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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ワーク加工用シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230804BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230804BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230804BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20230804BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 B
B23K26/00 B
C09J7/38
C09J7/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020514077
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015091
(87)【国際公開番号】W WO2019203021
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2018079829
(32)【優先日】2018-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】森田 由希
(72)【発明者】
【氏名】山下 茂之
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-015236(JP,A)
【文献】特開2012-169441(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178346(WO,A1)
【文献】特開2010-073897(JP,A)
【文献】特開2006-140348(JP,A)
【文献】特開2014-189563(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088677(WO,A1)
【文献】表面粗さ記号の換算表について:Ra、Rz、Rmax(Rzjis),日本,(株)武井製作所,2011年03月22日,https://web.archive.org/web/20110322025852/https://www.toishi.info/faq/question-seven/ra-rz-rmax-rzjis.html
【文献】表面粗さ記号の換算表:Ra、Rz、Rmax(Rzjis),株式会社竹内型材研究所,2016年04月28日,https://web.archive.org/web/20160428023554/http://mast-takeuchi.co.jp:80/technology/roughness
【文献】表面あらさ,日本,三菱マテリアル株式会社,2010年03月30日,https://web.archive.org/web/20100330055920/http://www.mitsubishicarbide.net/mmc/jp/product/technical_information/information/hyoumenarasa.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/00
C09J 7/38
C09J 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材と、前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、
前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm以上、0.4μm以下であり、
前記基材の第2の面における最大高さ粗さ(Rz)が、0.01μm以上、2.5μm以下であり、
前記基材の波長532nmの光線透過率が、40%以上であり、
ワークに対して、前記ワーク加工用シート越しにレーザーマーキングを行う工程を含む用途に用いられる
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【請求項2】
前記基材の波長400nmの光線透過率が、40%以上であることを特徴とする請求項1に記載のワーク加工用シート。
【請求項3】
前記基材の波長800nmの光線透過率が、45%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のワーク加工用シート。
【請求項4】
ダイシングに用いられることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のワーク加工用シート。
【請求項5】
ステルスダイシングに用いられることを特徴とする請求項に記載のワーク加工用シート。
【請求項6】
少なくとも、基材と、前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、
前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm以上、0.1μm未満であり、
前記基材の第2の面における最大高さ粗さ(Rz)が、0.01μm以上、2.5μm以下であり、
前記基材の波長532nmの光線透過率が、40%以上である
ことを特徴とするワーク加工用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク加工用シートに関するものであり、特に、ワークがレーザーマーキングされる場合に好適なワーク加工用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フェイスダウン方式と呼ばれる実装法により半導体装置を製造することが行われている。この方法では、バンプ等の電極が形成された回路面を有する半導体チップを実装する際に、半導体チップの回路面側をリードフレーム等のチップ搭載部に接合している。したがって、回路が形成されていない半導体チップの裏面側が露出する構造となる。
【0003】
このため、半導体チップの裏面側には、半導体チップを保護するために、硬質の有機材料からなる保護膜が形成されることが多い。そこで、例えば特許文献1は、上記の保護膜を形成することのできる保護膜形成層がダイシングシート上に形成された保護膜形成兼ダイシング用シートを開示している。この保護膜形成兼ダイシング用シートによれば、半導体ウエハに保護膜を形成した後、続いてダイシングを行うことができ、もって保護膜付き半導体チップを得ることができる。
