IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7325161芳香族ポリアミド繊維および芳香族ポリアミド繊維パルプならびにその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド繊維および芳香族ポリアミド繊維パルプならびにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/55 20060101AFI20230804BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20230804BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20230804BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
D06M15/55
D06M15/53
D21H13/26
D06M101:36
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019040615
(22)【出願日】2019-03-06
(65)【公開番号】P2020143395
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】高谷 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】横川 重宏
(72)【発明者】
【氏名】鵜篭 敏臣
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108071018(CN,A)
【文献】国際公開第2009/081528(WO,A1)
【文献】特開2018-062730(JP,A)
【文献】特開2013-057146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D21B1/00-1/38、D21C1/00-11/14、D21D1/00-99/00、
D21F1/00-13/12、D21G1/00-9/00、D21H11/00-27/42、
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤を付着させた芳香族ポリアミド繊維であって、
前記油剤が、硬化性エポキシ化合物と、相溶化剤として一般式(I)で表されるポリエーテル化合物のみを含み、前記2成分の比率が、硬化性エポキシ化合物/ポリエーテル化合物=10/90~90/10(重量比)であることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維。

(化1)
-O-[(E-O)m(A-O)n]-R (I)

(式中、RおよびRは、水素原子または同一もしくは異なっていてもよい炭素原子数1~5のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。Eは炭素数2のアルキレン基、Aは炭素数3または4のアルキレン基を示す。mおよびnは、それぞれ、オキシエチレン基、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す6以上の整数であり、m+n=12~660の整数である。なお、(E-O)と(A-O)はランダム付加でもブロック付加でもよく、(E-O)と(A-O)の付加順序は問わない。)
【請求項2】
硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種以上である、請求項1に記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
芳香族ポリアミド繊維の水分量が15重量%以上であり、該芳香族ポリアミド繊維に付着させた油剤の量が、芳香族ポリアミド繊維重量(水分率を0%に換算したときの重量)に対して0.1~10重量%である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
一般式(I)で示されるポリエーテル化合物が、RおよびRが水素原子であり、オキシエチレン(E-O)およびオキシアルキレン(A-O)が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン型またはポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン型のブロック型を構成している、請求項1~3のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
ポリオキシエチレン(E-O)とポリオキシアルキレン(A-O)の重量比[(E-O/A-O)比]が、20/80~80/20である、請求項1~4のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項6】
芳香族ポリアミドが、ポリパラフェニレンテレフタルアミドである、請求項1~5のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維で形成されており、フィブリル化したパルプ状であることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維パルプ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とする芳香族ポリアミド繊維パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド繊維および芳香族ポリアミド繊維パルプならびに該パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミド繊維パルプは、芳香族ポリアミド繊維をフィブリル化した約1~3mm長さの粒子であり、市販のTwaron(商品名;テイジンアラミドBV社製)、Kevlar(商品名;Du Pont社製)などが知られている。
