(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】芳香族化合物配糖体及び該配糖体の製造方法、該配糖体を含む抗酸化組成物、脂質代謝改善組成物及び糖尿病改善・予防組成物
(51)【国際特許分類】
C07H 17/07 20060101AFI20230804BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230804BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20230804BHJP
A61K 36/88 20060101ALI20230804BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20230804BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
C07H17/07
A23L33/105
A61K31/7048
A61K36/88
A61P3/06
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2023047504
(22)【出願日】2023-03-24
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022063690
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022092106
(32)【優先日】2022-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516083494
【氏名又は名称】株式会社カロテノイド生産技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【氏名又は名称】平田 緑
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(72)【発明者】
【氏名】新藤 一敏
(72)【発明者】
【氏名】三沢 典彦
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066052(JP,A)
【文献】特開2013-053133(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112174824(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107459543(CN,A)
【文献】YANG, W. et al.,Rapid characterisation of flavonoids from Sophora alopecuroides L. by HPLC/DAD/ESI-MS,Natural Product Research,2013年,Vol. 27, No. 4-5,pp. 323-330,DOI: 10.1080/14786419.2012.688052
【文献】DANIHELOVA, M, et al.,Antioxidant action and cytotoxicity on HeLa and NIH-3T3 cells of new quercetin derivatives,Interdisciplinary Toxicology,2013年,Vol. 6, No. 4,pp. 209-216,DOI: 10.2478/intox-2013-0031
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 17/00
A23L 33/00
A61K 31/00
A61K 36/00
A61P 3/00
C12P 7/00
C12P 17/00
C12P 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(B)又は(A)で表される化合物。
【化1】
【化2】
(式(B)(A)中のR
1はラムノース残基、グルコース残基、グルクロン酸残基又はHであり、R
2はラムノース残基、グルコース残基、H、グルコース残基-グルコース残基、グルコース残基-ラムノース残基又はラムノース残基-グルコース残基であり、(A)中のR
3はH又はOHである、
ここで、R
1
基及びR
2
基が同時に水素となる場合を除く。)
【請求項2】
以下の式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化3】
【請求項3】
以下の式(6)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化4】
【請求項4】
以下の式(7)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化5】
【請求項5】
以下の式(8)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化6】
【請求項6】
以下の式(9)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化7】
【請求項7】
以下の式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化8】
【請求項8】
以下の式(3)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化9】
【請求項9】
以下の式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化10】
【請求項10】
以下の式(5)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化11】
【請求項11】
以下の式(10)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化12】
【請求項12】
以下の式(11)で表される化合物である、請求項1に記載の化合物。
【化13】
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1以上の化合物を含む、抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1以上の化合物を含む、脂質代謝改善組成物若しくは脂質代謝改善食品組成物、又は糖尿病改善・予防組成物若しくは糖尿病改善・予防食品組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1以上の化合物を芳香族化合物産生植物から抽出する工程を含む、芳香族化合物配糖体の製造方法。
【請求項16】
前記芳香族化合物産生植物が、フリージアである請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記フリージアが、黄花フリージアである請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記黄花フリージアの品種が、エアリーフローラ・エアリーイエロー(石川f2号)、アラジン、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム、又はブールバールである請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の芳香族化合物(ポリフェノール)配糖体(詳しくは、コーヒー酸フラボノール配糖体エステル)及び該配糖体の製造方法、並びに、該配糖体を含む抗酸化組成物、抗酸化食品組成物、脂質代謝改善組成物及び糖尿病・予防改善組成物に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願2022-63690号及び2022-92106号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
