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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】矯正用接着材及びそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20230804BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20230804BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/60
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020513898
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 US2018049937
(87)【国際公開番号】W WO2019051215
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】15/699,230
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599025972
【氏名又は名称】オルムコ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘシカ・エリヴィエ・グランデ
(72)【発明者】
【氏名】サメル・シャーリアー・アラウッディン
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/132484(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103610598(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0160097(US,A1)
【文献】Biomacromolecules,Vol.16, No.8,p.2265-2275
【文献】Angewandte Chemie-International Edition,Vol.51, Issue 18,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変海洋イガイタンパク質、並びに
ニトロドーパミン、ニトロノルエピネフリン及びニトロエピネフリンからなる群から選択されるニトロカテコール誘導体
を含む、矯正用接着材であって、
前記改変海洋イガイタンパク質が、少なくとも1種のカテコール部分又はカテコール誘導体部分を含むタンパク質を表す、矯正用接着材。
【請求項2】
前記ニトロカテコール誘導体が、ニトロドーパミンである、請求項1に記載の矯正用接着材。
【請求項3】
前記ニトロカテコール誘導体が、ニトロノルエピネフリンである、請求項1に記載の矯正用接着材。
【請求項4】
前記ニトロカテコール誘導体が、ニトロエピネフリンである、請求項1に記載の矯正用接着材。
【請求項5】
前記改変海洋イガイタンパク質が、カテコール-メタクリレートを含む、請求項1に記載の矯正用接着材。
【請求項6】
光開裂性ビス-メタクリレートを更に含む、請求項1に記載の矯正用接着材。
【請求項7】
矯正処置中に、アライナーと共に使用するためのアタッチメントであって、前記アタッチメントが、
改変海洋イガイタンパク質、並びに
ニトロドーパミン、ニトロノルエピネフリン及びニトロエピネフリンからなる群から選択されるニトロカテコール誘導体
を含み、
前記改変海洋イガイタンパク質が、少なくとも1種のカテコール部分又はカテコール誘導体部分を含むタンパク質を表す、アタッチメント。
【請求項8】
矯正用デバイス、並びに
矯正用接着材であって、
改変海洋イガイタンパク質、並びに
ニトロドーパミン、ニトロノルエピネフリン及びニトロエピネフリンからなる群から選択されるニトロカテコール誘導体
を含む、矯正用接着材
を含むキットであって、
前記改変海洋イガイタンパク質が、少なくとも1種のカテコール部分又はカテコール誘導体部分を含むタンパク質を表す、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、矯正用接着材(orthodontic adhesives)、接着材系、及びそれらの接着材を使用する方法の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
患者の歯に付着可能な、矯正用ブラケット又は他のデバイスを含む、従来の矯正処置は、デバイスを歯に付着させる前に、エナメルを準備する必要があり得る。歯の表面の準備は、臨床医が接着材を適用する前に、洗浄する工程、酸エッチングする工程、封止する工程、並びに中間で洗い流す工程及び乾燥させる工程を含む、一連の工程によるものであり得る。例えば、ブラケットを歯のエナメル質に結合するために、それぞれの歯を、初めに軽石粉等の研磨剤のスラリーで洗浄して、エナメル質から薄膜を除去する。次いで、洗浄済み表面を洗い流し、乾燥させた後、リン酸エッチング液を、臨床医が矯正用デバイスを付着させたい、歯の表面位置に注意深く置く。酸エッチングする工程は、エナメル質表面を脱灰し、エナメル小柱からおよそ30μmほどのヒドロキシアパタイトの層を除去する。30~90秒間のエッチング時間後、エッチング液を水噴霧及び高流速吸引器で洗い流す。このように、エッチングする工程によって、多孔質構造がもたらされる。
【0003】
