(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング剤、スクリーニング用キット、及びスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230804BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20230804BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20230804BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230804BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230804BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230804BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230804BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20230804BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20230804BHJP
C12N 5/0793 20100101ALN20230804BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230804BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20230804BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20230804BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20230804BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
A61K45/00
A61K48/00
A61P3/10
C12N15/12
C07K14/705
C07K16/28
C12N5/071
C12N5/0793
C12N15/113 140Z
C12N15/115 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
(21)【出願番号】P 2018177931
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】豊島 秀男
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友隆
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 康司
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500291(JP,A)
【文献】国際公開第2018/094107(WO,A1)
【文献】特開2014-183768(JP,A)
【文献】特開2008-179540(JP,A)
【文献】国際公開第2012/005339(WO,A1)
【文献】特表2006-516259(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0298200(US,A1)
【文献】国際公開第2017/172733(WO,A1)
【文献】Int. J. Cancer,2013年,132(8),pp.1731-1740
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,503(1),2018年,pp.385-390,Epub 2018 Jun 15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-1/70
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、前記被験物質の有無に応じ
たフリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の
増加、及びフリズルド3タンパク質の活性の
増加よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する工程を含む、糖尿病予防若しくは治療用又はインスリン分泌促進用の、ランゲルハンス島β細胞の増殖促進剤及びランゲルハンス島β細胞のアポトーシス抑制剤を兼ねるランゲルハンス島β細胞の細胞数増加剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、前記被験物質の有無に応じ
たフリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の
増加、及びフリズルド3タンパク質の活性の
増加よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する工程を含む、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング方法であって、前記少なくとも1つの剤が、ランゲルハンス島β細胞の、増殖促進、及び、アポトーシス抑制、及び、細胞数増加による剤である、スクリーニング方法。
【請求項3】
前記フリズルド3タンパク質が下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質であり、前記フリズルド3遺伝子が下記(d)及び(e)のいずれかに記載の遺伝子である、請求項
1又は
2に記載のスクリーニング方法。
(a)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長活性ないし誘導活性を有するタンパク質、
(c)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性及び/又はインスリン分泌促進活性を有するタンパク質、
(d)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる遺伝子、
(e)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長活性ないし誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング剤、スクリーニング用キット、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング方法、並びに、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリン分泌促進剤、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤、及びインスリノーマ予防若しくは治療剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトTM4SF20として公知のポリペプチド又はそのフラグメントが膵臓β細胞の増加促進作用を持つことが知られ、このポリペプチド又はそのフラグメントは、膵臓β細胞の減少又は死滅を伴う疾患、特に1型糖尿病の治療に用いることが期待されている(特許文献1参照)。
ヒトTM4SF20のフラグメントである配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、「ベータジェニン(betagenin)」ともいう。)が高い膵臓ホルモン産生細胞増殖促進作用を持ち、かつ、膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導促進作用を持つことが知られている(特許文献2参照)。
【0003】
一方、いまだリガンドが同定されていないGタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)が多数存在し、いわゆるオーファン(孤児)レセプター(Orphan Receptor)と呼ばれており、オーファンレセプターを標的としたアゴニスト又はアンタゴニストは新規の疾患治療薬として期待されている。
フリズルド3(Fzd3;frizzled class receptor3)タンパク質は、GPCRのクラスFに分類されるオーファンレセプターとして知られ、全身で広く発現していることが示唆され、特に中枢神経系細胞で発現することが知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/013794号
【文献】国際公開第2014/189127号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Oncotarget.2016;7:43295-43314.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フリズルド3タンパク質と膵島機能との関連性はこれまで知られていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング剤、該スクリーニング剤を含むスクリーニング用キット、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング方法、並びに、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリン分泌促進剤、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤、及びインスリノーマ予防若しくは治療剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、オーファンレセプターの1つであるフリズルド3タンパク質がベータジェニンの受容体であることを見出し、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子がフリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニング剤になり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は以下の通りである。
【0008】
本発明の第1の態様は、
フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を含み、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤又は低下剤のスクリーニング剤である。
【0009】
本発明の第2の態様は、
フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を含み、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング剤である。
【0010】
本発明の第3の態様は、
第1又は第2の態様に係るスクリーニング剤を含むスクリーニング用キットである。
【0011】
本発明の第4の態様は、
