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特許7325446アルミニウム板又は鋼板用の溶接電極及びそれを得る方法
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  • 特許-アルミニウム板又は鋼板用の溶接電極及びそれを得る方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】アルミニウム板又は鋼板用の溶接電極及びそれを得る方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/02 20060101AFI20230804BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20230804BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20230804BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
B23K35/02 F
C22C9/00
C22F1/08 B
C22F1/00 681
C22F1/00 611
C22F1/00 624
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630M
C22F1/00 631B
C22F1/00 660Z
C22F1/00 614
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020560603
(86)(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 FR2019000007
(87)【国際公開番号】W WO2019141916
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】1850408
(32)【優先日】2018-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520266786
【氏名又は名称】レブロンズ アロイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】プリモー フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ソロー ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】デトレーズ サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ブイエ アラン
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/203122(WO,A1)
【文献】特開昭59-193233(JP,A)
【文献】特開昭56-020135(JP,A)
【文献】特開昭61-157648(JP,A)
【文献】特開2015-091603(JP,A)
【文献】特開2007-146245(JP,A)
【文献】特開2004-353011(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/34
C22C 9/00-9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼、およびアルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて作製された金属板を溶接するための、銅、クロム、ジルコニウム、およびリンを有する銅合金を用いて作製された電極であって、
該銅合金は、0.1重量%以上0.4重量%未満のクロム、0.02~0.04重量%のジルコニウム、0.015重量%未満のリン、残部銅、および0.1重量%未満の不可避的不純物からなる組成物から作られ、
前記電極の電気伝導率は、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)以上であり、
前記電極の構造は、その90%より多くが1μm2より小さい凸面を持つインコヒーレントなクロム沈殿物を含み、該インコヒーレントなクロム沈殿物は10~50nmの寸法を有し、前記電極は、電極の活性面の断面に繊維構造体を更に有し、該繊維構造体は、厚さ1mm未満の複数の放線状繊維を有するとともに直径5mm未満の略中心域であって繊維構造体を持たない略中心域を有する、
ことを特徴とする電極。
【請求項2】
前記電極は、前記電極と2つのアルミニウム板の一方の外表面との間の接触抵抗を制限するために、前記2つの板を互いに溶接する間、120MPa以上の所定圧力を維持することができる、
アルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる金属板を溶接する請求項1に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項3】
クロムの比率は、0.2~0.3重量%である、
請求項1は2に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項4】
ジルコニウムの比率は、0.03~0.04重量%である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項5】
リンの比率は、0.01重量%未満である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項6】
不可避的不純物の比率は、0.05重量%未満である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項7】
気伝導性への影響度合いに基づく影響関数として、重量係数が、前記銅合金に存在する不純物それぞれに割り当てられ、前記不純物それぞれの重量比率の合計は、百万分の1部を単位として、5000未満である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項8】
前記不純物の重量比率の合計は、百万分の1部を単位として、2000未満である
請求項1~7のいずれか一項に記載の銅合金を用いて作製された電極。
【請求項9】
0.1重量%以上0.4重量%未満の割合のクロム、0.02~0.04重量%のジルコニウム、0.015重量%未満のリン、残部銅、および0.1重量%未満の不可避的不純物からなる組成物から作られる銅合金から、連続注入により請求項1~8のいずれか一項に記載の電極を製造する方法であり、
該方法は、少なくとも以下の工程を含む、方法。
