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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20230804BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230804BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K3/013
C08K5/541
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018217890
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020083974
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】河田 円
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-195741(JP,A)
【文献】国際公開第2009/041550(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0004367(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0063215(US,A1)
【文献】特開2009-084386(JP,A)
【文献】特開2010-222485(JP,A)
【文献】国際公開第2008/084651(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/078654(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/088112(WO,A1)
【文献】特開2013-253175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部と、
トリアルコキシシリル基を有し且つ分子量分布が1.5以下であるポリオキシアルキレン系重合体(B)1~30質量部と、
脱水剤(C)3~30質量部とを含むことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)は、主鎖骨格の末端にジアルコキシシリル基を有することを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)は、主鎖骨格の末端にトリアルコキシシリル基を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
無機充填材を含有していることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して無機充填材100~500質量部を含有していることを特徴とする請求項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の分子量分布が、1.6以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
有機錫系化合物を含むシラノール縮合触媒を含有していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含む変性シリコーン系の硬化性組成物は、硬化時に毒物を発生しない安全性や、硬化後の弾性及び耐久性を備えていることから、建築物の床構造用や外壁用の接着剤として多く用いられている。
【0003】
昨今の建築物では、数年後のリフォームやリノベーションといった改修が想定され、建築用接着剤においても改築を考慮した剥離しやすい設計が求められている。特に床下地材に接着剤を介して床仕上げ材が接着一体化された床構造では、部分的な汚れや傷に対する張替も想定されるため、より剥離しやすい接着剤が要求されている。
【0004】
しかしながら、従来のエポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤及び変性シリコーン系接着剤などの接着剤を用いた場合、床仕上げ材が接着剤を介して床下地材に強固に接着されているため、床仕上げ材を床下地材から容易に剥離することができない場合があった。このような場合、床仕上げ材を床下地材から無理に剥離しようとすると、床下地材の一部が床仕上げ材と共に剥離して床下地材を損傷させてしまう問題がある。
【0005】
この問題に関して、特許文献1のように末端珪素原子に加水分解性基が3個結合したポリオキシアルキレン系重合体を用いた方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-160368
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記方法では接着力が弱すぎるため、床下地材と床仕上げ材の固定が不十分であるという問題点を有する。
【0008】
本発明は、床下地材と床仕上げ材とを接着一体化させるための接着剤として好適に用いることができ、床仕上げ材などの接着物を、床下地材などの被着体に十分な接着力でもって接着一体化させることができ、且つ、改修時には被着体を損傷させることなく、接着物を被着体から容易に剥離することが可能な硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の硬化性組成物は、ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部と、
トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)と、
脱水剤(C)3~30質量部とを含むことを特徴とする。
【0010】
[ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)]
ジアルコキシシリル基を有するポリアルキレン系重合体(A)は、主鎖に一般式(1)で表されるジアルコキシシリル基を有する重合体である。なお、ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)は、単に「ポリオキシアルキレン系重合体(A)」ということがある。
-SiR1(OR (1)
ここで、R1は、水素原子又は置換基を有しても良い炭素数1~20のアルキル基、R2は、炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0011】
