IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -分割型複合繊維 図1
  • -分割型複合繊維 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】分割型複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20230804BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20230804BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20230804BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20230804BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D01F6/62 306V
D01F6/62 303F
D04H1/541
D04H1/435
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019088346
(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公開番号】P2020183592
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 知樹
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-214380(JP,A)
【文献】特開2006-132023(JP,A)
【文献】特開2014-037656(JP,A)
【文献】特開2001-192932(JP,A)
【文献】特開平09-217232(JP,A)
【文献】特開平09-041223(JP,A)
【文献】特開2005-054321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00-9/04
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸と結晶性のポリアルキレンサクシネートとからなり、
繊維横断面が、前記した2成分のうち、一方の成分が他方の成分によって複数個に分割されている分割型複合形態であり、
分割型複合形態の横断面形状は、断面中心部から放射状に複数の花びら状部を有する花弁部と、花弁部の個々の花びら状部に分断されてなる分割部により構成される形状であり、
かつ複合繊維の繊度が1~6dtex、全分割数が10~30個、かつ、分割されてなる個々の成分が構成する分割繊度が、少なくとも0.20dtex以下のものを含む分割型
複合形態であり、
ポリ乳酸の融点が155℃以上、ポリアルキレンサクシネートの融点が105~125℃、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの融点の差が30~60℃であり、
85℃にて15分間、熱処理したときの収縮率が15%以下であることを特徴とする生分解性を有する分割型複合繊維。
【請求項2】
結晶性のポリアルキレンサクシネートがポリブチレンサクシネートであることを特徴とする請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
ポリ乳酸の固有粘度が1.25以上、ポリアルキレンサクシネートの固有粘度が1.35~1.55であり、かつ、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの固有粘度の差が0.15以下であることを特徴とする請求項1または2項記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
ポリ乳酸が、190℃でのメルトフローレートが5~20g/10分、ポリアルキレンサクシネートが、190℃でのメルトフローレートが15~30g/10分であり、かつ、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとのメルトフローレートの差が15g/10分以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の分割型複合繊維。
【請求項5】
