(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】電磁パルスにより誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
H02H 9/04 20060101AFI20230804BHJP
H02H 9/06 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H02H9/04 A
H02H9/06
(21)【出願番号】P 2020557140
(86)(22)【出願日】2019-01-09
(86)【国際出願番号】 US2019012819
(87)【国際公開番号】W WO2019139933
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-12-22
(32)【優先日】2019-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520248748
【氏名又は名称】カーティ、ティモシー エー.
(73)【特許権者】
【識別番号】520248759
【氏名又は名称】デヨ、ハロルド スタンレー、ジュニア
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】カーティ、ティモシー エー.
(72)【発明者】
【氏名】デヨ、ハロルド スタンレー、ジュニア
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-518023(JP,A)
【文献】特表2013-539336(JP,A)
【文献】特表2013-504297(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0231367(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0077270(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1171228(KR,B1)
【文献】中国特許出願公開第105243198(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H9/00-9/08
H02H7/00
H02H7/10-7/20
H02J3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核兵器爆発によって発生する電磁パルス(EMP)によって誘導される電気サージを抑制する方法であって、
E1成分のパルスによって電気系統に誘導された、E1の第1の所定の閾値レベルを超える第1の過電圧を検出する工程と、
前記第1の過電圧の検出
後1ナノ
秒以内に、金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第1の分路アセンブリを利用して、前記第1の過電圧
を分流して前記第1の過電圧のレベルをE1の第2の所定の閾値レベルに低減する工程と、
E2成分のパルスによって電気系統に誘導された、E2の第1の所定の閾値レベルを超える第2の過電圧を検出する工程と、
金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第2の分路アセンブリを利用して、前記第2の過電圧
を分流して前記第2の過電圧のレベルをE2の第2の所定の閾値レベルに低減する工程と、
E3成分のパルスによって電気系統に誘導された、E3の第1の所定の閾値レベルを超える第3の過電圧を検出する工程と、
金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第3の分路アセンブリを利用して、前記第3の過電圧
を分流して前記第3の過電圧のレベルをE3の第2の所定の閾値レベルに低減する工程と、
を有
し、
前記第1、第2、および第3の分路アセンブリの各々は、金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む群から選択される複数の分路装置を含むものであり、
前記第1、第2、および第3の分路アセンブリは、それぞれ異なる反応時間と異なる電圧とを有し、前記E1、E2、およびE3成分のパルスのうちの対応する1のパルスに対してそれぞれ反応するように動作可能なものである、
電気サージを抑制する方法。
【請求項2】
請求項1記載の電気サージを抑制する方法において、さらに、
各前記第1、第2、および第3の分路アセンブリに対する劣化を最小限に抑制して、各前記第1、第2、および第3の過電圧を分流する工程を有するものである、電気サージを抑制する方法。
【請求項3】
請求項1記載の電気サージを抑制する方法において、さらに、
前記分路アセンブリのそれぞれをブレーカーボックスに近接した場所に取り付けるように構成されたケースに取り付ける工程を有するものである、電気サージを抑制する方法。
【請求項4】
請求項1記載の電気サージを抑制する方法において、さらに、
外部の配電網を住居用電源ボックスに接続する工程を有し、
前記電気系統は第1および第2の電力線を有する単相電気系統であり、各電力線は中性線に対して120ボルトを有し、前記第1および第2の電力線は電力系統の上流かつ住居の下流において電気的に接続されているものである、
電気サージを抑制する方法。
【請求項5】
請求項
4記載の電気サージを抑制する方法において、
前記外部の配電網は変圧器を有するものであり、
前記住居用電源ボックスは電気の過電流を遮断するように動作可能な遮断器を有するものである、
電気サージを抑制する方法。
【請求項6】
請求項
5記載の電気サージを抑制する方法において、
前記電気系統は、前記遮断器と電気的に連通し、前記過電流のための接地経路として動作可能な接地線を含むものである、電気サージを抑制する方法。
【請求項7】
請求項1記載の電気サージを抑制する方法において、さらに、
外部の配電網を商業用電源ボックスに接続する工程を有し、
前記電気系統は第1、第2、および第3の電力線を有する三相電気系統であり、各電力線は中性線に対して120ボルトを有し、前記第1および第2の電力線は電力系統の上流かつ住居の下流において電気的に接続されているものである、
電気サージを抑制する方法。
【請求項8】
請求項
7記載の電気サージを抑制する方法において、
前記外部の配電網は変圧器を有するものであり、
前記商業用電源ボックスは電気の過電流を遮断するように動作可能な遮断器を有するものである、