食品産業上重要なサフラン(単子葉植物鋼・キジカクシ目・アヤメ科・Crocussativusの柱頭)やクチナシ(双子葉植物鋼・リンドウ目・アカネ科・Gardeniajasminoides)の果実の赤~橙~黄色色素は、炭素数20(C20)のcrocetinやcrocin(crocetinの両端が2分子ずつのglucoseでエステル化されたもの)といった水溶性のカロテノイド(アポカロテノイド)からなり、食品添加物、機能性食品、及び、医薬品原料として利用されている。
黄花クロッカスやクチナシ成熟花の花弁にも、crocetinやcrocetin配糖体が含まれている(非特許文献1、2)。
ヒメヒオウギズイセン(クロコスミア、Crocosmia;アヤメ科・Crocosmia x crocosmiiflora)の橙色花弁(開花期:7月~9月)にもcrocinが含まれているという報告もある(非特許文献3)。Crocosmiaはラテン語で「サフランの香り」を意味する。
フリージア(Freesia;アヤメ科・Freesia refracta)は、アサギズイセン、ショウブスイセン、コウセツランといった別名を持つ南アフリカ・ケープ地方原産の花卉植物であり、多数の園芸品種(Freesia x hybrida)が育種されている。白色、黄、橙、赤、ピンク、紫、青といった幅広い花色を有するが(開花期:3月~4月)、日本で流通しているフリージアでは、その78%が黄花である(非特許文献4)。黄花フリージアの中で大輪の花を持つ品種「アラジン(Aladin)」が日本で最も栽培されている(非特許文献5)。黄花フリージアの園芸品種としては、これ以外にも多数あるが、例えば、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム、ブールバール、ラピットイエローを挙げることができる。
「エアリーフローラ」は石川県オリジナル品種のフリージア(Freesia x hybrida)である。エアリーフローラでは多彩な花色が特長であり、現在流通する10品種はそれぞれに異なる個性的な花色を示す。淡紫色をはじめ赤色、桃色、橙色、黄色、白色など様々な花色の品種が揃っている。なお、エアリーフローラ・エアリーイエロー(‘石川f2号’)が黄花品種である。なお、‘石川f2号’は、大輪品種「アラジン」と早生品種「ラピットイエロー(Rapid yellow)」との交配により石川県で作出された(非特許文献5)。
本発明者らは、‘石川f2号’や「アラジン」といった黄色花弁を持つフリージアが、黄色色素として、crocetin配糖体であるcrocetin neapolitanosyl ester(crocetinの片側に3分子のglucoseがエステル結合した水溶性アポカロテノイド)、及びcrocetin di-neapolitanosyl ester(crocetinの両側に3分子のglucoseがエステル結合した水溶性アポカロテノイド)が花弁に生産されることを見出し、黄花フリージアの黄色の本体が、これらのアポカロテノイドであることを明らかにした(特許文献1)。黄花フリージアはcrocetin neapolitanosyl esterまたはcrocetin di-neapolitanosyl esterを主成分として生産する唯一の植物体材料である。さらに、crocetin neapolitanosyl esterの自然界の植物からの単離についても、これが最初の報告であった。
【0003】
自然界には様々な芳香族化合物が存在するが、高等植物が作る低分子芳香族化合物(ポリフェノール)としてC6-C3-C6骨格を持つフラボノイドとC6-C3骨格を持つフェニルプロパノイドがある。代表的フラボノイドであるフラボン(Flavone)のうち、3位に水酸基が付いたものはフラボノール(Flavonol)と呼ばれる。
なお、前述のサフラン(Crocus sativus)は、副産物として花に、ケルセチン配糖体やケンフェロール配糖体を微量、含むことが報告されている(非特許文献6)。しかし、本発明の芳香族化合物配糖体と同じものがサフランに含まれているという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. RubioMoraga et al, Crocins with High Levels of Sugar Conjugation Contribute to theYellow Colours of Early-Spring Flowering Crocus Tepals. PLoS ONE 8(9):e71946, 2013. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0071946
【文献】S.R. Sommano et al, Recovery ofcrocins from floral tissue of Gardenia jasminoides Ellis. Front Nutrition 7: 106, 2020.
【文献】Akemi Ohmiya, Diversity ofcarotenoid composition in flower petals. JARQ 45: 163-171, 2011
【文献】本図竹司, フリージアにおける育種,栽培技術および生産の変遷, 茨城農総セ生工研研報15: 1~31,2015
【文献】村濱 稔ら, フリージア‘石川f2号’の育成, 園学研 (Hort.Res. (Japan)) 19: 309-311, 2020
【文献】P. Vignolini et al,Characterization of by-products of saffron (Crocus sativus L.)production. Natural Product Communications 3: 1959-1962, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、食品・医薬品産業上重要で、ヒトの健康への有用性が期待される新規の有用物質をフリージア等の植物から抽出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、‘石川f2号’等の黄色花弁を持つフリージアの花で、新規物質である芳香族化合物配糖体(コーヒー酸とフラボノール配糖体とのエステル化合物)が生産されることを見出し、さらに、該配糖体は抗酸化作用、脂質代謝改善作用及び糖尿病・予防改善作用を有することを確認して、本課題を解決するに至った。
【0008】
本発明は以下の通りである。
1.以下の一般式(B)又は(A)で表される化合物。
【化1】
【化2】
(式(B)(A)中のR
1はラムノース残基、グルコース残基、グルクロン酸残基又はHであり、R
2はラムノース残基、グルコース残基、H、グルコース残基-グルコース残基、グルコース残基-ラムノース残基又はラムノース残基-グルコース残基であり、(A)中のR
3はH又はOHである。)
2.以下の式(2)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化3】
3.以下の式(6)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化4】
4.以下の式(7)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化5】
5.以下の式(8)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化6】
6。以下の式(9)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化7】
7.以下の式(1)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化8】
8.以下の式(3)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化9】