DSCより求めた降温結晶化を示すピークのb/aが0.20mW/(mg・℃)以上のポリアルキレンサクシネートからなることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の分割型複合繊維。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の分割型複合繊維を含み、構成繊維同士が、ポリアルキレンサクシネートが溶融固着してなる熱接着成分によって熱接着していることを特徴とする不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不織布の風合いの改良や品位の向上のための手法として、繊維の細繊度化が図られている。
【0003】
繊維断面において、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのようなポリアルキレンテレフタレート成分が、これと非相溶のポリオレフィン、ポリアミド等によって複数個に分割された複合形態を有する分割型複合繊維や、前記複合繊維を用いた布帛・不織布を物理的な衝撃により分割させ極細繊維を生成させる方法は周知であり、このような分割型ポリエステル複合繊維については種々提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、近年、プラスチック製品による環境の汚染、生物体内での蓄積等が問題となっている。自然環境において分解される環境配慮型の原料として、生分解性を有するポリ乳酸が挙げられ、このポリ乳酸を使用した極細繊維を得るための分割型複合繊維についても種々提案されている。
【0005】
特許文献2~4には、繊維断面において、ポリ乳酸によって、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ナイロン等を分割するように配した複合繊維を、アルカリ溶液処理してポリ乳酸を溶解させ、ポリエチレンテレフタレート等の細繊度糸を得る方法が提案されている。しかし、これらの分割型複合繊維は、ポリエチレンテレフタレート等の生分解性を有しない原料を含むため、環境配慮型の素材としては不十分なものであった。
【0006】
特許文献5には、ポリ乳酸等と、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステルとで構成され、生分解性を有する分割型複合繊維が提案されている。しかし、この分割型複合繊維は、樹脂の融点や粘度に関する技術が確立されていないため、操業性よく分割型複合繊維を生産し、かつ、品位に優れる繊維および不織布を得るには至っていない。
【0007】
特許文献6には、ポリ乳酸と、乳酸を共重合したポリアルキレンサクシネネートからなる生分解性を有する分割型複合繊維が提案されているが、樹脂同士の相溶性が高いため、加工方法によっては分割しにくく、極細繊維を生成させることが困難であった。また、乳酸を共重合したポリアルキレンサクシネネートを用いているが、樹脂の結晶性が低いため、操業性よく分割型複合繊維を生産し、かつ、品位に優れる繊維および不織布を得るには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-212624号公報
【文献】特開平8-35121号公報
【文献】特開平8-188922号公報
【文献】特開2003-119626号公報
【文献】特開平9-041223号公報
【文献】特許第4624075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生分解性を有する複合繊維において、操業性よく生産ができ、かつ、品位に優れる繊維および繊維製品を得ることができる分割型複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートからなる分割型複合繊維において、特定の繊度及び分割数、融点、熱収縮率とすることにより、操業性、繊維および不織布の品位が良好であり、物理的な衝撃により分極細繊維を生成できる分割型複合繊維を得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸と結晶性のポリアルキレンサクシネートとからなり、
繊維横断面が、前記した2成分のうち、一方の成分が他方の成分によって複数個に分割されている分割型複合形態であり、
分割型複合形態の横断面形状は、断面中心部から放射状に複数の花びら状部を有する花弁部と、花弁部の個々の花びら状部に分断されてなる分割部により構成される形状であり、
かつ複合繊維の繊度が1~6dtex、全分割数が10~30個、かつ、分割されてなる個々の成分が構成する分割繊度が、少なくとも0.20dtex以下のものを含む分割型
複合形態であり、
ポリ乳酸の融点が155℃以上、ポリアルキレンサクシネートの融点が105~125℃、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの融点の差が30~60℃であり、
