(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】防水押え層の破砕方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20230804BHJP
【FI】
E04G23/08 B
(21)【出願番号】P 2019169084
(22)【出願日】2019-09-18
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000150006
【氏名又は名称】日本総合住生活株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松川 忠文
(72)【発明者】
【氏名】中村 光扶
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-169088(JP,A)
【文献】特開2011-153500(JP,A)
【文献】実開昭62-67051(JP,U)
【文献】特開昭62-94658(JP,A)
【文献】特開2003-232134(JP,A)
【文献】特開2017-160597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G23/00-23/08
E04F15/00
E01C23/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水押え層に形成した下穴を介して、前記防水押え層をコンクリート躯体から離反させるようにして破砕する破砕装置を用い、
浴槽設置部と洗い場部とから成る浴室の、前記防水押え層を破砕する防水押え層の破砕方法であって、
前記防水押え層に対し、平面内における縦方向および横方向にそれぞれ所定のピッチで且つ防水層に達するように、複数の前記下穴を穿孔する下穴穿孔工程と、
前記防水押え層に対し、平面内における縦方向および横方向の少なくとも一方向に直線状の切込みを入れて、1以上の前記下穴を含む複数の個別破砕区画を形成する区画形成工程と、
前記破砕装置により、前記下穴を介して複数の前記個別破砕区画を順に破砕する破砕工程と、を備え、
前記破砕工程では、前記防水押え層の薄い前記浴槽設置部から破砕を開始し、その後、前記防水押え層の厚い前記洗い場部に移行して破砕を行うことを特徴とする防水押え層の破砕方法。
【請求項2】
前記浴槽設置部における前記破砕工程では、浴室排水口を含む第1の前記個別破砕区画から、最初の破砕を開始することを特徴とする請求項1に記載の防水押え層の破砕方法。
【請求項3】
前記破砕装置は、前記下穴に挿入されると共に先端部に外向きのクサビ状突起を有する一対のライナーと、前記一対のライナーに対し軸方向に前進駆動し、前記一対のライナーを径方向に押し広げると共に前記下穴の穴底を受けとして前記一対のライナーを相対的に上動させるウェッジと、を有し、
前記最初の破砕では、前記一対のライナーを押し広げる方向が前記縦方向および前記横方向となるように、前記ウェッジの前進による第1の前記個別破砕区画の破砕を2回に分けて行うことを特徴とする請求項2に記載の防水押え層の破砕方法。
【請求項4】
前記破砕工程では、第1の前記個別破砕区画を除き、前記各個別破砕区画の破砕は、既に破砕されている前記個別破砕区画に隣接するものから行うことを特徴とする請求項2または3に記載の防水押え層の破砕方法。
【請求項5】
下穴穿孔工程では、更に、前記浴室の各入隅部に複数の補完用下穴を集約的に穿孔することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の防水押え層の破砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水層を介してコンクリート躯体の表面に施工した防水押え層の破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の破砕方法として、コンクリート躯体の表面からモルタル層を剥離するモルタル層の剥離方法が知られている(特許文献1参照)。
