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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】波状断面を有する麺線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21C 11/24 20060101AFI20230804BHJP
   A21C 9/08 20060101ALI20230804BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20230804BHJP
【FI】
A21C11/24 A
A21C9/08 C
A23L7/109 B
A23L7/109 J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019154782
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021029194
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000106531
【氏名又は名称】サンヨー食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】永山 嘉昭
【審査官】木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1656311(KR,B1)
【文献】特開2016-049072(JP,A)
【文献】特開2015-092837(JP,A)
【文献】特開2010-110334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21C 11/24
A21C 9/08
A23L 7/109
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺帯を用意すること、及び
前記麺帯を切刃装置により麺線に切り出すこと
を含む、波状断面を有する麺線の製造方法であって、
前記切刃装置は一対の切刃ロールを有し、前記切刃ロールはそれぞれ、前記切刃ロールの長手方向に沿って交互に配置された複数の環状溝部及び複数の刃部を有し、
前記切刃ロールは、一方の前記切刃ロールの前記環状溝部と他方の前記切刃ロールの前記刃部とが係合するように配置されており、
前記切刃ロールの前記環状溝部はそれぞれ、前記切刃ロールの長手方向に沿って隣り合う前記刃部に近い部分に2つの第1溝部と、前記2つの第1溝部の間に前記2つの第1溝部よりも深い第2溝部とを有し、
一方の前記切刃ロールの前記第1溝部と、該第1溝部に対向する、他方の前記切刃ロールの前記刃部との最短距離をDとしたときに、前記麺帯の厚さがDの2.0倍~2.7倍であり、
前記第1溝部の前記第2溝部に隣接する部分が面取されている、方法。
【請求項2】
前記麺帯の厚さがDの2.0倍~2.5倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記麺帯の厚さが0.6mm~4.0mmである、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記環状溝部の幅が2.0mm~30mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1溝部の幅が0.5mm~11.3mmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2溝部の幅が0.5mm~15mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1溝部の幅と前記第2溝部の幅の比が0.5:1~1.5:1である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一方の前記切刃ロールの前記第2溝部と、他方の前記切刃ロールの前記第2溝部に対向する前記刃部との最短距離をDとしたときに、Dが3.0mm以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一方の前記切刃ロールの前記環状溝部と、他方の前記切刃ロールの前記刃部とにより形成される単位空隙に通される前記麺線の断面積が、前記単位空隙の断面積の90%以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記麺線が中華麺、パスタ、うどん、及びそばからなる群より選択される麺類に使用される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