9.以下の式(4)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化10】
10.以下の式(5)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化11】
11.以下の式(10)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化12】
12.以下の式(11)で表される化合物である、前項1に記載の化合物。
【化13】
13.前項1~12のいずれか1以上の化合物を含む、抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物。
14.前項1~12のいずれか1以上の化合物を含む、脂質代謝改善組成物若しくは脂質代謝改善食品組成物、又は糖尿病改善・予防組成物若しくは糖尿病改善・予防食品組成物。
15.前項1~12のいずれか1以上の化合物を芳香族化合物産生植物から抽出する工程を含む、芳香族化合物配糖体の製造方法。
16.前記芳香族化合物産生植物が、フリージアである前項15に記載の製造方法。
17.前記フリージアが、黄花フリージアである前項16に記載の製造方法。
18.前記黄花フリージアの品種が、エアリーフローラ・エアリーイエロー(石川f2号)、アラジン、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム、又はブールバールである前項17に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
新規芳香族化合物配糖体並びに該配糖体を含む抗酸化組成物、脂質代謝改善組成物又は糖尿病改善・予防組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】メタノール(MeOH)によるフリージア花の抽出物[本発明の芳香族化合物配糖体を含む]のHPLC分析結果。
【
図2】化合物1の
1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図3】化合物1の
13C NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図4】化合物2の
1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図5】化合物2の
13C NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図6】化合物3の
1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図7】化合物3の
13C NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図8】化合物4の
1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図9】化合物4の
13C NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図10】化合物5の
1H NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図11】化合物5の
13C NMRスペクトル(DMSO-d
6中)。
【
図12】ケルセチン(Quercetin;
図12の左)、ケンフェロール(Kaempferol;
図12の中央)及びコーヒー酸(Caffeic acid;
図12の右)の構造式。
【
図13】フリージア'カヤック'花の抽出物のHPLC分析結果。
【
図18】3T3-L1細胞を用いた芳香族化合物配糖体の分化誘導試験結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の対象)
本発明は、芳香族化合物配糖体及び該配糖体の製造方法、該配糖体を含む抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物、該配糖体を含む脂質代謝改善組成物又は脂質代謝改善食品組成物、並びに、該配糖体を含む糖尿病改善・予防組成物又は糖尿病改善・予防食品組成物に関する。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(芳香族化合物配糖体)
本発明の芳香族化合物配糖体は、以下の一般式(B)又は一般式(A)で表される化合物である。
【化14】
【化15】
上記式(A)(B)中、R
1はラムノース残基、グルコース残基、グルクロン酸残基又はHであり、R
2はラムノース残基、グルコース残基、H、グルコース残基-グルコース残基、グルコース残基-ラムノース残基又はラムノース残基-グルコース残基であり、R
3はH又はOHである。
ケルセチン(Quercetin;
図12の左)及びケンフェロール(Kaempferol;
図12の中央)は、本発明の芳香族化合物を構成するフラボノールである。また、コーヒー酸(Caffeic acid;
図12の右)は、本発明の芳香族化合物を構成するカルボン酸型フェニルプロパノイド化合物である。
【0013】
(化合物1)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物1は、以下の式(6)で表される化合物である(参照:実施例3)。
【化16】
【0014】
(化合物2)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物2は、以下の式(2)で表される化合物である(参照:実施例4)。
【化17】
【0015】
(化合物3)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物3は、以下の式(7)で表される化合物である(参照:実施例5)。
【化18】
【0016】
(化合物4)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物4は、以下の式(8)で表される化合物である(参照:実施例6)。
【化19】
【0017】
(化合物5)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物5は、以下の式(9)で表される化合物である(参照:実施例7)。
【化20】
【0018】
(化合物20)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物20は、以下の式(10)で表される化合物である(参照:実施例12)。
【化21】
【0019】
(化合物21)
本発明の芳香族化合物配糖体の一例である化合物21は、以下の式(11)で表される化合物である(参照:実施例13)。
【化22】
【0020】
(抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物の形態)
本発明の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物は、一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物及び化合物1~化合物11のいずれか1以上を含む。
また、本発明の抗酸化組成物を他の薬剤(例、抗がん剤)に含めることもできる。
本発明の抗酸化食品組成物は、食品とすることもできる。また、本発明の抗酸化食品組成物を以下の形態の食品とすることができる。例えば、サプリメント、米飯類、麺類、パン類、穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料、ゼリー、ガム、タブレット(錠剤)、栄養補助食品、食品添加物等が含まれる。なお、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
【0021】
(抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物の成分)
