(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】耐摩耗性アルミナ質焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/111 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
C04B35/111
(21)【出願番号】P 2019165938
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000230629
【氏名又は名称】株式会社ニッカトー
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】杉本 武史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山岡 健
(72)【発明者】
【氏名】山口 一茂
(72)【発明者】
【氏名】大西 宏司
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-221354(JP,A)
【文献】特開2013-095621(JP,A)
【文献】特開2014-114201(JP,A)
【文献】特開2006-089358(JP,A)
【文献】特開2009-091196(JP,A)
【文献】特開2008-024583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B28B 1/30
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件a)~h)を満たすことを特徴とする耐摩耗性アルミナ質焼結体。
a) Al
2O
3を主成分とし、SiO
2、CaO及びMgOを合計で5.0~10.0重量%含有する。
b) アルミナ結晶粒界のガラス相を形成するAl
2O
3、SiO
2、CaO及びMgOの合計含有量を100重量%としたとき、Al
2O
3:16.0~23.0重量%、SiO
2:65.0~79.0重量%、CaO:2.0~6.0重量%、MgO:2.0~8.0重量%である。
c) 不可避的不純物が0.5重量%以下である。
d) 気孔率が3.0%以下である。
e) アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の平均直径が0.5μm以下である。
f) アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の含有割合が、アルミナ質焼結体全体の3.0~10.0%である。
g) アルミナ質焼結体の平均結晶粒径が0.8~2.0μmである。
h) アルミナ質焼結体の最大結晶粒径が6.0μm以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗構造部材として有用な耐摩耗性アルミナ質焼結体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは金属材料に比べて高い耐摩耗性と耐食性を有することから、近年、様々な耐摩耗構造部材として採用されるようになっている。特に金属の摩耗粉の混入を防御するため、電子部品を始めとする先端材料の製造用原料粉体を処理する粉砕・分散機の部材に積極的に使用されるようになっている。耐摩耗性に優れたセラミックスとしてアルミナ、ジルコニア及び窒化珪素が使われているが、アルミナは高硬度で耐食性に優れており、かつ安価であるため使用される頻度が非常に高い。しかしながら、焼結性が低く高い温度で焼成しないと高密度の焼結体が得られないため、少量の焼結促進用成分を添加して焼成することが一般的に行われている。
一方、高硬度で耐摩耗性を有する焼結体にするには出来るだけ低温で焼成して微細組織にすることが必要不可欠である。低温で焼成するための対策として焼結促進用成分である焼結助剤を増やすことも考えられるが、焼結助剤の添加量が多くなると低温焼成が可能になる反面、焼成によりアルミナと焼結助剤が反応して焼結体の結晶粒界に多量のガラス相が生成する。このガラス相はアルミナ結晶粒子よりも硬度が低く脆いため摩耗しやすく、衝撃により割れや欠けなどが発生するという問題が生じる。
【0003】
