使用することができる。
【0058】
第2のブレード32の切り欠き322は、第1のブレード31の切り欠き312と同様に、第2のブレード32の平面視で、略1/4円状に形成されている。そのため、第1のブレード31と第2のブレード32とを含めた支持部3全体で見た時、切り欠き312および切り欠き322(「支持部3の切り欠き33」ともいう)は、略半円状に形成されている。この切り欠きは、支持部3に形成された貫通孔であってもよい。
【0059】
支持部3の切り欠き33は、第1のブレード31の穿刺案内部313と、第2のブレード32の穿刺案内部323との間で、ガイド部2の長手方向(前方)に沿って設けられる。この切り欠き33は、ガイド装置1の平面視において、基準部311の先端(頂点)と、基準部321の先端(頂点)との間に設けられた凹部(底点)を構成する。このような構成により、切り欠き33が開放されているため、穿刺針を生体に穿刺した後、ガイド装置1を容易に生体上から除去することができる。なお、ガイド装置1は、第1のブレード31または第2のブレード32のいずれかを有していなくてもよい。
【0060】
3.ガイド装置を用いた穿刺方法
次に、本発明のガイド装置1を用いて穿刺針を穿刺する方法を説明する。
図6は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置を用いた穿刺針の穿刺方法のフローチャート、
図7は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の使用状態を模式的に示す斜視図、
図8は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置の使用状態を模式的に示す斜視図である。
【0061】
本発明の穿刺方法は、
図6に示すように、(S1)生体の腰部にX線を照射する工程と、(S2)点A~DをX線CT画像上に設定する工程と、(S3)第1の角度および第2の角度を算出する工程と、(S4)基準部の延長線上に第1の角度を設定し、支持部を調整する工程と、(S5)支持部の垂線に対するガイドレールの角度を第2の角度に設定する工程と、(S6)ガイド装置を生体に当接する工程と、(S7)穿刺針をガイドレールに沿って進行させる工程と、(S8)穿刺針を生体に穿刺する工程とを含む。
【0062】
まず、ステップS1において、生体の腰部にX線を照射する。これは、一般的なX線診断装置を用いて行われる。その結果、
図1や
図2に示すようなX線CT画像を得ることができる。得られたX線CT画像上に、穿刺点Aと、皮膚点Bと、皮膚点Cと、目標点Dとをプロットする(ステップS2)。これは、コンピューターシステム上で行われても、X線CT画像上で行われてもよい。これらの点をプロットした後、各点を結ぶことにより、第1の角度∠BCA(θ1)と、第2の角度∠CDA(θ2)とを算出する(ステップS3)。
【0063】
次に、上述したガイド装置1の基準部321(311)の延長線L1と、切り欠き33を通る仮想線L2との交わる角度を、得られた第1の角度θ1に設定するように、支持部3を調整する(ステップS4)。例えば、支持部3の一部を切断することにより調整することができる。そして、上述したガイド装置1の支持部3の垂線に対するガイドレール22の角度を、得られた第2の角度θ2に設定する(ステップS5)。これにより、ガイド装置1を得ることができる。その後、得られたガイド装置1の支持部3を生体に当接する(ステップS6)。この時、
図7に示すように、本発明のガイド装置1の基準部311と穿刺案内部313との交点(基準部311の先端)を、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間の位置に相当する正中線上の皮膚点Bに合せる。そして、基準部311を背中面の正中線に沿って配置するように、ガイド装置1を生体に配置する。これにより、穿刺案内部313によって穿刺点Aが指示され、ガイドレール22に沿った切り欠き312の位置に穿刺点Aが位置する。
【0064】
その後、
図8に示すように、ガイドレール22に設置された穿刺針11を、ガイドレール22に沿って進行させる(ステップS7)。これにより、穿刺針11は、切り欠き33を通って、穿刺点Aに確実に到達する。そして、穿刺針11を穿刺点Aから生体内に挿入する(ステップS8)。ガイドレール22および切り欠き33の形状は開放されているので、穿刺針11がある程度(例えば、5cm)挿入されたとき、ガイド装置1を生体上から容易に取り除くことができる。これにより、その後の手術がガイド装置1で妨害されることを防止することができる。その後、穿刺針11を徒手的にさらに進め(例えば、1~2cm)、
図1に示すように穿刺針11の先端が目標点Dに到達する。この時、穿刺針11は、6~7cm程度生体内に穿刺されている。
【0065】
以上のような方法により、穿刺が行われる。なお、複数の患者において、第1の角度θ1および第2の角度θ2は、概ね共通する傾向がある。そのため、一度、第1の角度θ1および第2の角度θ2をガイド装置1に設定すれば、工程(S1)~(S5)を省略できる。すなわち、本ガイド装置1を用いれば、事前にX線CT画像診断を行うことなく、患者に穿刺処置を直ちに施すことができる。したがって、手術の所要時間を大幅に短縮することができる。このように、本発明の穿刺方法は、患者・術者を問わず簡単に行うことができ、迅速かつ確実に目標点Dに穿刺針11を到達させることができる。
【0066】
また、本発明の穿刺方法によれば、第4腰椎の棘突起と第5腰椎の棘突起との間に相当する皮膚点Bの近傍の穿刺点Aから、第3腰椎と第4腰椎との間のくも膜下腔の目標点Dに穿刺針を穿刺する。すなわち、本発明の穿刺方法によれば、穿刺点Aから1椎間上の目標点Dを目指して穿刺針11を穿刺する。そのため、不正確な穿刺による複数回の穿刺を回避することができ、合併症(例えば、出血や手術時間延長、術後疹通など)を回避することができる。
【0067】
4.ガイド装置の製造方法
次に、本発明のガイド装置の製造方法を説明する。
図9は、本発明の第1実施形態に係るガイド装置を製造する方法を示すフローチャートである。この方法は、
図9に示すように、腰部にX線を照射する工程(S11)と、穿刺点A、皮膚点(第1の点)B、皮膚点(第2の点)Cおよび目標点DをX線CT画像に設定する工程と(S12~S20)、第1の角度θ1および第2の角度θ2を算出する工程(S21)と、ガイド部2および支持部3を用意する工程(S24)と、ガイド部2を支持部3に接続する工程(S25)とを含む。また、この方法は、穿刺針の水平到達可能範囲を特定する工程(S22)と、穿刺針の全ての到達可能範囲を特定する工程(S23)、穿刺点と到達可能範囲の中心か近似の位置を通過する場合の角度をガイド装置の製造のための角度として算出する工程(S23A)とを含む。このステップS11からS23を含む方法は、生体内における穿刺針の到達可能な範囲の特定方法ともいう。
【0068】
本発明のガイド装置1の製造方法および穿刺針の到達可能範囲の特定方法は、コンピュータ装置などの処理装置を用いて自動で行うことも、手動で行うこともできる。以下では、これらの方法を自動で行う場合を例に挙げて説明する。
【0069】