この剥離方法は、モルタル層に、モルタル層剥離具を係止させるための複数の剥離具用係止部を、互いに距離を持たせるようにして形成する工程と、剥離具用係止部のそれぞれを囲むようにモルタル層を切断して、その切断部によってモルタル層を複数の切断区画部に区画形成する工程と、モルタル層の表面側に硬化樹脂層を、その表面の略全体に接着させるようにして形成する工程と、剥離具用係止部にモルタル層剥離具を係止すると共に、その係止したモルタル層剥離具を操作することにより、その剥離具用係止部を囲んだ切断区画部をコンクリート躯体の表面から引き離して剥離させる工程と、を備えている。
この場合、1の切断区画部が他の切断区画部から切断・分離されているため、1の切断区画部の全体を、コンクリート躯体表面から容易に剥離させることができる。また、モルタル層の表面に硬化樹脂層が形成されているため、剥離具用係止部の周部を、小片状の破断片に破断し難いものとすることできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、築50年前後の古い集合住宅では、浴室は造付けのものであり、これをユニットバスに改修する場合、高さを稼ぐため浴室の防水押え層を破砕・撤去する必要がある。この種の浴室では、コンクリート躯体(スラブ)の上に周囲を立ち上げるようにして防水層が設けられ、且つ防水層の上にモルタルや軽量コンクリート等の防水押え層が設けられている。この場合、浴槽と洗い場との高さ関係から、浴槽を設置する部分の防水押え層は一般的な厚みとなっているが、洗い場の防水押え層は極端に厚いものとなっている。このような浴室の防水押え層を破砕する場合、大型の機器は持ち込めず、低騒音且つ低出力の機器を用いて、効率良く作業を進める必要がある。
この点において、上記従来のモルタル層の剥離方法では、任意の1の切断区画部の全体をコンクリート躯体表面から剥離させるようにしているため、切断区画部の区画割を小さく必要があり、その分、剥離具用係止部(下穴)の数や切断区画部を区画形成するための切断部の長さ長くなり、作業効率が悪化する問題がある。
また、モルタル層(防水押え層)が厚い洗い場では、コンクリート躯体に達する剥離具用係止部(下穴)の穿孔は可能であっても、狭いスペースを考慮した小型のカッターでは、コンクリート躯体に達する切断部を形成することは不可能である。このため、洗い場においては、切断区画部の全体をコンクリート躯体表面から剥離させることができず、切断区画部の下層部がコンクリート躯体側に残ってしまう問題がある。
【0005】
本発明は、浴槽設置部と洗い場部とから成る浴室の防水押え層を、確実且つ効率良く破砕することができる防水押え層の破砕方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の防水押え層の破砕方法は、防水押え層に形成した下穴を介して、防水押え層をコンクリート躯体から離反させるようにして破砕する破砕装置を用い、浴槽設置部と洗い場部とから成る浴室の、防水押え層を破砕する防水押え層の破砕方法であって、防水押え層に対し、平面内における縦方向および横方向にそれぞれ所定のピッチで且つ防水層に達するように、複数の下穴を穿孔する下穴穿孔工程と、防水押え層に対し、平面内における縦方向および横方向の少なくとも一方向に直線状の切込みを入れて、1以上の下穴を含む複数の個別破砕区画を形成する区画形成工程と、破砕装置により、下穴を介して複数の個別破砕区画を順に破砕する破砕工程と、を備え、破砕工程では、防水押え層の薄い浴槽設置部から破砕を開始し、その後、防水押え層の厚い洗い場部に移行して破砕を行うことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、防水押え層に、縦横所定のピッチで複数の下穴を形成すると共に、縦横所定のピッチで切込みを入れて複数の個別破砕区画を形成した後、破砕装置により、下穴を介して各個別破砕区画をコンクリート躯体から離反させる。個別破砕区画をコンクリート躯体から離反させる過程では、下穴を基点としてクラックが生じ破壊に至る。クラックは、強度的に、個別破砕区画(防水押え層)が厚いものよりは、薄いものの方が入り易い。また、クラックは、切込みにより隣接する個別破砕区画との縁切りが完璧に為されている方が、隣接する個別破砕区画の強度的影響を受けないため入り易い。したがって、洗い場部の防水押え層に比して、浴槽設置部の防水押え層の方が破砕し易いことになる。