a)前記銅合金の構成元素である前記銅、前記クロム、前記ジルコニウム、前記リンおよび前記不可避的不純物からなる組成物を、1200℃以上の温度で溶融する、
b)注湯炉内で液体金属を1100~1300℃の温度で維持しながら、直径dを有する筒状ダイヘッドに連続的に注入して、その直径dに近い直径を持つバーを得ることを可能とする、
c)前記バーを凝固し、100℃未満の温度まで冷却し、冷却速度は、バーが100℃未満の温度に冷却されるまで、バー温度が1060℃に到達するまで少なくとも10℃/秒に等しく、1060~1040℃では少なくとも15℃/秒に等しく、1040~1030℃では少なくとも20℃/秒に等しく、1030~1000℃では少なくとも25℃/秒に等しく、1000~900℃では少なくとも30度/秒に等しく、900℃未満の温度では少なくとも20℃/秒に等しく、
d)冷間加工して直径が20mm未満のロッドを得、
e)前記ロッドをせん断してビレットを得、その後、前記電極を最終形状にするのに材料を取り除くことで、孔空け又は加工し、
該方法は、前記電極を成形する工程e)の前および/又は後に、エージング処理又はアニール処理の少なくとも1つの工程を含み、
該方法において、前記電極の前記活性面の金属組織は、その90%より多くが1μm2より小さい凸面を持つインコヒーレントなクロム沈殿物を含み、該インコヒーレントなクロム沈殿物は10~50nmの寸法を有し、前記電極は、電極の活性面の断面に繊維構造体を更に有し、該繊維構造体は、厚さ1mm未満の複数の放線状繊維を有するとともに直径5mm未満の略中心域であって繊維構造体を持たない略中心域を有し、前記電極の電気伝導性は、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)以上である。
【請求項10】
前記工程a)の合金の組成物を溶融することは、1200℃~1300℃の温度で行われる、
請求項9に記載の電極を製造する方法。
【請求項11】
前記工程b)での連続注入は、前記注湯炉内で液体金属の温度を1150~1250℃に維持しながら行われる、
請求項9又は10に記載の電極を製造する方法。
【請求項12】
前記工程c)でバーを冷却することは、前記バーが100℃以下の温度に冷却されるまで、900℃未満の温度では少なくとも30℃/秒に等しい冷却速度で行われる、
請求項9~11のいずれか一項に記載の電極を製造する方法。
【請求項13】
前記エージング処理は、前記電極を形成する前記工程e)の前に行われ、且つ、1~2時間かけて450~480℃の温度で行われる沈殿処理から構成される、請求項9~12のいずれか一項に記載の電極を製造する方法。
【請求項14】
前記電極を形成する工程e)において、沈殿処理は、1~2時間かけて450~480℃の温度で実施される、
請求項9~13のいずれか一項に記載の電極を製造する方法。
【請求項15】
前記ダイヘッドの直径dは、20~70mmである、
請求項9~14のいずれか一項に記載の電極を製造する方法。
【請求項16】
前記d)冷間加工の間、厚さ0.5mm未満の外側加工作業は、前記凝固工程c)の間に発生した表面欠陥を除去するのに実施される、
請求項9~15のいずれか一項に記載の電極を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、溶接電極の分野に関する。特に、本発明は、銅抵抗による溶接電極に関する。
【0002】
本発明による電極は、特に、アルミニウム板を互いに溶接するのに、格別に利益となるであろう。
【0003】
本発明による電極は、鋼板を溶接するのにも実施され得る。
【0004】
予め記載すると、本明細書の他の部分において、「アルミニウム板」は、アルミニウムを含む合金から製造される板に言及し、特に、Al-Mg-Si(アルミニウムマグネシウムシリコン)合金又はAl-Mg-Mn(アルミニウムマグネシウムマンガン)合金から作られる板に言及する。
【0005】
これらのアルミニウム板は、溶接且つ組付けられると、特に、自動車産業に適用される。
【0006】
従来、2枚の板の溶接は、高い電界強度と、「締付力」とも呼ばれる周期的な圧力を組み合わせることにより行われる。
【0007】
より具体的に、まず最初に、締付力が、組付けられる2枚の板の間で増大される。次に、第二段階において、2枚の板が固定されると、電流がこれらの板の両側に配置された2つの電極の間を流れる。
【0008】
2つの電極間の電流の流れにより、2枚の板の間の融点まで、これらの板の関連領域での温度が上昇し、凝固後に、板-板インターフェースにて溶接点が作られる。
【0009】
アルミニウムを溶接する場合、締付力により、板と電極との間の接触抵抗が低減される。
【0010】
電極と板の集合体との間の接触は加圧により維持される。溶接するのに、クランプは、電気と熱の両方が優れた伝導体材料である銅から作られた電極を使って組付板を押す。この選択により、加熱領域が、溶接される2枚の板の間の接触領域に限定され、縮小が可能となる。
【0011】
融点に到達すると、加圧は維持され、電界強度は、電極を組付板から離間する前に溶接点を冷ますために止められ、その後、次の溶接点に移行する。
【0012】
よって、溶接パラメータは、板の電気抵抗、板と電極との間の界面抵抗、アッセンブリの総厚みと、電極の直径とに、特に依存する。
【0013】
このような方法は、例えば、薄い鋼板のアッセンブリに一般的に用いられる。
【0014】
この方法は、一般的ではないが、アルミニウム板にも実施され得る。
【0015】
電極そのものに関して、技術水準の国際公開番号WO2016/203122公報において、鋼板用の溶接電極、特に、耐食被膜を有する板用の溶接電極が周知である。このベース組成物は、銅、クロム、及びジルコニウムの合金から構成され、リン及び/又はマグネシウムを更に含む。
【0016】
この合金のクロムの割合は0.4~0.8重量%であり、ジルコニウムの割合は0.02~0.09重量%であり、リンとマグネシウムの合計の割合は0.005重量%よりも大きく、マグネシウム含量は0.1重量%未満であり、リンの割合は0.03%重量%未満である。この組成物の残部は、銅からなる。
【0017】
この電極の金属組織は、特有であり、その90%より多くが1μmより小さい凸面を持つインコヒーレントなクロム沈殿物を含み、このインコヒーレントなクロム沈殿物は、10~50nmの大きさを有する。更に、この電極は繊維構造体を持つ。
【0018】
鋼板を溶接するためのこのような電極の電気伝導性は、85%IACSより大きい。
【0019】
このような電極は、特に、一般的な電極よりも腐食現象に対してより耐久性があるので、鋼板の溶接においてとても興味深い。この腐食現象とは、電極の銅と被膜の亜鉛が鋼板の鉄と化学反応する結果であり、電極の表面層の劣化につながる。よって、腐食層の定期的な除去や、電極の取り換えまでもが必要となる。
