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特許7325215起泡性水中油型乳化物およびホイップドクリーム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物およびホイップドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230804BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230804BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019084944
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020178638
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祥史
(72)【発明者】
【氏名】高井 純一
(72)【発明者】
【氏名】村川 謙太郎
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-022305(JP,A)
【文献】特開2018-121548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が33~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.30~1.80である。
【請求項2】
起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、ラウリン系油脂Aを40~55質量%含有し、
ラウリン系油脂Aが、ヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油、これらのヨウ素価4以下の極度硬化油からなる群から選ばれる1以上の油脂であり、
以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が28~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.30~1.80である。
【請求項3】
起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、エステル交換油Bを含有し、
エステル交換油Bの構成脂肪酸のうち、ラウリン酸が20~50質量%、パルミチン酸が10~30質量%であり、かつ、
エステル交換油Bのヨウ素価が15~40であり、
以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が33~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.10~1.80である。
【請求項4】
起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、ラウリン系油脂Aを40~55質量%、及びエステル交換油Bを含有し、
ラウリン系油脂Aはヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油、これらのヨウ素価4以下の極度硬化油からなる群から選ばれる1以上の油脂であり、
エステル交換油Bの構成脂肪酸のうち、ラウリン酸が20~50質量%、パルミチン酸が10~30質量%であり、かつ、
エステル交換油Bのヨウ素価が15~40であり、
以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が28~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.10~1.80である。
【請求項5】
前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、ラウリン系油脂Aを40~70質量%含有し、
ラウリン系油脂Aが、ヤシ油、パーム核油、及びこれらの分別油、これらのヨウ素価4以下の極度硬化油からなる群から選ばれる1以上の油脂である、請求項1または3に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項6】
前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、エステル交換油Bを含有し、
エステル交換油Bの構成脂肪酸のうち、ラウリン酸が20~50質量%、パルミチン酸が10~30質量%であり、かつ、
エステル交換油Bのヨウ素価が15~40である、請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項7】
前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、エステル交換油Bを10~35質量%含有する、請求項3、4および6いずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項8】
前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、パーム分別中融点部Cを8~35質量%含有する、請求項1乃至いずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項9】
