(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】金属溶融及び溶解状態確認システム
(51)【国際特許分類】
F27D 21/00 20060101AFI20230804BHJP
F27D 21/02 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
F27D21/00 A
F27D21/02
(21)【出願番号】P 2019044233
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】391017540
【氏名又は名称】東芝ITコントロールシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 裕史
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 崇行
(72)【発明者】
【氏名】守田 健
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 法仁
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩司
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-295822(JP,A)
【文献】特開平06-229906(JP,A)
【文献】特開2007-077503(JP,A)
【文献】特開2010-236743(JP,A)
【文献】特表2018-508730(JP,A)
【文献】特開2012-167868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0245851(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00-99/00
F27B 1/00-21/14
C22B 1/00-61/00
C22C 1/00- 1/12
G01N 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉内の金属の溶融及び溶解状態を確認する金属溶融及び溶解状態確認システムであって、
前記溶融炉内に投入された前記金属に差し込むための棒体と、
前記金属に差し込まれた状態で、前記棒体を動かすための攪拌駆動部と、
前記金属の攪拌に応じて前記棒体に生じるトルクを検出するためのトルクセンサと、
を備える金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項2】
前記棒体を前記溶融炉の内外に昇降させる移動装置を備える、
請求項1記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項3】
高温物質を撮像可能なカメラと、
前記棒体を前記溶融炉の内外に昇降させる移動装置と、
を更に備え、
前記移動装置は、前記棒体を前記溶融炉に差し込んだ後、前記棒体を前記溶融炉から引き上げ、
前記カメラは、前記溶融炉から前記棒体が引き上げられた後、前記棒体に付着する前記金属を撮像する、
請求項1記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項4】
放射温度計と、
前記棒体を前記溶融炉の内外に昇降させる移動装置と、
を更に備え、
前記移動装置は、前記棒体を前記溶融炉に差し込んだ後、前記棒体を前記溶融炉から引き上げ、
前記放射温度計は、前記溶融炉から前記棒体が引き上げられた後、前記棒体に付着する前記金属の温度を測定する、
請求項1記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項5】
前記棒体を挟み込み可能なプライヤと、
前記プライヤの下方に配置される上面開口の箱体と、
前記棒体を前記溶融炉の内外に昇降させると共に、前記溶融炉から離れた位置に移動させる移動装置と、
を更に備え、
前記移動装置は、前記棒体を前記溶融炉に差し込んだ後、前記棒体を前記溶融炉から引き上げて、更に前記プライヤの配置位置へ前記棒体を移動させ、
前記プライヤは、前記棒体のうちの前記金属が付着した領域を挟み込み、
前記箱体は、前記プライヤの挟み込みによって剥げ落ちた前記金属を受け取る、
