(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】気密端子
(51)【国際特許分類】
H01R 9/16 20060101AFI20230804BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01R9/16 101
H01R13/03 D
H01R13/03 A
(21)【出願番号】P 2019075428
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】ショット日本株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西脇 進
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112082(JP,A)
【文献】実開平04-119965(JP,U)
【文献】特開平08-162188(JP,A)
【文献】実開平01-117074(JP,U)
【文献】特開2017-124945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 9/16
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の貫通孔を有した金属外環と、この金属外環の前記貫通孔に挿通した少なくとも低抵抗導体を含むリードと、前記金属外環と前記リード12とを封着する絶縁ガラスを備え、前記絶縁ガラスは、高膨張ガラスの内層材と、この内層材を覆って配置された前記内層材よりも低膨張ガラスの外層材とで構成した複合ガラスからな
り、前記複合ガラスは、前記内層材が表面に露出しないように露出表面を前記外層材で被覆したことを特徴とする気密端子。
【請求項2】
前記内層材は、ホウ酸系ガラス、ボロンシリケート系ガラス、亜鉛ホウ酸系ガラス、アルカリボロンシリケート系ガラス、アルカリ土類シリケート系ガラス、リン酸系ガラスの群から選択されたガラス材からなる請求項1に記載の気密端子。
【請求項3】
前記内層材は、線膨張率が12~18ppm/Kの範囲の請求項1または請求項2に記載の気密端子。
【請求項4】
前記リードは、芯材に低抵抗導体の外被材を施した複合金属リードからなる請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の気密端子。
【請求項5】
前記外被材の表面にめっきを施した請求項4に記載の気密端子。
【請求項6】
前記めっきは、ニッケル、ニッケル燐、ニッケルボロンの何れかからなる請求項5に記載の気密端子。
【請求項7】
前記芯材は、鋼材、ステンレス鋼、Fe-Ni合金、Fe-Cr合金の群から選択された金属材からなる請求項4ないし請求項6の何れか1つに記載の気密端子。
【請求項8】
前記低抵抗導体は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金の群から選択された金属材からなる請求項1ないし請求項7の何れか1つに記載の気密端子。
【請求項9】
前記外層材は、前記内層材よりも低膨張でかつ化学的耐久性、耐候性に優れたガラス材からなる請求項1ないし請求項8の何れか1つに記載の気密端子。
【請求項10】
前記外層材は、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダバリウムガラス、アルカリ土類アルミノシリケートガラス、ボロンシリケートガラス、アルカリボロンシリケートガラスの群から選択したガラス材からなる請求項9に記載の気密端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材に複合ガラス材を用いた気密端子に関する。
【背景技術】
【0002】
気密端子は、金属外環の挿通孔に絶縁材を介してリードを気密に封着したもので、気密容器内に収容された電気機器や素子に電流を供給したり、電気機器や素子から信号を外部に導出したりする場合に用いられる。特に金属外環とリードを絶縁ガラスで封着するGTMS(Glass-to-Metal-Seal)タイプの気密端子は、整合封止型と圧縮封止型の2種類に大別される。前述の気密端子において信頼性の高い気密封止を確保するには、外環およびリードの金属材と絶縁ガラスの熱膨張係数を適正に選択することが重要となる。封止用の絶縁ガラスは、金属外環とリードの素材、要求温度プロファイルおよびその熱膨張係数によって決定されている。整合封止の場合、金属材と絶縁ガラスの熱膨張係数が可能な限り一致するように封止素材を選定する。一方、圧縮封止は、金属外環が絶縁ガラスおよびリードを圧縮するように意図的に異なる熱膨張係数の金属材と絶縁ガラスの材料が選択されている。
【0003】