電気サージを抑制する方法。
【請求項9】
請求項
8記載の電気サージを抑制する方法において、
前記電気系統は、前記遮断器と電気的に連通し、前記過電流のための接地経路として動作可能な接地線を含むものである、電気サージを抑制する方法。
【請求項10】
自然現象による電磁パルス(EMP)によって誘導される電気サージを抑制するサージ抑制システムであって、
金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第1の分路アセンブリであって、
E1成分のパルスによって電気系統に誘導された、E1の第1の所定の閾値レベルを超える第1の過電圧を検出するように動作可能であり、
前記第1の過電圧の検出
後1ナノ
秒以内に、前記第1の過電圧を分流して前記第1の過電圧のレベルをE1の第2の所定の閾値レベルに低減するように動作可能である、
前記第1の分路アセンブリと、
金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第2の分路アセンブリであって、
E2成分のパルスによって電気系統に誘導された、E2の第1の所定の閾値レベルを超える第2の過電圧を検出するように動作可能であり、
前記第2の過電圧を分流して前記第2の過電圧のレベルをE2の第2の所定の閾値レベルに低減するように動作可能である、
前記第2の分路アセンブリと、
金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む第3の分路アセンブリであって、
E3成分のパルスによって電気系統に誘導された、E3の第1の所定の閾値レベルを超える第3の過電圧を検出するように動作可能であり、
前記第3の過電圧を分流して前記第3の過電圧のレベルをE3の第2の所定の閾値レベルに低減するように動作可能である、
前記第3の分路アセンブリと、
を有
し、
前記第1、第2、および第3の分路アセンブリの各々は、金属酸化物バリスタ(MOV)と、ガス放電管と、その他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置と、その組み合わせとを含む群から選択される複数の分路装置を含むものであり、
前記第1、第2、および第3の分路アセンブリは、それぞれ異なる反応時間と異なる電圧とを有し、前記E1、E2、およびE3成分のパルスのうちの対応する1のパルスに対してそれぞれ反応するように動作可能なものである、
サージ抑制システム。
【請求項11】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、
前記第2の分路アセンブリは、前記第2の過電圧の検出
後1マイクロ
秒以内に、前記第2の過電圧を分流するように動作可能であり、
前記第3の分路アセンブリは、前記第3の過電圧の検出
後1秒以内に、前記第3の過電圧を分流するように動作可能である、
サージ抑制システム。
【請求項12】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記第1の分路アセンブリ、前記第2の分路アセンブリ、および前記第3の分路アセンブリはそれぞれ、前記E1、E2、およびE3成分のパルスのタイミングに同時に反応するように動作可能である、サージ抑制システム。
【請求項13】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記第1の分路アセンブリ、前記第2の分路アセンブリ、および前記第3の分路アセンブリはそれぞれ、他の任意の分路アセンブリに対する劣化を最小限に抑制して、前記第1、第2、および第3の過電圧を分流するように動作可能である、サージ抑制システム。
【請求項14】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記第1の分路アセンブリ、前記第2の分路アセンブリ、および前記第3の分路アセンブリは、ブレーカーボックスに近接した場所に取り付けるように構成されたケースに取り付けられるものである、サージ抑制システム。
【請求項15】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記電気系統は中性線に対して240ボルトを有する単一の電力線を備える欧州連合型単相電気系統であり、前記単一の電力線は電力系統の上流かつ住居の下流において電気的に接続されているものである、サージ抑制システム。
【請求項16】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、
前記電気系統は第1、第2、および第3の電力線を有する277/480ボルトの三相電気系統であり、各電力線は中性線に対して277ボルトを有し、前記第1、第2、および第3の電力線は電力系統の上流かつビル内のブレーカーボックスの下流において電気的に接続されているものである、
サージ抑制システム。
【請求項17】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記電気系統は無線システムであり、前記第1、第2、および第3の分路アセンブリは、当該無線システムに関連するアンテナおよび同軸ケーブルの上流に取り付けられているものである、サージ抑制システム。
【請求項18】
請求項
10記載のサージ抑制システムにおいて、前記電気系統は第1、第2、および第3の電力線を有する240/400ボルトの欧州連合型三相電気系統であり、各電力線は中性線に対して240ボルトを有し、前記第1、第2、および第3の電力線は電力系統の上流かつビル内のブレーカーボックスの下流において電気的に接続されているものである、サージ抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本特許出願は、「System and Method For Suppressing Electromagnetic Pulse-Induced Electrical System Surges(電磁パルスにより誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法)」と題する、2018年1月9日付で出願された米国特許仮出願第62/615,159号に対して優先権を主張する、「System and Method For Suppressing Electromagnetic Pulse-Induced Electrical System Surges(電磁パルスにより誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法)」と題する、2019年1月7日付で出願された米国特許本出願第16/240,897号に対して優先権を主張するものであり、両出願は、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