請求項1記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項6】
上部開口、有底及び分岐口を有し、当該分岐口にホースを介してガスクロマトグラフに接続される採取管と、
前記棒体を前記溶融炉の内外に昇降させると共に、前記溶融炉
から離れた位置に移動させる移動装置と、
を更に備え、
前記移動装置は、前記棒体を前記溶融炉に差し込んだ後、前記棒体を前記溶融炉から引き上げて、更に前記採取管に前記棒体を挿入する、
請求項1記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【請求項7】
前記棒体は、棒周面から突出するフィンを有する、
請求項1乃至6の何れかに記載の金属溶融及び溶解状態確認システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、溶融炉に投入された金属の溶融及び溶解状態を確認するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ベリリウム銅合金は、高強度及び高導電率を有するため、自動車部品、電気部品、又は電子部品の材料として多用されている。例えば、ベリリウム銅合金は、コネクタ、スイッチ、リレー及び電線等に使用されている。このベリリウム銅合金は、酸化ベリリウムを炭素等の還元剤とともに溶融炉に投入して精錬し、更にベリリウムと銅を溶融炉に投入して溶融及び溶解し、その後、鋳造、均質化処理、熱間加工、冷間加工、溶体化処理、時効熱処理、仕上げ冷間加工をこの順で経ることで製造される。
【0003】
ベリリウムの精錬工程及び合金の製造工程では、溶融炉にこれら金属材料を投入し、バーナーで加熱したり、電流を流してジュール発熱を利用したりして、投入した金属材料を溶融及び溶解する。典型的には、溶融炉の蓋を外し、または蓋に設けられた小口の投入口を解放し、作業者が手作業で金属材料を運搬及び投入している。また、ベリリウムの溶融状態は、作業者が手作業で棒体を溶融炉に差し入れ、棒体に付着したベリリウムを写真撮影することで、写真に基づく色や粘性の観点から見極められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベリリウムは毒性が強い。従って、ベリリウムの粉末やベリリウムが含まれる蒸気を吸引してしまうと、作業者に重大な健康被害が懸念される。また、溶融炉は例えば2200℃近辺まで加熱されており、作業者がやけどを負う危険性もある。そこで、作業員は防護服に着替えて溶融炉に近づく。そして、溶融炉近辺で作業できる時間は例えば15分等の短い時間に限定されていた。そのため、溶融及び溶解状態の確認効率は非常に悪いものがあった。
【0006】
溶融炉を用いた金属の溶融はベリリウム又は銅に限られず、各種金属の溶融のために用いられる。そして、ベリリウムが顕著ではあるが、他の金属の溶融工程においても、金属粉末や蒸気を吸引してしまうこと、また高温度に曝されることは健康上問題である。
【0007】
本実施形態は、上記課題を解決すべく、作業者の健康被害の虞を低下させ、且つ効率良く溶融及び溶解状態を確認できる金属溶融及び溶解状態確認システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本実施形態の金属溶融及び溶解状態確認システムは、溶融炉内の金属の溶融及び溶解状態を確認する金属溶融及び溶解状態確認システムであって、前記溶融炉内に投入される前記金属に差し込むための棒体と、前記金属に差し込まれた状態で、前記棒体を動かすための攪拌駆動部と、前記金属の攪拌に応じて前記棒体に生じるトルクを検出するためのトルクセンサと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】棒体を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【
図2】棒体の移動装置を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【
図3】カメラと放射温度計を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【
図4】プライヤと箱体を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【
