(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/25 20210101AFI20230804BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20230804BHJP
H01M 8/04791 20160101ALI20230804BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20230804BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230804BHJP
【FI】
C25B3/25
C25B15/08 302
H01M8/04791
H01M8/04858
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019044460
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】梅田 実
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔風
(72)【発明者】
【氏名】新妻 祐希
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203193(JP,A)
【文献】特開平07-188961(JP,A)
【文献】特開平07-118886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 3/25,15/08
H01M 8/04791,8/04858,8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードと、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給手段と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給手段と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続した電圧制御手段と、
を具備してなり、
前記カソード反応物供給手段は、前記二酸化炭素を含む第1ガスの流量を制御する第1ガス流量制御手段と前記不活性ガスの流量を制御する第2ガス流量制御手段を有し、
前記カソード反応物供給手段は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で0:100~60:40の範囲内で変動するように制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項2】
前記電圧制御手段は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加する、
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素還元装置。
【請求項3】
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードと、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給手段と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給手段と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続した電圧制御手段と、
を具備してなり、
前記電圧制御手段は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加し、かつ、前記カソード反応物供給手段は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で一時的に0:100に設定する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【請求項4】
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードを用意する工程と、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給工程と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給工程と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続する電圧制御工程と、
を具備し、
前記カソード反応物供給工程は、前記二酸化炭素を含む第1ガスの流量を制御する第1ガス流量制御工程と前記不活性ガスの流量を制御する第2ガス流量制御工程を有し、
前記カソード反応物供給工程は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で0:100~60:40の範囲内で変動するように制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元方法。
【請求項5】
前記電圧制御工程は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加する工程を含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素還元方法。
【請求項6】
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードを用意する工程と、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給工程と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給工程と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続する電圧制御工程と、
を具備し、