電磁パルスまたはEMPは、通常、自然現象または人工的活動によって生成される、短時間の電磁放射バーストとして特徴付けることができる。但し、一般的に「EMP」という用語は、核兵器爆発に伴って発生する電磁放射バーストを説明する際に特に用いられる。したがって、本明細書では、「EMP」という用語は、核兵器または非核兵器を用いたEMP兵器などの兵器によって発生する電磁パルスを指すものとする。
【0003】
このような兵器によるEMPは、広域配電網の電気系統や住宅、商業用ビルの電気系統、さらに、車両の電気系統に、電圧および対応する電流を誘導可能である。そのような不必要な電流は、防止、若しくは抑制されない限り、影響を受けた電気系統内のコンポーネントを破損または破壊する可能性があり、それによって電気系統の動作が低減するか、若しくは往々にして修理が行われない限り電気系統が使用不能となる。また、大規模な太陽現象によって同様の電気的大災害が起きる可能性があると考えられている。例えばコロナガスの噴出は、太陽による超高温プラズマの噴出であり、これによって太陽系に亘って荷電粒子が噴出されて電力系統に過電流が誘導され、その結果変圧器が過熱されて電力系統内で大規模な停電が起きる可能性がある。
【0004】
当該技術分野において電気系統用のサージ抑制器が公知であるが、これらのサージ抑制器は、通常、落雷または電気系統の障害(例えば、配電網内の変圧器の障害または電力線に亘って発生した短絡)などの一般的に起きる現象によって発生した、比較的短時間のサージに対する使用のみに最適化されるようになっている。しかしながら、これらの公知のサージ抑制器は、兵器により誘導されたEMPパルスよって発生または生成された複合多重サージに対しては効果がない。
【0005】
一般的な現象に関連した電磁放射または電磁パルスとは異なり、核兵器によって発生する電磁パルスは異なる持続時間の多重パルスからなるため、より正確には、国際電気標準会議(IEC)よってE1、E2、およびE3として定義された3つの主成分の観点から通常説明される、複合多重電磁パルスと考えられる。
【0006】
このように、E1、E2、およびE3の成分からなるEMPパルスの複合性のため、当該技術分野において、核兵器爆発で広がったEMPにより発生する電気サージを抑制するための改良されたシステムおよび方法が必要とされている。したがって、核兵器爆発によって発生する、複合多重電磁パルスのE1、E2、およびE3成分により誘導される電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法を有することが望ましい。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 米国特許出願公開第2016/0126738号明細書
(特許文献2) 米国特許出願公開第2010/0127625号明細書
(特許文献3) 米国特許第6,847,514号明細書
(特許文献4) 欧州特許第2244353号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、以下の特許請求の範囲によって定義されるものであり、本発明の概要によって定義されるものではない。本開示の概要を提供し、かつ以下の詳細な説明の項においてさらに説明する概念の一部を導入するために、本概要では、本発明の様々な観点についての上位概念の概要を提供する。本概要は、特許請求の範囲に記載された内容における重要な技術的特徴または必須の技術的特徴を特定することを意図したものではなく、また、特許請求の範囲における記載内容の範囲を決定する上での補助手段として単独で利用されることを意図したものでもない。端的に言えば、本開示では特に、核兵器爆発によって発生する複合多重電磁放射パルスのE1、E2、およびE3成分によって誘導される電気サージを抑制するシステムおよび方法について説明する。
【0008】
1観点において、電磁パルスにより誘導された電気系統のサージを抑制する方法は、電気系統における複数の電力線間に配置され、これらの電力線と電気的に連通する複数の分路(shunts)を有するものであり、所定のレベルを超える電力線間の電圧差は、複数の分路のうちの少なくとも1つによって分流され、これによって電圧差が所望のレベルを超えることを防ぐ。
【0009】
別の観点において、複数の分路の反応時間と許容可能な差動電圧レベルが選択されて組み合わされることにより、核兵器爆発によって発生する複合多重EMPパルスのE1、E2、およびE3成分に反応するための適切な反応時間および保護レベルが実現される。
【0010】
さらに別の観点において、前記システムおよび前記方法は、電気系統の電力線における電力線間、電力線と中性線との間、中性線と接地との間、および電力線と接地との間の配置構成を保護するとともに、それらの組み合わせおよびそれらの副次的組み合わせを保護する。
【0011】
代替実施形態において、本発明のシステムおよび方法は、地上型単相電気系統および三相電気系統を保護するように構成され、さらなる代替実施形態において、システムおよび方法は、自動車、トラック、機関車、ボート、および航空機などの乗り物の電気系統、および基板に実装された電気系統を採用する乗り物の電気系統で利用されるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下、添付の図面を参照して本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する。
【
図1】
図1は、先行技術の例示的な単相電気系統の概略図である。
【
図2】
図2は、先行技術の例示的な三相電気系統の概略図である。
【
図3】
図3は、例示的なEMPパルスのE1成分を表すタイミング図である。
【
図4】
図4は、例示的なEMPパルスのE2成分を表すタイミング図である。
【
図5】
図5は、例示的なEMPパルスのE3成分を表すタイミング図である。
【
図6】
図6は、典型的な単相電気系統で使用する本発明のシステムおよび方法の例示的な実施形態の概略図である。
【
図7】
図7は、典型的な三相電気系統で使用する本発明のシステムおよび方法の例示的な実施形態の概略図である。
