(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ロキソプロフェン配合皮膚用外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20230804BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20230804BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230804BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230804BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230804BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230804BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/06
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/22
A61P17/00
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2017086779
(22)【出願日】2017-04-26
【審査請求日】2020-01-31
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2016089579
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】崔 祥子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 由美
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】吉田 佳代子
【審判官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-27971(JP,A)
【文献】特開2015-83563(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191293(WO,A1)
【文献】特開2015-189758(JP,A)
【文献】特開2002-128701(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェン及びイソプロパノールを含有する皮膚外用剤であって、さらに、トコフェロール酢酸エステルを含有し、
総アルコールの配合量が製剤全体の60重量%以下であり、かつイソプロパノールの配合量が、製剤全体の50~60重量%であり、剤形が液剤またはゲル剤である皮膚外用剤。
【請求項2】
さらに、l-メントールを含有する、請求項1に記載の皮膚外用剤。
【請求項3】
鎮痛消炎用である、請求項1又は2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
剤形が液剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【請求項5】
剤形がゲル剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた鎮痛消炎作用を有するロキソプロフェンを含有する皮膚外用液剤に関する。より詳しくは、ロキソプロフェンに特定の医薬品添加物を含有させることによって、外観でみる製造直後透明性又は保存安定性を高めたロキソプロフェン含有皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピオン酸系非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(NSAID)であるロキソプロフェンは、他のNSAIDと同様にプロスタグランジン生合成の抑制作用に基づく解熱・鎮痛・消炎作用を有する。なお、ロキソプロフェンは経口投与後に胃粘膜刺激作用の弱い未変化体のまま消化管から吸収され、体内で活性体となるプロドラッグであるため、活性体よりも胃粘膜障害は少ないという特徴を有することでも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
近年、ロキソプロフェンは外用消炎鎮痛剤としてもパップ剤、テープ剤及びゲル剤が市販され、臨床に供されている(例えば、非特許文献2参照)。なお、ロキソプロフェンは、皮膚においてもケトン還元酵素によってトランス-OH体(活性体)に変換されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
イソプロパノール(イソプロピルアルコールとも言う)は、可溶化剤、基剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤等の用途で、外用剤に用いられる医薬品添加剤である(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
これまでに、ロキソプロフェンとエタノールを含有する外用固形剤では透明性が損なわれるが、エタノールの代わりにイソプロパノールを使用すると過酷条件下における外観でみる保存安定性が確保されたことが開示され、また、外用液剤においては何れの場合でも過酷条件下における外観でみる保存安定性に問題がなかったことも開示されている(特許文献2の表1~2参照)。なお、これらの製剤は、いずれも総量が70重量%もの1価低級アルコール乃至多価アルコールを含有する外用製剤である。
【0006】
しかし、上記特許文献2で開示されたような、70%ものアルコール類を含有する外用液剤では使用感に問題があり改善が望まれる。すなわち、総アルコールの含有量を低減した使用感が良好で、かつ使用時に想定される幅広い保存温度帯において外観でみる安定性に問題のないロキソプロフェンを含有する外用液剤の出現が切望されている。
【0007】
これまでに、ロキソプロフェンにエタノール及びプロピレングリコールを含有する経口液剤が市販されている(非特許文献4参照)が、ロキソプロフェンおよび1価の低級アルコールを含有する総アルコール濃度60重量%以下の外用液剤は知られておらず、かかる場合において、イソプロパノールが外観でみる製造直後透明性又は保存安定性にどのように影響するかについては全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-074873公報
【文献】特開2015-27971公報
【文献】特表2010-534624広報
【非特許文献】
【0009】
【文献】薬理と治療 Vol.16 No.2 1988 p.611-619
【文献】JAPIC 医療用医薬品集2013 丸善 2012
【文献】医薬品添加物辞典2016 薬事日報社 2016
【文献】ロキソプロフェンナトリウム内服液「日医工」添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ロキソプロフェン含有皮膚外用剤の外観でみる保存安定性をさらに高める成分を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ロキソプロフェンを含有する皮膚外用液剤において、皮膚刺激性の軽減や使用感の向上を目的として、1価低級アルコール又は多価アルコールの含有量を低下させると、外観でみる保存安定性が低下することを見出した。アルコール総量の低下による外観でみる保存安定性の低下を改善させるために、1価の低級アルコールとしてイソプロパノールを選択することにより、ロキソプロフェンナトリウムを含有する皮膚外用液剤の外観でみる保存安定性が顕著に改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ロキソプロフェン及びイソプロパノールを含有する皮膚外用剤であり、好適には
