(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】外科用開創器用ブレードおよび外科用開創器
(51)【国際特許分類】
A61B 17/02 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
A61B17/02
(21)【出願番号】P 2018143978
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅野 晴夫
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0015417(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0075644(US,A1)
【文献】特開2015-037610(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106456151(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00 - 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の本体部を備えた支持体と、前記支持体に軸支された2つ以上の可動部材とを備える外科用開創器用ブレードであって、
前記可動部材が、支持体に軸支された箇所に近い側の端部である基端部と、前記基端部と反対側に位置する先端部と、基端部と先端部との間の平坦な面を形成する中間部とを有し、
前記可動部材の基端部が、前記支持体の長手方向の基端側に位置し、
前記中間部の表面が、前記支持体の前記本体部の平坦な面に対し略平行に延びており、
前記可動部材が、軸支された箇所を中心に、前記本体部の平坦な面に対して略平行に回転可能である、外科用開創器用ブレード。
【請求項2】
前記可動部材が、互いに接近および離間可能な2つの可動部材を有し、
前記2つの可動部材の各々の中間部に設けられた、前記2つの可動部材を最も接近した閉鎖位置で固定可能な閉鎖手段をさらに備える請求項1に記載の外科用開創器用ブレード。
【請求項3】
前記可動部材の基端部と、前記支持体の本体部とに互いに適合するように設けられた、前記可動部材の位置を固定可能な位置固定手段をさらに備える請求項1又は2のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【請求項4】
前記支持体は、前記支持体の本体部の基端と接続し、かつ前記本体部に対して角度をなして延びる頂部を備え、
前記本体部および頂部の少なくとも一方、又は可動部材には照明器具が取り付けられている請求項1~3のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【請求項5】
前記本体部における前記可動部材が装着されている面は、上面と、前記上面と連続しかつ前記上面と角度をなす下面とを備え、
前記支持体は、前記支持体の本体部の基端と接続し、かつ前記本体部に対して角度をなして延びる頂部を備え、
前記頂部と前記下面が、前記上面を延長した平面に対して同じ側に位置し、
前記上面
を延長した平面と前記下面のなす角度は、0度よりも大きく15度以下であり、
前記頂部が本体部の前記上面
を延長した平面となす角度は70~110度である請求項1~3のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【請求項6】
前記支持体の本体部の先端と、前記可動部材の各々の先端とが、鋸歯状の形状を有する請求項1~5のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【請求項7】
直線状のフレームと、
請求項1~6のいずれかに記載の2つのみの外科用開創器用ブレードと、
2つのアームの間の間隔を変更すべく前記フレームに沿って各アームの移動が可能となるように、基端側で前記フレームに取り付けられ、先端側で前記2つの外科用開創器用ブレードのそれぞれに取り付けられた2つのアームと、
を備え、
前記外科用開創器用ブレードの各々は各アームの先端部に設けられたコネクタに装着され、
各アームの先端部に設けられたコネクタを介して、
コネクタの角度を変化させることにより、前記外科用開創器用ブレードのフレームに対する角度が変更可能である、外科用開創器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用開創器用ブレードおよび該外科用開創器用ブレードを備えた外科用開創器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脊椎手術では、外科医が術野(手術の際に視認できる領域)を確保しつつ手術を行えるよう、術部の大きさに応じて外科的露出が行われてきた。外科的露出は、通常、適切な長さと深さの皮膚および皮下組織の切開から開始される。そして、開創器と呼ばれる外科的器具がその切開部に挿入され、皮膚、皮下組織および他の軟部組織を術野の外に退けて術部を開放した状態を維持し、術野を確保するために使用される。これにより、所望の術部へのアクセスが可能となり、術部の視認ができ、かつ必要な手術手技を行うことができる。