【
図8】
図8は、典型的な単相電気系統で使用する、ケースに収容された本発明のシステムの1実施形態の概略図である。
【
図9】
図9は、典型的な三相電気系統で使用する、ケースに収容された本発明のシステムの1実施形態の概略図である。
【
図10】
図10は、本発明に基づいたシステムの動作を図示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書では、法定要件を満たすために本発明の特定の実施形態の内容について具体的に記載するが、当該記載自体は特許請求の範囲を必ずしも限定することを意図するものではない。むしろ、特許請求の範囲の内容は、現在または将来の技術とともに、本明細書に記載する構成要素、工程、またはその組み合わせに類似する他の構成要素、工程、またはその組み合わせを含む他の態様で実施されてもよい。各工程の順序が明示されていない限り、本明細書の用語によって本明細書に開示されている様々な工程間の特定の順序が暗示されていると解釈ずべきではない。本明細書で使用する、「約(about)」、「約(approximately)」という用語、または他の近似値を示す用語は、変化による厳密値からの偏差を表すものであるか、若しくは機能的に重要ではない偏差を表わすものである。
【0014】
上述したように、核兵器爆発によって発生する電磁パルスは異なる持続時間の多重パルスからなるため、より正確には、国際電気標準会議(IEC)よってE1、E2、およびE3として定義された3つの主成分の観点から通常説明される、複合多重電磁パルスと考えられる。
【0015】
複合多重電磁パルスのE1成分は、核爆発によって発生したガンマ線より、高層大気中において原子から電子がはじき出されたときに発生する。電子は、相対論的速度(すなわち、光速の90%よりも早い速度)で略下方向に移動し始める。磁場が存在しない場合、変位電子は高層大気中において垂直方向の大電流パルスを影響を受けた地域全体に亘って発生させることとなる。しかしながら、地球磁場が電子に作用するため、地磁気に対して直角に電子流の方向が変化する。そして、この地球磁場と下方向の電子流の相互作用により、影響を受けた地域に亘って大パルスであるが、持続時間が非常に短い電磁パルスが発生する。
【0016】
成層圏の中間地帯でガンマ線により原子から電子がはじき出される過程において、この中間地帯はイオン化されて導電体となり、このイオン化によりさらなる電磁信号の生成が阻止され、磁場強度が約50,000ボルト毎メートルで飽和状態になる。E1の強度は、兵器によって発生するガンマ線の数と強度に依存する。E1の強度はまた、比較的依存性は低いが、核兵器が爆発する高度にも依存する。
【0017】
超高速で移動する負荷電の電子と磁場の相互作用により、短時間の間、高強度パルスの電磁エネルギーが放射される。このパルスは通常、約5ナノ秒内にピークの大きさに達し、200ナノ秒内にピーク値の半分の値に減衰する。IECの定義によると、E1パルスは、発生時から1マイクロ秒以内に終止する。
【0018】
このように、E1成分は、導電体に非常に高い電圧を誘導可能、かつ持続時間が短い高強度電磁パルスである。当該パルスによって誘導された高電圧は、コンピュータおよび通信機器等で使用される一般的な電気系統のコンポーネントの耐電圧を超えるものであり、それによってコンポーネントが劣化および/または破壊される。E1成分のパルスは非常に高速で発生するため、最も一般的に入手可能な落雷用サージ保護装置では、E1パルスによって電気系統に誘導されたサージを抑制することはできない。
【0019】
複合多重パルスのE2成分は、核兵器によって放射された中性子から発生する散乱ガンマ線および非弾性ガンマ線により発生する。E2成分は中間持続時間を有するパルスであり、IECの定義によると、電磁パルスの発生時から約1マイクロ秒~1秒持続する。E2成分のパルスは、電光によって発生する電磁パルスに多くの点で類似しているが、非常に近接した落雷によって誘導される電磁パルスは核兵器によるEMPのE2成分よりも大幅に大きい可能性がある。
【0020】
E2パルスは、電光によって発生するパルスとの類似性および落雷保護技術の広範な普及のため、最も防護し易いと考えられている。しかしながら、核兵器によって発生するEMPは、複合多重パルス(すなわち、E1、E2、およびE3)を有するものであるため、E2成分における潜在的な最大の問題点は、落雷によって発生するサージからの防護を目的とし、潜在的にE2成分のパルスからの防護を可能とする全て装置を破損する可能性が高いE1成分の直後に発生するという事実にある。E2成分のパルスに言及する米国EMP委員会の2004年執行部報告書に記述されているように、「一般的に、重要な基盤システムは偶発的な落雷に対する防護のための既存の保護手段を装備しているため、問題とはならないが、E2成分は、保護機能および制御機能の多くを故障若しくは破壊する威力を持つ第1の成分による障害が起こった一瞬後に発生するものであるため、最も重大な危険性はその相乗作用にある。すなわち、この第2の成分によって発生したエネルギーはシステムを通過して破損する可能性がある。」
複合多重パルスのE3成分は、核爆発によって発生し、数十秒から数百秒持続する非常に低速なパルスであり、地球磁場の変動を起こすが、続いて磁場は元の状態に回復する。E3成分は、非常に激しい太陽コロナ質量放出(CME)によって引き起こされる磁気嵐、または恒星ガンマ線のバースト源、超新星、極超新星、および中性子星の衝突による恒星誘導型EMPによって引き起こされる磁気嵐と類似している。磁気嵐と同様に、E3パルスは、地磁気によって誘導された電流を長い導電体に発生させる場合があり、これにより、電力線用変圧器などのコンポーネントを破損または破壊する可能性がある。E3により誘導された電流は持続時間が長く、持続時間が短いパルスというよりもむしろ、電池からの直流に類似しているため、疑似直流(DC)電流と呼ばれることが多い。E3によって最新システムにおいて生じる破損は、ほとんどの場合、通常直流を処理するように設計されていないAC電力系統に起こり、特に、AC配電系統において遍在する電力変圧器などの重要な装置において起こる。
【0021】
ここでまず