ジアルコキシシリル基としては、例えば、ジメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基などが挙げられ、ジメトキシシリル基が好ましい。
【0012】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)は、主鎖の末端又は側鎖にジアルコキシシリル基を有しておればよく、主鎖の末端にジアルコキシシリル基を有していることが好ましい。
【0013】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の主鎖は、一般式(2)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(R-O)n- (2)
(式中、Rは炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)
【0014】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の主鎖は、一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0015】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の主鎖骨格としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられ、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0016】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)は、ウレタン結合を含有していないことが好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体(A)がウレタン結合を有していないと、得られる硬化性組成物の粘度が冬場などの低温時に上昇することを抑制し、硬化性組成物の塗工性又は貯蔵安定性を向上させることができる。
【0017】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の数平均分子量は、8000~50000が好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体(A)の数平均分子量が8000以上であると、床下地材などの被着体に、床仕上げ材などの接着物を十分な接着力でもって接着一体化することができる。ポリオキシアルキレン系重合体(A)の数平均分子量が50000以下であると、硬化性組成物の塗工性が向上する。
【0018】
ポリオキシアルキレン系重合体(A)の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。分子量分布が上記範囲内であると、床下地材などの被着体に、床仕上げ材などの接着物を十分な接着力でもって接着一体化することができる。
【0019】
なお、本発明において、架橋性シリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。具体的には、ポリオキシアルキレン系重合体6~7mgを採取し、採取したポリオキシアルキレン系重合体を試験管に供給した上で、試験管に0.05質量%のBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)を含むo-DCB(オルトジクロロベンゼン)溶液を加えてポリオキシアルキレン系重合体の濃度が1mg/mLとなるように希釈して希釈液を作製する。
【0020】
溶解濾過装置を用いて145℃にて回転速度25rpmにて1時間に亘って上記希釈液を振とうさせてポリオキシアルキレン系重合体をBHTを含むo-DCB溶液に溶解させて測定試料とする。この測定試料を用いてGPC法によってポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量を測定することができる。
【0021】
ポリオキシアルキレン系重合体における数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置 TOSOH社製 商品名「HLC-8121GPC/HT」
測定条件 カラム:TSKgelGMHHR-H(20)HT×3本
TSKguardcolumn-HHR(30)HT×1本
移動相:o-DCB 1.0mL/分
サンプル濃度:1mg/mL
検出器:ブライス型屈折計
標準物質:ポリスチレン(TOSOH社製 分子量:500~8420000)
溶出条件:145℃
SEC温度:145℃
【0022】
分子内にジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)は、市販されているものを用いることができる。分子内にジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)としては、分子内にジアルコキシシリル基を有していれば、特に限定なく用いることができる。硬化性組成物の硬化物に適度な柔軟性とゴム弾性を付与することができるので、主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に加水分解性シリル基としてジメトキシシリル基を有し、且つ、ウレタン結合を有していないポリオキシプロピレン系重合体を用いることが好ましい。主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に加水分解性シリル基としてジメトキシシリル基を有し、且つ、ウレタン結合を有していない市販品の具体例としては、MSポリマーS203、MSポリマーS303、サイリルSAT350、サイリルSAT400、サイリルEST280(以上はカネカ社製)、エクセスターS2410、エクセスターS2420、エクセスターS3630(以上はAGC社製)などを挙げることができる。
【0023】
[トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)]
トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)は、主鎖に一般式(3)で表されるトリアルコキシシリル基を有する重合体である。なお、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)は、単に「ポリオキシアルキレン系重合体(B)」ということがある。
-Si(OR (3)
