(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】射出瞳拡大器
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20230804BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20230804BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B27/01
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2020543542
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 FI2019050130
(87)【国際公開番号】W WO2019185973
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-02
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】520184365
【氏名又は名称】ディスペリックス オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルッコネン、ユーソ
(72)【発明者】
【氏名】マイエヘーネン、ペトリ
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0052501(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0176218(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0218481(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109073884(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0293357(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
G02B 5/18,5/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示するための回折ディスプレイ素子であって、
導波路と、
導波路の本体内に、画像を回折により結合するための入結合領域と、
前記導波路の本体から出るように、前記画像を回折により結合するための出結合領域と、
前記出結合領域の前記画像の射出瞳を拡大するための、前記入結合領域と前記出結合領域の間の射出瞳拡大器(EPE)領域と
を備え、
前記EPE領域が、導波路の表面に配置された複数の回折ゾーン、及び前記回折ゾーン同士間の複数の非回折ゾーンを備え、
前記EPE領域が、少なくとも10個の異なる回折ゾーン、及び少なくとも10個の異なる非回折ゾーンを含み、前記回折ゾーン及び非回折ゾーンが、第1の方向の2つの回折ゾーン間に少なくとも1つの第1の非回折ゾーンが位置決めされ、前記第1の方向に直交する第2の方向の2つの回折ゾーン間に少なくとも1つの第2の非回折ゾーンが位置決めされるように配置され
、
前記回折ゾーン及び前記非回折ゾーンは、不規則な又は規則的な2次元のパターンとして配置され、
各々の前記回折ゾーン間で、格子線の向き及び格子の周期が同じであり、
微小特徴部の曲線因子、及び/又は、高さを含む、微小特徴部のプロファイルのうちの少なくとも1つが、各々の前記回折ゾーン間で異なっており、
前記回折ゾーンの少なくとも1つは、矩形の単位ゾーン又は中に単位格子線のない任意の形状のゾーンであり、
前記回折ゾーン及び前記非回折ゾーンのうちの少なくとも1つは、傾斜又は湾曲した外側形状を有する、回折ディスプレイ素子。
【請求項2】
サイズ又は形状の異なる少なくとも2つの回折ゾーン及び/又は少なくとも2つの非回折ゾーンを備える、請求項
1に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項3】
前記回折ゾーンが、格子特性の異なる少なくとも2つの格子ゾーンを備える、請求項1
又は2に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項4】
前記回折ゾーン及び非回折ゾーンが、前記導波路の表面平面において、等しい形状の単位ゾーンに分割可能である、請求項1から
3までのいずれか一項に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項5】
前記EPEの全面積の少なくとも20%が、非回折ゾーンから形成される、請求項1から
4までのいずれか一項に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項6】
前記入結合領域から入射する光の少なくとも大半が、少なくとも1つの回折ゾーンによって回折され、少なくとも1つの非回折ゾーンにおいて内部全反射によって跳ね返り
、前記
1つの回折ゾーンとは異なる少なくとも1つの回折ゾーンによって再び回折されてから、前記出結合領域に向かって前記EPEを出るように、前記EPE領域の前記回折ゾーン及び非回折ゾーンが構成されている、請求項1から
5までのいずれか一項に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項7】