これらの問題を解決するため、特許文献1には、Al2O3:88重量%以上95重量%未満をアルミナ質セラミックスの主成分とし、これに副成分としてSiO2:3.6~10重量%、MgO:0.2~2.5重量%、CaO:0.2~2.5重量%をそれらの合計が5~12重量%で、かつそれらの含有量の和を100としたときの各成分の割合がSiO2:72~85重量%、MgO:3~25重量%、CaO:3~25重量%となるように添加すると共に、不可避的不純物を0.5重量%以下に抑制し、欠陥量を5%以下にした、低温焼成が可能なアルミナ質焼結体が開示されている。しかしながら、耐摩耗性も耐衝撃性も十分とは言えない。
【0004】
また、特許文献2には、主としてAl2O3からなり、SiO2:20~90重量%、MgO:0~70重量%及びCaO:10~80重量%の三成分からなる焼結助剤の各成分を合計量として0.1~1.0重量%含有し、実質的に不可避的不純物が0.3重量%以下であり、平均結晶結晶粒径:0.5~5.0μm、かさ密度:3.70g/cm3以上、粉砕用ボールとしての摩耗率が0.2%/h以下である耐摩耗性及び耐食性を有するアルミナ質セラミックスが開示されている。しかしながら、このアルミナ質セラミックスは焼結助剤の含有量が少なくアルミナ含有量が多いため、焼成温度を高くする必要がある。その結果、結晶粒径分布が広くなって大きな結晶粒子が存在することになり、この大きな結晶粒子が基点となって摩耗特性の低下等を招くという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-221354号公報
【文献】特開2003-321270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来技術が抱える問題点を解決すべくなされたものであって、耐摩耗性だけでなく耐衝撃性にも優れ、衝撃による割れや欠けの発生を抑制したアルミナ質焼結体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意研究を行った結果、アルミナ原料粉体と焼結助剤を含有するアルミナ質焼結体において、焼結助剤の組成、結晶粒界に生成するガラス相の組成、該ガラス相の直径及び含有割合、及びアルミナ質焼結体の結晶粒径を一定の範囲内に制御すれば、安価な原料を用いて優れた耐摩耗性と耐衝撃性を有するアルミナ質焼結体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記課題は、次の(1)の発明によって解決される。
【0008】
(1) 下記の要件a)~h)を満たすことを特徴とする耐摩耗性アルミナ質焼結体。
a) Al2O3を主成分とし、SiO2、CaO及びMgOを合計で5.0~10.0重量%含有する。
b) アルミナ結晶粒界のガラス相を形成するAl2O3、SiO2、CaO及びMgOの合計含有量を100重量%としたとき、Al2O3:16.0~23.0重量%、SiO2:65.0~79.0重量%、CaO:2.0~6.0重量%、MgO:2.0~8.0重量%である。
c) 不可避的不純物が0.5重量%以下である。
d) 気孔率が3.0%以下である。
e) アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の平均直径が0.5μm以下である。
f) アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の含有割合が、アルミナ質焼結体全体の3.0~10.0%である。
g) アルミナ質焼結体の平均結晶粒径が0.8~2.0μmである。
h) アルミナ質焼結体の最大結晶粒径が6.0μm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価な原料を用いて耐摩耗性だけでなく耐衝撃性にも優れ、衝撃による割れや欠けの発生を抑制したアルミナ質焼結体が得られる。また、本発明のアルミナ質焼結体は、前記特性を有することから、粉砕・分散用ボール、粉砕・分散機ミルの内張材及び容器、分級機用部材など粉体処理に用いられる種々の機器の部品として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例6及び
比較例7の電子顕微鏡撮影画像(熱エッチングを施した画像)
【
図2】実施例6及び
比較例7の電子顕微鏡撮影画像(HF処理後の画像)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、上記本発明の各構成要件について説明する。
・要件a)について
本発明のアルミナ質焼結体は、Al2O3を主成分とし、SiO2、CaO及びMgOを合計で5.0~10.0重量%含有する。即ち本発明のアルミナ質焼結体は、Al2O3と、SiO2、CaO及びMgOと、不可避的不純物からなる。