パーム分別中融点部Cのヨウ素価が30~55である、請求項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項10】
さらに以下の条件(g)を満たす、請求項1乃至いずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
(g)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの当該油脂中の含有量と、前記起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの当該油脂中の含有量の合計との和が、25~38質量%である。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれか一項に記載された起泡性水中油型乳化物が起泡されてなるホイップドクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化物およびホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デザートやケーキなどに使用されるホイップドクリームには、生乳から脂肪分を濃縮した生クリームを用いて起泡させたものと、乳脂肪や植物油脂等を水中油型に乳化した起泡性水中油型乳化物を起泡させたものがある。
生クリームは牛乳から遠心分離によって作られ、特有の風味・コク味等を有し、優れた風味を呈することが知られている。しかし、生クリームによるホイップドクリームは、しまりと呼ばれる硬化現象があり、短時間で口溶けが低下したり、また経時的に離水したり、軟化することで、保形性が得られないといった問題があった。また、ホイップされる前の生クリームの状態では、保存中の温度変化や輸送などの振動によって、急激な粘度の上昇や固化が起こりやすいといった作業上の問題があった。
【0003】
そのため、かかる作業上の問題を改善すべく、起泡性水中油型乳化物の開発が盛んにおこなわれている。
例えば、特許文献1には、起泡性水中油型乳化物の乳化安定性、ホイップした際の作業性、起泡性、外観、保形性、耐離水性を良好にする観点から、油脂、無脂乳固形分及び水を含む水中油型乳化物において、油脂分が25~50重量%であり、油脂が非乳脂又は非乳脂及び乳脂であって、非乳脂がパーム系油脂及びラウリン系油脂のエステル交換油を含み、且つ澱粉分解物及び/又は加工澱粉を含むことが開示されている。
また、特許文献2には、保存時の乳化安定性及びホイップ後の安定性を良好にする観点から、生クリーム又は生クリーム含有水中油型乳化物(A)と、ラウリン系油脂およびエステル交換油を含み、生クリームを含まない水中油型乳化物(B)とを混合してなる起泡性水中油型乳化組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-22305号公報
【文献】特開2011-205959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2記載の技術は、作業性に着目したものであり、生クリームに似た食感を有する起泡性水中油型乳化物を得る点で改善の余地があった。また、ラウリン酸を多く含む傾向があり、しまりやすく、低温ではだれやすく、ホイップ作業においては、硬さがつくまでの作業幅が狭く、硬さも十分ではない場合があった。
【0006】
本発明者は、生クリームに似た食感を有する起泡性水中油型乳化物を実現すべく検討を行う中で、新たに、ホイップドクリームが口中で溶けた後の状態に着目し、かかる状態を生クリームに似せることで、生クリームに似た口溶け感やのど越し感が得られることを知見した。そして、さらに鋭意検討を進めた結果、起泡性水中油型乳化物が、特定の条件を満たすことで、良好な作業性と、生クリームに似た口溶け及びのど越しとのバランスを高水準で実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物を提供する。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が28~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.10~1.80である。
【0008】
また、本発明は、上記の起泡性水中油型乳化物が起泡されてなるホイップドクリームを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な作業性と、生クリームに似た口溶け及びのど越しとを両立する起泡性水中油型乳化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、説明する。
なお、本件明細書において記号の表記はそれぞれ以下を示す。
Pはパルミチン酸、Sはステアリン酸、Oはオレイン酸を示す。
POPは、グリセロール1分子の1位および3位にPが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
POSは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にOが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にOが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SOSは、グリセロール1分子の1位および3位にSが結合し、2位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PPOは、グリセロール1分子の1位および2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にPが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示し、