フリズルド3発現細胞、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を用いる工程を含む、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤又は低下剤のスクリーニング方法である。
【0012】
本発明の第5の態様は、
フリズルド3発現細胞、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を用いる工程を含む、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング方法である。
【0013】
本発明の第6の態様は、
フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体又はアプタマーを含む、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤である。
【0014】
本発明の第7の態様は、
フリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現の低下物質、又はフリズルド3タンパク質の阻害物質を含む、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤、又はインスリノーマ予防若しくは治療剤であって、
前記低下物質が、フリズルド3遺伝子の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中のコーディング領域又は非翻訳領域の連続する少なくとも20ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は前記二本鎖RNAをコードするDNAである、剤である。
【発明の効果】
【0015】
第1及び第2の態様に係るスクリーニング剤並びに第3の態様に係るスクリーニング用キットは、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするため好適に使用し得る。
第4及び第5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングすることができる。
本発明によれば、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤を提供し得る。
また、本発明によれば、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤、又はインスリノーマ予防若しくは治療剤を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】ベータジェニンに対する受容体の探索結果を示す図である。
【
図2】フリズルド3とベータジェニンとの結合試験結果を示す図である。
【
図3】ベータジェニンペプチドを用いたFzd3安定的発現細胞増殖試験結果を示す図である。
【
図4】Fzd3遺伝子に対するsiRNAを用いたFzd3発現細胞増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図5】Fzd3遺伝子に対するsiRNAを用いたFzd3発現細胞増殖抑制試験結果を示す図である。
【
図6】Fzd3発現細胞「増加」試験結果を示す図である。
【
図7】ベータジェニンペプチドを用いたFzd3発現細胞におけるシグナル伝達経路確認試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
まず、第1~7の態様におけるフリズルド3タンパク質若しくは遺伝子及びその取得方法について説明する。
(フリズルド3タンパク質)
フリズルド3タンパク質は、下記(a)~(c)のいずれかに記載のタンパク質である。
(a)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長ないし誘導活性を有するタンパク質、又は
(c)配列表の配列番号1又は2に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長ないし誘導活性を有するタンパク質
フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングする観点、及びヒト由来のタンパク質をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、上記(a)のタンパク質であることが好ましい。
配列番号1は、ヒトフリズルド3タンパク質のアミノ酸配列を表す。配列番号2は、マウスフリズルド3タンパク質のアミノ酸配列を表す。
【0019】
本明細書で言う「アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から10個、より好ましくは1から5個、さらに好ましくは1から3個程度を意味する。
本明細書で言う「90%以上の相同性を有するアミノ酸配列」とは、アミノ酸の相同性が90%以上であることを意味し、相同性は好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上、特に好ましくは98%以上である。
配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列を有する遺伝子と相同性の高い変異体遺伝子にコードされるタンパク質であって、フリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長ないし誘導活性を有するタンパク質は全て本発明の範囲内のものである。
タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、アミノ酸残基の置換については、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、Glyとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、Thrとセリン(Ser)またはAla、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)、等が挙げられる。
【0020】
従って、配列表の配列番号1又は2に記載したフリズルド3のアミノ酸配列上の置換、挿入、欠失等による変異タンパク質であっても、その変異がフリズルド3の3次元構造において保存性が高い変異であって、その変異タンパク質がフリズルド3と同様にフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長ないし誘導活性を有するタンパク質であれば、これらは全てフリズルド3の範囲内に属する。
フリズルド3タンパク質の取得方法については特に制限はなく、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、生体試料又は培養細胞などから単離した天然由来のタンパク質でもよいし、遺伝子組み換え技術による作製した組み換えタンパク質でもよい。
【0021】
(フリズルド3遺伝子)
フリズルド3タンパク質(例えば、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードする遺伝子は全てフリズルド3遺伝子に属する。
配列番号3は、ヒトフリズルド3遺伝子をコードする塩基配列を示す。
また、配列番号4は、マウス(Mus musculus(house mouse))フリズルド3遺伝子をコードする塩基配列を示す。
フリズルド3遺伝子には、アミノ酸をコードするコーディング領域(CDS)及びアミノ酸をコードしない非翻訳領域(UTR)が含まれる。
UTRとしては、開始コドンより上流に5’UTRが存在し、終始コドンより下流に3’UTRが存在する。
配列番号3において、530~2530番目の塩基配列がCDSであり、1~529番目の塩基配列が5’UTRであり、2531~13804番目の塩基配列が3’UTRである。
配列番号4において、464~2464番目の塩基配列がCDSであり、1~463番目の塩基配列が5’UTRであり、2465~12742番目の塩基配列が3’UTRである。
【0022】
フリズルド3遺伝子の具体例としては、下記(d)及び(e)の何れかに記載の遺伝子が挙げられ、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングする観点、及びヒト由来の遺伝子をそのまま用いることができ余計な形質転換等が要求されない観点から、下記(d)の遺伝子であることが好ましい。
(d)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる遺伝子、
(e)配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、かつフリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長活性ないし誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【0023】
本明細書で言う「塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列」における「1もしくは数個」の範囲は特には限定されないが、好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、更に好ましくは1から5個程度を意味する。
上記のDNA変異の程度としては、例えば、配列表の配列番号3又は4に記載したフリズルド3遺伝子の塩基配列と80%以上の相同性を有するものが挙げられ、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
上述の通り、配列表の配列番号3又は4に記載したフリズルド3遺伝子の塩基配列において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断によるDNA断片の変異・欠失・連結等により、部分的にDNA配列が変化したものであっても、これらDNA変異体が、フリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)及び/又はインスリン分泌促進活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば、配列番号3又は4に示したDNA配列との相違に関わらず、フリズルド3遺伝子の範囲内のものである。
【0024】
(フリズルド3遺伝子の取得)
フリズルド3遺伝子の取得方法は特に限定されない。本明細書の配列表の配列番号1~4に記載したアミノ酸配列及び塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いて、ヒトcDNAライブラリー(フリズルド3遺伝子が発現される適当な細胞より常法に従い調製したもの)から所望クローンを選択することにより、フリズルド3遺伝子を単離することができる。
PCR法によりフリズルド3遺伝子を取得することもできる。例えば、ヒト培養細胞由来の染色体DNAまたはcDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号3又は4に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを使用してPCRを行う。
PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒~1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
上記したブローブ又はプライマーの調製、cDNAライブラリーの構築、cDNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された方法に準じて行うことができる。
【0025】
本明細書中上記した、配列表の配列番号3又は4に記載の塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列からなり、フリズルド3発現細胞の増殖活性、該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進活性及び/又は神経軸索成長活性ないし誘導活性を有するタンパク質をコードする遺伝子(変異遺伝子)は、化学合成、遺伝子工学的手法又は突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することもできる。例えば、配列番号3又は4に記載の塩基配列を有するDNAを利用し、これらDNAに変異を導入することにより変異DNAを取得することができる。具体的には、配列番号3又は4に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0026】
<フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング剤>
第1の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を含み、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤又は低下剤、及びその候補化合物をスクリーニングするために用いることができる。
本明細書において、スクリーニングとは、被験物質の母集団を少なくとも絞ることを意味する。
フリズルド3タンパク質に対するアゴニストは、第1の態様に係るスクリーニング剤を用いて上記細胞数増加剤及びその候補化合物としてスクリーニングされ得る。
フリズルド3タンパク質に対するアンタゴニストは、第1の態様に係るスクリーニング剤を用いて上記細胞数低下剤及びその候補化合物としてスクリーニングされ得る。
第1の態様に係るスクリーニング剤に含まれる「フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子」は、フリズルド3発現細胞に含有される態様の「フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子」であってもよい。
本明細書において、「フリズルド3発現細胞」はフリズルド3遺伝子若しくはタンパク質を発現する細胞を意味し、フリズルド3タンパク質を発現する細胞が好ましく、フリズルド3タンパク質を細胞膜に発現する細胞がより好ましく、フリズルド3タンパク質を細胞膜表面に発現する細胞が更に好ましい。
フリズルド3発現細胞として具体的には、ランゲルハンス島β細胞、中枢神経系細胞等が挙げられる。
また、フリズルド3発現細胞としては、膵β細胞株MIN6細胞であってもよいし、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現する細胞であってもよく、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現するようにした、ヒト胎児腎細胞(例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(例えば、HeLa細胞、HeLa-S3細胞)、ハムスター卵巣細胞(例えば、CHO細胞、CHO-K1細胞)等であってもよい。
本願明細書において、「細胞数増加」は、細胞の増殖促進及び該細胞のアポトーシス抑制により細胞数が増加することを意味し、例えば、細胞の増殖促進作用があったとしても、それよりも強いアポトーシス、ネクローシス等の作用により該細胞数が総和として減少することは含まない意味である。
第1の態様に係るスクリーニング剤を用いてスクリーニングされた上記細胞数増加剤は、フリズルド3発現細胞の増殖促進、及び該細胞のアポトーシス抑制のいずれをも行うことができ、したがって、上記細胞数増加剤は該細胞の増殖促進剤及びアポトーシス抑制剤を兼ね得る。
【0027】
第1の態様に係るスクリーニング剤を用いてスクリーニングされた上記細胞数増加剤は、任意の投与法(例えば、経口、非経口)により投与することにより、ランゲルハンス島β細胞、中枢神経系細胞等の有用なフリズルド3発現細胞を生体内において増加し得る医薬品として用い得る。
また、上記細胞数増加剤は、ランゲルハンス島β細胞、中枢神経系細胞等の有用なフリズルド3発現細胞を生体から採取した後、生体外において、採取した上記フリズルド3発現細胞に上記細胞数増加剤を接触(例えば、添加、投与等)させることにより、上記フリズルド3発現細胞を増加させた後に、増加させた上記フリズルド3発現細胞を生体内に戻す再生ないし細胞医療に適用し得る。
【0028】
一方、第1の態様に係るスクリーニング剤を用いてスクリーニングされた上記細胞数低下剤は、任意の投与法(例えば、経口、非経口)により投与することにより、疾患により異常に増殖したフリズルド3発現細胞(例えば、インスリノーマにより異常に増殖したランゲルハンス島β細胞)の細胞数を生体内において低下し得る医薬品として用い得る。
【0029】
第1の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3発現細胞の細胞数の変化(例えば、増減)、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とするスクリーニング方法に好適に使用し得る。
第1の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する工程を含むスクリーニング方法に使用することが好ましい。
【0030】
第1の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3発現細胞がランゲルハンス島β細胞である場合、被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質が非存在下の場合に対して、被験物質の存在下において、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の増加、及びフリズルド3タンパク質の活性の増加よりなる群から選択される少なくとも1つが検出される場合、糖尿病予防若しくは治療剤又はインスリン分泌促進剤をスクリーニングすることができる。
第1の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3発現細胞がランゲルハンス島β細胞である場合、被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質が非存在下の場合に対して、被験物質の存在下において、フリズルド3発現細胞の細胞数の低下、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の低下、及びフリズルド3タンパク質の活性の低下よりなる群から選択される少なくとも1つが検出される場合、インスリノーマ予防若しくは治療剤又はインスリン分泌抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0031】
本発明は、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を含み、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング剤に関するものでもあり、
第2の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を含み、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤及びそれらの候補化合物をスクリーニングするために用いることができる。
【0032】
第2の態様に係るスクリーニング剤は、フリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とするスクリーニング方法に使用されることが好ましく、フリズルド3発現細胞の増殖及び該細胞のアポトーシス抑制よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とするスクリーニング方法に使用されることがより好ましく、フリズルド3発現細胞の増加を指標とするスクリーニング方法に使用されることが更に好ましい。
第2の態様において、フリズルド3発現細胞としては、ランゲルハンス島β細胞等が挙げられる。
また、フリズルド3発現細胞としては、膵β細胞株MIN6細胞であってもよいし、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現する細胞であってもよく、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現するようにした、ヒト胎児腎細胞(例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(例えば、HeLa細胞、HeLa-S3細胞)、ハムスター卵巣細胞(例えば、CHO細胞、CHO-K1細胞)等であってもよい。
【0033】
<スクリーニング用キット>
第3の態様に係るスクリーニング用キットは、第1又は第2の態様に係るスクリーニング剤を含む。
第3の態様に係るスクリーニング用キットは、第1又は第2の態様に係るスクリーニング剤を含むフリズルド3発現細胞であってもよい。
【0034】
第3の態様に係るスクリーニング用キットは、フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する手段を含んでいることが好ましい。
【0035】
被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する上記手段として、例えば、被検物質とフリズルド3との結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する手段が挙げられる。
被検物質とフリズルド3との結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する上記手段としては、被検物質とGタンパク質共役型受容体(GPCR)との結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する手段として知られる任意の手段が挙げられる。