上記SiO2、CaO及びMgOの合計含有量が5.0重量%未満の場合は、焼結性が低下するため気孔率が大きくなり、耐摩耗性及び耐衝撃性が低下する。また、高密度にするには高温での焼成が必要となり、その結果、結晶粒径が大きくなったり結晶粒径分布が広くなったりして耐摩耗性の低下を招く。一方、前記合計含有量が10.0重量%を越えると、焼結体中のガラス相の割合が増加してアルミナ結晶粒界の強度が低下し、耐摩耗性及び耐衝撃性が低下する。
【0012】
・要件b)について
本発明のアルミナ質焼結体では、アルミナ結晶粒界のガラス相を形成するAl2O3、SiO2、CaO及びMgOの合計含有量を100重量%としたとき、Al2O3:16.0~23.0重量%、SiO2:65.0~79.0重量%、CaO:2.0~6.0重量%、MgO:2.0~8.0重量%とする。
上記各成分の好ましい割合は、Al2O3:18.0~22.0重量%、SiO2:67.0~78.0重量%、CaO:2.0~4.0重量%、MgO:2.0~6.0重量%である。
添加した焼結助剤が全てアルミナと反応してアルミナ結晶粒界にガラス相を形成する訳ではなく、アルミナ結晶に固溶したり、僅かではあるが結晶粒界に第2相を形成することもあるため、ガラス相の組成は添加した焼結助剤の組成から大きくずれる場合がある。その結果、ガラス相の強度、硬度、破壊靱性、弾性率等が変化し、アルミナ質焼結体の耐摩耗性や耐衝撃性に大きな影響を与える。したがって、優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を実現するためアルミナ結晶粒界のガラス相の組成比を本発明の範囲内にする必要がある。
【0013】
Al2O3、SiO2、MgO、CaOの含有量が一つでも前記範囲から外れるとアルミナ結晶粒界の結合強度が低くなったり第2相粒子が生成し、硬度及び靱性の低下、相手材料との衝撃や摩擦による結晶粒子の脱粒が起こる。更に焼成過程でアルミナ結晶粒子の異常成長を招くことがあり、その結果、結晶粒子径の分布が広くなって、耐摩耗性、耐衝撃性及び耐食性の低下につながる。
前記アルミナ結晶粒界のガラス相の組成は下記の方法により分析することができる。
アルミナ質焼結体を40メッシュの粒度まで粉砕し、得られた粉体を超音波洗浄機によりイオン交換水で洗浄し、100℃で乾燥する。次いで、テフロン(登録商標)容器に濃度1%のHF水溶液10ccと乾燥させた粉体1gを入れ、4℃で24時間保持した後、残った粉体とHF水溶液とを濾過分離し、HF水溶液中に溶解している成分を、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)で分析する。
【0014】
・要件c)について
本発明のアルミナ質焼結体に含まれる不可避的不純物は0.5重量%以下とする必要があり、好ましくは0.3重量%以下である。主な不可避的不純物としては、Fe2O3、Na2O、K2O、TiO2が挙げられる。
不可避的不純物の含有量が0.5重量%を越えると、Na2O、K2O、TiO2がガラス相や第2相を形成して異常粒成長の原因となり、耐摩耗性及び耐衝撃性の低下を招く。
なお、不可避的不純物の含有量はできるだけ少ない方が好ましいが、現在の製造技術における下限は0.2重量%程度である。
【0015】
・要件d)について
本発明のアルミナ質焼結体は、気孔率を3.0%以下とする必要があり、好ましくは、1.0%以下である。なお、現在の製造技術では、気孔率の下限は0.3%程度である。
気孔率が3.0%を越えると特に大きな気孔が欠陥となって摩耗の起点となり耐摩耗性が低下するし、機械的特性も低下して耐衝撃性が低下する。
なお、ここでいう気孔率は開気孔率のことであり、測定はJIS1634に準拠する。
【0016】
・要件e)について
本発明のアルミナ質焼結体は、アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の平均直径を0.5μm以下とする必要があり、好ましくは0.4μm以下である。
本発明のアルミナ質焼結体におけるガラス相のサイズは、アルミナ純度が同レベルの従来のアルミナ質焼結体に比べて小さく、かつそのサイズ分布がシャープなため、耐摩耗性及び耐衝撃性に優れる上に、耐食性にも優れている。
ガラス相の平均直径が0.5μmを越えると、ガラス相の機械的特性がアルミナ結晶粒子よりも低いため摩耗の起点となったり、衝撃が加わった時に損傷して、焼結体の割れ、クラック、欠けの原因となる。なお、本発明では、ガラス相の平均直径について後述する評価方法を採用するが、この方法の場合、精度の点から下限は0.1μm程度である。