本発明の抗酸化組成物又は抗酸化食品組成物は、他の成分を含むものであってもよい。「他の成分」は、食品又は薬剤において許容される成分である限り特に限定されず、例えば、目的の食品を構成する諸成分、油性成分、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤等を挙げることができ、本発明の組成物の形態に応じて、適当なものを選択し、適宜組み合わせて用いることができる。
【0022】
(脂質代謝改善組成物、脂質代謝改善食品組成物、糖尿病改善・予防組成物又は糖尿病改善・予防食品組成物)
本発明の脂質代謝改善組成物、脂質代謝改善食品組成物、糖尿病改善・予防組成物又は糖尿病改善・予防食品組成物は、一般式(A)又は一般式(B)で表される化合物及び化合物1~化合物11のいずれか1以上を含む。
また、本発明の各組成物を他の薬剤(例、抗がん剤)に含めることもできる。
本発明の各組成物は、食品とすることもできる。また、本発明の各組成物を以下の形態の食品とすることができる。例えば、サプリメント、米飯類、麺類、パン類、穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料、ゼリー、ガム、タブレット(錠剤)、栄養補助食品、食品添加物等が含まれる。なお、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
さらに、本発明の各組成物を脂質代謝改善剤、糖尿病改善・予防剤とすることもできる。
【0023】
(本発明の剤)
本発明の剤は、疾患の発症を抑えることおよび遅延させることが含まれ、疾患になる前の予防だけではなく、治療後の疾患の再発に対する予防も含まれる。本発明の剤には、疾患を治癒すること、症状を改善することおよび症状の進行を抑えることが包含される。
本発明の剤の投与対象は、好ましくは、哺乳動物である。本明細書において哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒトおよびサルなどの霊長類、マウス、ラットおよびウサギなどの齧歯類、イヌおよびネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマおよびブタなどの家畜が挙げられる。本発明の剤は、霊長類、特にヒトへの投与に好適である。
(担体)
本発明の剤は、本発明の芳香族化合物配糖体と、1以上の製薬上許容される担体を含む。製薬上許容される担体とは、一般的に、本発明の有効成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料等をいい、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、植物性油などの溶媒または分散媒体などが挙げられる。
(本発明の剤の形態)
本発明の剤は、経口により、非経口により、例えば、皮膚に、皮下に、粘膜に、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、膣内に、肺に、脳内に、眼に、および鼻腔内に投与される。経口投与製剤としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤、ペレット剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤および吸入剤などが挙げられる。非経口投与製剤としては、坐剤、保持型浣腸剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤、ペッサリー剤、注射剤、口腔洗浄剤ならびに軟膏、クリーム剤、ゲル剤、制御放出パッチ剤および貼付剤などの皮膚外用剤などが挙げられる。本発明の剤は、徐放性皮下インプラントの形態で、または標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェア)の形態で、非経口で投与してもよい。
(添加剤)
本発明の剤はさらに医薬分野において慣用の添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤などがあり、必要に応じて使用できる。
【0024】
(芳香族化合物配糖体の製造方法)
本発明の芳香族化合物配糖体の製造方法は、芳香族化合物産生植物から有用化合物(特に、水溶性低分子化合物)の抽出方法を採用することができる。例えば、以下を例示することができる。
芳香族化合物産生植物の植物体の全部又は一部(好ましくは、フリージアの花)を採取後、必要に応じて凍結乾燥または自然乾燥または加温乾燥し、さらに生品または乾燥品を粉砕後、抽出溶媒で抽出することによって得られる。
抽出溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジクロロメタン、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、アセトン等の極性有機溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の無極性有機溶媒等を用いることができる。また、これらの溶媒を単独で又は2種以上の混合溶媒として用いることもできる。好ましい抽出溶媒としては、ジクロロメタン及びメタノールの混合溶媒、メタノール、含水メタノール等を例示することができる。
上記方法によって抽出物を得た後、必要に応じて、ブタノール、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ベンゼン等の有機溶媒と、これと混和しない高極性溶媒(水や含水メタノール等)との溶媒分画操作によって、得られた抽出液から活性画分(例えば、水層画分)を粗精製することができる。
更に、必要に応じて、アルミナカラムクロマトグラフィーやシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて精製することもできる。
例えば、本発明の芳香族化合物配糖体は、芳香族化合物産生植物の植物体の一部(例えば、フリージアの花)を採取し、破砕後、水又は上記の溶媒を加えて遠心分離を行った上清を回収する工程を1回以上行い、上清として得ることもできる。
【0025】
本発明の芳香族化合物配糖体の製造方法の一例を挙げると、以下のようになる。
温室にて促成栽培または通常栽培を行い、開花したフリージア‘石川f2号’から順次花を採取し、-80℃フリーザーにて冷凍保存する。ある程度貯まったら、この花を3日間凍結乾燥させる。または、採取した花を乾燥した室内で一月以上、自然乾燥させる。
乾燥花をミキサーで粉末とし、ジクロロメタン (CH2Cl2)-メタノール (MeOH) (1:1) を加えて洗い、残渣に100% MeOHを加えて、若干黄色がかった目的物質を溶媒抽出する。少量まで濃縮後、酢酸エチル (EtOAc)/H2Oで二相分配する。目的物質は水相に分配されるため、水相を半分量まで濃縮してEtOAcを除いた後HP20カラムに吸着させる。HP20カラムは、水と50% MeOHで洗浄後、100% MeOHで目的物質を溶出する。
溶出物を濃縮乾固後、逆相 (C30) のHPLC分取[展開溶媒:30% アセトニトリル(CH3CN) + 0.1% トリフルオロ酢酸 (TFA)]により目的物質である芳香族化合物配糖体の純品を単離する。
【0026】
(各芳香族化合物配糖体の確認方法)
必要に応じて、上記得られた純品について各種NMR(1H、13C、DQF COSY、HMBC、HMQC、NOESY等)やHRESI-MS((M+Na)+等)の測定を行う。
次に、2N HClを用いてアグリコンと糖に加水分解する。アグリコンと糖はEtOAc/H2Oの二相分配でそれぞれ精製する(EtOAc層:アグリコン、水層:糖)。
必要に応じて、アグリコンは各種NMR解析を行い、糖は旋光度及び1H NMRの測定を行うことにより、得られた化合物がどの本発明の芳香族化合物配糖体であるかを同定することができる。