エッチングする工程後の乾燥させる工程に続いて、封止材(例えば、Ortho Solo(商標)封止材)を、エッチングされた表面に適用する。封止材は、多孔質の、酸エッチングされた表面に浸透することができる。封止材が硬化すると、歯と封止材との間で、機械的連結がつくられる。接着材(例えば、Enlight)及びブラケットを、ブラケットと封止材との間の接着材と共に、封止された表面に押し付けることができる。接着材は、メタクリレートモノマー、光開始剤、及びガラス/ヒドロキシアパタイト粉末の混合物を含む複合樹脂ペースト接着材であってもよい。接着材が硬化すると、ブラケットは、封止材にしっかりと固定される。この結合配置は、封止材と、歯の表面と矯正用ブラケットとの間に挟み込まれた接着材とのサンドイッチ様構造をもたらす。この手順及び結合配置は、矯正用デバイスを受けることになる、それぞれの歯について繰り返され、矯正用ブラケット及びモルチューブの場合でも同様であり、これは、一患者につき28本の歯を含むことがある。
【0004】
従来の準備方法には、多くの欠点がある。臨床医の観点からすれば、手作業で、非常に時間がかかる方法である。全体の結合手順中の業務時間が長くなるのは当然である。全体として、矯正用ブラケットを歯に結合するのは、費用がかかる。患者の観点から、その方法は、不快なものであり、エナメル質除去は、歯の硬組織の再石灰化が難しいために、元に戻せないことが多い。したがって、歯の表面は、酸エッチングによって、永久に損なわれることがある。一部の患者は、エッチング液にアレルギー反応を有することがある。液体のエッチング液は、歯肉へ流れ、そこで柔らかい組織を刺激することがある。ゲルのエッチング液は、より正確に置くことができるものの、熟練した適用を必要とし、除去するのがより難しい。いずれの適用においても、エッチング液を洗い流さなければならない場合には、患者若しくは臨床医に害を及ぼすような方法でエッチング液を飛び散らさないように又は洗浄しないように注意しなければならないが、洗い流す工程は、エッチング反応が終了し、歯とデバイスとの間の機械的連結を妨げる、残留酸又は無機物の破片がないように、完全なものであるべきである。
【0005】
処置の間、固定された矯正器具に隣接したエナメル質表面の脱灰が広がる。脱灰は、白斑病変(WSL)を示す。未処置のままにすると、WSLは、進行して、虫歯による空洞化を生じることがあり、審美的な問題も起こり得る。したがって、WSLの予防、診察、及び処置は、患者の笑顔の審美性を損なうことがある、虫歯及び歯の変色を最小限にするのに重要である。しかし、その問題及び費用は、結合で終わらない。
【0006】
矯正処置が完了した後、臨床医は、それぞれの歯から矯正用ブラケットを取り外さなければならない。この結合解除法は、臨床医が、結合過程の間に形成された結合を壊すことを要する。患者が痛みを避けようとする場合、結合を機械的に破砕することは、臨床医側に、かなりの技術を要することがある。より容易に結合解除するための設計特性を含む矯正用ブラケットでさえも、ブラケットを取り外した後、相当な接着材/封止材の残留物が歯の表面に残ることがある。この残留物は、歯科用バーで機械的に除去しなければならず、患者にとって非常に不快な方法であり、臨床医にとって面倒である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国出願公開第2016/0160097号
【文献】米国出願公開第2017/0217999号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Shafiqら、「Bioinspired Underwater Bonding and Debonding on Demand」51Angew.Chem.Int.Ed.4332~35頁(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、前述された、複雑な、付着前の処置を必要とせず、矯正用デバイスを歯から結合解除するのに関連した問題を減らす、矯正用接着材、矯正用接着材系、並びにその接着材及び接着材系を使用する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、公知の矯正用接着材の、前述の、及び他の、不十分な点及び欠点を克服するものである。本発明は、ある種の実施形態に関連して説明されるが、本発明は、これらの実施形態に限定されないことを理解されたい。むしろ、本発明は、本発明の趣旨及び範囲に含まれ得る、全ての代替形態、変更形態及び均等形態を含む。
【0011】
一態様において、矯正用接着材は、改変海洋イガイ(engineered marine mussel)タンパク質を含む。改変海洋イガイタンパク質は、少なくとも1種の、カテコール部分又はカテコール様部分を含む。
【0012】
一実施形態において、接着材は、ニトロカテコール誘導体を更に含む。一実施形態において、ニトロカテコール誘導体は、ニトロドーパミンであり、一実施形態において、ニトロカテコール誘導体は、ニトロノルエピネフリンである。一実施形態において、ニトロカテコール誘導体は、ニトロエピネフリンである。
【0013】
一実施形態において、改変海洋イガイタンパク質は、カテコール-メタクリレートを含む。
【0014】
一実施形態において、矯正用接着材は、光開裂性ビス-メタクリレートを含む。
【0015】
本発明の別の態様において、矯正用デバイスを歯に接着させる方法は、矯正用接着材の層を、歯及び/又は矯正用デバイスに適用する工程を含む。矯正用接着材は、改変海洋イガイタンパク質を含む。方法は、歯と矯正用デバイスとの間に位置する矯正用接着材で、矯正用デバイスを歯に貼り付ける(affixing)工程を更に含む。
【0016】
一実施形態において、改変海洋イガイタンパク質は、カテコール部分又はカテコール部分の1種若しくは複数の誘導体を含み、層を適用する工程は、歯へのカテコール部分又はカテコール部分の1種若しくは複数の誘導体を含む。