【0003】
芳香族ポリアミド繊維パルプの主要な用途は、当該パルプを水中に分散させた後に抄紙し、乾燥した紙にフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱・加圧成形することで製造される摩擦材や絶縁材である。例えば、自動車用自動変速機の湿式多板クラッチでは、摩擦材中の気孔部に保持された潤滑油の浸み出しによって潤滑特性が発揮されるため、表面層に高度にフィブリル化したパルプが存在することで、良好な摩擦特性が発揮される。そして摩擦材においても、自動車用エンジンの高回転、高出力化傾向に合わせて、強度や耐熱性、耐久性の点で更なる改善が求められている。
【0004】
ところで、芳香族ポリアミド繊維パルプの主たる製法は、芳香族ポリアミド重合体成形物(繊維またはフィルム)を機械的にフィブリル化する方法(以下、機械加工法という。)、あるいは、芳香族ポリアミド重合体溶液を高速攪拌している沈澱剤(N-メチル-2-ピロリドン)中へ導入する方法(以下、沈澱法という。)である。しかし、沈澱法では沈澱剤を使用するので、工業的製法としては経済的に不利益なものとなる。
【0005】
機械加工法も2通りあり、乾燥した連続繊維を短繊維に切断し該短繊維をフィブリル化する方法(例えば、特許文献1)と、乾燥した繊維ではなくポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAという。)溶媒溶液を紡糸して得られる湿潤状態の糸を用いる方法(例えば、特許文献2~5)がある。
【0006】
特許文献1には、紡糸、乾燥してクラックが入った長繊維を製造し、該長繊維を切断した短繊維に機械的な剪断力を加え、フィブリル化する方法が開示されているが、この方式で製造したパルプは、フェノール樹脂などの浸透・含浸性が劣るため摩擦材としたときの強度面で課題がある。
【0007】
一方、特許文献2には、高度にフィブリル化したパルプ粒子(長さ約0.5~3mm)を得るため、湿潤状態の糸(含水率5~200重量%)を爆砕する方法;特許文献3には、湿潤状態の糸(含水率50重量%以上)に、発泡剤(アゾジカルボンアミド)を含浸させた後、発泡剤の分解温度以上の温度に加熱し、繊維内部からの破壊力によりフィブリル化する方法;特許文献4~5には、高度にフィブリル化したPPTAパルプを得るため、湿潤状態(含水率は不明)のまま切断した短繊維を水に分散させた分散液を、リファイナーなどを使用し高剪断力で機械的にフィブリル化する方法;が開示されている。しかし、これらのPPTAパルプは、フェノール樹脂などの浸透・含浸性および接着性が劣るため、性能面で課題がある。
【0008】
一方、特許文献6~7には、水系エポキシ樹脂エマルジョン中にPPTAパルプを分散させ、次いでろ別、脱水することにより、エポキシ樹脂により表面処理されたPPTAを製造することが開示されているが、パルプを抄紙する際に表面処理したエポキシ樹脂が水中に溶出し、フェノール樹脂などの浸透・含浸性が劣るため摩擦材としたときの強度面で課題があり、抄紙排水のCOD値も高くなるため、環境面でも課題がある。
【0009】
また、硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させたPPTA繊維複合体を熱処理した繊維(水分率10重量%以下)を機械加工によりフィブリル化する方法では、含浸させたエポキシ化合物が熱処理によって硬化した後にフィブリル化するため、フェノール樹脂などを均一に浸透・含浸させることが難しく、摩擦材としたときの強度面に課題がある。熱処理をするので、工業的製法としては経済的に不利益なものとなる。
【0010】
さらに、特許文献8には、水分量15重量%以上のPPTA繊維に硬化性エポキシ化合物を付与した繊維複合体を機械加工によりフィブリル化したパルプは、フェノール樹脂などの浸透・含浸性が良好で、パルプ強化樹脂の引張強さ、曲げ強さなどの特性に優れていることが開示されている。しかし、フィブリル化する際に発泡しやすく、製造面での取扱性に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭63-190087号公報
【文献】特開昭63-135515号公報
【文献】特開昭63-249716号公報
【文献】特開平6-41298号公報
【文献】特開平8-337920号公報
【文献】特開平6-166984号公報
【文献】特開平7-243175号公報
【文献】特開2014-189926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、環境にやさしくパルプ製造工程での取扱性に優れると共に、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の浸透・含浸性および接着性が良好で、強度および耐久性に優れる摩擦材などを得ることが可能な、芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
【0014】
(1)油剤を付着させた芳香族ポリアミド繊維であって、
前記油剤が、硬化性エポキシ化合物と、相溶化剤として一般式(I)で表されるポリエーテル化合物のみを含み、前記2成分の比率が、硬化性エポキシ化合物/ポリエーテル化合物=10/90~90/10(重量比)であることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維。