切り出された前記麺線を蒸煮してα化すること、及び
α化された前記麺線を乾燥すること
をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波状断面を有する麺線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺の製造方法は、一般に、麺線への切り出し後、麺塊を乾燥する前に、麺線を蒸煮する工程、及びリテーナーに収容されたブロック状の麺線の塊(麺塊)を乾燥する工程を含む。蒸煮、収容、乾燥の各工程において麺線同士が付着すると作業性が低下する。麺線同士の付着は、蒸煮における麺線の不十分なα化、喫食時の麺線のほぐれ不良などを引き起こすなど、製品の品質に多大な悪影響を及ぼすおそれもある。即席麺における麺線の幅は、一般にラーメンの場合で1.0~2.5mm程度、うどんの場合で2.0~4.3mm程度である。麺線同士の付着は、麺線の幅が広くなるほど顕著となる。
【0003】
特許文献1(特開2016-049072号公報)は、幅の広い面を持ちながら、茹でる際に表面同士の付着が生じ難い幅広麺、及びそのような幅広麺の麺線を製造することができる製麺装置、切り刃ロール(明細書段落0010)を記載している。
【0004】
特許文献2(特開平10-155442号公報)は、調理湯戻し時には麺線間の付着がなく、均一に復元することができて、しかも滑らかで一様に弾力のあり、その表面に凹凸が存在する幅広麺類、及びその製造方法(明細書段落0006)を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-049072号公報
【文献】特開平10-155442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生麺又は乾麺(生麺を蒸煮せずに低温で長時間乾燥した麺)として、うどん等よりも広幅の麺、例えばフェットチーネ等(麺線幅が5.0~7.5mm程度)が知られている。乾麺の製造方法では、一般に、直線状に切り出した又は押し出した麺線がそのまま乾燥されるため、麺線同士の付着は大きな問題とはならない。しかし、このような広幅の麺を即席麺として製造するためには、麺線同士の付着をより低減することが要求される。
【0007】
本開示は、通常の広幅の麺線と同様の食感を有し、かつ広幅の麺線同士の付着を低減又は防止することができる麺線の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、刃部及び特定形状の環状溝部を有する一対の切刃ロールを備えた切刃装置を用い、環状溝部及びそれに対向する刃部の距離と麺帯の厚さの関係を所定の範囲とすることで波状断面を有する麺線を切り出すことができ、このような波状断面を有する麺線が麺線同士の付着を効果的に低減又は防止できることを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、以下の実施形態[1]~[11]を包含する。
[1]
麺帯を用意すること、及び
前記麺帯を切刃装置により麺線に切り出すこと
を含む、波状断面を有する麺線の製造方法であって、
前記切刃装置は一対の切刃ロールを有し、前記切刃ロールはそれぞれ、前記切刃ロールの長手方向に沿って交互に配置された複数の環状溝部及び複数の刃部を有し、
前記切刃ロールは、一方の前記切刃ロールの前記環状溝部と他方の前記切刃ロールの前記刃部とが係合するように配置されており、
前記切刃ロールの前記環状溝部はそれぞれ、前記切刃ロールの長手方向に沿って隣り合う前記刃部に近い部分に2つの第1溝部と、前記2つの第1溝部の間に前記2つの第1溝部よりも深い第2溝部とを有し、
一方の前記切刃ロールの前記第1溝部と、該第1溝部に対向する、他方の前記切刃ロールの前記刃部との最短距離をDとしたときに、前記麺帯の厚さがDの2.0倍~2.7倍である、方法。
[2]
前記麺帯の厚さがDの2.0倍~2.5倍である、[1]に記載の方法。
[3]