【0020】
いかなる場合でも、鋼板を溶接する場合、溶接点での温度は1560℃の値まで到達し、鋼板の表面と接触している間は、電極の表面温度は700℃を超えるであろう。
【0021】
しかし一方では、そのような温度レベルでは、電極の表面の腐食につながる化学反応は加速されてしまい、更には、電極の材料さえも、「ホットクリープ」と呼ばれる摩耗現象により変形してしまうであろう。結果、電極から表面層が側方脱離し、その端が幅広となってしまう。
【0022】
その結果、電極と板との間の接触表面が大きくなるので、板の溶接点の質を維持するために、電流密度を高める必要がある。しかし、より大きな表面やより増大した電流というものは、より広く浸食することを意味する。
【0023】
このように、国際出願公開番号WO2016/203122に記載される電極は、鋼板を互いに溶接する間、場合によっては800℃など、700℃より高い温度にて耐クリープ性を向上できる。
【0024】
しかし、このような電極の伝導性はさらに改良され得る。
【0025】
更に、燃料消費量を制限する目的で自動車の車体の重さを低減するために、益々多くの自動車ビルダーにより、今日、鋼板はアルミニウム板に取って代わられている。特に、Al-Mg-Si(アルミニウム-マグネシウム-シリコン)合金又はAl-Mg-Mn(アルミニウム-マグネシウム-マンガン)合金などのアルミニウム合金から作られるアルミニウム板に取って代わられている。
【0026】
実際、アルミニウムの密度は、現在までに使われている鋼板の密度の35%である。
【0027】
鋼板がアルミニウム合金から作られる物によって取って代わられる傾向は、電気自動車の開発と後者のバッテリの自立を向上する必要性とにより、更に高まる。
【0028】
アルミニウム板を使用することの他の利点は、浸食耐性が改善され、鋼板で必要であった亜鉛系耐食被膜の存在が今や必要なくなることである。
【0029】
更に、車両ビルダーは、アルミニウム板ボディを組立てるのに、抵抗溶接ロボットを用いた鋼板ボディ組立てラインを使うことが大いに可能であることが、証明されている。これは、会社にとっては、専用の組立て技術(にかわ、クリンチング、リベット止め、レーザー等)に投資する必要がないので、まさに利点である。
【0030】
この時、例えば車両ビルダーは、車両ボディ用のアルミニウム板を抵抗溶接するのに、銅-ジルコニウム合金(0.15%)から作られる電極を使う。これらの電極は、鋼板の溶接にも共通して実施される。
【0031】
アルミニウム板の溶接点は、660℃という2つの板の接触温度に到達しなければならず、この温度は、2つの鋼板の溶接点で到達される温度1560℃よりは実質低い温度である。電極と接触する板の表面温度も、それ故、鋼を溶接中に確認された温度より低いであろう。
【0032】
実際、鋼の電気伝導率と比較してアルミニウムの電気伝導率は優れており(4~5倍高い)、これにより、抵抗発熱が大幅に低減され、溶接点での溶融を遂げることが可能となる。
【0033】
結果として、同様の溶接条件の下、2つのアルミニウム板を溶接するためには、鋼板の溶接に実施される印加強度と比較して一般に120%まで印加強度を実質増大する必要があり、同時に溶接時間を短縮して、鋼の溶接時間に対して一般には2分の1にしなければならない。
【0034】
電極内で放散されるエネルギーは、強度の2乗、電極の電気抵抗、及び溶接時間に比例する。具体的には、この放散エネルギーは、アルミニウム板を溶接するのに使用される電極では、鋼用の電極より2.4倍高い。
【0035】
電気抵抗は電気伝導率とは反比例であり、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)よりも大きい電気伝導率を有する電極を備えることが、アルミニウムを溶接するには必要である。一方、鋼を溶接するには、75%IACSより大きい伝導率が求められる。
【0036】
更に、アルミニウム板の溶接電極が許容寿命を備えるには、電極の表面がアルミニウム板と接触している間、この溶接中に発生する化学反応及び熱機械反応を考慮することも必要である。
【0037】
化学反応は、板のアルミニウムと電極の銅との間の熱接触の結果であり、酸素、アルミニウム、及び銅合金の層を形成する。この層は、亜鉛耐食保護で被膜された2つの鋼板の溶接中に電極の表面上で形成される銅及び亜鉛の合金の層より、実質より耐性がある。
【0038】
よって、アルミニウム板の溶接中に、電極の表面層は、抵抗と印加強度の影響の下、この同じ電極のマトリックスよりも加熱に対してより敏感であり、ついには、酸化したアルミニウムが電極の表面に溶融して付着するようになる。しかし、これは回避されるべきである。
【0039】
一般的に、アルミニウムを溶接中の電極の表面温度は、500~550℃であり、この同じ温度は、鋼を溶接中には700℃を超える。
【0040】
このように、電極表面と溶接される金属の温度との温度偏差は、アルミニウム板を溶接する場合に比べて、鋼を溶接する場合により高くなる。
【0041】
実際、本明細書にて既述したように、2つの板の間の接触温度は、後者が鋼からつくられる場合、溶融するのに1550~1560℃に到達しなければならず、一方、電極の表面温度は、700℃より大きい。結果、約750~850℃の温度偏差が生じる。
【0042】
アルミニウムを溶接する場合、2つの板の間の接触温度は、660℃に到達しなければならず、一方、電極の表面温度は、約500~550℃である。その結果、最大温度偏差が約160℃となる。
【0043】
鋼板を溶接する場合、温溶接中に、亜鉛表面層が板の鋼を浸食から保護することが適正である。亜鉛の層は、亜鉛の溶融潜熱の効果を通して板の加熱を阻止し、鋼からの鉄が空気と直接接触することを回避する。
【0044】
このような亜鉛の表面層は、アルミニウム板に存在しない。結果、アルミニウム板を溶接する際には、こういった保護が提供されない。よって、2つのアルミニウム板が互いに溶接する度に電極の表面に堆積する、酸素、アルミニウム、及びまさに耐性のある銅を含む合金の層により、耐性効果が高められ、電極とアルミニウム板との間の接触温度も、アルミニウムの溶融温度に到達するまで上昇されるであろう。
【0045】
その時には、溶接部からの排出、言い換えると、板の外側面での溶融金属の排出があり、溶接部の質が結果として劣化する。
【0046】
電極の表面がアルミニウム板又は鋼板と接触する間の熱力学反応に関して、後者(溶接部からの排出)は、一方では、溶接クランプによって及ぼされる締付力の影響で、溶接中の電極表面のホットクリープの結果であり、他方では、溶接の最後にクランプの開き力の影響で、電極からの表面引っ張りの結果である。
【0047】
締付力の下では、電極の接触表面は広がり、同じ溶接強度では、電流密度が低下し、局所的な加熱も小さくなる。溶接部の直径は、結果として小さくなり、2枚の板の組立てを保証するには十分ではなくなる。