85℃にて15分間、熱処理したときの収縮率が15%以下であることを特徴とする生分解性を有する分割型複合繊維を要旨とするものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の分割型複合繊維(以下、単に「複合繊維」もしくは「繊維」と称することもある。)は、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートからなる。そして、繊維の横断面が、ポリ乳酸およびポリアルキレンサクシネートのうち、一方の成分が他方の成分によって複数個に分割されている分割型複合形態である。
【0014】
本発明の繊維は、繊維単独の状態、あるいは、この繊維からなる糸条、不織布や織編物等に物理的な衝撃を与えることにより分割割繊され、ポリ乳酸成分からなる極細繊維あるいはポリアルキレンサクシネート成分からなる極細繊維を生成することができる繊維である。
【0015】
本発明の繊維を分割するための物理的な衝撃とは、ウェブ作成における混打綿、カード加工等の衝撃、ウェブを不織布化する際のニードルパンチ処理や高圧水流処理等の衝撃、本発明の繊維からなる糸条、不織布や織編物等を加工する際の高圧水流処理や液流処理、空気流処理等の衝撃が挙げられる。
【0016】
本発明の繊維を構成するポリアルキレンサクシネートは結晶性を有する。ここで結晶性とは、示差走査熱量測定(DSC)などの熱分析法において、ガラス転移温度、結晶化温度、融解温度を明確に示すものをいう。
【0017】
ポリアルキレンサクシネートが結晶性を有しない場合、樹脂の軟化が生じやすく、また、固化しにくくなるため、紡糸、延伸工程で単糸同士が密着しやすく、密着による切糸で操業性が悪化したり、密着が塊状の欠点となり繊維および不織布の品位が悪化したりする。また、不織布を作製する熱処理の際に、軟化または溶融による熱収縮が大きくなり、不織布の品位が悪化するため好ましくない。
【0018】
ポリアルキレンサクシネートとは、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート等の、エチレングリコール、ブタンジオール等のアルキレンジオールとコハク酸とを共重合したものである。なかでも、結晶性や融点の観点から、ポリブチレンサクシネートを用いることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアルキレンサクシネートに、乳酸、ε-カプロラクトン等の環状ラクトン類、α-ヒドロキシ酪酸、α-ヒドロキシイソ酪酸、α-ヒドロキシ吉草酸等のα-オキシ酸類、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、リンゴ酸等のジカルボン酸類を共重合させてもよい。共重合量は5mol%以下が好ましく、3mol%以下がより好ましい。共重合量が多いと、結晶性が下がり、操業性や繊維、不織布の品位が悪化するため好ましくない。
【0019】
本発明の繊維を構成するポリ乳酸は、ポリL-乳酸、ポリD-乳酸、L-乳酸とD-乳酸の共重合体であるポリDL-乳酸、あるいはポリL-乳酸とポリD-乳酸の混合物(ステレオコンプレックス)のいずれでもよい。
【0020】
本発明において、ポリ乳酸がポリDL-乳酸の場合には、D-乳酸とL-乳酸の共重合比(D-乳酸/L-乳酸)は、100/0~95/5、5/95~0/100であることが好ましい。この比率を外れるものは、結晶性が低下するため、操業性や繊維、不織布の品位が悪化するため好ましくない。
【0021】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリ乳酸成分に、少量の鎖延長剤、例えば有機過酸化物、ビスオキサゾリン化合物、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等が配合されていてもよい。
【0022】
本発明の繊維の横断面は、一方の成分が他方の成分によって複数個に分割されている分割型複合断面である。すなわち、ポリ乳酸成分がポリアルキレンサクシネート成分によって複数個に分割されているか、または、ポリアルキレンサクシネート成分がポリ乳酸成分によって複数個に分割されている分割型複合形態である。
【0023】
本発明の複合繊維の横断面の一例である分割型複合形態の断面図を図1に示す。図1は、断面中心部から放射状に複数の花びら状部を有する花弁部(1)と花弁部の個々の花びら状部に分断されてなる分割部(2)により構成される。図1では、花弁部の花びら状部の外側先端部分は、繊維表面に露出せず分割部にわずかに覆われているが、完全に覆われずに繊維表面に露出してなるものであってもよい。
【0024】