【0004】
なお、上記のダイシングシート自体は、基材およびその片面に設けられた粘着剤層を備えている。粘着剤層の粘着剤としては、保護膜付き半導体チップのピックアップ時の剥離性を向上させるために、紫外線照射によって粘着力が低下する紫外線硬化性の粘着剤が使用されることがある。
【0005】
上記保護膜には、通常、当該半導体チップの品番等を表示するために、印字が施される。その印字方法としては、保護膜に対してレーザー光を照射するレーザーマーキング法が一般化している。保護膜に対してレーザーマーキングを施す場合、保護膜形成兼ダイシング用シートのダイシングシート越しに、保護膜に対してレーザー光を照射することとなる。
【0006】
上記保護膜は、黒色の樹脂組成物からなることが一般的であり、かかる保護膜に対してレーザーマーキングを施す場合、一般的には、レーザーの出力が比較的弱くても、保護膜に良好に印字することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-140348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで近年、ワークとしての半導体ウエハやガラス板に対してレーザーマーキングを施すことが提案されている。このように無機材料にレーザーマーキングを施す場合、印字を良好に行うことができず、形成された印字が荒れたものとなり、印字の精度が低くなってしまうという問題が生じ易い。
【0009】
また、上記のように無機材料にレーザーマーキングを施す場合、レーザーの出力を比較的大きくする必要があり、それにより、ダイシングシートの基材が焼け易くなってしまう。そうなると、その焼けた部分の光線透過率が低下し、ワークに形成された印字を良好に視認することができなくなる。また、ダイシングシートの粘着剤層が紫外線硬化性の場合、当該粘着剤層を紫外線硬化させるときに、基材の焼けた部分における紫外線の透過性が悪くなり、その結果、当該部分の粘着剤層が十分に硬化できず、ピックアップしたチップに粘着剤が付着してしまう糊残りの問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、レーザーマーキング性に優れるとともに、レーザー光に対して耐性を有するワーク加工用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、少なくとも、基材と、前記基材の第1の面側に積層された粘着剤層とを備えたワーク加工用シートであって、前記基材の第2の面における算術平均粗さ(Ra)が、0.01μm以上、0.4μm以下であり、前記基材の第2の面における最大高さ粗さ(Rz)が、0.01μm以上、2.5μm以下であり、前記基材の波長532nmの光線透過率が、40%以上であることを特徴とするワーク加工用シートを提供する(発明1)。
【0012】
上記発明(発明1)においては、基材の物性が上記の通りであることで、レーザーマーキングに使用するレーザー光、特に波長532nmのレーザー光が、基材、ひいてはワーク加工用シートを透過し易いものとなる。これにより、ワークに対してレーザーマーキングによる印字を良好に行うことができ、精度の高い印字を形成することができる。また、基材においてレーザー光のエネルギーが吸収され難く、基材が焼けて印字されてしまうことが抑制される。したがって、基材の焼けに起因する光線透過性の低下がなく、ワークに形成された印字を、ワーク加工用シートを介して良好に視認することができる。
【0013】
上記発明(発明1)においては、前記基材の波長400nmの光線透過率が、40%以上であることが好ましい(発明2)。
【0014】
上記発明(発明1,2)においては、前記基材の波長800nmの光線透過率が、45%以上であることが好ましい(発明3)。
【0015】
上記発明(発明1~3)に係るワーク加工用シートは、ワークに対して、前記ワーク加工用シート越しにレーザーマーキングを行う工程を含む用途に用いられることが好ましい(発明4)。
【0016】
上記発明(発明1~4)に係るワーク加工用シートは、ダイシングに用いられることが好ましい(発明5)。
【0017】
上記発明(発明5)に係るワーク加工用シートは、ステルスダイシングに用いられることが好ましい(発明6)。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るワーク加工用シートは、レーザーマーキング性に優れるとともに、レーザー光に対して耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの使用例、具体的には積層構造体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るワーク加工用シートの断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、基材2と、基材2の第1の面側(図1中、上側)に積層された粘着剤層3と、粘着剤層3上に積層された剥離シート6とを備えて構成される。剥離シート6は、ワーク加工用シート1の使用時に剥離除去され、それまで粘着剤層3を保護するものであり、本実施形態に係るワーク加工用シート1から省略されてもよい。ここで、基材2における粘着剤層3側の面を「第1の面」、その反対側の面(図1中、下面)を「第2の面」という。
【0021】
本実施形態に係るワーク加工用シート1は、一例として、ワークとしての半導体ウエハやガラス板へのレーザーマーキング工程およびダイシング工程においてワークを保持するために用いられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
また、本実施形態におけるレーザーマーキングは、半導体ウエハやガラス板等の無機材料からなる部材の他、それらに積層される保護膜や接着剤層、あるいはパッケージの表層等の有機材料からなる部材も対象となる。
【0023】
本実施形態に係るワーク加工用シート1は、通常、長尺に形成されてロール状に巻き取られ、ロール・トゥ・ロールで使用される。
【0024】
1.ワーク加工用シートの構成部材
(1)基材
(1-1)物性
基材2の第2の面(以下「基材2の背面」という場合がある。)における算術平均粗さ(Ra)は、0.01μm以上、0.4μm以下であり、最大高さ粗さ(Rz)は、0.01μm以上、2.5μm以下である。また、基材2の波長532nmの光線透過率は、40%以上である。本明細書における算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)は、JIS B0601:1999に基づいて測定したものである。また、本明細書における光線透過率は、測定器具として分光光度計を使用し、直接受光法で測定したものである。いずれも、測定方法の詳細は後述する試験例に示す通りである。
【0025】