PSOは、グリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SPOは、グリセロール1分子の1位にSが結合し、2位にPが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にPが結合し、3位にSが結合したトリアシルグリセロールを示し、
SSOは、グリセロール1分子の1位および2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロール、および、グリセロール1分子の2位および3位にSが結合し、1位にOが結合したトリアシルグリセロールを示す。
【0011】
本実施形態に係る起泡性水中油型乳化物は、条件(a)~(f)を満たすものである。
【0012】
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が28~40質量%であり、好ましくは30~38質量%であり、より好ましくは32~37質量%であり、さらに好ましくは33~36質量%以下である。
ラウリン酸の含有量を、上記下限値以上とすることにより、口溶けが良好になり、一方、上記上限値以下とすることにより、口溶けが過剰となることを抑制し、生クリームらしさを保持できる。また、ラウリン酸の含有量を、かかる数値範囲とすることで、他の成分とのバランスを良好にし、良好な作業性と、生クリームに似た口溶けのバランスを向上できる。
【0013】
ラウリン酸は、炭素数12の飽和脂肪酸である。ラウリン酸は食用油脂に由来するものであれば特に限定されないが、食用油脂としては、特にラウリン酸を多く含有するものとして、例えば、ヤシ油、パーム核油、およびこれらの分別油、エステル交換油または硬化油等が挙げられる。
【0014】
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%であり、好ましくは16~23質量%であり、より好ましくは17~23質量%である。
パルミチン酸の含有量を、かかる数値範囲とすることで、他の成分とのバランスを良好にし、良好な作業性と、生クリームに似た口溶け及びのど越しのバランスを向上できる。
【0015】
パルミチン酸は、炭素数16の飽和脂肪酸である。パルミチン酸は食用油脂に由来するものであれば特に限定されないが、食用油脂のなかでも、特にパルミチン酸を多く含有するものとして、例えば、パーム油、豚脂、牛脂、乳脂肪、魚油、カカオ脂およびその分別油、エステル交換油または硬化油等が挙げられる。
【0016】
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0であり、好ましくは18.5~24.8である。
ヨウ素価を、上記上限値以下とすることにより、ホイップドクリームとしての良好な起泡性と保型性を保ちつつ、生クリームに似た口溶け、のど越しを得ることができ、上記下限値以上とすることにより、良好な作業性、および生クリームに似た口溶けを得ることができる。
【0017】
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%であり、好ましくは20~28質量%であり、より好ましくは21~26質量%である。
【0018】
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%であり、好ましくは6~13質量%であり、より好ましくは8~13質量%である。上記条件(d)および(e)をかかる数値範囲とすることで、生クリームに似た口溶け感とのど越しを得ることができる。
【0019】
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.10~1.80であり、好ましくは1.20~1.70であり、より好ましくは1.30~1.60である。
構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールは、主に、後述するエステル交換油Bに由来する成分であり、作業性を向上させる作用を有する。また、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールは、主に、後述するラウリン系油脂Aに由来する成分であり、良好な口溶けが得られる作用を有する。構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比を上記数値範囲とすることで、ホイップドクリームの荒れやダレといった作業性の低下を抑制し、かつ、良好な口溶けを得ることができる。
【0020】
本実施形態に係る起泡性水中油型乳化物は、上記の条件(a)~(f)をすべて満たすことによって初めて、起泡させたホイップドクリームを絞り、ナッペ等の作業に用いた場合に、クリームの表面がパサつき、荒れた状態になったり、保形されずだれてしまうことを抑制し、良好な作業性が得られるようになる。くわえて、口に入れた後、ホイップドクリームが溶けた際に感じられる口溶けおよびのど越しを生クリームに似せることができる。
【0021】
本実施形態に係る起泡性水中油型乳化物は、さらに、条件(g)を満たすことにより、良好な作業性と、生クリームに似た口溶けのバランスを飛躍的に向上にできる。
