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  • 特許-飲料及び飲料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】飲料及び飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20230804BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230804BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230804BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20230804BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20230804BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230804BHJP
   A23L 11/65 20210101ALI20230804BHJP
   A23C 9/00 20060101ALI20230804BHJP
   A23F 3/16 20060101ALI20230804BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
A23L2/00 F
A23L33/10
A23L33/105
A23L2/52 101
A23L2/02 A
A23L2/02 E
C12G3/04
A23L2/00 T
A23L11/65
A23C9/00
A23F3/16
A23F5/24
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020559170
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019046985
(87)【国際公開番号】W WO2020116383
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018229130
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】富貴澤 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】高木 理沙
(72)【発明者】
【氏名】秦 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】吉井 孝彰
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0121040(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0254063(US,A1)
【文献】A. GATICA-ARIAS et al.,Flavonoid production in transgenic hop (Humulus lupulus L.) altered by PAP1/MYB75 from Arabidopsis thaliana L.,Plant Cell Reports,2011年09月13日,Vol. 31, No. 1,pp. 111-119,DOI: 10.1007/s00299-011-1144-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C12G
A23C
A23F
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含み、
前記キサントフモールの含有量が、30質量ppm以上200質量ppm未満であり、
前記ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、アグリコン換算として、前記キサントフモールの含有量の3分の1以下である飲料。
【請求項2】
飲料が茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターである請求項1記載の飲料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の飲料の製造方法であって、
前記飲料中のキサントフモールの含有量を調整する工程と、
前記飲料中のケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整する工程と、
を含む、飲料の製造方法。
【請求項4】