前記電圧制御工程は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加し、かつ、前記カソード反応物供給工程は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で一時的に0:100に制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二酸化炭素を極めて低い過電圧で還元固定化する還元装置及び還元方法に関し,詳しくは,二酸化炭素を極めて低い過電圧で選択的にメタンに変換する還元装置及び還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に存在する二酸化炭素は,温室効果ガスとしてその濃度が年々増加することに懸念が持たれている。二酸化炭素を電気化学的に還元してメタンに変換する場合,その理論電圧は水の電解による水素製造のそれよりも正電位で生ずる。つまり,余剰電力などによる電気エネルギーを化学エネルギーに変換してエネルギー貯蔵に使用する場合,水から水素を作るよりも低い電圧で二酸化炭素からメタンを製造できることになる。さらに,水素の貯蔵と輸送に関しては,新たなインフラを構築する必要があるため,社会的な負担が大きい問題がある。一方,メタンは天然ガスの主成分であるため,現代社会における都市ガスの貯蔵と輸送のインフラがそのまま使用できるという利点を有する。
【0003】
以上の社会的背景に鑑みると,二酸化炭素の還元固定化は重要な技術と位置づけられる。これに対して,これまでの二酸化炭素の電解還元は,銅電極ないし金電極を使用する技術開発が専ら行われてきた。この場合の二酸化炭素の還元に要する過電圧,つまり理論電位以上に印加する必要がある電圧は1~2ボルト程度である。水から水素を発生させる電極還元反応の過電圧が高々0.1ボルト程度である現状を踏まえると,銅電極ないし金電極を用いる二酸化炭素還元は,エネルギー貯蔵に貢献できる可能性が低いことが分かる。更に,銅電極ないし金電極を用いる場合,複数の生成物を生ずることから(非特許文献1),生成物を利用する場合に分離技術を必要とするため好適とは言い難い。
【0004】
一方,白金電極を用いて二酸化炭素を還元固定化する研究は報告があるが,いずれも二酸化炭素由来の有用生成物を理論電位に近い低過電圧で効率良く取り出すことに成功していない。
【0005】
特許文献1および2には白金電極を膜電極接合体の還元極に使用する二酸化炭素の還元技術が開示されていて,二酸化炭素を還元することで一酸化炭素とメタノールの生成が確認されている。このときカソードに供給される二酸化炭素は,高濃度であっても不活性ガスを混合して濃度を調整してもよく,アノードでの標準水素電極電位に対する酸化還元電位が1.5V以下とすることも開示されている。
【0006】
特許文献3および4には,膜電極接合体を使用した電解/発電方法において電解/発電部の温度を200℃以下に制御することでカソードに供給される二酸化炭素からメタン,メタノール,エタノール等を生成でき,生成量や種類別比率をコントロールする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】再公表2012/118065号公報
【文献】再公表2012/128148号公報
【文献】特開2015-54994号公報
【文献】特開2015-56315号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】電気化学会エレクトロケミストリー誌,第87巻,37~42頁,(2019年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上で説明した公知技術においては,供給される二酸化炭素が高濃度であっても不活性ガス混合による濃度調整を行っても還元反応が起こるものの,連続して還元反応が続かない問題があった。更には選択的に生成物を取り出すためには高い熱エネルギーを加える必要があるため,エネルギーの観点から実用性に欠けていた。
【0010】
このように,二酸化炭素を低過電圧で,つまり低消費エネルギーのもとに連続的・効率的かつ選択的に還元固定化する技術は提案されておらず,かかる条件を満たす二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法が待ち望まれていた。
【0011】
本発明の第一の目的は,低消費エネルギーのもとに効率的に二酸化炭素を還元固定化する二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法を提供するものである。
【0012】
本発明の第二の目的は,反応生成物を選択的に取り出すことができる二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は,二酸化炭素の還元により連続して反応生成物を取り出すことができる二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに別の目的は,二酸化炭素を還元しながら,電気エネルギーを取り出すことができる二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果,以下の構成を具備することで前記の課題を解決することを見いだし,本発明の完成に至った。
【0016】
すなわち本発明は、例えば、以下の構成・特徴を備えるものである。
【0017】
(態様1)
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードと、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガ
ス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給手段と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給手段と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続した電圧制御手段と、
を具備してなり、
前記カソード反応物供給手段は、前記二酸化炭素を含む第1ガスの流量を制御する第1ガス流量制御手段と前記不活性ガスの流量を制御する第2ガス流量制御手段を有し、
前記カソード反応物供給手段は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で0:100~60:40の範囲内で変動するように制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
(態様2)
前記電圧制御手段は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加する、
ことを特徴とする態様1に記載の二酸化炭素還元装置。
(態様3)
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードと、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給手段と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給手段と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続した電圧制御手段と、