【0048】
鋼を溶接する場合、開き力の下では、電極が板に接着すればするほど、より大きいマイクロ引っ張りが発生し、電極の接触表面が劣化する。
【0049】
アルミニウムの溶接に戻り、電極の表面温度がアルミニウムの溶解温度近くに到達するとき、溶接部からの排出を回避することが必要である。
【0050】
そのために、締結力を増大することが興味深いことが分かる。
【0051】
実際、締付力が高まると、板と電極との間の接触がより良くなり、接触抵抗が下がり、電極の接触表面での加熱が小さくなる。温度が下がると、アルミニウムの酸化が弱まり、酸化アルミニウムの電極の表面への移行も減る。
【0052】
しかし、特に締結力の下では接触表面が広がるので、溶接部の十分な品質を維持するのに、溶接電流を増加する必要があり、これにより、電極がさらに劣化してしまう。
【0053】
電極の表面の劣化が大きすぎる場合、溶接部の品質を保証するためには、この表面の機械的剥離が必要となる。
【0054】
しかし、このような剥離作業は、板の組立てラインの抵抗溶接ロボットを止める必要があるという欠点を有し、特に剥離頻度が高すぎる場合には、生産性の低下が避けられない。
【0055】
よって、この方法に一般的に使用される0.15%ジルコニウムのCuZr電極と比較して、適切な電気伝導性と改良された溶接性能を有するアルミニウム板を抵抗溶接する方法の要求に応える電極を提案することが必要であると思われる。
【0056】
より一般的には、特にアルミニウム系板だけでなく鋼板をも溶接するために、改良された電気伝導性を常に有する電極が提案される。これにより、板と電極との間の接触抵抗を低減することが可能となり、その結果、電極の接触表面での加熱や結果として生じる欠点を回避できる。
【発明の概要】
【0057】
そのために、本発明は、鋼、及び、アルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて作製された金属板を溶接するための、銅、クロム、ジルコニウム、及びリンを有する合金を有する電極に関する。該合金は、重量%で、クロム:0.1%以上及び0.4%未満、ジルコニウム:0.02~0.04%、リン:0.015%未満、残部銅、0.1%未満の不可避的不純物を有する組成物で構成され、前記電極の電気伝導性は、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)以上である。
【0058】
好ましくは、前記電極の構造は、その90%より多くが1μmより小さい凸面を持つインコヒーレントなクロム沈殿物を含み、該インコヒーレントなクロム沈殿物は、少なくとも10~50nmの大きさを有し、前記電極は、表面仕上げと化学エッチングの後に前記電極の活性面の断面に沿って見てわかる繊維構造体を更に有し、該繊維構造体は、一方で、厚さ1mm未満の複数の放線状繊維を有し、他方で、直径5mm未満の繊維構造体を持たない略中心域を有する。
【0059】
特に好ましくは、アルミニウム板又はアルミニウム合金板を溶接する場合に実施されるとき、前記電極は、2つのアルミニウム板を互いに溶接する間、120MPa以上の所定圧力を維持することが可能であり、前記電極と前記2つのアルミニウム板の一方の外表面との間の接触抵抗を制限できる。
【0060】
国際出願公開番号WO2016/203122に記載の鋼板用の溶接電極を作るのに使用されるリン及び/又はマグネシウムを更に含むCuCrZr合金と比較して、最初の合金に含まれるクロムの含量が低減することにより、伝導率を実質向上させることができる。よって、後者(CuCrZr合金)は、以下に提供される例で説明されるように、体系的に90%IACS以上である。
【0061】
更に、このようにクロム含量を低減させることにより、予想に反して、特に、ホットクリープに対するこの電極の耐性を向上させる。これにより、インコヒーレントなクロム沈殿物を保つことが可能となり、国際出願公開番号WO2016/203122に記載されている鋼板用の電極の溶接性能を向上させることができる。
【0062】
このように、本発明による電極は、特にそれが呈する特に高い電気伝導性により、アルミニウム又はアルミニウム合金板の溶接だけでなく、鋼板の溶接にも、特に興味深く且つ特に適している。
【0063】
好ましくは、クロムの比率は、0.2~0.3重量%である。
【0064】
本発明の他の特徴によると、ジルコニウムの比率は、0.03~0.04重量%である。
【0065】
興味深いことには、リンの比率は、0.01重量%未満である。
【0066】
好ましくは、不可避的不純物の比率は、0.05重量%未満である。
【0067】
特に、重量係数は、電気伝導性への元素の影響関数として、前記合金に不純物として存在し得る元素それぞれに割り当てられ、前記元素それぞれの加重比率の合計は、百万分の1部を単位として、5000未満である。
【0068】
更に好ましくは、前記元素それぞれの加重比率の合計は、百万分の1部を単位として、2000未満である。
【0069】
本発明は、重量%で、クロム:0.1%以上及び0.4%未満、ジルコニウム:0.02~0.04%、リン:0.015%未満、残部銅、並びに0.1重量%未満の不可避的不純物を有する組成物からなる合金から、連続注入により、本発明による溶接電極を製造する方法に更に関する。該方法は、少なくとも以下の工程を含む。
a)前記合金のさまざまな構成要素、すなわち、銅、クロム、ジルコニウム、及び、リン及び/又はマグネシウムを、1200℃以上の温度で溶融する。
b)注湯炉内で液体金属を1100~1300℃の温度で維持しながら、直径dを有する筒状ダイヘッドに連続的に注入することで、その直径dに近い直径を持つバーを得ることを可能とする。
c)前記バーを凝固し、100℃未満の温度まで冷却し、冷却速度は、バー温度が1060℃に到達するまで少なくとも10℃/秒に等しく、1060~1040℃では少なくとも15℃/秒に等しく、1040~1030℃では少なくとも20℃/秒に等しく、1030~1000℃では少なくとも25℃/秒に等しく、1000~900℃では少なくとも30度/秒に等しく、900℃未満の温度では少なくとも20℃/秒に等しく、ついには、バーは100℃未満の温度に冷却する。
d)冷間加工して直径が20mm未満のロッドを得る。
e)前記ロッドをせん断してビレットを得、その後、前記電極を最終形状にするのに材料を取り除くことで、孔空け又は加工する。
【0070】