図5】開蓋部と材料保持部を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【
図6】採取管を有する溶融及び溶解装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る溶融及び溶解装置1、及びこの溶融及び溶解装置1が備える金属溶融及び溶解状態確認システム3を図面に参照しつつ詳細に説明する。
図1に示す溶融及び溶解装置1は、金属材料の溶融及び溶解の程度を監視しつつ、金属材料を溶融及び溶解させる。この溶融及び溶解装置1は、溶融炉2と金属溶融及び溶解状態確認システム3とを備えている。溶融炉2は、金属材料が投入され、金属材料を加熱して溶融及び溶解させる。金属溶融及び溶解状態確認システム3は、溶融炉2内の金属材料を取り出すことなく、溶融炉2に封じたまま溶融及び溶解の程度を確認する。具体的には、金属溶融及び溶解状態確認システム3は、溶融炉2内の投入金属28を攪拌し、攪拌時に投入金属28から受ける抵抗に基づいて、投入金属28の粘度を確認する。
【0011】
溶融炉2に投入される金属材料は、特に限定されないが、溶融温度が高いために溶融炉2の間近に接近することが危険であり、また有毒な金属蒸気が発生し易く溶融炉2の間近に接近することが危険であるものが好適である。例えば、金属材料として、ベリリウムと銅の混合、べリリアとも呼ばれる酸化ベリリウム、又はベリリウム等が好適である。酸化ベリリウムは炭素等の還元剤とともに溶融炉2に投入され、溶融炉2内で還元されて金属ベリリウムとなる。金属ベリリウムは銅ナゲットを溶融して得た溶融銅に溶解し、これにより溶融合金が得られる。尚、溶融及び溶解の途中、溶融金属中に酸化ベリリウムが溶融している状態もある。
【0012】
溶融炉2による金属材料の加熱方式についても公知のものであれば特に限定されない。例えば溶融炉2は誘導電気炉であり、金属材料に2次電流を生じさせ、ジュール発熱を利用して溶融及び溶解させる。この溶融炉2は、炉内温度を上回る融点を有し、また炉内温度では内部の金属材料と反応し難い材料により成る。一例として、溶融炉2は、酸化ベリリウムを投入する場合にはタングステン製又はセラミック製である。
【0013】
溶融炉2は、上面開口及び有底の釜状の器であるルツボ21と、ルツボ21の開口を封止する大蓋22とを備える。ルツボ21と大蓋22との間には、ルツボ21からの伝熱を抑制する断熱材23が介在している。大蓋22は、金属材料の初回投入時に外される。
【0014】
大蓋22には、材料投入口24とツール挿入口25が貫設されている。材料投入口24とツール挿入口25は、大蓋22を貫き、ルツボ21の内部空間に接する内表面から、この内表面とは反対側の炉外である外表面へ大蓋22を貫き、炉内外を連通させている。材料投入口24は金属材料を追加投入する際、または一度取り出した金属材料を再投入する際に使用できる。ツール挿入口25は、金属溶融及び溶解状態確認システム3によって用いられる。
【0015】
尚、材料投入口24とツール挿入口25とは共通であってもよい。但し、金属蒸気の蒸散防止をより確実にするため、材料投入口24に比べてツール挿入口25は小径であることが望ましく、材料投入口24とツール挿入口25とは別々であることが望ましい。
【0016】
材料投入口24は、金属蒸気の飛散防止のためにキャップ26で封止される。キャップ26は、リング状の取っ手261を有する。キャップ26は、取っ手261に力を加えられて大蓋22から引き抜かれる。このキャップ26とルツボ21との接触点のうち、ルツボ21の内部空間と接触しない部分にも断熱材23を介在させておく。
【0017】
また、キャップ26及び後述の支持台32がルツボ21の内部空間と接触することを阻止し、高温にキャップ26及び支持台32を直接曝されないようにするために、ルツボ21の内部に炉内断熱材27を配置するようにしてもよい。炉内断熱材27は、溶融炉2内に配置され、断熱材23とは別の断熱材であり、炉内温度に直接曝される。この炉内断熱材27は、材料投入口24及びツール挿入口25を塞ぐように配置され、炉内温度を超える耐熱性を有する。例えば、炉内断熱材27は、材料投入口24及びツール挿入口25の内部、又は投入金属28より上の空間に配置される。
【0018】