基材2の第2の面の算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)が上記範囲にあり、かつ、基材2の波長532nmの光線透過率が上記であることにより、レーザーマーキングに使用するレーザー光、特に波長532nmのレーザー光が、基材2、ひいてはワーク加工用シート1を透過し易いものとなる。これにより、ワークに対してレーザーマーキングによる印字を良好に行うことができ、精度の高い印字を形成することができる。また、基材2においてレーザー光のエネルギーが吸収され難く、基材2が焼けて印字されてしまうことが抑制される。したがって、基材2の焼けに起因する光線透過性の低下がなく、ワークに形成された印字を、ワーク加工用シート1を介して良好に視認することができる。さらに、粘着剤層3が紫外線硬化性粘着剤から構成されている場合には、基材2を介して粘着剤層3に紫外線を照射したときに、当該紫外線は問題なく粘着剤層3に到達し、粘着剤層3は良好に硬化する。そのため、ピックアップしたチップに粘着剤が付着してしまう糊残りの問題が発生し難い。すなわち、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、レーザーマーキング性に優れるとともに、レーザー光に対して耐性を有する。
【0026】
さらに、基材2が上記物性を満たすことで、ステルスダイシングで使用するレーザー光の透過性も良好となり、ステルスダイシングの加工性が優れたものとなる。
【0027】
また、基材2の第2の面の算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)が上記範囲にあることで、ワーク加工用シート1のブロッキングも抑制することができる。すなわち、ワーク加工用シート1の巻取体からの繰り出しを良好に行うことができるとともに、繰り出しの際に意図しない界面での剥離が生じ難い。
【0028】
基材2の背面における算術平均粗さ(Ra)の上限値は、上記の通り0.4μm以下であり、好ましくは0.2μm以下であり、特に好ましくは0.1μm未満である。算術平均粗さ(Ra)が0.4μmを超えると、基材2の背面の凹凸にてレーザー光の透過が妨げられる。一方、上記算術平均粗さ(Ra)の下限値は、ブロッキング防止の観点から、0.01μm以上であり、好ましくは0.015μm以上である。
【0029】
また、基材2の背面における最大高さ粗さ(Rz)は、上記の通り2.5μm以下であり、好ましくは1.5μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。最大高さ粗さ(Rz)が2.5μmを超えると、基材2の背面の凹凸にてレーザー光の透過が妨げられる。一方、上記最大高さ粗さ(Rz)の下限値は、ブロッキング防止の観点から、0.01μm以上であり、好ましくは0.013μm以上であり、特に好ましくは0.1μm以上である。
【0030】
基材2の第1の面(以下「基材2の正面」という場合がある。)には、粘着剤層3が積層され、基材2の正面の凹凸が粘着剤層3によって埋められるため、基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz)は、特に限定されない。しかしながら、それらの値が大き過ぎると、基材2の正面の凹凸が粘着剤層3によって埋めきれない場合もあり得るため、基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)は、上限値として、2.5μm以下であることが好ましい。基材2の正面の算術平均粗さ(Ra)の下限値は、特に限定されないが、フィルムの製膜方法上、通常は0.01μm以上である。また、上記の理由により、基材2の正面の最大高さ粗さ(Rz)は、上限値として、2.5μm以下であることが好ましい。基材2の正面の最大高さ粗さ(Rz)の下限値は、特に限定されないが、フィルムの製膜方法上、通常は0.01μm以上である。
【0031】
基材2の波長532nmの光線透過率は、上記の通り、40%以上であり、好ましくは50%以上であり、特に好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。波長532nmの光線透過率が40%未満であると、レーザーマーキングで主として使用されるレーザー光(特に波長532nmのレーザー光)のエネルギーが基材2で吸収され、基材2に焼けが発生し易くなる。なお、波長532nmの光線透過率の上限値は特に限定されず、100%であってもよい。
【0032】
また、基材2の波長400nmの光線透過率は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、特に50%以上であることが好ましく、さらには75%以上であることが好ましい。波長400nmの光線透過率が40%以上であることにより、可視光が透過し易いものとなり、したがって、基材2、ひいてはワーク加工用シート1を介して、ワークに形成された印字をより良好に視認することができる。
【0033】
さらに、基材2の波長800nmの光線透過率は、45%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、特に65%以上であることが好ましく、さらには75%以上であることが好ましい。波長800nmの光線透過率が45%以上であることにより、可視光が透過し易いものとなり、したがって、基材2、ひいてはワーク加工用シート1を介して、ワークに形成された印字をより良好に視認することができる。
【0034】
(1-2)厚さ
基材2の厚さは、ワーク加工用シート1が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、基材2の厚さは、20μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。また、基材2の厚さは、450μm以下であることが好ましく、特に400μm以下であることが好ましく、さらには350μm以下であることが好ましい。基材2の厚さが上記範囲にあることで、ワークの加工性とレーザー光の透過性とを良好に維持することができる。
【0035】
(1-3)材料