前記キサントフモールの含有量を調整する工程では、キサントフモールが30質量ppm以上200質量ppm未満となるように調整する請求項に記載の飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整する工程では、ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、アグリコン換算として、前記キサントフモールの含有量の3分の1以下となるように調整する請求項3又は4に記載の飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料及びその製造方法に関し、より詳細には、ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含有する飲料、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レニン-アンジオテンシン系は、生体において血圧調節作用や体液・電解質のホメオスタシス維持に関わり、血圧上昇、さらには高血圧症の発症に深く関与していることが知られている。レニン-アンジオテンシン系においては、末梢毛細血管収縮作用を有し、交感神経及び副腎を刺激してカテコールアミンの放出を促進するアンジオテンシンIIが血圧上昇作用を示す。アンジオテンシンIIの産生には、血管内皮細胞などに存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)が重要な役割を果たしている。そのため、アンジオテンシン変換酵素の活性を阻害する(ACE阻害作用という)医薬品であるカプトプリルやエナラプリルなどが、高血圧治療薬として従来から利用されてきた。
【0003】
食品タンパク質由来の直鎖状ペプチドもACE阻害作用を有することが知られている。それに伴う血圧上昇抑制作用もこれまでに多く報告されており、例えばゴマペプチド(指標成分はロイシン-バリン-チロシン(LVY)からなるトリペプチド)などを関与成分として添加した特定保健用食品が実用化されている。
【0004】
食品タンパク質由来のペプチドの中では、アミノ酸が二つ結合した「ジペプチド」も機能性成分として注目されている。ジペプチドには、単体アミノ酸にない物理的、化学的性質や新たな機能を付加することが可能である。ACE阻害作用に関しては、例えば魚介類由来の特定の直鎖状ジペプチドが有用であることがこれまでに報告されている。
【0005】
血圧上昇抑制作用を目的として種々の医薬品が従来使用されているが、一方ではそれらの副作用が懸念されるところである。この点では、食品タンパク質由来の直鎖状ペプチドは有用であるように考えられる。しかしながら、直鎖状ジペプチドは、消化管に分泌されるカルボキシペプチダーゼやアミノペプチダーゼなどの各種ペプチダーゼの作用によって遊離アミノ酸に分解されることがあり(非特許文献1)、この特性によって体内への吸収性が低くなることも考えられる。以上の点から、副作用が少なく、消化管でペプチダーゼによる分解を受けない、ACE阻害作用を示す成分及び組成物が求められている。
【0006】
ケンフェロール(kaempferol)は、茶や野菜、果物等に含まれるフラボノイドの一種であり、フラボノイドの中ではフラボノールに分類され、化学式C1510で表される天然化合物である。天然においては、ケンフェロールは糖が結合したケンフェロール3-グルコシド、ケンフェロール3-ルチノシドなどのケンフェロール配糖体として存在しているが、経口摂取後には腸内細菌による加水分解等によりアグリコンとなって体内に吸収され、血中では主にアグリコンとして検出される。ケンフェロール及びケンフェロールの配糖体は、抗酸化、抗炎症、抗微生物、抗がん、心保護、神経保護、抗糖尿病、抗骨粗鬆症、エストロゲン/抗エストロゲン作用、抗不安、鎮痛、抗アレルギー活性等の様々な生理機能を持つことが知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ケンフェロールなどのフラボノイドを液体調味料へ応用し、血圧降下作用等の有用な生理機能を有することができる容器詰め液体調味料を提供する技術が記載されている。
【0008】
また、非特許文献2には、ケンフェロールを含む様々なフラボノイドによる血圧制御に関わるアンジオテンシン変換酵素阻害作用(ACE阻害作用)の強度の違いが列挙されている。本文献によれば、フラボノイドに分類される化合物中でも、その種類によってACE阻害作用が強力な化合物や、全くACE阻害作用が認められない化合物が存在する。このことから、特定のフラボノイドがACE阻害作用を示すかどうか、またその作用強度の違いを類推することは困難である。
【0009】
また、キサントフモールは、ビールの原料に使用されるアサ科の植物のホップ(学名:Humulus lupulus)毬花に含まれる化合物であり、癌細胞の増殖抑制作用、抗酸化作用、骨分解抑制作用及び抗菌作用などの種々の生理活性があることが知られている。
【0010】
キサントフモールが持つ上記のような生理活性作用による健康維持及び改善効果を期待して、各種飲料におけるキサントフモールの含有量を高める試みもなされている(特許文献2及び特許文献3)。しかし、一般的に飲料におけるキサントフモールの含有量は極わずかである。
【0011】
また、特許文献4には、ホップの毬花ではなく、ホップ葉抽出物によるアンジオテンシン変換酵素阻害作用(ACE阻害作用)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2012-105674号公報
【文献】特開2002-345433号公報
【文献】特開2003-310240号公報
【文献】特開2012-153659号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】J Biochem.,Aug;94(2):619-22