被検物質とGPCRとの結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する手段としては、例えば、セカンドメッセンジャー(cAMP、Ca2+等)、プロテインキナーゼA(PKA)シグナル、βアレスチンシグナル等を蛍光ないし化学ルミネセンスにより検出若しくは定量して上記シグナル伝達活性化若しくは抑制を検出若しくは定量する手段が挙げられ、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)若しくは生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)を用いて検出若しくは定量する手段であってもよい(例えば、http://www.promega.co.jp/pdf/kawara_1604_p3.pdf、http://www.promega.co.jp/lit/pdf/PK0512-02_02.pdf、https://www.discoverx.com/products-applications/gpcr-solutions)。また、蛍光又は化学ルミネセンス読み出しに基づいた細胞cAMPのレベルを測定する市販されている機能アッセイキットに関する概説(W.Thomsen et al.(Current Opinion in Biotechnology 2005,16,655-665))に記載の手段、特開2008-157939号公報に記載の手段、再表2015/128894号公報に記載の手段、国際公開第2012/157746号パンフレットに記載の手段、Inoue,A.et al.Nature Methods,9,1021-1029(2012)に記載の手段等も挙げられる。
【0036】
第1及び第2の態様に係るスクリーニング剤並びに第3の態様に係るスクリーニング用キットに供される被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、抗体でもよいし、核酸分子でもよいし、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
被験物質は、好ましくは、低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)、抗体、又は核酸分子であり、経口投与性及び製造コストの観点から、低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)がより好ましい。また、フリズルド3タンパク質、又はフリズルド3遺伝子に対して特異性が高い観点からは、抗体、低分子化合物又は核酸分子が好ましく、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体若しくはアプタマー、又はフリズルド3遺伝子(CDS又はUTR)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する核酸分子であることがより好ましく、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体若しくはアプタマーが更に好ましい。
【0037】
<フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤又は低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング方法>
第4の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を用いる工程を含み、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤又は低下剤、及びその候補化合物をスクリーニングすることができる。
フリズルド3タンパク質に対するアゴニストは、第4の態様に係るスクリーニング方法において上記細胞数増加剤及びその候補化合物としてスクリーニングされ得る。
第4の態様に係るスクリーニング方法においてスクリーニングされた上記細胞数増加剤は、フリズルド3発現細胞の増殖促進、及び該細胞のアポトーシス抑制のいずれをも行うことができ、したがって、上記細胞数増加剤は該細胞の増殖促進剤及びアポトーシス抑制剤を兼ね得る。
フリズルド3タンパク質に対するアンタゴニストは、第1の態様に係るスクリーニング方法において上記細胞数低下剤及びその候補化合物としてスクリーニングされ得る。
フリズルド3発現細胞として具体的には、ランゲルハンス島β細胞、中枢神経系細胞等が挙げられる。
また、フリズルド3発現細胞としては、膵β細胞株MIN6細胞であってもよいし、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現する細胞であってもよく、遺伝子組み換え技術によりフリズルド3を発現するようにした、ヒト胎児腎細胞(例えば、HEK293細胞、HEK293T細胞)、ヒト子宮頸がん細胞(例えば、HeLa細胞、HeLa-S3細胞)、ハムスター卵巣細胞(例えば、CHO細胞、CHO-K1細胞)等であってもよい。
【0038】
本発明は、フリズルド3発現細胞、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を用いる工程を含む、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤のスクリーニング方法に関するものでもあり、
第5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子を用いる工程を含み、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤並びにそれらの候補化合物をスクリーニングし得る。
【0039】
第4及び第5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを指標とすることが好ましい。
フリズルド3タンパク質の活性としては、フリズルド3発現細胞の増殖活性及び/又は該細胞のアポトーシス抑制活性(好ましくは、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加活性)、インスリン分泌促進、神経軸索成長活性ないし誘導活性等が挙げられる。
【0040】
第4及び第5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞がランゲルハンス島β細胞である場合、被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質が非存在下の場合に対して、被験物質の存在下において、フリズルド3発現細胞の細胞数の増加、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の増加、及びフリズルド3タンパク質の活性の増加よりなる群から選択される少なくとも1つが検出される場合、糖尿病予防若しくは治療剤又はインスリン分泌促進剤をスクリーニングすることができる。
上記増加の程度としては統計的に有意な増加であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下(例えば、被験物質の投与前の系(例えば、野生型)、又は陰性対照(フリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現又は機能に影響しない物質を投与した対照)の系)におけるフリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現又は活性に対して、1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。
【0041】
第4及び第5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞がランゲルハンス島β細胞である場合、被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質が非存在下の場合に対して、被験物質の存在下において、フリズルド3発現細胞の細胞数の低下、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の低下、及びフリズルド3タンパク質の活性の低下よりなる群から選択される少なくとも1つが検出される場合、インスリノーマ予防若しくは治療剤又はインスリン分泌抑制剤をスクリーニングすることができる。
上記低下の程度としては統計的に有意な低下であれば特に制限はないが、被験物質の非存在下(例えば、被験物質の投与前の系(例えば、野生型)、又は陰性対照(フリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現又は機能に影響しない物質を投与した対照)の系)におけるフリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現又は活性に対して、1/2以下であることが好ましく、1/4以下であることがより好ましく、1/10以下であることがさらに好ましく、発現又は活性がなくなることが特に好ましい。
【0042】
スクリーニング方法としては、上記を指標とする限り、インビボ(in vivo)、インビトロ(in vitro)、インシリコ(in silico)等の任意のスクリーニング方法であってもよい。
スクリーニング方法の好ましい一例としては、フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出することが挙げられる。
【0043】
フリズルド3タンパク質の活性の変化の分析としては、例えば、上記被験物質の非投与下における任意の組織におけるフリズルド3発現細胞の細胞数に対する上記被験物質の投与下におけるフリズルド3発現細胞の細胞数の変化を測定することにより分析することができる。
フリズルド3タンパク質のmRNAレベルでの発現量の測定は、ノザンブロット、サザンブロット又はRT-PCR等の常法により行うことができる。具体的には、モレキュラークローニング第2版又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された当業者に公知の常法により行うことができる。
また、フリズルド3タンパク質の発現量の測定は、抗体を用いたウェスタンブロット又はELISA等の通常の免疫分析により行なうことができる。具体的には、モレキュラークローニング第2版又はカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載された当業者に公知の常法により行うことができる。
【0044】
また、フリズルド3遺伝子の塩基配列情報を基にすれば、インシリコでも各種のヒト組織におけるフリズルド3遺伝子の発現を検出することができる。また、インビボ、インビトロでも、例えば該遺伝子の一部又は全部の塩基配列を有するプローブまたはプライマーを利用することにより、各種のヒト組織におけるフリズルド3遺伝子の発現を検出することができる。フリズルド3遺伝子の発現の検出は、RT-PCR、ノザンブロット、サザンブロット等の常法により行うことができる。
【0045】
PCRを行なう場合、プライマーは、フリズルド3遺伝子のみを特異的に増幅できるものであれば特に限定されず、フリズルド3遺伝子の配列情報に基づき適宜設定することができる。例えば、フリズルド3遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続する少なくとも10ヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドをプローブまたはプライマーとして使用することができる。より具体的には、フリズルド3遺伝子又は上記遺伝子の発現制御領域の塩基配列中の連続した10~60残基、好ましくは10~40残基の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、並びに該オリゴヌクレオチドに相補的な配列を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用することができる。