前記麺帯の厚さが0.6mm~4.0mmである、[1]又は[2]のいずれかに記載の方法。
[4]
前記環状溝部の幅が2.0mm~30mmである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記第1溝部の幅が0.5mm~11.3mmである、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]
前記第2溝部の幅が0.5mm~15mmである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記第1溝部の幅と前記第2溝部の幅の比が0.5:1~1.5:1である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]
一方の前記切刃ロールの前記第2溝部と、他方の前記切刃ロールの前記第2溝部に対向する前記刃部との最短距離をDとしたときに、Dが3.0mm以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]
一方の前記切刃ロールの前記環状溝部と、他方の前記切刃ロールの前記刃部とにより形成される単位空隙に通される前記麺線の断面積が、前記単位空隙の断面積の90%以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記麺線が中華麺、パスタ、うどん、及びそばからなる群より選択される麺類に使用される、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
切り出された前記麺線を蒸煮してα化すること、及び
α化された前記麺線を乾燥すること
をさらに含む、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、広幅の麺線同士の付着を低減又は防止することができる。本発明によれば、うどん、パスタ等の広幅の麺線及び即席麺を高品質かつ高効率で製造することができる。
【0011】
上述の記載は、本発明の全ての実施形態及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図である。
図2】一実施形態の一対の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図である。
図3】別の実施形態の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図である。
図4】別の実施形態の一対の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図である。
図5】切刃ロールの環状溝部及び刃部と麺帯との寸法関係を示す概略断面図である。
図6】麺帯が麺線に切断されるときの力の加わり方を示す概略断面図である。
図7】波状断面を有する麺線の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施形態を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0014】
本開示における「麺類」とは、小麦粉、澱粉、米粉、そば粉、マメ粉等を主原料として含み、線状に加工され、茹でる、煮る、炒める、熱湯を注水する、そのまま又は注水して電子レンジで加熱するなどの調理により喫食可能な状態となる食品を意味する。麺類として、例えば、うどん、きしめん、中華麺、そば、パスタ等が挙げられる。調理前の麺類の状態として、生麺、乾麺、蒸麺、茹で麺、冷凍麺、及び即席麺等が挙げられる。
【0015】
本開示における「即席麺」とは、麺類のうち生麺、蒸麺又は茹で麺を加熱乾燥して、麺に含まれる水分を、油揚げ乾燥の場合は約2~10質量%、熱風乾燥の場合は約6~14.5質量%となるまで除去することにより、長期保存可能とした食品を意味する。製造工程中にα化工程が含まれず、かつ常温又は低温で長時間乾燥させたものを「乾麺」という。本開示において、乾麺は即席麺とは区別され即席麺から除かれる。
【0016】
本開示における「麺線」とは、切刃装置によって機械的に麺帯から切り出された麺を意味する。本発明により製造される麺線の断面形状は、円形、楕円形、正方形、矩形、又はこれらの形状の一部の組み合わせ若しくは厚さが異なる同一形状の組み合わせによる、波状の輪郭を有する形状であり、それらの角部は面取りされていてもよい。