基材2は、樹脂フィルムによって構成されることが好ましい。基材2を構成する樹脂フィルムの具体例としては、低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、高密度ポリエチレン(HDPE)フィルム等のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン-プロピレン共重合体フィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ノルボルネン共重合体フィルム、ノルボルネン樹脂フィルム等のポリオレフィン系フィルム;エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム等のエチレン系共重合フィルム;ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム等のポリ塩化ビニル系フィルム;ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系フィルム;ポリウレタンフィルム;ポリイミドフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリカーボネートフィルム;フッ素樹脂フィルムなどが挙げられる。また、これらの架橋フィルム、アイオノマーフィルムのような変性フィルムも用いられる。さらに上記フィルムの同種または異種を複数積層した積層フィルムであってもよい。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語についても同様である。
【0036】
上記の中でも、ポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニル系フィルムおよびエチレン系共重合フィルムが好ましい。ポリオレフィン系フィルムの中でも、ポリエチレンフィルムが好ましく、特に低密度ポリエチレン(LDPE)フィルムが好ましい。また、ポリ塩化ビニル系フィルムの中でも、ポリ塩化ビニルフィルムが特に好ましく、エチレン系共重合フィルムの中でも、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルムが特に好ましい。これらの樹脂フィルムによれば、前述した物性を満たし易い。また、これらの樹脂フィルムは、エキスパンド性、ワーク貼付性、チップ剥離性等の観点からも好ましい。
【0037】
上記樹脂フィルムは、その表面に積層される粘着剤層3との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。
【0038】
なお、基材2は、上記樹脂フィルム中に、着色剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、フィラー等の各種添加剤を含有してもよい。
【0039】
(1-4)製造方法
基材2を構成する樹脂フィルムは、樹脂フィルムの種類に応じた製造方法によって製造することができるが、主に押出成形のTダイ法によって製造される。前述した算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)および光線透過率を有する樹脂フィルムを製造するためには、樹脂フィルムの製膜時にエア(気泡)を巻き込まないようにする必要がある。例えば、減圧下、真空下等で押出成形することにより、かかるエアの巻き込みを抑制し、気泡跡のない樹脂フィルムを製造することができる。また、製膜時のクーリングロール等の各工程ロールの表面粗さを調整することでも、気泡跡のない樹脂フィルムを製造することができる。ただし、前述した算術平均粗さ(Ra)、最大高さ粗さ(Rz)および光線透過率を有する樹脂フィルムの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0040】
(2)粘着剤層
本実施形態に係るワーク加工用シート1が備える粘着剤層3は、活性エネルギー線非硬化性粘着剤から構成されてもよいし、活性エネルギー線硬化性粘着剤から構成されてもよい。活性エネルギー線非硬化性粘着剤としては、所望の粘着力および再剥離性を有するものが好ましく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等を使用することができる。これらの中でも、ダイシング工程等にてワークまたは加工物の脱落を効果的に抑制することのできるアクリル系粘着剤が好ましい。
【0041】
一方、活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線照射により粘着力が低下するため、ワークまたは加工物とワーク加工用シート1とを分離させたいときに、活性エネルギー線照射することにより、容易に分離させることができる。本実施形態では、上記活性エネルギー線硬化性粘着剤は、紫外線硬化性粘着剤であることが好ましい。これにより、前述した糊残り抑制効果が顕在化して発揮されることとなる。
【0042】
粘着剤層3を構成する活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とするものであってもよいし、活性エネルギー線硬化性を有しないポリマーと活性エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とするものであってもよい。
【0043】
活性エネルギー線硬化性粘着剤が、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合について、以下説明する。
【0044】
活性エネルギー線硬化性を有するポリマーは、側鎖に活性エネルギー線硬化性を有する官能基(活性エネルギー線硬化性基)が導入された(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体(A)(以下「活性エネルギー線硬化型重合体(A)」という場合がある。)であることが好ましい。この活性エネルギー線硬化型重合体(A)は、官能基含有モノマー単位を有する(メタ)アクリル系共重合体(a1)と、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)とを反応させて得られるものであることが好ましい。
【0045】
アクリル系共重合体(a1)は、官能基含有モノマーから導かれる構成単位と、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位とからなる。
【0046】
アクリル系共重合体(a1)の構成単位としての官能基含有モノマーは、重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基とを分子内に有するモノマーであることが好ましい。
【0047】
上記官能基含有モノマーのさらに具体的な例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0048】
アクリル系共重合体(a1)を構成する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、アルキル基の炭素数が1~20であるアルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが用いられる。これらの中でも、特に好ましくはアルキル基の炭素数が1~18であるアルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が用いられる。
