(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】前駆体樹脂組成物及び光学素子
(51)【国際特許分類】
G02B 1/04 20060101AFI20230804BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20230804BHJP
C08F 2/50 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
G02B1/04
C08F220/20
C08F2/50
(21)【出願番号】P 2019206146
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小森 一範
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069488(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/082845(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/04
C08F 220/20
C08F 2/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異常部分分散特性を備えた光学素子の製造に用いるUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物であって、
前記前駆体樹脂組成物は、以下に示すA成分と、B成分と、C成分と
、D成分とを含むことを特徴とする前駆体樹脂組成物。
A成分:2官能含フッ素アクリレート及び/又は2官能含フッ素メタクリレート。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレート及び/又はベンゼン環を有する2官能メタクリレート。
C成分:光重合開始剤。
D成分:2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート。
【請求項2】
以下に示すE成分を含む、請求項1
に記載の前駆体樹脂組成物。
E成分:ベンゼン環を有する単官能アクリレート及び/又はベンゼン環を有する単官能メタクリレート。
【請求項3】
前記A成分が、以下の化1に示す構造式を備える化合物である請求項1
又は請求項2に記載の前駆体樹脂組成物。
【化1】
[式中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、xは1~2の整数であり、Yは炭素数2~12のパーフルオロアルキル基又は-(CF
2-O-CF
2)
Z-であり
、zは1~4の整数である。]
【請求項4】
請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の前駆体樹脂組成物を用いて得られることを特徴とする異常部分分散特性を備える光学素子。
【請求項5】
屈折率n
dが1.50以上1.65以下であり、アッベ数ν
dが20以上50以下であり、2次分散特性θ
gFが0.62以上0.70以下であり、2次分散特性の偏りΔθ
gFが0.02以上0.08以下である
請求項4に記載の異常部分分散特性を備える光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、前駆体樹脂組成物及び光学素子に関し、異常部分分散特性を備えた光学素子の製造に用いるUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物、及び、そのようなUV硬化型樹脂製造に用いる前駆体樹脂組成物を用いて得られた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屈折系光学素子のみによって構成した光学系では、屈折率nd及びアッベ数νdや2次分散特性θgFが異なるガラスレンズを組み合わせることにより、色収差を補正する技術が知られている。さらに、ガラスレンズ同士を組み合わせる以外に、ガラスレンズと樹脂レンズとを組み合わせることで補正する技術も知られている。
【0003】
ガラスレンズを形成する光学ガラスには多くの種類があり、種々の屈折率nd及びアッベ数νdや2次分散特性θgFを有するものが開発されている。これらの光学ガラスの光学特性の分布は、アッベ数νdが低いときは2次分散特性θgFが高く、アッベ数νdが高くになるにつれて2次分散特性θgFが低くなる傾向を示している。
【0004】
一方、樹脂レンズを形成する樹脂組成物として用いることができる合成樹脂は、種類が少ない上に、屈折率nd及びアッベ数νdや2次分散特性θgFの範囲が限られている。
【0005】
このように、使用できるガラスレンズ及び樹脂レンズの光学特性の範囲が限られるため、光学設計における自由度が低く、色収差を十分に補正することができなかった。
【0006】
そこで、ガラスレンズと組合せて色収差を補正するのに用いる樹脂レンズの樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、硫黄含有化合物と重合開始剤とを含有し、硬化後のアッベ数νdが18より大、23より小の範囲であり、2次分散特性θgFが0.68より大、0.69より小の範囲である光学素子形成用樹脂組成物が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、フッ素含有有機化合物と重合開始剤とを含有し、硬化後のアッベ数νdが30より大、85より小の範囲であり、2次分散特性θgFが0.53より大、0.65より小の範囲である光学素子形成用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-97195号公報