図1に示すごとき断面形状の場合、花弁部にポリ乳酸を配すると、ポリ乳酸はポリアルキレンサクシネートよりも融点が高いため、溶融押し出し時の粘性が高いものとなりやすく、花弁部を構成するそれぞれの花びら状部の形状が均一なものとなり、それに伴いポリアルキレンサクシネートが配される分割部(2)の個々の形状も均一なものとなり、分割割繊により発現する極細繊維の形状が均一で品位に優れたものとなる。一方、分割部にポリ乳酸を配すると、ポリ乳酸はポリアルキレンサクシネートより融点が高く、溶融紡糸後の冷却固化が早いため、冷却固化しやすいポリ乳酸成分が、繊維外周をほぼ占めている分割部に配することによって、紡糸、延伸工程での単糸同士の密着が抑制され、操業性が良くなる。
【0025】
分割部および花弁部の花びら状部の数は、それぞれ5~15個である。分割部および花びら状部のそれぞれの数が5個未満であると、分割割繊により発現する極細繊維の数が相対的に少なく、また、複合繊維の単糸繊度にもよるが、発現する極細繊維の繊度が小さくない傾向となる。一方、分割部および花びら状部のそれぞれの数が15を超えると、分割割繊により発現する極細繊維の繊度が小さくなるという利点はあるが、複雑な紡糸口金が必要なため製造コストの点において不利であり、分割後の個々の形態が均一になり難く、品位に優れる繊維製品が得られにくい。なお、本発明において、花弁状の断面形状における分割部数は、分割部と花びら状部との数の合計が全分割数とし、全分割数は、前記した理由により10~30個とする、また、分割数は、繊維を横断面方向に切断し、顕微鏡にて任意の拡大率で観察し、各々の個数を数えたものである。
【0026】
複合繊維の横断面形状において、分割されてなる個々の成分が構成する分割繊度は、少なくとも0.20dtex以下のものを含む。この分割繊度が、分割割繊により発現する極細繊維の繊度となり、0.20dtex以下とすることにより、良好な極細繊維を発現することなる。例えば、図1の花弁状部と分割部とからなる分割型複合形態の場合、分割されてなる成分は、少なくとも分割部であることから、個々の分割部の繊度が分割繊度となる。なお、図1に示す花弁部は、中心部で一体化しているが、中心部の面積がわずかに小さいものや、中心部で一体化せずに、花びら状部と分割部とが交互に配されている場合は、個々の花びら状部の繊度も分割繊度という。
【0027】
本発明においては、図1に示すごとき花弁部と分割部により構成される横断面形状が、分割数が多く、極細繊維が得られやすく、また、操業性の観点から好ましい。
【0028】
繊維の断面形状としては、操業性の観点から円形が好ましいが、これに限定されるものではなく、三角、扁平、中空など、本発明の効果を損なわない範囲で選択することができる。
【0029】
本発明の複合繊維は、繊度が1~6dtexのものであり、好ましくは1.5~5dtex、より好ましくは2~4dtexである。繊度が1dtex未満であると、繊維径が小さくなりすぎるため、紡糸、延伸時の切糸が多くなり、操業性が悪化する。また、6dtexを超えると、繊維径が大きくなるため物理的な衝撃を与えた際に分割割繊しにくくなる。また、太繊度であるため、分割割繊により発現する繊維が極細でない傾向となる。なお、繊度は、JIS L-1015 7-5-1-1Aの方法により測定したものである。
【0030】
複合繊維を構成するポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの質量比は、ポリ乳酸/ポリアルキレンサクシネート=1/3~3/1が好ましく、1/2~2/1がより好ましい。
【0031】
ポリ乳酸の融点は155℃以上であり、好ましくは160℃以上、より好ましくは165℃以上である。ポリ乳酸の融点を155℃以上とすることにより、ポリ乳酸の結晶性が高くなり操業性が良好で、また繊維の熱収縮率を抑えやすくなり、また、ポリアルキレンサクシネートとの融点差を設けやすく、繊維製品とする際に、ポリアルキレンサクシネートを熱接着成分として機能させる熱処理の際に、ポリ乳酸が熱の影響を受けて軟化または溶融しにくく、熱収縮しにくいため、品位が高い繊維製品を得ることができる。
【0032】
ポリアルキレンサクシネートの融点は105~125℃であり、好ましくは108~122℃、より好ましくは110~120℃である。ポリアルキレンサクシネートの融点が105℃以上であることにより、ポリアルキレンサクシネートの結晶性を有し、熱収縮が大きくなりすぎず、品位に優れるものとなる。一方、ポリアルキレンサクシネートの融点を125℃未満とすることにより、ポリ乳酸との融点差を設けることができ、繊維製品とする際に、ポリアルキレンサクシネートを熱接着成分として機能させる熱処理の際に、ポリ乳酸が熱の影響を受けて軟化または溶融しにくく、熱収縮しにくいため、品位が高い繊維製品を得ることができる。
【0033】
ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの融点の差は30~60℃であり、好ましくは35~55℃、より好ましくは40~50℃である。融点差を30℃以上とすることにより、ポリアルキレンサクシネートを熱接着成分として機能させる熱処理の際に、ポリ乳酸が熱の影響を受けて軟化または溶融しにくく、熱収縮しにくいため、品位が高い繊維製品を得ることができる。一方、融点差を60℃未満とすることにより、いずれの重合体においても結晶性が良好のものを選択することができ、操業性が良好で、繊維および繊維製品の品位が良好なものとなる。
【0034】
上記したそれぞれの重合体の融点は、複合繊維を試料として、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度20℃/分で繊維を測定し、融解温度ピークの値より求めたものである。それぞれの重合体が上記した融点を有する複合繊維は、融点が155℃以上のポリ乳酸、及び、融点が105~125℃のポリアルキレンサクシネートの樹脂を原料として用いることにより得ることができる。
【0035】
本発明の複合繊維は、85℃にて15分加熱処理したときの収縮率が15%以下のものである。好ましくは12%以下、より好ましくは10%以下である。収縮率が15%以下とすることにより、ポリアルキレンサクシネートを熱接着成分として機能させる熱処理の際に、熱の影響による収縮が発生しにくく、品位が高い繊維製品を得ることができる。なお、加熱処理したときの収縮率は、複合繊維に機械捲縮が付与されてなる場合は、JIS L1015 8.15 b)の方法により測定したものとする。また、繊維に機械捲縮が付与されていない場合は、以下の方法により加熱処理したときの収縮率を求める。すなわち、顕微鏡にて任意の倍率で観察して繊維長(N)を求め、次いで、当該繊維を内温が85℃である乾燥機内に静置して15分間加熱処理を行い、その後取り出して、処理後の繊維長(M)を測定し、[1―(M/N)]×100にて算出した値を加熱処理したときの収縮率とする。
【0036】
複合繊維を構成するポリ乳酸の固有粘度は1.25以上であることが好ましく、より好ましくは1.30以上である。固有粘度が1.25以上とすることにより、繊維の機械的強度が向上させることができる。また、ポリアルキレンサクシネートの固有粘度は1.35~1.55であることが好ましく、より好ましくは1.40~1.50である。固有粘度が1.35以上とすることにより、繊維の機械的強度を向上させることができ、複合繊維や複合繊維からなる繊維製品を長期保管した際に繊維同士の密着が生じにくいことから、品位を長期にわたって維持しやすく、また、ポリアルキレンサクシネート樹脂の凝集力を有することから、熱接着成分として良好に機能し、接着力が低下しにくい。一方、1.50未満とすることにより、溶融流動性を維持し、熱接着成分として良好に機能し、接着力が低下しにくい。
【0037】
ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートとの固有粘度の差は0.15以下であることが好ましく、より好ましくは0.10以下である。固有粘度の差を0.15以下とすることにより、溶融粘度の差を小さくすることができ、紡糸における冷却工程、巻取り工程にて、紡糸張力を両成分に均一にかけることができ、紡糸張力斑による切糸が生じることなく、また、固有粘度の低いポリアルキレンサクシネートにも十分な紡糸張力がかかるため密着が生じにくく操業性が良好となる。
【0038】
なお、固有粘度は、フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、原料となる樹脂を溶媒に0.5質量%溶解させ、常法に基づき20℃にて測定した相対粘度:[ηr]の値より、1.451×[ηr]-1.369の換算式にて算出したものである。
【0039】
ポリ乳酸は、190℃のメルトフローレート(以下、「MFR」と略記する。)が5~20g/10分であることが好ましく、より好ましくは7.5~15g/10分である。MFRが5g/10分以上とすることにより、紡糸時の溶融押出が良好で、未延伸糸の伸度低下が生じにくく、所定の倍率で延伸可能な繊維となり、良好な強度を具備した繊維を得ることができる。一方、20g/10分以下とすることにより、溶融粘性が低すぎることなく良好に溶融押出が可能となり、紡糸の冷却工程で単糸同士の密着も発生しにくく、操業性が良好で、繊維および繊維製品の品位が良好となる。
【0040】
ポリアルキレンサクシネートは、190℃のMFRが15~30g/10分であることが好ましく、より好ましくは20~25g/10分である。MFRが15g/10分以上であることにより、未延伸糸の伸度低下が生じにくく、所定の倍率で延伸可能な繊維となり、良好な強度を具備した繊維を得ることができる。一方、30g/10分以下とすることにより、溶融粘性が低すぎることなく良好に溶融押出が可能となり、紡糸の冷却工程で単糸同士の密着も発生しにくく、操業性が良好で、繊維および繊維製品の品位が良好となる。