【0049】
アクリル系共重合体(a1)は、上記官能基含有モノマーから導かれる構成単位を通常3~100質量%、好ましくは5~40質量%の割合で含有し、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体から導かれる構成単位を通常0~97質量%、好ましくは60~95質量%の割合で含有してなる。
【0050】
アクリル系共重合体(a1)は、上記のような官能基含有モノマーと、(メタ)アクリル酸エステルモノマーまたはその誘導体とを常法で共重合することにより得られるが、これらモノマーの他にもジメチルアクリルアミド、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、スチレン等が共重合されてもよい。
【0051】
上記官能基含有モノマー単位を有するアクリル系共重合体(a1)を、その官能基に結合する置換基を有する不飽和基含有化合物(a2)と反応させることにより、活性エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0052】
不飽和基含有化合物(a2)が有する置換基は、アクリル系共重合体(a1)が有する官能基含有モノマー単位の官能基の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、官能基がヒドロキシル基、アミノ基または置換アミノ基の場合、置換基としてはイソシアネート基またはエポキシ基が好ましく、官能基がエポキシ基の場合、置換基としてはアミノ基、カルボキシル基またはアジリジニル基が好ましい。
【0053】
また不飽和基含有化合物(a2)には、活性エネルギー線重合性の炭素-炭素二重結合が、1分子毎に1~5個、好ましくは1~2個含まれている。このような不飽和基含有化合物(a2)の具体例としては、例えば、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、2-(1-アジリジニル)エチル(メタ)アクリレート、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。
【0054】
不飽和基含有化合物(a2)は、上記アクリル系共重合体(a1)の官能基含有モノマーに対して、通常10~100mol%、好ましくは20~95mol%の割合で用いられる。
【0055】
アクリル系共重合体(a1)と不飽和基含有化合物(a2)との反応においては、官能基と置換基との組合せに応じて、反応の温度、圧力、溶媒、時間、触媒の有無、触媒の種類を適宜選択することができる。これにより、アクリル系共重合体(a1)中に存在する官能基と、不飽和基含有化合物(a2)中の置換基とが反応し、不飽和基がアクリル系共重合体(a1)中の側鎖に導入され、活性エネルギー線硬化型重合体(A)が得られる。
【0056】
このようにして得られる活性エネルギー線硬化型重合体(A)の重量平均分子量は、1万以上であるのが好ましく、特に15万~150万であるのが好ましく、さらに20万~100万であるのが好ましい。なお、本明細書における重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0057】
活性エネルギー線硬化性粘着剤が、活性エネルギー線硬化性を有するポリマーを主成分とする場合であっても、活性エネルギー線硬化性粘着剤は、活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)をさらに含有してもよい。
【0058】
活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル等を使用することができる。
【0059】
かかる活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の単官能性アクリル酸エステル類、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等の多官能性アクリル酸エステル類、ポリエステルオリゴ(メタ)アクリレート、ポリウレタンオリゴ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合、活性エネルギー線硬化性粘着剤中における活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の含有量は、5~80質量%であることが好ましく、特に20~60質量%であることが好ましい。
【0061】
ここで、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させるための活性エネルギー線として紫外線を用いる場合には、光重合開始剤(C)を添加することが好ましく、この光重合開始剤(C)の使用により、重合硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
【0062】
光重合開始剤(C)としては、具体的には、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4-ジエチルチオキサンソン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノン、(2,4,6-トリメチルベンジルジフェニル)フォスフィンオキサイド、2-ベンゾチアゾール-N,N-ジエチルジチオカルバメート、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-プロペニル)フェニル]プロパノン}、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
光重合開始剤(C)は、活性エネルギー線硬化型重合体(A)(活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)を配合する場合には、活性エネルギー線硬化型重合体(A)および活性エネルギー線硬化性のモノマーおよび/またはオリゴマー(B)の合計量100質量部)100質量部に対して0.1~10質量部、特には0.5~6質量部の範囲の量で用いられることが好ましい。
【0064】
活性エネルギー線硬化性粘着剤においては、上記成分以外にも、適宜他の成分を配合してもよい。他の成分としては、例えば、活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)、架橋剤(E)等が挙げられる。
【0065】
活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分またはオリゴマー成分(D)としては、例えば、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリオレフィン等が挙げられ、重量平均分子量(Mw)が3000~250万のポリマーまたはオリゴマーが好ましい。