【0046】
上記したオリゴヌクレオチド及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、DNA合成機を用いて常法により製造することができる。該オリゴヌクレオチドまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、例えば、検出したいmRNAの一部の塩基配列において、5’末端側の塩基配列に相当するセンスプライマー、3’末端側の塩基配列に相当するアンチセンスプライマー等を挙げることができる。センスプライマー及びアンチセンスプライマーとしては、それぞれの融解温度(Tm)および塩基数が極端に変わることのないオリゴヌクレオチドであって、10~60塩基程度のものが挙げられる、10~40塩基程度のものが好ましい。また、本発明においては、上記したオリゴヌクレオチドの誘導体を用いることも可能であり、例えば、該オリゴヌクレオチドのメチル体やホスホロチオエート体等を用いることもできる。
【0047】
第4及び5の態様に係るスクリーニング方法は、フリズルド3発現細胞を被験物質の存在下及び非存在下において培養し、上記被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する工程を含むことが好ましい。
【0048】
被験物質の有無に応じたフリズルド3発現細胞の細胞数の変化、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子の発現の変化、及びフリズルド3タンパク質の活性の変化よりなる群から選択される少なくとも1つを検出する方法として、例えば、被検物質とフリズルド3との結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する方法が挙げられる。
被検物質とフリズルド3との結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する上記方法としては、被検物質とGPCRとの結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する方法として知られる任意の方法が挙げられる。
被検物質とGPCRとの結合により誘導されるシグナル伝達活性化若しくは抑制を検出する方法としては、例えば、セカンドメッセンジャー(cAMP、Ca2+等)、PKAシグナル、βアレスチンシグナル等を蛍光ないし化学ルミネセンスにより検出若しくは定量して上記シグナル伝達活性化若しくは抑制を検出若しくは定量する方法が挙げられ、FRET若しくはBRETを用いて検出若しくは定量する手段であってもよい(例えば、http://www.promega.co.jp/pdf/kawara_1604_p3.pdf、http://www.promega.co.jp/lit/pdf/PK0512-02_02.pdf、https://www.discoverx.com/products-applications/gpcr-solutions)。また、蛍光又は化学ルミネセンス読み出しに基づいた細胞cAMPのレベルを測定する市販されている機能アッセイキットに関する概説(W.Thomsen et al.(Current Opinion in Biotechnology 2005,16,655-665))に記載の方法、特開2008-157939号公報に記載の手段、再表2015/128894号公報に記載の方法、国際公開第2012/157746号パンフレットに記載の手段、Inoue,A.et al.Nature Methods,9,1021-1029(2012)に記載の方法等も挙げられる。
【0049】
第4及び第5の態様に係るスクリーニング方法に供される被験物質としては任意の物質を使用することができる。被験物質の種類は特に限定されず、抗体でもよいし、核酸分子でもよいし、個々の低分子合成化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、合成ペプチドでもよい。あるいは、被験化合物はまた、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。
被験物質は、好ましくは、低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)、抗体、又は核酸分子であり、経口投与性及び製造コストの観点から、低分子化合物(例えば、化合物ライブラリー)がより好ましい。また、フリズルド3タンパク質、又はフリズルド3遺伝子に対して特異性が高い観点からは、抗体、低分子化合物又は核酸分子が好ましく、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体若しくはアプタマー、又はフリズルド3遺伝子(CDS又はUTR)中又は上記遺伝子の発現制御領域中に含まれるオリゴヌクレオチドに相補的な配列を有する核酸分子であることがより好ましく、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体若しくはアプタマーが更に好ましい。
【0050】
<フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤>
第6の態様に係るフリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤(以下、単に「第6の態様に係る剤」ともいう。)は、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体又はアプタマーを含む。
上記抗体又はアプタマーは、フリズルド3タンパク質に選択的に結合し、かつアゴニストとして作用する抗体又はアプタマーが好ましく、フリズルド3タンパク質のリガンド結合部位に選択的に結合し、かつアゴニストとして作用する抗体又はアプタマーがより好ましい。
【0051】
(抗体)
上記フリズルド3タンパク質に特異的に結合でき、かつアゴニストとして作用する抗体であれば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよい。
ポリクローナル抗体は、抗原(フリズルド3タンパク質)を免疫した動物から得られる血清を分離、精製することにより調製することができる。モノクローナル抗体は、抗原(フリズルド3タンパク質)を免疫した動物から得られる抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物を腹水癌化させ、上記の培養液または腹水を分離、精製することにより調製することができる。
抗原は、各種ヒト培養細胞からフリズルド3タンパク質を精製するか、フリズルド3タンパク質のアミノ酸配列またはその変異配列またはそれらの一部を有するタンパク質をコードするDNAを含む組換えベクターを大腸菌、酵母、動物細胞または昆虫細胞などの宿主に導入して、該DNAを発現させて得られるタンパク質を分離、精製することにより調製できる。また、抗原は、フリズルド3タンパク質のアミノ酸配列の部分配列を有するペプチドをアミノ酸合成機を用いて合成することによって調製することもできる。
免疫方法としては、抗原をウサギ、ヤギ、ラット、マウスまたはハムスター等などの非ヒト哺乳動物の皮下、静脈内または腹腔内にそのまま投与してもよいが、抗原をスカシガイヘモシアニン、キーホールリンペットヘモシアニン、牛血清アルブミン、牛チログロブリン等の抗原性の高いキャリアタンパク質と結合して投与したり、完全フロイントアジュバント(Complete Freund’s Adjuvant)、水酸化アルミニウムゲル、百日咳菌ワクチン等の適当なアジュバントとともに投与することも好ましい。
【0052】
抗原の投与は、1回目の投与の後1~2週間おきに3~10回行うことができる。各投与後3~7日目に眼底静脈叢より採血し、該血清が免疫に用いた抗原と反応するか否かを酵素免疫測定法等に従い、抗体価を測定することにより調べる。免疫に用いた抗原に対し、その血清が十分な抗体価を示す非ヒト哺乳動物を、血清または抗体産生細胞の供給源として使用することができる。ポリクローナル抗体は、上記の血清を分離、精製することにより調製することができる。
モノクローナル抗体は、該抗体産生細胞と非ヒト哺乳動物由来の骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製し、該ハイブリドーマを培養するか、動物に投与して該動物を腹水癌化させ、該培養液または腹水を分離、精製することにより調製することができる。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節、末梢血中の抗体産生細胞を使用することができ、特に好ましくは脾細胞を使用することができる。
【0053】
骨髄腫細胞としては、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株であるP3-X63Ag8-U1(P3-U1)株[Current Topics in Microbiology and Immunology,18,1-7(1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)株[European J.Immunology,6,511-519(1976)]、SP2/0-Ag14(SP-2)株[Nature,276,269-270(1978)]、P3-X63-Ag8653(653)株[J.Immunology,123,1548-1550(1979)]、P3-X63-Ag8(X63)株[Nature,256,495-497(1975)]等のマウス由来の株化細胞を用いることができる。
ハイブリドーマ細胞は、以下の方法により作製できる。先ず、抗体産生細胞と骨髄腫細胞を混合し、HAT培地[正常培地にヒポキサンチン、チミジンおよびアミノプテリンを加えた培地]に懸濁したのち、7~14日間培養する。培養後、培養上清の一部をとり酵素免疫測定法などにより、抗原に反応し、抗原を含まないタンパク質には反応しないものを選択する。次いで、限界希釈法によりクローニングを行い、酵素免疫測定法により安定して高い抗体価の認められたものをモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞として選択する。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞を培養して得られる培養液、またはハイブリドーマ細胞を動物の腹腔内に投与して該動物を腹水癌化させて得られる腹水から分離、精製することにより調製できる。
【0054】
ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を分離、精製する方法としては、遠心分離、硫安沈殿、カプリル酸沈殿、またはDEAE-セファロースカラム、陰イオン交換カラム、プロテインA若しくはG-カラム、若しくはゲル濾過カラム等を用いるクロマトグラフィー等による方法を、単独または組み合わせて処理する方法があげられる。