【文献】特開2019-151809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の光学素子形成用樹脂組成物は、他の溶剤との相溶性が悪く、硬化後の変色もおこりやすい傾向にある。また、結晶化温度が常温より高いので、光学素子に用いる樹脂組成物として取り扱い性が悪い。
【0010】
また、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物は、屈折率が低い。この樹脂組成物と高屈折率高分散の硝材と組み合わせて色収差を補正しようとすると、光学素子の形状が球に近い両凸形状になる。樹脂組成物はガラスに比べ線膨張、及びdn/dT(屈折率の温度係数)が大きく、球に近い両凸形状はこれらの影響が顕著に現れるためレンズとして好ましくない。
【0011】
本件発明は、硬化後のアッベ数νdに対する屈折率nd及び2次分散特性θgFの特性が従来のガラスレンズと異なることにより、光学設計においてより高い自由度を持たせることができる前駆体樹脂組成物、及びそのような前駆体樹脂組成物を用いた光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下の発明に想到した。
1.UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、異常部分分散特性を備えた光学素子の製造に用いるUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物であって、上述の前駆体樹脂組成物には、以下に示すA成分と、B成分と、C成分とを含むことを特徴としている。
A成分:2官能含フッ素アクリレート及び/又は2官能含フッ素メタクリレート。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレート及び/又はベンゼン環を有する2官能メタクリレート。
C成分:光重合開始剤。
【0013】
2.異常部分分散特性を備える光学素子
本件発明に係る異常部分分散性能を備える光学素子は、上記UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物を用いて得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本件発明に係る前駆体樹脂組成物は、上述したフッ素含有有機化合物を含有することにより、硬化後のアッベ数νdに対する屈折率nd及び2次分散特性θgFの特性が従来のガラスレンズと異なる特性を得ることができる。これにより、本件発明に係る前駆体樹脂組成物は、光学設計においてより高い自由度を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】市販の光学ガラスと実施例1~5の前駆体樹脂組成物を硬化して得られた成形体とのアッベ数ν
dと2次分散特性θ
gFとの関係分布を示すグラフである。
【
図2】市販の光学ガラスと実施例1~5の前駆体樹脂組成物を硬化して得られた成形体とのアッベ数ν
dと屈折率n
dとの関係分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物の実施の形態を説明する。
【0017】
1.UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物の実施の形態
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、異常部分分散特性を備えた光学素子の製造に用いるUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物であって、上述の前駆体樹脂組成物は以下に示すA成分と、B成分と、C成分とを含むことを特徴としている。
A成分:2官能含フッ素アクリレート及び/又は2官能含フッ素メタクリレート。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレート及び/又はベンゼン環を有する2官能メタクリレート。
C成分:光重合開始剤。
【0018】
本件発明によれば、後述するように、本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、上述したフッ素含有有機化合物を含有することにより、硬化後において、アッベ数νdに対する屈折率nd及び二次分散特性θgFの特性が、従来のガラスレンズや樹脂レンズ(例えば、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物により得られる樹脂レンズなど)と異なる。これにより、ガラスレンズと組合せてより効果的に色収差を補正することができ、光学設計においてより高い自由度を持たせることができる。具体的には、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べて、アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、屈折率ndが高く、2次分散特性θgFが高い光学特性を実現することができる。そのため、当該前駆体樹脂組成物を用いて形成した樹脂レンズと、「アッベ数νdが低いときは2次分散特性θgFが高く、アッベ数νdが高くになるにつれて2次分散特性θgFが低くなる光学特性を示すガラスレンズ」とを組み合わせることで、光学設計においてより高い自由度を持たせることができ、色収差を十分に補正することができる。
【0019】
1-1.A成分