【0003】
従来の術部の大きさに応じた外科的露出は高侵襲性であるため、近年、切開する範囲を小さくし、より小型の開創器を用いた低侵襲な手術が行われるようになってきている。そのような開創器として、環状に配置された複数のブレードを備えた開創器(特許文献1,2,3)や、互いに離間して配置された一対のブレードを備えた開創器(特許文献4)が知られている。小型の開創器を用いた低侵襲な手術では、従来の術部の大きさに応じた外科的露出を行う場合に比べて、創(きず)が小さい、筋肉等の軟部組織の損傷が小さい、出血量が小さい、感染のリスクが低減される、術後の創痛が軽い、患者の入院期間が短い、高齢者やリスクの高い患者への適用が拡大する等の多くの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-514501
【文献】米国特許出願公開第2008/0015417号
【文献】特表2013-509982
【文献】特表2013-524861
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1~4のような従来の開創器を用いた場合、術野の範囲がブレードの動作領域によって制限されるため、脊椎の頭尾方向(脊椎の長手方向とも言う)に長く術野を取りたい場合に、対応できないという問題がある。具体例として、
図16(A)および(B)の脊椎モデルSにおいて、実線の丸で囲んだ部分Wを切開部(創)とし、2つの曲線Bを特許文献4に記載されているような開創器の一対のブレードの配置する箇所とし、点線の丸で囲んだ領域OFを術野(operative field)とする。この場合、術野OFの断面積は、創Wにより画成される領域および設置された一対のブレードの間に画成される領域とほぼ同じかそれより小さくなる。
【0006】
また、特許文献1,2,3のような環状に配置された複数のブレードを備えた開創器の場合、脊椎の正中部(中央部)にある骨組織である棘突起を切除しないと、正中をまたいで左右両側の術野を同時に展開できない。したがって通常は、
図17(A)および
図17(B)に示すように、ブレードを脊椎に対して斜めに挿入し、脊椎の左右どちらか片側へ角度を合わせて設置しなければならず、術野OFの展開される範囲が限定されてしまう。その結果、術者が視認できる範囲や角度が限定され、かつ狭い術野において難易度の高い手術手技が必要となり、様々な手術の簡便性や安全性が損なわれてしまう。
【0007】
さらに、特許文献1~4のような小型の開創器を用いた場合、術野が狭いため、従来の適切な手術器具が使用できず、施行可能な手術手技の種類および数が限定されてしまう。そのため、難易度が高い煩雑な手技を要する手術、術野が脊椎の頭尾方向に広がる多椎間の手術、多くの手術器械を使用するインプラント設置を行う手術等が困難となる。また、小型の開創器を用いた手術では、術部が暗くなり、術野の視認性が悪化するという問題も存在する。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決すべき課題は、低侵襲性で、かつより広い術野を確保することができる外科用開創器用ブレード、および該外科用開創器用ブレードを備えた外科用開創器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、外科用開創器用ブレードを切開部に挿入した後、ブレードの形状を脊椎の頭尾方向に沿って開大させることにより、切開部を小さくしつつ、より広い術野を確保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
【0011】
項1.長尺状の本体部を備えた支持体と、前記支持体に軸支された少なくとも1つの可動部材とを備える外科用開創器用ブレード。
【0012】
項2.前記可動部材が、互いに接近および離間可能な2つの可動部材を有する項1に記載の外科用開創器用ブレード。
【0013】
項3.前記可動部材を最も接近した閉鎖位置で固定可能な閉鎖手段をさらに備える項1または2に記載の外科用開創器用ブレード。
【0014】
項4.前記可動部材の位置を固定可能な位置固定手段をさらに備える項1~3のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【0015】