金属溶融及び溶解状態確認システム3は棒体31を備えている。この棒体31は、投入金属28の深部に到達できる程度の長さを有する。棒体31は、ツール挿入口25を介して溶融炉2内の投入金属28に差し入れられ、攪拌動作を行う。攪拌動作は、規則的又は不規則な揺動、回転又はこれらの組み合わせである。
【0019】
棒体31は攪拌時に投入金属28から抵抗を受ける。投入金属28の溶融及び溶解過程では、まず投入金属28の粘度が高まっていくために抵抗が増していき、それから投入金属28が溶融及び溶解しきったときに粘度が急激に下がって抵抗が急激に落ち込む。金属溶融及び溶解状態確認システム3は、この抵抗の変遷を棒体31に生じるトルクの変遷に基づいて監視している。
【0020】
この棒体31には、周面から突き出す板状のフィン311が設けられていることが望ましい。フィン311によって棒体31が受ける抵抗力が明瞭化される。フィン311は、板面が棒体31の軸と平行になるように軸に沿って配置されていてもよいし、板面が棒体31の軸と斜交するように配置されていてもよい。また、フィン311は、一枚のみならず、複数枚設置されていてもよいし、複数枚のフィン311の向きや高さは多様であってもよい。
【0021】
棒体31は、ツール挿入口25の上端開口に設置された支持台32に設置される。支持台32は、ツール挿入口25と同径の栓部321と、栓部321よりも大径で円盤状の頭部322とにより構成される。栓部321がツール挿入口25に挿入され、頭部322の周囲が大蓋22に密着することで、支持台32が安定的に設置されるとともに、金属蒸気の炉外への飛散が抑制される。
【0022】
また、支持台32には、栓部321と頭部322を貫く大径孔部323が貫設されている。棒体31は、大径孔部323を通るように支持台32に固定される。但し、大径孔部323は、棒体31よりも大径であり、棒体31の動きを阻害しない。頭部322は、頭頂部が一段掘り下げられており、大径孔部323よりも更に大口径で円柱状の座面空間324が形成されている。一方、棒体31には、座面空間324と同径のフランジ312が半径方向に拡がるように設置されている。フランジ312を座面空間324に嵌め込むことにより、棒体31は、動作可能な状態で溶融炉2に差し込まれる。
【0023】
この棒体31を動作させ、また棒体31に生じるトルクを検出するために、金属溶融及び溶解状態確認システム3は攪拌駆動部33及びトルクセンサ34が備えられる。また、金属溶融及び溶解状態確認システム3は、攪拌駆動部33を制御するコントローラ35と、溶融及び溶解の程度を表示する監視装置36とを備えている。
【0024】
攪拌駆動部33は、棒体31を投入金属28内で動作させる。この攪拌駆動部33は、例えば、棒体31を軸回転させる回転モータである。攪拌駆動部33は、モータ軸と同軸になるように棒体31を軸支し、棒体31を軸回転させる。軸回転の場合、フィン311が投入金属28から受ける抵抗によって棒体31にトルクが発生する。
【0025】
棒体31の攪拌運動の態様は、投入金属28を攪拌できれば軸回転に限らない。例えば、攪拌駆動部33のモータ軸に対して、角度を付けて棒体31を接続する。このとき、棒体31は、モータ軸の先端を中心とした円錐を描くように円弧運動をする。また、攪拌駆動部33のモータ軸に対して、軸の位置をずらして、但し軸は平行に延びるようにして棒体31を接続する。このとき、棒体31には、モータ軸を軸とした円柱を描くように運動する。このような棒体31の各種攪拌運動の態様では、各種デカルト座標におけるX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向、ヨー、ピッチ及びロールのトルクもかかり得る。
【0026】
また、攪拌駆動部33は、ソレノイドモータ等の軸方向に進行及び退入するリニアモータとしてもよく、棒体31は軸方向に進退するように揺動し、軸に沿ったトルクが発生する。フィン311は、軸方向と直交する面を有するように配置したり、軸方向と斜交する面を有するように配置したりすればよい。
【0027】
トルクセンサ34は、棒体31にかかるトルクを検出する。即ち、トルクセンサ34は、攪拌駆動部33と棒体31との間に介在し、攪拌駆動部33と棒体31の位相差等の動作相違量を検出する。このトルクセンサ34はこの動作相違量をトルクに換算し、トルク値を含む信号を生成して監視装置36に出力する。棒体31にかかり得る方向のトルクを検出できるように、例えば6軸センサであることが望ましい。このトルクセンサ34は、回転式、非回転式、歪ゲージ式、磁歪式、静電容量方式等のように、公知の何れも用いることができる。