まず、これらの方法に用いられる処理装置は、有線または無線によりX線診断装置と、印刷装置とに接続されている。処理装置は、当該方法の各処理を実行する制御部と、所定の情報を記憶する記憶部と、所定の情報を表示する表示部とを有する。所定の情報は、患者の個人情報、X線診断装置により得られる複数のX線CT画像(スライス画像)、正中線から穿刺点Aまでの距離情報、第1の点B、第2の点C、目標点D、角度(第1の角度θ1および第2の角度θ2)などの情報を含む。術者は、表示部に表示された所定の情報を視認しながら、画像処理や角度算出などを行うことができる。
【0070】
X線診断装置は、特に限定されない。印刷装置は、特に限定されないが、3次元プリンタが挙げられる。3次元プリントを使用することで、所定の樹脂材料を用いるため、ディスポーザブルなガイド装置1を迅速に製造することができる。また、第1の角度θ1および第2の角度θ2を簡単に調整することができるので、患者の様々な体型に合ったガイド装置1を製造することができる。なお、印刷装置は必須ではない。
【0071】
次に、ガイド装置の製造方法の各ステップを順に説明する。ステップS11は、一般的なX線診断装置を用いて、腰部へX線を照射する工程である。その結果、制御部は、
図1に示す上下方向(鉛直方向)に直交する方向でスライスした、
図2に示すような複数のスライス画像を得ることができる(ステップS12)。ここで、制御部は、複数のスライス画像のうち隣り合うスライス画像間の距離(間隔)を自動で設定または予め設定することができる。この間隔が小さい場合、脊柱管や腰椎の位置を正確に把握することができる。そのため、この間隔は、0.5~1.8mm程度が好ましい。
【0072】
制御部は、取得した複数のスライス画像の画像処理を実行する(ステップS13)。画像処理は、例えば、二値化処理やその他一般的な処理などが挙げられるが、これに限定されない。これにより、制御部は、全てのスライス画像において、棘突起周辺の輪郭線を設定する。そして、制御部は、全てのスライス画像において、輪郭線の位置(体の前後方向位置)や湾曲度のピーク情報等に基づき、第3~第5腰椎の棘突起を特定する。これにより、制御部は、第3~第5腰椎の棘突起が含まれる複数のスライス画像を特定する。
【0073】
次に、制御部は、第4腰椎を含むスライス画像と、第5腰椎を含むスライス画像との間の中間のスライス画像(穿刺スライス画像)を特定する(ステップS14)。ここで、制御部は、穿刺スライス画像の二値化処理などの画像処理および形状解析を行い(ステップS14A)、皮膚の輪郭線を抽出する。そして、制御部は、穿刺スライス画像において、正中面(棘突起が含まれる面)から皮膚の輪郭線に沿って横方向(左または右)に予め決められた距離(例えば、15mm)離れた点を穿刺点Aに設定する(ステップS15)。すなわち、制御部は、
図2に示すように、穿刺スライス画像において、正中線上の皮膚点Bから皮膚の輪郭線に沿って左に、例えば、15mm離れた点を穿刺点Aに設定する。なお、この距離は15mmに限定されない。
【0074】
穿刺点Aを設定した後、制御部は、第3腰椎を含むスライス画像と、第4腰椎を含むスライス画像との間の中間のスライス画像を特定する(ステップS16)。この中間のスライス画像は、穿刺針が到達する目標スライス画像となる。
【0075】
次に、制御部は、
図10に示すように、目標スライス画像の二値化処理などの画像処理および形状解析を行う(ステップS17)。これにより、脊柱管が特定され、脊柱管内の背中側の、脊髄とくも膜下腔との境界線が特定される。制御部は、脊柱管内の中心点を目標点Dに設定する(ステップS18)。
【0076】
次に、制御部は、穿刺点Aと目標点Dとを結ぶ直線(以下、「直線AD」という)が通過する複数のスライス画像上の通過点を特定する(ステップS19)。すなわち、
図11に示すように、穿刺点Aを含む穿刺スライス画像と、目標点Dを含む目標スライス画像との間の複数のスライス画像において、直線AD(穿刺針)が通過する通過点の座標を算出する。各スライス画像は平行で等間隔に設けられているため、通過点の座標は、比例計算によって算出される。なお、各スライス画像におけるx、y座標は、ステップS13で特定されている。
【0077】
例えば、目標スライス画像上の目標点Dのx座標が238pix、穿刺スライス画像上の穿刺点Aのx座標が278pix、穿刺スライス画像から目標スライス画像までの間の複数のスライス画像の数が49枚であると仮定する。この時、当該複数のスライス画像のうちの一のスライス画像と、それに隣接する他のスライス画像のx座標は、比例計算に基づき以下のように計算される。
【0078】
・一のスライス画像上の通過点のx座標(pix)
(278-238)÷(49-1)+238=238.9375=239
・隣接する他のスライス画像上の通過点のx座標
(278-238)÷(49-1)+239=239.875=240
【0079】
これらのスライス画像以外の他のスライス画像上の通過点のx座標も、この計算を繰り返すことで算出される。また、x座標と同様の計算によって、各スライス画像上の通過点のy座標を算出することができる。
【0080】
次に、制御部は、算出された通過点が骨と衝突するか否か判定する(ステップS20)。判定では、
図12に示すように、各スライス画像における骨領域を明度に基づき判定する。具体的には、制御部は、二値化処理により、スライス画像上の明度(0~255)が所定の値(例えば、230)以上の部分を骨と判定する。そして、算出された通過点の座標がこの骨領域に含まれない場合、制御部は、通過点が骨と衝突しないと判定する。この判定は、針の太さも考慮して行われる。たとえば、骨領域の境界から外側に1mm(針の太さ)の領域を忌避領域として、通過点の座標が骨領域および忌避領域のいずれにも含まれない場合、制御部は、通過点が骨と衝突しないと判定する。これにより、穿刺点Aおよび目標点Dが特定される。この場合、処理は、ステップS21に進む。
【0081】
一方、算出された通過点の座標がこの骨領域に含まれる場合、制御部は、通過点が骨と衝突すると判定する。この場合、処理は、ステップS14に戻り、ステップS14~ステップS20が繰り返される。すなわち、穿刺スライス画像をそれに隣接する別の穿刺スライス画像に設定し、穿刺点Aを設定する。そして、目標スライス画像についてもそれに隣接する別の目標スライス画像に設定し、目標点Dを設定する。これを繰り返すことにより、通過点が骨と衝突しないような穿刺点Aと目標点Dとを特定する。
【0082】
なお、上記説明は直線ADが各スライス画像を通過する点のxy座標について説明したが、本発明の製造方法は穿刺針が各スライス画像を通過する通過点のxy座標を算出してもよい。この場合、穿刺針は一定の太さを有するため、xy座標は、前記通過点のxy座標よりも穿刺針の半径分広げたピクセルを含むxy座標を算出することになる。
【0083】
ステップS21において、制御部は角度を算出する。ステップS21の後、処理は、ステップS22に進む。このステップS22および角度の算出方法については、後述する。
【0084】
次に、制御部は、上記ステップS21で得られた角度情報に基づいて、ガイド部2および支持部3を用意し、ガイド部2を支持部3に接続するよう印刷装置に指示する。これにより、印刷装置は、第2の角度を形成するように設計されたガイド部2と、第1の角度を形成するように設計された支持部3を用意し(S24)、ガイド部2を支持部3に接続することができる(S25)。すなわち、印刷装置は、ガイド部2と支持部3とが一体となったガイド装置1を製造することができる。
【0085】
