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特許7325436タンパク質の相対酸化レベルを測定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】タンパク質の相対酸化レベルを測定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/536 20060101AFI20230804BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230804BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
G01N33/536 D
G01N33/68
G01N33/53 D
【請求項の数】 42
(21)【出願番号】P 2020552842
(86)(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 AU2019050267
(87)【国際公開番号】W WO2019183671
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】2018901026
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520370131
【氏名又は名称】ツー-タグ ホールディングス ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】タン,パール リン
(72)【発明者】
【氏名】アーサー,ピーター グレアム
(72)【発明者】
【氏名】リム,ジ シャン
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/014532(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0305495(US,A1)
【文献】特開昭61-140600(JP,A)
【文献】BRAAKMAN, I. et al.,Analysis of Disulfide Bond Formation,Current Protocols in Protein Science,2017年11月,Sup.90/Unit 14.1,pp.14.1.1-14.1.22,doi: 10.1002/cpps.43
【文献】ARMSTRONG, A.E. et al.,A Fluorescent Dual Labeling Technique for the Quantitative Measurement of Reduced and Oxidized Protein Thiols in Tissue Samples,Free Radical Biology and Medicine,2010年11月23日,Vol.50/No.4,p.510-517,DOI: 10.1016/j.freeradbiomed.2010.11.018
【文献】BURGOYNE, J.R. et al.,The PEG-Switch Assay: A Fast Semi-Quantitative Method to Determine Protein Reversible Cysteine Oxidation,Journal of Pharmacological and Toxicological Methods,2013年07月12日,Vol.68/No.3,pp.297-301,DOI: 10.1016/j.vascn.2013.07.001
【文献】LEPEDDA, A.J. et al.,Human Serum Albumin Cys34 Oxidative Modifications Following Infiltration in the Carotid Atherosclerotic Plaque,Oxidative Medicine and Cellular Longevity,2014年03月06日,Vol.2014/No.690953,p.1-7,DOI: 10.1155/2014/690953
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のタンパク質の酸化状態を評価する方法であって、
前記タンパク質が、アルブミン、アルファ-2-マクログロブリン、フィブリノーゲンベータ鎖、ハプトグロビン、免疫グロブリンラムダ定常2、インターアルファ・トリプシン阻害剤重鎖H2、セロトランスフェリン、免疫グロブリンガンマ-1重鎖、フィブリノーゲンガンマ鎖及びトランスサイレチンを含むリストから選択されるタンパク質であり、
(a)前記試料を、その中の前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するように、スルフヒドリル反応性化学基を含む第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)前記第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)前記サブ試料を有効量のチオール含有剤で処理して、その中の前記タンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を、試料中の任意の不可逆的に酸化されたシステイン基よりも優先的に還元するチオール-ジスルフィド交換を引き起こして、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)前記処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成された前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう、スルフヒドリル反応性化学基を含む第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;並びに
(e)前記タンパク質の複数の酸化状態について、前記第1及び第2の標識された試料を評価するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記タンパク質がアルブミンであり、前記少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基が、cys34に可逆的に酸化されたシステイン基である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が体液試料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、血液、血漿、血清、尿、乳及び唾液を含む試料のリストから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が細胞抽出物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の標識が、前記還元システイン基をトラップするようにさらに適合される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の標識が、前記試料が採取された後1分未満で前記試料と接触される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の標識が、マレイミド基ハロアセチル基、ヨードアセチル若しくはブロモアセチル基;及び/又はピリジルジスルフィド基を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の標識が、マレイミド、フェニル水銀、ヨードアセトアミド、ビニルピリジン、臭化メチルヨードアセテート又はそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の標識が、少なくとも3mM、3.6mM、5mM、6mM、6.25mM、7mM、8mM、9mM又は10mMの濃度で使用される、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の標識が、少なくとも5、10、15又は20分間にわたり、前記試料と接触される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の標識が、非標識化合物と比較して標識化合物の分離を容易にするように適合された分離部材をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記分離部材が、重量差に基づく分離を容易にする、規定の分子量を有する化合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分離部材がポリマーである、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の標識が、蛍光化合物を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記サブ試料が、前記標識された試料の体積の約50%の体積を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記チオール含有剤が、1~2、1~3又は1~4の平衡定数(K)値を有する反応において、前記可逆的に酸化されたシステイン基と反応するように適合される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記チオール含有剤が、単一のチオール基を含む化合物を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記チオール含有剤が、システイン、還元型グルタチオン、メルカプトエタノール、システアミン、ペニシラミン及びN-アセチルシステインから成る群から選択される、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記チオール含有剤が、少なくとも2mM、4mM、6mM、8mM、10mM、12mM、12.5mM、15mM又は20mMの最終濃度で使用される、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