を具備してなり、
前記電圧制御手段は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加し、かつ、前記カソード反応物供給手段は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で一時的に0:100に設定する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
(態様4)
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードを用意する工程と、
前記カソードに対し二酸化炭素を含第1 ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中
の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給工程と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給工程と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続する電圧制御工程と、
を具備し、
前記カソード反応物供給工程は、前記二酸化炭素を含む第1ガスの流量を制御する第1ガス流量制御工程と前記不活性ガスの流量を制御する第2ガス流量制御工程を有し、
前記カソード反応物供給工程は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で0:100~60:40の範囲内で変動するように制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元方法。
(態様5)
前記電圧制御工程は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加する工程を含む、
ことを特徴とする態様4に記載の二酸化炭素還元方法。
(態様6)
電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードを用意する工程と、
前記カソードに対し二酸化炭素を含む第1ガスと不活性ガスとを供給し、かつ、第1ガス中の前記二酸化炭素と前記不活性ガスとの濃度比を制御するカソード反応物供給工程と、
前記アノードに対しアノード反応物を供給するアノード反応物供給工程と、
前記カソードおよび前記アノードに電気的に接続する電圧制御工程と、
を具備し、
前記電圧制御工程は、前記カソードの電極電位が可逆水素電極に対して0.11V以上0.19V以下の範囲で電圧を印加し、かつ、前記カソード反応物供給工程は、前記濃度比を、二酸化炭素濃度:不活性ガス濃度の割合で一時的に0:100に制御する、
ことを特徴とする二酸化炭素還元装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法によれば,理論電位に近い低過電圧,つまり低消費エネルギーで二酸化炭素から選択的にメタンを得ることができる。この反応は,カソードに供給する二酸化炭素の濃度を制御しかつカソード電極電位を適切な範囲に制御することで,連続して還元反応を高効率で生じさせることができる。また,この条件下で二酸化炭素の還元が,水の還元つまり水素発生反応よりも貴電位で生ずる。これは,二酸化炭素を還元してメタンを得る反応が,水を還元して水素を得るよりも低エネルギーで実行可能であることを意味する。このことは,水素よりもエネルギー貯蔵において好適なメタンが,低消費エネルギーで実行されることを表す。さらに,この二酸化炭素を還元してメタンを得るカソード反応にアノード反応として水素酸化を組み合わせると,二酸化炭素を還元してメタンを得ながらも発電(燃料電池発電)する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の二酸化炭素還元装置を説明する概念図である。
【
図2】本発明の二酸化炭素還元装置における電解セルを説明する概念図である。
【
図3】本発明の実施例にかかる試験結果を示した図である。
【
図4】本発明の実施例にかかる試験結果を示した図である。
【
図5】本発明の実施例にかかる試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず,本発明によりなる二酸化炭素還元装置ならびに二酸化炭素還元方法について,図を参照しながら説明する。以下の発明を実施するための形態は,本発明を詳しく説明するためのものであり,それらにより本発明が制約を受けるものではない。
【0021】
(二酸化炭素還元装置)
図1は,本発明の二酸化炭素還元装置の一形態を表す概念図である。二酸化炭素還元装置は,少なくとも,電解質を介して隔てられたカソードおよびアノードを有する電解部1と,カソードに対し二酸化炭素を含むガスと不活性ガスを供給しかつ,それぞれのガスの流量比率を制御するカソード反応物供給手段40と,アノードに反応物を供給するアノード反応物供給手段50,そしてカソードおよびアノードに電気的に接続した電圧制御手段80を有してなる。
【0022】
(電解部)
図1において,電解部1は少なくとも電解質11,カソード12,アノード13を有してなる。電解質11には,適切なイオン伝導性を持つことが求められる。具体的には,電解質を含んだ寒天やガラスフィルター,ポリオレフィン系樹脂の不織布や多孔性フィルムなどが挙げられ用いられる。しかしこの場合,電解液の混合を十分に防止することが難しく,また,隔膜の寿命が短いなどの問題点を有する。この問題を解決するため,電解質11としてイオン交換膜が好適に使用される。イオン交換膜はカチオン交換膜とアニオン交換膜とがあり,各々単独で用いることができるが,カソード反応物とアノード生成物が混入しないようなものを用いることが望まれる。具体的には,ナフィオン膜,ダウ膜,フレミオン膜,セレミオン膜,アシプレックス膜,ゴアセレクト膜(全て登録商標)などが有用である。また,電解質11のカソード側をこれらのイオン交換膜として,かつアノード側をイオン伝導機能を有する液体とすることも本発明の範疇に属するものである。カソード12とアノード13との間に効率的に電圧を印加できるよう電解質11の材質は電子電導性が少ないものが望ましい。
【0023】
(カソード)
カソード12は,触媒材料により構成される。触媒材料としては,二酸化炭素,又は二酸化炭素の還元によって生じる一酸化炭素への親和性が高い材料を含有することが好ましい。このような触媒材料を用いることにより,カソード12における還元反応を効率的に進行させることができる。このような触媒は必要に応じて選択でき,例えば,白金,金,パラジウム,ルテニウム,オスミウム,イリジウム,ロジウム,ニッケル,銀,鉄,銅,コバルトからなる群より選ばれる,1種又は2種以上が挙げられる。この中でも,とりわけ白金を有効成分として含むものが好適に使用される。特に,2種以上よりなる場合は,合金あるいはコアシェル構造よりなる材料が好ましく用いられる。また,これらを微粒子の形態で使用する場合はカーボンや酸化チタンなどの粒子に代表される担体上に触媒材料を固定して使用する方法が有用であり好ましい。