ここでRは炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0024】
トリアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などが挙げられ、トリメトキシシリル基が好ましい。
【0025】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)は、主鎖の末端又は側鎖にジアルコキシシリル基を有しておればよく、主鎖の末端にジアルコキシシリル基を有していることが好ましい。
【0026】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)の主鎖は、一般式(4)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましい。
-(R5-O)n- (4)
(式中、R5は、炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)
【0027】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)の主鎖は、一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0028】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)の主鎖骨格としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、及びポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレン共重合体などが挙げられ、ポリオキシプロピレンが好ましい。
【0029】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)の数平均分子量は、8000~50000が好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体(B)の数平均分子量が8000以上であると、床下地材などの被着体に、床仕上げ材などの接着物を十分な接着力でもって接着一体化することができる。ポリオキシアルキレン系重合体(B)の数平均分子量が50000以下であると、硬化性組成物の塗工性が向上する。
【0030】
ポリオキシアルキレン系重合体(B)の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、1.6以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。分子量分布が上記範囲内であると、床下地材などの被着体に、床仕上げ材などの接着物を十分な接着力でもって接着一体化することができる。
【0031】
分子内にトリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)は、市販されているものを用いることができる。分子内にトリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)としては、分子内にトリアルコキシシリル基を有していれば、特に限定なく用いることができる。硬化性組成物の硬化物に適度な柔軟性とゴム弾性を付与することができるので、主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に加水分解性シリル基としてトリメトキシシリル基を有しているポリオキシプロピレン系重合体を用いることが好ましい。主鎖骨格がポリオキシプロピレンであり、主鎖骨格の末端に加水分解性シリル基としてトリメトキシシリル基を有する市販品の具体例としては、MSポリマーMA451、サイリルSAX510(以上はカネカ社製)、エクセスターG3440ST(以上はAGC社製)などを挙げることができる。
【0032】
硬化性組成物は、後述するように、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して脱水剤(C)を3~30質量部と多量に含有していると共に、ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)とトリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)とを併用している。
【0033】
即ち、硬化性組成物は、脱水剤(C)を多量に含有させることによって、硬化性組成物の硬化物に脆性を付与している。一方、硬化性組成物の硬化物に適度な柔軟性とゴム弾性を付与するために、ジアルコキシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)及びトリアルコシキシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)を含有させている。
【0034】
このように、硬化性組成物は、脱水剤(C)を通常よりも多量に含有していると共に、ジアルコキシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)及びトリアルコシキシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)を併用していることによって、硬化性組成物の硬化物は、優れた引張接着強さと適度な剥離接着強さを有している。従って、硬化性組成物を用いることによって、床下地材などの被着体に、床仕上げ材などの接着物を十分な接着力でもって接着一体化することができる(接着固定性)と共に、被着体から接着物を剥離させるときには、被着体を損傷させることなく、接着物を容易に剥離、除去することができる(剥離性)。
【0035】
更に、硬化性組成物は、所定量の脱水剤(C)と、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)とを併用することによって、硬化性組成物の硬化速度を適切に制御しており、冬季の低温及び夏季の高温の何れの雰囲気温度においても適切な可使時間を保持することができる。
【0036】
又、硬化性組成物は、所定量の脱水剤(C)と、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)とを併用している。従って、被着体上に接着物を硬化前の硬化性組成物を介して配設した状態において、硬化性組成物は、適度な凝集力を有しており、接着物を被着体上の所望の位置に固定させることができる一方、被着体上における接着物の位置調整を行ないたい場合には、接着物の位置調整を容易に行なうことができる(初期接着性)。