この場合、防水押え層の薄い浴槽設置部から破砕を開始し、その後、防水押え層の厚い洗い場部に移行して破砕を行うようにしているため、比較的破砕し易い浴槽設置部から破砕を行うことになる。浴槽設置部の破砕を行った状態において、これに隣接する洗い場部の各個別破砕区画は、その4辺のうちの少なくとも1辺は、浴槽設置部側の個別破砕区画の強度的影響を受けることがない。このため、洗い場部の各個別破砕区画において、切込みがコンクリート躯体に達していなくても、クラックが入り易く破砕を容易に行うことができる。したがって、浴槽設置部と洗い場部とから成る浴室の防水押え層を、確実且つ効率良く破砕することができる。
なお、下穴穿孔工程と区画形成工程とは、下穴穿孔工程を先行して行ってもよいし、区画形成工程を先行して行ってもよい。
【0008】
この場合、浴槽設置部における破砕工程では、浴室排水口を含む第1の個別破砕区画から、最初の破砕を開始することが好ましい。
【0009】
浴槽設置部および洗い場部には、浴室排水口に向かって下り傾斜の排水勾配が設けられている。したがって、浴室における防水押え層は、浴室排水口の部分が最も薄いものとなる。
この構成によれば、浴室の防水押え層において、最も薄い、すなわち最もクラックの入り易い浴室排水口を含む第1の個別破砕区画から、最初の破砕を行うようにしている。このため、最も破砕し易い個別破砕区画から破砕を開始することができる。第1の個別破砕区画を破砕した後は、これに隣接する個別破砕区画においては、その4辺のうちの少なくとも1辺は、第1の個別破砕区画の強度的影響を受けず、その分、破砕を容易に行うことができる。したがって、浴槽設置部の防水押え層を、効率良く破砕することができる。
【0010】
この場合、破砕装置は、下穴に挿入されると共に先端部に外向きのクサビ状突起を有する一対のライナーと、一対のライナーに対し軸方向に前進駆動し、一対のライナーを径方向に押し広げると共に下穴の穴底を受けとして一対のライナーを相対的に上動させるウェッジと、を有し、最初の破砕では、一対のライナーを押し広げる方向が縦方向および横方向となるように、ウェッジの前進による第1の個別破砕区画の破砕を2回に分けて行うことが好ましい。
【0011】
一対のライナーを押し広げて個別破砕区画の破砕を行う場合、一対のライナーの拡開方向と直交する方向にクラックが生ずる。
この構成によれば、第1の個別破砕区画に対し、下穴を中心に縦横十字状にクラックを発生させることができ、最初の破砕箇所となる第1の個別破砕区画を確実に破砕することができる。
【0012】
また、破砕工程では、第1の個別破砕区画を除き、各個別破砕区画の破砕は、既に破砕されている個別破砕区画に隣接するものから行うことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、任意の1の個別破砕区画の破砕において、4辺のうちの少なくとも1辺については、隣接する個別破砕区画の強度的影響を排除することができ、その分、破砕を容易に行うことができる。したがって、破砕作業を効率良く進めることができる。
【0014】
一方、下穴穿孔工程では、更に、浴室の各入隅部に複数の補完用下穴を集約的に穿孔することが好ましい。
【0015】
防水押え層への切り込みは、一般的にディスクのダイヤモンドカッターを用いるが、浴室の入隅部では、側壁の制約を受けるため、十分な切り込みをいれることは不可能となる。
この構成によれば、浴室の各入隅部に複数の補完用下穴を集約的に穿孔するようにしているため、切り込みが不十分であっても、入隅部を含む個別破砕区画を確実に破砕することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態における既設浴室の床廻りの平面詳細図(a)、およびその断面詳細図(b)である。
【
図3】破砕装置の破砕ヘッド廻りの構造図であって、一対のライナーが非拡開位置に移動した図(a)、および拡開位置に移動した図(b)である。
【
図4】破砕装置による防水押え層の破砕手順を表した説明図であって、破砕手順1を表した図(a)、破砕手順2を表した図(b)、破砕手順3を表した図(c)である。
【
図5】防水押え層の破砕方法の説明図(1)であって、作業手順1を表した図(a)、作業手順2を表した図(b)、作業手順3を表した図(c)である。
【