【0017】
本開示における「麺線束」とは、複数の環状溝部を有する1つの切刃ロールから取り出される一群の複数の麺線を意味する。一対の切刃ロールを備える切刃装置を用いると、それぞれの切刃ロールから麺線束が取り出される。これらの2つの麺線束は、通常その後の工程で積み重なって処理される。
【0018】
本開示における「通常の麺線と同様の食感」とは、調理後の麺線を喫食した際に知覚する麺線の硬さが、麺線の幅方向にわたって「均一」又は「概ね均一」であることを意味する。「均一」とは、硬さが麺線の幅方向にわたって実質的に同一であることを意味する。「概ね均一」とは、硬さは麺線の幅方向でやや不均一で異なる部分があるが、麺線全体の湯戻りは喫食に充分であることを意味する。
【0019】
麺帯は公知の方法により用意することができる。
【0020】
例えば、主原料と、水、食塩、かん水等の副原料とを混練してドウを形成する。主原料及び副原料の混練には、ニーダ、プラネタリーミキサなどを用いることができる。ドウの形状は一般に不定形であるが、混練した後に押出機等を用いて円筒状、角筒状等に成形されていてもよい。主原料として、小麦粉、澱粉、米粉、そば粉、マメ粉等が挙げられる。
【0021】
その後、ドウを麺線の切出しに適した厚みを有するシート状に加工して麺帯を形成する。加工の方法としては、圧延により形成される中間物である2枚又は3枚の粗麺帯を複合機によって重ねた後、次の圧延ロールでさらに圧延することが挙げられる。別の加工方法としては、ドウを押出機によって直接シート状に押出することが挙げられる。
【0022】
次に麺帯は切刃装置により麺線に切り出される。
【0023】
切刃装置は一対の切刃ロールを有する。切刃ロールの材料として、ステンレス、鉄等を使用することができる。切刃ロールはそれぞれ、切刃ロールの長手方向に沿って交互に配置された複数の環状溝部及び複数の刃部を有し、切刃ロールは、一方の切刃ロールの環状溝部と他方の切刃ロールの刃部とが係合するように配置されている。切刃ロールの環状溝部はそれぞれ、切刃ロールの長手方向に沿って隣り合う刃部に近い部分に2つの第1溝部と、2つの第1溝部の間に、それら2つの第1溝部よりも深い第2溝部とを有する。
【0024】
図1に、一実施形態の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図を示す。切刃ロール100Aには、その長手方向に沿って、複数の環状溝部10及び複数の刃部20が交互に配置されている。環状溝部10はそれぞれ、切刃ロール100Aの長手方向に沿って隣り合う刃部20に近い部分に2つの第1溝部12と、2つの第1溝部12の間にこれらよりも深い第2溝部14を有する。図1中、Wは刃部20の幅であり、Wは環状溝部10の幅であり、WG1は第1溝部12の幅であり、WG2は第2溝部14の幅である。
【0025】
一般に、刃部20の幅Wと環状溝部10の幅Wは等しいか、環状溝部10の幅Wは刃部20の幅Wよりもわずかに、例えば刃部20の幅Wより10μm~100μm大きい。
【0026】
一実施形態では、環状溝部の幅Wは2.0mm~30mmであり、好ましくは2.3mm~15mmであり、より好ましくは3.2mm~10mmである。本発明は、このような比較的大きい幅を有する環状溝部により切り出される広幅の麺線に対してより効果的である。本開示において、幅が2.0mm以上の環状溝部を有する切刃ロールから形成される麺類を広幅麺といい、広幅麺として、例えば、うどん、フェットチーネ等の一部のパスタ、佐野ラーメン、喜多方ラーメン、沖縄そば等の特定の地場麺、きしめん、平麺等が挙げられる。
【0027】
一実施形態では、第1溝部の幅WG1は0.5mm~11.3mmであり、好ましくは0.6mm~5.6mmであり、より好ましくは0.8mm~3.8mmである。
【0028】
一実施形態では、第2溝部の幅WG2は0.5mm~15mmであり、好ましくは0.6mm~7.5mmであり、より好ましくは0.8mm~5.0mmである。
【0029】