【0017】
一実施形態において、カテコール部分は、カテコール-メタクリレートを含む。
【0018】
一実施形態において、方法は、アクリレート部分及び/又はメタクリレート部分を層に適用する工程を更に含む。一実施形態において、その部分は、ビス-メタクリレートである。
【0019】
本発明の別の態様において、矯正処置中に、アライナーと共に使用するためのアタッチメントは、改変海洋イガイタンパク質を含む。
【0020】
本発明の別の態様において、キットは、矯正用デバイス及び改変海洋イガイタンパク質を含む。
【0021】
本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する、添付の図は、本発明の実施形態を説明し、以下に示される、詳細な説明と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】患者の歯に付着させた、個々のブラケットを含む、矯正用ブラケットのセットを示す図である。
図2図1の切断線2-2に沿った断面図である。
図3】本発明の一実施形態の、図2の取り囲んだ領域3の拡大図である。
図4】本発明の一実施形態の、図2の取り囲んだ領域3の拡大図である。
図5】本発明の一実施形態の、図2の取り囲んだ領域3の拡大図である。
図6】本発明の一実施形態の、図2の取り囲んだ領域3の拡大図である。
図7図7Aは、本発明の一実施形態の、例示的な湿潤接着基を示す図である。図7Bは、本発明の一実施形態の、図2の取り囲んだ領域3の拡大略図である。図7Cは、本発明の一実施形態の、例示的な、重合性基を含むモノマーを示す図である。
図8A】本発明の一実施形態の、例示的なモノマーの光開裂を示す図である。
図8B】本発明の一実施形態の、例示的なモノマーの架橋及び光開裂を示す図である。
図9】アライナーを用いた矯正処置を容易にするための、患者の歯に付着させた、本発明の一実施形態のアタッチメントを含む、本発明の一実施形態の斜視図である。
図10】アタッチメントの1つを通る、図9に示したアライナー及び歯の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この詳細な説明において、元素周期表に関する全ての言及は、CRC Press,Inc.社によって、2001年に出版され、著作権で保護された元素周期表を示す。また、1つ又は複数の基に関しては、基を番号付けするIUPACシステムを用いて、この元素周期表に示された、1つ又は複数の基とするものである。本明細書において、用語「(ポリ)」は、場合により、1個以上の、又は言い換えれば1個又は複数を意味する。
【0024】
これらの問題及び他の問題に対処するために、一実施形態において、臨床医は、矯正用接着材系10を用いて、矯正用デバイスを患者の歯に接着させることができる。以下に詳細に説明するように、矯正用接着材系10は、改変タンパク質を含む。ほんの一例として、図1に示すように、矯正用ブラケット12を、矯正手順で用いることができる。1個の矯正用ブラケット12を、矯正用接着材系10で、複数の歯14のそれぞれに貼り付けることができる。矯正用ブラケット12は、アーチワイヤー20を受ける、実質的に横に配置されたアーチワイヤースロット16を画定する。矯正用ブラケット12を、矯正用接着材系10で接着して、外部に面する表面22にしっかり固定することができる。図1に示さないが、矯正用接着材系10は、矯正用ブラケット12及び対応する歯14のそれぞれの間にあることができる。ブラケット12が、本明細書で示され、説明されるが、本発明の実施形態を用いて、他の矯正器具を患者の歯に結合することができる。例えば、矯正用接着材系10を使用して、2~3例を挙げると、リンガルリテーナー及びバイトターボを患者の歯に結合することができる。
【0025】
図2図6に関して、矯正用接着材系10は、図6に示される、1種若しくは複数の成分の単一層18、又は図3図5に示される、個々の、別々に適用された成分の、複数の層24を含むことができる。複数の層24は、図3図5の同じ部分で説明されるようであるが、これは、本発明にとって不要である。本発明によれば、個々の、別々に適用された成分の、複数の層24は、互いに対して、寸法及び厚さが異なるものでもよい。層18、層24は、歯の表面22若しくは矯正器具12の一方に結合するように構成された、1種若しくは複数の成分、又はサンドイッチ様複合構造の、他の成分の間の結合を形成するように構成された、1種若しくは複数の成分を含む。矯正用接着材系10を用いて、それぞれの歯14に付着させる場合、ブラケット12及びアーチワイヤー20は、合わせて、矯正処置をもたらす。
【0026】
本発明の実施形態によれば、矯正用接着材系10は、上記の歯の準備工程の、1つ又は複数を省くことができる。例えば、矯正用接着材系10は、矯正用ブラケット12を対応する歯14にしっかりと固定するものの、前述された、洗浄する工程及び酸エッチングする工程の、1つ又は複数を必要としない場合がある。更に、矯正用接着材系10によって、矯正用ブラケット12を、歯14から意図的に取り外す、容易さを改善することができる。したがって、本発明の実施形態の矯正用接着材系10により、ブラケット12を歯14から結合解除する、機械的な力を著しく加える必要はなく、また患者は、取り外し中の不快感を経験することはないであろう。
【0027】