図1を参照すると、参照番号10は、住宅または住居のための電気系統などの、先行技術における典型的な単相電気系統の概略図を示す。電気系統は、外部配電網から住宅に電力を供給する3つの電力線12、14、16を有する。住宅に供給される電力は通常、電柱または地面などに設置された近傍の変圧器から取り込まれる。住宅に引き込まれる電力線12、14、16は通常、それぞれ(中性線に対して)約120ボルトの電位で交流電流を流す電力線(12、16)と、約0ボルトの電位を有する中性線(14)とを含む。このような電気系統を通常120/240ボルト系統と呼び、また2つの電力線12、16はL1、L2と呼ばれ、それぞれ中性線に対して120ボルトを提供し、互いに対して240ボルトを提供する。このように、前記電気系統は住宅に対して、120ボルトの2つの「脚」を提供、若しくはL1、L2の電力線間で取り込まれた240ボルトを提供する。
【0022】
外部変圧器からの電力線12、16は通常、住宅内に設置されたブレーカーボックス18に引き込まれ、さらに下流での過電流を防護するとともに、住宅所有者または修理工による電力の遮断を可能とする主回路遮断器(または遮断器)20a、20bに接続されている。電力は通常、この主回路遮断器20a、20bからさらなる一連の回路遮断器に配電され、この一連の回路遮断器は、照明、電化製品などに供給するための電力が配電される、住宅内の電気回路を画定する。
【0023】
埋め込まれた導電棒または埋め込まれた導電水道管などの、接地に設けられた接地線22は、同様にブレーカーボックス内に引き込まれ、当該ブレーカーボックス内で利用可能な接地経路を提供する。接地線は通常、L1、L2、および中性線12、14、16のように外部配電網から提供されるものではない。地域の建築基準法および住宅における所望の電気系統の構成に応じて、接地線は多くの場合、ブレーカーボックス内の中性線に接続されるため、ブレーカーボックス内における名目上の接地電位である。
【0024】
図2を参照すると、参照番号50は、商業用ビルのための電気系統などの、先行技術における典型的な三相電気系統の概略図を示す。電気系統は、外部配電網から商業用ビルに電力を供給する4つの電力線52、54、56、58を有する。このようなビルに供給される電力は通常、電柱または地面などに設置された近傍の変圧器から取り込まれる。ビルに引き込まれる電力線52、54、56、58は通常、それぞれ(中性線に対して)約120ボルトの電位で交流電流を流す電力線(52、54、56)と、約0ボルトの電位を有する中性線(58)とを含む。このような電気系統を通常208ボルト三相系統と呼び、また3つの電力線52、54、56はP1、P2、P3または位相1、位相2、位相3と呼ばれる。ここで各位相における電流は先行および後続する位相に対してそれぞれ120度ずつ位相がずれているため、それぞれの位相間において測定される電圧は208ボルトとなる。
【0025】
単相系統と同様に、外部変圧器からの三相系統電力線52、54、56、58は通常、ビル内に設置されたブレーカーボックス60に引き込まれ、さらに下流での過電流を防護するとともに、修理工による電力の遮断を可能とする主回路遮断器(または遮断器)62a、62b、62cに接続されている。電力は通常、この主回路遮断器62a、62b、62cからさらなる一連の回路遮断器に配電され、この一連の回路遮断器は、照明、電化製品などに供給するための電力が配電される、ビル内の電気回路を画定する。
【0026】
埋め込まれた導電棒または埋め込まれた導電水道管などの、接地に設けられた接地線64は、同様にブレーカーボックス内に引き込まれ、当該ブレーカーボックス内において接地経路を提供する。接地線は通常、L1、L2、L3および中性線52、54、56、58のように外部配電網から提供されるものではない。地域の建築基準法およびビルにおける所望の電気系統の構成に応じて、接地線は多くの場合、ブレーカーボックス内の中性線に接続されるため、ブレーカーボックス内における名目上の接地電位である。
【0027】
上述したように、住宅および商業用ビルにおける典型的な地上型単相電気系統および三相電気系統は、相互接続された何マイルにも延びる電線と、広範囲な地域に亘って電力を配電する変圧器とを有する電力系統から配電される電力を受け取るが、この電力系統では、送電線および電線は電柱間に張り巡らされるか、若しくは地面の浅い場所に埋め込まれる。電力系統が広域に亘ることにより、当該電力系統の任意の場所の近接地で爆発した核兵器により発生する誘導電圧および/または誘導電流の影響を特に受けやすくなり、また核兵器によるEMPのE1、E2、およびE3成分によって誘導された外乱が広がりやすくなる。
【0028】
図3~5を参照すると、核兵器爆発によって発生する複合多重パルスEMPのE1、E2、およびE3成分の大きさ(magnitude)およびタイミングを表す図が示されている。当業者であれば、これらのタイミング図では、対数目盛を用いて経過時間(x軸)が示されていることが明らかであると考えられる。また、これらのタイミング図における大きさ(y軸)は絶対値ではなく、所定の基準または測定点からの電磁エネルギーの値を表すことを理解されたい。例えば、以下、E1、E2、およびE3成分に関連して説明するピークの大きさは、核兵器爆発地点を基準とした任意の場所で測定された最大の大きさを指すものであり、異なる場所で測定されたピーク値は、爆発地点からの距離を含む様々な要因に依存して、より大きくまたはより小さくなる可能性がある。また、任意の測定地における絶対ピーク値とは関係なく、パルス形状およびタイミングは任意の測定地において実質的に同一であることを理解されたい。さらに、EMPによって電力系統および/または電気系統に誘導される電圧は、電力系統に誘導される電磁エネルギーに比例するため、誘導電圧のタイミング図におけるタイミングおよび形状は、電磁エネルギー図におけるタイミングおよび形状と実質的に同一であることについても理解されたい。
【0029】
まず最初に
図3を参照すると、上記で説明したように、E1成分のパルスは、持続時間が短い高強度パルスエネルギーであり、参照番号100によって示されている。図に示すように、パルスは約5ナノ秒以内にピークの大きさ102に達し、200ナノ秒内にピーク値104の半分の値に減衰する。IECの定義によると、E1パルスは、発生時から1000ナノ秒(すなわち、1マイクロ秒)以内に終止106する。
【0030】
次に
図4を参照すると、上記で説明したように、E2成分は中間持続時間を有するパルス110であり、電磁パルスの発生時から約1マイクロ秒でピーク112に達し、その持続時間は通常1秒未満である。上記で説明したように、パルス110のE2成分は、近接した落雷によって発生するパルスに類似しており、(E1成分と比べると)比較的立上り時間が遅く、(約1秒以下の)中間持続時間を有する。