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、A成分として、フッ素含有有機化合物である、2官能含フッ素アクリレートと2官能含フッ素メタクリレートとの少なくとも1つを含有するものである。フッ素含有有機化合物におけるフッ素含有量は、20質量%以上50質量%以下が好ましい。フッ素含有量が20質量%未満であると、硬化後において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べた場合、「アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、屈折率ndが高く、2次分散特性θgFが高い前駆体樹脂組成物」を実現できないため好ましくない。フッ素含有量が50質量%を越えるフッ素含有有機化合物は入手が困難である。また、本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物におけるA成分の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。A成分の含有量が20質量%未満であると、2次分散特性θgFが低すぎるため好ましくない。A成分の含有量が80質量%を越えると、屈折率ndが低すぎるため好ましくない。
【0020】
また、本件発明に係るA成分は、以下の化1に示す構造式を備えることが好ましい。樹脂組成物において屈折率を高めるには、ベンゼン環を有する有機化合物が有効であることが知られている。A成分として2官能フッ素アクリレートと2官能フッ素メタクリレートとの少なくとも1つを含有することで、A成分と、ベンゼン環を多く含有する2官能アクリレートと2官能メタクリレートとの少なくとも1つを含有するB成分との相溶性が良好になるからである。
【0021】
【化1】
[式中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、xは1~2の整数であり、Yは炭素数2~12のパーフルオロアルキル基又は-(CF
2-O-CF
2)
Z-であり、前記zは1~4の整数である。]
【0022】
A成分として用いられるフッ素含有有機化合物の具体例としては、2,2,3,3,4,4,5,5-Octafluorohexan-1,6-diyl diacrylate(CAS:2264-01-9)、2,2,3,3,4,4,5,5-Octafluorohexan-1,6-diyl dimethacrylate(CAS:66818-54-0)、2,2,3,3,4,4-Hexafluoropent-1,5-diyl dimethacrylate(CAS:918-36-5)等が挙げられる。
【0023】
1-2.B成分
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、B成分として、ベンゼン環を有する2官能アクリレートとベンゼン環を有する2官能メタクリレートとの少なくとも1つを含有するものである。本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物におけるB成分の含有量は、20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。B成分の含有量が20質量%未満であると、屈折率ndが低すぎるため好ましくない。B成分の含有量が80質量%を越えると、2次分散特性θgFが低すぎるため好ましくない。
【0024】
B成分として用いられる有機化合物の具体例としては、2.2 Bis〔4-(Acryloxy Polyethoxy)Phenyl〕Propane エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(CAS:64401-02-1)、9,9-Bis[4-(2-acryloyloxy ethoxy)pheny]fluorene 9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン(CAS:1234827-45-2)、Bis(4-methacryloylthiophenyl)Sulfide(CAS:129283-82-5)、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン(CAS:27205-03-4)等が挙げられる。
【0025】
1-3.C成分
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、C成分として、光重合開始剤を含有するものである。光重合開始剤は、フッ素含有有機化合物を重合するために用いる。光重合開始剤は、フッ素含有有機化合物の反応性や光照射の波長に応じて、1種類のみを使用してもよく、2種類以上を併用して使用してもよい。本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物におけるC成分の添加量は、0.001質量%以上5質量%以下であることが好ましい。C成分の含有量が0.001質量%未満であると、硬化しないので好ましくない。C成分の含有量が5質量%を越えると、保存時に硬化してしまうため好ましくない。
【0026】