一実施形態では、第1溝部の幅WG1と第2溝部の幅WG2の比は0.5:1~1.5:1であり、好ましくは0.7:1~1.3:1であり、より好ましくは0.9:1~1.1:1である。第1溝部の幅WG1と第2溝部の幅WG2の比が0.5:1以上であることで、効果的に麺材料を第2溝部に押し出すことができる。第1溝部の幅WG1と第2溝部の幅WG2の比が1.5:1以下であることで、麺線の断面形状がT字(凸字)状になることを抑制することができる。T字(凸字)状の断面を有する麺線は、湯戻ししたときに麺線内で異なる硬さを有する食感、すなわち厚みが大きく湯戻りしにくい凸部が硬く、他の部分が柔らかい食感が望まれる場合に用いられることがあるが、通常の麺線とは異なる食感を有するため、本開示においては好ましくない。
【0030】
麺帯を切刃装置に通す際に、刃部と協働して麺材料を第2溝部に効果的に押し出すために、第1溝部の断面は平坦部を有することが望ましい。一実施形態では、第1溝部の幅WG1の5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上の領域で第1溝部の断面は平坦である。
【0031】
第2溝部の断面形状は特に限定されない。第2溝部の断面は、半円形、半楕円形、正方形、矩形、三角形又はこれらの形状の一部の組み合わせであってよく、それらの角部は面取りされていてもよい。
【0032】
図2に、一実施形態の一対の切刃ロールの長手方向に沿った部分概略断面図を示す。切刃ロール100A及び100Bは、切刃ロール100Aの環状溝部と切刃ロール100Bの刃部とが係合し、切刃ロール100Bの環状溝部と切刃ロール100Aの刃部とが係合するように配置されている。図2中、Dは、切刃ロール100Aの第1溝部12と切刃ロール100Bの刃部20との最短距離であり、Dは、切刃ロール100Aの第2溝部14と切刃ロール100Bの刃部20との最短距離である。D及びDはそれぞれ、切刃ロール100Bの第1溝部12及び第2溝部14と、切刃ロール100Aの刃部20との最短距離でもある。
【0033】
一実施形態では、Dは0.3mm~1.5mmであり、好ましくは0.4mm~1.0mmであり、より好ましくは0.5mm~0.8mmである。
【0034】
は、麺帯の厚さTと第1溝部との比率、及び第2溝部の幅WG2によって変動する。一般に、切刃ロールの各溝に供給される麺帯の断面積よりも、切刃ロール各溝において環状溝部及び刃部により形成される単位空隙の断面積が大きくなるようにDが設定される。なお、麺材料が押し出される際に、麺帯は、圧縮されて生じた応力により歪むため、切刃ロールの各溝に供給される麺帯の断面積と切刃ロール各溝の単位空隙の断面積が同一である場合でも、麺帯が単位空隙を完全には充填しない場合がある。例えば、麺帯の厚さTがDのN倍であり、第1溝部12の第2溝部14に隣接する面取りされた部分の面積をSとしたとき、D≧D+[(N-1)×D×W-S]/WG2である。面取りされた部分がない場合、すなわちSc=0の場合、上式はD≧D+[(N-1)×D×W]/WG2と書き換えることもできる。
【0035】
麺材料が第2溝部の底(平坦部)に接触すると、麺線表面が荒れるおそれや、環状溝部から麺線を剥がしにくくなるおそれがある。このため、Dは、麺材料が第2溝部の底(平坦部)に接触しないよう充分に余裕をもった大きさ(深さ)とすることが好ましい。例えば、Dは、3.0mm以上、4.0mm以上、5.0mm以上、又は8.0mm以上である。なお、Dをより大きく(深く)しても第2溝部14に麺材料が押し出されるという効果が消失することはない。しかしながら、一般的な切刃ロール径を考慮すると、例えば、Dは、10mm以下、15mm以下、又は20mm以下である。
【0036】
第1溝部12の第2溝部14に隣接する部分が面取りされていてもよい。これにより、麺帯の切断時に第1溝部12から第2溝部14に麺材料をよりスムーズに押し出すことができる。また、切り出される麺線の断面形状がT字状(凸状)になることを、より効果的に抑制することができる。図3及び図4に、第1溝部12の第2溝部14に隣接する部分が面取りされた、別の実施形態の切刃ロール100A及び一対の切刃ロール100A、100Bの部分概略断面図を示す。
【0037】