【0027】
(芳香族化合物産生植物)
本発明の芳香族化合物産生植物は、本発明の芳香族化合物配糖体を産生する能力を有する植物であれば特に限定されないが、例えば、フリージア等のアヤメ科植物、アカネ科植物、ケシ科植物等が挙げられ、フリージア、黄花植物が好ましく、黄花フリージアがより好ましい。
黄花フリージアとしては、例えば、アラジン、エアリーフローラ・エアリーイエロー(石川f2号)、アラジン、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム、ブールバールが挙げられる。
【0028】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0029】
(フリージアから芳香族化合物配糖体の抽出)
フリージア(
Freesia x
hybrida)の黄花品種として、石川県のオリジナル品種である「エアリーフローラ」・「エアリーイエロー」‘石川f2号’を用いた。‘石川f2号’は石川県農林総合研究センターの温室にて通常栽培を行い、開花させた花を用いた。さらに、黄花フリージアの園芸品種であるアラジン、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム及びブールバールについても、石川県農林総合研究センターの温室にて通常栽培された。
4月中旬に‘石川f2号’から多量の花(花全体、すなわち花弁、愕、雌しべ、雄しべ)を採取した(1.5 kg)。得られた花は室内で2ヶ月間、自然乾燥された。ただし、1/4~1/3期間は、室内除湿機(IRIS Ohyama efeel;コンプレッサー式)を用いた。乾燥花は、元の重さの1/10程度になった。フリージア乾燥花66.7 gをミキサーにて1分間粉砕し、1 LのCH
2Cl
2 (dichloromethane)-MeOH (methanol)(1:1) 溶液を加えて消灯下室温で30分撹拌抽出し、減圧濾過を行った。
次に、ろ過残渣に MeOH 1Lを加えて同様に溶媒抽出した後減圧ろ過し、さらにそのろ過残渣に80% (V/V) MeOH 1 L、50%(V/V) MeOH 1 Lを加えて同様の抽出を行った。
上記抽出の結果、花に含有される色素が全て抽出されたため最後に残った残渣はほぼ白色となった。
得られた4つの濾過液を濃縮せずに30 μLずつ、以下に示すHPLC分析条件で分析したところ、MeOH溶液にのみ、
図1に示すように多種類のフラボノイド配糖体(芳香族化合物(ポリフェノール)配糖体)が含まれていることを確認した。
カラム:CAPCELL PAK ADME (OSAKA SODA) 10 mm×250 mm
流速:3.0 mL/min
溶媒:20% (V/V) CH
3CN (acetonitrile) + 0.1% (V/V)TFA (trifluoroacetic acid)
検出:DAD (diode array detecter)(200~600 nm)
【0030】
アラジン、ポルトパサート、ゴールドフレーム、カヤック、スプリングタイム及びブールバールについても、生花の花弁を1.5~3 gずつを用いて同様にMeOH抽出し、HPLC分析を行った。これらのフリージアは、‘石川f2号’と同じ多種類のフラボノイド配糖体が含まれていることが確認できた。
【実施例2】
【0031】
(本発明の芳香族化合物配糖体の単離精製)
‘石川f2号’のMeOH抽出液を濃縮乾固(18.3 g)し、実施例1に示したHPLC条件で確認された主要なフラボノイド配糖体として化合物1~5を分取した(保持時間:化合物1, 9.4 min; 化合物2, 12.6 min; 化合物3, 19.2 min; 化合物4, 22.3 min; 化合物5, 9.1 min)。得られた分取溶出液を濃縮乾固したところ、純品の化合物1, 40.5 mg; 化合物2, 37.5 mg; 化合物3, 43.5 mg; 化合物4, 25.50 mg; 化合物5, 43.1 mgを得た。なお、この5つの化合物以外にも、フラボノイド配糖体が複数、存在していた(
図1)。
【実施例3】
【0032】
(化合物1の構造決定)
実施例2で得られた純品の化合物1を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (+)を測定した。その結果、(M+Na)+イオンピークがm/z 957.2294に観測され、化合物1の分子式はC
42H
46O
24と決定された{calcd for 957.2268 (C
42H
46NaO
24, Δ2.72 ppm)}。
次に、10 mgの化合物1をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物1の
1H NMRスペクトルを
図2に、
13C NMRスペクトルを
図3に示す。
次に、化合物1の2D NMRスペクトル(
1H-
1H DQF COSY, HMQC, HMBC,NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物1の構造を解析した。
その結果、化合物1の構造を式(6)に示すように決定することができた。
化合物1は、一般式(B)においては、R
1はラムノース残基(rhamnose-)、R
2は グルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)であり、新規物質であることが確認された。
【0033】
【0034】
下記実施例4では、化合物2(caffeic acidがflavonolの4'位にエステル結合)が存在したことから、エステル化酵素の反応特異性を考慮すると、式(1)で表される化合物が少なくとも微量、存在するはずである。
式(1)で表される化合物は、一般式(A)においては、R1はラムノース残基(rhamnose-)、R2は グルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)、R3はOHであり、新規物質であることが確認された。
【0035】
【実施例4】
【0036】
(化合物2の構造決定)
実施例2で得られた純品の化合物2を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (+)を測定した。その結果、(M+Na)
+イオンピークがm/z 941.2354に観測され、化合物2の分子式はC
42H
46O
23と決定された{calcd for 941.2328 (C
42H
46NaO
23, Δ 2.76 ppm)}。
次に、10 mgの化合物2をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物2の
1HNMRスペクトルを
図4に、
13C NMRスペクトルを
図5に示す。
次に、化合物2の2D NMRスペクトル(
1H-
1HDQF COSY, HMQC, HMBC, NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物2の構造を解析した。
その結果、化合物2の構造を式(2)に示すように決定することができた。
化合物2は、一般式(A)においては、R
1はラムノース残基(rhamnose-)、R
2は グルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)、R
3はHであり、新規物質であることが確認された。
【0037】
【実施例5】
【0038】
(化合物3の構造決定)
実施例2で得られた純品の化合物3を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (+)を測定した。その結果、(M+Na)
+イオンピークがm/z 941.2371に観測され、化合物3の分子式はC
42H
46O
23と決定された{calcd for 941.2328 (C
42H
46NaO
23, Δ 4.57 ppm)}。