矯正用ブラケット12の取り外し後、もしあれば、歯14の接着材残留物を最小限にするであろう。したがって、本発明の実施形態はまた、取り外し後の、歯14を洗浄する工程を省くか、又は最小限にすることになる。患者の、もう1つの利点として、矯正用接着材系10は、歯の表面の準備中に、酸エッチングによって生じる、脱灰の問題を取り除くか、又は最小限にすることになる。本発明の実施形態の矯正用接着材系10は、自己修復特性を有することができ、したがって、矯正用接着材系10は、経年劣化及び長期分解に耐える。患者及び臨床医の両方にとって、もう1つの利点として、系10により、歯14に対するデバイス12の、可逆的な結合及び結合解除が可能になる。すなわち、矯正用接着材系10の結合網は、歯14の表面と、又は矯正用デバイス12から、選択的に、結合するように活性化され、結合解除するように不活性化され得る。臨床医は、置き間違えたデバイスの配置を容易に修正することができる。
【0028】
矯正用接着材の複雑な因子は、接着材が曝される環境である。患者の口は、電解質、酵素、及び細胞物質の水溶液である、唾液で満たされている。この環境は、歯と矯正用デバイスとの間の機械的結合をつくるために、上記の、複雑な歯の準備方法及び結合方法を必要とする。
【0029】
出願人らは、口腔環境が、水、電解質、及び生物学的物質の溶液である、海水に似ていると確認した。海で、イガイは、海水に沈んだ表面に、それ自体を付着させ、取り外す、並外れた能力を有する。出願人らによれば、改変海洋イガイタンパク質、又は矯正用接着材系10の成分と同様のタンパク質を用いることによって、矯正用デバイス、例えば、矯正用ブラケット12と、歯14との間の十分な結合強度がもたらされる。結合する工程を、上記の、複雑な準備方法及び結合方法を用いずに成し遂げることができる。矯正用接着材系10の実施形態には、選択された改変イガイタンパク質、又は口腔環境でイガイの付着機能及び/又は取り外し機能を模倣する、同様の成分が含まれる。改変イガイタンパク質は、合成的に製造される。
【0030】
海洋イガイは、乱流の海洋環境で、岩及び他の表面に強く接着させるのに重要な、足糸として知られる、糊のような粘着物質を分泌する。足糸は、外方向に放射状に拡がる糸状物質の束である。足糸は、4種の部分、すなわち、付着盤、糸、幹、及び根元で構成される。イガイ足糸は、タンパク質に似た性質である。言い換えれば、イガイ足糸は、海洋イガイから誘導されたタンパク質である。足糸は、12個の収縮筋の組み合わせにより、その張力を制御する、イガイの斧足の基部の根元に付いている。25種より多い、様々なイガイの斧足タンパク質(mfp)が足糸において確認され、そのうちの5種(mfp-2~mfp-6)は、付着盤に特有である。これら5種のmfpは、一般的に、高い含有量の、稀な変性アミノ酸3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(以下「DOPA」)(1)を含む。
【0031】
【化1】
【0032】
上記の(1)に示すように、DOPAは、カテコール部分を含む。塩基性pH条件の下、海水からのオキシダントカチオンと組み合わせる場合、DOPAのカテコール部分のカテコール酸化により、キニーネが生成される。キニーネは、結合網で架橋ポリマーマトリクスを形成することができる。更に、岩に結合する場合、DOPAのカテコール部分は、岩にみられる無機酸化物によるキレート化を受けることがある。DOPAの分子間の凝集は、多価カチオン、例えば、Fe3+イオン及びCa2+イオンによって促進される。これらのカチオンは、DOPAの非酸化カテコールの間で金属錯体を形成し、海水中の結合網の湿潤粘着を容易にする。とりわけ海水に沈んでいる場合、粘着過程中に外部表面に付着させ、木材、金属、及び鉱物の表面等の、様々な基材へのイガイの粘着を、少なくとも容易にするのは、DOPAのカテコール官能基であることが明らかになった。矯正用接着材系10の実施形態には、選択された改変海洋イガイタンパク質、又は口腔環境でイガイの付着機能及び/若しくは取り外し機能を模倣する、同様の成分が含まれる。例示的な接着材には、参照によってその全体がそれぞれ本明細書に援用された、米国出願公開第2016/0160097号及び米国出願公開第2017/0217999号に開示されたものが挙げられる。改変海洋イガイタンパク質は、合成されてもよく、遺伝子改変されてもよい。
【0033】
図7Aに関して、例示的な一実施形態において、矯正用接着材系10の、改変海洋イガイタンパク質は、カテコール部分及び/又はカテコール様部分を有するモノマーを含み、したがって、(1)に示したDOPAと同様の性質を有する。矯正用接着材系10のカテコール部分及び/又はカテコール様部分は、ニトロカテコール含有化合物、又は1種若しくは複数のニトロカテコール誘導体含有化合物を含み、それによって、キレート化、自己重合、及び架橋の官能基がもたらされる。さらなる例として、図7Aは、エナメル質に結合する湿潤接着基を有する、例示的なカテコール様含有化合物を示す。湿潤接着基は、接着材系10の、他の成分と架橋する、1種又は複数の官能性モノマー(図7C)を含む。官能性モノマーは、ホスホン酸塩部分及び環状ジスルフィド部分の、少なくとも一方を含み、その両方とも、モノマーの重合性基との反応を受けることができる。
【0034】
図2図6に関して、矯正用接着材系10の改変タンパク質接着材の、カテコール様部分及び官能性モノマーを、共につないで、歯の表面22に結合したカテコール様部分と共に、層18、層24の、少なくとも一部を形成することができる。この部分は、歯の表面22を、予め、洗浄する工程、エッチングする工程、及び乾燥させる工程を施すことなく、モノマーの、歯の表面22への粘着を容易にすることができる。これらの準備する工程の、1つ又は複数を省くことによって、本発明の実施形態は、業務時間を短縮する。1個のブラケットを1本の歯に結合する時間の短縮は、約80%短縮することができる。例えば、従来の準備及び接着材は、歯につき4分間も必要とすることがある。本発明の実施形態は、それを、歯につき約30秒まで短縮することができる。典型的な結合の予約は、患者の拘束2~3時間を要する。本発明の実施形態は、結合に必要な時間を大幅に短縮し、少なくともその理由で有利である。例えば、本発明の実施形態によれば、臨床医は、初診と同じ日に、矯正器具を患者の歯に結合してもよい。これは、矯正器具を患者の歯に結合することに関連する、長い業務時間要件のために、一般的には実施されない。更に、結合時間の短縮、及びそれに関連する業務時間の短縮により、臨床医にかかる費用が減ることになるが、より多くの患者を診る、臨床医の許容量を増すことによって、潜在的に収益性が増す。