印刷装置を使用しない場合、ステップS21の後、前述したようなガイド部2および支持部3を用意する(S24)。このガイド部2および支持部3は、上記で得られた角度情報等に基づいて、例えば、ステンレスで予め作成されている。次に、溶接や嵌合などの方法により、用意されたガイド部2を支持部3に接続する(S25)。これにより、本発明のガイド装置1を製造することができる。なお、ガイド装置1が後述する角度変更装置8を有する場合、ステップS25の後、第1の角度θ1または第2の角度θ2を変更するように、ガイド部2の角度を調整することができる。
【0086】
以上のようにして、患者の種々の体型に合ったガイド装置1を迅速に製造することができる。得られたガイド装置1は、スライス画像情報に基づいて、生体内における、穿刺針が到達可能な範囲が特定されているので、患者毎に安全に使用することができる。また、本発明のガイド装置1の製造方法によれば、穿刺点A、目標点Dおよび直線AD(穿刺針の経路)を適切に決定できる。したがって、本発明のガイド装置1は、腰部くも膜下腔等の体腔穿刺に特に有用である。
【0087】
5.角度の算出方法
次に、
図9のステップS21における角度の算出方法を詳細に説明する。
図15、16は、第1の角度および第2の角度を算出する方法を説明するための模式図である。
【0088】
制御部は、穿刺点Aおよび目標点Dの3次元座標値(mm)を算出する。これは、穿刺点Aおよび目標点Dのスライス面内の座標値(pix)、穿刺スライス画像と目標スライス画像のpix-mm比、穿刺スライス画像と目標スライス画像との間の間隔(mm)を、x、y、zの3次元座標上にプロットすることにより行われる。3次元座標の原点は、穿刺スライス画像における正中線に相当する点(第1の点)Bに設定する。その上で、
図15に示すように、正中線と穿刺スライス画像が交わる皮膚上の点Bと、正中線と目標スライス画像が交わる皮膚上の点(第2の点)Cと、第1の角度θ1(∠BCA)と、第2の角度θ2(∠CDA)とを設定する。これにより、制御部は、第1の角度θ1および第2の角度θ2を穿刺針の穿刺角度として算出する。
【0089】
まず、制御部は、ベクトル計算により、cosθ1およびcosθ2を算出する。
【0090】
このように算出されたcosθ1およびcosθ2に対し、COS関数の逆関数を用いることで、θ1およびθ2が算出される。
θ1=cos-1(BC/AC)
θ2=cos-1(CD/AD)
【0091】
上記S21で算出された第1の角度θ1および第2の角度θ2は、より適切な穿刺角度にするために、最適化することができる。前工程として、制御部は、穿刺スライス画像と、目標スライス画像と、それらの間の複数のスライス画像とにおいて、脊髄とくも膜下腔との境界線に沿って、穿刺針の先端が到達すべき範囲の内側(穿刺点から見て、頭尾方向の体軸を超えた対側)と外側(穿刺点から見て、体軸を超えない同側)の限界点を特定する(S22)。例えば、
図13に示すように、制御部は、目標スライス画像において、脊髄とくも膜下腔との境界線に沿って、くも膜下腔の到達可能範囲において、穿刺点から見て頭尾方向の体軸を超えた対側(内側)と穿刺点から見て体軸を超えない同側(外側)の限界点をプロットする。これにより、各スライス画像において、水平到達可能範囲が特定される。
【0092】
その後、処理は、第1の最適化方法としてのステップS22Aまたは第2の最適化方法としてのステップS23に進む。
【0093】
第1の最適化方法として、角度の平均値を求めることによって行う方法を説明する。具体的には、制御部は、S22で特定した、穿刺針の先端が到達すべき範囲の内側と外側の限界点において、第1の角度θ1について、内側の限界点の角度、ならびに、外側の限界点の角度を求める。同様に、第2の角度θ2についても、内側の限界点の角度、ならびに、外側の限界点の角度を求める。この内側・外側の角度の組は、穿刺スライス画像から目標スライス画像までの間の通過スライス画像の数と同じ数となる。角度の算出には、ステップS21の算出方法を援用することができる。仮想の目標点Dが正中線からずれた位置となる場合には、
図16(d)に示す形に、基準となるABCDの各点の位置を補正した上で、ステップS21の方法を適用する。そして、第1の角度θ1および第2の角度θ2のそれぞれについて、内側角度と外側角度を総合した平均値を算出し、それを最適な穿刺角度と決定する(S22A)。例えば、実際の患者に本方法を適用した場合の例を以下の表に示す。
【0094】
表は、各スライス画像において、第1の角度θ1および第2の角度θ2の内側角度および外側角度を示している。最適な穿刺角度は、第1の角度θ1として平均16.1(deg)、第2の角度θ2として平均39.0(deg)である。このとき処理は、S24に進み、ステップS22Aで取得した角度情報を用いてガイド部および支持部を用意する。
【0095】
第2の最適化方法として、到達範囲の通過点を算出することによって行う方法を説明する。ステップS22の後、制御部は、
図14に示すように、各スライス画像で特定された水平限界点(水平到達可能範囲)の鉛直方向の分布を穿刺針の全ての到達可能範囲として特定する(S23)。これにより、穿刺針の先端が安全に到達できる到達可能範囲が鉛直・水平両方向において特定される。この到達可能範囲の形状は、
図14に示すように、対象の人体の背面に立って背中を見たとき、楕円形状となっており、3次元で表すと、略楕円体となっている。
【0096】
次に、ステップS15で設定した穿刺点Aと、この楕円の中心またはその近似の位置とを通過する直線を最適ルートとして設定し、この場合の第1の角度θ1と第2の角度θ2を算出する(S23A)。角度の算出方法には、ステップS21の算出方法を援用することができる。仮想の目標点Dが正中線からずれた位置となる場合には、
図16(d)に示す形に、基準となるABCDの各点の位置を補正した上で、ステップS21の方法を適用する。このとき、処理は、S24に進み、ステップS23Aで取得した角度情報を用いてガイド部および支持部を用意する。
【0097】
6.ガイド装置の製造方法の他の形態
上記では、ステップS18で設定する目標点Dが脊柱管内の中心点である場合を説明したが、最適な角度を導く目標点Dはこれに限定されず、すなわち正中面(人体を両半分に分ける面)内になくてもよく、上述した到達可能範囲内の任意の点であればよい。また、上記では、穿刺点Aが正中線から15mmである場合を説明したが、穿刺点Aはこれに限定されず、正中線から所定の距離離れた任意の点であればよい。そこで、ガイド装置1の製造方法の他の形態として、穿刺点Aおよび目標点Dを自動で決定する方法を説明する。なお、穿刺点Aおよび目標点Dは、上記のようにCT画像上に術者が任意に設定してもよい。
【0098】
図17は、穿刺点Aおよび目標点Dを自動で決定する方法のフローチャートである。この方法は、
図17に示すように、穿刺スライス画像上に複数の穿刺点Aの候補を設定する工程(S151A)と、目標スライス画像上に複数の目標点Dの候補を設定する工程(S181)と、複数の目標点Dの候補および複数の穿刺点Aの候補とを結ぶ複数の穿刺ルート候補を作成する工程(S182)と、複数の穿刺ルート候補における複数のスライス画像上の通過点を特定する工程(S191)と、通過点が骨と衝突するかを判定する工程(S201)と、骨と衝突するルートを候補外と判断する工程(S202)を含む。なお、
図17において、ステップS141は