次に、10 mgの化合物3をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物3の
1HNMRスペクトルを
図6に、
13C NMRスペクトルを
図7に示す。
次に、化合物3の2D NMRスペクトル(
1H-
1H DQF COSY, HMQC, HMBC,NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物3の構造を解析した。
その結果、化合物3の構造を式(7)に示すように決定することができた。
化合物3は、一般式(B)においては、R
1はラムノース残基(rhamnose-)、R
2は グルコース残基-ラムノース残基(glucose- rhamnose -)であり、新規物質であることが確認された。
【0039】
【0040】
実施例4では、化合物2(caffeic acidがflavonolの4'位にエステル結合)が存在したことから、エステル化酵素の反応特異性を考慮すると、式(3)で表される化合物が少なくとも微量、存在するはずである。
式(3)で表される化合物は、一般式(A)においては、R1はラムノース残基(rhamnose-)、R2は グルコース残基-ラムノース残基(glucose-rhamnose-)、R3はOHであり、新規物質であることが確認された。
【0041】
【実施例6】
【0042】
(化合物4の構造決定)
実施例2で得られた純品の化合物4を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (+)を測定した。その結果、(M+Na)
+イオンピークがm/z 811.16941に観測され、化合物4の分子式はC
36H
36O
20と決定された{calcd for 811.16976 (C
36H
36NaO
20, Δ 4.31 ppm)}。
次に、10 mgの化合物4をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物4の
1HNMRスペクトルを
図8に、
13C NMRスペクトルを
図9に示す。
次に、化合物4の2D NMRスペクトル(
1H-
1HDQF COSY, HMQC, HMBC, NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物4の構造を解析した。
その結果、化合物4の構造を式(8)に示すように決定することができた。
化合物4は、一般式(B)においては、R
1はH、R
2は グルコース残基-グルコース残基(glucose- glucose -)であり、新規物質であることが確認された。
【0043】
【0044】
実施例4では、化合物2(caffeic acidがflavonolの4'位にエステル結合)が存在したことから、エステル化酵素の反応特異性を考慮すると、式(4)で表される化合物が少なくとも微量、存在するはずである。
式(4)で表される化合物は、一般式(A)においては、R1はH、R2はグルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)、R3はOHであり、新規物質であることが確認された。
【0045】
【実施例7】
【0046】
(化合物5の構造決定)
実施例2で得られた純品の化合物5を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (+)を測定した。その結果、(M+Na)
+イオンピークがm/z 957.2266に観測され、化合物5の分子式はC
42H
46O
24と決定された{calcd for 957.2268 (C
42H
46NaO
24, Δ 2.08 ppm)}。
次に、10 mgの化合物5をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物5の
1HNMRスペクトルを
図10に、
13C NMRスペクトルを
図11に示す。
次に、化合物5の2D NMRスペクトル(
1H-
1HDQF COSY, HMQC, HMBC, NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物5の構造を解析した。
その結果、化合物5の構造を式(9)に示すように決定することができた。
化合物5は、一般式(B)においては、R
1はグルコース残基(glucose-)、R
2は グルコース残基-ラムノース残基(glucose-rhamnose-)であり、新規物質であることが確認された。
【0047】
【0048】
実施例4では、化合物2(caffeic acidがflavonolの4'位にエステル結合)が存在したことから、エステル化酵素の反応特異性を考慮すると、式(5)で表される化合物が少なくとも微量、存在するはずである。
式(5)で表される化合物は、一般式(A)においては、R1はグルコース残基(glucose-)、R2は グルコース残基-ラムノース残基(glucose-rhamnose-)、R3はOHであり、新規物質であることが確認された。
【0049】
【実施例8】
【0050】
(その他の芳香族化合物配糖体)
実施例1の結果(参照:
図1)及び実施例2~7の結果により、式(1)~(9)で表される化合物の芳香族化合物配糖体がフリージア(‘石川f2号’)に含まれている。
例示的な芳香族化合物配糖体は、一般式(A)及び一般式(B)において、以下の通りである。なお、R
3は(A)のみである。
化合物1(一般式(B):式(6)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―グルコース残基―
化合物2(一般式(A):式(2)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―グルコース残基―、R
3:H
化合物3(一般式(B):式(7)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―
化合物4(一般式(B):式(8)) R
1:H、R
2:グルコース残基―グルコース残基―
化合物5(一般式(B):式(9)) R
1:グルコース残基、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―
化合物6(一般式(A):式(1)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―グルコース残基―、R
3:OH
化合物7(一般式(A):式(3)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―、R
3:OH
化合物8(一般式(A):式(4)) R
1:H、R
2:グルコース残基―グルコース残基―、R
3:OH
化合物9(一般式(A):式(5)) R
1:グルコース残基、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―、R
3:OH
さらに、実施例1の結果(参照:
図1)及び実施例2~7の結果により、式(1)~(9)で表される化合物以外の芳香族化合物配糖体がフリージア(‘石川f2号’)に含まれていると考えられる。
化合物10(一般式(B)) R
1:ラムノース残基、R
2:ラムノース残基―グルコース 残基―
化合物11(一般式(A)) R
1:ラムノース残基、R
2:ラムノース残基―グルコー ス残基―、R
3:OH
化合物12(一般式(A)) R
1:グルコース残基、R
2:グルコース残基―グルコース 残基―、R
3:H
化合物13(一般式(A)) R
1:ラムノース残基、R
2:グルコース残基―ラムノース 残基―、R
3:H
化合物14(一般式(B)) R
1:グルコース残基、R
2:ラムノース残基―グルコース 残基―
化合物15(一般式(A)) R
1:グルコース残基、R
2:ラムノース残基―グルコー ス残基―、R
3:OH
化合物16(一般式(B)) R
1:H、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―