切刃装置に通される麺帯の厚さは、Dの2.0~2.7倍である。図5に、切刃ロールの環状溝部及び刃部と麺帯との寸法関係を概略断面図で示す。麺帯30の厚さTはDよりも大きく、Dの2.0~2.7倍である。第1溝部と刃部の間隔よりも厚い麺帯を切刃装置に通すと、図6に示すように、麺帯が麺線に切断されるときに、対向する第1溝部及び刃部により麺帯が圧縮されて、麺材料の一部が第1溝部から第2溝部に押し出されて移動する。これにより、麺線が変形しながら切り出されて、図7に示すような波状断面を有する麺線40を製造することができる。波状断面を有する麺線は、麺線同士の接触面積を少なくすることができ、麺線同士の付着を効果的に抑制又は防止することができる。また、麺帯の厚さをDの2.0~2.7倍とすることにより、麺線の断面を過度に変形させずに、外観及び喫食時に違和感のない麺線を提供することができる。麺線40は、第1溝部及び刃部による圧縮及び切断時に生じた内部応力を有してもよい。図7では、麺線40の左右端部は上側に沿って変形して示されており、この変形は、第1溝部及び刃部による圧縮及び切断時のせん断力より麺線に生じた内部応力に起因する。
【0038】
麺帯の厚さTはDの2.0~2.5倍であることが好ましい。これにより、より均一な食感を有する麺線を形成することができる。
【0039】
一実施形態では、麺帯の厚さTは0.6mm~4.0mmであり、好ましくは0.8mm~2.5mm、より好ましくは1.0mm~2.0mmである。
【0040】
麺帯の厚さTは、麺帯が環状溝部及び刃部により形成される単位空隙を完全に充填しないように決定されることが望ましい。図2及び図4に、環状溝部及び刃部により形成される単位空隙の断面Sを示す。一実施形態では、上記単位空隙に通される麺帯の断面積は、上記単位空隙の断面Sの面積の90%以下であり、好ましくは85%以下であり、より好ましくは80%以下である。
【0041】
各切刃ロールを、ギアを介してモータ等の駆動装置に連結し、一対の切刃ロールを互いに反対方向に回転させながら切刃ロール間に麺帯を通すことにより、一方の切刃ロールの刃部及び他方の切刃ロールの環状溝部により麺帯が麺線へと切断される。
【0042】
麺帯の切断により形成された麺線は、切刃ロールの環状溝部に入り込む。環状溝部にある麺線は、スクレーパを用いて切刃ロールから剥離することができる。
【0043】
一実施形態では、一対の切刃ロールは水平方向に並べて配置されて、スクレーパにより剥離された麺線は鉛直方向に移動(落下)する。別の実施形態では、一対の切刃ロールは水平方向から0度超、90度以下の角度を成す方向に並べて配置されて、スクレーパにより剥離された麺線は、斜め下方向に移動しながら落下する。
【0044】
スクレーパとして切刃装置に使用される公知のものを使用することができる。スクレーパは、切刃ロールの長手方向に沿って延びる板状部と、板状部の長辺に、その長辺と略直交する方向に延びる複数の突起部を有する。複数の突起部はそれぞれ、切刃ロールの複数の環状溝部の対応する1つに係合して複数の環状溝部にある麺線を切刃ロールから剥離する。1つの切刃ロールから剥離された麺線は、切刃ロールの長手方向に沿って並んだ一群の複数の麺線から構成される麺線束となって、鉛直方向又は斜め下方向に向かって移動する。したがって、一対の切刃ロールから2つの麺線束が形成される。スクレーパは、カスリと呼ばれることもある。切刃ロールには稀に麺線の滓が付着したまま残留することがある。麺線の滓を切刃ロールから除去するために、スクレーパに、刃部に接触する複数の突起部を設けてもよい。
【0045】
スクレーパの板状部は複数の突起部を所定位置で保持する支持部材として機能し、複数の突起部に加わる応力を吸収することもできる。スクレーパの板状部を利用して、ボルト等によりスクレーパを筐体に固定することもできる。
【0046】
スクレーパの複数の突起部はまっすぐ伸びていてもよく、屈曲部又は湾曲部を含んでもよい。複数の突起部の角部は面取りされていてもよい。
【0047】
スクレーパは、一枚の板の一方の辺に、櫛歯状の切り込みを入れて複数の突起部を形成することにより得ることができる。板は1つ又は2つ以上の鈍角を有するように折り曲げられていてもよく、複数の突起部に相当する部分、複数の突起部と板状部との境界に相当する部分、又はそれらの両方が屈曲又は湾曲していてもよい。スクレーパの材料として、真鍮、リン青銅、ステンレス等を使用することができる。真鍮及びリン青銅は加工が容易であり、ステンレスは耐久性に優れている。
【0048】
切刃装置は、必要に応じて、切り出された麺線を受容するガイドをさらに備えてもよい。ガイドは、導管、誘導管、又は「ウェーブボックス」などと呼ばれることもある。切刃ロール、スクレーパ、及び任意のガイドは、ステンレス、鉄等を用いて形成された枠状の筐体に取り付けられていてもよい。
【0049】