項5.前記可動部材が、支持体に軸支された箇所に近い側の端部である基端部と、前記基端部と反対側に位置する先端部と、基端部と先端部との間の平坦状の中間部とを有し、前記中間部の表面が、前記本体部の表面に対し略平行に延びている項1~4のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【0016】
項6.前記支持体は、前記支持体の本体部の基端と接続し、かつ前記本体部に対して角度をなして延びる頂部を備え、
前記本体部および頂部の少なくとも一方、又は可動部材には照明器具が取り付けられている項1~5のいずれかに記載の外科用開創器用ブレード。
【0017】
項7.項1~6のいずれかに記載の外科用開創器用ブレードと、前記外科用開創器用ブレードを支持するアームとを備えた外科用開創器。
【発明の効果】
【0018】
本発明の外科用開創器用ブレードおよび外科用開創器によれば、低侵襲性で、かつ術野がより広い手術が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】閉鎖位置にある本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。
【
図3】開放位置にある本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。
【
図4】
図3の外科用開創器用ブレードの裏側を示す略背面図。
【
図6】(A)外科用開創器用ブレードの位置固定手段を示す
図2の6-6線における部分拡大略断面図。
【
図7】(A)本発明の第1実施形態の開創器用ブレードを用いた場合の切開部、ブレード、術野の関係を説明する略正面図。(B)略側面図。S:脊椎モデル、W:切開部(創)、B1,B2:ブレードの位置、OF:術野。
【
図8】閉鎖位置にある本発明の第2実施形態の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。
【
図9】開放位置にある
図8の外科用開創器用ブレードを示す略側面図。
【
図10】
図8の外科用開創器用ブレードの略側面図。
【
図11】
図8の外科用開創器用ブレードの略端面図。
【
図12】(A)閉鎖位置にある別例の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。(B)開放位置にある
図12(A)の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。
【
図13】(A)閉鎖位置にある別例の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。(B)開放位置にある
図13(A)の外科用開創器用ブレードを示す略正面図。(C)
図13(A)の外科用開創器用ブレードの略断面図。
【
図14】(A),(B)外科用開創器用ブレードの位置固定手段の別例を示す部分拡大略断面図。
【
図15】別例の外科用開創器用ブレードを示す略背面図。
【
図16】(A)従来の開創器を用いた場合の切開部、ブレード、術野の関係を説明する略正面図。(B)略側面図。S:脊椎モデル、W:切開部(創)、B:ブレードの位置、OF:術野。
【
図17】(A)別の従来の開創器を用いた場合の切開部、ブレード、術野の関係を説明する略端面図。(B)略側面図。S:脊椎モデル、W:切開部(創)、B:ブレードの位置、OF:術野。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1に示すように、外科用開創器1は、フレーム2と、フレーム2に取り付けられた、外科用開創器用ブレード10を支持するためのアーム3と、アーム3に取り付けられた外科用開創器用ブレード10とを備えている。アーム3は基端側でフレーム2に取り付けられ、先端側で外科用開創器用ブレード10に取り付けられている。アーム3およびブレード10からなる組立体が
図1には2つ示されている。アーム3の基端部にはコネクタ4が設けられ、フレーム2はコネクタ4の貫通孔(非図示)に挿通されており、コネクタ4はフレーム2に沿って移動可能である。
【0022】
手回し調整ピン5aはフレーム2に対するアーム3の位置決め手段として作用する。具体的には、コネクタ4の上面を貫通して立設されたピン5aを一方向に回すとピン5aの先端のギヤ(歯車)がフレーム2のギヤ(鋸歯状部)に接触してフレーム2に対するアーム3の移動が可能となり、ピン5aを上記の方向とは逆方向に回すと、アーム3は上記とは逆方向に移動する。アーム3の位置は、爪状の止め具(非図示)で固定される。このため、アーム3をフレーム2の任意の位置で固定することができ、2つのアーム3の間の間隔を適宜変更し、固定することができる。2つのアーム3の間の間隔を術部の大きさに合わせて変更することで、外科用開創器1を種々の手術に対応させることができる。
【0023】