【文献】PloS.ONE 7(11):e49493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1には、ケンフェロールなどのフラボノイドの生理作用が記載されているが、ケンフェロール及びその配糖体の血圧降下作用を増強する方法は記載されていない。また、上記特許文献4には、ホップ葉抽出物によるACE阻害作用が記載されているが、ホップ葉抽出物には、様々な成分が含まれており、ACE阻害作用がいずれの成分に基づき得られる機能であるかは不明であった。そのため、飲料に所望の血圧上昇抑制作用を付与することができ、消化管で分解を受けず、副作用が少なく安全性の高い物質及び組成物が求められていた。
【0015】
本発明は、血圧上昇抑制作用を有する飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、飲料にケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含有させることにより、充分な血圧上昇抑制作用が得られることに想到し、本発明の完成に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の飲料、飲料の製造方法に関する。
[1]ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含み、上記キサントフモールの含有量が、30質量ppm以上200質量ppm未満である飲料。
[2]上記ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、アグリコン換算として、上記キサントフモールの含有量の3分の1以下である上記[1]に記載の飲料。
[3]飲料が茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターである上記[1]又は[2]に記載の飲料。
[4]上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の飲料の製造方法であって、上記飲料中のキサントフモールの含有量を調整する工程と、上記飲料中のケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整する工程と、を含む、飲料の製造方法。
[5]上記キサントフモールの含有量を調整する工程では、キサントフモールが30質量ppm以上200質量ppm未満となるように調整する上記[4]に記載の飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含有させ、キサントフモールの配合量を所定の範囲に調整することで、安全性が高く、血圧上昇抑制作用を有する飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1~3及び比較例1~4におけるACE阻害作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の飲料及びその製造方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明の飲料は、ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含み、上記キサントフモールの含有量が、30質量ppm以上200質量ppm未満であることを特徴としている。
【0022】
本発明の飲料は、ケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含有し、上記キサントフモールの含有量を所定の範囲に調整することで、ケンフェロールの有するACE阻害作用を増強することができ、飲料において、充分なACE阻害作用を発揮させることができる。血管内皮細胞などに存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)は不活性型のアンジオテンシンIを活性型のアンジオテンシンIIに変換する酵素であり、アンジオテンシンIIが血圧上昇に働く。従って、このACE阻害作用により、血圧上昇を抑制することができる。よって、飲料に、ケンフェロール及び/又はその配糖体と上記量のキサントフモールとを含有させることにより、血圧上昇抑制作用を有する飲料を提供することができる。
【0023】
本発明の飲料はケンフェロール及び/又はその配糖体を含む。
本発明において、ケンフェロールの配糖体としては、ケンフェロール3-グルコシド、ケンフェロール3-ルチノシドを指す。
【0024】
本発明の飲料は、キサントフモールを含む。
キサントフモールは、食用植物であるホップに含まれる成分であり、飲食品に好適に使用することができる。キサントフモールは、ホップから溶媒を用いて抽出することで得られる。例えば、乾燥したホップを粉砕などしてペレット状にしたものを、アルコールなどの有機溶媒に浸漬して抽出する。次いで、得られた抽出液を濃縮・乾燥した後、クロマトグラフィーなどを用いて分離・精製することにより得ることができる。
ホップからの抽出、分画、精製の際の温度は、80℃未満が好ましく、例えば、5~70℃がより好ましい。なお、キサントフモールは市販されており、市販品を利用することもできる。本発明においては、本発明の効果を奏することになる限り、キサントフモールを豊富に含む植物由来原料を本発明の飲料に含有させてもよい。