C成分として用いられる光重合開始剤の具体例としては、2,2-dimethoxy-2-phenylacetophenone、1-hydroxycyclohexyl-phenyl ketone、2-hydroxy-2-methyl-1-phenylpropanone、1-[4-(2-hydroxyethoxyl)-phenyl]-2-hydroxy-methylpropanone、2-hydroxy-1-(4-(4-(2-hydroxy-2-methylpropionyl)benzyl)phenyl)-2-methylpropan-1-one、2-methyl-1-[4-(methylthio)phenyl]-2-morpholinopropan-1-one、2-benzyl-2-(dimethylamino)-4’-morpholinobutyrophenone、2-dimethylamino-2-(4-methyl-benzyl)-1-(4-morpholin-4-yl-phenyl)-butan-1-one等が挙げられる。
【0027】
1-4.D成分
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、また、D成分として、フッ素含有有機化合物である、単官能含フッ素アクリレートと単官能含フッ素メタクリレートとの少なくとも1つを含むことが好ましい。フッ素含有有機化合物であるD成分におけるフッ素含有量は、20質量%以上70質量%以下が好ましい。フッ素含有量が20質量%未満であると、硬化後において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べた場合、アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、屈折率ndが高く、2次分散特性θgFが高い前駆体樹脂組成物を実現できないため好ましくない。フッ素含有量が70質量%を越えるフッ素含有有機化合物は入手が困難である。また、本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物におけるD成分の含有量は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。D成分の含有量が1質量%未満であると、2次分散特性θgFを向上できないので好ましくない。D成分の含有量が30質量%を越えると、相溶性が無くなり透明性を失うので好ましくない。
【0028】
D成分として用いられるフッ素含有有機化合物の具体例としては、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-Dodecafluoroheptyl Acrylate(CAS:2993-85-3)、1H,1H,2H,2H-Heptadecafluorodecyl Acrylate(CAS:27905-45-9)、2,2,3,4,4,4-Hexafluorobutyl Acrylate(CAS:54052-90-3)、1,1,1,3,3,3-Hexafluoroisopropyl Acrylate(CAS:2160-89-6)、1H,1H,2H,2H-Nonafluorohexyl Acrylate(CAS:52591-27-2)、1H,1H,5H-Octafluoropentyl Acrylate(CAS:376-84-1)、1H,1H-Pentadecafluoro-n-octyl Acrylate(CAS:307-98-2)、Pentafluorophenyl Acrylate(CAS:71195-85-2)、2,2,3,3-Tetrafluoropropyl Acrylate(CAS:7383-71-3)、1H,1H,2H,2H-Tridecafluoro-n-octyl Acrylate(CAS:17527-29-6)、2,2,2-Trifluoroethyl Acrylate(CAS:407-47-6)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-Dodecafluoroheptyl Methacrylate(CAS:2261-99-6)、2,2,3,3,4,4,4-Heptafluorobutyl Methacrylate(CAS:13695-31-3)、2,2,3,4,4,4-Hexafluorobutyl Methacrylate(CAS:36405-47-7)、1,1,1,3,3,3-Hexafluoroisopropyl Methacrylate(CAS:3063-94-3)、1H,1H,2H,2H-Nonafluorohexyl Methacrylate(CAS:1799-84-4)、1H,1H,5H-Octafluoropentyl Methacrylate(CAS:355-93-1)、Pentafluorobenzyl Methacrylate(CAS:114859-23-3)、Pentafluorophenyl Methacrylate(CAS:13642-97-2)、2,2,3,3,3-Pentafluoropropyl Methacrylate(CAS:45115-53-5)、2,2,3,3-Tetrafluoropropyl Methacrylate(CAS:45102-52-1)、1H,1H,2H,2H-Tridecafluoro-n-octyl Methacrylate(CAS:2144-53-8)、2,2,2-Trifluoroethyl Methacrylate(CAS:352-87-4)等が挙げられる。
【0029】
1-5.E成分
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、また、E成分として、ベンゼン環を有する単官能アクリレートとベンゼン環を有する単官能メタクリレートとの少なくとも1つを含むことが好ましい。本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物におけるE成分の添加量は、1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。E成分の含有量が1質量%未満であると、屈折率ndが高くならないので好ましくない。E成分の含有量が40質量%を越えると、相溶性が無くなり透明性を失うので好ましくない。