【0024】
カソードの触媒材料に白金を有効成分として含むものが好適に使用される理由は明確ではないが,当該材料上にメタンの原料となる二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と吸着水素の共存が重要な役割を果たしていると考えられる。触媒表面に吸着する異種吸着体間で起こる表面反応は,ラングミュア-ヒンシェルウッド機構として知られる。白金上には,二酸化炭素由来の一酸化炭素が良く吸着することが知られる一方,水素イオンもまた白金表面に吸着水素の形で容易に吸着する。この両者を共存する場を提供する良好な触媒材料が白金であると考えられる。
【0025】
カソード12には,触媒材料のほかに導電性を有する材料を含有させてもよい。導電性材料を含有させる場合は,還元固定化反応の効率が良くなるので好ましい。導電性を有する材料は特に限定されず,例えば白金,金,銀,パラジウム,ルテニウム,イリジウム,ロジウム,レニウム,オスミウム,スズ,鉄,クロム,銅,ニッケル,コバルト,チタン,ジルコニウム,ステンレス,カーボン,スズドープ酸化インジウム,フッ素ドープ酸化インジウムからなる群より選択される少なくとも1種,又はこれらの混合物,もしくは金属同士であればこれらの合金ないし複合材を用いることができる。
【0026】
またカソード12には,カチオンを輸送できる固体電解質を含有させることが好ましい。固体電解質を含有させることで,電気化学反応の反応点と考えられている電解質と電極との界面(三相界面)を増加させることができるためである。
【0027】
カソード12の形状は特に限定されず,ワイヤー状,シート状,板状,棒状,及びメッシュ状等,通常のカソードに用いられる任意の形状を選択できる。これらの形状の中でも,二酸化炭素の還元反応が効率的に進む点で,表面積が大きい構造が好ましい。さらに,反応物である二酸化炭素がカソード12の全体に容易に浸透できるように,カソード12が空隙を有していることが好ましい。ここで言う空隙とは,電気化学でいうところの三相界面において反応物が効果的に反応場に供給される流通路のことを意味する。また,電解質11と反応物の授受を効率的に行うために,電解質11とカソード12の接合面積が大きい構造であることが好ましい。このような構造として,カソード12の形状はシート状の形状が好ましい。
【0028】
カソード12を触媒のみで構成する場合には,触媒材料の単結晶又は多結晶あるいは非晶質のいずれを用いてもよい。二酸化炭素の還元反応を効率的に進める点で,表面積が大きい構造であることが好ましい。このような構造としては,触媒材料のバルク上に触媒材料の微粒子が担持された構造や,触媒微粒子のみの集合体が好ましい。これらに含まれる触媒微粒子の粒子径は,1nm以上10μm以下が好ましい。1nm未満では触媒材料の結晶性が十分でないため十分な性能を発揮できない場合があり,10μmを超えると表面積が小さく,十分な性能が発揮できない場合がある。このような構造の触媒微粒子としては,例えば白金黒が挙げられる。
【0029】
(アノード)
アノード13は,触媒材料により構成される。触媒材料としては,特に限定されない。しかしながら,アノード反応として選択した反応に対して活性が高い材料を選択すれば,反応効率を高めることができるため好ましい。アノード反応として,本実施形態の説明のように,水素,水,及び水酸化物イオンの酸化を反応として選択した場合を例にとれば,触媒材料としては,白金,金,パラジウム,ルテニウム,オスミウム,イリジウム,ロジウム,ニッケル,銀,鉄,銅,コバルトからなる群より選ばれる,少なくとも1種が好適に用いられる。上記の触媒材料は単結晶,多結晶ないし非晶質のいずれを用いてもよい。
【0030】
アノード13には,カソード12と同様に,触媒材料のほかに導電性を有する材料を含有させてもよい。この場合にも還元固定化反応の効率を向上させる効果が得られる。導電性を有する材料としてはカソード12と同様のものを用いることができる。またアノード13に,イオンを輸送できる固体電解質を含有させてもよい。このような固体電解質を含有させる場合は,電気化学反応の反応点と考えられている電解質と電極との界面(三相界面)を増加させることができるため好ましい。
【0031】
アノード13の形状は特に限定されず,カソード12と同様の構成を採用することができる。シート状とすることが特に好ましい。また,二酸化炭素の還元反応を効率的に進める点で,表面積が大きい構造であることが好ましく,カソード12と同様に,白金黒などの微粒子状の触媒材料を用いた構成とすることが好ましい。さらに,アノード13が,触媒材料と,上記導電性材料及び上記固体電解質の少なくとも1種を含む材料とで構成される場合の粒子径,導電性材料の含有量,固体電解質の含有量についても,カソード12と同様の構成を採用することができる。
【0032】
(アノード/カソードガス拡散層)
カソードガス拡散層14,アノードガス拡散層15は,導電性を有しており,かつ,カソード12及びアノード13のそれぞれに対してガスを供給できるものであれば,特に限定されない。反応効率を高めるため,カソード反応物供給手段40,アノード反応物供給手段50から供給される反応物を,カソードガス拡散層14,アノードガス拡散層15 を通じてカソード12,アノード13に均一に拡散させることができるものが好ましい。このようなものとしては例えば,カーボンペーパーやステンレスメッシュ等に代表される公知の材料を用いることができる。
【0033】
カソードガス拡散層14,アノードガス拡散層15は,カソード12及びアノード13と別体でもよく,一体に形成してもよい。一体に形成する場合には,例えば,カソード12及びアノード13の構成材料を,カソードガス拡散層14,アノードガス拡散層15に塗布することで一体化することができる。
【0034】
(流路形成部材)
図2に二酸化炭素還元装置における電解セルを示すが,ここで流路形成部材21,22は,二酸化炭素を含むガスと不活性ガスを供給しかつ,それぞれのガスの流量比率を制御するカソード反応物供給手段40,アノードに反応物を供給するアノード反応物供給手段50を介して供給される反応物質を含む流体を,それぞれカソード反応性流体導入部25から流路23を通じてカソードガス拡散層14へ,アノード反応性流体導入部27から同様にアノードガス拡散層15へ供給する機能とともに,カソード12,アノード13で発生する反応生成物等を流体排出部26,28を介して外部に排出する機能を有する。流路形成部材21,22は集電材料により形成されており,カソードガス拡散層14,アノードガス拡散層15と外部電源80とを電気的に接続する機能を有している。集電材料の例としては,例えばステンレスやチタン,カーボンなどあるいはそれらに表面処理したものなど公知のものが挙げられる。