【0025】
また、本発明の飲料は、キサントフモールの含有量が30質量ppm以上200質量ppm未満である。
キサントフモールを飲料に30質量ppm以上となるように添加すると、ケンフェロールのACE阻害作用が充分に増強され、血圧上昇抑制作用を充分に得ることができる。
なお、本発明の飲料のキサントフモールの含有量は、60質量ppm以上が好ましい。
キサントフモールの含有量は多いほど、血圧上昇抑制効果の増強を期待できるが、キサントフモールの苦味が強くなる場合がある。その飲料が本来持つ香味を維持する観点から、本発明の飲料は、キサントフモールの含有量が、200質量ppm未満である。
なお、本発明の飲料のキサントフモールの含有量は、175質量ppm以下であることが好ましい。飲料におけるキサントフモールの含有量が175質量ppm以下であることで、キサントフモールの苦味がさらに軽減されるためである。
本発明の飲料のキサントフモールの含有量は、60質量ppm以上175質量ppm以下であることが好ましい。
【0026】
キサントフモールの含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)やLC-MS/MSシステムを用いて定量することができる。キサントフモールは、簡便に定量分析が可能であり、有効成分の定量分析及び規格化が必要となる機能性表示食品等の有効成分として使用しやすいという利点もある。
【0027】
本発明の飲料は、ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、アグリコン換算として、上記キサントフモールの含有量の3分の1以下であることが好ましい。ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、上記キサントフモールの含有量に対して上記範囲であることにより、ケンフェロールのACE阻害作用を効果的に増強できるためである。
また、ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量は、アグリコン換算として、上記キサントフモールの含有量の35分の1以下であることがより好ましい。
また、本発明の飲料のケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量は、上記キサントフモールの含有量の2500分の1以上であることが好ましい。なお、ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量は、これらの合計含有量である。
【0028】
ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量は、例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)やLC-MS/MSシステムを用いて定量することができる。定量に使用する標準品としては、例えば市販のケンフェロール、ケンフェロール3-グルコシド、及びケンフェロール3-ルチノシド標準品を使用することができ、3種類の含有量の合計値をケンフェロールアグリコン換算で示すことができる。ケンフェロール及び/又はその配糖体は、簡便に定量分析が可能であり、有効成分の定量分析及び規格化が必要となる機能性表示食品等の有効成分として使用しやすいという利点もある。
【0029】
また、本発明の飲料は、茶系飲料、コーヒー飲料、アルコール飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、機能性飲料、果実・野菜系飲料、乳性飲料、豆乳飲料又はフレーバーウォーターであることが好ましい。
【0030】
本発明の飲料が茶系飲料である場合、紅茶飲料又は無糖茶飲料であることが好ましい。無糖茶飲料として、緑茶飲料、ウーロン茶飲料、麦茶飲料、玄米茶飲料、ハト麦茶飲料、無糖の紅茶飲料等が挙げられる。
【0031】
本発明の飲料がコーヒー飲料である場合、容器詰コーヒー又はリキッドコーヒーであることが好ましい。
【0032】
上記アルコール飲料としては、ビール、ビール系飲料、ビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料が挙げられる。
本発明の飲料がビール系飲料である場合、発泡酒又は第三のビールであることが好ましい。
本発明の飲料がビール及びビール系飲料以外のアルコール飲料である場合、焼酎、チューハイ、リキュール、カクテル、スピリッツ、ウイスキーであることが好ましい。
【0033】
本明細書における「ノンアルコールビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料を意味し、非発酵のノンアルコールタイプのものであり、これはアルコールを実質的に含まない。ここで、ノンアルコールビールテイスト飲料は、検出できない程度の極微量のアルコールを含有する飲料を除くものではない。
【0034】
本発明の飲料が炭酸飲料である場合、コーラフレーバー飲料、透明炭酸飲料、ジンジャエール、果汁系炭酸飲料、乳類入炭酸飲料又は無糖炭酸飲料であることが好ましい。
本発明の飲料が機能性飲料である場合、スポーツドリンク、エナジードリンク、健康サポート飲料又はパウチゼリー飲料であることが好ましい。