図6】防水押え層の破砕方法の説明図(2)であって、作業手順4を表した図(d)、作業手順5を表した図(e)、作業手順6を表した図(f)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る防水押え層の破砕方法(以下、単に「破砕方法」と言う)について説明する。築50年前後の古い集合住宅では、浴室は造付けのものであり、これをユニットバスに改修する場合、高さを稼ぐため浴室の防水押え層を破砕・撤去する必要がある。この破砕方法は、このような既設の浴室において、コンクリート躯体の表面に形成した、防水層を保護する防水押え層を破砕するものである。以下、破砕対象物である防水押え層を含む浴室の床構造、および破砕に用いる機器について簡単に説明すると共に、破砕方法について詳細に説明する。
【0018】
[浴室の床構造]
図1(a)は、既設浴室の平面詳細図、
図1(b)は、既設浴室の断面詳細図である。両図に示すように、この浴室Bは、側壁SWに囲まれるようにして平面視方形に形成され、一方の略半部には浴槽が設置される浴槽設置部B1が設けられ、他方の略半部には洗い場部B2が設けられている。浴槽設置部B1には、浴槽や風呂釜を設置するための複数の台座B1aが設けられると共に、浴室排水口D(椀トラップ)が埋め込まれた排水口形成部B1bが設けられている。排水口形成部B1bは、洗い場部B2側に張り出すように設けられており、浴部Bの床面には、この排水口形成部B1bに向かって下り傾斜の排水勾配が設けられている。
【0019】
このような浴室Bでは、スラブを構成するコンクリート躯体Cの表面(上面)に、アスファルト等の防水層Wが形成され、この防水層Wの上に、これを保護すべく防水押え層Tが設けられている。防水層Wは、側壁SWに沿って四周を立ち上げるように施工され、これに倣って、防水押え層Tも四周を立ち上げるように施工されている。この場合、洗い場部B2では、防水押え層Tが厚く、表面はタイル張りの仕上げとなっている。一方、浴槽設置部B1では、防水押え層Tが薄く、モルタル仕上げとなっている。すなわち、洗い場部B2と浴槽設置部B1との間には段差部Gが設けられ、浴槽設置部B1に比して洗い場部B2は、防水押え層Tにより十分にかさ上げされている。
【0020】
実施形態の防水押え層Tは、詳細図において、表層の全域をモルタル(セメントモルタル)とし、傘上げされている洗い場部B2は、基層を軽量コンクリートまたは気泡コンクリートとしている。しかし、実際の現場における防水押え層Tでは、いわゆるバサモルタル、軽量コンクリート、粗骨材入りコンクリート等が用いられ、また現場によっては、リニュアル工事により洗い場部B2がモルタル等によりかさ上げされ、新たなタイル張りの仕上げとなっている。本実施形態の破砕方法は、防水押え層Tの材質等に係わらず、その破砕を確実に行えるようにしている。また、本実施形態では、防水押え層Tを破砕・撤去した後、浴室Bにはユニットバス(図示省略)を設置することを前提としており、防水押え層Tの破砕の際に防水層Wが破壊されることを許容している。
【0021】
[使用機器]
この破砕方法では、主な使用機器として、防水押え層Tに複数の下穴Hを穿孔する穿孔装置、防水押え層Tに縦横の切込みCCを入れる切断装置、および下穴Hを介して防水押え層Tをコンクリート躯体Cから離反させるようにして破砕する破砕装置が、用いられる。そして、これら機器は、集合住宅における浴室Bを対象とするため、電源や騒音等を考慮し、低出力且つ低騒音のものが用いられる。穿孔装置および切断装置は、市販のものであり、破砕装置は、浴室専用に開発されたものである。このため、以下、穿孔装置および切断装置については、図面を用いることなくその仕様について簡単に説明し、破砕装置については、図面を参照しながらその構造について説明する。
【0022】
穿孔装置は、冷却液を供給・回収可能ないわゆる湿式ドリルであり、100V電源の低騒音ドリルにダイヤモンドのコアビットを装着したものが用いられる。この場合のコアビットは、呼び径35mmのものとし、防水層Wに達するように下穴Hを穿孔する。
【0023】
また、初期の穿孔(試験穿孔)で得たコアにより、防水押え層Tの材質、厚さ、積層状態等を確認するようにしている。例えばモルタル(バサモルタル)や軽量コンクリート(気泡コンクリート)等の密度の低いものでは、破砕の難易度が低いことが把握され、普通コンクリート(粗骨材入りコンクリート)等の密度の高いものでは、破砕の難易度が高いことが把握される。なお、試験穿孔は、通常の穿孔を兼ねたものとすることが好ましい。
【0024】