前記方法は、前記電極を成形する工程e)の前及び/又は後に、エージング処理又はアニール処理の少なくとも1つの工程を含み、この方法において、前記電極の活性面の金属組織は、その90%より多くが1μmより小さい凸面を持つインコヒーレントなクロム沈殿物を含み、該インコヒーレントなクロム沈殿物は、少なくとも10~50nmの大きさを有し、前記電極は、表面仕上げと化学エッチングの後に前記電極の活性面の断面に沿って見てわかる繊維構造体を更に有し、該繊維構造体は、一方で、厚さ1mm未満の複数の放線状繊維を有し、他方で、直径3mm未満の繊維構造体を持たない略中心域を有し、前記電極の電気伝導性は、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)以上である。
【0071】
好ましくは、前記工程a)の合金のさまざまな構成要素の溶融は、1200℃~1300℃の温度で行われる。
【0072】
前記工程b)の連続注入は、前記注湯炉内で液体金属の温度を1150~1250℃で維持しながら有利に行われる。
【0073】
前記工程c)でバーを冷却することは、前記バーが100℃未満の温度に冷却されるまで、900℃未満の温度には少なくとも30℃/秒に等しい冷却速度で行われる。
【0074】
本方法の第一実施形態において、前記エージング処理は、前記電極を形成する前記工程e)の前に行われてもよく、且つ、1~2時間かけて450℃~480℃の温度で行われる沈殿処理から構成されてもよい。
【0075】
第2実施形態では、450~480℃の温度で実施される沈殿処理は、電極を形成する工程e)において1~2時間かけて行われる。
【0076】
前記ダイヘッドの直径dは、好ましくは20~70mm、好ましくは20~40mmである。
【0077】
冷間変形用の工程d)の間、厚さ0.5mm未満の外側加工作業は、凝固工程c)の間に発生した表面欠陥を除去するのに有利に実施される。
【0078】
本発明は多くの利点を有する。
【0079】
第一に、本発明による電極を製造するのに用いられる基合金の組成物は、電気伝導性が特に高く、一般的に、90%IACS以上である。この改良された伝導性により、鋼の電気抵抗と比較して、アルミニウムの低下された電気抵抗に対処することが可能となる。
【0080】
第二に、本発明による電極は、自動車産業にてアルミニウム板を溶接するために現在使用されているCuZr電極に比べて、クリープに対する耐性が実質改良される。この改良されたクリープ耐性は、溶接中に電極の中及びその表面で発生する熱に関わらず維持される高い硬度の結果である。
【0081】
結果として、電極の板との接触表面は、溶接クランプにより付与される締付力の影響の下、あまり拡張しないであろう。よって、板の上での電極の付着が制限されるであろう。結果として、クランプが開いている間、表面のマイクロ引っ張りが電極で発生しにくくなるであろう。
【0082】
このクリープ耐性により接触表面の拡張影響を低減でき、一般的に、電流密度の低下を引き起こし、且つ、溶接部の直径を小さくするため、2つの板の組立てを十分に保証できないであろう。
【0083】
第三に、このクリープ耐性により、高い特定の圧力の維持や接触抵抗の低減が可能となる。アルミニウム板やアルミニウム合金板を溶接する場合、小さい接触抵抗は、電極の表面上で銅でのアルミニウムの拡散や、電極の表面上への酸化アルミニウムの移動に有利である。接触抵抗は、溶接毎に電極の表面に蓄積する高抵抗の酸素、アルミニウム、銅合金の層が形成されたためである。
【0084】
鋼を溶接する場合、特定の圧力は約80MPaであり、アルミニウムの場合、この圧力は、余分な接触抵抗を回避するために120MPaを超えて維持されなければならない。
【0085】
この発明の電極により、著しいホットクリープによる電極表面の急速な拡張を発生させずに、アルミニウム板を溶接する間、120MPaより大きい特定圧力を維持することが可能である。
【0086】
最後に、現在のCuZr電極と比較して、本発明の電極は、この電極の表面の品質を維持するのに機械的剥離作業が必要となるまでに、高いサイクル数の間使用され得ることは、前述から明らかにである。その結果、生産性の観点において無視できない利得となることが、前述から明らかである。
【0087】
本発明の他の特徴と利点は、単独の添付の図面を参照して、本発明の非限定的な実施形態の以下の詳細な記載から明らかになるであろう。図面左側には、本発明による電極が図示され、図面右側には、ジルコニウムを0.15重量%含む銅とジルコニウムとの合金からなり、アルミニウム板を溶接するのに自動車ビルダーが現在使用する電極が図示される。
【0088】
2つの電極それぞれの丸みを帯びた端に見られるグレー部分は、特に溶接部の数、付与される電界強度、溶接時間等の観点で、同一のパラメータを2つの電極に付与して溶接を実施した後に、溶接部の適切な品質を維持するために、機械的剥離により除去される材料の量を示す。
【0089】
本発明は、以下からなる合金から製造される電極に特に関する。
【0090】
-0.1重量%以上及び0.4重量%未満、好ましくは0.2~0.3重量%、の割合のクロム、
-0.02~0.04重量%、より好ましくは0.03~0.04重量%(又は、300~400ppm、1ppmは1mg/kgに相当)、の割合のジルコニウム、
-0.015重量%未満、好ましくは0.01重量%未満(100ppm未満)、の割合のリン、
-組成物の残部銅と0.1重量%未満の割合の不可避的不純物である。より好ましくは、不純物の割合は、0.05重量%未満、つまり500ppm未満である。
【0091】
合金の中に不純物が存在するのは、その合金を開発する工程にはつきものである。しかし、本発明の電極を製造するのに用いられる合金の中に含まれる不純物全ての合計の割合は、0.1重量%を超えてはならない。これは、電極の特性、特に、90%IACS(International Annealed Copper Standard:国際焼き鈍し銅標準)以上という特に高い電気伝導性に悪い影響を与えないようにするためである。
【0092】
不可避的不純物は、合金の開発の結果であり、合金の組成物に含まれる元素とは異なり、伝導性を損ない得る元素全てのグループであるが、銀は除外する。
【0093】
実際、銀を0.05重量%(500ppm)まで追加することは、電極の性能を損失することはないと考えられる。
【0094】
よって、銀は、不純物には考慮されず、本発明による電極の特性を損なうことなく、500ppmの割合まで追加されてもよい。
【0095】
上述の通り、不純物は、電気伝導性を低下させずに存在することが重要である。しかし、不純物であると本明細書で考えられるある元素は、他の物以上に電気伝導性の低下により影響を及ぼす。
【0096】
よって、以下の表1に示すように、これは、不純物それぞれに重量係数を割り当てた状態で考慮されるべきである。
【0097】
【表1】
【0098】
係数の重量ppmでの不純物それぞれの割合の合計は、5000という値を超えてはならず、好ましくは、不可避的不純物の重量比率の合計は、2000未満である。
【0099】