(化1)
-O-[(E-O)m(A-O)n]-R (I)

(式中、RおよびRは、水素原子または同一もしくは異なっていてもよい炭素原子数1~5のアルキル基もしくはアルケニル基を示す。Eは炭素数2のアルキレン基、Aは炭素数3または4のアルキレン基を示す。mおよびnは、それぞれ、オキシエチレン基、オキシアルキレン基の平均付加モル数を表す6以上の整数であり、m+n=12~660の整数である。なお、(E-O)と(A-O)はランダム付加でもブロック付加でもよく、(E-O)と(A-O)の付加順序は問わない。)
(2)硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種以上である、前記(1)に記載の芳香族ポリアミド繊維。
(3)芳香族ポリアミド繊維の水分量が15重量%以上であり、該芳香族ポリアミド繊維に付着させた油剤の量が、芳香族ポリアミド繊維重量(水分率を0%に換算したときの重量)に対して0.1~10重量%である、前記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミド繊維。
(4)一般式(I)で示されるポリエーテル化合物が、RおよびRが水素原子であり、オキシエチレン(E-O)およびオキシアルキレン(A-O)が、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン型またはポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン型のブロック型を構成している、前記(1)~(3)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
(5)ポリオキシエチレン(E-O)とポリオキシアルキレン(A-O)の重量比[(E-O/A-O)比]が、20/80~80/20である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
(6)芳香族ポリアミドが、ポリパラフェニレンテレフタルアミドである、前記(1)~(5)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維で形成されており、フィブリル化したパルプ状であることを特徴とする芳香族ポリアミド繊維パルプ。
(8)前記(1)~(6)のいずれかに記載の芳香族ポリアミド繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とする芳香族ポリアミド繊維パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤として高分子量ポリエーテル化合物を含む油剤が付与されているため、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂との浸透・含浸性および接着性に優れると共に、パルプ製造時の発泡が抑制されることでパルプの製造効率が向上する。得られたパルプは、水分散性が良く、抄紙性に優れている。
また、パルプ抄造物に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを硬化させたプレートは、耐熱性、引張強さ、曲げ特性に優れているため、車両や産業用機械のクラッチ板やブレーキ板に好適な摩擦材となる。該摩擦材は長寿命、大クラッチ容量であるため、自動車用エンジンの高回転・高出力化に対応可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の芳香族ポリアミド繊維について詳細に説明する。
【0017】
本発明において芳香族ポリアミド繊維に付与される油剤は、硬化性エポキシ化合物と、相溶化剤として一般式(I)で表わされるポリエーテル化合物とを、必須成分として含有する。硬化性エポキシ化合物とポリエーテル化合物の比率は、硬化性エポキシ化合物/ポリエーテル化合物=10/90~90/10(重量比)である。好ましくは20/80~85/15であり、より好ましくは30/70~80/20である。硬化性エポキシ化合物の比率が少な過ぎる場合は、芳香族ポリアミド繊維から製造したパルプに対するフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の浸透・含浸性が低下するため、摩擦材としたときに強度が低下するおそれがある。一方、硬化性エポキシ化合物の比率が多過ぎる場合は、ポリエーテル化合物の比率が減少することにより、硬化性エポキシ化合物が水中でエマルジョン化し、芳香族ポリアミド繊維に浸透・含浸し難くなることで、パルプのフェノール樹脂などとの接着性が低下し、結果として、摩擦材の強度低下に繋がるおそれがある。
【0018】
硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物、芳香環を有するエポキシ化合物のいずれも使用でき、これらを併用することもできる。なかでも、芳香族ポリアミドに対する浸透・含浸性に優れる点より、脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
【0019】
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの3価以上の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または、2種以上の混合物が好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの化合物の中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0020】
芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または、2種以上の混合物が好ましい。例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]などのグリシジルエーテル化物が挙げられる。これらの中でも、常温で液状の、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化物が特に好ましい。
【0021】
必要に応じて、エポキシ化合物と共に硬化剤を用いることができる。硬化剤としては、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミンなどが挙げられる。
【0022】
相溶化剤としては、下記一般式(I)で表されるポリエーテル化合物が用いられる。相溶化剤は、水中で硬化性エポキシ化合物と相互に溶解することが好ましい。また、相溶化剤は、水中で水不溶性ないし水難溶性の化合物とも相互に溶解することがより好ましい。

(化2)
-O-[(E-O)m(A-O)n]-R (I)
【0023】
上記一般式(I)において、RおよびRは、水素原子、または、炭素原子数1~5好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基またはアルケニル基を示す。RとRは同一でも異なっていてもよい。好ましくは、R およびRは水素原子である。
また、(E-O)は炭素原子数2のオキシエチレン基、(A-O)は炭素数3または4、好ましくは炭素原子数3のオキシアルキレン基を示す。
mはオキシエチレン基(E-O)、nはオキシアルキレン基(A-O)の平均付加モル数を表す6以上の整数であり、m+n=12~660の整数である。mおよびnは、それぞれ、好ましくは10~200、より好ましくは12~100の整数である。なお、オキシエチレン基(E-O)とオキシアルキレン基(A-O)はランダム付加でもブロック付加でもよく、(E-O)と(A-O)の付加順序は問わない。また、(A-O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。
ポリエーテル化合物の重量平均分子量は、1,000以上、30,000以下が好ましく、より好ましくは1,000以上、20,000以下である。
【0024】
一般式(I)で示されるポリエーテル化合物の具体例としては、ポリエチレングリコールにプロピレンオキシドを付加させたもの、ポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加させたもの、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダムまたはブロック共重合体、これらの化合物の末端を炭素数1~5の飽和もしくは不飽和アルコールで封鎖した末端アルキルエーテル化物もしくは末端アルケニルエーテル化物、炭素数1~5のアルコールにエチレンオキシドとプロピレンオキシドをランダム付加またはブロック付加させたものなどを挙げることができる。これらのポリエーテル化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
これらの化合物のなかでも、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック付加体、該ブロック付加体の片末端アルキル(炭素数1~5)エーテル化物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン型またはポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン型のポリエーテル化合物など、エチレンオキシドとプロピレンオキシドがブロック付加したポリエーテル化合物が好ましい。
【0025】
また、一般式(I)で示されるポリエーテル化合物において、ポリオキシエチレン(E-O)とポリオキシアルキレン(A-O)の重量比[(E-O/A-O)比]は、10/90~90/10であることが好ましい。オキシエチレン基の比率が高くなることにより水に対する溶解性が向上するが、気泡力が高くなることで、パルプ化製造時に発泡し易くなる傾向がある。一方、オキシアルキレン基の比率が高くなることにより低泡性にはなるが、水に対する溶解性が低下する。水に対する溶解性と発泡性とのバランスを考慮すると、(E-O/A-O)比は、20/80~80/20であることがより好ましい。
【0026】
油剤には、硬化性エポキシ化合物およびポリエーテル化合物以外に、その他の成分として、本発明の効果を阻害しない範囲で、油剤、非イオン界面活性剤などの浸透剤、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤などの平滑剤、オキサゾリンや酸無水物などの樹脂改良剤、シラン系やイソシアネート系などのカップリング剤などが含有されていてもよい。
【0027】
硬化性エポキシ化合物(硬化剤を含む)および相溶化剤を含む油剤の芳香族ポリアミド繊維への付着量は、これらの合計量として、芳香族ポリアミド繊維重量(水分率を0%に換算したときの重量)に対して、好ましくは0.1~10.0重量%、より好ましくは0.2~4.0重量%、さらに好ましくは0.2~3.5重量%である。ここで、「付着量」は、芳香族ポリアミド繊維の水分率を0%に換算したときの繊維重量に対する量を言い、香族ポリアミド繊維の油剤付与前と油剤付与後の重量差として求められる。なお、「付着量」は、芳香族ポリアミド繊維表面への付着量と、芳香族ポリアミド繊維骨格内への含浸量との合計値である。