アーム3の先端部には第2のコネクタ6が設けられている。第2のコネクタ6は外科用開創器用ブレード10を取り付けるための孔(非図示)を備えており、外科用開創器用ブレード10は第2のコネクタ6に外科用開創器用ブレード10を装着するための固定手段14を備えている。固定手段はねじ、リベット等であってよい。
【0024】
手回し調整ピン5bを回すことによって、コネクタ6の角度を変化させることが可能となり、これによってコネクタ6を介して固定されたブレード10のフレーム2に対する角度が変更可能となる。術部の大きさに応じて、両側にある2つのブレード間の角度を適宜調整することができる。
【0025】
図2は、閉鎖位置にある本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレード10を示し、
図3は、開放位置にある外科用開創器用ブレード10を示す。
図4は、外科用開創器用ブレード10の裏側を示し、
図5は外科用開創器用ブレード10の略側面図である。
【0026】
外科用開創器用ブレード10は、支持体11と、支持体11に軸支された2つの可動部材20,21とを備えている。2つの可動部材20,21が枢着ピン20a,21aにより支持体11に軸支されている位置は、本体部12における長手方向中心線C(
図4)の両側にある。
【0027】
支持体11は、長尺状の本体部12と、本体部12の基端と接続し、かつ本体部12に対して角度をなして延びる頂部13とを備えている。頂部13が本体部12の上面12a
を延長した平面となす角度α(
図5)は0度よりも大きく、180度未満であり、好ましくは45~135度、より好ましくは70~110度である。
【0028】
本実施形態では、本体部12と頂部13は連続している。
図4に示すように、頂部13には、LED等の光ファイバ光源、またはその他の光源等の照明器具を中に通過させて取り付けるための孔15と、固定手段14を取り付けるための孔16が設けられている。孔15は一端が頂部13に、他端が本体部12に開口している。
【0029】
可動部材20,21の各々は、支持体11に軸支された箇所である枢着ピン20a,21aに近い側の端部である基端部20b,21bと、基端部20b,21bと反対側に位置する先端部20c,21cと、基端部20b,21bと先端部20c,21cとの間の平坦状の中間部20d,21dとを有する。本実施形態では、基端部20b、中間部20d、および先端部20cが平板板状の一つのほぼ平坦な面を形成し、基端部21b、中間部21dおよび先端部21cが、平板板状の一つのほぼ平坦な面を形成している。このため、
図5から理解されるように、可動部材20,21の表面は、本体部12の下面12b(
図5)に対し略平行に延びている。
【0030】
本体部12における可動部材20,21が装着されている面は、上面12aと、上面12aと連続しかつ上側の面12aと角度をなす下面12bとを備えている。上面12a
を延長した平面と下面12bのなす角度β(
図5)は、好ましくは0度よりも大きく15度以下である。枢着ピン20a,21aが、可動部材20,21をそれぞれ貫通して下面12bに設けられた孔(非図示)に嵌合固定されることにより、可動部材20,21は枢着ピン20a,21aを中心に回転し、互いに接近および離間可能である。
【0031】
図2及び
図6に示すように、枢着ピン20a,21aよりも基端側で可動部材20,21に1つの又は複数の互いに離間した略直方体の突出部27を設け、本体部12の表面に該突出部27の形状に適合した突出部27と嵌合する1つの又は複数の凹み28を設ける。可動部材20,21に設けられた突出部27は、可動部材20,21が枢着ピン20a,21aを中心として回転すると、円弧状の軌跡を描き、本体部12に設けられた複数の凹み28はその軌跡と対応する位置に設けられている。このような、突出部27と凹み28の構成により、可動部材20,21の位置が段階的に固定される。
【0032】
図2の閉鎖位置では、可動部材20における可動部材21に近い側の側部20eと、可動部材21における可動部材20に近い側の側部21eとが互いに接触し、最も閉じた状態にある。
【0033】
図2の閉鎖位置において、可動部材20,21は突出部27及び凹み28の嵌合により(
図6)固定されている。可動部材20,21を閉鎖位置で固定する構成は、外科用開創器用ブレード10を切開部を通して術部に進めるときに可動部材20,21の開大が防止されるため有利である。
【0034】
図3の開放位置では、可動部材20の側部20eと、可動部材21の側部21eとは互いに離れている。可動部材20と可動部材21は、基端部20b,21bにおいて互いに接触し、これ以上近づく方向への回転が規制されている。このため、可動部材20の先端部20cと可動部材21の先端部21cは互いに最も開いた状態にある。
図3において、それぞれの枢着ピン20a,21aを通って可動部材20の長手方向軸と可動部材21の長手方向軸がなす角度γ(