【0035】
図3図6に示された、例示的な系10のいずれかにおいて、改変タンパク質接着材のモノマーは、歯の表面22に粘着し、矯正用デバイスを最終的に付着させる基部を形成する。例えば、図3に関連して、一実施形態において、矯正用接着材系10は、合わせて複合層24を形成する、4種の層を含むことができる。それに関して、矯正用接着材系10は、合わせて矯正用ブラケット12を歯14に結合する、1つ又は複数の、別々に適用された、層26、層28、層30、及び層32を含むことができる。層26、層28、層30、層32における成分のそれぞれは、他の層の成分と、及び/又は歯14若しくは矯正用ブラケット12と結合する。
【0036】
例示的な実施形態において、層26は、歯の表面22に直接接触している。層26は、上記のカテコール様部分を有する、改変イガイタンパク質のモノマーを含む。例として、改変イガイタンパク質のモノマーは、カテコールメタクリレートを含む。一部の、従来の矯正用封止材とは異なり、洗浄する、エッチングする、又は乾燥させる、準備工程の、1つ又は複数を必要とせず、カテコール様部分は、水素結合及びヒドロキシアパタイトとの金属・配位子錯体によって粘着網を形成する。更に、カテコール様部分は、エナメル質又は象牙質のコラーゲンとマイケル付加されて、層26を歯の表面22と化学的に結合することができる。
【0037】
図3には示されないが、ほんの一例として、層26は、約100ナノメートル厚程度であってもよい。層26は、100ナノメートルよりもより厚くても、より薄くてもよく、層26の、適用技術及び粘度によって決まることがある。層26は、ブラケット体12と歯14との間の接着材系10によって形成されたジョイントの全体の厚さに対して、非常に薄くてもよい。層28、層30、及び層32は、歯の表面22に付着させた層26のモノマーに、別々に適用することができる。
【0038】
層28は、層が硬化する前後に、層26を形成するカテコール様含有モノマーに直接接触し、化学的に結合することができる。図3に示した実施形態において、層28は、層26を形成する乾燥モノマーに結合する、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物(以下に記述)を含むことができる。例示的な一実施形態において、層28は、特定の波長の光に曝露されるとき変性する。したがって、治療の終わりに、臨床医は、系10をその光に曝露して、層28を変性することができる。結果として、その層は溶解し、矯正用ブラケット12を外す。その後、臨床医は、矯正用ブラケット12を容易に取り外す。
【0039】
一実施形態において、図3に関して、封止材は層30を形成することができる。層30は、層が硬化する前後に、層28を形成する、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物に直接接触し、化学的に結合することができる。図3に示した実施形態において、層30は、層28に結合するアクリレート系樹脂封止材であってもよい。一実施形態において、層30を形成する封止材は、市販の矯正用封止材、例えば、Kerr Corporation of Orange社、CAから入手可能なOrtho Solo(商標)である。
【0040】
示したように、層32は、別々の適用で層30に直接適用することができる。層32は、層30に化学的に結合し、また矯正用ブラケット12に機械的に結合する。ほんの一例として、層32は、樹脂、例えば、メタクリル樹脂を含むことができ、予め選択された波長の光に曝露されるとき、層30のアクリレート系樹脂封止材と化学的に結合する、アクリレート部分及び/又はメタクリレート部分を含むことができる。適用されるとき、層32は、層32の硬化を容易にする光開始剤を含むことができる。一実施形態において、樹脂は、市販の矯正用接着材、例えばOrmco Corporation of Orange社、CAからそれぞれ市販されているGrengloo(登録商標)又はBluglooである。
【0041】
光開始剤を含むことができる層32の場合、矯正用ブラケット12を、図3に示した、複合層26、複合層28、複合層30、及び複合層32に対して押し付けてもよい。接着材層32は、それを光、例えば、可視青色光(例えば、波長約450nm~約475nm)に曝露することによって硬化させることができる。この光硬化法は、少なくとも層32を硬化させる。さらなる例として、層26、層28、層30、及び層32のそれぞれは、同時に、又は異なる時間に硬化させることができる。それぞれの硬化のタイミングは、臨床医の選好によって決まる。臨床医は、層26を部分的に硬化させてより粘着性にし、次いで、層26、層28、層30、及び層32のそれぞれを一緒に最終的に硬化させると共に、残っている層を適用することを好むかもしれない。層26、層28、層30、及び層32を硬化させるとき、矯正用接着材系10は、矯正用ブラケット12を歯の表面22に結合する。
【0042】