【0035】
本発明の飲料が果実・野菜系飲料である場合、100%果実飲料、果実入飲料、低果汁入清涼飲料、果粒含有果実飲料又は果肉飲料であることが好ましい。
本発明の飲料が乳性飲料である場合、牛乳、ドリンクヨーグルト、乳酸菌飲料又は乳類入清涼飲料であることが好ましい。
本発明の飲料が豆乳飲料である場合、豆乳又は大豆飲料であることが好ましい。
【0036】
本発明の飲料は、上述のいずれの飲料であってもよく、健康飲料とすることができる。健康飲料は、特定保健用食品、機能性表示食品に該当する飲料の他、上記機能性飲料、や、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品、老人用食品等)に該当する飲料等が含まれる。
【0037】
飲料の形態は特に限定されず、容器詰飲料とすることができる。容器詰飲料の容器は特に限定されず、いずれの形態及び材質の容器を用いてもよく、例えば、アルミ缶、スチール缶等の金属製容器;ペットボトル等の樹脂製容器;紙パック等の紙容器;ガラス瓶等のガラス製容器;樽等の木製容器等の通常用いられる容器のいずれも用いることができる。このような容器に飲料を充填及び密閉することにより、容器詰飲料が得られる。
【0038】
飲料は、例えば、ケンフェロール及び/又はその配糖体、並びに、キサントフモールを、飲料の製造に使用される物質(例えば、任意の食品原料、食品添加物等)に配合して調製することができる。飲料の製造に使用される物質の場合、その形態は限定されず、例えば固体であってもよい。
本発明の飲料は、ACE阻害作用を有することから、ACE阻害用飲料、血圧上昇抑制用飲料として使用されうる。本発明の飲料は、ケンフェロール及び/又はその配糖体を有効成分として含むACE阻害用または血圧上昇抑制用飲料であって良い。
【0039】
また、本発明は、本発明の飲料の製造方法でもあり、上記飲料中のキサントフモールの含有量を調整する工程と、上記飲料中のケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整する工程とを含むことを特徴とする。
【0040】
上記キサントフモールの含有量を調整する工程では、飲料中のキサントフモールが30質量ppm以上200質量ppm未満となるように調整することが好ましい。
飲料におけるキサントフモールの含有量が30質量ppm以上であることにより、ケンフェロールのACE阻害作用が充分に増強され、血圧上昇抑制作用を充分に得ることができる。
なお、キサントフモールが60質量ppm以上となるように調整することがより好ましい。
キサントフモールの添加量は多いほど、血圧上昇抑制効果の増強を期待できるが、キサントフモールの苦味が強くなる場合がある。その飲料が本来持つ香味を維持する観点から、本発明の飲料の製造方法においては、キサントフモールを飲料に対し、200質量ppm未満となるように調整する。
なお、本発明の飲料の製造方法において、飲料におけるキサントフモールの含有量が、175質量ppm以下となるように調整することがより好ましい。
また、本発明の飲料の製造方法において、飲料におけるキサントフモールの含有量が、60質量ppm以上、175質量ppm以下となるように調整することが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法において、キサントフモールの含有量の調整は、飲料の製造工程前、製造工程中又は製造工程後のいずれのタイミングで行ってもよい。最終的な飲料においてキサントフモールの含有量が所定の範囲内となればよい。
【0042】
例えば、本発明のケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含むビールや発泡酒などの麦芽発酵飲料である発酵ビールテイスト飲料を製造する場合、麦芽を含む原料を糖化させる糖化工程と、糖化液を濾過して麦汁を得る濾過工程と、麦汁にホップを添加して煮沸する煮沸工程と、煮沸工程の後、熱麦汁からオリを分離する分離工程と、麦汁に酵母を添加して麦汁を発酵させる発酵工程と、発酵液を濾過する濾過工程とを含んでよい。
【0043】
また、本発明のケンフェロール及び/又はその配糖体と、キサントフモールとを含む非発酵のビールテイスト飲料を製造する場合、麦芽を含む原料を糖化させる糖化工程と、糖化液を濾過して麦汁を得る濾過工程と、麦汁にホップを添加して煮沸する煮沸工程と、煮沸工程の後、熱麦汁からオリを分離する分離工程と、得られた分離液を濾過する濾過工程と、濾過液に脱気水、炭酸ガス、調味成分および必要に応じてアルコールを添加する製品調製工程とを含んでよい。
【0044】
本発明の製造方法は、飲料中のケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整する工程を含み、ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が、アグリコン換算として、上記キサントフモールの含有量の3分の1以下となるように調整することが好ましい。
ケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量を調整するタイミングは、飲料の製造工程前、製造工程中又は製造工程後のいずれのタイミングで行ってもよい。最終的な飲料においてケンフェロール及び/又はその配糖体の含有量が所定の範囲内となればよい。