【0028】
硬化性エポキシ化合物および相溶化剤を芳香族ポリアミド繊維に付与する方法は、特に限定されるものではなく、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法など公知の方法でよい。硬化性エポキシ化合物、硬化剤および相溶化剤を付与する順序は特に限定されるものではなく、段階的付与でも同時付与でもよいが、段階的付与では硬化性エポキシ化合物、相溶化剤の順に付与するのが工程面および性能面で好ましい。
【0029】
硬化性エポキシ化合物などを繊維に付着させた後、芳香族ポリアミド繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物をより浸透させるため、機械加工するまでの間に、芳香族ポリアミド繊維複合体を室温雰囲気下に保管して、エージング処理を行ってもよい。ただし、エージング処理を行う際、機械加工によるフィブリル化を効率的に行うために芳香族ポリアミド繊維複合体の表面上の水分が必要以上に蒸発しないよう、処置を施す必要がある。芳香族ポリアミド繊維複合体の水分量を低下させない方法としては特に限定されるものではないが、巻き上げられたPPTA繊維複合体を個装袋にて包装する、調湿された低温倉庫に保管する、霧状のミストを噴霧するなどの方法が挙げられる。これらの方法のうち、少なくとも一つの方法、あるいは複数の方法を用いても差し支えない。
【0030】
芳香族ポリアミド繊維には、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とがあるが、強度に優れている点よりパラ系アラミド繊維が好ましい。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等が挙げられる。これら芳香族ポリアミド繊維のなかでも、パルプ製造時のリファイニング工程でフィブリル化しやすい点で、PPTA繊維が好ましい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)は、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であり、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用することができる。かかる重合体および共重合体の数平均分子量は20,000~25,000の範囲が好ましい。
【0031】
代表的なPPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解した粘調な溶液を、紡糸口金からせん断速度25,000~50,000sec-1で吐出し、空気中に紡出した後、水中に紡糸し、水酸化ナトリウム水溶液で中和処理することにより製造される。この紡糸した繊維を100~150℃で乾燥することにより、水分率が15~200重量%に調整されたPPTA繊維が得られる。PPTA繊維の水分率が15重量%以上あれば、平衡水分率よりも高い水分を含有する乾燥前の状態であるため、結晶サイズが比較的小さくPPTA繊維結晶間の間隙が広いので、硬化性エポキシ化合物や相溶化剤を繊維骨格内に浸透・含浸させることが容易となる。また、水分率が200重量%以下であれば、繊維の巻き出しや巻き取り操作も容易である。好ましい水分率は20~200重量%、さらに好ましい水分率は25~70重量%である。
【0032】
本発明において、パルプ製造用の芳香族ポリアミド繊維としては、水分率15~200重量%に調整されたPPTA繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物および必要に応じて硬化剤を浸透・含浸させてなる繊維が好ましく、前記PPTA繊維骨格内に、さらに、相溶化剤を浸透・含浸させてなるPPTA繊維でもよい。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミド繊維パルプは、繊維骨格内および/または繊維表面に、硬化性エポキシ化合物、さらには所定の相溶化剤を付着させた芳香族ポリアミド繊維、より好ましくは、水分率15~200重量%に調整されたPPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物などを浸透・含浸させたPPTA繊維複合体を用いる以外は、従来の機械加工法を適用して製造することができる。
【0034】
具体的には、上記芳香族ポリアミド繊維を1~50mmの長さに切断して短繊維とし、該短繊維を破砕、すりつぶし、衝撃あるいは叩解のような機械的剪断力を加えフィブリル化する。
【0035】
本発明の芳香族ポリアミド繊維パルプは、平均繊維長(重量加重平均)が約3mm以下の高度にフィブリル化したパルプであり、熱処理を施していないため、硬化性エポキシ化合物が未硬化の状態で含有される。硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させていない従来のアラミドパルプと比べて、同等もしくはそれ以上のろ水度を有しており、潤滑油や粉体の保持性能に優れるものである。
【0036】
また、本発明の芳香族ポリアミド繊維パルプは、原料となるPPTA繊維複合体が、水分率が平衡水分率よりも高い、すなわち繊維結晶間の間隙が広いPPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させたものであるため、機械加工により生成したフィブリルの深部にも硬化性エポキシ化合物が付着していることより、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などのマトリックス樹脂を均一に浸透・含浸させることができ、マトリックス樹脂に対する接着力が高いためマトリックス樹脂からの剥離や脱落が生じ難い。