【0066】
架橋剤(E)としては、活性エネルギー線硬化型重合体(A)等が有する官能基との反応性を有する多官能性化合物を用いることができる。このような多官能性化合物の例としては、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アミン化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、オキサゾリン化合物、金属アルコキシド化合物、金属キレート化合物、金属塩、アンモニウム塩、反応性フェノール樹脂等を挙げることができる。
【0067】
これら他の成分(D),(E)を活性エネルギー線硬化性粘着剤に配合することにより、硬化前における粘着性および剥離性、硬化後の強度、他の層との接着性、保存安定性などを改善し得る。これら他の成分の配合量は特に限定されず、活性エネルギー線硬化型重合体(A)100質量部に対して0~40質量部の範囲で適宜決定される。
【0068】
次に、活性エネルギー線硬化性粘着剤が、活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分と活性エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの混合物を主成分とする場合について、以下説明する。
【0069】
活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分としては、例えば、前述したアクリル系共重合体(a1)と同様の成分が使用できる。活性エネルギー線硬化性樹脂組成物中における活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分の含有量は、20~99.9質量%であることが好ましく、特に30~80質量%であることが好ましい。
【0070】
活性エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとしては、前述の成分(B)と同じものが選択される。活性エネルギー線硬化性を有しないポリマー成分と活性エネルギー線硬化性の多官能モノマーおよび/またはオリゴマーとの配合比は、ポリマー成分100質量部に対して、多官能モノマーおよび/またはオリゴマー10~150質量部であるのが好ましく、特に25~100質量部であるのが好ましい。
【0071】
この場合においても、上記と同様に、光重合開始剤(C)や架橋剤(E)を適宜配合することができる。
【0072】
粘着剤層3の厚さは、ワーク加工用シート1が使用される各工程において適切に機能できる限り、特に限定されない。具体的には、1~50μmであることが好ましく、特に2~30μmであることが好ましく、さらには3~20μmであることが好ましい。
【0073】
(3)剥離シート
本実施形態における剥離シート6は、ワーク加工用シート1が使用されるまでの間、粘着剤層3を保護する。本実施形態における剥離シート6は、粘着剤層3上に直接積層されているが、これに限定されるものではなく、粘着剤層3上に他の層(ダイボンディングフィルム等)が積層され、当該他の層上に剥離シート6が積層されてもよい。
【0074】
剥離シート6の構成は任意であり、プラスチックフィルムを剥離剤等により剥離処理したものが例示される。プラスチックフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、およびポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等を用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シートの厚さについては特に制限はないが、通常20~250μm程度である。
【0075】
(4)その他の部材
本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層3における基材2とは反対側の面(以下「粘着面」という場合がある。)に接着剤層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、上記接着剤層を備えることで、ダイシング・ダイボンディングシートとして使用することができる。このようなダイシング・ダイボンディングシートでは、接着剤層における粘着剤層とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに接着剤層をダイシングすることで、個片化された接着剤層が積層されたチップを得ることができる。当該チップは、この個片化された接着剤層によって、当該チップが搭載される対象に対して容易に固定することが可能となる。上記接着剤層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂と低分子量の熱硬化性接着成分とを含有するものや、Bステージ(半硬化状)の熱硬化型接着成分を含有するもの等を用いることが好ましい。
【0076】
また、本実施形態に係るワーク加工用シート1では、粘着剤層3における粘着面に保護膜形成層が積層されていてもよい。この場合、本実施形態に係るワーク加工用シート1は、保護膜形成兼ダイシング用シートとして使用することができる。このような保護膜形成兼ダイシング用シートでは、保護膜形成層における粘着剤層とは反対側の面にワークを貼付し、当該ワークとともに保護膜形成層をダイシングすることで、個片化された保護膜形成層が積層されたチップを得ることができる。当該被切断物としては、片面に回路が形成されたものが使用されることが好ましく、この場合、通常、当該回路が形成された面とは反対側の面に保護膜形成層が積層される。個片化された保護膜形成層は、所定のタイミング(好ましくはダイシング工程の前)で硬化させることで、十分な耐久性を有する保護膜をワークまたはチップに形成することができる。保護膜形成層は、未硬化の硬化性接着剤からなることが好ましい。
【0077】
上記の場合、レーザーマーキングの対象は、ワーク自体ではなく、接着剤層または保護膜となる。ただし、これらの場合であっても、前述した優れたレーザーマーキング性およびレーザー光耐性の効果は同じく得られる。
【0078】
2.ワーク加工用シートの製造方法
ワーク加工用シート1を製造するには、一例として、剥離シート6の剥離面に、粘着剤層3を構成する粘着剤と、所望によりさらに溶媒とを含有する粘着剤層用の塗布剤を塗布し乾燥させて粘着剤層3を形成する。その後、粘着剤層3の露出面に基材2を圧着し、基材2、粘着剤層3および剥離シート6からなるワーク加工用シート1を得る。
【0079】