記チオール含有剤が、少なくとも5、10、15、20又は30分間にわたり、サブ試料と接触される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記第2の標識が、前記第1の標識と同じである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第2の標識が、前記第1の標識に使用される濃度よりも高い濃度で使用される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第2の標識、少なくとも5mM、7.5mM、10mM、12.5mM又は15mMの濃度を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の標識が、少なくとも5、10、15又は20分間にわたり、前記処理されたサブ試料と接触される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質の複数の酸化状態について、前記第1及び第2の標識された試料を評価するステップが、前記第1及び第2の標識された試料をサイズベースの分離に適用することを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質の同定された酸化状態の量を定量化するステップをさらに含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記酸化状態が、相対的に定量化される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記酸化状態が、前記第1又は第2の標識からのシグナルの強度を参照することにより定量化される、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
活性酸素種(ROS)に曝された試料中のタンパク質の酸化状態に対する前記ROSの影響をモニタリングするための方法であって、
前記タンパク質が、アルブミン、アルファ-2-マクログロブリン、フィブリノーゲンベータ鎖、ハプトグロビン、免疫グロブリンラムダ定常2、インターアルファ・トリプシン阻害剤重鎖H2、セロトランスフェリン、免疫グロブリンガンマ-1重鎖、フィブリノーゲンガンマ鎖及びトランスサイレチンを含むリストから選択されるタンパク質であり、
(a)前記試料を、その中の前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するように、スルフヒドリル反応性化学基を含む第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)前記第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)前記サブ試料を有効量のチオール含有剤で処理して、その中の前記タンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を、試料中の任意の不可逆的に酸化されたシステイン基よりも優先的に還元するチオール-ジスルフィド交換を引き起こして、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)前記処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成された前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう、スルフヒドリル反応性化学基を含む第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)前記タンパク質の複数の酸化状態について、前記第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の前記評価を前記ROSの前記影響と関連づけるステップ
を含む、方法。
【請求項31】
前記タンパク質がアルブミンであり、前記少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基が、cys34に可逆的に酸化されたシステイン基である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ROSが、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシルラジカル、アルコキシルラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、次亜塩素酸、過酸化水素、オゾン、一重項酸素及びペルオキシナイトライトを含む群から選択される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
試料中のタンパク質の酸化状態を評価するためのキットであって、
前記タンパク質が、アルブミン、アルファ-2-マクログロブリン、フィブリノーゲンベータ鎖、ハプトグロビン、免疫グロブリンラムダ定常2、インターアルファ・トリプシン阻害剤重鎖H2、セロトランスフェリン、免疫グロブリンガンマ-1重鎖、フィブリノーゲンガンマ鎖及びトランスサイレチンを含むリストから選択されるタンパク質であり、
(a)前記試料中の前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するための、スルフヒドリル反応性化学基を含む第1の標識
(b)前記試料中の前記タンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を、試料中の任意の不可逆的に酸化されたシステイン基よりも優先的に還元するチオール-ジスルフィド交換を引き起こすための有効量のチオール含有剤を含む試薬;及び
(c)ステップ(b)での前記試薬での処理によって形成された前記タンパク質の還元システイン基に選択的に結合するための、スルフヒドリル反応性化学基を含む第2の標識、
を含む、キット。
【請求項34】
前記第1及び第2の標識が同じである、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記試料を受け取るために適合された基材をさらに含む、請求項33又は34に記載のキット。
【請求項36】
前記基材が、前記第1の標識をさらに含む、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
前記基材が吸収紙である、請求項35に記載のキット。
【請求項38】
前記基材が乾燥血液スポットカードである、請求項35に記載のキット。
【請求項39】
前記乾燥血液スポットカードから血液試料の少なくとも一部を抽出するように適合された抽出試薬をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【請求項40】
前記タンパク質を前記第1の標識又は第2の標識から選択的に溶出するように適合されたタンパク質単離試薬をさらに含む、請求項33~39のいずれか一項に記載のキット。
【請求項41】
試料収集デバイスをさらに含む、請求項33~40のいずれか一項に記載のキット。
【請求項42】
請求項33~41のいずれか一項に記載のキットであって、請求項1~32のいずれか1つの方法に従って、前記キットを利用するための説明書をさらに含む、キット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、試料中のタンパク質の酸化状態を評価する方法に関する。本発明はまた、タンパク質酸化、特に活性酸素種(ROS)によって引き起こされる修飾を検出する方法及びキット、並びに本明細書に記載の方法の他の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトでは、病気及び生理的動揺(例えば、低酸素、熱、運動、栄養)は、細胞機能に影響を与える活性酸素種(ROS)の生成をもたらし得る。ROSが細胞機能にどのように影響するかは、そのタイプ(例えば、ヒドロキシルラジカル)及び細胞の位置によって異なる。例えば、膜で生成されたヒドロキシルラジカルは、脂質の過酸化を開始し得、十分に重度の場合、結果として生じる膜漏出性は、細胞壊死を引き起こし得る。
【0003】
ROSの生物学的影響に対する関心の結果として、血液及び尿におけるバイオマーカーが特定されている。例えば、酸化ストレスのバイオマーカーとして一般的に使用される血漿Fイソプロスタンは、ヒドロキシルラジカルなどの高度なROSの作用から生じる脂質分解産物である。
【0004】
タンパク質はまた、ヒドロキシルラジカルなどの高度なROSの標的であり、タンパク質機能に対する有害な結果でタンパク質に不可逆的な損傷を与え得る。このタイプのタンパク質酸化を検出するために一般的に使用される血漿アッセイは、タンパク質カルボニルアッセイである。カルボニル誘導体は、ヒドロキシルラジカルなどのROSによって直接、又は炭水化物上の反応性カルボニル誘導体との二次反応によって間接的に形成される。
【0005】
不可逆的な酸化損傷に加えて、タンパク質機能はシステイン残基のチオール基の酸化によって影響を受け得る。チオール基の酸化は、複数のタンパク質の機能に影響を与えることが示されており、増殖、分化、壊死及び収縮を含む、様々な細胞経路への影響に関連づけられている。チオール基は、過酸化水素などの穏やかな酸化剤によって酸化され得、炎症反応中に産生されるROSである次亜塩素酸による酸化の影響も特に受けやすい。したがって、チオール基を含有する血漿タンパク質は、タンパク質チオール酸化の潜在的なバイオマーカーである。例えば、血漿タンパク質のチオール基の大半は酸化されているが、ヒト血清アルブミンのシステイン34のチオール基は部分的にしか酸化されていない。
【0006】
HPLCは、cys34の酸化に基づいてアルブミンを3つの形態:還元状態(-SH);(可逆的に)還元状態に再変換できる酸化状態(-SOH、-SSX、ここで、Xは主にシステイン、ホモシステイン、又はグルタチオン);及び生物学的に不可逆的な酸化状態(-SOH、-SOH)、に分離するために使用されている。HPLCを使用すると、運動、老化、血液透析患者、慢性腎臓病、糖尿病、睡眠時無呼吸、及び肝硬変の後にcys34の酸化が増加することが示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