このように、例えば、100ppmのシリコン(Si)、100ppmの鉄(Fe)、50ppmのスズ(Sn)、50ppmのアルミニウム(Al)、50ppmの亜鉛(Zn)、20ppmの硫黄(S)、及び100ppmの他の不純物が、この指定された割合で合金の中に不純物として存在する場合、不純物の合計の割合は、470ppmである。
【0100】
不純物の重量の合計は、存在する不純物それぞれの重量比率(ppm)をそれぞれの重量係数で乗算し、重量比率を加算することで、以下のように算出される。
【0101】
よって、上に例として挙げられた不純物を用いると、重量の合計は、以下のように算出される。
【0102】
100×10+50×2+50×2+50×1+20×20=2650。
【0103】
本発明は、銅、クロム、ジルコニウム、及びリンから、その組成物が特に上述した割合で構成される合金から抵抗溶接電極を製造する方法にも関する。
【0104】
電極を製造する方法は、連続注入方法であり、少なくとも以下の工程を含む。
【0105】
a)1200℃より上の温度で、好ましくは1200℃~1300℃の温度で、合金のさまざまな構成要素を溶融する。
【0106】
b)直径dを持つ筒状ダイヘッド又は筒状鋳物を介して連続注入を実施してバーを得ることを可能とする。
【0107】
この注入は、注湯炉内で液体金属を1100~1300℃、好ましくは1150~1250℃に維持する温度で行われる。
【0108】
c)バーを凝固し、好ましくは既定の冷却速度で100℃未満の温度まで冷却し、冷却速度は、1060℃のバー温度に到達するまで少なくとも10℃/秒に等しく、その後、1060~1040℃では少なくとも15℃/秒に等しく、その後、1040~1030℃では少なくとも20℃/秒に等しく、その後、1030~1000℃では少なくとも25℃/秒に等しく、その後、1000~900℃では少なくとも30℃/秒に等しく、その後、900℃未満の温度では少なくとも20℃/秒に等しく、ついには、バーが100℃未満の温度に冷却される。
【0109】
よって、冷却速度は、少なくとも100℃のバー温度に到達するまで、少なくとも20℃/秒である。
【0110】
好ましくは、冷却速度は、バーが100℃以下の温度まで冷却されるまで、900℃未満の温度では少なくとも30℃/秒に等しい。
【0111】
好ましくは、工程c)でのバーの冷却は、700℃未満の温度では少なくとも30℃/秒に等しい冷却速度で行われる。
【0112】
この凝固及び冷却工程は、特定の熱処理を含まず、1060℃で凝固の最後の時点で溶液内に配置され得る。
【0113】
d)バーの冷間変形は、20mm未満の直径、好ましくは12~19mmの直径を有するロッドを得るために行われる。好ましくは厚さ0.5mm未満の外側加工作業が、先の工程で発生した表面欠陥を除去するのに、任意で実施され得る。
【0114】
e)前記ロッドをせん断してビレットを得、その後、電極を最終形状にするのに材料を取り除いて孔空け又は加工することで、電極が形成される。
【0115】
本方法の間、少なくともエージング処理又はアニール処理が行われる。この工程は、電極を形成する工程e)の前及び/又は後に行われる。
【0116】
このエージング処理は、さまざまな方法で行われ得る熱処理からなる。
【0117】
好ましくは、それは、1時間から2時間、450~480℃の温度で実施される沈殿処理である。
【0118】
よって、冷間変形用の工程d)と電極形成用の工程e)との間に、1時間から2時間、450~480℃の温度でこの沈殿処理を実施することが可能である。
【0119】
他の実施形態では、沈殿処理は、電極形成用の工程e)の後に、本方法の唯一のエージング処理として実施される。
【0120】
工程e)の後に、本方法のまさに最後に沈殿処理を実施することは、電極の機械的特性により優れた安定性を提供できるという利点がある。
【0121】
上述した時間と温度条件の下での沈殿処理は、電極を形成する工程e)の前に1回目、工程e)の後に2回目が実施されてもよい。
【0122】
特に好ましくは、本発明の方法の工程b)において、筒状の連続注入ダイヘッドの直径dは、70mmよりも小さい。
【0123】
好ましくは、この直径dは20~70mmであり、より好ましくは、この直径は20~40mmである。
【0124】
更に、本方法の工程c)で適応され、且つ、バーの凝固を可能とし、その後固体冷却される際に、冷却速度は、急速凝固と極めてパワフルな周辺冷却とをもたらすので、とても重要である。
【0125】
好ましくは、冷却速度は、バーの温度の関数として可変的でもある。
【0126】
より具体的には、冷却速度は、バーが1060℃より高い温度を有することが好ましく、この場合に少なくとも10℃/秒に等しく、その後、温度が1060~1040℃の時は少なくとも15℃/秒に等しく、その後、温度が1040~1030℃の時は少なくとも20℃/秒に等しく、その後、温度が1030~1000℃の時は少なくとも25℃/秒に等しく、その後、900~1000℃では少なくとも30℃/秒に等しい。900℃未満のバー温度には、冷却は、少なくとも20℃/秒に等しい速度で好ましくは行われる。
【0127】
更に、冷却速度は、900℃未満の温度では少なくとも30℃/秒に等しくてもよい。
【0128】
好ましくは、本発明による方法において、この冷却は固体ではなく液体に適用され、個相線のところ、つまり約1070℃の温度で始まる。特に、温度範囲は、1060~900℃で示されており、本方法を定義する際に上で使用された最低冷却速度によって、溶液内へ配置しやすくなる。
【0129】
900℃未満では、溶液内への配置は不可能である。900℃未満の温度では、制御できないエージングが発生しないように、最低速度20℃/秒で冷却しつづける。
【0130】
より具体的には、クロム原子の拡散が制限される温度までの急速凝固と冷却により、コヒーレント及びインコヒーレントなクロム沈殿物の均一な分布が可能となる。
【0131】
これらの冷却条件は、20~70mmの縮径、好ましくは20~40mmの縮径を有する筒状の鋳物にも適用され、径方向に配向されたコラム状の凝固組織を有するバーを得ることに関係する。この組織は、バーを横方向に切断することで、後者(バー)の全体積に渡って確認できる。
【0132】
筒形状を有するダイヘッドや鋳物は、凝固及び冷却ができるように、油又は冷却ガスもしくは冷却水のいずれかがその内部で循環する囲いにより好ましくは囲まれている。
【0133】
本発明の方法の他の利点は、加熱及び同時変形により、動的熱再結晶を回避できるという事実にある。このため、本発明の方法の実施により生じる利点である沈殿物及び組織が維持される。
【0134】
革新的な溶接電極を製造するのに用いられる基合金の中には、好ましくは、0.1重量%以上且つ0.4重量%未満の割合内でクロムが含まれる。この割合は、好ましくは、0.2~0.3重量%である。
