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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】排水中和装置
(51)【国際特許分類】
   E21F 16/00 20060101AFI20230804BHJP
   C02F 1/66 20230101ALI20230804BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
E21F16/00 ZAB
C02F1/66 510R
C02F1/66 522C
B01D53/92 215
B01D53/92 224
C02F1/66 530C
C02F1/66 530D
B01D53/92 331
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019182931
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021059847
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】若林 正憲
(72)【発明者】
【氏名】武藤 香穂
(72)【発明者】
【氏名】金子 研一
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-219853(JP,A)
【文献】特開2006-077560(JP,A)
【文献】特開2004-036999(JP,A)
【文献】特開2003-301714(JP,A)
【文献】特開2008-149282(JP,A)
【文献】特開2000-271436(JP,A)
【文献】特開2006-281075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 16/00
C02F 1/66
B01D 53/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が流れる排水管と、
トンネル内で発生する酸性の排気ガスを回収する送風管と、
を備え、
前記送風管の一部は前記排水管中に配設されていると共に、前記排水管の排水内に配設された前記送風管には前記排気ガスを排水中に吐出させる開口部が設けられていることを特徴とする排水中和装置。
【請求項2】
トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が流れる排水管と、
トンネル内で発生する酸性の排気ガスを回収する送風管と、
前記トンネルを外れた位置に設けられ、前記排水管に接続されていて前記排水が溜められる貯留槽と、
を備え
前記送風管の一部は前記貯留槽の排水内に設置されていて前記排気ガスを排水中に吐出させる開口部が設けられていることを特徴とする排水中和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル壁面やその周囲の岩盤等から流れるアルカリ性の排水を中和するための排水中和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば道路トンネルの施工中において、コンクリートの洗い水からなる排水はアルカリ性を呈している。この排水をそのまま河川等に放出すると魚類や植物等の生態系に悪影響を与えることがある。そのため、トンネル施工中に生じるコンクリートの洗い水に対して希硫酸(HSO、HSO)等を滴下処理して中和することで生態系に対する影響を抑制して、排水を河川や海等に放流している。
【0003】
トンネル工事が終わり、道路トンネルに供用したトンネル内の排水は、通常なんの処理もしないが、アルカリ性を呈することがある。これは、道路トンネル周囲の岩盤が石灰質に富んでいる場合に石灰質が地下水に浸み込むことで起こり得る。
例えば、図5に示す道路トンネル100では、トンネル壁面のアーチ部101の外面に防水シートが設置されており、このアーチ部101に沿って石灰質が溶け込んだアルカリ性の地下水等が下方に流れ落ちている場合がある。この地下水は道路トンネル100内の路面102の下側に誘導されて排水路103に集められ、路面102に沿って下流側に排水される。
【0004】
なお、排水の処理方法として、例えば特許文献1に記載された方法が開示されている。この排水処理方法では、窒素含有排水を硝化槽に貯留すると共に、この硝化槽に酸素ガスを供給して排水中の特定成分をNOxに酸化処理している。しかも、硝化槽内の液相中の溶存酸素濃度が設定値に維持されるように、硝化槽の排気ガスの酸素濃度が所定範囲に維持されるよう酸素ガス供給量を制御している。しかし、アルカリ性の排水を中和する制御については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-202544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一部の道路トンネルでは排水路103を流れるアルカリ性の排水をトンネル出口でシャワー状に散布することで排水のpHを下げることを試みているが、その効果は十分ではない。