【0028】
コントローラ35は、攪拌駆動部33にパルス信号等の駆動信号を与えるドライバ回路である。監視装置36は、所謂コンピュータであり、トルクを視覚的に表示するようモニタ361を有する。この監視装置36は、トルクを数値表示し、またはトルクを時系列で並べてグラフ表示する。グラフ表示であると、投入金属28の粘度の変化過程を把握し易くなり、溶融及び溶解完了のタイミングを予測し易くなる。また、監視装置36は、急激に粘度が失われる直前の最大粘度に応じたトルクを予め記憶しておき、グラフに表示させてもよい。
【0029】
このような溶融及び溶解装置1では、大蓋22を開いて金属材料を投入し、大蓋22でルツボ21を閉じると、棒体31を投入金属28に到達するまでツール挿入口25から差し込み、棒体31を支持台32に設置する。そして、炉内の投入金属28に電流を流し、投入金属28を加熱する。コントローラ35は、少なくとも溶融及び溶解完了予定時刻前から間欠的又は連続的に攪拌駆動部33を駆動させ、棒体31を投入金属28内で動かして攪拌棒として機能させる。
【0030】
トルクセンサ34は、棒体31に発生するトルクを検出し、監視装置36に信号出力する。監視装置36は、トルクセンサ34が検出した結果を表示する。作業者は、溶融炉2から十分に離れた安全地域にて、監視装置36が表示するトルクを確認する。作業者は、このトルクの変化によって、投入金属28の溶融及び溶解の程度を確認できる。
【0031】
このように、棒体31は攪拌駆動部33によって駆動され、作業者が溶融炉2の間近で棒体31を手作業で動かすわけではない。また、棒体31に生じるトルクを検出するトルクセンサ34を有するので、作業者が棒体31を把持してトルクを感じ取るわけではない。即ち、作業者は溶融炉2の間近で溶融及び溶解状態を確認する必要がない。
【0032】
従って、作業者は高温に曝されることはなく、また金属蒸気を浴びることはなく、作業者の健康被害を阻止できる。また、粘度を機械的に得て溶融及び溶解状態を確認するので、作業者の勘に頼る必要はなく、金属の溶融及び溶解判定にバラツキがなくなるため、高品質の溶融金属を得ることができる。更に、作業者が防護服を着たり脱いだりする等の溶融及び溶解状態の確認作業に対する準備作業がないので、溶融及び溶解状態の確認作業が効率的になる。
【0033】
尚、棒体31は大蓋22に常設してもよいし、金属材料を投入して大蓋22を閉じた後に設置されてもよい。そして、棒体31は作業者によって設置されてもよいし、自動的に設置されてもよい。
図2は、棒体31を自動的に設置する金属溶融及び溶解状態確認システム3を示す模式図である。
【0034】
図2に示すように、溶融炉2上には、ツール挿入口25の直上を横切る横フレーム41が架設されている。横フレーム41には、ツール挿入口25に向けて延びる昇降用ボールネジ機構42が設置されている。昇降用ボールネジ機構42には、スライダ421が設置されており、このスライダ421は、棒体31、トルクセンサ34及び攪拌駆動部33を一列に積み重ねて一体的に構成されたツール37を固定するブラケットを兼ねる。昇降用ボールネジ機構42は、コントローラ35と信号線により接続され、下降を示す駆動信号を受けると、ツール37をツール挿入口25に向けて下降させ、上昇を示す駆動信号を受けると、ツール37をツール挿入口25から引き上げる。
【0035】
即ち、横フレーム41及び昇降用ボールネジ機構42は、棒体31を溶融炉2に対して昇降させる移動装置4の一例である。この移動装置4により、棒体31を投入金属28に挿入する作業も作業員を退避させた状態で実行できる。そのため、作業員が棒体31を設置する際に、金属材料の粉体が舞い上がり、作業員が粉体を吸引して健康被害を受ける事態を防止できる。
【0036】
ここで、金属材料の微小粒子も粒界が見えなくなるまで溶融及び溶解させる場合もある。粘度監視では、投入金属28の大方が溶融及び溶解していることは確認できるが、微小粒子の溶融及び溶解をより確実に確認するためには、更に作業者による目視や投入金属28の温度測定も併用するとよい。また、炭素による酸化ベリリウムの還元反応が進行中であり、未反応の炭素が残っている場合、溶融ベリリウム銅合金の温度が低下して固まると分相が起こり、金属と酸化物とが分離する。そのため、より確実に溶融及び溶解を確認するためには、投入金属28の一部を引き上げて固化させ、分相の有無を観察するようにしてもよい。