図3)は、0~180度であることが好ましい。
【0035】
図3の開放位置において、可動部材20,21は突出部27及び凹み28の嵌合により(
図6)固定されている。可動部材20,21を開放位置で固定する構成は、手術の際に外科用開創器用ブレード10を開放位置にしたまま、外科用開創器用ブレード10から離れて術者は別の作業を行うことができるため有利である。
【0036】
第1の実施形態の外科用開創器用ブレード10では、突出部27及び凹み28が可動部材20,21を所望の位置で固定可能な位置固定手段として機能する。
【0037】
可動部材20および可動部材21は、
図2の閉鎖位置と
図3の開放位置との間で回転する様式で移動可能である。可動部材20および可動部材21の開放位置及び閉鎖位置への移動は、手で行ってもよいし、任意の工具を用いて行ってもよい。
【0038】
外科用開創器用ブレード10が
図2の閉鎖位置にあるとき、可動部材20,21の先端20f、21fと、本体部12の先端12fは、ほぼ同一高さにあり、外科用開創器用ブレード10が
図3の開放位置にあるとき、可動部材20,21の先端20f、21fは、本体部12の先端12fよりも基端側を回動する。この構成は、手術の際に外科用開創器用ブレード10の本体部12の先端12fを術部に当接させた後、これを支えとして可動部材20,21を安定的に開閉させることができるため有利である。
【0039】
開創器1のフレーム2ならびにアーム3、および外科用開創器用ブレード10の支持体11ならびに可動部材20,21は、適切な任意の材料で製造してもよい。例えばステンレス、チタン合金、またはアルミニウム等を始めとする任意の金属材料から形成することもできるし、炭素繊維強化高分子(CFRP) 、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高剛性で加工しやすい材料から形成することもできる。あるいは、外科用開創器用ブレード10の支持体11ならびに可動部材20,21を、シリコーン樹脂等の弾性材料から形成することもできる。
【0040】
本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレード10および該外科用開創器用ブレード10を備えた外科用開創器1は、好ましくは脊椎手術のために使用することができる。より具体的には、本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレード10および外科用開創器1は、脊椎(頚椎、胸椎、腰椎)の固定術、椎弓形成術、椎弓切除術、椎間板切除術等に使用することができる。
【0041】
例えば、本発明の実施形態の外科用開創器用ブレードおよび外科用開創器は、頸椎手術(例えば、頚椎椎弓形成術、頚椎椎弓切除術、頸椎後方除圧固定術、頸椎前方除圧固定術、等)、胸椎手術(例えば、胸椎前方および側方固定術、胸椎後方除圧術、胸椎後方除圧固定術、椎体置換術等)、または腰仙椎手術(例えば、腰椎椎間板切除術、腰椎椎弓形成術、腰椎前方および側方固定術、腰椎後方除圧術、腰椎後方固定術、椎体置換術、椎体間固定術等)、脊柱側彎症手術、脊柱後弯症手術、脊椎脊髄腫瘍切除術、頚椎後頭部手術等のために使用することができる。更には、本発明の実施形態の外科用開創器用ブレードおよび外科用開創器は、脊椎手術分野に限らず、必要に応じて他の様々な外科手術にも適宜応用が可能である。
【0042】
ここで、第1実施形態の外科用開創器用ブレード10の作用について説明する。
【0043】
まず、外科医は、患者における手術標的部位の上方の患者の皮膚に切開部を生成する。切開部は脊椎の頭尾方向(長手方向)に、脊椎の周囲の皮膚に生成する。その皮膚切開部から皮下組織および筋や脂肪等の軟部組織を展開する。次に、ブレード10の可動部材20,21を
図2の閉鎖位置に配置し、つまりブレード10の横幅を狭くした状態で、各切開部に、切開部の延在する方向に沿って、各ブレード10を挿入する。次に、ブレード10の可動部材20,21を枢着ピン20a,21aを中心に回転させ、ブレード10の可動部材20,21を
図3の開放位置に配置する。このとき、ブレード10の横幅は
図2の閉鎖位置のそれよりも大きくなり、ブレード10の位置が脊椎の頭尾方向(長手方向)に拡張される。これにより、手術用通路を脊椎の頭尾方向(長手方向)に拡張し、切開部(創)の部分は小さいままで、術野を脊椎の頭尾方向(長手方向)に拡張することができる。
【0044】
具体的には、
図7(A)および(B)の脊椎モデルSを参照すると、本発明の第1実施形態の外科用開創器用ブレード10を備えた外科用開創器1を用いると、実線の丸で囲んだ切開部(創)の部分Wは小さいが、一対のブレードを配置する箇所は、B1(2箇所)からB2(2箇所)に拡張され、術野OFも、白矢印で示した脊椎の頭尾方向(長手方向)に拡張される。術野OFの断面積は、創Wにより画成される領域よりも、深部に向かうにつれて大きくなる。