【0035】
流路形成部材21,22としては,少なくとも上記の流体輸送機能を具備していれば特に限定されない。しかしながら,二酸化炭素の還元固定化反応を促進させるうえで,流路形成部材21,22が均一にカソード12及びアノード13にガスを行き渡らせることができる流路構造23を有していることが好ましい。このような流路構造23としては,例えば,サーペンタイン流路やストレート流路をはじめとする公知の流路が挙げられ用いられる。
【0036】
また,流路形成部材21,22のガスバリア性は高いほうが好ましい。流路形成部材21,22のガスバリア性が高いと,カソード12及びアノード13における反応効率及び生成したガスの回収効率が向上するからである。
【0037】
(電解セル)
電解部1を流路形成部材21,22に組み込んで電解セル70を構成するためには,系全体を密閉した構成とすることが好ましい。ただし,流路形成部材21,22が電解部1の外側で直接密着した場合,カソード12又はアノード13で生成されるイオンが,電解質11ではなく,流路形成部材21,22を通じて移動することがある。このようなイオンの移動が生じると,生成したイオンが電極反応に寄与せず,生成ガスの反応効率が悪くなるため好ましくない。そこで,
図2に示すように,流路形成部材21の開口端と流路形成部材22の開口端とを,絶縁材60を間に介して突き合わせ,密着させるのが好ましい。
【0038】
絶縁材60としては,流路形成部材21,22の間を絶縁させることができるものであれば特に限定されない。絶縁材60として接着機能を有するものを用いた場合,還元固定化システムを容易に密閉することが可能になる。このような接着機能を有するものとしては例えばテフロン(登録商標)製のシール等が挙げられる。なお,絶縁材60が接着剤を含有しない場合には,別途接着剤を用いて,流路形成部材21,22の開口端同士を接着させればよい。この場合の接着剤としても,系外へのイオンや電子の漏洩を防止するために絶縁性のものを用いることが好ましい。
【0039】
(電圧制御手段)
電圧制御手段80は,二酸化炭素を還元するために必要な電圧を印加させることができる電源装置であれば特に限定されない。電圧制御手段80には,電圧制御型電源(例えばポテンショスタット)や電流制御型電源(例えばガルバノスタット)が好ましく用いられる。カソードの電極電位を可逆水素電極(以下,RHEと略記することがある)に対して制御するには,電解質11上または内部であってカソード12又はアノード13が設けられていない部位に設置することができる(
図1および
図2には図示せず)。具体的には,次の参考文献1,2に記載される公知の方法で可逆水素電極,銀塩化銀電極,銀硫酸銀電極などを設置することができる。(参考文献1:Journal of The Electrochemical Society,166,F208-F213,2019,参考文献2:Journal of Power Sources,195,5986-5989,2010)また,アノードに反応物として水素を供給して擬似的な可逆水素電極と見立てて,電極電位の制御に利用することも有効である。
【0040】
これまで電圧制御手段80により直流電圧,交流電圧もしくはパルス電圧からなる電気信号,またはこれら電気信号の2種以上を組み合わせ,二酸化炭素の還元が起こる電位において適当な電圧範囲および周波数の交流印加を行い,さらに高電位の直流印加とを組み合わせることでメタンを連続生成できることは知られているが(例えば,参考文献3:2018年電気化学秋季大会予稿2M05)反対に直流電圧を印加するだけではメタンの生成は断続的で,連続的な二酸化炭素の還元反応を持続させることはできなかった。
【0041】
直流電圧の印加だけでメタンの連続生成を持続させるためには,二酸化炭素の還元が起こる電位において精度良く電圧範囲を制御しながら,カソード反応物供給手段40によって供給する二酸化炭素の濃度を制御することで,交流電圧もしくはパルス電圧を印加せずとも連続的な二酸化炭素の還元反応を持続させることができる。
【0042】
具体的には上記の電圧制御手段80を用いてカソード電位を高精度に制御するため可逆水素電極に対して0.11~0.19 Vの間に制御することで二酸化炭素の還元が効果的かつ連続的に行われ,0.14~0.18 Vの間であると二酸化炭素の還元が更に効果的かつ連続的に行われる。この電極電位が好ましい理由は明らかではないが,次のように考えると納得のいく説明ができる。つまり上述の通り,触媒材料上で二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と水素イオン由来の吸着水素が表面反応を生じてメタンを生成すると考えられるが,この両者が触媒上に適切な吸着強度で存在する電極電位が上述の電位に相当する。更に同電位で,ラングミュア-ヒンシェルウッド機構によりメタン生成すると触媒材料上の活性点が空位になるが,そこに新たに二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と水素イオン由来の吸着水素が形成され,反応がターンオーバーして連続進行する。二酸化炭素の連続還元反応機構は,このように推量される。
【0043】
この電位の制御方法には,関数発生器,ファンクションシンセサイザ,あるいはそれらをコンピュータ制御するもの,さらには手動などにて電圧制御手段80を駆動する方法が有効である。
【0044】
(発電)
本発明による二酸化炭素の還元装置及び二酸化炭素の還元方法において,電圧(電力)を取り出すこともある。具体的には,カソードにおいて水素発生電位よりも正電位で二酸化炭素の還元を生じ,かつアノードの反応が該二酸化炭素の還元電位より負電位である場合は,電池の原理上燃料電池発電を引き起こす。さらに具体的には,アノードで水素酸化反応を生ずる場合などである。この条件下での電圧制御手段80は,電子負荷装置などの使用により電圧制御すると共に発電した電力を利用するデバイスであることが好ましい。
【0045】
電圧制御手段80は、カソード12,アノード13ないしガス拡散層14,15ないし流路形成部材21,22に接続してもよいが、電子導電性を向上させる観点より,エンドプレート31,32に接続させるのが好ましい。
【0046】
(カソード反応物供給手段)