cys34の酸化状態は、血漿中の酸化ストレスを追跡するのに役立つようであるが、HPLC技術は広く使用されているわけではない。広く受け入れられていない理由の1つとして、分析には高価なHPLC装置及び関連する分析技術を利用する必要があることが考えられる。
【0008】
本発明が開発されたのは、この背景及びそれに関連する課題及び困難に対処するためである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
第1の態様によれば、本発明は、試料中のタンパク質の酸化状態を評価する方法を提供し、方法は、
(a)試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;並びに
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ
を含む。
【0010】
別の態様によれば、本発明はまた、ROSに曝された試料中のタンパク質の酸化状態に対するROSの効果をモニタリングするための手段を提供し、方法は、
(a)試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価をROSの効果と関連づけるステップ
を含む。
【0011】
別の態様によれば、本発明はまた、対象におけるROSに関連する病理を評価する方法を提供し、方法は、
(a)対象からの試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価をROSに関連する病理と関連づけるステップ
を含む。
【0012】
別の態様によれば、本発明はまた、対象におけるROSに関連する病理に対する治療的介入の有効性を評価する方法を提供し、方法は、
(a)対象からの試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価を、介入の存在下及び不存在下でのROSに関連する病理と関連づけるステップ
を含む。
【0013】
別の態様によれば、本発明はまた、試料中のタンパク質の酸化状態を評価するためのキットを提供し、キットは、
(a)試料中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識;及び
(b)試料中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元するための試薬
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】マルペグ(malpeg)標識技術の図式表示である。Ai.血漿試料で利用可能なチオール(-S-H)は、最初にマルペグでトラップされる。Aii.試料は2つに分割され、2番目の試料の可逆的に酸化されたチオール(-S-S-X)は、チオール-ジスルフィド交換反応によって還元チオールに変換される。Aiii.還元チオールはマルペグで標識される。B.電気泳動後、マルペグに結合したアルブミンは、非結合アルブミンから約5000Da分離される。試料1について、バンドAはRAを表し、バンドBはOAR及びOAIを表す。試料2について、バンドCはRA及びOARを表し、バンドDはOAIを表す。
図2】マルペグを使用した異なる酸化型のアルブミンの分離を示す。試料1.方法(手順1)に記載されるようにマルペグとインキュベートした血漿。試料2.方法(手順2)に記載されるようにシステインでの処理後にマルペグとインキュベートした血漿。試料3.マルペグとインキュベートされていない血漿。試料4.マルペグとインキュベートされていない市販のヒトアルブミン。試料5 方法(手順1)に記載されるようにマルペグとインキュベートした市販のヒトアルブミン。バンドの成分:A、RA;B、OA及びOA;C、RA、OA;D、OA;E、RA、OA及びOA;F、RA、OA及びOA;G、RA、及びOA;H、OA
図3】血漿をチオール/ジスルフィド交換剤又は還元剤とインキュベートした後のアルブミンバンドのシフトを示すゲルの画像である。アルブミンは、システイン(レーン1)、グルタチオン(レーン2)、N-アセチルシステイン(レーン3)、メルカプトエタノール(レーン4)、DTT(レーン5)及びTCEP(レーン6)について、10mMの濃度で30分間インキュベートした。インキュベーション後、12.5mMのマルペグを15分間にわたって添加した。
図4】アルブミンを定量するための蛍光分析の使用を示す。ヒトアルブミンをゲルに充填し、タンパク質を蛍光画像化(A)、定量化(B)、及び標準曲線を生成(C)した。蛍光画像化されたゲルのシグナルプロファイルは、ゲル画像の下に示される。Biはマルペグの不存在下でのアルブミンを示し、Biiはマルペグに結合したアルブミンを示し、Biiiは標識されていないアルブミンを示す。
図5】試料の調製及び収集の影響(血液の試料採取直後(BI)、血漿の調製直後(PI)、凍結血漿の解凍直後(Th)、及び室温で2.5時間後(RT)のマルペグによる処理後のアルブミン酸化のレベル)を示すグラフである。*は直後と有意に異なるものを表す。値は平均±SEで表される。(n=3)。
図6】タンパク質の酸化に対する過酸化水素又は次亜塩素酸による処理の効果を示す一連のグラフである。血漿試料は、未処理(U)、0.5mM(H0.5)又は5mM(H5)過酸化水素、0.5mM(C0.5)又は5mM(C5)次亜塩素酸で処理した。(A)総アルブミンチオール酸化、(B)任意単位のタンパク質カルボニル(au)、(C)可逆的に酸化されたアルブミン、及び(D)不可逆的に酸化されたアルブミンのレベルを示す。*は未処理と有意に異なるものを表す。#は同等の過酸化水素濃度と有意に異なるものを表す。(n=3~4)
図7】アルブミン酸化に対する運動の効果を示す一連のグラフである。毛細血管血液試料は、運動前(Pre)、及び運動後にVO2Peakに収集された。(A)総酸化アルブミン、(B)可逆的に酸化されたアルブミン、及び(C)不可逆的に酸化されたアルブミンのレベル。*は運動前の値と有意に異なるものを表す。値は平均±SEで表される。(n=6)
図8A】一連のグラフである。図8Aは、(i)未処理試料中の総アルブミン(A)及び他の血液タンパク質(B)を示し、図8Bは、マルペグで処理された試料における(ii)酸化アルブミン(C)及び還元アルブミン(D)を示し、図8Cは、マルペグで処理され、システインで還元された試料における、不可逆的に酸化されたアルブミン(E)並びに可逆的に酸化及び還元されたアルブミン(F)を示す。試料は、実施例4に従ってキャピラリー電気泳動を使用して処理された。
図8B】一連のグラフである。図8Aは、(i)未処理試料中の総アルブミン(A)及び他の血液タンパク質(B)を示し、図8Bは、マルペグで処理された試料における(ii)酸化アルブミン(C)及び還元アルブミン(D)を示し、図8Cは、マルペグで処理され、システインで還元された試料における、不可逆的に酸化されたアルブミン(E)並びに可逆的に酸化及び還元されたアルブミン(F)を示す。試料は、実施例4に従ってキャピラリー電気泳動を使用して処理された。
図8C】一連のグラフである。図8Aは、(i)未処理試料中の総アルブミン(A)及び他の血液タンパク質(B)を示し、図8Bは、マルペグで処理された試料における(ii)酸化アルブミン(C)及び還元アルブミン(D)を示し、図8Cは、マルペグで処理され、システインで還元された試料における、不可逆的に酸化されたアルブミン(E)並びに可逆的に酸化及び還元されたアルブミン(F)を示す。試料は、実施例4に従ってキャピラリー電気泳動を使用して処理された。
図9】アルブミン酸化に対する中密度及び高密度の運動の効果を示すグラフである。中密度及び高密度の運動の両方の前後に、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。グラフは、試料中の可逆的に酸化されたアルブミンのパーセンテージを示す。
図10】アルブミン酸化に対する炎症性皮膚治療の効果を示すグラフである。治療の前後に、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。グラフは、試料中の可逆的に酸化されたアルブミンのパーセンテージを示す。
図11】訓練を受けていない個人におけるアルブミン酸化に対する筋肉損傷の効果を示すグラフである。ウェイトトレーニングの前及びウェイトトレーニング後4日間で、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。グラフは、試料中の可逆的に酸化されたアルブミンのパーセンテージを示す。
図12】2回の4日間の運動期間にわたる中強度及び高強度運動の両方の後の患者における、不可逆的及び可逆的アルブミン酸化の両方に対する運動の効果を示すグラフである。中密度及び高密度の運動期間の両方の前後に、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。
図13】患者のアルブミン酸化に対する病気の影響を示すグラフである。9日間にわたり、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。
図14】異なる有酸素運動レベルの2人の患者における可逆的アルブミン酸化に対する有酸素運動の効果を示すグラフである。運動の前後に、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。
図15】グレード1のふくらはぎ筋肉損傷を有する患者における可逆的アルブミン酸化レベルの経時的な変化を示すグラフである。筋肉損傷後10日間にわたり、マルペグが埋め込まれた乾燥血液スポットカードに指穿刺血液試料が収集された。
図16】CFSを有する個人(n=12)及び健康な座りがちな個人(n=12)における血液中のタンパク質酸化レベルに対する等尺性収縮の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
第1の態様によれば、本発明は、試料中のタンパク質の酸化状態を評価する方法を提供し、方法は、
(a)試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;並びに