【0045】
手術標的部位への施術が終わると、外科医はブレード10の可動部材20,21を
図2の閉鎖位置に戻し、手術用通路を閉じ、患者から外科用開創器用ブレード10を取り出し、手術創を閉じ、手術を完了する。
【0046】
このように、本実施形態の外科用開創器用ブレード10およびこれを備えた外科用開創器1によれば、従来の術部の大きさに応じた外科的露出を行う場合に比べて、脊椎の頭尾方向(長手方向)に術野を拡張することができ、低侵襲性で、かつ術野がより広い手術が可能となる。このため、術部の大きさに応じた従来の外科的露出に比べて、創(きず)が小さい、筋肉等の損傷が小さい、出血量が小さい、感染のリスクが低減される、術後の創痛が軽い、患者の入院期間が短い、高齢者やリスクの高い患者への適用が拡大する等の多くの効果を奏する。
【0047】
さらに従来の複数のブレードを使用した筒状の開創器では、正中部の骨組織を切除しないと困難であった左右両側の展開を(
図17)、本実施形態の外科用開創器用ブレード10では一か所の小さな皮膚切開で行うことが可能となる。
【0048】
次に、
図8~11を参照しながら本発明の第2実施形態の外科用開創器用ブレード10について説明する。第1実施形態と同じ符号については説明を省略する。
【0049】
第2実施形態の外科用開創器用ブレード10は平板状の可動部材20,21を備え、可動部材20,21はそれぞれ枢着ピン20a,21aを中心に回転し、互いに接近および離間可能である。
【0050】
可動部材20の中間部20dには凹み20gが設けられ、可動部材21の中間部21dには突出部21gが設けられている。可動部材20に設けられた凹み20gと可動部材21に設けられた突出部21gは形状が適合している。
【0051】
図8の閉鎖位置では、凹み20gと突出部21gが嵌合し、可動部材20における可動部材21に近い側の側部20eと、可動部材21における可動部材20に近い側の側部21eとが互いに接触している。可動部材20に設けられた凹み20gおよび可動部材21に設けられた突出部21gは、可動部材20,21を最も接近した閉鎖位置で固定可能な閉鎖手段を構成する。
【0052】
図9の開放位置では、突出部21gが凹み20gから離脱し、可動部材20と可動部材21とは全体が離れている。
【0053】
第2実施形態の外科用開創器用ブレード10では、支持体11の本体部12と頂部13は連続しており、
図11に示すように、頂部13の基端部には頂部13の上面13aに対して略垂直な方向であって、かつ頂部13の幅方向に、互いに離間した2つの溝24が設けられている。
【0054】
図11に示すように、可動部材20,21の基端部20b,21bの基端の部分20h,21hが、支持体11の頂部13の上に折り返されている。部分20h,21hの各々にはボルト25の挿通用の孔(非図示)が開けられており、ボルト25を、可動部材20,21の部分20h,21hに設けられた該孔に通して締め付け、頂部13の上にある溝24に圧着させることで、可動部材20,21が支持体11に対して位置決めされる。
【0055】
ボルト25を緩めると、可動部材20,21を、枢着ピン20a,21aを中心に回転させることができ、可動部材20,21を、溝24に沿って移動させることで、互いに接近および離間させることが可能である。ボルト25を締めると、可動部材20,21が回転不能となり、可動部材20,21を任意の位置で固定させることができる。このように、第2実施形態の外科用開創器用ブレード10では、ボルト25および溝24が、可動部材20,21を任意の位置で固定可能な位置固定手段として機能する。
【0056】
第2実施形態の外科用開創器用ブレード10では、ボルト25の締結により可動部材20,21を任意の位置で固定できるため、外科用開創器用ブレード10の可動部材20,21の配置が、第1実施形態の外科用開創器用ブレード10のように
図2の閉鎖位置で外科用開創器用ブレード10を切開部に挿入し、その後、
図3の開放位置へと拡張する態様に限られない。例えば、可動部材20の長手方向軸と可動部材21の長手方向軸がなす角度γ’が第1の角度である第1位置で外科用開創器用ブレード10を切開部に挿入し、その後、角度γ’が第1の角度よりも大きい第2の角度である第2位置まで外科用開創器用ブレード10を拡張することができる。第1の角度は0~30度であることが好ましく、第2の角度は30~180度であることが好ましい。
【0057】
ここまで本発明を第1および第2実施形態を例にとって説明してきたが、本発明はこれに限られず、以下のような種々の変形が可能である。
・第1実施形態の突出部27と凹み28を逆にしてもよい。つまり、可動部材20,21に1つの又は複数の凹み28を設け、本体部12に突出部27を設けてもよい。