本明細書で抗体と言う場合、全長の抗体だけではなく抗体の断片も包含するものとする。抗体の断片とは、機能性の断片であることが好ましく、例えば、F(ab’)2、Fab’などが挙げられる。F(ab’)2、Fab’とは、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素(例えば、ペプシン又はパパイン等)で処理することにより製造されるもので、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体断片である。
【0055】
抗体をヒトに投与する目的で使用する場合は、免疫原性を低下させるために、ヒト型化抗体あるいはヒト化抗体を用いることが好ましい。これらのヒト型化抗体やヒト化抗体は、トランスジェニックマウスなどの哺乳動物を用いて作製することができる。ヒト型化抗体については、例えば、Morrison,S.L.et al.〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)〕、野口浩〔医学のあゆみ 167:457-462(1993)〕に記載されている。ヒト化キメラ抗体は、マウス抗体のV領域とヒト抗体のC領域を遺伝子組換えにより結合し、作製することができる。ヒト化抗体は、マウスのモノクローナル抗体から相補性決定部位(CDR)以外の領域をヒト抗体由来の配列に置換することによって作製できる。
また、抗体は、固相担体などの不溶性担体上に固定された固定化抗体として使用したり、標識物質で標識した標識抗体として使用することができる。このような固定化抗体や標識抗体も全て本発明の範囲内である。
【0056】
上記した抗体のうち、フリズルド3タンパク質に特異的に結合し、かつアゴニストとして作用し得る抗体は、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤として使用することができる。
【0057】
フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤として抗体を医薬組成物の形態で使用する場合には、上記抗体を有効成分として使用し、さらに薬学的に許容可能な担体、希釈剤(例えば、免疫原性アジュバントなど)、安定化剤または賦形剤などを用いて医薬組成物を調製することができる。抗体を含むフリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤は、濾過滅菌および凍結乾燥し、投薬バイアルまたは安定化水性調製物中に投薬形態に製剤化することができる。
【0058】
(アプタマー)
第6の態様に係る剤のもう1つの好ましい態様としては、フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーを含むフリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤が挙げられる。
アプタマーとは、一本鎖RNA又はDNAで構成され、その立体構造により標的タンパク質と結合してアゴニスト(機能を促進)又はアンタゴニスト(機能を阻害)として作用し得る核酸医薬品をいう(Drug Delivery System 31-1,2016,pp10-14)。
第6の態様に係る剤においては、アプタマーがアゴニストとして作用することが好ましい。
アプタマーは標的タンパク質に対する結合性及び特異性が高く、免疫原性が低く、化学合成により製造することができ、保存安定性も高い。
フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーの塩基長としては、フリズルド3タンパク質に特異的に結合する限り特に制限はないが、15~60塩基であることが好ましく、20~50塩基であることがより好ましく、25~47塩基であることが更に好ましく、26~45塩基であることが特に好ましい。
フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーはSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法により取得することができる(Drug Delivery System 31-1,2016,pp10-14)。
【0059】
第6の態様に係る剤の患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などの当業者に公知の方法により行うことができる。
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。有効成分である抗体又はアプタマーの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【0060】
<フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤>
第7の態様に係るフリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤(以下、単に「第7の態様に係る剤」ともいう。)は、フリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現の低下物質、又はフリズルド3タンパク質の阻害物質を含む。
【0061】
(siRNA)
フリズルド3遺伝子若しくはタンパク質の発現の低下物質としては、フリズルド3遺伝子の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも20ヌクレオチドを含む二本鎖RNA(siRNA(small interfering RNA))又は上記二本鎖RNAをコードするDNAが好ましい。
フリズルド3遺伝子の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する少なくとも21ヌクレオチドを含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが好ましい。
フリズルド3遺伝子の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する30ヌクレオチド以下を含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることが好ましく、フリズルド3遺伝子の塩基配列から転写されるRNAの塩基配列中のCDS又はUTRの連続する25ヌクレオチド以下を含む二本鎖RNA又は上記二本鎖RNAをコードするDNAであることがより好ましい。
【0062】
RNAi(RNAinterference)とは、ある標的遺伝子の一部をコードするmRNAの一部を二本鎖にしたRNA(double strandedRNA:dsRNA)を細胞へ導入すると、標的遺伝子の発現が抑制される現象を言う。
二本鎖RNAをコードするDNAとしては、例えば、フリズルド3遺伝子またはそれらの部分配列の逆向き反復配列を有するDNAを挙げることができる。
このような逆向き反復配列を有するDNAを哺乳動物の細胞に導入することにより、細胞内で標的遺伝子の逆向き反復配列を発現させることができ、これによりRNAi効果により標的遺伝子(フリズルド3遺伝子)の発現を抑制することが可能になる。
逆向き反復配列とは、標的遺伝子並びにその逆向きの配列が適当な配列を介して並列している配列を言う。具体的には、標的遺伝子が、以下に示すn個の塩基配列から成る2本鎖を有する場合、
5’-X1X2......Xn-1Xn-3’
3’-Y1Y2......Yn-1Yn-5’
その逆向き配列は以下の配列を有する。
5’-YnYn-1......Y2Y1-3’
3’-XnXn-1......X2X1-5’
(ここで、Xで表される塩基とYで表される塩基において、添え字の数字が同じものは互いに相補的な塩基である)
【0063】
逆向き反復配列は上記2種の配列が適当な配列を介した配列である。逆向き反復配列としては、標的遺伝子の配列が逆向き配列の上流にある場合と、逆向き配列が標的遺伝子の配列の上流にある場合の2つの場合が考えられる。本発明で用いる逆向き反復配列は上記の何れでもよいが、好ましくは、逆向き配列が標的遺伝子の配列の上流に存在する。
標的遺伝子の配列とその逆向き配列の間に存在する配列は、RNAに転写された際にヘアピンループを形成する領域である(shRNA:small hairpin RNA)。この領域の長さは、ヘアピンループを形成できる限り特には限定されないが、好ましくは0~300bp程度、より好ましくは0~100bp程度である。この配列の中には制限酵素部位が存在していてもよい。
【0064】
本発明では、哺乳動物で作動可能なプロモーター配列の下流に標的遺伝子の逆向き反復配列を組み込むことにより、哺乳動物の細胞内において標的遺伝子の逆向き反復配列を発現させることができる。本発明で用いるプロモーター配列は、哺乳動物で作動可能であれば特に限定されない。
【0065】
第7の態様に係る剤は、細胞内への取り込みを向上させる観点から、リポフェクション用担体を更に含んでいてもよいが含んでいなくてもよい。
リポフェクション用担体としては、細胞膜との親和性の高い担体(例えばリポソーム、コレステロール等)が挙げられ、リポフェクトアミン又はリポフェクチンが好ましく、リポフェクトアミンがより好ましい。
例えば、siRNAは、リポフェクション用担体と一緒に患者の患部又は全身に注射などにより投与し、患者の細胞に取り込ませてフリズルド3遺伝子の発現を低下させることができる。
有効成分である二本鎖RNAまたはDNAの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~10mg程度の範囲である。
【0066】
第7の態様に係る剤は、経口または非経口的に全身又は局所的に投与することができる。非経口的な投与方法としては、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などを挙げることができる。患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
非経口投与に適した製剤形態として、例えば安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤を含有したものは挙げられ、さらに薬学的に許容される担体や添加物を含むものでもよい。このような担体及び添加物の例として、水、有機溶剤、高分子化合物(コラーゲン、ポリビニルアルコールなど)、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ツルビトール、ラクトース、界面活性剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
(フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体又はアプタマー)
フリズルド3タンパク質の活性の阻害物質としては、フリズルド3タンパク質の活性を阻害する限り、抗体、高分子化合物(核酸等)、低分子化合物等任意の物質であってもよい。
フリズルド3タンパク質の活性の阻害物質の好ましい態様の1つとして、フリズルド3タンパク質に選択的に結合する抗体又はアプタマーを含むフリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤が挙げられる。