【0037】
硬化性組成物中におけるポリオキシアルキレン系重合体(B)の含有量は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して1~30質量部が好ましく、2~20質量部がさらに好ましく、3~10質量部が特に好ましい。ポリオキシアルキレン系重合体(B)の含有量が上記範囲内であると、接着物と被着体とを十分な接着力でもって接着一体化させることができると共に、必要な場合には、接着物を被着体を損傷することなく被着体から剥離、除去することができる。
【0038】
[脱水剤(C)]
硬化性組成物は、脱水剤(C)を含有している。脱水剤(C)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、及びジフェニルジメトキシシランなどのシラン化合物;並びにオルトギ酸メチル、オルトギ酸エチル、オルト酢酸メチル、及びオルト酢酸エチルなどのエステル化合物などを挙げることができる。これらの脱水剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なかでも、ビニルトリメトキシシランが好ましい。
【0039】
硬化性組成物中における脱水剤(C)の含有量は、ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して3~30質量部であり、4~20質量部がより好ましく、5~18質量部がより好ましく、8~15質量部が特に好ましい。脱水剤(C)の含有量が3質量部以上であると、硬化性組成物の硬化物に適度な脆性を付与することによって、硬化性組成物の硬化物に優れた剥離性を付与することができる。脱水剤(C)の含有量が30質量部以下であると、被着体上に接着物を硬化前の硬化性組成物を介して配設した状態において、硬化性組成物は適度な凝集力を有しており、接着物を被着体上の所望の位置に固定させることができると共に、硬化性組成物の硬化物に適度な脆性を付与することによって、硬化性組成物の硬化物に優れた剥離性を付与することができる。
【0040】
[無機充填材]
硬化性組成物は、無機充填材を含有していてもよい。硬化性組成物に無機充填材を含有させることによって、硬化性組成物の剥離性が向上する。
【0041】
硬化性組成物は、無機充填材と、ポリオキシアルキレン系重合体(A)及び(B)とを併用することによって、接着物と被着体とを十分な接着力でもって接着一体化させることができる一方、必要に応じて、被着体を損傷させることなく、接着物を被着体から剥離、除去することができる。
【0042】
更に、硬化性組成物は、無機充填材と、ポリオキシアルキレン系重合体(A)及び(B)とを併用することによって、硬化性組成物の硬化物が柔軟になりすぎないようにし、硬化物に適度な機械的強度及びゴム弾性を付与することができ、硬化性組成物に優れた接着性及び剥離性を付与することができる。
【0043】
無機充填材としては、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、含水ケイ酸、無水ケイ酸、微粉末シリカ、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、タルク、カーボンブラック、及びガラスバルーンなどが挙げられ、炭酸カルシウムが好ましい。無機充填材は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0044】
炭酸カルシウムとしては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウムが好ましく挙げられる。
【0045】
重質炭酸カルシウムは、例えば、天然のチョーク(白亜)、大理石、石灰石などの天然の炭酸カルシウムを微粉状に粉砕することにより得ることができる。
【0046】
沈降炭酸カルシウムは、例えば、石灰石を原料として用い、化学的反応を経て製造することができる。沈降炭酸カルシウムとしては、軽質炭酸カルシウム、及び膠質炭酸カルシウムなどが挙げられ、膠質炭酸カルシウムが好ましい。軽質炭酸カルシウムの一次粒子径は1~3μmが好ましい。又、軽質炭酸カルシウムは、紡錘形状又は柱状の形状を有することが好ましい。膠質炭酸カルシウムの一次粒子径は、0.02~0.1μmが好ましい。膠質炭酸カルシウムは、立方体状を有することが好ましい。
【0047】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム及び沈降炭酸カルシウムのうちいずれか一方を用いてもよく、双方を用いてもよい。重質炭酸カルシウムと沈降性炭酸カルシウムとを組み合わせて用いることにより、硬化性組成物にチキソ性を付与することができ、塗工ムラを防ぐことができる。
【0048】
硬化性組成物中において、重質炭酸カルシウムの含有量と沈降炭酸カルシウムの含有量の比(重質炭酸カルシウムの含有量/沈降炭酸カルシウムの含有量)は0.5~3が好ましく、0.7~2.5がより好ましく、0.8~2が特に好ましい。重質炭酸カルシウムの含有量と沈降炭酸カルシウムの含有量の比(重質炭酸カルシウムの含有量/沈降炭酸カルシウムの含有量)が上記範囲内であると、硬化性組成物の接着固定性と剥離性をバランス良く両立することができる。
【0049】
炭酸カルシウムは、その表面に表面処理が施されていてもいなくてもよい。表面処理された炭酸カルシウムと表面処理されていない炭酸カルシウムは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。炭酸カルシウムに表面処理が施されている場合、表面処理は、脂肪酸や脂肪酸エステルなどを用いて行なわれていることが好ましい。
【0050】
硬化性組成物中における無機充填材の含有量は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して100~500質量部が好ましく、100~400質量部がより好ましい。無機充填材の含有量が100質量部以上であると、硬化性組成物に十分な接着性と優れた剥離性を付与することができる。無機充填材の含有量が500質量部以下であると、硬化性組成物の硬化物のゴム弾性を向上させることができ、硬化性組成物の剥離性を向上させることができると共に、硬化性組成物の硬化前における粘度を抑えて塗工性を向上させることができる。
【0051】
[シランカップリング剤]
硬化性組成物は、シランカップリング剤を更に含有していてもよい。シランカップリング剤を含有することにより、硬化性組成物に優れた接着性を付与することができる。