・第1および第2実施形態において、可動部材20,21の先端20f、21fと、本体部12の先端12fはほぼ同一高さとしたが、可動部材20,21の先端20f、21fは本体部12の先端12fよりも短くてもよいし、本体部12の先端12fより長くてもよい。
・
図12(A),(B)に示すように、可動部材20の基端部20bに1つの又は複数の互いに離間した突出部27を設け、可動部材21の基端部21bに1つの又は複数の凹み28を設けてもよい。この例では、可動部材20,21は、枢着ピン20a,21aを中心に回転するだけでなく、可動部材20の基端部20bが可動部材21の基端部21bよりも支持体11の本体部12に近い位置を取ることができる。
図12(A)の閉鎖位置から可動部材20,21を回転させると、
図12(B)の開放位置では、可動部材20の基端部20bが可動部材21の基端部21bと重なり合い、基端部20bに設けた突出部27と基端部21bに設けた凹み28とが嵌合し、可動部材20,21の位置が固定される。この例でも、突出部27及び凹み28は、可動部材20,21を所望の位置で固定可能な位置固定手段として機能する。なお、可動部材20の基端部20bに凹み28を設け、可動部材21の基端部21bに突出部27を設けてもよい。
・
図13(A)~(C)に示すように、頂部13の基端部に、頂部13の上面13aに対して略垂直な方向であって、かつ頂部13の幅方向に溝29を設け、可動部材20,21の基端部20b,21bを支持体11の頂部13の上に折り返した爪状の部分20h,21hを、溝29に引っ掛けるように構成してもよい。溝29の形状は限定されず、爪状の部分20h、21hの外形に適合した形状としてもよいし、爪状の部分20h、21hを収容可能な別の任意の形状としてもよい。溝29を仕切り30を介して複数設けることで、
図13(A)の閉鎖位置と
図13(B)の開放位置で爪状の部分20h,21hの位置を変えることができ、この例では、
図13(A)の開放位置では爪状の部分20h,21hが頂部13の最も外側の両端の溝29に固定配置され、
図13(B)の閉鎖位置では爪状の部分20h,21hが頂部13の最も内方の溝29に固定配置される。爪状の部分20h,21hと溝29は、可動部材20,21を所望の位置で固定可能な位置固定手段として機能する。
・突出部27及び凹み28の形状は
図6に示した略直方体とこれに適合する形状に限らず、互いに嵌合可能な任意の形状をとることができる。例えば、
図14(A)に示すように、突出部27を断面三角の柱状部分とし、凹み28をそれに適合する形状としてもよい。また、
図14(B)に示すように、突出部27を断面略半円の柱状部分とし、凹み28をそれに適合する形状としてもよい。
・
図15に示すように、支持体11の本体部12の先端12f、ならびに可動部材20,21の先端20f,21fを、皮膚、他の軟組織との係りを良くするために、鋸歯状の形状としてもよい。
・第1および第2実施形態では外科用開創器用ブレード10が2つの可動部材20,21を備えていたが、可動部材の数は少なくとも一つであればよく、1つ、3つ、または4つ以上であってもよい。
・第1および第2実施形態では、頂部13及び本体部12に開口する照明器具取り付け用の孔15を設けたが、孔15は省略してもよい。代わりに、照明器具は可動部材20,21に取り付けられても良い。照明器具の本体部12又は可動部材20,21への取り付け方法は、孔15に設置する方法の他にも、引っかけ部材を用いて取り付ける方法や、磁力で取り付ける等の他の方法を用いても良い。
・外科用開創器用ブレード10を支持する外科用開創器1のフレーム2及びアーム3の構造は
図1に示した構成に限定されず、外科用開創器1は、外科用開創器用ブレードと、各外科用開創器用ブレードを支持するアームと、該アームを取り付けるフレームとを備えた任意の構成を有することができる。
【0058】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0059】
本発明の実施形態の開創器用ブレードを備えた外科用開創器を用いて、頸部脊髄症の患者1名の椎弓形成術を行ったところ、脊椎の頭尾方向(長手方向)における切開(創)の長さは3cm程度で、4椎弓の椎弓形成が可能であった。従来の開創器を使用した場合、4椎弓の頚椎椎弓形成術は、通常10cm程度の皮膚切開が必要である。また、本発明の実施形態の外科用開創器によると、従来の高侵襲性の椎弓切除術に比べて術後の創部の疼痛が少なく回復が早いことが確認された。
【符号の説明】
【0060】
1・・・外科用開創器、3・・・アーム、10・・・外科用開創器用ブレード、11・・・支持体、12・・・本体部、13・・・頂部、20,21・・・可動部材、20b,21b・・・可動部材の基端部、20c,21c・・・可動部材の先端部、20d,21d・・・可動部材の中間部。