【0017】
ガラス相の平均直径は以下に示す方法で測定する。
焼結体を研磨加工して鏡面(5×5mm)に仕上げる。鏡面にした焼結体をイオン交換水を用いて超音波洗浄機で十分に洗浄し、テフロン(登録商標)容器に1%濃度のHF水溶液20ccを入れ、その中に洗浄した焼結体を入れて、4℃で24時間保持した後、取り出して十分にイオン交換水を用いて洗浄する。次いで100℃で乾燥させ、結晶粒径が100個以上観察できる倍率の電子顕微鏡で鏡面にした面を観察する。HFで処理すると2つの結晶がつながっている粒界のガラス相は除去できないが、3個以上の結晶で形成されている結晶粒界のガラス相は溶解して除去される。この除去された部分は楔状又は多角形の空洞となっているので、画像解析により面積を測定して等価円直径に換算し、100個のガラス相の等価円直径の平均値を平均直径とする。
【0018】
・要件f)について
本発明のアルミナ質焼結体では、アルミナ結晶粒界に生成しているガラス相の含有割合を3.0~10.0%とするが、好ましくは4.0~8.0%である。
前記ガラス相の含有割合が3.0%未満では焼結体の破壊靱性が低くなり、耐摩耗性及び耐衝撃性が低下する。一方、10.0%を越えると焼結体の硬度や強度が低下し、耐摩耗性及び耐衝撃性の低下を招く。
ガラス相の含有割合は、前記e)のガラス相の平均直径の測定におけるHF処理する前の鏡面加工した焼結体の気孔(電子顕微鏡では球状に観察される)を、上記ガラス相の平均直径を測定するときと同じ倍率で観察し、HF処理後の鏡面仕上げした面と対比することにより測定する。
即ち、HF処理後の電子顕微鏡写真を用いて観察した画像を画像解析して結晶粒子以外の面積を求め、同様にHF処理前の結晶粒子以外の面積を求めて、両者の差をガラス相の含有割合とする。得られた各面積から下式によりガラス相の含有割合を求めることができる。
ガラス相の含有割合(%)=[(S1-S2)/S3]×100
S1:HF処理後の結晶粒子以外の面積(μm2)
S2:HF処理前の結晶粒子以外の面積(μm2)
S3:電子顕微鏡で観察した画像の面積(μm2)
【0019】
・要件g)について
本発明のアルミナ質焼結体の平均結晶粒径は、0.8~2.0μmとする必要があり、好ましくは0.8~1.5μmである。
平均結晶粒径が0.8μm未満では焼結体の破壊靱性が低下し、衝撃による割れや欠け及び結晶粒子の脱粒が起こり易くなって、結果的に耐摩耗性の低下を招く。一方、2.0μmを越えると焼結体の硬さの低下や結晶粒径の分布が広くなり、大きな結晶粒子が起点となって耐摩耗性の低下を招く。
平均結晶粒径は以下に示す方法で求める。
鏡面加工した焼結体を熱エッチングし、電子顕微鏡を用いて視野に結晶粒子が100個以上観察できる倍率で観察し、その画像から1個1個の結晶粒子の面積を測定し、等価円直径に換算した直径:Lを用いて、結晶粒径=1.5×Lとして計算する。そして100個測定した時の平均値を採用する。
【0020】
・要件h)について
本発明のアルミナ質焼結体の最大結晶粒径は6.0μm以下とする必要があり、好ましくは5.0μm以下である。
上記最大結晶粒径とは前記g)で平均結晶粒径を求めるために算出した100個の結晶粒径中の最も大きいもののことである。
最大結晶粒径が6.0μmを越えると結晶粒径分布が広いことになり、焼結体としての硬度等のバラツキが大きくなったり、結晶粒径が大きい粒子が摩耗の起点となって耐摩耗性の低下を招く。なお、前述したように本発明では安価な原料を用いて優れたアルミナ質焼結体を得ることができるが、安価な原料は粒度分布が広いため、最大結晶粒径が3.0μm程度よりも小さい焼結体を得ることは難しい。
【0021】
本発明のアルミナ質焼結体は以下に示す方法で製造できる。
アルミナ原料にはアルミナ純度99.6重量%以上、比表面積3cm2/g以上の粉体を用いる。焼結助剤の原料としては、平均粒子径0.5μm以下、純度98重量%以上のSiO2(珪石、石英)粉体、MgO粉体及びCaO粉体を用いる。また、シリカゾル、エチルシリケート等の塩、Mg及びCaの水酸化物、Mg及びCaの炭酸化物の塩などを用いてもよい。更にSiO2用の天然原料としてカオリン等の粘土も使用できるが、予め粉砕した平均粒子径が0.8μm以下の微粉体を用いる必要がある。なお、これらの材料はいずれも市販品を用いることができる。また、各材料の平均粒子径は、必要に応じて周知のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いた慣用手段により測定することができる。
【0022】