図9のステップS13から続き、ステップS231Bは
図9のステップS24に続く。以下、各ステップを順に説明する。
【0099】
ステップS141において、制御部は、第2腰椎を含むスライス画像と、第5腰椎を含むスライス画像との間のすべてのスライス画像を穿刺スライス画像の候補として特定する(ステップS141)。なお、スライス画像は、第2腰椎に限定されることはなく、第2腰椎より上位の椎骨レベルを含むスライス画像であってもよい。ここで、制御部は、各穿刺スライス画像の二値化処理などの画像処理および形状解析を行い、皮膚の輪郭線を抽出する(ステップS141A)。
【0100】
次に、制御部は、各穿刺スライス画像において、第1の点Bから輪郭線に沿って横方向(左または右)に所定の距離離れた複数の点を設定する。すなわち、ステップS151Aにおいて、制御部は、
図2に示すような穿刺スライス画像において、第1の点Bから皮膚の輪郭線に沿って左および/または右に、所定の間隔またはランダムに複数の点を穿刺点Aの候補として設定する。
【0101】
所定の間隔は、特に限定されないが、0.1~0.2mmであることが好ましい。このような範囲により、穿刺針を穿刺したとき、穿刺針が骨と衝突する可能性を低減するとともに、穿刺点Aから目標点Dまでのルートをより適切に設定することができる。また、穿刺点Aの候補の数は、特に限定されないが、スライス画像当たり1~20個が好ましく、1~10個がより好ましい。ただし、候補数は100個を超え、500個でもよく、それ以上でもよい。このような範囲により、穿刺点Aと目標点Dとの組み合わせの数が増加するので、複数の直線AD(ルート候補)のうちの一の直線ADが骨と衝突したとしても、骨と衝突しない他の直線AD(ルート候補)に変更することができる。
【0102】
次に、制御部は、第1腰椎を含むスライス画像と、第4腰椎を含むスライス画像との間のすべてのスライス画像を目標スライス画像の候補として特定する(ステップS161)。なお、スライス画像は、第1腰椎に限定されることはなく、第1腰椎より上位の椎骨レベルを含むスライス画像であってもよい。そして、制御部は、各目標スライス画像の二値化処理などの画像処理および形状解析を行う(ステップS171)。これにより、脊柱管が特定され、脊柱管内の背中側の、脊髄とくも膜下腔との境界線が特定される。
【0103】
次に、制御部は、特定した脊柱管内の脊髄とくも膜下腔との境界線上に、複数の目標点Dを設定する(ステップS181)。すなわち、制御部は、
図10に示す境界線上に、所定の間隔またはランダムに目標点Dの候補として複数の点を設定する。
【0104】
所定の間隔は、特に限定されないが、0.1~0.2mmであることが好ましい。このような範囲により、穿刺針を穿刺したとき、穿刺針が骨と衝突する可能性を低減するとともに、穿刺点Aから目標点Dまでの距離を適切に設定することができる。また、目標点Dの候補の数は、特に限定されないが、1~20個が好ましく、1~10個が好ましい。このような範囲により、穿刺点Aとの組み合わせの数が増加するので、複数の直線AD(ルート候補)のうちの一の直線AD(ルート候補)が骨と衝突したとしても、骨と衝突しない他の直線ADに変更することができる。
【0105】
次に、制御部は、穿刺点Aの複数の候補と、目標点Dの複数の候補とを結ぶ複数の直線AD群(以下「ルート候補」とする)を作成する(S182)。ルート候補の数は、穿刺点Aと目標点Dの1:1の組み合わせの数であっても、穿刺点Aと目標点Dとの可能な全ての組み合わせの数であってもよい。また、このルート候補は、穿刺点Aの候補が、目標点Dの候補のスライス画像と同じ画像上か、目標点Dのスライス画像よりも下(足寄り)にある二つの腰椎の間のスライス画像上で特定されるような組み合わせとする。その場合、組み合わせとして好ましくは、穿刺点Aの候補は、目標点Dのスライス画像の位置から一つ下の腰椎と二つ下の腰椎との間のスライス画像上で特定される。たとえば、穿刺点Aが第3腰椎と第4腰椎の間のスライス画像上にある場合、目標点Dは第1腰椎から4腰椎の間のスライス画像上で特定され、好ましくは第2腰椎から第3腰椎の間のスライス画像上で特定される。
【0106】
次に、制御部は、設定された複数のルート候補が通過する複数のスライス画像上の通過点を特定する(S191)。すなわち、
図11に示すように、穿刺点Aを含む穿刺スライス画像と、目標点Dを含む目標スライス画像との間の複数のスライス画像において、ルート候補となる通過点の座標を算出する。制御部は、これを全てのルート候補で実行する。なお、通過点の座標は、ステップS19で説明したように算出される。
【0107】
次に、制御部は、複数のルート候補において、通過点が骨と衝突するか判定する(ステップS201)。判定は、ステップS20で説明したように行われる。そして、制御部は、すべてのルート候補について、骨と衝突するかしないか判定する。骨と衝突すると判定された場合、そのルート候補は候補外と判断される(S202)。骨に衝突しないと判定された場合、処理はステップS221に進む。
【0108】
次に、制御部は、骨と衝突しないすべてのルート候補について、各ルート候補の穿刺点Aと目標点Dとの間の複数のスライス画像において、脊髄とくも膜下腔との境界線に沿って、到達すべき範囲の内側(穿刺点から見て、頭尾方向の体軸を超えた対側)と外側(穿刺点から見て、体軸を超えない同側)の限界点を特定する(S221)。例えば、
図13に示すように、制御部は、目標スライス画像において、脊髄とくも膜下腔との境界線に沿って、くも膜下腔の到達可能範囲において、穿刺点から見て頭尾方向の体軸を超えた対側(内側)と穿刺点から見て体軸を超えない同側(外側)の限界点をプロットする。これにより、各スライス画像において、水平到達可能範囲が特定される。
【0109】
次に、制御部は、すべてのルート候補ごとに、
図14に示すように、各スライス画像で特定された水平限界点(水平到達可能範囲)の鉛直方向の分布を穿刺針の全ての到達可能範囲として特定する(S231)。これにより、穿刺針の先端が安全に到達できる到達可能範囲が鉛直・水平両方向において特定される。この到達可能範囲の形状は、
図14に示すように、対象の人体の背面に立って背中を見たとき、楕円形状となっている。到達可能範囲は、3次元で表すと、略楕円体となっている。すべてのルート候補について、この略楕円形状の到達可能範囲が特定される。
【0110】
制御部は、すべてのルート候補ごとに、ステップS231で特定する到達可能範囲の面積を算出する(S231A)。
【0111】
次に制御部は、ステップS231Aで算出した面積をそれぞれ比較し、最も面積が大きい到達可能範囲を示すルートを特定する。特定したルートの穿刺点Aと目標点Dを用いて、そのルートの第1の角度θ1と第2の角度θ2を算出する(S231B)。算出する方法は、ステップS21の方法を用いる。なお、目標点Dが正中線からずれた位置となる場合は、
図16(d)に示す形に、基準となるABCDの各点の位置を補正した上で、S21の方法を適用する。そして、処理は、ステップS24に進む。この場合、ステップS24で利用する第1の角度θ1および第2の角度θ2には、ステップS231Bで算出した角度情報を用いる。
【0112】
なお、患者が側臥位を取る場合、脊柱が下方向(ベッド方向)にたわむことがある。この場合、第2の点Cが下方向に移動し、∠ABCが90°未満となる。