上記抗体又はアプタマーは、フリズルド3タンパク質に選択的に結合し、かつアンタゴニストとして作用する抗体又はアプタマーが好ましく、フリズルド3タンパク質のリガンド結合部位に選択的に結合し、かつアンタゴニストとして作用する抗体又はアプタマーがより好ましい。
【0068】
((抗体))
上記フリズルド3タンパク質に特異的に結合でき、かつアンタゴニストとして作用する抗体であれば、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれでもよい。
抗体の入手方法(製造方法)としては、<フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤、糖尿病予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤>において上述した方法と同様に行うことができる。
【0069】
フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤として抗体を医薬組成物の形態で使用する場合には、上記抗体を有効成分として使用し、さらに薬学的に許容可能な担体、希釈剤(例えば、免疫原性アジュバントなど)、安定化剤または賦形剤などを用いて医薬組成物を調製することができる。抗体を含むフリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤は、濾過滅菌および凍結乾燥し、投薬バイアルまたは安定化水性調製物中に投薬形態に製剤化することができる。
【0070】
((アプタマー))
フリズルド3タンパク質の活性の阻害物質の好ましい態様の1つとして、フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーとしては、第7の態様に係る剤においては、アンタゴニストとして作用することが好ましい。
フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーの塩基長としては、フリズルド3タンパク質に特異的に結合する限り特に制限はないが、15~60塩基であることが好ましく、20~50塩基であることがより好ましく、25~47塩基であることが更に好ましく、26~45塩基であることが特に好ましい(Drug Delivery System 31-1,2016,pp10-14)。
フリズルド3タンパク質に選択的に結合するアプタマーの取得方法は上述の通りである。
【0071】
第7の態様に係る剤の患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射などの当業者に公知の方法により行うことができる。
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。有効成分である抗体又はアプタマーの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
<ベータジェニンに対する受容体の探索、並びにフリズルド3とベータジェニンとの結合試験>
(フリズルド3(Fzd3)発現コンストラクトの作製)
膵β細胞株MIN6細胞よりTRIzol(Thermo社製)にてTotalRNAを抽出し、SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase(Thermo社製)を用いて逆転写し、そのcDNAを鋳型にしてmFzd3をPCRで増幅した。PCR産物を精製後、In-Fusion(Takara社製)を用いてpCAGGSベクターに挿入し、Fzd3発現コンストラクトを作製した。作製したコンストラクトは、シークエンサーを用いて塩基配列を確認した。
【0074】
(ベータジェニンペプチドの蛍光標識)
配列表の配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するベータジェニン合成ペプチド(ILS社製)をEZ-Lin(登録商標)NHS-LC-Biotin(Thermo社製)を用いてビオチン化し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))にて一晩透析することにより未反応ビオチンを除去し精製した。ビオチン標識ベータジェニンペプチドはStreptavidin,Alexa Fluor647conjugate(Thermo社製)と37℃1時間反応させ、蛍光標識ベータジェニンペプチドを作製した。
【0075】
(HEK293T細胞への遺伝子導入)
HEK293T細胞をPoly L-Lysin(Sigma社製)でコーティングした96ウェルプレート(Corning社製,#3603)に2×104/ウェルで播種し、24時間後にFuGENE6(Promega社製)を用いてトランスフェクションした。
【0076】
(蛍光標識ベータジェニン結合試験)
トランスフェクション48時間後、PBS(-)で洗浄し、5μg/mLのHoechst33342(Dojindo社製;核染色剤)入りDMEM培地に交換後37℃20分間インキュベートした。
100nM蛍光標識ベータジェニンペプチド/5μg/mL Hoechst33342入りDMEM培地に交換後37℃5分間インキュベートし、蛍光顕微鏡BZ-X700(KEYENCE社製)で画像を取得した。
なお、陽性コントロールとして、受容体の存在が予測されるMIN6細胞を用い、HEK293Tと同時に同細胞数播種した。
【0077】
図1(a)は陽性コントロールとして、ベータジェニンの受容体の存在が予測されるMIN6細胞を用いた蛍光標識ベータジェニンとの結合試験結果を示す図である。
図1(b)は陰性コントロールとして空ベクターをトランスフェクションしたHEK293Tにおける蛍光標識ベータジェニンとの結合試験結果を示す図である。
図1(c)は、Fzd3遺伝子をトランスフェクションしてFzd3を発現するHEK293Tにおける蛍光標識ベータジェニンとの結合試験結果を示す図である。
【0078】
図1(a)に示したように、核染色剤であるHoechst33342により黒くなっている部分の他に、蛍光標識ベータジェニンにより白くなっている部分が見られ、MIN6細胞において蛍光標識ベータジェニンが受容体に結合していることが分かる。
図1(b)には、核染色剤であるHoechst33342により黒くなっている部分の以外に、蛍光標識ベータジェニンにより白くなっている部分がほとんど見られず、Fzd3を発現していないモックの細胞には蛍光標識ベータジェニンが結合しないことが分かる。
図1(c)には、核染色剤であるHoechst33342により黒くなっている部分の他に、蛍光標識ベータジェニンにより白くなっている部分が見られ、Fzd3を発現している細胞には蛍光標識ベータジェニンが結合していることが分かる。
【0079】
図2はフリズルド3とベータジェニンとの結合試験を示す図である。
図2に示した結果から明らかなように、Fzd3を発現していないモックのHEK293Tでは、ビオチン標識していないベータジェニン及びストレプトアビジンAlexaFluor647(又はAlexa647)を添加した系はもちろんのこと、ビオチン標識ベータジェニン及びストレプトアビジンAlexaFluor647(又はAlexa647)を添加した系であっても、蛍光標識ベータジェニンによる白くなっている部分はほとんど見られないことが分かる。
また、Fzd3を発現しているHEK293Tでも、ビオチン標識していないベータジェニン及びストレプトアビジン647を添加した系は蛍光標識ベータジェニンによる白くなっている部分はほとんど見られないことが分かる。
一方、Fzd3を発現しているHEK293Tにおいて、ビオチン標識ベータジェニン及びストレプトアビジン647を添加した系では蛍光標識ベータジェニンにより白くなっている部分が見られ、Fzd3を発現している細胞には蛍光標識ベータジェニンが結合していることが分かる。
以上の結果から、ベータジェニンの受容体として細胞にはFzd3が発現していることが分かる。
【0080】
<ベータジェニンペプチドを用いたFzd3発現細胞増殖試験>
(Stable発現細胞株の樹立)
10cmディッシュに1×105でCHO-K1細胞(理研BRC社製)を播種し、FuGENE6にてMock(モック)若しくはFzd3コンストラクト及び1/10量のpcDNA3.1(+)ベクターをコトランスフェクトし、その48時間後に1/20量で継代培養した。この時点より400μg/mLのG418(Sigma社製)を培地に添加し、1週間に2回培地交換を行った。コロニー形成が確認出来た後、細胞をトリプシン(Gibco社製)で剥離し、0.5cell/ウェルで96ウェルプレートに継代し、約1週間培養した。細胞増殖の確認出来たウェルを24ウェルプレート、6cmディッシュへと継代し、保存ストック及び遺伝子発現確認用細胞とした。発現はqRT-PCRおよびウエスタンブロットで確認し、クローンを決定した。
【0081】
(5-エチニル-2’-でオキシウリジン(EdU)取込試験)
モックCHO細胞及びFzd3安定的(Stable)発現CHO細胞をPoly L-Lysin、コラーゲンタイプ1でコーティングした8ウェルチャンバースライド(BD Falcon社製)に1×105/ウェルで播種し、24時間後に、100nMベータジェニンペプチド±10μMのU0126(Cell Signal社製)入り、0.5%FBS/Ham’sF-12培地に交換し、血清飢餓で70時間培養した。最後にEdU(Thermo社製)を10μMになるように添加し、2時間培養し、蛍光染色を行った。染色はClick-iT EdU Alexa Fluor 594イメージングキット(Thermo社製)を用い、添付の説明書に従い染色し、封入後BZ-X700にて観察した。
【0082】
なお、EdUはチミジンのヌクレオシド類似体であり、活発なDNA合成の間にDNAに取り込まれることから、細胞増殖のマーカーとなり得ることが知られている。
Click-iT EdU Alexa Fluor 594イメージングキット(Thermo社製)の色素におけるアジド基とエチニル基が反応し検出し得ることが知られている。
【0083】
また、MAPキナーゼキナーゼ1及び2(MAPKK若しくはMEK1/2)はMAPK(ERK1/2)をリン酸化して活性化させることが知られている。上記U0126はMAPキナーゼキナーゼ1及び2の選択的阻害剤として知られ、ERKのリン酸化による活性化を阻害し、MEK1及びMEK2を同等に阻害することが知られている。
【0084】
図3は、ベータジェニンペプチドを用いたFzd3安定的発現細胞増殖試験結果を示す図である。
図3中、白く見える部分はEdUの蛍光標識部分を示しDNA合成が活発に起こり、細胞が増殖していることを示す。
黒く見える部分はDNAに結合するDAPI(4’,6-diamidino-2-phenylindole)による標識部分を示す。
【0085】
図3に示した結果から明らかなように、培地にベータジェニンペプチドもU0126も添加させないビヒクルのみでは、モックCHO細胞及びFzd3安定的発現CHO細胞いずれもEdUの取り込みは見られなかった。
また、培地に100nMベータジェニンペプチドを添加した場合、モックCHO細胞ではEdUの取り込みは見られないが、Fzd3安定的発現CHO細胞ではEdUの取り込みが見られ、DNA合成が活発に起こっていることがわかり、細胞増殖が活発に起こっていることがわかる。