切断装置は、粉じんの回収を可能とするバキュームクリーナー付きのダイヤモンドカッター(乾式)が用いられる。バキュームクリーナーとダイヤモンドカッターとは、ホースで接続する形態のものであり、いずれも100V電源のものが用いられる。ダイヤモンドカッターには、ディスク状のカッター刃が装着されており、実施形態のものは、最大切込み深さが、85mmとなっている。一方、洗い場部B2における防水押え層Tの厚みは、100mm~120mm程度となるため、この場合の切込み深さは、防水層Wに達しないものとなる。また、バキュームクリーナーは、単独で、いわゆる掃除機としても用いられ、後述する床の清掃には、このバキュームクリーナーが用いられる。
【0025】
[破砕装置]
図2は、破砕装置の外観図であり、
図3は、破砕装置の主要部の構造図である。両図に示すように、破砕装置1は、装置ケーシング2と、装置ケーシング2の上部に取り付けられ油圧シリンダー3と、装置ケーシング2の下部に保持された一対のライナー5から成る破砕ヘッド4と、油圧シリンダー3のピストンロッド6に連結されたウェッジ7と、を備えている。詳細は後述するが、防水押え層Tに形成した下穴Hに、破砕装置1の破砕ヘッド4を挿入し、油圧シリンダー3を駆動して、防水押え層Tを破砕する。
【0026】
油圧シリンダー3は、復動シリンダーで構成され、図外の油圧ポンプユニットに接続されている。作業者は、図外のコントローラにより、油圧ポンプユニットを介して、油圧シリンダー3の往動および復動を制御する。なお、油圧ポンプユニットにおける油圧ポンプも、100V電源のものが用いられている。
【0027】
ウェッジ7は、装置ケーシング2および一対のライナー5(破砕ヘッド4)の内部において、軸方向に延在しており、一対のライナー5を押し開くべく、その両外側面が先細りの所定の勾配を有している。ウェッジ7の上端部は、ジョイント11を介して油圧シリンダー3のピストンロッド6に連結されている。この場合、ウェッジ7は、先端部が一対のライナー5内に没入する没入位置(
図3(a)参照)と、先端部が一対のライナー5から突出する突出位置(
図3(c)参照)と、の間で軸方向に進退自在に構成されている。すなわち、ウェッジ7は、油圧シリンダー3が往動すると、没入位置から突出位置に向かって前進し、復動すると、突出位置から没入位置に向かって後退する。
【0028】
一対のライナー5は、突き合わせた状態で下穴Hの径よりわずかに小径に形成されており、ウェッジ7を挟み込むようにして軸方向に延在している。各ライナー5の内側面は、ウェッジ7の外側面と相補的形状に形成されている。また、一対のライナー5は、上端部において、装置ケーシング2のライナーホルダ12に、相互に径方向に平行移動可能に保持されている。この場合、一対のライナー5は、油圧シリンダー3により進退するウェッジ7により、非拡開位置から拡開位置に向かって平行移動し、後述する戻しバネ13により、拡開位置から非拡開位置に向かって平行移動する(
図3参照)。
【0029】
油圧シリンダー3を往動させると、ウェッジ7は没入位置から突出位置に前進し、一対のライナー5は非拡開位置から拡開位置に移動する。この状態から、油圧シリンダー3を往動させると、ウェッジ7は突出位置から没入位置に後退し、一対のライナー5は拡開位置から非拡開位置に移動する。この非拡開位置は、一対のライナー5のホーム位置となっており、詳細は後述するが、作業者は、一対のライナー5が非拡開位置にある状態で、これを下穴Hに挿入する。
【0030】
一対のライナー5の基端部には、戻しバネ13が設けられており、一対のライナー5は、ウェッジ7の前進により戻しバネ13に抗して非拡開位置から拡開位置に径方向外方へ平行移動し、ウェッジ7の後退に伴い、戻しバネ13により非拡開位置から拡開位置に径方向内方に確動的に平行移動する。各ライナー5の先端部(下端部)には、上面を下り傾斜とする外向きのクサビ状突起15が一体に形成されている。クサビ状突起15は、一対のライナー5が拡開したときに、コンクリート躯体Cと防水押え層Tとの間の防水層Wの部分に食い込む部位となると共に、防水押え層Tを引き上げるときに、防水押え層Tの下面に引掛かかる部位となる。
【0031】
図4に示すように、破砕装置1を用いた防水押え層Tの破壊作業では、先ず、破砕装置1の破砕ヘッド4を、下穴Hの穴底Haに突き当てるように挿入する(破砕手順1:
図4(a)参照)。次に、ウェッジ7を前進させる。ウェッジ7を没入位置から前進させると、一対のライナー5は外方に徐々に拡開し、(左右)2つのクサビ状突起15が防水層Wの部分にそれぞれ食い込んでゆく。やがて、ウェッジ7の先端が下穴Hの穴底Haに達し(破砕手順2:
図4(b)参照)、さらにウェッジ7の前進が続行され、ウェッジ7に対し一対のライナー5が拡開しながら相対的に上昇(上動)してゆく。
【0032】
一対のライナー5が上昇してゆくと、防水層Wに食い込んだクサビ状突起15により、防水押え層Tが下穴Hを中心に引き上げられてゆく。この引上げの初期において、防水押え層Tには、下穴Hを中心に一対のライナー5の拡開方向と直交する方向にクラックが生ずると共に、切込みCCの下端から防水層Wに向かってクラックが生ずる。そして、ウェッジ7が突出位置に達する手前で、防水押え層Tがコンクリート躯体Cから引き剥がされるようにして、破壊される(破砕手順3:
図4(c)参照)。
【0033】
[破砕方法]
次に、
図5および
図6を参照しながら、上記の使用機器を用いて行う防水押え層Tの破砕方法について、詳細に説明する。この破砕方法では、浴室Bにおいて、予め浴槽を撤去すると共に、詰め物等により浴室排水口Dの養生を行っておく。また、上記した試験穿孔により、防水押え層Tの破砕の難易度を把握しておく。
【0034】
破砕方法は、防水押え層Tの表面に、複数の下穴Hの穿孔位置HPをマーキングすると共に、切込みCC用のカットラインCLをマーキングする墨出し工程(
図5(a))と、穿孔位置HPのマーキングに従って、防水押え層Tに対し複数の下穴Hを穿孔する下穴穿孔工程(
図5(b))と、カットラインCLのマーキングに従って直線状の切込みCCを入れ、複数の個別破砕区画Sを形成する区画形成工程(
図5(c))と、破砕装置1により、下穴Hを介して複数の個別破砕区画Sを順に破砕する破砕工程(
図6(d),(e),(f))と、破砕後の「ガラ」を撤去する撤去工程と、を備えている。
【0035】
墨出し工程では、先ず浴室Bの床を構成する防水押え層Tの表面に対し、複数の下穴Hの穿孔位置HPをマーキング(墨出し)すると共に、切込みCCのためのカットラインCLをマーキング(墨出し)する(作業手順1:
図5(a)参照)。穿孔位置HPおよびカットラインCLは、破砕の難易度を考慮した上で、厚みの薄い浴槽設置部B1では粗くし、厚い洗い場部B2では密にする。具体的には、浴槽設置部B1における穿孔位置HPおよびカットラインCLは、平面内における縦方向Xおよび横方向Yにおいて、それぞれ400mm程度のピッチとする。一方、洗い場部B2における穿孔位置HPおよびカットラインCLは、平面内における縦方向Xおよび横方向Yにおいて、それぞれ300mm程度のピッチとする。
【0036】
穿孔位置HPのマーキングにおいては、上記のものの他、浴室Bの各入隅部(四隅)や段差部Gに補完用下穴HHを穿孔するべく、マーキングを行う。各入隅部では3つの穿孔位置HPをマーキングし、段差部Gの各端部には1つの穿孔位置HPをマーキングする(
図5(a)参照)。
【0037】
カットラインCLは、縦方向Xおよび横方向Yの格子状とするが、縦方向Xの最外端の2本のカットラインCL、および横方向Yの最外端の2本のカットラインCLは、上記の切断装置の作業可能領域を考慮し、側壁SWから50mm程度離した位置とする。そして、格子状のカットラインCLの各格子目(個別破砕区画S)には、1つの格子目宛て1つの穿孔位置HPをマーキングする。
【0038】
なお、洗い場部B2において、破砕の難易度が極めて低いと判断されている場合には、帯状の個別破砕区画Sとすべく、縦方向XのカットラインCLのみとすることも可能である。但し、穿孔位置HPはそのままとする。
【0039】
また、各下穴Hの穿孔位置HPは、必ずしも各格子目におけるセンターである必要はない。例えば、浴槽設置部B1の格子目においては、台座B1a上を優先して穿孔位置HPのマーキングを行うようにしてもよい。また、後述する作業手順を考慮し、隣接する既破砕箇所から離れた位置に穿孔位置HPのマーキングを行うようにしてもよい。
【0040】
もっとも、穿孔位置HPやカットラインCLのマーキングは、後述する作業の目安程度のものであり、作業者が熟練すれば、墨出し工程を省略することも可能である。
【0041】
下穴穿孔工程では、上記の穿孔装置を用い、穿孔位置HPのマーキングに従って下穴Hを穿孔する(作業手順2:
図5(b))。この穿孔では、コアビットの先端が防水層Wに達するように行う。この場合、穿孔装置により下穴Hを穿孔してゆくと、やがて穿孔状態が変化(抵抗が大きくなる)し、コアビットの先端が防水層Wに達したことが体感される。
【0042】
この穿孔により、浴槽設置部B1および洗い場部B2において、それぞれ縦方向Xおよび横方向Yに所定ピッチとなる、複数の下穴Hが形成される。また、浴室Bの各入隅部(四隅)には、3つの補完用下穴HHを集約的に形成され、段差部Gの各端部には1つの補完用下穴HHが形成される。
【0043】
区画形成工程では、上記の切断装置を用い、カットラインCLのマーキングに従って切込みCC(格子状)を入れ、複数の個別破砕区画S(格子目状)を形成する(作業手順3:
図5(c))。これにより、浴槽設置部B1および洗い場部B2において、それぞれ縦方向Xおよび横方向Yに所定ピッチとなる、格子目状の複数の個別破砕区画Sが形成される。
【0044】
この切断装置では、最大切込み深さが85mmのディスク状のカッター刃が用いられる。このため、浴槽設置部B1では、防水押え層Tに防水層Wに達する切込みCCを形成することが可能であるが、洗い場部B2では、防水押え層Tに防水層Wに達する切込みCCを形成することが不可能となる。また、カットラインCLの端部では、切込みCCの形態が深さ方向に円弧状となってしまう。このため、浴室Bの各入隅部(四隅)や段差部Gでは、破砕不良が発生するおそれがあるが、上記の複数の補完用下穴HHにより、これを解消することが可能としている。
【0045】
防水押え層Tに個別破砕区画Sを形成したら、浴室Bの床を再度清掃する。特に、形成した下穴Hに「ガラ」等が落ち込んでいないかを確認し、落ち込んでいる場合には取り除いておく。言うまでもないが、これにより破砕工程において、破砕装置1の破砕ヘッド4を、下穴Hの穴底Haに確実に突き当てられるようにしている。
【0046】
なお、下穴穿孔工程と区画形成工程とは、いずれを先行させてもよい。もっとも、本実施形態では、区画形成工程に先行して下穴穿孔工程を実施するようにしている。これは、下穴穿孔工程において、穿孔に冷却液を用い且つ防水層Wを破壊することを許容されているため、区画形成工程を先行すると、冷却液が切込みCCに侵入しその回収が良好に行われなくなるおそれがあること、およびコンクリート躯体Cにクラックが生じている場合に、切込みCCに侵入した冷却液が階下に漏水するおそれがあることに起因している。
【0047】
破砕工程では、上記の破砕装置1を用い、下穴Hを介して複数の個別破砕区画Sを順に破砕する。この場合、防水押え層Tの薄い浴槽設置部B1から破砕を開始し(
図6(d),(e)参照)、その後、防水押え層Tの厚い洗い場部B2に移行して破砕を行う(
図6(f)参照)。また、浴槽設置部B1では、排水口形成部B1bとなる個別破砕区画S(第1の個別破砕区画S)から破砕を開始する(
図6(f)参照)。
【0048】
ところで、この破砕装置1では、下穴Hの穴底Haに突き当てた一対のライナー5を、拡開しながら上動させて個別破砕区画S(防水押え層T)を破砕する。そして、破砕の際には、ライナー5の拡開方向と直交する方向にクラックが生ずる。クラックの生じ易さ、すなわち個別破砕区画Sの破壊し易さは、個別破砕区画Sに加えるライナー5の拡開力に対し、隣接する個別破砕区画Sからの反力(強度)、特に切込みCCが防水層Wに達していない個別破砕区画Sからの反力が影響する。
【0049】
例えば、破壊すべき個別破砕区画Sに隣接する個別破砕区画Sが破砕済みであれば、少なくとも当該個別破砕区画Sの1つの辺は、反力が生じない自由空間に開放されていることになる。このため、拡開力が加えられた個別破砕区画Sは、自由空間側にズレながら容易に破壊される。本実施形態の破砕工程では、クラックが生ずる方向と、自由空間(破砕済み部分)を考慮して、複数の個別破砕区画Sの破砕を進めるようにしている。
【0050】
破砕の開始となる排水口形成部B1bの個別破砕区画Sでは、上記の自由空間は存在しないが、排水勾配の関係で、この部分の防水押え層Tは最も薄いものとなっている。この個別破砕区画Sでは、破砕装置1による拡開方向が縦方向Xおよび横方向Yとなるように、この部分の個別破砕区画Sの破砕を2回に分けて行うようにしている。これにより、横方向Yおよび縦方向Xにクラックが生じ、この部分の個別破砕区画Sが確実に破砕される(作業手順4:
図6(d)参照)。
【0051】