図4図5、及び図6に示された、例示的な矯正用接着材系10において、層26、層28、層30、及び層32に関する、上記の官能基は、4種未満の層と結合することができる。例えば、層28及び層30の官能基は、結合して、3層系(図4)をもたらすことができる。さらなる例として、2層系(図5)は、前述したように、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物を含むことができる層30において、層26のカテコール様部分の官能基を封止材と結合することができる。この場合、図3の層26、層28、及び層30の官能基は、図5の層40に存在する。したがって、図5に関して、層40は歯の表面22に適用される。層40のカテコール様部分は、洗浄する工程、エッチングする工程、又は乾燥させる工程の、1つ又は複数を必要とせず、表面22のエナメル質との、水素結合及び金属・配位子錯体によって粘着網を形成することができる。
【0043】
図5に関して、層42は、図3の層32と同じであってもよい。詳細には、層42は、樹脂、例えばメタクリル樹脂を含むことができ、層40の樹脂と化学的に結合する、アクリレート部分及び/又はメタクリレート部分を含むことができる。結合網は、前述した図7Bに図式化することができる。
【0044】
図6において、一実施形態において、矯正用接着材系10は、上記の層26、層28、層30、及び層32の官能性を組み合わせる成分を有する単一層18を含む。例として、層18のカテコール様部分は、歯の表面22を、洗浄する工程、エッチングする工程、又は乾燥させる工程の、1つ又は複数を必要とせず、エナメル質との、水素結合及び金属・配位子錯体によって粘着網を形成することができる。更に、層18は、結合解除化合物、及びアクリレート系樹脂封止材に化学的に結合する、アクリレート部分及び/又はメタクリレート部分を含むことができる樹脂、例えば、メタクリル樹脂を含むことができ、最終的に、矯正用接着材系10とブラケット12との間の結合が形成される。図は尺度が示されていない。したがって、図3の、層26、層28、層30、及び層32、図4の、層26、層30、及び層32、図4の、層40及び層42、並びに図5の層18は、およそ同じ厚さの、均一な厚さで描かれているが、本発明の実施形態は、示された厚さの相対比に限定されない。それぞれの層の厚さは、他の層とは独立して変化することができる。
【0045】
例示的な系、矯正用接着材系10が、図7Bに図式化される。図において、カテコール様含有層26は、エナメル質中のヒドロキシアパタイトイオン若しくはカルシウムイオン又は表面22の象牙質に付着する。層26のモノマーは、歯の表面22に結合することができ、層30の封止材に架橋することができる(図4)。層32のメタクリル樹脂は、ブラケット12の表面に架橋する。架橋が生じる領域は、36で架橋ポリマーブラシとして示されることがある。
【0046】
例示的な一実施形態において、図8A及び図8Bに関して、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物は、生物学的に許容されるポリマー、例えば、PEG-ND4として既知である、4アーム星型ポリ(エチレングリコール)に、末端基として付くことができる。次いで、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物は、例えば、歯の表面22に付着させることができ、又はカテコール様部分(例えば、図3の層26)を有するモノマーの、別々に適用された層に、付着させることができる。前述された、DOPAのカテコール部分と同様に、ニトロカテコール含有化合物及びニトロカテコール誘導体含有化合物は、酸化を受けて架橋網目を形成し得るか、又は非酸化ニトロカテコールと、その誘導体との間で金属キレート化を受けて、2個以上のニトロカテコール含有化合物の間に強い結合を形成し得る。例示的なニトロカテコール誘導体含有化合物には、とりわけ、ニトロカテコール、ニトロドーパミン、ニトロノルエピネフリン、及びニトロエピネフリンが挙げられる。これらの化合物の一部は、DOPAの、湿潤表面への接着性を模倣するだけでなく、カテコール様部分、例えば、ニトロカテコール含有化合物、又は1種若しくは複数のニトロカテコール誘導体含有化合物が、光開裂性であってもよい。
【0047】
その点で、光開裂性部分は、ある波長の光(図8の「hv」)と相互作用することができる。図8Aに示すように、一実施形態において、カテコール様部分を含むモノマーは、ある波長の光に曝露されるとき、開裂することができ、それによって、矯正用接着材系10の、少なくとも一部の解重合を容易にすることができる。例示的な光開裂性部分は、光開裂性ビス-メタクリレートを含む。モノマーの光開裂は、上記の、ニトロカテコール含有化合物及びその誘導体含有化合物の、1種又は複数のペンダントである、1種又は複数の、追加の部分によってもたらされ得る。
【0048】
例示的な一実施形態において、図8Bに関して、脱離基Xと、ニトロカテコール部分のペンダントであるエチル基との間の結合は、所定のエネルギーを有する光の光子で開裂することができる。例として、矯正用接着材系10の光開裂性部分は、赤外線(IR)スペクトルの光(すなわち、波長約700nm~約1mm)に曝露されるとき、壊れることができる、任意の部分であってもよい。したがって、例えば、IR光への曝露によって、矯正用接着材系10を解重合し、ブラケット12の、歯の表面22からの結合解除を促すことができる。IR光は、硬いもの(例えば、歯)及び柔らかいもの(例えば、唇、頬、及び舌)の両方を通過するので、有利であると考えられる。臨床医は、矯正用接着材系10をIR光により容易に曝露させて、ブラケット12を歯14から結合解除することができる。或いは、光開裂性部分は、紫外線(UV)スペクトル(すなわち、波長約10nm~約400nm)の光に曝露されるとき、壊れることができる。例示的な光開裂性部分は、参照によってその全体が本明細書に援用された、Shafiqら、「Bioinspired Underwater Bonding and Debonding on Demand」51Angew.Chem.Int.Ed.4332~35頁(2012)(以下「Shafiq」)に報告されているものが挙げられる。