本発明のアルミナ質焼結体は従来品と異なり、結晶粒界に生成するガラス相の組成及び平均直径並びに焼結体の結晶粒径及びその分布をシャープにすることにより高い耐摩耗性及び耐衝撃性を実現しているから、焼結助剤についても均一に微粉砕・分散することが重要である。そこで、予め焼結助剤の原料粉体だけを所定の組成比になるように配合して水と混合し、更に界面活性剤等を添加したりpH調整を行って均一分散性の高いスラリーを作製する。一般的には、添加する焼結助剤粉体を混合・乾燥し、熱処理後に再度粉砕する方法を採用するが、本発明の場合は、焼結性が低くなるのでこの方法は採用できない。
前述のようにして作製した焼結助剤を均一に分散させたスラリーに対し、アルミナ原料を所定量添加してスラリー状の混合物とし、スラリー中の粒子の平均粒子径が0.4~0.8μm、最大粒子径が2.5μm以下になるまで微粉砕・分散する。
該粒子径は、微粉砕・分散時の原料粉体と水との比率や界面活性剤等の添加、微粉砕・分散処理の時間、使用するミルの大きさや回転速度、ボールの大きさや充填量など通常の原料粉体の粉砕・分散条件の組み合わせにより適宜調整することができる。
【0023】
前記粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製LA-920)で測定し、体積基準で計算した積算値50%の値を平均粒子径、積算値90%の値を最大粒子径とする。溶媒にはヘキサメタリン酸ナトリウム2%水溶液を使用し、循環式で測定する。なお、相対屈折率は1.18とする。
スラリー中の微粒子の平均粒子径は0.4~0.8μm、好ましくは0.5~0.7μm、最大粒子径は2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下とする。最大粒子径の下限は1.5μm程度である。
平均粒子径が0.4μm未満では成形性が悪くなり、その結果、成形体密度の均一性が低下すると共に欠陥が多く発生してしまう。一方、平均粒子径が0.8μmを越えると焼結性が低下し、所定の密度にするために高い温度での焼成が必要となり、その結果、結晶粒径やそのバラツキが大きくなったり、異常粒成長が発生しやすくなったりして耐摩耗性及び耐衝撃性が低下する。
また、最大粒子径が2.5μmを越えると粉体粒子径のバラツキが大きくなり、ブロードな粒子径分布となるため、焼結体の結晶粒径のバラツキ等が起こりやすくなったり、結晶粒界に生成するガラス相のサイズにバラツキが生じる。
【0024】
前記微粉砕・分散したスラリーに対し、バインダーのポリビニルアルコール、アクリル樹脂、パラフィンワックスエマルジョン等の周知の材料を所定量添加し、スプレードライヤーで乾燥・造粒して成形粉体とする。次いで、得られた成形粉体を用いてセラミックスの製造における常法に従って金型プレス、冷間静水圧成形(CIP)等により所定の形状に成形する。成形方法としては鋳込成形、押出成形、射出成形、造粒成形等を採用しても良い。次いで得られた成形物を1300~1600℃、好ましくは1350~1580℃で焼成することにより、優れた耐摩耗性及び耐衝撃性を有するアルミナ質焼結体が得られる。焼結体の特性は、原料粉体の粉砕粒度や分布、成形体の焼成温度に応じて得られる焼結体の平均結晶粒径、最大結晶粒径、及び結晶粒界に生成するガラス相の組成や量によって変化するので、各因子を適宜組み合わせることにより目的とする特性の焼結体を得ることができる。なお、このような各因子の組合せは当業者が通常行っている操作である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、例中の「%」は、気孔率と、ガラス相の含有割合を除き、「重量%」である。
【0026】
実施例1~13、比較例1~17
アルミナ原料粉体には、純度:99.7%、平均粒子径:65μm、比表面積:4m2/gのものを使用した。なお、実施例11、比較例2、比較例15では、純度99.8%、平均粒子径:0.45μm、比表面積:7m2/gのものを使用した。
焼結助剤粉体のMgO及びCaOには平均粒子径が0.5μmの市販の炭酸塩を用い、SiO2には市販のカオリン原料を粉砕して平均粒子径0.6μmとしたものを用いた。カオリン原料の平均粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製LA-920)を用いて定法に従い測定した。