図18は、第1の角度および第2の角度を算出する方法を説明するための他の構成例を示す模式図である。
図18に示すように、脊柱がたわむ場合には、X線CT画像を側臥位の状態で撮影する。次に、制御部は、第1の角度θ1および第2の角度θ2をS21の方法を用いて算出する。その結果、概ね、第1の角度θ1は30°未満、第2の角度θ2は30°未満と算出される。これにより、上記脊柱のたわみを考慮しない場合で得られた第1の角度θ1よりも若干大きい角度の第1の角度θ1が得られる。なお撮影時に、画像と患者の体表面との位置合わせのため、A、B、Cの各点にマーカーを貼付することは、手術時に穿刺の精度を向上させることに貢献する。
【0113】
以上のように、本発明のガイド装置の製造方法によれば、第1の角度θ1および第2の角度θ2を最適に調整できるので、患者毎の体型や骨格に合せたガイド装置1を提供することができる。また、穿刺点Aの特定と穿刺角度の算出によって、骨構造の干渉を確実に回避したガイド装置1を提供することができる。したがって、術者の感覚や経験に頼らない手技をサポートすることができる。
【0114】
<<第2実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第2実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0115】
以下、第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図19は、本発明の第2実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。
【0116】
本実施形態のガイド装置10は、ガイド部2の構成が異なる点以外は、前記第1実施形態のガイド装置1と同様である。具体的に、本実施形態のガイド装置10のガイド部2は、本体21と、ガイドレール22とで構成されて、把持部23を有していない。そのため、ガイド部2は、三角形状に形成されている。このような構成により、ガイド部2の構成をコンパクトにすることができる。
【0117】
本実施形態の本体21は、第2の支柱213を有していない。そのため、ガイドレール22は、本体21の第1の支柱212の上端と、補強部211とを連結するように設けられる。補強部211の長さは、特に限定されないが、第1実施形態の補強部211の長さよりも短くてもよい。また、第1の支柱212の長さは、第1実施形態の第1の支柱212よりも長い。このような構成により、ガイドレール22の長さは、第1の実施形態のガイドレール22の長さよりも長くなっている。そのため、支持部3からの本体21全体の高さが大きくなっている。
【0118】
ガイドレール22の先端は、補強部211と連結している。すなわち、ガイドレール22の先端は、補強部211の長手方向に沿って、切り欠き33から第1の支柱212の方向に所定の距離離間している。これにより、ガイドレール22に穿刺針11を固定する部材を取り付けたとしても、穿刺針11を切り欠き33に確実に通すことができる。
【0119】
本実施形態のガイド装置10は、穿刺針11を固定するための固定部材9を有する。固定部材9は、ガイドレール22に取り付けられ、ガイドレール22に沿って、離脱することなく移動可能である。固定部材9は、平面視で「コ」の字状の2つの挟持部材を有する。2つの挟持部材は、
図9に示すように、鉛直方向に並んで配置され、穿刺針11に取り付けられたプレート部材を挟持する。これにより、穿刺針11を固定部材9に取り付けることができる。なお、挟持部材の形状は、穿刺針11に取り付けられたプレート部材の形状によって変化する。
【0120】
このような構成により、本実施形態のガイド装置10は、ガイドレール22の長さが長いため、穿刺針11が生体内に入った後でも、長い距離(期間)穿刺をガイドすることができる。また、本実施形態のガイド装置10は、本体21の高さが高いため、術者によるホールド性に優れている。したがって、本実施形態のガイド装置10は、経験の浅い術者や穿刺点から到達点までの距離の長い患者(例えば、肥満患者)に適している。また、本実施形態のガイド装置10は、第1実施形態のガイド装置1の効果と同様の効果を有する。
【0121】
<<第3実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第3実施形態を説明する。
【0122】
以下、第3実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図20は、本発明の第3実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0123】
本実施形態のガイド装置100は、角度変更装置8を有している点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。角度変更装置(第2の角度変更装置)8は、ガイド部2に設けられ、第2の角度θ2を変更することができる。角度変更装置8は、第1の支柱212の長さを調整できる調節部81と、ガイドレール22を回転させるピボット部82とを有している。具体的に、調節部81は、本体21の第1の支柱212の下部に設けられ、例えば、ねじで構成されている。調節部81を操作することにより、第1の支柱212の長さを変更することができる。ピボット部82は、第2の支柱213の上部に設けられ、例えば、回転軸で構成されている。ガイドレール22は、その先端で、ピボット部82を中心に回動可能に構成されている。ピボット部82は、第2の支柱213のなるべく下の方に設置することが好ましい。ガイドレールの傾斜角度θ2が変わっても、穿刺針は切り欠きの穿刺点Aを常に通る構成とする。
【0124】
また、ガイドレール22は、その基端に嵌合部221を有し、嵌合部221で把持部23に着脱可能に構成されている。すなわち、ガイドレール22は、把持部23に固定されておらず、嵌合部221によって把持部23と嵌合している。これにより、例えば、調節部81により第1の支柱212の高さが低くなった時、嵌合部221が把持部23に追従しながら、把持部23が補強部211に近づくので、ガイドレール22の傾斜も緩くなる。換言すると、調節部81の動作により第1の支柱212が低くなることにより、支持部3に対するガイドレール22の角度が小さくなる。このように、本実施形態のガイド装置100は、ガイドレール22の角度を変更することができる。
【0125】
調節部81は、把持部23の先端に設けられていてもよい。これにより、把持部23の長さを変更することができる。例えば、把持部23の長さを短くすると、ガイドレール22の基端が把持部23の先端に追従するために、ガイドレール22の傾斜が緩やかになる。そのため、支持部3に対するガイドレール22の角度は、小さくなる。逆に、把持部23の長さを長くすると、嵌合部221が把持部23の先端に追従するために、ガイドレール22の傾斜が急になる。そのため、支持部3に対するガイドレール22の角度は、大きくなる。このように、調節部81は、支持部3に対するガイドレール22の角度を変更することができる。
【0126】
生体表面に対する穿刺針の角度(生体表面の垂線に対する穿刺針の角度θ2)は、各患者によって、若干異なっている。したがって、本実施形態のガイド装置100によれば、調節部81を用いてガイドレール22の角度を変更することによって、どのような患者に対しても確実かつ正確に目標点Dに穿刺針を穿刺することができる。すなわち、本実施形態のガイド装置100は、多種多様な患者に対しての穿刺処置に個別に対応することができる。また、本実施形態のガイド装置100は、第1実施形態のガイド装置1の効果と同様の効果を有する。