従来の気密端子は高い気密信頼性ならびに電気絶縁性を確保するため、整合封止型気密端子においては、金属外環およびリード材に広い温度範囲でガラス材と熱膨張係数が一致しているコバール合金(Fe54%、Ni28%、Co18%)を使用して、両者をホウケイ酸ガラスからなる絶縁ガラスで封着し、圧縮封止型気密端子においては、使用温度範囲においてガラスに同心円状の圧縮応力が加わるように、炭素鋼またはステンレス鋼などの鋼製の金属外環と、鉄ニッケル合金(Fe50%、Ni50%)や鉄クロム合金(Fe72%、Cr28%)などの鉄合金のリード材を使用して、両者をソーダバリウムガラスからなる絶縁ガラスで封着していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、気密端子の大電流容量化が求められるようになっている。例えば、コンビニエンス・ストアのようなスペースが限られた店舗内に設置する冷凍機用に小型かつ高性能なコンプレッサーが求められるようになっている。このように業務用途を中心に近年のコンプレッサーは、従来サイズに比し小型化される傾向にあるが、冷凍機の能力向上に伴ってコンプレッサーに取り付けられた気密端子を通る最大電流値は上昇する傾向にある。従来、冷凍機用気密端子のリード・ピンには、機械的強度や耐熱性の観点からリード材に鉄合金などの高抵抗金属を用いることが多い。このため、特に大電力用途向けの気密端子においては、過負荷時にジュール熱によってリード材を封止する絶縁ガラスが溶融してしまう危険性が増してきたといえる。また、大電力用途の気密端子は、リードを従来の鉄合金製のリード材から、銅やアルミニウム合金などの低抵抗金属製のリード材に変更することも提案されている。
【0006】
気密端子の電流容量を大きくするために、銅やアルミニウムなどの低抵抗導体からなる比較的大線径のリードを用いることできれば便利である。しかし、これら低抵抗導体は熱膨張率が大きく、これをより熱膨張率の小さいホウ珪酸ガラスやソーダライムガラスの絶縁ガラスで封止すると、低抵抗導体リードの膨張と収縮に伴い半径方向に引張り応力が生じ、その結果シール界面またはリード軸方向にガラス内部を貫通するクラックが発生しリーク不良となり易いという欠点があった。また、熱膨張を上記低抵抗導体に整合させるため、Na2O、K2O等の含有量を増やした高アルカリ金属ガラスを用いて絶縁ガラスの膨張率を上げた場合は、ガラスの化学的耐久性が著しく低下してしまうため実用できないという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、大電流容量化に適合した複合ガラスを用いた気密端子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくとも1個の貫通孔を有した金属外環と、この金属外環の貫通孔に挿通した低抵抗導体を含むリードと、金属外環とリードとを封着する絶縁ガラスとを備え、該絶縁ガラスは、高膨張ガラスの内層材と、少なくともこの内層材の外径部を覆った該内層材より低膨張ガラスの外層材から構成した複合ガラスからなる気密端子が提供される。上記絶縁ガラスは、高膨張ガラスの内層材の表面にこれより低膨張のガラスからなる外層材を設けたことで、化学的耐久性に劣る高膨張ガラスを気密端子の封止材に用いても、高膨張ガラスの露出表面を低膨張ガラスの外層材が被覆しているため、内層材ガラスの化学的耐久性を気にせずに使用できる。また、封止時の加熱から冷却する過程でこの内層材の収縮に伴い外層材に生じる大きな圧縮応力を利用して外層材のガラスを強化し、外層材ガラスの機械的強度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明に係る気密端子10の正面図を示し、
図1のD-D線に沿って切断した正面部分断面図を示す。
【
図5】本発明に係る気密端子20の正面図を示し、
図4のD-D線に沿って切断した正面部分断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る気密端子10は、
図1ないし
図3に示すように、少なくとも1個の貫通孔11を有した金属外環12と、この金属外環12の貫通孔11に挿通した少なくとも低抵抗導体を含むリード13と、金属外環12とリード13とを封着する絶縁ガラス14とを備え、絶縁ガラス14は、リード12の側に配置された高膨張ガラスの内層材14aと、内層材14aの外側を覆って金属外環12の側に配置されており内層材14aよりも低膨張ガラスの外層材14bとで構成した複合ガラスからなる。上記構成により、電流容量の向上に有利な銅、アルミニウムなどの低抵抗導体またはこれら低抵抗導体を含むリード13を使用しながら、その熱膨張率に整合し、かつ封止時の加熱から冷却する過程でこの内層材14aの収縮に伴い外層材に生じる大きな圧縮応力を利用して外層材14bのガラスを強化し、外層材ガラスの機械的強度を向上させた複合ガラス絶縁材を有する気密端子を提供する。
【0011】
金属外環12は鉄または鉄基合金からなり、リード13は銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの低抵抗導体または
図5に示すように鋼材の芯材23aに銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金など低抵抗導体の外被材23bを施した複合金属リード23からなる。鋼材は特に限定されないが、例えばJIS-SUH309、SUH310、SUH409、SUH409L、SUH446などが好ましい。
【0012】