【0030】
E成分として用いられる有機化合物の具体例としては、Benzyl Acrylate(CAS:2495-35-4)、Benzyl Cinnamate(CAS:103-41-3)、Pentafluorobenzyl Methacrylate(CAS:114859-23-3)、Pentabromobenzyl Acrylate(CAS:59447-55-1)、Ethyl 4-[(4-Methoxybenzylidene)amino]cinnamate(CAS:6421-30-3)、Ethyl trans-3-Benzoylacrylate(CAS:15121-89-8)、Butyl 4-[(4-Methoxybenzylidene)amino]cinnamate(CAS:16833-17-3)、4-Benzoylphenyl Methacrylate(CAS:56467-43-7)、2-Phenoxy ethyl methacrylate(CAS:10595-06-9)、Phenoxy ethyl acrylate(CAS:48145-04-6)、Methyl Phenoxy ethyl acrylate(CAS:105849-31-8)、Phenoxy diethyleneglycol acrylate(CAS:61630-25-9)、Phenoxy polyethyleneglycoll acrylate(CAS:56641-05-5)、m-Phenoxybenzyl acrylate(CAS:409325-06-0)、2-Hydroxy 3-phenoxy propyl acrylate(CAS:16969-10-1)、Neopenthylglycol-benzoate-acrylate(CAS:66671-22-5)等が挙げられる。
【0031】
1-6.前駆体樹脂組成物の硬化後の光学特性
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、上述の成分を含むことにより、硬化後において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べて、アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、高い屈折率ndと、高い2次分散特性θgFとを実現することができる。そのため、当該前駆体樹脂組成物を用いて形成した樹脂レンズと、「アッベ数νdが低いと2次分散特性θgFが高く、アッベ数νdが高いと2次分散特性θgFが低い傾向にある市販の光学ガラスを用いて形成されたガラスレンズ」とを組み合わせることによって、光学設計においてより高い自由度を持たせることができ、色収差を十分に補正した光学素子を得ることができる。
【0032】
さらに、本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、特許文献1に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べた場合、アッベ数が20以上50以下の範囲において、ほぼ同等の光学特性を実現できており、上述の通り色収差の補正に使用することができる。また、当該前駆体樹脂組成物は、特許文献1に記載の光学素子形成用樹脂組成物と異なり、化学式において硫黄に酸素が付いていない構造であることから当該前駆体樹脂組成物同士の相溶性が良く、結晶化温度が低いので、光学素子を形成するに用いる樹脂組成物として取り扱い性が良い。
【0033】
2.異常部分分散特性を備える光学素子の実施の形態
本件発明に係る異常部分分散特性を備える光学素子は、上述の前駆体樹脂組成物に紫外線を照射することによる硬化で得られることを特徴とする。そして膜厚が1.0mmの時の波長430nmの光に対する内部透過率が90%以上であることが好ましい。内部透過率が90%未満であると、光学素子としての用途が限定されるため好ましくない。なお、本明細書における「異常部分分散特性」とは、波長によって屈折率差(部分分散)が特異に変化する特性をいい、「異常部分分散特性を備える」とは、この異常部分分散特性が高いことを意味する。
【0034】
また、本件発明に係る異常部分分散特性を備える光学素子は、ガラスレンズと組み合わせて色収差を補正する光学設計の自由度を高くするために、屈折率ndが1.50以上1.65以下であり、アッベ数νdが20以上50以下であり、2次分散特性θgFが0.62以上0.70以下であり、2次分散特性の偏りΔθgFが0.02以上0.08以下であることが好ましい。
【0035】
さらに、本件発明に係る異常部分分散特性を備える光学素子は、硬化後において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べて、アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、屈折率ndが高い。そのため、当該光学素子である樹脂レンズとガラスレンズとを組み合わせて色収差を補正した場合、樹脂レンズは薄い凸形状、凹形状、メニスカス形状の樹脂層で構成することができ、線膨張、及びdn/dT(屈折率の温度係数)の影響が少ない光学素子を得ることができる。
【0036】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例1、実施例2、実施例3は参考例である。
【実施例1】
【0037】