(g)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの当該油脂中の含有量と、前記起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの当該油脂中の含有量の合計との和が、25~38質量%であり、好ましくは28~36質量%、より好ましくは30~35質量%である。
【0022】
なお、上記の条件(a)~(g)は、本実施形態に係る起泡性水中油型乳化物の原材料を適宜選択し、含有量を調整することでその数値を制御することができる。
【0023】
また、本実施形態に係る起泡性水中油型乳化物は、ラウリン系油脂A、エステル交換油B、およびパーム分別中融点部C等を含むものであってもよい。以下、各油脂成分について、詳述する。
【0024】
ラウリン系油脂Aとは、構成脂肪酸中のラウリン酸含量が30質量%以上である油脂であり、好ましくは40~55質量%、より好ましくは45~50質量%である。ラウリン系油脂Aとしては、例えば、ヤシ油、パーム核油、およびこれらの分別油、または極度硬化油(ヨウ素価4以下であることが好ましい)が挙げられる。
ラウリン系油脂Aの含有量は、起泡性水中油型乳化物の油脂全量に対して、40~70質量%が好ましく、45~65質量%がより好ましく、50~60質量%が更に好ましい。
【0025】
エステル交換油Bとは、少なくともラウリン酸および、少なくともパルミチン酸、ステアリン酸またはオレイン酸のいずれかを含有する油脂を原料の一部としてエステル交換されたものである。それにより、エステル交換油Bは、構成脂肪酸の炭素数の合計が40及び42のトリアシルグリセロールを特徴的に含有する。具体的には、ラウリン酸を一定以上含有する油脂としてラウリン系油脂と、パルミチン酸またはステアリン酸を一定以上含有する油脂としてパーム系油脂、ラード系油脂、牛脂系油脂、各種動植物油脂の硬化油のいずれかと、を組み合わせて原料として用いることが好ましい。中でも、ラウリン系油脂と、安定的に供給される油脂としてパーム系油脂と、を原料として用いることが好ましい。
エステル交換油Bとしては、エステル交換油1種類を単独で用いてもよいし、異なる原料を用いたエステル交換油2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
エステル交換油Bは、上記の原料油脂以外にも、いかなる油脂を原料としていてもよく、パーム系油脂、ラード系油脂、牛脂系油脂、各種動植油の硬化油の他、乳脂、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、および、それらの分別油などが挙げられる。
なお、エステル交換油Bは、原料油脂として、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4を超える)を使用しないことが好ましい。
【0027】
エステル交換油Bは、構成脂肪酸のうち、ラウリン酸を20~50質量%、パルミチン酸を10~30質量%含むことが好ましく、ラウリン酸を20~40質量%、パルミチン酸を15~25質量%含むことがより好ましい。
また、エステル交換油Bのヨウ素価が15~40であることが好ましく、20~40であることがより好ましく、20~35であることが更に好ましい。
なかでも、エステル交換油Bの構成脂肪酸のうち、ラウリン酸が20~45質量%、パルミチン酸が10~30質量%であり、かつ、エステル交換油Bのヨウ素価が15~40であることが好ましく、ラウリン酸が20~40質量%、パルミチン酸が15~25質量%であることがより好ましい。
【0028】
エステル交換油Bの含有量は、起泡性水中油型乳化物の油脂全量に対して、10~35質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましく、20~30質量%が更に好ましい。
【0029】
なお、エステル交換油Bの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、化学的触媒による方法、酵素による方法いずれを用いることもできる。
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、上記酵素としては、アルカリゲネス属、リゾープス属、アスペルギルス属、ムコール属、およびペニシリウム属等に由来するリパーゼが挙げられる。また、上記酵素は、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の状態で用いることもできる。
【0030】
パーム分別中融点部Cは、パーム油の分別油であり、分別により、高融点部分と低融点部分を分離除去した画分を意図する。パーム中融点部CはPOP、POSおよびSOSを多く含有するため、パーム中融点部Cの使用は、油脂中のPOP、POS、およびSOS含量を調整するのに適している。
パーム分別中融点部Cのヨウ素価は30~55であることが好ましく、35~50であることがより好ましく、38~48であることが更に好ましい。
パーム分別中融点部Cの含有量は、起泡性水中油型乳化物の油脂全量に対して、8~35質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましい。
【0031】