前記非回折ゾーンが回折ゾーンに置き換えられた状況と比べて、前記ディスプレイ素子の輝度、均一性、又は色バランスを向上させるために、前記EPE領域の前記非回折ゾーンが設けられる、請求項1から
6までのいずれか一項に記載の回折ディスプレイ素子。
【請求項8】
請求項1から
7までのいずれか一項に記載の回折ディスプレイ素子を備え
るパーソナル・ディスプレイ・デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折ディスプレイ技術に関する。特に、本発明は、射出瞳拡大器(EPE)を含むライトガイド・ベースの回折ディスプレイ素子に関する。こうしたディスプレイ素子は、頭部装着型ディスプレイ(HMD)、たとえばニア・ツー・アイ・ディスプレイ(NED)、及びヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)などのパーソナル・ディスプレイに使用することができる。
【背景技術】
【0002】
HMD及びHUDは、導波路技術を使用して実装することができる。光は、回折格子を使用して導波路に入るように結合され、その中で方向変更され、導波路から出るように結合されることが可能である。従来の1つのディスプレイ設計では、光はプロジェクタから入結合(in-coupling)格子に方向付けられ、この入結合格子が、入射光を回折して導波路に入れ、ここで光は内部全反射により伝播して、ディスプレイの可視区域を横方向に拡張するEPE格子を介して出結合(out-coupling)格子に向かう。EPEは通常、入結合格子の格子線の向き、及び入結合格子から入射する光の伝播方向に対して傾斜した格子線を有する格子を含む。
【0003】
すべての格子と同様、EPE格子も、一般的に損失及び外乱を生じさせる。これは、形成される最終画像の輝度及び均一性を低減し、色の不均衡など、画像の欠陥を生じさせる。
【0004】
したがって、射出瞳拡大の改善された解決策、及び改善された導波路ディスプレイが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導波路ディスプレイの画像品質を向上させることである。特定の目的は、導波路ディスプレイの輝度(総合効率)、均一性、及び/又は色バランスを向上させることである。一目的は、EPE形状の幾何学的制約を緩和するEPE解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、独立請求項に述べるものによって達成される。
【0007】
一態様によれば、回折ディスプレイで使用するための射出瞳拡大器(EPE)であって、導波路上の複数の回折ゾーン(格子ゾーン)と、回折ゾーンのうちの少なくともいくつかの間の複数の非回折ゾーン(非格子ゾーン)とを備えるEPEが提供される。回折ゾーン及び非回折ゾーンは、不規則な又は規則的な2次元のパターンとして配置することができる。
【0008】
言い換えれば、複数の回折ゾーンと「空所」とを含む区域を有するEPEが提供され、この空所では、回折が生じず、導波路の表面から内部全反射だけが生じる。
【0009】
一態様によれば、パーソナル・ディスプレイ用の回折ディスプレイ素子であって、導波路と、導波路の本体に入るように、画像を回折により結合するための入結合領域と、導波路の本体から出るように、画像を回折により結合するための出結合領域と、出結合領域の画像の射出瞳を拡大するための、入結合領域と出結合領域の間にある、ここに開示する種類の射出瞳拡大器(EPE)領域とを備える回折ディスプレイ素子が提供される。
【0010】
一態様によれば、上の種類の回折ディスプレイ素子を備える、頭部装着型ディスプレイ(HMD)又はヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)などのパーソナル・ディスプレイ・デバイスが提供される。
【0011】
ここに記載のEPEは、導波路の横方向平面における領域であって、1つの横方向から入射し、別の横方向に出射する光の射出瞳を拡大するという特性を有する領域を意味する。
【0012】
本発明は、重要な利益を提供する。EPE領域の内側及び周囲境界に空所を含めることにより、幾何学的により複雑なEPEの最適化が可能になる。通常、EPE形状は、導波路の内側で極端な角度で伝播している光線を使用して、簡単な幾何学的計算によって算出される。これは、最適ではない解決策につながる。本発明は、簡単な幾何学的計算により算出されるEPE形状よりも、色バランス及び効率という点でより良好な性能を呈する数値最適化を介して、EPE解決策を見いだしやすくする。この手法を使用して、導波路のためのより小型の形状因子を可能にするEPE構造を見いだすこともできる。特に、広い視野(>40度)のEPEは非常に大きくなるので、導波路の全体サイズが、小型の形状因子を有するウェアラブル・ディスプレイには大きくなりすぎる傾向がある。
【0013】
従属請求項は、本発明の選ばれた実施形態を対象とする。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1の方向の2つの回折ゾーン間に少なくとも1つの第1の非回折ゾーンがあり、第1の方向に直交する第2の方向の2つの回折ゾーン間に少なくとも1つの第2の非回折ゾーンがある。いくつかの実施形態では、少なくとも10個の異なる(別々の)回折ゾーン、及び少なくとも10個の異なる(別々の)非回折ゾーンがある。