【0052】
シランカップリング剤としては、例えば、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、イソシアネートシランカップリング剤、メルカプトシランカップリング剤、カルボキシシランカップリング剤、ハロゲンシランカップリング剤、カルバメートシランカップリング剤、アルコキシシランカップリング剤、及び酸無水物シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ポリオキシアルキレン系重合体(A)及び(B)との相乗効果によって、硬化性組成物の接着性と耐水性が向上するので、アミノシランカップリング剤とエポキシシランカップリング剤の併用が好ましい。
【0053】
アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0054】
なかでも、アミノシランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN-(2-アミノエチル)-3-プロピルトリエトキシシランが好ましく挙げられ、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましく挙げられる。
【0055】
エポキシシランカップリング剤とは、一分子中にアルコキシ基が結合した珪素原子と、エポキシ基を含有する官能基とを含む化合物を意味する。エポキシシランカップリング剤としては、特に限定されず、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、及び2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0056】
硬化性組成物中におけるシランカップリング剤の含有量は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して0.5~20質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。シランカップリング剤の含有量を0.5質量部以上とすることによって、硬化性組成物の硬化物に十分な接着性を付与することができる。シランカップリング剤の含有量を20質量部以下とすることによって、硬化性組成物の貯蔵安定性及び取扱性を向上させることができる。
【0057】
[シラノール縮合触媒]
硬化性組成物は、シラノール縮合触媒を含有していてもよい。シラノール縮合触媒とは、ポリオキシアルキレン系重合体が有するジアルコキシシリル基及びトリアルコキシシリル基が加水分解することなどにより形成されたシラノール基同士の脱水縮合反応を促進させるための触媒である。なお、シラノール基とは、ケイ素原子に直接結合しているヒドロキシ基(≡Si-OH)を意味する。
【0058】
シラノール縮合触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジオクチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ジオクチル錫ジラウレート、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、及びジブチル錫オキシビスエトキシシリケートなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物;1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカー5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカー5-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、6-ジブチルアミノ-1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナー5-エンなどのシクロアミジン系化合物;ジブチルアミン-2-エチルヘキソエートなどが挙げられる。また、他の酸性触媒や塩基性触媒もシラノール縮合触媒として用いることができる。これらのシラノール縮合触媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0059】
なかでも、シラノール縮合触媒としては、硬化性組成物を均一に硬化させることができるので、有機錫系化合物が好ましく、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)がより好ましい。
【0060】
硬化性組成物中におけるシラノール縮合触媒の含有量は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.5~6質量部がより好ましい。シラノール縮合触媒の含有量が0.1質量部以上であると、硬化性組成物の硬化性が向上する。シラノール縮合触媒の含有量が10質量部以下であると、硬化性組成物は優れた接着性を有する。
【0061】
[他の添加剤]
硬化性組成物は、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、揺変剤、顔料、染料、沈降防止剤及び溶剤など他の添加剤を含んでいてもよい。なかでも、酸化防止剤が好ましく挙げられる。
【0062】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。硬化性組成物中における酸化防止剤の含有量は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0063】
硬化性組成物は、ポリオキシアルキレン系重合体(A)、ポリオキシアルキレン系重合体(B)及び脱水剤(C)、並びに必要に応じて他の添加剤を混合する方法により製造することができる。混合は減圧下で行うことが好ましく、硬化性組成物は、外気中の水分との反応を防止するため、密封された容器に保管することが好ましい。
【0064】
硬化性組成物は、例えば、床構造の構築に用いられる。例えば、床構造は、床基盤上に敷設された床下地材上に、硬化性組成物からなる硬化物を介して床仕上げ材が接着一体化されることによって構築される。床構造は、床基盤と、上記床基盤上に敷設されている床下地材と、上記床下地材上に形成されており且つ上記床下地材と接着一体化している硬化物と、上記硬化物上に敷設されており且つ上記硬化物と接着一体化している床仕上げ材とを含んでいる。
【0065】