本実施形態の起泡性水中油型乳化物は、必要に応じて、さらにその他の油脂を混合して、上記の条件(a)~(g)を満たすものが調製されてもよい。その他の油脂としては、例えば、パーム系油脂、ラード、牛脂、乳脂肪、ヤシ油、パーム核油、なたね油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ごま油、オリーブ油、および、それらの分別油、水素添加油、エステル交換油などが挙げられる。ここで、水素添加油は、近年心疾患との関連から使用が敬遠される部分水素添加油(ヨウ素価4以上)ではなく、極度硬化油(ヨウ素価が4未満)の使用が好ましい。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0032】
本実施形態の起泡性水中油型乳化物は、乳脂肪を含まないことが好ましい。これにより、乳脂肪を含まなくとも、生クリームに似た口溶けが得られるという効果がより顕著になる。
なお、乳脂肪とは、牛等の反芻動物の乳由来の脂質である。一般に、乳脂肪は、約99重量%のトリグリセリドと、ジグリセリド、モノグリセリド、ラクトン類、メチルケトン類、アルデヒド類、脂肪酸類及び含硫化合物等のその他の成分を含有している。
【0033】
本実施形態の起泡性水中油型乳化物は、必要により、乳製品、乳化剤、増粘安定剤、食塩、塩化カリウムなどの塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸などの酸味料、糖類、甘味料、着色料、酸化防止剤、植物蛋白、卵および各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、および香辛料などの副原料を含有することができる。
【0034】
上記の乳製品としては、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエイタンパク、ホエイパウダー、トータルミルクプロテイン、ミルクプロテインコンセントレート、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、酸カゼイン、レンネットカゼイン、およびカゼイン塩等が挙げられる。
【0035】
上記の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、およびポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリドなどの合成乳化剤:大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、および乳脂肪球皮膜などの天然乳化剤が挙げられる。
【0036】
上記の増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、デキストリン、澱粉、化工澱粉、およびデキストランなどが挙げられる。
【0037】
上記の糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、およびトレハロース等が挙げられる。
【0038】
本発明の起泡性水中油型乳化物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、好ましい方法について以下に説明する。
【0039】
本実施形態の起泡性水中油型乳化物は、上記に記載した条件を満たす油脂、水からなる主原料と、副原料とを混合する予備乳化工程、加熱殺菌工程、冷却工程、均質化工程、およびエージング工程等を経て調製される。
上記の予備乳化工程では、主原料と副原料とを、加熱、撹拌しながら添加、混合して乳化し、乳化物を得る。油溶性の乳化剤などの油溶性成分を油脂に添加、溶解して油相とし、それ以外のものを水に溶解または分散して水相とし、当該水相に当該油相を添加して混合する方法が好ましく採用される。乳化温度は、40~80℃が好ましく、50~75℃がより好ましい。予備乳化工程には、プロペラ等の撹拌機を保持する各種調合タンクを使用することができる。
上記の加熱殺菌工程は、乳化物を殺菌するために行うための工程であり、起泡性水中油型乳化物の品温が、好ましくは90~150℃、より好ましくは120℃~150℃の条件下で、好ましくは2~30秒間、より好ましくは4~15秒間行う。なお、殺菌装置は、特に限定されないが、例えばUHT滅菌装置や、HTST滅菌装置が好ましく用いられる。
上記の冷却工程は、熱交換器による冷却、蒸発冷却などによる方法で行うことができる。
上記の均質化工程は、一般的に知られている均質化装置を使用することができ、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、およびディスパーミル等が挙げられる。
上記のエージング工程は、油脂類の結晶状態を安定化させ、適度な粘度に調整するための工程であり、好ましくは1~10℃、より好ましくは2~7℃の温度条件下で、好ましくは6~60時間、より好ましくは12~54時間静置することにより行う。
【0040】
[ホイップドクリーム]
本実施形態において、ホイップドクリームは上記の起泡性水中油型乳化物が起泡されてなるものである。ホイップドクリームは、公知の方法により起泡されるものであり、ケーキ類のトッピングやナッペに好適に使用される。
【0041】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の条件(a)~(f)を満たす、起泡性水中油型乳化物。
(a)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、ラウリン酸が28~40質量%である。
(b)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂を構成する脂肪酸のうち、パルミチン酸が15~24質量%である。