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ
を含む。
【0016】
好ましくは、酸化状態は、可逆的に酸化された形態を含む。
【0017】
好ましくは、酸化状態は不可逆的に酸化された形態を含む。
【0018】
好ましくは、酸化状態は、可逆的及び不可逆的に酸化された形態を含む。
【0019】
好ましくは、タンパク質は、アルブミン、アルファ-2-マクログロブリン、フィブリノーゲンベータ鎖、ハプトグロビン、免疫グロブリンラムダ定常2、インターアルファ・トリプシン阻害剤重鎖H2、セロトランスフェリン、免疫グロブリンガンマ-1重鎖、フィブリノーゲンガンマ鎖及びトランスサイレチンを含むリストから選択されるタンパク質である。
【0020】
タンパク質がアルブミンであり、酸化状態が可逆的に酸化された形態を含む場合、可逆的に酸化された形態は、好ましくは、cys34に可逆的に酸化されたシステイン基を含む。
【0021】
好ましくは、タンパク質は、魚又は哺乳動物タンパク質などの動物タンパク質である。さらにより好ましくは、タンパク質は、ヒトタンパク質である。
【0022】
好ましくは、試料は、哺乳動物、好ましくはヒトの体液試料などの、体液試料である。より好ましくは、試料は、血液、血漿、血清、尿、乳及び唾液を含む試料のリストから選択される。試料はまた、細胞抽出物、又は組織試料若しくはその抽出物などの生物学的材料に由来するいくつかの他の調製物であってもよい。試料はまた、ミトコンドリア又は別の細胞内小器官を含有する試料などの細胞の一部であり得る。
【0023】
試料はまた、単一のタンパク質又は複数のタンパク質を含んでもよい。試料が複数のタンパク質を含む場合、本発明の方法を使用して、試料中の複数のタンパク質の酸化状態を評価することができる。例えば、この方法を使用して、試料内のどのタンパク質が酸化され、どのタンパク質が酸化されていないかを示すプロファイルを作成できる。
【0024】
好ましくは、第1の標識はさらに、標識と還元システイン基との間に形成された結合が還元剤で切断され得ないように、還元システイン基をトラップするように適合される。
【0025】
第1の標識が還元システイン基をトラップするように適合されている場合、試料が採取された後、可能な限り早く試料と接触させることが好ましい。例えば、第1の標識は、試料が採取される1、2、3、4、又は5分未満で試料と接触させてもよい。この点について、出願人は、驚くべきことに、その中のタンパク質の酸化状態を評価する前の試料の取り扱いが、酸化状態の任意の評価の精度に影響を与え得ることを発見した。
【0026】
好ましくは、第1の標識は、スルフヒドリル反応性化学基を含む。さらにより好ましくは、第1の標識は、マレイミド基;ヨードアセチル又はブロモアセチル基などのハロアセチル基;及び/又はピリジルジスルフィド基を含む。
【0027】
第1の標識は、マレイミド、フェニル水銀、ヨードアセトアミド、ビニルピリジン、臭化メチル又はヨードアセテート又はそれらの誘導体からなる群から選択されてもよい。好ましくは、この成分は、ヨードアセトアミド又はマレイミド又はそれらの誘導体である。
【0028】
好ましくは、第1の標識は、試料と接触させる場合、少なくとも5、10、15又は20分間にわたり、少なくとも3mM、3.6mM、5mM、6mM、6.25mM、7mM、8mM、9mM又は10mMの濃度で使用される。
【0029】
好ましくは、第1の標識は、非標識化合物と比較して標識化合物の分離を容易にするように適合された分離部材をさらに含む。
【0030】
分離部材は、重量差に基づく分離を容易にする、規定の分子量を有する化合物であってもよい。さらにより好ましくは、分離部材は、ポリエチレングリコールなどのポリマーである。したがって、例えば、第1の薬剤はペグ化されていてもよい。
【0031】
分離部材はまた、画像化することができる蛍光化合物であってもよい。
【0032】
第1の標識はまた、質量分析又は別の類似の方法論による同定を容易にする質量タグ(mass tag)又は標識であり得る。適切な質量タグの例には、ビオチン-マレイミド、ヨードアセトアミド及びN-エチルマレイミドが含まれる。第1の標識はまた、抗原であってもよい。
【0033】
好ましくは、サブ試料は、標識された試料の体積の約50%の体積を含む。
【0034】
好ましくは、サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元することは、サブ試料を有効量のチオール含有剤と接触させるステップを含む。好ましくは、チオール含有剤は、可逆的に酸化されたシステイン基の還元にわずかに又は中程度にのみ有利である、チオール-ジスルフィド交換反応において、可逆的に酸化されたシステイン基と反応するように適合される。この点について、チオール含有剤は、8又は9未満、より好ましくは4、5、6、又は7未満の平衡定数(pKa)値を有する反応において、可逆的に酸化されたシステイン基と反応するように適合されてもよい。
【0035】
好ましくは、チオール含有剤は、単一のチオール基を含む化合物を含む。
【0036】
好ましくは、チオール含有剤は、システイン、グルタチオン(還元型)、メルカプトエタノール、システアミン、ペニシラミン及びN-アセチルシステインを含む群から選択される。
【0037】
本発明の目的のために、「選択的に還元する」という語句で使用される場合、「選択的に」という用語は、可逆的に酸化されたシステイン基が、試料中の任意の不可逆的に酸化されたシステイン基よりも優先的に還元されることを意味する。好ましくは、「選択的に還元する」という用語は、試料中の任意の不可逆的に酸化されたシステイン基の測定可能な還元がないことを意味する。本発明の1つの特定の形態において、「選択的に還元する」という用語は、可逆的に酸化されたシステイン基のサブセットのみが還元されることを意味し、例えば、アルブミンについて、システイン残基34は、アルブミン中の他の可逆的に酸化されたシステイン基に対して選択的に還元される。
【0038】
好ましくは、チオール含有剤は、少なくとも2mM、4mM、6mM、8mM、10mM、12mM、12.5mM、15mM又は20mMの最終濃度で使用される。
【0039】
好ましくは、チオール含有剤は、少なくとも5、10、15、20又は30分間にわたり、サブ試料と接触される。
【0040】
好ましくは、第2の標識はさらに、その間に形成された結合が還元剤で切断され得ないように、還元システイン基をトラップするように適合される。
【0041】
好ましくは、第2の標識は、スルフヒドリル反応性化学基を含む。さらにより好ましくは、第2の標識は、マレイミド基;ヨードアセチル又はブロモアセチル基などのハロアセチル基;及び/又はピリジルジスルフィド基を含む。
【0042】
好ましくは、第2の標識は、第1の標識に関連して本明細書に記載されるような分離部材をさらに含む。
【0043】
好ましくは、第2の標識は、第1の標識と同じ反応化学/結合特性を有する。
【0044】
好ましくは、第2の標識は、第1の標識と区別可能である。例えば、第2の標識は、異なる抗原、質量、吸光度又は蛍光タグを組み込んでもよい。
【0045】
好ましくは、第2の標識は、第1の標識に使用される濃度よりも高い濃度で使用される。さらにより好ましくは、第2の標識の濃度は、処理されたサブ試料と接触させる場合、少なくとも5、10、15又は20分間にわたり、少なくとも5mM、7.5mM、10mM、12.5mM又は15mMであってもよい。
【0046】
タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップは、第1及び第2の標識の選択に少なくとも部分的に依存して変化するであろう。好ましくは、評価するステップは、第1及び第2の標識された試料を電気泳動などのサイズベースの分離に適用することを含む。
【0047】
好ましくは、本発明の方法は、定量的である。したがって、方法は、タンパク質の同定された酸化状態の量を定量化するステップをさらに含んでもよい。
【0048】
好ましくは、酸化状態は、相対的に定量化される。
【0049】
好ましくは、酸化状態は、試料中のタンパク質の総量のパーセンテージなどのパーセンテージとして定量化される。好ましくは、酸化状態は、酸化されるタンパク質のパーセンテージとして定量化される。
【0050】
好ましくは、酸化状態は、第1又は第2の標識からのシグナルの強度を参照することにより定量化される。
【0051】
第1及び第2の標識された試料を評価する1つの特に有用な手段は、タンパク質試料をPAGEに適用し、次いで標識からのシグナルをゲル上の特定のタンパク質バンドで測定できるため、PAGEなどのゲル電気泳動である。第1及び第2の標識された試料を評価するための別の適切な技術は、PAGE電気泳動と同じ分離原理を使用するが、ゲル又はポリマーを充填したキャピラリーチューブで実施される、高速タンパク質分析技術であるキャピラリー電気泳動である。標識のタイプに応じて、他の視覚化手段には、イムノブロッティング、ホスホイメージング又はルミイメージングが含まれる。
【0052】
PAGEの代替技術は、免疫沈降又はラテラルフローストリップ(対象の単一タンパク質が単離されている場合)、タンパク質又は抗体アレイ(多数のタンパク質がタンパク質チップ上に単離されている場合)、並びに質量分析及び/又はクロマトグラフィーであり、ここで、(例えば、多次元クロマトグラフィーによって)単一又は総タンパク質抽出物が分析される。質量分析及びタンパク質又は抗体アレイは、非常にマイクロアレイに似て、非常に迅速に10、100又は1000ものタンパク質をスキャンする機会を提供する。
【0053】
本発明は、活性酸素種(ROS)に曝された試料中のタンパク質の酸化状態に対するROSの効果をモニタリングするための手段を提供し、方法は、
(a)試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価をROSの効果と関連づけるステップ
を含む。
【0054】
ROSは、正常な細胞機能の態様を改変することができる任意の活性酸素分子であってもよい。好ましくは、ROSは、スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、ペルオキシルラジカル、アルコキシルラジカル、ヒドロペルオキシルラジカル、次亜塩素酸、過酸化水素、一酸化窒素、タウリンクロラミン、次亜臭素酸、オゾン、一重項酸素及びペルオキシナイトライトを含む群から選択される。