カソードに対し二酸化炭素を含むガス(以下、「第1ガス」とも呼ぶ。)と不活性ガスを供給しかつ,それぞれのガスの流量比率を制御するカソード反応物供給手段40は,カソード12に対して主に二酸化炭素を供給する手段であり,二酸化炭素を含むガス供与体41と,その流量を制御するガス流量制御手段45,不活性ガス供与体42と,その流量を制御するガス流量制御手段46とからなる。二酸化炭素を含むガスと不活性ガスの流量比率は,それぞれの供給速度,圧力,流路抵抗などで調整することができる。流量比率の制御は,カソードに対して供給する二酸化炭素濃度を制御することが目的である。二酸化炭素濃度は、第1ガスと不活性ガスが混合されたガス中の二酸化炭素分圧と同じである。
【0047】
このカソード反応物供給手段40でカソード12に供給される第1ガスは,二酸化炭素のみで構成してもよいし、第1ガスおよび不活性ガスは、必要に応じて水蒸気を含ませてもよい。(
図1には,水蒸気供給手段は図示していない。)水蒸気を含ませる例として,水蒸気を大気(二酸化炭素を含むガス)に含有させるためのバブリング機構と,水蒸気を含有させた大気を送出するガス搬送機構を備えた構成とすることができる。水蒸気を含ませる必要がある場合とは,電解質11を湿潤状態に保持しなければならない場合や,水を水素源として用いて二酸化炭素から炭化水素やアルコールなどを得る場合などである。
【0048】
電解質11を湿潤状態に保持しなければならない場合とは,電解質11の含水量が,膜のイオン導電率やガス浸透速度,電解質11を固体状態で使用したときの膜強度等に,影響する場合である。
【0049】
カソード12に供給するガスの流量は特に限定されない。しかしながら,還元によって消費される二酸化炭素を速やかに供給できる,すなわち必要とされる二酸化炭素含有量(濃度)を供給できる流量以上であることが好ましい。二酸化炭素を含むガスと不活性ガスを供給しかつ,それぞれの流量比率を制御するカソード反応物供給手段40から,カソード12に適切な濃度と速度で二酸化炭素を供給することにより,好適な二酸化炭素還元を実施できる。
【0050】
(不活性ガス供給体)
不活性ガス供与体42に有効な成分としては,窒素,ヘリウム,アルゴン等のガスが上げられ使用される。
【0051】
(二酸化炭素を含むガス供給体)
二酸化炭素を含むガス供与体41には,二酸化炭素と他成分のガスが任意の割合で含まれている。ここに言う他成分のガスとは何れのガスでも構わないが,二酸化炭素の還元反応を阻害する反応を起こす物質を含まないかことが望ましい。
【0052】
また,二酸化炭素を含むガス供与体41は,二酸化炭素を濃縮できる装置(二酸化炭素濃縮装置)を備えてもよい。ここで,二酸化炭素を濃縮するとは,カソード12に供給するガスから,二酸化炭素の還元反応を阻害する反応を起こす物質を除去したり,二酸化炭素以外の物質を低減することにより,上記ガス中の二酸化炭素の濃度を増大させることを意味する。
【0053】
二酸化炭素の還元反応を阻害する反応としては,例えば酸素の還元反応が挙げられる。したがって,カソード12に供給するガスから酸素を除去する操作は,上記の二酸化炭素を濃縮する操作に該当する。
【0054】
このような二酸化炭素濃縮装置としては任意で選択できるが,例えば溶融炭酸塩形燃料電池(以下,MCFCと略する場合がある)等が挙げられる。MCFCは二酸化炭素の濃縮を効率的に行うことが可能であり,しかも他の物理的,化学的に二酸化炭素の濃縮を行う装置のように外部エネルギーを必要としないので,好ましい。また,MCFCの発電電力を,直接又は間接的に,電解セル70の二酸化炭素の還元固定化反応に利用してもよい。
【0055】
(カソードガス流量制御手段)
ガス流量制御手段45,46には,マスフロー制御装置やガス流量計をはじめとする既知の装置を使用できる。この使用により,二酸化炭素を含むガス供与体41と,不活性ガス供与体42から導出される各々のガスは,二酸化炭素と不活性ガスが任意の流量比率でカソード12に供給される。
【0056】
従来はカソードに供給するガスについて,水蒸気,N2,He,Arなどのガスの混合により二酸化炭素の分圧を調整する場合,二酸化炭素分圧は1%~70%が好ましく,さらには1%~50%が好ましいと考えられてきたが,理論電位に近い低過電圧下で連続的・効率的かつ選択的に還元固定化するためには,一時的に二酸化炭素分圧が0%となる状態を作ることが重要である。
【0057】
該カソードに,二酸化炭素と不活性ガスの濃度比を0:100~60:40の範囲内で経時的に変動するよう供給すると,低い過電圧で高収率かつ連続的にメタンを生じる。上述したように,触媒材料上で二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と水素イオン由来の吸着水素が表面反応を生じてメタンを生成すると考えられるが,実際に供給する二酸化炭素濃度が高い場合は二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体の量が大きくなり,一方,二酸化炭素濃度が低い場合は水素イオン由来の吸着水素の量が大きくなる。つまり上で説明したように,ラングミュア-ヒンシェルウッド機構によりメタン生成するなら,適切な比率の二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と水素イオン由来の吸着水素が触媒表面に存在することでメタン生成が進行する。二酸化炭素と不活性ガスの濃度比を0:100~60:40の範囲内で経時的に変動するよう供給すると低い過電圧で高収率かつ連続的にメタンを生じる理由はこのように説明される。
【0058】
ここで,カソードに供給する二酸化炭素と不活性ガスの流量比は,固定しても可変であっても良いが,二酸化炭素の含有比(濃度)を一時的に0とすることは,適切な比率の二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体と水素イオン由来の吸着水素が触媒表面に存在する状態を作り出すことができるので重要である。しかしながら二酸化炭素の含有比(濃度)が常に0であることは二酸化炭素由来の含炭素化合物吸着体の量が小さくなりすぎ好ましくない。
【0059】
(アノード反応物供給手段)
アノードに反応物を供給するアノード反応物供給手段50は,アノード13に対してアノード反応物を供給する手段である。これは,アノード反応物供与体51と,その流量を制御する流量制御手段55からなる。アノード反応物は酸化反応を生じかつ反応生成物をアノードより容易に取り除けるものであることが望まれる。さらにその反応は,アノード構成要素を破壊ないし溶解しないことが好ましい。この要件を満たすアノード反応物としては,水素および水が好適に使用される。水素酸化反応は,水素イオンを生成するが,これは電解質11を介してカソード反応に消費される。水の酸化反応は,酸素ガスと水素イオンを生成するが,酸素ガスは流体排出部28より外部に排出され,水素イオンは前述の通りに消費される。