(c)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂のヨウ素価が18.0~30.0である。
(d)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールが、当該油脂中19~30質量%である。
(e)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの油脂中の含有量の合計が4~13質量%である。
(f)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が40~42のトリアシルグリセロールの質量に対する、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの質量の比が1.10~1.80である。
2. 前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、ラウリン系油脂Aを40~70質量%含有する、1.に記載の起泡性水中油型乳化物。
3. 前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、エステル交換油Bを含有し、
エステル交換油Bの構成脂肪酸のうち、ラウリン酸が20~50質量%、パルミチン酸が10~30質量%であり、かつ、
エステル交換油Bのヨウ素価が15~40である、1.または2.に記載の起泡性水中油型乳化物。
4. 前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、パーム分別中融点部Cを8~35質量%含有する、1.乃至3.いずれか一つに記載の起泡性水中油型乳化物。
5. パーム分別中融点部Cのヨウ素価が30~55である、4.に記載の起泡性水中油型乳化物。
6. 前記起泡性水中油型乳化物の全油脂中に、エステル交換油Bを10~35質量%含有する、3.に記載の起泡性水中油型乳化物。
7. さらに以下の条件(g)を満たす、1.乃至6.いずれか一つに記載の起泡性水中油型乳化物。
(g)当該起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36~38のトリアシルグリセロールの当該油脂中の含有量と、前記起泡性水中油型乳化物の全油脂に含まれるPOP、POS、およびSOSの当該油脂中の含有量の合計との和が、25~38質量%である。
8. 1.乃至7.いずれか一つに記載された起泡性水中油型乳化物が起泡されてなるホイップドクリーム。
【実施例
【0042】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0043】
<実施例および比較例>
(1)エステル交換油1~5の調製
表1に示す割合(質量%)で、各油脂を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行って、エステル交換油脂1~5をそれぞれ得た。
【0044】
【表1】
【0045】
(2)起泡性水中油型乳化物の調製
表2に示すヨウ素価、油脂組成を有する各油脂(ラウリン系油脂A、エステル交換油B、パーム分別中融点部C、その他油脂D)を用意した。
次に各油脂の含有割合が表3に示す割合となるように、各油脂を、60℃に加熱、溶解して混合した。
続けて、表4に示す配合に従い、油溶性の乳化剤であるレシチン、ポリグリセリン脂肪酸エステル、モノグリセリド合計0.18質量%を、上記の各油脂に溶解し油相とした。60℃に加温した水に脱脂粉乳4.5質量%、クエン酸ナトリウム0.2質量%および水溶性の乳化剤であるショ糖脂肪酸エステルを0.12%溶解し、水相とした。水相をホモミキサーで撹拌しながら油相を徐々に加え、予備乳化した。その後高圧ホモゲナイザーで均質化し、得られた乳化物を加熱殺菌機で約142℃で殺菌した。予備冷却後、再度高圧ホモゲナイザーで均質化を行い、続けて、プレート式冷却機により冷却を行った。その後5℃の温度条件下で48時間エージングし、起泡性水中油型乳化物をそれぞれ得た。得られた起泡性水中油型乳化物は、そのまま5℃で保管し、以下のホイップドクリームの作製に用いた。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
(3)ホイップドクリームの作製
得られた各起泡性水中油型乳化物800gにグラニュー糖を64g加え、ホバートミキサーN50、ワイヤーホイッパーを使用し、3速でホイップして、八部立てのホイップドクリームを作製した。得られたホイップドクリームについて以下の評価を行った。結果を、表5に示す。
【0050】
<評価>
・生クリームと比較したときの口溶け:上記(3)で得られたホイップドクリームと同様にグラニュー糖を加えて八分立てした生クリーム(乳脂肪分35%)を、熟練したパネラー10名が試食し、以下の基準(-2~2の5段階)に従って、評価点を付け、平均値をとった。
(基準)
2 生クリームよりも口溶けがよすぎて、生クリームに似ていない
1 生クリームよりも口溶けがややよい
0 生クリームと口溶けが同等
-1 生クリームよりも口溶けがやや悪い
-2 生クリームよりも口溶けがとても悪い
【0051】
・生クリームと比較したときののど越し:上記(3)で得られたホイップドクリームと同様にグラニュー糖を加えて八分立てした生クリーム(乳脂肪分35%)を、熟練したパネラー10名が試食し、以下の基準(-2~2の5段階)に従って、評価点を付け、平均値をとった。