本実施形態における粘着剤層3は、リングフレーム等の治具に貼付可能であることが好ましい。この場合に、粘着剤層3が活性エネルギー線硬化性粘着剤からなるとき、活性エネルギー線硬化性粘着剤を硬化させないことが好ましい。これにより、リングフレーム等の治具に対する接着力を高く維持することができる。
【0080】
基材2および粘着剤層3の積層体は、所望によりハーフカットし、所望の形状、例えばワーク(半導体ウエハ)に対応する円形等の形状にしてもよい。この場合、ハーフカットにより生じた余分な部分は、適宜除去すればよい。
【0081】
3.ワーク加工用シートの使用方法
本実施形態に係るワーク加工用シート1はダイシングに用いられることが好ましい。ダイシングの種類としては、ブレードダイシング、ステルスダイシング、プラズマダイシング、レーザーダイシング、ウォーターダイシング等が挙げられ、それらの中でも、ブレードダイシングおよびステルスダイシングが好ましい。ワークとしては、例えば、無機材料からなる半導体ウエハ、ガラス板等の他、各種パッケージなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
本実施形態に係るワーク加工用シート1を用いて、一例としてワークとしての半導体ウエハから、ブレードダイシングまたはステルスダイシングによってチップを製造する方法を以下に説明する。
【0083】
最初に、巻き取ったロール状のワーク加工用シート1を、剥離シート6を剥離しながら繰り出して、図2に示すように、ワーク加工用シート1の粘着剤層3に半導体ウエハ7およびリングフレーム8を貼付する。これにより、ワーク加工用シート1の粘着剤層3側の面に半導体ウエハ7およびリングフレーム8が積層された構成を備える積層構造体(以下「積層構造体L」という場合がある。)を得る。
【0084】
次に、積層構造体Lを、レーザーマーキング工程に付す。具体的には、レーザーマーキング用のレーザー照射装置を使用して、上記半導体ウエハ7に対して、ワーク加工用シート1を介してレーザー光を照射し、半導体ウエハ7に所望の印字を施す。レーザー光としては、波長532nmのレーザー光が主として使用される。
【0085】
本実施形態に係るワーク加工用シート1においては、基材2の物性が前述したように設定されていることにより、レーザー光が透過し易く、したがって、ワークに対してレーザーマーキングによる印字を良好に行うことができ、精度の高い印字を形成することができる。また、基材2においてレーザー光のエネルギーが吸収され難いため、基材2が焼けてしまうことが抑制される。したがって、基材2の焼けに起因する光線透過性の低下がなく、ワークに形成された印字を、ワーク加工用シート1を介して良好に視認することができる。
【0086】
次いで、積層構造体Lを、ダイシング工程に付す。ブレードダイシングの場合には、ダイシングブレードを用いて、半導体ウエハ7を切断して分割することにより、チップを得る。その後、ワーク加工用シート1を伸長させるエキスパンド工程を実施することにより、次のピックアップ工程でピックアップし易いように、チップ間の間隔を広げる。
【0087】
一方、ステルスダイシングの場合には、分割加工用レーザー照射装置(レーザダイサー)を使用して、上記半導体ウエハ7に対して、ワーク加工用シート1を介してレーザー光を照射し、半導体ウエハ7内に改質層を形成する。なお、基材2の物性が前述したように設定されていることにより、レーザダイサーによるレーザー光の透過性も優れる。その後、ワーク加工用シート1を伸長させるエキスパンド工程を実施することにより、半導体ウエハ7に力(主面内方向の引張力)を付与する。その結果、ワーク加工用シート1に貼着する半導体ウエハ7は分割されて、チップが得られる。
【0088】
次いで、ピックアップ装置を用いて、ワーク加工用シート1からチップをピックアップする。ここで、ワーク加工用シート1の粘着剤層3が活性エネルギー線硬化性の粘着剤からなる場合には、上記ピックアップの前に、基材2を介して粘着剤層3に対して活性エネルギー線を照射することが好ましい。これにより、粘着剤層3の粘着力を低下させることができ、チップのピックアップを容易に行うことができる。上記活性エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられ、特に取扱いが容易な紫外線が好ましい。
【0089】
上記紫外線の照射は、高圧水銀ランプ、フュージョンランプ、キセノンランプ、LED等によって行うことができ、紫外線の照射量は、照度が50mW/cm以上、1000mW/cm以下であることが好ましい。紫外線の光量は、50mJ/cm以上であることが好ましく、特に80mJ/cm以上であることが好ましく、さらには100mJ/cm以上であることが好ましい。また、紫外線の光量は、2000mJ/cm以下であることが好ましく、特に1000mJ/cm以下であることが好ましく、さらには500mJ/cm以下であることが好ましい。
【0090】
前述した通り、レーザーマーキングによる基材2の焼けが抑制されているため、上記のように基材2を介して粘着剤層3に対して紫外線を照射しても、粘着剤層3は良好に硬化する。そのため、ピックアップしたチップに粘着剤が付着してしまう糊残りの問題が発生し難い。
【0091】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0092】
例えば、ワーク加工用シート1における基材2と粘着剤層3との間、または基材2における粘着剤層3とは反対側の面には、その他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0093】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0094】
〔実施例1〕
(1)基材の作製
低密度ポリエチレンの樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ80μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0095】
(2)粘着剤層用塗布剤の調製
ブチルアクリレート72質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)28質量部とを共重合して得た共重合体に、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を、共重合体のHEAに対して80mol%反応させて、側鎖に活性エネルギー線重合性基を有する活性エネルギー線硬化性アクリル系重合体(重量平均分子量50万)を得た。
【0096】
上記の活性エネルギー線硬化性アクリル系重合体100質量部(固形分濃度;以下同じ)に対して、光重合開始剤(BASF社製,製品名「イルガキュア184」)3.0質量部およびイソシアネート化合物(東ソー社製,製品名「コロネートL」)1.0質量部を配合するとともに、溶媒で希釈することにより、粘着剤層用塗布剤を得た。