【0060】
アノード反応物供与体51は,アノード酸化反応によって水素イオン及び電子を発生できる物質を,ガス状(ミスト状,エアロゾル状等含む),液状,固体状にして送出できる機構を備えていれば特に制限されない。アノード13で反応に関与する水や水素などの供給量は特に制限されない。しかしながら,カソード12への水素イオン供給が滞らないようにアノード13の酸化反応を進行させることができる量以上であることが好ましい。また,アノード反応物供与体51からガスを供給する場合については,反応に関与する主成分である水や水素などを十分に供給できる範囲で,窒素,ヘリウム,アルゴン等を含有させ,供給ガスの濃度を調節してもよい。窒素,ヘリウム,アルゴン等は,反応により生成される気体等を流体排出部28に速やかに送出させるために,別途供給させてもよい。
【0061】
アノード反応物が気体である場合,上述した理由と方法によりカソードの場合と同様に加湿することができる。
【0062】
(アノードガス流量制御手段)
流量制御手段55は,アノード反応物供与体51から導出される反応物が気体の場合はマスフロー制御装置やガス流量計をはじめとする既知の装置を使用できるし,該反応物が液体の場合は送液ポンプや液体流量計をはじめとする既知の装置を使用できる。この使用により,アノード反応物供与体51は任意の流速でアノード13に供給される。
【0063】
(電解セル)
電解セル70の電解部1には,温度を制御する温度制御機構を設けてもよい。このような温度制御機構としては,カソード12及びアノード13の反応場を-70℃以上200℃以下の範囲に温度制御できるものであれば特に限定されず,従来公知の加熱冷却装置を用いることができる。上記の温度範囲は,電解部1において典型的に用いられる電解質11がイオン導電性を有する温度範囲であり,電解質11の種類に応じて制御範囲を適宜変更することが好ましい。電解セル70の電解部1は,0℃以上100℃以下で実施させるのが好ましく,10℃以上かつ90℃以下で実施させるのがより好ましい。
【0064】
(発電)
本発明による二酸化炭素の還元装置及び二酸化炭素の還元方法において,電圧(電力)を取り出すこともできる。詳しくは,カソードにおいて水素発生電位よりも正電位で二酸化炭素の還元を生じ,かつアノードの反応が該二酸化炭素の還元電位より負電位である場合,電池の原理により燃料電池発電を引き起こす。最も端的な例としては,アノードで水素酸化反応を生ずる場合である。カソードの二酸化炭素還元反応が適切にターンオーバーを繰り返せば,燃料電池発電条件が満たされる。このことは,水素の持つ化学エネルギーを使用して二酸化炭素の還元を行うと該水素の化学エネルギーを使い切ることなくその一部が残存する。余った化学エネルギーは,通常の化学反応ないし触媒反応では熱に変換されて捨てられるが,燃料電池発電においては電気エネルギーに変換される。このことは,本発明によりなる二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法は,余剰エネルギーを生じた場合でも熱エネルギーとして廃棄することなく,電気エネルギーとして有効に回収し利用することが可能である。
【実施例】
【0065】
次に実施例により本発明を詳細に説明するが,実施例は本発明を詳しく説明することが目的であり,本発明はこれらの実施例によってなんらの制約も受けないことは断るまでもない。
【0066】
[実施例1~4,比較例1~2]
(カーボンペーパーの前処理)
撥水加工処理済みカーボンペーパー(ガス拡散層)を3×3 cm角に切断し,よく洗浄した。
【0067】
(Nafion(登録商標)117膜の前処理)
電解質膜であるNafion(登録商標)117を6×6 cmに切断し,定法により純水,過酸化水素水,希硫酸水溶液で処理した。
【0068】
(電極触媒散布液の作製)
ボールミルを用い,46.2 wt% 白金担持カーボン(Pt/C),超純水,2-プロパノール,メタノール,Nafion(登録商標)117溶液を混合し,Pt/C電極触媒散布液とした。
【0069】
(電極触媒散布液の塗布)
上で準備した電極触媒散布液を金属量が1.0 mg・cm-2となるようにスプレーコート法で上記したカーボンペーパー上に塗布した。
【0070】
(膜電極接合体(MEA)の作製)
上で準備したPt/C触媒塗布済みのカーボンペーパー2枚を用いて,上記したNafion(登録商標)117膜を挟み込み,ホットプレス成形しMEAを作製した。
【0071】
(単セルの組み立て)
上で作製したMEAを電解部1として
図2のセルに組み込んで実装の電解セル70に装着し固体高分子形セル(単セル)とした。これに
図1に示すカソードに対し二酸化炭素と不活性ガスを供給しかつそれぞれのガスの流量比率を制御するカソード反応物供給手段40と,アノードに反応物を供給するアノード反応物供給手段50,そしてカソードおよびアノードに接続した電圧制御手段80を装着した。このとき,二酸化炭素を含むガス供与体41には高純度の二酸化炭素ガスボンベ,不活性ガス供与体42として高純度アルゴンガスボンベ,アノード反応物供与体51に高純度水素ボンベを用いた。ガス流量制御手段45,46および流量制御手段55には,各々マスフローコントローラを用いた。
【0072】
(単セル運転の前処理)
上で準備した単セルの一方の電極(カソード)に加湿アルゴンガス,もう一方の電極(アノード)に加湿水素ガスを供給し,電位が安定するまでポテンショスタットを用いて電位走査を繰り返し行った。
【0073】
(二酸化炭素還元実験)
上で準備した単セルのアノードに加湿水素ガス,カソードにCO2とArの加湿ガスを任意の比(CO2分圧0, 4, 7, 10, 50, 100%)で供給し,単セルとポテンショスタットと電位走査装置(ポテンシャルスキャナー)を接続した。単セルのCO2排ガスは直接質量分析装置(図示せず)に接続した。カソード電位を1.0 V vs. RHEから0.05 V vs. RHEへ掃引速度10 mV/sで掃引した際に観測されるm/z 15 (メタンのフラグメント)のピークの頂点の電位を表1に示す。メタン生成が最も起こる電位はCO2分圧に依らず0.1 V vs. RHEであることがわかる。また,カソード電位を0.4 V vs. RHEから0.2 V vs. RHEにステップさせ5分保持した後,0.1 V vs. RHEにさらに電位をステップさせた際の単位電荷量当たりのメタン生成量とメタン生成継続時間の結果をまとめて表1に示す。CO2分圧が0%もしくは100%のとき(比較例1もしくは2)はメタン生成が起こらないが,CO2分圧が4~50%のとき(実施例1~4)はメタンが生成していることがわかる。また,メタン生成は失活してしまうものの,その継続時間はCO2分圧4%のとき(実施例1)に最も長かった。