ガイドとして、スクレーパによって切刃ロールから剥離された麺線を一旦受容して、その後、麺線をコンベア上に導く機能を有する、切刃装置に使用される公知のものを使用することができる。ガイドは、切刃ロールの長手方向に沿って配置された、麺線束を分割する仕切り板をさらに備えてもよい。ガイドは、一般に、一対の切刃ロールの直下又は斜め下方であって、かつ一対の切刃ロールとコンベアの間に、垂直方向に麺線が移動するように立てて、又は斜め下方向に麺線が移動するように傾斜して配置される。
【0050】
ガイドは、一般に樋状、板状、又は管状であり、ステンレス、プラスチック等の材料を用いて形成することができる。ガイドの上側は開放されていてもよく、ガイドの上側に開閉可能かつ開口部分の高さを調整可能な蓋を用いてもよい。蓋は、ガイドに取り付けられていてもよく、ガイドと一体であってもよく、ガイドとは別の部分、例えば切刃ロールが装着された筐体に取り付けられてもよい。ガイドと蓋とは同じ材料で形成されてもよく、異なる材料で形成されてもよい。例えば、ガイドをステンレス製としたときに、蓋は軟質プラスチック又はシリコーンゴム製のシートであってもよい。
【0051】
切刃ロールの直下又はガイドの出口の下方にコンベアを配置することができる。コンベアは特に限定されず、金網コンベア又はネットコンベア、ベルトコンベアなどであってよい。切り出された麺線は、コンベア上に直接又はガイドを通って移送される。一対の切刃ロールから形成された2つの麺線束はコンベア上又はガイド上で鉛直方向に積み重ねられて、後工程に移送されて処理される。
【0052】
切刃装置の直下に配置されたコンベアの搬送速度は、一般に切刃ロールの回転速度、すなわち麺線の切出し速度より小さくされる。スクレーパにより切刃ロールから剥離された麺線は、コンベア上に移されたとき、又はガイド上を移動している間に、コンベアの搬送速度と麺線の切出し速度の差による生じる抵抗を受けて縮れる。このように縮れた麺線の状態を、その形状から「ウェーブ」と表現する場合がある。上側に蓋を有するガイドを通して麺線をコンベア上に導く場合、ガイド及び蓋により画定された、より拘束された空間で麺線が縮れるため、麺線の縮れの度合い、すなわち「ウェーブ」の大きさをより均一にすることができる。上側に蓋を有するガイドを用いない場合、麺線に縮れを形成するためには、切刃ロールの直下にコンベアを配置することが望ましい。切刃ロールとコンベアの距離が離れていると麺線に縮れが形成されない場合がある。切刃ロールとコンベアの距離がどの程度で麺線に縮れが形成されるかは、麺線の原材料、製造条件等により異なるので、コンベアは麺線に縮れが形成される程度に切刃ロールの「直下」にあればよい。上側に蓋を有するガイドを用いて麺線に縮れを形成する場合は、コンベアの配置及び切刃ロールとコンベアの距離に制限はない。
【0053】
麺線を蒸煮する場合、上記コンベアよりも若干高速で麺線束を搬送するコンベアを上記コンベアの直後又は後工程に配置してもよい。蒸煮を行う際、縮れの密度が高すぎると、麺線表面のα化により麺線同士が結着することがある。しかし、麺線同士の結着を防ぐことができる程度に縮れの密度が疎である麺線束を、切刃ロールの切出し速度とコンベアの搬送速度のみで実現しようとしても、好適な形状の縮れをつくることが難しい場合がある。そこで、切刃装置の直後のコンベア上では縮れが密な状態の麺線束をつくり、その後、蒸煮前により高速で麺線束を搬送するコンベアに移して、蒸煮時に麺線同士が結着しない程度に縮れの密度を緩和させることができる。コンベア速度がより高速になっていることにより、後工程の生産効率を高めることもできる。本発明により得られる麺線は波状断面を有するため、蒸し機内をコンベアが通過する際に生じる麺線同士の結着をより低減することができる。
【0054】
一実施形態の麺類の製造装置は、上記切刃装置を含む。麺類の製造装置は、ホッパーなどの主原料及び副原料の供給装置、主原料及び副原料を混練するニーダ、プラネタリーミキサなどの混合装置、押出機、ドウから麺帯を形成する圧延ロール及び複合機、麺線束を搬送するコンベア、麺線に含まれる澱粉質をα化する蒸煮機、麺線束を一食分の長さに切断する切断機、油揚げ乾燥機又は熱風乾燥機、包装機などを含んでもよい。
【0055】
一実施形態では、麺線は、中華麺、パスタ、うどん、及びそばからなる群より選択される麺類に使用される。
【0056】