【0135】
本発明による方法を用いると、インコヒーレントなクロム沈殿物、つまり、マトリックスと結晶学的な関係を有しない粒子が、溶解度限界を超える。
【0136】
実際、本発明の方法において、合金を凝固する時点で、約1070℃の温度で完了する焼入れ処理を適用することで、銅内のクロムの溶解度を最大にすることが可能となり、且つ、結晶粒接合で銅クロム共晶を維持することも可能となる。
【0137】
特に驚いたことに、0.1%以上及び0.4%未満のクロムの比率により、所望のクロム沈殿物を生成することが可能であると、判断され得る。
【0138】
このように、当技術において共通に認識されている考えに反して、合金の中に含まれるクロムの割合が減っているにも関わらず、本明細書に記載する合金の組成物に実施される方法の工程を組み合わせることで、冷却変態の工程d)にて剥離を引き起こし得る余剰なクロム沈殿物を作ることなく、インコヒーレントなクロム沈殿物を保つことが可能となる。
【0139】
本発明の方法を実施することで得られるとても細かい柱状の凝固組織により、特に有利に、本方法により得られる溶接電極の全体積において、クロム組成物(固溶体状態のクロム、共晶クロムと金属クロム)のむらを均等に配置できる。
【0140】
これらのクロム沈殿物は、ホットクリープへの耐性を増すことにより、電極の溶接性能を改良することができる。亜鉛皮膜を持つ鋼板を溶接する場合、これらの沈殿物は、電極の活性面の化学浸食の原因である鉄と亜鉛の拡散を遅らせたり又は阻止したりする働きがある。
【0141】
本発明の方法、特に、固相線の時点で冷却を好ましく適用することが好まし、これにより、コヒーレントなクロム沈殿物、つまり、マトリックスの結晶学的な構造との連続性を持つ沈殿物、の均一な分布が助長される。
【0142】
本発明の方法を実施することで、得られた電極は、銅沈殿物、又は、往々にして繊維質形状を有する結晶粒の存在により、繊維構造体を有する。
【0143】
孔空け後の本発明による電極の長手方向の断面(結果の図示無し)によると、繊維構造体は左右対称であり、繊維は、活性面から始まり、電極の内部冷却面の近くで、電極の縁に向かって目がつまっていく。
【0144】
この同じ電極の断面において、繊維はホイールのスポークと同様であり、そのハブが、特有の繊維構造体を有しない電極の中心域に対応し、そのハブが、5mmより小さい直径、好ましくは3mmより小さい直径を有する。微細な径方向繊維の厚さは、好ましくは1mmより小さく、更に好ましくは0.5mmより小さい。
【0145】
本発明の方法を実施することで得られる電極に大変特徴的であるこの繊維組織は、本方法の工程c)の後に得られる金属構造の直接的な結果であり、且つ、ある従来の電極の微細で均一な構造とは異なる。
【0146】
本発明の方法によって得られる電極の繊維構造体は、特に、かなりの長さを持つ針状の銅粒子が存在することにより、熱機械応力場に対する耐性を高めることができる。この熱機械応力場は、溶接中の電極の活性面の変形場と温度場を含む。
【0147】
より具体的には、鋼板又はアルミニウム板を溶接する間、本発明の電極の繊維構造体は、電極の中心域から径方向及び長手方向にカロリーを放出するのに都合がよい。電極の中心域では、温度は、冷間ゾーン、つまり、電極の内面及び周縁、に向けて極大化する。結果として、本発明の電極は、クリープ現象に対して特により耐性がある。
【0148】
本発明による上記電極を得るための基合金の組成物については既に記載されている。この合金は、銅とクロムを含み、後者の成分(クロム)は、0.1%以上であり0.4%未満の割合で、合金の中に存在する。
【0149】
これらの2つの成分とは別に、本発明の合金は、好ましくは0.02~0.04重量%の割合でジルコニウムも含む。この割合は、好ましくは、材料の低温割れを誘発し得る沈殿物の生成を回避することができる。
【0150】
ジルコニウムの割合は、更により好ましくは、300~400ppm、つまり、0.03~0.04%である。
【0151】
基合金が、0.015重量%未満の割合、好ましくは、100ppm未満の割合でリンを含むことも有利である。
【0152】
この成分(リン)はクロムよりも脱酸素性に優れジルコニウムほど脱酸素性はなく、大量生産が検討されるときに、残りのジルコニウム含量の適切な制御を促進する。
【0153】
本発明は、上述した方法を用いて得られ得る電極にも関する。
【0154】
既に上述されたように、本発明による電極は、従来の電極に対して新規な微視的特性を備える。
【0155】
溶接前及び後の本発明の電極の材料の構造を透過型顕微鏡法で解析すると、従来のCuZr電極の光学的組織に対する違い、特に、クロム沈殿物の寸法及び分布だけでなく結晶粒の形態、を説明することができる。
【0156】
特に、本発明の電極の材料は、1μm未満の凸面を有するインコヒーレントなクロム沈殿物を90%を超えて含むことが顕微鏡的スケールで確認される。
【0157】
更に、ナノメートルのスケールでは、約2~5nmの寸法を有するコヒーレントなクロム沈殿物に加え、インコヒーレントなクロム沈殿物の集団が、10~50nmの大きさ、より具体的には、10~20nmの大きさで、確認される。
【0158】
これらのインコヒーレントなクロム沈殿物は、本発明の電極の特徴であり、従来のCuZr電極の材料には確認されない。
【0159】
更に、亜鉛皮膜を有する目の前の鋼板の場合に、本発明の電極を使ってこの板を溶接する工程の間、これらのインコヒーレントなクロム沈殿物の大きさの進化も、これらの実施された分析により実証されているのである。
【0160】
実際、亜鉛で被膜された鋼板を溶接する間、電極の活性面に接近するにつれて、沈殿物の合体が確認される。より具体的には、層βには30~50nmのインコヒーレントなナノ沈殿物、そして、層γには100~150nmのインコヒーレントなナノ沈殿物が確認される。
【0161】
一般的には、化学反応層の層βは、電極の表面から最も遠い。それは、40%の亜鉛で銅の中の亜鉛の黄色拡散層である。電極の表面では、化学反応層は、鉄リッチ層を一般的には25%含む。鉄リッチ層は、850℃より高い温度で電極の表面に鋼板が付着する間に生じる。最後に、層βと鉄リッチ層との間には、亜鉛55%の層γがある。
【0162】
本発明による電極に実施される他の分析は、層γにあるインコヒーレントなクロム沈殿物は、鉄が豊富であり、結果、鉄の拡散を防止することができることを示している。
【0163】
最後に、本発明による方法により得た電極には、熱間機械的特性試験も実施された。これらの試験結果によると、ある従来の電極のクリープ温度に対して、本発明の電極では、クリープ温度は100℃上がることが示された。
【0164】