【0041】
ポリ乳酸の190℃のMFRと、ポリアルキレンサクシネートの190℃のMFRとの差は、15g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは10g/10分以下である。MFR差が15g/10分以下とすることにより、溶融粘度の差が大きくなりすぎないため、紡糸張力を両成分に均一にかけることができ、紡糸張力斑による切糸が生じることなく、繊維横断面における2成分による分割形状が所望の形状を形成することができる。MFRは、ASTM D 1238に記載の方法に準じて、温度190℃、時間10分、荷重20.2Nにて、原料となる樹脂を測定したものである。
【0042】
ポリアルキレンサクシネートは、DSCにおける降温結晶化を示すピークのb/aが0.20mW/(mg・℃)以上であることが好ましく、より好ましくは0.25mW/(mg・℃)以上である。b/aが0.20mW/(mg・℃)以上であると、良好な結晶性を有し、紡糸口金からポリマーを押し出した後に固化しやすく、紡糸の冷却工程で単糸同士の密着が発生しにくく、操業性が良好であり、繊維および繊維製品の品位が良好となる。本発明において、DSCにおける降温結晶化を示すピークのb/a、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-50℃~200℃、昇温速度20℃/分で原料となる樹脂を融解させた後、温度範囲200℃~-50℃、降温速度20℃/分で冷却した際の降温結晶化のピークより求めたものである。b/aの値は、図2に示すように、樹脂のDSC曲線において、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1-A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1-B2)を試料量(mg)で割った値であり、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなる。
【0043】
本発明の複合繊維において、耐久性を高める目的として、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートのいずれかまたは両方に、脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物等の末端封鎖剤を添加することができる。これらの末端封鎖剤の中では、カルボジイミド化合物が、効果やコストの面で最も良好である。このカルボジイミド化合物としては、N,N´-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジ-tert.-ブチルフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2-エチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2-イソブチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N'-ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0044】
これらの末端封鎖剤の添加量は、繊維質量中に0.01~5質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.05~3質量%である。0.01質量%未満では末端封鎖の効果が十分ではなく、また、5質量%を越えると切糸が生じやすくなるため、好ましくない。
【0045】
本発明の複合繊維を構成する樹脂には、必要に応じて、各種顔料、染料、撥水剤、吸水剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、金属粒子、結晶核剤、滑剤、可塑剤、抗菌剤、その他の添加剤を混合することができる。
【0046】
本発明の複合繊維を得るには、上記したポリ乳酸およびポリアルキレンサクシネートを準備し、上記の分割型複合形態となるように、常法によって複合紡糸すればよい。すなわち、まず、上記したポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートを用意し、公知の溶融複合紡糸法で紡糸し、横吹付や環状吹付等の従来公知の冷却装置を用いて、吹付風により冷却した後、油剤を付与し、引き取りローラを介して未延伸糸として巻取機に巻取る。巻取った未延伸糸を、公知の延伸機にて周速の異なるローラ間で延伸し、必要に応じて油剤を付与し、所望によってクリンパー等での機械クリンプの付与を行い、短繊維とする場合は、ECカッター、ギロチンカッター等のカッタ-で目的とする長さに切断すればよい。