一実施形態では、麺線の製造方法は、切り出された麺線を蒸煮してα化すること、及びα化された麺線を乾燥することをさらに含む。蒸煮は、麺線を熱湯で茹でることによって行ってもよく、麺線を高温、例えば99℃~100℃の水蒸気に1~2分間曝すことによって行ってもよい。乾燥は、油揚げ、熱風、マイクロ波照射、フリーズドライ、寒干しなどの様々な方法で行うことができる。
【0057】
一実施形態では、麺線は即席麺に使用される。即席麺は油揚げ麺であってもよく、熱風乾燥麺であってもよい。
【実施例
【0058】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施形態を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0059】
(1)実験1(例1~3、比較例1~5)
切刃ロールの環状溝部の浅いほうの溝部、すなわち第1溝部と、対向する刃部との間の最短距離Dを0.6mmで固定し、麺帯の厚さを0.9mm~1.9mmとした際の、得られる麺線の特徴の違いを評価した。環状溝部の第2溝部の深さDは4.4mmであった。
【0060】
小麦粉(ASW)10kg、食塩100g、炭酸ナトリウム10g、水3300mL(加水率33%)で麺原料を混練してドウを得た。得られたドウを複合及び圧延して表1に記載の厚さの麺帯を得た。これらの厚さの異なる麺帯を、切刃ロールにより麺線へと切り出した。切刃ロールの環状溝部の幅Wは6mm、いわゆる5番手であり、第1溝部と刃部との最短距離Dは0.6mmであり、第1溝部の幅WG1はそれぞれ2mm、第2溝部の幅WG2は2mmで、第1溝部の第2溝部に隣接する部分に1.5mmRの面取り加工(半径1.5mmの円弧を描くように丸く面取り)を施した。
【0061】
評価項目は以下のとおりである。
【0062】
麺帯厚さ
切刃ロールに通す前の麺帯の厚さを測定した。
【0063】
麺線厚さ
切刃ロールで切り出した後の麺線の厚さとして、一番厚い中央部分を測定した。
【0064】
形状
切刃ロールで切り出した後の、得られた麺線の断面形状を目視で観察した。実質的に平坦な形状のものをA、波状のものをB、中心部分の断面がT字状(凸状)のものをCと評価した。
【0065】
ほぐれ
麺線を2分間蒸煮した後の麺線同士の結着の有無を評価した。
【0066】
食感
蒸煮した麺線を98℃で40分間乾燥して即席麺(乾燥後質量80g)を得た。得られた即席麺を熱湯で5分間湯戻しして、麺を喫食したときの食感(幅方向の硬さ)を評価した。麺線の硬さが麺線の幅方向にわたって実質的に同一であったものを「均一」、硬さは麺線の幅方向でやや異なる部分があるが、麺線全体の湯戻りは喫食に充分であったものを「概ね均一」、硬さが異なる部分が明確に知覚されたものを「不均一」と評価した。不均一な食感の麺線には、充分に湯戻りして喫食に適度な柔らかさを有する部分と、湯戻りが不十分で喫食には不適当な硬さが残っている部分とが混在した。
【0067】
評価結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
(2)実験2(例4)
第1溝部と刃部との最短距離Dを0.5mmとした以外、実験1の比較例2と同様の条件で実験を行った。
【0070】
【表2】
【0071】
実験2により、本願発明の効果は、単に麺帯の厚さTに起因するのではなく、第1溝部と刃部との最短距離Dと麺帯の厚さTとの比T/Dにあることが理解できる。
【0072】
実験1及び実験2から、麺帯の厚さTを第1溝部と刃部との最短距離Dの2.0~2.7倍として、麺帯を本開示の特定形状を有する一対の切刃ロールに通した場合に、本願発明の効果を奏することが理解できる。
【0073】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施形態及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることも当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0074】
100A、100B 切刃ロール
10 環状溝部
12 第1溝部
14 第2溝部
20 刃部
30 麺帯
40 麺線
刃部幅
環状溝部幅
G1 第1溝部幅
G2 第2溝部幅
第1溝部と刃部の最短距離
第2溝部と刃部の最短距離
S 単位空隙の断面
T 麺帯厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7