また、工事終了後の道路トンネル等において、排水路103を流れるアルカリ性の排水に対して希硫酸等を散布することで排水中のpHを下げて中和することで解決できるが、長期間に亘ると設備費や維持管理の費用が増大するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、トンネルで発生するアルカリ性の排水を低コストで中和できるようにした排水中和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による排水中和装置は、トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が流れる排水管と、トンネル内で発生する酸性の排気ガスを回収する送風管と、を備え、送風管の一部は排水管中に配設されていると共に、排水管の排水内に配設された送風管には排気ガスを排水中に吐出させる開口部が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が排水管内を流れ、トンネル内を走行する車両等の排気ガスを送風管で回収して排水管の排水中に配設された一部の送風管の開口部から排水中に吐出することで、酸性の排気ガスが排水と反応して酸化され、アルカリ性の排水と混合されることで中和させることができる。そのため、排気ガスで中和した排水を河川や海等に流しても生態系に与える影響を抑制できる。
【0009】
本発明による排水中和装置は、トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が流れる排水管と、トンネル内で発生する酸性の排気ガスを回収する送風管と、排水管に接続されていて排水が溜められる貯留槽と、を備え、送風管の一部は貯留槽の排水内に設置されていて排気ガスを排水中に吐出させる開口部が設けられていることを特徴とする。
本発明によれば、トンネルの外部または内部で生じるアルカリ性の排水が排水管を介して貯留槽に送り込まれて貯留されると共に、トンネル内を走行する車両等の排気ガスを送風管で回収して貯留槽の排水中に配設された一部の送風管の開口部から排水中に吐出することで、酸性の排気ガスが排水と反応して酸化され、アルカリ性の排水と混合されることで中和させることができる。そのため、排気ガスで中和した排水を河川や海等に流しても生態系に与える影響を抑制できる。
【0010】
また、送風管の開口部は、排水管内で送風管の排気ガス送り方向に所定間隔で配設された複数の穴であってもよい。
排水管における排水の流れ方向に沿って配設された送風管の複数の穴から順次排気ガスを排水中に送り込むことで、酸性の排気ガスが排水と順次反応して酸化され、アルカリ性の排水と混合されて中和される。
【発明の効果】
【0011】
本発明による排水中和装置は、トンネルの内外等で生じるアルカリ性の排水中に送風管で回収された排気ガスを吐出させることで排水を中和することができる。しかも、トンネル内を走行する車両から排出される排気ガスを回収してアルカリ性の排水に接触させて中和するため、処理コストが低廉で維持管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態による道路トンネルに設けた排水中和装置の構成図である。
図2図1に示す排水中和装置のトンネル長手方向に直交する断面図である。
図3図2に示す中央排水管内に送風管が配設された部分の拡大断面図である。
図4】第二実施形態による排水中和装置の構成図である。
図5】従来のトンネルにおける地下水の集水経路を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態による排水中和装置について添付図面により説明する。
図1乃至図3は本発明の第一実施形態による排水中和装置1を示すものである。図1に示す道路トンネル2の軸方向断面図において、道路トンネル2の底部に設けた車両通行用の路面3の下側には中央排水管4が配設されている。図2に示す道路トンネル2は底部の水平な路面3の上側周囲が略アーチ状の側壁5とされており、側壁5は岩盤に吹き付けたコンクリートとセントルと呼ばれる型枠に打ち込まれたコンクリートの壁とで構築されている。
側壁5の岩盤側の外周面には図示を省略した防水シートが設置されている。この岩盤は例えば石灰質に富んだアルカリ性の特性を有している。岩盤に浸み込んだ地下水は石灰質の成分を含んでアルカリ性の排水として側壁5の防水シートに到達してアーチ状の側壁5に沿って上方から下方に流れ落ちる。また、道路トンネル2の側壁5の内面に漏洩してコンクリート上を流れる地下水等もアルカリ性を呈しており、後述する集水管8等から中央排水管4内に流れ込むことがある。
【0014】
道路トンネル2の底部の路面3の下側には中央排水管4を敷設する断面略台形状の排水路7が道路トンネル2の長手方向に形成されている。アーチ状の側壁5の防水シート上を流れる排水はその底部の路面3の両側部で集水管8によって導水させられ、排水路7内の中央排水管4内に集水させられる。集水管8は中央排水管4の長手方向に所定間隔を開けて設置されて、それぞれ中央排水管4に連結されている。
【0015】
また、道路トンネル2内には、側壁5の路面3に対向する天井側には走行する車両の排気ガスを回収するための集塵機10が例えば2台設置されている。各集塵機10はフレーム11内に設置され、フレーム11は集塵機10と反対側部分に送風管12が配設されている。車両の排気ガス中にはSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)等の各種酸化物が含まれており、これらSOxやNOxを含む排気ガスは集塵機10を介して送風管12内に回収される。なお、集塵機10の数は車両の通行量や排水中のアルカリ成分の含有量等に応じて適宜設定できる。
この送風管12は、集塵機10の近傍では側壁5内の天井に沿って延びており、更にアーチ状の側壁5の内面に沿って湾曲して下方に延びて底部の路面3を貫通して排水路7内の中央排水管4内に貫通している。なお、送風管12にはブロワーや送風機等を設置して強制的に中央排水管4側に排気ガスを送り込んでもよい。
【0016】
この送風管12の一部は、中央排水管4内では中央排水管4の延在方向に沿って配設され、例えば道路トンネル2の出口の外側で中央排水管4を外れて路面3上に延びて開口が大気に開放されている。或いは、送風管12は中央排水管4の内部で端部が閉鎖されていてもよい。送風管12の中央排水管4内に配設された部分を排水内送風管部12aで示すものとする。