化合物17(一般式(A)) R
1:H、R
2:グルコース残基―ラムノース残基―、R
3:OH
化合物18(一般式(A)) R
1:H、グルコース残基―ラムノース残基―、R
3:H
化合物19(一般式(A)) R
1:グルコース残基、R
2:グルコース残基ーグルコース残基―、R
3:OH
【実施例9】
【0051】
(化合物1~5の抗酸化作用の確認)
生体内で生じる種々のラジカル種による生体組織障害作用を反映した実験系であるラット脳脂質過酸化抑制活性を用いて化合物1~5の抗酸化活性を評価した。
ラジカル種によるラット脳脂質ホモジネート(ラジカル種により酸化を受けやすい生体脂質からなる組織をホモジナイズしたもの)の過酸化により生じるマロンジアルデヒドの量は、TBA法で532 nmの吸光度で測定することができる。本方法はラット脳脂質とラジカル種を消去する作用を有する試験化合物を共存させてラジカル種による脂質酸化反応を進行させ、生じるマロンジアルデヒドの生成量の低下から、試験化合物のラジカル種消去活性を調べるものである。
【0052】
(ラット脳脂質過酸化抑制試験)
IWAKIディスポーザブル培養試験管 (φ13 mm×100 mm) に、100 mMリン酸緩衝液 (pH 7.4)0.6 mL、被検試料溶液0.05 mL、1 mMアスコルビン酸0.1 mL、及び蒸留水 0.05 mLを添加し、37℃の湯浴中で5分間のプレインキュベーションを行った。プレインキュベーション後、2.5 % (w/v)ラット脳ホモジネートを0.2 mL添加し、試験管を37℃の湯浴中に振盪(150 rpm)しながら1時間のインキュベートを行った。その後、0.2 N塩酸中に20% (W/V)トリクロロ酢酸、0.5% (W/V) 2-チオバルビツール酸を含む混合液1 mLを上記反応液に添加することで反応を停止した。
次に、この溶液を100 ℃で30分間煮沸処理を行い発色させた。冷却後、3000 rpmで10分間遠心分離を行い、上清の波長532 nmでの吸光度(A532)を測定した(T)。
また、それぞれの抽出エキスの過酸化脂質生成抑制率は、以下の式1に従って求めた。
式1:酸化脂質生成抑制率(%)={1―(T―B)/(C―B)}×100
T (test):被検試料溶液添加群のA532
C (control):被検試料溶液でなくエタノールを加えた群のA532(抗酸化物質無し群)
B (blank):被検試料溶液でなくエタノールを加え、ラット脳ホモジネート溶液の代わりにリン酸緩衝液を加えた群のA532(酸化される脂質無し群)
抗酸化活性の強さは、被検試料添加群のA532が試験無添加群(コントロール群)のA532と比べて半分に低下するのに必要だったエキス濃度から、試験管中の試料粉末重量(mg)を算出し、これをIC50値として示した。
【0053】
化合物1~5のIC50値(ラット脳脂質過酸化50%消去濃度、μM)を以下の表1に示した。いずれの化合物もラット脳脂質過酸化抑制活性を有することが確認された。
これにより、本発明の芳香族化合物配糖体(特に、化合物1~5)は抗酸化作用を有することを確認した。
【0054】
【実施例10】
【0055】
(フリージア ‘カヤック’ から芳香族化合物配糖体の抽出)
4月上旬に、黄花フリージアの園芸品種である‘カヤック’(石川県農林総合研究センターの温室にて通常栽培)から、多量の花(花全体、すなわち花弁、愕、雌しべ、雄しべ)(146.72 g)を採取した。
CH
2Cl
2 (dichloromethane)-MeOH (methanol)(1:1) 溶液を加えて消灯下室温で30分撹拌抽出し、減圧濾過を行った。次に、ろ過残渣にMeOH 1Lを加えて同様に溶媒抽出した後減圧ろ過し、さらにそのろ過残渣に50%(V/V) MeOH 1 Lを加えて同様の抽出を行った。
得られた3つの濾過液を濃縮せずに30 μLずつ、以下に示すHPLC分析条件で分析したところ、50% MeOH溶液に、
図13に示すように2種類のフラボノイド配糖体[芳香族化合物(ポリフェノール)配糖体;化合物20、21と記載]が主要産物として含まれていることを確認した。
カラム:Develosil C30-UG, 5 μm (NOMURA CHEMICAL) 20 mm×250 mm
流速:8.0 mL/min
溶媒:17% (V/V) CH
3CN (acetonitrile) + 0.1% (V/V)TFA (trifluoroacetic acid)
検出:DAD (diode array detecter)(200~600 nm)
他のフリージア黄花品種のポルトパサート、ブールバールについても、花の50% MeOH抽出物について、同様の条件でHPLC分析を実施したところ、カヤックと同じ2種類のフラボノイド配糖体(化合物20、21)が含まれていることが確認できた。
【実施例11】
【0056】
(フリージア ‘カヤック’ に含まれる芳香族化合物配糖体の単離精製)
実施例10で調製したフリージア‘カヤック’ の50% MeOH抽出液をいったん濃縮乾固(2.63 g)した後、17% (V/V) CH
3CN 15 mLを加えて超音波刺激を行った。その後溶液を7000 rpmで10分遠心分離処理し、上澄に溶解している2種類のフラボノイド配糖体を分離するため、実施例10と同様の条件でHPLCを行い、50 μLずつ分取した。
その結果、主要なフラボノイド配糖体として化合物20、21を分取することができた(保持時間:化合物20, 9.7 min; 化合物21, 12.2 min)。得られた分取溶出液を濃縮乾固し、純品の化合物20, 213.6 mg; 化合物21, 294.8 mgを得た。
なお、この2つの化合物20、21以外にも、フラボノイド配糖体が複数存在していた(
図13)。他のフリージア黄花品種のポルトパサート、ブールバールについても、同様であった。
【実施例12】
【0057】
(化合物20の構造決定)
実施例11で得られた純品の化合物20を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS(-)を測定した。その結果、(M-H)
-イオンピークがm/z 963.20260に観測され、化合物20の分子式はC
42H
44O
26と決定された{calcd for 963.204265(C
42H
43O
26, Δ1.73 ppm)}。
次に、10 mgの化合物20をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物20の
1H NMRスペクトルを
図14に、
13C NMRスペクトルを
図15に示す。
次に、化合物20の2D NMRスペクトル(
1H-
1H DQF COSY, HMQC, HMBC, NOESY, TOCSY,J-resolved HSQC)を測定解析して化合物20の構造を解析した。
その結果、化合物20の構造を式(10)に示すように決定することができた。
化合物20は、一般式(B)においては、R
1はグルクロン酸残基(glucuronic acid-)、R
2はグルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)であり、新規物質であることが確認された。
【実施例13】
【0058】
(化合物21の構造決定)
実施例11で得られた純品の化合物21を0.1 mg/mLになるようにMeOHに溶解し、HRESI-MS (-)を測定した。その結果、(M-H)
-イオンピークがm/z 947.20790に観測され、化合物2の分子式はC
42H
44O
25と決定された{calcd for 947.20935(C
42H
43O
25, Δ 1.53 ppm)}。
次に、10 mgの化合物21をDMSO-d
6 1 mLに溶解して各種NMRスペクトルを測定した。化合物21の
1H NMRスペクトルを
図16に、
13C NMRスペクトルを
図17に示す。
次に、化合物21の2D NMRスペクトル(
1H-