【0037】
即ち、
図3に示すように、金属溶融及び溶解状態確認システム3は、ツール37の移動装置4を備え、更にカメラ51及び放射温度計52を備えるようにしてもよい。カメラ51は、金属の融点以上を捉えることができるサーモグラフィカメラであることが望ましい。放射温度計52は、計測対象の物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定する。カメラ51及び放射温度計52は、ツール挿入口25の軸線上、且つ溶融炉2の上方の空間Sを視野に収めるように設置される。カメラ51及び放射温度計52は、信号線で監視装置36に接続されている。カメラ51が得た映像信号及び放射温度計52の計測信号は、監視装置36に出力され、モニタ361に表示される。
【0038】
図3に示すように、移動装置4は、トルクセンサ34が検出するトルクが急減を示した後、棒体31を引き抜く。即ち、監視装置36は、トルクの急減を検出する。例えばトルクの変化率を算出し、トルクの変化率が所定値以上であると、トルクの急減と判定する。そして、監視装置3は、トルクの急減を契機に、ツール37の引き上げ指示信号をコントローラ35に出力する。コントローラ35は、引き上げ信号を受信すると、棒体31が溶融炉2から脱するまで、移動装置4を駆動させる。
【0039】
尚、監視装置36には、タッチパネル、キーボード又はマウス等の操作部362を接続しておくようにしてもよい。そして、作業者がモニタ361でトルクの急減を認識して操作部362を操作すると、監視装置36は、この操作に応答して引き上げ指示信号を出力するようにしてもよい。
【0040】
棒体31を投入金属28内に差し込んでから、溶融炉2から引き抜くと、棒体31の周面には金属付着物313が付いている。金属付着物313は、投入金属28の金属材料を由来とする。棒体31は、金属付着物313が空間Sに入るまで引き上げられる。カメラ51は、金属付着物313を撮像し、また放射温度計52は、金属付着物313の温度を計測する。即ち、この時点で棒体31は、投入金属28内の金属採取棒として機能する。
【0041】
作業者は、監視装置36のモニタ361を通じて金属付着物313の状態を確認し、また金属付着物313の温度を確認する。具体的には、金属付着物313に大きな粒子が残存しているか、粉末の跡が残っていないか、金属材料とともに投入した還元剤が残っていないか確認する。また、金属付着物313の全てが融点以上の熱を発しているか確認する。これにより、金属付着物313を通じて投入金属28の細かい状態も把握することができる。従って、安全に金属材料の溶融及び溶解の程度を確認できる上に、更に高精度な溶融及び溶解状態の確認作業が行えることになり、高品質な溶融金属を製造できる。
【0042】
更なる高精度な溶融及び溶解状態の確認のためには、金属付着物313を採取して詳細な分析を行うようにしてもよい。即ち、この金属溶融及び溶解状態確認システム3に、棒体31に付着している金属付着物313を収集する構成を搭載させることもできる。
【0043】
図4に示すように、この金属溶融及び溶解状態確認システム3は、横フレーム41に平行移動用ボールネジ機構43を備えている。この平行移動用ボールネジ機構43は、横フレーム41に沿って延びている。この平行移動用ボールネジ機構43のスライダ431には、昇降用ボールネジ機構42が設置されている。平行移動用ボールネジ機構43によって、移動装置4は、棒体31の昇降に加えて、溶融炉2から離れた領域へ棒体31を平行移動可能となっている。また、この金属溶融及び溶解状態確認システム3は、溶融炉2から離れた位置に、プライヤ53と上面開口の箱体54を備えている。箱体54はプライヤ53の直下に配置されている。
【0044】
移動装置4は、棒体31を溶融炉2から引き上げた後、プライヤ53に棒体31を位置させる。棒体31を引き上げる高さは、プライヤ53と金属付着物313の位置が一致する高さである。プライヤ53は、くわえ部を狭めて棒体31を掴む。そうすると、金属付着物313がプライヤ53によって擦られて剥げ落ち、箱体54内に落ちる。箱体54は溶融炉2から離れているので、作業者は安全に箱体54を回収し、箱体54内の金属付着物313を詳細分析できる。例えば金属付着物313を酸処理し、酸処理結果から溶融及び溶解状態を判断できる。