中央排水管4内に設けられた送風管12の排水内送風管部12aには、図3に示すように開口部として周方向に複数(図では6個)の穴14が開いている。しかも、これらの穴14は排水内送風管部12aの長手方向に所定間隔を開けて複数列配設されている。
【0017】
そのため、排気ガスは排水内送風管部12aの穴14から排水中に吐出され、排水中のSOxやNOxは排水と反応して酸化する。そして、アルカリ性を呈している中央排水管4中の排水は酸化した排水と混合することで中和される。
この原理について説明すると次のようになる。例えば、排気ガスとして排出されたSO(二酸化硫黄)は水にとけ込んで酸化が進行する。SOが水にとけ込むと次のように3種の化学種が生じる。
SO+HO → SO・H
SO・HO → H+HSO
HSO → H+SO 2-
4価の硫黄は,水溶液中のOH、O、O、Hによって酸化され、SO 2-になる。
【0018】
本第一実施形態による排水中和装置1は上述した構成を有しており、次にその作用について説明する。
図1及び図2において、道路トンネル2の外部で地下水が石灰質の岩盤中を流れて石灰質を含み、アルカリ性の排水として道路トンネル2の側壁5の外側の防水シート上を下方に流れる。この排水は底部の路面3の周辺で集水管8によって集水させられて排水路7内の中央排水管4内に送り込まれ、中央排水管4を下流側に流れる。
【0019】
一方、道路トンネル2内では走行する車両から排出された排気ガスが側壁5内の天井側に流れて集塵機10によって回収される。集塵機10で回収された排気ガスは送風管12を通して搬送されて道路トンネル2内から中央排水管4内に流れ、排水内送風管部12aで穴14を通して中央排水管4内の排水中に散気される。そして、この排気ガスに含まれる酸性のNOxやSOxは排水中の水分と反応して酸化される。中央排水管4内でアルカリ性を呈する排水が酸化された排水と混合されて中和される。中和された排水は配管や下水等を通して河川や海に排出される。これにより、排水は河川や海等に生息する魚類や植物等の生態系に悪影響を与えることがない。
【0020】
上述したように、本第一実施形態による排水中和装置1によれば、石灰質等を含んでアルカリ性を有する排水を道路トンネル2内で生成する排気ガス中のNOxやSOxと中和することができるため、河川や海等に流入しても魚類や植物等の生態系に悪影響を与えない。
しかも、アルカリ性を有する排水の中和に際して、道路トンネル2内の排気ガスに含まれるNOxやSOxと中和するため希硫酸の散布等が必要なく、中和用の素材や設備、労務費等のランニングコストがかからないので維持管理費を低廉にすることができる。
【0021】
以上、本発明の第一実施形態による排水中和装置1について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の他の実施形態や変形例等について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
【0022】
図4は本発明の第二実施形態による排水中和装置1Aを示すものである。
上述した第一実施形態による排水中和装置1を道路トンネル2の使用中に施工するのはかなり困難であり、車両の通行止め等の処置と、道路トンネル2内の路面3の舗装の剥がしによる排水路7の施工と集水管8及び中央排水管4の敷設及び送風管12の設置等が必要になる。そのため、本第二実施形態では、使用中の道路トンネル2の通行止めや中央排水管4及び送風管12の設置等をできるだけ短期間にして低コストで行えるようにした排水中和装置1Aについて説明する。
【0023】
図4に示す排水中和装置1Aにおいて、道路トンネル2内での底部の路面3の下側に排水路7及び中央排水管4が設置されている。この中央排水管4に交差する方向にバイパス排水管18の一端が接続され、他端側は道路トンネル2の側部に延ばして道路トンネル2を外れた位置に設けた貯留槽として例えばノッチタンク20に接続されている。この場合、バイパス排水管18には排水をノッチタンク20に送り出すポンプP等を設置している。
なお、排水を貯留するための貯留槽はノッチタンクに限定されることなく、各種の貯留タンクや排水管等を採用できる。
【0024】
一方、道路トンネル2の側壁5の天井側に設けた集塵機10を有するフレーム11に送風管12の一端を接続し、他端側は側壁5を貫通してノッチタンク20に貯留された排水の水面下に設置する。送風管12には、ノッチタンク20内でその底面に沿って延びる排水内送風管部12aの部分に穴14が配設されている。この穴14は排水内送風管部12aの全周に所定間隔で配列し且つその長手方向に所定間隔で設けてもよい。或いは、穴14は排水内送風管部12aの上側及び側面の周方向に複数個設け且つその長手方向に所定間隔で設けてもよい。
【0025】
排水内送風管部12aにおける穴14の配列がいずれの構成であっても、穴14から排出される排気ガスが排水の表面に上昇するまでの間に排気ガス中のNOxやSOxが排水と反応して酸化させる。しかも、ノッチタンク20内に貯留されたアルカリ性を呈する排水は酸化された排水と混合されることで中和される。なお、ノッチタンク20内でアルカリ性を有する排水と排気ガスで酸化された排水との混合を進めるために攪拌羽根等の攪拌部材を設けてもよい。
【0026】
従って、本第二実施形態による排水中和装置1Aにおいても、第一実施形態による排水中和装置1と同様な作用効果を奏することができる。
また、上述した各実施形態では、道路トンネル2で生じるアルカリ性の排水の排水中和装置1について説明したが、本発明は道路トンネル2に限定されることなく、その他のトンネルにも適用できる。
なお、中央排水管4は排水管に含まれ、送風管12の穴14は開口部に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 排水中和装置
2 道路トンネル
3 路面
4 中央排水管
5 側壁
7 排水路
10 集塵機
12 送風管
12a 排水内送風管部
14 穴
図1
図2
図3
図4
図5