【0074】
以上の結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
[実施例5~9,比較例3~5]
実施例1で用いたものと同じ装置を使用し,CO
2分圧4%にてカソード電位を0.4 V vs. RHEから0.2 V vs. RHEにステップし5分保持した後,カソードに供給するガスのCO
2分圧を0%に変動させ1時間保持し,その後0.1 V vs. RHEに電位をステップさせた。時間とm/z 15の検出強度の関係の結果を
図3に示す。カソード電位を0.1 V vs. RHEにステップした時点を0sとしている。
図3より,電位をステップした直後からm/z 15が検出され,0.1 V vs. RHEにてCO
2還元に基づくメタン生成が起こっていることがわかる。これを実施例5とする。また,
図3のピーク面積は,メタン生成量に相当する量を示している。
図3から算出される単位電荷量当たりのメタン生成量とメタン生成継続時間を表2に示す。
【0077】
次に,表2に示すCO2分圧の変動条件で同様の実験を行った。単位電荷量当たりのメタン生成量とメタン生成継続時間を実施例6,7,8,9,比較例3,4,5として表2にまとめて示す。表2から,実施例1,2,3と比較して,実施例5,6,7ではメタン生成量とメタン生成継続時間の両方が大幅に向上していることがわかり,カソードに供給するガスのCO2分圧を途中から0%に変動させることで高効率かつ持続的なメタン生成を達成できたといえる。また,CO2分圧を0%から4%に変動させた実施例9でもメタン生成が確認された。これらの実施例ではCO2分圧を4%から0%に変動させる実施例5において,メタン生成量とメタン生成継続時間が最大であった。一方で,カソードに供給するガスのCO2分圧を4%から100%に変動させた比較例5では比較例2と同様の結果となった。
【0078】
【0079】
[実施例10~17]
実施例1で用いたものと同じ装置を使用し,CO
2分圧4%でガス供給した。カソード電位を0.25 V vs. RHEから0.10 V vs. RHEの範囲で2 分ごとに卑側に8段階ステップさせた。そのときの電位の変動とm/z 15の挙動を
図4に示す。
図4から明らかなように,0.25 V vs. RHEから0.10 V vs. RHEの間で電位を変動している期間で連続的にメタン生成が起こっていることがわかる。以上から,実施例5,6,7,8,9ではメタン生成が失活していたが,実施例10~17のように0.25 V vs. RHEから0.10 V vs. RHEの間で電位を変動することでメタンの連続生成を達成したといえる。
【0080】
図4をもとにメタン生成量を算出し,実施例10(0.25 V vs. RHEへのステップ)の結果を1とした相対メタン生成量を表3にまとめて示す。電極電位によってメタン生成量は変化することがわかる。ここで,0.20 V vs. RHEにおいては,相対メタン生成量は多いもののメタン生成の減衰速度が速かった。すなわち,カソード電位を0.12~0.18 V vs. RHEの間に変動することでメタン生成量は増加かつ連続生成するといえる。
【0081】
【0082】
[実施例18]
実施例1で用いたものと同じ装置を使用し,CO
2分圧4%でガス供給した。カソード電位を0.4 V vs. RHEから0.15 V vs. RHEにステップさせ5分間固定した。これを実施例18とする。そのときのm/z 15の挙動を
図5に示す。電位を0.15 V vs. RHEにステップした時点を0sとしている。
図5から明らかなように,0.15 V vs. RHEに固定している期間で連続的にメタン生成が起こった。
【0083】
以上から,実施例5,6,7,8,9とは異なり,カソード電位を0.15 V vs. RHEに固定することでメタンの連続生成を達成できたといえる。また,実施例18においては,0.15 V vs. RHEで5分固定した後,0.05 V vs. RHEに電位ステップしている。その結果,
図5からわかるように,0.05 V vs. RHEにおいてはメタンが生成しない。一方で,0.05 V vs. RHEでは水素発生(m/z 2の検出)が観測された。
【0084】
[実施例19]
実施例18と同様の装置とガス供給条件で,カソード電位を0.4 V vs. RHEから0.10 V vs. RHEにステップさせた実施例19においては,0.10 V vs. RHEにてメタン生成は確認されるもののその生成は約10秒で失活した。
【0085】
[実施例20,21]
実施例18と同様の装置,カソードガス供給条件,電位条件を使用した。アノードの供給において,アノード反応物供与体51に水のタンク,流量制御手段55に送液ポンプを用いて,5 mL/minでアノードに水を流した。これを実施例20とする。また,実施例18と同様の装置,カソードガス供給条件,電位条件を使用し,アノード反応物供与体51に高純度N2ボンベを用いた。これを実施例21とする。実施例20と実施例21では,実施例18と同様の結果が確認された。
【0086】
[実施例22]
実施例1で用いたものと同じ装置を使用し,アノードに水素ガス,カソードにCO2分圧4%でガス供給した。その条件にてCO2還元が行われるとセル電圧0.15 Vで出力密度0.011 mW/cm-2が得られた。以上から,当系ではCO2還元による連続的なメタン生成と発電が同時に起こることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の二酸化炭素還元装置及び二酸化炭素還元方法によれば,水電解により水素製造する場合よりも低消費エネルギーでメタンを二酸化炭素から選択的に得ることができる。この低消費エネルギーで選択的に得られるメタンはエネルギー貯蔵においても水素に勝る。さらに,この二酸化炭素を還元してメタンを得るカソード反応にアノード反応として水素酸化を組み合わせると,二酸化炭素を還元してメタンを得ながらも発電(燃料電池発電)する。
【符号の説明】
【0088】
1.電解部
11.電解質
12.カソード
13.アノード
14.カソードガス拡散層
15.アノードガス拡散層
21.流路形成部材
22.流路形成部材
23.流路
25.カソード反応性流体導入部
26.流体排出部
27.アノード反応性流体導入部
28.流体排出部
31.エンドプレート
32.エンドプレート
40.カソード反応物供給手段
41.二酸化炭素を含むガス供与体
42.不活性ガス供与体
45.ガス流量制御手段
46.ガス流量制御手段
50.アノード反応物供給手段
51.アノード反応物供与体
55.流量制御手段
60.絶縁材
70.電解セル
80.電圧制御手段