【0055】
脳卒中、心臓発作、及び加齢性変性症などの多くの重要な病理は、ROS産生に関連している。したがって、本発明はまた、対象におけるROSに関連する病理を評価する方法を提供し、方法は、
(a)対象からの試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価をROSに関連する病理と関連づけるステップ
を含む。
【0056】
ROSに関連する病理は、脳卒中、心臓発作、加齢性変性症、又はアテローム性動脈硬化症、末梢血管閉塞性疾患、高血圧、肝疾患、アルコール性肝疾患、腎臓病、クローン病、狭心症、肺気腫及び気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、癌、肝臓移植関連疾患などの臓器移植、冠状動脈性心臓病/心不全、脳卒中/神経外傷、心血管疾患、冠状動脈閉塞性肺疾患、高血圧、低酸素症、胎児ジストレス症候群、ジストロフィー、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、嚢胞性線維症、敗血症(重症敗血症を含む)、急性呼吸窮迫症候群、睡眠時無呼吸、肥満、骨粗しょう症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性疲労症候群、筋肉損傷、脳震盪、並びにアルツハイマー病及びパーキンソン病を含むがこれらに限定されない神経変性疾患を含むリストから選択される疾患を含む群から選択されてもよい。
【0057】
本発明の方法はまた、ROSに関連する病理に対する治療的介入の効果を評価するために使用され得る。したがって、本発明はまた、対象におけるROSに関連する病理に対する治療的介入の有効性を評価する方法を提供し、方法は、
(a)対象からの試料を、その中のタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識と接触させて、第1の標識された試料を形成するステップ;
(b)第1の標識された試料のサブ試料を形成するステップ;
(c)サブ試料を処理して、その中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元して、処理されたサブ試料を形成するステップ;
(d)処理されたサブ試料を、ステップ(c)中に形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するよう適合された第2の標識と接触させて、第2の標識された試料を形成するステップ;
(e)タンパク質の複数の酸化状態について、第1及び第2の標識された試料を評価するステップ;並びに
(f)ステップ(e)の評価を、介入の存在下及び不存在下でのROSに関連する病理と関連づけるステップ
を含む。
【0058】
介入は異なってもよく、ROSに関連する病理に治療効果を有することを意図した薬剤の投与が含まれる。
【0059】
本発明の方法は、方法を実行するために必要な一連の試薬を含むキットを使用して好都合に実施され得る。したがって、本発明はまた、試料中のタンパク質の酸化状態を評価するためのキットを提供し、キットは、
(a)試料中のタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するように適合された第1の標識;及び
(b)試料中のタンパク質の少なくとも1つの可逆的に酸化されたシステイン基を選択的に還元するための試薬
を含む。
【0060】
好ましくは、キットは、試薬での処理によって形成されたタンパク質の還元システイン基に選択的に結合するように適合された第2の標識をさらに含む。好ましくは、第1及び第2の標識は同じである。
【0061】
好ましくは、キットは、試料を受け取るための基材をさらに含み、好ましくは、基材は、第1の標識を含み、全血試料からのタンパク質の少なくとも1つの還元システイン基に結合するように適合される。好ましくは、基材は、濾紙などの吸収紙である。好ましくは、基材は、少なくとも1つの試料識別子をさらに含む。
【0062】
好ましくは、キットは、試料収集デバイスをさらに含む。好ましくは、試料収集デバイスは、毛細血管血液試料の収集を可能にするように適合される。好ましくは、試料収集デバイスは、皮膚穿刺デバイスである。好ましくは、試料収集デバイスは、患者の踵、指又は耳たぶからの毛細血管血液試料の収集を可能にするように適合された手持ち式デバイスである。好ましくは、試料収集デバイスは、ランセットである。
【0063】
好ましくは、基材は、Perkin Elmar 226 Spot Saver Cardなどの乾燥血液スポットカードである。好ましくは、第1の標識は、乾燥血液スポットカードに埋め込まれる。好ましくは、試料は、指穿刺試料などの全血試料である。或いは、基材は、赤血球などの他の全血成分から試料中の1つ以上のタンパク質を分離するための分離膜を含む。
【0064】
好ましくは、キットは、乾燥血液スポットカードから血液試料の少なくとも一部を抽出するように適合された抽出試薬をさらに含む。好ましくは、キットは、結合したタンパク質を試料から分離するように適合されたタンパク質単離試薬をさらに含む。
【0065】
好ましくは、キットは、本明細書に記載の方法に従って、その中の試薬を利用するための説明書をさらに含む。
【0066】
総則
当業者は、本明細書に記載された発明が、具体的に記載されたもの以外の変更及び修正を受け入れる余地があることを理解するであろう。
【0067】
本発明は、そのような全ての変更及び修正を含むことを理解されたい。本発明はまた、本明細書で個別に又は集合的に参照又は示される全てのステップ、特徴、組成物及び化合物、並びに任意の及び全ての組み合わせ又は任意の2つ以上のステップ若しくは特徴を含む。
【0068】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態又は例によって範囲が限定されるものではなく、これらは例示のみを目的とする。機能的に同等の産物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明らかに本発明の範囲内である。
【0069】
本明細書に引用される全ての刊行物(特許、特許出願、学術論文、実験室マニュアル、書籍、又はその他の文書を含む)の全開示は、参照により本明細書に組み込まれる。参考文献のいずれかが、先行技術を構成すること、又は本発明が関連する分野で働く人の一般的な共通知識の一部であることを承認するものではない。
【0070】
本明細書全体を通して、文脈に別段の要求がない限り、「含む(comprise)」という語、又は「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」などの変形は、所定の整数又は整数のグループを含むことを意味するが、他のいかなる整数又は整数のグループも除外することを意味するものではないと理解されよう。
【0071】
本明細書で使用される選択された用語の他の定義は、本発明の詳細な説明内に見出され、全体を通して適用され得る。別段定義しない限り、本明細書で使用される他の全ての科学及び技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。
【実施例
【0072】
実施例
以下の方法は、上記の発明を使用する方法をより完全に説明するとともに、本発明の様々な態様を実行するために企図される最良の形態を説明するのに役立つ。これらの方法は、決して本発明の真の範囲を限定するのに役立つものではなく、むしろ例示の目的で提示されるものと理解される。
【0073】
実施例1-運動後のアルブミンチオール酸化の定量的評価。
1.材料/方法
(a)参加者
18~32歳の健康な成人が参加し、西オーストラリア大学(University of Western Australia)の人間倫理委員会によって倫理が承認された。
【0074】
(b)材料
全体を通して二重脱イオン(DDI)水を使用した。タンパク質分子量標準は、Bio-Rad(オーストラリア)から購入した。別段明記しない限り、全ての化学物質及び試薬はSigma-Aldrich(Castle Hill、オーストラリア)から入手した。ポリエチレングリコールマレイミド(malpeg),5000g/molは、JenKem Technology(米国)から購入した。
【0075】
(c)血液試料の調製及び保管
アルブミンチオール酸化の分析のために、血液9部を、DDI水中にpH7.4で希釈された、62.5mMのマルペグ、40mMのイミダゾール、及び154mMのNaClで構成されるトラッピング溶液1部を含有するKEDTAチューブ(MinicollectチューブK3EDTA;Greiner Bio-One、オーストリア)に収集した。総血漿アルブミンの分析のために、トラッピング溶液なしで、追加の血液を第2のKEDTAチューブに収集した。チューブを短時間ボルテックスし、次いで、遠心分離(3000g、10分間)し、血漿を収集した。トラッピング溶液を含まない血漿は直ちに液体窒素で凍結して-80℃で保存し、一方、トラッピング溶液を含む血漿は室温で20分間インキュベートした後、凍結して保存した。
【0076】
ゲル上にマルペグを含む及び含まないヒトアルブミンの同定のために、0.5mM(w/v)のSDS及び0.5mMのTris(pH7.4)を含有するSDS/Tris緩衝液中に0.9mMの市販のヒト血清アルブミン(HSA;Sigma)を調製した。HSA試料9部を、DDI水にpH7.4で希釈された、62.5mMのポリエチレングリコールマレイミド(Malpeg、5000g/mol、JenKem Technology、米国)、40mMのイミダゾール、及び154mMのNaClから構成されるトラッピング溶液1部に添加した。トラッピング溶液を含まない試料は直ちに液体窒素で凍結して-80℃で保存し、一方、トラッピング溶液(Malpeg)の存在下で収集された血漿は凍結して保存する前に室温で30分間インキュベートした。
【0077】
(d)試料の調製
マルペグを含有する血漿又はHSA試料を37℃で撹拌しながら解凍し、2つの2.5μlのアリコートに分割した。