はじめに、発明を実施するための形態において記載した、UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物のA成分~E成分のうち、以下に示すA成分とB成分とを重量比50:50で混合した。さらに以下に示すC成分を0.1重量部混合し、全てが均一に相溶している前駆体樹脂組成物を得た。
【0038】
A成分:フッ素含有量が41.1質量%である2官能含フッ素アクリレートの東京化成社製B5278「2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジメタクリル酸」(構造式を化2に示す)。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレートの新中村化学工業社製A-BPEF-2「9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン」(構造式を化3に示す)。
C成分:光重合開始剤のCiba Specialty Chemicals社製Irgacure(登録商標)184。
【0039】
次に、上述の混合して得られた前駆体樹脂組成物を、周縁部に厚さ1.0mmのスペーサーを備えたガラス基板2枚で挟んで押し広げた。続いて、ガラス基板側から紫外線(UV)を照射(30mW/cm2×3min)することにより、ガラス基板に挟まれている前駆体樹脂組成物を硬化させ、厚さ1.0mmの平板状の光学素子を得た。その後、得られた光学素子を80℃で2時間アニール処理した。そして屈折計Abbemat MW(アントンパール社)を用いて、形成した光学素子の屈折率nd、アッベ数νd及び2次分散特性θgFを測定した。
【0040】
【0041】
【実施例2】
【0042】
次に、発明を実施するための形態において記載した、UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物のA成分~E成分のうち、以下に示すA成分とB成分とを重量比50:50で混合した。さらに以下に示すC成分を0.1重量部混合し、全てが均一に相溶している前駆体樹脂組成物を得た。次に、上述の混合して得られた前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1に記載の方法によって、平板状の光学素子を得た。そして屈折計Abbemat MW(アントンパール社)を用いて、形成した光学素子の屈折率nd、アッベ数νd及び2次分散特性θgFを測定した。
【0043】
A成分:フッ素含有量が41.1質量%である2官能含フッ素アクリレートの東京化成社製B5278「2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジメタクリル酸」(構造式を化2に示す)。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレートの大阪有機化学工業ビスコート#700HV「ビスフェノールAEO3.8モル付加物ジアクリレート」(構造式を化4に示す)。
C成分:光重合開始剤のCiba Specialty Chemicals社製Irgacure(登録商標)184。
【0044】
【実施例3】
【0045】
次に、発明を実施するための形態において記載した、UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物のA成分~E成分のうち、以下に示すA成分とB成分とE成分とを重量比40:40:20で混合した。さらに以下に示すC成分を0.1重量部混合し、全てが均一に相溶している前駆体樹脂組成物を得た。次に、上述の混合して得られた前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1に記載の方法によって、平板状の光学素子を得た。そして屈折計Abbemat MW(アントンパール社)を用いて、形成した光学素子の屈折率nd、アッベ数νd及び2次分散特性θgFを測定した。
【0046】
A成分:フッ素含有量が41.1質量%である2官能含フッ素アクリレートの東京化成社製B5278「2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジメタクリル酸」(構造式を化2に示す)。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレートの新中村化学工業社製A-BPEF-2「9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン」(構造式を化3に示す)。
E成分:ベンゼン環を有する単官能アクリレートの共栄社化学ライトアクリレート(登録商標)POB-A「3-フェノキシベンジルアクリレート」(構造式を化5に示す)。
C成分:光重合開始剤のCiba Specialty Chemicals社製Irgacure(登録商標)184。
【0047】
【実施例4】
【0048】
次に、発明を実施するための形態において記載した、UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物のA成分~E成分のうち、以下に示すA成分とB成分とD成分とを重量比45:45:10で混合した。さらに以下に示すC成分を0.1重量部混合し、全てが均一に相溶している前駆体樹脂組成物を得た。次に、上述の混合して得られた前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1に記載の方法によって、平板状の光学素子を得た。そして屈折計Abbemat MW(アントンパール社)を用いて、形成した光学素子の屈折率nd、アッベ数νd及び2次分散特性θgFを測定した。
【0049】