【0031】
最後に
図5を参照すると、E3成分のパルス120はピークの大きさ122に達する非常に低速のパルスであり、数十秒から数百秒持続する。
【0032】
図3~5のE1、E2、およびE3成分のタイミング図において明らかなように、核兵器爆発によって発生する、EMPの複合多重電磁パルスは、公知のサージ抑制装置によっては完全に抑制することができない、異なるタイミング特性を有する多重パルスを呈するものである。
【0033】
図6を参照すると、参照番号200は、核兵器爆発によって発生するEMPを抑制するシステムを図示し、このシステムが上記で
図1に関連して説明した典型的な単相電気系統に接続されていることを示す。
【0034】
システム200は、様々な組み合わせの電力線間に接続された複数の分路(shunts)を有する。分路202はL1(210)と中性線(212)との間に接続され、分路204はL2(214)と中性線(212)との間に接続され、分路206はL1(210)とL2(214)との間に接続され、分路208は中性線(212)と接地(216)との間に接続される。また、分路205はL2(214)と接地(216)との間に接続され、分路207はL1(210)と接地(216)との間に接続される。システム200は、上述した単相電気系統で通常使用されるブレーカーボックス内またはその近傍に実装されるのが好ましい。
【0035】
各分路202、204、205、206、207、208は、金属酸化物バリスタ(MOV)、ガス放電管、これらの組み合わせ、およびその他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置などの複数の分路装置を有する。各分路202、204、205、206、207、208は、異なる反応時間および電圧を有し、EMPパルスのE1、E2、およびE3の1若しくはそれ以上に対して反応するように構成されかつ動作可能な分路装置、および/または分路装置の組み合わせを有することが最も好ましい。
【0036】
例えば、各分路202、204、205、206、207、208は、E1成分のパルス特性を有する過電圧パルスに反応して分流するように構成された、MOV、ガス放電管、またはその他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、またはその他の分路コンポーネントの組み合わせを含むことが好ましく、また、E2成分のパルス特性を有する過電圧パルスに反応して分流するように構成された、MOV、ガス放電管、またはその他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置、またはその他の分路コンポーネントの組み合わせを含むことが好ましく、また、E3成分のパルス特性を有する過電圧パルスに反応して分流するように構成された、MOV、ガス放電管、またはその他の機械的放電装置、放電装置、および電離放電装置、またはその他の分路コンポーネントの組み合わせを含むことが好ましい。MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントは、電力線間、コモンモード、電力線と中性線との間、電力線と接地との間における過電圧事象を検出しそのような電圧事象に対する保護を提供することが好ましい。例示的な1実施形態において、前記装置は、さらに、中性線と接地との間の過電圧に対する保護を提供しこの過電圧を分流するように構成されている。
【0037】
実施例について引き続き説明すると、各分路は、E1、E2、およびE3成分のパルスの各々を分流し、
図3~5に示すパルスのタイミングに反応するように動作可能であるMOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントの組み合わせを有する。MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントの構成は、軍用規格MIL-STD-188-125-1に準拠して過電圧を検出および分流することが可能な定格および特性を有することが最も好ましい。また、MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、またはその他の分路コンポーネントは、多数の分流事象の発生後においてもシステム200の電気系統の保護機能を維持できるように、劣化を最小限に抑えてE1、E2、およびE3成分を分流する定格を有することが好ましい。
【0038】
例示的な1実施形態において、システム200のコンポーネント(すなわち、MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネント)および当該コンポーネントに関連したその他任意の回路および配線はプリント回路基板上に組み立てられてケースに収容され、またこのケースは、
図8に示すように、電力線が電力系統から住宅またはビルに引き込まれるブレーカーボックスに近接した位置に取付られる。さらなる実施形態において、システム200および当該システムに関連した回路および配線は、エポキシ樹脂などのポッティング材により注封される。
【0039】
上記でシステム200として説明したシステムは、50Hz、240ボルトで動作する欧州連合共通の単相給電装置の保護を支援するために適用されてもよい。米国(US)と欧州連合(EU)における単相給電装置の主な相違点は、米国型が接地を基準として120ボルトの電位をそれぞれ有する2つの入力電力供給線(L1およびL2)を備えるのに対し、欧州連合型は接地を基準として240ボルトの電位を有する1つの入力電力供給線を有することにある。さらに、米国型の給電装置は60ヘルツ(Hz)で動作するのに対し、欧州連合型システムは50Hzで動作する。上記で説明したシステムを、欧州連合型の単相給電装置を利用する住宅および企業を保護するために再構成することは、当業者であれば容易に達成できる事項である。本実施形態は、電力線と中性線、電力線と接地、中性線と接地との間における過電圧/過電流を検出し、過電圧/過電流に対する保護を提供する。
【0040】
図7を参照すると、
図6に関連して上述したシステム200と類似する、核兵器爆発によって発生するEMPを抑制するシステム300が、
図2に関連して上述した典型的な三相電気系統に接続されていることを示す。
【0041】