上記焼結助剤粉体を、水と共に、MgO:0.2~2.5%、CaO:0.2~2.5%、SiO2:3.6~10%となるように配合し、92%アルミナ製ポットミル(ニッカトー社製HD、内容積7.2リッター)とφ10mmの92%アルミナ製ボール(ニッカトー社製HD)を用いて、湿式粉砕・分散し、均一分散性を高めるため界面活性剤としてサンノブコ社製のポリカルボン酸ナトリウム塩を添加し、焼結助剤のスラリーを得た。
次いで、上記焼結助剤のスラリーにアルミナ原料粉体を混合して、〔表1〕の各実施例及び比較例の欄に示す平均粒子径及び最大粒子径を有する成形用のスラリーを作製し、これにバインダーとしてポリビニルアルコール水溶液を5%添加し、スプレードライヤーで乾燥・造粒して成形用粉体を得た。次いで、該成形用粉体を球状に造粒成形し、〔表1〕の各実施例及び比較例の欄に示す焼成温度で焼成して、各実施例及び比較例に対応するφ1mm及び20mmのボールを作製した。各ボール表面はバレル研磨して粉砕用ボールとした。
なお、比較例15については、アルミナ原料粉体と焼結助剤粉体を一度に配合した点を除き、上記と同様にして粉砕用ボールを作製した。
【0027】
〔表1〕に、得られた粉砕用ボールの特性として、SiO
2+CaO+MgO含有量、不可避的不純物量、気孔率、平均結晶粒径と最大結晶粒径、ガラス相の組成比、ガラス相の平均直径と含有割合を示す。また、アルミナ原料と焼結助剤の混合物を微粉砕・分散した成形用粉体の平均粒子径と最大粒子径、焼成温度も示す。
なお、比較例6の「※」は、気孔率が高いため測定が不可能であったことを示す。
更に、〔
図1〕〔
図2〕として、実施例6及び
比較例7の微構造観察画像(電子顕微鏡撮影画像)を示す。〔
図1〕が熱エッチングを施した画像、〔
図2〕がHF処理後の画像である。なお、〔
図2〕において、色調が黒色の部分がガラス相、それ以外の灰色の部分が結晶粒子である。
上記ガラス相の組成比は、前述した方法により、島津製作所製ICP発光分光分析装置ICPS-8100を用いて測定した。
また、上記ガラス相の平均直径と含有割合は、前述した方法により、日立ハイテクノロジーズ社製電子顕微鏡SU-8020を用いて測定し、画像解析により面積を測定して求めた。
また、上記平均結晶直径と最大結晶粒径は、前述した方法により、上記ガラス相の測定の場合と同じ電子顕微鏡を用いて得られた画像を基にして求めた。
【0028】
上記実施例及び比較例に係る各粉砕用ボールについて、下記の条件で摩耗特性評価を行った。
<1> φ1mmボールの湿式粉砕テスト
粉砕機としてシンマルエンタープライズ社製ダイノーミル:KDL-PILOT(ベッセル材質:92%アルミナ(ニッカトー社製HD-11、ベッセル容量:500cc、ディスク材質:ウレタン製)を用い、これにφ1mmボールを400cc充填し、粉砕用粉体として、市販の凝集した二次粒子径:40μm、比表面積:1.5m2/gのアルミナ粉体を用い、水を溶媒として、スラリー濃度:50%、ディスク回転数:8m/sec、スラリー流量:300cc/secの条件で6時間粉砕した。粉砕後、ボールを取り出し、十分に洗浄・乾燥して秤量し、下式により単位時間当たりの摩耗率を求めた。
このテストは、粉砕の対象としてアルミナ粉体を用いた場合の、φ1mmボールの摩耗の程度を調べるものであり、摩耗率が低いほど優れていることになる。
摩耗率(%/h)={[(Wb-Wa)/Wb]×100}/6
(Wa:テスト後のボール重量 Wb:テスト前のボール重量)
【0029】
<2> φ20mmボールの乾式粉砕テスト
92%アルミナ製ポットミル(ニッカトー社製HD、内容積7.2リッター)にφ20mmボールを200個入れ、乾式により回転数78rpmで48時間運転した。運転後のボールを十分に洗浄・乾燥して秤量し、下式により摩耗率を求めた。
このテストは、乾式条件において粉砕の対象となる粉体を入れない場合の摩耗テスト(空ずり摩耗テスト)であり、摩耗率が低いほど優れていることになる。
摩耗率(%)=[(Wb-Wa)/Wb]×100
(Wa:テスト後のボール重量 Wb:テスト前のボール重量)
また、秤量後のボールにブラックインキを塗布し、水で洗浄した後、十分に乾燥させて表面を観察し、ボールの割れやボール表面のクラック及び欠けの有無を評価した。
【0030】
〔表2〕に上記テスト<1><2>の評価結果を示すが、実施例のアルミナ質焼結体からなる粉砕ボールは湿式粉砕テストでの摩耗率が全て0.3%/h以下という高い摩耗特性を示した。また、乾式粉砕テストにおいても摩耗率が全て0.39%以下であり、かつ、ボールの割れ、クラック、欠けが見られず、高い摩耗特性と耐衝撃性を有していることが確認できた。なお、比較例6の「※」は、〔表1〕の場合と同様に、気孔率が高いため測定が不可能であったことを示す。
【0031】
【0032】