【0015】
いくつかの実施形態では、サイズ又は形状の異なる少なくとも2つの回折ゾーン及び/又は少なくとも2つの非回折ゾーンがある。
【0016】
いくつかの実施形態では、回折ゾーンは、格子特性の異なる少なくとも2つのゾーンを備える。これにより、より一層複雑なEPE機能を実行できるようになる。
【0017】
いくつかの実施形態では、回折ゾーン及び非回折ゾーンは、導波路の表面平面において、等しい形状の単位ゾーンに分割可能である。
【0018】
いくつかの実施形態では、EPEの全面積の少なくとも20%が、非回折ゾーンから形成される。
【0019】
いくつかの実施形態では、ゾーンは、それらの両方の主光学軸に沿って少なくとも2つの異なる断面線を引くことができるように位置決めされ、それにより、これらの線に沿った回折/非回折のプロファイルが異なることになる。
【0020】
いくつかの実施形態では、この導波路素子において、入結合領域から入射する光の少なくとも大半が、少なくとも1つの回折ゾーンによって回折され、少なくとも1つの非回折ゾーンにおいて内部全反射によって跳ね返り、通常は第1の回折ゾーンとは異なる少なくとも1つの回折ゾーンによって再び回折されてから、出結合領域に向かってEPEを出るように、EPEの回折ゾーン及び非回折ゾーンが構成される。
【0021】
いくつかの実施形態では、非回折ゾーンが回折ゾーンに置き換えられた状況と比べて、ディスプレイ素子の輝度、均一性、又は色バランスを向上させるために、EPEの非回折ゾーンが設けられる。
【0022】
いくつかの実施形態では、EPEは、出結合領域の幅と少なくとも同じ幅を有する。
【0023】
次に、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態及びその利点をより詳細に検討する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】単一入射光線によりEPE構造内で形成される光線経路のネットワークを示す図である。
【
図2A】入結合器と出結合器の間に光学的に位置決めされる、本発明による例示的なEPEを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
光線がEPEを通って伝播するとき、光線経路の複雑なネットワークが形成され、この中でエネルギーは通常2つの方向に沿って流れる。例示的なネットワークを
図1に示す。点は、入射光線11から回折により生成された光線が、格子表面にぶつかる場所を示す。このネットワーク構造により、ネットワーク内の点同士間で複数の光線経路に沿ったエネルギー伝送が可能になる。点A~点Bまでの2つの例示的な経路を破線で示している。考えられるすべての経路がエネルギー伝送に必要なわけではないので、数値最適化中に、EPEの内側、及びEPEの周囲境界に空領域(空所)を形成できるようにすることによっても、EPE構造の動作を向上させることができる。
【0026】
図2Aは入結合格子22を示し、これに向かって、通常は図の画像平面に対して本質的に垂直に、プロジェクタから光が方向付けられる。光は、導波路において回折され伝播し、回折ゾーン24A及び非回折ゾーン(空所)24Bを備えるEPE24に至る。非回折ゾーン24Bは、通常、単にその中に格子パターンのない領域であり、一方、回折ゾーンは格子を備える。したがって、非回折ゾーンは、通常の導波路ゾーンとしての役割を果たし、ここで光線は、回折することなく内部全反射により跳ね返る。
【0027】
回折ゾーン24Aは、通常、線形の(一次元の)格子パターンを備える。各回折ゾーン24A間で、格子線の向き及び格子の周期は通常同じであるが、特に微小特徴部の曲線因子及び/又は高さを含む微小特徴部のプロファイルは、ゾーン間で異なってもよい。
【0028】
回折ゾーン24Aは、単位ゾーン、たとえば
図2Aに示すような矩形の単位ゾーンであってもよく、又は中に単位格子線のない(すなわち、
図2A及び
図2Bに示す内側境界線のない)任意の形状のゾーンであってもよい。
【0029】
本発明は、回折ゾーン24A及び非回折ゾーン24Bの形状に関して、直交の幾何学的形状に限定されない。これらは、現実的にあらゆる複雑さの、傾斜又は湾曲した外側形状を有することができる。
【0030】
回折ゾーン及び非回折ゾーンの位置決めは、回折光学設計についてそれ自体知られている計算技法を使用して、決定及び最適化することができる。
【0031】
入結合格子22、EPE24、及び出結合格子は、通常、平板状の導波路素子に配置される。導波路は、通常はプラスチック又はガラスの、2つの平行な主面を有する平板状の透明な材料片とすることができる。ここに検討したすべての格子及び回折ゾーンは、たとえば表面レリーフ格子(SRG)として作製されてもよく、又は回折特徴として、若しくは他の回折光学素子(DOE)として、追加の材料を表面に提供することによって作製されてもよい。一例では、格子はガラス導波路上に、TiO2、Si3N4、及びHfO2など、少なくとも1つの酸化物材料又は窒化物材料から作られる線形特徴を備える。
【0032】
本発明は、様々な他のディスプレイの幾何学的形状及び構成にも適用可能であることに留意すべきである。
【0033】
たとえば各層が異なる波長帯域をもつ多層導波路の場合には、本発明の実施形態を各層に別々に適用することができる。
【0034】
本発明の実施形態は、広帯域の照明と、狭帯域の(マルチ狭帯域を含む)照明及びプロジェクタの両方とともに使用可能である。