【実施例
【0045】
以下、本発明をより具体的に説明する実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1~3、比較例1~4>
ケンフェロールのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用に対するキサントフモールの増強効果
ケンフェロールのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用に対するキサントフモールの増強効果を以下の手順により評価した。
詳細には、ACE Kit-WST((株)同仁化学研究所)を使用し、当該キットに付属の説明書に従って、被験物質として、ケンフェロール(EXTRASYNTHESE社製)単独及びケンフェロールとキサントフモール((株)岐阜セラツク製造所において作製)とを添加した場合のACE阻害活性を測定した(1水準につきn=4)。被験物質のケンフェロールとキサントフモールの濃度は、下記表1に示す。キサントフモールの濃度が30質量ppmの水準が本発明の実施例であり、その他を比較例とした。
また、コントロール群として、被験物質を添加しない水準(ケンフェロール及びキサントフモールの代わりに蒸留水のみを添加した水準)を設定した。
また、酵素非添加群として、被験物質を添加せず、更に反応系におけるACE(酵素)を除いた水準をそれぞれ設定した。
上記被験物質のACE阻害活性(%)は、下記式1を用いて算出した。また、Student’s t-testにより群間(コントロール群 vs 被験物質添加群)の有意差検定を行った(有意水準:p<0.05)。各水準におけるケンフェロール及びキサントフモールの濃度設定とACE阻害活性の結果を下記表1に示す。図1のグラフにも実施例及び比較例におけるACE阻害活性の結果を示した。
【0047】
(式1)
ACE阻害活性(%)
=100×((コントロール群における450nm吸光度)―(被験物質群における450nm吸光度))/((コントロール群における450nm吸光度)―(酵素非添加群における450nm吸光度))
【0048】
【表1】
【0049】
上記結果から、実施例1~3及び比較例1~4に示した全ての水準において、コントロール群との間に有意差が認められ、ACE阻害作用を示すことが確認された。
なかでも、キサントフモールを30質量ppm含む実施例1~3に係る水準については、ACE阻害活性が20%以上と高く、ケンフェロールのアンジオテンシン変換酵素阻害作用がキサントフモールにより充分に増強されていた。また、ケンフェロールの含有量が、キサントフモールの3分の1以下であると、ケンフェロールのACE阻害作用がキサントフモールにより増強された。
なお、表中の単位(μg/mL)はppmと同等である。
【0050】
<試験例1~8>
キサントフモール配合飲料の調製
下記表2に記載の組成となるようにキサントフモール乳化物を調整し、更に水へ添加することによりキサントフモール配合飲料(試験例1~8)を調製した。試験例1~8のキサントフモール配合飲料中におけるキサントフモール濃度(ppm)を下記表3に示す。なお、キサントフモール含有素材として、Xantho-Flav(Hopsteiner社製)を使用した。なお、下記表2に記載の組成で、キサントフモールを添加しなかった飲料(試験例1)をコントロールとした。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
<キサントフモール配合飲料の香味評価>
得られたキサントフモール配合飲料(試験例1~8)について、評価者3名による官能評価を実施した。以下4段階の評価基準と配点方法に従って、各飲料について個別に評価を行い、終了後に3名のスコア平均値を算出した。結果を下記表4に示す。
【0054】
<評価基準と配点方法>
苦みを感じない:0点
わずかに苦味を感じるが許容範囲内である:1点
苦味を感じるが許容範囲内である:2点
苦味が強く許容範囲外である:3点
【0055】
【表4】
【0056】
以上の結果から、飲料中のキサントフモールの濃度が200質量ppm以上であると、苦味が強く許容範囲外と感じられることが確認された。そのため、飲料中のキサントフモールの濃度が200質量ppm未満において、許容範囲外とされる苦味を抑制でき、特に飲料中のキサントフモールの濃度が175質量ppm以下であることで、苦味を感じても許容範囲内とされることが確認された。そのため、飲料中のキサントフモールの濃度が200質量ppm未満であることにより、飲料本来の味を損うことなくキサントフモールを配合することが可能となり、飲料としても無理なく飲むことができる。特に、飲料中のキサントフモールの濃度が175質量ppm以下であることで、飲料本来の味をより損なうことなく、キサントフモールを配合することが可能となり、飲料としても無理なく飲むことができる。
すなわち、本発明の飲料及び本発明の飲料の製造方法により得られる飲料について、定期的に継続して飲むことができ、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用に基づく血圧上昇抑制作用を効果的に得ることができる。

図1