【0127】
なお、本実施形態のガイド装置100は、基準部321(311)の延長線L1と、切り欠き33を通る仮想線L2との交わる角度(第1の角度θ1)を変更することもできる。例えば、穿刺案内部313の長さを変更して(長くする、短くする)、支持部3を作成することにより行われる。また、
図5の∠ABCを変更して支持部3を作成することにより第1の角度θ1を変更することもできる。さらに、皮膚点Bの位置や目標点Dの位置などを変更することによって、第1の角度θ1を変更することもできる。
【0128】
<<第4実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第4実施形態を説明する。以下、第4実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0129】
本実施形態のガイド装置1では、第2のブレード32を有していない点以外は、前記第1実施形態のガイド装置1と同様である。具体的に、第4実施形態のガイド装置1は、第1のブレード31のみを有している。そのため、ガイド装置1全体の大きさをコンパクトにすることができ、持ち運びおよび保管の観点で有利である。また、本実施形態のガイド装置1は、第1実施形態のガイド装置1の効果と同様の効果を有する。
【0130】
<<第5実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第5実施形態を説明する。
【0131】
以下、第5実施形態について説明するが、前述した第1実施形態および第3実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図21は、本発明の第5実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。なお、前述した第1実施形態および第3実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0132】
本実施形態のガイド装置200は、本体21と把持部23との代わりに、ガイド部2が板状部材25である点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。板状部材25は、ガイドレール22を固定する機能を有する。板状部材25は、仮想線L2に沿って、支持部3に対して垂直に設けられている。また、板状部材25は、支持部3の中央部から第2のブレード32の方向にガイドレール22の幅の分だけ平行に移動している。板状部材25は、その側面に、ガイドレール22の角度を示すスケール251が表示されている。このスケール251は、支持部3の垂線に一致する線である0°と、支持部3の水平線と一致する線である90°と、それらの間の10~80°とを含む。これにより、ガイドレール22を所望の第2の角度θ2に容易に設定することができる。
【0133】
また、本実施形態のガイド装置200は、角度変更装置(第2の角度変更装置)8を有している点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。角度変更装置8は、ガイド部2に設けられ、第2の角度θ2を変更することができる。角度変更装置8は、ガイドレール22を回動させるピボット部82と、固定部83とを有する。
【0134】
ピボット部82は、ガイドレール22を板状部材25に留める機能を有する。ピボット部82は、ガイドレール22の先端に設けられ、回転軸で構成されている。ガイドレール22は、その先端で、ピボット部82を中心に、回動可能に設けられている。固定部83は、ガイドレール22を板状部材25に固定する機能を有する。固定部83は、ガイドレール22の基端に設けられ、例えば、ねじで構成されている。固定部83による固定を解除することにより、ガイドレール22が回動し、ガイドレール22の第2の角度θ2を、切り欠き312の中心の穿刺点Aから見て所望の第2の角度θ2に変更することができる。
【0135】
ガイドレール22は、板状部材25の側面にピボット部82で留められている。この状態で、スケール251にしたがって、ガイドレール22は、所望の第2の角度θ2に設定される。そして、固定部83は、ガイドレール22を板状部材25に固定する。これにより、簡易かつ迅速に第2の角度θ2を変更でき、所望の第2の角度θ2を有するガイド装置200を得ることができる。
【0136】
板状部材25は、支持部3の中央部から第1のブレード31の方向に、すなわち0123段落の方向とは反対方向に、ガイドレール22の幅の分だけ平行に移動していてもよい。この場合は、ガイドレール2およびスケール251は、板状部材25の前記側面の反対側側面に設けられる。
【0137】
このような構成により、ガイドレール22の第2の角度θ2を容易に変更することできるので、本実施形態のガイド装置200は、第3の実施形態のガイド装置100の効果と同様の効果を発揮することができる。また、本実施形態のガイド装置200は、第1実施形態のガイド装置1の効果と同様の効果を有する。
【0138】
(変形例)
次に、本発明のガイド装置の第5実施形態の変形例を説明する。
図22は、本発明の第5実施形態に係るガイド装置の変形例を模式的に示す側面図である。なお、前述した第5実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0139】
本実施形態のガイド装置200の変形例は、ピボット部82を有しない点で、前述した第5実施形態のガイド装置200と異なる。すなわち、ガイドレール22は、穿刺点Aを中心として回転可能に構成されている。そのため、スケール251は、目標点Dを中心とした第2の角度θ2であり、穿刺点Aを中心とし、支持部に対して垂直な線からの角度の数値を有する。なお、
図22では、10°間隔で数値が表示されているが、5°間隔で数値が表示されていてもよい。
【0140】
ガイドレール22は、目標点Dを中心とした第2の角度θ2を決定した後、スケール251の角度をθ2に合わせ、ネジなどの固定部材(図示しない)で板状部材25に固定される。このとき、ガイドレール22は鉛直方向に可動してもよい。また、ガイドレール22は、皮膚との間にギャップが形成されるように設けられることが好ましい。
【0141】
このような構成の変形例も、前述した第1実施形態のガイド装置1、第3実施形態のガイド装置100、第5実施形態のガイド装置200と同様の効果を有する。
【0142】
<<第6実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第6実施形態を説明する。
【0143】
以下、第6実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図23は、本発明の第6実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0144】
本実施形態のガイド装置300は、角度変更装置(第1の角度変更装置)8を有する点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。具体的に、角度変更装置8は、