【0097】
(3)ワーク加工用シートの製造
厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面にシリコーン系の剥離剤層が形成されてなる剥離シート(リンテック社製,製品名「SP-PET381031」)を用意し、その剥離シートの剥離面上に、前述の粘着剤層用塗布剤を、ナイフコーターにて塗布し、乾燥させて、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。その粘着剤層上に、上記で作製した基材の正面を重ねて両者を貼り合わせ、基材(80μm)/粘着剤層(10μm)/剥離シートからなる積層体を得た。
【0098】
上記で得られた積層体に対し、上記基材側から、基材および粘着剤層の積層体を切断するようにハーフカットを施して、直径370mmの円形のワーク加工用シートを形成した。
【0099】
〔実施例2〕
ポリ塩化ビニルの樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ80μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0100】
上記基材を使用する以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0101】
〔実施例3〕
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ80μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0102】
上記基材を使用する以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0103】
〔比較例1〕
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ80μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0104】
上記基材を使用する以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0105】
〔比較例2〕
ポリエチレンの樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ110μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0106】
上記基材を使用する以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0107】
〔比較例3〕
低密度ポリエチレンの樹脂組成物を、小型Tダイ押出機(東洋精機製作所社製,製品名「ラボプラストミル」)によって押し出し成形し、厚さ80μmの樹脂フィルムからなる基材を作製した。得られた基材の背面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra)および最大高さ粗さ(Rz))を後述する方法によって測定したところ、表1に示す通りであった。
【0108】
上記基材を使用する以外、実施例1と同様にしてワーク加工用シートを製造した。
【0109】
〔試験例1〕<基材の表面粗さの測定>
実施例および比較例で作製した基材の背面の算術平均粗さ(Ra;単位μm)および最大高さ粗さ(Rz;単位μm)を、接触式表面粗さ計(ミツトヨ社製,製品名「SV3000S4」)を用いて、以下の測定条件で、JIS B0601:1999に準拠して測定した。結果を表1に示す。
[測定条件]
評価長さ:10mm
基準長さ:2.5mm
走査速度:1.0mm/sec
カットオフ値:0.25mm
【0110】
〔試験例2〕<光線透過率の測定>
実施例および比較例で作製した基材について、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製,製品名「UV-3600」)を用いて、直接受光法により光線透過率を測定し、波長400nm、532nmおよび800nmの光線透過率(%)を抽出した。結果を表1に示す。
【0111】
〔試験例3〕<レーザーマーキング性の評価>
テープマウンター装置(リンテック社製,製品名「RAD-2700F/12」)を用いて、実施例および比較例のワーク加工用シートから剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、♯2000研磨したシリコンウエハ(直径:12インチ,厚さ:350μm)の研磨面に貼付した。それとともに、露出した粘着剤層をリングフレームに貼付した。
【0112】
レーザーマーカー(EO TECHNICS社製,製品名「CSM300M」)を用い、ワーク加工用シート越しにシリコンウエハに対して波長532nmのレーザー光を照射して、シリコンウエハにレーザーマーキングによる印字(文字サイズ:0.2mm×0.3mm,文字間隔:0.3mm,文字数:20文字)を行った。
【0113】
その後、シリコンウエハからワーク加工用シートを剥離し、シリコンウエハに形成された印字を、デジタル顕微鏡(キーエンス社製,製品名「デジタルマイクロスコープ VHX-1000」,倍率:100倍)を用いて確認した。その結果、印字に荒れがなく、精度が高く形成されていたものを◎、印字にわずかな荒れが見られたが、精度がある程度高く形成されていたものを〇、印字に荒れがあり、精度が低く形成されていたものを×と評価した。結果を表1に示す。
【0114】
〔試験例4〕<レーザー光耐性の評価>
試験例3と同様にして、ワーク加工用シート越しにシリコンウエハに対して波長532nmのレーザー光を照射し、シリコンウエハに印字を行った。その後、シリコンウエハからワーク加工用シートを剥離し、ワーク加工用シートの基材にレーザー光による焼け(印字)があるかどうかを目視により確認した。その結果、基材に焼け(印字)がなかったものを〇、基材に焼け(印字)があったものを×と評価した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
表1から分かるように、実施例で得られたワーク加工用シートは、レーザーマーキング性に優れるとともに、レーザー光に対して耐性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係るワーク加工用シートは、半導体ウエハやガラス板等のワークに対し、当該ワーク加工用シート越しにレーザーマーキングする工程を含む用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0118】
1…ワーク加工用シート
2…基材
3…粘着剤層
6…剥離シート
7…半導体ウエハ
8…リングフレーム
図1
図2