【0047】
得られた複合繊維は、撚りをかける、あるいは紡績することにより糸条とし、また得られた糸条を製編織することにより織編物とする等により、繊維製品とするとよい。
【0048】
また、繊維製品として不織布を得ようとする場合、本発明の複合繊維を用いて、湿式抄紙法やカード法、エアレイド法等の方法によりウェブを形成した後、公知の不織布化手段を適用して不織布とすればよい。また、不織布化手段として、ニードルパンチ法や高圧水流交絡法等により繊維同士を交絡する手段を選択すると、繊維に物理的な衝撃が与えられるため、その衝撃によって、複合繊維が分割割繊されて、ポリ乳酸成分またはポリアルキレンテレフタレート成分からなる極細繊維を発現させることができる。高圧水流交絡法は、ウェブ全体にわたって均一に高圧水流を施すため、得られる不織布全体にわたり、また繊維全体においても均一に分割割繊することができるため、好ましい。また、上記した繊維製品である糸条や織編物も、物理的な衝撃を与えることにより、複合繊維を分割割繊させて、極細繊維を発現させるとよい。分割割繊する方法としては、高圧水流交絡法、液流染色機内を通して衝撃を与える方法、座屈法等が挙げられる。
【0049】
分割割繊により、極細繊維を発現させた繊維製品に、熱処理を行うことによって、ポリアルキレンサクシネートを溶融軟化させて、この溶融軟化したポリアルキレンサクシネート成分が溶融固着することによって、熱接着成分として機能し、構成繊維同士を熱接着する。
【0050】
熱接着のための熱処理温度および処理時間は、熱接着成分であるポリアルキレンサクシネートが溶融軟化する条件を設定すればよいが、温度は、90~150℃が好ましく、100~140℃がより好ましい。処理温度が90℃未満であると、ポリアルキレンサクシネート成分が溶融しにくく、熱接着成分として機能しにくい。また、150℃を超えるとポリ乳酸成分が熱収縮を生じ、また溶融軟化する恐れがあるため、繊維および繊維製品の品位が悪化する恐れがある。
【0051】
本発明の複合繊維を用いた繊維製品は、本発明の複合繊維のみからなるものでもよいが、目的や用途等に応じて他の繊維を混合してもよい。混合する場合、複合繊維の効果を良好に発揮するためには、繊維製品中に、複合繊維が20質量%以上含まれていることが好ましく、30質量%以上がより好ましい。他の繊維を混合する場合の他の繊維としては、例えば、レーヨン等の再生繊維、アセテート繊維等の半合成繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維、綿等の植物繊維、羊毛等の動物繊維が挙げられるが、これらの中でも生分解性を有している繊維と混合することによって、繊維製品自体が生分解性を有するため、好ましい。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、操業性よく生産ができ、かつ、品位に優れる繊維および繊維製品を得ることができる分割型複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の複合繊維の横断面の一例である分割型複合形態の断面図である。
図2】DSCにおける降温結晶化のDSC曲線であり、降温結晶化を示すピークのb/aを示す模式図である。
【符号の説明】
【0054】
1:花弁部
2:分割部
【実施例
【0055】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
なお、実施例における特性値等の測定法は、次の通りである。なお、繊度、熱収縮率、繊維の融点、固有粘度、MFR、b/aについては、上記した方法により測定した。なお、熱収縮率は、下記(3)の51mmカット綿にて測定した。
(1)操業性
下記の実施例記載の条件にて、20錘で7日間紡糸を行い、切糸回数を数え、切れ糸回数が、平均で3回以下/日は○、3回を越え10回以下/日は△、11回/日を越えるものは×とした。
(2)繊維の密着
得られた繊維を5mmにカットしてショートカット綿とし、1リットルの水に10gのショートカット綿を投入し、攪拌機(新東科学株式会社製BL300)を用いて、850rpmにて1分間攪拌した後、水槽へ広げて目視にて確認を行い、密着した繊維がないものを〇とした。前述の方法で密着した繊維があった場合は、1リットルの水に10gのショートカット綿を投入し、パルプ離解機(テスター産業株式会社製)を用いて、3000rpmにて1分間攪拌した後、水槽へ広げて目視にて確認を行い、密着した繊維がないものを△、密着した繊維があるものを×、とした。
(3)不織布の品位1