絶縁ガラス14を構成する内層材14aは、同外層材14bよりも高膨張のガラス材であれば何れの材料を使用してもよい。例えば、内層材14aの線膨張率は12~18ppm/Kの範囲のホウ酸系ガラス(B2O3)、ボロンシリケート系ガラス(B2O3-SiO2)、亜鉛ホウ酸系ガラス(B2O3-ZnO)、アルカリボロンシリケート系ガラス(SiO2-B2O3-R2O[Rはアルカリ金属])、アルカリ土類シリケート系ガラス(SiO2-RO[Rはアルカリ土類金属])、リン酸系ガラス(P2O5)の群から選択されたガラス材を用いることができ、より好ましくは線膨張率12~16ppm/Kの範囲のホウ酸系ガラス(B2O3)、ボロンシリケート系ガラス(B2O3-SiO2)、亜鉛ホウ酸系ガラス(B2O3-ZnO)、アルカリボロンシリケート系ガラス(SiO2-B2O3-R2O[Rはアルカリ金属])、アルカリ土類シリケート系ガラス(SiO2-RO[Rはアルカリ土類金属])、リン酸系ガラス(P2O5)の群から選択されたガラス材を用いると良い。内層材14aは、リード13を侵さず外層材14bに拡散し難く消失しないものが好ましい。絶縁ガラス14の外層材14bは、内層材14aよりも低膨張でかつ化学的耐久性、耐候性に優れたガラス材であれば何れの材料を使用してもよい。例えば、線膨張率が8~8.5ppm/Kのソーダライムガラスが好適である。外層材14bは、絶縁ガラス14の封止時の冷却過程で内層材14aの収縮に伴う大きな圧縮応力を利用して強化ガラスとなる。
【0013】
なお、本明細書において三端子の気密端子を例示するが、リードを外環にガラス封止した気密端子であれば何れの形態を用いてもよく、例示した気密端子に限定されない。
【実施例】
【0014】
本発明に係る実施例1の気密端子10は、
図1ないし
図3に示すように、3個の貫通孔11を有した炭素鋼の金属外環12と、この金属外環12の貫通孔11に挿通した銅合金のリード13と、金属外環12とリード13とを封着する絶縁ガラス14とを備え、絶縁ガラス14は、リード12の側に配置された線膨張率が12ppm/Kのアルカリボロンシリケート系ガラス(SiO
2-B
2O
3-R
2O)の内層材14aと、内層材14aの外側を覆って金属外環11の側に配置された線膨張率が8ppm/Kのソーダライムガラスの外層材14bとで構成した複合ガラスからなる。
【0015】
本発明に係る実施例2の気密端子10は、
図1ないし
図3に示すように、3個の貫通孔11を有したステンレス鋼の金属外環12と、この金属外環12の貫通孔11に挿通した銅合金のリード12と、金属外環11とリード12とを封着する絶縁ガラス13とを備え、絶縁ガラス13は、リード12の側に配置された線膨張率が16ppm/Kのリン酸系ガラス(P
2O
5)の内層材13aと、内層材13aの外側を覆って金属外環11の側に配置された線膨張率が8.3ppm/Kのソーダライムガラスの外層材13bとで構成した複合ガラスからなる。
【0016】
本発明に係る実施例3の気密端子20は、
図4ないし
図6に示すように、3個の貫通孔21を有したステンレス鋼の金属外環22と、この金属外環22の貫通孔21に挿通した鋼材の芯材23aに銅合金の外被材23bを施した複合金属リード23と、金属外環22とリード23とを封着する絶縁ガラス24とを備え、絶縁ガラス24は、リード23の側に配置された線膨張率が15ppm/Kのアルカリボロンシリケート系ガラス(SiO
2-B
2O
3-R
2O)の内層材24aと、内層材24aの外側を覆って金属外環22の側に配置された線膨張率が8.3ppm/Kのソーダライムガラスの外層材24bとで構成した複合ガラスからなる。
【0017】
本発明に係る実施例4の気密端子20は、
図4ないし
図6に示すように、3個の貫通孔21を有したステンレス鋼の金属外環22と、この金属外環22の貫通孔21に挿通した鋼材の芯材23aに銅合金の外被材23bを施した複合金属リード23と、金属外環22とリード23とを封着する絶縁ガラス24とを備え、絶縁ガラス24は、リード23の側に配置された線膨張率が12ppm/Kの亜鉛ホウ酸系ガラス(B
2O
3-ZnO)の内層材24aと、内層材24aの外側を覆って金属外環22の側に配置された線膨張率が8ppm/Kのソーダライムガラスの外層材24bとで構成した複合ガラスからなる。
【0018】
本発明に係る気密端子の外被材は、表面にニッケル、ニッケル燐、ニッケルボロンなど所望の仕上げめっきを施したものも利用できる。また、上記実施例に記載の芯材は、外被材のベース構造を構成できれば何れの材料を用いてもよい、例えば、鋼材、ステンレス鋼に限らず、適宜、Fe-Ni合金、Fe-Cr合金等に変更してもよい。同様に実施例に記載の外層材は、内層材よりも低膨張でかつ化学的耐久性、耐候性に優れたガラス材であればソーダライムガラスに限らず任意のガラス材を用いることができ、例えば、ホウ珪酸ガラス、ソーダバリウムガラス、アルカリ土類アルミノシリケートガラス、ボロンシリケートガラス、アルカリボロンシリケートガラスなどが利用できる。本発明の気密端子のリードおよび金属外環の一部にシリコーン樹脂等の絶縁被覆を装着させても差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、特に高電圧・高電流に耐久し、かつ高い気密性が要求される気密端子に利用できる。
【符号の説明】
【0020】
気密端子10、貫通孔11、金属外環12、リード13、絶縁ガラス14、内層材14a、外層材14b、気密端子20、貫通孔21、金属外環22、リード23、芯材23a、外被材23b、絶縁ガラス24、内層材24a、外層材24b。