(基準)
2 生クリームよりものど越しがよすぎて、生クリームに似ていない
1 生クリームよりものど越しがややよい
0 生クリームとのど越しが同等
-1 生クリームよりものど越しがやや悪い
-2 生クリームよりものど越しがとても悪い
【0052】
・作業性:品温10℃前後のホイップドクリームを、星形の口金を装着した絞り袋に入れ、一つ当たりの重さが約10gの造花50個を順に絞った。その際の造花の表面の荒れ、保型性の有無について、複数の専門パネラーが以下の基準に従って協議により評価した。
1 荒れる
2 やや荒れる(造花作業の後半から荒れがみられる)
3 状態がよい
4 ややだれる
5 だれる
【0053】
(4)ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸の定量
実施例および比較例で原料として用いた油脂について、構成脂肪酸中のラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸を基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.3-2013 脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法)」に準じて測定し、その値から実施例および比較例の組成物中の油脂について、構成脂肪酸中のラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸の割合を求めた。結果を、表2,3に示す。
【0054】
(5)ヨウ素価の測定
実施例および比較例で原料として用いた油脂について、ヨウ素価を基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により測定し、その値から実施例および比較例の組成物中の油脂についてヨウ素価を求めた。結果を、表2,3に示す。
【0055】
(6)POP、PPO、POS、PSO+SPO、SOS、SSOの定量
実施例および比較例で原料として用いた油脂について、POP、PPO、POS、PSO+SPO、SOS、SSOをHPLC-ESI-MS/MSシステムを用い、以下に示す方法で分離・定量し、その値から実施例および比較例の組成物中の油脂中のPOP、PPO、POS、PSO+SPO、SOS、SSOの量を求めた。結果を、表2,3に示す。
【0056】
(6-1)油脂試料液の調製
油脂試料をアセトン/アセトニトリル混合溶媒に希釈し、終濃度およそ60-120μg/mlの油脂試料溶液とした。また、このときに、内部標準物質としてトリウンデカノインを終濃度0.5μg/mlとなるよう添加した。
【0057】
(6-2)TAG標準用液の調製
POP、rac-PPO、rac-POS、rac-PSO、SOS、rac-SSO、(いずれも月島食品工業製)を標準物質とし、標準溶液(1.0~25μg/ml)を調製した。また、このときに、各希釈倍率の標準溶液に、内部標準物質としてトリウンデカノインを終濃度0.5μg/mlとなるよう添加した。
【0058】
(6-3)HPLCによる分離条件
上記TAG標準溶液、または油脂試料溶液を以下の条件のHPLCシステムに注入し、TAG分子種の異性体分離を行った。
装置:高速液体クロマトグラフAlliance e2695(Waters)
カラム:SunShell C30,2.6μm 2.1mm i.d.×150mm(クロマニックテクノロジーズ)
カラムオーブン温度:20℃
流量:0.4ml/min
移動相:アセトン/アセトニトリルを0分から10分の間に80/20から90/10、10分から10.1分の間に90/10から100/0にリニアに変化させ、その後分析終了まで保持した。
【0059】
(6-4)定量
検出にはESI-MS/MSシステム(Waters社製Quattro micro API)を用い、MRMモードでピークを検出した。
MRMトランジッション
PPO(m/z 850.8→551.5,577.5)
PSO(m/z 878.8→577.5,579.5,605.6,)
SSO(m/z 906.9→607.6,605.6)
測定するサンプルにより、適宜定量イオンを選択し、定量計算に用いた。
TAG溶液の分析により得られたイオンクロマトグラムの各TAGのピーク面積により検量線を作成し、油脂試料の各TAGを定量した。
なお、分離できないPSOとSPOに関しては、rac-PSOを標準物質として検量線を作成し、合計量として定量した。ここで「rac-」はラセミ体を示し、例えばrac-PSOはsn-PSO、sn-OSPの等量混合物であることを示す。また、「sn-」はトリアシルグリセロールが鏡像異性体の一方であることを示し、例えばsn-PSOはグリセロール1分子の1位にPが結合し、2位にSが結合し、3位にOが結合したトリアシルグリセロールであり、sn-OSPはグリセロール1分子の1位にOが結合し、2位にSが結合し、3位にPが結合したトリアシルグリセロールであることを表す。
【0060】
(7)構成脂肪酸の炭素数の合計が36から42のトリアシルグリセロールの定量
J.Oleo Sci.,66,(3)259-268(2017)に記載のガスクロマトグラフィーによるTAG分析法に準じた方法で、原料油脂の、構成脂肪酸の炭素数の合計が36、38、40、42のトリアシルグリセロールの定量を行い、その値から実施例および比較例の組成物中の油脂に含まれる、構成脂肪酸の炭素数の合計が36、38、40、42のトリアシルグリセロールの量を求めた。結果を、表2,3に示す。
【0061】
【表5】