得られた繊維を51mmにカットしてロングカット綿とし、カード機で開繊し、目付50g/mのウェブを作成した。次いで、このウェブを100メッシュスクリーンからなるネットコンベアーに載置し、孔径0.12mm、孔間隔1.0mmの噴射孔を複数個有する噴射ノズルを3段階に設け、前段1960kPa、中段2940kPa、後段2940kPaの水圧でウェブの表裏に高圧水流処理を施して、構成繊維同士を交絡するとともに、極細繊維を発現させた後、60℃の温風で乾燥し、交絡不織布を作製した。次いで、この不織布を連熱処理機によって、110℃で10分間の熱処理を行い、熱処理によりポリアルキレンサクシネートを溶融させて、不織布を得た。この不織布を20cm×50cmにカットしたものを10枚作製し、目視にて塊状の欠点を数え、10枚それぞれのカット不織布が有する欠点の数の平均値を算出し、10枚のすべてのカット不織布に欠点がないものを○、欠点がありその平均値が3個以下のものを△、欠点がありその平均値が3回を超えるものを×として評価した。
(4)不織布の品位2
上記(3)項で作製した不織布の地合いを目視にて確認し、地合いが均一であるものを〇、収縮による地合いの凹凸がやや目立つものを△、収縮による地合いの凹凸が目立つものを×として評価した。
【0057】
実施例1
融点=166℃、固有粘度=1.34、MFR=9g/10分であり、L-乳酸/D-乳酸が98.6/1.4mol%のポリ乳酸と、融点=115℃、固有粘度=1.45、MFR=20g/10分であり、b/a=0.37mW/(mg・℃)であるポリブチレンサクシネートとを原料に用いて、孔数850孔、図1に示すごとき横断面となる紡糸口金を用い(花弁部の花びら状部が10個、分割部が10個の分割複合型)、ポリ乳酸を花弁部に、ポリブチレンサクシネートを分割部に配して、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートが質量比で50/50となるように、紡糸温度230℃、紡糸速度1100m/分で溶融紡糸し、分割型複合繊維の未延伸糸を得た。
【0058】
次いで、得られた未延伸糸を延伸温度60℃、延伸倍率3.50倍で延伸した後、仕上げ油剤を付与し、カットを行い、繊度2.0dtexの分割型複合繊維を得た。
【0059】
実施例2、比較例1
繊度が表1に示す値となるように吐出量を変更した以外は、実施例1と同様にした。
【0060】
実施例3
分割型断面において、花弁部の花びら状部が個数および分割部の個数を表1に示す値となるように紡糸口金を変更した以外は、実施例1と同様にした。
【0061】
実施例4
ポリブチレンサクシネートを花弁部に配し、ポリ乳酸を分割部に配したこと以外は、実施例1と同様にした。
【0062】
実施例5~6
実施例1において、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとの質量比を表1に示す値となるように吐出量を変更したこと以外は、実施例1と同様にした。
【0063】
実施例7~8
実施例4において、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとの質量比が表1に示す値となるように吐出量を変更した以外は、実施例4と同様にした。
【0064】
比較例2
融点=130℃、固有粘度=1.48、MFR=11g/10分であり、L-乳酸/D-乳酸が90.1/9.9mol%のポリ乳酸を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0065】
比較例3
ポリアルキレンサクシネートとして、乳酸を15mol%共重合したポリブチレンサクシネート(融点=90℃、固有粘度=1.38、MFR=35g/10分であり、b/a=0.12mW/(mg・℃))を用いたこと以外は、実施例1と同様にした。
【0066】
実施例1~6および比較例1~3で得られた繊維の操業性、繊維および不織布の品位について表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から明らかなように、実施例1~8では、操業性、繊維および不織布の品位が良好であった。
【0069】
一方、比較例1は繊度が小さいものであったため、操業性が悪化し、繊維サンプルを採取することができなかった。
【0070】
比較例2は、ポリ乳酸の融点が低く結晶性の低いものであったため、操業性および繊維の品位が悪化した。また、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとの融点の差が小さく、繊維の収縮率が高いものであったため、不織布の品位にも劣るものであった。
【0071】
比較例3は、ポリブチレンサクシネートの融点が低く結晶性の低いものであったため、操業性および繊維の品位が悪化した。また、繊維の収縮率が高いものであったため、不織布の品位が悪化した。
図1
図2