【0049】
一実施形態において、ニトロカテコール誘導体部分と、生物学的に許容されるポリマーとの間の結合は、光への曝露で開裂することができる。このように、矯正用接着材系10を、光曝露を介して結合解除することができる。例として、図4の層30は、光開裂性部分を含むことができる。その点で、ニトロカテコール誘導体含有化合物と、生物学的に許容されるポリマーとの間の結合をIR光に曝露することにより、結合を弱めるか、又は壊すことができる。例として、典型的な矯正用ブラケットは、歯に結合することができ、せん断強度10MPa~20MPaを得ることができる。IR光又はUV光への曝露により、せん断強度を1MPa以下まで減らすことができる。結果として、ニトロカテコール誘導体は、表面に付いたままであり得るが、生物学的に許容されるポリマーは、ニトロカテコール誘導体部分から引き離される。図4の実施形態に適用されるとき、例えば、IR光に曝露されるとき、層30は変性することができ、その場合、ブラケット12及び層32が歯14から外れるように、層30は壊れることができる。結合解除の後、層26は、歯の表面22に残ることがある。したがって、処置の間、必要であれば、歯のブラケットは、患者の歯に強く接着させることができるが、処置が完了したとき、又はデバイスを再配置するか、若しくは取り替える必要があるとき、接着材をIR光源に曝露することによって、歯から容易に取り外すこともできる。
【0050】
処置が完了すると、一実施形態において、結合解除する工程は、接着材をIR光に曝露する工程を含むことができる。矯正用ブラケット12は、剥がれ落ちるか、又は取り外すのに力を僅かに加えることを要するにすぎないであろう。光曝露と組み合わせた、任意の力の付加は、矯正用デバイスを歯から結合解除するのに必要な、従来の力よりも実質的により弱いと考えられる。結合力を減らすことに加えて、結合解除する工程は、矯正用デバイスが取り外されるとき、残留する接着材を削って除去する必要性を最小限にするか、省くことができる。機械的に取り外すことを必要とする、従来の接着材の場合(すなわち、削って除去される)、機械的な除去からの、患者の不快感が、本発明の接着材を用いることによって、取り除かれる。また、本発明の接着材は、より強い粘着強度をもたらす傾向があるため、緊急の予約を最小限にすることができる。例えば、本発明の実施形態による、結合強度は、約15MPa以上に達することができ、偶発的な結合解除を最小限にすることができる。この結合強度が得られる一方で、矯正用デバイスを意図的に結合解除するのにかかる時間も短縮する。
【0051】
本発明の一実施形態において、臨床医は、アーチワイヤー16を同時に用いることによって、複数のブラケット12、更にブラケット12のアーチ全体を取り外すことができる。臨床医は、矯正用接着材系10をIR光に曝露することができる。矯正用接着材系10の少なくとも一部が変性すると、臨床医は、アーチにそれぞれのブラケット12が依然として係合しているものの、アーチワイヤー16を引っ張ることができる。ブラケット12は、アーチワイヤー16に連結しているものの、外れる。このように、臨床医は、アーチワイヤー16を一度引っ張って、ブラケット12のそれぞれを取り外すことができる。この方法では、歯14に残留接着材を残さないことが可能である。別の利点として、これは、個々のブラケットの、不測の損失又は誤飲を防ぎ、有意に、例えば、90%より長く業務時間を短縮することができる。
【0052】
更に、本発明の実施形態によれば、光開裂性部分は、矯正用接着材系10の、歯の表面22への可逆的な粘着を可能にする。可逆的接着性の結合方法は、速硬化性の種類(例えば、歯に存在するカテコール誘導体含有化合物、及び修復部分に存在する官能性モノマーと共に、歯に対して矯正用デバイスを押し付けるとき、硬化が僅かな時間で生じることができる)であってもよい。粘着は、少なくとも2度、結合し、その後結合解除され得るという意味で、可逆的であり得る。これは、初めに、矯正用ブラケット12を不適切に置いた場合に有用であり得る。その後、矯正用ブラケット12を結合解除し、再配置し、次いで歯の表面22に再結合することができる。一実施形態において、接着材の接着性は、結合中、及び結合解除中のそれぞれで、活性化し、不活性化することができる。したがって、接着材により、矯正用デバイスを容易に再配置することができる、オンデマンド結合法及びオンデマンド結合解除法が容易になり得る。これは、再利用可能な接着材系と称することができる。有利なことに、矯正用デバイス配置は、さらなる接着材を加えることなく、接着材を選択的に結合し、結合解除し、その後再結合することができるので、適切に配置する前に接着材が重合する心配がなく、万全であり得る。臨床上、再配置する方法は、一般的であり、面倒であり、したがって、本明細書に記載の接着材の実施形態により、再配置の時間が節約され、患者ケアの基準の重要な変化が示される。
【0053】
本発明の一実施形態において、矯正用接着材をキットで使用することができる。キットは、矯正用接着材を予め適用した、矯正用ブラケット12等の矯正用デバイスを含むことができる。キットは、ブラケット12を個別に整理する気泡シートを含むことができる。臨床医は、特定の順序で、矯正用ブラケット12を包装から個別に取り出し、患者の歯にそれを押し付けることができる。次いで、臨床医は、予め適用された接着材を、青色光等の光を用いて硬化させることができる。