この結果から、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子をスクリーニング剤として使用して、フリズルド3タンパク質に対するアゴニストを探索することによりフリズルド3発現細胞の増殖促進剤をスクリーニングすることができるといえる。
【0086】
また、培地に100nMベータジェニンペプチドとともに10μMのU0126を添加した場合、モックCHO細胞及びFzd3安定的発現CHO細胞いずれもEdUの取り込みは見られなかった。
このことは、リガンドであるベータジェニンによる受容体であるフリズルド3タンパク質への結合によるシグナル伝達が、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の少なくとも1部を経由していることが示唆され、U0126によりそのシグナル伝達が阻害されたことが示唆される。
【0087】
なお、本発明者らは、TUNEL標識を用いてベータジェニンペプチドの添加がFzd3安定的発現細胞のアポトーシスを抑制することを確認している。
このことから、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子をスクリーニング剤として使用して、フリズルド3タンパク質に対するアゴニストを探索することによりフリズルド3発現細胞のアポトーシス抑制剤をスクリーニングすることができるともいえる。
【0088】
また、本発明者らは、Fzd3安定的発現細胞であるβ細胞を含むヒト及びマウスランゲルハンス島においてベータジェニンペプチドの添加がインスリン分泌を促進することを確認している。
このことから、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子をスクリーニング剤として使用して、フリズルド3タンパク質に対するアゴニストを探索することによりインスリン分泌促進剤をスクリーニングすることができるともいえる。
【0089】
また、本発明者らは、抗生剤STZ誘導I型糖尿病モデルマウスにおいてベータジェニンペプチドの添加がβ細胞数の増加及び糖尿病の抑制することを確認している。
このことから、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子をスクリーニング剤として使用して、フリズルド3タンパク質に対するアゴニストを探索することにより糖尿病予防若しくは治療剤をスクリーニングすることができるともいえる。
【0090】
<Fzd3遺伝子に対するsiRNAを用いたFzd3発現細胞増殖抑制試験>
Fzd3遺伝子に対するsiRNAはSilencer Select siRNA(Thermo社製)を用い、細胞に5nMのsiRNAをリポフェクトアミンRNAiMAXトランスフェクション試薬(Thermo社製)にて導入した。Fzd3安定的発現CHO細胞にsiRNAをトランスフェクションし、total RNAを抽出後、qRT-PCRにてノックダウン効率を算出した。
【0091】
図4はFzd3安定的発現CHO細胞にコントロールのsiRNAを添加した系において培地に100nMベータジェニンペプチドを添加した場合のFzd3発現量をqRT-PCRにより測定した値を100%とし、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAを添加した系のノックダウン効率(%)を示したグラフである。
図4から、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAによりFzd3の発現が1/10に低下していることがわかる。
【0092】
図5はFzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAを用いたFzd3発現細胞増殖抑制試験結果を示す図である。
図5に示した結果から明らかなように、Fzd3を発現しないモックCHO細胞に、Fzd3遺伝子に対するsiRNAではないコントロールのsiRNAを添加した系では、培地にビヒクルのみを添加した場合及び100nMベータジェニンペプチドを添加した場合のいずれでもEdUの取り込みが見られず増殖が起こっていないことがわかる。
また、Fzd3安定的発現CHO細胞に、Fzd3遺伝子に対するsiRNAではないコントロールのsiRNAを添加した系において培地にビヒクルのみを添加した場合にもEdUの取り込みが見られず増殖が起こっていないことがわかる。
一方、Fzd3安定的発現CHO細胞に、Fzd3遺伝子に対するsiRNAではないコントロールのsiRNAを添加した系において培地に100nMベータジェニンペプチドを添加した場合にはEdUの取り込みが起こり、Fzd3安定的発現CHO細胞の増殖が活発に起こっていることがわかる。すなわち、Fzd3遺伝子に対するsiRNAではないコントロールのsiRNAではFzd3遺伝子をノックダウンしていないことが分かる。
これに対し、Fzd3安定的発現CHO細胞に、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAを添加した系では、培地にビヒクルのみを添加した場合及び100nMベータジェニンペプチドを添加した場合のいずれでもEdUの取り込みが見られず増殖が起こっていないことがわかる。すなわち、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAによりFzd3遺伝子がノックダウンされてFzd3安定的発現CHO細胞の増殖が抑制されていることが分かる。
【0093】
以上
図4及び5に示した結果から、フリズルド3タンパク質若しくは遺伝子が、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤又はインスリノーマ予防若しくは治療剤のスクリーニング剤として使用し得るといえる。
また、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAが、フリズルド3発現細胞の細胞数低下剤、又はインスリノーマ予防若しくは治療剤として使用し得るといえる。
【0094】
<Fzd3発現細胞「増加」試験>
(生存細胞数カウント測定)
モックCHO細胞及びFzd3安定的発現CHO細胞を96ウェルプレート(Corning社製,#3603)に1×103/ウェルで播種し、24時間後にリポフェクトアミンRNAiMAXを用いてsiRNAを遺伝子導入した。その12時間後に100nMベータジェニンペプチド入り、0.5%FBS/Ham’sF-12培地に交換し、その24時間後の細胞数を計測した。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いて、細胞の内在性のATPをマルチラベルプレートカウンター(ARVO MX)にて発光量(Relative Light Unit;RLU)として定量することで生存細胞数を測定した。
【0095】
図6(a)はFzd3安定的発現CHO細胞にビヒクルのみを添加した場合と100nMベータジェニンペプチドを添加した場合との生存細胞数をRLUとして示すグラフである。
図6(b)はFzd3安定的発現CHO細胞に100nMベータジェニンペプチドを添加した系においてコントロールのsiRNAを添加した場合とFzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAを添加した場合との生存細胞数をRLUとして示すグラフである。
【0096】
図6(a)に示した結果から明らかなように、ベータジェニンペプチドがアゴニストとして作用してFzd3発現細胞数が増加していることが分かる。
この結果は、ベータジェニンペプチド刺激によりFzd3発現細胞が増殖しているのみならず、また、Fzd3発現細胞のアポトーシスが抑制されているのみならず、ベータジェニンペプチド刺激によりFzd3発現細胞の細胞数が総和として増加していることを示している。
また、
図6(b)に示した結果から明らかなように、Fzd3遺伝子に対して特異的なsiRNAによりFzd3発現細胞の細胞数が低下していることが分かる。
【0097】
以上
図6に示した結果から、フリズルド3発現細胞及びCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社製)を用いた上記系が、フリズルド3発現細胞の細胞数増加剤若しくは低下剤、糖尿病予防若しくは治療剤、インスリノーマ予防若しくは治療剤、及びインスリン分泌促進剤若しくは分泌抑制剤よりなる群から選択される少なくとも1つの剤をスクリーニングするためのスクリーニングキットないしシステムとして機能し得ることがわかる。
【0098】
<ベータジェニンペプチドを用いたFzd3発現細胞におけるシグナル伝達経路確認試験>
(細胞サンプル調製)
HEK293T細胞を1×10
5/6cmディッシュに播種し、その24時間後にFuGENE6にてトランスフェクションし、その24時間後に0.5%FBS入りのDMEM培地に交換し血清飢餓を起こした。あるいは、モックCHO細胞及びFzd3安定的発現CHO細胞を6cmディッシュに3×10
5播種し24時間培養後、血清飢餓にした。
血清飢餓24時間後にベータジェニンペプチド入り培地で刺激し、
図7に記載の所定の時間後(0分、1分、3分、10分)に回収、氷冷PBS(-)で2回洗浄し回収した。
【0099】
(ウエスタンブロット)
回収した細胞を120μLの細胞溶解バッファー(50mM Tris-HCl,pH 7.4,150mM NaCl,1mM EDTA,10mM NaF,1mM sodium vanadate,10mMβ-glycerohosphate,1%Triton X-100,10% Glycerol,1mM DTT,1×Protease inhibitor(Roche社製),0.5%NonidetP-40)でタンパク抽出し、氷上30分後15,000rpm4℃30分間遠心しクリアライセートを得た。SDSサンプルバッファーで懸濁後、95℃5分間煮沸し、12%SDS-PAGEで分離後、PVDFメンブレン(Millipore社製)に転写した。1次抗体:ERK1/2抗体(Cell Signaling社製)、リン酸化ERK1/2抗体(Cell Signaling社製)、2次抗体:抗ウサギIgG-HRPコンジュゲート抗体(Cell Signal社製)と反応後、Chemi-Lumi One(nacalai社製)で室温5分間反応させ、LAS-4000(GE)にて可視化した。
【0100】
図7(a)は、ベータジェニンペプチド刺激によりHEK293T細胞におけるERK1/2のリン酸化を確認した結果を示す図であり、(b)は、ベータジェニンペプチド刺激によりFzd3安定的発現CHO細胞におけるERK1/2のリン酸化を確認した結果を示す図である。
図7(a)及び(b)に示した結果から明らかなように、HEK293T細胞及びFzd3安定的発現CHO細胞いずれにおいてもベータジェニンペプチド刺激3分後及び10分後においてリン酸化ERK1/2のバンドが濃くなっていることが分かる。
この結果から、リガンドであるベータジェニンによる受容体であるフリズルド3タンパク質への結合によるシグナル伝達が、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の少なくとも1部を経由しているといえる。
【配列表】