図23に示すように、支持部3に設けられ、第1の角度θ1を変更することができる。本実施形態のガイド装置300は、第1のブレード31側と、第2のブレード32側とに角度変更装置8を有する。それらの構成は同じであるため、以下では、第2のブレード32側の角度変更装置8を代表して説明する。角度変更装置8は、変動基準部84と、目盛り部85と、不勢部86と、を有する。
【0145】
変動基準部84は、基準部321と同様の機能を有する。変動基準部84は、基準部321と穿刺案内部323とに沿って支持部3上に設けられ、T字状に形成されている。しかし、変動基準部84の形状は、これに限定されない。変動基準部84は、長尺状の基準バーと、回転バーとで構成されている。基準バーは、回転バーと直交している。
【0146】
変動基準部84の回転バーの先端は、切り欠き33付近に連結されている。これにより、変動基準部84は、その回転バーの先端を中心に回転可能に構成されている。変動基準部84はT字状に形成されているため、基準バーと回転バーとは常に直交している。そのため、変動基準部83が回転したとしても、適切な穿刺点Aを確実に指示することができる。また、回転バーの長さは、穿刺案内部313の長さに対応する。具体的に、回転バーの長さは、3~20mm程度が好ましく、5~18mm程度がより好ましく、15mmが最も好ましい。これにより、穿刺に適した穿刺点Aを確実に指示することができる。
【0147】
また、変動基準部84の後端は、図示しないフックなどの留め具を有している。これにより、変動基準部84は、その後端で目盛り部85に留められる。本実施形態のガイド装置300を使用するときは、ガイド装置300は、変動基準部84を正中線に合せるように、患者の腰部に設置される。
【0148】
目盛り部85は、基準部321の後端近傍で、第2のブレード32から外側に突出するように形成されている。目盛り部85は、その表面に、第1の角度θ1を示す目盛りが表示されている。これにより、第1の角度θ1を容易に認識することができる。なお、目盛り部85は、その側面または裏面に、変動基準部84の留め具を受けるための受け部(図示しない)を有している。これにより、変動基準部84を種々の角度で受け部に固定することができる。
【0149】
不勢部86は、変動基準部84を不勢する機能を有し、支持部3上に設けられている。不勢部86は、ばねなどで構成された不勢手段861と、不勢手段861を固定する固定手段862とを有する。不勢手段861は、変動基準部84と連結する。これにより、変動基準部84を不勢することができ、第1の角度θ1を正確に維持することができる。固定手段862は、不勢手段861を固定できれば、特に限定されない。ガイド部2の本体21や補強部211が固定手段862を担っていてもよい。
【0150】
このような構成により、仮想線L2に対する変動基準部84の基準バーの角度、すなわち、第1の角度θ1を容易に変更することできるので、患者の体型にあった適切な穿刺処置をすることができる。また、本実施形態のガイド装置300は、第1の実施形態のガイド装置1および第3の実施形態のガイド装置100の効果と同様の効果を発揮することができる。
【0151】
(変形例)
次に、本発明のガイド装置の第6実施形態の変形例を説明する。
図24は、本発明の第6実施形態に係るガイド装置の変形例を模式的に示す上面図である。なお、前述した第6実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0152】
本実施形態のガイド装置300の変形例は、変動基準部84の形状と、穿刺案内部323の構成の点で、前述した第6実施形態のガイド装置300と異なる。すなわち、変動基準部84は、棒状に形成されている。そして、穿刺案内部323は、切り欠き33(穿刺点A)を中心に、回動可能となっている。このため、穿刺案内部323付近の第2のブレ―ド32の部分は、収縮可能または第2のブレード32内に収容可能となっている。これにより、穿刺案内部323は、切り欠き33を中心に、穿刺案内部323の長さを半径とした円運動をする。
【0153】
変動基準部84は、穿刺案内部323と直交するように、穿刺案内部323に常に接している。この接触点が第1の点Bとなる。穿刺案内部323が回動したとき、変動基準部84の基端の位置は、変動基準部84が穿刺案内部323と常に直交するように、調整される。具体的に、穿刺案内部323が半時計回りに回動したとき、変動基準部84と穿刺案内部323との直交を維持するために、変動基準部84の基端は、
図24に示される目盛り部85の下方の位置で留められる。これにより、変更基準部84と穿刺案内部323とが常に直交することになり、適切な穿刺点Aへの確実な穿刺が可能となる。
【0154】
このような構成の変形例も、前述した第1実施形態のガイド装置1、第3実施形態のガイド装置100、第5実施形態のガイド装置200と同様の効果を有する。
【0155】
<<第7実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第7実施形態を説明する。
【0156】
以下、第7実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図25は、本発明の第7実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0157】
本実施形態のガイド装置400は、角度変更装置(第2の角度変更装置)8を有する点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。すなわち、ガイド装置400は、ガイドレール22が複数の角度に屈曲している点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。具体的に、ガイドレール22は、第2の角度θ2を変更するという角度変更装置8の機能も有している。ガイドレール22は、垂線に対して、複数の角度に設定された複数のサブレールで構成されている。例えば、
図25に示すように、ガイドレール22は、ガイドレール22の先端側から、第1サブレール22aと、第2サブレール22bと、第3サブレール22cとを有している。
【0158】
例えば、第1のサブレール22aは、支持部3の垂線に対して25°に設定されている。第2のサブレール22bは、支持部3の垂線に対して30°に設定されている。第3のサブレール22cは、支持部3の垂線に対して35°に設定されている。これにより、1つのガイド装置400で、3つの第2の角度θ2を提供することができる。これらの垂線に対する角度は、特に限定されず、所望の角度に適宜設定することができる。
【0159】
なお、第1のサブレール22aと第2のサブレール22bとの間の屈曲点および第2のサブレール22bと第3のサブレール22cとの間の屈曲点は、角度変更装置8としての機能を有する。また、サブレールの数は、3つに限定されず、4つ以上であってもよい。また、第2のサブレール22bや第3のサブレール22cを穿刺のために用いる場合、図示しない移動手段により、ガイド部2を後方に移動させることで、穿刺針の、穿刺点Aを切り欠き33に合わせる照準、または目標点Dへの到達を調整することができる。
【0160】
このような構成により、本実施形態のガイド装置400は複数の第2の角度θ2を有するので、患者の体型にあった適切な処置をすることができる。また、本実施形態のガイド装置400は、第1実施形態のガイド装置1、第3の実施形態のガイド装置100、第5実施形態のガイド装置200の効果と同様の効果を有する。