【0078】
手順Iは、0.5%のSDS及び0.5mMのTris(pH7.4)を含有するSDS/Tris緩衝液(245μl)をアリコート1(試料1;図1a)に添加することを含んでいた。
【0079】
手順IIは、2.5μlの20mMのL-システイン(pH3)をアリコート2に添加すること、室温で30分間インキュベートすること、次いで5μlの25mMのマルペグを添加してさらに室温で15分間インキュベートすることを含んでいた。95μlのSDS/Tris緩衝液(試料2、図1a)にサブアリコート(4μl)を添加した。
【0080】
(e)ゲル電気泳動
ゲルは、ミニタンパク質プレート(Bio-Rad)を使用して手動でキャストした。簡潔には、Laemmli法[1]に従って、16%分離ゲルを作製した。蛍光イメージングのために、1%(v/v)の2,2,2-トリクロロエタノール[2]を添加した。分離ゲルが重合した後、4%濃縮ゲルを分離ゲル上に注ぎ、重合後、ゲルを使用前に少なくとも3時間、冷暗室で保管した。
【0081】
試料(5μlの試料1及び5μlの試料2)を、DDI水中、0.5MのTRIS(pH6.8)、3%(w/v)のSDS、30%(v/v)のグリセロール、及び0.03%(w/v)のブロモフェノールブルーを含む、等量のローディングバッファーと混合した。5μlのアリコートをゲル上に充填し、ゲルを250Vで1時間45分にわたり冷暗室で泳動した。電気泳動後、DDI水でゲルを2回洗浄した。ゲルをUVトランスイルミネーター(ChemiDoc(商標)、Biorad)上に5分間置き、Image Lab(商標)ソフトウェア、Bioradで可視化した。ゲルの画像はNIH ImageJソフトウェア[バージョン1.48v;[3]]を使用して分析した。画像を反転し、バックグラウンドの減算、並びにスペックル及びノイズの編集後、ゲルからの各レーンのシグナルプロファイルをプロットした(Image Jユーザーガイド1.46r、2012)。各ピーク下面積は、台形公式を使用して計算し、各バンドの強度を得た[2]。
【0082】
(f)タンパク質カルボニルアッセイ
血漿アルブミン上に形成されたカルボニル基は、陽性対照及び陰性対照での試料の処理を含むイムノブロッティングで決定された。血漿試料を6%SDSで1:120に希釈した。陽性対照試料は、50mMのHOClと1:1で1時間インキュベートし、次いで、6%(w/v)SDSで1:60に希釈した。希釈した試料又は陽性対照1部を、10mMジニトロフェニルヒドラジン(10mM DNPH/10%(w/v)TFA)1部に添加した。陰性対照試料は、10%(w/v)TFAの同じ条件で、DNPHは使用せずにインキュベートした。15分間のインキュベーション後、中和溶液(30%グリセロール/2M Tris)1部をDNPH及び陰性対照で処理した試料に添加した。次いで、処理した試料を還元条件下で10倍に希釈し、5μlの処理した試料をステインフリーSDS-PAGE(Biorad、4-20%Mini-PROTEAN(登録商標)TGX Stain-Free(商標)Precast Gels)で分離し、10分間、2.5A、最大25Vに設定した条件を使用して、ニトロセルロース膜(Biorad、Trans-Blot(登録商標)Turbo(商標)Mini Nitrocellulose Transfer Packs)に移した(Biorad、Trans-Blot(登録商標)Turbo(商標)Transfer System)。
【0083】
続いて膜をTris緩衝生理食塩水Tween20(TBST)中で5回、各3分間(5×3分間)洗浄し、TBST/0.5%(w/v)無脂肪粉乳でブロックした。1時間後、膜をTBSTで洗浄し(5×3分間)、次いで、ポリクローナルウサギ抗DNP抗体(TBST/0.5%(w/v)無脂肪粉乳で1:20000に希釈)でインキュベートした。冷室で一晩インキュベートした後、膜をTBSTで洗浄し(5×3分間)、次いで、室温で1時間、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役ヤギ抗ウサギIgG(TBST/0.5%無脂肪粉乳で1:25000に希釈)で処理した。ECLウエスタンブロット検出試薬(Bio-rad、Clarity Western ECL基材)を使用して、カルボニル化アルブミンを可視化する前に、TBST(5×3分)で最終洗浄を実施した。
【0084】
カルボニル密度をステインフリーゲル(ローディングコントロール)からのアルブミンの蛍光シグナルの量で割った値を使用し、アルブミンのカルボニル化をレシオメトリック値として作表した。すなわち、比率=カルボニル化アルブミンの任意量/アルブミンの任意量、である。アルブミンカルボニルのアッセイ間の変動係数(標準偏差÷平均)は8.6%(n=9)であり、7%~18%の範囲の変動係数を有する以前のカルボニル方法と類似していた(Dayhoff-Brannigan et al.2008[5]; Matthaiou et al.2014[6])。
【0085】
(i)統計分析
別段明記しない限り、全てのデータは平均値±SEとして提示される。平均値は、t検定又は一元配置分散分析を使用して、必要に応じて反復測定と比較した。有意性はp<0.05で認めた。
【0086】
2.結果
(a)方法の開発
血漿アルブミンチオールの酸化状態の定量分析には、cys-34をマルペグでマレイミド標識し、次いで、標識アルブミンをSDS-PAGEで非標識アルブミンから分離する(図1及び2)。特に、試料1は、還元(RA)及び酸化アルブミン(OA;図1b)のパーセンテージを分析するために使用された。試料2を使用して、可逆的酸化型(OAR)及び不可逆的酸化型(OAI;図1b)のアルブミンのパーセンテージを計算した。試料1では、上部バンド(図2のA)は還元アルブミン(RA)であり、下部バンド(図2のB)は可逆的及び不可逆的に酸化されたアルブミン(OAR及びOAI)であった。試料2では、上部バンド(図2のC)は還元アルブミン(RA)及び可逆的に酸化されたアルブミン(OAR)であり、下部バンド(図2のA)は不可逆的に酸化されたアルブミン(OAI)であった。異なる形態のアルブミンのパーセンテージは、次のように計算された。
1.減少したアルブミンのパーセンテージ(%RA)=バンドA/(バンドA+バンドB)×100
2.不可逆的に酸化されたアルブミンのパーセンテージ(%OAI)=バンドD/(バンドD+バンドE)×100
3.可逆的に酸化されたアルブミンのパーセンテージ(%OAR)=100-%RA-%OAI
【0087】
技術は、マルペグによるcys34のチオールの標識付けに依存する。室温で少なくとも15分間インキュベートした6.25mMマルペグの濃度は、最大標識化に十分であると見なされた。
【0088】
可逆的に酸化されたcys34を測定するために、チオール-ジスルフィド交換反応を使用してcys34にチオールを生成し、次いで、これをマルペグで標識できた。システイン、還元型グルタチオン、N-アセチルシステイン及びメルカプトエタノールは、適切なチオール-ジスルフィド交換試薬であったが、ジチオスレイトール及びTCEPは適していなかった(図3)。システインは、その後の全ての実験でチオール-ジスルフィド交換試薬として使用された。少なくとも15分間インキュベートされた少なくとも10mMのシステイン濃度は、可逆的に酸化されたチオールのより最大の標識を構成するのに十分であった。システインとインキュベートした後、12.5mMのマルペグと少なくとも15分間インキュベートすることは、cys34の新しく露出したチオール基を標識するのに十分であった。
【0089】
アルブミンの相対酸化を定量化するために、2,2,2-トリクロロエタノールと反応したタンパク質の蛍光イメージングを使用して、完全な分離を達成した(図4bii、iii)。2μgまでのアルブミン充填の蛍光イメージングでは、アルブミン含有量とゲルバンド密度(図4)との間に線形関係があった。この線形関係は、マルペグに結合した、及び結合していない、アルブミンの相対蛍光強度を使用して、相対酸化を計算できることを意味していた。この概念と一致して、マルペグが添加されていないアルブミンの蛍光強度(22.5±0.7、任意単位、n=4)は、マルペグに結合した、及び結合していないアルブミンの両方を含有する、試料1(22.7±0.5、任意単位、n=4)及び試料2(22.5±0.6、任意単位、n=4)の蛍光強度の合計と同等であった。蛍光イメージング技術を使用した血漿アルブミンの計算された酸化は、それぞれ2.7%(n=12)及び4.7%(n=12)の、アッセイ内及びアッセイ間変動係数で再現可能であった。
【0090】
(b)血漿試料の収集及び調製。
タンパク質のチオール基は酸化に敏感であるため、試料の調製中に人工的な酸化が発生する可能性がある。しかし、cys34のチオール基をマルペグと反応させると酸化が防がれる。マルペグが、収集されてすぐの血液;遠心分離後の血漿;解凍したての血漿;及び室温で2.5時間後の血漿、に添加される、3つの試料調製技術が試験された。全ての血漿試料で、マルペグが添加された血液試料のアルブミン酸化レベルと比較して、酸化が増加した(図5)。
【0091】
(c)クロマトグラフィー技術との比較
クロマトグラフィーベースの技術は、酸化型のアルブミンの割合を測定するために使用されてきた。Turell et al[4]によって説明されるクロマトグラフィー技術を使用すると、ウシ血清アルブミン試料は36±0.7%(n=5)酸化されたと推定されるのに対し、マルペグ技術を使用すると、酸化レベルは42±0.1%(n=5)であると推定された。2つの測定値に相違があるため、ウシ血清アルブミン試料は、チオール基を完全に酸化するために使用された過酸化水素で処理された。クロマトグラフィーを使用すると、アルブミン試料は68±1.8%(n=5)酸化されたのに対し、マルペグ技術を使用すると、酸化レベルは98±0.1%(n=5)であると推定された。これらの観察は、Turell et al.のクロマトグラフィー技術がアルブミン酸化の程度を過小評価していたことを示唆している。
【0092】
(d)アルブミン酸化方法のタンパク質カルボニルアッセイとの比較