システム300は、単相電気系統について上記で説明した分路と同様の態様で、様々な組み合わせの電力線間(および接地および中性線)に接続された複数の分路302、304、305、306、307、308、309、310、および312を有する。また、上述したように、各分路は、金属酸化物バリスタ(MOV)、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、およびこれらの組み合わせなどを含む複数の分路装置を有し、各分路は、異なる反応時間および電圧を有し、EMPパルスのE1、E2、およびE3の1若しくはそれ以上に対して反応するように構成されかつ動作可能な分路装置、および/または分路装置の組み合わせを含む。
【0042】
上述したシステム300と実質的に同様に、米国型277/480ボルトの三相給電装置の保護を支援するために、閾値およびコンポーネントの構成を変更してもよい。当該システムは、上記システム300と同一に見えるが、上記のシステム300における120/208の動作電圧とは異なる、より高電圧である277/480ボルトの動作電圧を支援する過電圧閾値および過電流閾値を有する。この変更実施形態におけるシステム300は、電力線間、電力線と中性線、電力線と接地、中性線と接地との間における過電圧/過電流を検出し、過電圧/過電流に対する保護を提供する。
【0043】
上述したシステム300と実質的に同様に、50Hz、400ボルトで動作する欧州連合共通の三相給電装置の保護を支援するために、閾値およびコンポーネントの構成を変更してもよい。当該システムは、上記システム300と同一に見えるが、上記のシステム300における120/208の動作電圧とは異なる、より高電圧である240/400の動作電圧を支援する過電圧閾値および過電流閾値を有する。この変更実施形態におけるシステム300は、電力線間、電力線と中性線、電力線と接地、中性線と接地との間における過電圧/過電流を検出し、過電圧/過電流に対する保護を提供する。
【0044】
同様に、各分路は、E1、E2、およびE3成分のパルスの各々を分流し、
図3~5に示すパルスのタイミングに反応するように動作可能であるMOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントの組み合わせを有する。MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントの構成は、軍用規格MIL-STD-188-125-1に準拠して過電圧を検出および分流することが可能な定格および特性を有することが最も好ましい。
【0045】
例示的な1実施形態において、システム300のコンポーネント(すなわち、MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネント)および当該コンポーネントに関連したその他任意の回路および配線はプリント回路基板上に組み立てられてケースに収容され、またこのケースは、
図9に示すように、電力線が電力系統から住宅またはビルに引き込まれるブレーカーボックスに近接した位置に取付られる。さらなる実施形態において、システム300および当該システムに関連した回路および配線は、エポキシ樹脂などのポッティング材により注封される。
【0046】
使用時において、上記のシステム200、300は、以下のように(E1、E2、およびE3成分のパルスを有する)EMPパルスを抑制するように動作可能である。複数の電力線のいずれか1つにおいて、E1の第1の所定の閾値を超える過電圧の検出後ナノ秒未満以内に、1若しくはそれ以上のMOV、1若しくはそれ以上のガス放電管、またはその他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、またはその組み合わせを利用して、過電圧を中性線または接地に分流して電圧レベルの大きさをE1の第2の所定の閾値よりも低いレベルに低減する。持続時間が短いE1成分のパルスの検出および分流と同時に、E2の第1の所定の閾値を超える、中間持続時間のE2成分のパルスを検出後マイクロ秒以内に、MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントを利用して第2の過電圧を分流し、E2の第2の所定の閾値よりも低いレベルに低減する。それと同時にシステムは、E3の第1の所定の閾値を超える、持続時間が長いE3成分のパルスを検出後約1秒以内に、MOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントを利用して第3の過電圧を分流し、E3の第2の所定の閾値レベルに低減する。
【0047】
例示的な1実施形態において、E1、E2、およびE3成分のそれぞれを検出および分流するために利用されるMOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントは分離されており、また、他の例示的な1実施形態において、E1、E2、およびE3成分を検出および分流するために利用されるMOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントは、少なくとも部分的に共通性があり、1若しくはそれ以上のMOV、ガス放電管、その他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置、および/またはその他の分路コンポーネントは、1若しくはそれ以上のE1、E2、およびE3成分の事象を検出および分流するために利用される。
【0048】
別の観点において、大気中の電位が電力系統の配線に過電圧を発生させ、その過電圧がアーク放電を発生させるほど十分高い場合、上記で説明したシステムおよび方法は、破損が生じない方法で、過電圧を接地に分流するように動作可能なアークギャップ技術(arc-gap technology)を含んでもよい。この場合、破損が生じない方法で過電圧が接地に対して確実に分流されるように、アークギャップ技術は、調整された間隔をおいて実施される。
【0049】
使用時において、電磁パルスにより誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法は、電力系統および電力系統のコンポーネント(すなわち、変圧器、変電所、配線、絶縁体、および関連するハードウェア)を保護するために利用することができる。最初に、本明細書に記載の分路装置は、各ヒューズの電源側に配置および実装され、各分路装置は、金属酸化物バリスタ(MOV)、ガス放電管、およびその他の機械的放電装置、放電装置、電離放電装置を含む。システムは、所定のレベルを超える電圧サージまたは過電流状態を検知した際、この過電圧または過電流状態をヒューズ(すなわち、遮断器をトリップさせること、ヒューズを溶断すること、若しくは電流を接地側に流すこと)を介して回避するように動作可能である。これにより、変圧器または変電所は電力系統から隔離されれるとともに、「アンテナ(すなわち、電力系統の配線)」から隔離されるため、潜在的な電流が変圧器または変電所に流れることが阻止され、変圧器または変電所内の発熱量の増大が排除されて、変圧器または変電所自体に対する障害が排除または低減される。