【0161】
<<第8実施形態>>
次に、本発明のガイド装置の第8実施形態を説明する。
【0162】
以下、第8実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。
図26は、本発明の第8実施形態に係るガイド装置を模式的に示す斜視図である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には、同一の符号を付してある。
【0163】
本実施形態のガイド装置500は、ガイド部2が複数のガイド部を有し、角度変更装置(第2の角度変更装置)8を有する点で、第1実施形態のガイド装置1と異なる。具体的に、
図26に示すように、ガイド部2は、第1実施形態で説明したガイド部2と、2つのサブガイド部2a、2bとを含む。サブガイド部2a、2bは、第2の角度θ2が異なる以外はガイド部2と同じ機能、構成を有する。そのため、詳細な説明は省略する。
【0164】
サブガイド部2aの第2の角度θ2は、例えば、支持部3の垂線に対して25°に設定されている。ガイド部2の第2の角度θ2は、例えば、支持部3の垂線に対して30°に設定されている。また、サブガイド部2bの第2の角度θ2は、支持部3の垂線に対して35°に設定されている。これにより、1つのガイド装置500で、3つの第2の角度θ2を提供することができる。これらの垂線に対する角度は、特に限定されず、所望の角度に適宜設定することができる。また、ガイド部2は、3つ以上のサブガイド部を有していてもよい。このとき、ガイド部2とサブガイド部2a、2bの各補強部211の長さは、それぞれに設定する第2の角度θ2に従い、穿刺点Aが切り欠き33に合うよう、調整されていてもよい。
【0165】
ガイド部2と、サブガイド部2aと、サブガイド部2bとは、所定の間隔を介して互いに平行に設けられている。しかし、これらのガイド部2、2a、2bが支持部3上に設けられる限り、所定の間隔は、特に限定されない。
【0166】
角度変更装置8は、
図26に示すように、支持部3に設けられ、第2の角度θ2を変更する機能を有する。角度変更装置8は、レール部87と、固定手段(図示しない)とを有する。
【0167】
レール部87は、ガイド部2と、サブガイド部2aおよび2bを移動させる機能を有する。レール部87は、2本のレールで構成されている。レール部87は、ガイド部2と直交する方向に沿って、支持部3上に設けられている。これにより、ガイド部2と、サブガイド部2aおよび2bをレール部87に沿って移動させることで、適切な第2の角度θ2を有するガイド部2を穿刺針の穿刺に用いることができる。レール部87の2本のレールは、所定の間隔をおいて配置されている。この間隔は、特に限定されない。また、レールの本数も特に限定されず、1本であってもよい。
【0168】
固定手段は、ガイド部2と、サブガイド部2aおよび2bとを支持部3に固定する機能を有する。固定手段は、支持部3の背面または裏面に設けられ、ねじなどで構成されている。固定手段による固定を解除することで、ガイド部およびサブガイド部2a、2bは、レール部87上を移動することができる。
【0169】
本実施形態のガイド装置500の支持部3は、台形に似た五角形に形成されている。そのため、支持部3の底辺部34は、レール部87と平行に形成されている。したがって、ガイド部2およびサブガイド部2a、2bの下部基端は、底辺部34に沿って移動し、固定手段により固定されるように構成されている。
【0170】
また、支持部3は、切り欠き33の近傍に、マーカー35を有する。このマーカー35は、穿刺針が切り欠き33を通って穿刺点Aに到達できるように、ガイド部2およびサブガイド部2a、2bを切り欠き33に合せる位置決め手段として機能する。このマーカー35により、ガイド部2およびサブガイド部2a、2bが支持部3上の適切な位置に位置するため、穿刺針を確実に穿刺点Aに到達させることができる。
【0171】
このように、患者にあった第2の角度θ2を有するガイド部2およびサブガイド部2a、2bを移動させ、マーカー35に合せてそれらを支持部3に固定する。こうすることにより、本実施形態のガイド装置500は、複数の第2の角度θ2に対応した穿刺を可能にする。そのため、患者の体型にあった適切な処置をすることができる。また、本実施形態のガイド装置500は、第1実施形態のガイド装置1、第3の実施形態のガイド装置100、第5実施形態のガイド装置200、第7実施形態のガイド装置400の効果と同様の効果を有する。
【0172】
以上、本発明のガイド装置を、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の手段または構成物が付加されていてもよい。また、本発明は、前記各実施形態のうちの、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
【0173】
また、本発明のガイド装置を用いた穿刺は、ガイド装置の基準部の先端を皮膚点Bに合せるように、ガイド装置を生体に設置することにより行われると説明したが、本発明はこれに限定されない。穿刺針が確実に腰部くも膜下腔に到達する限り、穿刺点Aの位置、目標点Dの位置、ガイド装置を生体に設置する位置は、特に限定されない。例えば、目標点Dが第4腰椎と第5腰椎との間の腰部くも膜下腔であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明は、患者の腰部の第1の点Bの近傍に設けられた穿刺点Aから、前記腰部の前記第1の点Bとは異なる第2の点Cに対応する生体内の目標点Dに穿刺針を穿刺するためのガイド装置を提供する。このガイド装置は、前記穿刺針の穿刺をガイドするガイド部と、前記ガイド部を支持し、前記腰部に当接するための支持部と、を有する。前記支持部の一部は、前記穿刺点Aと前記第2の点Cとを結ぶ直線に対して第1の角度を形成するように構成され、前記ガイド部は、前記支持部の垂線に対して、第2の角度で設けられている。前記第1の角度は、前記穿刺点Aと、前記第2の点Cと、前記第1の点Bとで形成され、前記第2の角度は、前記穿刺点Aと、前記目標点Dと、前記第2の点Cとで形成される。これにより、患者・術者を問わず簡単かつ正確に穿刺針を目標点に穿刺することができるガイド装置を提供することができる。したがって、本発明は、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0175】
1、10、100、200、300、400、500…ガイド装置 11…穿刺針 2…ガイド部 2a、2b…サブガイド部 21…本体 211…補強部 212…第1の支柱 213…第2の支柱 22…ガイドレール 22a、22b、22c…サブレール 221…嵌合部 23…把持部 25…板状部材 251…スケール 3…支持部 31…第1のブレード 311…基準部 312…切り欠き 313…穿刺案内部 32…第2のブレード 321…基準部 322…切り欠き 323…穿刺案内部 33…切り欠き 34…底辺部 35…マーカー 8…角度変更装置 81…調節部 82…ピボット部 83…固定部 84…変動基準部 85…目盛り部 86…不勢部 861…不勢手段 862…固定手段 87…レール部 9…固定部材 L1…延長線 L2…仮想線