次に、排水口形成部B1bの個別破砕区画Sに隣接する個別破砕区画Sの破砕を行う。この個別破砕区画Sでは、排水口形成部B1bに面する1つの辺が自由空間に開放されているため、この1つの辺に平行にクラックが生ずるようにして破砕を実施する。以降、少なくとも1つの辺が自由空間に開放されている個別破砕区画Sから順に破砕を進める(作業手順5:
図6(e)参照)。
【0052】
なお、特に図示しないが、帯状の個別破砕区画Sでは、自由空間に最も近い部位、すなわち自由空間に最も近い下穴Hを利用して、自由空間に最も近い部位から破砕を行う。したがって、帯状の各個別破砕区画Sは、これに形成した下穴Hの数分の回数に分けて破砕を行うこととなる。
【0053】
このようにして、浴槽設置部B1の破砕が完了すると、洗い場部B2では、浴槽設置部B1(自由空間)に面する個別破砕区画S、特に2辺が自由空間に開放された個別破砕区画Sから破砕を開始する。この場合も、上記の要領で個別破砕区画Sの破砕を順に進め(作業手順6:
図6(f)参照)、洗い場部B2全域の破砕を行う。
【0054】
上述のように、洗い場部B2では、切込みCCが防水層Wまで達していない。しかし、
図4(c)に示すように、破砕ヘッド4の上動に伴って、切込みCCの下端から防水層Wに向かってクラックが生ずるため、特段の支障を生ずることなく破砕を行うことができる。
【0055】
撤去工程では、破砕された防水押え層Tの破砕片を、バール等で起こしいわゆる「ガラ」とする。そして、「ガラ」を袋詰めして撤去する。最後に、床の清掃を行って作業を終了する。なお、撤去工程は、破砕工程と同時並行的に行ってもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、洗い場部B2に先行して浴槽設置部B1から破砕を開始するようにしているため、破砕難易度の低い浴槽設置部B1から先に破砕を行うこととなる。このため、破砕作業が洗い場部B2に移行したときに、浴槽設置部B1に隣接する各個別破砕区画Sは、その4辺のうちの少なくとも1辺が自由空間に面することとなる。したがって、この自由空間に面する個別破砕区画Sから破砕を行えば、破砕難易度の高い洗い場部B2においても、比較的容易に破砕を行うことができる。これにより、浴槽設置部B1と洗い場部B2とから成る浴室Bの防水押え層Tを、確実且つ効率良く破砕することができる。
【0057】
また、浴槽設置部B1において、浴室排水口Dを含む個別破砕区画Sから破砕を開始するようにしている。これにより、破砕難易度の最も低い個別破砕区画Sから破砕を行うことができると共、他の個別破砕区画Sにおいて、自由空間に面するものから破壊を行うことが可能となる。したがって、浴槽設置部B1の防水押え層Tを、効率良く破砕することができる。
【0058】
しかも、浴槽設置部B1および洗い場部B2の一連の破砕作業において、自由空間に面する個別破砕区画Sから破砕を行うようにしているため、この点でも、防水押え層Tの破砕を効率良く行うことができる。
【0059】
なお、本実施形態の破砕方法の用いる穿孔装置、切断装置および破砕装置1は、上記したものに限定されるものではない。例えば、穿孔装置は、騒音の問題が無ければ、振動ドリルやハンマードリルを用いることも可能である。また、切断装置は、電源や騒音の問題が無ければ、切込みCCが防水層Wに達するカッター刃のものを用いるようにしてもよい。同様に、破砕装置1は、一対のライナー5が基端部を中心に外方に相互に回動或いは揺動する構造のものであってもよいし、エアーシリンダーやリンク機構によりウェッジ7を進退させるものであってもよい。
【0060】
ところで、本実施形態では、防水押え層Tに縦横に切込みCCを入れて個別破砕区画Sを形成しているが、この切込みCCに代えて、カットラインCLに沿うように短ピッチの複数の穴を連続して穿孔することで、個別破砕区画Sを形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…破砕装置、2…装置ケーシング、3…油圧シリンダー、4…破砕ヘッド、5…ライナー、7…ウェッジ、13…戻しバネ、15…クサビ状突起、B…浴室、B1…浴槽設置部、B1b…排水口形成部、B2…洗い場部、C…コンクリート躯体、CC…切込み、CL…カットライン、D…浴室排水口、G…段差部、H…下穴、HH…補完用下穴、HP…穿孔位置、T…防水押え層、S…個別破砕区画、W…防水層、X…縦方向、Y…横方向。