アルブミン酸化方法の感受性を、2つの活性酸素種、過酸化水素及び次亜塩素酸を使用したタンパク質カルボニルアッセイと比較した。過酸化水素の場合、0.5mM及び5mMの濃度では、アルブミンCys34酸化が有意に増加し、タンパク質カルボニル形成は有意に増加しなかった(図6)。同様の酸化パターンが次亜塩素酸でも明らかであり、アルブミンCys34酸化は有意に増加したが、タンパク質カルボニル形成は有意に増加しなかった(図6A及び6B)。同等の濃度で、次亜塩素酸は過酸化水素よりも多くのアルブミンの酸化を引き起こした。
【0093】
過酸化水素及び次亜塩素酸の両方が、可逆的及び不可逆的に酸化されたアルブミンの増加を引き起こした(図6C)。しかし、5mMの次亜塩素酸は、0.5mMの場合よりも可逆的に酸化されたアルブミンの有意に低い増加を引き起こした。この明らかな不一致は、考察で扱われる。
【0094】
(e)適用:運動後のヒトアルブミンチオール酸化の定量的評価。
ゲルベースの方法のアッセイの感受性は、運動後のヒト血漿アルブミンチオール酸化を測定することによって試験した。参加者は、50ワットの初期強度でVO2Peak定常サイクリング運動試験を実施し、随意の消耗まで、又は参加者が必要な出力を正常に維持できなくなるまで、3分間隔で強度を30ワットずつ増加させた。毛細血管血液試料は、運動の前後に収集された。運動直後、酸化アルブミンが増加し、運動後30分までに運動前のレベルに戻った(図7)。酸化されたアルブミンの増加は、不可逆的に酸化されたアルブミンではなく、可逆的に酸化されたアルブミンの増加の結果であった(図7)。
【0095】
明らかであるように、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、実施例の様々な変更及び同等の形態が提供され得る。これには、全ての修正、代替構造、及び同等物とともに、添付の特許請求の範囲内の修正が含まれる。
【0096】
実施例2-慢性疲労症候群を有する個人のタンパク質酸化レベル
1.材料/方法
(a)参加者
健康なボランティア(n=12)及び慢性疲労症候群に罹患している人(n=12)は、エルゴメーターで片側膝伸展を伴う最大強度の30秒間にわたる自発性収縮を3回実施し、伸展の間に120秒回復を設けた。膝の角度は70度に固定された。
【0097】
血液試料は、運動直前、運動直後、運動後15分、運動後30分に採取した。
【0098】
参加者は、試験前の48時間にわたり、アルコール、カフェイン、及び鎮痛剤の摂取を控えることが求められた。参加者は、試験前日の午後10時からの断食を求められた。全ての試験は午前9時に開始した。
【0099】
(b)材料
全体を通して二重脱イオン(DDI)水を使用した。タンパク質分子量標準は、Bio-Rad(オーストラリア)から購入した。別段明記しない限り、全ての化学物質及び試薬はSigma-Aldrich(Castle Hill、オーストラリア)から入手した。ポリエチレングリコールマレイミド(malpeg),5000g/molは、JenKem Technology(米国)から購入した。
【0100】
(c)血液試料の調製及び保管
アルブミンチオール酸化の分析のために、血液9部を、DDI水中にpH7.4で希釈された、62.5mMのマルペグ、40mMのイミダゾール、及び154mMのNaClで構成されるトラッピング溶液1部を含有するKEDTAチューブ(MinicollectチューブKEDTA;Greiner Bio-One、オーストリア)に収集した。総血漿アルブミンの分析のために、トラッピング溶液なしで、追加の血液を第2のK3EDTAチューブに収集した。チューブを短時間ボルテックスし、次いで、遠心分離(3000g、10分間)し、血漿を収集した。トラッピング溶液を含まない血漿は直ちに液体窒素で凍結して-80℃で保存し、一方、トラッピング溶液を含む血漿は室温で20分間インキュベートした後、凍結して保存した。
【0101】
ゲル上にマルペグを含む及び含まないヒトアルブミンの同定のために、0.5mM(w/v)のSDS及び0.5mMのTris(pH7.4)を含有するSDS/Tris緩衝液中に0.9mMの市販のヒト血清アルブミン(HSA;Sigma)を調製した。HSA試料9部を、DDI水にpH7.4で希釈された、62.5mMのポリエチレングリコールマレイミド(Malpeg、5000g/mol、JenKem Technology、米国)、40mMのイミダゾール、及び154mMのNaClから構成されるトラッピング溶液1部に添加した。トラッピング溶液を含まない試料は直ちに液体窒素で凍結して-80℃で保存し、一方、トラッピング溶液(Malpeg)の存在下で収集された血漿は凍結して保存する前に室温で30分間インキュベートした。
【0102】
(d)試料の調製
マルペグを含有する血漿又はHSA試料を37℃で撹拌しながら解凍し、2つの2.5μlのアリコートに分割した。
【0103】
手順Iは、0.5%のSDS及び0.5mMのTris(pH7.4)を含有するSDS/Tris緩衝液(245μl)をアリコート1(試料1;図1a)に添加することを含んでいた。
【0104】
手順IIは、2.5μlの20mMのL-システイン(pH3)をアリコート2に添加すること、室温で30分間インキュベートすること、次いで5μlの25mMのマルペグを添加してさらに室温で15分間インキュベートすることを含んでいた。95μlのSDS/Tris緩衝液(試料2、図1a)にサブアリコート(4μl)を添加した。
【0105】
(e)ゲル電気泳動
ゲルは、ミニタンパク質プレート(Bio-Rad)を使用して手動でキャストした。簡潔には、Laemmli法[1]に従って、16%分離ゲルを作製した。蛍光イメージングのために、1%(v/v)の2,2,2-トリクロロエタノール[2]を添加した。分離ゲルが重合した後、4%濃縮ゲルを分離ゲル上に注ぎ、重合後、ゲルを使用前に少なくとも3時間、冷暗室で保管した。
【0106】
試料(5μlの試料1及び5μlの試料2)を、DDI水中、0.5MのTRIS(pH6.8)、3%(w/v)のSDS、30%(v/v)のグリセロール、及び0.03%(w/v)のブロモフェノールブルーを含む、等量のローディングバッファーと混合した。5μlのアリコートをゲル上に充填し、ゲルを250Vで1時間45分にわたり冷暗室で泳動した。電気泳動後、DDI水でゲルを2回洗浄した。ゲルをUVトランスイルミネーター(ChemiDoc(商標)、Biorad)上に5分間置き、Image Lab(商標)ソフトウェア、Bioradで可視化した。ゲルの画像はNIH ImageJソフトウェア[バージョン1.48v;[3]]を使用して分析した。画像を反転し、バックグラウンドの減算、並びにスペックル及びノイズの編集後、ゲルからの各レーンのシグナルプロファイルをプロットした(Image Jユーザーガイド1.46r、2012)。各ピーク下面積は、台形公式を使用して計算し、各バンドの強度を得た[2]。
【0107】
2.結果
図16は、CFSを有する個人(n=12)及び健康な座りがちな個人(n=12)における血液中のタンパク質酸化レベルに対する等尺性収縮の影響を示す。運動前(pre)、及び運動後0、15及び30分の時点で血液を採取した。データは平均として示され、エラーバーは平均の標準誤差を示す。*は健康な参加者とCFS参加者の間の有意差(p<0.05)を示す。#は、運動前の測定からの有意性(p<0.05)を示す。
【0108】
健康な参加者は、血漿アルブミンCys34の酸化状態の収縮後の増加を経験した。同様の増加は、既知の慢性疲労症候群を有する参加者では見られなかった。結果は、慢性疲労症候群を有する個人の血液における反復的な等尺性収縮に対する異常な反応があったことを示した。
【0109】
実施例3-可逆的に酸化されたアルブミンのレベルに対する様々なストレッサーの影響
1.材料/方法
(a)材料
全体を通して二重脱イオン(DDI)水を使用した。タンパク質分子量標準は、Bio-Rad(オーストラリア)から購入した。別段明記しない限り、全ての化学物質及び試薬はSigma-Aldrich(Castle Hill、オーストラリア)から入手した。ポリエチレングリコールマレイミド(malpeg),2000g/molは、JenKem Technology(米国)から購入した。Perkin Elmar 226 Protein save 5スポットカードが使用された。
【0110】
(b)OxiMetric乾燥血液スポットカードの調製手順
100mLの40mMイミダゾールを1.5mLマイクロフュージチューブ内の12.5mgのメトキシポリエチレングリコールに添加した。チューブをおよそ2分間ボルテックスした。得られたトラッピング剤は、62.5mMの最終メトキシポリエチレングリコール濃度を有する透明溶液であった。
【0111】
調製したトラッピング剤5μLを、血液カード上の5つのスポットそれぞれの中心にピペットで滴下した。トラッピング剤を広げて、各血液スポットの指定された円領域のおよそ3/4をカバーした。トラッピング剤を含浸させた血液カードを、乾燥剤と共に供給された気密容器に入れ、少なくとも2時間乾燥させ、使用するまで同じ容器に保管した。
【0112】
(c)血液カード及び指穿刺試料採取
トラッピング剤を含む血液カードを乾燥剤容器から取り出し、円が上を向くようにして平らな面に置いた。容器は再封された。ランスキャップを外してランセットを準備した。採取部位を穿刺する前に約20秒間擦り、ランセットを穿刺部位にしっかりと置き、リリースボタンを押して皮膚を穿刺した。穿刺部位を穏やかに圧迫して、一滴の血液を採取した。血液カードの円の中心に、1滴又は2滴の血液をつけた。試料は、日付、時刻及び試料識別子でラベル付けした。カードの上部を折って、収集した試料スポットの上を覆うように包み、カードを乾燥剤容器に戻した。
【0113】
血液カードは、提供された乾燥剤容器に入れて、室温で数ヶ月間保管できる。乾燥剤の色がオレンジから青に変化したら、乾燥剤容器を交換しなければならない。
【0114】
(d)Cibracron Blueアルブミン単離方法及びチオール酸化分析
血液カードからの血液抽出
各血液カードの各スポットの中心に4.5mmの穴をあけた。各4.5mm血液カードディスクを96ウェルプレートの個別のウェルに配置した。血液カードディスクを含有する各ウェルに、100μlの20mMリン酸緩衝液、0.05%Tween20(pH7.1)を添加した。プレートミキサー上で、プレートを室温で2時間インキュベートした。
【0115】