1H DQF COSY, HMQC, HMBC,NOESY, TOCSY, J-resolved HSQC)を測定解析して化合物21の構造を解析した。
その結果、化合物21の構造を式(11)に示すように決定することができた。
化合物21は、一般式(A)においては、R
1はグルクロン酸残基(glucuronic acid-)、R
2はグルコース残基-グルコース残基(glucose-glucose-)、R
3はHであり、新規物質であることが確認された。
【実施例14】
【0059】
(その他の芳香族化合物配糖体)
化合物20、21は、分子内にグルクロン酸を含む芳香族化合物配糖体であることが明らかとなったが、分子内にグルクロン酸を含む例示的な芳香族化合物配糖体は、一般式(A)及び一般式(B)において、以下の通りである。
化合物20(一般式(B):式(10)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-グルコース残基
化合物21(一般式(A):式(11)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-グルコース残基、R3:H
化合物22(一般式(B)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-ラムノース残基
化合物23(一般式(A)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-ラムノース残基、R3:H
化合物24(一般式(B)) R1:グルクロン酸残基、R2:ラムノース残基-グルコース残基
化合物25(一般式(A)) R1:グルクロン酸残基、R2:ラムノース残基-グルコース残基、R3:H
化合物26(一般式(A)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-グルコース残基、R3:OH
化合物27(一般式(A)) R1:グルクロン酸残基、R2:グルコース残基-ラムノース残基、R3:OH
化合物28(一般式(A)) R1:グルクロン酸残基、R2:ラムノース残基-グルコース残基、R3:OH
【実施例15】
【0060】
(ラット脳脂質過酸化抑制試験)
化合物20、化合物21の抗酸化活性について、実施例9と同じ方法で、ラット脳脂質過酸化抑制活性を調べた。結果を以下表2に示す。両化合物20、21ともに、脂質過酸化抑制活性が認められた。さらに、化合物20の脂質過酸化抑制活性は、化合物21の脂質過酸化抑制活性よりも強かった。
【0061】
【実施例16】
【0062】
(マウス前駆脂肪細胞3T3-L1の分化誘導試験)
マウス前駆脂肪細胞(preadipocyte)3T3-L1は、条件が整えば、小型の脂肪細胞(adipocyte)に分化誘導されるので、脂質代謝改善活性や抗糖尿病活性のスクリーニングに用いられる。なお、分化した脂肪細胞は、オイルレッド(Oil Red O)で染色可能な脂肪滴を産生する。PPARはPeroxisome Proliferator-Activated Receptor(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体)の略で、核内受容体スーパーファミリーの1つである。PPARγは脂肪細胞の分化に重要な関りを持っており、PPARγが活性化すると、前駆脂肪細胞から小型の脂肪細胞への分化を促進する作用を示す。また加えて、大型脂肪細胞のアポトーシスを促進させる働きもある。すなわち、PPARγを活性化する化合物(PPARγ agonist)は、TNF-αや遊離脂肪酸の産生が高く糖の取り込みが低い、インスリン抵抗性を引き起こす肥大化した大型脂肪細胞にアポトーシスを誘導し、インスリン抵抗性を改善する。PPARγ agonistはさらに、TNF-αや遊離脂肪酸の産生が低く血液中のグルコースの取り込みを行う小型脂肪細胞への分化を誘導し、血糖値を下げることにより抗糖尿病活性を発揮する。実際PPARγ agonistであるチアゾリジン誘導体(rosiglitazone;thiazolidine)は、糖尿病の治療薬に用いられている。
すなわち、小型脂肪細胞への強い分化促進作用を有する化合物は、脂質代謝改善及び糖尿病改善・予防効果を有する。
本実施例は、マウス3T3-L1前駆脂肪細胞を用いて、芳香族化合物配糖体に小型脂肪細胞への分化促進作用が認められるか否かについて確認(3T3-L1 adipogenic differentiation bioassay)をおこなった。
試験する芳香族化合物配糖体として、化合物3、化合物4、化合物20及び化合物21の4化合物を代表として選んだ。
3T3-L1細胞株はJapanese Collection of Research Bioresources Cell Bank(JCRB, Osaka, Japan)から購入した。3T3-L1細胞は、抗生物質(62.5 μg/ml penicillin and 100 μg/ml streptomycin)を加えたDMEM培地[10% fetal calf serum (FCS, Sigma Aldrich, St Lous, USA) で継代培養した。分化促進活性を有するかの試験にあたっては、コラーゲンコートした12well プレートに10,000 cells/well (1 mL)になるようにまきこみ、コンフルレントになるまで2日間培養した。その後培地を、分化を誘導する培地 (10 μg/ml insulin in DMEM containing 10% FBS and antibiotics)+様々な濃度の試験化合物[ポシコンのチアゾリジン誘導体(rosiglitazone;thiazolidine)と4種の芳香族化合物配糖体;DMSOに溶解し、培地 (1 mL)あたり溶液1 μL or 0.1 μLとなるように添加]を加えて6日間培養を継続した。
6日後に分化した細胞の割合を、オイルレッド(Oil Red O)染色(3T3細胞が分化して脂肪細胞になると、その割合に比例して細胞内に油脂が蓄積される。蓄積された油脂の量を、油脂に非常によく溶解するオイルレッド(赤色物質)の量で評価する方法)により評価した。オイルレッド染色法では、培地を除いた各wellに10%(v/v)ホルマリン液を1 mL加えて1時間放置して細胞を固定した。その後ホルマリン液を除き、さらに各wellを水 1 mL (4回)と60% (v/v)イソプロパノール1 mL (1回)で洗浄したのち、オイルレッド溶液(イソプロパノール100 mLにオイルレッド0.5 gを溶解させた溶液に蒸留水67 mLを加えてよく混和したものを0.45 μmフィルターでろ過したろ液)1 mLを加えて15 分染色した。その後染色液を除き、さらにPBS1 mLで4回洗浄した。その後、各wellにイソプロパノ―ル 1 mLを加えて細胞に取り込まれたオイルレッドを回収し、このイソプロパノ―ル溶液の500 nmの吸光度を測定することにより細胞に取り込まれたオイルレッドの量(=分化した細胞中の油脂の量)を測定して、試験化合物無しの場合と比較することにより分化の促進程度を評価した(
図18)。
その結果、試験した4種の芳香族化合物配糖体、すなわち、化合物3、化合物4、化合物20及び化合物21はすべて、脂肪細胞への強い分化誘導活性を持つことが明らかとなった。すなわち、化合物3、化合物4、化合物20及び化合物21は、脂質代謝改善及び糖尿病予防・改善効果を有する。
【産業上の利用可能性】
【0063】
新規芳香族化合物配糖体並びに該配糖体を含む抗酸化組成物、抗酸化食品組成物、脂質代謝改善・予防組成物及び糖尿病改善・予防組成物を提供する。
【要約】
【課題】食品・医薬品産業上重要で、ヒトの健康への有用性が期待される新規の有用物質をフリージア等の植物から抽出することである。
【解決手段】‘石川f2号’等の黄色花弁を持つフリージアの花で、新規物質である芳香族化合物配糖体が生産されることを見出し、さらに、該配糖体は抗酸化作用、脂質代謝改善作用及び糖尿病改善作用を有することを確認して、本課題を解決するに至った。
【選択図】なし