床仕上げ材を構成する部材としては、例えば、合板及びミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF:Medium Density Fiberboard)などの木質系材料、タイル、塩化ビニルシート、及び石材などが挙げられる。
【0066】
床下地材を構成する部材としては、例えば、合板、パーチクルボード、木根太、石膏ボード、スレート板、及びコンクリート板などが挙げられる。
【発明の効果】
【0067】
硬化性組成物は、空気中の湿気や、床仕上げ材などの接着物、及び、被着体などの床下地材に含まれている湿気によって硬化し、接着物と被着体とを十分な接着力でもって接着一体化させることができる。
【0068】
硬化性組成物は、適度な接着力を有することで、改修時には被着体を損なうことなく、接着物を被着体から剥離、除去することができる。
【0069】
硬化性組成物は、冬季の低温及び夏季の高温の何れの雰囲気温度においても適切な可使時間を保持することができ、外気温にかかわらず、塗工から接着物の被着体への配設までの作業を円滑に行なうことができる。
【0070】
硬化性組成物は、硬化前において適度な凝集力を有しており、接着物を被着体上の所望の位置に固定させることができる一方、被着体上における接着物の位置調整を行ないたい場合には、接着物の位置調整を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例
【0072】
実施例及び比較例の硬化性組成物の製造において下記の原料を使用した。
[ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)]
・主鎖骨格(ポリオキシプロピレン)の末端にジメトキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(数平均分子量:10000、分子量分布:1.49、ウレタン結合を有しない、カネカ社製 製品名「サイリルEST280」)
【0073】
[トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)]
・主鎖骨格(ポリオキシプロピレン)の末端にトリメトキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(数平均分子量:29000、分子量分布:1.3~1.4、カネカ社製 製品名「サイリルSAX510」)
【0074】
[脱水剤(C)]
・ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 製品名「KBM-1003」)
【0075】
[無機充填材]
・重質炭酸カルシウム(白石カルシウム社製 製品名「ホワイトンSB」)
・膠質炭酸カルシウム(一次粒子径:0.05μm、丸尾カルシウム社製 製品名「カルファイン500」)
【0076】
[シラノール縮合触媒]
・ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)(日東化成社製 製品名「ネオスタンS-303」)
【0077】
(実施例1~13、比較例1~4)
ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)、脱水剤(C)、無機充填材及びシラノール縮合触媒をそれぞれ、表1に示す配合量となるようにして、密封した攪拌機中で減圧しながら均一になるまで混合することにより硬化性組成物を作製した。
【0078】
なお、表1において、ジアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(A)は、単に「ポリオキシアルキレン系重合体(A)」と、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体(B)は、単に「ポリオキシアルキレン系重合体(B)」と表記した。
【0079】
得られた硬化性組成物について、初期接着性、引張接着強さ(接着固定性)、剥離性及び可使時間を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0080】
[初期接着性]
初期接着性をJIS A5536 6.3.5 床仕上げ用接着剤ずれ変化量の方法を用いて評価した。試験用床下地は厚さ8mmのモルタル板を用いた。床仕上げ材は東リ社から製品名「ロイヤルストーン」にて市販されている高分子張り床材を用いた。試験は23℃、相対湿度50%の環境下にて実施し、硬化性組成物の塗工開始から、塗工された硬化性組成物上に床仕上げ材を載置して圧着させるまでの時間を30分とし、床仕上げ材を硬化性組成物上に圧着した後、24時間経過した時点での床仕上げ材の移動した距離を測定した。比較例2~4は、硬化性組成物の塗工から30分を経過した時点において、硬化性組成物は完全に硬化していた。
【0081】
[引張接着強さ(接着固定性)]
硬化性組成物の常態引張接着強さをJIS A5536 6.3.2 d)1)に準拠して測定した。試験用床タイルとして東リ社から製品名「ロイヤルストーン」にて市販されているシートを用いた。下地材として厚さ20mmのモルタル板を用いた。評価はJIS A5536 6.3.2 d)1)の強度を基に、下記基準で行った。
【0082】
○・・0.5N/mm2以上で且つ1.5N/mm2未満であった。
△・・0.3N/mm2以上で且つ0.5N/mm2未満であった。
×・・0.3N/mm2未満又は1.5N/mm2以上であった。
【0083】
(剥離性)
床下地材として木材又はモルタル板を用い、床仕上げ材として東リ社から製品名「クッションフロア CFシート」にて市販されている高分子張り床シートを用いた。JIS A5536 6.3.3 床仕上げ用接着剤剥離接着強さに準拠して測定し、破壊状態を目視観察し下記基準に基づいて評価した。
【0084】
○・・床下地材及び床仕上げ材は共に材料破壊していなかった。
△・・床下地材は材料破壊していなかったが、床仕上げ材は材料破壊していた。
×・・床下地材が材料破壊していた。
【0085】
(可使時間)
35℃又は5℃の環境下にて床下地材(モルタル板)に櫛目ゴテを用いて硬化性組成物を塗布した後、硬化性組成物上に床仕上げ材(東リ社製 製品名「ロイヤルストーン」)を載置した。床仕上げ材上にハンドローラーを50Nの加重を加えながら2往復させた。硬化性組成物が床仕上げ材に転写可能である最大時間を可使時間とした。
【0086】
可視時間は短すぎると、床仕上げ材の施工作業性に劣り、長すぎると、床仕上げ材の圧着時に接着剤が流動的になり床仕上げ材にズレが生じる虞れがある。
【0087】
【表1】