【0054】
次に図9及び図10に関して、一実施形態において、矯正用接着材系10は、他の矯正器具、例えばアライナー60と共に使用することができる。アライナー60は、1個又は複数の歯14に結合した、1個又は複数のアタッチメント62に適合し、相互に作用するように構成することができる。それぞれのアタッチメント62は、矯正用接着材系10の所定の形状の構造であってもよい。すなわち、矯正用接着材系10は、矯正用ブラケット12(図1)に関して前述されたのと同様に、歯の表面に結合した、長方形、四角形、円形、楕円形、又は三角形の形状をしたアタッチメントに形成されてもよい。アタッチメント62は、接着材系10で完全に形成されてもよい。
【0055】
アライナー60は、矯正処置の間、アタッチメント62に係合する、対応するバルジ64と共に構成され得る。有利なことに、アタッチメント62のそれぞれは、アライナー60で処置する前に、歯の表面に容易に結合することができ、それを特定の波長の光に曝露することによって、容易に結合解除することができる。アタッチメント62は、臨床医がアタッチメント62を患者の歯により容易に位置づけることができる、テンプレート(示さず)を使用して、歯に適用することができる。正確に配置されたアタッチメント62は、アライナー60の、対応するバルジ64と相互に作用することができる。
【0056】
本発明の実施形態のより完全な理解を容易にするために、以下の非限定的な実施例が提供される。
【実施例
【0057】
(実施例1)
より低い酸価を有するように改質された(すなわち、HCl副生成物を除去するように精製された)リン酸二水素10-メタクリルオキシデシル(MDP)7.5質量%、カテコール-メタクリレート(CMA)(CMAの主鎖としてオイゲノールを用いた)0.005質量%、及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)0.0075質量%の、残りがアセトンの、プライマー溶液を、ティッシュで拭き取ることによって準備された、ウシの歯にブラシで適用した。歯の表面を準備するための、他の準備技術は用いなかった。
【0058】
光開裂性ビス-メタクリレート10質量%、N,N-ジ-メチル-アミノ-エチルメタクリレート(DMAEMA)0.01質量%、カンファーキノン(camphoroquinone)(CQ)0.01質量%、及びBHT0.001質量%の、残りがアセトンの、第2溶液を、乾燥させたプライマーにブラシで適用した。これは、結合解除層を形成する。
【0059】
Ortho Solo(登録商標)封止材を結合解除層に適用した。
【0060】
Grengloo(登録商標)接着材を、矯正用ブラケットにおき、次いで、結合解除層に接触した接着材で、結合解除層に対して押し付ける。
【0061】
次いで、層を、広範スペクトル硬化光に数秒間(約5秒間程度)曝露した。全体の準備及び結合の時間は、試料あたり約1分であった。
【0062】
複数の試料について測定された結合強度は、17MPa~19MPaであった。
【0063】
試料規模30のワイヤーせん断結合強度は、高くて36.3MPaから、低くて17.4MPaの範囲であった。結合解除を示すために、上記の、集められた30個の試料の第1群をUV光に10秒間曝露した。曝露の後、ワイヤーせん断結合強度は、高くて15.6MPaから、低くて12.7MPaの範囲であった。上記の、集められた30個の試料の第2群をUV光に30秒曝露した。曝露の後、ワイヤーせん断結合強度は、高くて9.5MPaから、低くて0の範囲であった。
【0064】
(比較例)
実施例1と比較するために、市販の接着材を用いて、矯正用ブラケットをウシの歯に結合した。全ての市販接着材の結合用の、製造者の説明書に従った。それぞれの歯にブラケットを結合する前の、標準の歯の準備技術は、順に、軽石粉で歯を洗浄する工程、水で洗い流す工程、空気乾燥させる工程、及びエッチング液を適用する工程を含んだ。
【0065】
30個の試料の、2つの群それぞれを、3M社から市販されている、Orthosolo(登録商標)及びGrengloo(登録商標)及びTransbond(商標)XTプライマー及びTransbond(商標)XT接着材のそれぞれを用いて準備した。
【0066】
セルフエッチングTransbond(商標)Plusプライマー(L-pop delivery)及びTransbond(商標)XT接着材の、30個の試料の、別の群も準備した。
【0067】
それぞれのワイヤーせん断結合試験によって、実施例1の実験試料と比較した、以下の結果が示された。
【0068】
【表1】
【0069】
本発明は、様々な好ましい実施形態の記述によって説明されており、これらの実施形態は、ある程度詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲に記載の範囲を、こうした詳細にまで制限すること又は何らかの方法で限定することは、本発明者らの意図ではない。さらなる利点及び変更形態は、当技術分野の技術者に容易に明らかになるであろう。本発明の、様々な特徴は、使用者の要求や優先傾向に応じて、単独で、又は任意の組み合わせで用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 矯正用接着材系
12 矯正用ブラケット
14 歯
16 アーチワイヤースロット
18 単一層
20 アーチワイヤー
22 歯の表面
24 複合層
26 複合層
28 複合層
30 複合層
32 複合層
60 アライナー
62 アタッチメント
64 バルジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10