(2)イソプロパノールの配合量が、製剤全体の0.1~60重量%である、前記(1)に記載の皮膚外用剤、
(3)さらに、l-メントールを含有する、前記(1)又は(2)に記載の皮膚外用剤、
(4)さらに、トコフェロール酢酸エステルを含有する、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の皮膚外用剤
(5)鎮痛消炎用である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の皮膚外用剤、
(6)剤形が液剤である、前記(1)~(5)のいずれか1に記載の皮膚外用剤、
又は、
(7)剤形がゲル剤である、前記(1)~(5)のいずれか1に記載の皮膚外用剤、
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、ロキソプロフェンナトリウム及びイソプロパノールを含有する皮膚外用剤は、低皮膚刺激性で使用感にも優れ、かつ低温および高温条件下でも外観でみる保存安定性に優れるため、臨床上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「ロキソプロフェン」とは、ロキソプロフェンまたはその塩(含水塩を含む)であり、好適には、ロキソプロフェンナトリウムまたはロキソプロフェンナトリウム・2水和物であり、さらに好適には、ロキソプロフェンナトリウム・2水和物である。
【0015】
本発明のロキソプロフェンは、ロキソプロフェンナトリウム水和物として第16改正日本薬局方に掲載されている。
【0016】
本発明の外用剤組成物の具体的な剤形としては、例えば、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、貼付剤(テープ剤、パップ剤)、エアゾール剤等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方などに記載される通常の方法に従い、製造することができる
【0017】
また、本発明のイソプロパノール、l-メントール、及び、トコフェロール酢酸エステルは、医薬添加物辞典2016に収載されている。
【0018】
本発明の外用剤において含有される、ロキソプロフェンの重量%は通常、0.1~10%であり、好ましくは、0.5~5%である。これを1日1~数回塗布する。
【0019】
また、イソプロパノールの添加量は特に限定されないが、好ましくは、0.1~60%であり、より好ましくは、1~55%である。
【0020】
また、l-メントールの添加量は特に限定されないが、好適には0.01~10%であり、より好ましくは、0.1~7.5%である。
さらに、トコフェロール酢酸エステルの添加量は特に限定されないが、いずれも好適には0.01~5%であり、より好ましくは、0.01~1%である。
【0021】
上記外用剤において、例えば、経時的な含量安定性や使用感の更なる向上を目的として必要に応じ、各種抗酸化剤や清涼化剤等を添加することができる。また、上記外用剤に含有される成分は、湿潤剤として、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、濃グリセリン、dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液、及び、マクロゴール200等を、pH調整剤として、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン等を用いることができる。
【0022】
本発明の皮膚外用剤のpHは、上記に挙げられたpH調節剤を用いて調節することができ、pH5.0~6.9に調整するのが好ましい。
【0023】
以下に、実施例をあげて本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0024】
(製剤例1)液剤
【0025】
【0026】
【0027】
上記成分及び分量を取り、日本薬局方製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造した。
【0028】
(製剤例2)ゲル剤
【0029】
【0030】
【0031】
上記成分及び分量を取り、日本薬局方製剤総則「ゲル剤」の項に準じてゲル剤を製造した。
【0032】
(試験例)ロキソプロフェン含有皮膚外用剤の外観でみる保存安定性試験
(1)試験材料
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物は第一三共ケミカルファーマ(株)製のものを、イソプロパノールは小堺製薬(株)製のものを、l-メントールは鈴木薄荷(株)製のものを、トコフェロール酢酸エステルはエーザイフードケミカル(株)製のものを、無水エタノールは今津薬品工業(株)製のものを、プロピレングリコールは丸石製薬(株)製のものを、1,3-ブチレングリコールは(株)ダイセル製のものを、濃グリセリンは小堺製薬(株)製のものを、dl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液は味の素(株)製のものを、及び、マクロゴール200は三洋化成工業(株)製のものを、それぞれ使用した。
【0033】
(2)検体の調製
以下の表1~3に記載した成分を混合して溶解後、pH6.5になるよう塩酸で調整し、実施例1~10及び比較例1~10の液剤を得た。
【0034】
(3)試験方法
得られた各液剤を透明ガラスバイアルに分注し、密栓した。製造直後の外観を目視にて確認した後、それぞれを5℃、25℃相対湿度60%、50℃にて保存し、2週間後に外観を目視にて確認した。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
(4)試験結果
外観確認結果を表1~3に記載した。比較例1~3の結果より、1価の低級アルコールとしてエタノールを使用した液剤処方では、外観でみる製造直後透明性又は保存安定性が著しく低いことが判明した。
【0039】
一方、実施例1~3に示した1価の低級アルコールとして、エタノールの代わりにイソプロパノールを使用した液剤処方では、外観でみる製造直後透明性又は保存安定性が顕著に向上した。
【0040】
さらに、使用感の向上を目的として、比較例1および実施例1それぞれに、湿潤剤として、各種多価アルコールまたはdl-ピロリドンカルボン酸ナトリウム液を添加した処方(比較例4~8および実施例4~8)においても同様に、1価の低級アルコールとして、エタノールの代わりにイソプロパノールを使用することにより外観でみる製造直後透明性又は保存安定性が向上した。
【0041】
また、ロキソプロフェンナトリウム及び1価の低級アルコールを含有する処方にトコフェロール酢酸エステルを添加した処方(比較例9、10および実施例9、10)においても同様に、1価の低級アルコールとして、エタノールの代わりにイソプロパノールを使用することにより外観でみる製造直後透明性又は保存安定性が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の、ロキソプロフェンナトリウム及びイソプロパノールを含有する皮膚外用剤は、皮膚刺激性が低く、使用感にも優れ、かつ使用時に想定される幅広い保存温度帯において外観でみる保存安定性に優れるため、極めて有用である。