可逆的酸化分析のためのシステインによる還元
40μLのアリコートを、血液カード試料を含有する各ウェルから0.5mLのマイクロフュージチューブに移した。10mMのシステイン溶液は、3.5mgのL-システイン塩酸塩を100μLのDDIと1.5mlのマイクロフュージチューブ内で混合することにより調製し、これを溶解するまで30秒間穏やかにボルテックスして、200mMのシステイン含有量を有する溶液を提供した。200mM溶液を(DDIで)1:20に希釈して、最終濃度10mMのシステイン溶液を得た。40uLの10mMシステイン溶液を40uLの血液カード試料に添加し、試料をボルテックス上で、室温で30分間インキュベートして、全てのチオールを還元させた。
【0116】
可逆/不可逆分析のためのMal-PEG2000による標識
試料をボルテックスから取り出し、80μLの12.5mMメトキシポリエチレングリコール2000溶液(40mMイミダゾールpH7.4中の12.5mMメトキシポリエチレングリコール2000)を各試料に添加し、試料をボルテックス上で、室温で30分間インキュベートした。
【0117】
シバクロンブルーを使用したアルブミンの単離
シバクロンブルーの5μLアリコートを0.5mLマイクロフュージチューブにアリコートした。45μLの20mMリン酸緩衝液を添加し、チューブを軽くたたくことで穏やかに混合した。チューブを1分間遠心分離し、上清を除去して廃棄した。血液カードディスク溶液40μL及び還元血液カードディスク溶液160μLをシバクロンブルーに添加し、チューブを軽くたたくことで穏やかに混合した。チューブを室温で10分間インキュベートし、チューブを軽くたたくことで穏やかに混合した。チューブを1分間遠心分離し、上清(未結合のタンパク質全体を含有する)を除去して廃棄した。100μLの20mMリン酸緩衝液をシバクロンブルーゲルに添加し、穏やかに混合してから遠心分離し、次いで、上清を除去及び廃棄して、残留する不要な全血成分を洗い流した。結合したアルブミンは、25μLの1.4M塩化ナトリウムをチューブに添加し、チューブを軽くたたいて穏やかに混合することで溶出した。チューブを遠心分離し、上清を除去し、0.5mLマイクロフュージチューブに保管した。保存上清試料は、比較的精製されたアルブミンを含有していた。
【0118】
ゲル電気泳動及びチオール分析
精製したアルブミン溶液を等量の試料緩衝液(すなわち、20μLの試料緩衝液を含む20μlのアルブミン溶液)と混合した。試料をボルテックスし、次いで、20μLの試料を16%ポリアクリルアミドゲル上に充填した。ゲルを180V、70mAで2時間にわたって泳動した。ゲルは、5分間の曝露を使用してChemiDoc MP Imagingシステムで画像化した。画像Jを使用して、総アルブミンに対する酸化アルブミンの比率を定量化した。総アルブミンに対する酸化アルブミンの比率=[酸化バンドの強度/(還元バンド+酸化バンドの強度)]×100
【0119】
(e)統計分析
別段明記しない限り、全てのデータは平均値±SEとして提示される。平均値は、t検定又は一元配置分散分析を使用して、必要に応じて反復測定と比較した。有意性はp<0.05で認めた。
【0120】
2.結果
可逆的に酸化されたアルブミンのレベルに対する運動の効果
1人の参加者が5kmのランニングを実施した。運動強度は、ランニング速度を上げることによって変更され、中強度と高強度の間で2倍になった。各ランニングの24時間後に血液試料を採取した。中強度のランニングと高強度のランニングとの間に2日間の安静期間をとった。
【0121】
図9は、ベースライン試料と比較して、中強度及び高強度の運動療法で検出された可逆的に酸化されたアルブミンの量の増加を示す。図9はまた、実施された運動の強度と、血液試料中に存在する可逆的に酸化されたアルブミンの量との相関関係を示す。
【0122】
可逆的に酸化されたアルブミンレベルに対する炎症性皮膚治療の効果
24歳の女性患者は、顔にマイクロニードル治療を受けた。血液試料は、治療前(ベースライン試料)、及び治療が完了してから24時間後に収集した。
【0123】
図10は、ベースライン試料と比較した、治療後の可逆的に酸化されたアルブミンの顕著な(15%)増加を示す。
【0124】
可逆的に酸化されたアルブミンのレベルに対する筋肉損傷の効果
訓練を受けていない参加者は、5kgのウェイトで6回の反復(二頭筋カール)を4セット実施した。血液試料は、運動を実施する前、及び運動後4日間にわたって毎日採取した。図11は、患者試料が持続的な筋肉損傷を示す高い酸化ストレスを示したことを示す。患者の酸化ストレスプロファイルは、4日目に運動前のレベルに回復していなかった。
【0125】
運動後の可逆的及び不可逆的な酸化レベル
1人の参加者が4日間の有酸素運動試験を2期間実施した。2期間は2週間の安静で区切られた。運動強度(ランニング時間及び速度)は、2日目及び4日目に増加し、各運動期間の4日目に最高強度であった。全ての試料は、運動の24時間後に取得された。
【0126】
図12は、中強度及び高強度の両方の運動後に採取した試料で測定された、可逆的に酸化されたアルブミンの量の大幅な増加を示す。中強度又は高強度の運動後の不可逆的に酸化されたアルブミンのレベルに、対応する最小限の変化が観察された。
【0127】
病気中の酸化ストレス
急性副鼻腔炎に罹患していると考えられた1人の男性対象。試料はおよそ24時間離して午前中に採取された。
【0128】
図13は、病気の期間中の患者における可逆的に酸化されたアルブミン及び不可逆的に酸化されたアルブミンの両方の増加を示す。
【0129】
可逆的に酸化されたアルブミンのレベルに対する有酸素運動の効果
有酸素運動の程度が異なる2人の患者が運動プログラムを受けた。患者1は良好な有酸素運動をしていると分類され、患者2は不良な有酸素運動をしていると分類された。運動プログラムは、5kmのランニング、20分のサッカー5回、及び100mのスプリントで構成された。運動プログラムの開始前及びプログラムの完了時に患者から試料を採取した。
【0130】
図14は、運動前後の患者1における可逆的に酸化されたアルブミンのレベル間の最小の違いを示す。運動後の患者2では、可逆的に酸化されたアルブミンが大幅に増加した。
【0131】
筋肉損傷回復中の可逆的に酸化されたアルブミンのレベル
患者はテニスをしてふくらはぎの損傷が持続していた。患者は筋肉が非常に痛いと訴え、大幅な力の喪失を経験した。理学療法士は、筋肉損傷の診断を確認し、1~2週間の回復期間を推奨した。血液試料は、損傷の24時間後から開始して10日間にわたって定期的に患者から採取した。
【0132】
図15は、損傷後2日目の可逆的に酸化されたアルブミンの量のピークを示す。可逆的に酸化されたアルブミンの量の一定の減少が10日目まで観察された。プロファイルは、理学療法士の報告及び推奨と一致している。
【0133】
実施例4-キャピラリー電気泳動を使用してタンパク質の相対酸化レベルを測定する方法
1.材料/方法
(a)材料
全体を通して二重脱イオン(DDI)水を使用した。タンパク質分子量標準は、Bio-Rad(オーストラリア)から購入した。別段明記しない限り、全ての化学物質及び試薬はSigma-Aldrich(Castle Hill、オーストラリア)から入手した。ポリエチレングリコールマレイミド(malpeg),5000g/molは、JenKem Technology(米国)から購入した。
【0134】
(b)血液試料の調製及び保管
アルブミンチオール酸化の分析のために、血液9部を、DDI水中にpH7.4で希釈された、62.5mMのマルペグ、40mMのイミダゾール、及び154mMのNaClで構成されるトラッピング溶液1部を含有するKEDTAチューブ(MinicollectチューブKEDTA;Greiner Bio-One、オーストリア)に収集した。総血漿アルブミンの分析のために、トラッピング溶液なしで、追加の血液を第2のK3EDTAチューブに収集した。チューブを短時間ボルテックスし、次いで、遠心分離(3000g、10分間)し、血漿を収集した。トラッピング溶液を含まない血漿は直ちに液体窒素で凍結して-80℃で保存し、一方、トラッピング溶液を含む血漿は室温で20分間インキュベートした後、凍結して保存した。
【0135】
(c)血漿試料の調製及び保管
マルペグを含有するトラップされた血漿試料を37℃で撹拌しながら解凍し、2つの5μlのアリコートに分割した。
【0136】
試料は、以下のプロトコルを使用して調製した。
【0137】
試料1(トラップ)-5μlのトラップされた血漿(6.25mM PEG)を490μlのSDS/Tris緩衝液で希釈した。0.5uLの100uMシステイン(DDI HOで1/2に希釈した200mMストック)を添加した。次いで、試料を氷上に置くか、又は-80℃で保存する。
【0138】
試料2(トラップ及び還元)-5μlのトラップ血漿(6.25mM PEG)を5μlの20mM Lシステイン(DDI HOで1/10に希釈した200mMストック)に添加した。試料を30分間ボルテックスして、可逆的に酸化されたアルブミンを還元した。次いで、10μLの25mM 10K PEGを添加し、試料を15分間ボルテックスして、PEGをアルブミンに結合させた。3uLの100mMシステインを添加した。最後に、4.6μlの試料を95μlのSDS/Trisで希釈した。次いで、試料を氷上に置くか、又は-80℃で保存した。
【0139】
(e)LabChip Protein Expressプロトコルでのキャピラリー電気泳動
次いで、試料をLabChip GXIIに充填し、LabChip Protein Expressプロトコルを使用して、アルブミン濃度およそ0.023mg/mlで実行した。
【0140】
結果
図8Aは、未処理血漿試料中の総アルブミン(A)及び他の血液タンパク質(B)を示す。図8Bは、マルペグで処理された試料における酸化アルブミン(C)及び還元アルブミン(D)を示す。図8Cは、第1のマルペグ処理ステップ、還元ステップ(システインによる)、及び第2のマルペグ処理ステップを受けた試料における、不可逆的に酸化されたアルブミン(E)並びに可逆的に酸化及び還元されたアルブミン(F)を示す。
【0141】
参考文献
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