A成分:フッ素含有量が41.1質量%である2官能含フッ素アクリレートの東京化成社製B5278「2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジメタクリル酸」(構造式を化2に示す)。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレートの新中村化学工業社製A-BPEF-2「9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン」(構造式を化3に示す)。
D成分:フッ素含有量が59.1質量%である単官能含フッ素アクリレートのユニマテック社製CHEMINOX(登録商標)FAAC-6「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート」(構造式を化6に示す)。
C成分:光重合開始剤のCiba Specialty Chemicals社製Irgacure(登録商標)184。
【0050】
【実施例5】
【0051】
次に、発明を実施するための形態において記載した、UV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物のA成分~E成分のうち、以下に示すA成分とB成分とD成分とE成分とを重量比40:40:10:10で混合した。さらに以下に示すC成分を0.1重量部混合し、全てが均一に相溶している前駆体樹脂組成物を得た。次に、上述の混合して得られた前駆体樹脂組成物を用いて、実施例1に記載の方法によって、平板状の光学素子を得た。そして屈折計Abbemat MW(アントンパール社)を用いて、形成した光学素子の屈折率nd、アッベ数νd及び2次分散特性θgFを測定した。
【0052】
A成分:フッ素含有量が41.1質量%である2官能含フッ素アクリレートの東京化成社製B5278「2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロヘキサン-1,6-ジメタクリル酸」(構造式を化2に示す)。
B成分:ベンゼン環を有する2官能アクリレートの新中村化学工業社製A-BPEF-2「9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン」(構造式を化3に示す)
D成分:フッ素含有量が59.1質量%である単官能含フッ素アクリレートのユニマテック社製CHEMINOX(登録商標)FAAC-6「2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート」(構造式を化6に示す)。
E成分:ベンゼン環を有する単官能アクリレートの共栄社化学ライトアクリレート(登録商標)POB-A「3-フェノキシベンジルアクリレート」(構造式を化5に示す)。
C成分:光重合開始剤のCiba Specialty Chemicals社製Irgacure(登録商標)184。
【0053】
〔評価結果〕
実施例1~実施例5の評価結果を表1に示す。表1において各成分の欄に記載の数値は重量比を示している。表1に示すとおり、実施例1~実施例5の本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、いずれも屈折率ndが1.50以上1.65以下であり、アッベ数νdが20以上50以下であり、2次分散特性θgFが0.62以上0.70以下であり、2次分散特性の偏りΔθgFが0.02以上0.08以下の範囲であった。
【0054】
【0055】
次に、市販の光学ガラスと実施例1~実施例5の前駆体樹脂組成物を硬化して得られた成形体とにおけるアッベ数ν
dと屈折率n
dとの関係分布を示すグラフを
図2に、市販の光学ガラスと実施例1~実施例5の前駆体樹脂組成物を硬化して得られた成形体とにおけるアッベ数ν
dと2次分散特性θ
gFとの関係分布を示すグラフを
図1に示す。
図2に示すとおり、実施例1~実施例5の本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、硬化後のアッベ数ν
dと屈折率n
dとの関係において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べて、アッベ数ν
dが20以上50以下の範囲において高い屈折率n
dであることが確認できた。
【0056】
また、
図1に示すとおり、実施例1~実施例5の本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、硬化後のアッベ数ν
dと2次分散特性θ
gFとの関係において、市販のガラス及び特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比較して、アッベ数ν
dが20以上50以下の範囲において2次分散特性θ
gFが高い異常部分分散特性を示すことが確認できた。なお、
図1中の直線は、正常分散ガラスの基準となるHOYA社のC7(コード511-605)及びF2(コード620-363)におけるアッベ数ν
d(60.49、36.3)と2次分散特性θ
gF(0.5393、0.5829)とを通る標準線である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件発明に係るUV硬化型樹脂を得るための前駆体樹脂組成物は、硬化後において、特許文献2に記載の光学素子形成用樹脂組成物と比べた場合、アッベ数νdが20以上50以下の範囲において、屈折率ndが高く、2次分散特性θgFが高いという光学特性を有するので、当該前駆体樹脂組成物を用いて形成した樹脂レンズと、市販の光学ガラスを用いて形成したガラスレンズとを組み合わせることで、光学設計においてより高い自由度を持たせることができ、色収差を良好に補正することができる。