【0050】
本明細書で説明する、分路アセンブリ(shunting assemblies)が電気系統を保護するために実装される複数の場所については、
図10に示すブロック図を参照することにより最もよく理解される。電気は、発電所、原子力発電所、水力発電所などの発電所400によって生成される。次に、生成された電気は、山頂を超えてカナダから米国に亘って延びる長距離かつ太い電力線などの、長距離かつ国境を横断する送電線402を介して送電される。本明細書に記載する分路装置は、送電線402を電磁パルスから隔離するために送電線402の上流に実装されてもよく、これは第1段階保護404と呼ばれる。次に、送電された電気の電圧は、各変電所403で低減され、送電された電気は分離されて各地域に向けて送られる。本発明の分路装置をこれらの各変電所403の上流に実装することを第2段階保護405と呼ぶ。
【0051】
次に、電気は、地方自治体(すなわち、市町)の電柱406間に見られる電線などの、地域の電力系統を通して送電されっる。このレベルに本発明を実装することを第3段階保護407と呼ぶ。最後に、電圧はさらに低減され、変圧器を介して住居または商業施設などの顧客施設408に供給される。上記で説明した分路装置は、住居またはビルに隣接またはその内部にある各メーターまたは電源ボックスの上流に実装される。このような保護は第4段階保護409として知られている。
【0052】
初期段階の発電所から下流のすべてのエンドユーザまでに亘り、各変圧器または変電所におけるヒューズに対して上記で説明したシステムおよび装置を実装することで、電力系統を構成するために利用される変圧器および変電所の全てを当該電力系統を構成する配線から隔離することが可能となる。換言すれば、電気を使用する住居、企業、または施設のすべてが上記で説明したシステムが利用することで、これらの場所を破損および機能障害を引き起こすサージ(すなわち、E1、E2、およびE3成分のスパイク)、およびエンドユーザーの施設に対しする送り配線やエンドユーザーの施設内の配線によって発生するいかなる後続のサージからも保護することが可能となる。
【0053】
したがって、本発明のシステムおよび方法は、核兵器爆発によって誘導された電気サージおよび過電圧、さらにその爆発に伴って発生するE1、E2、およびE3の複合多重パルスを抑制するのに好適である。上記で説明したシステムおよび方法と以下に記載する特許請求の範囲は、太陽嵐によって誘導された電磁パルスを分流するために実質的に同様な態様で機能する。例えば、コロナガスの噴出は、太陽による超高温プラズマの噴出であり、これによって太陽系に亘って荷電粒子が噴出されて電力系統に電流が誘導され、その結果変圧器が圧倒されて電力系統内で大規模な停電が起きる可能性がある。
【0054】
さらに、電磁パルスによって誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法は、上記で説明した態様と実質的に同様な態様で無線システムを、当該無線システムのアンテナおよび配線に誘導された過電圧/過電流から保護するために利用できる。具体的には、このアプリケーションは、無線信号と同期するように実装され、無線システムの正常な電力供給設定における所定の閾値を超える過電圧/過電流を分流する。本システムは、高周波(HF)、超高周波(VHF)、および極超高周波(UHF)無線システム用の無線周波通信装置、アンテナ、および同軸ケーブルのすべてに適用可能である。
【0055】
同様に、電磁パルスによって誘導された電気系統のサージを抑制するシステムおよび方法は、データシステム、イーサネット(登録商標)、RS-485、RS-422、RS-232、および低電圧制御システムを保護するために利用可能である。明確化のために言うと、以下の特許請求の範囲で言及する「電気系統」とは、米国型、欧州型、軍事用に構成された電気系統を指し、無線信号、計算、データ転送などに関連する場合がある。さらに、本システムおよび方法は、DC電気系統(すなわち、電池を含むもの)を保護するために利用されてもよい。すべての実施例において分路アセンブリは、上記で説明した電磁パルスから保護されるべき電気系統の上流に実装される。
【0056】
記載および図示したシステムとともに図示しない構成要素および特徴について、以下の特許請求項の範囲から逸脱することなく様々な配置および構成が可能である。同様に、記載された方法における工程の順番を変更すること、および工程の組み合わせを変更することは本発明の範囲内である。本技術の実施形態は、限定することを意図するものではなく、例示することを意図している。本開示を一読後、または一読することによって代替実施形態は自明であると考えられる。以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、代替手段によって上記発明を実施することが達成可能である。本開示および以下の特許請求の範囲において特定の機能を実行するように構成された構造についての特定事項は、本開示の範囲内であるとともに、当業者によって容易に特定され、また特定の機能を同様の態様で実行することが可能な構造、配置、およびそれらの設計を包含することを意図している。特定の技術的特徴および副次的組み合わせが利用可能であり、他の技術的特徴および副次的組み合わせに言及することなく採用されてもよい。また、これらは特許請求項の範囲内であると考えられる。
【0057】
本明細書では、法定要件を満たすために本発明の特定の実施形態の内容について具体的に記載してきたが、当該記載自体は特許請求の範囲を必ずしも限定することを意図するものではない。むしろ、特許請求の範囲の内容は、現在または将来の技術とともに、本明細書に記載する構成要素、工程、またはその組み合わせに類似する他の構成要素、工程、またはその組み合わせを含む他の態様で実施されてもよい。各工程の順序が明示されていない限り、本明細書の用語によって本明細書に開示されている様々な工程間の特定の順序が暗示されていると解釈ずべきではない。