【0037】
本発明のPPTA繊維複合体パルプは、パラアラミドパルプ紙、摩擦材、絶縁材の原料などとして有用である。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「重量%」及び「重量部」を示す。各物性などの評価方法は、次の方法に依拠した。
【0039】
[粘度]JIS Z 8803 「振動粘度計による粘度測定方法」に準拠し、温度25℃の状態で粘度を得た。
【0040】
[水分率]試料約5gの重量を測定し、300℃×20分間の熱処理を行い、25℃、65%RHで5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は、[(乾燥前重量-乾燥後重量)/(乾燥後重量)]×100 で得られるドライベース水分率である。
【0041】
[ろ水度]JIS P 8121-2号(パルプのカナダ標準ろ水度(Canadian Standard Freeness 又は CSF)により測定した。
[重量平均繊維長]Op Test Equipment (CANADA)社製 HiRes Fiber QualityAnalyzer により測定した。
【0042】
(実施例1)
PPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間熱処理をして、水分率35%のPPTA繊維(水分率0%換算のとき総繊度1,670dtex)を調製した。
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルを40部、相溶化剤として分子量が2,000であるポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)ブロック共重合体を60部含有する薬剤原液(油剤)を、PPTA繊維重量に対して1.1%浸透・含浸させた後、PPTA繊維をボビンに巻き取り、含水PPTA繊維複合体を製造した。薬剤原液をイオン交換水に重量比で50:50の割合で溶かしたときの状態を表1にまとめた。
得られた含水PPTA繊維複合体をロービングカッターで6mmに切断した。この含水PPTA繊維複合体短繊維200g(乾燥重量)を60kgのイオン交換水に分散させ、シングルディスクリファイナーを用い3,000rpmの条件でフィブリル化し、PPTA繊維複合体パルプを得た。このときの、PPTA繊維複合体をディスクリファイナーでフィブリル化させる際の発泡性を表1にまとめた。
【0043】
発泡性は、以下の基準で評価した。
○;パルプ製造時のリファイニング工程で泡が発生する
×;パルプ製造時のリファイニング工程で泡が発生しない
【0044】
(実施例2)
油剤中の硬化性エポキシ化合物をグリセロールポリグリシジルエーテルに変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た含水PPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でパルプを得た。このときの、油剤をイオン交換水に溶かしたときの状態と、パルプ製造時にPPTA繊維複合体をディスクリファイナーによりフィブリル化させる際の発泡性を表1にまとめた。
【0045】
(実施例3)
油剤中の硬化性エポキシ化合物の混合比率を80部、相溶化剤の混合比率を20部に変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た含水PPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でパルプを得た。このときの、油剤をイオン交換水に溶かしたときの状態と、パルプ製造時にPPTA繊維複合体をディスクリファイナーによりフィブリル化させる際の発泡性を表1にまとめた。
【0046】
(比較例1)
油剤中の相溶化剤の成分を脂肪酸エステル系化合物に変更した以外は、実施例1と同様の方法で得た含水PPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でパルプを得た。このときの、油剤をイオン交換水に溶かしたときの状態と、パルプ製造時にPPTA繊維複合体をディスクリファイナーによりフィブリル化させる際の発泡性を表1にまとめた。
【0047】
(比較例2)
油剤中の相溶化剤の成分をジエチレングリコールモノラウリルエーテルに変更し、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤の混合比率を変更した以外は、実施例1と同様の方法で含水PPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でパルプを得た。このときの、油剤をイオン交換水に溶かしたときの状態と、パルプ製造時にPPTA繊維複合体をディスクリファイナーによりフィブリル化させる際の発泡性を表1にまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果より、硬化性エポキシ化合物と、相溶化剤として分子量1,000~30,000のポリエーテル化合物を、10/90~80/20(重量比)の比率で混合した油剤を用いることにより、水に溶かしたときに乳化状態とならず、完全に溶解する。さらに該油剤をPPTA繊維に付与することにより、パルプを製造する際のろ水度と繊維長を保った上で、パルプ製造時の発泡を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の芳香族ポリアミド繊維複合体、およびそれを用いたパルプは、アラミド紙や摩擦材、絶縁材などに好適に用いることができる。