【0045】
箱体54に落とされた分析済みの金属付着物313は、材料投入口24のキャップ26を外して再度溶融炉2内へ戻すようにしてもよい。このとき、作業者が溶融炉2へ近づかなくともよいように、移動装置4を利用できる。即ち、
図5に示すように、横フレーム41には、ツール37の他に、フック62が取り付けられた移動装置61、及び開閉可能なシャッタ73を底面に有する籠72が取り付けられた移動装置71が架設される。フック62と当該フック62が取り付けられた移動装置61は開蓋部6となり、籠72と当該籠72が取り付けられた移動装置71は材料保持部7となる。
【0046】
開蓋部6は、フック62をキャップ26の取っ手261に引っ掛けて上昇し、キャップ26を材料投入口24から引き抜く。そして、フック62を材料投入口24の直上から退避させて、材料保持部7を材料投入口24の直上へ位置させる。籠72には、箱体54に落とされた金属付着物313を入れておく。材料保持部7は、シャッタ73を動作させて底面を開口させる。そうすると、籠72内の金属付着物313が材料投入口24を通じて溶融炉2内へ落下する。金属付着物313を溶融炉2内へ戻した後は、材料保持部7を材料投入口24の直上から退避させ、開蓋部6を材料投入口24の直上に戻し、キャップ26を材料投入口24へ降ろす。
【0047】
尚、横フレーム41に架設された移動装置4は一機のみとし、ツール37、フック62及び籠72を付け替えるようにしてもよい。溶解工程は十分な時間があるため、移動装置4を溶融炉2から離れた位置に移動させ、作業員がツール37、フック62及び籠72を安全に付け替えることができる。
【0048】
詳細分析のうちの一部は、金属付着物313を剥がし採ることなく、棒体31に付着させたままで実行されてもよい。例えば、金属付着物313から蒸散する金属蒸気をクロマトグラフィーの原理を用いて分析する場合、金属付着物313を棒体31から剥がし採る必要はない。
【0049】
図6に示すように、この金属溶融及び溶解状態確認システム3は、溶融炉2から離れた位置に採取管55を備えている。採取管55は、上部開口及び有底であり、金属付着物313が付着されている領域を収容可能な口径及び長さを有する。胴部途中には分岐口551が開口している。分岐口551には、ホースが接続され、ホースは外部機器であるガスクロマトグラフ100に接続されている。
【0050】
移動装置4は、棒体31を溶融炉2から引き上げた後、採取管55の直上に棒体31を位置させ、棒体31を下降させて採取管55に挿入する。棒体31を採取管55に挿入させた状態で、金属付着物313からのガスがガスクロマトグラフ100に到るまで待機する。ガスクロマトグラフ100に金属蒸気が到達すると、ガスクロマトグラフィの原理を用いて溶融及び溶解状態を分析可能となる。
【0051】
以上のように、この金属溶融及び溶解状態確認システム3は、溶融炉2内の投入金属28に差し込むための棒体31を備えるようにした。そして、攪拌駆動部33を備えることにより、棒体31を投入金属28に差し込まれた状態で攪拌運動させ、トルクセンサ34を備えることにより、投入金属28の攪拌に応じて棒体31に生じるトルクを検出する。これにより、溶融炉2に封じたまま溶融及び溶解の程度を確認できるので、作業者の安全が確保される。
【0052】
棒体31に棒周面から突出するフィン311を取り付けておくことで、トルク変化が明瞭化し、溶融及び溶解の程度がより分かり易くなる。従って、溶融金属の品質を高めることができる。尚、フィン311を取り付け、またプライヤ53を備えるようにする場合、プライヤ53は、金属付着物313が存在し、且つフィン311と接触しない位置を掴み、金属付着物313を剥がし落とすようにすればよい。
【0053】
また、棒体31を溶融炉2へ向けて昇降させる移動装置4を備えることもできる。これにより、溶融及び溶解状態を確認する準備のために作業者が溶融炉2に行く必要がなくなる。従って、金属粉末を吸引してしまう事態を回避でき、溶融及び溶解状態を確認する準備段階でも作業者の安全を確保できる。
【0054】