より具体的には、鋼板を溶接する場合、通常、従来の電極の活性面のクリープは、溶接作業の間、約700℃の温度で敏感になる。実際、電極の表面軟化により、表面のクリープや層γの割れが起こる。これにより、層γでの鉄の拡散が助長され、その後、FeZn沈殿物の形状で層βにて拡散が助長される。層βは、耐性があり、850℃を超えて熱くなるので、層γが消滅する。結果、従来の電極の材料は、溶接点を通して引き離れ始め、溶接点の急な劣化が引き起こるであろう。
【0165】
反対に、本発明による電極では、鋼板を溶接する場合、このクリープ温度は約800℃であり、層γの機械的ストレスを遅らせることができ、その結果、電極の活性面にて層γが保護されながら維持されることが促される。
【0166】
その結果、本発明の方法を実施することで得られる電極は、特に、寿命が延び、且つ、溶接性能が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0167】
図1
【発明を実施するための形態】
【0168】
アルミニウム板の抵抗溶接用の本発明による電極の利点と技術的な特徴を説明するために、アルミボディの自動車のビルダーにより現状使用されている銅-ジルコニウム(0.15%)電極の性能を本発明の電極の性能と比較する3つの例を以下に説明する。
【0169】
例1:熱処理前後の電極の表面から3mmの層の特性の比較試験
ブリネル硬度(硬度HB)が、8時間適用される500℃の熱処理の前後に、自動車ビルダーが現在使用しているCuZr電極及び本発明による電極の、表面及び表面から少なくとも3mmのところで、測定された。
【0170】
更に、%IACS伝導率も、熱処理(HT)の前後に、これらの2つの電極に関して測定された。
【0171】
試験電極を製造するのに使用される合金の組成物は、以下の通りである。
【0172】
-Cr:0.2~0.3%;
-Zr:300~400ppm;
-P :80~120ppm;
-残部銅と、300ppm未満の割合の各不可避的不純物であって、前記不可避的不純物の合計質量が2000ppm未満である。
これらの比較テストの結果は、下の表2にまとめられる。
【0173】
【表2】
【0174】
表2の結果によると、本発明による電極の「硬度HB」と「伝導率%IACS」は、従来のCuZr電極と比較して、適用された熱処理の前と後とで、より不変であることが分かる。
【0175】
実際、熱処理前において、新しいCuZr電極の表面は、本発明の新しい電極の表面より導電性が低い。新しいCuZr電極の伝導性%IACSは86であるのに対し、本発明の電極のそれは91である。
【0176】
その結果、従来のCuZr電極の方が、より著しく熱くなり、熱軟化にも耐えられない。このことは、熱処理後の硬度が、本発明による電極では140HBであるのに対し、従来のCuZr電極では100HBという、その減少により表されている。
【0177】
伝導率のこのような差異は、本発明による電極の表面クリープよりCuZr電極の表面クリープが大きくなることに最終的につながる
例2:溶接後の表面層の特徴の比較試験
ブリネル硬度(硬度HB)は、自動車ビルダーが現在使用するCuZr電極及び本発明による電極の、表面及び表面から少なくとも3mmのところで、溶接前(「新」電極)及び溶接後(「溶接の最後」)に測定された。本発明による電極においてのみ、硬度HBが30溶接点の後も測定された。
【0178】
更に、%IACS伝導性も、これらの2つの電極について、溶接前及び溶接後、且つ、本発明の電極には30溶接点の後も、測定された。
【0179】
この比較試験の結果は、以下の表3にまとめられる。
【0180】
【表3】
【0181】
この表にまとめられた結果によると、本発明の電極は、溶接前後において、より安定していることがわかる。
【0182】
本発明による電極は、その全作業サイクルを通して、一方で、より高い伝導率(86~88に対して90~92)で作用し、他方で、軟化に対してより耐性を持って作用する。実際、本発明による電極は、溶接の最後には、150の表面硬度HBを更に有する。一方、通常の電極は、溶接の最後には、125の硬度HBを有する。
【0183】
その結果、CuZr電極の軟化の損失は、表面上で局所的に食い止められることを示す。実際、表面から少なくとも3mmでの硬度は、約140~150HBで実質安定しており、伝導率は、94まで上がっていない。これにもかかわらず、CuZr電極の表面クリープにより、接触表面が拡大し溶接部の直径は十分ではない。
【0184】
本発明による電極は、その機械的特性を維持できる領域で作用する。
【0185】
特に、本発明による電極は、溶接中に電極で発生する熱にも関わらず、高いレベルの硬度を維持し、クリープ耐性も高まる。
【0186】
結果、電極は、溶接中にあまり変形することなく、機械的剥離の回数も減るので、使用者の生産性を高めることが可能となる。
【0187】
例3:溶接性能の比較試験
3番目の試験は、単独の添付の図面を参照して、ビルダーが一般的に実施するCuZr電極と本発明による電極との間で、溶接性能を比較する。
【0188】
電極の表面を初期状態に戻すための機械的剥離の間、 溶接中のより優れたクリープ耐性、且つ、同じである全ての他のパラメータ(溶接パラメータについては、強度、クランプ時間、特に冷却)により、本発明による電極では、15%未満の材料が除去される。
【0189】
機械的剥離作業の間、本発明1による電極から除去される材料の量は、図1のグレーの部分に相当する。本発明1の電極で除去される必要のある材料の量は、従来のCuZr電極2と比較して、少ない。後者(従来のCuZr電極2)は、図1に図示されるように、著しいクリープを受け、その端部が拡大することとなる。
【0190】
1サイクルは、機械的剥離作業を実施する前の溶接点の数に対応する。
【0191】
前記溶接部の最適な品質を守るために、本発明の前記電極の機械的剥離作業を実施することが必要になる前に、サイクルの平均数と、現在使用されているCuZr電極で実施され得るサイクルの平均数とに対して、本発明による電極では、電極パラメータを変えることなく、一方で、サイクル数を15%、且つ、他方で、1サイクル当たりの溶接点の数を10%、増やすことが可能である。
【0192】
よって、本発明による電極により、溶接パラメータを変えずに、約27%生産性を向上することができる。
【0193】
本発明による電極は、CuZr電極を最適に使用するのに特別に定義された溶接パラメータを実施することで、アルミニウム板を溶接するサイクルの間、安定性に大変優れる。
【0194】
これは、CuZr電極に定義された溶接パラメータが、溶接部の数が27%増加するにも関わらず、本発明による電極の表面を悪化しないことを意味する。
【0195】
よって、当業者にとっては、本発明の電極に特有な溶接パラメータを定義することにより、溶接部の数の観点で更なる向上が可能となることが明らかである。
図1