また、サーモグラフィ等の高温物質を撮像可能なカメラ51と、棒体31を溶融炉2の内外に昇降させる移動装置4を更に備えるようにしてもよい。移動装置4は、棒体31を溶融炉2に差し込んだ後、棒体31を溶融炉2から引き上げる。カメラ51は、溶融炉2から棒体31が引き上げられた後、棒体31に付着する金属付着物313を撮像する。これにより、微小粒子のレベルで溶融及び溶解の程度を確認することができ、作業者の安全を確保しつつ、溶融金属の品質をより高めることができる。
【0055】
また、放射温度計52と、棒体31を溶融炉2の内外に昇降させる移動装置4とを更に備えるようにしてもよい。移動装置4は、棒体31を溶融炉2に差し込んだ後、棒体31を溶融炉2から引き上げる。放射温度計52は、溶融炉2から棒体31が引き上げられた後、棒体31に付着する金属付着物313の温度を測定する。これにより、投じた金属材料の全てが溶融温度に達しているかを確認することもでき、作業者の安全を確保しつつ、溶融金属の品質をより高めることができる。
【0056】
また、棒体31を挟み込み可能なプライヤ53と、プライヤ53の下方に配置される上面開口の箱体54と、棒体31を溶融炉2の内外に昇降させると共に、溶融炉2とは異なる位置、例えば当該昇降方向との直交方向に平行移動させる移動装置4とを更に備えるようにしてもよい。移動装置4は、棒体31を溶融炉2に差し込んだ後、棒体31を溶融炉2から引き上げて、更にプライヤ53の配置位置へ棒体31を移動させる。プライヤ53は、棒体31のうちの金属付着物313の領域を挟み込み、金属付着物313を剥がし落とす。箱体54は、プライヤ53の挟み込みによって剥げ落ちた金属付着物313を受け取る。この箱体54内の金属付着物313を更なる詳細分析工程に移すことで、溶融及び溶解状態をより正確に知ることができ、作業者の安全を確保しつつ、溶融金属の品質をより高めることができる。
【0057】
また、上部開口、有底及び分岐口551を有し、当該分岐口551にホースを介してガスクロマトグラフ100に接続される採取管55と、棒体31を溶融炉2の内外に昇降させると共に、溶融炉2とは異なる位置、例えば当該昇降方向との直交方向に平行移動させる移動装置4とを更に備えてもよい。移動装置4は、棒体31を溶融炉2に差し込んだ後、棒体31を溶融炉2から引き上げて、更に採取管55に棒体31を挿入する。これにより、溶融及び溶解状態をより正確に知ることができ、作業者の安全を確保しつつ、溶融金属の品質をより高めることができる。
【0058】
尚、カメラ51、放射温度計52、プライヤ53と箱体54の組、及びガスクロマトグラフ100に繋がる採取管55は、選択的であり、棒体31に生じるトルクによる溶融及び溶解状態の確認のほか、これらの1以上の手段を組み合わせて用いることができるものである。
【0059】
また、移動装置4にキャップ26を外すフックを取り付け、移動装置4に金属粉末を溶融炉2内へ投じる籠を取り付けてもよい。これにより、金属材料を溶融炉2に投じる工程においても、作業者は溶融炉2に近づく必要がなくなり、金属粉末を吸引してしまう事態を回避できる。
【0060】
その他、溶融及び溶解装置1の各種構成は、防塵及び耐熱対策が別途施されていてもよい。例えば、移動装置4やカメラ51にジャケットを装着し、移動装置4に冷却機能を設置するようにしてもよい。また、移動装置4、61及び71の移動機構としてボールネジ機構を用いて説明したが、これに限られるものではなく、リニアモータ機構やベルト駆動機構等、他の公知の駆動機構を用いることができる。
【0061】
以上、本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 溶融及び溶解装置
2 溶融炉
21 ルツボ
22 大蓋
23 断熱材
24 材料投入口
25 ツール挿入口
26 キャップ
261 取っ手
27 炉内断熱材
28 投入金属
3 金属溶融及び溶解状態確認システム
31 棒体
311 フィン
312 フランジ
313 金属付着物
32 支持台
321 栓部
322 頭部
323 大径孔部
324 座面空間
33 攪拌駆動部
34 トルクセンサ
35 コントローラ
36 監視装置
361 モニタ
362 操作部
37 ツール
4 移動装置
41 横フレーム
42 昇降用ボールネジ機構
421 スライダ
43 平行移動用ボールネジ機構
431 スライダ
51 カメラ
52 放射温度計
53 プライヤ
54 箱体
55 採取管
551 分岐口
6 開蓋部
61 移動装置
62 フック
7 材料保持部
71 移動装置
72 籠
73 シャッタ
100 ガスクロマトグラフ